(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂粒子及び貼り合わせ方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240510BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240510BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240510BHJP
C08K 7/22 20060101ALI20240510BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L101/00
B32B27/00 C
C08L33/04
C08K7/22
C08F2/24 Z
(21)【出願番号】P 2020005446
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】石倉 宏樹
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/050177(WO,A1)
【文献】特開平08-113654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂バインダーと、前記樹脂バインダーに分散された樹脂粒子とを含み、前記樹脂粒子は、下記式(2)で表される界面活性剤Aを分散剤として、内部に複数の水滴が取り込まれた、重合性不飽和炭化水素基を有する重合性単量体の液滴を重合して得られた、内部に複数の空孔を有する中空樹脂粒子であり、
前記重合性単量体が、(メタ)アクリル単量体および芳香族ビニル単量体のうち少なくとも前記(メタ)アクリル単量体を含み、
加圧されたときに前記樹脂粒子が変形し、前記複数の空孔の体積が減少して圧力がかかった部分のヘイズが低下することを特徴とする樹脂組成物。
T
1O-(RO)n(EO)m-T
2 …(2)
式(2)中、T
1は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または炭素数2~18のアルケニル基であり、T
2は水素原子、スルホン酸基、スルホン酸塩基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、リン酸基、リン酸塩基、アミノ基、またはアンモニウム基であり、ROは炭素数3~18のオキシアルキレン基であり、nは1~50の整数であり、EOはオキシエチレン基を示し、mは0~200の整数である。
【請求項2】
前記樹脂粒子の23℃下での10%変形時の強度が、同一組成の中実樹脂粒子の前記強度の80%以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂粒子の前記強度が15MPa以下である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂粒子のガラス転移温度が80℃以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記重合性単量体
100質量部に対する前記(メタ)アクリル単量体の比率が70~100質量部、前記芳香族ビニル単量体の比率が0~30質量部である請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂バインダーがアクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、またはそれらの共重合体もしくは混合物を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
下記式(2)で表される界面活性剤Aを分散剤として、内部に複数の水滴が取り込まれた、重合性不飽和炭化水素基を有する重合性単量体の液滴を重合して得られた、内部に複数の空孔を有する中空樹脂粒子であり、
前記重合性単量体が、(メタ)アクリル単量体および芳香族ビニル単量体のうち少なくとも前記(メタ)アクリル単量体を含み、
23℃下での10%変形時の強度が、同一組成の中実樹脂粒子の前記強度の80%以下であることを特徴とする樹脂粒子。
T
1O-(RO)n(EO)m-T
2 …(2)
式(2)中、T
1は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または炭素数2~18のアルケニル基であり、T
2は水素原子、スルホン酸基、スルホン酸塩基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、リン酸基、リン酸塩基、アミノ基、またはアンモニウム基であり、ROは炭素数3~18のオキシアルキレン基であり、nは1~50の整数であり、EOはオキシエチレン基を示し、mは0~200の整数である。
【請求項8】
前記強度が15MPa以下である請求項7に記載の樹脂粒子。
【請求項9】
ガラス転移温度が80℃以下である請求項7または8に記載の樹脂粒子。
【請求項10】
前記重合性単量体
100質量部に対する前記(メタ)アクリル単量体の比率が70~100質量部、前記芳香族ビニル単量体の比率が0~30質量部である請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂粒子。
【請求項11】
少なくとも一方が透明な第1の基材および第2の基材の間に請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を配置し、前記樹脂組成物のヘイズが低下するだけの圧力を掛けて前記第1の基材と前記第2の基材とを圧着することを特徴とする貼り合わせ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂粒子及び貼り合わせ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に粘着剤を塗布し、その上に別の基材を重ね、圧力を掛けて基材同士を貼り合わせる場合、貼付のための適正な圧力が掛かったかどうか(圧力履歴)を目視で確認することは難しい。
【0003】
