(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/08 20060101AFI20240510BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20240510BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240510BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B60C9/08 N
B60C9/18 K
B60C11/00 F
B60C11/00 Z
B60C9/00 J
(21)【出願番号】P 2020039118
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】西尾 好司
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-048109(JP,A)
【文献】特開平06-048108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/08
B60C 9/18
B60C 11/00
B60C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層を有する空気入りタイヤにおいて、
タイヤ子午線断面において、正規内圧の10%を付与した際に前記カーカス層が形成するカーカスラインは、前記トレッド部に位置してタイヤ径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲線Wと、前記サイドウォール部の前記トレッド部側に位置してタイヤ径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲線Sとを含み、前記曲線Wと前記曲線Sとは接続点Vにおいて接続しており、
前記接続点Vから前記トレッド部側に前記曲線Wに沿って5mm離間した隣接点P
Wと前記接続点Vとを結んだ線分の傾きθ
Wと、前記接続点Vから前記ビード部側に前記曲線Sに沿って5mm離間した隣接点P
Sと前記接続点Vとを結んだ線分の傾きθ
Sとの差の絶対値|θ
W-θ
S|が、|θ
W-θ
S|≧5°の関係を満たし、
前記複数層のベルト層は、層間で各ベルト層を構成する補強コードの傾斜方向が逆転することで前記補強コードどうしが互いに交差するように構成された2層のベルト層からなる交差ベルト対を含み、前記交差ベルト対の有効幅の外端点を通る前記カーカスラインの法線と前記カーカスラインとが交差する点を交点Aとしたとき、前記接続点Vが前記交点Aよりもタイヤ幅方向内側に位置
し、
前記交差ベルト対の有効幅の外端点は、前記交差ベルト対に含まれる前記ベルト層の任意の位置での層間ゲージをhとし、前記交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の幅の50%の範囲における前記交差ベルト対の層間ゲージの平均値をh
cc
としたときにh=1.5×h
cc
となるタイヤ幅方向最内側の点、或いは前記層間ゲージhが前記交差ベルト対の全幅においてh<1.5×h
cc
であるときの前記交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の外端点として定義されることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記接続点Vと前記交点Aとのタイヤ幅方向の離間距離dが10mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ビード部にビードコアを備え、ビードコアのタイヤ径方向外側の辺の延長線とカーカスラインとの交点をコア離反点Bとしたとき、前記コア離反点Bの位置から前記カーカス層の最大外径位置までの径方向高さHαと、前記コア離反点Bの位置からタイヤ最大幅位置までの径方向高さHβが、0.55≦Hβ/Hα≦0.65の関係を満たし、且つ、タイヤ最大幅位置におけるカーカスライン上の点βと前記交点Aとを結ぶ線分の長さLと、前記点βから前記交点Aまでのカーカスラインに沿った長さKとが(K/L)
3 ≦1.25の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の幅の50%の範囲における前記交差ベルト対の層間ゲージの平均値h
ccと、前記交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の外端点における前記交差ベルト対の層間ゲージh
shとの比h
sh/h
ccが、h
sh/h
cc≦1.5の関係を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の外端点を通る前記トレッド部の外表面の輪郭線の法線上で測定されるトレッド部のゴムゲージTrg
shと、タイヤ赤道上で測定される前記トレッド部のゴムゲージTrg
ccとの比Trg
sh/Trg
ccが、0.85≦Trg
sh/Trg
cc≦1.10の関係を満たすことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記トレッド部の外表面にタイヤ周方向に沿って延在する複数本の主溝と、前記複数本の主溝で区画されてタイヤ周方向に沿って延在する複数列の陸部とを有し、前記複数列の陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する陸部における最大接地長L
max と最小接地長L
min との比L
min /L
max が、0.85≦L
min /L
