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  • 特許-液圧制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】液圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/34 20060101AFI20240510BHJP
   F16J 15/14 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B60T8/34
F16J15/14 D
F16J15/14 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020145227
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040483
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭扶
(72)【発明者】
【氏名】住友 望
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-018699(JP,A)
【文献】特開2004-220890(JP,A)
【文献】特開平09-330761(JP,A)
【文献】特開2012-084482(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0049406(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/34
F16J 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ本体部、基板のキャビティと前記モータ本体部とを接続する導電部、及び前記導電部の一部を被覆する被覆部を有する電気モータと、
前記被覆部を収容する貫通孔が形成されたハウジングと、
前記被覆部から露出した前記導電部の先端部分であって前記キャビティのメス端子に接続されるモータ端子が挿通された端子挿通孔を有し、前記貫通孔に嵌合されたキャップと、
前記貫通孔を塞ぐように、前記キャップと前記被覆部との間に配置された液状シール剤の硬化物であるシール部材と、
を備える、液圧制御装置。
【請求項2】
前記導電部は、前記モータ本体部に電力を供給する複数の電力線と、前記モータ本体部の回転角信号を伝達するための複数の信号線と、を含み、
前記被覆部は、前記電力線を被覆する第1被覆部と、前記第1被覆部とは別体で前記信号線を被覆する第2被覆部と、を含み、
前記電力線の前記モータ端子及び前記信号線の前記モータ端子は、それぞれ個別の前記端子挿通孔に挿通されている、請求項1に記載の液圧制御装置。
【請求項3】
前記キャップは、前記端子挿通孔が形成された本体部と、前記本体部の外周面から突出したフランジ部と、を有し、
前記本体部のうち前記フランジ部よりも前記被覆部側の部分は、前記ハウジングを押圧した状態で前記貫通孔内に配置されている、請求項1又は2に記載の液圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液圧制御装置は、例えば、電気モータと、電気モータで駆動するポンプと、電気モータに接続される基板と、を備えている。電気モータと基板とは、導電部(バスバー)とそれを被覆する被覆部で構成された配線ユニットを介して接続されている。液圧制御装置はフルードを扱う装置であるため、基板に対するシール性の確保が求められる。例えば特開2020-1417号公報のブレーキ圧制御装置では、貫通孔に収容された配線ユニットの被覆部の外周面に、環状のシール部材が配置されている。これにより、貫通孔内における被覆部とハウジングとの間の隙間からフルードが漏れることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-1417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような構成において、製造上、配線ユニット内部すなわち導電部と被覆部との間には隙間が形成される。したがって、例えばポンプからモータ本体部に進入したフルードが、配線ユニットの内部の隙間を介して基板側に漏れ出るおそれがある。つまり、上記構成には、基板に対するシール性の観点で改良の余地がある。また、複数の端子を基板のキャビティ(コネクタ)に接続する場合、端子に位置ずれ(振れ)が生じると、接続作業が煩雑となる。
【0005】