ところで、特許文献1には、密封容器に収容された飲料等の内容物の加熱殺菌のための高圧処理工程で使用される感圧インジケータ付容器が提案されている。この感圧インジケータは、基材シートと、基材シート上に設けられた顕色剤層と、顕色剤層上に設けられ、発色剤が含有されたカプセルを含む発色剤層とを有する。感圧インジケータ付容器を高圧処理した際、カプセルが破壊されて発色剤が顕色剤層側へ移行し、顕色剤層が高圧処理の圧力の程度に応じて不可逆に発色する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
貼り合わせる基材の少なくとも一方が透明な場合、貼り合わせる基材の間に上記感圧インジケータ及び粘着剤を配置して基材同士を貼り合わせると、感圧インジケータの発色により圧力履歴を確認できると考えられる。
しかし、この場合、貼り合わせ後に発色が透明な基材を通して観察されるため、用途によっては使用できない。また、上記感圧インジケータは、発色剤が含有されたカプセルの製造工程が煩雑なものであるため、生産性が低い問題もある。
【0006】
本発明は、少なくとも一方が透明な基材同士の貼り合わせにおいて圧力履歴を示すことができる樹脂組成物、前記樹脂組成物に用いることが可能な樹脂粒子、及び少なくとも一方が透明な基材同士の貼り合わせにおいて圧力履歴を確認できる貼り合わせ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
〔1〕樹脂バインダーと、前記樹脂バインダーに分散された、内部に複数の空孔を有する樹脂粒子とを含み、
加圧されたときに前記樹脂粒子が変形し、前記複数の空孔の体積が減少することを特徴とする樹脂組成物。
〔2〕前記樹脂粒子の23℃下での10%変形時の強度が、同一組成の中実樹脂粒子の前記強度の80%以下である〔1〕の樹脂組成物。
〔3〕前記樹脂粒子の前記強度が15MPa以下である〔2〕の樹脂組成物。
〔4〕前記樹脂粒子のガラス転移温度が80℃以下である〔1〕~〔3〕のいずれかの樹脂組成物。
〔5〕前記樹脂粒子が、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、またはそれらの共重合体もしくは混合物からなる〔1〕~〔4〕のいずれかの樹脂組成物。
〔6〕前記樹脂バインダーが、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、またはそれらの共重合体もしくは混合物を含む〔1〕~〔5〕のいずれかの樹脂組成物。
〔7〕内部に複数の空孔を有し、
23℃下での10%変形時の強度が、同一組成の中実樹脂粒子の前記強度の80%以下であることを特徴とする樹脂粒子。
〔8〕前記強度が15MPa以下である〔7〕の樹脂粒子。
〔9〕ガラス転移温度が80℃以下である〔7〕または〔8〕の樹脂粒子。
〔10〕アクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、またはそれらの共重合体もしくは混合物からなる〔7〕~〔9〕のいずれかの樹脂粒子。
〔11〕少なくとも一方が透明な第1の基材および第2の基材の間に〔1〕~〔6〕のいずれかの樹脂組成物を配置し、前記樹脂組成物のヘイズが低下するだけの圧力を掛けて前記第1の基材と前記第2の基材とを圧着することを特徴とする貼り合わせ方法。
【発明の効果】
【0008】
上記態様に係る樹脂組成物は、少なくとも一方が透明な基材同士の貼り合わせにおいて圧力履歴を示すことができる。
上記態様に係る樹脂粒子は、前記樹脂組成物に用いることが可能である。本発明の樹脂粒子を用いた樹脂組成物は、少なくとも一方が透明な基材同士の貼り合わせにおいて圧力履歴を示すことができる。
上記態様に係る貼り合わせ方法は、少なくとも一方が透明な基材同士の貼り合わせにおいて圧力履歴を確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で調製した中空樹脂粒子の粒子断面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施形態に基づいて本発明を説明する。
なお、本発明において、「10%変形時の強度」とは、粒子径の10%の圧縮変位に対する変形強度である。「変形強度」とは、粒子を平面圧子で圧縮するとき、粒子の変形に要する強度である。10%変形時の強度は、JIS Z 8844:2019に規定される手順に則り、測定した結果を下記式(1)『平松らの式』に当てはめ算出した値となる。
St = 2.8×P/πd2 式(1)
ただし、Stは10%変形時の強度(MPa)を示し、Pは試験力(N)を示し、dは樹脂粒子の粒子径(mm)を示す。10%変形時の強度の測定条件は、直径50μmの平面圧子を用い、23℃、50%雰囲気下にて試験速度0.1422mN/sとする。
「粒子径」は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される平均粒子径である。
「ガラス転移温度」(以下、「Tg」とも記す。)は、示差走査熱量計により測定される。
「ヘイズ」及び「全光線透過率」はそれぞれ、ヘイズメーターにより測定される。
【0011】
〔樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂バインダーと、前記樹脂バインダーに分散された、内部に複数の空孔を有する樹脂粒子(以下、「中空樹脂粒子」とも記す。)とを含む。
【0012】
樹脂バインダーは、バインダーとして一般的な樹脂であってよい。
樹脂バインダーは典型的には透明である。樹脂バインダーは、樹脂バインダーを用いて、少なくとも一方が透明な基材同士を貼り合わせた試験片を作成し、その試験片をヘイズメーターにて評価したときに、全光線透過率が85%以上、且つヘイズが5%以下となる透明度を有することが好ましい。
試験片の具体的な作成手順は、樹脂組成物の代わりに樹脂バインダーのみを用いる以外は、後述する実施例に記載の(フィルムの貼り合わせ)における第二の積層体の作成手順と同様である。
樹脂バインダーは、透明度の観点から、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂のいずれかの樹脂を含むことが好ましい。これらの樹脂の共重合体や混合物も使用できる。
【0013】
中空樹脂粒子は、内部に複数の空孔を有する。
また、中空樹脂粒子は、加圧されたときに変形可能である。
