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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 13/00 20060101AFI20240510BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240510BHJP
   C08C 19/42 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L13/00
C08K3/013
C08C19/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020006641
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2020186364
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019090805
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】新家 雄
(72)【発明者】
【氏名】倉地 寿乃介
(72)【発明者】
【氏名】三輪 洋平
(72)【発明者】
【氏名】沓水 祥一
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-044351(JP,B1)
【文献】特開2017-115112(JP,A)
【文献】特表2004-524420(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059367(WO,A1)
【文献】特開2010-116426(JP,A)
【文献】特開2000-044625(JP,A)
【文献】特開2016-027163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
C08C 19/00-19/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性共役ジエン系ゴムを含むゴム成分と、充填剤とを含有するゴム組成物であって、
前記変性共役ジエン系ゴムが、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基が直接結合した共役ジエン系ゴムであり、
前記変性共役ジエン系ゴムにおいて、
全繰り返し単位のうち、カルボン酸金属塩基を有する繰り返し単位の割合が、1.0~30モル%であり、
前記変性共役ジエン系ゴムにおいて、
前記共役ジエン系ゴムが、天然ゴム、イソプレンゴム又はスチレンイソプレンゴムである、ゴム組成物。
【請求項2】
前記変性共役ジエン系ゴムにおいて、
前記共役ジエン系ゴムの重量平均分子量が、5,000~10,000,000である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記変性共役ジエン系ゴムにおいて、
前記共役ジエン系ゴムが、天然ゴム又はイソプレンゴムである、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記変性共役ジエン系ゴム中の前記カルボン酸金属塩基の水に対する溶解度が、45g以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
ここで、前記カルボン酸金属塩基の水に対する溶解度とは、20℃、1気圧における飽和水溶液100g中の酢酸金属塩としての溶解量を表す。
【請求項5】
前記充填剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、5~100質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム組成物として様々な材料が提案されている。例えば、特許文献1の実施例には、カルボキシ基を有するポリイソプレン(イソプレンゴム)を含有する組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-27163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようななか、本発明者らが特許文献1の実施例に記載のイソプレンゴムを合成し、これを含有するゴム組成物についてその特性を検討したところ、物性が不十分であることが明らかになった。具体的には、破断伸び(切断時の伸び)及び破断強度(切断時の強度)が不十分であることが明らかになった。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、破断伸び及び破断強度に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
なお、本明細書において、破断伸びが大きいことを破断伸びに優れるとも言う。また、破断強度が大きいことを破断強度に優れるとも言う。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、共役ジエン系ゴムの主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を導入することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 変性共役ジエン系ゴムを含むゴム成分と、充填剤とを含有するゴム組成物であって、
上記変性共役ジエン系ゴムが、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである、ゴム組成物。
(2) 上記変性共役ジエン系ゴムにおいて、
全繰り返し単位のうち、カルボン酸金属塩基を有する繰り返し単位の割合が、0.1~30モル%である、上記(1)に記載のゴム組成物。
(3) 上記変性共役ジエン系ゴムにおいて、
上記共役ジエン系ゴムの重量平均分子量が、5,000~10,000,000である、上記(1)又は(2)に記載のゴム組成物。
(4) 上記変性共役ジエン系ゴムにおいて、
上記共役ジエン系ゴムが、天然ゴム又はイソプレンゴムである、上記(1)~(3)のいずれかに記載のゴム組成物。
(5) 上記変性共役ジエン系ゴム中の上記カルボン酸金属塩基の水に対する溶解度が、45g以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のゴム組成物。
ここで、上記カルボン酸金属塩基の水に対する溶解度とは、20℃、1気圧における飽和水溶液100g中の酢酸金属塩としての溶解量を表す。
(6) 上記充填剤の含有量が、上記ゴム成分100質量部に対して、5~100質量部である、上記(1)~(5)のいずれかに記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0008】
以下に示すように、本発明によれば、破断伸び及び破断強度に優れるゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明のゴム組成物について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、各成分は、1種を単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上を併用する場合、その成分について含有量とは、特段の断りが無い限り、合計の含有量を指す。
【0010】
本発明のゴム組成物(以下、「本発明の組成物」とも言う)は、
変性共役ジエン系ゴムを含むゴム成分と、充填剤とを含有するゴム組成物であって、
上記変性共役ジエン系ゴムが、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである、ゴム組成物である。
【0011】
