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特許7485964チューブ、チューブの製造方法、および、チューブの保管方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】チューブ、チューブの製造方法、および、チューブの保管方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/06 20060101AFI20240510BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20240510BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F16L11/06
C08F214/26
C08L27/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021540712
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029884
(87)【国際公開番号】W WO2021033539
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019150911
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 均
(72)【発明者】
【氏名】濱田 博之
(72)【発明者】
【氏名】向井 恵吏
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 祐己
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 学
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-247627(JP,A)
【文献】特開2004-249606(JP,A)
【文献】特開2001-356627(JP,A)
【文献】特開平11-217478(JP,A)
【文献】特開2008-105401(JP,A)
【文献】特開2000-233435(JP,A)
【文献】特開昭58-160135(JP,A)
【文献】特開2010-125634(JP,A)
【文献】特開平10-086205(JP,A)
【文献】特開昭61-159589(JP,A)
【文献】特開平08-245723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/06
C08F 214/26
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含有するチューブであって、
評価長さを3μmに設定して、原子間力顕微鏡(AFM)により測定される、前記チューブ内面の表面粗度Raが、5nm以下であり、
前記チューブ内面からの溶出金属量が、0.30ng/cm以下である
チューブ。
【請求項2】
前記チューブ内面の平均球晶径が、1~150μmである請求項1に記載のチューブ。
【請求項3】
前記チューブ内面の平均球晶径が、15μm超である請求項1または2に記載のチューブ。
【請求項4】
フルオロアルキルビニルエーテルが、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)である請求項1~3のいずれかに記載のチューブ。
【請求項5】
半導体デバイス製造用高純度薬液を移送するために用いる請求項1~4のいずれかに記載のチューブ。
【請求項6】
押出成形機のダイから押し出されたチューブの中空部に、ろ過精度が5nm以下のフィルターを通過させた気体を流通させながら、前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を押し出すことにより得られる請求項1~5のいずれかに記載のチューブ。
【請求項7】
前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体におけるフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全単量体単位に対して、1.0~8.0質量%である、請求項1~6のいずれかに記載のチューブ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のチューブの製造方法であって、
ダイを備える押出成形機を用いて、前記ダイの先端部から押し出されたチューブの中空部に、ろ過精度が5nm以下のフィルターを通過させた気体を流通させながら、前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を、前記ダイから押し出すことにより、前記チューブを得る製造方法。
【請求項9】
前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体の、前記ダイの先端部での樹脂温度が、350~370℃である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載のチューブの保管方法であって、前記チューブ中に高純度液体を封入した状態で、前記チューブを保管する保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チューブ、チューブの製造方法、および、チューブの保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、305℃以上の結晶化温度と50J/g以上の結晶化熱を有するポリテトラフルオロエチレンを含有することを特徴とする溶融成形性テトラフルオロエチレン/フルオロアルコキシトリフルオロエチレン共重合体組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-70397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、チューブ内面が平滑であり、溶出金属量が小さいチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含有するチューブであって、評価長さを3μmに設定して、原子間力顕微鏡(AFM)により測定される、前記チューブ内面の表面粗度Raが、5nm以下であり、前記チューブ内面からの溶出金属量が、0.30ng/cm以下であるチューブが提供される。
