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特許7486056発泡成形用ポリアミド樹脂組成物および発泡成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】発泡成形用ポリアミド樹脂組成物および発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/02 20060101AFI20240510BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240510BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240510BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20240510BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240510BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20240510BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240510BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240510BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L77/02
C08K3/013
C08L23/26
C08L25/08
C08L77/06
C08J9/04 101
C08J9/04 CFG
B32B5/18
B32B27/20 Z
B32B27/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021526980
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024439
(87)【国際公開番号】W WO2020262314
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019120949
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信宏
(72)【発明者】
【氏名】梅木 亮
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/060392(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/02
C08K 3/013
C08L 23/26
C08L 25/08
C08L 77/06
C08J 9/04
B32B 5/18
B32B 27/20
B32B 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡成形用ポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物は、結晶性ポリアミド樹脂(A)40~70質量部、非結晶性ポリアミド樹脂(B)5~15質量部、無機強化材(C)15~50質量部、エラストマー(D)0.1~10質量部、およびポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)0.5~15質量部を含有し、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)、無機強化材(C)、エラストマー(D)、およびポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)の合計が100質量部であり、前記共重合体(E)の重量平均分子量が4000~25000であることを特徴とする発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記結晶性ポリアミド樹脂(A)がポリアミド6であり、前記非結晶性ポリアミド樹脂(B)がポリアミド6I/6Tである請求項1に記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記エラストマー(D)が酸変性したα―オレフィン系(共)重合体であり、前記ポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)がグリシジル基含有スチレン系共重合体である請求項1または2に記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
降温結晶化温度が190℃未満である請求項1~3のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物の温度が260℃でせん断速度が60.8sec-1のときの溶融粘度が550Pa・s以上であり、温度が260℃でせん断速度が608sec-1のときの溶融粘度が300Pa・s以下である請求項1~4のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物を構成成分とする発泡成形体。
【請求項7】
樹脂連続相と平均セル径10~300μmの独立した発泡セルから構成される発泡層と、該発泡層の両面に厚み200~500μmの非発泡スキン層が設けられたサンドイッチ構造を有し、該発泡層の樹脂連続相および該非発泡スキン層が、請求項1~5のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物からなり、該非発泡スキン層側から測定した光沢度が80以上である発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形用のポリアミド樹脂組成物に関するものであり、軽量で、高い耐荷重性、耐衝撃性、及び良外観性を有する発泡成形体を提供することができるポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂発泡成形体の製造方法としては、一般に化学発泡剤を用いる方法が知られている。化学発泡法は、原料樹脂と加熱により分解してガス発生する有機発泡剤とを混合し、該発泡剤の分解温度以上に加熱することにより発泡成形する方法である。例えば特許文献1においては、ポリアミド3元共重合体を用い、化学発泡剤によって比重1.2のポリアミド発泡成形体を得ている。しかし、このポリアミド発泡体は、発泡倍率が低く、軽量化を充分に満足させることはできなかった。
【0003】
また化学発泡剤を用いた方法以外のポリアミド樹脂発泡成形体の製造方法として、特許文献2では、あらかじめポリアミド成形体に二酸化炭素を吸収させ、後工程で加熱することによって2倍の発泡倍率でポリアミド発泡成形体を得る方法が提案されている。しかし、この方法で得られたポリアミド発泡成形体も、やはり充分に軽量化されているとは言えず、しかも成形工程と発泡工程が実質別工程となっているため、煩雑で生産性が悪いという欠点がある。
【0004】
さらに特許文献3では、窒素もしくは二酸化炭素の超臨界流体を溶融樹脂に溶解させて射出成形する発泡ポリアミド成形体の製造方法を開示している。しかし、この方法も発泡倍率は1.25と低く、充分な軽量化を実現できなかった。
【0005】
他方、特許文献4では、ポリスチレン樹脂を用いて平均セル径の微細な発泡成形体を得る方法が開示されているが、目的の発泡成形体を得るためには、一般的な射出成形機に加えて、特殊な射出プランジャーと特殊な射出装置とが別途必要であり、汎用性に欠けるという欠点がある。しかも、当該文献で報告されている発泡成形体は、既存の発泡成形法においても比較的発泡成形が容易なポリスチレン樹脂を用いたもののみであり、この方法を発泡成形が難しいポリアミド樹脂に適用したとしても、所望の発泡成形体を容易に得ることはできないのが実情であった。
【0006】
