(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】架橋ポリマー膜
(51)【国際特許分類】
B01D 67/00 20060101AFI20240510BHJP
B01D 71/58 20060101ALI20240510BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20240510BHJP
B01D 69/06 20060101ALI20240510BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B01D67/00
B01D71/58
B01D69/04
B01D69/06
B01D69/08
(21)【出願番号】P 2020555061
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 SG2019050221
(87)【国際公開番号】W WO2019209177
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-07
(31)【優先権主張番号】10201803406W
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】523171076
【氏名又は名称】セップピュア ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴド アバディ ファラハニ,ムハンマド ホセイン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,タイ-シャン
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-325765(JP,A)
【文献】特表2013-532578(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212246(WO,A1)
【文献】特開昭56-095304(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194711(WO,A1)
【文献】特開昭54-158379(JP,A)
【文献】特開昭55-097204(JP,A)
【文献】特開昭63-130105(JP,A)
【文献】米国特許第04360434(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0112618(US,A1)
【文献】M.N.Hyder,Composite poly(vinyl alcohol)-poly(sulfone) membranes crosslinked by trimesoyl chloride:Characterization and dehydration of ethylene glycol-water mixtures,Journal of Membrane Science,326,2008年11月01日,p.363-371
【文献】Shude Xiao,Trimesoyl chloride crosslinked chitosan membranes for CO2/N2 separation and pervaporation dehydration of isopropanol,Journal of Membrane Science,306,2007年08月17日,p.36-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリマー膜を形成する方法であって、
- 少なくとも1つの
イミダゾール環を含む少なくとも1種のポリマーから形成されるポリマー膜を用意すること;及び
- 少なくとも3つのハロゲン化アシル基を含む少なくとも1種の架橋剤を含む架橋溶液とポリマー膜を接触させて、架橋ポリマー膜を形成すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のポリマーが、ポリベンゾイミダゾール(PBI)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1種の架橋剤が、トリメソイルクロリド(TMC)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋溶液が、溶媒に溶解した少なくとも1種の架橋剤を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、又はそれらの混合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記接触させることが、所定期間、所定温度で行われる、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記所定温度が、10~40℃である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記所定期間が、0.5~120時間である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー膜が、フラットシート膜、中空繊維膜、管状膜、又は緻密膜である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記用意することの前に、少なくとも1種のポリマーを含むポリマー溶液からポリマー膜を形成することを更に含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマー溶液が、少なくとも1種のポリマーを2~40%(重量/重量)含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記架橋溶液が、少なくとも1種の架橋剤を0.05~20%(重量/重量)含む、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記架橋ポリマー膜が、1~1000μmの厚さを有する、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記架橋ポリマー膜が、親水性である、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の方法で調製された、架橋ポリマー膜。
