(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】放射線測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20008 20180101AFI20240510BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20240510BHJP
【FI】
G01N23/20008
G01N23/20
(21)【出願番号】P 2021047755
(22)【出願日】2021-03-22
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆二
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05966423(US,A)
【文献】特開平08-166361(JP,A)
【文献】特開2012-103224(JP,A)
【文献】特開平05-126767(JP,A)
【文献】特開2001-311705(JP,A)
【文献】特表2005-515435(JP,A)
【文献】特開昭60-122362(JP,A)
【文献】米国特許第04412345(US,A)
【文献】米国特許第06064717(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0262895(US,A1)
【文献】特開昭55-066726(JP,A)
【文献】実開昭48-095685(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01L 1/00 - G01L 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する空間を空けて配置される一対の支持部と、
前記一対の支持部により支持されるフレームと、
前記フレームに移動可能に接続され、放射線を照射する照射部と、
前記フレームに移動可能に接続され、前記試料で散乱された放射線を検出する検出部と、
を備え、
前記照射部および検出部は、前記フレームに対し同一の平面内で移動可能であ
り、
前記フレームは、前記平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸で前記照射部を移動させる第1の移動機構と、前記平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸で前記検出部を移動させる前記第1の移動機構とは異なる第2の移動機構とを有することを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸および前記平面に垂直な1つの回転移動軸を有することを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項3】
前記照射部は、前記平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸および前記平面に垂直な1つの回転移動軸を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の放射線測定装置。
【請求項4】
前記フレームは、前記一対の支持部により2点の支点で支持され、前記支点を結ぶ回転移動軸を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の放射線測定装置。
【請求項5】
前記フレームは、一体に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の放射線測定装置。
【請求項6】
前記フレームは、前記照射部側と前記検出部側とに分離されて構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の放射線測定装置。
【請求項7】
前記フレームに設置され、試料表面の位置を検出するセンサをさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の放射線測定装置。
【請求項8】
前記フレームは、前記一対の支持部に対して前記平面と平行な方向に移動できる平行移動機構を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の放射線測定装置。
【請求項9】
前記一対の支持部は、前記空間に載置された試料に対して近接および離間できる移動機構を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の放射線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な試料の測定を可能にする機構を有する放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大型で複雑な部品をそのままの形状でX線により構造解析したいという要望がある。しかし、大型の試料に対して、X線を用いて構造解析や応力解析を行なおうとすると、そのままでは一般的な回転機構のゴニオメーターを有する据置型装置に設置できない。そのような場合には、試料を切断して測定する方法が知られている(非特許文献1)。