【0006】
本開示のチューブは、前記チューブ内面の平均球晶径が、1~150μmであることが好ましい。
本開示のチューブは、前記チューブ内面の平均球晶径が、15μm超であることが好ましい。
本開示のチューブは、フルオロアルキルビニルエーテルが、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)であることが好ましい。
本開示のチューブは、半導体デバイス製造用高純度薬液を移送するために好適に用いることができる。
本開示のチューブは、押出成形機のダイから押し出されたチューブの中空部に、ろ過精度が5nm以下のフィルターを通過させた気体を流通させながら、前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を押し出すことにより得られるものであることが好ましい。
本開示のチューブは、前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体におけるフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全単量体単位に対して、1.0~8.0質量%であることが好ましい。
【0007】
本開示によれば、また、上記のチューブの製造方法であって、ダイを備える押出成形機を用いて、前記ダイの先端部から押し出されたチューブの中空部に、ろ過精度が5nm以下のフィルターを通過させた気体を流通させながら、前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を、前記ダイから押し出すことにより、前記チューブを得る製造方法が提供される。
【0008】
本開示の製造方法において、前記テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体の、前記ダイの先端部での樹脂温度が、350~370℃であることが好ましい。
【0009】
本開示によれば、また、上記のチューブの保管方法であって、前記チューブ中に高純度液体を封入した状態で、前記チューブを保管する保管方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、チューブ内面が平滑であり、溶出金属量が小さいチューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、押出成形機を用いたTFE/FAVE共重合体の押出成形の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、実施例1で作製したチューブの内面の原子間力顕微鏡(AFM)トポグラフィ像(評価長さ3μm)である。
図3図3は、原子間力顕微鏡(AFM)による測定データから算出した、実施例1で作製したチューブの内面の粗さ曲線である。
図4図4は、実施例1で作製したチューブの内面の電子顕微鏡写真である。
図4A図4Aは、図4の電子顕微鏡写真における球晶と球晶との境界部を含む領域4Aを拡大した電子顕微鏡写真である。
図5図5は、ミツトヨ社製の接触式表面粗さ測定機を用いて、JIS規格(B0601)に準じて測定した表面粗度Raのデータと、電子顕微鏡写真から算出した平均球晶径を用いて、実施例1で作製したチューブの内面の粗さ曲線を、Y軸をX軸の10倍(縦倍率)に拡大して書いた粗さ曲線のイメージ図である。
図6図6は、実施例2で作製したチューブの内面の電子顕微鏡写真である。
図6A図6Aは、図6の電子顕微鏡写真における球晶と球晶との境界部を含む領域6Aを拡大した電子顕微鏡写真である。
図7図7は、ミツトヨ社製の接触式表面粗さ測定機を用いて、JIS規格(B0601)に準じて測定した表面粗度Raのデータと電子顕微鏡写真から算出した平均球晶径を用いて、実施例2で作製したチューブの内面の粗さ曲線を、Y軸をX軸の10倍(縦倍率)に拡大して書いた粗さ曲線のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本開示のチューブは、評価長さを3μmに設定して、原子間力顕微鏡(AFM)により測定される、チューブ内面の表面粗度Raが、5nm以下である。これまで着目されていなかったチューブ内面の表面粗度Raを適切に調整することによって、溶出金属量を低減できることが、本発明者らによって見出された。併せて、チューブ内面の表面に現れる球晶の微小化では、近年の半導体デバイス製造などの分野で要求される水準まで、溶出金属量を低減できないことも明らかになった。
【0014】
通常、テトラフルオロエチレン(TFE)/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体(TFE/FAVE共重合体)を含有するチューブは、押出成形機を用いて、TFE/FAVE共重合体を押出成形することにより、製造される。図1は、押出成形機を用いたTFE/FAVE共重合体の押出成形の一例を示す概略断面図である。図1に示す押出成形機10は、シリンダー11、アダプター12、ダイヘッド13およびダイチップ14を備えている。図1に示すように、押出成形の際、TFE/FAVE共重合体16は、シリンダー11内で溶融され、スクリュー15の回転によって、ダイヘッド13およびダイチップ14から押し出される。押し出されたチューブ状のTFE/FAVE共重合体は、サイジングダイ17を通過して、その外形が規定される。一方、押し出されたチューブ状のTFE/FAVE共重合体の内面は、ダイなどの部材に一切接触することなく、自然に冷却される。その結果、チューブ内面18には、TFE/FAVE共重合体の冷却時の結晶化によって形成される球晶に起因した亀甲模様の凹凸が現れる。
【0015】
半導体デバイス製造用の高純度薬液を移送するためのチューブの表面粗度Raは、これまで、JIS規格、SEMI規格などの規格に従って測定されてきた。しかし、これらの規格においては、表面粗度Raを測定する際の粗さ曲線の評価長さが、チューブ内面に現れる球晶のサイズより大きい。たとえば、SEMI F57-0314には、チューブ内面の表面粗度Raについて、Ra≦0.25μm(250nm)と記載されている。表面粗度Raを測定する際の評価長さは、表面粗度Raの大きさによって規定されている。精密工学会誌,Vol.78,No.4,2012(p301-304)に記載されているように、表面粗度Raの大きさに応じた評価長さは次のとおりである。
