(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
D03D 15/267 20210101AFI20240509BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240509BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240509BHJP
D06M 13/513 20060101ALI20240509BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
D03D15/267
C08J5/24
D03D1/00 A
D06M13/513
H05K1/03 610T
(21)【出願番号】P 2024500601
(86)(22)【出願日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2023044392
【審査請求日】2024-01-09
(31)【優先権主張番号】P 2023023775
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 周
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優香
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127747(JP,A)
【文献】特開2009-263824(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018088(WO,A1)
【文献】特開2010-031425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
D03D 1/00 - 27/18
D06M 13/00 - 15/715
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成されるガラスクロスであって、前記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO
2)換算で95.0質量%~100質量%であり、前記フィラメントの平均単糸径(D)が4.5μm~9.0μmの範囲であり、前記ガラスクロスの厚み(T)と前記フィラメントの平均単糸径(D)との関係が下記式(A1)を満たし、
24.0×D-T>96.0 ・・・(A1)
前記ガラスクロスの厚みと通気度の積(μm・cm
3/cm
2/s)が、2500~6000の範囲である、ガラスクロス。
【請求項2】
前記ガラスクロスを
デスミア処理したとき、下記式:
デスミア減少率=(デスミア処理前の単糸径-デスミア処理後の単糸径)÷デスミア処理前の単糸径×100
で表される前記フィラメントの平均単糸径(D)のデスミア減少率が25%以下である、請求項1に記載のガラスクロス。
ただし、前記デスミア処理は、
(1)ガラスクロスを4cm角に切り出し、得られた前記ガラスクロスをパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の容器に入れて、前記ガラスクロスが浸漬するまで膨潤液を加え;
(2)前記膨潤液が蒸発しないように容器にふたをしたのち、80℃で2時間加熱を行い、前記膨潤液による処理が完了した前記ガラスクロスをイオン交換水で十分に洗浄したのち、乾燥させ;
(3)操作(2)で得られた前記ガラスクロスを再度PFA製の容器に入れて、前記ガラスクロスが浸漬するまでデスミア液を加え;
(4)前記デスミア液が蒸発しないように容器にふたをしたのち、80℃で2時間加熱を行い、前記デスミア液による処理が完了した前記ガラスクロスをイオン交換水で十分に洗浄したのち、乾燥させて、前記ガラスクロスのデスミア処理を完了し;
(5)デスミア処理前、及びデスミア処理後の前記ガラスクロスを構成するガラスフィラメントの平均径をマイクロスコープ(ハイロックス社製 HRX-1)でガラスフィラメント20本ずつをそれぞれ観察して、前記ガラスフィラメントの平均単糸径を求め;
(6)得られたデスミア処理前後の単糸径から、前記デスミア減少率を前記式によって、算出する
ことにより行い、前記膨潤液は、40重量%の水酸化ナトリウム水溶液を5体積%と、20重量%~30重量%の2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール水溶液を15体積%と、イオン交換水を80体積%とからなり、そして、前記デスミア液は、40重量%の水酸化ナトリウム水溶液を8体積%と、40重量%の過マンガン酸ナトリウム水溶液を10体積%と、イオン交換水を82体積%とからなる。
【請求項3】
前記ガラスクロスの通気度が25cm
3/cm
2/s~350cm
3/cm
2/sの範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項4】
前記ガラス糸が表面処理剤で表面処理されている、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項5】
前記表面処理剤が、下記一般式(1):
X(R)
3-nSiY
n ・・・(1)
{式(1)中、Xは、ラジカル反応性を有する不飽和二重結合基を1つ以上有する有機基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1~3の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる少なくとも1つの基である}
で示される構造を有するシランカップリング剤を含む、請求項4に記載のガラスクロス。
【請求項6】
前記一般式(1)中のXが、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する、請求項5に記載のガラスクロス。
【請求項7】
前記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%~0.50質量%の範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項8】
前記ガラス糸の平均フィラメント本数が20本~200本の範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項9】
前記ガラスクロスのガスクロマトグラフィーを用いて得られる、総炭素量の変動係数が15%以下の範囲である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項10】
前記ガラスクロスのガスクロマトグラフィーを用いて得られる、窒素含有量が0.004質量%未満である、請求項1又は2に記載のガラスクロス。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸させたマトリックス樹脂と、を含有する、プリプレグ。
【請求項12】
無機充填剤を更に含有する、請求項11に記載のプリプレグ。
【請求項13】
請求項11に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
【請求項14】
請求項13に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
【請求項15】
請求項13に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
【請求項16】
ガラスクロスの製造方法であって、前記方法は、
複数本のフィラメントを含み、Si含有量がSiO
2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を、経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロスを得る工程を含み、
前記方法は、前記製織する工程の前に、前記ガラス糸の糸束を扁平化させ、その後サイジングを行う整経工程と、
前記整経工程の後、かつ前記製織する工程の前、途中、又は後に、以下:
前記ガラス糸を50℃以上の水で洗浄する工程と、
前記ガラス糸に付着するバインダーを加熱脱油して低減する工程と;
前記加熱脱油された前記ガラス糸に液体中で超音波を照射して、加熱脱油後のバインダーの残渣物によって接着されたガラスフィラメントの少なくとも一部を開繊する工程と
を更に含み、
前記フィラメントの平均単糸径(D)が4.5μm~9.0μmの範囲であり、前記ガラスクロスの厚み(T)と前記フィラメントの平均単糸径(D)との関係が下記式(A1)
24.0×D-T>96.0 ・・・(A1)
を満たす、方法。
【請求項17】
前記開繊したガラスクロスの表面に表面処理剤を付着させ、加熱乾燥により表面処理剤を前記ガラスクロスの表面に固着させる操作を複数回行う、表面処理工程と;
前記表面処理剤によって接着されたガラスフィラメントの少なくとも一部を開繊する工程と
を更に含む。請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板等に関する。本国際出願は、2023年2月17日に出願した日本国特許出願第2023-023775号に基づく優先権を主張するものであり、当該日本国特許出願の全内容を本国際出願に援用する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、及び5G通信に代表される高速通信化が進んでいる。かかる背景に伴い、特に高速通信用のプリント配線板に対して、従来から求められている耐熱性の向上だけでなく、その絶縁材料の更なる誘電特性の向上(例えば、低誘電正接化)が望まれている。同様に、プリント配線板の絶縁材料に用いられるプリプレグ、該プリプレグに含まれるガラスクロス、及び該ガラスクロスを構成するガラス糸に対しても、誘電特性の向上が望まれている。
【0003】
特許文献1及び2は、絶縁材料の低誘電化を目的として、マトリックス樹脂として低誘電樹脂をガラスクロスに含浸させたプリプレグを用いて絶縁材料を構成することを記載している。特許文献1及び2には、ビニル基又はメタクリロキシ基で末端変性させたポリフェニレンエーテルが低誘電特性及び耐熱性に有利である旨、及びこの変性ポリフェニレンエーテルをマトリックス樹脂として用いる旨が記載されている。
【0004】
特許文献3ではSiO2組成量が98質量%~100質量%であるガラスクロスを用いることで、プリプレグ、及びプリント配線板の誘電特性が向上することが記載されている。
