(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ストラドルドビークル
(51)【国際特許分類】
B62M 23/02 20100101AFI20240509BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20240509BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20240509BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240509BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20240509BHJP
F16D 43/10 20060101ALI20240509BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B62M23/02 110
B60K6/485
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W20/00 900
F16D43/10
B60W10/02 900
(21)【出願番号】P 2023500755
(86)(22)【出願日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2022004827
(87)【国際公開番号】W WO2022176694
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2021024216
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】村山 拓仁
(72)【発明者】
【氏名】保科 太治
(72)【発明者】
【氏名】神馬 孝俊
(72)【発明者】
【氏名】大澤 健太
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 龍太郎
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-22148(JP,A)
【文献】特公昭46-17603(JP,B1)
【文献】特開2007-270652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 23/02
B60K 6/485
B60K 6/547
B60W 10/08
B60W 10/02
B60W 20/00
F16D 43/10
F16H 3/089
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置されたクランク軸を含み、前記クランク軸を介して動力を出力するエンジンと、
前記クランク軸に接続された電動発電機と、
前記エンジンの動力が入力されることで回転し、複数の駆動ギアが設けられた入力軸と、前記複数の駆動ギアと噛み合う複数の被駆動ギアが設けられ、前記入力軸の回転が伝達されることで回転する出力軸とを含み、複数の変速段のなかから選択された1つの変速段に係る前記駆動ギアと前記被駆動ギアの組み合わせに対応するギア比により、前記入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達する多段変速機と
を備えた鞍乗型車両であって、
前記鞍乗型車両は、さらに、
前記クランク軸と前記入力軸の間に設けられ、前記クランク軸の回転に伴って発生する遠心力によって移動するウェイトを利用して、前記クランク軸から前記入力軸への動力伝達を許容/遮断するように構成された、入力軸上の遠心クラッチと、
前記入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに
よって前記エンジンの動力が前記クランク軸から前記入力軸に伝達されて前記入力軸が回転しはじめることによる前記入力軸の回転速度の増加を促進する
ように前記クランク軸の回転負荷の低減、又は前記クランク軸への正転トルクの印加を行う加速促進動作を
、前記電動発電機に実行
させる制御装置とを備える、鞍乗型車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、前記電動発電機が、開始タイミングから終了タイミングまで、前記加速促進動作を実行するように、前記電動発電機を制御し、
前記開始タイミングは、前記クランク軸の回転速度が前記クラッチイン時の回転速度より低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つであり、
前記終了タイミングは、前記クランク軸の回転速度が前記開始タイミング時の回転速度よりも高く、且つ前記クラッチイン時の回転速度より低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つである、
鞍乗型車両。
【請求項3】
請求項2に記載の鞍乗型車両であって、
前記終了タイミングは、前記クランク軸の回転速度が前記クラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度よりも低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つである、
鞍乗型車両。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記加速促進動作は、
前記電動発電機による前記クランク軸の回転負荷の低減、又は
前記電動発電機による前記クランク軸への正転トルクの印加
である、鞍乗型車両。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記制御装置は、
前記鞍乗型車両の加速時における前記多段変速機による前記変速段の切替に応じて、前記クランク軸の回転速度を減少させるように
、前記電動発電機を制御する、鞍乗型車両。
【請求項6】
請求項5に記載の鞍乗型車両であって、
前記入力軸上の遠心クラッチは、さらに、
前記遠心力によって前記ウェイトが移動することで発生する推力の他に、前記遠心力を利用して別途追加の推力を発生させて、これらの推力を足し合わせた合計推力により、前記クランク軸から前記入力軸への動力伝達を許容し、前記変速段の切替に伴って前記クランク軸の回転速度が減少するときには、前記遠心力の低下に伴って前記合計推力が低下し、これにより、前記クランク軸から前記入力軸に伝達される動力を減少させる伝達動力変更機構を含む、鞍乗型車両。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記入力軸上の遠心クラッチは、操作可能に構成された遠心クラッチであり、
前記操作可能に構成された遠心クラッチは、前記クランク軸から前記入力軸への動力伝達を遮断する操作が行われた場合には、前記遠心力に関わらず、前記クランク軸から前記入力軸への動力伝達を強制的に遮断するように構成されている、鞍乗型車両。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の鞍乗型車両であって、
