(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】自動調心ころ軸受用保持器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/48 20060101AFI20240510BHJP
F16C 23/08 20060101ALI20240510BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F16C33/48
F16C23/08
F16C19/38
(21)【出願番号】P 2020156902
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】中沢 澄夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 廣幸
(72)【発明者】
【氏名】薮林 康樹
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第00936307(DE,C1)
【文献】実開昭53-118947(JP,U)
【文献】特開2010-043734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,33/30-33/66
F16C 21/00-27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2列のころ列を有する自動調心ころ軸受に用いる保持器であって、
前記2列のころ列を各列ごとに案内する一対の単列保持器からなり、
前記単列保持器は、
一体に製造され、
軸方向に離間した大径リング部及び小径リング部を複数の柱部により繋いだ形状を成すとともに、
前記大径リング部には径方向外方へ延びるフランジが設けられており、
前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に、凹部及び凸部からなる凹凸係合部を設け、又は、
一方の前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に凹部を設けるとともに、他方の前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に凸部を設け、
一対の前記単列保持器の前記凹凸係合部同士を係合させた状態、又は、
一方の前記単列保持器の前記凹部と他方の前記単列保持器の前記凸部を係合させた状態で使用し、
一対の前記単列保持器における前記凹凸係合部同士を係合させた状態の係合深さ、及び、
一方の前記単列保持器の前記凹部と他方の前記単列保持器の前記凸部の係合深さ
を、
前記軸受の軸方向隙間よりも大きく設定してなることを特徴とする、
自動調心ころ軸受用保持器。
【請求項2】
一対の前記単列保持器における前記凹凸係合部の前記凹部及び前記凸部、並びに、
一方の前記単列保持器の前記凹部及び他方の前記単列保持器の前記凸部
は、
前記フランジの周方向位置において、
前記大径リング部に前記柱部が繋がる箇所の外径側に位置する、
請求項1に記載の自動調心ころ軸受用保持器。
【請求項3】
一対の前記単列保持器は、同一形状である、
請求項1又は2に記載の自動調心ころ軸受用保持器。
【請求項4】
軌道輪案内方式である、
請求項1~3の何れか1項に記載の自動調心ころ軸受用保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動調心ころ軸受に用いる保持器に関し、さらに詳しくは、大径リング部に径方向外方へ延びるフランジを有する前記保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
球面軌道の外輪と複列軌道の内輪との間に転動体として樽状の球面ころを組み込んだ構造を有し、外輪軌道面の曲率中心が軸受中心と一致しているため軸の傾きに対して自動調心性を持つ自動調心ころ軸受がある(例えば、特許文献1~5参照)。
【0003】
自動調心ころ軸受は、1個の軸受でラジアル荷重及び両方向のアキシアル荷重を負荷でき、特にラジアル負荷能力が大きいことから、重荷重や衝撃荷重のかかる使用箇所に適しているため、各種機械装置の駆動部や車軸等に用いられる。
