IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特許7485998二次電池用合剤、二次電池用合剤シート及びその製造方法並びに二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】二次電池用合剤、二次電池用合剤シート及びその製造方法並びに二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240510BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240510BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240510BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240510BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240510BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023031843
(22)【出願日】2023-03-02
(65)【公開番号】P2023129369
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2022032057
(32)【優先日】2022-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 花英
(72)【発明者】
【氏名】平賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】随 献偉
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-094331(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112421114(CN,A)
【文献】国際公開第2022/050251(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/050252(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/043493(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/255307(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を含有する固体二次電池用合剤であって、
結着剤が、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有するフィブリル性樹脂であり、二次電池用合剤中、0.3質量%以上、1.5質量%以下含まれていることを特徴とする固体二次電池用合剤。
【請求項2】
フィブリル性樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂である請求項1記載の固体二次電池用合剤。
【請求項3】
固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を含有する原料組成物を使用して得られた固体二次電池用合剤であって、
原料組成物中の結着剤が粉末状のフィブリル性樹脂である請求項1又は2記載の固体二次電池用合剤。
【請求項4】
粉末状のフィブリル性樹脂は、水分含有量が500ppm以下である請求項3記載の固体二次電池用合剤。
【請求項5】
粉末状のフィブリル性樹脂が粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂である請求項3記載の固体二次電池用合剤。
【請求項6】
粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、標準比重が2.12~2.20である請求項5記載の固体二次電池用合剤。
【請求項7】
粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、二次粒子径が450μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を80質量%以上含む請求項5記載の固体二次電池用合剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の二次電池用合剤が、固体電解質及び電極活物質、並びに、結着剤を含有するものである固体二次電池用電極用合剤。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の固体二次電池用合剤を含む固体二次電池用合剤シート。
【請求項10】
請求項に記載の固体二次電池用電極用合剤を含む固体二次電池用電極用合剤シートを含む電極。
【請求項11】
固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を含有し、
結着剤は、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有するフィブリル性樹脂であり、二次電池用合剤中、0.3質量%以上、1.5質量%以下含まれている二次電池用合剤シートの製造方法であって、
工程(a):固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を混合し二次電池用合剤を形成するステップと、
工程(b):二次電池用合剤をカレンダリングまたは押出成形してシートを製造するステップとを含み、
工程(a)の混合は、
(a1)固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を均質化して粉末にする工程と、
(a2)工程(a1)によって得られた粉末状の原料混合物を混合して二次電池用合剤を調製する工程と
を含むことを特徴とする二次電池用合剤シートの製造方法。
【請求項12】
工程(al)における均質化は19℃以下の温度で行われ、工程(a2)における混合は、30℃以上の温度で行われる請求項11記載の二次電池用合剤シートの製造方法。
【請求項13】
工程(b)は、カレンダリングまたは押し出しを30~150℃の温度で行うものである請求項11記載の二次電池用合剤シートの製造方法。
【請求項14】
工程(a)における混合は、剪断力を付与しながら行われる請求項1113のいずれかに記載の二次電池用合剤シートの製造方法。
【請求項15】
請求項に記載の固体二次電池用合剤シートを有する固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池用合剤、二次電池用合剤シート及びその製造方法並びに二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池において、電極活物質及び導電助剤に対して、結着剤及び溶媒を混合して得られたスラリーを塗工、乾燥することによって、二次電池用シートを作製することが一般的に行われている。
【0003】
他方、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフィブリル性樹脂を使用し、これをフィブリル化することで結着剤として使用することも行われている。
【0004】
特許文献1には、活性材料とポリテトラフルオロエチレン混合バインダ材とを含む混合物を、ジェットミルによって高せん断処理することにより、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化する電極の作製方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、特定の酸化物系固体電解質を用い、電解質層や電極層をスラリーから作製して全固体リチウムイオン二次電池を得ることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、硫黄系固体イオン伝導体無機粒子とテトラフルオロエチレン(TFE)ポリマーとを混合し、ペーストを形成した後、カレンダー又は押出によりフィルムを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-517862号公報
【文献】特表2015-153588号公報
【文献】国際公開第2021-043493号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、良好な性質を有する、二次電池用合剤、その合剤を含有する二次電池用合剤シート、及びその二次電池用合剤シートを使用した二次電池を提供することを目的とする。
また、本開示は、微細な繊維構造を有する結着剤を含有する二次電池用合剤シートを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を含有する固体二次電池用合剤であって、
結着剤が、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有するフィブリル性樹脂であり、二次電池用合剤中、0.3質量%以上、1.5質量%以下含まれていることを特徴とする固体二次電池用合剤である。
【0010】
上記フィブリル性樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることが好ましい。
【0011】
上記固体二次電池用合剤は、固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を含有する原料組成物を使用して得られた固体二次電池用合剤であって、
上記原料組成物中の結着剤が粉末状のフィブリル性樹脂であることが好ましい。
上記粉末状のフィブリル性樹脂は、水分含有量が500ppm以下であることが好ましい。
【0012】
上記粉末状のフィブリル性樹脂が粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂であることが好ましい。
上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、標準比重が2.12~2.20であることが好ましい。
上記粉末状のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、二次粒子径が450μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を80質量%以上含むことが好ましい
開示は、上記二次電池用合剤が、固体電解質及び電極活物質、並びに、結着剤を含有するものである固体二次電池用電極用合剤でもある。
【0013】
本開示は、上記固体二次電池用合剤を含む固体二次電池用合剤シートでもある。
本開示は、上記固体二次電池用電極用合剤を含む固体二次電池用電極用合剤シートを含む電極でもある。
【0014】
本開示は、固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を含有し、
