(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】液化ガス運搬船の燃料供給システム及び燃料供給方法
(51)【国際特許分類】
B63H 21/38 20060101AFI20240509BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240509BHJP
F02B 43/00 20060101ALI20240509BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B63H21/38 C
B63B25/16 D
F02B43/00 A
F02M21/02 L
F02M21/02 U
F02M21/02 Z
(21)【出願番号】P 2022575940
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 KR2020018576
(87)【国際公開番号】W WO2021256644
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0074179
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0118376
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517430897
【氏名又は名称】ハンファ オーシャン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドゥ ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】チェ,アン チョル
(72)【発明者】
【氏名】パク,スン ホ
(72)【発明者】
【氏名】テ,ヒョク ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リー,キョ スン
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0025039(KR,A)
【文献】国際公開第2020/101403(WO,A1)
【文献】特開2019-049216(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230950(WO,A1)
【文献】特開2018-127137(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0049354(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/12 - 21/17
B63H 21/38
B63B 11/04
B63B 25/08 - 25/16
F02B 43/00
F02M 21/02 - 21/06
F17C 7/02 - 7/04
F17C 9/02 - 9/04
F17C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のデッキに設けられる燃料供給タンクから、船内エンジンに液化ガスを供給する燃料供給ライン;と、
前記燃料供給ラインに設けられ、前記船内エンジンに供給される液化ガスを前記船内エンジンの要求圧力まで加圧する加圧部;と、
前記船内エンジンに供給される液化ガスのうち、前記船内エンジンで使用されずに残った液化ガスを、前記船内エンジンの上流に再循環させるリターンライン;と、
前記リターンラインに設けられて、再循環される前記液化ガスを気液分離するセパレータ;と、
前記リターンライン上で前記セパレータの上流に設けられる減圧部;とを備え、
前記リターンラインを介して再循環される前記液化ガスは、前記減圧部で減圧により冷却された後、前記セパレータに導入され
、
前記船舶に設けられて、輸送される液化ガスを貯蔵するカーゴタンクで発生する蒸発ガスが供給されて、前記蒸発ガスを再液化する再液化部;と、
前記再液化部から前記燃料供給タンクを経由して前記カーゴタンクに接続される冷却ライン;とをさらに備え、
前記再液化部で再液化された液化ガスが前記冷却ラインを介して前記カーゴタンクに供給されて、前記燃料供給タンクが冷却されることを特徴とする、
液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項2】
前記加圧部は、
前記燃料供給タンクから液化ガスをポンピングして移送する第1ポンプ;と、
前記第1ポンプから移送された液化ガスを、ポンピングして前記船内エンジンの要求圧力まで加圧する第2ポンプ;とを備え、
前記セパレータで分離された液体状態の液化ガスが、前記第1ポンプと前記第2ポンプとの間の燃料供給ラインに供給されて再循環されることを特徴とする、
請求項1記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項3】
前記セパレータで分離された気体を、前記燃料供給タンクに回収するベーパーライン;と、
前記ベーパーラインに設けられる圧力調整バルブ;とをさらに備えることを特徴とする、
請求項2記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項4】
前記第1ポンプの下流の圧力を検知する第3圧力検知部をさらに備え、
前記第3圧力検知部で検知された圧力に応じて前記圧力調整バルブの開度が調整されて、前記セパレータの圧力が前記第1ポンプの下流の圧力よりも0.5~2bar高く維持されることを特徴とする、
請求項3記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項5】
前記燃料供給ライン上で前記加圧部の下流に設けられて、加圧された液化ガスを前記船内エンジンの要求温度まで加熱する燃料ヒータ;をさらに備えることを特徴とする、
請求項3記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項6】
前記リターンラインは、
前記船内エンジンと前記セパレータとを接続する第1リターンライン;と、
前記第2ポンプと燃料ヒータとの間の燃料供給ラインと前記セパレータとを接続する第2リターンライン:とを備えることを特徴とする、
請求項5記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項7】
前記減圧部は、
前記第1リターンラインに設けられる第1減圧装置;と、
前記第2リターンラインに設けられる第2減圧装置:とを備えることを特徴とする、
請求項6記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項8】
前記第2ポンプの下流の圧力を検知する第1圧力検知部を更に備え、