0.1<Ra≦2 評価長さ:4mm
0.02<Ra≦0.1 評価長さ:1.25mm
(0.006)<Ra≦0.02 評価長さ:0.4mm
【0016】
特許文献1には、通常の溶融押出成形品の球晶の直径が、20~150μm程度であることが記載されている。特許文献1では、成形品の再結晶化平均球晶径を15μm以下とすることが提案されており、実施例で作製された試験片の再結晶化平均球晶径は、最も小さいもので2μmである。したがって、粗さ曲線の評価長さを0.4~4mm(400~4000nm)とした場合に算出される表面粗度は、球晶サイズに大きく影響される。すなわち、従来の測定条件により算出される表面粗度は、チューブ内面に現れる球晶に起因する亀甲模様のウネリである。一方、最近の半導体電子回路の線幅は数ナノメートルになっており、ナノサイズのパーティクルが製品歩留まりに、影響することが指摘されている。
【0017】
本発明者らは、ナノサイズのパーティクルが製品歩留まりに影響する原因が、チューブ内面の極めて微小な凹凸にあることを突き止めた。本発明者らの新たな知見では、特許文献1に記載されているような、球晶と球晶との境界の「深い溝」は存在せず、平坦でなだらかである。したがって、ナノサイズのパーティクルが球晶と球晶との境界に集中して付着する可能性は低い。一方、本発明者らが粗さ曲線の評価長さを3μmとして表面粗度Raを測定したところ、球晶の表面には、球晶のサイズよりもずっと小さい凹凸が存在することが判明した。従来のチューブの内面に存在するこれらの微小な凹凸は、ナノサイズのパーティクルが入り込むには十分な大きさを有している。
【0018】
現在の技術では、チューブの内面に付着したナノサイズ(たとえば、5nm以下)のパーティクルの数を測定することができない。たとえば、パーティクルカウンターで検出可能な粒子サイズは、20~30nm程度である。しかしながら、本発明者らの検討によって、評価長さを3μmに設定して測定される表面粗度Raと、溶出金属量とが相関することが明らかになった。パーティクルなどの汚染物質の一部は、金属成分を含有していると推測されている。したがって、チューブ内面から硝酸水溶液中に溶出する金属量を測定することによって、チューブの内面に付着したナノサイズのパーティクルなどの汚染物質の量を推測することができる。
【0019】
本開示のチューブは、評価長さを3μmに設定して、原子間力顕微鏡(AFM)により測定される、チューブ内面の表面粗度Raが、5nm以下である。このように、チューブ内面の表面粗度Raをナノレベルで調整することにより、チューブ内面から硝酸水溶液中に溶出する金属量を低減でき、ナノサイズのパーティクルなどの汚染物質のチューブ内面への付着を抑制できる。
【0020】
チューブ内面の表面粗度Raは、5nm以下であり、より好ましくは4nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下である。表面粗度Raは、溶出金属量を一層低減できる観点から小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、0.1nm以上であってよく、1nm以上であってもよい。
【0021】
チューブ内面の表面粗度Raは、TFE/FAVE共重合体におけるFAVE単位の種類を適切に選択する方法、FAVE単位の含有量を適切に調整する方法などにより、調整することができる。本発明者らの知見によれば、球晶サイズは、本開示におけるチューブ内面の表面粗度Raに影響を与えない。
【0022】
本開示のチューブは、さらに、チューブ内面からの溶出金属量が、0.30ng/cm以下であり、好ましくは0.25ng/cm以下であり、より好ましくは0.20ng/cm以下であり、さらに好ましくは0.15ng/cm以下であり、例えば0.13ng/cm以下である。チューブ内面からの溶出金属量は、小さいほど好ましく、下限は特に限定されないが、0ng/cm以上であってよく、0.01ng/cm以上であってよく、0.08ng/cm以上であってもよい。
また、本開示のチューブは、チューブ内面からの溶出Ca量が、0.15ng/cm以下であり、好ましくは0.09ng/cm以下であり、より好ましくは0.08ng/cm以下であり、さらに好ましくは0.07ng/cm以下である。
【0023】
本開示において、チューブ内面からの溶出金属量は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により、硝酸水溶液中のNa、Mg、Al、K、CaおよびFeの合計含有量を測定することによって、特定することができる。ICP-MSに用いる測定サンプルとして、予めチューブ内面が超純水により洗浄されたチューブに、濃度5質量%の硝酸水溶液を封入して、室温で4時間放置することによって得られる硝酸水溶液を用いる。
【0024】
測定の対象の金属種のうち、Na、Mg、Al、KおよびCaは、TFE/FAVE共重合体の製造プロセスにおいて用いる機器や、TFE/FAVE共重合体を成形する成形機から生じる成分ではなく、空気中(大気中)の汚染物質に含まれる成分である可能性が高い。また、Feは、空気中に含まれる主要な金属の1種である。したがって、硝酸水溶液中のNa、Mg、Al、K、CaおよびFeの含有量を測定することによって、チューブ内面への汚染物質の付着量を評価することができる。硝酸水溶液をチューブに封入した後の放置時間を4時間とすることによって、仮にチューブ内部(樹脂内部)にこれらの金属が含まれていた場合であっても、その検出を極力回避できる。
【0025】
チューブ内面からの溶出金属量は、チューブ内面の表面粗度Raを適切に調整するとともに、TFE/FAVE共重合体を押出成形してチューブを製造する際に、押出成形機のダイから押し出されたチューブの中空部に、フィルターを通過させた気体を流通させることにより、低減することができる。また、チューブ内面からの溶出金属量は、チューブ内面の表面粗度Raの調整に加えて、チューブ内面の最大高さRp-Vの調整によって、低減することが一層容易になる。
【0026】
本開示のチューブは、チューブ内面の平均球晶径が、好ましくは1~150μmであり、より好ましくは2~120μmである。
【0027】