【0014】
中空樹脂粒子は、その内部の複数の空孔によって光が散乱されるため、中空樹脂粒子を構成する樹脂が透明であっても、単独では白色を呈する。この中空樹脂粒子を含む樹脂組成物は、樹脂バインダーが透明であっても、空孔による光の散乱のために透明にはならず、曇り外観を呈する。
この樹脂組成物に適正な圧力を掛けると、圧力が掛かった部分で、中空樹脂粒子が圧力により変形し、粒子内部の複数の空孔の体積が減少する。場合によっては、中空樹脂粒子が圧力により破壊され、空孔内に樹脂バインダーが入り込む等によって空孔が消失する。その結果、圧力が掛かった部分のヘイズが低下する(透明度が高まる)。このヘイズの変化により圧力履歴を確認できる。
【0015】
中空樹脂粒子を構成する樹脂は、一般的な樹脂であってよい。
中空樹脂粒子を構成する樹脂は典型的には透明である。また、圧着後のヘイズ変化を明確にするため、樹脂粒子を構成する樹脂の屈折率は樹脂バインダーを構成する樹脂の屈折率と近い値もしくは同等にすることが好ましい。
中空樹脂粒子は、透明度の観点から、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかの樹脂からなることが好ましい。これらの樹脂の共重合体や混合物も使用できる。これらの中でも、透明度や屈折率、強度の調整のしやすさの観点から、アクリル樹脂が好ましい。
【0016】
中空樹脂粒子のTg、つまり中空樹脂粒子を構成する樹脂のTgは、80℃以下であることが好ましい。中空樹脂粒子のTgが80℃以下であれば、樹脂組成物に圧力を掛けたときに中空樹脂粒子が変形しやすく、ヘイズが変化しやすいので、圧力履歴を確認しやすい。中空樹脂粒子のTgは、70℃以下であることがより好ましい。
中空樹脂粒子のTgは、製造時及び保存時の安定性の観点から、40℃以上であることが好ましい。
【0017】
中空樹脂粒子の23℃下での10%変形時の強度(以下、「強度a」とも記す。)は、同一組成の中実樹脂粒子の23℃下での10%変形時の強度(以下、「強度b」とも記す。)の80%以下であることが好ましい。
中実樹脂粒子の「中実」とは、粒子内部に空隙を有さないことを示す。「同一組成」とは、中実樹脂粒子を構成する樹脂が、中空樹脂粒子を構成する樹脂と同一であること、つまり樹脂を構成する単量体の種類と比率が同一であること、を示す。中実樹脂粒子の粒子径は、中空樹脂粒子の粒子径と同一とする。
強度bに対する強度aの比率は、中空樹脂粒子の空隙量(空隙率)の指標である。強度aが強度bの80%以下であれば、後述する初期ヘイズが高くなり、樹脂組成物に圧力を掛けたときのヘイズ変化を大きくしやすい。ヘイズ変化が大きいほど、圧力履歴を確認しやすい。強度aは、強度bの60%以下であることがより好ましい。
【0018】
強度aは、15MPa以下であることが好ましい。強度aが15MPa以下であれば、圧力に対する感度が適切となり、樹脂組成物に適正な圧力が掛かったことを判別しやすい。強度aは、13MPa以下であることがより好ましい。
また、強度aは、3MPa以上であることが好ましい。強度aが3MPa以上であれば、中空樹脂粒子を樹脂バインダーに分散させる際に空孔を維持しやすい。
強度aは、中空樹脂粒子のTgにより調整できる。中空樹脂粒子のTgが低いほど、強度aが低くなる傾向がある。
【0019】
中空樹脂粒子としては、強度aが強度bの80%以下かつ15MPa以下であり、Tgが80℃以下であるものが好ましい。強度a、Tgそれぞれのより好ましい値は前記のとおりである。
【0020】
中空樹脂粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.5~500μmであってよく、0.5~100μmであってよく、1~50μmであってよい。
【0021】
中空樹脂粒子の一例として、重合性不飽和炭化水素基を有する重合性単量体を、水を主体とした分散媒に分散させ、懸濁化し、重合させる樹脂粒子の重合において、少なくとも、後述する界面活性剤Aを分散剤として用いることで得られる中空樹脂粒子が挙げられる。この中空樹脂粒子の製造方法については後で詳しく説明する。
【0022】
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、樹脂バインダー及び中空樹脂粒子以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、タッキファイヤー、表面調整剤、脱泡剤等の各種の添加剤が挙げられる。
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、例えば樹脂組成物の塗工性を高める観点から、水、有機溶剤等の液状媒体をさらに含んでいてもよい。
【0023】
樹脂組成物中、中空樹脂粒子の含有量は、樹脂バインダー100質量部に対し、5~30質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましく、10~20質量部がさらに好ましい。中空樹脂粒子の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、樹脂組成物に圧力を掛ける前後でのヘイズの変化が大きくなり、圧力履歴をより確認しやすい。中空樹脂粒子の含有量が前記範囲の上限値以下であれば、樹脂バインダーの特性を大きく損なうことはない。
【0024】
樹脂組成物中、樹脂バインダーと中空樹脂粒子との合計の含有量は、例えば、樹脂組成物の全固形分100質量%に対し、20質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。
樹脂組成物が液状媒体を含む場合、液状媒体の含有量は、例えば、樹脂組成物の総質量に対し、20~80質量%であってよく、30~70質量%であってよく、40~60質量%であってよい。
【0025】
本実施形態に係る樹脂組成物は、後述する実施例に示す方法により測定される初期ヘイズと熱圧着後ヘイズとの差(初期ヘイズ(%)-熱圧着後ヘイズ(%))が30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。この差が前記下限値以上であれば、圧力履歴を確認しやすい。
初期ヘイズは、初期ヘイズと熱圧着後ヘイズとの差を大きくする観点から、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
