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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240510BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240510BHJP
   C08L 25/02 20060101ALI20240510BHJP
   C08L 57/02 20060101ALI20240510BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20240510BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20240510BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240510BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08L25/02
C08L57/02
C08K5/5415
C08L9/06
C08K3/22
B60C1/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022165322
(22)【出願日】2022-10-14
(65)【公開番号】P2024058156
(43)【公開日】2024-04-25
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】土方 健介
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-274046(JP,A)
【文献】特開2017-052883(JP,A)
【文献】国際公開第2021/256124(WO,A1)
【文献】特開2011-094012(JP,A)
【文献】特開2010-270298(JP,A)
【文献】特開2017-132984(JP,A)
【文献】特開2013-001795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、下記式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂3質量部~100質量部と、窒素吸着比表面積N2SAが100m2/g~300m2/gであるシリカ70質量部~300質量部と配合され、前記芳香族系炭化水素樹脂がC9成分からなる石油系樹脂であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
Tg>36×Mw/Mn+22 ・・・(1)
Mw>3000 ・・・(2)
(式中、Tgはガラス転移温度〔単位:℃〕、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。)
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100質量%中、シリカ表面のシラノール基と反応性がある官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
下記一般式(3)の平均組成式で表されるポリシロキサンを含むシランカップリング剤が前記シリカの質量に対して2質量%~20質量%配合されたことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1)eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 ・・・(3)
(式(3)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基、Bは炭素数5~10の1価の炭化水素基、Cは加水分解性基、Dはメルカプト基を含有する有機基、R1は炭素数1~4の1価の炭化水素基を表し、a~eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0≦d<1、0≦e<2、かつ0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす実数である。)
【請求項4】
ガラス転移温度が-40℃以上である液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、水酸化アルミニウムを15質量部以上配合したことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてタイヤのトレッド部に用いることを意図したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ(例えば競技用タイヤや乗用車用タイヤ)のトレッド部を構成するタイヤ用ゴム組成物においては、ウェット路面におけるグリップ力(ウェットグリップ性能)を向上させるために、高比表面積フィラーや高軟化点樹脂を多量に配合することが行われる(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、高比表面積フィラーを多量配合すると、破断強度の悪化が懸念され、それに伴いタイヤに使用したときに耐摩耗性が悪化する虞があった。また、高軟化点樹脂を多量配合すると、ガラス転移温度が高くなり、低温におけるゴム硬度が高くなり、それに伴いタイヤに使用したときにウェット路面におけるグリップ性能の作動性(また、競技用タイヤの場合ウォームアップ性)が低下する虞があった。そのため、耐摩耗性を損なうことなくウェットグリップ性能を高め、その作動性を良好にするための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5503159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐摩耗性を損なうことなくウェットグリップ性能を高め、その作動性を良好にすることを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、下記式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂3質量部~100質量部と、窒素吸着比表面積N2SAが100m2/g~300m2/gであるシリカ70質量部~300質量部と配合され、前記芳香族系炭化水素樹脂がC9成分からなる石油系樹脂であることを特徴とする。
Tg>36×Mw/Mn+22 ・・・(1)
Mw>3000 ・・・(2)
(式中、Tgはガラス転移温度〔単位:℃〕、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。)