【0005】
プリント配線板には、誘電特性のほか、絶縁信頼性が求められる。プリント配線板の絶縁不良のモードの一つである導電性陽極フィラメント(CAF:Conductive Anodic Filamentsの略。)と呼ばれる導電体の発生を抑制するために様々な方法が知られている。例えば、特許文献4ではガラスクロス表面のアルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物を除去することによって、プリント配線板の絶縁信頼性を向上させる方法が記載されている。また、特許文献5では、変性フェノール化合物の凝集を低減し、スルーホールの内壁を平滑化することによって、CAFの発生を抑制する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/065940号
【文献】国際公開第2019/065941号
【文献】特開2021-63320号公報
【文献】特開2005-42245号公報
【文献】特開2006-63114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討の結果、特許文献1~4に記載されるような従来のガラスクロスは、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高い石英ガラスを用いた場合、得られる積層体の絶縁信頼性を更に改善する余地があることが分かった。
【0008】
本開示は、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高いガラス糸から構成され、積層体の絶縁信頼性を向上させることができる石英ガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ、及びプリント配線板等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の態様の一部を以下の項目[1]~[17]に例示する。
[1]
複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成されるガラスクロスであって、上記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量が、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%~100質量%であり、上記フィラメントの平均単糸径(D)が4.5μm~9.0μmの範囲であり、上記ガラスクロスの厚み(T)と上記フィラメントの平均単糸径(D)との関係が下記式(A1)を満たし、
24.0×D-T>96.0 ・・・(A1)
上記ガラスクロスの厚みと通気度の積(μm・cm3/cm2/s)が、2500~6000の範囲である、ガラスクロス。
[2]
上記ガラスクロスをデスミア液に浸漬し80℃で2時間加熱処理したとき、下記式:
デスミア減少率=(デスミア処理前の単糸径-デスミア処理後の単糸径)÷デスミア処理前の単糸径×100
で表される上記フィラメントの平均単糸径(D)のデスミア減少率が25%以下である、項目1に記載のガラスクロス。
[3]
上記ガラスクロスの通気度が25cm3/cm2/s~350cm3/cm2/sの範囲である、項目1又は2に記載のガラスクロス。
[4]
上記ガラス糸が表面処理剤で表面処理されている、項目1~3のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[5]
上記表面処理剤が、下記一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
{式(1)中、Xは、ラジカル反応性を有する不飽和二重結合基を1つ以上有する有機基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1~3の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる少なくとも1つの基である}
で示される構造を有するシランカップリング剤を含む、項目4に記載のガラスクロス。
[6]
上記一般式(1)中のXが、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する、項目5に記載のガラスクロス。
[7]
上記ガラスクロスの強熱減量値が0.01質量%~0.50質量%の範囲である、項目1~6のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[8]
上記ガラス糸の平均フィラメント本数が20本~200本の範囲である、項目1~7のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[9]
上記ガラスクロスのガスクロマトグラフィーを用いて得られる、総炭素量の変動係数が15%以下の範囲である、項目1~8のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[10]
上記ガラスクロスのガスクロマトグラフィーを用いて得られる、窒素含有量が0.004質量%未満である、項目1~9のいずれか一項に記載のガラスクロス。
[11]
項目1~10のいずれか一項に記載のガラスクロスと、上記ガラスクロスに含浸させたマトリックス樹脂と、を含有する、プリプレグ。
[12]
無機充填剤を更に含有する、項目11に記載のプリプレグ。
[13]
項目11に記載のプリプレグを含む、プリント配線板。
[14]
項目13に記載のプリント配線板を含む、集積回路。
[15]
項目13に記載のプリント配線板を含む、電子機器。
[16]
ガラスクロスの製造方法であって、上記方法は、
複数本のフィラメントを含み、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を、経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロスを得る工程を含み、
上記方法は、上記製織する工程の前に、上記ガラス糸の糸束を扁平化させ、その後サイジングを行う整経工程と、
上記整経工程の後、かつ上記製織する工程の前、途中、又は後に、以下:
上記ガラス糸を50℃以上の水で洗浄する工程と、
上記ガラス糸に付着するバインダーを加熱脱油して低減する工程と;
上記加熱脱油された上記ガラス糸に液体中で超音波を照射して、加熱脱油後のバインダーの残渣物によって接着されたガラスフィラメントの少なくとも一部を開繊する工程と
を更に含み、
上記フィラメントの平均単糸径(D)が4.5μm~9.0μmの範囲であり、上記ガラスクロスの厚み(T)と上記フィラメントの平均単糸径(D)との関係が下記式(A1)
24.0×D-T>96.0 ・・・(A1)
を満たす、方法。
[17]
上記開繊したガラスクロスの表面に表面処理剤を付着させ、加熱乾燥により表面処理剤を上記ガラスクロスの表面に固着させる操作を複数回行う、表面処理工程と;
上記表面処理剤によって接着されたガラスフィラメントの少なくとも一部を開繊する工程と
を更に含む。項目16に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高いガラス糸から構成され、積層体の絶縁信頼性を向上させることができる石英ガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ、及びプリント配線板等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について説明するが、本開示はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
本開示において、「~」を用いて記載した数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を表す。また、段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えることができる。更に、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。そして、「工程」の語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、工程の機能が達成されれば、当該工程に含まれる。
【0013】
《ガラスクロス》
本開示のガラスクロスは、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として含む、ガラスクロスである。ガラス糸におけるケイ素(Si)含量は、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%以上100質量%以下であり、フィラメントの平均単糸径(D)は4.5μm以上9.0μm以下の範囲であり、ガラスクロスの厚み(T)とフィラメントの平均単糸径(D)との関係が、下記式(A1)を満たす。
24.0×D-T>96.0 ・・・(A1)
また、ガラスクロスの厚み(μm)と通気度(cm3/cm2/s)の積が2500~6000(μm・(cm3/cm2/s))の範囲である。
【0014】
特許文献1及び2に記載されるような従来のガラスクロスは、低誘電ガラスの使用について考慮されておらず、誘電特性を更に向上させる余地があった。この点、特許文献3には、SiO2組成量が高いガラスフィラメントからなるガラスクロスを用いることによる、プリプレグ、及びプリント配線基板の誘電特性を改善することが記載されているものの、本願発明者らの検討の結果、プリント配線基板の絶縁信頼性を更に向上させる余地があることが分かった。
【0015】
絶縁信頼性(以下、「耐CAF性」ともいう。)の向上に向けたガラスクロスの改良としては、特許文献4に記載されているように、ガラスクロスの開繊工程の改良することが挙げられる。しかしながら、本願発明者らの検討の結果、石英ガラスは、石英ガラス以外のガラスと比較して、その硬度が高いことから、石英ガラスヤーンから構成されるガラスクロスを用いた場合、特許文献4に記載されている従来の開繊処理では、十分な耐CAF性の改善が難しいことが分かった。
【0016】