熱圧着後ヘイズは、貼り合わせ後の外観の観点から、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂バインダー、中空樹脂粒子、必要に応じて他の成分、液状媒体を混合することにより製造できる。
【0027】
中空樹脂粒子の製造方法としては、特に限定するものではないが、中空樹脂粒子の製造方法の一実施形態として、重合性不飽和炭化水素基を有する重合性単量体を、水を主体とした分散媒に分散させ、懸濁化し、重合させる樹脂粒子の重合において、少なくとも、後述する界面活性剤Aを分散剤として用いる方法が挙げられる。この方法では、界面活性剤Aの作用により、重合前の重合性単量体の液滴内に複数の水滴が取り込まれ、その状態のまま重合性単量体を重合させるので、粒子内部に複数の空孔を有する樹脂粒子が得られる。
【0028】
以下、好適な実施形態に基づいて本実施形態に係る中空樹脂粒子の製造方法を説明する。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸((メタ)アクリレート)」は、アクリル酸(アクリレート)およびメタクリル酸(メタクリレート)の総称である。
【0029】
本実施形態に係る中空樹脂粒子の製造方法に用いる構成成分について詳細に説明する。
【0030】
[構成成分]
(界面活性剤A)
界面活性剤Aは、下記式(2)で表される。
T1O-(RO)n(EO)m-T2 …(2)
式(2)中、T1は水素原子、炭素数1~18のアルキル基、または炭素数2~18のアルケニル基であり、T2は水素原子、スルホン酸基、スルホン酸塩基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、リン酸基、リン酸塩基、アミノ基、またはアンモニウム基であり、ROは炭素数3~18のオキシアルキレン基であり、nは1~50の整数であり、EOはオキシエチレン基を示し、mは0~200の整数である。
樹脂粒子中に界面活性剤Aが残存した場合に、ブリードを抑制できるという点で、T1はアルケニル基であることが好ましい。
【0031】
なお、界面活性剤Aは、市販品を用いることができる。界面活性剤Aである市販品のアニオン性の界面活性剤としては、例えば、第一工業製薬のアクアロンKHシリーズ、ハイテノーXJ-630Sもしくは花王製のラテムルPD-104、ラテムルPD-105等が挙げられる。界面活性剤Aである市販品のノニオン性の界面活性剤としては、例えば、第一工業製薬のノイゲンXLシリーズ、花王のラテムル-420、430、450、エマルゲンLSシリーズ、エマルゲンMSシリーズ、エマルゲンPPシリーズおよび青木油脂工業社製ファインサーフNDBシリーズ、IDEPシリーズ、ワンダーサーフNDRシリーズ、IDシリーズ、Sシリーズ等が挙げられる。
【0032】
本実施形態および以下に示す実施形態における界面活性剤Aの使用量は、例えば、後述する重合性単量体100質量部(質量%)に対して0.05~5.0質量部(質量%)であることが好ましい。上記範囲(0.05~5.0質量部)で界面活性剤Aを用いた場合、安定的に中空樹脂粒子が形成されやすい。界面活性剤Aの使用量が、0.05質量部未満であると中空構造が不完全となり、5.0質量部より大きいと粒子を構成する樹脂の特性を損なう恐れがある。
【0033】
なお、本明細書において、界面活性剤Aを「一般式(1)で表された界面活性剤(第1の界面活性剤)」と示すこともあり、「第2の界面活性剤」と示すこともある。
界面活性剤Aを「第1の界面活性剤」、「第2の界面活性剤」と示すことがあるのは、以下に詳述する製造工程において、複数回界面活性剤Aを別途用いて中空樹脂粒子を調製する場合があるためである。
すなわち、中空樹脂粒子の調製において、例えば、2回の工程に分けて、界面活性剤Aを添加する際に、2回の工程で界面活性剤Aを区別して示す場合に、理解を容易にするために、「第1の界面活性剤」、「第2の界面活性剤」のように呼ぶことがある。
なお、「第2の界面活性剤」としては、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述の界面活性剤Aとは異なる界面活性剤を用いてもよい。
なお、「第2の界面活性剤」に代えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、後述する「任意の分散剤」を用いてもよい。
「第2の界面活性剤」および「任意の分散剤」は任意の1種類のものを単独で用いてもよく、任意の複数のものを組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(重合性単量体)
重合性単量体は、重合性不飽和炭化水素基を有する重合性単量体であり、例えば、(メタ)アクリル単量体、および芳香族ビニル単量体が挙げられる。
なお、本明細書において、「重合性不飽和炭化水素基を有する重合性単量体」を、単に「重合性単量体」と呼ぶことがある。
【0035】
(メタ)アクリル単量体は、例えば、単官能(メタ)アクリレート、および二官能以上の重合性官能基を有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0036】
単官能(メタ)アクリレートとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-(n-プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(n-ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-(n-プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(n-ブトキシ)プロピル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