max ≦1.0の関係を満たすことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記カーカス層を構成する補強コードがスチールコードであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記曲線Sの前記交点Aよりも前記ビード部側の部分が、曲率半径が異なる複数の円弧を連結して構成されて全体としてタイヤ幅方向外側に向かって凸となるように滑らかに湾曲しており、前記曲線Sの前記交点Aよりも前記ビード部側の任意の点P
i における前記曲線Sの曲率半径R
i と、前記点P
i から前記ビード部側に前記カーカスラインに沿って5mm離間した隣接点P
i+1 における前記曲線Sの曲率半径R
i+1 とが、|R
i+1 -R
i |/|(R
i+1 +R
i )/2|≦0.25の関係を満たすことを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記カーカスラインが、前記曲線Sの前記ビード部側に接続してタイヤ幅方向内側に向かって凸となるように湾曲した曲線Tを含み、
前記曲線Sと前記曲線Tとが接続する接続点Qにおいて、前記接続点Qから前記トレッド部側に前記曲線Sに沿って5mm離間した隣接点P
S と前記接続点Qとを結んだ線分の傾きθ
S と、前記接続点Qから前記ビード部側に前記曲線Tに沿って5mm離間した隣接点P
T と前記接続点Qとを結んだ線分の傾きθ
T との差の絶対値|θ
S -θ
T |が、|θ
S -θ
T |≦8°の関係を満たすことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてトラック・バス用タイヤとして好適な空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、内圧変化に伴うタイヤの変形を抑制し、耐偏摩耗性能を向上することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ(特に、トラック・バス用タイヤ)のカーカスライン形状は、タイヤをリム組みし、正規内圧の10%の内圧を充填したときにおける形状が、主としてタイヤ平衡形状理論から求められた形状(平衡カーカスライン)に近似したものであることが好ましいとされている(例えば、特許文献1を参照)。平衡カーカスラインとは、タイヤに正規内圧を充填したとき、カーカス層の張力が、その内圧とカーカス層がベルト層と重なる区域に発生する反力以外には実質的に何らの力を受けない場合に、これらの力と釣り合って形成されるカーカス層の自然平衡形状のことである。正規内圧の10%の内圧を充填したときにおける形状が平衡カーカスラインに近似していると、内圧変化に伴ってタイヤに余計な変形が発生することを抑制できるので、偏摩耗の抑制にも効果が見込まれる。
【0003】
しかしながら、実際のタイヤにおいては、トレッド部にはカーカス層以外にベルト層等の補強部材が埋設されるため、上述の平衡カーカスラインが形成されるのは、ベルト端よりもタイヤ幅方向外側の部分(主としてサイドウォール部)である。そのため、平衡カーカスラインにならない部分を仮に「非平衡カーカスライン」と呼称すると、ベルト端近傍に、平衡カーカスラインと非平衡カーカスラインの接続点が存在することになる。この状態では、接続点の近傍(特に非平衡カーカスライン側)において変形が大きくなり、偏摩耗を十分に抑制することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、内圧変化に伴うタイヤの変形を抑制し、ベルト端近傍における変形を抑制して、耐偏摩耗性能の向上を可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層を有する空気入りタイヤにおいて、タイヤ子午線断面において、正規内圧の10%を付与した際に前記カーカス層が形成するカーカスラインは、前記トレッド部に位置してタイヤ径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲線Wと、前記サイドウォール部の前記トレッド部側に位置してタイヤ径方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲線Sとを含み、前記曲線Wと前記曲線Sとは接続点Vにおいて接続しており、前記接続点Vから前記トレッド部側に前記曲線Wに沿って5mm離間した隣接点PWと前記接続点Vとを結んだ線分の傾きθWと、前記接続点Vから前記ビード部側に前記曲線Sに沿って5mm離間した隣接点PSと前記接続点Vとを結んだ線分の傾きθSとの差の絶対値|θW-θS|が、|θW-θS|≧5°の関係を満たし、前記複数層のベルト層は、層間で各ベルト層を構成する補強コードの傾斜方向が逆転することで前記補強コードどうしが互いに交差するように構成された2層のベルト層からなる交差ベルト対を含み、前記交差ベルト対の有効幅の外端点を通る前記カーカスラインの法線と前記カーカスラインとが交差する点を交点Aとしたとき、前記接続点Vが前記交点Aよりもタイヤ幅方向内側に位置し、前記交差ベルト対の有効幅の外端点は、前記交差ベルト対に含まれる前記ベルト層の任意の位置での層間ゲージをhとし、前記交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の幅の50%の範囲における前記交差ベルト対の層間ゲージの平均値をh
cc
としたときにh=1.5×h
cc
となるタイヤ幅方向最内側の点、或いは前記層間ゲージhが前記交差ベルト対の全幅においてh<1.5×h
cc