本発明の組成物はこのような構成をとるため、上述した効果が得られるものと考えらえる。その理由は明らかではないが、本発明の組成物に含まれる変性共役ジエン系ゴムが、主鎖及び末端の少なくとも一方に存在するカルボン酸金属塩基同士が互いに相互作用し擬似的な架橋構造を形成するためと考えられる。特に、カルボン酸「金属塩」基である点に特徴があると考えられる。すなわち、金属塩でない場合(すなわちカルボキシ基の場合)には互いに相互作用して水素結合を形成すると考えられるが、水素結合の結合エネルギーは小さい。これに対して、上記変性共役ジエン系ゴムはカルボン酸「金属塩」基を有するため、これらが互いに強力なイオン結合を形成する。イオン結合は水素結合よりも結合エネルギーが大きく、優れたゴム物性(特に、破断伸び、破断強度)に繋がっているものと考えられる。
【0012】
以下、本発明の組成物が含有する各成分について詳述する。
【0013】
[1]ゴム成分
本発明のゴム組成物に含有されるゴム成分は、変性共役ジエン系ゴムを含む。
ここで、上記変性共役ジエン系ゴムは、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴム(以下、「特定変性共役ジエン系ゴム」とも言う)である。
上記ゴム成分は特定変性共役ジエン系ゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。
【0014】
[特定変性共役ジエン系ゴム]
上述のとおり、特定変性共役ジエン系ゴムは、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである。
以下、特定変性共役ジエン系ゴムについて詳述する。
【0015】
〔共役ジエン系ゴム〕
特定変性共役ジエン系ゴムの共役ジエン系ゴムの部分(すなわち、カルボン酸金属塩基以外の部分)(未変性共役ジエン系ゴム)は特に制限されないが、具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)及びこれらの各ゴムの誘導体などが挙げられ、これらのうち2種以上を用いてもよい。なかでも、破断伸び、破断強度、自己修復性、グリーン強度、耐摩耗性、耐久性、耐酸化劣化性、耐熱性、耐寒性、耐光性、及び、耐水性により優れる理由から、天然ゴム、イソプレンゴム又はスチレンイソプレンゴム(SIR)であることが好ましく、イソプレンゴム又はスチレンイソプレンゴム(SIR)であることがより好ましい。
なお、以下、「破断伸び、破断強度、自己修復性、グリーン強度、耐摩耗性、耐久性、耐酸化劣化性、耐熱性、耐寒性、耐光性、及び、耐水性により優れる」ことを「本発明の効果等がより優れる」とも言う。
【0016】
上記共役ジエン系ゴム(未変性共役ジエン系ゴム)の分子量の好適な態様は、後述する特定変性共役ジエン系ゴムの分子量の好適な態様と同じである。
【0017】
上記共役ジエン系ゴムにおいて、末端を含む全繰り返し単位のうち、共役ジエンに由来する繰り返し単位が占める割合(モル%)は、本発明の効果等がより優れる理由から、10モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限されず100モル%である。
【0018】
〔カルボン酸金属塩基〕
上述のとおり、特定変性共役ジエン系ゴムはカルボン酸金属塩基を有する。カルボン酸金属塩基は、カルボキシ基と金属との塩である。
【0019】
<金属>
上記金属は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、Zn以外であることが好ましく、第12族元素以外の元素であることがより好ましく、第1~11族元素又は第13~14族元素であることがさらに好ましく、第1~11族元素であることが特に好ましい。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、第1~2族元素又は第8~11族元素であることが好ましく、第1族元素又は第8族元素であることがより好ましく、Li、Na又はFeであることがさらに好ましく、Li又はFeであることが特に好ましく、Liであることが最も好ましい。
【0020】
カルボン酸金属塩基は、本発明の効果等がより優れる理由から、カルボン酸ナトリウム塩基、カルボン酸リチウム塩基、カルボン酸鉄塩基、又は、カルボン酸亜鉛基であることが好ましい。上記カルボン酸鉄塩基としては、カルボン酸鉄(II)塩基、カルボン酸鉄(III)塩基等が挙げられ、なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、カルボン酸鉄(III)塩基が好ましい。
【0021】
<溶解度>
カルボン酸金属塩基の水に対する溶解度は、本発明の効果等がより優れる理由から、50g以下であることが好ましく、45g以下であることがより好ましく、40g以下であることがさらに好ましく、35g以下であることが特に好ましい。カルボン酸金属塩基の水に対する溶解度の下限は特に制限されず、0gである。
ここで、上記カルボン酸金属塩基の水に対する溶解度(以下、「水に対する溶解度」を単に「溶解度」とも言う)とは、20℃、1気圧における飽和水溶液100g中の酢酸金属塩としての溶解量を表す。
例えば、カルボン酸ナトリウム塩基の溶解度とは酢酸ナトリウムの溶解度(46.4g)を表し、カルボン酸リチウム塩基の溶解度とは酢酸リチウムの溶解度(40.8g)を表し、カルボン酸亜鉛塩基の溶解度とは酢酸亜鉛の溶解度(30g)を表し、カルボン酸鉄(III)塩基の溶解度とは酢酸鉄(III)の溶解度(およそ0g)を表す。
【0022】
〔変性部位〕
上述のとおり、特定変性共役ジエン系ゴムは、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を有する。特定変性共役ジエン系ゴムは、本発明の効果等がより優れる理由から、主鎖及び末端のうち少なくとも主鎖にカルボン酸金属塩基を有するのが好ましく、主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有するのがより好ましい。
特定変性共役ジエン系ゴムが主鎖にカルボン酸金属塩基を有する場合、全ての繰り返し単位のうち、末端以外の繰り返し単位の少なくともいずれかにカルボン酸金属塩基を有する。
また、特定変性共役ジエン系ゴムが末端にカルボン酸金属塩基を有する場合、複数の末端のうち1つのみにカルボン酸金属塩を有するのでも、複数の末端にカルボン酸金属塩を有するのでもよい。
【0023】
〔変性率〕
特定変性共役ジエン系ゴムの変性率は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、0.1モル%以上であることが好ましく、0.5モル%以上であることがより好ましく、1.0モル%以上であることがさらに好ましく、1.5モル%以上であることが特に好ましい。
上記変性率の上限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、90モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましく、3.0モル%以下であることが最も好ましい。
なお、上記変性率とは、末端を含む全繰り返し単位のうち、カルボン酸金属塩基を有する繰り返し単位の割合(モル%)を表す。
【0024】
〔分子量〕
【0025】
<重量平均分子量>
特定変性共役ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、5,000~10,000,000であることが好ましく、100,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0026】
<数平均分子量>
特定変性共役ジエン系ゴムの数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、5,000~10,000,000であることが好ましく、100,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0027】
<分子量分布>
特定変性共役ジエン系ゴムの分子量分布(Mw/Mn)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。分子量分布の下限は特に制限されないが、通常、1.0以上である。
【0028】
なお、上記Mw及びMnは、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値とする。
