(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20240510BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240510BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240510BHJP
C08L 3/02 20060101ALI20240510BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L9/00 ZAB
C08K3/04
C08K3/013
C08L3/02
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2022065727
(22)【出願日】2022-04-12
【審査請求日】2023-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131390(WO,A1)
【文献】特表2010-514867(JP,A)
【文献】特表2010-514866(JP,A)
【文献】特許第6544496(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
C08K 3/04
C08K 3/013
C08L 3/02
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および
AOAC2011.25法により分類されかつ78%エタノールに可溶な材料である低分子量食物繊維を0.5~30質量部
配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記低分子量食物繊維がイヌリンまたは難消化性デキストリンであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部中、ブタジエンゴムが30質量部以上を占めることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のゴム組成物を使用したスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものであり、詳しくは、優れた氷上性能を有するゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面では、一般路面に比べて摩擦係数が低下し、滑りやすくなる。そこで従来、スタッドレスタイヤの氷上性能(氷上での制動性)を向上させるために数多くの手法が提案されている。例えば、スタッドレスコンパウンドに硬質異物や中空ポリマーを配合し、これによりゴム表面にミクロな凹凸を形成することによって氷の表面に発生する水膜を除去し、氷上摩擦を向上させる手法が知られている(例えば特許文献1参照)。また、スタッドレスコンパウンドに高分子微粒子等を配合し、トレッド表面に粗さを付与する等の手法もある。しかし、トレッド表面から脱落した硬質異物や高分子化合物は分解されにくく、環境上の問題が懸念される。
そこで現在、環境的に優れ、かつトレッド表面の粗さをさらに効率良く付与する手法が求められている。
【0003】
なお、下記特許文献2には、イソプレン系ゴムと変性共役ジエン系重合体とを含有するゴム成分、水溶性微粒子、シリカ、及び液体可塑剤を含み、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量が30質量部以上、液体可塑剤の含有量が30質量部を超えているスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物が開示されている。前記水溶性微粒子として、例えばリグニン誘導体、糖類等が例示されているが、本発明で使用される低分子量食物繊維は記載されていない。
また、下記特許文献3には、ジエンエラストマー、30phrを超える液体可塑剤、50から150phrの間の強化用フィラーを少なくとも含むゴム組成物がそのトレッドに含まれるタイヤであって、前記組成物が、水溶性微粒子からなる2から50phrの間の粉末、及び2から50phrの間の水溶性短繊維をさらに含むことを特徴とするタイヤが開示されている。前記水溶性短繊維として、例えばポリビニルアルコール(PVA)繊維、セルロース繊維、多糖繊維等が例示されているが、本発明で使用される低分子量食物繊維は記載されていない。
また下記特許文献4には、ゴム成分と、水増粘物質とを含むゴム組成物であって、前記水増粘物質は、その濃度が23質量%となるように水溶液を調製したときに、コーンプレート型粘度計により測定される該水溶液の25℃、0.01/s~0.1/sのうちの少なくともいずれかのせん断速度における粘度が、20Pa・s以上となる固体物質と定義され、前記水増粘物質の平均径が、10μm以上1000μm以下であることを特徴とするゴム組成物が開示されている。前記水増粘物質として、例えばポリビニルアルコール、多糖類等が例示されているが、本発明で使用される低分子量食物繊維は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-35736号公報
【文献】特許第6544496号公報
【文献】特表2013-514399号公報
【文献】特開2019-131627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、環境的に優れ、かつ高い氷上性能を有するゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムに、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を配合するとともに、低分子量食物繊維を特定量でもって配合したゴム組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0007】
すなわち本発明は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および低分子量食物繊維を0.5~30質量部
配合してなることを特徴とするゴム組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および低分子量食物繊維を0.5~30質量部配合してなることを特徴としているので、環境的に優れ、かつ高い氷上性能を有するゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することができる。
【0009】
本発明における低分子量食物繊維は、生分解性であるので、タイヤトレッド表面から脱落しても経時により分解され、環境的に優れる。また、低分子量食物繊維は、タイヤトレッド表面に粗さを効率的に付与することができ、これにより路面に対する高い引っ掻き効果が発現し、氷上性能を高めることができる。また、水接触時に容易に溶解するため、タイヤトレッド表面に粗さを効率的に付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
また、氷上性能を向上させるという観点から、ジエン系ゴム100質量部中、ポリブタジエンが30質量部以上、好ましくは40質量部以上を占めることが好ましく、また天然ゴムを併用する形態がさらに好ましい。
また、ジエン系ゴムは、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であることが好ましい。このようにTgを規定することにより、氷上性能が向上する。
なおジエン系ゴムが複数種類含まれる場合において、本明細書で言うTgは、各ゴムのガラス転移温度に、各ゴムの重量分率を乗じた積の合計、すなわち加重平均に基づき算出される値とする。なお計算時には各成分の重量分率の合計を1.0とする。本発明で言うガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度を指すものとする。
さらに好ましい前記平均Tgは、-60℃以下である。
【0011】
(カーボンブラックおよび/または白色充填剤)
本発明に使用されるカーボンブラックとしては、具体的には、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPE、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、カーボンブラックは、氷上性能向上の観点から、窒素吸着比表面積(N2SA)が10~300m2/gであるのが好ましく、50~150m2/gであるのがさらに好ましい。