さらに特許文献5では、金型内に充填した溶融樹脂が冷却過程で一定の粘弾性状態になった時に、コア側金型を型開き方向に移動させるとともに金型内樹脂に臨界状態の不活性ガスを直接注入することにより発泡成形体を得る方法が提案されている。しかし、この方法では、固化速度の速い結晶性ポリアミドは適当な粘弾性状態を保持する時間が短いため、均一な発泡セルを形成するのは困難であった。
【0007】
上記を鑑みて、提案されたのが特許文献6であり、ポリアミド樹脂組成物の固化速度をコントロールし溶融時の線形-非線形領域における変形の緩和効果を増大させることを目指し、これを達成するには、ポリアミド樹脂とともに特定のグリシジル基含有スチレン系共重合体を所定の比率で含有させればよいことが提案されている。そして、かかる特定のグリシジル基含有スチレン系共重合体を含むポリアミド樹脂組成物を射出成形の原料に用いれば、耐熱性に優れかつ充分に軽量で高い耐荷重性を持つ発泡成形体が得られることが確認された。しかし、特許文献6での手法では、成形体表面の外観性能に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-249549号公報
【文献】特開2006-35687号公報
【文献】特開2005-126545号公報
【文献】特開2006-69215号公報
【文献】特開2006-212945号公報
【文献】特許05263370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討によれば、特許文献6での手法では、成形体表面の外観性能に課題、特に樹脂中に含まれたガスの存在が原因でスワールマークの発生、黒色の成形体の場合には表面が白っぽくなるなどの外観不良が出て、光沢度が下がるという新たな課題があることを見出した。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、外観性能が高く、耐荷重性、及び耐衝撃特性の高い、発泡成形体用のポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、ポリアミド樹脂組成物の固化速度をコントロールし、かつエラストマー成分を含むことで、発泡成形に適切な粘度をもち、かつ、外観性能が高く、耐荷重性、及び耐衝撃特性の高い、ポリアミド樹脂組成物を見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(1) 発泡成形用ポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物は、結晶性ポリアミド樹脂(A)40~70質量部、非結晶性ポリアミド樹脂(B)5~15質量部、無機強化材(C)15~50質量部、エラストマー(D)0.1~10質量部、およびポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)0.5~15質量部を含有し、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)、無機強化材(C)、エラストマー(D)、およびポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)の合計が100質量部であることを特徴とする発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
(2) 前記結晶性ポリアミド樹脂(A)がポリアミド6であり、前記非結晶性ポリアミド樹脂(B)がポリアミド6I/6Tである(1)に記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
(3) 前記エラストマー(D)が酸変性したα―オレフィン系(共)重合体であり、前記ポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)がグリシジル基含有スチレン系共重合体である(1)または(2)に記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
(4) 降温結晶化温度が190℃未満である請求項(1)~(3)のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
(5) 前記ポリアミド樹脂組成物の温度が260℃でせん断速度が60.8sec-1のときの溶融粘度が550Pa・s以上であり、温度が260℃でせん断速度が608sec-1のときの溶融粘度が300Pa・s以下である(1)~(4)のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物。
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物を構成成分とする発泡成形体。
(7) 樹脂連続相と平均セル径10~300μmの独立した発泡セルから構成される発泡層と、該発泡層の両面に厚み200~500μmの非発泡スキン層が設けられたサンドイッチ構造を有し、該発泡層の樹脂連続相および該非発泡スキン層が、(1)~(5)のいずれかに記載の発泡成形用ポリアミド樹脂組成物からなり、該非発泡スキン層側から測定した光沢度が80以上である発泡成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性に優れかつ充分に軽量で高い耐荷重性を持つ発泡成形体を簡便な成形方法で与えうるポリアミド樹脂組成物と、これを用いたポリアミド樹脂発泡成形体とを提供することができる。かかるポリアミド樹脂発泡成形体は、均一で発泡倍率が高い発泡構造を有し、優れた軽量性と耐荷重性を兼ね備え、黒色の成形体の場合には光沢度が良好な外観性能を有するものであるので、自動車部品や家電部品などの用途において、要求特性の高い樹脂機能部品や機能性を求められる意匠部品として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた発泡成形体について詳述する。
(ポリアミド樹脂組成物)
本発明のポリアミド樹脂組成物は、発泡成形に適したポリアミド樹脂組成物であって、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)、無機強化材(C)、エラストマー(D)、およびポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)を含有する。本発明のポリアミド樹脂組成物中の各成分の含有量(配合量)は、特に但し書きをしない限り、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)、無機強化材(C)、エラストマー(D)、およびポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)の合計が100質量部としたときの量で表す。また、本発明のポリアミド樹脂組成物においては、各成分の配合量が、そのままポリアミド樹脂組成物中の含有量になる。
【0015】
本発明において、ポリアミド樹脂の結晶性/非結晶性は、ポリアミド樹脂をJIS K 7121:2012に準じて昇温速度20℃/分でDSC測定した場合に、明確な融点ピークを示すものを結晶性、示さないものを非結晶性とする。
【0016】
(結晶性ポリアミド樹脂(A))
本発明で用いられる結晶性ポリアミド樹脂(A)は、ラクタムやω-アミノカルボン酸、ジカルボン酸及びジアミンなどを原料とするものであり、このようなアミン成分及び酸成分の重縮合によって得られるポリアミド樹脂、又はこれらの共重合体やブレンド物である。
【0017】
具体的には、結晶性ポリアミド樹脂(A)を構成するアミン成分としては、例えば、1,2-エチレンジアミン、1,3-トリメチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、1,18-オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン;ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタン、ビス-(4,4’-アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン;メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらの水添物;等が挙げられる。