結着剤は、フィブリル径(中央値)が70nm以下の繊維状構造を有するフィブリル性樹脂であり、二次電池用合剤中、0.3質量%以上、1.5質量%以下含まれている二次電池用合剤シートの製造方法であって、
工程(a):固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を混合し二次電池用合剤を形成するステップと、
工程(b):二次電池用合剤をカレンダリングまたは押出成形してシートを製造するステップとを含み、
工程(a)の混合は、
(a1)固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を均質化して粉末にする工程と、
(a2)工程(a1)によって得られた粉末状の原料組成物を混合して二次電池用合剤を調製する工程と
を含むことを特徴とする二次電池用シートの製造方法でもある。
【0015】
上記工程(al)における均質化は19℃以下の温度で行われ、工程(a2)における混合は、30℃以上の温度で行われることが好ましい。
上記工程(b)は、カレンダリングまたは押し出しを30~150℃の温度で行うものであることが好ましい。
上記工程(a)における混合は、剪断力を付与しながら行われることが好ましい。
【0016】
本開示は、上記固体二次電池用合剤シートを有する固体二次電池でもある。
【発明の効果】
【0017】
本開示においては、良好な性質を有する、二次電池用合剤、その合剤を含有する二次電池用合剤シート、及びその二次電池用合剤シートを使用した二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示は、二次電池において好適に使用することができる二次電池用合剤及びこれを含有する合剤シートを提供する。
本開示の二次電池用合剤及びこれを含有する合剤シートにおいては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等のフィブリル性樹脂を結着剤として使用するものである。従来の二次電池用合剤においては、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体等の、溶媒に溶解する樹脂を結着剤として使用し、これを含有するスラリーの塗布・乾燥によって、二次電池用合剤を作成する方法が一般的であった。
【0019】
一方、例えば、粒子状態のPTFEにせん断応力を与えると、容易にフィブリル化することが知られている。このようなフィブリル化する性質を利用して、PTFEを結着剤として使用することができる。すなわち、フィブリル化したPTFEがその他の粉体成分等に絡みつくことで、粉体成分を結着させ、これによって粉体成分を成形する際のバインダーとして作用することができる。
【0020】
しかし、フィブリル化した結着剤として使用する場合でも、フィブリル化が充分でなければ、二次電池用合剤として使用した際に良好な性能を発揮することはできない。本開示においては、この点についての検討を行い、フィブリル性樹脂が、フィブリル径(中央値)が100nm以下の繊維状構造を有するように、微細なフィブリル化加工を行うことによって、フィブリル化した結着剤が二次電池用合剤の結着剤として、良好な性能を発揮することができるものである。
【0021】
本開示は、二次電池用合剤を得るにあたり、フィブリル性樹脂を結着剤として使用し、微細な繊維構造を有するものとすることで、良好な性質を有する二次電池用合剤及びこれを含有する合剤シートを得ることができることを見出し、これによって本開示を完成したものである。
また、本開示は、二次電池用合剤中の結着剤の含有量を少なくすることで、より多くの活物質または導電助剤を含有する電極を得ることができるため、電池性能を改善することができる。
【0022】
本開示の二次電池用合剤は、結着剤を含有する原料組成物を使用して得られるものであり、結着剤は粉末状のフィブリル性樹脂であることが好ましい。原料として、結着剤含有分散液ではなく、粉体状の結着剤を使用することから、溶媒選択性という課題から開放される。また、分散液を用いないことから、二次電池用合剤中に原料由来の水分が少なく、水分の混在による問題を生じることがなく、これによって、イオン伝導の優れた電池とすることができ、電池性能を向上させることができるという利点がある。
【0023】
本開示の二次電池用合剤は、二次電池用合剤とするにあたり、繊維状構造を有する結着剤を構成要素として有するものである。また、本開示においては、結着剤のフィブリル径(中央値)が100nm以下である点が重要である。このようにフィブリル径が細い結着剤が二次電池用合剤中に存在し、これが二次電池用合剤を構成する成分の粉体同士を結着させる作用を奏することによって、本開示の目的を達成するものである。
【0024】
上記フィブリル径(中央値)は、以下の方法によって測定した値である。
(1)走査型電子顕微鏡(S-4800型 日立製作所製)を用いて、二次電池用合剤シートの拡大写真(7000倍)を撮影し画像を得る。
(2)この画像に水平方向に等間隔で2本の線を引き、画像を三等分する。
(3)上方の直線上にある全てのフィブリル化した結着剤について、フィブリル化した結着剤1本あたり3箇所の直径を測定し、平均した値を当該フィブリル化した結着剤の直径とする。測定する3箇所は、フィブリル化した結着剤と直線との交点、交点からそれぞれ上下に0.5μmずつずらした場所を選択する(未繊維化の結着剤一次粒子は除く。)。
(4)上記(3)の作業を、下方の直線上にある全てのフィブリル化した結着剤に対して行う。
(5)1枚目の画像を起点に画面右方向に1mm移動し、再度撮影を行い、上記(3)及び(4)によりフィブリル化した結着剤の直径を測定する。これを繰り返し、測定した数が80本を超えた時点で終了とする。
(6)上記測定した全てのフィブリル化した結着剤の直径の中央値をフィブリル径の大きさとした。
【0025】
上記フィブリル径(中央値)は、100nm以下であることが好ましく、85nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることが更に好ましい。なお、フィブリル化を進めすぎると、柔軟性が失われる傾向にある。下限は特に限定されるものではないが、強度の観点から、例えば、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、31nm以上であることが特に好ましい。
【0026】
上記フィブリル径(中央値)を有する結着剤を得る方法としては特に限定されるものではないが、例えば、
固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤粉体を含む原料組成物を混合しながら、剪断力を付与する工程(1)
前記工程(1)によって得られた二次電池用合剤をバルク状に成形する工程(2)及び
前記工程(2)によって得られたバルク状の二次電池用合剤をシート状に圧延する工程(3)によって行う方法を挙げることができる。
【0027】
このような方法において、例えば、工程(1)においては原料組成物の混合条件を15000rpm以下とすることにより、柔軟性を維持しながらも結着剤のフィブリル化を進行させることができ、与えるせん断応力をコントロールすることで、結着剤のフィブリル径(中央値)を100nm以下とすることができる。
【0028】
また、工程(3)のあとに、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、さらに薄いシート状に圧延する工程(4)を有することも好ましい。また、工程(4)を繰り返すことも好ましい。
また、工程(3)又は工程(4)のあとに、得られた圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(5)を有することによってもフィブリル径を調整することができる。工程(5)は、例えば1回以上12回以下繰り返すことが好ましい。
【0029】
すなわち、せん断力をかけることによって、結着剤粉体をフィブリル化し、これが、活物質、固体電解質等の粉体成分と絡み合うことによって、二次電池用合剤を製造することができる。なお、当該製造方法については後述する。
【0030】
なお、上記「結着剤粉体」とは、液体媒体と混在した分散状態ではなく、粉体としての固体状態を意味するものである。このような状態のものを利用し、液体媒体が存在しない状態の結着剤を使用して二次電池用合剤を製造することで、本開示の目的が好適に達成できる。
【0031】
本開示において、電解液を含む二次電池用合剤においては、活物質を必須成分とし、固体二次電池用合剤においては、固体電解質を必須成分とする。また、電極として使用する場合、必要に応じて、導電助剤を用いるようにしてもよい。
【0032】
本開示の二次電池用合剤を調製する際の原料となる粉末形状のフィブリル性樹脂は、水分含有量が500ppm以下であることが好ましい。
水分含有量が500ppm以下であることによって、粉体成分として固体電解質を使用する場合に固体電解質の劣化を低減させるという点で好ましい。
上記水分含有量は、300ppm以下であることが更に好ましい。
【0033】
本開示において、結着剤の含有量は、二次電池用合剤中、0.3質量%以上、8質量%以下であることが必要である。
結着剤の含有量の下限は、好ましくは0.4質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。結着剤の含有量の上限は、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは6質量%以下であり、更に好ましくは4質量%以下であり、より更に好ましくは1.7質量%以下であり、最も好ましくは1.0質量%以下である。
粉体成分と結着剤の合計を100質量%としたときに、結着剤の含有量の下限としては、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.4質量%以上であり、特に好ましくは0.5質量%以上である。上限としては、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは6質量%以下であり、更に好ましくは4質量%以下であり、より更に好ましくは1.7質量%以下であり、最も好ましくは1.0質量%以下である。
【0034】
本開示においては、結着剤の含有量を上記範囲とすることで、二次電池用合剤シートの強度を良好に保ちつつ、電池性能に優れたものとすることができる。
【0035】
本開示において、フィブリル性樹脂は、せん断応力を与えると、容易にフィブリル化するような樹脂のことを示す。このようなフィブリル性樹脂を結着剤として使用することで、フィブリル化した樹脂がその他の粉体成分等に絡みつくことで、粉体成分を結着させ、これによって粉体成分を成形する際のバインダーとして作用することができる。例えば、フィブリル性樹脂として、液晶ポリマー(LCP)、セルロース、アクリル樹脂、超高分子量ポリエチレン、PTFEなどが挙げられ、中でも、PTFEが、化学的安定性、熱的安定性、加工性の点で好適である。
