(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】組成物の供給方法、組成物、供給装置及び組成物の充填方法
(51)【国際特許分類】
C07C 211/07 20060101AFI20240510BHJP
C07C 209/84 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C07C211/07
C07C209/84
(21)【出願番号】P 2020077602
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】新免 益隆
(72)【発明者】
【氏名】三宅 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】井町 昌義
(72)【発明者】
【氏名】瀬崎 竜生
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特許第6813788(JP,B2)
【文献】特開2018-123878(JP,A)
【文献】特開2006-265162(JP,A)
【文献】特開平09-309796(JP,A)
【文献】特開2010-138164(JP,A)
【文献】特開2006-183863(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0008039(US,A1)
【文献】国際公開第2017/159544(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016375(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/079944(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C30B,F17C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、
前記組成物の少なくとも一部を気化する、前記組成物の加温工程と、
前記容器からn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガスを所定の装置に供給するガス供給工程と、
を行うことを特徴とする組成物の供給方法。
【請求項2】
前記ガス供給工程の前に、容器に充填された前記組成物の5質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の組成物の供給方法。
【請求項3】
前記ガス供給工程の前に、容器に充填された前記組成物の10質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の組成物の供給方法。
【請求項4】
前記充填工程の前に、n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含む混合物を蒸留して前記組成物を調製する請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物の供給方法。
【請求項5】
前記組成物が、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.2体積%以下含む請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物の供給方法。
【請求項6】
前記組成物が、n-ブチルアミンを99.9体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.05体積%以下含む請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物の供給方法。
【請求項7】
二つ以上の容器に対し、前記ガス供給工程の前に、前記充填工程、前記加温工程及び前記放出工程を行うとともに、一の容器について前記ガス供給工程を開始し、前記一の容器に充填された組成物の50質量%以上を使用した段階で、他の一の容器について前記ガス供給工程を開始する請求項2又は3に記載の組成物の供給方法。
【請求項8】
前記ガス供給工程において、前記一の容器から供給されるガス状の組成物の量と、前記他の一の容器から供給されるガス状の組成物の量とが、異なることを特徴とする請求項7に記載の組成物の供給方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物の供給方法に使用するための組成物であって、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含むことを特徴とする組成物。
【請求項10】
n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.2体積%以下含む請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
n-ブチルアミンを99.9体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.05体積%以下含む請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか1項に記載の組成物を充填した容器を二つ以上有し、前記容器は前記組成物の少なくとも一部を気化する温度に加温されており、ガス状のn-ブチルアミン組成物を供給することが可能なことを特徴とする供給装置。
【請求項13】
n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、
前記組成物が充填された容器を前記組成物の少なくとも一部を気化する温度に加温する加温工程と、