であるときの前記交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の外端点として定義されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の発明者は、タイヤ平衡形状理論から求められた形状(平衡カーカスライン)について鋭意研究した結果、平衡カーカスラインとなる部分と、平衡カーカスラインから外れる形状(非平衡カーカスライン)となる部分とが滑らかに連続せずに接続する点(不連続点)を、交差ベルト対の有効幅よりも内側に配置することで、不均一な変形を抑制することができ、偏摩耗を抑制することができることを知見した。本発明では、上述のように傾きθWと傾きθSとの差の絶対値|θW-θS|が|θW-θS|≧5°の関係を満たすことで、接続点Vにおいて曲線Wと曲線Sとが滑らかに連続しなくなり接続点Vを不連続点にすることができる。そして、不連続点である接続点Vは、交差ベルト対の有効幅の内側に配置されることになる。この状態でカーカスラインを平衡カーカスラインに近似させると、平衡カーカスラインとなる部分(曲線S)と非平衡カーカスラインとなる部分(曲線W)との接続点Vは、不連続点となり、且つ、交差ベルト対の有効幅の内側に配置される。従って、上述の知見のように、不均一な変形を抑制することができ、耐偏摩耗性能を向上することができる。
【0008】
本発明においては、接続点Vと交点Aとのタイヤ幅方向の離間距離dが10mm以上であることが好ましい。これにより、交差ベルト対の有効幅の内側に、確実に接続点Vを配置することができるので、不均一な変形を抑制して耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0009】
本発明においては、ビード部にビードコアを備え、ビードコアのタイヤ径方向外側の辺の延長線とカーカスラインとの交点をコア離反点Bとしたとき、コア離反点Bの位置からカーカス層の最大外径位置までの径方向高さHαと、コア離反点Bの位置からタイヤ最大幅位置までの径方向高さHβが、0.55≦Hβ/Hα≦0.65の関係を満たし、且つ、タイヤ最大幅位置におけるカーカスライン上の点βと交点Aとを結ぶ線分の長さLと、点βから交点Aまでのカーカスラインに沿った長さKとが(K/L)3 ≦1.25の関係を満たすことが好ましい。このような構造にすることで、タイヤ形状(カーカス形状)がより良好になり、カーカス層の内圧分担率を良好にすることができる。その結果、不均一な変形を抑制して耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0010】
本発明においては、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の幅の50%の範囲における交差ベルト対の層間ゲージの平均値hccと、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の外端点における交差ベルト対の層間ゲージhshとの比hsh/hccが、hsh/hcc≦1.5の関係を満たすことが好ましい。このように層間ゲージを小さくすることで、トレッド部のゴムゲージを確保しやすくなり、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0011】
本発明においては、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の外端点を通るトレッド部の外表面の輪郭線の法線上で測定されるトレッド部のゴムゲージTrgshと、タイヤ赤道上で測定されるトレッド部のゴムゲージTrgccとの比Trgsh/Trgccが、0.85≦Trgsh/Trgcc≦1.10の関係を満たすことが好ましい。これにより、接地時における面圧を均一化することが可能になり、タイヤ転動時における局所的な滑りを抑制することができ、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0012】
本発明においては、トレッド部の外表面にタイヤ周方向に沿って延在する複数本の主溝と、複数本の主溝で区画されてタイヤ周方向に沿って延在する複数列の陸部とを有し、複数列の陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する陸部における最大接地長Lmax と最小接地長Lmin との比Lmin /Lmax が、0.85≦Lmin /Lmax ≦1.0の関係を満たすことが好ましい。これにより接地長を十分に確保できるので、タイヤ転動時における局所的な滑りを抑制することができ、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0013】
本発明は、カーカス層を構成する補強コードがスチールコードであるようなタイヤに好適に用いることができる。このようなタイヤにおいて、特に優れた効果を発揮することができる。
【0014】
本発明においては、曲線Sの交点Aよりもビード部側の部分が、曲率半径が異なる複数の円弧を連結して構成されて全体としてタイヤ幅方向外側に向かって凸となるように滑らかに湾曲しており、曲線Sの交点Aよりもビード部側の任意の点Pi における曲線Sの曲率半径Ri と、点Pi からビード部側にカーカスラインに沿って5mm離間した隣接点Pi+1 における曲線Sの曲率半径Ri+1 とが、|Ri+1 -Ri |/|(Ri+1 +Ri )/2|≦0.25の関係を満たすことが好ましい。この関係を満たすことで、点Pi の位置でカーカスライン(曲線S)を構成する円弧と隣接点Pi+1 の位置でカーカスライン(曲線S)を構成する円弧とで曲率半径の差が微細になり、曲線Sを全体として平衡カーカスラインに近似した滑らかな曲線とするには有利になる。
【0015】