【0018】
結晶性ポリアミド樹脂(A)を構成する酸成分としては、多価カルボン酸や酸無水物が挙げられる。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11-ウンデカン二酸、1,12-ドデカン二酸、1,14-テトラデカン二酸、1,18-オクタデカン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸;等が挙げられる。
【0019】
また、結晶性ポリアミド樹脂(A)を構成する成分としては、ε-カプロラクタムなどのラクタムおよびこれらが開環した構造であるアミノカルボン酸、ウンデカンラクタム、又はラウリルラクタムおよびこれらが開環した構造である11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸なども挙げられる。
【0020】
これらの成分より重合されるポリアミド樹脂(A)としては、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリウンデカミド(ポリアミド11)、ポリラウラミド(ポリアミド12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ポリアミド410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンセバカミド(ポリアミド1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM-5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド・ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6T6I)、ポリビス(3-メチル-4-アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACM・I)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンテトラデカミド(ポリアミドPACM14)などのポリアミドのほか、これらポリアミド群の共重合体および/もしくはこれらのブレンド組成物が挙げられる。
【0021】
結晶性ポリアミド樹脂(A)としては、自動車用途や家電用途などに必要とされる要求特性や樹脂の成形条件により、ポリアミド6および/またはポリアミド66であることが好ましく、後述の非結晶性ポリアミド樹脂による結晶化速度のコントロールの効果の大きさにより、ポリアミド6であることがより好ましい。
【0022】
結晶性ポリアミド樹脂(A)の96%濃硫酸中20℃で測定した相対粘度(RV)は、特に限定されないが、0.4~4.0が好ましく、より好ましくは1.0~3.5、さらに好ましくは1.5~3.0である。ポリアミドの相対粘度を一定範囲とする方法としては、分子量を調整する手段が挙げられる。
【0023】
結晶性ポリアミド樹脂(A)の含有量(配合量)は、40~70質量部であり、50~70質量部が好ましい。結晶性ポリアミド樹脂(A)の含有量がこの範囲にあることで、ポリアミド樹脂以外の成分が含まれていても、射出成形機の温度設定、速度設定、ならびに金型温度の設定により、良好な成形性が担保される。
【0024】
(非結晶性ポリアミド樹脂(B))
非結晶性ポリアミド樹脂(B)は、ガラス転移温度が120℃以上、200℃以下の半芳香族ポリアミド樹脂が好ましい。ガラス転移温度が120℃未満であれば、耐熱性が不充分となる虞があり、ガラス転移点が200℃を超えると固化温度が高すぎるため後述する金型を拡張する発泡法が適用しにくくなる。
【0025】
非結晶性の半芳香族ポリアミド樹脂について説明する。ジアミン成分又はジカルボン酸成分のいずれかに芳香族成分を含む半芳香族非結晶性ポリアミド樹脂である。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などが挙げられ、ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、アミノエチルピペラジン、ビスアミノメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中で、イソフタル酸とテレフタル酸とアジピン酸を原料とするポリアミド6I/6Tが、後述のポリアミド樹脂組成物の結晶化速度のコントロール、すなわち固化速度のコントロールのために用いるのに好ましい。
【0026】
非結晶性ポリアミド樹脂(B)の96%濃硫酸中20℃で測定した相対粘度(RV)は、特に限定されるものではないが、好ましい範囲は1.8~2.4である。
【0027】
非結晶性ポリアミド樹脂(B)の含有量(配合量)は、5~15質量部であり、7~13質量部が好ましい。非結晶性ポリアミド樹脂(B)の含有量がこの範囲にあることで、良好な成形性を担保し、かつ最適な結晶化速度の低下効果を引き出すことができる。
【0028】
結晶性ポリアミド樹脂(A)および非結晶性ポリアミド樹脂(B)の酸価およびアミン価としては、いずれも0~200当量/1×10gが好ましく、0~100当量/1×10gであることがより好ましい。末端官能基が200当量/1×10gを超えると、溶融滞留時にゲル化や劣化が生じやすくなるだけでなく、使用環境下においても、着色や加水分解等の問題を引き起こす虞がある。特に、ガラスファイバーやマレイン酸変性ポリオレフィンなどの反応性化合物をコンパウンドする際は、反応性および反応基に合わせ、酸価および/またはアミン価を5~100当量/1×10gとすることが好ましい。
【0029】
(無機強化材(C))
本発明で用いられる無機強化材(C)は、強度や剛性および耐熱性等の物性を最も効果的に改良するものである。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ジルコニヤ繊維等の繊維状のもの、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム等のウイスカー類、針状ワラストナイト、ミルドフファイバー等を挙げることができる。またこれらのほか、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、マイカ、アルミナ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、グラファイト、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、赤燐、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、層間剥離を目的として有機処理を施した層状ケイ酸塩等の充填材も無機強化材(C)として用いることができる。これらの中でも、ガラス繊維、炭素繊維などが好ましく用いられ、特にガラス繊維が好ましい。これら無機強化材(C)は、1種のみであってもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
【0030】
例えばガラス繊維としては、繊維長1~20mm程度に切断されたチョップドストランド状のものが好ましく使用できる。ガラス繊維の断面形状としては、円形断面や非円形断面のガラス繊維を用いることができる。非円形断面のガラス繊維としては、繊維長の長さ方向に対して垂直な断面において、略楕円形、略長円形、略繭形であるものをも含み、その場合偏平度が1.5~8であることが好ましい。ここで偏平度とは、ガラス繊維の長手方向に対して垂直な断面に外接する最小面積の長方形を想定し、この長方形の長辺の長さを長径とし、短辺の長さを短径としたときの、長径/短径の比である。ガラス繊維の太さは特に限定されるものではないが、短径が1~20μm、長径2~100μm程度である
【0031】