【0036】
本開示において、上記PTFEとしては特に限定されず、ホモポリマーであってもよいし、フィブリル化させることのできる共重合体であってもよい。
共重合体の場合、コモノマーであるフッ素原子含有モノマーとしては、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルエチレン、フルオロアルキル・フルオロビニルエーテル等を挙げることができる。
【0037】
粉末形状のPTFEは、標準比重が2.12~2.20であることが好ましい。標準比重が当該範囲内のものであることによって、強度の高い電極合剤シートを作製できるという点で利点を有する。上記標準比重の下限は、2.13以上であることがより好ましい。上記標準比重の上限は、2.19以下であることがより好ましく、2.18以下であることが更に好ましい。
【0038】
標準比重〔SSG〕はASTM D-4895-89に準拠して試料を作製し、得られた試料の比重を水置換法によって測定する。
【0039】
上記粉末状のPTFEは、二次粒子径が450μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。二次粒子径が450μm以上のPTFEが当該範囲内のものであることによって、強度の高い合剤シートを作製できるという利点を有する。
二次粒子径が450μm以上のPTFEを用いることで、より抵抗が低く、靭性に富んだ合剤シートを得ることができる。
【0040】
上記粉末状のPTFEの平均二次粒子径の下限は、450μmであることがより好ましく、500μmであることが更に好ましい。上記二次粒子径の上限は、700μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることが更に好ましい。二次粒子径は例えばふるい分け法などで求めることができる。
【0041】
上記粉末状のPTFEは、より高強度でかつ均質性に優れる電極合剤シートが得られることから、平均一次粒子径が150nm以上であることが好ましい。より好ましくは、180nm以上であり、更に好ましくは210nm以上であり、特に好ましくは220nm以上である。
PTFEの平均一次粒子径が大きいほど、その粉末を用いて押出成形をする際に、押出圧力の上昇を抑えられ、成形性にも優れる。上限は特に限定されないが500nmであってよい。重合工程における生産性の観点からは、上限は350nmであることが好ましい。
【0042】
上記平均一次粒子径は、重合により得られたPTFEの水性分散液を用い、ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成し、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線をもとに決定できる。
【0043】
本開示に使用するPTFEは、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するPTFEとしては、例えば、粒子中に高分子量のポリテトラフルオロエチレンのコアと、より低分子量のポリテトラフルオロエチレンまたは変性ポリテトラフルオロエチレンのシェルとを含むポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。このような変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、特表2005-527652号公報に記載されるポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0044】
上述したような各パラメータを満たす粉末形状のPTFEは、従来の製造方法により得ることができる。例えば、国際公開第2015-080291号や国際公開第2012-086710号等に記載された製造方法に倣って製造すればよい。
【0045】
本開示の二次電池用合剤は、固体電池用の電極に用いられるものであっても電解液を含む電池用の電極に用いられるものであってもよい。さらには、固体電池における固体電解質層に用いられるものであってもよい。これらの用途に応じて、合剤を構成する成分を組み合わせ、これに対して上述したパラメータを満たすようなフィブリル化を生じさせることよって、本開示の目的を達成する。
【0046】
電極が固体電池用の電極である場合は、二次電池用合剤は、更に電極活物質及び固体電解質を含有するものであり、電解液を含有する電池用の電極である場合は、電極活物質を含有するものである。必要に応じて導電助剤、その他の成分を含有するものであってもよい。以下、電極を構成するための各成分について詳述する。
【0047】
(電極活物質)
本開示の二次電池用合剤シートを正極用シートとして使用する場合、二次電池用合剤シートには正極活物質を配合する。上記正極活物質は、固体電池の正極活物質として公知の正極活物質を適用可能である。特に、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を用いることが好ましい。
【0048】
上記正極活物質としては、電気化学的にアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物、アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物、導電性高分子等が挙げられる。
なかでも、正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すアルカリ金属含有遷移金属複合酸化物が好ましい。上記アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。好ましい態様において、アルカリ金属イオンは、リチウムイオンであり得る。即ち、この態様において、アルカリ金属イオン二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
【0049】
上記アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式:MMn2-b
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0.9≦a;0≦b≦1.5;MはFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・マンガンスピネル複合酸化物、
式:MNi1-ccO
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦c≦0.5;MはFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・ニッケル複合酸化物、または、
式:MCo1-d
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦d≦0.5;MはFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)
で表されるアルカリ金属・コバルト複合酸化物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0050】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力な二次電池を提供できる点から、MCoO、MMnO、MNiO、MMn、MNi0.8Co0.15Al0.05、またはMNi1/3Co1/3Mn1/3等が好ましく、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
MNiCoMn (3)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはFe、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種を示し、(h+i+j+k)=1.0、0≦h≦1.0、0≦i≦1.0、0≦j≦1.5、0≦k≦0.2である。)
【0051】
上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、下記式(4)
(PO (4)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を示し、0.5≦e≦3、1≦f≦2、1≦g≦3)で表される化合物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0052】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。
上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、オリビン型構造を有するものが好ましい。
【0053】
その他の正極活物質としては、MFePO、MNi0.8Co0.2、M1.2Fe0.4Mn0.4、MNi0.5Mn1.5、MV、MMnO(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属である。)等が挙げられる。特に、MMnO、MNi0.5Mn1.5等の正極活物質は、4.4Vを超える電圧や、4.6V以上の電圧で二次電池を作動させた場合であって、結晶構造が崩壊しない点で好ましい。従って、上記に例示した正極活物質を含む正極材を用いた二次電池等の電気化学デバイスは、高温で保管した場合でも、残存容量が低下しにくく、抵抗増加率も変化しにくい上、高電圧で作動させても電池性能が劣化しないことから、好ましい。
【0054】
その他の正極活物質として、MMnOとMM(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体材料等も挙げられる。
【0055】
上記固溶体材料としては、例えば、一般式Mx[Mn(1-y) ]Oで表わされるアルカリ金属マンガン酸化物である。ここで式中のMは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、M及びMn以外の少なくとも一種の金属元素からなり、例えば、Co,Ni,Fe,Ti,Mo,W,Cr,ZrおよびSnからなる群から選択される一種または二種以上の元素を含んでいる。また、式中のx、y、zの値は、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3の範囲である。中でも、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14のようなLiMnOをベースにLiNiOやLiCoOを固溶したマンガン含有固溶体材料は、高エネルギー密度を有するアルカリ金属イオン二次電池を提供できる点から好ましい。
【0056】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、前記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0057】
