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特許7485845製造工程の管理システム及び製造工程の管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】製造工程の管理システム及び製造工程の管理方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20240509BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20240509BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023191188
(22)【出願日】2023-11-08
【審査請求日】2023-11-14
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315001682
【氏名又は名称】岩井ファルマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 正貴
(72)【発明者】
【氏名】森 良樹
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194452(JP,A)
【文献】特開2020-135849(JP,A)
【文献】特開平11-096222(JP,A)
【文献】特開2021-086562(JP,A)
【文献】特開2019-79144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品を製造する処理装置と、
入出力装置と、
複数のステップからなる製造工程を前記処理装置に実現させるための制御プログラムであって、作業員による前記入出力装置を介した操作により前記ステップを次に進めることが可能な制御プログラムを実行する制御装置と、
前記ステップ及びステップ間の標準所要時間を定めた標準工程と、前記処理装置を制御するための工程パラメータであって少なくともステップに要する所要時間を含む工程パラメータを前記ステップごとに定義した補正データと、を記憶した記憶装置と、
各前記ステップの所要時間、及び前記工程パラメータを含む監査証跡を記録する監査証跡記録手段と、
前記監査証跡記録手段により記録された前記ステップの所要時間が前記標準所要時間よりも長ければ遅延が生じていると判定する遅延判定手段と、
前記遅延判定手段により遅延が生じていると判定されたとき、前記標準工程の最後のステップの終了時刻以前に前記製造工程が終了するように、将来実行するステップの工程パラメータ及び所要時間を前記補正データから検索して前記入出力装置に出力する遅延回復提案手段と、
を備え
前記補正データは、過去に実行された製造工程についての前記監査証跡に含まれる前記工程パラメータであって、医薬品が所定基準を満たして製造されたと承認されたものであり、
前記所定基準は、医薬品の品質を確保することが立証されている医薬品の性質と前記工程パラメータとの組み合わせである
ことを特徴とする製造工程の管理システム。
【請求項2】
医薬品を製造する処理装置と、入出力装置と、複数のステップからなる製造工程を前記処理装置に実現させるための制御プログラムであって、作業員による前記入出力装置を介した操作により前記ステップを次に進めることが可能な制御プログラムを実行する制御装置とを備えた設備で実行される製造工程の管理方法であって、
前記ステップ及びステップ間の標準所要時間を定めた標準工程と、前記処理装置を制御するための工程パラメータであって少なくともステップに要する所要時間を含む工程パラメータを前記ステップごとに定義した補正データを作成する第1工程と、
各前記ステップの所要時間、及び前記工程パラメータを含む監査証跡を記録する第2工程と、
前記第2工程で記録された前記ステップの所要時間が前記標準所要時間よりも長ければ遅延が生じていると判定する第3工程と、
前記第3工程で遅延が生じていると判定されたとき、前記標準工程の最後のステップの終了時刻以前に前記製造工程が終了するように、将来実行するステップの工程パラメータ及び所要時間を前記補正データから検索して前記入出力装置に出力する第4工程と、を備え、
前記第1工程では、
品質を確保することが立証されている医薬品の性質と前記工程パラメータとの組み合わせを予め作成して所定基準とし、
過去に実行された製造工程についての前記監査証跡に含まれる前記工程パラメータであって前記所定基準を満たして製造されたと承認された前記補正データを作成する
ことを特徴とする製造工程の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品を製造する設備において実行される製造工程を管理することができる製造工程の管理システム及び製造工程の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品を製造する設備には、各種の処理目的に応じた処理装置、処理装置の運転データを取得するセンサ等、及び処理装置を制御するための制御装置が配備されている。制御装置は制御プログラムを実行することで、各種処理装置を動作させ、目的とする医薬品を製造する。
【0003】
制御プログラムは、製造工程を実現するための複数のステップからなり、そのうちいくつかのステップは作業員の操作によって次ステップに進むようになっている。制御プログラムは、例えば、製造工程(原料を投入する工程、原料を加熱する工程、攪拌する工程、冷却する工程など)を実現するための各ステップを次のように進捗させる。
原料投入工程 ステップ1:タッチパネルなどの入出力装置に、原料をタンク(処理装置の一例)投入させる旨の情報を表示する。
原料投入工程 ステップ2:作業員が実際に原料の投入を終えた際に押すべきボタンなどのGUI部品を入出力装置に表示する。