本発明においては、カーカスラインが、曲線Sのビード部側に接続してタイヤ幅方向内側に向かって凸となるように湾曲した曲線Tを含み、曲線Sと曲線Tとが接続する接続点Qにおいて、接続点Qからトレッド部側に曲線Sに沿って5mm離間した隣接点PS と接続点Qとを結んだ線分の傾きθS と、接続点Qからビード部側に曲線Tに沿って5mm離間した隣接点PT と接続点Qとを結んだ線分の傾きθT との差の絶対値|θS -θT |が、|θS -θT |≦8°の関係を満たすことが好ましい。このようにカーカスラインが曲線Tも含む場合に、上述の関係を満たすことで、タイヤ幅方向外側に向かって凸となるように湾曲した曲線Sとタイヤ幅方向内側に向かって凸となるように湾曲した曲線Tとは滑らかに接続することになる。このような形状にすることで、内圧変化があっても変形を抑制することができ、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0016】
本発明において、「接地長」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域においてタイヤ周方向に沿って測定される長さである。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
【
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのビードコアを拡大して示す子午線断面図である。
【
図3】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのカーカスラインの形状を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図3の点Vの近傍を拡大して示す説明図である。
【
図5】
図3の点Qの近傍を拡大して示す説明図である。
【
図6】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの接地領域を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0020】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより挟み込まれている。本発明は、後述の基本構造を有する様々なタイヤに適用可能であるが、特にトラック・バス用タイヤに好適に用いることができる。即ち、カーカス層4を構成する補強コードは、スチールコードであることが好ましい。
【0021】
ビードコア5の断面形状は特に限定されないが、
図1,2に示すように、タイヤ径方向外側に辺を備えた多角形状(例えば、図示の六角形状)であるとよい。詳述すると、ビードコア5は、
図2に拡大して示すように、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤ5Aからなり、ビードワイヤ5Aの複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成しているとよい。そして、子午線断面において、ビードワイヤ5Aの複数の周回部分の共通接線(図中の破線)がタイヤ径方向外側に辺を備えた多角形状(例えば、図示の六角形状)を形成しているとよい。このような形状を有していれば、ビードコア5の構造は、単一のビードワイヤ5Aを連続的に巻回した所謂一本巻き構造であっても、複数本のビードワイヤ5Aを引き揃えた状態で巻回した所謂層巻き構造であってもよい。
【0022】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では4層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は所定の方向に配向された複数本の補強コード(スチールコード)を含む。複数のベルト層7の中には交差ベルト対が必ず含まれる。交差ベルト対とは、タイヤ周方向に対する補強コードの傾斜角度が10°~40°の範囲に設定され、且つ、層間で補強コードの傾斜方向が逆転することで補強コードどうしが互いに交差するように構成された少なくとも2層のベルト層の組み合わせである。
【0023】
交差ベルト対の他には、タイヤ周方向に対する補強コードの傾斜角度が40°~70°の範囲に設定された高角度ベルト層や、最外層に配置されて他のベルト層の85%以下の幅を有する保護ベルト層や、タイヤ周方向に対する補強コードの角度が0°~5°の範囲に設定された周方向補強層などを任意で設けることもできる。例えば、
図1では、最外層に1層の保護ベルト層が配置され、且つ、最内層に1層の高角度ベルト層が配置されており、他の2層が交差ベルト対である。
【0024】
更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層(不図示)を設けることもできる。ベルト補強層は、例えばタイヤ周方向に配向する有機繊維コードで構成することができる。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0025】
トレッド部1において、上述のタイヤ構成部材(カーカス層4、ベルト層7、ベルトカバー層など)の外周側にはトレッドゴム層11が配置される。トレッドゴム層11は、物性の異なる2種類のゴム層(キャップトレッド層およびアンダートレッド層)がタイヤ径方向に積層した構造を有していてもよい。サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層12が配置され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層13が配置される。
【0026】
本発明は、カーカス層4が形成するカーカスラインの形状に関するものであるので、前述の構成部材からなる一般的な空気入りタイヤに適用することができ、その基本構造は上述のものに限定されない。尚、本発明において、カーカスラインとは、タイヤ子午線断面において、カーカス層4の外表面(タイヤ外周側の表面)が形成する輪郭線である。複数のカーカス層4が設けられる場合は、最内層側のカーカス層の外表面が形成する輪郭線をカーカスラインとする。
【0027】