前記第1圧力検知部で検知された圧力が設定値より高い場合に、第2ポンプのポンプスピードを下げるように制御され、
前記第2ポンプのポンプスピードを下げた後も、前
記第1圧力検知部で検知された圧力が設定値より高い場合に、前記第2減圧装置を開放して第2ポンプの下流の圧力を下げるように制御されることを特徴とする、
請求項7記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項9】
前記船舶に設けられて、前記船内エンジンに供給される液化ガスを貯蔵する燃料タンク;をさらに備え、
前記燃料タンクから前記燃料供給タンクに前記液化ガスが供給されて、前記燃料供給タンクが冷却されることを特徴とする、
請求項
1記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項10】
前記セパレータの底部に設けられて、前記セパレータに回収される液化ガスに混入した潤滑油を分離して排出する排出部;と、
前記船舶に設けられて、輸送される液化ガスを貯蔵するカーゴタンクで発生する蒸発ガスを再液化する再液化部;とをさらに備え、
前記再液化部で再液化された液化ガスが前記燃料供給タンクを経由して前記カーゴタンクに供給されて、前記燃料供給タンクが冷却されることを特徴とする、
請求項1~請求項8のいずれか1つに記載の液化ガス運搬船の燃料供給システム。
【請求項11】
船舶のデッキに設けられる燃料供給タンクから、燃料供給ラインを介して供給される液化ガスを加圧部で加圧した後、船内エンジンに燃料として供給し、
前記加圧部で加圧された前記液化ガスのうち、前記船内エンジンで使用されずに残った液化ガスを前記船内エンジンの上流に再循環させるリターンラインに減圧部を設けて、再循環される液化ガスを減圧し、
減圧により冷却された再循環される液化ガスをセパレータで気液分離
し、
前記船舶に設けられて、輸送される液化ガスを貯蔵するカーゴタンクで発生する蒸発ガスを再液化部で再液化し、
前記再液化部で再液化された液化ガスを前記燃料供給タンクを経由させて前記カーゴタンクに供給し、前記燃料供給タンクを冷却することを特徴とする、
液化ガス運搬船の燃料供給方法。
【請求項12】
前記加圧部に、前記燃料供給タンクから液化ガスをポンピングして移送する第1ポンプ;と、前記第1ポンプから移送された液化ガスをポンピングして前記船内エンジンの要求圧力まで加圧する第2ポンプ;とを設けて、
前記セパレータで分離された液体状態の液化ガスを、前記第1ポンプと第2ポンプとの間の燃料供給ラインに供給して再循環させることを特徴とする、
請求項1
1記載の液化ガス運搬船の燃料供給方法。
【請求項13】
前記セパレータで分離された気体を前記燃料供給タンクに回収して、
前記第1ポンプの下流の圧力を検知して、検知した圧力に応じて前記燃料供給タンクに回収されるガスの量を調整し、前記セパレータの圧力を前記第1ポンプの下流の圧力よりも0.5~2bar高く維持することを特徴とする、
請求項1
2記載の液化ガス運搬船の燃料供給方法。
【請求項14】
前記第2ポンプの下流の圧力を検知して、検知した圧力が設定値より高い場合に、第2ポンプのポンプスピードを下げて、
第2ポンプのポンプスピードを下げた後も検知した圧力が設定値より高い場合に、前記第2ポンプの下流で液化ガスの一部を減圧した後、前記セパレータに導入して第2ポンプの下流の圧力を下げることを特徴とする、
請求項1
3記載の液化ガス運搬船の燃料供給方法。
【請求項15】
前記船舶に設けられ、前記船内エンジンに供給される液化ガスを貯蔵する燃料タンクから前記燃料供給タンクに前記液化ガスを供給して、前記燃料供給タンクを冷却することを特徴とする、
請求項1
1記載の液化ガス運搬船の燃料供給方法。
【請求項16】
前記セパレータの底部に、前記セパレータに回収される液化ガスに混入した潤滑油を分離して排出する排出部を設けることを特徴とする、
請求項1
1~請求項1
4のいずれか1つに記載の液化ガス運搬船の燃料供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス運搬船の燃料供給システム及び燃料供給方法に関する。より詳細には、LPGなどの液化ガスを燃料とする船舶において、エンジンに過剰に供給されて残ったLPGを回収して再循環させる、液化ガス運搬船の燃料供給システム及び燃料供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(Liquefied Natural Gas)やLPG(Liquefied Petroleum Gas)などの液化ガスの消費量が世界的に急増している。液化ガスは、陸上または海上のガス配管を介して気体状態で運ばれるか、または液体状態で液化ガス運搬船に貯蔵されて遠距離の消費先に運搬される。LNGやLPGなどの液化ガスは、天然ガスまたは石油ガスを極低温(LNGの場合は約-163℃)に冷却して得られるもので、気体状態と比べて体積が大幅に減少するため、海上の遠距離運送に非常に適している。
【0003】
石油ガスの液化温度は大気圧で約-42℃の低温であり、18barでは約45℃の温度で、7barでは20℃で、液体状態で貯蔵することができる。LPGは大気圧で-42℃より高温になると蒸発するため、船舶のLPG貯蔵タンクは断熱処理が施されている。しかし、外部熱がLPGまで絶えず伝達されるため、LPG輸送過程では、LPG貯蔵タンク内で連続的にLPGが気化し、LPG貯蔵タンク内で蒸発ガス(Boil-Off Gas、ボイルオフガス)が発生する。
【0004】
LPG運搬船は、LPG貯蔵タンク内で蒸発ガスが蓄積することで、LPG貯蔵タンク内の圧力が過度に上昇する。このため、LPG貯蔵タンクは耐圧構造を有し、さらに、LPG運搬船には、タンク内で発生する蒸発ガスを処理するための蒸発ガス再液化装置が設けられる。
【0005】
一方、従来のLPG運搬船などでは、船舶の推進燃料として、比較的低価格のバンカーC油などの重油を使用する燃料供給システムが採用されている。しかし、このような重油燃料供給システムは、重油燃料の使用に対する国際的な排ガス排出規制強化によって、硫黄成分の少ない重油燃料タンク(LSHFO tank)を追加設置する必要があり、国際的な環境規制基準に合う環境に優れた燃料供給システムへの要求が高まっている。
【0006】
近年、LPG運搬船やLNG運搬船は、LPGやLNG及びそれらから発生する蒸発ガスを推進燃料として使用する燃料供給システムを適用したものが増え、国際的な排ガス排出規制の強化に伴って、LPG運搬船やLNG運搬船以外の一般の船舶でも、LNGなどを推進燃料として使用する船舶が増加している。
【0007】
特にLPGは、極低温で液化するLNGに比べて貯蔵が容易であり、従来のHFOに比べて比エネルギー(specific energy)やエネルギー密度(energy density)の面で大きく低下せず、従来のHFOに比べてSOx、NOx、CO2、PMなどの低減効果に優れるという利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