前記入力軸上の遠心クラッチは、
前記クランク軸から前記入力軸への動力伝達の許容時及び遮断時の両方において前記クランク軸とともに回転するように構成された、少なくとも1つの第1摩擦プレートと、
前記クランク軸から前記入力軸への動力伝達の許容時及び遮断時の両方において前記入力軸とともに回転するように構成された、少なくとも1つの第2摩擦プレートと
を備え、
前記少なくとも1つの第1摩擦プレートと、前記少なくとも1つの第2摩擦プレートとの係合状態を変更することにより、前記クランク軸から前記入力軸への動力伝達を許容/遮断するように構成されている、鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両に関し、詳しくは、多段変速機の入力軸に遠心クラッチが設けられた鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
多段変速機の入力軸に遠心クラッチ(例えば、操作可能に構成された遠心クラッチ)が設けられた鞍乗型車両が知られている。このような鞍乗型車両は、例えば、特開2009-30791号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、エンジン及び入力軸上の遠心クラッチの大型化を抑制又は回避しながら、入力軸上の遠心クラッチを繋げるのに必要な遠心力を効率よく得ることができる鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述の目的を達成するために検討を行い、次の知見を得た。多段変速機の入力軸は、エンジンのクランク軸よりも回転速度が低下する。そのため、遠心力による推力(遠心クラッチを繋げるための力)を増大させるには、多段変速機の入力軸は、不利である。特に、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインのときには、入力軸上の遠心クラッチを繋げるのに必要な遠心力を効率よく得にくい。入力軸上の遠心クラッチにおいて遠心力による推力を増大させるために、例えば、入力軸上の遠心クラッチにおけるウェイトを重くすることや、ウェイトを入力軸の軸方向に見て入力軸から離れた位置に配置することが考えられる。しかしながら、このようにすると、入力軸上の遠心クラッチが大型化する。また、エンジンの回転マス(フライホイール)を重くすることも考えられる。しかし、エンジンの大型化という別の問題が生じてしまう。本発明は、上述の知見に基づいて完成した発明である。
【0006】
本発明の一実施形態に係る鞍乗型車両は、
回転可能に配置されたクランク軸を含み、クランク軸を介して動力を出力するエンジンと、
クランク軸に接続された電動発電機と、
エンジンの動力が入力されることで回転し、複数の駆動ギアが設けられた入力軸と、複数の駆動ギアと噛み合う複数の被駆動ギアが設けられ、入力軸の回転が伝達されることで回転する出力軸とを含み、複数の変速段のなかから選択された1つの変速段に係る駆動ギアと被駆動ギアの組み合わせに対応するギア比により、入力軸の回転を減速して出力軸に伝達する多段変速機と、
クランク軸と入力軸の間に設けられ、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力によって移動するウェイトを利用して、クランク軸から入力軸への動力伝達を許容/遮断するように構成された、入力軸上の遠心クラッチと、
電動発電機が、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに応じた入力軸の回転速度の増加を促進するための加速促進動作を実行するように、電動発電機を制御する制御装置とを備える。
【0007】
上記鞍乗型車両によれば、エンジン及び入力軸上の遠心クラッチの大型化を抑制又は回避しながら、入力軸上の遠心クラッチを繋げるのに必要な遠心力を効率よく得ることができる。その理由は、以下のとおりである。
【0008】
入力軸上の遠心クラッチのクラッチインのときに、入力軸に対する加速促進動作が行われる。加速促進動作は、制御装置がクランク軸に接続された電動発電機を制御することで行われる。クランク軸の回転は、入力軸上の遠心クラッチを介して入力軸に伝達される。加速促進動作は、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに応じた入力軸の回転速度の増加を促進するために行われる。つまり、加速促進動作は、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに応じた入力軸の回転速度の増加のために、クランク軸の回転速度を増加させる。そのため、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに起因するクランク軸の回転速度の減少が抑制される。つまり、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに伴うエンジン回転数の落ち込みが抑制される。入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに伴うエンジン回転数の落ち込みが抑制されるので、入力軸上の遠心クラッチを繋げるのに必要な遠心力が効率よく得られる。ウェイトを重くすることや、ウェイトを入力軸の軸方向に見て入力軸から離れた位置に配置すること、さらには、エンジンの回転マス(フライホイール)を重くすることをしなくても、入力軸上の遠心クラッチを繋げるのに必要な遠心力が効率よく得られる。したがって、上記鞍乗型車両によれば、エンジン及び入力軸上の遠心クラッチの大型化を抑制又は回避しながら、入力軸上の遠心クラッチを繋げるのに必要な遠心力が効率よく得られる。
【0009】
鞍乗型車両(straddled vehicle)とは、運転者がサドルに跨って着座する形式のビークルをいう。鞍乗型車両としては、例えば、スクータ型、モペット型、オフロード型、オンロード型の自動二輪車が挙げられる。カーブに対して内側にリーンするようにリーン姿勢で旋回可能に構成されたリーン車両は、鞍乗型車両の一例である。鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されず、例えば、自動三輪車、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよい。自動三輪車は、2つの前輪と1つの後輪とを備えていてもよく、1つの前輪と2つの後輪とを備えていてもよい。鞍乗型車両の駆動輪は、後輪であってもよく、前輪であってもよい。鞍乗型車両は、例えば、バーハンドルを備えている。鞍乗型車両は、走行時及び旋回時において、乗員が体重移動によって車体の姿勢制御を行うように構成されている。従って、鞍乗型車両は、乗員の体重移動によって効率的に姿勢制御が行われるように小型化及び軽量化されていることが好ましい。上記鞍乗型車両は、エンジン及び入力軸上の遠心クラッチの大型化を抑制又は回避しつつ、入力軸上の遠心クラッチを繋げるために必要な遠心力を効率よく得ることができる。従って、上記鞍乗型車両は、上述のように、大型化を抑制できるので、鞍乗型車両にとって重要な軽快性及び簡便性を満足しつつ、入力軸上の遠心クラッチを繋げるために必要な遠心力を効率よく得ることができる。
