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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】空調装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/65 20180101AFI20240510BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20240510BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240510BHJP
   F24F 110/10 20180101ALN20240510BHJP
【FI】
F24F11/65
F24F5/00 Z
H05K7/20 Q
H05K7/20 H
F24F110:10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020049798
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148376
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591150797
【氏名又は名称】株式会社デンソーエアクール
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】江澤 直史
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥一
(72)【発明者】
【氏名】北村 清貴
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056988(JP,A)
【文献】特開2015-200433(JP,A)
【文献】特開2017-138069(JP,A)
【文献】特開2007-129095(JP,A)
【文献】特開2019-095138(JP,A)
【文献】特開2019-196840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
H05K 7/20
F24F 5/00
F24F 110/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被空調対象空間の温度を所定温度内に維持する空調装置であって、
前記被空調対象空間内の空気と前記被空調対象空間外の空気との間の熱移動で前記被空調対象空間の冷房を行う沸騰冷却システムと、
冷媒を吸入圧縮吐出する圧縮機の運転で、前記被空調対象空間の冷房及び暖房を行う蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムと、
前記沸騰冷却システムと前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムとを制御して、前記被空調対象空間の温度を前記所定温度内に維持するコントローラとを備え、
このコントローラは、前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの暖房運転時に前記被空調対象空間の温度が暖房停止温度以上に上昇した際に、前記圧縮機の運転開始から所定の停止禁止時間は前記圧縮機の運転を継続して暖房運転を継続し、かつ、前記沸騰冷却システムの冷房運転を行う、
ことを特徴とする空調装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記圧縮機の前記停止禁止時間による制御の状態で、前記停止禁止時間の経過後は前記圧縮機を停止させ、前記停止禁止時間の経過後も更に引き続き所定時間前記沸騰冷却システムを冷房運転とする、
ことを特徴とする請求項1記載の空調装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムと前記沸騰冷却システムとを以下のように制御する、
前記被空調対象空間の温度が冷房側温度より高い冷房開始温度以上では、前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを冷房運転とし、前記沸騰冷却システムを冷房運転とし、
前記被空調対象空間の温度が冷房側温度より低い冷房停止温度以下では、前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを停止し、
前記被空調対象空間内の温度が暖房側温度より低い暖房開始温度以下では、前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを暖房運転とし、
前記被空調対象空間内の温度が暖房側温度より高い暖房停止温度以上では、前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの運転を停止し、
かつ、前記圧縮機の前記停止禁止時間による制御として、前記圧縮機を駆動してから前記停止禁止時間以内に前記暖房停止温度以上の状態となったときは、前記停止禁止時間は前記圧縮機の運転を継続して暖房運転を継続し、かつ、前記沸騰冷却システムを冷房運転とする、
ことを特徴とする請求項1もしくは2記載の空調装置。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記冷房運転の状態で前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの前記圧縮機が運転開始してから前記停止禁止時間以内に前記冷房停止温度以下となった場合は、前記停止禁止時間は前記圧縮機の運転を継続することを特徴とする
請求項3記載の空調装置。
【請求項5】
前記沸騰冷却システムは、以下の構成を備える、
前記被空調対象空間内の空気と熱交換する沸騰システム室内熱交換器、
前記被空調対象空間外の空気と熱交換する沸騰システム室外熱交換器、
この沸騰システム室外熱交換器と前記沸騰システム室内熱交換器とを冷媒の循環が可能に連結する沸騰システム冷媒配管、
前記沸騰システム室内熱交換器で熱交換した空気を前記被空調対象空間に送風する沸騰システム室内送風機、及び
前記沸騰システム室外熱交換器に前記被空調対象空間外の空気を送風する沸騰システム室外送風機、
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれかに記載の空調装置。
【請求項6】
前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムは、前記圧縮機以外に以下の構成を備える、
前記被空調対象空間内の空気と熱交換する冷凍サイクル室内熱交換器、
冷媒を断熱膨張させる膨張弁、
前記被空調対象空間外の空気と熱交換する冷凍サイクル室外熱交換器、
前記圧縮機、前記冷凍サイクル室内熱交換器、前記膨張弁、前記冷凍サイクル室外熱交換器間を冷媒が循環可能に連結する冷凍サイクル冷媒配管、
前記圧縮機からの冷媒を前記冷凍サイクル室内熱交換器若しくは前記冷凍サイクル室外熱交換器側に向かうよう前記冷凍サイクル冷媒配管を切り替えて冷媒の流れを切り替える切替弁、