LPGを燃料として使用する船舶において、従来のエンジンの燃料供給システムの一例を
図1に概略的に示す。
【0009】
図1で示すように、エンジンEに燃料として供給されるLPGは、燃料供給タンクから加圧用ポンプ、ヒータなどを備えた燃料供給部(Fuel Supply System)を経由し、エンジンの燃料供給条件に調整されて供給ラインL1を介して船舶のエンジンEまで供給される。
【0010】
非圧縮性流体であるLPGは、エンジンの負荷変動に直ちに対応できるように、エンジンEが必要とする量よりも過剰の燃料を供給し、過剰に供給された燃料のうち使用されずに残ったLPGやエンジンの負荷変動による燃料消費率の変化で残ったLPGは、回収ラインL2を介してエンジンEからエンジンEの上流に回収される。
【0011】
しかし、回収ラインL2を介して回収されるLPGは、エンジンEの燃料供給条件に調整するために加圧及び加熱された高温高圧の状態であるため、これを燃料供給タンクに送るとタンク内の圧力及び温度を上昇させてしまうという問題がある。また、エンジンから混入した潤滑油(sealing oil)によるLPG汚染の虞があるばかりか、燃料供給タンクの温度が-10℃以下では、混入した潤滑油が結晶化する虞もある。一方、回収したLPGを、そのまま排出して燃焼させると、燃料を浪費してしまうという問題がある。
【0012】
本発明は、これらの問題を解決し、エンジンから回収されるLPGを効果的に処理し、効率的に燃料を供給することができる燃料供給システム及び燃料供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため本発明は、船舶のデッキに設けられる燃料供給タンクから、船内エンジンに液化ガスを供給する燃料供給ラインと、前記燃料供給ラインに設けられ、前記船内エンジンに供給される液化ガスを前記船内エンジンの要求圧力まで加圧する加圧部と、前記船内エンジンに供給される液化ガスのうち、前記船内エンジンで使用されずに残った液化ガスを、前記船内エンジンの上流に再循環させるリターンラインと、前記リターンラインに設けられて、再循環される前記液化ガスを気液分離するセパレータと、前記リターンライン上で前記セパレータの上流に設けられる減圧部とを備え、前記リターンラインを介して再循環される前記液化ガスは、前記減圧部で減圧により冷却された後、前記セパレータに導入されることを特徴とする、液化ガス運搬船の燃料供給システムが提供される。
【0014】
好ましくは、前記加圧部は、前記燃料供給タンクから液化ガスをポンピングして移送する第1ポンプと、前記第1ポンプから移送された液化ガスを、ポンピングして前記船内エンジンの要求圧力まで加圧する第2ポンプとを備え、前記セパレータで分離された液体状態の液化ガスが、前記第1ポンプと前記第2ポンプとの間の燃料供給ラインに供給されて再循環される。
【0015】
好ましくは、前記セパレータで分離された気体を、前記燃料供給タンクに回収するベーパーラインと、前記ベーパーラインに設けられる圧力調整バルブとをさらに備える。
【0016】
好ましくは、前記第1ポンプの下流の圧力を検知する第3圧力検知部をさらに備え、前記第3圧力検知部で検知された圧力に応じて前記圧力調整バルブの開度が調整されて、前記セパレータの圧力が前記第1ポンプの下流の圧力よりも0.5~2bar高く維持される。
【0017】
好ましくは、前記燃料供給ライン上で前記加圧部の下流に設けられて、加圧された液化ガスを前記船内エンジンの要求温度まで加熱する燃料ヒータをさらに備える。
【0018】
好ましくは、前記リターンラインは、前記船内エンジンと前記セパレータとを接続する第1リターンラインと、前記第2ポンプと燃料ヒータとの間の燃料供給ラインと前記セパレータとを接続する第2リターンラインとを備える。
【0019】
好ましくは、前記減圧部は、前記第1リターンラインに設けられる第1減圧装置と、前記第2リターンラインに設けられる第2減圧装置とを備える。
【0020】
好ましくは、前記第2ポンプの下流の圧力を検知する第1圧力検知部を更に備え、前記第1圧力検知部で検知された圧力が設定値より高い場合に、第2ポンプのポンプスピードを下げるように制御され、前記第2ポンプのポンプスピードを下げた後も、前記第1圧力検知部で検知された圧力が設定値より高い場合に、前記第2減圧装置を開放して第2ポンプの下流の圧力を下げるように制御される。
【0021】
好ましくは、前記船舶に設けられて、輸送される液化ガスを貯蔵するカーゴタンクで発生する蒸発ガスが供給されて、前記蒸発ガスを再液化する再液化部と、前記再液化部から前記燃料供給タンクを経由して前記カーゴタンクに接続される冷却ラインとをさらに備え、前記再液化部で再液化された液化ガスが前記冷却ラインを介して前記カーゴタンクに供給されて、前記燃料供給タンクが冷却される。
【0022】
好ましくは、前記船舶に設けられて、前記船内エンジンに供給される液化ガスを貯蔵する燃料タンクをさらに備え、前記燃料タンクから前記燃料供給タンクに前記液化ガスが供給されて、前記燃料供給タンクが冷却される。
【0023】
好ましくは、前記セパレータの底部に設けられて、前記セパレータに回収される液化ガスに混入した潤滑油を分離して排出する排出部と、前記船舶に設けられて、輸送される液化ガスを貯蔵するカーゴタンクで発生する蒸発ガスを再液化する再液化部とをさらに備え、前記再液化部で再液化された液化ガスが前記燃料供給タンクを経由して前記カーゴタンクに供給されて、前記燃料供給タンクが冷却される。
【0024】
また、本発明は、船舶のデッキに設けられる燃料供給タンクから、燃料供給ラインを介して供給される液化ガスを加圧部で加圧した後、船内エンジンに燃料として供給し、前記加圧部で加圧された前記液化ガスのうち、前記船内エンジンで使用されずに残った液化ガスを前記船内エンジンの上流に再循環させるリターンラインに減圧部を設けて、再循環される液化ガスを減圧し、減圧により冷却された再循環される液化ガスをセパレータで気液分離することを特徴とする、液化ガス運搬船の燃料供給方法が提供される。
【0025】
好ましくは、前記加圧部に、前記燃料供給タンクから液化ガスをポンピングして移送する第1ポンプと、前記第1ポンプから移送された液化ガスをポンピングして前記船内エンジンの要求圧力まで加圧する第2ポンプとを設けて、前記セパレータで分離された液体状態の液化ガスを、前記第1ポンプと第2ポンプとの間の燃料供給ラインに供給して再循環させる。
【0026】
好ましくは、前記セパレータで分離された気体を前記燃料供給タンクに回収して、前記第1ポンプの下流の圧力を検知して、検知した圧力に応じて前記燃料供給タンクに回収されるガスの量を調整し、前記セパレータの圧力を前記第1ポンプの下流の圧力よりも0.5~2bar高く維持する。