本開示のチューブは、上述したとおり、チューブ内面の表面粗度Raが極めて小さいことから、チューブ内面の平均球晶径が15μm超であっても、チューブ内面に汚染物質が付着しにくく、付着しても容易に除去できる。特に、従来のチューブのように、チューブの粗い内面に存在する凹部に、微粒子状の汚染物質が入り込んで、除去が困難になることが少ないものと推測される。仮に微粒子状の汚染物質が凹部に入り込んだ場合でも、そのような汚染物質は極めて小さいものに限られることから、従来のチューブよりも汚染物質による影響を抑制できると考えられる。このように、本開示のチューブにおいては球晶サイズの微小化が必須でないことから、本開示のチューブは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの球晶サイズを微小化させるために用いる造核剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。
上記PTFEは特に限定されない。一例としては、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化温度が305℃以上であるPTFEが挙げられ、該PTFEは結晶化熱が50J/g以上であってもよい。本開示のチューブがこのようなPTFEを含むことにより、チューブ内面をより平滑にすることができる。上記結晶化温度は、より好ましくは310℃以上、さらに好ましくは312℃以上である。
PTFEは未変性であっても、変性されていてもよい。例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)のホモポリマー、又は1重量%未満の微量のヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フルオロアルコキシトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、クロロトリフルオロエチレン等の変性剤を含有する変性PTFEが挙げられる。
PTFEの分子量は特に限定されないが、低分子量PTFEを用いることができる。数百万以上の数平均分子量を有する通常のPTFEと比べて、かかる低分子量PTFEは低い分子量を有する。低分子量PTFEは、連鎖移動剤の存在下におけるTFEの重合や、モールディングパウダー若しくはファインパウダー又はこれらの成形物の熱分解又は放射線分解等の公知の方法で得ることができる。
本開示のチューブは、本開示の効果を妨げない範囲の量で上記PTFEを含むことができる。本開示のチューブは、例えば0.01重量%以上10重量%、好ましくは0.01重量%以上4重量%以下の量のPTFEを含むことができる。
【0028】
本開示のチューブは、チューブ内面の最大球晶径が、好ましくは2~160μmであり、より好ましくは3~130μmである。本開示のチューブは、上述したとおり、チューブ内面の表面粗度Raが極めて小さいことから、チューブ内面の最大球晶径が20μm超であっても、チューブ内面に汚染物質が付着しにくく、付着しても容易に除去できる。
【0029】
本開示のチューブは、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含有する。
【0030】
テトラフルオロエチレン(TFE)/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体(TFE/FAVE共重合体)は、溶融加工性のフッ素樹脂であることが好ましい。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、後述する測定方法により測定されるメルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。
【0031】
上記TFE/FAVE共重合体におけるFAVE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは1.0~10質量%であり、より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは3.0質量%以上であり、特に好ましくは3.5質量%以上であり、より好ましくは8.0質量%以下であり、さらに好ましくは7.0質量%以下であり、特に好ましくは6.5質量%以下であり、最も好ましくは6.0質量%以下である。
上記TFE/FAVE共重合体におけるTFE単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは90~99.0質量%であり、より好ましくは92.0質量%以上であり、さらに好ましくは93.0質量%以上であり、特に好ましくは93.5質量%以上であり、最も好ましくは94.0質量%以上であり、より好ましくは98.0質量%以下であり、さらに好ましくは97.0質量%以下であり、特に好ましくは96.5質量%以下である。
TFE/FAVE共重合体における各単量体単位の量は、19F-NMR法により測定する。
【0032】
上記FAVE単位を構成するFAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-R (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0033】
なかでも、FAVEとしては、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PPVEがさらに好ましい。FAVEとしてPPVEを用いることにより、チューブ内面の表面粗度Raを上述した範囲内に容易に調整することができる。たとえば、FAVEとしてPPVEを用いた場合には、共重合体におけるPPVE単位の含有量を比較的少なくしても、チューブ内面の表面粗度Raを上述した範囲内に容易に調整することができる。一方、FAVEとしてPEVEを用いた場合には、共重合体におけるPEVE単位の含有量をかなり多くしても、チューブ内面の表面粗度Raを上述した範囲内に調整することが困難である。FAVEとしてPPVEを用いることは、チューブの耐熱性、耐薬液性、耐クラック性などの観点からも好ましい。
【0034】
上記TFE/FAVE共重合体としては、特に限定されないが、TFE単位とFAVE単位とのモル比(TFE単位/FAVE単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、さらに好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。
【0035】