・溶媒:テトラヒドロフラン
・検出器:RI検出器
【0029】
〔ミクロ構造〕
<ビニル構造>
特定変性共役ジエン系ゴムにおいて、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、ビニル構造の割合は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~99モル%であることが好ましく、2~50モル%であることがより好ましく、3~10モル%であることがさらに好ましい。
ここで、ビニル構造の割合とは、共役ジエンに由来する全繰り返し単位のうち、ビニル構造(例えば、共役ジエンが1,3-ブタジエンである場合は1,2-ビニル構造、共役ジエンがイソプレンである場合は1,2-ビニル構造及び3,4-ビニル構造)を有する繰り返し単位が占める割合(モル%)を言う。
【0030】
<1,4-トランス構造>
特定変性共役ジエン系ゴムにおいて、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、1,4-トランス構造の割合は、本発明の効果等がより優れる理由から、70モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。下限は特に制限されず、0モル%である。
ここで、1,4-トランス構造の割合とは、共役ジエンに由来する全繰り返し単位のうち、1,4-トランス構造を有する繰り返し単位が占める割合(モル%)を言う。
【0031】
<1,4-シス構造>
特定変性共役ジエン系ゴムにおいて、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち、1,4-シス構造の割合は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~99モル%であることが好ましく、50~98モル%であることがより好ましく、90~97モル%であることがさらに好ましい。
ここで、1,4-シス構造の割合とは、共役ジエンに由来する全繰り返し単位のうち、1,4-シス構造を有する繰り返し単位が占める割合(モル%)を言う。
【0032】
なお、以下、共役ジエンに由来する繰り返し単位のうち「ビニル構造の割合(モル%)、1,4-トランス構造の割合(モル%)、1,4-シス構造の割合(モル%)」を「ビニル/トランス/シス」とも表す。
【0033】
〔芳香族ビニル含有量〕
特定変性共役ジエン系ゴムにおいて、芳香族ビニル含有量(例えば、スチレン含有量)は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~70質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがより好ましい。
なお、本明細書において芳香族ビニル含有量とは、特定変性共役ジエン系ゴム中の芳香族ビニル(例えば、スチレン)に由来する繰り返し単位の含有量(質量%)を意味する。
【0034】
[特定変性共役ジエン系ゴムの製造方法]
特定変性共役ジエン系ゴムを製造する方法は特に制限されないが、得られるゴム組成物について本発明の効果等がより優れる理由から、下記好適な態様1~3のいずれかであることが好ましい。なお、以下、得られるゴム組成物について本発明の効果等がより優れることを単に「本発明の効果等がより優れる」とも言う。
【0035】
〔好適な態様1〕
特定変性共役ジエン系ゴムを製造する方法の好適な態様1は、下記(1)~(3)の工程を備える方法(以下、「本発明の製造方法」とも言う)である。好適な態様1の場合、主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである特定変性共役ジエン系ゴムが得られる。
【0036】
(1)重合工程
直鎖状アルキルリチウムを用いて共役ジエンを含むモノマーを重合する工程
(2)分岐状アルキルリチウム添加工程
その後、重合系に分岐状アルキルリチウムを添加する工程
(3)重合停止工程
その後、二酸化炭素を用いて重合を停止することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである特定変性共役ジエン系ゴムを得る工程
【0037】
以下、各工程について説明する。
【0038】
<重合工程>
重合工程は、直鎖状アルキルリチウムを用いて共役ジエンを含むモノマーを重合する工程である。
【0039】
(直鎖状アルキルリチウム)
直鎖状アルキルリチウムは、直鎖状アルキル基とリチウム原子とが結合した化合物である。
直鎖状アルキル基の炭素数は、本発明の効果等がより優れる理由から、1~10であることが好ましい。
直鎖状アルキルリチウムの具体例としては、n-プロピルリチウム、-ブチルリチウなどが挙げられ、なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、n-ブチルリチウムが好ましい。
【0040】
(モノマー)
モノマーは共役ジエンを含む。モノマーは共役ジエン以外のモノマー(その他のモノマー)を含んでいてもよい。
【0041】
(1)共役ジエン
共役ジエンは特に制限されないが、例えば、ブタジエン(例えば、1,3-ブタジエン)、イソプレン、クロロプレンなどが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、1,3-ブタジエン、イソプレンであるのが好ましく、イソプレンであるのがより好ましい。これらの共役ジエンは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
モノマー中の共役ジエンの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、10モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、90モル%以上であることが最も好ましい。上限は特に制限されず、100モル%である。
【0043】
(2)その他のモノマー
共役ジエン以外のモノマー(その他のモノマー)としては、芳香族ビニル、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルなどのα,β-不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸及び無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又は酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル及びアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5-ヘキサジエン、1,6-へプタジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン及び5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエンなどを挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
上記芳香族ビニルは特に制限されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、本発明の効果等がより優れる理由から、スチレン、α-メチルスチレン、および4-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらの芳香族ビニルは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
(モノマーの重合)
上述のとおり、本発明の製造方法では、直鎖状アルキルリチウムを用いて共役ジエンを含むモノマーを重合する。通常、重合はリビングアニオン重合となり、成長末端はアニオンとなる。
【0046】
モノマーの重合方法は特定に制限されないが、上述した直鎖状アルキルリチウムを含有する有機溶媒溶液に上述したモノマーを加え、0~120℃(好ましくは30~100℃)の温度範囲で撹拌する方法などが挙げられる。
【0047】
<分岐状アルキルリチウム添加工程>