無機強化材(C)は、結晶性ポリアミド樹脂(A)との親和性を向上させるため、有機シラン系化合物、有機チタン系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ系化合物等のカップリング剤で予め処理をしてあるものが好ましく、カルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基と反応しやすいものが特に好ましい。カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等のいずれを使用しても良いが、その中でも特に、アミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤などのシラン系カップリング剤が好ましい。例えばカップリング剤で処理してあるガラス繊維を配合したポリアミド樹脂組成物では機械的特性や外観特性に優れた成形品が得られるので好ましい。なお、カップリング剤による処理は、予め行うことが好ましいが、カップリング剤を後添加して使用することもできる。
【0032】
無機強化材(C)の含有量(配合量)は、15~50質量部であり、15~40質量部が好ましく、18~35質量部がより好ましい。無機強化材(C)の含有量がこの範囲にあることで、汎用のガラス繊維を用いても樹脂への補強効果を生み出し、かつ射出成形時の温度設定、射出速度設定、ならびに金型温度の設定により、良好な成形条件を担保することができる。
【0033】
(エラストマー(D))
本発明において、エラストマー(D)は、ポリアミド樹脂組成物の増粘効果促進のために用いられる。ポリアミド樹脂組成物の粘度が適切でない場合には、樹脂中に含まれているガスの存在により、発泡セルの破れや、成形品の表面にスワールマークなど、外観不良が生じ、光沢度が下がることがある。エラストマー(D)としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー等の公知のエラストマーが使用可能である。中でも、カルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を有するオレフィン系重合体(酸変性ポリオレフィン)が好ましい。この酸変性ポリオレフィンは、カルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を有する単量体を共重合やグラフト重合などによって未変性ポリオレフィンの分子鎖中に結合させたα-オレフィン(共)重合体である。
【0034】
上述したオレフィン系重合体を得る際に用いることのできる未変性ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリメチルペンテンなどのホモポリマーのほか、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、イソブチレンなどのα-オレフィン、1,4-ヘキサジエンジシクロペンタジエン、2,5-ノルボルナジエン、5-エチリデンノルボルネン、5-エチル-2,5-ノルボルナジエン、5-(1’-プロぺニル)-2-ノルボルネンなどの非共役ジエンの少なくとも1種を通常の金属触媒あるいはメタロセン系高性能触媒等を用いてラジカル重合して得られるポリオレフィンを挙げられる。具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン-1共重合体、エチレン/ヘキセン-1共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン/プロピレン/5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、未水添または水添ポリブタジエン、未水添または水添スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体、未水添または水添スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体などが挙げられる。これらのうちジエン系エラストマーとしては、ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエンとからなるA-B型またはA-B-A’型のブロック共重合弾性体であり、末端ブロックAおよびA’は同一でも異なってもよく、かつ芳香族部分が単環でも多環でもよいビニル系芳香族炭化水素から誘導された熱可塑性単独重合体または共重合体が挙げられ、かかるビニル系芳香族炭化水素の例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、エチルビニルキシレン、ビニルナフタレンおよびそれらの混合物などが挙げられる。中間重合体ブロックBは共役ジエン系炭化水素からなり、例えば1,3-ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンおよびそれらの混合物から誘導された重合体などが挙げられる。また上記ブロック共重合体の中間重合体ブロックBが水添処理を受けたものも用いることができる。
【0035】
未変性ポリオレフィンにカルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を導入する方法としては、特に制限はなく、共重合や未変性ポリオレフィンにラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。これらの官能基含有成分の導入量は、共重合の場合は、変性ポリオレフィン中のオレフィンモノマー全体に対して0.1~20モル%が好ましく、より好ましくは0.5~12モル%の範囲内がよく、グラフトの場合は、変性ポリオレフィン質量に対して0.1~10質量%が好ましく、より好ましくは0.5~6質量%の範囲内がよい。官能基含有成分の導入量が少なすぎると、後述するポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)の反応促進効果が充分に得られない場合や耐衝撃性が充分に付与されない場合があり、逆に多すぎると、溶融粘度の安定性が損なわれる虞がある。
【0036】
エラストマー(D)としては、酸変性したα―オレフィン系(共)重合体が好ましい。ここで、「(共)重合体」は、重合体または共重合体を表す。なお、α―オレフィン系共重合体には、α―オレフィンを共重合したスチレン系共重合体(スチレン系エラストマー)も含む。具体例としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体、およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-無水マレイン酸共重合体(ここで「-g-」はグラフトを表わす(以下同じ))、エチレン/メタクリル酸メチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1,4-ヘキサジエン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/2,5-ノルボルナジエン-g-無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン-g-無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/イソプレン/スチレン-g-無水マレイン酸共重合体などを挙げることができる。これらの中でも、ポリアミド樹脂組成物の増粘促進の効果の理由から、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体または水添スチレン/ブタジエン/スチレン-g-無水マレイン酸共重合体が好ましく、さらには射出成形時の流動性の観点から、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体がより好ましい。
【0037】
エラストマー(D)の含有量(配合量)は、0.1~10質量部であり、好ましくは、0.5~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部である。エラストマー(D)が0.1質量部未満の場合、耐衝撃性に優れず、必要な溶融粘度を達成できない。逆に10質量部を超えて含有した場合、高せん断領域での粘度が上昇し、成形性に問題が発生する。
【0038】
(ポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E))
本発明で用いられるポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)(以降、省略して共重合体(E)と称することがある)としては、ポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する各種共重合体であって、前記のエラストマー(D)とは異なる共重合体を用いることができる。ポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基としては、グリシジル基(エポキシ基)、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基などが上げられるが、中でもグリシジル基(エポキシ基)が好ましい。本発明では、共重合体(E)を含有させることにより、分子量を増加させて溶融伸張粘度増大効果を発現させることにより、加工条件管理幅を広げ、その結果、耐熱性とともに優れた軽量性および耐荷重性を有する発泡成形体を得るという所期の目的を達成することができるのである。
【0039】
共重合体(E)としては、グリシジル基含有スチレン系共重合体が好ましく用いられる。グリシジル基含有スチレン系共重合体としては、例えば、(X)ビニル芳香族モノマーと、(Y)グリシジルアルキル(メタ)アクリレートと、必要に応じて(Z)エポキシ基を含有していない前記(X)以外のビニル基含有モノマー(以下「その他のビニル基含有モノマー」と称する)とを含有する単量体混合物を重合して得られるものを用いることができる。
【0040】
(X)ビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。(Y)グリシジルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルやシクロヘキセンオキシド構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらの中でも、反応性の高い点で(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。(Z)その他のビニル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル等の炭素数が1~22のアルキル基(アルキル基は直鎖、分岐鎖でもよい)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、(メタ)アクリル酸フェノキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシシリルアルキルエステル等が挙げられる。また(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジアルキルアミド、酢酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルエーテル類、(メタ)アリルエーテル類等の芳香族系ビニル系単量体、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンモノマーなどもその他のビニル基含有モノマーとして使用可能である。
【0041】
共重合体(E)は、(X)20~99質量%のビニル芳香族モノマー、(Y)1~80質量%のグリシジルアルキル(メタ)アクリレート、および(Z)0~79質量%のその他のビニル基含有モノマーからなる共重合体であることが好ましい。より好ましくは(X)が20~99質量%、(Y)が1~80質量%、(Z)が0~40質量%からなる共重合体であり、さらに好ましくは(X)が25~90質量%、(Y)が10~75質量%、(Z)が0~35質量%からなる共重合体である。これらの組成は、結晶性ポリアミド樹脂(A)および/または非結晶性ポリアミド樹脂(B)との反応に寄与する官能基濃度に影響するため、前記範囲に適切に制御することが好ましい。
【0042】
共重合体(E)の具体例としては、例えば、スチレン/メチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート共重合体、ビスフェノールA型やクレゾールノボラック、フェノールノボラック型のエポキシ系化合物等が挙げられる。共重合体(E)は、1種のみであっても良いし、2種以上を混合して使用することももちろん可能である。
【0043】
共重合体(E)は、ポリアミド樹脂の持つアミノ基あるいはカルボキシル基と反応し得る官能基として、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有することが重要である。これにより、速やかに樹脂全体に一部架橋を導入することができ、溶融押出時においてポリアミド樹脂の持つアミノ基あるいはカルボキシル基と共重合体(E)の官能基との反応により一部が架橋生成物となり、溶融伸張粘度向上効果を得ることができるのである。
【0044】
共重合体(E)は、溶融伸張粘度調整が可能であるように制御するために、重量平均分子量が4000~25000であることが好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは5000~15000、さらに好ましくは6000~10000である。共重合体(E)の重量平均分子量が4000未満であると、未反応のグリシジル基含有スチレン系共重合体が成形工程で揮発し、もしくは成形品表面にブリードアウトし、製品の接着性低下、表面の汚染をひきおこす可能性がある。さらに共重合体(E)同士の過剰な反応による焼けゴミが生成し、混練時の生産性低下や最終製品の品質低下に繋がる。一方、共重合体(E)の重量平均分子量が25000を超えると、混練押出時の反応が遅くなって分子量保持の効果が下がるだけでなく、共重合体(E)とポリアミド樹脂との相溶性が悪くなる為、ポリアミド樹脂が本来持つ耐熱性等の耐久性が低下する可能性が大きくなる。
【0045】
共重合体(E)の含有量(配合量)は、0.5~15質量部である。好ましくは0.5~5質量部である。0.5質量部未満であると、増粘の効果が十分に得られず、発泡のセルが均一とならない。15質量部を超えると、増粘効果が過剰となり成形が困難となり、良外観の発泡成形品を得ることができなくなる。
【0046】
(その他の成分)
本発明のポリアミド樹脂組成物には、前述のもの以外に、ポリアミド樹脂に従来から使用されている各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、安定剤、衝撃改良材、難燃剤、離型剤、摺動性改良材、着色剤、可塑剤、結晶核剤などが挙げられる。また添加剤として、金型等の金属腐食を防止する目的でハイドロタルサイト系化合物を用いることもできる。添加剤は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0047】
安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ホスファイト化合物、チオエーテル系化合物などの有機系酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系等の光安定剤や紫外線吸収剤、金属不活性化剤などが挙げられる。また熱安定剤の一つとして、銅化合物が、120℃以上の高温環境下で有効な長期熱老化を防止しうるので有用である。さらにこの銅化合物は、ハロゲン化アルカリ金属化合物と併用することが好ましい。安定剤を含有させる場合、その含有量は、0~5質量部とするのが好ましい。特に安定剤が銅化合物の場合には、0.005~0.5質量部が好ましく、より好ましくは0.01~0.5質量部である。
【0048】
難燃剤としては、特に制限されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物の組み合わせが好ましい。また、難燃剤として非ハロゲン系難燃剤を用いることもでき、具体的には、メラミンシアヌレート、赤リン、ホスフィン酸の金属塩、含窒素リン酸系の化合物などが挙げられる。特に、ホスフィン酸金属塩と含窒素リン酸系化合物(例えばメラミンのほか、メラム、メロンのようなメラミンの縮合物とポリリン酸の反応生成物またはそれらの混合物を含む)との組み合わせが好ましい。難燃剤を含有させる場合、その含有量は、1~50質量部とするのが好ましく、より好ましくは1~40質量部、さらに好ましくは1~30質量部である。
