(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】タイヤの製造装置および方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/06 20060101AFI20240510BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20240510BHJP
B29C 35/16 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B29D30/06
B29C33/02
B29C35/16
(21)【出願番号】P 2020082397
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】飯田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】吉川 友洋
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-225043(JP,A)
【文献】特開2013-121684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00-30/72
B29C 33/02
B29C 35/02、35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤを加硫する加硫機と、前記グリーンタイヤが加硫された直後のタイヤをインフレートして保持するPCI機とを備えたタイヤの製造装置において、
前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を検知する形状センサおよび前記タイヤの外表面を冷却する冷却器と、
前記タイヤの外表面温度を検知する温度センサと、前記形状センサによる検知形状データ
および前記温度センサによる検知温度データが入力される制御部とを備えて、前記検知形状データと前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データとの比較
および前記検知温度データを用いて算出された前記タイヤの外表面の温度分布データに基づいて前記タイヤの外表面の冷却範囲が決定されて、前記検知形状データが前記目標形状データに近づくように、前記制御部によって前記冷却器が制御されて前記冷却範囲が冷却される構成にしたことを特徴とするタイヤの製造装置。
【請求項2】
グリーンタイヤを加硫する加硫機と、前記グリーンタイヤが加硫された直後のタイヤをインフレートして保持するPCI機とを備えたタイヤの製造装置において、
前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を検知する形状センサおよび前記タイヤの外表面を冷却する冷却器と、前記形状センサによる検知形状データが入力される制御部とを備えて、前記検知形状データと前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データとの比較に基づいて前記タイヤの外表面の冷却範囲が決定されて、前記検知形状データが前記目標形状データに近づくように、前記制御部によって前記冷却器が制御されて前記冷却範囲が冷却される構成にし
て、前記PCI機により保持された前記タイヤを前記形状センサに対して、タイヤ軸を中心にして相対的に回転させる回転機構と、タイヤ幅方向に相対的に移動させる幅方向移動機構とを有することを特徴とするタイヤの製造装置。
【請求項3】
グリーンタイヤを加硫する加硫機と、前記グリーンタイヤが加硫された直後のタイヤをインフレートして保持するPCI機とを備えたタイヤの製造装置において、
前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を検知する形状センサおよび前記タイヤの外表面を冷却する冷却器と、前記形状センサによる検知形状データが入力される制御部とを備えて、前記検知形状データと前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データとの比較に基づいて前記タイヤの外表面の冷却範囲が決定されて、前記検知形状データが前記目標形状データに近づくように、前記制御部によって前記冷却器が制御されて前記冷却範囲が冷却される構成にし
て、前記冷却器が、環状に形成されていて内周面に周方向に間隔をあけて冷却媒体を噴射するノズルを有し、前記タイヤの外周側に配置されることを特徴とするタイヤの製造装置。
【請求項4】
グリーンタイヤに対する加硫工程と、前記加硫工程で加硫された直後のタイヤに対するPCI工程とを有するタイヤの製造方法において、
前記PCI工程では、PCI機により保持された前記タイヤの外形を形状センサにより検知し、かつ、
前記タイヤの外表面温度を温度センサにより検知し、前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データと前記形状センサによる検知形状データとの比較