本発明の目的は、基板に対するシール性の向上及び接続作業性の向上が可能な液圧制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液圧制御装置は、モータ本体部、基板のキャビティと前記モータ本体部とを接続する導電部、及び前記導電部の一部を被覆する被覆部を有する電気モータと、前記被覆部を収容する貫通孔が形成されたハウジングと、前記被覆部から露出した前記導電部の先端部分であって前記キャビティのメス端子に接続されるモータ端子が挿通された端子挿通孔を有し、前記貫通孔に嵌合されたキャップと、前記貫通孔を塞ぐように、前記キャップと前記被覆部との間に配置された液状シール剤の硬化物であるシール部材と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シール部材の配置時の流動性が生かされた結果、導電部と被覆部との隙間(内部隙間)はシール部材により埋められる。したがって、内部隙間を介した基板へのフルード漏れは抑制される。また、シール部材が貫通孔を塞ぐように配置されているため、貫通孔内における被覆部の外周側の隙間(外部隙間)もシール部材により埋められる。つまり、本発明によれば、シール部材により内部隙間及び外部隙間が埋められ、基板に対するシール性は向上する。
【0008】
また、キャップの端子挿通孔によりモータ端子が位置決めされている。これにより、モータ端子の位置ずれ(振れ)が抑制されるため、モータ端子とキャビティとの接続作業が容易となる。また、貫通孔内における被覆部の位置決め(位置調整)も容易となる。このため、例えば外部隙間が均一になるように(すなわち一部に大きな隙間を作らないように)位置調整することで、外部隙間を介したフルードの流通を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の液圧制御装置の構成図(断面図)である。
図2】軸方向一方側からシール部材を透視して見た本実施形態の配線ユニットを示す構成図である。
図3】軸方向他方側から見た本実施形態の組み付け前のキャップの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。説明に用いる各図は概念図である。本実施形態では、車両のブレーキシステムで用いられる液圧制御装置(例えばアクチュエータ)を例に具体的な構成を説明する。
【0011】
本実施形態の液圧制御装置1は、図1及び図2に示すように、電気モータ2と、ハウジング3と、キャップ4と、シール部材5と、調圧装置6と、を備えている。電気モータ2は、調圧装置6を駆動させる。電気モータ2は、例えばブラシレスモータである。電気モータ2は、モータ本体部21と、導電部22と、被覆部23と、を備えている。モータ本体部21は、出力軸211、ロータ(図示略)、ステータ(図示略)、及び回転角センサ212等を有する部分である。
【0012】
導電部22は、基板9のキャビティ91とモータ本体部21とを接続する導体部分である。キャビティ91は樹脂とメス端子で構成され、コネクタとも呼ばれる。導電部22は、複数のバスバーで構成されている。具体的に、導電部22は、モータ本体部21に電力を供給する複数(ここでは3つ)の電力線221と、モータ本体部21の回転角信号を伝達するための複数(ここでは5つ)の信号線222と、を含んでいる。信号線222は、回転角センサ212と基板9とを接続している。
【0013】
被覆部23は、導電部22の一部を被覆する部材である。被覆部23は、例えば樹脂(モールド樹脂)で形成されている。より詳細に、被覆部23は、電力線221を被覆する第1被覆部231と、第1被覆部231とは別体で信号線222を被覆する第2被覆部232と、を含んでいる。製造上、別種の配線は別々の形成されるため、第1被覆部231と第2被覆部232とは別体となる。被覆部23により配線形状が維持され、貫通孔31内への挿通が容易となる。被覆部23は、電気モータ2の組み付け時にガイド機能を発揮する。被覆部23は、後述するモータ端子22aをガイドするターミナルガイドといえる。
【0014】
導電部22及び被覆部23は、配線ユニット20を構成している。つまり、電気モータ2は、モータ本体部21と、配線ユニット20と、を備えている。被覆部23から露出した導電部22の先端部分は、モータ端子22aであって、キャビティ91のメス端子に接続される。本実施形態の配線ユニット20は、3つの電力線221のモータ端子22aと、5つの信号線222のモータ端子22aと、を備えている。
【0015】