前記冷凍サイクル室内熱交換器で熱交換した空気を前記被空調対象空間に送風する冷凍サイクル室内送風機、及び
前記冷凍サイクル室外熱交換器に前記被空調対象空間外の空気を送風する冷凍サイクル室外送風機、
ことを特徴とする請求項1ないし5いずれかに記載の空調装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムと前記沸騰冷却システムとを以下のように制御する、
前記被空調対象空間内の温度が冷房側温度より所定温度以上高い冷房開始温度以上では、
前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを以下の作動とし、
前記圧縮機を駆動、前記切替弁を前記圧縮機からの冷媒を前記冷凍サイクル室外熱交換器に向うよう切り替え、前記冷凍サイクル室内送風機を送風、前記冷凍サイクル室外送風機を送風、
被空調対象空間外温度が被空調対象空間内温度より低い場合に、前記沸騰冷却システムを以下の作動とし、
前記沸騰システム室内送風機を送風、前記沸騰システム室外送風機を送風、
前記被空調対象空間内温度が冷房側温度より所定温度以上低い冷房停止温度以下では、
前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを以下の作動とし、
前記圧縮機を停止、
前記被空調対象空間内の温度が暖房側温度より所定温度以上低い暖房開始温度以下では、
前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを以下の作動とし、
前記圧縮機を駆動、前記切替弁を前記圧縮機からの冷媒を前記冷凍サイクル室内熱交換器に向うよう切り替え、前記冷凍サイクル室内送風機を送風、前記冷凍サイクル室外送風機を送風、
前記被空調対象空間外温度が前記被空調対象空間内温度より低い場合に、前記沸騰冷却システムを以下の作動とし、
前記沸騰システム室外送風機を停止、
前記被空調対象空間内の温度が暖房側温度より所定温度以上高い暖房停止温度以上では、
前記蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを以下の作動とし、
前記圧縮機を停止、
かつ、前記圧縮機の前記停止禁止時間による制御として、
前記暖房運転時の状態で前記圧縮機を駆動してから前記停止禁止時間以内に前記暖房停止温度以上の状態となった場合は、所定時間前記圧縮機の運転を継続して暖房運転を継続し、
前記沸騰冷却システムを以下の作動とする、
前記沸騰システム室内送風機を送風、前記沸騰システム室外送風機を送風、
ことを特徴とする請求項5に従属する請求項6に記載の空調装置。
【請求項8】
前記コントローラは、
冷房停止温度以下の状態で前記圧縮機を停止してから所定時間以内に暖房開始温度以下の状態となった場合、前記切替弁を前記圧縮機からの冷媒を前記冷凍サイクル室内熱交換器に向うようにする切り替え、及び前記圧縮機の駆動を、所定時間は行わないことを特徴とする
請求項6もしくは7記載の空調装置。
【請求項9】
前記コントローラは、
前記暖房停止温度以上の状態で前記圧縮機を停止してから所定時間以内に冷房開始温度以上の状態となった場合は、前記切替弁を前記圧縮機からの冷媒を前記冷凍サイクル室外熱交換器に向うようにする切り替え、及び前記圧縮機の駆動は、所定時間行わないことを特徴とする
請求項6ないし8いずれか記載の空調装置。
【請求項10】
沸騰システム冷媒配管には、冷媒流れを導通、遮断する開閉弁が配置されており、
前記コントローラは、前記暖房運転の状態では、この開閉弁によって沸騰システム冷媒配管を閉じ、前記圧縮機の前記停止禁止時間の状態で前記圧縮機の運転を継続して暖房運転を継続し前記被空調対象空間内の温度が冷房開始温度以上となる状態では、この開閉弁により前記沸騰システム冷媒配管を開くことを特徴とする
請求項5ないし9いずれか記載の空調装置。
【請求項11】
沸騰システム室内熱交換器と冷凍サイクル室内熱交換器とは、同一の送風系に配置され、
沸騰システム室内送風機と冷凍サイクル室内送風機とは共通していることを特徴とする請求項6ないし10いずれか記載の空調装置。
【請求項12】
沸騰システム室内熱交換器と冷凍サイクル室内熱交換器との送風系には、沸騰システム室内熱交換器をバイパスするバイパス通路が設けられ、かつ、このバイパス通路の開閉を行うバイパス弁が設けられ、
前記コントローラは、沸騰システム室内熱交換器の不使用状態では、前記バイパス弁を開き、沸騰システム室内熱交換器の使用状態で、前記バイパス弁を閉じることを特徴とする
請求項6ないし11いずれか記載の空調装置。
【請求項13】
前記空調装置は、リチウムイオン電池を保管する局舎の温度を前記所定温度内に維持することを特徴とする請求項1ないし12いずれか記載の空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書の開示は、被空調対象空間の温度を所定温度内に保つ空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被空調対象空間の空調を、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムと、自然循環式沸騰冷却システムとを併用して行うことは、特許文献1ないし5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-129095号公報
【文献】特開2011-158135号公報
【文献】特表2015-534260号公報
【文献】特開2017-138069号公報
【文献】特表2018-519557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術文献に開示の空調装置は、いずれも通常の使用状態では被空調対象空間の冷房を行うのが主である。そして、外気が特に低温となった時、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを暖房運転に切り替えたり、別途ヒータを稼働させて暖房を行ったりしている。
【0005】
ただ、いずれの先行技術文献も、暖房運転開始時における圧縮機の保護に関しては何も開示していない。蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを用いて冷房運転及び暖房運転を行う場合、その特性上、冷房能力より暖房能力の方が大きい。しかも、要求される能力は冷房能力の方が暖房能力より大きいので、要求される暖房能力に比して蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの暖房能力が必然的に高くなる。そのため、暖房時に所定温度範囲の上限値を直ちに超えてしまう場合が生じる。また、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムでは、圧縮機の保護の観点から所定の停止禁止時間は、暖房運転を継続させる必要がある。
【0006】