容器に充填された前記組成物の5質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程と、
を行うことを特徴とする
組成物が充填された容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガス組成物の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機アミンの1種であるn-ブチルアミンは、医薬品製造工程や半導体デバイス製造工程で使用されている。これらの用途で用いる場合、n-ブチルアミンをガス状で供給することが好ましい。
【0003】
医薬品製造工程や半導体デバイス製造工程では、使用する原料の純度が高く、さらに組成の変化が少ないことが好ましい。しかしながら、n-ブチルアミンを充填した容器からn-ブチルアミンをガス状で供給すると、容器の使用開始時と終了時で、n-ブチルアミンの濃度が一定ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2017/159544号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスの組成を一定に保ちながら供給する方法として、例えばフッ素化飽和炭化水素とアミン化合物を含む共沸組成物を気化させて供給する方法が報告されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、n-ブチルアミンをガス状で供給すると濃度が一定ではなく、n-ブチルアミンとそれに含まれる不純物とは共沸しないため、共沸組成物を利用することが難しい。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑み、高純度のn-ブチルアミンガスを一定組成で安定して供給する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、n-ブチルアミンには不純物としてイソブチルアミンが含まれ、このイソブチルアミンの濃度が一定しないことが、n-ブチルアミンガスを一定組成で供給することを妨げていることを見出した。さらに、本発明者らは、充填する組成物中に含まれるイソブチルアミンの量を減らすことで、n-ブチルアミンとイソブチルアミンを含むガスを安定した組成で供給可能であることを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0008】
さらに、本発明者らは、n-ブチルアミンとイソブチルアミンを含む組成物が充填された容器を所定の温度以上に加温し、n-ブチルアミンとイソブチルアミンを含むガスを所定の装置へ供給することで、高純度のn-ブチルアミンを安定した組成で供給可能であることを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0009】
具体的には、本開示の組成物の供給方法は、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、前記組成物の少なくとも一部を気化する、上記組成物の加温工程と、上記容器からn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガスを所定の装置に供給するガス供給工程と、を行うことを特徴とする。
本開示の組成物の供給方法によれば、安定したガス組成でn-ブチルアミンを供給することができる。
【0010】
以下、本開示の組成物の供給方法以外の開示事項についても参考のため記載する。
本開示の組成物は、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含むことを特徴とする。
本開示の組成物を上記の供給方法を用いて供給すると、安定した組成でガス状のn-ブチルアミンを供給することができる。
【0011】
本開示の供給装置は、上記組成物を充填した容器を二つ以上有し、上記容器は50℃以上に加温されており、ガス状のn-ブチルアミン組成物を供給することが可能なことを特徴とする。
本開示の供給装置は、上記組成物を充填した容器を一つ又は二つ以上同時に使用することができ、より一層安定したガス組成でn-ブチルアミンを供給することができる。
【0012】
本開示の組成物の充填方法は、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、上記組成物が充填された容器を50℃以上に加温する加温工程と、容器に充填された上記組成物の5質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程と、を行うことを特徴とする。
本開示の組成物の充填方法により得られた充填済み容器を用いれば、安定したガス組成でn-ブチルアミンを供給することができる。
【0013】
<開示事項1>
n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、
前記組成物が充填された容器を50℃以上に加温する加温工程と、
前記加温された容器からn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガスを所定の装置に供給するガス供給工程と、
を行うことを特徴とする組成物の供給方法。
<開示事項2>
前記ガス供給工程の前に、容器に充填された前記組成物の5質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程を行うことを特徴とする開示事項1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項3>
前記ガス供給工程の前に、容器に充填された前記組成物の10質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程を行うことを特徴とする開示事項1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項4>