【0027】
好ましくは、前記第2ポンプの下流の圧力を検知して、検知した圧力が設定値より高い場合に、第2ポンプのポンプスピードを下げて、第2ポンプのポンプスピードを下げた後も検知した圧力が設定値より高い場合に、前記第2ポンプの下流で液化ガスの一部を減圧した後、前記セパレータに導入して第2ポンプの下流の圧力を下げる。
【0028】
好ましくは、前記船舶に設けられて、輸送される液化ガスを貯蔵するカーゴタンクで発生する蒸発ガスを再液化部で再液化し、前記再液化部で再液化された液化ガスを前記燃料供給タンクを経由させて前記カーゴタンクに供給し、前記燃料供給タンクを冷却する。
【0029】
好ましくは、前記船舶に設けられ、前記船内エンジンに供給される液化ガスを貯蔵する燃料タンクから前記燃料供給タンクに前記液化ガスを供給して、前記燃料供給タンクを冷却する。
【0030】
好ましくは、前記セパレータの底部に、前記セパレータに回収される液化ガスに混入した潤滑油を分離して排出する排出部を設ける。
【0031】
好ましくは、前記船舶に設けられて、輸送される液化ガスを貯蔵するカーゴタンクで発生する蒸発ガスを再液化部で再液化し、前記再液化部で再液化された液化ガスを前記燃料供給タンクを経由させて前記カーゴタンクに供給して、前記燃料供給タンクを冷却する。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、エンジンへ燃料を供給するために加圧された液化ガスのうち、エンジンで使用されずに残った液化ガスをリターンラインを介して再循環させ、加圧された液化ガスをリターンラインで減圧により冷却し、セパレータを介した気液分離により、液体状態の液化ガスのみを燃料供給ラインに供給して再循環させる。このように、エンジンに過剰供給されて燃料として使用されずに残った液化ガスを再循環させることにより、燃料への潤滑油の混入を防止し、エンジンの不完全燃焼やこれによる排気ガス中での汚染物質の発生を防止することができ、潤滑油(sealing oil)による燃料供給タンク内のLPG汚染及び潤滑油の結晶化を防止することができる。
【0033】
また、再循環する液化ガスを冷却して気液分離された液化ガスを、燃料供給タンクから加圧部の第1ポンプを経由して供給される過冷却(subcooled)されたLPGと共に第2ポンプへ導入することにより、加圧部の第2ポンプ吸引部(suction)でベーパー(言い換えるとベーパーロック)が発生する可能性を低減することができ、また、これを除去するための装置を追加設置することなく加圧部の装置の異常発生を防止することができる。
【0034】
セパレータで分離された気体は、燃料供給タンクに送られる。そして、カーゴタンクで発生した蒸発ガスを再液化し、再液化された液化ガスを冷却ラインを介して燃料供給タンクを経由して、カーゴタンクに送ることで、再液化された液化ガスにより燃料供給タンクが冷却されて、タンクの圧力と温度を安全に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】LPGを燃料とするエンジンが設けられた船舶において、従来のエンジンへの燃料供給システムを概略的に示す。
【
図2】本発明の第1実施形態の液化ガス運搬船の燃料供給システムを概略的に示す。
【
図3】本発明の第2実施形態の液化ガス運搬船の燃料供給システムを概略的に示す。
【
図4】本発明の第2実施形態の液化ガス運搬船の燃料供給システムにおいて、セパレータから潤滑油が排出される排出部の構成を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の作動上の利点及び実施によって達成する目的を説明するため、本発明の実施形態を例示した添付図面及び添付図面に記載された内容を参照する。
【0037】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態の構成及び作用を詳細に説明する。ここで、各図面の構成要素に付した参照符号について、同一の構成要素には、他の図面上に表示されているものにも可能な限り同一の符号で表記している。
【0038】
後述する本発明の実施形態では、船舶は、液化石油ガスを推進用エンジンの燃料や発電用エンジンの燃料として使用できるエンジンが設置される、あらゆる種類の船舶であり得る。代表的に、LPG運搬船、LNG運搬船(LNG Carrier)、液体水素運搬船、LNG RV(Regasification Vessel)などの自走能力を備える船舶をはじめ、LNG-FPSO(Floating Production Storage Offloading)、LNG-FSRU(Floating Storage Regasification Unit)などの推進能力を有しない海上浮遊式の海上構造物も含まれる。
【0039】
また、本実施形態は、低温で液化して輸送することができ、貯蔵状態で蒸発ガスが発生し、エンジンの燃料に供給するすべて種類の液化ガスの燃料供給システムで適用することができる。このような液化ガスは、例えば、LNG(Liquefied Natural Gas)、LEG(Liquefied Ethane Gas)、LPG(Liquefied Petroleum Gas)、液化エチレンガス(Liquefied Ethylene Gas)、液化プロピレンガス(Liquefied Propylene Gas)などの液化石油ガスやアンモニアなどがある。ただし、後述する実施形態では、代表的な液化ガスの1つであるLPGの適用を例に説明する。
【0040】
図2に、本発明の第1実施形態の液化ガス運搬船の燃料供給システムを概略的に示す。
【0041】
図2に示すように、第1実施形態の燃料供給システムは、船舶のデッキに設けられて、燃料供給タンクDTから船内エンジンEまで液化ガスが供給される燃料供給ラインSLと、燃料供給ラインSLに設けられて、船内エンジンEまで供給される液化ガスを船内エンジンEが要求する圧力まで加圧する加圧部110,120と、液化ガスのうち船内エンジンEで使用されずに残った液化ガスを船内エンジンEの上流に再循環させるリターンラインRL1,RL2、リターンラインRL1,RL2に接続されて、再循環する液化ガスを気液分離するセパレータ210と、リターンラインRL1,RL2でセパレータ210の上流に設けられる減圧部220,230を備える。
【0042】
本実施形態では、リターンラインRL1,RL2を介して再循環する液化ガスは、減圧部220,230で減圧される。液化ガスは、減圧過程でジュールトムソン効果によって冷却された後、セパレータ210に導入される。
【0043】
加圧部は、燃料供給タンクDTから液化ガスをポンピングして移送する第1ポンプ110と、第1ポンプ110から移送された液化ガスをポンピングして船内エンジンEで必要な圧力まで加圧する第2ポンプ120とを有する、2つのポンプで構成される。