および前記温度センサによる検知温度データを用いて制御部により算出された前記タイヤの外表面の温度分布データに基づいて、前記タイヤの外表面の冷却範囲を決定し、
前記制御部によって冷却器を制御して前記冷却範囲を冷却することにより、前記検知形状データを前記目標形状データに近づけることを特徴とするタイヤの製造方法。
【請求項5】
グリーンタイヤに対する加硫工程と、前記加硫工程で加硫された直後のタイヤに対するPCI工程とを有するタイヤの製造方法において、
前記PCI工程では、
PCI機により保持された前記タイヤを形状センサに対して、タイヤ軸を中心にして相対的に回転させる回転機構と、このタイヤをタイヤ幅方向に相対的に移動させる幅方向移動機構とを用いて、前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を
前記形状センサにより検知し、前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データと前記形状センサによる検知形状データとの比較に基づいて、前記タイヤの外表面の冷却範囲を決定し、制御部によって冷却器を制御して前記冷却範囲を冷却することにより、前記検知形状データを前記目標形状データに近づけることを特徴とするタイヤの製造方法。
【請求項6】
グリーンタイヤに対する加硫工程と、前記加硫工程で加硫された直後のタイヤに対するPCI工程とを有するタイヤの製造方法において、
前記PCI工程では、PCI機により保持された前記タイヤの外形を形状センサにより検知し、前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データと前記形状センサによる検知形状データとの比較に基づいて、前記タイヤの外表面の冷却範囲を決定し、
前記タイヤの外周側に配置され、環状に形成されていて内周面に周方向に間隔をあけて冷却媒体を噴射するノズルを有する冷却器を制御部によって制御して前記冷却範囲を冷却することにより、前記検知形状データを前記目標形状データに近づけることを特徴とするタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの製造装置および方法に関し、さらに詳しくは、PCI工程中にタイヤに対して余分な外力を付与することなく、ユニフォミティをより向上させることができるタイヤの製造装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋設されている補強繊維が熱収縮する仕様のタイヤに対しては、加硫直後にタイヤの変形等を防止するため、インフレートさせた状態で冷却するPCI(ポストキュアインフレーション)工程が行われている。このPCI工程を経てタイヤが完成する。
【0003】
従来、PCI工程中に、タイヤのユニフォミティを改善する方法が種々提案させている(例えば特許文献1、2参照)。特許文献1では、目標形状の型の中でタイヤを膨張させることで、型によってタイヤを目標形状に型付けした状態で徐冷することが提案されている。特許文献2では、タイヤのビード部どうしの間隔を、タイヤ周方向に渡って変化させて保持することが提案されている。これら提案されている方法では、タイヤに対して相応の外力が付与されるためタイヤが受ける負荷が大きくなる。また、これらの方法では、ユニフォミティを十分に向上させることができない場合がある。それ故、PCI工程中にタイヤに余分な外力を付与することなく、ユニフォミティを向上させるには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-249715号公報
【文献】特開平11-77848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、PCI工程中にタイヤに対して余分な外力を付与することなく、ユニフォミティをより向上させることができるタイヤの製造装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のタイヤの製造装置は、グリーンタイヤを加硫する加硫機と、前記グリーンタイヤが加硫された直後のタイヤをインフレートして保持するPCI機とを備えたタイヤの製造装置において、前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を検知する形状センサおよび前記タイヤの外表面を冷却する冷却器と、前記タイヤの外表面温度を検知する温度センサと、前記形状センサによる検知形状データおよび前記温度センサによる検知温度データが入力される制御部とを備えて、前記検知形状データと前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データとの比較および前記検知温度データを用いて算出された前記タイヤの外表面の温度分布データに基づいて前記タイヤの外表面の冷却範囲が決定されて、前記検知形状データが前記目標形状データに近づくように、前記制御部によって前記冷却器が制御されて前記冷却範囲が冷却される構成にしたことを特徴とする。