本開示は、このような蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの特性に鑑みたもので、暖房運転を行う際にも、被空調対象空間の温度を所定温度内に維持することができる空調装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1は、被空調対象空間の温度を所定温度内に維持する空調装置である。空調装置は、被空調対象空間内の空気と被空調対象空間外の空気との間の熱移動で被空調対象空間の冷房を行う沸騰冷却システムと、冷媒を吸入圧縮吐出する圧縮機の運転で、被空調対象空間の冷房及び暖房を行う蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムとの双方を備えている。
【0008】
そして、沸騰冷却システムと蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムとはコントローラによって制御され、このコントローラは、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの暖房運転時に空調対象空間の温度が暖房必要温度(暖房停止温度)以上に上昇した際に、圧縮機の運転開始から所定の停止禁止時間は圧縮機の運転を継続して暖房運転を続け、かつ、沸騰冷却システムの冷房運転を行う。
【0009】
一般に、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムでは、冷房運転を主に能力を設定するので、例えばリチウムイオン電池のように23度を中心に暖房運転を行う際には、暖房運転能力が過剰となる可能性が高い。そして、温度が高くなりすぎてはリチウムイオン電池の寿命が短縮してしまい望ましくない。そのため、被空調対象空間の温度が暖房必要温度より高くなれば、圧縮機を停止して冷凍サイクルシステムの暖房運転を中止するのが通常である。
【0010】
このように、圧縮機運転後ただちに暖房必要温度以上となる状態が生じ得る。一方で、圧縮機の運転は、圧縮機より吐出した潤滑油が冷凍サイクルを一巡して圧縮機に戻るまで継続しておくことが望ましい。即ち、暖房必要温度に着目すれば、圧縮機の運転を停止するのが望ましいのであるが、圧縮機保護の観点では所定時間は運転を継続する必要がある。
【0011】
そこで、第1の開示では、圧縮機を駆動してから停止禁止時間以内に暖房必要温度以上に昇温した状態では、停止禁止時間が経過するまでは圧縮機の運転を継続して、冷凍サイクルシステムの暖房運転を続ける。一方で、沸騰冷却システムを冷房運転とする。これにより、圧縮機の保護を図りつつ、被空調対象空間の温度が高くなりすぎるのを抑制できる。
【0012】
本件の第2の開示は、冷凍サイクルシステムの暖房運転で、暖房停止温度以上に昇温した際に、停止禁止時間が経過した後に圧縮機を停止させる。その状態で、更に引き続き沸騰冷却システムの冷房運転を所定時間継続する。
【0013】
圧縮機を所定時間運転継続した結果、被空調対象空間の温度は設定温度以上となっており、この状態では、沸騰冷却システムにより被空調対象空間の冷房を引き続き行うのが望まれる。
【0014】
第3の開示では、被空調対象空間の温度に応じて沸騰冷却システムと冷凍サイクルシステムとの運転と以下のように制御する。
【0015】
まず、被空調対象空間の温度が冷房側温度より所定温度以上高い冷房開始温度以上では、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを冷房運転とし、沸騰冷却システムを冷房運転とし、被空調対象空間内の温度が冷房側温度より所定温度以上低い冷房停止温度以下では、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを停止する。
【0016】
そして、被空調対象空間の温度が暖房側温度より所定温度以上低い暖房開始温度以下では、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムを暖房運転とし、被空調対象空間の温度が暖房側温度より所定温度以上高い暖房停止温度以上では、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの運転を停止する。
【0017】
かつ、圧縮機の停止禁止時間による制御として、圧縮機を駆動してから停止禁止時間以内に暖房停止温度以上の状態となったときは、停止禁止時間圧縮機の運転を継続して暖房運転を継続し、かつ、沸騰冷却システムを冷房運転とする。
【0018】
第3の開示では、冷房運転の開始と停止、及び、暖房運転の開始と停止を制御することで、被空調対象空間内の温度を所定温度内に維持することができる。かつ、圧縮機の停止禁止時間内での被空調対象空間内の温度も冷凍サイクルシステムの暖房運転と沸騰冷却システムの冷房運転とを組み合わせることで、所定温度内に維持が可能である。
【0019】
本件の第4の開示は、冷凍サイクルシステムで冷房運転を行う場合にも、圧縮機の保護運転を行う。即ち、冷房運転で圧縮機が駆動してから停止禁止時間以内に被空調対象空間温度が冷房停止温度以下に低下した場合も、停止禁止時間が経過するまで圧縮機の運転を継続する。
【0020】
本件の第5の開示では、沸騰冷却システムの構成を特定している。即ち、被空調対象空間内の空気と熱交換する沸騰システム室内熱交換器、被空調対象空間外の空気と熱交換する沸騰システム室外熱交換器、この沸騰システム室外熱交換器と沸騰システム室内熱交換器とを冷媒の循環が可能に連結する沸騰システム冷媒配管を備える。また、沸騰システム室内熱交換器で熱交換した空気を被空調対象空間に送風する沸騰システム室内送風機、及び、沸騰システム室外熱交換器に被空調対象空間外の空気を送風する沸騰システム室外送風機も備えている。
【0021】
本件の第6の開示では、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの構成を特定している。冷凍サイクルシステムは、冷媒の圧縮を行う圧縮機、冷凍サイクル室内熱交換器、膨張弁、冷凍サイクル室外熱交換器、冷凍サイクル冷媒配管、冷凍サイクル冷媒配管を切り替えて冷媒の流れを切り替える切替弁、冷凍サイクル室内送風機、及び、冷凍サイクル室外送風機を備える。
【0022】
第7の開示は、被空調対象空間内の温度に応じて沸騰冷却システムと冷凍サイクルシステムとの運転と以下のように制御する。
【0023】
まず、被空調対象空間内温度が冷房側温度より所定温度以上高い冷房開始温度以上では、沸騰冷却システムが、被空調対象空間外の温度が低い場合、沸騰システム室内送風機と沸騰システム室外送風機に送風して冷房運転とする。まずは、沸騰システムのみで省エネ運転を行う。沸騰システムのみで冷房能力が不足する場合には、切替弁を圧縮機からの吐出冷媒が冷凍サイクル室外熱交換器に向うよう切り替えて、圧縮機を駆動し、冷凍サイクル室内送風機と冷凍サイクル室外送風機を送風する。このようにして、冷凍サイクルシステムを冷房運転とする。
【0024】
次いで、被空調対象空間内温度が冷房側温度より所定温度以上低い冷房停止温度以下となれば、冷凍サイクルシステムの運転を停止する。
【0025】