原料投入工程 ステップ3:作業員がボタンを押したら原料投入口工程を終了し、次の攪拌工程に進む。
【0004】
各ステップは、制御装置により自動的に処理装置が制御されるものであったり、作業員による作業(例えば原料投入)やその作業が終了して次に進むためのタッチパネル操作を含んでいる。製造工程は、定められた標準的な工程にしたがって所定時刻に終了することが期待されているものの、人的要因のためにステップの進行に遅延が生じることがある。
【0005】
例えば、特許文献1には標準的な工程に対して遅延時間を算出する分析方法が提案されているが、製造現場で遅延を回復するためのものではない。生産計画を遵守すべく、製造現場で遅延を回復できることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-174541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、医薬品の製造設備において、製造工程の進行に生じた遅延を回復することを支援する製造工程の管理システム及び製造工程の管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための態様は、医薬品を製造する処理装置と、入出力装置と、複数のステップからなる製造工程を前記処理装置に実現させるための制御プログラムであって、作業員による前記入出力装置を介した操作により前記ステップを次に進めることが可能な制御プログラムを実行する制御装置と、前記ステップ及びステップ間の標準所要時間を定めた標準工程と、前記処理装置を制御するための工程パラメータであって少なくともステップに要する所要時間を含む工程パラメータを前記ステップごとに定義した補正データと、を記憶した記憶装置と、各前記ステップの所要時間、及び前記工程パラメータを含む監査証跡を記録する監査証跡記録手段と、前記監査証跡記録手段により記録された前記ステップの所要時間が前記標準所要時間よりも長ければ遅延が生じていると判定する遅延判定手段と、前記遅延判定手段により遅延が生じていると判定されたとき、前記標準工程の最後のステップの終了時刻以前に前記製造工程が終了するように、将来実行するステップの工程パラメータ及び所要時間を前記補正データから検索して前記入出力装置に出力する遅延回復提案手段と、を備え、前記補正データは、過去に実行された製造工程についての前記監査証跡に含まれる前記工程パラメータであって、医薬品が所定基準を満たして製造されたと承認されたものであり、前記所定基準は、医薬品の品質を確保することが立証されている医薬品の性質と前記工程パラメータとの組み合わせであることを特徴とする製造工程の管理システムにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、医薬品の製造設備において、製造工程の進行に生じた遅延を回復することを支援する製造工程の管理システム及び製造工程の管理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】製造工程の管理システムの概略構成図である。
図2】製造工程の管理システムの機能を示すブロック図である。
図3】制御プログラムの一例を示す図である。
図4】監査証跡の一例を示す図である。
図5】遅延回復を提案する手順を説明するための図である。
図6】監査証跡の一例を示す図である。
図7】デザインスペースの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、製造工程の管理システム1の概略構成図である。本実施形態の管理システム1は、医薬品を製造する設備を対象とする。設備は、医薬品を製造するための様々な処理装置と、処理装置から運転データを計測する計測装置から構成されている。
【0012】
タンク2は、タンク2の投入口から原料が供給され、該原料を内部に貯留する装置である。タンク2には、攪拌装置3、温度調節装置4、及び送液装置5など各種装置が設けられ、または接続されている。これらのタンク2、攪拌装置3、温度調節装置4、及び送液装置5は処理装置の一例であり、これらをまとめて処理装置2~5と称する。タンク2には図示しないジャケットが設けられており、ジャケット内に供給される熱媒によりタンク2の内部が所望の温度に設定される。
【0013】
攪拌装置3は、タンク2の内部に配置されたスクリューを回転させて原料を攪拌する動作を行う。攪拌装置3には、タンク2内部の原料を攪拌する際のスクリューの回転数や回転時間などがPLC10から制御信号として与えられる。そして、攪拌装置3は、その制御信号を受信し、設定された回転数及び回転時間でタンク2内の原料を攪拌するように構成されている。また、攪拌装置3からの情報、例えば、実際の回転数や回転を始めてからの経過時間などは、PLC10に送信され、PLC10はその情報を読み取ることが可能となっている。
【0014】
温度調節装置4は、タンク2の内部に貯留された原料の温度を調節するための装置である。温度調節装置4は、熱媒を所望の温度にするための熱交換機、熱媒をタンク2のジャケットに供給するポンプ等の送液手段等から構成された公知の装置である。温度調節装置4は、PLC10から設定された温度になるように水などの熱媒を加熱又は冷却し、その熱媒をタンク2のジャケットに送液することで、タンク2に貯留された原料の温度を熱媒と同等の温度とする。
【0015】
送液装置5は、タンク2に貯留された原料を、他の処理装置(図示せず)に移送させるための装置である。例えば、タンク2内に圧縮した空気を供給するポンプや、その空気が流通する配管に設けられた弁などである。送液装置5には、ポンプの出力や、弁の開度などがPLC10から制御信号として与えられる。そして、送液装置5は、その制御信号を受信し、設定された出力でポンプを動作させ、設定された開度で弁を開けるように構成されている。
【0016】