これに対して、本開示によれば、積層体の絶縁信頼性を向上させることができる石英ガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ、及びプリント配線板等を提供することができる。理論及び特定の製造方法に限定されないが、ガラスクロスの厚み(T)に対する平均単糸径(D)が所定の関係を満たす石英ガラスをガラス糸として用い、かつ、バインダーの残渣物による該ガラス糸のフィラメント間の接着を解消し、従来よりも高開繊となるような加工を施すことによって、ガラスクロスの厚みと通気度の積を所定の範囲に調整することができる。そして、ガラスクロスの厚み(T)に対する平均単糸径(D)が所定の関係を満たす石英ガラスをガラス糸として用いたガラスクロスの厚みと通気度の積が所定の範囲であることにより、以下に詳述するように、耐CAF性に優れたガラスクロスを提供することが可能である。
【0017】
〔ガラス糸〕
ガラスクロスを構成するガラス糸は、石英ガラスを原料にして得ることができる。具体的に、該ガラス糸は、Si含有量が、SiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であり、99.0質量%~100質量%がより好ましく、99.5質量%~100質量%が更に好ましく、99.9質量%~100質量%が特に好ましい。このようなガラス糸を用いることで、得られるガラスクロスの誘電特性、及び耐CAF性を向上させることができる。
【0018】
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均単糸径は、4.5μm~9.0μmである。より好ましくは5.0μm~9.0μmであり、更に好ましくは5.5μm~8.5μmであり、より更に好ましくは5.8μm~8.2μmであり、特に好ましくは6.0μm~8.0μmである。平均単糸径が上記の下限値以上であると、フィラメントの破断強度が高くなるため、得られるガラスクロスの毛羽を抑制することができる。平均単糸径が上記の上限値以下であると、ガラス糸の曲げ変形に対して割れ(切断し)にくくなり、ガラスクロスの製造の量産性が向上する。ガラスフィラメントの平均単糸径が上記の範囲内であれば、厚みと通気度の積、及びデスミア減少率を所定の範囲に調整しやすく、耐CAF性向上の効果が得られ易い。
【0019】
ガラス糸を構成するガラスフィラメントの平均フィラメント本数は20~200本の範囲が好ましい。平均フィラメント本数の上限値は、より好ましくは180本以下、より更に好ましくは160本以下、特に好ましくは150本以下、140本以下、130本以下、120本以下、110本以下、又は100本以下である。これらの上限値と任意に組み合わせられる下限値は、より好ましくは30本以上、更に好ましくは35本以上、特に好ましくは40本以上、又は45本以上である。平均フィラメント本数が上記の下限値以上であると、ガラス糸の切断が起こりにくく、得られるガラスクロスに毛羽が生じにくい。平均フィラメントが上記の上限値以下であると、フィラメント間のバインダー残渣物による接着の解消、およびガラス糸の開繊がしやすく、デスミア液がガラス糸束内に染み込みにくくなることから、耐CAF性に優れたガラスクロスを得ることが容易になる。よって、平均フィラメント本数が上記の範囲内であれば、耐CAF性の効果が得られ易い。
【0020】
〔織構造等〕
ガラスクロスは、ガラス糸(例えば、複数本のガラスフィラメントから成るガラス糸)を経糸及び緯糸として構成される。ガラスクロスの織構造は、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の織構造が挙げられる。なかでも、平織り構造が好ましい。
【0021】
ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、それぞれ独立して、好ましくは10本/inch~120本/inch(=10~120本/25.4mm)であり、より好ましくは40本/inch~100本/inchである。打ち込み密度が上記の範囲内であれば、厚みと通気度の積を所定の範囲に調整しやすく、耐CAF性の効果が得られ易い。
【0022】
ガラスクロスの目付量(ガラスクロスの質量)は、好ましくは8g/m2~250g/m2であり、より好ましくは8g/m2~100g/m2であり、更に好ましくは8g/m2~80g/m2であり、特に好ましくは8g/m2~50g/m2である。ガラスクロスの目付量が上記の範囲内であれば、厚みと通気度の積、及びデスミア減少率を所定の範囲に調整しやすく、耐CAF性の効果が得られ易い。
【0023】
〔表面処理剤〕
ガラスクロスは、プリプレグに用いられる樹脂との密着性向上の観点から、ガラス糸が表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。なお、本開示において、ガラスクロスの製造過程でガラスフィラメントが表面処理される場合、及びガラスクロスが表面処理される場合の両方とも、「ガラス糸が表面処理剤で表面処理されている」という概念に含まれる。ガラス糸は、例えばチタネート系カップリング剤、シランカップリング剤により表面処理されることができる。プリプレグの樹脂ごとに適した官能基を修飾しやすいという観点から、表面処理剤は、シランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0024】
シランカップリング剤は、下記一般式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
{式(1)中、Xは、ラジカル反応性を有する不飽和二重結合基を1つ以上有する有機基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1~3の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基から成る群より選ばれる基である。}
で示される構造を有することが好ましい。ガラスクロスが一般式(1)のシランカップリング剤で表面処理されることで、プリント配線板の絶縁信頼性及び耐熱性が向上する傾向にある。
【0025】
一般式(1)のシランカップリング剤の分子構造中のXは、(メタ)アクリロイルオキシ基を有することが好ましい。Xは、より好ましくは、アミノ基を含まない(メタ)アクリロイルオキシ基である。アミノ基を含む成分が極めて微量、又はアミノ基を含まないシランカップリング剤は、疎水性が高い。このような疎水性の高いシランカップリング剤で、石英ガラスであるガラス糸を表面処理することで、得られるガラスクロス及びマトリクス樹脂の界面での剥離を抑制でき、その結果、耐CAF性を向上させることができる。シランカップリング剤がアミノ基を含有しているか否か評価する手法としては、特に限定されないが、ガスクロマトグラフィーを用いた方法が知られている。ガスクロマトグラフィーによって、熱分解で発生した二酸化窒素量を測定することで、シランカップリング剤中のアミノ基を有するかどうか判断することが可能である。具体的には、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量が0.004質量%未満であれば、シランカップリング剤中にはアミノ基を有しないと判断できる。該窒素含有量は、0.0035未満がより好ましく、0.003未満が更に好ましく、0.0025未満が特に好ましい。なお、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量は、0質量%以上、又は0質量%超でよい。しかしながら、シランカップリング剤において、アミノ基を含む成分が極めて微量、又は該成分が含まれない場合、その測定手法によっては、ベースラインの乱れ等により、「シランカップリング剤における、アミノ基を含む成分の含有量」、ひいては、「ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量」が、マイナス値で導出される場合もあり得る。ただし、この場合も、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量が微量である趣旨に該当するため、「0質量%以上0.004質量%未満」あるいは「0質量%超0.004質量%未満」の範囲に含まれる。
【0026】
一般式(1)中のXは、アミノ基を含まないことが好ましい。例えば、一般式(1)中のXは、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等のアミン、又は第4級アンモニウムカチオン等のアンモニウムカチオンを含まないことが好ましい。これにより、ガラス糸の表面と化学的に結合するシランカップリング剤の量を好適に制御でき、ガラスクロスの耐CAF性をより向上させることができる。
【0027】
ガラスクロスへの安定処理化のため、一般式(1)中、複数存在するYの少なくとも1つは、炭素数が1~5のアルコキシ基(炭素数が1、2、3、4又は5のアルコキシ基)であることが好ましい。複数存在するYの半数以上、又は全てが、炭素数が1以上5以下のアルコキシ基であることがより好ましい。
【0028】
一般式(1)で示されるシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上のシランカップリング剤を併用してもよい。例えば、一般式(1)中のXが互いに異なる2種以上のシランカップリング剤を併用してもよく、また、一般式(1)中のRが互いに異なる2種以上のシランカップリング剤を併用してもよい。
【0029】
ガラス糸を表面処理する表面処理剤における、一般式(1)で示されるシランカップリング剤由来の含有量は、95.0質量%~100質量%であることが好ましく、96.5質量%~100質量%がより好ましく、98.0質量%~100質量%が更に好ましく、99.0質量%~100質量%がより更に好ましく、99.9質量%~100質量%が特に好ましい。これによれば、得られるガラスクロスについて、耐CAF性を含む各種特性がより向上する。シランカップリング剤は、一般式(1)で示されるシランカップリング剤以外のシランカップリング剤(他のシランカップリング剤)を含んでもよいし、シランカップリング剤以外の成分を含んでもよい。
【0030】
一般式(1)で示されるシランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600であり、より好ましくは150~500であり、更に好ましくは200~450である。なかでも、シランカップリング剤として、上記範囲内で分子量が互いに異なる複数種のシランカップリング剤を併用することが好ましい。これによれば、種類の異なるシランカップリング剤によってガラス糸を好適に表面処理することができ、ガラス表面におけるシランカップリング剤の密度が高くなる。これにより、マトリックス樹脂との反応性が更に向上する傾向にある。分子量が互いに異なる複数種のシランカップリング剤を併用する場合、少なくとも2種のシランカップリング剤が、一般式(1)で示され、かつ、上記分子量の範囲内であるシランカップリング剤であることが好ましい。