【0010】
エンジンは、鞍乗型車両の動力源である。エンジンは、例えば、レシプロエンジンである。エンジンは、例えば、単気筒エンジンである。エンジンは、例えば、多気筒エンジンである。多気筒エンジンは、例えば、直列エンジンである。多気筒エンジンは、例えば、V型エンジンである。エンジンは、例えば、ガソリンエンジンである。エンジンは、例えば、ディーゼルエンジンである。エンジンは、例えば、4ストロークエンジンである。4ストロークエンジンは、4ストロークの間に、高負荷領域と低負荷領域とを有していてもよい。ここで、負荷とは、例えば、クランク軸が回転するときの負荷をいう。高負荷領域と低負荷領域とを有する4ストロークエンジンとしては、例えば、単気筒エンジン、2気筒エンジン、不等間隔燃焼型3気筒エンジン、又は、不等間隔燃焼型4気筒エンジンが挙げられる。高負荷領域と低負荷領域とを有する4ストロークエンジンは、例えば、1サイクル720度の間に180度以上の連続不燃焼区間を含む。本開示の一実施形態において、4ストロークエンジンは、例えば、単気筒エンジン又は2気筒エンジンである。2気筒エンジンは、2つの気筒を有する不等間隔燃焼型エンジンであってもよい。高負荷領域と低負荷領域とを有する4ストロークエンジンでは、低い回転速度における回転の変動が、他のタイプのエンジンと比べ大きい。高負荷領域とは、エンジンの1燃焼サイクルのうち、負荷トルクが1燃焼サイクルにおける負荷トルクの平均値よりも高い領域をいう。低負荷領域とは、1燃焼サイクルにおける高負荷領域以外の領域をいう。クランク軸の回転角度を基準として見ると、エンジンでの低負荷領域は、例えば、高負荷領域より広い。圧縮行程は、高負荷領域と重なりを有する。
【0011】
電動発電機は、例えば、クランク軸の回転に伴って発電するように構成された回転電機である。電動発電機は、例えば、クランク軸を回転させる動力を出力するように構成された回転電機である。電動発電機によるクランク軸の回転方向は、例えば、クランク軸の正回転方向である。電動発電機によるクランク軸の回転方向は、例えば、クランク軸の逆回転方向である。クランク軸の正回転方向は、例えば、エンジンが動力を出力するときのクランク軸の回転方向と同じ方向である。クランク軸の逆回転方向は、例えば、エンジンが動力を出力するときのクランク軸の回転方向と逆方向である。電動発電機は、例えば、エンジンの始動時に、クランク軸を回転させる動力を出力するように構成された回転電機である。即ち、鞍乗型車両は、電動発電機によりエンジンを始動するように構成されていてもよく、電動発電機とは別に、エンジンを始動するためのスタータモータを有していてもよい。電動発電機は、アウターロータ型でもよく、また、インナーロータ型でもよい。電動発電機は、ラジアルギャップ型でもよく、また、アキシャルギャップ型でもよい。電動発電機がクランク軸に接続される態様には、例えば、電動発電機がクランク軸と固定速度比で回転するようにクランク軸に接続される態様が含まれる。電動発電機がクランク軸と固定速度比で回転するようにクランク軸に接続されるとは、例えば、電動発電機とクランク軸との間にクラッチ等の動力切断手段又は変速手段を有しないことである。
【0012】
入力軸上の遠心クラッチは、例えば、鞍乗型車両が発進するときに、クラッチインする。入力軸上の遠心クラッチは、例えば、クランク軸の回転速度が増加しているときに、クラッチインする。クラッチインとは、例えば、入力軸上の遠心クラッチがクランク軸から入力軸への動力伝達を許容し始めることである。別の表現をすれば、クラッチインとは、エンジンの動力がクランク軸から入力軸に伝達されて、入力軸が回転しはじめることである。
【0013】
入力軸上の遠心クラッチは、例えば、入力軸の軸方向に見て、入力軸に重なるように配置される。入力軸上の遠心クラッチは、例えば、入力軸と同軸上に配置される。
【0014】
入力軸上の遠心クラッチは、ウェイトを含む。入力軸上の遠心クラッチは、例えば、少なくとも1つのウェイトを含む。入力軸上の遠心クラッチは、例えば、複数のウェイトを含む。ウェイトは、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力によって移動する。ウェイトは、例えば、入力軸の軸方向に見たときに、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力により、入力軸から離れる方向に移動する。ウェイトは、例えば、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力によって移動するときに、クラッチを繋げるための推力を発生させる。クラッチが繋がることにより、クランク軸から入力軸への動力伝達が許容される。推力は、例えば、入力軸の軸方向に作用する。
【0015】
入力軸上の遠心クラッチは、例えば、少なくとも1つの第1摩擦プレートと、少なくとも1つの第2摩擦プレートとを含む。少なくとも1つの第1摩擦プレートは、クランク軸から入力軸への動力伝達の許容時及び遮断時の両方においてクランク軸とともに回転するように構成されている。少なくとも1つの第2摩擦プレートは、クランク軸から入力軸への動力伝達の許容時及び遮断時の両方において入力軸とともに回転するように構成されている。動力伝達の遮断時には、少なくとも1つの第1摩擦プレートがクランク軸とともに回転し、少なくとも1つの第2摩擦プレートが入力軸とともに回転する。このような入力軸上の遠心クラッチは、少なくとも1つの第1摩擦プレートと、少なくとも1つの第2摩擦プレートとの係合状態を変更することにより、クランク軸から入力軸への動力伝達を許容/遮断するように構成される。
【0016】