上記導電性高分子としては、p-ドーピング型の導電性高分子やn-ドーピング型の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン系、ポリフェニレン系、複素環ポリマー、イオン性ポリマー、ラダー及びネットワーク状ポリマー等が挙げられる。
【0058】
上記正極活物質の中でも、ニッケル含有正極活物質が好適である。ニッケルを含有することで、活物質が高容量化することができ、電池性能の向上をはかることができる。また、レアメタルであるコバルトを削減することができ、コスト面でも優位である。
特に、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有することが好ましい。
【0059】
リチウム・ニッケル系複合酸化物としては、一般式(1):LiNi1-x
(式中、xは、0.01≦x≦0.5、yは、0.9≦y≦1.2であり、Mは金属原子(但しNiを除く)を表す。)で表されるリチウム・ニッケル系複合酸化物が好ましい。このようにNiを多く含有する正極活物質は、二次電池の高容量化に有益である。
【0060】
一般式(1)において、xは、0.01≦x≦0.5を充足する係数であり、さらに高容量の二次電池を得ることができることから、好ましくは0.05≦x≦0.4であり、さらに好ましくは0.10≦x≦0.3である。
【0061】
一般式(1)において、Mの金属原子としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Al、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等が挙げられる。Mの金属原子としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Cu等の遷移金属、または、上記遷移金属と、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si等の他の金属との組み合わせが好ましい。
【0062】
リチウム・ニッケル系複合酸化物としては、LiNi0.82Co0.15Al0.03、LiNi0.6Mn0.2Co0.2、および、LiNi0.8Mn0.1Co0.1からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、LiNi0.82Co0.15Al0.03、および、LiNi0.8Mn0.1Co0.1からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0063】
一般式(1)で表されるリチウム・ニッケル系複合酸化物とともに、これとは異なる正極活物質を組み合わせて用いてもよい。異なる正極活物質として具体的には、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiMnO、LiMn1.8Al0.2、LiTi12、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP、LiCoPO、Li1.2Fe0.4Mn0.4、LiNiO、LiNi0.5Mn0.3Co0.2等が挙げられる。
【0064】
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0065】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸させ、又は添加した後、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることもできる。
【0066】
表面付着物質の量としては、上記正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での固体電解質の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができる。その付着量が少なすぎる場合、その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する
場合がある。
【0067】
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成していてもよい。
【0068】
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm以上、より好ましくは0.8g/cm以上、更に好ましくは1.0g/cm以上である。該正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における固体電解質を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、上限は、好ましくは4.0g/cm以下、より好ましくは3.7g/cm以下、更に好ましくは3.5g/cm以下である。
なお、本開示では、タップ密度は、正極活物質粉体5~10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/cmとして求める。
【0069】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは0.8μm以上、最も好ましくは1.0μm以上であり、また、好ましくは30μm以下、より好ましくは27μm以下、更に好ましくは25μm以下、最も好ましくは22μm以下である。上記下限を下回ると、高タップ密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成、即ち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引いたり等の問題を生ずる場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ上記正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性を更に向上させることができる。
【0070】
なお、本開示では、メジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0071】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、上記正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上であり、上限は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下したりするために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。
【0072】
なお、本開示では、上記正極活物質の平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0073】
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m/g以上、より好ましくは0.2m/g以上、更に好ましくは0.3m/g以上であり、上限は好ましくは50m/g以下、より好ましくは40m/g以下、更に好ましくは30m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質層形成時の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0074】
なお、本開示では、BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研社製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0075】
本開示の二次電池が、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池として使用される場合、高出力が要求されるため、上記正極活物質の粒子は二次粒子が主体となることが好ましい。
上記正極活物質の粒子は、二次粒子の平均粒子径が40μm以下で、かつ、平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を、0.5~7.0体積%含むものであることが好ましい。平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を含有させることにより、固体電解質との接触面積が大きくなり、全固体二次電池用シートと固体電解質との間でのリチウムイオンの拡散をより速くすることができ、その結果、電池の出力性能を向上させることができる。
【0076】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNO等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0077】
正極の製造のために、前記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の2種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33等の三元系との組み合わせ、LiCoOとLiMn若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiFePOとLiCoO若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0078】
上記正極活物質の含有量は、電池容量が高い点で、正極合剤中50~99.5質量%が好ましく、60~99質量%がより好ましく、69~96.7質量%がより好ましい。
また、正極活物質の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。正極合剤中の正極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると正極の電子・イオン伝導や強度が不足する場合がある。
【0079】
本開示の二次電池用合剤シートを負極用シートとして使用する場合、二次電池用合剤シートには負極活物質を配合する。
上記負極活物質としては特に限定されず、例えば、リチウム金属、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び、難黒鉛化性炭素等の炭素質材料を含むもの、ケイ素及びケイ素合金等のシリコン含有化合物、LiTi12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物等を挙げることができる。なかでも、炭素質材料を少なくとも一部に含むものや、シリコン含有化合物を特に好適に使用することができる。
【0080】
上記負極活物質の含有量は、電池容量が高い点で、負極合剤中50~99.5質量%が好ましく、60~99質量%がより好ましく、69~96.7質量%がより好ましい。