【0003】
一方、可搬型装置であれば、試料を切断することなく、その場でX線を照射し測定できる。しかし、可搬型装置であっても複雑形状又は一定のサイズを超えると入射光学系から測定表面までの距離やカメラ長が不足し、測定は困難になる。
【0004】
このような事情を考慮し、様々なサイズや形状の試料に対しX線回折測定を行うための装置が提案されている。例えば、特許文献1記載のX線回折装置では、フィクスチャリングが歯車などのさまざまな部品を保持し、X線検出器アセンブリを担持したX線ヘッドがシフト可能に支持されている。さまざまなサイズに専用のX線ヘッドが使用可能であり、z軸方向ならびにy軸方向など、複数の異なる直線方向でシフト可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】sin2ψ法、JSMS-SD-10-05 Standard Method for X-Ray Stress Measurement, 2005, The Society of Materials Science, Japan
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載のX線回折装置であっても、フィクスチャリングのサイズにあった試料でなければ測定は難しい。また、X線ヘッドがX線検出器アセンブリを担持しており、測定は狭い回折角の範囲に限られる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、各部の配置を容易にし、効率的でかつ汎用性の高い測定を実現できる放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の放射線測定装置は、試料を載置する空間を空けて配置される一対の支持部と、前記一対の支持部により支持されるフレームと、前記フレームに移動可能に接続され、放射線を照射する照射部と、前記フレームに移動可能に接続され、前記試料で散乱された放射線を検出する検出部と、を備え、前記照射部および検出部は、前記フレームに対し同一の平面内で移動可能であることを特徴としている。
【0010】
これにより、一対の支持部の間に形成された空間を用いて、大きな試料を広い範囲の回折角で測定できる。そのため、低角度側の回折を測定しやすくなる。また、同一の平面内で照射部、検出部を含む各部を移動可能であるため、各部の配置が容易である。このように形成された空間で試料を支持し、照射部、検出部を様々に配置して試料を測定できるため、例えば複雑形状の小さな試料であっても放射線測定が可能となる。このようにして、効率的でかつ汎用性の高い測定を実現できる。
【0011】
(2)また、本発明の放射線測定装置は、前記検出部が、前記平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸および前記平面に垂直な1つの回転移動軸を有することを特徴としている。このように3つの移動軸を用いることにより配置を調整できるため、適切に回折線を検出することができる。また、カメラ長を調整して空気による減衰を防止でき、迅速な測定を可能にする。
【0012】
(3)また、本発明の放射線測定装置は、前記照射部が、前記平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸および前記平面に垂直な1つの回転移動軸を有することを特徴としている。これにより、照射部の位置を調整し、試料上の入射点の位置を柔軟に制御できる。これにより、複雑形状の試料に対しても測定が可能になる。
【0013】
(4)また、本発明の放射線測定装置は、前記フレームが、前記一対の支持部により2点の支点で支持され、前記支点を結ぶ回転移動軸を有することを特徴としている。これにより、回転移動軸をψ軸として用い、側傾法により容易に試料の応力を測定できる。
【0014】
(5)また、本発明の放射線測定装置は、前記フレームが、一体に形成されていることを特徴としている。これにより、照射部または検出部の移動機構をフレームに対するスライド構造で形成し、それらの移動を所定面内に拘束できる。
【0015】
(6)また、本発明の放射線測定装置は、前記フレームが、前記照射部側と前記検出部側とに分離されて構成されていることを特徴としている。これにより、分離されたフレームの中央が空くため、外形の大きな試料を間に入れて測定できる。
【0016】
(7)また、本発明の放射線測定装置は、前記フレームに設置され、試料表面の位置を検出するセンサをさらに備えることを特徴としている。これにより、試料を容易かつ正確に位置決めできる。
【0017】
(8)また、本発明の放射線測定装置は、前記フレームが、前記一対の支持部に対して前記平面と平行な方向に移動できる平行移動機構を有することを特徴としている。これにより、フレームのたわみを調整できる。
【0018】