【0004】
前記球面ころを案内する保持器として、大径リング部に径方向外方へ延びるフランジを有する2個の保持器を用い、2列のころ列を各列ごとに個別に案内するものがある(例えば、特許文献1~4参照)。
【0005】
一方、前記球面ころを案内する保持器として、大径リング部に径方向外方へ延びるフランジを有するものではない一体型の保持器を用い、2列のころ列の両方を案内するものがある(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-28576号公報
【文献】特許第2527418号公報
【文献】実開平5-30556号公報
【文献】特開2010-43734号公報
【文献】特許第6337482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~4のような自動調心ころ軸受用保持器は、2列のころ列を別体の2個の保持器で個別に案内するので、一方のころ列に負荷がかかった際に、一方の保持器から他方の保持器への負荷の伝達がされず、他方のころ列及び保持器が回転しない場合がある。それにより、ころのスキューやフレッティングが生じて軸受の寿命が低下するという問題がある。
【0008】
特許文献5のような自動調心ころ軸受用保持器は、2列のころ列の両方を案内する一体型であるので、特許文献1~4のように2列のころ列を別体の2個の保持器で案内することに基づく前記問題は生じない。
【0009】
しかしながら、特許文献5のような2列のころ列の両方を案内する一体型の保持器は、軸受を組み立てる際に、ころ列の一方は、全箇所のころについて、保持器を弾性変形させながら挿入する必要があるので、組立作業性が悪い。
【0010】
その上、特許文献5のような2列のころ列の両方を案内する一体型の保持器では、特許文献5に記載された発明の従来技術を示す
図6のような外側リム部5bのフランジ部9を持つ軌道輪案内方式を採用できない。特許文献5の
図6のような軌道輪案内方式である別体の2個の保持器4,4を仮に一体化した場合、当該保持器は、フランジ部9の内径が内輪2の最大径より小さくなるので、内輪2に対して当該保持器を軸方向から組み込めなくなるためである。
【0011】
本発明は、ころのスキューやフレッティングが生じて軸受の寿命が低下することなく、軸受の組立作業性が良く、ころ案内方式だけではなく軌道輪案内方式も採用できる自動調心ころ軸受用保持器を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
〔1〕
2列のころ列を有する自動調心ころ軸受に用いる保持器であって、
前記2列のころ列を各列ごとに案内する一対の単列保持器からなり、
前記単列保持器は、
一体に製造され、
軸方向に離間した大径リング部及び小径リング部を複数の柱部により繋いだ形状を成すとともに、
前記大径リング部には径方向外方へ延びるフランジが設けられており、
前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に、凹部及び凸部からなる凹凸係合部を設け、又は、
一方の前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に凹部を設けるとともに、他方の前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に凸部を設け、
一対の前記単列保持器の前記凹凸係合部同士を係合させた状態、又は、
一方の前記単列保持器の前記凹部と他方の前記単列保持器の前記凸部を係合させた状態で使用し、
一対の前記単列保持器における前記凹凸係合部同士を係合させた状態の係合深さ、及び、
一方の前記単列保持器の前記凹部と他方の前記単列保持器の前記凸部の係合深さ
を、
前記軸受の軸方向隙間よりも大きく設定してなることを特徴とする、
自動調心ころ軸受用保持器。
【0014】
〔2〕
一対の前記単列保持器における前記凹凸係合部の前記凹部及び前記凸部、並びに、
一方の前記単列保持器の前記凹部及び他方の前記単列保持器の前記凸部
は、
前記フランジの周方向位置において、
前記大径リング部に前記柱部が繋がる箇所の外径側に位置する、