温度センサ6及び計量器7は計測装置の一例であり、他にも特に図示しないが、原料(製造過程にある原料や製造完了後の製品を含む)の性質、例えば濁度、濃度、pHなどを計測する計測装置などをまとめて計測装置6~7と称する。計測装置6~7は、タンク2や配管内の原料を直接計測するものであってもよいし、タンク2や配管内から採取されたサンプルを計測するものであってもよい。温度センサ6は、タンク2の内部に貯留された原料の温度を計測する動作を行う。すなわち、タンク2内部の原料の温度を計測し、その温度をPLC10に送信するように構成されている。また、計量器7は、内部に貯留された原料を計量する動作を行う。すなわち、タンク2内部の原料の重量を計測し、その重量をPLC10に送信するように構成されている。
【0017】
これらの処理装置2~5の動作によりタンク2において原料が混合され、その原料は他の処理装置(特に図示せず)にて所定の処理が実行され、設備全体で医薬品が製造されるようになっている。
【0018】
図2に示すように、管理システム1は、このような処理装置2~5及び各種計測装置6~7を備えた設備の制御装置であるPLC10を備えている。PLC10には入出力装置としてタッチパネル20が接続されている。
【0019】
PLC10は、プログラマブルコントローラ又はシーケンサとも称される装置である。PLC10は、CPU11及びメモリ12を備え、メモリに記憶された制御プログラム30を読み取り実行することで、処理装置2~5を制御する。制御プログラム30は、メモリ12から処理装置2~5を制御するための設定値を読み取り、設定値で稼動するように処理装置2~5を制御する。以後、設定値を工程パラメータと称する。工程パラメータは少なくとも処理装置2~5を稼動させる時間(ステップに要する所要時間)を含む。なお、メモリ12は請求項に記憶装置の一例である。
【0020】
タッチパネル20は、PLC10に接続されており、所定の画面を表示するとともに、操作者の操作を検出する。具体的には、タッチパネル20は、CPU21、入出力部22及びメモリ23を備えている。タッチパネル20は、ネットワークを通じてPLC10と接続可能となっている。
【0021】
タッチパネル20はPLC10とデータの送受信が可能となっている。PLC10から各タッチパネル20に画面を表示することが可能となっており、また、各タッチパネル20からPLC10に、例えばボタンなどGUI部品を操作したというデータや、GUI部品を操作して生成した文字や数値などのデータを送信することが可能となっている。
【0022】
入出力部22は、具体的には、表示装置と、その表示装置の表面に触れた操作を検出するための検出機構とから構成されている。表示装置は、液晶パネルや有機ELなど公知の表示装置を用いることができる。また、検出機構は、抵抗膜方式や静電容量方式など公知のものを用いることができる。
【0023】
メモリ23には、タッチパネル20を動作させるためのプログラムが記憶されており、CPU21はこのプログラムをメモリ23から呼び出して実行する。また、タッチパネル20は、PLC10のメモリ12を読み書き可能となっている。このため、タッチパネル20のプログラムは、PLC10に記憶された工程パラメータを入出力部22に表示したり、入出力部22の操作に基づいて変更された新たな工程パラメータをPLC10のメモリ12に書き込むことが可能となっている。
【0024】
また、PLC10のメモリ12には、制御プログラム30、監査証跡記録手段40、遅延判定手段50、遅延回復提案手段60、標準工程70、及び補正データ80が記憶されている。
【0025】
図3に制御プログラムの一例を示す。制御プログラム30は、製品を製造するために処理装置2~5を動作させるためのプログラムである。制御プログラム30は、ラダー回路などの言語で記述されている。制御プログラム30は、複数のステップからなり順次実行されるが、一部のステップについては作業員がタッチパネル20に対して行った操作により次に進めることが可能となっている。このような作業員の操作があったら次のステップに進むステップを確認ステップと称する。
【0026】
ステップ[1]~[3]は、「原料投入工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
ステップ[1]:原料投入を促す旨の情報をタッチパネル20に表示する。作業員はその情報をみて実際に原料をタンク2に投入する。
【0027】
ステップ[2]:タンク2に投入された原料の重量を確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、計量器7により得られたタンク2に投入された原料の重量、当該重量が規定通りであるならば押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[3]に進む。ステップ[2]は作業員の操作があったら次のステップ[3]に進む確認ステップの一つである。
【0028】
ステップ[3]:原料投入が完了したことを確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、原料投入が完了したなら押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[4]に進む。ステップ[3]は確認ステップの一つである。
【0029】
ステップ[4]~[6]は、「加熱工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
ステップ[4]:加熱工程に用いる工程パラメータを確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、加熱工程に用いる工程パラメータ、例えば加熱の目標温度や保持時間、加熱を開始するためのボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[5]に進む。ステップ[4]は確認ステップの一つである。