分岐状アルキルリチウム添加工程は、上述した重合工程後に、重合系に分岐状アルキルリチウムを添加する工程である。これにより、主鎖にもアニオンが発生する。結果として、主鎖及び末端の両方にアニオンを有する共役ジエン系ゴムが得られる。
【0048】
(分岐状アルキルリチウム)
分岐状アルキルリチウムは、分岐状アルキル基とリチウム原子とが結合した化合物である。
分岐状アルキル基の炭素数は、本発明の効果等がより優れる理由から、3~10であることが好ましい。
分岐状アルキルリチウムの具体例としては、iso-プロピルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウムなどが挙げられ、なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、sec-ブチルリチウムが好ましい。
【0049】
<重合停止工程>
重合停止工程は、上述した分岐状アルキルリチウム添加工程後に、二酸化炭素を用いて重合を停止することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである特定変性共役ジエン系ゴムを得る工程である。
重合停止工程では、分岐状アルキルリチウム添加工程後の共役ジエン系ゴムの主鎖及び末端の両方のアニオンと二酸化炭素とが反応して、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基が生成する。
なお、塩交換することで、カルボン酸リチウム塩基を所望のカルボン酸金属塩基とすることができる。
【0050】
〔好適な態様2〕
特定変性共役ジエン系ゴムを製造する方法の好適な態様2は、上述した好適な態様1から「分岐状アルキルリチウム添加工程」を除いた方法である。すなわち、上述した「重合工程」と上述した「重合停止工程」とを備える方法である。好適な態様2の場合、末端にのみカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである特定変性共役ジエン系ゴムが得られる。
【0051】
〔好適な態様3〕
特定変性共役ジエン系ゴムを製造する方法の好適な態様3は、下記(1)~(2)の工程を備える方法である。好適な態様3の場合、主鎖にのみカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである特定変性共役ジエン系ゴムが得られる。
【0052】
(1)分岐状アルキルリチウム添加工程
共役ジエン系ゴムに分岐状アルキルリチウムを添加する工程
(2)二酸化炭素添加工程
その後、二酸化炭素を添加することで、主鎖にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである変性共役ジエン系ゴムを得る工程
【0053】
以下、各工程について説明する。
【0054】
<分岐状アルキルリチウム添加工程>
分岐状アルキルリチウム添加工程は、共役ジエン系ゴムに分岐状アルキルリチウムを添加する工程である。これにより、主鎖にアニオンが発生する。結果として、主鎖にアニオンを有する共役ジエン系ゴムが得られる。
分岐状アルキルリチウムについては上述のとおりである。
【0055】
<二酸化炭素添加工程>
二酸化炭素添加工程は、上述した分岐状アルキルリチウム添加工程後に、二酸化炭素を添加することで、主鎖にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムである変性共役ジエン系ゴムを得る工程である。
二酸化炭素添加工程では、分岐状アルキルリチウム添加工程後の共役ジエン系ゴムの主鎖のアニオンと二酸化炭素とが反応して、主鎖にカルボン酸リチウム塩基が生成する。
なお、塩交換することで、カルボン酸リチウム塩基を所望のカルボン酸金属塩基とすることができる。
【0056】
[特定変性共役ジエン系ゴムの含有量]
上記ゴム成分中の特定変性共役ジエン系ゴムの含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、90質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
[その他のゴム成分]
上述のとおり、本発明の組成物に含有されるゴム成分は上述した特定変性共役ジエン系ゴム以外のゴム成分(その他のゴム成分)を含んでいてもよい。
その他のゴム成分は特定変性共役ジエン系ゴム以外のゴム成分であれば特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、共役ジエン系ゴムであることが好ましい。共役ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br-IIR、Cl-IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。なかでも、本発明の効果等がより優れる理由から、イソプレンゴム及び天然ゴムが好ましい。
【0058】
[分子量]
【0059】
〔重量平均分子量〕
ゴム成分の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、10,000~10,000,000であることが好ましく、100,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0060】
〔数平均分子量〕
ゴム成分の数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、10,000~10,000,000であることが好ましく、100,000~1,000,000であることがより好ましい。
【0061】
〔分子量分布〕
ゴム成分の分子量分布(Mw/Mn)は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。分子量分布の下限は特に制限されないが、通常、1.0以上である。
【0062】
なお、上記Mw及びMnは、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により得られる標準ポリスチレン換算値とする。
・溶媒:テトラヒドロフラン
・検出器:RI検出器
【0063】
[2]充填剤
本発明の組成物は充填剤を含有する。
上記充填剤は、本発明の効果等がより優れる理由から、補強用充填剤であることが好ましい。
上記充填剤の具体例としては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、層状又は板状粘土鉱物、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムなどが挙げられ、こちらのうち1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
[カーボンブラック]
本発明の組成物は、本発明の効果等がより優れる理由から、カーボンブラックを含有するのが好ましい。上記カーボンブラックは、1種のカーボンブラックを単独で用いても、2種以上のカーボンブラックを併用してもよい。
上記カーボンブラックは特に限定されず、例えば、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
【0065】
[含有量]
本発明の組成物において、充填剤の含有量は特に制限されないが、本発明の効果等がより優れる理由から、上述したゴム成分100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましい。
【0066】
[3]任意成分
本発明の組成物は、上述した成分以外の成分(任意成分)を含有してもよい。
そのような成分としては、例えば、シランカップリング剤、テルペン樹脂(好ましくは、芳香族変性テルペン樹脂)、熱膨張性マイクロカプセル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加工助剤、プロセスオイル、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤などが挙げられる。
【0067】
[4]ゴム組成物の製造方法