〔1〕に記載の自動調心ころ軸受用保持器。
【0015】
〔3〕
一対の前記単列保持器は、同一形状である、
〔1〕又は〔2〕に記載の自動調心ころ軸受用保持器。
【0016】
〔4〕
軌道輪案内方式である、
〔1〕~〔3〕の何れかに記載の自動調心ころ軸受用保持器。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、前記のとおり、2列のころ列を各列ごとに案内する一対の単列保持器からなる。前記単列保持器は、一体に製造され、大径リング部には径方向外方へ延びるフランジが設けられており、前記フランジの大径側端面に、凹部及び凸部からなる凹凸係合部を設けている。あるいは、一方の前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に凹部を設けるとともに、他方の前記単列保持器の前記フランジの大径側端面に凸部を設けている。
【0018】
本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、一対の前記単列保持器の前記凹凸係合部同士を係合させた状態、又は、一方の前記単列保持器の前記凹部と他方の前記単列保持器の前記凸部を係合させた状態で使用する。一対の前記単列保持器における前記凹凸係合部同士を係合させた状態の係合深さ、及び、一方の前記単列保持器の前記凹部と他方の前記単列保持器の前記凸部の係合深さを、自動調心ころ軸受用保持器の軸方向隙間よりも大きく設定しているので、一対の前記単列保持器は使用状態で一体となる。
【0019】
一対の前記単列保持器が使用状態で一体となることから、本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、一方のころ列に負荷がかかった際に、一方の前記単列保持器から他方の前記単列保持器へ負荷が伝達され、一方のころ列及び前記単列保持器と他方のころ列及び前記単列保持器は一体となって回転する。したがって、本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、両方のころ列の回転(公転)を均等化できる。それにより、本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、2列のころ列を別体の2個の保持器で案内する特許文献1~4の構成における問題、すなわち、ころのスキューやフレッティングが生じて軸受の寿命が低下するという問題が生じない。
【0020】
また、本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、一対の前記単列保持器により構成されるため、自動調心ころ軸受を組み立てる際に、保持器を弾性変形させながら挿入する必要がないので、組立作業性が良い。
【0021】
さらに、本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、一対の前記単列保持器において、前記大径リング部の大径側端面同士、及び前記フランジの大径側端面同士の摩耗を抑制できる。
【0022】
さらにまた、本発明に係る自動調心ころ軸受用保持器は、一対の前記単列保持器からなることから、軌道輪案内形式であっても内輪に対して当該保持器を軸方向から組み込めるので、特許文献5のような2列のころ列の両方を案内する一体型の保持器では採用できない軌道輪案内形式も採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る自動調心ころ軸受用保持器の斜視図である。
【
図3B】
図1の保持器のフランジのみを示す要部拡大正面展開図である。
【
図4】
図1の保持器を用いた自動調心ころ軸受の斜視図である。
【
図5A】
図4の自動調心ころ軸受の縦断面図である。
【
図5C】
図4の自動調心ころ軸受の縦断面斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係る自動調心ころ軸受用保持器の分解斜視図である。
【
図7】本発明の実施の形態3に係る自動調心ころ軸受用保持器の分解斜視図である。
【
図8】本発明の実施の形態4に係る自動調心ころ軸受用保持器のフランジのみを示す要部拡大正面展開図である。