【0044】
第1ポンプ110は液化ガスを移送するための低圧ポンプとしての遠心ポンプ(centrifugal pump)であり、第2ポンプ120は船内エンジンEが要求する燃料供給圧力まで加圧する高圧ポンプとしてのダイアフラムポンプ(diaphragm pump)である。第1及び第2ポンプ110,120を経た液化ガスは、燃料供給ラインSLで加圧部110,120の下流に設けられる燃料ヒータ130で船内エンジンEが要求する温度まで加熱されて、船内エンジンEに供給される。
【0045】
燃料供給ラインSLで加圧部110,120及び燃料ヒータ130を経て加圧及び加熱された液化ガスは、燃料中の異物をろ過するフィルター140とサービスバルブ部SVTとを経て船内エンジンEに供給される。サービスバルブ部SVTは、船内エンジンEにLPGを供給し、船内エンジンEの燃料油切替やLPGモード停止、トリップなどでLPG燃料供給が中断される際にバルブによって各配管を二重遮断し、配管内の圧力を解消する。
【0046】
このように加圧及び加熱されたLPGを燃料として供給可能な船内エンジンとして、例えば、MAN Disel&Turbo社のME-LGIPエンジンがある。この場合、LPGは加圧部110,120及び燃料ヒータ130を経て、約54bar、約35℃の高圧液体状態で船内エンジンEに供給され、船内エンジンEで油圧600~700barの圧力でノズルに噴射されて船内エンジンEが稼働する。
【0047】
すなわち、本実施形態の船内エンジンEには、加圧及び加熱された燃料が液体状態で船内エンジンEに供給される。しかし、圧力変化による体積変化の大きい圧縮性流体、すなわちガス燃料が供給されるエンジンと異なり、圧力を加えても殆ど体積が変化しない非圧縮性流体である液体状態のLPGをエンジン燃料として供給する場合には、エンジンの負荷が変動しても十分な燃料を供給することで即時に対応し、キャビテーションを防止するために過剰のLPGをエンジンに供給する。船内エンジンEに供給されたLPGのうち、燃料として使用されずに残ったLPGを、船内エンジンEからリターンラインRL1を介して排出させて再循環させる。しかし、加圧及び加熱されたLPGを、そのまま再循環または燃料供給タンクDTに供給すると、加圧部120の吸引部(suction)でベーパー(vapor)が発生する可能性があり、燃料供給タンクDT内の圧力や温度が上昇することで、タンクや船舶の安全を脅かすことになる。
【0048】
本実施形態では、このような問題を解決するため、リターンラインRL1,RL2に液化ガスを減圧する減圧部220,230を設けて、船内エンジンEから排出される液化ガスを減圧した後、再循環できるように構成した。加圧された液化ガスは、減圧過程で断熱膨張または等エントロピー膨張し、ジュールトムソン効果によって冷却される。
【0049】
船内エンジンEからリターンラインRL1を介して再循環する加圧された液化ガスは、減圧部220で減圧されて冷却された後、セパレータ210に導入されて気液分離される。セパレータ210で分離された液体状態の液化ガスは、リキッドラインLLを介して第1ポンプ110と第2ポンプ120との間の燃料供給ラインSLに供給されて再循環され、セパレータ210で分離された気体は、ベーパーラインVLを介して燃料供給タンクDTに回収される。また、ベーパーラインVLには、燃料供給タンクDTに供給されるガスの圧力を調整するための圧力調整バルブ250が設けられている。
【0050】
本実施形態では、減圧によって冷却された液化ガスがセパレータ210に導入され、気液分離される。気液分離された液体状態の液化ガスは、燃料供給タンクDTから加圧部の第1ポンプ110を経由して供給される過冷却(subcooled)されたLPGと共に、第2ポンプ120に導入されるため、第2ポンプ120の吸引部でベーパー(言い換えると、ベーパーロック)が発生する可能性を低減し、ベーパーを除去するための追加装置を設けなくても良い。
【0051】
また、再循環する液化ガスの温度が高い場合には、船内エンジンEの燃料要求条件に調整するため、燃料ヒータ130は加熱機能と共に冷却機能を備える必要がある。しかし、本実施形態では、減圧部220,230により再循環液化ガスが冷却され、セパレータ210を介して減圧された再循環液化ガス中の気体は、燃料供給タンクDTに回収されることで、第2ポンプ120に吸引される高温の再循環液化ガスの質量流量(mass flow)を減少させることができる。このため、追加冷却をしなくても適切な温度の燃料を船舶エンジンEに供給することができ、燃料ヒータ130としては加熱機能のみ備えるもので良く、装置費用を低減することができ、また燃料供給システムの運転も容易となる。
【0052】
一方、リターンラインは、船内エンジンEとセパレータ210とを接続する第1リターンラインRL1と、第2ポンプ120と燃料ヒータ130との間の燃料供給ラインSLとセパレータ210とを接続する第2リターンラインRL2とを有する。また、減圧部は、第1リターンラインRL1に設けられる第1減圧装置220と、第2リターンラインRL2に設けられる第2減圧装置230とを備えて構成される。第1及び第2減圧装置220,230は、加圧された液化ガスを断熱膨張または等エントロピー膨張させて冷却する膨張機またはジュールトムソンバルブなどの膨張バルブで構成される。
【0053】
第1リターンラインRL1の第1減圧装置220の上流には、リターンバルブ部RVT及びフィルター240が設けられ、船内エンジンEから排出される液化ガスはリターンバルブ部RVT及びフィルター240を経て第1減圧装置220に導入される。フィルター240は、船内エンジンEから排出される液化ガスに混入した潤滑油などをろ過することができる。
【0054】
第1リターンラインRL1及び第1減圧装置220は船内エンジンEから排出される液化ガスを、第2リターンラインRL2及び第2減圧装置230は第1及び第2ポンプ110,120の加圧部を経て加圧された液化ガスを、燃料ヒータ130の上流で減圧してセパレータ210に供給する。
【0055】
これにより、船内エンジンEのLPGモード停止時やトリップなどでLPG燃料の供給を中断した時でも、船内エンジンEや燃料供給ラインSLに残存するLPGを減圧によって冷却させてセパレータ210に供給することができる。LPG燃料の供給中断時には、セパレータ210からLPGを燃料供給ラインSLに再循環させる必要がないため、これを燃料供給タンクDTに送ることができる。このため、セパレータ210から燃料供給タンクDTまで搬送ライン(図示せず)が設けられる。
【0056】