また、負極活物質の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。負極合剤中の負極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると負極の電子・イオン伝導や強度が不足する場合がある。
【0081】
(固体電解質)
本開示の二次電池用合剤に使用される固体電解質は、硫化物系固体電解質であっても、酸化物系固体電解質であってもよい。特に、硫化物系固体電解質を使用する場合、柔軟性があるという利点がある。
【0082】
硫化物系固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
Lia1b1c1d1e1 (1)
式中、Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0083】
本開示において、硫化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する硫化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0084】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0085】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0086】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、LiS-P-LiCl、LiS-P-HS、LiS-P-HS-LiCl、LiS-LiI-P、LiS-LiI-LiO-P、LiS-LiBr-P、LiS-LiO-P、LiS-LiPO-P、LiS-P-P、LiS-P-SiS、LiS-P-SiS-LiCl、LiS-P-SnS、LiS-P-Al、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。
【0087】
特に、硫化物系固体電解質は、下記式(A)で示される組成を満たす硫化物系固体電解質であることが好ましい。
aLiS-bX-cLiX-(1-a-b-c)P (A)
(但し、0.6≦a≦0.86、0≦b≦0.333、0≦c≦0.3、0.05≦b+c≦0.4、XはGe、Sn、Ti又はSi、XはCl、Br又はIを表す。但し、b又はcのいずれかは0ではない。)
【0088】
上記式(A)で示される硫化物系固体電解質の例として、具体的には、0.714LiS-0.143SnS-0.143P(Li10SnP12(LSPS))、0.625LiS-0.25LiCl-0.125P(LiPSCl(LPSCl))、0.715LiS-0.143GeS2-0.142P(Li10GeP12(LGPS))等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物を使用することができる。
【0089】
硫化物系固体電解質の平均粒子径は、0.1μm以上、20μm以下であることが好ましい。上限としては、0.2μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることが更に好ましい。上限としては、18μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましい。
硫化物系固体電解質の平均粒径が、0.1μm未満であると、粉体のハンドリングが困難となる場合がある。一方、硫化物系固体電解質の平均粒径が、20μmを超えると、プレス成形性が悪化する場合がある。
【0090】
なお、硫化物系固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。
硫化物系固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0091】
硫化物固体電解質の平均粒径の調整方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のようにして行う。公知の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、サンドミル、ボールミル、ジェットミル又はふるいなどが好適に用いられる。固体電解質の性質によるが、粉砕時には水又はエタノール等の溶媒を添加して行ってもよい。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級は、特に限定はなく、篩、風力分級機などを用いて行うことができる。
【0092】
上記酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
酸化物系固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。
【0093】
具体的な化合物例としては、例えば、LixaLayaTiO〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT);LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。);Lixcyccc zcnc(MccはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。);Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。);Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子または2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。);LixfSiyfzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。);Lixgygzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。);LiBO;LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO;ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO
NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。);具体例として、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO等が挙げられる。ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。
また、LLZに対して元素置換を行ったセラミックス材料も知られている。例えば、
Mg、Al、Si、Ca(カルシウム)、Ti、V(バナジウム)、Ga(ガリウム)、Sr、Y(イットリウム)、Nb(ニオブ)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Ba(バリウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)およびランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも1種類の元素を含むものを採用することが好ましい。具体例として、例えば、Li6.25LaZrAl0.2512等が挙げられる。
また、Li、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えば、リン酸リチウム(LiPO);リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C及びGa等から選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
具体例として、例えば、LiO-Al-SiO-P-TiO-GeO、LiO-Al-SiO-P-TiO等が挙げられる。
【0094】
上記酸化物系無機固体電解質は、Mg、Al、Si、Ca、Ti、Ga、Sr、Nb、Sn、Ba、Wからなる群より選択される少なくとも1種類の元素を含有するものであることが好ましい。これらを含有する酸化物系無機固体電解質は、良好なLiイオン伝導性という点で特に好ましいものである。
【0095】
上記酸化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する酸化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0096】
上記酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。結晶構造を有する酸化物は、良好なLiイオン伝導性という点で特に好ましいものである。
結晶構造を有する酸化物としては、ペロブスカイト型(La0.51Li0.34TiO2.94など)、NASICON型(Li1.3Al0.3Ti1.7(POなど)、ガーネット型(LiLaZr12(LLZ)など)等が挙げられる。なかでも、NASICON型が好ましい。
【0097】
酸化物系固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0098】
なお、酸化物系固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。酸化物系固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0099】
固体電解質の二次電池用合剤中の固形成分における含有量は、固体二次電池に用いたときの界面抵抗の低減と低減された界面抵抗の維持を考慮したとき、固形成分100質量%において、電極においては3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましく、10質量%以上であることがより特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。
また、正極と負極の間に配置される固体電解質層においては50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.8質量%以下であることがより好ましく、99.7質量%以下であることが特に好ましい。
上記固体電解質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書において固形分(固形成分)とは、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理を行ったときに、揮発ないし蒸発して消失しない成分をいう。
【0100】
(導電助剤)