上記TFE/FAVE共重合体は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位およびFAVE単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。
【0036】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0037】
上記TFE/FAVE共重合体としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、上記TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0038】
上記TFE/FAVE共重合体の融点は、好ましくは280~322℃であり、より好ましくは290℃以上であり、さらに好ましくは295℃以上であり、特に好ましくは300℃以上であり、より好ましくは315℃以下である。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0039】
上記TFE/FAVE共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70~110℃であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。上記ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定できる。
【0040】
上記TFE/FAVE共重合体の372℃におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1~100g/10分であり、より好ましくは0.5g/10分以上であり、さらに好ましくは1g/10分以上であり、より好ましくは80g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下であり、特に好ましくは30g/10分以下である。MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0041】
上記TFE/FAVE共重合体としては、溶出金属量が一層低減されたチューブが得られることから、少ない官能基数を有する共重合体が好ましく、官能基を合計で炭素原子10個あたり0~50個有することが好ましい。炭素原子10個あたりの官能基の個数は、より好ましくは0~30個であり、さらに好ましくは0~15個である。
【0042】
上記官能基は、上記TFE/FAVE共重合体の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基である。上記官能基としては、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0043】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0044】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、上記TFE/FAVE共重合体を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.25~0.3mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、上記TFE/FAVE共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、上記TFE/FAVE共重合体における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0045】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0046】
【表1】
【0047】
-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
従って、たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0048】
上記官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよい。
【0049】
上記官能基は、たとえば、上記TFE/FAVE共重合体を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、上記TFE/FAVE共重合体に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、上記TFE/FAVE共重合体の主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基が上記TFE/FAVE共重合体の側鎖末端に導入される。
【0050】
このような官能基を有する上記TFE/FAVE共重合体を、フッ素化処理することによって、上記範囲内の官能基数を有する上記TFE/FAVE共重合体を得ることができる。すなわち、上記TFE/FAVE共重合体は、フッ素化処理されたものであることが好ましい。また、上記TFE/FAVE共重合体は、-CF末端基を有することも好ましい。
【0051】
上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないTFE/FAVE共重合体とフッ素含有化合物とを接触させることにより行うことができる。
【0052】
上記フッ素含有化合物としては特に限定されないが、フッ素化処理条件下にてフッ素ラジカルを発生するフッ素ラジカル源が挙げられる。上記フッ素ラジカル源としては、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOF、フッ化ハロゲン(例えばIF、ClF)等が挙げられる。
【0053】
上記Fガス等のフッ素ラジカル源は、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5~50質量%に希釈して使用することが好ましく、15~30質量%に希釈して使用することがより好ましい。上記不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられるが、経済的な面より窒素ガスが好ましい。
【0054】