本実施形態のシステムは、運転圧力を制御するために複数の圧力検知部が設けられる。第2ポンプ120と燃料ヒータ130との間の圧力を検知して、圧力信号を送る第1圧力検知部PC1と、第1リターンラインRL1でフィルター240と第1減圧装置220との間の圧力を検知して、圧力信号を送る第2圧力検知部PC2と、第1ポンプ110の下流の圧力を検知する第3圧力検知部PC3と、セパレータ210内の圧力を検知する第4圧力検知部PC4とがそれぞれ設けられる。
【0057】
本実施形態の燃料供給システムの運転圧力は、例えば、以下のように制御することができる。
【0058】
燃料供給タンクDTの運転圧力範囲は1~8bargであるが、運転圧力を約4bargとすると、第1ポンプ110の差圧(Differential pressure)は約2barg、第1ポンプ110の下流の圧力は約6bargである。セパレータ210の運転圧力は、第1ポンプ110の下流の圧力より約0.5~2bar、好ましくは0.5~1bar程高く維持されることで、セパレータ210で分離された液体状態の再循環ガスを第1ポンプ110の下流まで円滑に供給することができる。
【0059】
このため、第3圧力検知部PC3での圧力信号を第4圧力検知部PC4が受信し、第4圧力検知部PC4からベーパーラインVLの圧力調整バルブ250に設定値信号を送信し、圧力調整バルブ250の開度を調整して、セパレータ210内の圧力が約6.5~7bargの範囲で維持される。
【0060】
セパレータ210で分離された液体は、リキッドラインLLを介して第2ポンプ120の上流に供給され、第2ポンプ120でポンピングされて約54bargに加圧される。
【0061】
船内エンジンEから戻る第1リターンラインRL1は、第2圧力検知部PC2で第1減圧装置220を制御して、第1減圧装置220の上流の圧力を約22bargに維持することで、第1減圧装置220の下流の圧力は、セパレータ210内の圧力と同等の約6.5~7bargの範囲で維持される。
【0062】
船内エンジンEの負荷変動により燃料消費量が変化して、第2ポンプ120の下流の圧力が変わる場合には、第1圧力検知部PC1で圧力を検知し、第1圧力検知部PC1の設定値(例えば54barg)以上の圧力であれば、まず第2ポンプ120のVFD(可変周波数ドライブ)を調整してポンプ速度を下げる。依然として圧力が54barg以上で55bargまで上昇する場合には、第2リターンラインRL2の第2減圧装置230を開放して圧力を下げる。
【0063】
本実施形態の船舶は液化ガス運搬船であり、液化ガスを貯蔵して輸送するためのカーゴタンク(図示せず)が設けられ、カーゴタンクに貯蔵された液化ガスから発生する蒸発ガスは、再液化部RSに供給されて再液化される。
【0064】
ところで、セパレータ210で分離されて導入されるガスによって、燃料供給タンクDTの温度が上昇することがある。本実施形態では、再液化部RSで再液化された液化ガスが、燃料供給タンクDTを経由してカーゴタンク(図示せず)に供給されるように冷却ラインCLを設けたことで、再液化部RSで再液化された液化ガスの冷熱を利用して、燃料供給タンクDTが冷却される。
【0065】
一方、船内には、デッキに設置された燃料供給タンクDTに、船内エンジンEの燃料である液化ガスを供給するための燃料タンクFT1,FT2がさらに設けられている。再液化部RSが稼動しない場合には、燃料タンクFT1,FT2から液化ガスを燃料供給タンクDTに供給することで、低温の液化ガスにより燃料供給タンクDTが冷却される。
【0066】
図3に、本発明の第2実施形態の液化ガス運搬船の燃料供給システムを概略的に示す。
【0067】
図3に示すように、第2実施形態の燃料供給システムも、船舶のデッキに設けられた燃料供給タンクDTから船内エンジンEまで液化ガスが供給される燃料供給ラインSLと、燃料供給ラインSLに設けられて、燃料供給タンクDTから船内エンジンEに供給される液化ガスを移送する第1ポンプ110と、燃料供給ラインSLに設けられて、液化ガスを船内エンジンEが必要とする圧力まで加圧する第2ポンプ120と、液化ガスのうち船内エンジンEで使用されずに残った液化ガスを船内エンジンEの上流に再循環させるリターンラインRL1,RL2と、リターンラインRL1,RL2に接続されて、再循環する液化ガスが供給されて気液分離するセパレータ210と、セパレータ210で分離された液体状態の液化ガスを燃料供給ラインSLの第1ポンプ110の下流に供給するリキッドラインLLと、セパレータ210で分離された気体を燃料供給タンクDTに回収するベーパーラインVLとを備える。
【0068】
リターンラインRL1,RL2のセパレータ210の上流には、再循環する液化ガスを減圧する減圧部220,230が設けられている。また、セパレータ210と燃料供給タンクDTとを接続するベーパーラインVLには、燃料供給タンクDTに供給される気体の圧力を調整するための圧力調整バルブ250が設けられている。
【0069】
セパレータ210で分離されて、リキッドラインLLを介して再循環する液化ガスが供給される燃料供給ラインSLの第1ポンプ110の下流の圧力を検知し、検知した圧力に応じて圧力調整バルブ250を制御して、セパレータ210から燃料供給タンクDTに回収される気体の量を調整し、セパレータ210内の圧力を燃料供給ラインSLで検知した圧力よりも高く維持する。
【0070】
以下、第2実施形態の燃料供給システムの船内エンジンEへの燃料供給過程を詳細に説明する。
【0071】
燃料供給タンクDTから船内エンジンEまでの燃料供給は、液化ガスをポンピングして移送する第1ポンプ110と、移送された液化ガスをポンピングして船内エンジンEが要求する圧力まで加圧する第2ポンプ120との2つのポンプで行われる。
【0072】
第1ポンプ110は液化ガスを移送するための低圧ポンプで、例えば遠心ポンプ(centrifugal pump)であり、第2ポンプ120は船内エンジンEが必要とする燃料供給圧力まで加圧する高圧ポンプで、例えばダイアフラムポンプ(diaphragm pump)で構成することができる。第1ポンプ及び第2ポンプ110,120で加圧された液化ガスは、第2ポンプ120の下流に設けられた燃料ヒータ130で船内エンジンEが要求する温度まで加熱されて船内エンジンEに供給される。
【0073】
燃料供給ラインSLで第2ポンプ120及び燃料ヒータ130により加圧及び加熱された液化ガスは、燃料中の異物をろ過するフィルター140とサービスバルブ部SVTを経て船内エンジンEに供給される。サービスバルブ部SVTは、船内エンジンEにLPGを供給し、船内エンジンEの燃料油切替やLPGモード停止、トリップなどでLPG燃料供給が中断される際にバルブによって各配管を二重遮断し、配管内の圧力を解消する。
【0074】
このような加圧及び加熱されたLPGを燃料として供給可能なエンジンとして、例えば、MAN Disel&Turbo社のME-LGIPエンジンがある。この場合、LPGは加圧部110,120及び燃料ヒータ130により加圧及び加熱されて、約54bar、約35℃の高圧液体状態でエンジンに供給され、エンジンで油圧600~700barの圧力でノズルに噴射されてエンジンが稼動する。