前記加温工程において、前記容器を60~90℃に加温する開示事項1~3のいずれか1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項5>
前記加温工程において、前記容器を70~75℃に加温する開示事項1~4のいずれか1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項6>
前記充填工程の前に、n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含む混合物を蒸留して前記組成物を調製する開示事項1~5のいずれか1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項7>
前記組成物が、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.2体積%以下含む開示事項1~6のいずれか1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項8>
前記組成物が、n-ブチルアミンを99.9体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.05体積%以下含む開示事項1~7のいずれか1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項9>
二つ以上の容器に対し、前記ガス供給工程の前に、前記充填工程、前記加温工程及び前記放出工程を行うとともに、一の容器について前記ガス供給工程を開始し、前記一の容器に充填された組成物の50質量%以上を使用した段階で、他の一の容器について前記ガス供給工程開始する発明1~8のいずれか1に記載の組成物の供給方法。
<開示事項10>
前記一の容器から供給されるガス状の組成物の量と、前記他の一の容器から供給されるガス状の組成物の量とが、異なることを特徴とする開示事項9に記載の組成物の供給方法。
<開示事項11>
開示事項1~10のいずれか1に記載の組成物の供給方法に使用するための組成物であって、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含むことを特徴とする組成物。
<開示事項12>
n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.2体積%以下含む開示事項11に記載の組成物。
<開示事項13>
n-ブチルアミンを99.9体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.05体積%以下含む開示事項11又は12に記載の組成物。
<開示事項14>
開示事項11~13のいずれか1に記載の組成物を充填した容器を二つ以上有し、前記容器は50℃以上に加温されており、ガス状のn-ブチルアミン組成物を供給することが可能なことを特徴とする供給装置。
<開示事項15>
n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、
前記組成物が充填された容器を50℃以上に加温する加温工程と、
容器に充填された前記組成物の5質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程と、
を行うことを特徴とする組成物の充填方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示の組成物の供給方法によれば、イソブチルアミンの濃度変化を抑制して高純度のn-ブチルアミンを安定した組成で供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本開示の組成物の供給方法は、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、上記組成物が充填された容器を50℃以上に加温する加温工程と、上記加温された容器からn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガスを所定の装置に供給するガス供給工程と、を行うことを特徴とする。
【0017】
n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含む上記組成物を容器に充填し、容器を加温してn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを気化させて容器から放出すると、放出初期のガス組成物には、充填した組成物よりもイソブチルアミンが多い割合で含まれている。そこで、本開示の組成物の供給方法では、充填する組成物中のイソブチルアミンの割合を減らすことで、イソブチルアミンの濃度変化を抑制することができる。
【0018】
また、ガス組成物中のイソブチルアミンの濃度は、放出開始から充填した上記組成物の5質量%までを容器から放出する間に、特に高い。そこで、本開示の組成物の供給方法では、イソブチルアミンを多く含むガス組成物をあらかじめ放出し、ガス組成物中のイソブチルアミンの濃度が下がってからガス組成物を所定の装置に供給することが好ましい。
【0019】
まず、上記組成物を容器に充填する充填工程について説明する。
本開示において、容器に充填する組成物は、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物であれば、この組成物とする方法は特に限定されない。例えば、上記組成物は、n-ブチルアミンを従来公知の方法で合成する過程で得られたものであってもよいし、n-ブチルアミンにイソブチルアミンを添加して得られたものであってもよいし、n-ブチルアミンを99.5体積%未満含み、イソブチルアミンを0.5体積%超えて含む混合物を蒸留して得られたものであってもよい。