多官能(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキシド(EO)が1~9の(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、炭素数4~9のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル基を少なくとも2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン系単量体、ジビニルベンゼンが挙げられ、スチレン系単量体が好ましい。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本実施形態に係る重合性単量体においては、上記(メタ)アクリル単量体において、上記単官能(メタ)アクリレートと、上記多官能(メタ)アクリレートと、を組み合わせて用いてもよく、(メタ)アクリル単量体と、芳香族ビニル単量体と、を組み合わせて用いてもよい。さらに他の単量体を組み合わせてもよい。
本実施形態に係る中空樹脂粒子を製造する際の重合性単量体における、上記単官能(メタ)アクリレート、上記多官能(メタ)アクリレート、および芳香族ビニル単量体の比率は特に限定されないが、例えば、単官能(メタ)アクリレートが20~95質量部であってもよく、多官能(メタ)アクリレートが1~15質量部であってもよく、芳香族ビニル単量体が10~50質量部であってもよい。
他の単量体としては、本発明の効果を阻害せずに、(メタ)アクリル単量体と共重合可能であれば特に制限されないが、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル等を用いてよい。
【0040】
必要に応じて連鎖移動剤等の添加剤を用いてもよい。
【0041】
(油溶性重合開始剤)
油溶性重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物系開始剤、及び、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)等の油溶性アゾ系重合開始剤等が挙げられる。
【0042】
油溶性重合開始剤の使用量は、例えば、重合性単量体100質量部に対して、0.05~3.0質量部であってもよく、0.1~2.0質量部が好ましく、0.2~1.5質量部がより好ましい。油溶性重合開始剤の使用量が0.05質量部以上であれば、未反応のまま残存する重合性単量体の割合を減らすことができる。一方、油溶性重合開始剤の使用量が3.0質量部以下であれば、油溶性重合開始剤が分解した分解物が不純物として残るのを抑制できる。
【0043】
(任意の界面活性剤)
本発明の効果を阻害しない範囲で、上記の界面活性剤A以外の界面活性剤として、以下に示す任意の界面活性剤(上記の界面活性剤Aとは異なる界面活性剤)を用いてもよい。
換言すれば、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記界面活性剤Aに加えて、適宜界面活性剤を加えてもよい。
【0044】
任意の界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤またはカチオン系界面活性剤が挙げられる。
【0045】
アニオン系界面活性剤としては、具体的には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ジナトリウム等のアルキル(もしくはアリール)スルホン酸塩類;ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等のアルキル(もしくはアルケニル)硫酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレンアルキル(もしくはアルケニル)エーテル硫酸塩類;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジ-2-エチルへキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩、またはこれらの誘導体類等が挙げられる。これらアニオン系界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
カチオン系界面活性剤としては、具体的には、ドデシルベンジルメチルアンモニウムクロライド等のアルキルベンジルメチルアンモニウム塩;ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等のアルキルトリメチルアンモニウム塩;ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルンモニウムクロライド等のジアルキルジメチルアンモニウム塩;ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライト等のアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩;等の四級アンモニウム塩が挙げられる。これらカチオン系界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
(任意の分散剤)
重合の安定性を向上させるため、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の分散剤を用いてもよい。任意の分散剤としては、例えば以下のものが挙げられる。
有機系分散剤としては、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
無機系分散剤としては、第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
これらの分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
(分散媒)
分散媒はイオン交換水等の公知の水を単独で用いてもよく、適宜、アルコール等の水と混和する公知の溶媒を併用してもよい。
「水を主体とした分散媒」とは、本発明の目的および効果を阻害しない範囲においては特に限定されないが、分散媒100質量%中の水が50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってもよく、分散媒が水のみであってもよい。
【0049】
なお、本明細書においては、界面活性剤と同様に、分散媒、溶媒として用いる水を「第1の水」、「第2の水」と呼ぶことがある。