【0030】
ステップ[5]:温度調節装置4にタンク2内の原料を所定温度まで加熱させるステップである。具体的には工程パラメータに基づいて所定の命令を実行することで温度調節装置4を動作させる。
【0031】
ステップ[6]:加熱が完了したことを判定するステップである。具体的には、制御プログラム30は、加熱を開始してから所定条件が成立したら加熱が完了したと判定する。所定条件とは例えば加熱を開始してからの時間であったり、温度センサ6で計測された
タンク2の原料の温度が所定温度になったか否かである。加熱が完了したら次のステップ[7]に進む。このようなステップは、タッチパネル20に対する作業員の操作によらずに次ステップに進むため、確認ステップではない。
【0032】
ステップ[7]~[9]は、「攪拌工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
ステップ[7]:攪拌に関する工程パラメータ、例えば攪拌装置3の回転数(rpm)や攪拌する時間などを確認させるステップである。具体的には攪拌に関する工程パラメータ、当該工程パラメータが規定通りであるならば押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[7]に進む。ステップ[6]は作業員の操作があったら次のステップ[7]に進む確認ステップの一つである。
【0033】
ステップ[8]:攪拌装置3にタンク2内を撹拌させるステップである。具体的には工程パラメータに基づいて所定の命令を実行することで攪拌装置3を動作させる。
【0034】
ステップ[9]:攪拌が完了したことを確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、攪拌が完了したなら押すべきボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。作業員は目視などにより攪拌後の原料の状態を確認し、当該ボタンを押す。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[10]に進む。ステップ[9]は確認ステップの一つである。
【0035】
ステップ[10]~[12]は、「冷却工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
【0036】
ステップ[10]:冷却工程に用いる工程パラメータを確認するステップである。具体的には、制御プログラム30は、冷却工程に用いる工程パラメータ、例えば冷却の目標温度や保持時間、冷却を開始するためのボタンなどを配した画面をタッチパネル20に表示する。制御プログラム30は作業員により当該ボタンが押されたら次のステップ[11]に進む。ステップ[10]は確認ステップの一つである。
【0037】
ステップ[11]:温度調節装置4にタンク2内の原料を所定温度まで冷却させるステップである。具体的には工程パラメータに基づいて所定の命令を実行することで温度調節装置4を動作させる。
【0038】
ステップ[12]:冷却が完了したことを判定するステップである。具体的には、制御プログラム30は、冷却を開始してから所定条件が成立したら冷却が完了したと判定する。所定条件とは例えば冷却を開始してからの時間であったり、温度センサ7で計測されたタンク2の原料の温度が所定温度になったか否かである。冷却が完了したら次のステップ[13]に進む。このようなステップは、タッチパネル20に対する作業員の操作によらずに次ステップに進むため、確認ステップではない。
【0039】
ステップ[13]~[14]は、「移送工程」という一製造工程を実現するためのステップである。
ステップ[13]:タンク2内の原料を他の処理装置へ移送するために送液装置5を制御するステップである。
【0040】
ステップ[14]:移送が完了したことを判定するステップである。具体的には、制御プログラム30は、移送を開始してから所定条件が成立したら移送が完了したと判定する。所定条件とは例えば移送を開始してからの時間であったり、計量器7で計測されたタンク2の原料の重量がゼロとなったか否かである。このようなステップは、タッチパネル20に対する作業員の操作によらずに次ステップに進むため、確認ステップではない。移送が完了したらタンク2における一連の製造工程が終了する。
【0041】
標準工程とは、各ステップ、及びステップ間の標準所要時間を定めたデータである。ステップの標準所要時間とは、ステップに要する標準的な時間である。当該標準所要時間は、例えば、最低限、医薬品等の品質を確保するために必要な時間より長く設定する。ステップ間の標準所要時間とは、連続するステップ間の時間である。当該標準所要時間は、作業員の動作に要する時間や、PLC10や処理装置2~5の状態などを考慮して適宜定めたものである。
【0042】
補正データとは、処理装置2~5を制御するための工程パラメータであって少なくともステップに要する所要時間を含む工程パラメータをステップごとに定義したものである。補正データは、詳細は後述するが、製造工程が標準工程の終了時刻よりも遅延すると予測される場合に、各ステップの開始時刻や工程パラメータを補正するために用いられる。
【0043】
監査証跡記録手段40、遅延判定手段50、遅延回復提案手段60について説明する。これらの各手段は、PLC10で実行されるプログラムとして実装された各種機能を実現するためのものである。
【0044】
監査証跡記録手段40は、計測装置6~7から運転データを得て、得た時刻と共にメモリ12に記録し、作業員が行った作業データをメモリ12に記録する。監査証跡は、処理装置2~5の運転データや、ステップの実行状況を表す作業データなどから構成されている。
【0045】