(9)また、本発明の放射線測定装置は、前記一対の支持部が、前記空間に載置された試料に対して近接および離間できる移動機構を有することを特徴としている。これにより、試料の載置や試料に対する測定系の粗動が容易になり、効率の高い測定が可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、各部の配置を容易にし、効率的でかつ汎用性の高い測定を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の放射線測定システムを示す斜視図である。
【
図3】(a)、(b)それぞれ試料を模式的に示す正断面図および平面図である。
【
図4】入射光学系および受光光学系の配置例を示す概略図である。
【
図5】カメラ長に対する2θ測定角度範囲を示すグラフである。
【
図6】各反射面の特性X線の波長に対する2θを示すグラフである。
【
図7】(a)~(c)それぞれ入射面に沿って測定位置を正面左側、中央および正面右側に設定したときの放射線測定装置を示す斜視図である。
【
図10】(a)~(c)それぞれフレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定した放射線測定装置を示す斜視図である。
【
図11】(a)~(c)それぞれ中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定した放射線測定装置による高角測定を示す斜視図である。
【
図12】(a)~(c)それぞれ中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定した放射線測定装置による低角測定を示す斜視図である。
【
図13】(a)~(c)それぞれカウンターウェイト付き中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定した放射線測定装置の高角測定を示す斜視図である。
【
図14】(a)~(c)それぞれカウンターウェイト付き中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定した放射線測定装置の低角測定を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
[第1実施形態](低角度でのX線構造解析)
(システム構成)
図1は、X線測定システム10を示す斜視図である。X線測定システム10は、X線測定装置100(放射線測定装置)および制御装置500を備えている。なお、以下ではX線を用いる場合を一例として説明するが、α線、中性子線、電子線、γ線等の放射線を用いることもできる。X線測定装置100は、大型または複雑形状の試料に対してカメラ長や回折角を調整できる構成を有している。制御装置500は、PCのようにプロセッサおよびメモリを備え、プログラムの実行が可能なコンピュータである。制御装置500の制御指示に従ってX線測定装置100が動作する。
【0023】
(装置構成)
X線測定装置100は、一対の支持部110、120、フレーム130、照射部150、検出部170およびセンサ190を備えている。
図1に示す例では、一対の支持部110、120の間に試料S1としてタービンブレードが載置されている。
図1における矢印F1は、正面から見たときの方向を示している。以下の説明における「上下」、「左右」、「前後」は、正面から見たときの方向を意味している。
【0024】
一対の支持部110、120は、試料S1を載置する空間を空けて配置され、フレーム130を支点115、125回りに揺動可能に支持している。これにより、一対の支持部110、120の間に形成された空間を用いて、大きな試料を載置でき、広い範囲の回折角で測定できる。そのため、低角度側の回折を測定しやすくなる。試料の例については後述する。
【0025】
一対の支持部110、120は、支点115、125が同一の高さになるように調整されている。試料S1の測定位置が、測定時には支点115、125を結ぶ軸(χ軸)上に配置されるように操作されることが好ましい。一対の支持部110、120は、上下軸に沿って上下に移動するための上下移動機構111、121、および前後移動軸に沿って奥側と手前側に移動するための前後移動機構113、123を備えることが好ましい。上下軸は、上下移動機構111、121内に位置する鉛直方向の軸であり、前後移動軸は、前後移動機構113、123内に位置するχ軸に垂直な方向かつ水平方向の軸である。
【0026】
上下移動機構111、121は、χ軸の回転中心高さに測定位置高さを調整するために使用する。前後移動機構113、123は、χ軸を傾けてX線照射位置がたわみ等でずれてしまった場合でも照射位置を常に同じにするために用いられる。いずれの移動機構もギアによる可動機構を採用できる。特に上下移動機構111、121は、粗動および微動による制御が可能になっている。
【0027】
このように一対の支持部110、120は、空間に載置された試料S1に対して近接および離間できる移動機構として上下移動機構111、121を有することが好ましい。これにより、試料S1の載置や試料S1に対する測定系の粗動が容易になり、効率の高い測定が可能になる。
【0028】