本発明においては、正規内圧の10%を付与した際にカーカス層4が形成するカーカスラインは、
図3に示すように、トレッド部1に位置する曲線Wと、サイドウォール部2のトレッド部1側に位置して曲線Wと接続する曲線Sと、サイドウォール部2のビード部3側に位置して曲線Sと接続する曲線Tとで構成される。このうち、曲線Wと曲線Sとは接続点V(以下の説明では単に「点V」という場合がある)において接続している。また、曲線Sと曲線Tとは接続点Q(以下の説明では単に「点Q」という場合がある)において接続している。尚、本発明で規定するカーカスラインは、カーカス層4のうちビードコア5の外側に折り返された部分を除いた部分を対象とする。厳密には、ビードコア5のタイヤ径方向外側の辺の延長線(図中の破線)とカーカスラインとの交点(コア離反点B)よりもトレッド部1側の範囲を対象とする。そのため、
図3のカーカス層4は、ビードコア5の外側に折り返された部分は省略している。また、
図3では、カーカス層4の一部と2層のベルト層7(交差ベルト対)とビードコア5を抽出して示している。
【0028】
接続点Vは、交差ベルト対の有効幅の外端点を通るカーカスラインの法線とカーカスラインとが交わる点を交点A(以下の説明では単に「点A」という場合がある)としたとき、この交点Aよりもタイヤ幅方向内側に配置されている。特に、接続点Vと交点Aとのタイヤ幅方向の離間距離dが好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上25mm以下であるとよい。尚、「交差ベルト対の有効幅」とは、交差ベルト対を構成するベルト層7が適度に近接することで交差ベルト対(ベルト層7)が有効に機能する範囲である。「交差ベルト対の有効幅の外端点」とは、交差ベルト対をタイヤ赤道CLの位置からタイヤ幅方向外側に向かってみたときに、交差ベルト対に含まれるベルト層7の層間ゲージが拡大し始める点である。厳密には、交差ベルト対に含まれるベルト層7の任意の位置での層間ゲージをhとし、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層7の幅の50%の範囲における交差ベルト対の層間ゲージの平均値をhccとしたとき、h=1.5×hccとなるタイヤ幅方向最内側の点が「交差ベルト対の有効幅の外端点」である。但し、層間ゲージhが交差ベルト対の全幅においてh<1.5×hccである場合(交差ベルト対の層間ゲージが略一定である場合)は、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層7の外端点を「交差ベルト対の有効幅の外端点」と見做す。
【0029】
上述のように、曲線Wと曲線Sとは接続点Vを介して接続している。このとき、
図4に拡大して示すように、点Vからトレッド部1側に曲線Wに沿って5mm離間した点をP
Wとし、この点P
Wと点Vとを結んだ線分の傾き(タイヤ幅方向に対する角度)をθ
Wとする。同様に、点Vからビード部3側に曲線Sに沿って5mm離間した点をP
Sとし、この点P
Sと点Vとを結んだ線分の傾き(タイヤ幅方向に対する角度)をθ
Sとする。このとき、傾きθ
W,θ
Sの差の絶対値|θ
W-θ
S|は、|θ
W-θ
S|≧5°、好ましくは|θ
W-θ
S|≧8°、より好ましくは10°≦|θ
W-θ
S|≦25°の関係を満たす。このように傾きθ
W,θ
Sを設定すると、接続点Vにおいて曲線Wと曲線Sとが滑らかに連続しなくなり点Vは不連続点となる。
【0030】
本発明の発明者は、タイヤ平衡形状理論から求められた形状(平衡カーカスライン)について鋭意研究した結果、以下の知見を得た。即ち、実際のタイヤにおいて平衡カーカスラインを形成しようとしても、トレッド部1にはカーカス層4以外にベルト層7等の補強部材が埋設されるため、平衡カーカスラインが形成されるのはベルト層7の端部よりもタイヤ幅方向外側の部分(主としてサイドウォール部2)に限られてしまう。つまり、トレッド部1には、平衡カーカスラインにならない部分(非平衡カーカスライン)が形成されてしまい、ベルト端近傍に平衡カーカスラインと非平衡カーカスラインの接続点が存在することになる。この接続点は、カーカスラインが滑らかに連続しない点(不連続点)であるので、内圧を充填する際には、不連続点の近傍(特に非平衡カーカスライン側)において変形が大きくなり、タイヤの径成長が不均一になる傾向がある。一方で、このような不連続点が交差ベルト対の有効幅の内側に存在すると、交差ベルト対によって不連続点の近傍の変形が抑えられて、不均一な変形を回避することができる。
【0031】
本発明は、上述の知見に基づくものであり、傾きθWと傾きθSとの差の絶対値|θW-θS|が上述の関係を満たすことで、接続点Vにおいて曲線Wと曲線Sとが滑らかに連続しなくなり接続点Vは不連続点となる。更に、接続点Vは交点Aよりもタイヤ幅方向内側(つまり交差ベルト対の有効幅の内側)に配置されるので、不均一な変形を回避することができ、耐偏摩耗性能を向上することができる。
【0032】
このとき、接続点Vが交点Aよりもタイヤ幅方向外側に配置されると、上述の効果が得られず、耐偏摩耗性能を向上することができない。また、接続点Vと交点Aとのタイヤ幅方向の離間距離が10mm未満であると、交差ベルト対によって点V(不連続点)の近傍の変形を十分に抑制することができず、耐偏摩耗性能を向上する効果が限定的になる。傾きθW,θSが|θW-θS|<5°の関係であると、接続点Vが不連続点にならず、上述の効果が見込めなくなる。
【0033】
上述のように、交差ベルト対は、その有効幅の内側で効果的に機能するが、その外側の領域においても層間ゲージが十分に小さいことが好ましい。具体的には、
図3に示すように、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層7の外端点における層間ゲージをh