【発明の効果】
【0006】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、式(1)および(2)で特定される条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂を用いているので、樹脂を配合することに伴う耐摩耗性の悪化を抑制しながら、ウェットグリップ性能を高め、しかもその作動性を良好にすることができる。
【0007】
本発明においては、ジエン系ゴム100質量%中、シリカ表面のシラノール基と反応性がある官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むことが好ましい。これにより、シリカの分散性を高めることができ、ウェットグリップ性能を向上するには有利になる。
【0008】
本発明においては、下記一般式(3)の平均組成式で表されるポリシロキサンを含むシランカップリング剤がシリカに対して2質量%~20質量%配合されることが好ましい。これにより、耐摩耗性を損なうことなくウェットグリップ性能を高め、その作動性を良好にする効果をより高めることができる。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1)eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 ・・・(3)
(式(3)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基、Bは炭素数5~10の1価の炭化水素基、Cは加水分解性基、Dはメルカプト基を含有する有機基、R1は炭素数1~4の1価の炭化水素基を表し、a~eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0≦d<1、0≦e<2、かつ0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす実数である。)
【0009】
本発明においては、ガラス転移温度が-40℃以上である液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを含むことが好ましい。これにより、耐摩耗性を損なうことなくウェットグリップ性能を高め、その作動性を良好にする効果をより高めることができる。
【0010】
本発明においては、ジエン系ゴム100質量部に対して、水酸化アルミニウムを15質量部以上配合することが好ましい。このように水酸化アルミニウムを配合することで、ウェットグリップ性能を向上するには有利になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムである。ジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物(特に、競技用タイヤや乗用車用タイヤのトレッド部を構成するゴム組成物)に一般的に用いられる種類を使用することができる。本発明では、特に、ジエン系ゴムとしてスチレンブタジエンゴムを含むことが好ましい。ジエン系ゴムがスチレンブタジエンゴムを含む場合、その配合量は、ジエン系ゴム100質量%中に好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは80質量%~100質量%である。スチレンブタジエンゴムを含むことで耐摩耗性を損なうことなくウェットグリップ性能を高めることができる。尚、スチレンブタジエンゴムと共に他のジエン系ゴムを配合することもできる。他のジエン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0012】
ジエン系ゴムとしてスチレンブタジエンゴムを用いる場合、特に、シリカ表面のシラノール基と反応性がある官能基で分子末端の両方または片方が変性された変性スチレンブタジエンゴムを用いることが好ましい。シラノール基と反応性を有する官能基としては、例えばヒドロキシル基含有ポリオルガノシロキサン構造、アルコキシシリル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、アミド基、チオール基、エーテル基から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なかでもヒドロキシル基、アミノ基を好適に用いることができる。このような変性スチレンブタジエンゴムを用いることで、後述のシリカの分散性を高めることができ、ウェットグリップ性能を向上するには有利になる。
【0013】
上述の変性スチレンブタジエンゴムは、ジエン系ゴム中の含有率が高いほどシリカの分散性を高めることでき、ウェットグリップ性能を向上するには有利になる。具体的には、上述の変性スチレンブタジエンゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であるとよい。変性スチレンブタジエンゴムの含有量が30質量%以上であるとシリカの分散性を高める効果が得られ、ウェットグリップ性能を十分に改善することができる。
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、下記式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂が必ず配合される。このような芳香族系炭化水素樹脂を配合することでウェットグリップ性能を効果的に高めることができる。
Tg>36×Mw/Mn+22 ・・・(1)
Mw>3000 ・・・(2)
(式中、Tgはガラス転移温度〔単位:℃〕、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。)
【0015】
本明細書において、ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度として決定することができる。また、重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)によるポリスチレン換算の分子量として、以下の条件で測定することができる。
測定装置: Waters社製 GPC(ALC/GPC 150C)
カラム: 昭和電工社製AD806M/Sを3本
移動相の種類:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
移動相の流量:1.0ml/分
測定温度: 140℃
検出器の種類:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
【0016】