【請求項16】
少なくとも3つのハロゲン化アシル基を含む架橋剤によって架橋されたポリマー膜を含む架橋ポリマー膜であって、ポリマー膜が、少なくとも1つの
イミダゾール環を含むポリマーから形成された、架橋ポリマー膜。
【請求項17】
少なくとも1種の前記架橋剤が、トリメソイルクロリド(TMC)である、請求項16に記載の架橋ポリマー膜。
【請求項18】
前記ポリマーが、ポリベンゾイミダゾール(PBI)である、請求項16又は17に記載の架橋ポリマー膜。
【請求項19】
前記ポリマー膜が、フラットシート膜、中空繊維膜、管状膜、又は緻密膜である、請求項16~18のいずれかに記載の架橋ポリマー膜。
【請求項20】
少なくとも1種の有機溶媒と1種の溶解溶質とを含有する供給流溶液中の分子量が150~2000g/モルの範囲の溶質を優先的に除去する、請求項16~19のいずれかに記載の架橋ポリマー膜。
【請求項21】
有機溶媒中で安定である、請求項16~20のいずれかに記載の架橋ポリマー膜。
【請求項22】
1~1000μmの厚さを有する、請求項16~21のいずれかに記載の架橋ポリマー膜。
【請求項23】
親水性である、請求項16~22のいずれかに記載の架橋ポリマー膜。
【請求項24】
膜が、有機溶媒ナノろ過(OSN)、ガス分離、水溶液分離、パーベーパレーション、及び燃料電池に使用するためのものである、請求項16~23のいずれかに記載の架橋ポリマー膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリマー膜を形成する方法、及びその方法で形成される架橋ポリマー膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒ナノろ過(OSN)は、現在の製造システムに直接採用できる新たな膜ベースの分離技術である。OSNは、吸着、フラッシュクロマトグラフィー、蒸発、及び蒸留と比較して、費用効果の高い分離技法であり、これらは通常エネルギー集約型であり、高温を使用し、及び/又は多量の溶媒を使用するため、製造コストと環境上の懸念が高くなり、製品の品質が低下する。
【0003】
OSNには、その利点にもかかわらず、依然としていくつかの短所がある。例えば、苛酷な有機溶媒中でのOSN膜の化学的安定性は、産業ユーザにとって懸案事項である。ポリベンゾイミダゾール(PBI)膜が検討されてきており、それは、これらの膜は化学的に安定であり、良好な除去率を示すためであるが、PBI膜を製造する方法のほとんどが、有害で毒性のある溶媒及び化学物質を利用する。
【0004】
したがって、特にOSN用途向けの膜を形成する改良された方法であって、低コストで、環境に優しく、容易に規模拡大可能な方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの問題に対処すること、及び/又はポリマー膜、特に有機溶媒ナノろ過に適するがそれに限定されないポリマー膜を形成するための改良された方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によると、本発明は、架橋ポリマー膜を形成する方法であって、
- ポリマー膜を用意すること;及び
- 少なくとも3つのハロゲン化物含有基を含む少なくとも1種の架橋剤を含む架橋溶液とポリマー膜を接触させて、架橋ポリマー膜を形成すること
を含む方法を提供する。
【0007】
特定の態様によると、ポリマー膜は、少なくとも1種のポリマーから形成することができる。特に、少なくとも1種のポリマーは、少なくとも1つのピロール窒素基を含むことができる。例えば、少なくとも1種のポリマーは、ポリベンゾイミダゾール(PBI)とすることができるが、これに限定されない。
【0008】
架橋溶液に含まれる架橋剤は、任意適切な架橋剤とすることができる。特定の態様によると、少なくとも1種の架橋剤は、少なくとも3つのハロゲン化アシル基を含むことができる。例えば、少なくとも1種の架橋剤は、トリメソイルクロリド(TMC)とすることができるが、これに限定されない。
【0009】
少なくとも1種の架橋剤は、架橋溶液中の適切な溶媒に溶解させることができる。溶媒は、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、又はそれらの混合物とすることができるが、これに限定されない。
【0010】
前記方法は、少なくとも1種のポリマーを含むポリマー溶液からポリマー膜を形成することを更に含むことができる。
【0011】
前記ポリマー溶液は、適量の少なくとも1種のポリマーを含むことができる。特に、ポリマー溶液は、少なくとも1種のポリマーを2~40%(重量/重量)含むことができる。
【0012】
前記架橋溶液は、適量の少なくとも1種の架橋剤を含むことができる。特に、架橋溶液は、少なくとも1種の架橋剤を0.05~20%(重量/重量)含むことができる。
【0013】
特定の態様によると、接触させることは、所定期間、所定温度で行うことができる。例えば、所定温度は、10~40℃とすることができる。例えば、所定期間は、0.5~120時間とすることができる。