本発明の別のタイヤの製造装置は、グリーンタイヤを加硫する加硫機と、前記グリーンタイヤが加硫された直後のタイヤをインフレートして保持するPCI機とを備えたタイヤの製造装置において、前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を検知する形状センサおよび前記タイヤの外表面を冷却する冷却器と、前記形状センサによる検知形状データが入力される制御部とを備えて、前記検知形状データと前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データとの比較に基づいて前記タイヤの外表面の冷却範囲が決定されて、前記検知形状データが前記目標形状データに近づくように、前記制御部によって前記冷却器が制御されて前記冷却範囲が冷却される構成にして、前記PCI機により保持された前記タイヤを前記形状センサに対して、タイヤ軸を中心にして相対的に回転させる回転機構と、タイヤ幅方向に相対的に移動させる幅方向移動機構とを有することを特徴とする。
本発明のさらに別のタイヤの製造装置は、グリーンタイヤを加硫する加硫機と、前記グリーンタイヤが加硫された直後のタイヤをインフレートして保持するPCI機とを備えたタイヤの製造装置において、前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を検知する形状センサおよび前記タイヤの外表面を冷却する冷却器と、前記形状センサによる検知形状データが入力される制御部とを備えて、前記検知形状データと前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データとの比較に基づいて前記タイヤの外表面の冷却範囲が決定されて、前記検知形状データが前記目標形状データに近づくように、前記制御部によって前記冷却器が制御されて前記冷却範囲が冷却される構成にして、前記冷却器が、環状に形成されていて内周面に周方向に間隔をあけて冷却媒体を噴射するノズルを有し、前記タイヤの外周側に配置されることを特徴とする。
【0007】
本発明のタイヤの製造方法は、グリーンタイヤに対する加硫工程と、前記加硫工程で加硫された直後のタイヤに対するPCI工程とを有するタイヤの製造方法において、前記PCI工程では、PCI機により保持された前記タイヤの外形を形状センサにより検知し、かつ、前記タイヤの外表面温度を温度センサにより検知し、前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データと前記形状センサによる検知形状データとの比較および前記温度センサによる検知温度データを用いて制御部により算出された前記タイヤの外表面の温度分布データに基づいて、前記タイヤの外表面の冷却範囲を決定し、前記制御部によって冷却器を制御して前記冷却範囲を冷却することにより、前記検知形状データを前記目標形状データに近づけることを特徴とする。
本発明の別のタイヤの製造方法は、グリーンタイヤに対する加硫工程と、前記加硫工程で加硫された直後のタイヤに対するPCI工程とを有するタイヤの製造方法において、前記PCI工程では、PCI機により保持された前記タイヤを形状センサに対して、タイヤ軸を中心にして相対的に回転させる回転機構と、このタイヤをタイヤ幅方向に相対的に移動させる幅方向移動機構とを用いて、前記PCI機により保持された前記タイヤの外形を前記形状センサにより検知し、前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データと前記形状センサによる検知形状データとの比較に基づいて、前記タイヤの外表面の冷却範囲を決定し、制御部によって冷却器を制御して前記冷却範囲を冷却することにより、前記検知形状データを前記目標形状データに近づけることを特徴とする。
本発明のさらに別のタイヤの製造方法は、グリーンタイヤに対する加硫工程と、前記加硫工程で加硫された直後のタイヤに対するPCI工程とを有するタイヤの製造方法において、前記PCI工程では、PCI機により保持された前記タイヤの外形を形状センサにより検知し、前記タイヤに対して予め設定されている目標形状データと前記形状センサによる検知形状データとの比較に基づいて、前記タイヤの外表面の冷却範囲を決定し、前記タイヤの外周側に配置され、環状に形成されていて内周面に周方向に間隔をあけて冷却媒体を噴射するノズルを有する冷却器を制御部によって制御して前記冷却範囲を冷却することにより、前記検知形状データを前記目標形状データに近づけることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記外形センサを用いて加硫直後のタイヤの検知形状データを取得することで、タイヤの外形状態を把握することができる。そして、この検知形状データと前記目標形状データとの比較によって両者の差異が判明し、両者の差異の大きさに基づいてタイヤの外表面の冷却すべき冷却範囲を決定できる。そこで、両者の差異を無くすように制御部によって冷却器を制御して、決定された冷却範囲を冷却することで、前記検知形状データを前記目標形状データに精度よく近づけることができる。そのため、PCI工程中にタイヤに対して余分な外力を付与することなく、ユニフォミティをより向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のタイヤの製造装置を、一部を縦断面にして側面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1のPCI機およびその付帯設備を、一部を縦断面にして側面視で例示する説明図である。