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄又は加硫促進剤を含有する場合は、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは100~160℃)で混合し、冷却してから、硫黄又は加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫又は架橋条件で加硫又は架橋することができる。
【0068】
[5]用途
本発明のゴム組成物はゴム材料として好適に用いられる。例えば、タイヤ(特に、空気入りタイヤ)、コンベアベルト、ホース、防振材、ゴムロール、鉄道車両の外幌等に好適に用いられる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
[実施例A]
【0071】
〔合成例〕
以下のとおり共役ジエン系ゴムを合成した。
なお、合成例2~8及び10の共役ジエン系ゴムは、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムであるため、上述した特定変性共役ジエン系ゴムに該当する。一方、合成例1及び合成例9の共役ジエン系ゴムは、主鎖及び末端のいずれにもカルボン酸金属塩基を有さない共役ジエン系ゴムであるため、上述した特定変性共役ジエン系ゴムに該当しない。
【0072】
<合成例1:未変性イソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、イソプレン(230g,2.3mmol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した。反応後、メタノール(5.0mL,0.12mmol)を投入し、重合を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。この不溶成分を60℃で15時間真空乾燥することで、未変性イソプレンゴム(Mn=122,000,Mw=135,000,Mw/Mn=1.11)を96%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=7/0/93と見積もられた。
【0073】
<合成例2:主鎖カルボン酸ナトリウム塩基変性イソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、イソプレン(230g,2.3mmol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した。反応後、メタノール(5.0mL,0.12mmol)を投入し、重合を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離し、未変性イソプレン(Mn=115,000,Mw=120,000,Mw/Mn=1.04)を得た。
得られた未変性イソプレンゴムをシクロヘキサンに再溶解し、sec-BuLi(sec-ブチルリチウム)(関東化学製:1.0mol/L(シクロヘキサン・ヘキサン溶液),25.5mL,25.5mmol)及びTMEDA(テトラメチレンジアミン)(24mL,0.16mol)を投入して撹拌し、その2分後、二酸化炭素を吹き込んだ。そして溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖にのみカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHF(テトラヒドロフラン)に再溶解し、そのTHF溶液にHCl水溶液(ナカライテスク製:35%,0.1mL)を添加した。この溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖にのみカルボキシ基(-COOH)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHFに10質量%となるように再び溶解し、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(3.9g/L,1.8mL)を滴下し、1時間激しく撹拌した。反応後、得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖にのみカルボン酸ナトリウム塩基(-COONa)を有するイソプレンゴムを98%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=8/0/92、変性率は2.0モル%と見積もられた。
【0074】
<合成例3:末端カルボン酸ナトリウム塩基変性イソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、イソプレン(230g,2.3mmol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した(なお、少量の反応溶液を抜き取り、GPC測定を行った結果、Mn=125,000,Mw=145,000,Mw/Mn=1.16であった)。反応後、二酸化炭素を吹き込むことで重合を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。この不溶成分を60℃で15時間真空乾燥することで、末端にのみカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHF(テトラヒドロフラン)に再溶解し、そのTHF溶液にHCl水溶液(ナカライテスク製:35%,0.1mL)を添加した。この溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、末端にのみカルボキシ基(-COOH)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHFに10質量%となるように再び溶解し、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(3.9g/L,1.8mL)を滴下し、1時間激しく撹拌した。反応後、得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、末端にのみカルボン酸ナトリウム塩基(-COONa)を有するイソプレンゴムを97%の収率で得た。なお、IR(赤外分光法)分析によって、ビニル/トランス/シス=7/0/93、変性率は0.05モル%と見積もられた。
【0075】
<合成例4:主鎖及び末端カルボン酸リチウム塩基変性イソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、イソプレン(230g,2.3mmol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した(なお、少量の反応溶液を抜き取り、GPC測定を行った結果、Mn=125,000,Mw=145,000,Mw/Mn=1.16であった)。この反応溶液に、sec-BuLi(関東化学製:1.0mol/L(シクロヘキサン・ヘキサン溶液),25.5mL,25.5mmol)及びTMEDA(テトラメチレンジアミン)(24mL,0.16mol)を投入して撹拌し、その2分後、二酸化炭素を吹き込むことで反応を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するイソプレンゴムを97%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=6/0/94、変性率は1.8モル%と見積もられた。
【0076】