【0014】
前記ポリマー膜は、フラットシート膜、中空繊維膜、管状膜、又は緻密膜とすることができるが、これに限定されない。
【0015】
特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、1~1000μmの厚さを有することができる。
【0016】
別の特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、親水性とすることができる。
【0017】
第2の態様によると、第1の態様の方法で調製された架橋ポリマー膜が提供される。
【0018】
本発明は、少なくとも3つのハロゲン化物含有基を含む架橋剤によって架橋されたポリマー膜を含む架橋ポリマー膜を更に提供し、ポリマー膜は、少なくとも1つのピロール窒素基を含むポリマーから形成される。
【0019】
架橋剤は、任意適切な架橋剤とすることができる。特定の態様によると、架橋剤は、上記の通りとすることができる。
【0020】
ポリマー膜は、任意適切なポリマー膜とすることができる。特定の態様によると、ポリマー膜は、上記の通りとすることができる。
【0021】
ポリマーは、任意適切なポリマーとすることができる。特定の態様によると、ポリマーは、上記の通りとすることができる。
【0022】
架橋ポリマー膜は、少なくとも1種の有機溶媒と1種の溶解溶質とを含有する供給流溶液中の分子量が150~2000g/モルの範囲の溶質を優先的に除去することができる。
【0023】
特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、有機溶媒中で安定なものとすることができる。
【0024】
特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、親水性とすることができる。
【0025】
架橋ポリマー膜は、1~1000μmの厚さを有することができる。
【0026】
特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、有機溶媒ナノろ過(OSN)、ガス分離、水溶液分離、パーベーパレーション、及び燃料電池で使用するためのものとすることができる。
【0027】
本発明が十分に理解され、容易に実施できるようにするため、ここで、単なる非限定的な例として例示的な実施形態を説明し、説明は、添付の例示的な図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】OSN試験で使用されるモデル溶質の分子構造を示す図である。
【
図2】本発明の一態様による、架橋ポリマー膜におけるPBIとTMCとの化学的架橋反応を示す図である。
【
図3(a)】本発明の方法の一実施形態による架橋前(NX-PBI)及び架橋後(X0-PBI及びX-PBI)のPBI膜のATR-FTIRスペクトルである。
【
図3(b)】X-PBIの表面でのXPSスペクトルである。
【
図3(c)】TMC架橋前のPBI膜の表面でのXPSのN1sナロースキャンスペクトルである。
【
図3(d)】TMC架橋後のPBI膜の表面でのXPSのN1sナロースキャンスペクトルである。
【
図4】DMAcに溶解した架橋ポリマー膜サンプルのUV吸収スペクトルである。
【
図5】本発明の方法の一実施形態による架橋前(NX-PBI)及び架橋後(XO-PBI及びX-PBI)のPBI膜の断面及び上面のFESEM画像である。
【
図6(b)】IPA溶液中の様々な溶質に対する本発明の一実施形態による架橋PBI膜(X-PBI)の除去率を示す図である。
【
図7】IPA溶液中の様々な溶質に対する本発明の一実施形態による架橋PBI膜(X0-PBI)の除去率を示す図である。
【
図8】テトラサイクリン/IPA供給物、第1の透過液、及び第2の透過液のUV吸収スペクトル、ならびに2段階ろ過の場合の透過液の分離性能を含む表を示す図である。
【
図9】L-α-レシチン/ヘキサン供給物及び透過液溶液のUV吸収スペクトルである。
【
図10】純粋な染料溶液、混合染料、及び透過液溶液のUV吸収スペクトルである。
【
図11】本発明の一実施形態による膜を使用したテトラサイクリン/IPA溶液の96時間分離性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
先に説明したように、用途の中でも特に有機溶媒ナノろ過(OSN)に適する膜を調製するための改良された方法に対する必要性が存在する。
【0030】
膜分離プロセス、即ち、有機溶媒ナノろ過、ガス分離、燃料電池、水溶液分離及びパーベーパレーションは、ファインケミカル、食品、医薬、石油化学及び石油産業において、エネルギー効率が良く、有益なプロセスであると考えられている。これらのプロセスは、安定した高性能の膜を必要とする。
【0031】
一般的に、本発明は、架橋ポリマー膜及びその形成方法に関する。特に、架橋ポリマー膜は、有機溶媒ナノろ過用とすることができるが、これに限定されない。本発明の方法は、環境に優しい方法とすることができる。特に、方法は、有害で毒性のある溶媒及び化学物質を全く利用しない。更に、本発明の方法は、単純な方法とすることができ、室温で実施することができるため、加熱を必要としない。こうして、方法の全体的コストを削減することができる。
【0032】
第1の態様によると、本発明は、架橋ポリマー膜を形成する方法であって、
- ポリマー膜を用意すること;及び
- 少なくとも3つのハロゲン化物含有基を含む少なくとも1種の架橋剤を含む架橋溶液とポリマー膜を接触させて、架橋ポリマー膜を形成すること
を含む方法を提供する。
【0033】