運転データとは、計測装置6~7から得られるデータ、及び当該データを加工して得られたものである。後者は例えば経時的な温度等の測定値の傾き、変化率などである。PLC10が上述したような制御プログラムを実行することで処理装置2~5が動作して医薬品の製造が行われるが、この間、計測装置6~7からタンク2内の原料の重量や温度、原料の性質に関する計測値などが運転データとして得られる。
【0046】
作業データは、製造工程を構成するステップの実行状況を表すデータである。具体的には、各ステップの所要時間、さらには開始時刻と終了時刻、処理装置2~5を制御するための工程パラメータを含む。また、作業員の操作が必要となるステップについては、作業を行った作業員を特定するデータなども作業データに含まれる。工程パラメータは、原則的にはメモリ12に予め設定されたものであるが、作業員がタッチパネル20の操作を介して設定してメモリ12に保存されたものであってもよい。
【0047】
図4に監査証跡のうちの作業データの例を示す。各行は監査証跡である作業データを表している。N行目の監査証跡を監査証跡[N]と表記する。
【0048】
監査証跡[1]は、PLC10により実行されたステップ1が実行されたこと、そのステップの開始時刻と終了時刻(所要時間はこれらから計算される)を含む作業データが監査証跡として記録されたことを表している。なお、監査証跡[2]-[14]についても同様に、各ステップが実行されたこと、開始時刻、終了時刻が監査証跡として記録されている。
【0049】
監査証跡[2]は、ステップ2に係る作業データを表している。作業員Aが原料を投入した後、タンク2内の原料の重量を確認し、重量を確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ2からステップ3に進行する。監査証跡記録手段40は、原料投入を行った「作業員A」を記録する。「作業員A」とは、作業員を特定する情報の一例であり、タッチパネル20の操作に先だって作業員を認証することにより得られる情報である。このように、監査証跡[2]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(原料投入、重量確認)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ3へ進むための操作を行ったことを表している。
【0050】
監査証跡[3]は、ステップ3に係る作業データを表している。作業員Aが原料の投入を完了したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ3からステップ4に進行する。このとき、監査証跡記録手段40は、原料投入を行った「作業員A」を記録する。また、つまり、監査証跡[3]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(原料投入完了)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ4へ進むための操作を行ったことを表している。
【0051】
監査証跡[4]は、ステップ4に係る作業データを表している。作業員Aが加熱のための工程パラメータを確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ4からステップ5に進行する。このとき、監査証跡記録手段40は、工程パラメータを確認した「作業員A」を記録する。つまり、監査証跡[4]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(工程パラメータ確認)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ5へ進むための操作を行ったことを表している。
【0052】
監査証跡[5]は、ステップ5に係る作業データを表している。PLC10はステップ5を実行してタンク2の内部の原料を加熱するが、監査証跡記録手段40は、このときに使われる工程パラメータを監査証跡として記録する。監査証跡[5]の例では、熱媒の温度である「65℃」、その温度で加熱する時間である「10分」を監査証跡として記録する。
【0053】
監査証跡[6]は、ステップ6に係る作業データを表している。作業員Aが加熱が完了したことを確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ6からステップ7に進行する。このとき、監査証跡記録手段40は、加熱完了の確認をした「作業員A」を記録する。つまり、監査証跡[6]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(加熱完了の確認)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ7へ進むための操作を行ったことを表している。
【0054】
監査証跡[7]は、ステップ7に係る作業データを表している。作業員Aが加熱のための工程パラメータを確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ7からステップ8に進行する。このとき、監査証跡記録手段40は、工程パラメータを確認した「作業員A」を記録する。つまり、監査証跡[7]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(工程パラメータ確認)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ8へ進むための操作を行ったことを表している。
【0055】
監査証跡[8]は、ステップ8に係る作業データを表している。PLC10はステップ8を実行してタンク2の内部の原料を撹拌するが、監査証跡記録手段40は、このときに使われる工程パラメータを監査証跡として記録する。監査証跡[8]の例では、撹拌装置3の回転速度である「300rpm」、撹拌にかける時間である「5分」を監査証跡として記録する。
【0056】