【
図9】本発明の実施の形態5に係る自動調心ころ軸受用保持器を用いた自動調心ころ軸受の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
本明細書において、自動調心ころ軸受10の回転軸J(
図5A及び
図10A参照)の方向を「軸方向」、軸方向に直交し、回転軸Jから遠ざかる方向を「径方向」、ころ列R1又はR2(
図5A~
図5C、並びに
図10A及び
図10B参照)のころ13が並ぶ方向を「周方向」という。また、径方向の外方から見た図を正面図とする。
【0026】
本発明の実施の形態に係る一対の単列保持器2A,2Bにおいて、一方の単列保持器2A又は2Bにおける大径リング部3及びフランジ6の「大径側端面」とは、他方の単列保持器2B又は2Aに近い軸方向の端面6Aのことをいう。また、一方の単列保持器2A又は2Bにおけるフランジ6の「小径側端面」とは、他方の単列保持器2B又は2Aから遠い軸方向の端面6Bのことをいう。
【0027】
<実施の形態1>
(自動調心ころ軸受用保持器)
図1の斜視図、
図2の分解斜視図、及び
図3Aの正面図に示す本発明の実施の形態1に係る自動調心ころ軸受用保持器1Aは、一対の単列保持器2A,2Bからなる。単列保持器2A,2Bは、鋼板のプレス加工、合成樹脂の射出成形、又は金属若しくは合成樹脂の削り加工で製造できる。
【0028】
一対の単列保持器2A,2Bは、例えば同一形状であるが、異なる形状であってもよい。ただし、一対の単列保持器2A,2Bを同一形状にすることにより、製造コスト及び部品管理コスト等を低減できる。
【0029】
単列保持器2A,2Bには、球面ころ13(例えば、
図4並びに
図5A~
図5C参照)を収容する複数のポケット孔Pが周方向に等間隔に形成される。
【0030】
単列保持器2A,2Bは、軸方向に離間した大径リング部3及び小径リング部4を複数の柱部5により繋いだ形状を成すとともに、大径リング部3には径方向外方へ延びるフランジ6が設けられている。
【0031】
(凹凸係合部)
単列保持器2A,2Bは、フランジ6の大径側端面6Aに、凹部B及び凸部Cからなる凹凸係合部Aを有する。本実施の形態において、凹部B及び凸部Cは周方向に交互に設けられている。凸部Cは、フランジ6の周方向位置において、大径リング部3に柱部5が繋がる箇所の外径側に位置する。凹部Bは、周方向に隣り合う凸部C,Cの中間に位置する。すなわち、凹部Bは、フランジ6の周方向位置において、ポケット孔Pの周方向中央に位置する。
【0032】
単列保持器2A,2Bが鋼板製プレス保持器の場合、フランジ6に軸方向のプレス加工を施すことにより、フランジ6の大径側端面6Aに凹部B及び凸部Cが形成される。
【0033】
保持器1Aは、
図1及び
図3A、並びに
図5Aのように、一対の単列保持器2A,2Bの凹凸係合部A同士を係合させた状態で使用する。凹凸係合部A同士を係合させた状態では、単列保持器2Aの大径リング部3の大径側端面3Aと、単列保持器2Bの大径リング部3の大径側端面3Aとが当接し、単列保持器2Aのフランジ6の大径側端面6Aと単列保持器2Bのフランジ6の大径側端面6Aとが当接する。
【0034】
図3Bの要部拡大正面展開図に示す一対の単列保持器2A,2Bにおける凹凸係合部A同士を係合させた状態の係合深さDは、一対の単列保持器2A,2Bの凹凸係合部A同士を使用状態で確実に係合させるために、
図4の斜視図、
図5Aの縦断面図、及び
図5Cの縦断面斜視図に示す自動調心ころ軸受10の軸方向隙間よりも大きく設定する。
【0035】
単列保持器2A,2Bが鋼板製プレス保持器の場合、フランジ6に軸方向のプレス加工を施して大径側端面6Aに凹部Bを形成すると、
図5Bの要部拡大図に示すようにフランジ6の小径側端面6Bには凸部Fが形成される。小径側端面6Bから突出する凸部Fが球面ころ13の端面13Aに接触しないように、大径側端面6Aの凹部Bの深さを設定する。
【0036】
(自動調心ころ軸受)
図4の斜視図、
図5Aの縦断面図、及び