このような入力軸上の遠心クラッチは、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力によって移動するウェイトを利用して、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートとの係合状態を変更することにより、クランク軸から入力軸への動力伝達を許容/遮断する。第1摩擦プレートと第2摩擦プレートは、例えば、入力軸の軸方向に並んで配置される。この場合、ウェイトが、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力によって移動することで、入力軸の軸方向に作用する推力を発生させることにより、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートのうち一方が他方に対して入力軸の軸方向に押し付けられる。つまり、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートが入力軸の軸方向に圧接される。これにより、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートが係合する。その結果、クランク軸から入力軸への動力伝達が許容される。つまり、このような入力軸上の遠心クラッチは、遠心力によるウェイトの移動に伴って発生する推力の大きさを調整することにより、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートの係合状態を変更することができる。要するに、このような入力軸上の遠心クラッチは、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力の大きさを調整することにより、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートの係合状態を変更することができる。別の表現をすれば、このような入力軸上の遠心クラッチは、クランク軸の回転速度を調整することにより、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートの係合状態を変更することができる。
【0017】
少なくとも1つの第1摩擦プレートがクランク軸とともに回転する態様には、例えば、少なくとも1つの第1摩擦プレートが、クランク軸の回転が伝達される部材とともに回転する態様が含まれる。少なくとも1つの第2摩擦プレートが入力軸とともに回転する態様には、例えば、少なくとも1つの第2摩擦プレートが、入力軸と一体的に回転可能な部材とともに回転する態様が含まれる。少なくとも1つの第1摩擦プレートは、例えば、複数の第1摩擦プレートによって構成される。少なくとも1つの第2摩擦プレートは、例えば、複数の第2摩擦プレートによって構成される。入力軸上の遠心クラッチが複数の第1摩擦プレートと複数の第2摩擦プレートを含む場合、複数の第1摩擦プレートを構成する1つの第1摩擦プレートと複数の第2摩擦プレートを構成する1つの第2摩擦プレートとが入力軸の軸方向に交互に並ぶように、複数の第1摩擦プレートと複数の第2摩擦プレートが配置される。
【0018】
入力軸上の遠心クラッチは、例えば、少なくとも1つの第1摩擦プレートと少なくとも1つの第2摩擦プレートのそれぞれの摩擦面が潤滑油で潤滑された湿式クラッチである。
【0019】
入力軸上の遠心クラッチは、例えば、操作可能に構成された遠心クラッチである。操作可能に構成された遠心クラッチは、例えば、クランク軸から入力軸への動力伝達を遮断する操作が行われた場合には、クランク軸の回転に伴って発生する遠心力に関わらず、クランク軸から入力軸への動力伝達を強制的に遮断するように構成される。
【0020】
このような態様によれば、遠心クラッチを備えた鞍乗型車両であっても、乗員が自らの操作でクランク軸から入力軸への動力伝達を強制的に遮断することができる。
【0021】
クランク軸から入力軸への動力伝達を遮断する操作は、例えば、乗員によるクラッチレバーの操作である。このような操作は、例えば、多段変速機において選択されている変速段を切り替えるために行われる。クランク軸から入力軸への動力伝達を遮断する操作は、乗員によるクラッチレバーの操作力が伝達されることにより実行されてもよく、クラッチアクチュエータによって実行されてもよい。当該操作がクラッチアクチュエータにより実行される場合、クラッチアクチュエータは、乗員によるクラッチレバーの操作を契機として駆動されてもよい。クラッチアクチュエータは、乗員の操作によらずに、制御装置からの指令を契機として駆動されてもよい。
【0022】
多段変速機は、例えば、複数の変速段のなかから1つの変速段を選択するように構成されている。多段変速機は、例えば、変速段を切替可能に構成されている。多段変速機においては、例えば、鞍乗型車両の乗員による操作、又は、アクチュエータにより、変速段が切り替えられる。アクチュエータによる変速段の切替は、例えば、鞍乗型車両の乗員による操作、又は、制御装置からの指令を契機として行われる。
【0023】
多段変速機において、複数の駆動ギアと複数の被駆動ギアが噛み合う態様には、例えば、複数の駆動ギアのうち少なくとも1つの駆動ギアと、複数の被駆動ギアのうち少なくとも1つの被駆動ギアとが噛み合う態様が含まれる。複数の駆動ギアと複数の被駆動ギアが噛み合う態様には、複数の駆動ギアのそれぞれが複数の被駆動ギアのうち対応する被駆動ギアと常時噛み合う態様が含まれる。つまり、多段変速機は、入力軸に設けられた複数の駆動ギアと、出力軸に設けられた複数の被駆動ギアとが常時噛み合う、常時噛み合い式の多段変速機を含む。
【0024】
多段変速機は、例えば、ドグクラッチを含む。ドグクラッチは、例えば、第1ドグと第2ドグを有する。第1ドグと第2ドグは、例えば、複数の変速段のそれぞれに対応して設けられる。ドグクラッチは、第1ドグと第2ドグが嵌合状態になることにより、入力軸と出力軸との間での動力伝達を許容する。より具体的には、ドグクラッチは、選択された1つの変速段に対応する第1ドグと第2ドグが嵌合状態になることにより、当該選択された1つの変速段での動力伝達を許容する。ドグクラッチは、第1ドグと第2ドグの嵌合状態が解除されることにより、入力軸と出力軸との間での動力伝達を遮断する。第1ドグは、例えば、駆動ギア又は被駆動ギアに設けられる。第2ドグは、例えば、第1ドグと嵌合できるように、駆動ギア又は被駆動ギアに設けられる。第2ドグは、例えば、第1ドグと嵌合できるように、駆動ギア及び被駆動ギアとは別の部材であるスリーブに設けられる。第1ドグと第2ドグの嵌合状態は、例えば、第1ドグと第2ドグが周方向に接触している状態である。第1ドグと第2ドグの嵌合状態が解除されるとは、例えば、第1ドグと第2ドグが軸方向に離れることにより、第1ドグと第2ドグが周方向に接触しないことである。周方向は、例えば、第1ドグが設けられた駆動ギア又は被駆動ギアの回転方向である。軸方向は、例えば、第1ドグが設けられた駆動ギア又は被駆動ギアの軸方向、つまり、駆動ギアが設けられた入力軸の軸方向又は被駆動ギアが設けられた出力軸の軸方向である。
【0025】
多段変速機は、例えば、変速段設定機構を含む。変速段設定機構は、例えば、シフトドラムとシフトフォークを有する。変速段設定機構は、例えば、シフトドラムを回転させることにより、シフトフォークを軸方向に移動させる。これにより、入力軸と出力軸の少なくとも一方に設けられたスリーブが軸方向に移動する。このとき、切替元の変速段に対応する第1ドグと第2ドグの嵌合状態が解除され、切替対象の変速段に対応する第1ドグと第2ドグが嵌合状態になる。軸方向は、例えば、入力軸と出力軸のうちスリーブが設けられた軸の軸方向である。切替元の変速段は、例えば、現在選択されている変速段である。切替対象の変速段は、例えば、これから選択しようとしている変速段である。
【0026】