監査証跡[9]は、ステップ9に係る作業データを表している。作業員Aが攪拌が完了したことを確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ9からステップ10に進行する。このとき、監査証跡記録手段40は、攪拌完了の確認をした「作業員A」を記録する。つまり、監査証跡[9]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(攪拌完了の確認)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ10へ進むための操作を行ったことを表している。
【0057】
監査証跡[10]は、ステップ10に係る作業データを表している。作業員Aが冷却のための工程パラメータを確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ10からステップ11に進行する。このとき、監査証跡記録手段40は、工程パラメータを確認した「作業員A」を記録する。つまり、監査証跡[10]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(工程パラメータ確認)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ11へ進むための操作を行ったことを表している。
【0058】
監査証跡[11]は、ステップ11に係る作業データを表している。PLC10はステップ5を実行してタンク2の内部の原料を冷却するが、監査証跡記録手段40は、このときに使われる工程パラメータを監査証跡として記録する。監査証跡[11]の例では、熱媒の温度である「20℃」、その温度で冷却する時間である「10分」を監査証跡として記録する。
【0059】
監査証跡[12]は、ステップ12に係る作業データを表している。作業員Aが冷却が完了したことを確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ12からステップ7に進行する。このとき、監査証跡記録手段40は、冷却完了の確認をした「作業員A」を記録する。つまり、監査証跡[12]は、「作業員A」が「タンク2」について作業(冷却完了の確認)を行って、「タッチパネル20」にて次のステップ13へ進むための操作を行ったことを表している。
【0060】
監査証跡[13]は、ステップ13に係る作業データを表している。PLC10はステップ13を実行してタンク2の内部の原料を移送するが、監査証跡記録手段40は、移送したこと、その開始時刻及び終了時刻を監査証跡として記録する。
【0061】
監査証跡[14]は、ステップ14に係る作業データを表している。作業員Aが移送が完了したことを確認したという操作をタッチパネル20で行うと、ステップ14が終了する。このとき、監査証跡記録手段40は、移送完了の確認をした「作業員A」、その開始時刻、及び終了時刻を記録する。
【0062】
遅延判定手段50は、監査証跡記録手段40により記録されたステップの所要時間が標準工程の標準所要時間より長ければ遅延が生じていると判定する。例えば、原料投入工程のステップ1の実行が終了したとする。このとき遅延判定手段50は、図4に示した監査証跡[1]の所要時間(8分)が標準工程におけるステップ3の標準所要時間よりも長ければ遅延していると判定する。
【0063】
なお、遅延判定手段50は、上述したように一つのステップの所要時間についてのみ遅延の判定をする場合のみならず、複数のステップの所要時間について遅延を判定してもよい。例えば、ステップ1-3は原料投入工程のステップであるので、これらのステップ1-3についての所要時間を標準工程の標準所要時間と比較して遅延を判定してもよい。また遅延の判定は、各ステップの終了後に行うことが好ましいが、そのタイミングに限定されず、製造工程中の任意のタイミングで行うことができる。
【0064】
遅延回復提案手段60は、遅延判定手段50により遅延が生じていると判定されたとき、標準工程の最後のステップの終了時刻以前に製造工程が終了するように、将来実行するステップの工程パラメータ及び所要時間を補正データから検索してタッチパネル20に出力する。標準工程の最後のステップの終了時刻を標準終了時刻と称する。標準終了時刻は、PLC10により実行された最初のステップの開始時刻に標準工程全体の所要時間を足すことで得ることができる。標準工程全体の所要時間は、標準工程の各ステップの標準所要時間と、ステップ間の標準所要時間の総和である。
【0065】
図5を用いて遅延回復を提案する手順について説明する。図5(a)は、標準工程を示している。原料受入工程(ステップ1~3)の標準所要時間は10分であり、加熱工程(ステップ4~6)の標準所要時間は10分であり、撹拌工程(ステップ7~9)の標準所要時間は5分であり、冷却工程(ステップ10~12)の標準所要時間は10分であり、移送工程(ステップ13~14)の標準所要時間は5分である。
【0066】
図5(b)に示すように、原料受入工程で3分の遅延が生じているとする。この場合、遅延判定手段50は最後の移送工程が標準終了時刻よりも後に終わる、つまり遅延が生じると判定する。
【0067】
図5(c)に示すように、遅延回復提案手段60は、原料受入工程より将来の工程について、標準工程の所要時間よりも3分以上短い補正データを検索する。表1に補正データの一例を示す。N行目の補正データを補正データ[N]と記載する。
【0068】
【表1】
【0069】
例えば、補正データ[2]、補正データ[4]、補正データ[6]の所要時間はそれぞれ標準工程の標準所要時間よりもそれぞれ1分短く、合計で3分短い。遅延回復提案手段60は、このような補正データを検索し、所要時間とともに工程パラメータをタッチパネル20に出力する。図5(c)に示すように、原料受入工程で3分の遅延が生じたが、その後の加熱工程(ステップ5)、撹拌工程(ステップ8)、冷却工程(ステップ11)で所要時間が短縮されており、最後の移送工程の終了は標準終了時刻に間に合うようになっている。