本開示において、容器に充填する組成物のイソブチルアミンの含有量が少ない方が好ましいので、充填工程の前にn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含む混合物を蒸留して上記組成物を調製することが好適である。
なお、蒸留とは、2種類以上の沸点の異なる液体混合物を蒸発、凝縮させることによってそれぞれの成分を分離・精製する操作のことである。本開示の場合、n-ブチルアミンとイソブチルアミンとは沸点が近いものの共沸しないため、蒸留によりイソブチルアミンの濃度の低い組成物を調製することが可能であり、この蒸留により上記組成物を調製することができる。
【0020】
容器に充填する組成物は、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.2体積%以下含むことが好ましく、n-ブチルアミンを99.9体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.05体積%以下含むことがより好ましく、n-ブチルアミンを99.95体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.01体積%以下含むことが更に好ましく、n-ブチルアミンを99.99体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.005体積%以下含むことが特に好ましい。上記組成物の組成が上記範囲であると、イソブチルアミンの濃度変化を抑制して高純度のn-ブチルアミンガスを安定した組成で供給することができる。
【0021】
上記組成物には、n-ブチルアミン、イソブチルアミン以外の他の不純物が含まれていてもよく、他の不純物としては、水分、不活性ガス、酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素等が挙げられる。
上記組成物を充填する容器は特に限定されず、液体のn-ブチルアミン、イソブチルアミンを保存可能な容器であればよい。このような容器としては、例えばステンレス鋼(SUS)製、マンガン鋼製、ニッケル鋼製、クロムモリブデン鋼製の容器等が用いられる。
【0022】
次に、加温工程について説明する。
本工程では上記組成物が充填された容器を50℃以上に加温する。50℃未満であると、n-ブチルアミン、イソブチルアミンが充分気化せず、n-ブチルアミンをガス状で供給することが難しい。好ましくは60~90℃、より好ましくは70~75℃である。
容器を加温する時間は、30~120分が好ましい。
容器を加温する方法としては特に限定されず、当業者に公知の方法等を用い得るが、例えば、マントルヒーターで容器を覆う方法や、温水や蒸気などの熱媒体が流通するジャケットで容器を覆う方法などが挙げられる。
【0023】
本開示の組成物の供給方法では、ガス供給工程の前に放出工程を行うことが好ましい。以下では放出工程について説明する。
本工程では、容器に充填された上記組成物の5質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出することが好ましい。上記容器からn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガスを放出すると、放出開始時は、ガス中のイソブチルアミンの濃度が容器に充填された組成物中のイソブチルアミンの濃度よりも高い。ガス組成物中のイソブチルアミンの濃度は、放出開始から充填した上記組成物の5質量%までを放出する間が特に高い。
しかし、ガスを容器から放出するとガス中のイソブチルアミンの濃度が徐々に低下し、上記組成物の10質量%以上のガスを放出した後は、ガス中のイソブチルアミンの濃度が放出開始時の組成物中のイソブチルアミンの濃度よりも低くなる。
そこで、本開示の組成物の供給方法では、放出開始時から上記組成物の5質量%以上、好ましくは10質量%以上のガスを放出する間は、装置等にガスを供給せずに放出することが好ましい。放出したガスは、回収等することができる。この放出ガスは、再度蒸留等を行うことにより、精製することができ、再び使用することができる。なお、放出工程で放出するガスの量の上限は特に限定されないが、供給工程で供給するガスの量を確保するため、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
上記加温工程の後、または上記放出工程の後、上記加温された容器からn-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガスを所定の装置に供給するガス供給工程を行う。
n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含むガスを所定の装置に供給する方法としては、例えば、上記組成物を充填した容器と所定の装置とを連結する供給部を設けて、容器から所定の装置に上記組成物のガスを直接導入する方法が用いられる。
本開示の組成物の供給方法において、例えば、上記組成物を充填した容器を筐体内に格納し、上記容器を加温可能なシリンダーキャビネットからガスを供給することができる。
【0025】
ガス供給工程において、供給されるガスの組成は供給に伴って変化し、ガス中のイソブチルアミンの濃度は供給量が増えると低下する。
本開示の好ましい態様として、上記ガス供給工程で供給されるガスは、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む。
本開示の好ましい態様として、上記ガス供給工程で供給されるガスは、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.2体積%以下含む。