フレーム130は、一対の支持部110、120により支持される。フレーム130は、一対の支持部110、120により2点の支点115、125で支持され、支点115、125を結ぶ軸(χ軸)の回りで回転するχ軸回転機構117、127を備えることが好ましい。これにより、χ軸を中心に照射部150および検出部170を回転させることができχ軸をψ軸として側傾法により容易に試料S1の応力を測定できる。支点115、125は、それぞれχ軸回転機構117、127内に位置する。なお、χ軸回転機構117、127は、X線の入射角度の走査面および検出器角度の走査面に直交した方向に、光学系を傾けるために使用できる。χ軸回転機構117、127は、試料面法線と回折面法線を一致させる、または任意に傾けた角度に設定するためにも使用できる。χ軸回転機構117、127には、ギアによる可動機構を採用できる。
【0029】
フレーム130は、一体にU字状に形成されていることが好ましい。これにより、照射部150または検出部170の移動機構をフレーム130に対するスライド構造で形成し、それらを所定面(入射面に平行な面)内のみで移動できるように構成することができる。U字状のフレーム130の2つの先端部分が回転可能に支点位置で支持部110、120に支持されている。
【0030】
フレーム130は、一対の支持部110に対して所定面と平行でθ上下軸に沿った方向に移動できる平行移動機構として、θ上下移動機構131、132を備えることが好ましい。θ上下軸は、θ上下移動機構131、132内においてχ軸に垂直でχ軸とX線源とを結ぶ方向に平行に位置する。θ上下移動機構131、132は、θs上下移動機構135およびθd上下移動機構136の可動範囲の変更に用いられる。また、θ上下移動機構131、132は、試料S1のサイズに応じたワーキングスペースの変更、またはθs上下移動機構135およびθd上下移動機構136の長いストロークによるたわみ発生の軽減にも用いられる。なお、θ上下移動機構131、132には、ギアによる可動機構を採用できる。
【0031】
照射部150は、フレーム130に移動可能に接続され、X線を照射する。照射部150は、少なくともX線源を含み、場合によりスリット、ミラー等の光学機器を含む。照射部150は、フレーム130に対し同一の平面内で移動可能である。なお、同一の平面とは、入射面であり、駆動機構に伴う誤差を含み概ね同一の平面を指す。照射部150は、所定の平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸および所定の平面に垂直な1つの回転移動軸を有することが好ましい。これにより、照射部150の位置を調整し、試料S1上の入射点の位置を柔軟に制御でき、複雑形状の試料に対しても測定が可能になる。
【0032】
所定の平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸には、θs左右移動軸およびθs上下軸が挙げられる。θs左右移動軸は、フレーム130内に位置するχ軸に平行な軸であり、θs上下軸は、θs上下移動機構135内に位置し、χ軸に垂直な軸である。θs左右移動機構133は、照射部150のθs左右移動軸に沿った移動を可能にし、X線の入射角度を調整および走査、対象物サイズに合わせた入射距離の調整に用いられる。また、θs左右移動機構133は、対象物を測定位置にセットする際に装置と干渉しないように退避移動するために用いられてもよい。θs左右移動機構133には、ギアによる可動機構を採用できる。
【0033】
θs上下移動機構135は、θs上下軸に沿ってX線の入射角度の調整および走査に用いられる。θs上下移動機構135は、対象物サイズに合わせた入射距離の調整に用いられてもよい。また、θs上下移動機構135は、対象物を測定位置にセットする際に装置と干渉しないように退避移動するために用いられてもよい。θs上下移動機構135には、ギアによる可動機構を採用できる。θs左右移動機構133およびθs上下移動機構135は、フレーム130の左右に伸びる部分(U字形状の底の部分)にスライド可能な構造で接続されていることが好ましい。また、θs回転機構137は、θs上下移動機構135の先端に照射部150を回転可能に保持していることが好ましい。
【0034】
所定の平面に垂直な1つの回転移動軸としてはθs回転軸が挙げられる。θs回転機構137は、照射部150のθs回転軸回りの回転駆動を行い、X線の入射角度を調整および走査に用いられる。また、θs回転機構137は、入射角度のオフセットに用いられてもよい。θs回転機構137には、ギアによる可動機構を採用できる。
【0035】
検出部170は、フレーム130に移動可能に接続され、試料S1で散乱されたX線を検出する。例えば、検出部170には、2次元半導体X線検出器を用いることが好ましいが、それ以外の2次元検出器や0次元、1次元検出器を用いることもできる。検出部170は、フレーム130に対し同一の平面内で移動可能である。なお、同一の平面とは、入射面であり、駆動機構に伴う誤差を含み概ね同一の平面を指す。このように同一の平面内で検出部170を移動可能に構成されているため、検出部170の配置が容易である。
【0036】
検出部170は、所定の平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸および所定の平面に垂直な1つの回転移動軸を有することが好ましい。これらの3つの移動軸により検出部170の配置を調整できるため、入射線に対して適切に回折線を検出することができる。また、カメラ長を調整して空気による減衰を防止でき、迅速な測定を可能にする。