shとすると、この層間ゲージh
shと前述の層間ゲージの平均値h
ccとの比h
sh/h
ccが、h
sh/h
cc≦1.5の関係を満たすことが好ましい。このように層間ゲージを小さく設定することで、トレッドゴム層11の厚さ(トレッド部1のゴムゲージ)を確保しやすくなり、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。このとき、h
sh/h
cc>1.5の関係であると、トレッド部1のゴムゲージを十分に確保できず、耐偏摩耗性能を向上する効果が限定的になる虞がある。
【0034】
このようにトレッド部1のゴムゲージを確保するにあたって、
図1に示すように、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層7の外端点を通るトレッド部1の外表面の輪郭線の法線上で測定されるトレッド部1のゴムゲージ(トレッドゴム層11の厚さ)をTrg
shとし、タイヤ赤道CL上で測定されるトレッド部1のゴムゲージ(トレッドゴム層11の厚さ)をTrg
ccとすると、これらの比Trg
sh/Trg
ccが、0.85≦Trg
sh/Trg
cc≦1.10の関係を満たすことが好ましい。このようにゴムゲージの関係を規定することで、接地時における面圧を均一化することが可能になり、タイヤ転動時における局所的な滑りを抑制することができ、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。このとき、比Trg
sh/Trg
ccが上述の範囲から外れると、ゴムゲージTrg
sh,Trg
ccのいずれかが過小になるため、耐偏摩耗性能を良好に確保することが難しくなる。
【0035】
上述のように、本発明のカーカスラインは、曲線W、曲線S、および曲線Tで構成される。これら曲線W、曲線S、および曲線Tのうち、少なくとも曲線Sは曲率半径が異なる複数の円弧を接続して構成されているとよい。勿論、他の曲線Wおよび曲線Tも同様の構造であってもよい。曲線Wは、全体としてタイヤ径方向外側に向かって凸となるように湾曲し、曲線Sは、全体としてタイヤ幅方向外側に向かって凸となるように湾曲し、曲線Tは、全体としてタイヤ幅方向内側に向かって凸となるように湾曲しているとよい。曲線Sと曲線Tとは湾曲する向き(凸となる向き)が逆であるため、曲線Sと曲線Tとが接続する接続点Qは、曲線Sと曲線Tとの間で湾曲する向きが逆転する点であるということもできる。
【0036】
本発明のカーカスラインは、少なくともサイドウォール部において平衡カーカスラインを形成しているとよい。そのため、曲線Sのうち、交点Aから接続点Qまでの部分と、曲線T(接続点Qからコア離反点Bまでのカーカスライン)については、以下の構造を有しているとよい。
【0037】
曲線Sについて、曲線S上の任意の点Pi における曲線Sの曲率半径をRi とする。また、この点Pi からビード部3側にカーカスラインに沿って(5×n)mm離間した点をPi+n とし、このPi+n における曲線Sの曲率半径をRi+n とする(nは1以上の整数である)。言い換えると、曲線S上の任意の点Pi を基準として点Q側(ビード部3側)に向かってカーカスラインに沿って5mm間隔で点を打ったとき、点Pi からn番目(nは1以上の整数)の点をPi+n とし、その点Pi+n における曲線Sの曲率半径をRi+n とする。例えばn=2の場合、つまり、点Pi から点Q側(ビード部3側)にカーカスラインに沿って5×2=10mm離間した点(点Pi から5mm間隔の点の2番目の点)は点Pi+2 であり、この点Pi+2 における曲線Sの曲率半径はRi+2 である。
【0038】
本発明では、特に、n=1の場合の点Pi+n を隣接点Pi+1 と呼ぶ。この隣接点Pi+1 とは、点Pi から前記ビード部3側に前記カーカスラインに沿って5mm(5×1mm)離間した点(点Pi から5mm間隔の点の1番目の点)であり、この隣接点Pi+1 における曲線Sの曲率半径はRi+1 である。このとき、本発明では、任意の点Pi における曲率半径Ri と隣接点Pi+1 における曲率半径Ri+1 とが|Ri+1 -Ri |/|(Ri+1 +Ri )/2|≦0.25の関係を満たしている。このように曲率半径を設定することで、曲線Sにおいては、カーカスラインを構成する複数の円弧の曲率が実質的に連続的に滑らかに変化し、実質的に平衡カーカスラインを構築することができる。そのため、内圧変化に伴う変形を抑制して、特にビード部3の近傍における局所的な変形を抑制することができるので、耐偏摩耗性能を向上することができる。このとき、曲率半径Ri と曲率半径Ri+1 とが|Ri+1 -Ri |/|(Ri+1 +Ri )/2|>0.25の関係であると、点Pi の位置で曲線Sを構成する円弧と隣接点Pi+1 の位置で曲線Sを構成する円弧とが滑らかに接続せず、平衡カーカスラインからの乖離が大きくなり、内圧変化に伴う変形を抑制する効果が十分に見込めなくなる。
【0039】
上述のように、曲線Sと曲線Tとは接続点Qを介して連結している。このとき、
図5に拡大して示すように、点Qから点A側(トレッド部1側)に曲線Sに沿って5mm離間した点をP
S とし、この点P
S と点Qとを結んだ線分の傾き(タイヤ幅方向に対する角度)をθ
S とする。同様に、点Qから点B側(ビード部3側)に曲線Tに沿って5mm離間した点をP
T とし、この点P
T と点Qとを結んだ線分の傾き(タイヤ幅方向に対する角度)をθ
T とする。このとき、傾きθ
S ,θ
T の差の絶対値|θ
S -θ
T |は、|θ
S -θ
T |≦8°、好ましくは|θ
S -θ
T |≦5°の関係を満たすとよい。このように点Q近傍の構造を規定することで、凸となる方向が逆になる曲線Sと曲線Tとが滑らかに接続することになる。即ち、曲線Sが平衡カーカスラインを形成していてもタイヤ幅方向内側に凸となる曲線Tと滑らかに接続することが可能になる。その結果、ビード部3の近傍においても、内圧変化に伴う変形を抑制できるので、耐偏摩耗性能を向上することができる。