多段変速機は、例えば、変速駆動装置を含む。変速駆動装置は、例えば、シフトアクチュエータを有する。シフトアクチュエータは、例えば、モータである。シフトアクチュエータは、例えば、シフトドラムを回転させる。これにより、シフトフォークが軸方向に移動する。その結果、変速段が切り替わる。つまり、シフトアクチュエータは、変速段設定機構を駆動する。要するに、多段変速機は、シフトアクチュエータを備えた電動多段変速機であってもよい。
【0027】
多段変速機は、例えば、自動多段変速機である。自動多段変速機は、例えば、クラッチ動作及びシフトチェンジ動作に関する制御が自動化されるように構成される。自動多段変速機は、例えば、制御装置が、後述する変速実行条件が成立したときに、クラッチ動作及びシフトチェンジ動作に関する制御を実行するように構成される。自動多段変速機は、例えば、制御装置が、シフトチェンジのタイミング決定を行うと共に、決定されたタイミングで、クラッチ動作及びシフトチェンジ動作に関する制御を実行するように構成される。自動多段変速機は、例えば、乗員によってシフトチェンジのタイミングに関する指令が入力される変速入力装置を備える。この場合、シフトチェンジのタイミングは、乗員によって決定される。自動多段変速機は、例えば、制御装置が、乗員によって変速入力装置を介して入力されるシフトチェンジのタイミングで、クラッチ動作及びシフトチェンジ動作に関する制御を実行するように構成される。変速入力装置としては、例えば、ボタン、レバー、ペダル等の従来公知の形式の入力装置が採用される。変速入力装置は、例えば、シフトアップ又はシフトダウンのいずれを行うかの指示も入力されるように構成される。クラッチ動作に関する制御は、例えば、電動発電機に対する制御である。シフトチェンジ動作に関する制御は、例えば、シフトアクチュエータを有する変速駆動装置に対する制御である。
【0028】
変速実行条件は、例えば、シフトチェンジのタイミングを決定するための条件である。変速実行条件には、例えば、現在選択されている変速段からシフトアップ又はシフトダウンのいずれを行うかというシフトチェンジに関する情報も含まれる。変速実行条件が成立したときに、クラッチ動作及びシフトチェンジ動作に関する制御が実行される。制御装置によってシフトチェンジのタイミングが決定される場合、制御装置は、鞍乗型車両の走行に関する少なくとも一つのパラメータに基づいて、変速実行条件が成立したか否かを判断する。当該パラメータとしては、例えば、車速、エンジン回転速度、現在の変速段等が挙げられる。乗員による変速入力装置の操作に応じてシフトチェンジのタイミングが決定される場合、制御装置は、変速入力装置を介して入力されるシフトチェンジの指示に基づいて、変速実行条件が成立したか否かを判断する。
【0029】
制御装置は、例えば、ECU(Electric Control Unit)である。ECUは、例えば、IC(Integrated Circuit)、電子部品、回路基板等の組み合わせによって実現される。
制御装置が電動発電機を制御する態様には、例えば、電動発電機を制御するためのドライバに制御装置が指令を出力し、ドライバが制御装置からの指令に基づいて電動発電機を制御する態様が含まれる。
【0030】
加速促進動作は、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに応じた入力軸の回転速度の増加を促進するために電動発電機によって実行される。加速促進動作は、例えば、入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに伴うクランク軸の回転速度の減少を抑制することにより、実行される。入力軸上の遠心クラッチのクラッチインに伴うクランク軸の回転速度の減少を抑制するためには、例えば、電動発電機によるクランク軸の回転負荷の低減、又は電動発電機によるクランク軸への正転トルクの印加が行われる。
【0031】
加速促進動作は、例えば、電動発電機によるクランク軸の回転負荷の低減、又は電動発電機によるクランク軸への正転トルクの印加である。電動発電機によるクランク軸の回転負荷の低減は、例えば、電動発電機がクランク軸の回転に伴う発電を中止するか又は発電量を低下させることで実現される。電動発電機によるクランク軸への正転トルクの印加は、例えば、電動発電機がクランク軸を正回転方向に回転させることで実現される。正転トルクは、クランク軸の正回転方向に加えられるトルクである。正転トルクは、クランク軸の回転を加速させるトルクである。クランク軸の正回転方向は、エンジンが動力を出力するときにクランク軸を回転させる方向である。
【0032】
制御装置は、例えば、電動発電機が、開始タイミングから終了タイミングまで、加速促進動作を実行するように、電動発電機を制御する。開始タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つである。終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度が開始タイミング時の回転速度よりも高く、且つクラッチイン時の回転速度より低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つである。終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度よりも低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つであってもよい。なお、クラッチストールとは、例えば、遠心クラッチを構成する複数の部材のうち、クランク軸とともに回転する部材の回転速度と、入力軸とともに回転する部材の回転速度とが一致することである。
【0033】
開始タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より低い時である。開始タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度と同じ時である。開始タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高い時である。何れの場合においても、終了タイミングとしては、以下のものが採用され得る。
終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度が開始タイミング時の回転速度よりも高く、且つクラッチイン時の回転速度より低い時である。終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度が開始タイミング時の回転速度よりも高く、且つクラッチイン時の回転速度と同じ時である。終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度が開始タイミング時の回転速度よりも高く、且つクラッチイン時の回転速度より高い時である。終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度より低い時である。終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度と同じ時である。終了タイミングは、例えば、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度より高い時である。