【0037】
所定の平面に平行で互いに直交する2つの平行移動軸としては、θd左右移動軸およびθd上下軸が挙げられる。θd左右移動軸は、フレーム130内に位置するχ軸に平行な軸であり、θd上下軸は、θd上下移動機構136内に位置し、χ軸に垂直な軸である。θd左右移動機構134は、θd左右移動軸に沿って検出部170を移動可能にし、検出部170の角度の調整および走査に用いられる。θd左右移動機構134は、試料サイズに合わせたカメラ長の調整に用いられてもよい。また、θd左右移動機構134は、試料を測定位置にセットする際に装置と干渉しないように退避移動するために用いられてもよい。θd左右移動軸には、ギアによる可動機構を採用できる。
【0038】
θd上下移動機構136は、θd上下軸に沿って検出部170を移動可能にし、検出部170の角度の調整および走査に用いられる。また、θd上下移動機構136は、試料サイズに合わせたカメラ長の調整に用いられてもよく、試料を測定位置にセットする際に装置と干渉しないように退避移動するために用いられてもよい。θd上下移動機構136には、ギアによる可動機構を採用できる。
【0039】
所定の平面に垂直な1つの回転移動軸としては、θd回転軸が挙げられる。θd回転機構138は、θd回転軸回りに検出部170を回転させる。θd回転機構138は、検出部170の角度を調整、走査および検出器角度のオフセットに用いられる。θd回転機構138には、ギアによる可動機構を採用できる。θd左右移動機構134およびθs上下移動機構136は、フレーム130の左右に伸びる部分(U字形状の底の部分)にスライド可能な構造で接続されていることが好ましい。また、θd回転機構138は、θd上下移動機構136の先端に検出部170を回転可能に保持していることが好ましい。
【0040】
センサ190は、フレーム130に設置され、試料S1の表面の位置を検出する。これにより、試料S1を容易かつ正確に位置決めできる。センサ190には、エンコーダまたはレーザー変位計を用いることができる。センサ190は、照射部150と検出部170との間に位置し、照射部150および検出部170が左右方向に移動できるのに伴い、センサ190も同様に左右方向に移動できる。このように、試料S1に対するフレーム130の上下および左右の移動は、機械精度に頼らず、センサによる測長で現在位置を要求分解でフィードバックして制御することが好ましい。
【0041】
(好適な試料の例)
上記のように構成されたX線測定装置100は、特に大型、複雑形状またはそれらを組み合わせた試料に好適である。
図2は、試料S2の一例を示す斜視図である。試料S2は、歯車であり、凹部の構造をX線で測定しようとすると、凸部が邪魔になり、X線を当てることができず測定が難しい。歯底の測定は比較的容易であるものの、歯面や歯元の測定は特に困難である。
【0042】
大型で複雑形状を持つ航空機ジェットエンジンのタービンブレードについても歯車と同様にブレードの中央や付け根の部分の測定が困難である。
図3(a)、(b)は、上記のような測定困難な試料の例を模式的に示している。
図3(a)、(b)は、それぞれ試料S3を模式的に示す正断面図および平面図である。なお、
図3(b)に示す一点鎖線3aは、
図3(a)の断面を示している。
【0043】
図3(a)に示すように、試料S3は凹凸を繰り返す形状を有している。このような試料S3の測定点S3a~S3dの構造を解析する場合、X線を低角度で回折させるのが有効である。
図3(b)に示す例では、低角度のピークを用いて測定点S3aにX線を照射し、回折X線を検出している。X線測定装置100では、照射部150および検出部170の所定の面内での平行移動および回転移動が可能である。これにより、低角度のピークを利用した構造解析が可能になっている。
【0044】
測定点S3a、S3bを測定する場合は、
図1に示すように試料S3の歯先が垂直となる位置にX線を照射して測定することができる。測定点S3cとdを測定する場合は歯先が水平となる位置にX線を照射して測定することができる。
【0045】
このようなタービンブレード以外に、ブリスク、自動車部品のクランクシャフトなどの狭隘部、金型の凹部についても、部品形状のまま計測したい要望があり、X線測定装置100はこの要望に対応できる。複合材料、高分子材料または薄膜材料の大型部品についても同様である。また、格納上の問題でこれまで格納できなかった大型部品の測定や、複雑な形状によりX線を照射若しくは回折X線を検出できなかった部品も測定対象とすることができる。試料の材質として、金属、セラミックス、複合材料、高分子材料、薄膜材料等を測定対象とすることができる。
【0046】
ブリスクやクランクシャフトの付け根等は、従来の装置では、部品が装置内に設置できない。従来の装置では測定できない箇所は、設計上負荷がかかる箇所であることが多い。部品形状のまま非破壊で測定することで、その部品の品質向上や設計評価への応用に対する期待は高く、自動車・航空機産業ではCO2削減や燃費向上のため、車体・機体の軽量化が促進されていることから、より一層、部品の強度評価の重要性は高まっている。