【0031】
一般式(1)で示されるシランカップリング剤は非イオン性であることが好ましい。例えば、一般式(1)中のXは、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基から成る群より選ばれる少なくとも1つの基を有することが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基を有することがより好ましい。これによれば、マトリックス樹脂との好適な反応性を確保でき、プリント配線板の耐熱性及び信頼性を高め易くなる。なお、(メタ)アクリロイルオキシ基は、メタクリロイルオキシ基、及びアクリロイルオキシ基の少なくとも1つを含む。
【0032】
一般式(1)に示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、5-ヘキセニルトリメトキシシラン及びアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらのシランカップリング剤であれば、耐CAF性の効果が得られ易い。上記を含めて、一般式(1)に示されるシランカップリング剤としては、下記のシランカップリング剤が挙げられる。
【0033】
【0034】
〔強熱減量値〕
ガラスクロスは、その強熱減量値が0.01~0.50質量%の範囲が好ましい。強熱減量値の上限値は、より好ましくは0.25質量%以下、更に好ましくは0.20質量%以下、より更に好ましくは0.18質量%以下、特に好ましくは0.16質量%以下、0.15質量%以下、0.14質量%以下、又は0.13質量%以下の範囲である。これらの上限値と任意に組み合わせられる下限値は、より好ましくは0.02質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上、より更に好ましくは0.04質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。強熱減量値が上記の上限値以下であると、ガラス糸の表面と化学結合したシランカップリング剤等の表面処理剤の量が多くなり過ぎず、ガラスクロスの誘電正接、ひいては得られるプリント配線板の誘電正接が向上する。他方、強熱減量値が上記の下限値以上であると、ガラス糸の表面と結合している表面処理剤の量が少なくなり過ぎず、得られるプリント配線板の耐熱性や絶縁信頼性が向上する。
【0035】
上記のとおり、ガラス糸として低誘電ガラスを用い、そして、そのガラスクロスの合計質量を基準とする窒素含有量が0.004質量%未満であることが好ましい。窒素含有量の下限値は、限定されないが、例えば0%以上、0%超であってよい。一般に、石英ガラスが有する高い硬度のために、石英ガラスを用いたガラスクロスは脆性破壊が起き易い。しかしながら、石英ガラスと、それを表面処理する窒素含有量の少ないシランカップリング剤等の表面処理剤との良好な相性に加え、ガラスクロスの強熱減量値が上記の範囲内の値であることで、脆性破壊のおそれを低減することができる。
【0036】
〔ガラスクロスの総炭素量の変動係数〕
本開示の実施例に記載しているように、ガスクロマトグラフィーを用いた評価方法によって得られる、ガラスクロスの総炭素量は、0.01~0.50質量%であることが好ましい。ガラスクロスの総炭素量の上限値は、より好ましくは0.25質量%以下、更に好ましくは0.20質量%以下である。これらの上限値と任意に組み合わせられる下限値は、より好ましくは0.03質量%以上、より更に好ましくは0.04質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。ガラスクロスの総炭素量は、ガラス糸に付着しているシランカップリング剤等の表面処理剤の量を反映しており、表面処理剤の付着量が多いほど、ガラスクロスの総炭素量が多くなる。また、ガスクロマトグラフィーを用いた評価方法は、小面積での試験片で評価可能なことから、ガラスクロスに付着している表面処理剤量のバラツキ評価に適している。プリント配線板の耐CAF性を向上させるには、ガラス糸表面の表面処理剤が付着していない領域を減らすことが有効である。ガラスクロスのガラスフィラメント全体に表面処理剤が存在することで、デスミア工程時にガラスフィラメントの溶解が抑制されるため、プリント配線板の耐CAF性を向上させることができる。つまり、ガラスフィラメント表面に表面処理剤が付着していない領域が少ないほど、ガラスフィラメントの平均単糸径のデスミア減少率は小さくなる傾向がある。
【0037】
本発明者らは、ガラスフィラメントに表面処理剤が均一に付着しているという特徴は、ガラスクロスの総炭素量の変動係数で特定することが有効であることを見出した。ガスクロマトグラフィーを用いて得られる総炭素量は、表面処理剤が付着していない領域が多いサンプルにおいて、その総炭素量の変動係数が大きくなる傾向がある。したがって、プリント配線板の耐CAF性を向上させるためには、表面処理後のガラスクロスの総炭素量の変動係数が小さいガラスクロスほど好ましい。そのガラスクロスの総炭素量の変動係数の範囲の上限値は、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは8%、特に好ましくは6%以下である。これらの上限値と任意に組み合わせられる下限値は、限定されないが、例えば0%以上、0%超、又は1%以上であってよい。ガラスクロスの総炭素量の変動係数が15%以下であると、ガラス糸表面に付着している表面処理剤の量が均一になり、ガラス糸に表面処理剤が付着していない領域が少なくなり、ガラスフィラメントの平均単糸径のデスミア減少率が小さくなる。ガラスクロスの総炭素量の変動係数を低減させる手法としては、後述の通り、表面処理工程を複数回行うことが有効である。表面処理工程を複数回行うことによって、ガラス糸表面に表面処理剤が付着していない領域を少なくすることが可能である。
【0038】
〔ガラスクロスの厚みとガラスフィラメントの平均単糸径との関係〕
ガラスクロスは、ガラスクロスの厚み(T)とガラス糸のフィラメントの平均単糸径(D)との関係が下記式(A1)を満たし、好ましくは下記式(A2)を満たし、さらに好ましくは下記式(A3)、より更に好ましくは(A4)、特に好ましくは(A5)を満たす。
24.0×D-T>96.0 ・・・(A1)
24.0×D-T>98.0 ・・・(A2)
24.0×D-T>100.0 ・・・(A3)
24.0×D-T>104.0 ・・・(A4)
24.0×D-T>108.0 ・・・(A5)
上記式(A1)を満たすことで、ガラス糸束内の毛細管力が低下するため、プリント配線板をデスミア液およびメッキ液で処理する際のガラス糸束への液染み込みを抑制することができる。これにより、プリント配線板の耐CAF性を向上させることが可能となる。
【0039】
〔ガラスフィラメントの平均単糸径のデスミア減少率〕
ガラスクロスのガラスフィラメントの平均単糸径のデスミア減少率は25%以下であることが好ましい。デスミア減少率が上記上限値以下であると、プリント配線板をデスミア処理する際に、デスミア液がガラスクロスへ与えるダメージが小さくなり、プリント配線板の耐CAF性が向上する。デスミア減少率は、好ましくは24%以下、より好ましくは23%以下、更に好ましくは22%以下である。これらの上限値と組み合わせることのできるデスミア減少率の下限値は0%以上、例えば0%超であってよい。デスミア減少率は、本開示の実施例に記載の方法により測定される。
【0040】
特定の製造方法に限定されないが、後述するガラスクロスの製造方法において、例えば、整経時に糸束を扁平化した後にサイジング加工(糊付け)を行うこと、ガラスクロスを加熱脱油する前に所定温度以上の水でガラスクロスを洗浄すること、加熱脱油後かつ表面処理前の間に開繊処理を行うこと、及び、ガラスクロスの表面処理を複数回行うこと等により、ガラスクロスのガラスフィラメントの平均単糸径のデスミア減少率を制御することがより容易である。
【0041】
〔ガラスクロスの通気度〕
ガラスクロスの通気度は25~350cm3/cm2/sの範囲が好ましく、より好ましくは30~330cm3/cm2/sであり、更に好ましくは35~300cm3/cm2/sであり、特に好ましくは40~250cm3/cm2/s、40~200cm3/cm2/s、又は40~150cm3/cm2/sである。通気度が上記上限値以下であると、プリプレグ中のガラスフィラメント間にボイドと呼ばれる気泡が残りにくく、プリント配線板の絶縁不良を引き起こしにくい。通気度が上記下限値以上であると、プリント配線板のドリル穴形成の際にドリル穴の内壁が滑らかになり、絶縁不良を引き起こしにくい。なお、ガラスクロスの通気度は開繊処理工程によって調整可能であり、後述の開繊処理によって、ガラスクロスの通気度を上記の範囲に調整することがより容易である。
【0042】
〔ガラスクロスの厚みと通気度の積〕
ガラスクロスの厚み(μm)と通気度(cm3/cm2/s)の積は2500~6000の範囲である。該厚みと通気度の積は、好ましくは2800~5800の範囲、より好ましくは2900~5600の範囲、更に好ましくは3000~5400の範囲、特に好ましくは3200~5200の範囲である。ガラスクロスの厚み(T)とガラス糸のフィラメントの平均単糸径(D)との関係が上述の式(A1)を満たすためには、単子径が比較的太いガラス糸を用いながら、糸束を均一に開繊することが重要である。このようなガラスクロスは、開繊が不十分な場合、ガラスクロスの厚みが厚くなり、また通気度は高い(すなわち、該厚みと通気度の積は大きくなる)傾向を示す。厚みと通気度の積が6000を超えるガラスクロスは、プリプレグ中のガラスフィラメント間にボイドと呼ばれる気泡が残りやすく、プリント配線板の絶縁不良を引き起こしやすい。また、ガラスクロスの厚みが厚くなると、ドリル穴形成時にドリルの摩耗が起こりやすく、ドリル穴の内壁が荒れやすくなる。また上述の式(A1)を満たし、かつ十分に開繊されたガラスクロスは厚みと通気度の積が2500以上に調整しやすく、プリント配線板の耐CAF性の改善がしやすい。
【0043】