【0049】
離型剤としては、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上のものが好ましく、例えばステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられ、これらは部分的もしくは全カルボン酸がモノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していてもよい。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミドなどが挙げられる。離型剤は1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。離型剤を含有させる場合、その含有量は、0.1~5質量部とするのが好ましい。
【0050】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)以外の他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。該熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリサルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート(PC)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリル酸メチル、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等が挙げられる。これら他の熱可塑性樹脂と、結晶性ポリアミド樹脂(A)および非結晶性ポリアミド樹脂(B)との相溶性が低い場合には、必要に応じて、反応性化合物やブロックポリマー等の相溶化剤を添加したり、他の熱可塑性樹脂を変性(特に酸変性が好ましい)すればよい。他の熱可塑性樹脂は、溶融混練により溶融状態でブレンドしてもよいし、他の熱可塑性樹脂を繊維状や粒子状に成形し、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)中に分散してもよい。他の熱可塑性樹脂を含有する場合、その含有量は、1~50質量部とするのが好ましく、より好ましくは1~35質量部、さらに好ましくは1~20質量部である。
【0051】
なお、本発明のポリアミド樹脂組成物においては、上述した任意の含有成分のいずれかとして、結晶性ポリアミド樹脂(A)および非結晶性ポリアミド樹脂(B)のアミノ基あるいはカルボキシル基と反応する置換基を有する化合物や重合体等を用いることにより、かかる反応性の置換基を導入し、架橋度を上げるようにしてもよい。反応性の置換基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシル基、カルボン酸金属塩、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボジイミド基等の官能基や、ラクトン、ラクチド、ラクタム等のポリエステル末端と開環付加しうる官能基等が挙げられ、これらの中でもグリシジル基あるいはカルボジイミド基が反応の速さの観点で好ましい。このような置換基は1種のみであってもよいし2種以上であってもよく、また1分子中に異なった種類の官能基を持つことも差し支えない。なお、反応性の置換基を導入する場合、その導入量は、高度架橋によりゲル等が発生しない範囲とするのがよい。
【0052】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、該ポリアミド樹脂組成物中、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)、無機強化材(C)、エラストマー(D)、およびポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)の合計で、70質量%以上を占めることが好ましく、80質量%以上を占めることがより好ましく、90質量%以上を占めることがさらに好ましく、95質量%以上を占めることが特に好ましい。
【0053】
(ポリアミド樹脂組成物の製造方法)
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、ポリアミド樹脂の末端基と反応する共重合体(E)の反応によってゲルには至らない比較的ゆるやかな架橋や分岐構造が生成する。このためポリアミド樹脂組成物の溶融状態において分子の絡み合い効果を増大させうることができる。この反応生成物は溶融粘度を増大させるだけでなく、溶融状態でひずみを与えられた場合、長時間緩和成分として広いせん断速度領域において緩和挙動を遅くする効果を発現すると考えられる。具体的には、ポリアミド樹脂や共重合体(E)、無機強化材(C)ならびにエラストマー(D)の種類および量にもよるが、好ましくは本発明で示される(A)~(E)の各成分の含有量の範囲とし、ポリアミド樹脂と共重合体(E)との反応に必要な時間、マトリクス組成物に充分に高いせん断応力をかけうるような押出機スクリュー構成、温度設定、スクリュー回転数、時間当たり押し出し量などのコンパウンド条件を選定すればよい。
【0054】
本発明のポリアミド樹脂組成物を調製するにあたり、結晶性ポリアミド樹脂(A)、非結晶性ポリアミド樹脂(B)、無機強化材(C)、エラストマー(D)、および共重合体(E)や、その他の任意成分を混合する方法は特に制限されない。例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダ、バンバリーミキサ等を使用できる。これらの中でも特に二軸押出機は好ましく用いられる。二軸押出機の運転条件等は、ポリアミド樹脂の種類、各含有成分の種類や量など種々の要因により異なり一義的に決められないが、例えば、運転温度は、ポリアミド樹脂の融点(一般に270~320℃程度)+25℃前後で設定すればよい。運転時間は10分間以内、例えば1分から数分間で充分目的とする溶融粘度に到達すると考えてよい。押出機のスクリュー構成は、練りの優れるニーディングディスクを数箇所組み込むことが好ましい。
【0055】
(ポリアミド樹脂組成物の特性)
かくして得られた本発明のポリアミド樹脂組成物は、溶融状態における粘度安定性が高く、特に発泡成形に適した溶融レオロジー特性を有している。
【0056】
本発明のポリアミド樹脂組成物の溶融粘度としては、温度が260℃でせん断速度が60.8sec-1のときの溶融粘度が550Pa・s以上であり、温度が260℃でせん断速度が608sec-1のときの溶融粘度が300Pa・s以下となる。せん断速度が60.8sec-1のときの溶融粘度が550Pa・s未満の場合、発泡成形時のセルが破れる可能性が高く、またせん断速度が608sec-1のときの溶融粘度が300Pa・sより高い場合、粘度が高くなり過ぎ、成形性に問題が発生する。せん断速度が60.8sec-1のときの溶融粘度の上限は、1200Pa・sであることが好ましく、1000Pa・sであることがより好ましく、750Pa・sであることがさらに好ましい。せん断速度が608sec-1のときの溶融粘度の下限は、200Pa・sであることが好ましい。
【0057】
本発明のポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度は、190℃未満である。ポリアミド樹脂組成物の固化速度をコントロールとは、結晶化速度の低下を指す。結晶化速度の低下効果は、示差走査熱量計(DSC)で測定した降温時結晶化温度(Tc2)で評価することができる。特許文献6では、ポリアミド樹脂組成物としては200℃以下であることが好ましく、さらに190℃以下であることが特に好ましいとされていたが、さらなる発泡成形品の外観の改善のためには、190℃未満であることが重要であり、180℃以上190℃未満であることが好ましい。180℃未満となると、結晶化に時間が掛かり、成形不良を引き起こす可能性が高くなる。