上記式(1)を満たさない場合、即ち、Tg≦36×Mw/Mn+22の関係であると、ウェットグリップ性能を高めることができない。上記式(2)を満たさない場合、即ち、Mw≦3000の関係であると、ウェットグリップ性能の初期の作動性を高めることができない。また、上記式(1)または(2)の一方を満たすだけでは所望の効果は得られない。
【0017】
前述の式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、3質量部~100質量部、好ましくは10質量部~85質量部、より好ましくは15質量部~70質量部である。芳香族系炭化水素樹脂の配合量が3質量部未満であるとグリップ力を向上させる効果が低下する。芳香族系炭化水素樹脂の配合量が100質量部を超えると作動性及び耐摩耗性が低下する。尚、前述の式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂は複数種類を併用してもよい。複数種類を併用する場合、その配合量の合計が上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0018】
前述の式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂は、前述の式(1)および/または(2)の条件を満たさない他の樹脂と併用することもできる。他の樹脂としてはタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられる種類を使用することができる。前述の式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂と他の樹脂とを併用する場合、前述の式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは5質量部~85質量部、より好ましくは10質量部~70質量部にするとよい。一方で、他の樹脂の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは5質量部~85質量部、より好ましくは10質量部~70質量部にするとよい。但し、これら樹脂の配合量の合計は、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは10質量部~150質量部、より好ましくは20質量部~120質量部にするとよい。
【0019】
芳香族系炭化水素樹脂のガラス転移温度Tgの値は、上述の式(1)を満たせば特に限定されないが、好ましくは30℃~130℃、より好ましくは50℃~120℃であるとよい。また、芳香族系炭化水素樹脂の重量平均分子量Mwの値は、上述の式(2)を満たせば特に限定されないが、好ましくは3000~18000、より好ましくは5000~15000であるとよい。更に、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnは、特に限定されないが、例えば0.5~3.0の範囲に設定することができる。
【0020】
芳香族系炭化水素樹脂は、式(1)および(2)を満たすものであれば特に制限されることはなく、C9成分(芳香族成分)からなる石油系樹脂、例えばC9系石油樹脂(α-メチルスチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエンなどの留分を重合した芳香族系石油樹脂)が好ましい。なかでもα-メチルスチレンを主成分とするC9系石油樹脂が好ましい。このように精製されたα-メチルスチレンからなる樹脂は、重量平均分子量Mwを大きくすると共に、ガラス転移温度Tgを高くすることができる。
【0021】
本発明のタイヤ用ゴム組成物にはシリカが必ず配合される。シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して30質量部~300質量部、好ましくは50質量部~250質量部、より好ましくは70質量部~200質量部である。このように十分な量のシリカを配合することでウェットグリップ性能を向上するには有利になる。シリカの配合量が30質量部未満であると耐摩耗性が低下する。シリカの配合量が300質量部を超えると耐摩耗性及び作動性が低下する。
【0022】
本発明で使用されるシリカは、窒素吸着比表面積N2SAが100m2/g~300m2/g、好ましくは130m2/g~250m2/gである。シリカの窒素吸着比表面積N2SAが100m2/g未満であると、ゴム組成物に対する補強性が不十分となり耐摩耗性が悪化する。シリカの窒素吸着比表面積N2SAが300m2/gを超えると、シリカの分散性が低下し転がり抵抗が悪化する。尚、シリカの窒素吸着比表面積N2SAはJIS K6217-2に準拠して求めるものとする。
【0023】
本発明で使用するシリカは、上述した特性を有するシリカであればよく、製品化されたものの中から適宜選択してもよいし、通常の方法で上述した特性を有するように製造してもよい。シリカの種類としては、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、あるいは表面処理シリカなどを使用することができる。
【0024】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカ以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填剤としては、例えば、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられる材料を例示することができる。
【0025】
これらの中でも、水酸化アルミニウムを併用することが好ましい。水酸化アルミニウムを用いることで、ウェットグリップ性能を向上するには有利になる。水酸化アルミニウムを併用する場合、その配合量はジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部~70質量部にするとよい。水酸化アルミニウムの配合量が15質量部未満であると、ウェットグリップ性能の更なる向上が見込めなくなる。
【0026】
更に、充填剤としてカーボンブラックを併用してもよい。カーボンブラックを併用することで、耐摩耗性を向上することができる。カーボンブラックを併用する場合、その配合量は特に限定されないが、上述のジエン系ゴム100質量部に対して、例えば10質量部~40質量部に設定することができる。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物では、上述のシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上することができる。シランカップリング剤としては、下記一般式(3)の平均組成式で表されるポリシロキサンを含むシランカップリング剤を好適に用いることができる。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1)eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 ・・・(3)