例えば、2回の工程に分けて、水を添加する際に、2回の工程で水を区別して示す場合に、理解を容易にするために、「第1の水」、「第2の水」のように呼ぶことがある。
【0050】
[中空樹脂粒子の製造方法(第一実施形態)]
第一実施形態に係る中空樹脂粒子の製造方法では、連続相を水、分散相を重合性単量体とした懸濁液を、ホモミキサー等の撹拌機を用いた撹拌によって製造し、その後重合する。詳細には、以下の通りである。
(工程1)
水中に界面活性剤Aを混合した界面活性剤A-水混合液(第1混合液)を、例えば、ホモミキサー等の撹拌機を備え付けた容器に入れる。界面活性剤A-水混合液を、撹拌機を用いて攪拌し、攪拌された界面活性剤A-水混合液に、油溶性重合開始剤と重合性単量体との混合液(第2混合液)を添加する。
これにより、界面活性剤A-水混合液中に、油溶性重合開始剤と重合性単量体との混合液を分散させてO/W(oil in water)型の懸濁液(連続相が水となり、分散相が重合性単量体となるように調製された懸濁液、水中に重合性単量体が分散した分散液)を製造する。
換言すれば、本実施形態においては、前記懸濁液を調製する際に、前記界面活性剤Aおよび前記水を含む第1混合液と、前記重合性単量体および前記油溶性重合開始剤を含む第2混合液を準備し、前記第1混合液に、前記第2混合液を加えて、水中に重合性単量体を分散させることにより、前記懸濁液を調製することができる。
(工程2)
その後、前記懸濁液を重合する。
これにより中空樹脂粒子を得ることができる。
【0051】
第一実施形態によって得られる中空樹脂粒子は、内部に複数の空孔を有し、表面に凹凸構造を有する。中空樹脂粒子の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察すると、粒子内部が多孔質構造となっていることが確認できる。
【0052】
[中空樹脂粒子の製造方法(第二実施形態)]
第二実施形態に係る中空樹脂粒子の製造方法は、詳細には、以下の通りである。
(工程1)
油溶性重合開始剤と重合性単量体と界面活性剤Aの混合液(油溶性重合開始剤-重合性単量体-界面活性剤A混合液、第3混合液)を調製し、油溶性重合開始剤-重合性単量体-界面活性剤A混合液をホモミキサー等の撹拌機を用いて攪拌する。攪拌された油溶性重合開始剤-重合性単量体-界面活性剤A混合液中に水(第1の水)を分散させて、連続相を重合性単量体、分散相を水とした分散液(W/O型(water in oil型)の分散液)を調製する。
すなわち、油溶性重合開始剤-重合性単量体-界面活性剤A混合液中に水が分散した分散液を得る。
(工程2)
工程1の後、第2の界面活性剤または任意の分散剤と水(第2の水)との混合液(第4混合液)を、撹拌機で撹拌中の上記分散液に加えることにより、連続相が水、分散相が重合性単量体となるよう相転換(分散相転換)をした懸濁液(W/O/W型(water in oil in water型)の懸濁液)を製造する。
すなわち、連続相が水となり、分散層が重合性単量体となるように調製された(水に重合性単量体が分散した)懸濁液を得る。
換言すれば、本実施形態においては、前記懸濁液を調製する際に、(工程1)として、前記界面活性剤と前記重合性単量体と前記油溶性重合開始剤とを含む第3混合液と、前記水と、を準備し、前記第3混合液に水を加え、(工程2)としてさらに第2の界面活性剤または任意の分散剤と水とを含む第4混合液を前記第3混合液に添加することにより前記懸濁液を調製することができる。
(工程3)
さらに、(工程2)の後、前記懸濁液を重合する。
これにより中空樹脂粒子を得ることができる。
【0053】
第二実施形態によって得られる中空樹脂粒子は、内部に複数の空孔を有し、表面が平滑である(凹凸構造を有さない)。中空樹脂粒子の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察すると、粒子内部が多孔質構造となっていることが確認できる。
【0054】
なお、中実樹脂粒子は、例えば、界面活性剤Aの代わりに、界面活性剤A以外の界面活性剤を用いる他は、中空樹脂粒子と同様の製造方法により製造できる。
【0055】
〔貼り合わせ方法〕
本発明の一実施形態に係る貼り合わせ方法は、少なくとも一方が透明な第1の基材および第2の基材の間に前記した樹脂組成物を配置し、樹脂組成物のヘイズが低下するだけの圧力を掛けて第1の基材と第2の基材とを圧着する。圧着は、室温下での圧着でもよく熱圧着でもよい。
【0056】
第1の基材および第2の基材は、いずれか一方が透明で他方が不透明でもよく、両方が透明でもよい。第1の基材および第2の基材の少なくとも一方が透明であることで、透明な基材を通して、樹脂組成物のヘイズの低下を視認できる。
透明な基材の透明度は、樹脂組成物のヘイズの変化を視認可能であればよいが、例えば、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。
【0057】
第1の基材、第2の基材それぞれの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート等の樹脂、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
第1の基材、第2の基材それぞれの形状としては、例えば、フィルム状、板状、その他の各種の不定形状が挙げられる。
第1の基材および第2の基材それぞれの材質、形状等は同一でも異なってもよい。
【0058】
第1の基材および第2の基材の間に樹脂組成物を配置する方法としては、例えば、第1の基材の表面に樹脂組成物を塗工し、必要に応じて乾燥して皮膜を形成し、皮膜の上に第2の基材を貼り合わせる方法が挙げられる。このときの貼り合わせは、中空樹脂粒子内部の複数の空孔が消失しない条件で行う。
皮膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば、10~30μmである。
【0059】
圧着圧力は、例えば、0.1~1.0MPaである。
圧着時間は、圧着圧力によっても異なるが、例えば、5~20分間である。
熱圧着の場合の熱圧着温度は、例えば、80~150℃である。
圧力を掛ける前後の皮膜のヘイズの差(圧力を掛ける前のヘイズ-圧力を掛けた後のヘイズ)は、30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。この差が前記下限値以上であれば、圧力履歴を確認しやすい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0061】