【0058】
(発泡成形体)
本発明の発泡成形体は、上述した本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて得られたものである。かかる本発明の発泡成形体は、表層に存在する非発泡スキン層と内層に存在する発泡層とを備えており、これら非発泡スキン層及び発泡層は上述した本発明のポリアミド樹脂組成物で形成されているので、均一なセル状態の発泡構造を有し、優れた軽量性と耐荷重性を発現できる。
【0059】
発泡層は、樹脂連続相と独立した発泡セルとから構成される。ここで、発泡セル径は平均して、物理発泡の場合10~100μm、化学発泡の場合10~300μmとなる。樹脂連続相とは、硬化したポリアミド樹脂組成物で形成される空洞を持たない部分を意味する。発泡セルの径(セル径)は、均一でばらつきがない限り小さい場合であっても大きい場合であっても夫々異なる特性を発現するので、いずれの場合も有用である。例えば、平均セル径が小さい場合には同重量でより高い剛性を発現することができ、平均セル径が大きい場合はクッション性や破壊における適当なエネルギー吸収特性を得ることができる。しかし、非発泡スキン層の厚み以上の平均セル径を持つ発泡構造体は、耐荷重面で不利となるので、発泡セルの平均セル径は、非発泡スキン層の厚み未満であるのがよい。具体的には、平均セル径は物理発泡の場合、上記のように10~100μmが好ましく、より好ましくは20~90μmである。平均セル径が10μm未満である場合、成形体の内圧が低く非発泡スキン層形成時の圧力が不足し、ヒケ等の外観が悪くなる虞がある。逆に、外圧によってセルが成長できなかった結果である場合も考えられるが、この場合はセル成長が抑えられすぎて目的の低比重構造体が得られない可能性があるため好ましくない。一方、平均セル径が100μmを超える場合、耐荷重性が低く、数μm~数100μmスケールの無機強化材(C)の補強効果もほぼ期待できないため、好ましくない。平均セル径が前記範囲であると、非発泡スキン層に成形体内部より適当な圧力を与えることができ、かつセルの成長を阻害しない外圧で成形できる。
【0060】
非発泡スキン層は、発泡層に積層されており、厚みが200~500μmであることが好ましい。非発泡スキン層の厚みが200μm未満である場合、良好な外観が得られない傾向があり、一方、500μmを超えると、発泡層の比重が低くなりすぎるため、発泡成形体全体として比重0.2~1.0である発泡構造体を均一なセル状態で得られない虞がある。より好ましくは非発泡スキン層の厚みは200~400μm、さらに好ましくは250~400μmである。
【0061】
本発明の発泡成形体は、通常、発泡層の両面に非発泡スキン層が設けられたサンドイッチ構造(換言すれば、発泡層が両面から非発泡スキン層に挟まれた構造)を有するものとなる。発泡成形体のサイズに関しては、特に制限は無いが、サンドイッチ構造の厚み方向は、1~30mm程度が想定される。
【0062】
本発明の発泡成形体の比重は、0.2~1.0であることが好ましい。一般的な非強化ポリアミド、無機強化ポリアミドの比重は凡そ1.0~1.8前後であるから、本発明の発泡成形体は充分に軽量化されていると言える。より好ましくは0.3~0.9である。比重が0.2未満では、耐荷重構造体としての機械特性が低くなりすぎる傾向があり、1.0を超えると、充分な軽量化が達成されたとは言えない。
【0063】
本発明の発泡成形体の表面外観は、非常に良好であり、JIS Z-8714に準じて入射角85度の光沢度を発泡成形体表面にて測定した場合、80以上を満足することができる(数値が高い程、光沢度が良いことを表す)。
【0064】
(発泡成形体の製造方法)
本発明の発泡成形体を得る際に用いることのできる発泡剤は、発泡核となるガス成分もしくはその発生源として成形機の樹脂溶融ゾーンで溶融している樹脂に添加するものである。
【0065】
具体的には、化学発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム及び重炭酸ソーダ等の無機化合物、並びにアゾ化合物、スルホヒドラジド化合物、ニトロソ化合物、アジド化合物等の有機化合物等が使用できる。アゾ化合物としては、ジアゾカルボンアミド(ADCA)、2,2-アゾイソブチロニトリル、アゾヘキサヒドロベンゾニトリル、ジアゾアミノベンゼン等が挙げられ、これらの中でも、ADCAが好まれて活用されている。スルホヒドラジド化合物としては、ベンゼンスルホヒドラジド、ベンゼン1,3-ジスルホヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3-ジスルホンヒドラジド、ジフェニルオキシド-4,4-ジスルホンヒドラジド等が挙げられる。ニトロソ化合物としては、N,N-ジニトロソペンタエチレンテトラミン(DNPT)、N,N-ジメチルテレフタレート等が挙げられる。アジド化合物としては、テレフタルアジド、P-第三ブチルベンズアジド等が挙げられる。
【0066】
発泡剤として化学発泡剤を用いる場合、化学発泡剤は、ポリアミド樹脂(A)に均一に分散させるために、当該化学発泡剤の分解温度よりも融点が低い熱可塑性樹脂をベース材とした発泡剤マスターバッチとして使用することもできる。ベース材となる熱可塑性樹脂は、化学発泡剤の分解温度より低い融点であれば特に制限なく、例えばポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。この場合、化学発泡剤と熱可塑性樹脂との配合比率は、熱可塑性樹脂100質量部に対して化学発泡剤が10~100質量部であるのが好ましい。化学発泡剤が10質量部未満の場合はポリアミド樹脂(A)に混合するマスターバッチの量が多くなりすぎて物性低下を招く虞があり、100質量部を超えると化学発泡剤の分散性の問題よりマスターバッチ化が困難になる。
【0067】
発泡剤として超臨界状態の二酸化炭素および/または窒素を用いる場合、それらの量は、ポリアミド樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して0.05~30質量部、さらに好ましくは0.1~20質量部であることが好ましい。超臨界状態の二酸化炭素および/または窒素が、0.05質量部未満であると均一かつ微細な発泡セルが得られにくくなり、30質量部を超えると成形体表面の外観が損なわれる傾向がある。
【0068】
なお、発泡剤として用いられる超臨界状態の二酸化炭素または窒素は単独で使用できるが、二酸化炭素と窒素を混合して使用してもよい。ポリアミドに対して窒素はより微細なセルを形成するのに適している傾向があり、二酸化炭素はよりガスの注入量を比較的多くできるためより高い発泡倍率を得るのに適している。したがって、超臨界状態の二酸化炭素または窒素は発泡構造体の状態に応じて任意で混合してもよい。二酸化炭素と窒素とを混合する場合の混合比率は、モル比で1:9~9:1の範囲であることが好ましい。
【0069】
溶融状態のポリアミド樹脂組成物を発泡剤とともにキャビティ内に射出するには、射出成形機内で溶融状態のポリアミド樹脂組成物と発泡剤とを混合すればよい。特に、発泡剤として超臨界状態の二酸化炭素および/または窒素を用いる場合には、例えばガスボンベから気体状態の二酸化炭素および/または窒素を直接あるいは昇圧ポンプで加圧して射出成形機内に注入する方法、液体状態の二酸化炭素および/または窒素をプランジャーポンプで射出成形機内に注入する方法等が採用できる。これらの二酸化炭素および/または窒素は、溶融状態のポリアミド樹脂組成物中への溶解性、浸透性、拡散性の観点から、成形機内部で超臨界状態となっている必要がある。
【0070】