このとき、傾きθ
S ,θ
T の差の絶対値|θ
S -θ
T |が8°を超えると、曲線Sと曲線Tとが滑らかに接続せず、非連続になるため、点Q近傍において局所的に大きな変形が生じやすくなり耐偏摩耗性能が悪化する虞がある。
【0040】
このようにカーカスラインの形状を設定することで、各部の湾曲形状や連結形状が良好になり、ベルト層7やビードフィラー6やビードコア5に接しない部分(曲線S)において平衡カーカスラインに近似しながら、タイヤ幅方向内側に向かって凸となるように湾曲した曲線Tと滑らかに接続する良好な湾曲形状を得ることができる。これにより、内圧変化があっても余計な変形が発生することを抑制することができ、タイヤ全体において局所的な変形を抑制することができるので、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0041】
尚、本発明において、曲率半径は、下記式に基づいて算出するものとする。
Ri ={1+(dy/dz)2 }3/2 /(d2y/dz2)
(上記式において、dzはタイヤ径方向の隣接点間距離(点Pi と点Pi+1 との間の距離)であり、dyはタイヤ幅方向の隣接点間距離(点Pi と点Pi+1 との間の距離)である。)
【0042】
実際のタイヤにおいては、CTスキャン等で撮影された断面形状に基づいて、カーカスラインを構成する複数の点群データを離散化してカーカスラインの形状や曲率半径を判断する。例えば、カーカスライン上の点Pi を中心とする半径10mmの円内に含まれる領域においてカーカスラインを構成する複数の点群データを用いて回帰曲線を作成することができる。このとき、回帰曲線の作成は、3次式で回帰する方法、最小二乗法で回帰する方法、3点を通る円弧で近似する方法のいずれを採用してもよい。隣接点Pi+1 は、このようにして作成された回帰曲線と、点Pi を中心とする半径5mmの円との交点として決定することができる。曲線S、曲線Tの区別(曲線S,Tが凸となる向きの判定)は、上記のように求めたカーカスラインの曲率半径の符号によって判別することができる。点Qについても、カーカスラインの曲率半径の符号によって判別した曲線S,Tの接続する点として判別することができる。
【0043】
上述のようにカーカスラインを設定するにあたって、曲率半径Ri と曲率半径Ri+2 とがRi+2 /Ri ≧1.0の関係を満たし、且つ、交点Aにおける曲線Sの曲率半径RA と点Qにおける曲線Sの曲率半径RQ とがRQ >RA の関係を満たしていることが好ましい。このように曲率半径を設定することで、曲線Sにおいてカーカスラインを構成する複数の円弧の曲率が実質的に連続的に滑らかに変化するだけでなく、曲率半径が点Aからタイヤ径方向内側(点Q側)に向かって増大することになる。これにより、実質的に平衡カーカスラインとなった曲線Sを曲線Tに滑らかに接続することができる。その結果、内圧変化があっても余計な変形が発生することを抑制することができる。このとき、曲率半径Ri と曲率半径Ri+2 とがRi+2 /Ri <1.0の関係であると、平衡カーカスラインからの乖離が大きくなり、内圧変化に伴う変形を十分に抑制することができない。曲率半径RA と曲率半径RQ とがRQ ≦RA の関係であると、曲線Sを曲線Tに対して滑らかに接続できなくなるため、ビード部3の近傍における局所的な変形を抑制する効果が限定的になる。
【0044】
点Qにおける曲線Sの曲率半径RQ と交点Aにおける曲線Sの曲率半径RA とは、上述の関係(RQ >RA )を満たすだけでなく、好ましくは比RQ /RA が、RQ /RA ≧2.3の関係を満たすとよい。このような関係に設定することで、点Qにおける曲線Sの曲率半径RQ を交点Aにおける曲線Sの曲率半径RA に対して十分に大きくすることができ、カーカスライン(曲線S)の形状が良好になり、内圧変化があっても余計な変形が発生することを抑制することができる。特に、点Qの位置をタイヤ幅方向内側寄りに設定して、曲線Sを曲線Tに滑らかに接続しやすくすることができるので、ビード部3の近傍における局所的な変形を抑制するには有利になる。このとき、比RQ /RA が2.3未満であると、カーカスライン(曲線S)の形状を最適化することが難しくなる。
【0045】
更に、コア離反点Bの位置からカーカス層4の最大外径位置までのタイヤ径方向に沿った距離を径方向高さHαとし、コア離反点Bの位置からタイヤ最大幅位置までのタイヤ径方向に沿った距離を径方向高さHβとすると、本発明では、これら径方向高さの比Hβ/Hαが好ましくは0.55≦Hβ/Hα≦0.65、より好ましくは0.57≦Hβ/Hα≦0.63の関係を満たしているとよい。このような関係を満たすことで、タイヤ最大幅位置のタイヤ径方向の位置が最適化されるので、平衡カーカスラインを形成しやすくなる。その結果、局所的な変形を抑制して、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。このとき、Hβ/Hα<0.55の関係であると、タイヤ最大幅位置がタイヤ径方向内側に寄る傾向になり、曲線Sと曲線Tとを滑らかに接続することが難しくなり、良好なカーカスラインが得られない虞がある。Hβ/Hα>0.65の関係であると、接続点Vにおける傾きθW,θSの関係を適切に設定することが難しくなる。
【0046】