特定の製造方法に限定されないが、後述するガラスクロスの製造方法において、例えば、整経時に糸束を扁平化した後にサイジング加工(糊付け)を行うこと、ガラスクロスを加熱脱油する前に所定温度以上の水でガラスクロスを洗浄すること、ガラスクロスの表面処理を複数回行うこと、加熱脱油後かつ表面処理前の間に開繊処理を行うことにより、糸ガラスクロスの厚みと通気度の積、及びガラスフィラメントの平均単糸径のデスミア減少率を制御することがより容易である。
【0044】
〔ガラスクロスの厚み〕
ガラスクロスの厚みは10~100μmであることが好ましい。ガラスクロスの開繊の制御が容易な観点から、ガラスクロスの厚みの上限値は、好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは60μm以下であり、特に好ましくは50μm以下である。また、ガラスクロスの搬送時のハンドリング性に優れる観点から、これらの上限値と任意に組み合わせられる下限値は、好ましくは15μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上であり、特に好ましくは30μm以上である。
【0045】
《ガラスクロスの製造方法》
本開示のガラスクロスの製造方法は、複数本のフィラメントを含み、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を、経糸及び緯糸として製織して、ガラスクロスを得る工程(製織工程:B)を含む。方法は、上記製織工程の前に、ガラス糸を引きそろえて扁平化し、その後サイジング剤を塗布する整経工程(A)と、上記整経工程の後、かつ上記製織工程の前、途中、又は後に、加熱脱油前のガラス糸を50℃以上の水で洗浄する工程(加熱脱油前洗浄工程:C)と、その後ガラス糸に付着するバインダーを加熱脱油して低減する工程(加熱脱油工程:D)と、加熱脱油後のバインダーの残渣物によって接着されたガラスフィラメントの少なくとも一部を開繊する工程(洗浄開繊工程:E)とを更に含む。方法は、任意に、ガラスフィラメントに表面処理剤を均一に塗布する表面処理工程(F)と、表面処理剤によって接着されたガラスフィラメントの少なくとも一部を開繊する工程(G)を有する。これにより、プリント配線板の耐CAF性を向上させることができるガラスクロス及びプリプレグ等を提供することができる。
【0046】
上記ガラスの処理方法(工程(C)~(G))は、製織前の石英ガラス糸に適用することができ、また、製織されたガラスクロスにも適用することができる。言い換えれば、石英ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程は、ガラスの処理方法の前に設けられてもよく、途中に設けられてもよく、後に設けられてもよい。以下、工程(A)~(G)をこの順に含む態様を例に挙げて説明するが、本開示のガラスクロスの製造方法はこれに限定されない。
【0047】
〔ガラス糸の整経工程(A)〕
ガラス糸の整経工程は、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を用い、その糸束を扁平化させた後にガラス糸のサイジングを行う工程を含む。当該処理により、糸幅を広げた状態で糊付けすることで、製織後のガラスクロスの状態での糸幅の拡幅が容易になり、ガラスクロスの厚みと通気度の積が所定の範囲を満たすように制御することができる。ガラス糸束の扁平化方法は特に限定されないが、例えば、ロールによる加圧での加工処理等の方法が挙げられる。毛羽を抑制しつつ糸束を扁平化するという観点から、加圧は、好ましくは1.0kg/cm2~6.0kg/cm2、より好ましくは2.0kg/cm2~5.0kg/cm2、さらに好ましくは2.5kg/cm2~5.5kg/cm2である。また、当該整経工程により、後の加熱脱油前洗浄工程での糊剤の除去が容易になる。
【0048】
〔ガラスクロス生機の製織工程(B)〕
ガラスクロス生機の準備工程は、複数本のフィラメントを含み、Si含有量がSiO2換算で95.0質量%~100質量%の範囲であるガラス糸を、経糸及び緯糸として製織することを含む。当該工程で用いるガラス糸としては、得られるガラスクロスの厚みに対して、上記式(A1)~(A3)の少なくとも一つを満たすフィラメント径を有するガラス糸を用いる。これにより、ガラスクロス生機を準備することができる。ガラス糸は、ガラス糸の紡糸時および整経時の毛羽抑制のため、澱粉、ポリビニルアルコ-ル等を主成分とするサイジング剤によって、表面処理されていることが好ましい。ガラス糸の紡糸時及び整経工程と同時にサイジング剤処理を行っても構わない。整経工程で得られた経糸に緯糸を織り込むことでガラスクロス生機が製織される。なお、本開示において、「ガラスクロス生機」は、加熱脱油前のガラスクロスを指す。
【0049】
上記工程(A)~(B)で用いるガラス糸には、上記式(A1)~(A5)の少なくとも一つを満たすフィラメント径を有するガラス糸を用いる。これにより、プリント配線板の耐CAF性を向上させることが可能となる。
【0050】
〔加熱脱油前洗浄工程(C)〕
加熱脱油前洗浄工程は、加熱脱油前のガラスクロスを50℃以上の水で洗浄することにより、糊剤を低減する工程を含む。これにより、フィラメントの糊剤、及び、加熱脱油時の糊剤の燃焼残渣による接着を低減でき、ガラスクロスの厚みと通気度の積が所定の範囲を満たすように制御することができる。洗浄効率の観点から、当該処理で洗浄に用いる溶媒は水が好ましく、また、温度は50℃以上であることが好ましい。50℃以上の水を用いることで、加熱脱油工程までのガラス糸の保護に必要な量の糊剤を残しつつ、余剰の糊剤を洗浄することができる。水の温度は、好ましくは50℃以上100℃未満である。水の温度の下限値は、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上、より更に好ましくは65℃以上である。これらの下限値と組み合わせることのできる水の温度の上限値は、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。洗浄に用いる溶媒は特に限定されないが、安全性やコストの観点から水、逆浸透(RO)水、イオン交換水等を用いた洗浄が好ましい。ガラスクロス生機の洗浄方法は特に限定されないが、例えば、超音波を用いる手法(例えば、超音波振動子を用いる手法)、スプレーによる噴射(例えば、高圧スプレーによる噴射)、水蒸気噴霧等の方法が考えられる。安価に加工できるという観点から、洗浄液を貯めた槽にガラスクロス生機を浸漬した後に、スクイズローラー等で余分な洗浄液を除去し、その後にガラスクロス生機を乾燥させる方法が好ましい。この場合、浸漬時間としては、例えば、2秒以上、5秒以上、10秒以上、又は15秒以上、及び、120秒以下、90秒以下、60秒以下、又は45秒以下でよい。
【0051】
〔サイジング剤を低減する工程(D)〕
ガラスクロス生機に付着されるバインダーを加熱脱油処理する工程(D)は、例えば、ガラスクロス生機を650℃~1000℃の温度で加熱する脱糊工程(加熱脱油工程)を有することができる。これにより、ガラスからバインダーを低減し易くなる。
【0052】
ガラスクロス生機の加熱は、逐次的もしくは連続的に、閉鎖系もしくは開放系で、行われることができ、又は閉鎖系と開放系を組み合わせて行われることができる。生産性の観点から、巻出機構と巻取機構と有する装置を用いて、Roll-to-Rollでガラスクロス生機を加熱処理する方式が特に好ましい。
【0053】
閉鎖系の場合には、加熱手段の観点から、ガラスクロス生機を加熱炉内に配置することが好ましく、かつ/又は貯蔵スペース及び加熱範囲の観点から、ガラスクロス生機を巻物の状態で貯蔵しながら加熱することが好ましい。また、有機物除去の効率を上げたり、有機物の除去時間を短縮したりするという観点から、加熱炉内でガラスクロス生機を搬送しながら加熱することも好ましい。
【0054】
開放系の場合には、被加熱面積の観点から、ガラスクロス生機を搬送させながら加熱することが好ましい。ガラスクロス生機の搬送は、例えば、巻出機構と巻取機構により行われることができる。
【0055】
(加熱炉)
加熱炉の加熱手段としては、ガラスクロス生機の表面温度が650℃よりも高い温度となるように加熱できるのであれば、電気式ヒーター、バーナーなど種々のものが考えられ、特定の手段のみに限定されない。また、複数の手段を組み合わせて、加熱をしてもよいが、ガラスクロス生機を酸素濃度10%以上の雰囲気下で加熱することが好ましく、そのためには、ガス式シングルラジアントチューブバーナー、もしくは、電気式ヒーターを用いることが好ましい。
【0056】
加熱炉は、加熱効率の観点から、加熱炉内で生成したガスを排出する手段、及び/又は空気循環手段を備えることが好ましい。ガス排出手段は、例えば、ノズル、ガス管、小穴、ガス抜き弁などでよい。空気循環手段は、例えば、ファン、空気調和設備などでよい。
【0057】
ガラスクロス生機の表面に付着している有機物を効率よく除去するためには、ガラス繊維織物を巻芯に巻いて、所定の雰囲気温度でガラスクロス生機を加熱するバッチ方式よりも、ガラスクロス生機を連続的に加熱炉に通しながら、加熱することが可能な連続方式が好ましい。
【0058】
ガラスクロス生機の表面に付着している有機物を十分に除去するためには、加熱温度としては、ガラスクロス生機の表面温度が650℃よりも高い温度が好ましく、より好ましくは700℃以上、更に好ましくは750℃以上、特に好ましくは800℃以上である。ガラスクロス生機の表面温度は、例えば、熱電対、非接触型温度計などにより測定されることができる。
【0059】
(ガラスクロス生機を加熱するための接触部材)
ガラスクロス生機を加熱する方法として、上記加熱炉を使用してもよいが、低ランニングコストの観点から、所定の温度に加熱した部材とガラスクロス生機を接触させることで、ガラスクロス生機を加熱してもよい。
【0060】
ガラスクロス生機の表面温度が650℃を超えるように加熱できれば、接触部材の形状は特に限定されないが、ガラスクロス生機の搬送のし易さから、ロール形状が好ましい。ロール形状でガラスクロス生機を加熱することが可能な部材としては、高温領域での使用が可能で、幅方向の温度のばらつきが比較的少ない、誘導発熱方式で加温するロールが好ましい。接触部材でガラスクロス生機を加熱するときには、接触部材の温度とガラスクロス生機の表面温度が概ね等しいことが考えられる。
【0061】
ガラスクロス生機を連続加熱するにつれ、加熱ロールに付着する炭化物を除去するために、上記加熱ロール方式は、ロールに付着した汚れや異物を除去する機構、例えば、ブレード等の機構を備えた方式であることが好ましい。
【0062】