ポリマー膜は、少なくとも1種のポリマーから形成することができる。ポリマーは、任意適切なポリマーとすることができる。例えば、ポリマーは、少なくとも1つのピロール窒素(-NH-)基を含むことができる。例えば、少なくとも1種のポリマーは、ポリベンゾイミダゾール(PBI)とすることができるが、これに限定されない。
【0034】
方法は、前記用意することの前に、少なくとも1種のポリマーを含むポリマー溶液からポリマー膜を形成することを更に含むことができる。
【0035】
例えば、少なくとも1種のポリマーは、適切な溶媒に溶解させてポリマー溶液を形成することができる。特定の態様によると、方法は、ポリマー膜を形成することの前に、ポリマー溶液を調製することを更に含むことができ、調製することは、少なくとも1種のポリマーを第1の溶媒に混合することを含む。第1の溶媒は、任意適切な溶媒とすることができる。例えば、第1の溶媒は、この少なくとも1種のポリマーを溶解させることができ、膜用途に適合する任意の溶媒とすることができる。例えば、溶媒は、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセタート([EMIM]-OAc)、又はそれらの混合物とすることができる。特定の実施形態によると、ポリマー溶液は、DMAcに溶解したPBIを含むことができる。
【0036】
ポリマー溶液は、適量の少なくとも1種のポリマーを含むことができる。例えば、ポリマー溶液は、少なくとも1種のポリマーを2~40%(重量/重量(w/w))含むことができる。特に、ポリマー溶液は、少なくとも1種のポリマーを5~30w/w%、7~25w/w%、10~22w/w%、12~20w/w%、15~17w/w%含むことができる。更により具体的には、ポリマー溶液は、少なくとも1種のポリマーを約15~17w/w%含むことができる。
【0037】
ポリマー膜は、フラットシート膜、中空繊維膜、管状膜、又は緻密膜とすることができるが、これに限定されない。ポリマー膜は、一体的に表皮を施された非対称膜とすることができる。ポリマー膜を形成することは、ポリマー膜を調製する任意適切な方法を含むことができる。例えば、ポリマー膜が中空繊維膜である場合、形成することは、適切な条件下でポリマー溶液を紡糸することを含むことができる。例えば、ポリマー膜が緻密膜である場合、形成することは、適切な条件下での溶媒蒸発法を含むことができる。特定の実施形態によると、形成することは、非溶媒誘起相分離(NIPS)技法を含むことができる。
【0038】
架橋溶液に含まれる架橋剤は、任意適切な架橋剤とすることができる。架橋剤は、少なくとも3つのハロゲン化物含有基を含むことができ、例えば、ハロゲン化物含有基は、塩素もしくは臭素含有基、又はハロゲン化物の混合物を含有する基とすることができる。特定の態様によると、少なくとも1種の架橋剤は、少なくとも3つのハロゲン化アシル基を含むことができる。特に、少なくとも1種の架橋剤は、少なくとも3つの塩化アシル基を含むことができる。架橋剤は、環境に優しく毒性のないものとすることができる。例えば、少なくとも1種の架橋剤は、トリメソイルクロリド(TMC)とすることができるが、これに限定されない。
【0039】
少なくとも1種の架橋剤は、適切な溶媒に溶解させて架橋溶液を形成することができる。特定の態様によると、方法は、接触させることの前に、架橋溶液を調製することを更に含むことができ、調製することは、少なくとも1種の架橋剤を第2の溶媒に混合することを含む。第2の溶媒は、任意適切な溶媒とすることができる。特に、第2の溶媒は、この少なくとも1種の架橋剤を溶解させることができ、膜用途に適合する任意の溶媒とすることができる。第2の溶媒は、環境に優しく毒性のないものとすることができる。例えば、溶媒は、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、又はそれらの混合物とすることができるが、これに限定されない。特定の実施形態によると、架橋溶液は、2-MeTHFに溶解したTMCを含むことができる。
【0040】
架橋溶液は、適量の少なくとも1種の架橋剤を含むことができる。例えば、架橋溶液は、少なくとも1種の架橋剤を0.05~20%(重量/重量(w/w))含むことができる。特に、架橋溶液は、少なくとも1種の架橋剤を0.1~15w/w%、0.5~12w/w%、1~10w/w%、2~8w/w%、3~7w/w%、4~5w/w%含むことができる。更により具体的には、架橋溶液は、少なくとも1種の架橋剤を約0.1~2w/w%含むことができる。
【0041】
接触させることは、ポリマー膜を架橋溶液で架橋させるための任意適切な方法を含むことができる。接触させることは、ポリマー膜全体が架橋されるようにポリマー膜を架橋させることを含むことができる。例えば、接触させることは、ポリマー膜を架橋溶液に浸漬させることを含むことができる。
【0042】
接触させることは、所定温度で行うことができる。例えば、接触させることは、室温で行うことができる。特定の態様によると、接触させることは、熱を全く加えないで行うことができる。例えば、所定温度は、10~40℃とすることができる。特に、所定温度は、12~38℃、15~35℃、20~30℃、22~29℃、24~28℃、25~27℃とすることができる。更により具体的には、所定温度は、22~25℃とすることができる。
【0043】
接触させることは、所定期間行うことができる。例えば、接触させることは、ポリマー膜が完全に架橋されることを可能とするのに適切な期間行うことができる。例えば、所定期間は、0.5~120時間とすることができる。特に、所定期間は、0.5~90時間、1~60時間、5~50時間、10~48時間、12~24時間とすることができる。更により具体的には、所定期間は、約24時間とすることができる。
【0044】