逆に、被空調対象空間内温度が暖房側温度より所定温度以上低い暖房開始温度以下では、冷凍サイクルシステムを以下の作動として、暖房運転とする。切替弁を圧縮機からの吐出冷媒が冷凍サイクル室内熱交換器に向うよう切り替えて、圧縮機を駆動し、冷凍サイクル室内送風機と冷凍サイクル室外送風機を送風とする。この際、沸騰冷却システムは、被空調対象空間外温度低いので、沸騰システム室外送風機を停止して作動させない。
【0026】
その後、被空調対象空間内温度が暖房側温度より所定温度以上高い暖房停止温度以上となれば、圧縮機を停止して冷凍サイクルシステムの暖房運転を中止する。この制御により、被空調対象空間内の温度を所定温度内に維持する。
【0027】
上述のように、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムでは、冷房運転を主に能力を設定するので、暖房運転能力が過剰となる可能性が高い。そのため、圧縮機運転後ただちに設定温度以上となる状態が生じる。一方で、圧縮機保護の観点では所定時間は運転を継続する必要がある。
【0028】
そこで、第7の開示でも、停止禁止時間が経過するまでは圧縮機の運転を継続して、冷凍サイクルシステムの暖房運転を続け、沸騰冷却システムを冷房運転とする。これにより、圧縮機の保護を図りつつ、被空調対象空間内温度が高くなりすぎるのを抑制できる。
【0029】
本開示の第8は、冷凍サイクルシステムの冷房運転から暖房運転の切り替え時の圧縮機の保護を行う。即ち、冷房運転が終了して圧縮機を停止してから所定時間以内に暖房開始状態となった場合は、切替弁の切り替え及び圧縮機の駆動を所定時間が経過するまでは行わない。
【0030】
本件の第9の開示は、冷凍サイクルシステムが、暖房運転から冷房運転の切り替わる時の圧縮機の保護である。この場合も、暖房運転が終了して圧縮機を停止してから所定時間以内に冷房開始状態となった場合は、切替弁の切り替え及び圧縮機の駆動を所定時間行わない。
【0031】
本件の第10の開示は、沸騰冷却システムの運転停止に関する。沸騰冷却システムは特別な外部駆動源を持たないので、沸騰システム室外送風機を停止するのみで冷却機能も加熱機能も停止することができる。ただ、単に沸騰システム室外送風機を停止したのみでは、自然風を受けて自然対流が生じる可能性がある。
【0032】
そこで、第10の開示は、沸騰システム冷媒配管に、冷媒流れを導通、遮断する開閉弁を配置する。そして、冷凍サイクルシステムの暖房運転時には、この開閉弁によって沸騰システム冷媒配管を閉じる。そして、上記の圧縮機保護のため、昇温後も圧縮機運転を停止禁止時間継続する場合には、この開閉弁が沸騰冷却システムの冷媒配管を開いて沸騰冷却システムの冷房運転を開始する。
【0033】
本件の開示は、被空調対象空間に対して、冷凍サイクルシステムの空調と、沸騰冷却システムの空調を別々に配置することが可能である。ただ、第11の開示は、両者を一体化し、沸騰システム室内熱交換器と冷凍サイクル室内熱交換器とを、同一の送風系に配置している。この場合、沸騰システム室内送風機と冷凍サイクル室内送風機とを共通させることができる。
【0034】
尤も、第11の開示では、冷凍サイクルシステムの暖房運転時に沸騰システムの室内熱交換器に空気が流れることとなる。その際には、冷媒の自然対流により沸騰システム室内熱交換器が冷却作用を行う可能性がある。
【0035】
そこで、第12の開示では、送風系に沸騰システム室内熱交換器をバイパスするバイパス通路を設ける。コントローラは、沸騰システム室内熱交換器の不使用状態では、室内送風機からの送風をこのバイパス通路に流して、沸騰システム室内熱交換器の通風抵抗の影響をなくす。
【0036】
そして、上記の圧縮機保護のため昇温後も圧縮機運転を継続する場合のように沸騰システム室内熱交換器の使用時に、被空調対象空間からの空気を流して、沸騰システムの冷却機能を活用する。
【0037】
本件の第13の開示は、空調装置は、被空調対象を保管する局舎の温度を所定温度内に維持するものである。特に、本開示では局舎に保管される被空調対象としてリチウムイオン電池を用いる際に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】空調装置の構成を示すシステム図である。
図2】空調装置の構成を示す斜視図である。
図3】空調装置の斜視図である。
図4】外気温度と暖房能力との関係を示す説明図である。
図5】圧縮機運転時間と局舎内温度との関係を示す説明図である。
図6】沸騰システム作動時の圧縮機運転時間と局舎内温度との関係を示す説明図である。
図7】冷房運転、暖房運転切り替えタイミングを示す説明図である。
図8】空調装置の構成の他の例を示すシステム図である。
図9】空調装置の構成のさらに他の例を示すシステム図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本開示の空調装置のシステム概要を図1に示す。図中100は被空調対象空間である局舎で、周囲を断熱壁110によって囲まれている。局舎100は、断熱壁110によって閉じられた空間をなし、基本的に外気と遮断されている。ただ、断熱壁110は所定の断熱性能は有しているが、対流や放射による伝熱を完全に防止することはできない。通常の使用環境では1キロワット程度の熱量の授受は不可避的に生じてしまう。
【0040】
局舎100内には被空調対象200がそれぞれに循環内気が当たるように配置されている。本例では、被空調対象200は、出力調整システム(Power Conditioning Subsystem)PCS210及びこのPCS210に使用されるリチウムイオン電池220である。
【0041】
なお、出力調整システムPCS210は、例えば太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーで発電された電力を系統電源に接続するため、直流から交流に変換及び、安定した電圧、周波数に制御するために使用される。そして、以下の3つ機能を有している。太陽電池、燃料電池やガスエンジン等の発電量に応じて出力電力を制御する制御機能。発電状況に応じて運転を開始したり、停止したりするオンオフ機能。系統のいずれかに不具合がある場合、その異常を検出して動作を停止する保護機能。
【0042】
そして、このPCS210が安定的に動作続けるには、発電した電力を保存する蓄電池との組み合わせが最も重要となる。再生可能エネルギーを用いた発電は、化石燃料などのエネルギー消費がない代わりに、天候や時間帯によって発電量が不規則に変化し、安定的な発電が難しいという課題がある。そこで、電力供給の安定化のため、例えば蓄電池との組み合わせによる発電システムが用いられることもある。その際、蓄電池として例えばリチウムイオン電池220を使用する場合には、寿命確保のため指定された温度での管理をすることが望ましい。より具体的には、摂氏23度の上下5度以内に温度管理しておくことが望まれる。本開示では、この23度の上下5度以内の管理温度を、被空調対象空間である局舎100の所定温度範囲としている。
【0043】
この摂氏23度上下5度以内の所定温度範囲は、いわゆる常温で、夏季は冷房、冬季は暖房が基準となる。ただ、朝晩の気温の変更、日射の有無等により、運転を頻繁に切り替える必要がある。
【0044】