<合成例5:主鎖及び末端カルボン酸リチウム塩基変性イソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.0mL,1.6mmol)を、イソプレン(621g,6.2mmol)のシクロヘキサン(700g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した(なお、少量の反応溶液を抜き取り、GPC測定を行った結果、Mn=550,000,Mw=575,000,Mw/Mn=1.05であった)。この反応溶液に、sec-BuLi(関東化学製:1.0mol/L(シクロヘキサン・ヘキサン溶液),68.9mL,68.9mmol)及びTMEDA(テトラメチレンジアミン)(54mL,0.43mol)を投入して撹拌し、その2分後、二酸化炭素を吹き込むことで反応を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(5.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するイソプレンゴムを94%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=8/0/92、変性率は1.7モル%と見積もられた。
【0077】
<合成例6:主鎖及び末端カルボン酸ナトリウム塩基変性イソプレンゴム>
合成例4と同様の手順に従って、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHF(テトラヒドロフラン)に再溶解し、そのTHF溶液にHCl水溶液(ナカライテスク製:35%,0.1mL)を添加した。この溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボキシ基(-COOH)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHFに10質量%となるように再び溶解し、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(3.9g/L,1.8mL)を滴下し、1時間激しく撹拌した。反応後、得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸ナトリウム塩基(-COONa)を有するイソプレンゴムを99%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=8/0/92、変性率は1.9モル%と見積もられた。
【0078】
<合成例7:主鎖及び末端カルボン酸亜鉛塩基変性イソプレンゴム>
合成例6と同様の手順に従って、主鎖及び末端の両方にカルボキシ基(-COOH)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHFに10質量%となるように再び溶解し、塩化亜鉛のメタノール溶液(13.6g/L,2.0mL)を滴下し、1時間激しく撹拌した。反応後、得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸亜鉛塩基を有するイソプレンゴムを99%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=7/0/93、変性率は1.9モル%と見積もられた。
【0079】
<合成例8:主鎖及び末端カルボン酸鉄塩基変性イソプレンゴム>
合成例6と同様の手順に従って、主鎖及び末端の両方にカルボキシ基(-COOH)を有するイソプレンゴムを得た。
これをTHFに10質量%となるように再び溶解し、塩化鉄(III)のメタノール溶液(16.2g/L,2.0mL)を滴下し、1時間激しく撹拌した。反応後、得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸鉄(III)塩基を有するイソプレンゴムを99%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=7/0/93、変性率は1.9モル%と見積もられた。
【0080】
<合成例9:主鎖及び末端カルボキシ基変性イソプレンゴム>
合成例6と同様の手順に従って、主鎖及び末端の両方にカルボキシ基(-COOH)を有するイソプレンゴムを97%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=7/0/93、変性率は1.9モル%と見積もられた。
【0081】
<合成例10:主鎖及び末端カルボン酸リチウム塩基変性イソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、イソプレン(230g,2.3mmol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した(なお、少量の反応溶液を抜き取り、GPC測定を行った結果、Mn=125,000,Mw=145,000,Mw/Mn=1.16であった)。この反応溶液に、sec-BuLi(関東化学製:1.0mol/L(シクロヘキサン・ヘキサン溶液),12.0mL,12.0mmol)及びTMEDA(テトラメチレンジアミン)(12mL,0.08mol)を投入して撹拌し、その2分後、二酸化炭素を吹き込むことで反応を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するイソプレンゴムを97%の収率で得た。なお、IR分析によって、ビニル/トランス/シス=6/0/94、変性率は0.7モル%と見積もられた。
【0082】
〔ゴム組成物の製造〕
下記表1に示す成分を、同表に示す割合(質量部)で配合した。具体的には、まず硫黄及び加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、150℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。次に、得られたマスターバッチに硫黄及び加硫促進剤をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0083】
〔評価〕
得られた各ゴム組成物について下記のとおり評価を行った。
【0084】
<破断伸び及び破断強度>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で15分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。次いで、得られた加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で破断伸び(切断時伸び)及び破断強度(切断時強度)を評価した。
結果を表1に示す。結果は比較例1を100とする指数で表した。
【0085】
<グリーン強度>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を冷プレスすることで未加硫ゴムシート(厚み:2mm)を作製した。得られた未加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で300%モジュラスを測定した。
結果を表1に示す。結果は比較例1を100とする指数で表した。指数が大きいほど、グリーン強度に優れることを意味する。
【0086】
<耐摩耗性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6264-1、2:2005に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗量を測定した。そして下記式から耐摩耗性指数を算出した。
結果を表1に示す。指数が大きいほど摩耗量が小さく、耐摩耗性に優れることを意味する。
耐摩耗性指数=(比較例1の摩耗量/各加硫ゴムシートの摩耗量)×100
【0087】
<耐水性>
上述のとおり、作製した加硫ゴムシートについて吸水率を測定した。そして、下記基準で耐水性を評価した。
なお、吸水率が低いほど耐水性に優れる。耐水性の観点から、○又は◎であることが好ましく、◎であることがより好ましい。
◎:吸水率が0.6%未満
○:吸水率が0.6%以上2.0%未満
×:吸水率が2.0%以上
【0088】
【表1】
【0089】
上記表1に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・合成例1~10:上述のとおり合成した合成例1~10の共役ジエン系ゴム
・NR:天然ゴム(TSR20)
・カーボンブラック:キャボットジャパン社製 ショウブラックN220
・老化防止剤:フレキシス製 サントフレックス6PPD
・酸化亜鉛:正同化学工業(株)製 酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:NOF CORPORATION社製 ステアリン酸