【0047】
なお、測定の需要がある試料は様々であり、鉄鋼材料、Al、Ni、Tiなどの主要な金属材料の応力解析であれば、2θ=50°~120°で測定できる。また、PP、PE、PEEK、GERPなどのエンジニアリングプラスチックやTiN、Cr、Cuの薄膜材料であっても2θ=5°~80°程度で測定が可能である。
【0048】
また、X線測定装置100は、応力解析に限らず、定性・定量評価、集合組織評価にも利用できる。例えば、金属材料では定量等の評価への応用が考えられる。特に、鉄鋼材料における残留オーステナイトの定量には有効である。また、エンジニアリングプラスチックの定量評価(結晶化度評価)への応用も可能である。
【0049】
(各光学系の配置)
図4は、入射光学系および受光光学系の配置例を示す概略図である。X線測定装置100では、カメラ長CLと回折角2θを任意に設定できる。所定の面内での位置(Hn,Wn)と、カメラ長CLと回折角2θとの関係は以下の通りである。
Hn= sinθ × CL
Wn= cosθ × CL
【0050】
したがって、所定の平面内での検出部170の上下移動、左右移動および回転による2θ/θ移動が可能になる。例えば、検出部170のみ、カメラ長を固定して上下移動、左右移動および回転を行い、試料S4に対して2θ複数露光を行うことができる。制御装置500からは、χ軸の角度と、照射部150および検出部170のそれぞれのθおよび測定点までの距離を指定すれば、配置が決まる。なお、X線測定装置100では、照射部150の位置も所定の平面内で自在に移動可能である。
【0051】
図5は、カメラ長に対する2θ測定角度範囲を示すグラフである。2θ測定角度範囲15°以上35°以下、最大2θ/θ角度60°以上135°以下に対し、カメラ長100mm以上300mm以下(
図5に示す太枠の領域内)が、実際に測定でよく使われる。X線測定装置100を用いることで、この領域内における測定が可能となる。
【0052】
図6は、各反射面の特性X線の波長に対する2θを示すグラフである。Cr波長で高角度側の測定は従来の装置でも評価が可能である。これに対し、2θ=135°以下の角度で試料の評価をする場合には、X線測定装置100が好適である。また、Cu、Coの波長をメインに、2θ=120°以下の低角度で大型複雑形状部の評価をする場合には、X線測定装置100がさらに好適である。
【0053】
図7(a)~(c)は、それぞれ入射面に沿って測定位置を正面左側、中央および正面右側に設定したときのX線測定装置100を示す斜視図である。
図7(a)~(c)に示すように、X線測定装置100は、試料S5上の測定点を移動させて測定することも容易に行うことができる。
【0054】
(試料出し入れ時の配置)
照射部150および検出部170は、X線測定装置100の正面からみて中央付近にあると試料の出し入れの際に部品や移動軸が邪魔になったり、試料と接触していずれかが破損したりすることが生じうる。そこで、そのような事故を避けるために、試料の出し入れ時には、照射部150および検出部170を退避位置に移動させることが好ましい。
【0055】
退避位置としては、θs側とθd側のいずれも上下移動軸は一番上の位置であり、左右移動軸も装置中央から一番離れた端の位置(支持部側の位置)である配置が挙げられる。これにより、それぞれの軸やこれに搭載される部品がU字形状のフレーム130の角の位置に移動することになり、事故を回避することができる。測定開始時および測定終了時もこの位置にあることが好ましい。これにより、測定者は、広い空間の中で、大型または複雑形状の試料の出し入れや、その他の必要な作業を行うことができる。
【0056】
(部品交換時の配置)
照射部150や検出部170に関連する部品を交換したり、整備したりする場合には、U字形状のフレーム130の中央付近に軸と部品が移動することが好ましい。これにより、例えば、メンテナンス時に、作業者は、広い空間の中で、容易に作業することができる。
【0057】
[第2実施形態](応力解析)
X線測定装置100は、特に応力解析に好適である。
図8は、並傾法の構成を示す斜視図である。並傾法は、検出部走査面(入射X線と回折X線のなす面)と測定方向が平行になる走査法である。
図8に示す例では、照射部150がX線を試料S6に照射し、検出部170が試料S6で回折されたX線を検出しており、ψ軸がz軸からy軸に向かって傾いている。
図7(a)~(c)に示すような配置で、高角度で照射部150と検出部170の角度を調整すれば、X線測定装置100を用いて容易に並傾法を行うことができる。
【0058】
図9は、側傾法の構成を示す斜視図である。側傾法は、検出部走査面と測定方向が直交する走査法である。
図9に示す例では、照射部150がX線を試料S6に照射し、検出部170が試料S6で回折されたX線を検出しており、ψ軸がz軸からx軸に向かって傾いている。側傾法は、歯車歯底や複雑形状部を測定する際、X線経路を確保するのに有効である。X線測定装置100では、χ軸を回転させることで容易に側傾法を行うことができる。