(式(3)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基、Bは炭素数5~10の1価の炭化水素基、Cは加水分解性基、Dはメルカプト基を含有する有機基、R1は炭素数1~4の1価の炭化水素基を表し、a~eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0≦d<1、0≦e<2、かつ0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす実数である。)
【0028】
上記一般式(3)で表される平均組成式を有するポリシロキサン(メルカプトシラン化合物)は、その骨格として、シロキサン骨格を有する。シロキサン骨格は直鎖状、分岐状、3次元構造のいずれか又はこれらの組み合わせとすることができる。
【0029】
上記一般式(3)において、a,bの少なくとも1つが0でない。即ち、a,bの少なくとも1つが0より大であり、aおよびbの両方が0より大でもよい。よって、このポリシロキサンは、スルフィド基を含有する2価の有機基A、炭素数5~10の1価の炭化水素基Bから選ばれる少なくとも一つを必ず含む。
【0030】
上記一般式(3)で表される平均組成式を有するポリシロキサンからなるシランカップリング剤が、炭素数5~10の1価の炭化水素基Bを有する場合、メルカプト基を保護しムーニースコーチ時間が長くなると同時に、ゴムとの親和性に優れることで加工性をより優れたものにする。このため一般式(3)における炭化水素基Bの添え字bは、0.10≦b≦0.89であるとよい。炭化水素基Bの具体例としては、好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数8~10の1価の炭化水素基、例えば、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。これによりメルカプト基を保護しムーニースコーチ時間を長くし加工性により優れ、低発熱性をより優れたものにすることができる。
【0031】
上記一般式(3)で表される平均組成式を有するポリシロキサンからなるシランカップリング剤が、スルフィド基を含有する2価の有機基Aを有する場合、低発熱性、加工性(特にムーニースコーチ時間の維持・長期化)をより優れたものにする。このため一般式(5)におけるスルフィド基を含有する2価の有機基Aの添え字aは、0<a≦0.50であるとよい。
【0032】
スルフィド基を含有する2価の有機基Aは、上記一般式(3)中、nは1~10の整数を表し、なかでも、2~4の整数であることが好ましい。また、xは1~6の整数を表し、なかでも、2~4の整数であることが好ましい。有機基Aは、例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい炭化水素基とすることができる。
【0033】
上記一般式(3)で表される平均組成式を有するポリシロキサンからなるシランカップリング剤は、加水分解性基Cを有することによって、シリカとの親和性および/または反応性を優れたものにする。一般式(3)における加水分解性基Cの添え字cは、低発熱性、加工性がより優れ、シリカの分散性がより優れるというる理由から、1.2≦c≦2.0であるとよい。加水分解性基Cの具体例としては、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。加水分解性基Cとしては、シリカの分散性を良好にし、また加工性をより優れたものにする観点から、下記一般式(4)で表される基であることが好ましい。
*-OR2 ・・・(4)
上記一般式(4)中、*は、結合位置を示す。またR2は炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数6~10のアラルキル基(アリールアルキル基)または炭素数2~10のアルケニル基を表し、なかでも、炭素数1~5のアルキル基であることが好ましい。
【0034】
上記炭素数1~20のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基などが挙げられる。上記炭素数6~10のアリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられる。上記炭素数6~10のアラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられる。上記炭素数2~10のアルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ペンテニル基などが挙げられる。
【0035】
上記一般式(3)で表される平均組成式を有するポリシロキサンからなるシランカップリング剤は、メルカプト基を含有する有機基Dを有することによって、ジエン系ゴムと相互作用及び/又は反応することができ、低発熱性を優れたものにする。メルカプト基を含有する有機基Dの添え字dは、0.1≦d≦0.8であるとよい。メルカプト基を含有する有機基Dとしては、シリカの分散性を良好にし、また加工性をより優れたものにする観点から、下記一般式(5)で表される基であることが好ましい。
*-(CH2)m-SH ・・・(5)
上記一般式(5)中、mは1~10の整数を表し、なかでも、1~5の整数であることが好ましい。また式中、*は、結合位置を示す。
【0036】
上記一般式(5)で表される基の具体例としては、*-CH2SH、*-C24SH、*-C36SH、*-C48SH、*-C510SH、*-C612SH、*-C714SH、*-C816SH、*-C918SH、*-C1020SHが挙げられる。
【0037】
上記一般式(3)において、R1は炭素数1~4の1価の炭化水素基を表す。炭化水素基R1としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
【0038】
シランカップリング剤の配合量は、シリカの質量に対し2質量%~20質量%、好ましくは5質量%~16質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量をシリカ量の2質量%以上にすることによりシリカの分散を改良することができる。またシランカップリング剤の配合量をシリカ量の20質量%以下にすることによりシランカップリング剤どうしの縮合を抑制し、所望の硬度や強度を有するゴム組成物を得ることができる。その結果、タイヤのトレッド部に使用した際には、耐摩耗性を損なうことなくウェットグリップ性能を高め、その作動性を良好にすることができる。