上記導電助剤としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、フラーレン、VGCF等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0101】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤は、二次電池用合剤中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量がこの範囲よりも低いと導電性が不十分となる場合がある。逆に、含有量がこの範囲よりも高いと電池容量が低下する場合がある。
【0102】
(その他の成分)
二次電池用合剤シートは、更に、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂としては、フッ化ビニリデンや、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0103】
電極活物質に対する熱可塑性樹脂の割合は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上であり、また、通常3.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下の範囲である。熱可塑性樹脂を添加することで、電極の機械的強度を向上させることができる。この範囲を上回ると、電極合剤に占める活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や活物質間の抵抗が増大する問題が生じる場合がある。
【0104】
本開示の二次電池用合剤シートにおいて、結着剤の含有量は、二次電池用合剤シート中の結着剤の割合として、通常0.2質量%以上、好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは6.0質量%以下であり、更に好ましくは4質量%以下であり、より更に好ましくは1.7質量%以下であり、最も好ましくは1.0質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、二次電池用合剤シート内で活物質を十分保持できずに二次電池用合剤シートの機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。
【0105】
本開示の二次電池用合剤は、特に、リチウムイオン固体二次電池に好適である。
本開示の二次電池用合剤は、固体二次電池に使用するにあたっては、通常、シート状の形態で使用される。
【0106】
本開示の二次電池用合剤シートは、正極用シートとすることもできるし、負極用シートとすることもできる。更に、固体電解質層用シートとすることもできる。
これらのうち、電極用シートとする場合は、活物質粒子を含有するものである。活物質粒子は、正極活物質、負極活物質とすることができる。本開示の二次電池用合剤シートは、正極活物質を使用した正極用シートとしてより好適に使用することができる。また、電極シートとする場合、必要に応じて、導電助剤を含有するものであってもよい。
【0107】
本開示の二次電池用合剤シートの厚みは、10~150μmであることが好ましく、15~100μmであることがより好ましい。
【0108】
(製造方法)
本開示の二次電池用合剤シートの製造方法は、上述した各成分を混合して得られた原料組成物を使用し、これをシート化するものであることが好ましい。シート化においては、乾燥工程が省けるため、液体媒体の使用量を低減させるか全く使用せずに、スラリーを調製せずに粉体である原料組成物に対して剪断応力を与えることによって行う方法が好ましい。
【0109】
本開示の二次電池用合剤シートは、その製造方法を限定されるものではないが、以下に具体的な製造方法の例を示す。
【0110】
工程(a):固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を混合して二次次電池用合剤を形成するステップと、
工程(b):二次電池用合剤をカレンダリングまたは押出成形してシートを製造するステップと
を含み、
工程(a)の混合は、
(a1)固体電解質及び/又は電極活物質、並びに、結着剤を均質化して粉末にする工程と、
(a2)工程(a1)によって得られた粉末状の原料組成物を混合して二次電池用合剤を調製する工程と
を含むことを特徴とする製造方法であることが好ましい。
【0111】
例えば、PTFEは、約19℃及び約30℃で2つの転移温度を有する。19℃未満では、PTFEは形状を維持した状態で容易に混合することができる。しかし、19℃を超えると、PTFE粒子の構造が緩くなり、機械的せん断に対してより敏感になる。30℃を超える温度では、より高度なフィブリル化が生じるようになる。
【0112】
このため、(a1)の均質化は、19℃以下、好ましくは0℃~19℃の温度で実施することが好ましい。
すなわち、このような(a1)においては、フィブリル化を生じさせることなく、混合して均質化することが好ましい。
次いで行う工程である(a2)における混合は、30℃以上の温度で行うことで、フィブリル化を生じさせることが好ましい。
【0113】
上記工程(a2)は、好ましくは30℃~150℃、より好ましくは35℃~120℃、さらにより好ましくは40℃~80℃の温度で行われる。
一実施形態では、上記工程(b)のカレンダリングまたは押し出しは、30℃から150℃の間、好ましくは35℃から120℃の間、より好ましくは40℃から100℃の間の温度で実行される。
【0114】
上記工程(a)の混合では剪断力を付与しながら行うことが好ましい。
具体的な混合方法としては、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機、1軸混練機、2軸混練機、ミックスマラー、撹拌ミキサー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、高速ミキサーなどを用いて混合する方法が挙げられる。
【0115】
混合条件は、回転数と混合時間を適宜設定すればよい。例えば、回転数は、15000rpm以下とすることが好適である。好ましくは10rpm以上、より好ましくは1000rpm以上、更に好ましくは3000rpm以上であり、また、好ましくは12000rpm以下、より好ましくは11000rpm以下、更に好ましくは10000rpmの範囲である。上記の範囲を下回ると、混合に時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
工程(a1)では工程(a2)よりも弱い剪断力で行うことが好ましい。
【0116】
原料組成物は液体溶媒を含まないことが好ましいが、上記工程(a2)において、少量の潤滑剤を使用してもよい。すなわち、上記工程(a1)によって得られた粉末状の原料組成物に対して、潤滑剤を添加して、ペーストを調製してもよい。
【0117】
上記潤滑剤としては特に限定されず、エーテル化合物、アルコール、イオン液体、カーボネート、脂肪族炭化水素(ヘプタン、キシレンなどの低極性溶剤)、イソパラフィン系炭化水素化合物および石油留分(ガソリン(C4-C10)、ナフサ(C4-C11)、灯油/パラフィン(C10-C16)、およびそれらの混合物)等を挙げることができる。
【0118】
上記潤滑剤は、水分含有量が1000ppm以下であることが好ましい。
水分含有量が1000ppm以下であることによって、電池性能の劣化を低減させるという点で好ましい。上記水分含有量は、500ppm以下であることが更に好ましい。
【0119】
上記潤滑剤を用いる場合は、ヘプタン、キシレンなどの低極性溶剤、イオン液体であることが特に好ましい。
【0120】
上記潤滑剤を用いる場合、その量は、工程(a1)に供する原料組成物の総質量に対して、5.0~35.0質量部、好ましくは10.0~30.0質量部、より好ましくは15.0~25.0質量部であってよい。
【0121】
上述の通り、上記原料組成物は、実質的に液体媒体を含有しないことが好ましい。従来の二次電池用合剤形成方法は、結着剤が溶解した溶媒を使用して、二次電池用合剤成分である粉体を分散させたスラリーを調製し、当該スラリーの塗布・乾燥によって二次電池用合剤シートを調製することが一般的であった。この場合、バインダーを溶解する溶媒を使用する。しかし、従来一般に使用されてきたバインダー樹脂を溶解することができる溶媒は酪酸ブチル等の特定の溶媒に限定される。これらは固体電解質と反応して、固体電解質を劣化させるため、電池性能の低下原因となることがある。また、ヘプタンなどの低極性溶媒では溶解するバインダー樹脂が非常に限定されるうえ、引火点が低く、取り扱いが煩雑になることがある。
上記工程(a1)によって得られた粉末状の原料組成物において、液体媒体の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
また、本開示の二次電池用合剤は、液体媒体の含有量が、1質量%以下であることが好ましい。
【0122】
二次電池用合剤シート形成時に溶媒を使用せず、水分の少ない粉体状の結着剤を用いることで、固体電解質の劣化が少ない電池を製造することができる。更に、上記のような製造方法においては、微細な繊維構造を有する結着剤を含有する二次電池用合剤シートを製造することができると共に、また、スラリーを作製しないことで、製造プロセスの負担を軽減することができる。
【0123】
工程(b)は、カレンダリングまたは押し出しである。カレンダリング、押し出しは、周知の方法によって行うことができる。これによって、電極合剤シートの形状に成形することができる。
工程(b)は、(b1)前記工程(a)によって得られた二次電池用合剤をバルク状に成形する工程と、(b2)バルク状の二次電池用合剤をカレンダリングまたは押出成形する工程を含むことが好ましい。
【0124】
バルク状に成形するとは、二次電池用合剤を1つの塊とするものである。
バルク状に成形する具体的な方法として、押出成形、プレス成形などが挙げられる。
また、「バルク状」とは、特に形状が特定されるものではなく、1つの塊状になっている状態であればよく、ロッド状、シート状、球状、キューブ状等の形態が含まれる。上記塊の大きさは、その断面の直径または最小の一辺が10000μm以上であることが好ましい。より好ましくは20000μm以上である。
【0125】
上記工程(b2)におけるカレンダリングまたは押出成形の具体的な方法としては、ロールプレス機、カレンダーロール機などを用いて、二次電池用合剤を圧延する方法が挙げられる。
【0126】
上記工程(b)は、30~150℃で行うことが好ましい。上述したように、PTFEは、30℃付近にガラス転移温度を有することから、30℃以上において容易にフィブリル化するものである。よって、工程(b)は、このような温度で行うことが好ましい。
【0127】
そして、カレンダリング又は押出は、剪断力がかかるため、これによってPTFEがフィブリル化して、成形がなされる。
【0128】
工程(b)のあとに、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、さらに薄いシート状に圧延する工程(c)を有することも好ましい。工程(c)を繰り返すことも好ましい。このように、圧延シートを一度に薄くするのではなく、段階に分けて少しずつ圧延することで柔軟性がより良好となる。