方法は、架橋ポリマー膜を洗浄することを更に含むことができる。洗浄することは、適切な溶媒を用いて行うことができる。例えば、洗浄することは、上記のような第2の溶媒を用いて行うことができる。
【0045】
特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、1~1000μmの厚さを有することができる。
【0046】
架橋ポリマー膜は、親水性とすることができる。特に、架橋ポリマー膜の静的水接触角は、50~100°とすることができる。更により具体的には、架橋ポリマー膜の静的水接触角は、60~70°とすることができる。
【0047】
先行技術の方法のPBI架橋方法は、ほとんどが多数の工程、高温、又は有害な化学物質の利用のいずれかを必要とする。対照的に、本発明の方法は、室温で実施することができ、単一の架橋工程を含み、容易に規模拡大できる環境に優しい架橋技法を利用する。したがって、本発明の方法は、PBIベースのOSN膜の調製に適したものとすることができる。
【0048】
少なくとも1つのピロール窒素(-NH-)基を含有するPBI又は任意の他のポリマーを、少なくとも3つのハロゲン化物含有基(例えば臭化物、塩化物)を含む1種の架橋剤又は架橋剤混合物で架橋することは、少なくとも3つのハロゲン化物基を持つ架橋剤を使用する場合の所望の立体障害のために、安定性及び性能の場合の膜の性能を向上させることになる。ピロール窒素基は、ハロゲン化物含有架橋剤で架橋することにより、グラファイト窒素(-N<)基に変えることができる。
【0049】
特に、ポリマー溶液に含まれるポリマーがPBIであり、架橋溶液が2-MeTHFに溶解したTMCである実施形態の場合、TMCの3つの塩化アシル基とPBIのイミダゾール環上の第2級アミンとの反応が、第3級アミド基をもたらし、そのためPBI鎖を架橋させる可能性がある。PBI膜へのTMC分子の拡散が、TMCと2-MeTHFとを含む環境的に毒性のない溶液によって促進され得る。TMCは、3つのC=O基を更に含む。塩化アシル基は全てPBIと反応可能であるため、これにより、所望の立体障害が生じる。更に、3つのC=O基の存在のために、親水性の向上を達成できる。
【0050】
第2の態様によると、第1の態様の方法で調製された架橋ポリマー膜が提供される。
【0051】
本発明の第3の態様は、少なくとも3つのハロゲン化物含有基を含む少なくとも1種の架橋剤によって架橋された架橋ポリマー膜を提供し、ポリマー膜は、少なくとも1つのピロール窒素基を含む少なくとも1種のポリマーから形成される。
【0052】
ポリマー膜は、任意適切なポリマーから形成することができる。例えば、少なくとも1種のポリマーは、ポリベンゾイミダゾール(PBI)とすることができるが、これに限定されない。
【0053】
ポリマー膜は、フラットシート膜、中空繊維膜、管状膜、又は緻密膜とすることができるが、これに限定されない。ポリマー膜は、一体的に表皮を施された非対称膜とすることができる。
【0054】
架橋剤は、任意適切な架橋剤とすることができる。架橋剤は、少なくとも3つのハロゲン化物含有基を含むことができ、例えば、ハロゲン化物含有基は、塩素もしくは臭素含有基、又はハロゲン化物の混合物を含有する基とすることができる。特定の態様によると、少なくとも1種の架橋剤は、少なくとも3つのハロゲン化アシル基を含むことができる。特に、少なくとも1種の架橋剤は、少なくとも3つの塩化アシル基を含むことができる。架橋剤は、環境に優しく毒性のないものとすることができる。例えば、少なくとも1種の架橋剤は、トリメソイルクロリド(TMC)とすることができるが、これに限定されない。
【0055】
架橋ポリマー膜は、少なくとも1種の有機溶媒と1種の溶解溶質とを含有する供給流溶液中の分子量が150~2000g/モルの範囲の溶質を優先的に除去することができる。これにより、架橋ポリマー膜は、多くの分離用途において非常に有用なものとなる。
【0056】
特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、有機溶媒中で安定なものとすることができる。本発明では、安定であるとは、有機溶媒に少なくとも1週間浸漬させたときに少なくとも80%のゲル含有率を含む膜であると定義される。
【0057】
特定の態様によると、架橋ポリマー膜は、親水性とすることができる。
【0058】
架橋ポリマー膜は、適切な厚さを有することができる。例えば、架橋ポリマー膜は、1~1000μmの厚さを有することができる。
【0059】
架橋ポリマー膜は、有機溶媒ナノろ過(OSN)、ガス分離、水溶液分離、パーベーパレーション、及び燃料電池などであるが、これに限定されない多くの異なる用途で使用するためのものとすることができる。
【0060】
本発明を一般的に記述してきたが、例示として提供され、限定を意図しない下記の実施形態を参照することで本発明はより容易に理解される。
【実施例】
【0061】
化学物質及び材料
Celazole(登録商標)S26ポリベンゾイミダゾール(PBI)溶液は、PBI Performance Products Inc.(USA)から提供された。溶液は、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)中にPBI26.2wt.%と、塩化リチウム(安定剤)1.5wt.%とを含有していた。不織ポリプロピレン布Novatexx2472は、Freudenberg Filtration Technologies(ドイツ)製であった。DMAc(Sigma)、アセトニトリル(MeCN、VWR)、アセトン(VWR)、エタノール(EtOH、VWR)、イソプロパノール(IPA、VWR)、及びDMF(Sigma)などの溶媒は全て、受け取ったままの状態で使用した。架橋のための化学物質は、Sigma製のTMC(架橋剤)、無水テトラヒドロフラン(THF)(架橋媒体)、及び無水2-MeTHF(架橋媒体)であった。ローズベンガル、ファストグリーンFCF、レマゾールブリリアントブルーR(RBB)、テトラサイクリン、サフラニンO、メチレンブルー、ニュートラルレッド(NR)、及びL-α-ホスファチジルコリン(L-α-レシチン、ホスファチジルコリンとリン脂質との混合物)をSigmaから調達し、作製した膜の除去率及び適用試験のためのモデル溶質として採用した。これらの分子構造及び分子量(MW)を、