ハウジング3は、金属ブロックである。ハウジング3には、液圧回路が形成され、電気モータ2、電気モータ2で駆動する調圧装置6、及び電磁弁(図示略)等が配置されている。調圧装置6は、液圧(例えばホイールシリンダの液圧)を調整する装置である。本実施形態の調圧装置6は、ポンプである。
【0016】
ハウジング3の一端側には電気モータ2が配置され、ハウジング3の他端側には基板9が配置されている。基板9は、CPUやメモリ等を備え、電気モータ2や電磁弁を制御するブレーキECUを構成している。基板9は、キャビティ91を含むECUケース90に固定されている。
【0017】
各モータ端子22aは、キャビティ91を介して基板9に接続されている。電力は、基板9及び配線ユニット20の電力線221を介してモータ本体部21に供給される。回転角センサ212が出力する回転角信号は、配線ユニット20の信号線222を介して基板9に伝達される。なお、例えばハウジング3には、呼吸穴(図示略)が設けられている。
【0018】
ハウジング3には、被覆部23を収容する貫通孔31が形成されている。貫通孔31は、ハウジング3の一端面から他端面まで延びている。貫通孔31の一端側開口311付近にはモータ本体部21が配置され、貫通孔31の他端側開口312付近にはキャビティ91が配置されている。
【0019】
以下、貫通孔31の延伸方向を「軸方向」と称する。また、他端側開口312から一端側開口311に向かう方向を軸方向一方とし、一端側開口311から他端側開口312に向かう方向を軸方向他方とする。なお、本実施形態において、軸方向と出力軸211の延伸方向とは、平行になっている。
【0020】
貫通孔31の他端側開口312付近は、通路断面積が軸方向他端で大きくなるように、軸方向に交差する方向(ここでは直交方向)に延びる段差面313が形成されている。つまり、貫通孔31は、他端側開口312を構成する大径部32と、大径部32から軸方向一方に延びる小径部33と、を備えている。大径部32には、キャビティ91の一部が配置されている。
【0021】
キャップ4は、モータ端子22aが挿通された端子挿通孔40を有し、貫通孔31に嵌合された栓部材である。キャップ4は、例えば樹脂で形成されている。キャップ4は、他端側開口312を塞ぐように貫通孔31に固定されている。電力線221のモータ端子22a及び信号線222のモータ端子22aは、それぞれ個別の端子挿通孔40に挿通されている。図3に示すように、本実施形態のキャップ4には、電力線221用の端子挿通孔40が3つ、信号線222用の端子挿通孔40が5つ形成されている。
【0022】
本実施形態のキャップ4は、端子挿通孔40が形成された本体部41と、本体部41の外周面から突出したフランジ部42と、を有している。本体部41は、貫通孔31の小径部33の形状に合った形状(例えば円柱状)に形成されている。本体部41の軸方向一端部は、貫通孔31に圧入されている。本体部41の外周面には、圧入代を形成するための突起41aが複数形成されている。
【0023】
フランジ部42は、本体部41の圧入部分(軸方向一端部)に隣接した位置に形成されている。フランジ部42の軸方向一端面は、段差面313に当接している。本実施形態において、本体部41のうちフランジ部42よりも被覆部23側の部分は、ハウジング3を押圧した状態で貫通孔31内に配置されている。なお、本実施形態のフランジ部42は、環状に形成されているが、環状でなくてもよく、例えば本体部41の周方向の一部から突出してもよい。フランジ部42は、大径部32の形状に合わせた形状であってもよい。
【0024】
シール部材5は、貫通孔31を塞ぐように、キャップ4と被覆部23との間に配置された液状シール剤の硬化物である。シール部材5は、乾燥状態の液状シール剤(固化した液状シール剤)ともいえる。液状シール剤は、液状ガスケットと呼ぶこともできる。液状シール剤は、例えばシリコン系であってもよい。
【0025】
製造工程としては、ハウジング3の貫通孔31に配線ユニット20が挿通された後、貫通孔31を塞ぐように他端側開口312から液状シール剤が被覆部23の軸方向他端部に塗布される。その後、他端側開口312から、モータ端子22aが端子挿通孔40に挿通され、キャップ4が貫通孔31に圧入される。液状シール剤は、塗布された際には流動性を有し、乾燥すると固化する。
【0026】
シール部材5は、各モータ端子22aの外周面に全周にわたって当接している。図2に示すように、シール部材5には、結果的に、モータ端子22aが当接状態で挿通される個別の挿通孔51が形成されている。なお、図2では、シール部材5を透視した配線ユニット20が表されており、シール部材5は点線で表されている。
【0027】