【0070】
作業員は、タッチパネル20に表示された提案を確認し、工程パラメータを変更した上でステップを進めることで遅延を回復することができる。例えば、ステップ4、7、10の工程パラメータの確認の際に、提案された工程パラメータに設定しなおしてステップを進める。
【0071】
また、上述の例では補正データを3つ検索して遅延を回復できる工程パラメータの提案をしたが、このような複数個の補正データを検索する場合に限定されない。一つの補正データを検索して遅延回復してもよい。例えば補正データ[3]の所要時間は2分であり対応する標準所要時間よりも3分短い。よって補正データ[3]の一つを選択して遅延を回復するような提案を行ってもよい。
【0072】
補正データは、任意に定めることができるが、過去に実行された製造工程についての監査証跡に含まれる工程パラメータであって、医薬品等が所定基準を満たして製造されたと承認されたものである工程パラメータを用いることが好ましい。
【0073】
具体的には、品質管理部門などが製造された医薬品等の品質やその製造に用いた工程パラメータが所定基準を満たしていると判断されれば真、そうでなければ偽となる情報を監査証跡(工程パラメータ)に関連づけたものである。
【0074】
例えば、図6のような監査証跡があったとする。図6の監査証跡の各行(以下、監査証跡[A]、監査証跡[B]、監査証跡[C]と表記する)は、図4に示した一連の製造工程に関する監査証跡の工程パラメータを抜き出して簡略的に表記したものである。図の例では、過去に実行した製造工程の3回分について監査証跡が例示されている。そして、各監査証跡については、品質管理部門などが承認したか否かを表す情報が付加されている。
【0075】
遅延回復提案手段60は、このような監査証跡を新たに補正データとして用いる。具体的には、監査証跡のうち承認されたものだけを抽出し、その中から遅延回復できるものを検索する。図6の例では、監査証跡[A]、監査証跡[B]が補正データとなる。
【0076】
このような補正データは、工程パラメータが過去に運転実績のある監査証跡由来であるから、遅延を回復することができ、かつ医薬品等の品質を確保することができる提案を行える。
【0077】
また、補正データで用いる所定基準はデザインスペースの範囲内であることが好ましい。デザインスペースとは、医薬品、飲料又は食品の品質を確保することが立証されている医薬品等の性質と工程パラメータとの組み合わせである。換言すれば、異なる工程パラメータであっても、その工程パラメータで実行したステップにより得られる医薬品等は同等に品質が担保されている。
【0078】
例えば、医薬品等の性質を表わす値であって医薬品等が適正なものであるかを判定するための値(以後、目標値と称する)をYとする。この目標値Yは計測装置6~7によって計測することができるものである。この目標値Yに関するモデル式を作成する。
[数1]
Y=f(X1,X2,・・・,Xn)
【0079】
モデル式は、変数として医薬品等の性質や工程パラメータを持ち、少なくとも変数の一つは工程パラメータの一つである所要時間である。予め医薬品等の製造を実験的に行い、このようなモデル式fを作成しておく。医薬品等の性質はサンプリングなどして各種の計測装置6~7などで得ることができ、工程パラメータは医薬品等を製造する各ステップで用いたものを適用する。実験的に、そのように医薬品等の目標値、性質、工程パラメータのデータを集め、公知の解析手法を用いてモデル式fを作成することができる。
【0080】
図7に2変量のモデル式についてのデザインスペースの一例を示す。同図は所要時間と温度を軸にとり、矩形はデザインスペースの範囲を示している。2変量は、例えば加熱に関する温度と所要時間の二つの工程パラメータである。これらの工程パラメータの組み合わせを変量としてモデル式より目標値Yを計算する。目標値Yが医薬品等の品質として適正なものであれば、その目標値Yに対応する変量をデザインスペースの範囲内とする。デザインスペースとは、適正な品質の医薬品等を製造することができる変量の組み合わせである。換言すれば、デザインスペースの範囲内であれば工程パラメータや性質が異なっていても実質的に変更したとはみなされないといえる。同図の例では、ハッチを施した矩形で示すデザインスペースの範囲内で選択した温度及び所要時間であれば、医薬品等の品質が適正とみなせるとみなせる範囲となる。
【0081】
図示の例では2変量であるが、それ以外の工程パラメータ(例えば攪拌についての回転速度[rpm]や所要時間など)、医薬品等の性質(例えば、濃度、pH、それらの経時的な変化など)を含むような多変量を含んだモデル式でも同様にデザインスペースを定義できる。
【0082】
品質管理部門は、過去に実行した製造工程の監査証跡の工程パラメータ(所要時間、温度)や、当該製造工程で製造された医薬品等の性質がデザインスペースの範囲内であるかを判定し、範囲内であれれば医薬品等が所定基準を満たして製造されたとして監査証跡を承認する。
【0083】
このような補正データは、工程パラメータが医薬品の品質が担保されたデザインスペースに基づいているから、医薬品等の品質を確保することができ、かつ遅延を回復することができる提案を行える。特に医薬品の分野では、従来、工程パラメータは事前に承認を得たものを用いることが一般的であった。しかし、昨今では医薬品の品質を確保できる範囲内であれば工程パラメータや入力変数(原料の性質など)の組み合わせを替えても変更とはみなされない、デザインスペースという考え方が広まっている。本発明では、工程パラメータとして採用した所要時間をデザインスペースの範囲内で適宜設定した補正データとする。これにより、医薬品等の品質を担保しつつ、遅延の回復を図ることができる工程パラメータを提案することができる。
【0084】