【0039】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、可塑剤成分として液状ポリマーを配合することができる。特に、タイヤ用ゴム組成物において可塑剤成分として一般的に使用されるオイルではなく、後述の液状ポリマーを用いることが好ましい。具体的には、液状ポリマーとして、ガラス転移温度が好ましくは-40℃以上、より好ましくは-30℃~-5℃である液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを用いるとよい。このように可塑剤成分を配合することで耐摩耗性を向上することができる。前述の液状ポリマーのガラス転移温度が-40℃未満であるとウェットグリップが低下する虞がある。上述の液状ポリマーを配合する場合、その配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部~40質量部、より好ましくは15質量部~35質量部である。液状ポリマーの配合量が10質量部未満であると液状ポリマーを用いることによる付加的な効果(耐摩耗性の更なる改善)が十分に見込めなくなる虞がある。液状ポリマーの配合量が40質量部を超えると耐摩耗性が低下する虞がある。
【0040】
タイヤ用ゴム組成物には、上記成分以外に、常法に従って、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、加工助剤、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を配合することができる。このような配合剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これらの配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって調製することができる。
【0041】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、乗用車や競技用タイヤのトレッド部を形成するのに好適である。これにより得られたタイヤは、耐摩耗性を損なうことなく優れたウェットグリップ性能を発揮し、且つ、その作動性を良好にすることができる。尚、本発明のタイヤ用ゴム組成物が使用されるタイヤは、空気入りタイヤ(その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体が充填されるタイヤ)であることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。非空気式タイヤの場合も、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、路面に当接する部分(空気入りタイヤにおけるトレッド部)に用いるとよい。
【0042】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0043】
表1~3に示す配合からなる40種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1~2、比較例1-1~4,2-1~2-5、実施例1-1~11,2-1~2-16)を調製するにあたり、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、各タイヤ用ゴム組成物を得た。
【0044】
尚、表4には、各例で使用した樹脂1~6に関して、ガラス転移温度Tg〔単位:℃〕、式(1)の右辺(36×Mw/Mn+22)、重量平均分子量Mwを纏めて示した。ガラス転移温度Tg〔単位:℃〕の欄に示した値が、式(1)の右辺の欄に示した値を超える場合、式(1)を満たしていることを意味する。また、重量平均分子量Mwの欄に示した値が3000超である場合、式(2)を満たしていることを意味する。
【0045】
得られたゴム組成物を使用して、15cm×15cm×0.2cmの金型中で、160℃、20分間加硫して加硫ゴムシートを作製し、下記の方法により、100℃におけるtanδ、100℃における硬度、100℃における破断強度を測定し、それぞれをグリップ性能、操縦安定性、耐摩耗性の指標とした。
【0046】
ウェットグリップ性能(0℃におけるtanδ)
得られた加硫ゴムシートの動的粘弾性を、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzで測定し、0℃におけるtanδを求めた。得られた結果は、表1では標準例1の値を100とする指数とし、表2~3では標準例2の値を100とする指数として、表1~3の「ウェットグリップ性能」の欄に示した。この指数が大きいほど、0℃におけるtanδが高く、タイヤにしたときのウェットグリップ性能(即ち、ウェット路面におけるグリップ性能)に優れることを意味する。
【0047】
作動性(20℃における硬度)
得られた加硫ゴムシートの硬度を、JIS K6253に準拠し、デュロメータのタイプAにより温度20℃の条件で測定した。得られた結果は、表1では標準例1の値を100とする指数とし、表2~3では標準例2の値を100とする指数として、表1~3の「作動性」の欄に示した。この指数が小さいほど、20℃における硬度が低く、ウェット路面における初期の作動性に優れることを意味する。
【0048】
耐摩耗性(20℃における破断強度)
得られた加硫ゴムシートを用いてJIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片を切り出し、JIS K6251に準拠し、20℃(室温)における引張破断強度を測定した。得られた結果は、表1では標準例1の値を100とする指数とし、表2~3では標準例2の値を100とする指数として、表1~3の「耐摩耗性」の欄に示した。この指数が大きいほど、20℃における破断強度が高く、タイヤにしたときの耐摩耗性に優れることを意味する。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表1~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・SBR-1:スチレンブタジエンゴム、ZSエラストマー社製 Nipol NS522
・SBR-2:変性スチレンブタジエンゴム、旭化成社製 TUFDENE E581(変性基:ヒドロキシ基)
・シリカ-1:Evonik社製 Ultrasil 7000GR(窒素吸着比表面積N2SA=171m2/g)
・シリカ-2:Solvay社製 Zeosil 1085GR(窒素吸着比表面積N2SA=86m2/g)