上記フッ素化処理の条件は、特に限定されず、溶融させた状態のTFE/FAVE共重合体とフッ素含有化合物とを接触させてもよいが、通常、TFE/FAVE共重合体の融点以下、好ましくは20~220℃、より好ましくは100~200℃の温度下で行うことができる。上記フッ素化処理は、一般に1~30時間、好ましくは5~25時間行う。上記フッ素化処理は、フッ素化処理されていないTFE/FAVE共重合体をフッ素ガス(Fガス)と接触させるものが好ましい。
【0055】
上記TFE/FAVE共重合体は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0056】
本開示のチューブは、押出成形機のダイから押し出されたチューブの中空部に、ろ過精度が5nm以下のフィルターを通過させた気体を流通させながら、TFE/FAVE共重合体を押し出すことにより得られるものであることが好ましい。本開示は、チューブの製造方法であって、ダイを備える押出成形機を用いて、前記ダイの先端部から押し出されたチューブの中空部に、ろ過精度が5nm以下のフィルターを通過させた気体を流通させながら、TFE/FAVE共重合体を、前記ダイから押し出すことにより、前記チューブを得る製造方法にも関する。
【0057】
押出成形機のダイから押し出されたチューブの中空部に、ろ過精度が5nm以下のフィルターを通過させた気体を流通させることにより、空気中の汚染物質によるチューブ内面の汚染を抑制し、チューブ内面からの溶出金属量を低減することができる。
【0058】
チューブの中空部にフィルターを通過させた気体を流通させる方法について、図1を参照しながらもう少し詳しく説明する。図1に示すように、押出成形機10のダイヘッド13およびダイチップ14からは、シリンダー11内で溶融されたTFE/FAVE共重合体16が押し出される。ダイチップ14には、チューブ状のTFE/FAVE共重合体16の中空部19に、気体21を導入できるように、気体導入口23が設けられている。気体(外気)21は、フィルター22を通過して、気体導入口23から中空部19に導入される。このようにして中空部に導入される気体には、粒子サイズが比較的大きい汚染物質が含まれていないので、チューブ内面18への比較的大きい汚染物質の付着が防止される。
【0059】
フィルター22のろ過精度が小さすぎると、気体抵抗が上昇しすぎたり、気体21中の汚染物質によってフィルター22の目詰まりが起きやすくなったりなる欠点があるので、フィルターのろ過精度は、好ましくは1nm以上である。図1では、1個のフィルターを用いているが、直列に連結した複数のフィルターを通過させた気体を用いてもよく、ろ過精度の異なる複数のフィルターを通過させた気体を用いてもよい。気体抵抗を低下させるために、フィルターを並列に設置してもよい。エアーポンプなどの手段により加圧した気体をフィルターに通過させてもよいし、高圧ガスボンベに収容された気体を適切な圧力に制御してからフィルターを通過させてもよい。図1では、押出成形機10から中空部19に気体を導入しているが、サイジングダイ17を通過したチューブの先端部から、フィルターを通過させた気体を導入して、押出成形機10の任意の箇所から排気してもよい。図1では、単軸押出成形機を用いているが、二軸押出成形機を用いることもでき、押出成形機は図1に示すものに限られない。
【0060】
チューブを製造する際には、押出成形機10のダイ先端部24での樹脂温度が350~370℃になるように、押出成形機10のシリンダー11、アダプター12、ダイヘッド13およびダイチップ14の温度を設定することも好ましい。ダイ先端部24での樹脂温度を比較的低温にすることによって、TFE/FAVE共重合体から揮発する成分(ポリマーヒューム)の量を抑制することができ、チューブ内面の汚染を一層抑制するこができる。TFE/FAVE共重合体のペレットを成形材料として用いる場合は、ペレットを製造する際の成形温度よりも、ダイ先端部24での樹脂温度を低くすることによって、TFE/FAVE共重合体から揮発する成分の量を一層抑制することができ、チューブ内面の汚染を一層抑制するこができる。ダイ先端部24での樹脂温度が低すぎると、成形不良が生じ、チューブの外観が損なわれたり、チューブ内面の表面粗度が大きくなったりするおそれがある。
【0061】
このような方法により、チューブ内面の汚染量が少ないチューブを製造した場合であっても、製造後の保管時にチューブ内面が気体中の汚染物質などにより汚染される可能性があるので、チューブの保管方法を適切に選択することも好適である。たとえば、チューブ中に高純度液体を封入した状態で、チューブを保管することによって、製造後の汚染を抑制することができる。チューブ中に封入する高純度液体としては、超純水が好ましい。
【0062】
チューブの外径は、特に限定されないが、2~100mmであってよく、5~50mmであってよい。上記チューブの厚みは、0.1~10mmであってよく、0.3~5mmであってよい。
【0063】
本開示のチューブは、薬液を流通させるための薬液配管用チューブとして好適に用いることができ、半導体デバイス製造用高純度薬液を移送するために用いる薬液配管用チューブとして特に好適に用いることができる。
【0064】
半導体工場においては、半導体デバイスを製造するために用いる超純水や高純度薬液を流通させるためのチューブが多く使用されている。チューブの内面は、空気中に存在する微粒子、TFE/FAVE共重合体を溶融成形する際に生じるポリマーヒュームなどの汚染物質により汚染される可能性がある。特に、ナノサイズの汚染物質は、ファンデルワールス力、静電気力などにより、ポリマー内面に付着するので、純水などの洗浄水による除去が困難である。したがって、半導体工場において新しいチューブを用いる場合には、チューブ内を洗浄(フラッシング)するために、多量の超純水や薬液が必要になったり、長時間の洗浄が必要になったりするなどの問題がある。
【0065】
本開示のチューブは、上記構成を有することから、汚染物質が内面にほとんど付着しておらず、半導体デバイスを製造するために用いる超純水や高純度薬液を汚染させにくい。本開示のチューブは、このような効果を奏することから、薬液を流通させるための薬液配管用チューブであることが好ましい。上記薬液としては、半導体製造に用いる薬液が挙げられ、たとえば、アンモニア水、オゾン水、過酸化水素水、塩酸、硫酸、レジスト液、シンナー液、現像液などの薬液が挙げられる。
【0066】