〔ガラスクロスの洗浄開繊工程(E)〕
好ましくは、加熱脱油後のガラスクロスに、バインダーの残渣物によってガラスフィラメント同士が接着された箇所を開繊する工程(E)を行うことにより、本開示のガラスクロスを得ることができる。開繊する工程(E)は、好ましくは、ガラスクロスに液体中で超音波を照射して開繊する、開繊工程を含む。
【0063】
加熱脱油後にガラスクロスに開繊処理を行うことで、ガラスフィラメント間に存在しているバインダー残渣物に衝撃を与えることができ、結果としてガラスフィラメント間の接着を解消することが可能となる。効果的にガラスフィラメント間の接着を解消するためには、表面処理後に開繊処理を行うのではなく、加熱脱油後かつ表面処理前の間に開繊処理を行うことが好ましい。表面処理前に十分な開繊処理を行うことで、ガラスフィラメント間の接着が解消されるため、ガラスフィラメント1本ごとに均一に表面処理剤を塗工することが可能となり、耐CAF性に優れたガラスクロス、及びプリプレグを提供することができる。
【0064】
加熱脱油後の開繊工程においては、ガラスクロスに液体中で超音波を照射して開繊する工程に加え、行程中に別の開繊工程をさらに含んでもよい。別の開繊方法としては、ガラスクロスを液体に浸漬する方法、ガラスクロスを液体に浸漬して液体を通じてガラスクロスに力を加える方法(例えば、バイブロウォッシャー法、超音波法)、ガラスクロスに液体を勢いよくスプレーする方法(例えば、高圧スプレー法)等が挙げられる。ガラスクロスを巻物の状態で液体に浸漬して開繊することもでき、或いは、生産性の観点から、巻出機構と巻取機構と有する装置を用いて、Roll-to-Rollでガラスクロスを搬送させながら開繊する方式が好ましい。
【0065】
開繊に用いる液体としては、水、又は有機溶媒のいずれも使用できるが、安全性及び地球環境保護の観点から、水を主成分とする液体を用いることが好ましい。洗浄に用いる液体には、開繊の効率を上げるために、界面活性剤やpH調整剤を加えることも可能である。
【0066】
開繊に用いる液体の温度に特に制約はないが、効果を高める観点で、5℃以上が好ましい。また、開繊に用いる液体の温度は、安全性の観点から60℃以下が好ましい。
【0067】
加熱脱油後のバインダー残渣物を極力除去してから表面処理工程に供することが好ましいため、洗浄力を高められる観点で、ガラスクロスに水中で超音波を照射して開繊する方法を用いることが好ましい。
【0068】
超音波発振器によって超音波が照射されている液体中にガラスクロスを走行させることによって、ガラスクロスに液体中で超音波を照射して開繊することができる。開繊工程中の経糸に作用するライン張力は、30N~500N/ガラスクロスの幅1mが好ましい。経糸に作用するライン張力が30N/ガラスクロスの幅1m以上で、ガラスクロスに弛みがなく、経糸が緩むことなく均一に張られているため、超音波による開繊をムラなく作用させることができる。
【0069】
超音波照射による開繊は、20kHz以上200kHz以下の周波数を有する超音波を用いることができる。超音波の周波数は、20kHz以上50kHz以下の周波数が好ましく、より好ましくは20kHz以上30kHz以下である。20kHz以上200kHz以下の周波数を有する超音波を用いれば、ガラスクロスの目曲り等の大きな欠点なく開繊処理を行えるので好ましい。
【0070】
超音波洗浄には、0.07W/cm2以上3.60W/cm2以下の出力の超音波を好ましく用いることができる。超音波出力のより好ましい範囲は0.14W/cm2以上2.16W/cm2以下、更に好ましい範囲は0.21W/cm2以上1.44W/cm2以下である。超音波出力が0.07W/cm2以上で良好に開繊することができ、超音波出力が3.60W/cm2以下で目曲りなどの発生がなく均一な開繊を行うことができるので好ましい。
【0071】
好ましい超音波処理時間は、0.5秒以上60秒以下である。超音波処理時間が0.5秒以上で良好にガラスクロスまたはその中間体を開繊することができるので好ましい。超音波処理時間は長い方が大きな開繊効果が得られるので好ましいが、60秒を超えて処理しても更なる開繊は殆どないので、60秒で十分である。
【0072】
超音波洗浄処理に用いる液体中には、通常、窒素や酸素を主成分とする空気が溶存しているが、該溶存酸素量(重量比)は1ppm以上20ppm以下であることが好ましく、より好ましい範囲は3ppm以上17ppm以下であり、更に好ましい範囲は4ppm以上14ppm以下である。溶存酸素量を管理することで、間接的に溶存気体量を制御することが可能であり、超音波が溶存気体により減衰される程度を制御することが可能となる。溶存酸素量は1ppm以上で、均一に開繊処理が施されるため好ましい。溶存酸素量が20ppm以下の時、繊維織物に良好な開繊作用が与えられるので好ましい。溶存酸素量が1ppm以上20ppm以下の範囲で、均一で良好な開繊効果が得られるので好ましい。
【0073】
〔ガラスクロスの表面処理工程(F)〕
ガラスフィラメントに表面処理剤を均一に塗布する表面処理工程(F)は、例えば、ガラスクロスの表面に表面処理剤を付着させ、加熱乾燥により表面処理剤をガラスクロスの表面に固着させる操作を複数回行うことが好ましい。これにより、ガラスフィラメント1本ごとに均一に表面処理剤を塗工しやすくなり、耐CAF性に優れたガラスクロス、及びプリプレグを提供することができる。また、水では低減できない表面処理剤、例えばシランカップリング剤の残留物及び変性物を低減するため、疎水性の高い有機溶媒での洗浄、又は水酸基を有するシランカップリング剤残留物及び変性物との親和性が高い有機溶媒での洗浄(仕上げ洗浄工程)を、固着工程の後に実施することで、ガラスクロスを好適に表面処理し易くなる。
【0074】
加熱脱油後の開繊処理によってフィラメント間の接着を解消し、かつガラスクロスに複数回の表面処理を行うことで、従来よりもフィラメント1本ごとに均一に表面処理剤を塗工することが可能となる。表面処理剤はプリプレグ中のガラスクロスとマトリクス樹脂を化学的に結合する役割を有しているため、フィラメント表面に均一に表面処理を施したガラスクロスほど、耐CAF性に優れたガラスクロス、及びプリプレグを提供することが可能である。
【0075】
表面処理剤を付着させる方法は、表面処理剤を含有する処理液をガラスクロスに塗布する方法、又は処理液にガラスクロスを浸漬する方法が挙げられる。表面処理工程で処理液をガラスに塗布する方法としては、(a)バスに溜めた処理液にガラスを浸漬又は通過させる方法(以下、「浸漬法」という。)、(b)ロールコーター、ダイコーター又はグラビアコーター等で処理液をガラスに塗布する方法、等が可能である。浸漬法を採用する場合は、ガラスの処理液への浸漬時間を0.5秒以上1分以下に選定することが好ましい。また、ガラスに処理液を塗布した後、熱風、電磁波等の方法により、処理液に含まれる溶媒を加熱乾燥させることができる。ガラスクロスに付着する処理液の量をコントロールしやすい点から、処理液に浸漬させたのちに、ガラスクロスを絞りローラー等により、絞り上げて余分な処理液を除去する方法が好ましい。
【0076】
処理液に含まれる表面処理剤の濃度は、0.05質量%~0.4質量%が好ましく、0.07質量%~0.35質量%がより好ましく、0.09質量%~0.3質量%が更に好ましい。これによれば、ガラスをより好適に表面処理し易くなる。
【0077】
表面処理剤の固着工程では、加熱乾燥温度は、表面処理剤、例えばシランカップリング剤とガラスとの反応が十分に行われるように、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、加熱乾燥温度は、表面処理剤、例えばシランカップリング剤が有する有機基の劣化を防ぐために、300℃以下が好ましく、180℃以下であればより好ましい。
【0078】
ガラスクロスを処理液に浸漬後、絞りローラーで絞り上げてから、ガラスクロスを加熱乾燥するまでに、処理液がガラス表面を弾いてしまい、その箇所の表面処理剤の付着量が極端に少ないか、又は付着していない場合がある。したがって、均一な表面処理加工を行う観点から、被覆工程と固着工程を複数回、例えば2~5回行うことが好ましい。生産性とガラス表面に均一な表面処理加工を両立する観点から、被覆工程及び固着工程は2~3回行うことがより好ましい。
【0079】
仕上げ洗浄工程において、シランカップリング剤残留物及び変性物を除去する方法は浸漬法、シャワー噴霧等の公知の方法を使用でき、必要に応じて加温、冷却してもよい。溶解したガラスクロス付着物が再付着しないように、洗浄後のガラスクロスは絞りローラー等により、仕上げ乾燥前に余剰な溶媒を低減することが好ましい。使用する有機溶媒は、特に限定をしないが、例えば、疎水性の高い有機溶媒としては、
n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、i-デカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン(イソドデカン)などの飽和鎖状脂肪族炭化水素;
シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの飽和環状脂肪族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;
クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどの含ハロゲン溶媒;
等が挙げられる。シランカップリング剤変性物との親和性が高い有機溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;
ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。これらの中でも、得られるガラスクロスの誘電正接をバルク誘電正接に近付けるという観点から、芳香族炭化水素、アルコール類、又はケトン類が好ましく、メタノールがより好ましい。従って、仕上げ洗浄工程における洗浄液としては、メタノールが主成分(洗浄液100質量%に対してメタノール50質量%以上、又は60質量%以上)である洗浄液を用いることが好ましい。
【0080】
仕上げ乾燥工程では、上記仕上げ洗浄工程で用いた洗浄液を低減することができる。乾燥による洗浄液の低減の容易性から、上記仕上げ洗浄工程で用いる洗浄液は、沸点が120℃以下であることが好ましい。乾燥には、加熱乾燥又は送風乾燥の方法を採用できる。なお、洗浄液として有機溶媒を用いる場合、安全上の観点から、低圧蒸気又は熱媒オイル等を熱源とした熱風乾燥により加熱乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度は、洗浄液の沸点以上であることが好ましく、シランカップリング剤の劣化を抑制する観点から180℃以下であることが好ましい。