【0034】
開始タイミングは、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より低い時であることが好ましい。
終了タイミングは、クランク軸の回転速度が開始タイミング時の回転速度よりも高く、且つクラッチイン時の回転速度より高い時であることが好ましい。終了タイミングは、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度と同じ時であることが好ましい。終了タイミングは、クランク軸の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度よりも高い時であることが好ましい。
【0035】
制御装置は、例えば、鞍乗型車両の加速時における多段変速機による変速段の切替に応じて、クランク軸の回転速度を減少させるように、電動発電機を制御する。
【0036】
このような態様によれば、鞍乗型車両の加速時における多段変速機による変速段の切替をスムーズに行うことができる。
【0037】
上記態様において、入力軸上の遠心クラッチは、さらに、伝達動力変更機構を含む。伝達動力変更機構は、遠心力によってウェイトが移動することで発生する推力の他に、遠心力を利用して別途追加の推力を発生させて、これらの推力を足し合わせた合計推力により、クランク軸から入力軸への動力伝達を許容し、変速段の切替に伴ってクランク軸の回転速度が減少するときには、遠心力の低下に伴って合計推力が低下し、これにより、クランク軸から入力軸に伝達される動力を減少させる。
【0038】
このような態様によれば、変速段の切替に伴ってクランク軸の回転速度が減少するときに、クランク軸から入力軸に伝達される動力が減少する。そのため、変速段の切替に伴って発生するショック、すなわち、変速ショックが低減される。
【0039】
遠心力を利用して別途追加の推力を発生させる機構は、例えば、ウェイトとは異なる部材を含む。当該部材は、遠心力によって移動することで、別途追加の推力を発生させる。当該部材は、例えば、斜面を有するカム機構を構成する。
【0040】
この発明の上述の目的及びその他の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面に関連して行われる以下のこの発明の実施形態の詳細な説明から一層明らかとなろう。本明細書にて使用される場合、用語「及び/又は(and/or)」は1つの、又は複数の関連した列挙されたアイテム(items)のあらゆる又は全ての組み合わせを含む。本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」、「含む、備える(comprising)」又は「有する(having)」及びその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分及び/又はそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、及び/又はそれらのグループのうちの1つ又は複数を含むことができる。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術及び本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されることはない。本発明の説明においては、多数の技術及び工程が開示されていると理解される。これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、又は、場合によっては全てと共に使用することもできる。従って、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせの全てを繰り返すことを控える。それにもかかわらず、明細書及び特許請求の範囲は、そのような組み合わせが全て本発明及び特許請求の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面又は説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、エンジン及び入力軸上の遠心クラッチの大型化を抑制又は回避しながら、入力軸上の遠心クラッチを繋げるのに必要な遠心力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明の実施形態に係る鞍乗型車両の構成を示す図面である。
【
図2】本発明の実施形態の変形例1に係る鞍乗型車両の構成を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る鞍乗型車両の詳細について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、あくまでも一例である。本発明は、以下に説明する実施形態によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0044】
図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る鞍乗型車両10について説明する。なお、以下の説明において、鞍乗型車両10における各種方向は、鞍乗型車両10のシート(図示せず)に着座した乗員から見た方向である。
【0045】
鞍乗型車両10は、車体12と、複数の車輪14と、エンジン20と、電動発電機30と、多段変速機40と、入力軸上の遠心クラッチとしての遠心クラッチ50と、制御装置60とを備える。以下、これらについて説明する。
【0046】
車体12は、複数の車輪14と、エンジン20と、電動発電機30と、多段変速機40と、遠心クラッチ50と、制御装置60とを支持する。複数の車輪14は、操舵輪としての前輪14Fと、駆動輪としての後輪14Rとを含む。操舵輪としての前輪14Fは、鞍乗型車両10の乗員によるバーハンドルへの操作に応じて操舵される。駆動輪としての後輪14Rには、エンジン20の動力が遠心クラッチ50及び多段変速機40を介して伝達される。これにより、後輪14Rが回転する。その結果、鞍乗型車両10が走行する。
【0047】
エンジン20は、クランク軸22を含む。クランク軸22は、鞍乗型車両10の左右方向に延びている。クランク軸22は、その中心軸線回りに回転可能に配置されている。エンジン20は、クランク軸22を介して動力を出力する。エンジン20の動力は、混合気の燃焼によって発生する。
【0048】
電動発電機30は、クランク軸22に接続されている。電動発電機30は、クランク軸22の回転に伴って発電するように構成された回転電機である。電動発電機30は、クランク軸22を回転させる動力を出力するように構成された回転電機である。電動発電機30は、エンジン20の始動時に、クランク軸22を回転させる動力を出力するように構成されていてもよい。電動発電機30は、ロータ32と、ステータ34とを含む。