以上に述べたように、本実施形態の管理システム1は、設備の監査証跡を記録すると共に、製造工程に遅延が生じているならば、遅延を回復するような工程パラメータを提案することができる。
【0085】
本実施形態の管理システム1は、監査証跡に基づいた補正データを用いて遅延を回復するため工程パラメータを提案する。工程パラメータが過去に運転実績のある監査証跡由来であるから、遅延を回復することができ、かつ医薬品等の品質を確保することができる。
【0086】
本実施形態の管理システム1は、デザインスペースに基づいた補正データを用いて遅延を回復するための工程パラメータを提案する。工程パラメータが医薬品の品質が担保されたデザインスペースの範囲内であるから、遅延を回復することができ、かつ医薬品等の品質を確保することができる提案を行える。
【0087】
なお、上述した各実施形態では、医薬品を製造する設備における管理システムについて説明したが、これに限定されず、食品や飲料を製造する設備においても本発明は適用できる。
【0088】
タッチパネル20は請求項の入出力装置の一例であるがこれに限定されない。PLC10に接続可能であり入出力可能な装置であればよく、またキーボードやマウスなどを入力装置とディスプレイを出力装置のように別体であってもよい。
【0089】
本実施形態の監査証跡記録手段40は、PLC10により実行され、監査証跡をPLC10のメモリ12に記録するものであるが、このような態様に限定されない。例えば、監査証跡をメモリ12に記録するのではなく、一般的なパーソナルコンピュータなどに通信手段を介して送信し、そのパーソナルコンピュータで監査証跡を記録するようにしてもよい。他にも、監査証跡記録手段40は、一般的なパーソナルコンピュパーソナルコンピュータログラムとし、通信手段を用いて計測パーソナルコンピュータを得たり、PLC10から作業データを得て、それらを監査証跡として記録する構成でもよい。同様に、遅延判定手段50、遅延回復提案手段60もPLC10ではなくパーソナルコンピュータなどで実行されるプログラムとし、提案する工程パラメータ等を通信手段を用いてPLC10に送信してタッチパネル20に表示させるようにしてもよい。
【0090】
本発明に係る製造工程の管理方法について説明する。製造工程の管理方法は、医薬品、飲料又は食品を製造する処理装置2~5と、タッチパネル20と、複数のステップからなる製造工程を前記処理装置に実現させるための制御プログラム30であって、作業員によるタッチパネル20を介した操作により前記ステップを次に進めることが可能な制御プログラム30を実行するPLC10とを備えた設備を対象に次の第1工程~第4工程を実行する。
【0091】
第1工程では、標準工程及び補正データを作成する。標準工程については上述したように製造対象の医薬品等に応じて適宜設定し、メモリ12に記憶させておく。
【0092】
補正データについては次のように作成する。まず、開発部門等が予め実験的に医薬品等のデザインスペースの範囲を作成し、所定基準とする。
【0093】
次に、品質保証部門等が過去に実行された製造工程についての監査証跡に含まれる工程パラメータが所定基準(デザインスペースの範囲内)を満たしているかを検証する。なおこの検証は品質保証部門等によらず、PLC10や一般的なコンピューターにて工程パラメータが所定基準を満たしているかを検証させてもよい。工程パラメータが所定基準を満たしていれば医薬品等の品質は担保できてるので、品質保証部門等は当該監査証跡を承認する旨の情報を付加して補正データとし、当該補正データをメモリ12に記憶させる。
【0094】
第2工程では、PLC10(監査証跡記録手段40)が各前記ステップの所要時間、及び前記工程パラメータを含む監査証跡を記録する。
【0095】
第3工程では、PLC10(遅延判定手段50)が第2工程で記録された前記ステップの所要時間が前記標準所要時間よりも長ければ遅延が生じていると判定する。
【0096】
第4工程では、PLC10(遅延回復提案手段60)が第3工程で遅延が生じていると判定されたとき、前記標準工程の最後のステップの終了時刻以前に前記製造工程が終了するように、将来実行するステップの工程パラメータ及び所要時間を前記補正データから検索して前記入出力装置に出力する。
【0097】
このような製造工程の管理方法は、監査証跡に基づいた補正データを用いて遅延を回復するため工程パラメータを提案することができる。工程パラメータが過去に運転実績のある監査証跡由来であるから、遅延を回復することができ、かつ医薬品等の品質を確保することができる。特に工程パラメータが医薬品の品質が担保されたデザインスペースの範囲内であるから、遅延を回復することができ、かつ医薬品等の品質を確保することができる提案を行える。
【符号の説明】
【0098】
1…管理システム、10…PLC(制御装置)、20…タッチパネル、30…制御プログラム、40…監査証跡記録手段、50…遅延判定手段、60…遅延回復提案手段
【要約】
【課題】医薬品等の製造設備において、製造工程の進行に生じた遅延を回復することを支援する製造工程の管理システムを提供する。
【解決手段】制御プログラム30を実行するPLC10と、ステップ及びステップ間の標準所要時間を定めた標準工程と、補正データと、を記憶したメモリ12と、各ステップの所要時間、及び工程パラメータを含む監査証跡を記録する監査証跡記録手段40と、監査証跡記録手段により記録されたステップの所要時間が標準所要時間よりも長ければ遅延が生じていると判定する遅延判定手段50と、遅延判定手段50により遅延が生じていると判定されたとき、標準工程の最後のステップの終了時刻以前に製造工程が終了するように、将来実行するステップの工程パラメータ及び所要時間を補正データから検索してタッチパネル20に出力する遅延回復提案手段60と、を備える。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7