【
図3】
図2のPCI機およびその付帯設備を平面視で例示する説明図である。
【
図4】タイヤの検知形状データと目標形状データを例示するグラフ図である。
【
図5】タイヤの外表面の温度分布データを例示するグラフ図である。
【
図6】タイヤの外表面の冷却範囲を冷却している状態を平面視で例示する説明図である。
【
図7】
図6の状態を側面視で例示する説明図である。
【
図8】PCI工程の手順を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のタイヤの製造装置および方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1に例示する実施形態のタイヤの製造装置1は、加硫機2とPCI機3とを備えている。加硫機2はグリーンタイヤGを加硫する。加硫機2には、製造する空気入りタイヤTの仕様毎に対応する加硫用モールド11が取り付けられる。グリーンタイヤGを加硫する公知の種々の仕様の加硫機2を用いることができる。この実施形態では、円環状に配置される多数のセクタモールドと、円環状の上側サイドモールドおよび下側サイドモールドとで構成されたいわゆるセクショナルタイプの加硫用モールド11が使用されている。加硫用モールド11としては、セクショナルタイプに限らず、いわゆる二つ割モールドを用いることもできる。
【0012】
PCI機3は、加硫機2によってグリーンタイヤGを加硫して得られたタイヤTに対してPCI工程を行い、PCI工程中にタイヤTのユニフォミティ(以下、UFという)の改善が行われる。PCI機3は、中心軸3Aに取り付けられてタイヤTを保持する保持部4aと、保持したタイヤTを膨張させるインフレート部4bとを有している。公知の種々の仕様のPCI機3を用いることができ、保持部4aには例えばタイヤTの両ビード部を保持するリム部材、インフレート部4bにはタイヤTの内側にエアを注入する注入源(高圧エア収容シリンダ等)が使用される。
【0013】
製造装置1はさらに、PCI機3により保持されたタイヤTの外形を検知する形状センサ7およびタイヤTの外表面を冷却する冷却器9と、制御部10とを備えている。この実施形態ではさらに、PCI機3によって保持されているタイヤTの外表面温度を検知する温度センサ8を備えている。
【0014】
図2、
図3に例示するように、PCI機3の中心軸3Aは回転機構5によって軸芯まわりに回転可能になっている。図中の二点鎖線CLは中心軸3Aの軸芯を示していて、PCI機3に保持されたタイヤTのタイヤ軸は、この軸芯CLと実質的に一致する。
【0015】
回転機構5は例えば、駆動モータと、この駆動モータと中心軸3Aとに掛け回された伝動ベルトとで構成される。回転機構5を作動させることで、保持部4aによって保持されているタイヤTは中心軸3Aまわりに回転する。したがって、形状センサ7に対してタイヤTは、回転機構5によってタイヤ軸を中心にして回転することになる。形状センサ7に対して、タイヤTをタイヤ軸を中心にして相対的に回転させることができればよいので、タイヤTの周方向位置を固定した状態で形状センサ7を中心軸3Aまわりに回転させる回転機構5を採用してもよい。
【0016】
形状センサ7にはレーザ変位計など、対象物との距離を検知する公知の非接触タイプの変位センサ(距離センサ)が用いられる。この実施形態では変位センサ7が幅方向移動機構6によって、PCI機3に保持されているタイヤTの幅方向に移動可能になっている。幅方向移動機構6としては、流体シリンダやサーボモータで作動するロッド、ロボットアームなどを用いることができる。
【0017】
形状センサ7は単数に限らず複数設けて、それぞれの形状センサ7毎に担当する検知範囲を割り当てて使用することもできる。形状センサ7に対して、タイヤTをタイヤ幅方向に相対的に移動させることができればよいので、形状センサ7のタイヤ幅方向位置を固定した状態でタイヤTをタイヤ幅方向に移動させる幅方向移動機構6を採用してもよい。
【0018】
或いは、形状センサ7として、平面形状を検知する二次元レーザ変位計などを用いることもできる。このような二次元レーザ変位計を形状センサ7として採用した場合は、複数の形状センサ7によってタイヤTの外形全体を網羅して検知できるように、それぞれの形状センサ7をタイヤTの外周側の間隔をあけた所定の設置位置に固定すればよい。この場合は、形状センサ7をタイヤTに対して相対移動させる移動機構を不要にできる。