図1に示す。
【0062】
架橋PBI膜の作製
非溶媒誘起相分離(NIPS)技法を利用して、一体的に表皮を施された非対称PBI膜を作製した。Celazole(登録商標)S26のPBI溶液をDMAcでPBI濃度が17wt.%になるまで希釈し、均質なドープ溶液が得られるまで室温で連続して撹拌した。次いで、ドープ 溶液 を一晩放置して、気泡を除去した。調整可能なキャスティングナイフ(BYK-Gardner GmbH、Germany)を使用し、250μmのギャップで ポリプロピレン不織布上に膜をキャストした。続いて、この初期段階の膜を室温の水凝固浴に浸漬し、脱イオン(DI)水中に2日間保持した。続いて、PBI膜をTHF又は2-MeTHFのいずれかと3回、それぞれ30分間溶媒交換して残留水を除去した。
【0063】
PBI膜をTMCで架橋するため、TMC1.0mmolをTHF又は2-MeTHF10mLに溶解させ、次いで、約100mgのPBI膜をTMC/THF又はTMC/2-MeTHF溶液に室温(約22℃)で浸漬した。24時間後に架橋膜を架橋溶液から取り出し、THF又は2-MeTHFで4回すすぎ、新鮮なイソプロピルアルコール(IPA)と4回、それぞれ30分間溶媒交換した。その後、架橋膜をOSN試験のためにIPA中に保持した。膜は、NX-PBI(非架橋PBI)、X0-PBI(TMC/THF溶液を用いて架橋)、及びX-PBI(TMC/2-MeTHF溶液を用いて架橋)と名前を付けた。加えて、膜は、長期保存のために、50/50(重量比)PEG400/IPA溶液中で一晩状態調節し、空気乾燥させた。
【0064】
膜の特性評価
(i)化学的分析
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を採用して、架橋修飾前後の化学変化を分析した。Bruker FTIR分光計(VERTEX 70/70v)を用い、400~4000cm-1の範囲にわたり減衰全反射(ATR)モードを適用して、各サンプルに合計64回のスキャンを行った。修飾前後のPBI膜の表面化学を更に調査するため、Kratos AXIS UltraDLD(Kratos Analytical Ltd.、UK)を用いてX線光電子分光法(XPS)を遂行した。膜の親水性は、接触角測角器(Rame Hart、USA)を用いて乾燥させた膜の静的水接触角を測定することにより調査した。各サンプルについて異なる場所で10回を超える測定を行い、平均値を得た。
【0065】
(ii)化学的安定性
DMAc中での架橋PBI膜の化学的安定性を評価するため、不織布、NX-PBI、及びX-PBI膜を数片、真空乾燥し、計量した。浸漬前、各不織サンプルは約60mgであり、一方、NX-PBI及びX-PBIサンプルは、約80mgであった。サンプルを別々に室温で1週間、撹拌しながらDMAc50mlに浸した。続いて、サンプルをDMAcから取り出し、DI水で洗浄し、真空下で一晩乾燥させた。その後、これらの重量を測定し、その初期値と比較した。ゲル含有率のパーセンテージは、DMAc中での膜の安定性を示す。また、DMAcに溶解した分のPBIのUV吸収スペクトルを、UV-Vis分光計(Pharo300、Merck)を用いて、記録した。
【0066】
(iii)形態学的研究
電界放出走査型電子顕微鏡(FESEM、JEOL JSM-6700F)を採用して、膜の上面と断面の形態を調べた。まず、膜を脱イオン(DI)水で数回すすぎ、冷蔵庫で5時間凍結させ、次いで凍結乾燥機(S61-Modulyo-D、Thermo Electron Corp.)を用いて24時間乾燥させた。続いて、凍結乾燥させた膜を液体窒素に浸漬し、破砕し、次いで、イオンスパッタリング装置(JEOLJFC-1300)を用いて白金でコーティングした。原子間力顕微鏡法(AFM、Bruker Dimension ICON)を用い、室温でタッピングモード(音響AC)で膜表面のトポロジーの特性評価を行った。各サンプルについて、5×5μmの領域を1Hzの速度でスキャンした。次いで、スキャンした結果を、NanoScope Analysis(バージョン1.5)を用いて分析した。得られた平均粗さ(Ra)を用いて、表面粗さを定量化した。
【0067】
(iv)OSN試験のための実験設定
純粋な溶媒、濃度50ppmの様々なモデル溶質/IPA溶液、及びL-α-レシチン/ヘキサン溶液(2g/L)をOSN試験に使用した。実験は全て、ステンレス鋼デッドエンド型透過セルにおいて、撹拌速度600rpm、膜間圧10barで行った。透過度(Ps; LMH/bar)を下記の等式から得た:
【0068】
【数1】
式中、Q(L/h)は、透過液の体積流量、A(m
2)は、有効ろ過面積、及びΔP(bar)は、膜間圧である。
【0069】
溶質除去率、RT(%)は、等式2から得られた:
【0070】
【数2】
式中、c
p及びc
fは、それぞれ透過液及び供給溶液の溶質濃度である。
【0071】
溶質濃度は、溶質に基づき異なる波長でUV-Vis分光計により測定した。透過液の流量Q(L/h)及び溶質除去率は、流束が定常状態に到達した後にのみ測定した。同じ体積で連続3回のデータを測定し、定常流束と除去率の変動が5%以内となることを確保した。
【0072】