工程(c)の回数としては、2回以上10回以下が好ましく、3回以上9回以下がより好ましい。
具体的な圧延方法としては、例えば、2つあるいは複数のロールを回転させ、その間に圧延シートを通すことによって、より薄いシート状に加工する方法等が挙げられる。
【0129】
また、フィブリル径を調整する観点で、工程(b)または工程(c)のあとに、圧延シートを粗砕したのち再度バルク状に成形し、シート状に圧延する工程(d)を有することも好ましい。工程(d)を繰り返すことも好ましい。工程(d)の回数としては、1回以上12回以下が好ましく、2回以上11回以下がより好ましい。
【0130】
工程(d)において、圧延シートを粗砕してバルク状に成形する具体的な方法として、圧延シートを折りたたむ方法、あるいはロッドもしくは薄膜シート状に成形する方法、チップ化する方法などが挙げられる。本開示において、「粗砕する」とは、次工程でシート状に圧延するために、工程(b)又は工程(c)で得られた圧延シートの形態を別の形態に変化させることを意味するものであり、単に圧延シートを折りたたむような場合も含まれる。
【0131】
また、工程(d)の後に、工程(c)を行うようにしてもよく、繰り返し行ってもよい。
また、工程(a)ないし、(b)、(c)、(d)において1軸延伸もしくは2軸延伸を行っても良い。
また、工程(d)での粗砕程度によってもフィブリル径(中央値)を調整することができる。
【0132】
上記工程(b)、(c)又は(d)において、圧延率は、好ましくは10%以上、更に好ましくは20%以上であり、また、好ましくは80%以下、より好ましくは65%以下、更に好ましくは50%以下の範囲である。上記の範囲を下回ると、圧延回数の増大とともに時間がかかることとなり生産性に影響を与える。また、上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度および柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。
なお、ここでいう圧延率とは、試料の圧延加工前の厚みに対する加工後の厚みの減少率を指す。圧延前の試料は、バルク状の原料組成物であっても、シート状の原料組成物であってもよい。試料の厚みとは、圧延時に荷重をかける方向の厚みを指す。
上記工程(c)~(d)は30℃以上で行うのが好ましく、60℃以上がより好ましい。また、150℃以下で行うのが好ましい。
【0133】
上述したように、結着として用いるフィブリル性樹脂は、せん断力をかけることでフィブリル化する。そして、フィブリル径(中央値)が100nm以下の繊維状構造を有するものとするには、過度なせん断応力では、フィブリル化が促進しすぎてしまい、柔軟性が損なわれることがある。また、弱いせん断応力では強度の面で充分ではないことがある。このため、混合時や圧延時に、フィブリル性樹脂に適度なせん断応力を与えてフィブリル化を促進し、樹脂を圧延してシート状に延ばす、という工程を上記範囲でおこなうことによって、フィブリル径(中央値)が100nmの繊維状構造を有するものとすることができる。
【0134】
本開示の二次電池用合剤シートは、上記の通り、正極用シート、負極用シートのいずれとすることもできる。更に、固体電解質層用シートとすることもできる。
正極用合剤シート又は負極用シートとする場合、上記二次電池用合剤シートの製造において、結着剤と共に、正極活物質又は負極活物質を混合するようにすればよい。
【0135】
以下、正極及び負極について説明する。
(正極)
本開示において、正極は、集電体と、上記正極用シートとから構成されることが好適である。
正極用集電体の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、ニッケル等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特にアルミニウム又はその合金が好ましい。
【0136】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。
金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0137】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極合剤シートの電気接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0138】
正極の製造は、常法によればよい。例えば、上記正極用シートと集電体とを接着剤を介して積層し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0139】
正極用シートの密度は、好ましくは2.0g/cm以上、より好ましくは2.1g/cm以上、更に好ましくは2.3g/cm以上であり、また、好ましくは4.0g/cm以下、より好ましくは3.9g/cm以下、更に好ましくは3.8g/cm以下の範囲である。この範囲を上回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。下回ると硬く割れやすい活物質の含有量が低く、容量の低い電池となってしまう場合がある。
【0140】
正極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の厚さを差し引いた合剤シートの厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0141】
また、上記正極の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0142】
(負極)
本開示において、負極は、集電体と、上記負極用シートとから構成されることが好適である。
負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特に銅、ニッケル、又はその合金が好ましい。
【0143】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0144】
負極の製造は、常法によればよい。例えば、上記負極用シートと集電体とを接着剤を介して積層し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0145】
負極用シートの密度は、好ましくは1.3g/cm以上、より好ましくは1.4g/cm以上、更に好ましくは1.5g/cm以上であり、また、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.9g/cm以下、更に好ましくは1.8g/cm以下の範囲である。この範囲を上回ると、集電体と活物質との界面付近への固体電解質の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0146】
負極の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、集電体の金属箔厚さを差し引いた合剤シートの厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0147】
(固体二次電池)
本開示は、上記二次電池用合剤シートを有する用いた固体二次電池でもある。
本開示の二次電池は、固体二次電池であっても、電解液を使用する二次電池であってもよい。
【0148】
(固体二次電池)
固体二次電池としては、全固体二次電池であっても、ゲル状のポリマー電解質と固体電解質とを組合せたハイブリッド系の固体二次電池であってもよい。
また、固体二次電池は、リチウムイオン固体二次電池であることが好ましい。
【0149】
本開示の固体二次電池は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する固体電解質層を備える固体二次電池であって、正極、負極及び固体電解質層に、上述した本開示の二次電池用合剤シートである、正極用シート、負極用シート、又は固体電解質層シートを含有するものである。なお、本開示の固体二次電池は、正極、負極及び固体電解質層の一部に、本開示の二次電池用合剤シートでないものを用いるものであっても良い。
【0150】
本開示に固体二次電池の積層構造は、正極用シート及び正極集電体を備える正極と、負極用シート及び負極集電体を備える負極と、上記正極及び上記負極に挟持される固体電解質層を備える。
以下、本開示に係る固体二次電池に用いられるセパレータ及び電池ケースについて、詳細に説明する。
【0151】
(セパレータ)
本開示の固体二次電池は、正極及び負極の間にセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0152】
(電池設計)
本開示の固体二次電池は、さらに電池ケースを備えていてもよい。本開示に用いられる電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、固体電池用電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0153】
本開示の固体二次電池の製造方法は、例えば、まず、上記正極、固体電解質層シート、負極を順に積層し、プレスすることにより固体二次電池としてもよい。
本開示の二次電池用合剤シートを使用することにより、系内の水分が少ない状態で固体二次電池の製造を行うことができ、良好な性能を有する固体二次電池とすることができ、好適である。
【0154】
(電解液を使用する二次電池)
本開示の二次電池用合剤シートを使用して製造された電極は、電解液を使用する各種二次電池における正極又は負極として使用することができる。上記二次電池は、非水電解液を使用する電池であり、リチウムイオン電池を挙げることができる。
【0155】
(電解液)
上記非水電解液としては、公知の電解質塩を公知の電解質塩溶解用有機溶媒に溶解したものが使用できる。
【0156】
電解質塩溶解用有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネートなどのフッ素系溶媒の1種もしくは2種以上が使用できる。
【0157】
電解質塩としては、たとえばLiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SOなどがあげられ、サイクル特性が良好な点から特にLiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOまたはこれらの組合せが好ましい。
【0158】
電解質塩の濃度は、0.8モル/リットル以上、さらには1.0モル/リットル以上が必要である。上限は電解質塩溶解用有機溶媒にもよるが、通常1.5モル/リットル以下である。
【0159】
(電池設計)
電極合剤群は、上記の正極と負極とをセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極と負極とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。