【0019】
温度センサ8には、非接触タイプの公知の各種の温度センサを用いることができ、サーモグラフィなどを用いることもできる。温度センサ8は単数に限らず複数設けて、それぞれの温度センサ8毎に担当する検知範囲を割り当てて使用することもできる。
【0020】
冷却器9は、タイヤTの外表面としてトレッド部、ショルダ部、サイド部などを冷却する。トレッド部、ショルダ部、サイド部のすべての部位を冷却することも、これらの部位のうちの少なくとも1つまたは2つ部位を冷却範囲Acとして選択的に冷却することもできる。ショルダ部を中心にして冷却を行うと、UFの改善には効果的である。
【0021】
この実施形態では、冷却器9は環状に形成されていて、タイヤTの外周側に配置される。環状の冷却器9の内周面には周方向に間隔をあけて多数のノズル9aが形成されている。この冷却器9は上下に伸縮する可動機構9bによって支持されている。したがって、冷却器9はタイヤTに対してタイヤ幅方向に移動可能になっている。可動機構9bには、流体シリンダやサーボモータで作動するロッド、ロボットアームなどを用いることができる。環状の冷却器9を用いると、ノズル9aとタイヤTの外表面との対向距離の周方向でのバラつきを抑制し易くなる。
【0022】
冷却器9には、媒体供給源から冷却媒体aが供給され、それぞれのノズル9aから冷却媒体aが噴射される。冷却媒体aとしては空気などの気体、水などの液体、粉状のドライアイスなどを用いることができる。この実施形態では、環状の冷却器9が周方向に4つのエリア9A、9B、9C、9Dに区分されていて、それぞれのエリア毎に独立して冷却媒体aを噴射できる構造になっている。周方向に区分されるエリアの数は4つの限らず、2以上の所望の数にすることができる。それぞれのノズル9a毎に独立して冷却媒体aを噴射できる構造にしてもよい。
【0023】
また、環状の冷却器9を上下に複数配置して、それぞれの冷却器9毎に担当する冷却エリアをタイヤ幅方向で割り当てて使用することもできる。或いは、環状の冷却器9および可動機構9bに代えて、冷却媒体aを噴射するノズル9aをロボットアームに取り付けて任意の所望の位置に冷却媒体aを噴射できる構造にしてもよい。
【0024】
制御部10は、PCI機3、回転機構5、幅方向移動機構6、冷却器9、可動機構9bの動作を制御する。制御部10には、形状センサ7による検知形状データDm、温度センサ8による検知温度データTmが入力される。制御部10にはコンピュータ等が用いられる。
【0025】
タイヤTがPCI機3に基準どおりに取り付けられることで、タイヤTの上下方向位置、周方向回転角度(周方向位置)が制御部10によって常に把握される。形状センサ7の位置、冷却器9(ノズル9a)の位置も制御部10によって常に把握される。また、制御部10には、タイヤTに対して予め設定されている目標形状データDgが入力されている。
【0026】
以下、この製造装置1を用いて空気入りタイヤTを製造する方法を説明する。
【0027】
まず、公知の方法で成形させたグリーンタイヤGに対して
図1に例示するように、加硫機2を用いて加硫工程を行う。グリーンタイヤGには補強材(カーカス材など)として、熱収縮する繊維コードが埋設されている。加硫工程では、加硫用モールド11の中で横倒し状態のグリーンタイヤGを加硫して加硫済みのタイヤTを得る。
【0028】
次いで、加硫直後のタイヤTに対してPCI機3を用いてPCI工程を行う。PCI工程では、
図2、
図3に例示するように、保持部4aによって保持されたタイヤTの内部に空気を注入してタイヤTを適度にインフレートさせた状態に維持する。このインフレートは、タイヤTに埋設されている繊維コードの熱収縮に対抗するために行うので、インフレートによって付与される内圧によってタイヤTが経時的に若干、拡径変形する。
【0029】
PCI工程でのタイヤTの温度の低下具合(冷却具合)が全体的に均等であれば、PCI工程中のタイヤTの経時的な拡径変形具合に、周方向や幅方向でバラつきは生じ難い。しかしながら、従来のPCI工程では冷却具合にバラつきがあるため、PCI工程後のタイヤTのユニフォミティ(以下、UFという)に大きく影響していることを本願発明者は確認した。
【0030】
本発明は、このPCI工程での冷却具合のバラつきに着目して創作されている。タイヤTの相対的に温度が低い部分(冷却具合が強い部分)は、タイヤTの経時的な拡径変形具合が大きくなる傾向があり、相対的に温度が高い部分(冷却具合が弱い部分)は、タイヤTの経時的な拡径変形具合が抑制される傾向があることが判明した。また、タイヤ仕様によっては、相対的に温度が低い部分が縮径変形するタイヤTも一部存在している。このように、PCI工程中のタイヤTの外表面の温度がタイヤ形状に影響を与えるため、本発明では、PCI工程中のタイヤTの外表面の温度をコントロールすることで、タイヤ形状を適正形状に修正、維持してUFを改善する。
【0031】
具体的には、PCI機3により保持されたタイヤTの外形を形状センサ7により検知する。回転機構5および