【0081】
〔表面処理後の開繊工程(G)〕
表面処理剤によって接着されたガラスフィラメントの少なくとも一部を開繊する、開繊工程(G)を行うことが好ましい。開繊工程(G)としては、例えば、ガラスクロスを、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水又はマングル等で開繊加工する方法を採用できる。この開繊加工時に、ガラスクロスに掛かる張力を下げることにより、通気度をより小さくすることができる傾向にある。なお、開繊加工によるガラスクロスの引張強度の低下を抑えるため、ガラス糸を製織する際の接触部材との低摩擦化、及び集束剤の最適化並びに高付着量化、等の対策を施すことが好ましい。
【0082】
以上説明した工程は、必ずしも別工程で行われる必要はなく、複数の工程を1工程にまとめて行うこともできる。例えば、洗浄工程を製織工程後に行う場合には、洗浄工程に高圧水スプレー等を用いることで、開繊工程を兼ねることができる。開繊前後ではガラスクロスの組成は通常変化しない場合が多い。また、ガラスクロスの製造方法は、上記工程以外においても任意の工程を有することができる。例えば、開繊工程後に、スリット加工工程を有することができる。また、可能であれば、上記工程の順番は入れ替えることができる。
【0083】
以上説明した、ガラスクロスの製造方法によれば、ガラスフィラメント間の接着を解消させたのちに、ガラス表面に表面処理剤を均一に塗工することができ、耐CAF性に優れたガラスクロス、及びプリプレグ等を提供することが可能となる。
【0084】
《プリプレグ》
本開示のプリプレグは、本開示のガラスクロスと、当該ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂と、を含有する。これにより、ボイドの少ないプリプレグを提供することができる。
【0085】
マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用可能である。可能であれば、両者を併用してもよいし、他の樹脂を更に含んでもよい。
【0086】
熱硬化性樹脂としては、例えば、
(a)エポキシ基を有する化合物と、該エポキシ基に反応するアミノ基、フェノール基、酸無水物基、ヒドラジド基、イソシアネート基、シアネート基、及び水酸基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るエポキシ樹脂;
(b)アリル基、メタクリル基、及びアクリル基から成る群より選択される少なくとも1つの基を有する化合物を硬化させて成るラジカル重合型硬化樹脂;
(c)シアネート基を有する化合物と、マレイミド基を有する化合物と、を反応させて硬化させて成るマレイミドトリアジン樹脂;
(d)マレイミド化合物と、アミン化合物と、を反応させて硬化させて成る熱硬化性ポリイミド樹脂;
(e)ベンゾオキサジン環を有する化合物を加熱重合により架橋硬化させて成るベンゾオキサジン樹脂;
等が例示される。なお、(a)エポキシ樹脂を得るにあたり、無触媒で化合物を反応させることができ、また、イミダゾール化合物、3級アミン化合物、尿素化合物、及びリン化合物等の反応触媒能を持つ触媒を添加して化合物を反応させることもできる。また、(b)ラジカル重合型硬化樹脂を得るにあたり、熱分解型触媒又は光分解型触媒を反応開始剤として使用することができる。
【0087】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、不溶性ポリイミド、ポリアミドイミド、及びフッ素樹脂等が例示される。高速通信用のプリント配線板の絶縁材料としては、ラジカル反応性に富んだポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルが好ましい。
【0088】
高速通信用のプリント配線板に使用されるマトリックス樹脂が、ビニル基又はメタクリル基を有する場合、疎水性が比較的高く、かつ、メタクリル基等のラジカル反応に関与する官能基を有するシランカップリング剤が、該マトリックス樹脂との相性が良い。
【0089】
上記のとおり、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とは併用することができる。また、プリプレグは、無機充填剤を更に含有することができる。無機充填剤は、熱硬化性樹脂と併用されることが好ましく、例えば、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、マイカ、炭酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ、タルク、ガラス短繊維、ホウ酸アルミニウム、及び炭化ケイ素等が挙げられる。無機充填剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
《プリント配線板》
本開示のプリント配線板は、一つ又は複数の上記プリプレグを含有する。これにより、絶縁信頼性に優れたプリント配線板を提供することができる。
【0091】
《集積回路及び電子機器》
本開示によれば、上記プリント配線板を含む集積回路及び電子機器もまた提供される。本開示のプリント配線板を用いて得られる集積回路及び電子機器は、各種特性に優れる。
【実施例】
【0092】
以下、本開示の実施例及び比較例を詳細に説明するが、本開示は、以下の実施例及び比較例によって限定されない。
【0093】
《測定方法》
〔ガラスクロスの強熱減量値および通気度の測定方法〕
JIS R3420に準拠して、ガラスクロスの強熱減量値および通気度を求めた。
【0094】
〔ガラスクロスの厚さの評価方法〕
JIS R3420の7.10に準じて、マイクロメータを用いて、スピンドルを静かに回転させて測定面に平行に軽く接触させ、ラチェットが3回音をたてた後の目盛を読み取った。
【0095】
〔ガラスクロスの厚みと通気度の積〕
上記の方法で求めたガラスクロスの厚みおよび通気度の積から算出した。
ガラスクロスの厚みと通気度の積=ガラスクロスの厚み(μm)×ガラスクロスの通気度(cm3/cm2/s)
【0096】
〔ガラスクロスの総炭素量の変動係数〕
表面処理したガラスクロスを80~100mgの質量となるように切り出した。切り出したガラスクロスを約800℃で1分間加熱し、発生した気体中の二酸化炭素量をガスクロマトグラフィーで測定し、発生した気体中の二酸化炭素量を求めた。事前に所定量のアセトアニリド(C8H9NO)を同様に約800℃で1分間加熱したときに発生した二酸化炭素量を比較対象にすることで、表面処理ガラスクロスの質量あたりの総炭素量を求めた。測定には、SUMIGRAPH NC-TR22(住化分析センター製)を用いた。
アセトアニリドの分子量=135.17
アセトアニリドの炭素割合=71.09%
【0097】
すなわち、ガラスクロスの質量あたりの総炭素量は、下記式に基づいて算出した。
ガラスクロスの質量当たりの総炭素量=[{アセトアニリドの質量×(アセトアニリドの炭素割合/100)}/アセトアニリドから発生した二酸化炭素由来のピーク面積]×{(ガラスクロスから発生した二酸化炭素のピーク面積/ガラスクロスの質量)×100}
ガラスクロスを切り出す位置を変えながら、合計10箇所でこの操作を行い、それぞれの位置での総炭素量を測定し、平均値および標準偏差を求めた。ガラスクロスの総炭素量の変動係数は下記式に従い、求めた。
ガラスクロスの総炭素量の変動係数(%)=総炭素量の標準偏差÷総炭素量の平均値×100
【0098】
〔窒素含有量の測定方法〕
表面処理したガラスクロスを80~100mgの質量となるように切り出した。切り出したガラスクロスを約800℃で1分間加熱し、発生した気体中の二酸化窒素量をガスクロマトグラフィーで測定し、発生した気体中の二酸化窒素量を求めた。事前に所定量のアセトアニリド(C8H9NO)を同様に約800℃で1分間加熱した際に発生した二酸化窒素量を比較対象にすることで、表面処理ガラスクロスに含まれる、ガラスクロスの質量あたりの、窒素含有量(質量%)を求めた。測定には、SUMIGRAPH NC-TR22(住化分析センター製)を用いた。
アセトアニリドの分子量=135.17
アセトアニリドの窒素割合=10.36%
【0099】
すなわち、ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量は、下記式に基づいて算出した。
ガラスクロスの質量あたりの窒素含有量=[{アセトアニリドの質量×(アセトアニリドの窒素割合/100)}/アセトアニリドから発生した二酸化窒素由来のピーク面積]×{(ガラスクロスから発生した二酸化窒素のピーク面積/ガラスクロスの質量)×100}
【0100】
〔ガラスフィラメントのデスミア減少率〕
膨潤液およびデスミア液は下記表2に記載の配合で、室温下で攪拌することで調合を行った。
【表2】
【0101】
下記の手順でガラスクロスのデスミア処理を行った。なお、ここでの「デスミア処理後」とは膨潤液およびデスミア液にそれぞれ浸漬させて処理を行った状態を意味し、「デスミア処理前」とは膨潤液に浸漬させる処理の前の状態を意味する。
(1)ガラスクロスを4cm角に切り出した。得られたガラスクロスをパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)製の容器に入れて、ガラスクロスが浸漬するまで膨潤液を加えた。
(2)膨潤液が蒸発しないように容器にふたをしたのち、80℃で2時間加熱を行った。膨潤液による処理が完了したガラスクロスをイオン交換水で十分に洗浄したのち、乾燥させた。
(3)操作(2)で得られたガラスクロスを再度PFA製の容器に入れて、ガラスクロスが浸漬するまでデスミア液を加えた。
(4)デスミア液が蒸発しないように容器にふたをしたのち、80℃で2時間加熱を行った。デスミア液による処理が完了したガラスクロスをイオン交換水で十分に洗浄したのち、乾燥させて、ガラスクロスのデスミア処理を完了させた。
(5)デスミア処理前、及びデスミア処理後のガラスクロスを構成するガラスフィラメントの平均径をマイクロスコープ(ハイロックス社製 HRX-1)でガラスフィラメント20本ずつをそれぞれ観察してガラスフィラメントの平均単糸径を求めた。