【0075】
すなわち、本実施形態の船内エンジンEには、加圧及び加熱された燃料が液体状態で船内エンジンEに供給される。しかし、圧力変化による体積変化が大きい圧縮性流体、すなわちガス燃料が供給されるエンジンと異なり、圧力を加えても殆ど体積が変化しない非圧縮性流体である液体状態のLPGをエンジン燃料として供給する場合には、エンジンの負荷が変動しても十分な燃料を供給することで即時に対応し、キャビテーションを防止するために過剰のLPGをエンジンに供給する。船内エンジンEに供給されたLPGのうち、燃料として使用されずに残ったLPGを、船内エンジンEからリターンラインRL1を介して排出させて再循環させる。しかし、加圧及び加熱されたLPGを、そのまま再循環または燃料供給タンクDTに供給すると、第2ポンプ120の吸引部(suction)でベーパー(vapor)が発生する可能性があり、燃料供給タンクDT内の圧力や温度が上昇することで、タンクや船舶の安全を脅かすことになる。
【0076】
本実施形態では、このような問題を解決するため、リターンラインRL1,RL2に液化ガスを減圧する減圧部220,230を設けて、船内エンジンEから排出される液化ガスを減圧した後、再循環できるように構成した。加圧された液化ガスは、減圧過程で断熱膨張または等エントロピー膨張し、ジュールトムソン効果によって冷却される。
【0077】
船内エンジンEからリターンラインRL1を介して再循環する加圧された液化ガスは、減圧部220で減圧されて冷却された後、セパレータ210に導入されて気液分離される。セパレータ210で分離された液体状態の液化ガスは、リキッドラインLLを介して第1ポンプ110と第2ポンプ120との間の燃料供給ラインSLに供給されて再循環され、セパレータ210で分離された気体は、ベーパーラインVLを介して燃料供給タンクDTに回収される。
【0078】
本実施形態では、減圧によって冷却された液化ガスがセパレータ210に導入され、気液分離される。気液分離された液体状態の液化ガスは、燃料供給タンクDTから第1ポンプ110を経由して供給される過冷却(subcooled)されたLPGと共に、第2ポンプ120に導入されるため、第2ポンプ120の吸引部でベーパーが発生する可能性を低減し、ベーパーを除去するための追加装置を設けなくても良い。
【0079】
また、再循環する液化ガスの温度が高い場合には、船内エンジンEの燃料要求条件に調整するため、燃料ヒータ130は加熱機能と共に冷却機能を備える必要がある。しかし、本実施形態では、減圧部220,230により再循環液化ガスが冷却され、セパレータ210を介して減圧された再循環液化ガス中の気体は、燃料供給タンクDTに回収されることで、第2ポンプ120に吸引される高温の再循環液化ガスの質量流量(mass flow)を減少させることができる。このため、追加冷却をしなくても適切な温度の燃料を船内エンジンEに供給することができ、燃料ヒータ130としては加熱機能のみを備えるもので良く、装置費用を低減することができ、また燃料供給システムの運転も容易となる。
【0080】
一方、リターンラインは、船内エンジンEとセパレータ210とを接続する第1リターンラインRL1と、第2ポンプ120と燃料ヒータ130との間の燃料供給ラインSLとセパレータ210とを接続する第2リターンラインRL2を有する。また、減圧部は、第1リターンラインRL1に設けられる第1減圧装置220と、第2リターンラインRL2に設けられる第2減圧装置230とを備えて構成される。第1及び第2減圧装置220,230は、加圧された液化ガスを断熱膨張または等エントロピー膨張させて冷却する膨張機またはジュールトムソンバルブなどの膨張バルブから構成される。
【0081】
第1リターンラインRL1の第1減圧装置220の上流には、リターンバルブ部RVT及びフィルター240が設けられ、船内エンジンEから排出される液化ガスはリターンバルブ部RVT及びフィルター240を経て第1減圧装置220に導入される。フィルター240は、船内エンジンEから排出される液化ガスに混入した潤滑油などをろ過することができる。
【0082】
第1リターンラインRL1及び第1減圧装置220は船内エンジンEから排出される液化ガスを、第2リターンラインRL2及び第2減圧装置230は第2ポンプ110,120で船内エンジンEの燃料供給圧力に加圧された液化ガスを、燃料ヒータ130の上流で減圧してセパレータ210に供給する。
【0083】
これにより、船内エンジンEのLPGモード停止時やトリップなどでLPG燃料の供給を中断した時でも、船内エンジンE及び燃料供給ラインSLに残存するLPGを減圧によって冷却させてセパレータ210に供給することができる。LPG燃料の供給中断時には、セパレータ210からLPGを燃料供給ラインSLに再循環させる必要がないため、これを燃料供給タンクDTに送ることができる。このため、セパレータ210から燃料供給タンクDTまで搬送ライン(図示せず)が設けられる。
【0084】
本実施形態のシステムは、運転圧力を制御するために複数の圧力検知部が設けられる。第2ポンプ120と燃料ヒータ130との間の圧力を検知して、圧力信号を送る第1圧力検知部PC1と、第1リターンラインRL1でフィルター240と第1減圧装置220との間の圧力を検知して、圧力信号を送る第2圧力検知部PC2と、第1ポンプ110の下流の圧力を検知する第3圧力検知部PC3と、セパレータ210内の圧力を検知する第4圧力検知部PC4とがそれぞれ設けられる。
【0085】
本実施形態の燃料供給システムの運転圧力は、例えば、以下のように制御することができる。
【0086】
燃料供給タンクDTの運転圧力範囲は1~8bargであるが、運転圧力を約4bargとすると、第1ポンプ110の差圧(Differential pressure)は約2barg、第1ポンプ110の下流の圧力は約6bargである。セパレータ210の運転圧力は、第1ポンプ110の下流の圧力より約0.5~2bar、好ましくは0.5~1bar程高く維持されることで、セパレータ210で分離された液体状態の再循環ガスを第1ポンプ110の下流まで円滑に供給することができる。
【0087】
このため、第3圧力検知部PC3での圧力信号を第4圧力検知部PC4が受信し、第4圧力検知部PC4からベーパーラインVLの圧力調整バルブ250に設定値信号を送信し、圧力調整バルブ250の開度を調整して、セパレータ210内の圧力が約6.5~7bargの範囲で維持される。
【0088】
セパレータ210で分離された液体は、リキッドラインLLを介して第2ポンプ110の上流に供給され、第2ポンプ120でポンピングされて約54bargに加圧される。
【0089】