図1に示す例では、ロータ32は、アウターロータである。ロータ32は、クランク軸22に接続されている。ロータ32は、クランク軸22に固定されている。ロータ32が回転すると、クランク軸22が回転する。ロータ32が回転すると、ロータ32の回転がクランク軸22に直接伝達される。
【0049】
多段変速機40は、入力軸42と、出力軸44とを含む。入力軸42は、エンジン20の動力が入力されることで回転する。入力軸42には、複数の駆動ギア421が設けられている。入力軸42は、鞍乗型車両10の左右方向に延びている。入力軸42は、その中心軸線回りに回転可能に配置されている。入力軸42は、クランク軸22と平行に配置されている。出力軸44には、複数の被駆動ギア441が設けられている。複数の被駆動ギア441は、複数の駆動ギア421と噛み合う。
図1に示す例では、複数の被駆動ギア441が複数の駆動ギア421と常時噛み合う。出力軸44は、入力軸42の回転が伝達されることで回転する。出力軸44は、入力軸42と平行に配置されている。多段変速機40は、複数の変速段のなかから1つの変速段を選択するように構成されている。多段変速機40は、複数の変速段のなかから選択された1つの変速段に係る駆動ギア421と被駆動ギア441の組み合わせに対応するギア比により、入力軸42の回転を減速して出力軸44に伝達する。多段変速機40は、変速段を切替可能に構成されている。
【0050】
遠心クラッチ50は、クランク軸22と入力軸42の間に設けられている。遠心クラッチ50は、複数のウェイト52を含む。
図1に示す例では、遠心クラッチ50は、ハウジング53と、複数の第1摩擦プレート54と、複数の第2摩擦プレート55と、第1部材56と、第2部材57と、オフばね58と、クラッチばね59とをさらに含む。
複数のウェイト52は、それぞれ、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力によって移動する。複数のウェイト52のそれぞれが移動する方向は、入力軸42の軸方向に見て、入力軸42から離れる方向である。複数のウェイト52は、ハウジング53に収容されている。複数のウェイト52は、第1部材56と第2部材57の間に配置されている。複数のウェイト52は、第1部材56と第2部材57のそれぞれに接している。
ハウジング53は、クランク軸22の回転が伝達されることで回転する。ハウジング53に設けられたギア531がクランク軸22に設けられたギア221と噛み合う。これにより、クランク軸22の回転がハウジング53に伝達される。
複数の第1摩擦プレート54は、ハウジング53とともに回転する。複数の第1摩擦プレート54は、入力軸42の軸方向に並んで配置されている。複数の第2摩擦プレート55は、入力軸42とともに回転する。複数の第2摩擦プレート55は、入力軸42の軸方向に並んで配置されている。複数の第1摩擦プレート54を構成する1つの第1摩擦プレート54と複数の第2摩擦プレート55を構成する1つの第2摩擦プレート55とが入力軸42の軸方向に交互に並ぶように、複数の第1摩擦プレート54と複数の第2摩擦プレート55が配置されている。
入力軸42の軸方向で隣り合う第1摩擦プレート54と第2摩擦プレート55のそれぞれの摩擦面が潤滑油で潤滑されている。つまり、遠心クラッチ50は、湿式クラッチである。
第1部材56は、ハウジング53とともに回転する。第1部材56は、ハウジング53に対して、入力軸42の軸方向に移動可能である。第1部材56は、オフばね58の付勢力により、複数の第1摩擦プレート54及び複数の第2摩擦プレート55から離れた位置にある。第1部材56は、オフばね58の付勢力により、複数のウェイト52に押し付けられている。
第2部材57は、ハウジング53とともに回転する。第2部材57は、ハウジング53に対して、入力軸42の軸方向に移動可能である。第2部材57は、クラッチばね59の付勢力により、複数のウェイト52に押し付けられている。
【0051】
遠心クラッチ50は、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力によって移動する複数のウェイト52を利用して、クランク軸22から入力軸42への動力伝達を許容/遮断するように構成されている。遠心クラッチ50は、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力によって移動する複数のウェイト52を利用して、第1摩擦プレート54と第2摩擦プレート55との係合状態を変更する。これにより、遠心クラッチ50は、クランク軸22から入力軸42への動力伝達を許容/遮断するように構成されている。
【0052】
複数のウェイト52は、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力によって移動するときに、遠心クラッチ50を繋げるための推力を発生させる。推力は、入力軸42の軸方向に作用する。これにより、第1摩擦プレート54と第2摩擦プレート55のうち一方が他方に対して入力軸42の軸方向に押し付けられる。その結果、クランク軸22から入力軸42への動力伝達が許容される。
【0053】
複数のウェイト52は、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力により、入力軸42の軸方向に見たときに入力軸42から離れる方向に移動する。このとき、複数のウェイト52は、第1部材56をオフばね58の付勢力に抗して複数の第1摩擦プレート54及び複数の第2摩擦プレート55に近づける方向にも移動する。つまり、複数のウェイト52は、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力により、入力軸42の軸方向にも移動する。このように複数のウェイト52が入力軸42の軸方向に移動することにより、上記推力が発生する。つまり、上記推力は、複数のウェイト52が第1部材56を介して第1摩擦プレート54と第2摩擦プレート55の一方を他方に対して入力軸42の軸方向に押し付ける力である。
【0054】
図1に示す例では、遠心クラッチ50は、操作可能に構成された遠心クラッチである。鞍乗型車両10の乗員によってクランク軸22から入力軸42への動力伝達を遮断する操作が行われた場合を想定する。この場合、操作可能に構成された遠心クラッチは、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力に関わらず、クランク軸22から入力軸42への動力伝達を強制的に遮断するように構成されている。