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製 シースト9(窒素吸着比表面積N2SA=142m2/g)
・水酸化アルミニウム:日本軽金属社製 BF013
・樹脂-1:芳香族系炭化水素樹脂、JXエナジー社製 ネオポリマー140S
・樹脂-2:芳香族系炭化水素樹脂、JXエナジー社製 ネオポリマー170S
・樹脂-3:芳香族系炭化水素樹脂、Kraton社製 SYLVARES SA140
・樹脂-4:芳香族系炭化水素樹脂、Hercules社製 Endex155
・樹脂-5:芳香族系炭化水素樹脂、Kraton社製 Sylvatraxx4412
・樹脂-6:芳香族系炭化水素樹脂、Eastman Chemical社製 Endex160
・液状ポリマー:低分子量スチレン-ブタジエン共重合体、Cray Valley社製 RICON 100
・オイル:シェルルブリカンツジャパン社製 エキストラクト 4号S
・シランカップリング剤‐1:Evonik社製 Si69
・シランカップリング剤‐2:下記の方法で製造されたポリシロキサン
・ステアリン酸:日油社製 ビーズステアリン酸YR
・酸化亜鉛:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・老化防止剤:フレキシス社製 6PPD
・加硫促進剤‐1:三新化学工業社製 サンセラー D-G
・加硫促進剤‐2:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ-G
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
【0053】
シランカップリング剤‐2の製造方法
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコにビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業製 KBE-846)107.8g(0.2mol)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE-803)95.4g(0.4mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製 KBE-3083)442.4g(1.6mol)、エタノール162.0gを納めた後、室温にて0.5N塩酸32.4g(1.8mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌した。その後、濾過、5%KOH/EtOH溶液14.6gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで褐色透明液体のポリシロキサン425.4gを得た。得られたポリシロキサンを「シランカップリング剤‐2」とする。GPCにより測定した結果、平均分子量は860であり、下記平均組成式で示される。
(-C36-S4-C36-)0.083(-C8170.667(-OC251.50(-C36SH)0.167SiO0.75
【0054】
【表4】
【0055】
表1から明らかなように、実施例1-1~1-11は、標準例1に対して、ウェットグリップ性能、作動性、耐摩耗性を向上した。また、表2~3から明らかなように、実施例2-1~2-16は、標準例2に対して、ウェットグリップ性能、作動性、耐摩耗性を向上した。
【0056】
一方、比較例1-1は、窒素吸着比表面積N2SAが小さいシリカ(粒径が大きいシリカ)を用いているため、耐摩耗性が悪化した。比較例1-2は、式(2)を満たさない樹脂を用いているため、耐摩耗性が悪化した。比較例1-3は、式(1)を満たさない樹脂を用いているため、作動性が悪化した。比較例1-4は、式(1)を満たさない樹脂を用いているため、耐摩耗性が悪化した。比較例2-1は、窒素吸着比表面積N2SAが小さいシリカ(粒径が大きいシリカ)を用いているため、耐摩耗性が悪化した。比較例2-2は、式(2)を満たさない樹脂を用いているため、耐摩耗性が悪化した。比較例2-3は、式(1)を満たさない樹脂を用いているため、作動性が悪化した。比較例2-4は、式(1)を満たさない樹脂を用いているため、耐摩耗性が悪化した。比較例2-5は、式(1)および(2)を満たす樹脂を用いているが、樹脂の配合量が多いため、作動性および耐摩耗性が悪化した。
【0057】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] ジエン系ゴム100質量部に対し、下記式(1)および(2)の条件を満たす芳香族系炭化水素樹脂3質量部~100質量部と、窒素吸着比表面積N2SAが100m2/g~300m2/gであるシリカ70質量部~300質量部と配合され、前記芳香族系炭化水素樹脂がC9成分からなる石油系樹脂であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
Tg>36×Mw/Mn+22 ・・・(1)
Mw>3000 ・・・(2)
(式中、Tgはガラス転移温度〔単位:℃〕、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。)
発明[2] 前記ジエン系ゴム100質量%中、シリカ表面のシラノール基と反応性がある官能基を有する変性スチレンブタジエンゴムを30質量%以上含むことを特徴とする発明[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[3] 下記一般式(3)の平均組成式で表されるポリシロキサンを含むシランカップリング剤が前記シリカに対して2質量%~20質量%配合されたことを特徴とする発明[1]または[2]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(A)a(B)b(C)c(D)d(R1)eSiO(4-2a-b-c-d-e)/2 ・・・(3)
(式(3)中、Aはスルフィド基を含有する2価の有機基、Bは炭素数5~10の1価の炭化水素基、Cは加水分解性基、Dはメルカプト基を含有する有機基、R1は炭素数1~4の1価の炭化水素基を表し、a~eは、0≦a<1、0<b<1、0<c<3、0≦d<1、0≦e<2、かつ0<2a+b+c+d+e<4の関係式を満たす実数である。)
発明[4] ガラス転移温度が-40℃以上である液状芳香族ビニル-共役ジエン系ゴムを含むことを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[5] 前記ジエン系ゴム100質量部に対して、水酸化アルミニウムを15質量部以上配合したことを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。