幅方向移動機構6を作動させることにより、タイヤTの外表面と形状センサ7を相対的に移動させて、タイヤTの外表面(概ねすべての範囲)と形状センサ7との対向間隔を検知して、
図4に例示するタイヤTの外形を示すデータ(検知形状データDm)を取得する。この実施形態では、併せて温度センサ8により
図5に例示するタイヤTの外表面(概ねすべての範囲)の温度を検知して検知温度データTmを取得する。
【0032】
制御部10では、
図4において破線で記載されている検知形状データDmと、実線で記載されている予め設定されている目標形状データDgとが比較される。
図4は、タイヤTの或る1つの幅方向位置でのデータを示している。この幅方向位置では、タイヤTの半径が所定の一定値であることが目標形状データDgになっている。一方、検知形状データDmでは、タイヤTの周方向位置が概ね60°~240°の範囲が他の範囲に比べて目標形状データDgに対して半径が大きくなっている。この状態のままであると、PCI工程中にタイヤTが経時的に拡径変形しても破線で示されている周方向位置での半径のバラつきは解消されない。
【0033】
そこで、制御部10は、目標形状データDgと検知形状データDmとの比較に基づいて、両者の差が相対的に大きい周方向位置(範囲)を、タイヤTの外表面の冷却範囲Acとして決定する。例えば、検知形状データDmの最大値や平均値に対して許容範囲を設定しておき、この許容範囲外で半径が小さくなっている範囲が冷却範囲Acとして決定される。この実施形態では、周方向位置が0~60°および240~360°の範囲が冷却範囲Acとして決定されている。タイヤTの幅方向に間隔をあけた複数の幅方向位置においても上記と同様に、冷却範囲Acが決定される。このようにしてタイヤTの全幅を検討対象にして冷却範囲Acが決定される。
【0034】
この実施形態では制御部10によって、
図5に例示する検知温度データTmを用いてタイヤTの外表面(概ねすべての範囲)の温度分布が算出される。
図5は、タイヤTの或る1つの幅方向位置での検知温度データTmを示している。タイヤTの表面温度の差異が大きい程、タイヤTの拡径変形具合を変化させ易くなる。そこで、算出したタイヤTの外表面の温度分布も考慮して冷却範囲Acを決定することもできる。例えば、目標形状データDgと検知形状データDmとの比較に基づいて決定された冷却範囲Acの中で、相対的に温度が高い範囲を中心として冷却する範囲として設定する。
【0035】
次いで、制御部10により冷却器9、可動機構9bが制御されて、決定された冷却範囲Acが冷却器9によって冷却される。この実施形態では
図6、
図7に例示するように、決定された冷却範囲Acに対応する位置のノズル9aだけを通じて冷却媒体aが噴射されて冷却範囲Acが冷却される。冷却範囲Acに対応しない位置のノズル9aからは冷却媒体aが噴射されない。この冷却によって、タイヤTの外表面は概ね90℃程度に冷却される。
【0036】
図8に例示するように、PCI工程での上述した一連の操作が所定の時間間隔で繰り返して行われて、検知形状データDmが目標形状データDgに対して許容範囲に入るようにする。その結果、PCI工程中に検知形状データDmは目標形状データDgに近づき、タイヤTのUFは改善される。
【0037】
詳述すると、検知形状データDmが目標形状データDgに対して許容範囲に入るようにしてタイヤTの冷却程度の周方向のバラつきを小さくすることで、Radial Force Variation(RFV)を適正範囲内にし易くなる。また、タイヤTの冷却程度の幅方向のバラつきを小さくすることで、Lateral Force Variation(LFV)、Conicity(CON)を適正範囲にし易くなる。
【0038】
本発明では、外形センサ7を用いて加硫直後のタイヤTの検知形状データDmを取得するので、タイヤTの外形状態を精度よく把握できる。そして、この検知形状データDmと目標形状データDgとの比較によって両者の差異が判明するので、この両者の差異の大きさに基づいて冷却すべき冷却範囲Acを迅速に決定できる。
【0039】
そのため、検知形状データDmと目標形状データDgとの差異を無くすように冷却器9を用いて、決定された冷却範囲を冷却することで、検知形状データDmを目標形状データDgに精度よく近づけることができる。PCI工程中にタイヤTに対して余分な外力を付与することないので、タイヤTに不要な損傷を生じさせることがない。PCI工程においてタイヤTの周方向、幅方向での冷却具合をコントロールするだけで、タイヤTのUFをより向上させることが可能になる。
【0040】
また、既存のPCI工程中にUFを改善するので、UFの改善のために生じる追加的な時間を削減できる。これに伴い、タイヤTの生産性向上にも寄与する。
【符号の説明】
【0041】
1 製造装置
2 加硫機
3 PCI機
3A 中心軸
4a 保持部
4b インフレート部
5 回転機構
6 幅方向移動機構
7 形状センサ
8 温度センサ
9 冷却器
9a ノズル
9b 可動機構
10 制御部
11 加硫用モールド
G グリーンタイヤ
T 加硫済のタイヤ