図1に示す例では、鞍乗型車両10は、クラッチレバー16をさらに備える。遠心クラッチ50は、伝達ロッド51をさらに備える。伝達ロッド51は、第2部材57に接続されている。鞍乗型車両10の乗員がクラッチレバー16を操作することにより、伝達ロッド51が入力軸42の軸方向に移動する。このとき、伝達ロッド51に接続された第2部材57が、第1部材56から離れる方向に移動する。それに伴って、第1部材56が、オフばね58の付勢力により、第2部材57に近づく方向に移動する。これにより、第1摩擦プレート54と第2摩擦プレート55の一方を他方に対して入力軸42の軸方向に押し付ける力(上記推力)が解除される。その結果、クランク軸22から入力軸42への動力伝達が遮断される。なお、伝達ロッド51は、上記のような動作が可能であれば、入力軸42の軸方向に分割されていてもよい。
【0055】
制御装置60は、電動発電機30が遠心クラッチ50のクラッチインに応じた入力軸42の回転速度の増加を促進するための加速促進動作を実行するように、電動発電機30を制御する。加速促進動作は、例えば、電動発電機30によるクランク軸22の回転負荷の低減、又は電動発電機30によるクランク軸22への正転トルクの印加である。
【0056】
制御装置60は、電動発電機30が開始タイミングから終了タイミングまで加速促進動作を実行するように、電動発電機30を制御する。開始タイミングは、例えば、クランク軸22の回転速度がクラッチイン時の回転速度より低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つである。終了タイミングは、例えば、クランク軸22の回転速度が開始タイミング時の回転速度よりも高く、且つクラッチイン時の回転速度より低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つである。終了タイミングは、例えば、クランク軸22の回転速度がクラッチイン時の回転速度より高く、且つクラッチストール時の回転速度よりも低い時、同じ時又は高い時のいずれか1つであってもよい。
【0057】
鞍乗型車両10によれば、エンジン20及び遠心クラッチ50の大型化を抑制又は回避しながら、遠心クラッチ50を繋げるのに必要な遠心力を効率よく得ることができる。その理由は、以下のとおりである。
【0058】
遠心クラッチ50のクラッチインのときに、入力軸42に対する加速促進動作が行われる。加速促進動作は、制御装置60がクランク軸22に接続された電動発電機30を制御することで行われる。クランク軸22の回転は、遠心クラッチ50を介して入力軸42に伝達される。加速促進動作は、入力軸42の回転速度の増加を促進するために行われる。つまり、加速促進動作は、クランク軸22の回転速度を増加させる。そのため、クランク軸22の回転速度の減少が抑制される。つまり、エンジン回転数の落ち込みが抑制される。エンジン回転数の落ち込みが抑制されるので、遠心クラッチ50を繋げるのに必要な遠心力が効率よく得られる。ウェイト52を重くすることや、ウェイト52を入力軸42の軸方向に見て入力軸42から離れた位置に配置すること、さらには、エンジン20の回転マス(フライホイール)を重くすることをしなくても、遠心クラッチ50を繋げるのに必要な遠心力が効率よく得られる。したがって、鞍乗型車両10によれば、エンジン20及び遠心クラッチ50の大型化を回避しながら、遠心クラッチ50を繋げるのに必要な遠心力が効率よく得られる。
【0059】
(変形例1)
図2は、変形例1に係る鞍乗型車両10Aを示す。鞍乗型車両10Aは、鞍乗型車両10と比べて、多段変速機40の代わりに、多段変速機40Aを備える。多段変速機40Aは、多段変速機40と比べて、シフトアクチュエータ46をさらに含む。シフトアクチュエータ46は、制御装置60からの指令により、変速段を切り替える。例えば、鞍乗型車両10Aの乗員による変速段の切替操作がセンサ等で検出されたことを契機にして、制御装置60から指令が出力される。なお、シフトアクチュエータ46が変速段を切り替えるときに、クランク軸22の回転速度を減少させるように、制御装置60が電動発電機30を制御してもよい。
変形例1に係る鞍乗型車両10Aによれば、乗員による変速段の切替操作の負担を軽減することができる。
【0060】
(変形例2)
制御装置60は、鞍乗型車両10の加速時における多段変速機40による変速段の切替に応じて、クランク軸22の回転速度を減少させるように、電動発電機30を制御してもよい。この場合、鞍乗型車両10の加速時において変速段を切り替えるために、鞍乗型車両10の乗員がクラッチレバー16を操作しなくてもよい。なお、制御装置60は、電動発電機30を制御することに加えて、エンジン20の点火の遅角を行ってもよいし、エンジン20の点火を停止してもよい。
【0061】
(変形例3)
上記変形例2において、遠心クラッチ50は、さらに、伝達動力変更機構を含んでいてもよい。伝達動力変更機構は、遠心力によってウェイト52が移動することで発生する推力の他に、クランク軸22の回転に伴って発生する遠心力を利用して別途追加の推力を発生させる。これらの推力を足し合わせた合計推力により、遠心クラッチ50が繋がる。その結果、クランク軸22から入力軸42への動力伝達が許容される。変速段の切替に伴ってクランク軸22の回転速度が減少するときには、遠心力の低下に伴って合計推力が低下する。これにより、クランク軸22から入力軸42に伝達される動力が減少する。この場合、変速段の切替時に発生するショックを低減することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
本明細書において記載と図示の少なくとも一方がなされた実施形態及び変形例は、本開示の理解を容易にするためのものであって、本開示の思想を限定するものではない。上記の実施形態及び変形例は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得る。当該趣旨は、本明細書に開示された実施形態に基づいて当業者によって認識されうる、均等な要素、修正、削除、組み合わせ(例えば、実施形態及び変形例に跨る特徴の組み合わせ)、改良、変更を包含する。特許請求の範囲における限定事項は当該特許請求の範囲で用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態及び変形例に限定されるべきではない。そのような実施形態及び変形例は非排他的であると解釈されるべきである。例えば、本明細書において、「好ましくは」、「よい」という用語は非排他的なものであって、「好ましいがこれに限定されるものではない」、「よいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。
【0063】
例えば、上記実施形態において、遠心クラッチ50は、複数の第1摩擦プレート54と複数の第2摩擦プレート55を含んでいなくてもよい。鞍乗型車両10、10Aは、クラッチレバー16を備えていなくてもよい。遠心クラッチ50は、伝達ロッド51を含んでいなくてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 鞍乗型車両
20 エンジン
22 クランク軸
30 電動発電機
40 多段変速機
42 入力軸
421 駆動ギア
44 出力軸
441 被駆動ギア
50 入力軸上の遠心クラッチ
52 ウェイト
54 第1摩擦プレート
55 第2摩擦プレート
60 制御装置