<実施例1>
(中空樹脂粒子の調製)
以下に示す手順にて、表1に示す組成にて、中空樹脂粒子を調製した。
重合性単量体であるメチルメタクリレートの60質量部、n-ブチルアクリレートの30部、エチレングリコールジメタクリレートの10質量部、界面活性剤Aである第一工業製薬製ノイゲンXL-400Dの0.2質量部、油溶性開始剤である2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)の1.0質量部を混合し、混合液(第3混合液)を調製した。
第3混合液をホモミキサーに入れて攪拌し、攪拌された第3混合液に水(第1の水)の30質量部を添加した。これにより、連続相を重合性単量体、分散層を水とした分散液(W/O型(water in oil型)の分散液)を得た。
別途、水(第2の水)の270質量部、ポリビニルアルコールの1.0質量部を混合し、混合液(第4混合液)を調製した。
次に、第4混合液を、先に調製した上記分散液に加えて攪拌し、連続相が水、分散層が重合性単量体となるよう相転換をした懸濁液(W/O/W型(water in oil in water型)の懸濁液)を調製した。
得られた懸濁液を、攪拌機、コンデンサ、温度計、窒素導入管を付した4口フラスコに投入し、窒素封入下で75℃まで昇温度し、75℃で4時間反応させた。その度、得られた中空樹脂粒子水分散液をろ過し、500質量部の水で洗浄後、60℃で12時間乾燥して中空樹脂粒子を得た。
【0062】
中空樹脂粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子社製)を用いて、粒子表面と粒子断面とを観察したところ、粒子表面は平滑であり、粒子断面に多孔質構造が観察された。
図1に、この中空樹脂粒子の粒子断面のSEM像を示す。
示差走査熱量計(DSC、島津製作所製)を用いて、中空樹脂粒子のTgを測定したところ、Tgは50℃であった。
レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製)を用いて、中空樹脂粒子の平均粒子径を測定したところ、平均粒子径は8μmであった。
前記した「10%変形時の強度」の測定方法に従って、微小圧縮試験機(島津製作所製)にて中空樹脂粒子の23℃下での10%変形時の強度(強度a)を測定したところ、強度aは6MPaであった。
【0063】
(樹脂組成物の調製)
樹脂バインダー溶液(樹脂バインダー:2-エチルへキシルアクリレート(2EHA)とアクリル酸(AA)と2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)との共重合体、2EHA/AA/HEMA=94/1/5(質量比)、溶媒:酢酸エチル、固形分濃度:40質量%)に、先に調製した上記中空樹脂粒子を添加し、樹脂組成物を調製した。樹脂組成物中の中空樹脂粒子の含有量は、樹脂バインダー100質量%に対して10質量%とした。
【0064】
(フィルムの貼り合わせ)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、先に調製した上記樹脂組成物を塗工し、100℃で10分間乾燥して膜厚20μmの皮膜を形成した。次に、皮膜の上に別のPETフィルムを配置し、上から貼り合わせて第一の積層体を得た。次に、第一の積層体全体に、130℃、0.5MPa、5分間の条件で熱圧着処理を施して第二の積層体を得た。
【0065】
(初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズの評価)
上記フィルムの貼り合わせにおいて、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製)により、第一の積層体、第二の積層体それぞれのヘイズを測定し、第一の積層体のヘイズを初期ヘイズ、第二の積層体のヘイズを熱圧着後ヘイズとした。結果を表1に示す。
【0066】
なお、樹脂組成物の代わりに樹脂バインダー溶液のみを用いて第二の積層体を作成し、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製)により全光線透過率及びヘイズを測定したところ、全光線透過率は89%、ヘイズは4%であった。
【0067】
<実施例2>
(中空樹脂粒子の調製)
重合性単量体を、メチルメタクリレートを65質量部、エチルアクリレートを25部、エチレングリコールジメタクリレートを10質量部とした他は実施例1と同様に、中空樹脂粒子を調製した。
中空樹脂粒子について、実施例1と同様に、SEMを用いて粒子表面と粒子断面とを観察したところ、粒子表面は平滑であり、粒子断面に多孔質構造が観察された。中空樹脂粒子の特性を表1に示す。
【0068】
(樹脂組成物の調製、フィルムの貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズの評価)
中空樹脂粒子を上記中空樹脂粒子に変更した他は実施例1と同様に、樹脂組成物を調製し、フィルムを貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズを評価した。結果を表1に示す。
【0069】
<実施例3>
(中空樹脂粒子の調製)
重合性単量体を、メチルメタクリレートを30質量部、n-ブチルアクリレートを30部、エチレングリコールジメタクリレートを10質量部、スチレンを30部とした他は実施例1と同様に、中空樹脂粒子を調製した。
中空樹脂粒子について、実施例1と同様に、SEMを用いて粒子表面と粒子断面とを観察したところ、粒子表面は平滑であり、粒子断面に多孔質構造が観察された。中空樹脂粒子の特性を表1に示す。
【0070】
(樹脂組成物の調製、フィルムの貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズの評価)
中空樹脂粒子を上記中空樹脂粒子に変更した他は実施例1と同様に、樹脂組成物を調製し、フィルムを貼り合わせを行った。初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズを表1に示す。