出力調整システムPCS210も局舎100内に配置されるので、PCS210は発熱源となる。即ち、運転開始、停止の制御や発電電力の制御を行うに際して、半導体の発熱が生じる。局舎100全体で、1時間当たり5~10キロワット程度の発熱源となる。
【0045】
局舎100の被空調対象200の容積の多くを占めるのはリチウムイオン電池220で、リチウムイオン電池220の発熱量は少ない。ただ、発熱量の多寡にかかわらず、リチウムイオン電池220は、寿命維持のため所定温度に定温管理することが求められている。具体的には、維持温度は摂氏23度であり、局舎100内温度が23度より5度以上高くなったり、低くなったりしないように管理する必要がある。
【0046】
300は空調装置であり、図2に示すように、局舎100とは、送気ダクト301及び吸気ダクト302を介して連通している。空調装置300は、沸騰冷却システム400と蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステム500とを有している。図1において上方に配置されるのが沸騰冷却システム400であり、下方に配置されるのが冷凍サイクルシステム500である。空調装置300のユニットは、また、室内ユニット310と室外ユニット330にも分けられる。図1において、左側に配置されるのが室内ユニット310であり、右側に配置されるのが室外ユニット330である。室内ユニット310と室外ユニット330との間には、図3に示すように、仕切板340が配置され、空気流れは分断されている。
【0047】
沸騰冷却システム400は、室内ユニット310に配置される沸騰システム室内熱交換器410と、室外ユニット330に配置される沸騰システム室外熱交換器420を備える。両熱交換器410、420間は沸騰システム冷媒配管430で冷媒が循環可能に連結されている。
【0048】
沸騰冷却システム400は、冷媒の沸騰、凝縮に伴う潜熱移動を用いる冷却、加熱システムである。例えば、局舎100内の温度が23度で、外気が10度である場合、冷媒は沸騰システム室内熱交換器410で内気からの熱を受けて蒸発する。その際の蒸発潜熱で内気から熱を受け、内気の冷却を行う。
【0049】
蒸発した冷媒は、温度差に基づく密度差によって、沸騰システム室外熱交換器420に流れ、沸騰システム室外熱交換器420で放熱して凝縮する。その際には、沸騰システム室外送風機440が送風を行っており、沸騰システム室外熱交換器420での熱交換を促進している。そして、沸騰システム室外熱交換器420で凝縮した液冷媒は、再度、温度差に基づく密度差によって沸騰システム室内熱交換器410側に流れて沸騰システム内を循環する。
【0050】
なお、450は、沸騰システム冷媒配管430を解放、遮断する電磁弁である。上述の通り、沸騰システムは密度差に基づいて冷媒がサイクル内を循環するものであるので、この循環を強制的に遮断する必要がある場合に、電磁弁450が閉となって、沸騰システム冷媒配管430を閉じる。
【0051】
冷凍サイクルシステム500は、冷媒の圧縮を行う圧縮機510を備える。この圧縮機510は、モータのインバータ制御されており、求められる能力に応じて回転数が変化する。要求能力が最大の場合が最大回転数で、冷凍サイクルシステムの要求能力に応じて圧縮機510の大きさと最大回転数が定められる。圧縮機510を運転する場合は、潤滑油保持等のためにも最小回転数以上の回転数での運転が必要となる。そのため、圧縮機510の運転を行う場合には圧縮機510の大きさと最小回転数以上の回転数に応じた最小能力以上の能力が発揮されることとなる。
【0052】
冷凍サイクルシステム500は、局舎100内の空気と熱交換する冷凍サイクル室内熱交換器520も備える。この冷凍サイクル室内熱交換器520は空調装置300の室内ユニット310内に、沸騰システム室内熱交換器410の空気流れ下流に配置される。即ち、冷凍サイクル室内送風機350からの送風は、局舎100内を循環した後、沸騰システム室内熱交換器410を通り、次いで、冷凍サイクル室内熱交換器520に循環する。
【0053】
冷凍サイクルシステム500は、他に冷媒を断熱膨張させる膨張弁530と、局舎100外の空気と熱交換する冷凍サイクル室外熱交換器540を備える。冷凍サイクル室外熱交換器540は、室外ユニット330内に配置される。そして、冷凍サイクル室内熱交換器520と異なり、専用の冷凍サイクル室外送風機550を備えている。
【0054】
冷凍サイクルシステム500でも、これらの圧縮機510、冷凍サイクル室内熱交換器520、膨張弁530、冷凍サイクル室外熱交換器540間は、冷凍サイクル冷媒配管560で接続される。ただ、各機器に流れる冷媒流れは切替弁570によって切り替えられる。
【0055】
例えば、冷房運転では、圧縮機510から吐出された高温高圧のガス冷媒は冷凍サイクル室外熱交換器540に送られ、そこで冷凍サイクル室外送風機550によって送られた外気と熱交換する。高圧のまま凝縮して液状となった冷媒は、膨張弁530で断熱膨張し、低温低圧の霧状冷媒となる。
【0056】
次いで、冷凍サイクル室内熱交換器520で冷凍サイクル室内送風機350によって循環する内気と熱交換し、冷媒は蒸発する。内気は、この冷凍サイクル室内熱交換器520通過時に冷媒より蒸発潜熱を奪われて冷却される。冷却された内気が局舎100内に送付されて、リチウムイオン電池220等の被空調対象200を冷却する。
【0057】
冷凍サイクル室内熱交換器520で蒸発した冷媒は、再度圧縮機510に吸引されて、冷媒は冷凍サイクルを循環する。
【0058】
切替弁570によって、冷凍サイクル冷媒配管560が切り替わり、暖房運転となると、圧縮機510からの冷媒は、冷凍サイクル室内熱交換器520に流入する。圧縮機510から吐出されたガス冷媒は、高温高圧であるので、冷凍サイクル室内熱交換器520で凝縮する際に凝縮潜熱を放出する。この凝縮潜熱によって内気が加熱され、昇温した内気が冷凍サイクル室内送風機350により局舎100内の被空調対象200に流入する。
【0059】
冷凍サイクル室内熱交換器520で凝縮液化した冷媒は、膨張弁530通過時に断熱膨張して霧状となる。この霧状冷媒は、冷凍サイクル室外熱交換器540で、外気より熱を吸収して蒸発し、再びガス冷媒となって圧縮機510に吸引される。
【0060】
なお、上述の通り、圧縮機510はその保全上運転時には最小回転数以上での運転が求められる。そのため、最小回転数の運転であっても、冷房能力や暖房能力が過剰となる場合には、圧縮機510の運転は停止する。
【0061】
また、冷凍サイクルシステム500の場合、冷房能力を定めれば、それに応じて暖房能力も定まることとなる。これは、圧縮機510からの冷媒最大吐出能力や、冷凍サイクル室内熱交換器520や冷凍サイクル室外熱交換器540の熱交換能力が定まるためである。
【0062】
そのため、通常の設計では、局舎100内の冷房負荷に応じて蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの必要能力を設定する。局舎100内の被空調対象200は多少なりとも発熱をし、真夏の炎天下での運転に耐えることが求められるからである。
【0063】