本開示の好ましい態様として、上記ガス供給工程で供給されるガスは、n-ブチルアミンを99.9体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.05体積%以下含む。
本開示の好ましい態様として、上記ガス供給工程で供給されるガスは、n-ブチルアミンを99.95体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.01体積%以下含む。
本開示の好ましい態様として、上記ガス供給工程で供給されるガスは、n-ブチルアミンを99.99体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.005体積%以下含む。
【0026】
上記ガス供給工程は、容器を二つ以上用いて行うこともできる。具体的には、二つ以上の容器に対し、ガス供給工程の前に、上記充填工程、上記加温工程及び上記放出工程を行うとともに、一の容器についてガス供給工程を開始し、上記一の容器に充填された組成物の50質量%以上を使用した段階で、他の一の容器について上記ガス供給工程開始する。
すなわち、二つ以上の容器のいずれか一つの容器からガス供給工程を開始し、容器に充填された組成物の50質量%以上を使用した段階で他の容器からもガス供給工程を開始することで、二つ以上の容器から同時にガスを供給する。
充填された組成物の50質量%以上を使用した段階で容器から供給されるガス中のイソブチルアミン濃度は、放出工程が終了した段階(例えば、使用量5~10質量%)の容器から供給されるガス中のイソブチルアミン濃度より低い。従って、使用量が異なる二つ以上の容器からガスを供給することで、イソブチルアミン濃度が比較的高いガスとイソブチルアミン濃度が比較的低いガスを混合させて供給することができる。
【0027】
なお、他の容器からのガス供給工程を開始するタイミングについては、一の容器に充填された組成物の50質量%以上を使用した段階としたが、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよい。
【0028】
容器を二つ以上用いて上記ガス供給工程を行う場合、二つ以上の容器のそれぞれからの供給するガスの量は同量であってもよいし、いずれか一つの容器から供給するガスの量を多くしても良い。ガスの供給量比(体積比)は、例えば容器を二つ用いる場合、1:9~9:1とすることができる。その際には、他の一の容器からガス供給を開始する際には、少量で開始し、使用率が高くなるにつれて、次第に供給割合を増やすことができる。
所定の装置にガスを供給する際、二つ以上の経路から組成の異なるガス(ガス組成物)を直接所定の装置にガスを供給してもよいが、途中で一旦組成の異なるガス組成物を混合した後、一つの経路で所定の装置にガスを供給することが好ましい。
【0029】
2つ以上のガス組成物の混合方法としては、例えば、上記容器から所定の装置までのガス供給路の途中に、所定体積の中継容器を設け、一旦、その中継容器に二つ以上のガス組成物を導入し、中継容器から所定の装置へは、一つの経路を介して混合されたガス組成物を供給する方法が考えられる。所定の装置内に組成の異なるガス組成物を混合する容器を備えていてもよい。
所定の装置としては、医薬品製造工程や半導体デバイス製造工程を有する装置が挙げられる。
【0030】
本開示はまた、上述の組成物の供給方法に使用するための組成物であって、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物に関する。
本開示の組成物は、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.2体積%以下含むことが好ましく、n-ブチルアミンを99.9体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.05体積%以下含むことがより好ましく、n-ブチルアミンを99.95体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.01体積%以下含むことが更に好ましく、n-ブチルアミンを99.99体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.005体積%以下含むことが特に好ましい。
上記組成物は、上述したように、n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含む混合物を蒸留すること等により調製することができる。
【0031】
本開示はまた、上記組成物を充填した容器を二つ以上有し、上記容器は50℃以上に加温されており、ガス状のn-ブチルアミン組成物を供給することが可能なことを特徴とする供給装置に関する。
【0032】
本開示の供給装置は、いずれか一つの容器のみからn-ブチルアミン組成物を供給することと、二つ又はそれ以上の容器から同時にn-ブチルアミン組成物を供給することが可能であれば、その構成は特に限定されない。
【0033】
また、本開示の供給装置は、上記組成物を充填した二つ以上の容器と、所定の装置とを連結する供給部と、容器を加温する加温部とを備えていてもよく、各容器と所定の装置とを連結する供給部を複数備えていてもよく、二つ以上の容器と所定の装置とを一つの供給部で連結していてもよい。
【0034】
すなわち、所定の装置にガス組成物を供給する際、一つの容器から一つの経路で所定の装置にガス組成物を供給できるように構成されていてもよく、二つ以上の容器から二つ以上の経路を介し、組成の異なるガス組成物を直接所定の装置に供給できるように構成されていてもよい。
しかし、二つ以上の容器から二つ以上の経路で組成の異なるガス組成物を所定の装置に供給する際、途中の中継容器で一旦組成の異なるガス組成物を混合した後、一つの経路で所定の装置にガス組成物を供給するか、所定の装置内に組成の異なるガス組成物を混合する容器を備えていることが好ましい。