図5Cの縦断面斜視図に示すように、自動調心ころ軸受10は、2列の周方向のころ列R1,R2を有し、外輪11と内輪12との間に転動体として樽状の球面ころ13を組み込んだ構造を有する。外輪11の軌道11Aは球面であり、内輪12の軌道12Aは複列である。自動調心ころ軸受10は、外輪11の軌道11Aの曲率中心と軸受中心とが一致しているため、軸の傾きに対して自動調心性を持つ。
【0037】
図5A及び
図5Cに示す使用状態で、保持器1Aの単列保持器2Aは、ころ列R1を案内し、保持器1Aの単列保持器2Bは、ころ列R2を案内する。保持器1Aは、前記のとおり、一対の単列保持器2A,2Bの凹凸係合部A同士を係合させた状態で使用する。
図5Aの縦断面図において、ころ列R1,R2のピッチ円直径よりも柱部5は内径側に位置し、単列保持器2A,2Bの小径リング部4の内径部4Aが内輪12の外周面に摺接して内輪案内となっている。すなわち、自動調心ころ軸受用保持器1Aは、軌道輪案内方式である。
【0038】
<実施の形態2>
図6の分解斜視図に示す本発明の実施の形態2に係る自動調心ころ軸受用保持器1Bは、実施の形態1に係る自動調心ころ軸受用保持器1Aと凹部Bの形状が異なる。すなわち、自動調心ころ軸受用保持器1Aの凹部Bが軸方向の窪みであるのに対して、自動調心ころ軸受用保持器1Bの凹部Bは、フランジ6の外周縁に設けた径方向内方への切欠きである。
【0039】
実施の形態1の
図1及び
図2、並びに実施の形態2の
図6から分かるように、一対の単列保持器2A,2Bの凹凸係合部A同士を係合させた状態で、単列保持器2Aのポケット孔Pの周方向位置と、単列保持器2Bのポケット孔Pの周方向位置とは異なっている。すなわち、単列保持器2Aにより案内されるころ列R1と、単列保持器2Bにより案内されるころ列R2との位相は異なる。
【0040】
<実施の形態3>
図7の分解斜視図に示す本発明の実施の形態3に係る自動調心ころ軸受用保持器1Cは、本発明の実施の形態1に係る自動調心ころ軸受用保持器1Aと凹部B及び凸部Cの数が異なり、自動調心ころ軸受用保持器1Cの凹部B及び凸部Cの数は自動調心ころ軸受用保持器1Aの凹部B及び凸部Cの数の半分である。そして、自動調心ころ軸受用保持器1Cの凹部B及び凸部Cは、自動調心ころ軸受用保持器1Aと同様に周方向に交互に設けられているとともに、自動調心ころ軸受用保持器1Cの凹部B及び凸部Cは、フランジ6の周方向位置において、大径リング部3に柱部5が繋がる箇所の外径側に位置する。
【0041】
実施の形態3の
図7から分かるように、一対の単列保持器2A,2Bの凹凸係合部A同士を係合させた状態で、単列保持器2Aのポケット孔Pの周方向位置と、単列保持器2Bのポケット孔Pの周方向位置とは同じである。すなわち、単列保持器2Aにより案内されるころ列R1と、単列保持器2Bにより案内されるころ列R2との位相は同じである。
【0042】
本発明の実施の形態3に係る自動調心ころ軸受用保持器1Cによれば、本発明の実施の形態1に係る自動調心ころ軸受用保持器1Aのようにポケット孔Pの周方向中央に凹部Bがないので、フランジ6の小径側端面6Bと球面ころ13の端面13A(
図5A)とが近接する場合であっても、凹部Bの反対側に小径側端面6Bから突出する凸部が球面ころ13の端面13Aに接触しない。
【0043】
本発明の場合、単列保持器2A,2Bを連結してそれらの回転差を無くすため、係合する凹部B及び凸部Cは周方向の力を受ける。係合する凹部B及び凸部Cの位置を、大径リング部3に柱部5が繋がる箇所の外径側にすることにより、周方向の力を柱部5の近くで受けるので、強度的に有利になる。
【0044】
<実施の形態4>
図8の要部拡大正面展開図にフランジ6のみを示す本発明の実施の形態4に係る自動調心ころ軸受用保持器1Dは、一方の単列保持器2Aのフランジ6の大径側端面6Aに凹部Bを1つ設けるとともに、他方の単列保持器2Bのフランジ6の大径側端面6Aに凸部Cを1つ設けた例を示している。単列保持器2Aに凹部Bのみを2つ以上、単列保持器2Bに凸部Cのみを2つ以上設けてもよい。
【0045】
図8に示す単列保持器2Aの凹部Bと単列保持器2Bの凸部Cの係合深さEは、単列保持器2Aの凹部B及び単列保持器2Bの凸部Cを使用状態で確実に係合させるために、
図4の斜視図、
図5Aの縦断面図、及び
図5Cの縦断面斜視図に示す自動調心ころ軸受10の軸方向隙間よりも大きく設定する。
【0046】