【0160】
(セパレータ)
上記セパレータの材質や形状は、電解液に安定であり、かつ、保液性に優れていれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0161】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、PTFE、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。ポリプロピレン/ポリエチレン2層フィルム、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層フィルム等、これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なかでも、上記セパレータは、電解液の浸透性やシャットダウン効果が良好である点で、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布等であることが好ましい。
【0162】
更に、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上が更に好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下が更に好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0163】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0164】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状若しくは繊維形状のものが用いられる。
【0165】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。
例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0166】
外装ケースの材質は用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0167】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0168】
二次電池の形状は任意であり、例えば、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等の形状が挙げられる。なお、正極、負極、セパレータの形状及び構成は、それぞれの電池の形状に応じて変更して使用することができる。
【実施例
【0169】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。
以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
【0170】
〔作製例1〕
重合開始からTFEが367g(TFEの全重合量1032gに対して35.6質量%)消費された時点で、ラジカル捕捉剤としてヒドロキノン12.0mgを水20mlに溶解した水溶液をTFEで圧入した(水性媒体に対して濃度4.0ppm)。重合はその後も継続し、TFEの重合量が重合開始から1000gになった時点でTFEの供給を止め、直ちに系内のガスを放出して常圧とし、重合反応を終了してポリテトラフルオロエチレン水性分散体(固形分31.2質量%)を得た。得られたポリテトラフルオロエチレン水性分散体を固形分濃度15%まで希釈し、攪拌機付き容器内で硝酸の存在下において静かに、攪拌しポリテトラフルオロエチレンを凝固させた。凝固したポリテトラフルオロエチレンを分離し、160℃において18時間乾燥し、粉末状のPTFE-1を得た。
【0171】
〔作製例2〕
国際第2012‐063622号の調整例1を参考にして、粉末状のPTFE-2を作製した。
作製したPTFEの物性表を表1に示す。
【0172】
【表1】
【0173】
(実施例1)
正極活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1、硫化物系固体電解質LPSCl(平均粒径:8μm)と粉末状PTFE-1を秤量し、高速ミキサー(500rpm、1分間)で混合することで均質化した。撹拌は容器を10℃に冷やして行った。その後、高速ミキサー(10000rpm、3分間)で撹拌することで混合し、二次電池用合剤を得た。撹拌は容器を60℃に加温して行った。なお、粉末状のPTFE-1は真空乾燥機にて50℃、1時間乾燥して用いた。粉末状PTFEは事前に、目開き500μmのステンレスふるいを用いてふるいにかけ、ふるい上に残ったものを用いた。
組成比は質量比で、正極活物質:固体電解質:結着剤=85.2:14:0.8となるようにした。
得られた二次電池用合剤をバルク状に成形し、シート状にカレンダリングした。カレンダリングは80℃に加温し行った。
その後、得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、再度バルク状に成形した後、平らな板の上で金属ロールを用いてシート状に圧延することで、フィブリル化を促進させる工程を四度繰り返した。その後、更に圧延することで、厚さ500μmの二次電池用合剤シートを得た。さらに、二次電池用合剤シートを切り出し、プレス機に投入し圧延をおこなった。さらに、5kNの荷重を繰り返しかけて厚みを調整した。最終的な二次電池用合剤シートの厚みは150μmになるようにギャップを調整した。なお、上記作業はArグローボックス内(露点約-80℃)で行った。初回の圧延率が最も大きく39%であった。
【0174】
(実施例2)
正極活物質LiNi0.5Mn1.5、酸化物系固体電解質Li1.3Al0.3Ti1.712と粉末状PTFE-1を秤量し、実施例1と同様手順でシート成形を行った。
組成比は質量比で正極活物質:固体電解質:結着剤=80.2:19:0.8となるようにした。
【0175】
(実施例3)
導電助剤(アセチレンブラック)と正極活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1、粉末状PTFE-1を秤量し、実施例1と同様手順でシート成形を行った。
表2に記載の組成比に調整した。
【0176】
(実施例4)
酸化物系固体電解質Li6.25LaZrAl0.2512と粉末状PTFE-2を秤量し、実施例1と同様手順でシート成形を行った。組成比は質量比で固体電解質:結着剤=98.5:1 .5となるようにした。
【0177】
参考例1
正極活物質LiNi0.8Mn0.1Co0.1、導電助剤(カーボンブラック:Super P Li)と粉末状PTFE-4を秤量し、高速ミキサー(10000rpm、4分間)で撹拌し、混合物を得た。撹拌は容器を60℃に加温して行った。
なお、粉末状のPTFE-4は真空乾燥機にて50℃、1時間乾燥して用いた。粉末状PTFEは事前に、目開き425μmと355μmのステンレスふるいを用いてふるいにかけ、425μmのふるいを通過し、355μmのふるいの上に残ったものを用いた。組成比は表2に記載通りに調整した。
得られた混合物をバルク状に成形し、シート状に圧延した。圧延は室温で行った。
その後、先程得られた圧延シートを2つに折りたたむことにより粗砕して、再度バルク状に成形した後、平らな板の上で金属ロールを用いてシート状に圧延することで、フィブリル化を促進させる工程を3度繰り返した。その後、更に圧延することで、厚さ500μmの二次電池用合剤シートを得た。さらに、二次電池用合剤シートを切り出し、プレス機に投入し圧延をおこなった。さらに、5kNの荷重を繰り返しかけて厚みを調整した。最終的な二次電池用合剤シートの厚みは150μmになるようにギャップを調整した。
【0178】
各試験は以下の方法で行った。
[含有水分量測定]
粉末状のPTFEは真空乾燥機にて50℃、1時間乾燥して用いた。真空乾燥後のPTFEの水分量は、ボートタイプ水分気化装置を有するカールフィッシャー水分計(ADP-511/MKC-510N 京都電子工業(株)製)を使用し、水分気化装置で210℃に加熱して、気化させた水分を測定した。キャリアガスとして、窒素ガスを流量200mL/minで流し、測定時間を30分とした。また、カールフィッシャー試薬としてケムアクアを使用した。サンプル量は1.5gとした。
【0179】
[PTFEのフィブリル径(中央値)]
(1)走査型電子顕微鏡(S-4800型 日立製作所製)を用いて、二次電池用合剤シートの拡大写真(7000倍)を撮影し画像を得る。
(2)この画像に水平方向に等間隔で2本の線を引き、画像を三等分する。
(3)上方の直線上にある全てのPTFE繊維について、PTFE繊維1本あたり3箇所の直径を測定し、平均した値を当該PTFE繊維の直径とする。測定する3箇所は、PTFE繊維と直線との交点、交点からそれぞれ上下0.5μmずつずらした場所を選択する。(未繊維化のPTFE一次粒子は除く)。
(4)上記(3)の作業を、下方の直線上にある全てのPTFE繊維に対して行う。
(5)1枚目の画像を起点に画面右方向に1mm移動し、再度撮影を行い、上記(3)及び(4)によりPTFE繊維の直径を測定する。これを繰り返し、測定した繊維数が80本を超えた時点で終了とする。
(6)上記測定した全てのPTFE繊維の直径の中央値をフィブリル径の大きさとした。
【0180】
[柔軟性評価]
作製した二次電池用合剤シートを縦2cm、横6cmに切り取り試験片とした。直径4mmサイズの丸棒に巻き付けた後、目視で試験片を確認し、以下の基準で評価した。傷や割れが確認されない場合は○、ひび割れが確認された場合は×と評価した。
【0181】
[強度測定]
デジタルフォースゲージ(イマダ製 ZTS-20N)を使用して、100mm/分の条件下、4mm幅の短冊状の電極合剤試験片にて測定した。チャック間距離は30mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。試験は5回行い、平均値を強度とした。
【0182】
試験結果を、表2に示す。
【0183】
【表2】
【0184】
表2の結果から、少量の結着剤においても合剤シートを作製することができ、実施例の二次電池用合剤シートは、物性に優れたものであった。均質化を低温で行うことで、フィブリル発生と成長を抑制させながら、よりPTFEの分散性を高めることができる。また、成形時に加温することでフィブリルの発生を増加させることができ、フィブリル同士の絡め合いが促進し強度が高いシートを作製することができる。また、PTFE粉体の二次粒子径を大きくすることで、粉体のハンドリング性にも優れる。
以上のように、本開示の合剤シートの製造方法により、結着剤を特定のフィブリル径とすることができ、また、結着剤量が少なくても、強度の高い合剤シートを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本開示の二次電池用合剤及びそれを含有する二次電池用合剤シートは、二次電池の製造に使用することができる。