【0035】
本開示の供給装置は、上述した本開示の組成物の供給方法に用いられる供給装置であることが望ましい。
【0036】
上記容器や上記中継容器としては、例えばステンレス鋼(SUS)製、マンガン鋼製、ニッケル鋼製、クロムモリブデン鋼製の容器等が挙げられる。ガス組成物を供給するガス菅は、例えばステンレス鋼(SUS)製、マンガン鋼製、ニッケル鋼製、クロムモリブデン鋼製、アルミニウム合金製のガス管が挙げられる。
上記容器は、50℃以上に加温されているが、加温手段としては、例えばマントルヒーターで容器を覆う方法や、温水や蒸気などの熱媒体が流通するジャケットで容器を覆う方法などが挙げられる。
ガス組成物の流量は、所定の装置の構成により異なり、特に限定されない。ガス組成物の流量の制御は、例えばマスフローコントローラー等により行うことができる。
【0037】
本開示の供給装置として、例えば、n-ブチルアミン組成物を充填した容器を格納した筐体と、上記容器を加温可能な加温部と、上記容器と所定の装置とを連結する供給部と、ガス組成物の供給量を制御する流量制御部と、を備えるシリンダーキャビネットが挙げられる。
【0038】
本開示はまた、n-ブチルアミンを99.5体積%以上及びイソブチルアミンを0.001体積%以上0.5体積%以下含む組成物を容器に充填する充填工程と、上記組成物が充填された容器を50℃以上に加温する加温工程と、容器に充填された上記組成物の5質量%以上をガスの状態で加温された容器から放出する放出工程と、を行うことを特徴とする組成物の充填方法に関する。
本開示の組成物の充填方法における充填工程、加温工程及び放出工程は、上述した本開示の組成物の供給方法における充填工程、加温工程及び放出工程と同様に行うことができ、好ましい態様も同様である。
本開示の組成物の充填方法により得られる、上記組成物が充填された容器、すなわち充填済み容器は、充填した組成物の最初の5質量%以上が放出されており、充填済み容器内の組成物の量は、充填工程で充填した組成物の量の95質量%未満である。充填した組成物の最初の5質量%以上が放出されていることにより、充填済み容器内のイソブチルアミンの濃度は組成物の充填時のイソブチルアミンの濃度よりも低くなる。
【実施例】
【0039】
以下、本開示の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含む混合物を蒸留して得られたn-ブチルアミン組成物をSUS製1L容器に0.7kg充填した。充填したn-ブチルアミン組成物の液相の組成分析を行ったところ(20℃)、n-ブチルアミンを99.933体積%、イソブチルアミンを0.044体積%含んでいた。容器を70℃に加温し、60分後にパージを開始し、気相の組成分析を行った。気相の組成分析は、気相を冷却捕集し、ガスクロマトグラフ分析装置(GC-2014、株式会社島津製作所製、検出器:FID)で行った。その結果、n-ブチルアミンを99.933体積%、イソブチルアミンを0.044体積%含んでいた。
その後、流量1000sccmでパージを行った。容器中の充填量の5質量%パージしたことを確認し(使用率5質量%)、気相の組成分析を行った。その結果、n-ブチルアミンを99.933体積%、イソブチルアミンを0.050体積%含んでいた。続いてパージを行い、使用率10質量%~90質量%の間、10質量%ごとにパージしたガスの組成分析を行った。結果を表1に示す。表1中、BAはn-ブチルアミンを表し、IBAはイソブチルアミンを表す。
【0041】
【0042】
パージ開始時(使用率1質量%)から使用率5質量%までのガス中のイソブチルアミン濃度は、充填時の液相のイソブチルアミン濃度よりも高かったが、使用率10質量%では、イソブチルアミン濃度は充填時の液相のイソブチルアミンとほぼ同じになった。使用率20質量%~90質量%では、徐々にイソブチルアミン濃度が低下した。使用率10質量%~90質量%では、イソブチルアミン濃度の最大値が0.045体積%、最小値が0.023体積%であった。最大値と最小値の差は0.022体積%であった。
【0043】
[実施例2]
n-ブチルアミン及びイソブチルアミンを含む混合物を蒸留して得られたn-ブチルアミン組成物を2個のSUS製1L容器(容器1、容器2)にそれぞれ0.7kg充填した。容器1、容器2に充填したn-ブチルアミン組成物の液相の組成分析を行ったところ(20℃)、容器1、容器2ともn-ブチルアミンを99.933体積%、イソブチルアミンを0.044体積%含んでいた。容器1と容器2を両方70℃に加温し、60分後にパージを開始してガスを放出し、容器1の使用率70質量%、容器2の使用率10質量%とした。
その後、同じ流量(1000sccm)で容器1及び容器2からパージを行い、ガスの混合を行った後、ガスの組成分析を行った。その結果を表2に示す。なお、容器1の使用量が100質量%になった後は、容器1からのガスの供給はなく、容器2のガス組成物のみを分析していることとなる。
【0044】
【0045】
表2に示す通り、実施例2ではイソブチルアミンの濃度の最大値が0.0350体積%、最小値が0.0250体積%であった。最大値と最小値の差は0.0100体積%であった。このように使用率が異なる容器を2つ使用してガスを供給することにより、ガス中のイソブチルアミン濃度の変動をより小さくすることができる。
【0046】
[実施例3]
容器1と容器2の供給量比を表3に示す割合に変更する以外は実施例2と同様の条件でパージを行い、組成分析を行った。結果を表3に示す。
【0047】
【0048】
表3に示す通り、実施例3ではイソブチルアミンの濃度の最大値が0.0335体積%、最小値が0.0250体積%であった。最大値と最小値の差は0.0085体積%であった。このように使用率が異なる容器を2つ使用して供給量比を段階的に変更することにより、ガス中のイソブチルアミン濃度の変動を更に小さくすることができる。