なお窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K 6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0012】
本発明に使用される白色充填剤としては、具体的には、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、氷上性能がより良好となる理由から、シリカが好ましい。
【0013】
シリカとしては、具体的には、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
シリカは、氷上性能向上の観点から、CTAB吸着比表面積が50~300m2/gであるのが好ましく、90~200m2/gであるのがさらに好ましい。
なお、CTAB吸着比表面積は、シリカ表面への臭化n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの吸着量をJIS K6217-3:2001「第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」にしたがって測定した値である。
【0015】
(低分子量食物繊維)
食物繊維は、日本食品標準成分表において、「ヒトの消化酵素で消化されない食品の難消化性成分の総体」と定義され、一般的に重合度が3以上の多糖類である。本発明で使用される低分子量食物繊維は、その中でも、低分子量を有するものであり、具体的には約80%のエタノール(例えば78%エタノール)に可溶な材料であることができる。
本発明で使用される低分子量食物繊維は、本発明の効果向上の観点から、水溶性低分子量食物繊維が好ましい。水溶性低分子量食物繊維としては、イヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖等が挙げられ、中でもタイヤトレッド表面に粗さを効率的に付与することができ、路面に対する高い引っ掻き効果に著しく優れるという観点から、イヌリン、難消化性デキストリンがとくに好ましい。
なお、本発明の範囲外である水溶性高分子量食物繊維は、水には溶けるが約80%のエタノール中では沈殿を形成する。また、低分子量食物繊維の確認は、AOAC2011.25法により可能である。
【0016】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および前記低分子量食物繊維を0.5~30質量部配合してなることを特徴とする。
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量が30質量部未満では、ゴム組成物の機械的特性や耐摩耗性が悪化し、逆に100質量部を超えるとゴム組成物の低温柔軟性が低下して氷上性能が悪化する。
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記低分子量食物繊維の配合量が0.5質量部未満では、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができず、逆に30質量部を超えると機械的特性が低下する。
【0017】
前記カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、40~90質量部が好ましい。
前記低分子量食物繊維の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、5~20質量部が好ましい。
【0018】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛;老化防止剤;可塑剤;シランカップリング剤;熱膨張性マイクロカプセルなどのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0019】
また本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を使用して調製することができ、空気入りタイヤであることが好ましく、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。また本発明のタイヤは、トレッド、とくにキャップトレッドに適用し、スタッドレスタイヤとするのがよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0021】
標準例、実施例1~3、比較例1~4
表1に示す配合(質量部)において、加硫系(加硫促進剤、硫黄)を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫系を加えて混練し、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を170℃、10分の条件でプレス加硫し、以下に示す試験法で物性を測定した。
【0022】
氷上性能:得られた加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付けたサンプルを作製した。サンプルは常温の水に24時間浸漬させた。浸漬後のサンプルは氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-1.5℃、荷重98N、路面速度20km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた氷上摩擦係数を、標準例の値を100として指数で示した。指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能に優れることを意味する。
結果を表1に示す。
【0023】
【0024】
*1:NR(RSS#3)
*2:BR(日本ゼオン株式会社製Nipol BR1220)
*3:カーボンブラック(東海カーボン株式会社製シーストKHA)
*4:シリカ(ローディア社製Zeosil 1165MP、CTAB比表面積=159m2/g)
*5:シランカップリング剤(エボニックデグッサ社製Si69、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
*6:オイル(昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S)
*7:低分子量水溶性食物繊維1(ヘルシーカンパニー社製商品名水溶性食物繊維イヌリン、イヌリン)
*8:低分子量水溶性食物繊維2(ヘルシーカンパニー社製商品名難消化性デキストリン、難消化性デキストリン)
*9:高分子量水溶性食物繊維1(ネイチャーワン社製商品名グルコマンナン粉末、グルコマンナン)
*10:高分子量水溶性食物繊維2(紀文フードケミファ社製商品名ダックアルギン、アルギン酸ナトリウム)
*11:水溶性有機物(東京化成工業社製商品名リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム)
*12:水溶性無機物(関東化学社製商品名硫酸マグネシウム(無水)、硫酸マグネシウム)
*13:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*14:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ-G)
【0025】
表1の結果から、各実施例のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および低分子量食物繊維を0.5~30質量部配合してなるものであるので、標準例に比べて、氷上性能が向上している。
これに対し、比較例1および2は、高分子量水溶性食物繊維を配合した例であるので、実施例程の氷上性能は発現しなかった。
比較例3および4は、食物繊維に属さない水溶性有機物または水溶性無機物を配合した例であるので、実施例程の氷上性能は発現しなかった。
【0026】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1]:ジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30~100質量部、および低分子量食物繊維を0.5~30質量部配合してなることを特徴とするゴム組成物。
発明[2]:前記低分子量食物繊維が水溶性低分子量食物繊維であることを特徴とする発明1に記載のゴム組成物。
発明[3]:前記低分子量食物繊維がイヌリンまたは難消化性デキストリンであることを特徴とする発明1または2に記載のゴム組成物。
発明[4]:前記ジエン系ゴム100質量部中、ブタジエンゴムが30質量部以上を占めることを特徴とする発明1~3のいずれかに記載のゴム組成物。
発明[5]:発明1~4のいずれかに記載のゴム組成物を使用したスタッドレスタイヤ。