なお、局舎100内には温度センサ351が配置されており、局舎100の温度を検出している。また、室内ユニット310には、コントローラ360が配置されている。コントローラ360は、温度センサ351からの信号に基づいて、圧縮機510の運転や、冷凍サイクル室内送風機350、沸騰システム室外送風機440及び冷凍サイクル室外送風機550の運転のオンオフを切り替える。コントローラ360は、また、切替弁570を切り替えて、暖房運転と冷房運転との切り替えを行い、電磁弁450を開閉して沸騰冷却システム400の運転の開始、停止を制御する。
【0064】
次に、本開示の空調装置300の運転を説明する。
【0065】
リチウムイオン電池220は、23度の上下5度以内の所定温度範囲で維持することが求められる。ここで、沸騰冷却システム400が作動せず、冷凍サイクルシステム500も停止している状態で、被空調対象200の発熱量の方が、局舎100の放熱量より大きくなると、局舎100の温度は上昇する。
【0066】
この温度が上昇している状態で、局舎100の温度の方が外気温より高くなれば、沸騰冷却システム400は沸騰システム室内熱交換器410が蒸発器として作動する。そして、沸騰冷却システム400の放熱量の方が、被空調対象200の発熱量と局舎100の放熱量との差よりも大きい状態では、沸騰冷却システム400のみで冷房を行う。即ち、圧縮機510を回転させず、冷凍サイクルシステム500は冷房運転を行わない省エネでの冷房運転である。
【0067】
局舎100の温度上昇に、沸騰冷却システム400の冷却能力のみでは対応できず、局舎100内の温度が、冷房設定温度(例えば27度)以上の冷房開始温度(例えば28度)になると、冷凍サイクルシステム500の冷房運転を開始する。
【0068】
切替弁570は、上述の通り、冷凍サイクル室内熱交換器520で冷媒の蒸発を行うように冷媒流れを切り替え、圧縮機510は運転を開始する。冷凍サイクル室内熱交換器520は蒸発器として作用し、内気の冷却を行う。
【0069】
冷凍サイクルシステム500の冷房作用で、局舎100内の温度が低下すれば、圧縮機510の回転数を調整して冷房能力を低下させる。冷房設定温度辺りを維持できるように、冷凍サイクルシステム500の能力を可変制御する。
【0070】
即ち、局舎100の温度が冷房設定温度より高く、かつ、圧縮機510の回転数が最大でない状態では、圧縮機510の回転数を上昇させる。これにより、冷凍サイクルシステム500の冷房能力を増加させ、局舎100の温度が高くなるのを防ぐ。逆に、局舎100の温度が冷房設定温度より低く、かつ、圧縮機510の回転数が最小でない状態では、圧縮機510の回転数を減少させる。これによって、冷凍サイクルシステム500の冷房能力が低減し、局舎100の温度が低くなりすぎるのを防止する。
【0071】
この局舎100内の温度が冷房設定温度以上で、冷凍サイクルシステム500の冷房運転時、外気も局舎100の温度と同度程度まで上昇していれば、内気と外気との間に温度差がなく、沸騰システム室内熱交換器410は蒸発器として作用しない。即ち、沸騰冷却システム400は、冷却も加熱も行われない。
【0072】
外気が更に上昇して、内気以上の高温となれば、沸騰システム室内熱交換器410は凝縮器となって、内気を加熱する恐れがある。この場合には、冷却運転ではなく暖房運転となってしまうので、沸騰システム室外送風機440を停止して、沸騰冷却システム400の作動を停止する。かつ、電磁弁450は沸騰システム冷媒配管430を閉じる。
【0073】
圧縮機510の回転数を最小限にしても、局舎100内の温度が低下し、冷房停止温度(例えば26度)以下となれば、圧縮機510の運転を停止する。
【0074】
外気温によっては、沸騰冷却システム400により、局舎100内の温度を設定温度(23度)程度で維持できる場合もある。即ち、局舎100の温度が23度程度の状態で、外気温度が局舎100の温度より低い場合には、上述したように、沸騰冷却システム400は冷房運転を行う。逆に、局舎100の温度が23度程度の状態でも、外気温度が局舎100の温度より高い時には、沸騰冷却システム400が暖房運転を行う。この沸騰冷却システム400の冷房運転と暖房運転とによって、局舎100の温度を設定温度近くに維持できる場合がある。
【0075】
冷凍サイクルシステム500による暖房運転の設定温度は、例えば19度である。局舎100内の温度が暖房開始温度(例えば18度)以下に低下すると、冷凍サイクルシステム500の暖房運転を開始する。この暖房運転では、上述の通り、圧縮機510より吐出された高温高圧のガス冷媒が冷凍サイクル室内熱交換器520に流入するよう、切替弁570は冷凍サイクル冷媒配管560を切り替える。
【0076】
その状態で、圧縮機510が回転開始し、冷凍サイクル室内熱交換器520は凝縮器として働く。それにより、内気が加熱され、昇温された内気が冷凍サイクル室内送風機350によって、被空調対象200に送風される。
【0077】
沸騰冷却システム400の動作は外気温に応じて異なるが、この暖房運転時には、通常外気温は19度以下であるので、沸騰システム室内熱交換器410で冷媒を凝縮させるのは困難である。この場合、沸騰システム室外送風機440を停止して、沸騰冷却システム400の動作を停止する。かつ、電磁弁450により沸騰システム冷媒配管430を閉じる。
【0078】
局舎100内の温度が18度から20度の間は、圧縮機510の回転数を制御して、蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステムの冷房能力を調整する。即ち、局舎100の温度が暖房設定温度より低く、かつ、圧縮機510の回転数が最大回転数より低ければ、圧縮機510の回転数を増加させる。逆に、局舎100の温度が暖房設定温度より高く、圧縮機510の回転数が最小回転数より高ければ、圧縮機510の回転数を減少させる。
【0079】
そして、局舎100内の温度が暖房停止温度(例えば20度)より高くなれば、圧縮機510の運転を停止して、暖房運転を終了する。
【0080】
以上が、空調装置300運転の基本動作であるが、冷凍サイクルシステム500と沸騰冷却システム400の運転は、主に出力調整システムPCS210の発熱と外気温に応じて切り替えられる。上述の通り、リチウムイオン電池220は、発熱源としては熱量が小さいので、リチウムイオン電池220からの熱の影響は主流ではない。
【0081】
外気温が23度以上の場合は、暖房運転の可能性はなく、専ら冷房運転である。特に、外気温が冷房開始温度より高温側に大きく外れれば、冷凍サイクルシステム500の冷房運転を継続することとなる。圧縮機510は回転を継続し、冷凍サイクルシステム500の冷房能力は、局舎100内の温度に応じて調整する。外気温が30度程度かそれ以下であれば、局舎100内の温度は冷房停止温度程度となって、圧縮機510の回転数調整のみでは冷房能力が対応できない場合もある。その際は、圧縮機510の運転開始と停止の組み合わせで対応する。
【0082】
外気温が低下して、局舎100の温度が暖房設定温度より低くなれば、暖房運転を開始する。図4に、外気温が20度以下の場合の冷凍サイクルシステム500の運転制御を示す。この場合の運転は暖房運転である。暖房運転も、圧縮機510の回転数の調整と、圧縮機510の運転の開始停止との組み合わせで暖房能力を調整する。