X-PBI膜の長期性能を試験するため、テトラサイクリン50ppmを含有するIPA溶液を用い、10barで96時間ろ過テストを行った。ろ過試験中、供給溶液濃度はほぼ一定に保たれるように常に調整した。
【0073】
結果及び考察
(i)化学分析
図2は、22℃の無水2-MeTHFにおけるPBIとTMCとの架橋反応を示す。TMCの塩化アシル基がPBIのイミダゾール環上の第2級アミンと反応して第3級アミド基を形成し、その結果、PBI鎖を架橋する。
【0074】
図3(a)は、TMC修飾前(NX-PBI)ならびに修飾後(X0-PBI及びX-PBI)のPBI膜のATR-FTIRスペクトルを表示する。X0-PBIとX-PBIの両方において、1630cm
-1(C=O伸縮)及び1225cm
-1(3°NのC-N伸縮)に第3級アミドに特徴的なピークが出現することで、前述のPBIとTMCとの反応が確認される。第3級アミドのC=O伸縮ピーク(1630cm
-1)は、ベンゼン環に関連する1603cm
-1での強烈な伸縮ピーク上のショルダーピークとして現れる。更に、TMCにおけるC=O基の存在は、非架橋膜と比較して親水性が高い架橋膜をもたらすことができる。静的水接触角測定は、この仮説を裏付け、NX-PBIの接触角が72.4°±2.2°であるのに対し、X-PBIの接触角は60.2°±1.9である。基本的に、親水性の膜は、極性溶媒に対して流束が高くなる傾向があるため、膜の親水性は、その分離性能に影響する。
【0075】
TMC修飾後の表面化学の変化も、XPSによって調べた。
図3(b)は、X-PBIの全数調査XPSスペクトルを示す。
図3(c)及び
図3(d)は、それぞれNX-PBI及びX-PBIの表面でのN1sナロースキャンスペクトルを示す。およそ398.3、およそ400.2、及びおよそ400.9でのピークは、それぞれピリジンN、ピロールN、及びグラファイトNに関連するものである。NX-PBI及びX-PBI膜のスペクトルを比較すると、TMC修飾が化学的架橋に起因するグラファイトNのピークをもたらすことがわかる。加えて、X-PBIの場合のピロールNの強度は、TMC架橋修飾中にピロールNの一部がグラファイトNに変換されるため、NX-PBIにおけるものよりも低くなる。
【0076】
(ii)化学的安定性
図4は、サンプルからDMAcに溶解した分のUV吸収スペクトル、ならびにDMAに1週間浸した後の不織布、NX-PBI、及びX-PBIサンプルのゲル含有率を示す。これらのUV吸収スペクトルは、不織布サンプルはDMAc中で完全に安定であるが、非架橋PBI(NX-PBI)膜は、完全に溶解することを実証している。TMC修飾膜(X-PBI)は、DMAc中で非常に優れた安定性を示しており、ゲル含有率はおよそ94%である。明らかに、TMCは、PBI膜を架橋させ、元の溶媒(即ち、DMAc)に対して強い耐性を持たせるのに効果的な薬剤である。
【0077】
(iii)形態学的研究
図5は、非架橋PBI(NX-PBI)ならびに架橋PBI(X0-PBI及びX-PBI)膜の断面及び上面のFESEM画像を示す。膜は全て、比較的緻密な選択的上層と、マクロボイドが多い高度に多孔質の副層からなる同様の構造を呈している。これにより、膜は、適度な選択性を有する透過度の高いものとなっている。架橋修飾後、PBI膜の断面に明確な変化はないが、架橋膜(X0-PBI及びX-PBI)の上面は、より緻密になっていることがわかる。更に、架橋膜は、修飾中の弛緩及び細孔サイズ減少のために、非架橋のものよりも表面が滑らかになっている。
【0078】
(iv)有機溶媒ナノろ過性能
(a)様々な溶媒透過度及び溶質除去率
極性及び非極性有機溶媒の両方におけるTMC架橋膜(X-PBI)のOSN性能を評価するため、MeCN、アセトン、EtOH、IPA、トルエン、及びヘキサンを比較用溶媒として選択した。
図6(a)は、各溶媒の透過度を示す。
【0079】
一般に、動力学径及びモル体積が小さく、粘度及び表面張力が低く、選択層に対する親和性が高い溶媒は、高流束で比較的容易に膜を通過することができる。X-PBI膜は、極性溶媒に対して40.7~5.8LMH/barの範囲内の優れた透過度を示し、MeCN>アセトン>EtOH>IPAの順序である。MeCNは、極性が高く、粘度及び表面張力が低く、モル体積が小さく、PBI膜に対する親和性が最も高い(即ち、|δPBI-δMeCN|=1.0MPa-1/2)ため、透過度が最も高く、40.7LMH/barである。対照的に、IPAは、表面張力が高く、動力学径及びモル体積が大きいことに加え、これら5種の極性溶媒の中で最も粘度が高いため、透過度が最も低く、5.8LMH/barである。無極性溶媒では、トルエンは、表面張力が高く、動力学径及びモル体積が大きいため、2.2LMH/barという低い透過度を示す。PBI膜に対する親和性も低い(即ち、|δPBI-δToluene|=4.8MPa-1/2)。しかし、ヘキサンは、粘度が低く、表面張力及び動力学径が小さいため、驚くべきことに透過度が80.8LMH/barと高い。これらの特性は、PBI膜に対する親和性が低い(即ち、|δPBI-δHexane|=8.4MPa-1/2)にも関わらず、その膜通過を促進する。
【0080】
図6(b)は、IPA溶液中の溶質の分子量の関数としてのX-PBI膜の除去率を示す。産業界で一般に使用される有機溶媒を、毒性があり有害な溶媒からエタノール及びIPAなどの「より環境に優しい」代替物にシフトするという現在のトレンドのため、除去率実験のための溶媒として、IPAを使用している。X-PBI膜は、分子量が600g/molを超える溶質に対して優れた除去率(およそ100%)を呈する。X-PBI膜の計算された分子量カットオフ(MWCO)は、ほぼ440Daであるが、X0-PBI膜のMWCOは、600Daを超えている(