・加硫促進剤:大内新興化学社製 ノクセラーNS-P
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
【0090】
表1中、金属の欄は、変性共役ジエン系ゴム中のカルボン酸金属塩基の金属を表す。
また、表1中、変性部位の欄は、変性共役ジエン系ゴムが、カルボン酸金属塩(合成例9についてはカルボキシ基)を有する位置を表し、具体的には、「主鎖のみ」は主鎖にのみカルボン酸金属塩基を有することを表し、「末端のみ」は末端にのみカルボン酸金属塩基を有することを表し、「主鎖及び末端」は主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基(合成例9についてはカルボキシ基)を有することを表す。
【0091】
表1から分かるように、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含まない比較例1~2と比較して、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含む実施例1~8は、優れた破断伸び、優れた破断強度、優れたグリーン強度、及び、優れた耐摩耗性を示した(未変性イソプレンゴムを含有する態様同士の対比)。
実施例1~8の対比から、特定変性共役ジエン系ゴムが主鎖及び末端のうち少なくとも主鎖にカルボン酸金属塩基を有する実施例1及び実施例3~8は、より優れた破断伸び、及び、より優れたグリーン強度を示した。なかでも、特定変性共役ジエン系ゴムの変性率が1.0モル%以上である実施例1及び実施例3~7は、さらに優れた破断伸び、さらに優れた破断強度、さらに優れたグリーン強度、及び、さらに優れた耐摩耗性を示した。そのなかでも、特定変性共役ジエン系ゴムが主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有する実施例3~7は、さらに優れた破断伸びを示した。
また、実施例1~8の対比から、特定変性共役ジエン系ゴム中のカルボン酸金属塩基の水に対する溶解度が45g以下である実施例3~4及び実施例6~8は、優れた耐水性を示した。
【0092】
また、表1から分かるように、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含まない比較例3と比較して、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含む実施例9~10は、優れた破断伸び、優れた破断強度、優れたグリーン強度、及び、優れた耐摩耗性を示した(天然を含有する態様同士の対比)。
【0093】
[実施例B]
【0094】
〔合成例〕
以下のとおり共役ジエン系ゴムを合成した。
なお、合成例1~5の共役ジエン系ゴムは、主鎖及び末端の少なくとも一方にカルボン酸金属塩基を有する共役ジエン系ゴムであるため、上述した特定変性共役ジエン系ゴムに該当する。
【0095】
<合成例1:主鎖カルボン酸リチウム塩基変性スチレンイソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、スチレン(104g,1.0mol)、イソプレン(160,2.4mol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した。反応後、メタノール(5.0mL,0.12mmol)を投入し、重合を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離し、未変性スチレンイソプレンゴム(Mn=135,000,Mw=150,000,Mw/Mn=1.10)を得た。
得られた未変性スチレンイソプレンゴムをシクロヘキサンに再溶解し、sec-BuLi(sec-ブチルリチウム)(関東化学製:1.0mol/L(シクロヘキサン・ヘキサン溶液),25.5mL,25.5mmol)及びTMEDA(テトラメチレンジアミン)(24mL,0.16mol)を投入して撹拌し、その2分後、二酸化炭素を吹き込んだ。そして溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖にのみカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するスチレンイソプレンゴム(Mn=136,000,Mw=152,000,Mw/Mn=1.12)を98%の収率で得た。なお、NMR分析によって、スチレン含有量は39質量%、ビニル/トランス/シス=23/30/47、変性率は1.9モル%と見積もられた。
【0096】
<合成例2:末端カルボン酸リチウム塩基変性スチレンイソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、スチレン(104g,1.0mol)、イソプレン(160,2.4mol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した(なお、少量の反応溶液を抜き取り、GPC測定を行った結果、Mn=125,000,Mw=145,000,Mw/Mn=1.16であった)。反応後、二酸化炭素を吹き込むことで重合を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。この不溶成分を60℃で15時間真空乾燥することで、末端にのみカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するスチレンイソプレンゴム(Mn=140,000,Mw=162,000,Mw/Mn=1.16)を97%の収率で得た。なお、NMR(赤外分光法)分析によって、スチレン含有量は40質量%、ビニル/トランス/シス=11/15/74、変性率は0.05モル%と見積もられた。
【0097】
<合成例3:主鎖及び末端カルボン酸リチウム塩基変性スチレンイソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.7mL,2.72mmol)を、スチレン(104g,1.0mol)、イソプレン(160,2.4mol)のシクロヘキサン(500g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した(なお、少量の反応溶液を抜き取り、GPC測定を行った結果、Mn=141,000,Mw=158,000,Mw/Mn=1.12であった)。この反応溶液に、sec-BuLi(関東化学製:1.0mol/L(シクロヘキサン・ヘキサン溶液),25.5mL,25.5mmol)及びTMEDA(テトラメチレンジアミン)(24mL,0.16mol)を投入して撹拌し、その2分後、二酸化炭素を吹き込むことで反応を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するスチレンイソプレンゴム(Mn=143,000,Mw=150,000,Mw/Mn=1.05)を97%の収率で得た。なお、NMR分析によって、スチレン含有量は39質量%、ビニル/トランス/シス=23/18/59、変性率は1.8モル%と見積もられた。
【0098】
<合成例4:主鎖及び末端カルボン酸リチウム塩基変性スチレンイソプレンゴム>
n-BuLi(n-ブチルリチウム)(関東化学製:1.6mol/L(ヘキサン溶液),1.0mL,1.6mmol)を、スチレン(285g,2.9mol)、イソプレン(435g,6.4mol)のシクロヘキサン(700g)混合溶液に加えて、室温50℃で5時間攪拌した(なお、少量の反応溶液を抜き取り、GPC測定を行った結果、Mn=610,000,Mw=675,000,Mw/Mn=1.11であった)。この反応溶液に、sec-BuLi(関東化学製:1.0mol/L(シクロヘキサン・ヘキサン溶液),68.9mL,68.9mmol)及びTMEDA(テトラメチレンジアミン)(54mL,0.43mol)を投入して撹拌し、その2分後、二酸化炭素を吹き込むことで反応を停止した。得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(5.0L)に投入し、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するスチレンイソプレンゴム(Mn=623,000,Mw=680,000,Mw/Mn=1.09)を94%の収率で得た。なお、NMR分析によって、スチレン含有量は40質量%、ビニル/トランス/シス=19/21/60、変性率は1.8モル%と見積もられた。