図10(a)~(c)は、それぞれフレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定したX線測定装置100を示す斜視図である。このように面内で適切な配置をとり、χ軸で入射面(所定の面)を傾けることで容易に側傾法を行うことができる。
【0059】
X線測定装置100では、応力測定で推奨されていたひずみ感度が高い(ピークシフト量が大きい)高角度側の回折線を使用せず、低角度側の回折線を使用することが可能になる。その結果、試料と装置との干渉が避けやすく、複雑形状部の応力測定が可能となる。
【0060】
[第3実施形態](中央分離型)
フレーム130は、照射部150側と検出部170側とに分離されて構成されていてもよい。これにより、分離されたフレーム130の中央が空くため、外形の大きな試料Sを間に入れて測定できる。
図11(a)~(c)は、それぞれ中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定したX線測定装置200による高角測定を示す斜視図である。X線測定装置200は、フレーム231、232をのぞけば、X線測定装置100と同様に構成されている。
【0061】
中央で分離されたフレーム231、232は、L字状に形成され、それぞれ支持部110、120により支持されている。フレーム231、232のχ軸回転角度は常に一致するように構成される。したがって、この場合でも照射部150および検出部170は、同一面内で移動する。
図11(a)~(c)に示す例では、照射部150と検出部170がそれぞれL字状のフレーム231、232の先端に配置され、装置の中央部に集まっている。このような場合には、回折角が高角度となる。
【0062】
図12(a)~(c)は、それぞれ中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定したX線測定装置200による低角測定を示す斜視図である。
図12(a)~(c)に示す例では、照射部150と検出部170がそれぞれ支持部110、120の角の近くに配置されている。このような場合には、測定されるX線の回折角が低角度となる。なお、フレーム231、232の分離区間を大きくとれば、フレーム231、232間に大きい空間を確保できる。そして、大型形状の試料であっても装置の中央付近に設置すれば測定がしやすくなる。
【0063】
[第4実施形態](カウンターウェイト型)
第3実施形態では、中央分離型フレームを有するX線測定装置200を説明しているが、第4実施形態では、さらにカウンターウェイト310、320を有するX線測定装置300の構成を説明する。
図13(a)~(c)は、それぞれカウンターウェイト付き中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定したX線測定装置300の高角測定を示す斜視図である。
図14(a)~(c)は、それぞれカウンターウェイト付き中央分離型フレームの傾斜を奥側、中央および手前側に設定したX線測定装置300の低角測定を示す斜視図である。
【0064】
図13(a)~(c)に示すX線測定装置300は、各フレーム331、332の支点315の反対側にカウンターウェイト310、320を備えている。カウンターウェイト310、320によりχ軸に掛かる重心位置をχ軸中心付近に配置することで、χ軸が傾いた際に重心位置の変動が小さくなるため、小さなトルクで各フレーム331、332が滑らかに動くようになる。このようにして、重心位置が固定され、フレーム331、332のχ軸回転が滑らかになり、高精度で制御可能になる。
【0065】
[その他]
X線測定装置100には、引張試験機や疲労試験機または加工機器等が設置できる空間スペースがあることから、試験中にIn-situでの測定が可能となる。応力測定のみならず粉末解析も行え、より高度な研究開発における分析が行える。なお、X線測定装置100は、大型試料や複雑形状の試料に限定されず、小型部品や単純形状の部品にも適用可能である。
【0066】
X線測定装置100においてχ軸回転により各フレーム331、332が傾く方向には、スペースが存在するため、そのスペースにベルトコンベア等でサンプルを一方向に自動で流すことも可能である。このようなサンプルの運び入れにより、製品の製造ラインから抜き取り検査等で全自動で行うことも可能である。その場合には、サンプルをスペースに運び入れ、測定し、問題なければラインに製品を戻すこともできる。
【符号の説明】
【0067】
10 X線測定システム
100 X線測定装置
110、120 支持部
111、121 上下移動機構
113、123 前後移動機構
115、125 支点
117、127 χ軸回転機構
130 フレーム
131、132 上下移動機構
133 θs左右移動機構
134 θd左右移動機構
135 θs上下移動機構
136 θd上下移動機構
137 θs回転機構
138 θd回転機構
150 照射部
170 検出部
190 センサ
200 X線測定装置
231、232 フレーム
300 X線測定装置
310、320 カウンターウェイト
315 支点
331、332 フレーム
500 制御装置
CL カメラ長
F1 矢印
S1~S6 試料
S3a~S3d 測定点