ここで、超臨界状態とは、気相と液相とを生じている物質の温度および圧力を上昇させていくに際し、ある温度域および圧力域で前記気相と液相との区別をなくし得る状態のことをいい、この時の温度、圧力を臨界温度、臨界圧力という。すなわち超臨界状態において物質は気体と液体の両方の特性を併せ持つので、この状態で生じる流体を臨界流体という。このような臨界流体は気体に比べて密度が大きく、液体に比べて粘性が小さいため、物質中を極めて拡散し易いという特性を有する。ちなみに、二酸化炭素は、臨界温度が31.2℃、臨界圧力が7.38MPaであり、窒素は、臨界温度が52.2℃、臨界圧力が3.4MPaであり、この臨界温度以上、臨界圧力以上で超臨界状態となって臨界流体としての挙動を取るようになる。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0072】
<表面外観:目視>
得られた発泡成形体の表面外観(非発泡スキン層側)を確認し、目視にて、表面にガス浮き模様が確認されなければ「○」、表面にガス浮き模様が確認されれば「×」とした。
【0073】
<表面外観:光沢度>
JIS Z-8714に準じて、得られた発泡成形体の表面(非発泡スキン層側)において、入射角85度の光沢度を測定した。
【0074】
<平均セル径、セルの均一性>
まず、可視光硬化型樹脂に包埋後に研磨して発泡断面を露出させるか、あるいは、予めノッチをつけて破壊によって発泡断面が露出するように調製した成形体を液体窒素に10分間浸漬した後に衝撃破壊して発泡断面を露出させることにより、断面観察用サンプルを得た。
【0075】
平均セル径は、走査型電子顕微鏡により撮影した上記断面観察用サンプルの発泡断面の写真を画像処理し、少なくとも100個の隣接するセルの円相当径をセル径とし、それらの100個の平均値を求め、これを任意の三箇所において行い、三箇所で得られた3つの平均値を平均した値を平均セル径とした。
【0076】
セルの均一性は、走査型電子顕微鏡により撮影した上記断面観察用サンプルの発泡断面の写真を画像処理し、少なくとも20個の隣接するセルを含む500μm~2000μm四方の任意の箇所三点において、平均セル径が300μm以下であり、かつ600μm以上の長さ連続性を持つ空洞がない場合は「○」、それ以外を「×」とした。
【0077】
<スキン層厚み>
可視光硬化型樹脂に包埋後に研磨して発泡断面を露出させるか、あるいは、予めノッチをつけて破壊によって発泡断面が露出するように調製した成形体を液体窒素に10分間浸漬した後に衝撃破壊して発泡断面を露出させることにより、断面観察用サンプルを得た。そして、走査型電子顕微鏡により撮影した上記断面観察用サンプルの発泡断面の写真を画像処理し、表層部分に観られる一体化した非発泡層の厚みをスキン層厚みとして測定した。
【0078】
<結晶化温度>
105℃で15時間減圧乾燥した試料(ポリアミド樹脂組成物)をアルミニウム製パン(TA Instruments社製「品番900793.901」)に5mg量り取り、アルミニウム製蓋(TA Instruments社製「品番900794.901」)で密封状態にした後、示差走査熱量計(TA Instruments製「DSCQ100」)を用いて室温から265℃まで20℃/分で昇温し、その後室温まで20℃/分で降温させ、その際の発熱ピーク温度を結晶化温度(Tc2)とした。
【0079】
<溶融粘度>
キャピラリーフローテスターを用いて、温度が260℃、せん断速度が60.8sec-1、温度が260℃、せん断速度が608sec-1のときの溶融粘度を測定した。なお、キャピラリーは長さが10mm、直径1mmのものを使用した。
【0080】
各実施例および比較例においては、以下の原料を用いた。
<結晶性ポリアミド樹脂(A)>
ポリアミド6;Shenma製「TP-4208」、相対粘度2.6
<非結晶性ポリアミド樹脂(B)>
ポリアミド6I/6T;EMS社製「グリボリーG21」、相対粘度2.1
<無機強化材(C)>
ガラス繊維;日東紡株式会社製「CS3PE453」
【0081】
<エラストマー(D)>
無水マレイン酸変性エチレン・α―オレフィン系共重合体;三井化学株式会社製「MH5020」、α―オレフィンはブテン-1、酸無水物基含有量100μmol/g
無水マレイン酸変性エチレン・α―オレフィン系共重合体;三井化学株式会社製「MH7020」、α―オレフィンはブテン-1、酸無水物基含有量100μmol/g
無水マレイン酸変性スチレン系共重合体;旭化成株式会社製「M1943」、スチレン/エチレン・ブチレン比=20/80、酸価:10mgCHONa/g
【0082】
<ポリアミド樹脂の末端基と反応する官能基を有する共重合体(E)>
グリシジル基含有スチレン系共重合体;東亞合成株式会社製アルフォン「UG4050」、スチレン/グリシジルアクリレート共重合体
【0083】
<その他の添加剤>
安定剤:ソンウォンインターナショナルジャパン「SONGNOX2450」
離型剤:クラリアントジャパン社製「モンタン酸エステルワックスWE40」
黒顔料:日本ピグメント株式会社製「EX3236」
【0084】
(実施例1~9、比較例1~6)
上述した各原料(A)~(E)の配合量(質量部)は表1に示す通りとし、その他の添加剤の配合量については各実施例・比較例とも、安定剤が0.3質量部、離型剤が0.3質量部、黒顔料が1.0質量部とし、これらを35φ二軸押出機(東芝機械社製)にて混合した。詳しくは、まず無機強化材(C)以外の原料をスクリュー回転数100rpmにてホッパーより同時に投入して溶融混練した後、無機強化材(C)をサイドフィードで投入した。このとき、シリンダ温度は250℃に設定した。押出機から吐出されたストランドを水槽で冷却した後、ストランドカッターでペレット化し、125℃で5時間乾燥することにより、ポリアミド樹脂組成物をペレットとして得た。
【0085】
次に、上記で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて上述した金型拡張法にて発泡成形体を作製した。金型としては、型締めすると幅50mm、長さ150mm、厚み2mmのキャビティを形成することのできる固定用金型と稼動用金型からなる平板作成用の金型を用いた。具体的には、金型の型締め力が1800kN、口径42mm、L/D=30のスクリューを持つ電動射出成形機の可塑化領域で、窒素を超臨界状態でポリアミド樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して0.2質量部注入し、表面温度40~60℃(この間で最適条件を選定した)に温調された金型に射出充填後、可動用金型を型開き方向へ、コアバック量3mmだけ移動させることにより、キャビティの容積を拡大させて、発泡成形体を得た。このとき、射出完了からコアバック開始までの遅延時間は0秒~0.5秒とし(この間で最適条件を選定した)、稼動用金型の移動速度(コアバック速度)は、コアバックの距離が0mmから0.5mmまでの間は2~10mm/秒の範囲の任意速度(この間で最適条件を選定した)とし、コアバックの距離が0.5mmから3mmまでの間は0.5~5mm/秒の範囲の任意速度(この間で最適条件を選定した)とした。得られた発泡成形体から四辺に切り出し面を有する25mm×25mm×厚みの試験片を切り出し、JIS-Z8807に記載の固体比重測定方法に準じて比重を測定したところ、各実施例・比較例とも、0.5~0.9の範囲であった。
【0086】
実施例1~9、比較例1~6で得られたポリアミド樹脂組成物、および発泡成形体の評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1より、実施例1~9は、表面外観及びセルの均一性がどちらも良好であり、発泡成形用のポリアミド樹脂組成物として、優れていることが分かる。それに対して、比較例1~3は、表面外観及びセルの均一性が良好では無く、比較例4は、表面外観が良好ではない結果となり、比較例5はセルの均一性が良好ではない結果となり、比較例6は結晶化温度が低すぎるため結晶化が完了せず表面外観が良好でない結果となり、実施例と比較するといずれかの評価項目で劣った。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、耐熱性に優れかつ充分に軽量で高い耐荷重性を持つ発泡成形体を簡便な成形方法で与えうるポリアミド樹脂組成物と、これを用いた、均一で発泡倍率が高い発泡構造を有し、優れた軽量性と耐荷重性を兼ね備え、さらに優れた外観性能を有する発泡成形体とを提供することができるので、自動車部品や家電部品などの分野おいて、大きく寄与することが期待できる。