キャップ4は、組み付け作業時、液状シール剤が貫通孔31の他端側開口312から漏れ出ることを防止する。これにより、シール性低下が抑制される。本実施形態では、シール部材5の軸方向一端部は被覆部232に当接し、シール部材5の軸方向他端部はキャップ4の本体部41に当接している。つまり、本実施形態のシール部材5は、キャップ4と被覆部23との間に充填されている。
【0028】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、シール部材5の配置時の流動性が生かされた結果、導電部22と被覆部23との隙間(以下「第1内部隙間」という)はシール部材5により埋められる。したがって、第1内部隙間を介した基板9へのフルード漏れは抑制される。また、シール部材5が貫通孔31を塞ぐように配置されているため、貫通孔31内における被覆部23の外周側の隙間(以下「外部隙間」という)もシール部材5により埋められる。つまり、本実施形態によれば、シール部材5により第1内部隙間及び外部隙間が埋められ、基板9に対するシール性は向上する。
【0029】
また、キャップ4の端子挿通孔40によりモータ端子22aが位置決めされている。これにより、モータ端子22aの位置ずれ(振れ)が抑制されるため、モータ端子22aとキャビティ91との接続作業が容易となる。また、貫通孔31内における被覆部23の位置決め(位置調整)も容易となる。このため、例えば外部隙間が均一になるように被覆部23の位置を調整することで、外部隙間を介したフルードの流通を抑制することができる。例えば、端子挿通孔40により配線ユニット20を貫通孔31の中央に位置させることで、一部に大きな隙間を作らない構成が可能となる。
【0030】
また、キャップ4がシール部材5に当接するように配置されることで、端子挿通孔40に形成された隙間もシール部材5により埋められる。このように、キャップ4は、配線ユニット20の位置決め機能(センタリング機能)、フルードの漏れ抑制機能、及び組み付け時の液状シール剤の漏れ抑制機能を備えている。
【0031】
本実施形態のように、配線ユニット20に複数の電力線221と複数の信号線222が含まれている場合、モータ端子22aに位置ずれが生じると、接続作業が煩雑になる。しかし、本実施形態によれば、キャップ4により各モータ端子22aが位置決めされるため、配線ユニット20が別種の配線や複数の被覆部を有する場合でも、モータ端子22aとキャビティ91との接続作業は容易となる。
【0032】
また、配線ユニット20が複数の被覆部231、232を有する構成では、互いの被覆部231、232間に隙間(以下「第2内部隙間」ともいう)が生じる可能性がある。しかし、液状シール剤が被覆部23の端部に塗布されることで、第2内部隙間も埋められる。したがって、基板に対するシール性の向上が可能となる。また、第2内部隙間は、キャップ4の位置決め機能により、最小限(例えば両被覆部231、232が当接した状態)に維持することができる。
【0033】
また、本実施形態のキャップ4は、フランジ部42を有している。これにより、キャップ4を貫通孔31に圧入させる際、フランジ部42が段差面313又はハウジング3の端面に当接し、適切な位置で本体部41の進入を止めることができる。フランジ部42は、ストッパとして機能する。この構成によれば、キャップ4の組み付け作業が容易となる。
【0034】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、調圧装置6は、ポンプに限らず、電気モータ2で駆動する電動シリンダであってもよい。また、電気モータ2は例えばブラシモータであってもよく、配線ユニット20には電力線221のみが含まれてもよい。また、被覆部23は1つ(一体)であってもよい。また、フランジ部42はなくてもよい。また、端子挿通孔40の軸方向一端部は、軸方向一方に向かうほど通路断面積が大きくなるようにテーパ状に形成されていてもよい。これにより、モータ端子22aの端子挿通孔40への挿通作業は容易となる。また、シール部材5とキャップ4とは当接していなくてもよい。また、本体部41の圧入代の形成は、突起41aでなくてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…液圧制御装置、2…電気モータ、21…モータ本体部、22…導電部、221…電力線、222…信号線、22a…モータ端子、23…被覆部、231…第1被覆部、232…第2被覆部、3…ハウジング、31…貫通孔、4…キャップ、40…端子挿通孔、41…本体部、42…フランジ部、5…シール部材、9…基板、91…キャビティ。
図1
図2
図3