実施の形態4においても、一方の単列保持器2Aの凹部B及び他方の単列保持器2Bの凸部Cを、フランジ6の周方向位置において、大径リング部3に柱部5が繋がる箇所の外径側に位置させることにより、実施の形態3と同様に強度的に有利になる。
【0047】
<実施の形態5>
図9の斜視図、
図10Aの縦断面図及び
図10Bの縦断面斜視図に示す本発明の実施の形態5に係る自動調心ころ軸受用保持器1Eは、実施の形態1の自動調心ころ軸受用保持器1Aと球面ころ13の案内方式が異なる。すなわち、自動調心ころ軸受用保持器1Aは前記のとおり軌道輪案内方式である。それに対して自動調心ころ軸受用保持器1Eは、
図10Aの縦断面図において、ころ列R1,R2のピッチ円直径よりも柱部5が外径側に位置しており、ころ案内方式である。
【0048】
<作用効果>
本発明の実施の形態1~5に係る自動調心ころ軸受用保持器1A~1Eは、2列のころ列R1,R2を各列ごとに案内する一対の単列保持器2A,2Bからなる。単列保持器2A,2Bは、それらの大径リング部3には径方向外方へ延びるフランジ6が設けられており、フランジ6の大径側端面6Aに、凹部B及び凸部Cからなる凹凸係合部Aを設けている(実施の形態1ないし3及び5)。あるいは、一方の単列保持器2Aのフランジ6の大径側端面6Aに凹部Bを設けるとともに、他方の単列保持器2Bのフランジ6の大径側端面6Aに凸部Cを設けている(実施の形態4)。
【0049】
自動調心ころ軸受用保持器1A~1Eは、一対の単列保持器2A,2Bの凹凸係合部A同士を係合させた状態、又は、一方の単列保持器2Aの凹部Bと他方の単列保持器2Bの凸部Cを係合させた状態で使用する。一対の単列保持器2A,2Bにおける凹凸係合部A同士を係合させた状態の係合深さD、及び、一方の単列保持器2Aの凹部Bと他方の単列保持器2Bの凸部Cの係合深さEを、自動調心ころ軸受用保持器10の軸方向隙間よりも大きく設定しているので、一対の単列保持器2A,2Bは使用状態で一体となる。
【0050】
一対の単列保持器2A,2Bが使用状態で一体となることから、自動調心ころ軸受用保持器1A~1Eは、一方のころ列R1に負荷がかかった際に、一方の単列保持器2Aから他方の単列保持器2Bへ負荷が伝達され、一方のころ列R1及び単列保持器2Aと他方のころ列R2及び単列保持器2Bは一体となって回転する。したがって、自動調心ころ軸受用保持器1A~1Eは、両方のころ列R1,R2の回転(公転)を均等化できる。それにより、自動調心ころ軸受用保持器1A~1Eは、2列のころ列R1,R2を別体の2個の保持器で案内する特許文献1~4の構成における問題、すなわち、ころのスキューやフレッティングが生じて軸受の寿命が低下するという問題が生じない。
【0051】
また、自動調心ころ軸受用保持器1A~1Eは、一対の単列保持器2A,2Bにより構成されるため、自動調心ころ軸受10を組み立てる際に、保持器1A~1Eを弾性変形させながら挿入する必要がないので、組立作業性が良い。
【0052】
さらに、自動調心ころ軸受用保持器1A~1Eは、一対の単列保持器2A,2Bにおいて、大径リング部3の大径側端面3A同士、及びフランジ6の大径側端面6A同士の摩耗を抑制できる。
【0053】
さらにまた、一対の単列保持器2A,2Bにより自動調心ころ軸受用保持器を構成しているので、例えば実施の形態1ないし3の自動調心ころ軸受用保持器1A~1Cのように軌道輪案内形式であっても内輪12に対して当該保持器1A~1Cを軸方向から組み込める。したがって、特許文献5のような2列のころ列の両方を案内する一体型の保持器では採用できない軌道輪案内形式も採用できる。
【0054】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0055】
1A~1E 自動調心ころ軸受用保持器
2A,2B 単列保持器
3 大径リング部
3A 大径側端面
4 小径リング部
4A 内径部
5 柱部
6 フランジ
6A 大径側端面
6B 小径側端面
10 自動調心ころ軸受
11 外輪
11A 軌道
12 内輪
12A 軌道
13 球面ころ
13A 端面
A 凹凸係合部
B 凹部
C 凸部
D,E 係合深さ
F 凸部
J 回転軸
P ポケット孔
R1,R2 ころ列