上述のように比Hβ/Hαを設定しただけでは、却ってベルト層7が内圧を分担する割合が増す可能性があるため、タイヤ最大幅位置におけるカーカスライン上の点(コア離反点Bからの径方向高さがHβである曲線S上の点)を点βとしたとき、前述の交点Aと点βを結ぶ線分の長さLと、点Aから点βまでのカーカスライン(曲線S)に沿った長さKとが好ましくは(K/L)3 ≦1.28、より好ましくは(K/L)3 ≦1.25の関係を満たすようにするとよい。このような構造にすることで、ベルト層7の端部近傍からタイヤ最大幅位置にかけてのカーカス層4の湾曲形状が良好になり、均一な外径成長を達成して、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。このとき、長さK,Lが(K/L)3 >1.28の関係であると、良好なカーカスラインが得られない虞がある。
【0047】
本発明は、上述のように基本的にはカーカス層4の形状(カーカスライン)に関するものであるので、トレッド部1の外表面に形成される溝や陸部の形状(トレッドパターン)は特に限定されない。但し、
図6に示すように、タイヤ周方向に沿って延在する複数本の主溝20と、複数本の主溝で区画されてタイヤ周方向に沿って延在する複数列の陸部21とを有する構造が好ましい。このとき、複数列の陸部21のうちタイヤ幅方向最外側に位置する陸部21における最大接地長L
max と最小接地長L
min との比L
min /L
max が、0.85≦L
min /L
max ≦1.0の関係を満たすことが好ましい。これにより接地長を十分に確保できるので、タイヤ転動時における局所的な滑りを抑制することができ、耐偏摩耗性能を向上するには有利になる。
【0048】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
タイヤサイズが275/80R22.5であり、
図1に例示する基本構造を有し、正規内圧の10%を付与した際にカーカス層が形成するカーカスライン(曲線W、曲線S、および曲線T)の形状を、表1のように設定した従来例1、比較例1~2、実施例1~11の14種類の空気入りタイヤを作製した。
【0050】
表1の「|θW-θS|」は、曲線Wと曲線Sの接続点Vからトレッド部側に曲線Wに沿って5mm離間した隣接点PWと接続点Vとを結んだ線分の傾きθWと、接続点Vからビード部側に曲線Sに沿って5mm離間した隣接点PSと接続点Vとを結んだ線分の傾きθSとの差の絶対値である。表1の「d」は、接続点Vと交点Aとのタイヤ幅方向の離間距離である。この離間距離dについては、接続点Vが交点Aよりもタイヤ幅方向内側に位置する場合を正の値で示し、接続点Vが交点Aよりもタイヤ幅方向外側に位置する場合を負の値で示した。
【0051】
表1の「(K/L)3 」は、タイヤ最大幅位置におけるカーカスライン上の点βと交点Aとを結ぶ線分の長さLと、点βから交点Aまでのカーカスラインに沿った長さKとの比率である。表1の「Hβ/Hα」は、コア離反点Bの位置からカーカス層の最大外径位置までの径方向高さHαと、コア離反点Bの位置からタイヤ最大幅位置までの径方向高さHβとの比である。表1の「hsh/hcc」は、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の幅の50%の範囲における交差ベルト対の層間ゲージの平均値hccと、交差ベルト対のうち幅が狭い方のベルト層の外端点における交差ベルト対の層間ゲージhshとの比である。表1の「Trgsh/Trgcc」は、交差ベルト対のうちの幅が狭い方のベルト層の外端点を通るトレッド部の外表面の輪郭線の法線上で測定されるトレッド部のゴムゲージTrgshと、タイヤ赤道上で測定されるトレッド部のゴムゲージTrgccとの比である。表1の「Lmin /Lmax 」は、トレッド部の外表面に形成された複数列の陸部のうちタイヤ幅方向最外側に位置する陸部における最大接地長Lmax と最小接地長Lmin との比である。
【0052】
表1の「|Ri+1 -Ri |/|(Ri+1 +Ri )/2|≦0.25」は、曲線S上の任意の点Pi における曲線Sの曲率半径Ri と、点Pi からビード部側にカーカスラインに沿って5mm離間した隣接点Pi+1 における曲線Sの曲率半径Ri+1 とが|Ri+1 -Ri |/|(Ri+1 +Ri )/2|≦0.25の関係を満たすか否かを示している。表1では、この関係を満たす場合は「〇」、満たさない場合は「×」を表示した。表1の「|θS -θT |」は、曲線Sと曲線Tとの接続点Qからトレッド部側に曲線Sに沿って5mm離間した隣接点PS と接続点Qとを結んだ線分の傾きθS と、接続点Qからビード部側に曲線Tに沿って5mm離間した隣接点PT と接続点Qとを結んだ線分の傾きθT との差の絶対値である。
【0053】
これら空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、耐偏摩耗性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0054】
耐偏摩耗性能
各試験タイヤをJATMA規定リムに組み付けて、規定空気圧を封入し、試験車両に装着し、規定荷重を付加した状態で舗装路面からなるテストコースにて50000km走行し、走行後のタイヤについて、タイヤ赤道に最も近い位置に形成された主溝における残溝量と最もタイヤ幅方向外側に形成された主溝における残溝量の比率を算出した。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、残溝量の差が小さく、耐偏摩耗性能に優れることを意味する。
【0055】
【0056】
表1から明らかなように、実施例1~11はいずれも、耐偏摩耗性能を向上した。これに対して、比較例1は、傾きθW,θSの関係が良好でないため、耐偏摩耗性を向上する効果が十分に得られなかった。比較例2は、接続点Vが交点Aよりもタイヤ幅方向内側に位置していないため、耐偏摩耗性を向上する効果が十分に得られなかった。
【符号の説明】
【0057】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
CL タイヤ赤道