【0071】
<実施例4>
(中空樹脂粒子の調製)
重合性単量体を、メチルメタクリレートを10質量部、エチレングリコールジメタクリレートを10質量部、n-ブチルメタクリレートを80部とし、界面活性剤AをノイゲンXL-400Dから花王製のエマルゲン350に変更した他は実施例1と同様に、中空樹脂粒子を調製した。
中空樹脂粒子について、実施例1と同様に、SEMを用いて粒子表面と粒子断面とを観察したところ、粒子表面は平滑であり、粒子断面に多孔質構造が観察された。中空樹脂粒子の特性を表1に示す。
【0072】
(樹脂組成物の調製、フィルムの貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズの評価)
中空樹脂粒子を上記中空樹脂粒子に変更した他は実施例1と同様に、樹脂組成物を調製し、フィルムを貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズを評価した。結果を表1に示す。
【0073】
<実施例5>
(中空樹脂粒子の調製)
重合性単量体を、メチルメタクリレートを80質量部、エチレングリコールジメタクリレートを10質量部、n-ブチルメタクリレートを10部とした他は実施例1と同様に、中空樹脂粒子を調製した。
中空樹脂粒子について、実施例1と同様に、SEMを用いて粒子表面と粒子断面とを観察したところ、粒子表面は平滑であり、粒子断面に多孔質構造が観察された。中空樹脂粒子の特性を表1に示す。
【0074】
(樹脂組成物の調製、フィルムの貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズの評価)
中空樹脂粒子を上記中空樹脂粒子に変更した他は実施例1と同様に、樹脂組成物を調製し、フィルムを貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズを評価した。結果を表1に示す。
【0075】
<実施例6>
(中空樹脂粒子の調製)
ノイゲンXL-400Dの配合量を0.2質量部から0.02質量部に変更した他は実施例1と同様に、中空樹脂粒子を調製した。
中空樹脂粒子について、実施例1と同様に、SEMを用いて粒子表面と粒子断面とを観察したところ、粒子表面は平滑であり、粒子断面に多孔質構造が観察されたが、実施例1に比べ、粒子断面に占める空孔の面積の割合が少なかった。中空樹脂粒子の特性を表1に示す。
【0076】
(樹脂組成物の調製、フィルムの貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズの評価)
中空樹脂粒子を上記中空樹脂粒子に変更した他は実施例1と同様に、樹脂組成物を調製し、フィルムを貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズを評価した。結果を表1に示す。
【0077】
<比較例1>
(樹脂粒子の調製)
ノイゲンXL-400Dの0.2質量部を界面活性剤A以外の界面活性剤であるADEKA製のアデカリアソープSR-10の1質量部に変更した他は実施例1と同様に、樹脂粒子を調製した。
樹脂粒子について、実施例1と同様に、SEMを用いて粒子表面と粒子断面とを観察したところ、樹脂粒子は中実の単純粒子であった。すなわち、樹脂粒子は、粒子表面は平滑であり、粒子断面に多孔質構造は観察されなかった。樹脂粒子の特性を表1に示す。
【0078】
(樹脂組成物の調製、フィルムの貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズの評価)
中空樹脂粒子を上記樹脂粒子に変更した他は実施例1と同様に、樹脂組成物を調製し、フィルムを貼り合わせ、初期ヘイズおよび熱圧着後ヘイズを評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
表1中の略号は下記化合物を示す。
MMA:メチルメタアクリレート。
BA:n-ブチルアクリレート。
EA:エチルアクリレート。
EG:エチレングリコールジメタクリレート。
St:スチレン。
BMA:n-ブチルメタアクリレート。
開始剤:油溶性重合開始剤。
表1中、各成分の配合量の単位は質量部である。空欄の部分は、その成分を使用していないことを意味する。
表1中、「強度」は、23℃下での10%変形時の強度を意味する。
「強度a/強度b」は、中空樹脂粒子の強度(強度a)の、同一組成の中実樹脂粒子の強度(強度b)に対する割合(%)を意味する。実施例1、6においては、比較例1の樹脂粒子の強度を強度b(100%)として強度a/強度bの値を算出した。実施例2~5においては、実施例2~5それぞれの(中空樹脂粒子の調製)においてノイゲンXL-400Dの0.02質量部をアデカリアソープSR-10の1質量部に変更して作成した中実樹脂粒子の強度を強度b(100%)として強度a/強度bの値を算出した。
【0081】
以上に示すように、中空樹脂粒子を含む実施例1~6の樹脂組成物は、圧力が掛かった部分のヘイズが低下しており、ヘイズの変化によって圧力履歴を示すことが確認できた。
これらのうち、強度a/強度bが80%以下、強度aが15MPa以下の実施例1~4の樹脂組成物は、初期ヘイズが高く、熱圧着後のヘイズが低く、圧力履歴の視認性に優れていた。
実施例5の樹脂組成物は、強度a/強度bが80%以下であるが、強度aが15MPaを超えているので、上記の熱圧着処理条件では熱圧着後のヘイズが比較的高かった。しかし、熱圧着処理条件を変更する(例えば圧力を高くする)ことで、熱圧着後のヘイズをより低くできると考えられる。
【0082】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の樹脂組成物は、圧力が掛かった部分のヘイズが低下するので、少なくとも一方が透明な基材同士の貼り合わせにおいて圧力履歴を示すことができる。したがって、本発明の樹脂組成物によれば、例えばヒートシール等の熱圧着を要する接着面において、処理ムラを可視化できる。
また、本発明の樹脂組成物は、複雑な形状の基材を接着面に貼り合わせる際に、圧着により中空樹脂粒子の変形を伴うことで、接着面と樹脂との間に生じた微細な隙間を埋め、接着力を高めるといった効果が期待できる。
本発明の樹脂組成物は、粘着剤(感圧接着剤)、ヒートシール剤等として使用できる。