(6)得られたデスミア処理前後の単糸径からデスミア減少率を下記式によって、算出した。
デスミア減少率=(デスミア処理前の単糸径-デスミア処理後の単糸径)÷デスミア処理前の単糸径×100
【0102】
《製造例》
(実施例1)
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数44本、撚り数1.0Zのシリカガラス糸を用いて、経糸の整経(工程(A))を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.0kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸66本/inch、緯糸68本/inchの織密度でガラスクロス生機を製織した(工程(B))。緯糸として、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数44本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。
【0103】
得られたガラスクロス生機を、60℃のイオン交換水を貯留した水槽に15秒間浸漬するライン速度で搬送させながら、ガラス表面に付着しているサイジング剤を洗浄した(工程(C))。その後、同一ライン上に設けられた加熱炉で、Roll-tо-Roll方式にて大気雰囲気下、1000℃で30秒間加熱し、加熱脱油処理を行った(工程(D))。加熱脱油後のガラスクロスを用いて、同一ライン上に備えた(E)加熱脱油後の開繊工程、(F)表面処理工程、(G)表面処理後の開繊工程で連続加工を行った。この際、ライン速度を20m/min、ガラスクロスの搬送張力を200Nに設定して加工を行った。(E)加熱脱油後の開繊工程では、ガラスクロスを水中で走行させながら、周波数25GHz、出力0.72W/cm2の超音波を照射させ、その後130℃で30秒間ガラスクロスを加熱乾燥させることで、フィラメント間の接着を解消させた。続いて、(F)表面処理工程では、酢酸にてpH=3に調整した純水に、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン;Z6030(ダウ・東レ社製)を0.3質量%分散させた処理液に、ガラスクロスを浸漬、絞液し、その後125℃で30秒間乾燥させた。上記浸漬、絞液及び乾燥の一連の加工を2回行うことで、ガラスフィラメントに表面処理剤を均一塗工した。続いて、(G)表面処理後の開繊工程では、1.4MPa高圧水スプレーから吐出される柱状流でガラスクロスの開繊加工を行い、その後130℃で30秒間乾燥させることで、ガラスクロスを得た。
【0104】
(実施例2)
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数89本、撚り数1.0Zのシリカガラス糸を用いて、(A)経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.5kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸54本/inch、緯糸54本/inchの織密度でクロスを製織した。緯糸として、平均フィラメント径7.5μm、フィラメント数89本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を搬送張力が300Nで加工する点以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0105】
(実施例3)
SiO2組成量が99.9質量%よりも多く、平均フィラメント径6.0μm、フィラメント数22本、撚り数0.6Zのシリカガラス糸を用いて、(A)経糸の整経を行った。このとき、60m/minの搬送速度で引きそろえた経糸を3.0kg/cm2の荷重でロールにてニップすることで、ガラス糸の扁平化を行った。その後、以下の手順で、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂を主成分とするサイジング剤を付着させた。すなわち、PVA(商品名:PVA403、クラレ(株)製)の濃度が5%の水溶液を作製し、この水溶液に潤滑剤として水添ヒマシ油2%を配合し、サイジング剤を得た。60℃で保温したサイジング剤を、ガラス糸に付着させた後に乾燥させることで、サイジング処理を行った。その後、エアジェットルームを用い、経糸95本/inch、緯糸95本/inchの織密度でクロスを製織した。緯糸として、平均フィラメント径6.0μm、フィラメント数22本、撚り数0.6Zのシリカガラスの糸を使用した。得られたガラスクロス生機を搬送張力が100Nで加工する点以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0106】
(実施例4)
経糸および緯糸として、平均単糸径6.0μm、フィラメント数69本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した点以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0107】
(実施例5)
(F)表面処理工程での浸漬、絞液及び乾燥の一連の加工を1回しか行わなかった点以外は実施例4と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0108】
(実施例6)
経糸および緯糸として、平均単糸径5.7μm、フィラメント数78本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した点以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0109】
(比較例1)
経糸および緯糸として、平均単糸径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した点、及び(E)加熱脱油後の開繊工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0110】
(比較例2)
経糸および緯糸として、平均単糸径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0Zのシリカガラスの糸を使用した点、及び(E)加熱脱油後の開繊工程を行わなかったこと以外は実施例2と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0111】
(比較例3)
(E)加熱脱油後の開繊工程を行ったこと以外は比較例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0112】
(比較例4)
(E)加熱脱油後の開繊工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0113】
(比較例5)
(F)表面処理工程の回数が1回である点以外は比較例4と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0114】
(比較例6)
(A)経糸の整経でニップをしなかった点以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0115】
(比較例7)
(C)サイジング剤の洗浄を行わなかった点以外は実施例1と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0116】
(比較例8)
ガラス糸としてEガラス(SiO2組成量が55質量%)を用いた点以外は比較例4と同様の方法でガラスクロスを加工した。
【0117】
《評価方法》
〔積層板の絶縁信頼性(耐CAF性)の評価方法〕
トルエン210質量部に対し、タフテックH1041(登録商標、水添スチレン系熱可塑性エラストマー、旭化成株式会社製)を9質量部添加し、攪拌、溶解させた。次いで、SAYTEX8010(登録商標、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、アルベマール社製)、球状シリカ SC2500-SVJ(登録商標、株式会社アドマテックス社製)、及びNorylSA9000(商品名、ポリフェニレンエーテル、SABIC社製)をそれぞれ24.5質量部、66質量部、及び80質量部添加し、NorylSA9000が溶解するまで攪拌を継続した。次いで、TAIC(登録商標、トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカル株式会社製)、及びパーブチルP(登録商標、α,α’-ジ(t-ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、日油株式会社製)をそれぞれ20質量部、及び0.5質量部添加し、十分に攪拌して、ワニスを得た。このワニスに実施例及び比較例で得たガラスクロスを含浸させてから、115℃で1分間乾燥後、プリプレグを得た。得られたプリプレグを重ね、更に上下に厚さ12μmの銅箔を重ね、200℃、40kg/cm2で120分間加熱加圧して、厚さ1.0mmの積層板を得た。得られた積層板の両面の銅箔上に、0.30mm間隔のスルーホールを配する配線パターンを作製して絶縁信頼性評価の試料を得た。得られた試料に対して温度85℃湿度85%RHの雰囲気下で50Vの電圧を掛け、抵抗値の変化を測定した。この際、試験開始後500時間以内に抵抗が1MΩ未満になった場合を絶縁不良としてカウントした。10枚の試料について同様の測定を行い、10枚中絶縁不良となったサンプルの枚数を求めた。
【0118】
実施例及び比較例の製造条件及び評価結果を表3及び4に示す。
【0119】
【0120】
【要約】
本開示は、二酸化ケイ素(SiO2)含有量の高いガラス糸から構成され、積層体の絶縁信頼性を向上させることができる石英ガラスクロス、並びにこれを含むプリプレグ、及びプリント配線板等を提供することを目的とする。本開示によれば、複数本のフィラメントを含むガラス糸を経糸および緯糸として構成されるガラスクロスが提供される。上記ガラス糸におけるケイ素(Si)含量は、二酸化ケイ素(SiO2)換算で95.0質量%~100質量%であり、上記フィラメントの平均単糸径(D)は4.5μm~9.0μmの範囲である。上記ガラスクロスの厚み(T)と上記フィラメントの平均単糸径(D)との関係が、下記式:24.0×D-T>96.0を満たす。そして、上記ガラスクロスの厚みと通気度の積(μm・cm3/cm2/s)が、2500~6000の範囲である。