本開示のチューブは、たとえば、半導体製造用薬液供給ライン、半導体製造用薬液供給設備、半導体洗浄装置、コーターディベロッパーなどの半導体製造設備または半導体製造装置に用いるチューブとして利用することができる。本開示のチューブを半導体製造設備または半導体製造装置に用いることにより、高純度の薬液を確実にユースポイントに供給することができる。本開示のチューブを用いることにより、線幅が5nm以下の半導体デバイスを製造する場合であっても、半導体デバイスのパーティクルや金属汚染物質による欠陥不良を低減して、半導体デバイスの製造における歩留まりの向上が期待できる。
【0067】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例
【0068】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0070】
<共重合体の組成>
共重合体中のテトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)単位の含有量は、19F-NMR法により測定した。
【0071】
<メルトフローレート(MFR)>
実施例および比較例で用いたペレットのMFRを次の方法により求めた。ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を求めた。
【0072】
<融点>
実施例および比較例で用いたペレットの融点を、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0073】
<比重>
実施例および比較例で用いたペレットの比重を、水中置換法にて測定した。
【0074】
<引張破断強度(TS)および引張伸び(EL)>
実施例および比較例で用いたペレットを、ヒートプレスすることにより、1.5mm厚のシートを作製した。ASTM V型ダンベルを用いて、得られたシートを切り抜き、ダンベル状試験片を作製した。ダンベル状試験片を用いて、オートグラフ(島津製作所社製 AGS-J 5kN)を使用して、ASTM D638に準じて、50mm/分の条件下で、25℃で破断強度および引張伸びを測定した。
【0075】
<MIT値>
実施例および比較例で用いたペレットから、幅12.5mm、長さ130mm、厚さ0.25mmの試験片を作製した。作製した試験片のMIT値を、ASTM D2176に準じて測定した。具体的には、試験片を、MIT試験機(型番12176、安田精機製作所社製)に装着し、荷重1.25kg、左右の折り曲げ角度各135度、折り曲げ回数175回/分の条件下で試験片を屈曲させ、試験片が切断するまでの回数(MIT値)を測定した。
【0076】
<平均球晶径および最大球晶径>
押出成形して得られたチューブを約2cmの長さにカットした後、長さ方向に裁断して、長さ約5mm、幅5mmの試験片を作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率1000倍で、画像を撮影した。画像から球晶の直径を測定した。総計15個の球晶を測定して、算術平均した数値を平均球晶径とした。15個の中で最大の直径を最大球晶径とした。球晶は隣接して成長した球晶との衝突によりいびつな多角形として観察されるので、その長軸径を直径とした。
【0077】
<表面粗度Raおよび最大高さ(Rp-v)>
表面粗度Raは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値(算術平均粗さ)である。抜き取り部分の平均線の方向にx軸を、縦倍率の方向にy軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したとき、表面粗度Raの計算式は次のとおりである。
【数1】
【0078】
表面粗度Raは、実施例および比較例で得られたチューブの内面のAFMトポグラフィ像について、傾斜自動補正処理を行うことにより算出した。
最大高さ(Rp-v)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から最も高い山頂までの間隔Ypと最も低い谷底までの間隔Yvとの和、つまりRp-v=Yp+Yvを表す。
最大高さ(Rp-v)は、実施例および比較例で得られたチューブの内面のAFMトポグラフィ像について、傾斜自動補正処理を行うことにより算出した。
AFMトポグラフィ像は、原子間力顕微鏡(AFM)として、高精度大型プローブ顕微鏡ユニットAFM5200S(HITACHI High-Tech社製)を使用し、ダイナミックフォースモードで、試料表面を、測定面積3×3μm角、走査速度1Hz、x-y方向256×256分割、カンチレバーSI-DF-20(Si、f=134kHz、C=16N/m)の条件で測定した。
【0079】
<溶出金属量>
実施例および比較例で得られたチューブを60cmの長さにカットした。60cmの長さのチューブを円弧状に曲げて固定した。円弧状のチューブに、チューブの内容量と同量の超純水を注入し、直ちに超純水を廃棄することにより、チューブ内面を洗浄した。次に、チューブの一端から、洗浄したスポイトを用いて、5質量%HNO水溶液(関東化学社製「タマピュア」(68質量%HNO)を超純水で希釈することにより調製)を静かに34ml注入した。室温で4時間放置した後、硝酸水溶液を回収した。誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により、回収した硝酸水溶液中の金属成分の金属含有量を測定した。使用した薬液の金属含有量をブランク値として、検出値から使用した薬液の金属含有量を差し引いた値を、測定値として採用した。測定値(ng/ml)に、封入液量34mlを乗じ、チューブの接液面積160cmで除して、溶出金属量(ng/cm)を求めた。超純水および硝酸水溶液は、いずれも、ろ過精度5nmのフィルターを通過させてから測定に用いた。
【0080】
実施例1
TFE/PPVE共重合体(PPVE単位の含有量が全単量体単位に対して5.5質量%)を含有するペレットを、押出成形機(シリンダー軸径30mm、L/D=22)を用いて、引き取り速度0.5m/分で押出成形し、外径10.5mm、内径8.5mmのチューブを得た。押出成形機のスクリュー回転数を5~10rpmの範囲で調整することにより、チューブの肉厚を調整した。押出成形機のシリンダー(C1,C2,C3)、アダプター(A)、ダイヘッド(D1)およびダイチップ(D2)の温度は、330~370℃に設定した。ダイの先端部(ダイチップの先端部)での共重合体の樹脂温度は、370℃であった。
【0081】