【0099】
<合成例5:主鎖及び末端カルボン酸ナトリウム塩基変性スチレンイソプレンゴム>
合成例3と同様の手順に従って、主鎖及び末端の両方にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)を有するスチレンイソプレンゴム(Mn=155,000,Mw=165,000,Mw/Mn=1.06)を得た。
これをTHF(テトラヒドロフラン)に再溶解し、そのTHF溶液にHCl水溶液(ナカライテスク製:35%,0.1mL)を添加した。この溶液をメタノール(3.0L)に投入し、メタノール不溶分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボキシ基(-COOH)を有するスチレンイソプレンゴムを得た。
これをTHFに10質量%となるように再び溶解し、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(3.9g/L,1.8mL)を滴下し、1時間激しく撹拌した。反応後、得られた溶液を取り出し、減圧下で濃縮した。その濃縮溶液をメタノール(3.0L)に流し込み、メタノール不溶成分を分離した。これを60℃で15時間真空乾燥することで、主鎖及び末端の両方にカルボン酸ナトリウム塩基(-COONa)を有するスチレンイソプレンゴム(Mn=153,000,Mw=160,000,Mw/Mn=1.05)を99%の収率で得た。なお、NMR分析によって、スチレン含有量は39質量%、ビニル/トランス/シス=15/18/67、変性率は2.0モル%と見積もられた。
【0100】
〔ゴム組成物の製造〕
下記表2~3に示す成分を、同表に示す割合(質量部)で配合した。具体的には、まず硫黄及び加硫促進剤を除く成分を、1.7リットルの密閉型ミキサーで5分間混練し、150℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。次に、得られたマスターバッチに硫黄及び加硫促進剤をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0101】
〔評価〕
得られた各ゴム組成物について下記のとおり評価を行った。
【0102】
<破断伸び及び破断強度>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で15分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。次いで、得られた加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で破断伸び(切断時伸び)及び破断強度(切断時強度)を評価した。
結果を表2~3に示す。結果は、表2については比較例1を100とする指数で表し、表3については比較例3を100とする指数で表した。実用上、破断伸び及び破断強度ともに100超であることが好ましい。
【0103】
<グリーン強度>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を冷プレスすることで未加硫ゴムシート(厚み:2mm)を作製した。得られた未加硫ゴムシートについて、JIS K6251:2010に準拠し、JIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度20℃、引張り速度500mm/分の条件で300%モジュラスを測定した。
結果を表2~3に示す。結果は、表2については比較例1を100とする指数で表し、表3については比較例3を100とする指数で表した。指数が大きいほど、グリーン強度に優れることを意味する。
【0104】
<耐摩耗性>
上述のとおり作製した加硫ゴムシートについて、JIS K6264-1、2:2005に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所製)を用いて、温度20℃、スリップ率50%の条件で摩耗量を測定した。そして下記式から耐摩耗性指数を算出した。
結果を表2~3に示す。指数が大きいほど摩耗量が小さく、耐摩耗性に優れることを意味する。
(表2)耐摩耗性指数=(比較例1の摩耗量/各加硫ゴムシートの摩耗量)×100
(表3)耐摩耗性指数=(比較例3の摩耗量/各加硫ゴムシートの摩耗量)×100
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
上記表2~3に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
・NR:天然ゴム(TSR20)
・SBR:スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製Nipol1502)
・BR:ブタジエンゴム(宇部興産社製UBEPOL BR150)
・合成例1~5:上述のとおり合成した合成例1~5の共役ジエン系ゴム
・カーボンブラック:キャボットジャパン社製 ショウブラックN220
・老化防止剤:フレキシス製 サントフレックス6PPD
・酸化亜鉛:正同化学工業(株)製 酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:NOF CORPORATION社製 ステアリン酸
・加硫促進剤:大内新興化学社製 ノクセラーNS-P
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
【0108】
表2~3中、金属の欄は、変性共役ジエン系ゴム中のカルボン酸金属塩基の金属を表す。
また、表2~3中、変性部位の欄は、変性共役ジエン系ゴムが、カルボン酸金属塩を有する位置を表し、具体的には、「主鎖のみ」は主鎖にのみカルボン酸金属塩基を有することを表し、「末端のみ」は末端にのみカルボン酸金属塩基を有することを表し、「主鎖及び末端」は主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有することを表す。
【0109】
表2から分かるように、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含む実施例1~8は、優れた破断伸び、及び、優れた破断強度を示した。
実施例1~8の対比から、特定変性共役ジエン系ゴムが主鎖及び末端のうち少なくとも主鎖にカルボン酸金属塩基を有する実施例1~2及び4~8は、より優れた破断伸び、より優れた破断強度、より優れたグリーン強度、及び、より優れた耐摩耗性を示した。なかでも、特定変性共役ジエン系ゴムが主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有する実施例4~8は、さらに優れた破断強度、及び、さらに優れたグリーン強度を示した。
一方、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含まない比較例1~2は、破断伸び及び破断強度のうち少なくとも1つが不十分であった。
【0110】
また、表3から分かるように、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含む実施例9~16は、優れた破断伸び、及び、優れた破断強度を示した。
実施例9~16の対比から、特定変性共役ジエン系ゴムが主鎖及び末端のうち少なくとも主鎖にカルボン酸金属塩基を有する実施例9~10及び12~16は、より優れた破断伸び、より優れた破断強度、及び、より優れたグリーン強度を示した。なかでも、特定変性共役ジエン系ゴムが主鎖及び末端の両方にカルボン酸金属塩基を有する実施例12~16は、さらに優れた破断伸び、さらに優れた破断強度、及び、さらに優れたグリーン強度を示した。
一方、ゴム成分が特定変性共役ジエン系ゴムを含まない比較例3~4は、破断伸び及び破断強度のうち少なくとも1つが不十分であった。