セパレータ210には、セパレータ210内の液化ガスの液面(liquid level)を検知するレベルセンサLCが設けられ、レベルセンサLCで検知したセパレータ210内の液化ガスの液面に応じてバルブV1を制御し、燃料供給ラインSLに供給される液化ガスの流量を調整することができる。
【0090】
船内エンジンEから戻る第1リターンラインRL1は、第2圧力検知部PC2で第1減圧装置220を制御して、第1減圧装置220の上流の圧力を約22bargに維持することで、第1減圧装置220の下流の圧力は、セパレータ210内の圧力と同等の約6.5~7bargの範囲で維持される。
【0091】
船内エンジンEの負荷変動により燃料消費量が変化して、第2ポンプ120の下流の圧力が変わる場合には、第1圧力検知部PC1で圧力を検知し、第1圧力検知部PC1の設定値(例えば54barg)以上の圧力であれば、まず第2ポンプ120のVFD(可変周波数ドライブ)を調整してポンプ速度を下げる。依然として圧力が54barg以上で55bargまで上昇する場合には、第2リターンラインRL2の第2減圧装置230を開放して圧力を下げる。
【0092】
一方、セパレータ210の底部には排出配管DLが設けられている。セパレータ210から分離された潤滑油は、排出配管DLを有する排出部へ排出される。
【0093】
図4に、本第2実施形態の液化ガス運搬船の燃料供給システムのセパレータ210から潤滑油を排出する排出部の構成を概略的に示す。
【0094】
船内エンジンEから回収された液化ガスには、液体状態のLPGの他に、燃料供給のための加圧及び加熱により発生した蒸発ガスなどの気体と共に、エンジンから流入した潤滑油(sealing oil)が混入する場合がある。潤滑油が混入した液化ガスがエンジンの燃料として供給されると、不完全燃焼により排気ガス中に大気汚染物質が発生し、燃料効率にも悪影響を及ぼす虞がある。また、燃料供給タンクDTに潤滑油が混入すると、タンク内で結晶化する場合もある。本実施形態では、セパレータ210の底部に設けられた排出配管DLを介して、液化ガスに混入した潤滑油をセパレータ210から分離して排出することにより、これを防止することができる。
【0095】
LPGの主成分はプロパン(C3H8)とブタン(C4H10)であり、プロパンとブタンとの割合によって異なるが、比重が約0.5であり、潤滑油の比重は約0.9である。したがって、セパレータ210内の液化ガスは上部に分離され、比重差によってLPGより重い潤滑油が底部に層分離する。このため、セパレータ210の底部に排出配管DLを設けることで、層分離した潤滑油が排出される。より円滑に潤滑油を分離・排出するために、LPGでは沈むが潤滑油では浮遊する浮遊式の浮力体をセパレータ210内に設けてもよい。
【0096】
セパレータ210内の圧力を約10barg以下で維持すると、粘性及び比重差による潤滑油の分離排出を容易に行うことができる。
【0097】
排出部は、セパレータ210の底部に接続される排出配管DLと、排出された潤滑油を集積する潤滑油排出タンクSDTとを備える。排出配管DLには、セパレータ210と潤滑油排出タンクSDTとの間にリテンションポット(retention pot)300が設けられる。リテンションポットには、液面を確認できる磁気浮遊式レベルゲージ(magnetic float level gauge)310が設けられている。また、セパレータ210とリテンションポット300との間の排出配管DLには、
図4に示すように、第1排出バルブDV1及び第2排出バルブDV2が設けられている。リテンションポット300と潤滑油排出タンクSDTとの間には、分離された潤滑油を潤滑油排出タンクSDTに排出するための第3排出バルブDV3が設けられている。正常排出モードで動作する時、第1及び第2排出バルブDV1,DV2を開放して、第3排出バルブDV3を閉鎖し、排出配管DLに設けられたリテンションポット300により管内停滞時間を長くすることで、潤滑油の分離効率を高めることができる。
【0098】
第2排出バルブDV2とリテンションポット300との間には、排出配管DLの圧力を解消し、潤滑油の排出(drain)時の真空状態を解消するために、排出配管DLから分岐して潤滑油排出タンクSDTに接続される配管と、この配管を開閉する第4排出バルブDV4が設けられている。潤滑油排出タンクSDTには、液面を測定するレベルゲージ320が設けられている。また、潤滑油排出タンクSDTから潤滑油を排出するための第5排出バルブDV5が設けられ、排出させた潤滑油はエンジンルームのオイルタンクに送られて再使用または廃棄される。
【0099】
一方、本実施形態の船舶は、液化ガス運搬船で液化ガスを貯蔵して輸送するためのカーゴタンク(図示せず)が設けられる。本実施形態では、カーゴタンク(図示せず)に貯蔵された液化ガスから発生する蒸発ガスを再液化部RSに供給して再液化し、再液化部RSで再液化された液化ガスが、燃料供給タンクDTを経由してカーゴタンク(図示せず)に供給されるように冷却ラインCLを設けたことで、再液化部RSで再液化された液化ガスの冷熱を利用して燃料供給タンクDTが冷却されるように構成した。
【0100】
すなわち、燃料供給タンクDTは、LPGを8barg以下の圧力で貯蔵して、船内エンジンEに燃料を供給するが、燃料供給タンクDTは船舶のデッキ(deck)上に設けられるため、外気やセパレータ210から導入されるガスなどによりタンク内の温度が上昇することで圧力が上昇する場合がある。しかし、本実施形態では、カーゴタンクに貯蔵された貨物としての液化ガスから発生する蒸発ガスを再液化させた後、再液化させた液化ガスが燃料供給タンクDTを経由してカーゴタンクに戻るように冷却ラインCLを構成したことで、再液化した液化ガスの冷熱を利用して燃料供給タンクが冷却される。
【0101】
一方、船内には、デッキに設置された燃料供給タンクDTに、船内エンジンEの燃料である液化ガスを供給する燃料タンクFT1,FT2がさらに設けられている。再液化部RSが稼動しない場合には、燃料タンクFT1,FT2から液化ガスを燃料供給タンクDTに供給することで、低温の液化ガスにより燃料供給タンクDTが冷却される。
【0102】
以上のように、カーゴタンク内の貨物としての液化ガスから発生する蒸発ガスを再液化し、再液化ガスの冷熱により燃料供給タンクDTを冷却することで、燃料供給タンクDT内の温度及び圧力を調整することができる。また、再液化ガスを、その冷熱のみを利用した後、カーゴタンクへ戻して貯蔵することで、燃料と搬送貨物とが混ざることを防止することができる。
【0103】
本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の技術的要旨を逸脱しない範囲内で様々な形態で修正または変更できることは、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者にとって自明である。