【0083】
ここで、外気温が氷点下10度を下回れば、圧縮機510を回転し続けて暖房運転を継続する。即ち、局舎100の暖房負荷を維持するため、圧縮機510の回転数を調整しつつ、暖房運転を継続している。これは、圧縮機510の回転数を最小限にした際の暖房能力Rが局舎100の暖房負荷Sを下回っているためである。
【0084】
即ち、この外気温が氷点下10度以下の状態の暖房能力は、圧縮機510の運転を最小の回転で行った能力Rから、最高回転で運転した状態の能力Tの間となる。局舎100内の温度が一定に保たれるよう、圧縮機510の回転数を制御する。
【0085】
外気温が氷点下10度を上回れば、圧縮機510の運転を最小能力Rとしても、暖房能力の方が局舎100の暖房負荷Sを上回る。この場合は、圧縮機510を停止して、暖房運転を終了することで、局舎100内の温度を所定値に維持する。
【0086】
外気温が氷点下10度以上の場合、局舎100内の温度が暖房開始温度(18度)を下回れば、暖房運転を開始する。図4に示すように、外気温が15度程度と高い時には、圧縮機510の回転を最小限Rとしても4キロワット程度と高い暖房能力を発揮してしまう。
【0087】
これは、上述の通り、冷凍サイクルシステム500は高温炎天下で充分な冷房能力確保するため、その能力を定めているからである。そのため、外気温が15度程度の暖房負荷の小さい状態で暖房運転を開始すれば、圧縮機510の回転数を最小限としていても、直ちに局舎100内の温度が上昇してしまう。
【0088】
圧縮機510の保護のため、一旦運転を開始した圧縮機510は、圧縮機510より吐出した潤滑油が再度圧縮機510に吸入されるまでは運転を継続する必要がある。圧縮機510の能力によっても異なるが、通常の圧縮機510では、最短でも3分程度は運転を継続する必要がある。そのため、図5に示すように、この圧縮機510の最小回転数で、最短時間の暖房運転であっても、局舎100内の温度が上限の冷房開始温度(28度)を超えてしまう。
【0089】
即ち、リチウムイオン電池220の下限温度18度(暖房開始温度)で圧縮機510は暖房運転を開始する(図5のX点)。運転開始後最小の暖房能力(図4のR)で暖房運転しても直ちに局舎100内の温度が上昇し、リチウムイオン電池220上限温度28度(冷房開始温度)に達した時点(図5のY点)では、まだ3分の所定時間は経過していない。3分経過した時点(図5のZ点)では、上限温度28度(冷房開始温度)を超えている。
【0090】
この状態は、リチウムイオン電池220の保管を行う局舎100として問題である。特に、外気温が10度から15度というのは、頻繁に生じる温度である。局舎100内の温度が下限温度18度を下回って暖房運転を開始すれば、その都度局舎100内の温度がリチウムイオン電池220の上限温度28度を越えるという事態は、是非避けたい。
【0091】
本開示は、この問題を解決するために、沸騰冷却システム400を利用する。沸騰冷却システム400は、外気温と局舎100内の温度との温度差に応じて成り行きの制御となる。通常は局舎100の温度の方が被空調対象200の発熱により外気温より高くなっているので、沸騰冷却システム400は、暖房運転時には利用されていない。それに対し、本開示では、暖房運転時であっても、局舎100の温度が高くなった場合には、沸騰冷却システム400による冷却運転を積極的に利用している。
【0092】
即ち、外気温が10度程度と暖房運転を考えるような状況であっても、局舎100の温度が上昇すれば、沸騰冷却システム400の冷却が利用できるようにする。図6に冷凍サイクルシステム500と沸騰冷却システム400との運転状況を示す。
【0093】
外気温が10度程度と暖房負荷が小さい時でも、被空調対象200の発熱量より局舎100の放熱量が上回れば、局舎100内の温度は低下する(線L)。局舎100内の温度が暖房開始温度(18度)を下回れば、冷凍サイクルシステム500の暖房運転が開始する(A点)。圧縮機510の最小回転運転の暖房能力Rであっても、局舎100の温度は直ちに上昇し(線M)、暖房を停止する暖房停止温度(20度)に達する。但し、圧縮機510は3分の所定時間は運転を継続する。
【0094】
局舎100の温度が調節閾値温度(26度)まで上昇した時点(B点)で、沸騰冷却システム400の運転を開始する。この運転開始は、電磁弁450を開き、沸騰システム室外送風機440の送風を開始する。
【0095】
局舎100の温度が調整閾値温度(26度)まで上がった状態では、外気温度(例えば10度程度)の方が低温であるので、沸騰システム室内熱交換器410の温度の方が、沸騰システム室外熱交換器420より高温となる。そのため、沸騰システム室内熱交換器410で冷媒は蒸発し、沸騰システム室外熱交換器420で冷媒は凝縮する。そして、温度差に基づく密度差によって、冷媒は沸騰冷却システム400を循環する。これにより、沸騰冷却システム400は、冷房運転を維持する。
【0096】
沸騰冷却システム400で冷却を行っていても、冷凍サイクルシステム500の暖房能力の方が上回るので、局舎100の温度は依然上昇し続ける(線N)。そして、3分の圧縮機510保護運転時間が終了すると(C点)、圧縮機510は停止し、冷凍サイクルシステム500の暖房運転が終了する。
【0097】
本開示では、冷凍サイクルシステム500の暖房運転時に沸騰冷却システム400の冷房運転を行っているので、局舎100の温度上昇を遅らせることができる。沸騰冷却システム400の冷却は、暖房運転終了後も暫く継続し、1~2分程度後に沸騰冷却システム400の冷却も終了させる(D点)。即ち、沸騰システム室外送風機440を停止し、電磁弁450を閉じる。
【0098】
そのため、D点以降は、冷凍サイクルシステム500も沸騰冷却システム400も運転は停止している。ただ、外気温が低いので、被空調対象200の発熱量を局舎100の放熱量が上回って、局舎100の温度は徐々に低下する(線L)。なお、図4において線Uで示すのは、冷凍サイクルシステム500による最小暖房能力Rに沸騰冷却システム400の冷房能力を組み合わせた本開示の空調装置300全体としての暖房能力である。
【0099】
なお、圧縮機510の保護のため、3分の所定時間運転を継続するのは、暖房運転に限らない。冷房運転であっても、冷房開始温度(28度)に達して圧縮機510を回転開始した後は、局舎100内の温度が冷房停止温度(26度)より下がっても、3分の所定時間は、圧縮機510を運転する。
【0100】
ただし、冷凍サイクルシステム500が冷房運転を行うのは冷房負荷が大きい状態であり、かつ、多少であっても被空調対象200の発熱している。そのため、3分の所定時間経過時に局舎100内の温度がリチウムイオン電池220の下限温度(18度)以下となる事態は通常生じない。
【0101】
また、冷凍サイクルシステム500では、切替弁570で冷房運転と暖房運転とを切り替えた際には、冷凍サイクル内の均圧化を図るため、所定時間運転は運転を開始しない。この所定時間も冷凍サイクルシステム500により異なるが、通常は5分以上である。
【0102】