押出成形の際に、ろ過精度5nmのフィルターを通過させた空気を、押出成形機のダイチップの気体導入口から、押し出されたチューブの中空部に一定の流速で導入した。
【0082】
ペレットの組成、ペレットの物性、チューブの物性、チューブ内面からの溶出金属量などを表2に示す。図2に、チューブの内面の原子間力顕微鏡(AFM)トポグラフィ像(評価長さ3μm)を示す。図3に、原子間力顕微鏡(AFM)により測定したデータに基づいて算出した、チューブの内面の粗さ曲線を示す。
【0083】
実施例2
TFE/PPVE共重合体(PPVE単位の含有量が全単量体単位に対して3.7質量%)およびPTFE(ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5」)を含有するペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、チューブを作製した。結果を表2に示す。
【0084】
実施例3
TFE/PPVE共重合体(PPVE単位の含有量が全単量体単位に対して3.6質量%)を含有するペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、チューブを作製した。結果を表2に示す。
【0085】
比較例1
TFE/PEVE共重合体(PEVE単位の含有量が全単量体単位に対して8.3質量%)およびPTFE(ダイキン工業社製、商品名「ルブロンL5」)を含有するペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、チューブを作製した。結果を表2に示す。
【0086】
比較例2
TFE/PEVE共重合体(PEVE単位の含有量が全単量体単位に対して6.5質量%)を含有するペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、チューブを作製した。結果を表2に示す。
【0087】
比較例3
フィルターを用いることなく、チューブの中空部に空気(外気)をそのまま導入した以外は、実施例1と同様にして、チューブを作製した。結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
比較例3の結果から、フィルターを通過させていない空気をチューブの中空部に導入すると、溶出金属量が極めて多いことが分かる。これは、空気に含まれる汚染物質がチューブの内面に付着し、超純水による洗浄では除去しきれず、付着した汚染物質に含まれる金属が検出されたからであると推測される。
【0090】
比較例1および2の結果から、押出成形の際に、ろ過精度5nmのフィルターを通過させた空気をチューブの中空部に導入した場合でも、チューブ内面の表面粗度Raが大きい場合には、溶出金属量を十分に低減できないことが分かる。これは、ろ過精度5nmのフィルターを通過させた空気中に、粒子サイズが5nm未満の微粒子状の汚染物質が含まれており、このような汚染物質が、チューブの粗い内面の凹部に入り込み、超純水による洗浄では除去しきれず、除去しきれなかった汚染物質に含まれる金属が検出されたからであると推測される。ただし、超純水による洗浄で除去されず、チューブ内面に付着したままの汚染物質は、粒子サイズが小さいことから、溶出金属量が比較例3よりも少なくなったと推測される。
【0091】
一方、実施例1~3の結果から、チューブ内面の表面粗度Raが極めて小さく、さらに、押出成形の際に、ろ過精度5nmのフィルターを通過させた空気をチューブの中空部に導入した場合には、汚染物質に由来する金属がチューブ内面からほとんど溶出しない。これは、中空部に導入する空気から、粒子サイズが比較的大きい汚染物質を除去することにより、粒子サイズが比較的大きい汚染物質がチューブ内面に付着することがなく、さらには、チューブ内面に存在する凹部が小さいことから、粒子サイズが比較的小さい汚染物質が凹部に入り込みにくく、仮に入り込んだとしても、超純水による洗浄で除去されるからであると推測される。
【0092】
さらに、実施例1のチューブは、実施例2のチューブよりも大きい平均球晶径を有している。しかしながら、実施例1のチューブ内面からの溶出金属量は、実施例2のチューブ内面からの溶出金属量と同等である。この理由は次のように推測される。図4図7は、実施例1および2のチューブの内面の電子顕微鏡写真および粗さ曲線である。
【0093】
図4は、実施例1で作製したチューブの内面の電子顕微鏡写真であり、図6は、実施例2で作製したチューブの内面の電子顕微鏡写真である。図4および図6に示すように、実施例1および2のチューブの内面の球晶径は、両者で大きく相違している。しかしながら、図5および図7の粗さ曲線が示すように、実施例1のように球晶径が大きい場合であっても、実施例2のように球晶径が小さい場合であっても、いずれも、球晶と球晶との境界に溝はなく、平坦でなだらかである。粒子サイズが比較的小さい汚染物質が、球晶と球晶との境界に集中して付着することは考えにくい。したがって、チューブの内面の球晶径は、溶出金属量にほとんど影響を与えない。
【0094】
一方、図5および図7の粗さ曲線、ならびに、図4Aおよび図6Aの電子顕微鏡写真に示されるように、いずれのチューブの内面も、球晶の大きさよりもずっと小さい凹凸を有している。本開示における表面粗度Raは、評価長さを3μmに設定してAFMにより測定される。したがって、本開示における表面粗度Raは、チューブ内面の球晶により形成される粗さの指標ではなく、図5および図7の粗さ曲線に示される微小な凹凸により形成される粗さの指標である。溶出金属量に影響を与える要因は、球晶径の大小ではなく、球晶径よりもずっと小さい表面粗度Raである。実施例1および2のチューブは同じ表面粗度Raを有していることから、同等の溶出金属量を示したものと推測される。
【0095】
実施例1および2の結果から、チューブ内面に現れる球晶の大きさは、溶出金属量とはほぼ無関係であることが分かる。実施例1~3の結果から明らかなように、溶出金属量の抑制には、押出成形の際にクリーンな気体を用いること、および、チューブ内面をナノレベルで表面平滑化することが重要である。
【符号の説明】
【0096】
10 押出成形機
11 シリンダー
12 アダプター
13 ダイヘッド
14 ダイチップ
15 スクリュー
16 TFE/FAVE共重合体
17 サイジングダイ
18 チューブ内面
19 中空部
21 気体(外気)
22 フィルター
23 気体導入口
24 ダイ先端部
図1
図2
図3
図4
図4A
図5
図6
図6A
図7