図7に示すように冷房運転を行っている状態で(線E)、局舎100内の温度が冷房停止温度(26度)に低下すると(F点)、圧縮機510の運転を停止する。運転停止後も引き続き局舎100内の温度が低下する場合がある。5分以上の所定時間以内に、局舎100内の温度が暖房開始温度(18度)を下回っても(G点)、切替弁570の運転切り替えは行わず、圧縮機510の運転開始も行わない。
【0103】
暖房運転は、所定時間を経過した時点(H点)で開始する。この時点(H点)を経過後に切替弁570を暖房運転に切り替えて、その後、圧縮機510を運転開始する。
【0104】
暖房運転から冷房運転への切り替えも同様である。暖房運転で局舎100内の温度が上昇し(線M)、暖房停止温度(20度)に達すれば(I点)、圧縮機510を停止して暖房運転を終了する。その後、局舎100内の温度が上昇し続けて、局舎100内の温度が冷房開始温度(28度)を越えても(J点)、冷房運転は開始しない。5分以上の所定時間が経過した時点(K点)で初めて、切替弁570を冷房運転に切り替え、その後、圧縮機510を運転開始する。
【0105】
なお、上述したのは、本開示の望ましい例であるが、本開示は種々に変更可能である。
【0106】
沸騰冷却システム400の沸騰システム冷媒配管430を開閉する開閉弁は、電磁弁450に代えてモータで開閉を制御する開閉弁としてもよい。また、電磁弁450は廃止することも可能である。沸騰冷却システム400は、沸騰システム室内熱交換器410と沸騰システム室外熱交換器420で冷媒の蒸発、凝縮させることで機能するものである。そのため、単に沸騰システム室外送風機440を止めて沸騰システム室外熱交換器420の機能を抑制するのみでも、運転を実質的に停止させることは可能である。
【0107】
空調装置300は、沸騰冷却システム400と冷凍サイクルシステム500とを一体に形成したが、沸騰冷却システム400と冷凍サイクルシステム500とを別々の装置としてもよい。局舎100の空調が沸騰冷却システム400と冷凍サイクルシステム500との双方で空調されていればよく、必ずしも一体である必要はない。
【0108】
そのため、室内ユニット310で沸騰システム室内熱交換器410を通過した内気が冷凍サイクル室内熱交換器520に流入する必要もない。その場合、沸騰システム室内熱交換器410用に室内送風機を設ける必要がある。
【0109】
図8は、沸騰冷却システム400と冷凍サイクルシステム500とを別々に構成した例を示す。沸騰冷却システム400は独自に室内ユニット310aと室外ユニット330aを有しており、冷凍サイクルシステム500も独自に室内ユニット31bと室外ユニット330bを有している。そして、沸騰冷却システム400も室内送風機460を備えており、沸騰冷却システム400の室内ユニット31aと冷凍サイクルシステム500の室内ユニット310bとの間は連結ダクト303で接続されている。
【0110】
上記開示のように、沸騰システム室内熱交換器410の室内ユニット310aを通過した内気が冷凍サイクル室内熱交換器520に流入する例では、沸騰システム室内熱交換器410が機能していない状態で、沸騰システム室内熱交換器410が通風抵抗となる恐れもある。その場合には、沸騰システム室内熱交換器410をバイパスする内気通路を別途形成して、沸騰システム室内熱交換器410の不要時には、このバイパス通路に内気を流すようにしてもよい。
【0111】
図9は、沸騰冷却システム400をバイパスするバイパス通路304を形成した例である。バイパス通路304の一端は吸気ダクト302に開口し、バイパス通路304の他端は連結ダクト303に開口している。
【0112】
バイパス通路304途中にバイパス弁305が配置されている。バイパス弁305を閉じている状態では、吸気ダクト302を流れる空気は全て沸騰冷却システム400の室内ユニット310a側に流れる。一方、バイパス弁305が開いている状態では、通風抵抗が沸騰冷却システム400に比べてバイパス通路304の方が小さいので、吸気ダクト302を流れる空気は、バイパス通路304から直接冷凍サイクルシステム500の室内ユニット310bに流入する。
このバイパス通路304は、冷凍サイクルシステム500の冷房運転時でも、暖房運転時でも、沸騰冷却システム400が作用していない時に用いられる。沸騰冷却システム室内熱交換器410の通風抵抗が無くなるので、全体としての風量を増すことができ、冷房運転、暖房運転ともに、能力を高めることができる。
【0113】
バイパス通路304とバイパス弁305を設けた場合、電磁弁450は廃止できる。また、バイパス弁305がバイパス通路304を開いている状態では、沸騰システム室内送風機460及び沸騰冷却システム室外熱交換器440は運転を停止している。
【0114】
なお、バイパス通路304は、沸騰システム室内熱交換器410のバイパスができればよい。従って、バイパス通路を沸騰冷却システム400の室内ユニット310aに設けてもよい。
【0115】
圧縮機510の保護のための運転継続時間は、圧縮機510の能力によっても勿論変更する。3分の所定時間は望ましい時間であるが、各圧縮機510の特性に応じて、所定時間を増減すればよい。
【0116】
同様に、冷房運転と暖房運転との切り替えの所定時間も、5分以上の所定時間が望ましいが、圧縮機510の性能等に応じて増減可能である。
【0117】
外気温が比較的高い状態での冷凍サイクルシステム500の暖房運転で、上述の開示では、3分の所定時間経過後圧縮機510を停止させ、更に沸騰冷却システム400を暫く冷却運転していた(図6のD点)。この沸騰冷却システム400の冷却運転は局舎100内の温度を早期に低下させるのに望ましい。ただ、局舎100内の温度管理は多様な方法で行うことができるので、圧縮機510の停止と共に沸騰冷却システム400の冷却運転も停止するようにしてもよい。
【0118】
上記開示では、被空調対象がリチウムイオン電池220であった。ただ、本開示の被空調対象200は低発熱源若しくは非発熱源に幅広く利用可能である。所定の温度を維持管理するものであれば、局舎100を例えば、農業ハウスとしてもよい。局舎100は被空調対象空間を表しており、局舎100の用途はリチウムイオン電池220や農業ハウスに限らない。
【0119】
更に、本開示は、被空調対象が大きな発熱源である場合にも利用可能で、例えば、局舎100を通信システムの基地局の空調装置としても利用できる。被空調対象の発熱量が多ければ、暖房運転開始時に短時間で暖房停止温度以上に温度上昇する可能性があり、本開示が有効である。
【符号の説明】
【0120】
100・・・局舎
110・・・断熱壁
200・・・被空調対象
210・・・PCS
220・・・リチウムイオン電池
300・・・空調装置
310・・・室内ユニット
330・・・室外ユニット
350・・・室内送風機
400・・・沸騰システム
410・・・沸騰システム室内熱交換器
420・・・沸騰システム室外熱交換器
450・・・電磁弁
500・・・蒸気圧縮式ヒートポンプ冷凍サイクルシステム
510・・・圧縮機、
520・・・冷凍サイクル室内熱交換器
530・・・膨張弁
540・・・冷凍サイクル室外熱交換器
550・・・室外送風機
560・・・冷凍サイクル冷媒配管
570・・・切替弁
図1
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図9