図7)。また、X-PBI及びX0-PBI膜の両方の場合の純粋なIPAの透過度は、ほぼ同じである(5.8対5.9LMH/bar)。
図6及び7に基づくと、TMC/2-MeTHF架橋溶液は、TMC/THF架橋溶液と比較して、膜の透過度を偽性にすることなく、PBI膜のMWCOを低下させる。
【0081】
(b)2段階テトラサイクリン/IPAろ過
エネルギー消費の少ない母液のリサイクル及び医薬品の濃縮は、最も重要なOSNの用途の1つである。製薬産業における架橋PBI膜の潜在的用途を調査するため、テトラサイクリン/IPA溶液をろ過することによりX-PBI膜の試験を行った。
図8は、テトラサイクリン/IPA供給物、架橋PBI(X-PBI)膜の第1及び第2の透過液のUV吸収スペクトルを示す。ろ過の第1の工程において、X-PBI膜によって90%を超えるテトラサイクリン分子が除去され、したがって、第1の透過液のテトラサイクリン濃度は、5ppm未満となった。第1の透過液を供給物として使用したろ過の第2の工程において、膜は、テトラサイクリン分子に対して97.81%という優れた除去率を示した。第1及び第2のろ過工程の透過度は、それぞれ1.87及び5.06LMH/barであり、分離性能に対する供給物の濃度の影響が大きいことを示した。この観察結果は、濃度分極と浸透圧の両方がOSNの分離性能を決定する上で重要な役割を果たすことが見出された以前の報告とよく一致していた。したがって、供給物の濃度が低ければ、高い除去率及び流束が観察されることになる。
【0082】
(c)L-α-レシチン/ヘキサンろ過
食品産業におけるX-PBI膜の可能な用途を探求するため、一般的な食品添加物としてのL-α-レシチン2gをヘキサン1Lに溶解させ、X-PBI膜を通してろ過した。
図9は、L-α-レシチン/ヘキサン供給物及び透過溶液のUV吸収スペクトルを示す。膜は、80.8LMH/barという高ヘキサン透過度で92%のL-α-レシチンを除去した。明らかに、X-PBI膜は、母液中のL-α-レシチンを濃縮し、ヘキサンの蒸発にかかるエネルギーコストを削減する潜在力がある。
【0083】
(d)混合染料分離
X-PBI膜が形状選択的機能及び正確な分子篩特性を有することを証明するため、IPA中のNR(赤色)とRBB(青色)との混合物を用いて混合染料の分離を更に行った。暗色の供給物の色がオレンジ又は明るい赤となった。UV吸収スペクトルが、
図10に示すように、RBBがほぼ完全に除去される一方で、NRは依然としてX-PBI膜を選択的に通過することを裏付けている。この注目に値する分離性能は、RBB(15.8×11.9Å)が3Dのかさばる構造を有するのに対し、NR(12.6×5.9Å)は、スリムな構造を有するという事実から生じるものである。結果として、RBBは十分にブロックされるが、直径が5.9Åの細いNR分子はX-PBI膜を通過する。したがって、X-PBI膜は、小分子を選択的に分離する潜在力を有し、染料分離、モノマー精製、溶質分画及び有機溶媒を伴う他の工業用途に使用することができる。
【0084】
(e)テトラサイクリン/IPA混合物の96時間分離性能
長期試験におけるOSN膜の耐久性は、実際の用途における重要な性能指数である。供給物として50ppmテトラサイクリン/IPA溶液を使用することにより、デッドエンドろ過モード下で96時間、X-PBI膜の試験を行った。
図11は、結果を示す。特に、IPA透過度は、最初の6時間以内に急激に低下し、その後96時間までわずかに低下したが、テトラサイクリン除去率は、全96時間の間にわずかに上昇した。初期の透過度の低下は、溶質の捕捉による膜の圧密化、安定化及び/又は細孔の閉塞に起因することができる。最初の6時間後、膜透過度及び除去率はより安定する。定常のIPAの透過度及びテトラサイクリン除去率は、それぞれ1.36LMH/bar及び92.6%である。これらの結果は、本発明の膜が、その堅牢な構造及び適切な溶媒耐性から生じる並外れた分離性能を有し、実際のOSN用途に対して大きな潜在性を有することを示している。
【0085】
比較データ
様々な溶質と溶媒の分離に関するX-PBI膜と他のOSN膜との比較を表1に示す。X-PBI膜は、市販のOSN膜及び他の報告されているPBI膜と比較して、遙かに良好な透過度及び除去率を呈する。
【0086】
【0087】
結論
本発明は、架橋ポリマーの膜を形成するための環境に優しい架橋方法を提供する。特に、トリメソイルクロリド(TMC)などの架橋剤を、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)などの溶媒と共に使用して、OSN用のポリベンゾイミダゾール(PBI)膜などの架橋ポリマー膜を作製することができる。
【0088】
特に、実施例からわかるように、架橋PBI(X-PBI)膜は、非架橋PBI(NX-PBI)膜と比較して、より緻密で、より滑らかで、より親水性の高い表面を持つことができる。例えば、X-PBI膜は、レマゾールブリリアントブルーR(MW627g/mol)に対して99.6%という優れた除去率を呈した。純粋なアセトニトリル、アセトン、エタノール及びイソプロパノールの透過度は、それぞれ10barで40.7、29.0、13.8、及び5.8LMH/barであった。
【0089】
更に、X-PBI膜は、MWが444g/molのテトラサイクリンの2段階ろ過においては、最上級の性能を有していた。膜は、ろ過の第1及び第2の工程において、この化合物の除去率がそれぞれ90.4%及び97.8%であった。更に、X-PBI膜は、ヘキサン溶液中のMWが758.08のL-α-レシチンを濃縮することができ、L-α-レシチン除去率は92%、10barでの純粋なヘキサンの透過度は、80.8LMH/barであった。X-PBI膜はまた、混合染料分離のための正確な形状選択機能も備えていた。X-PBI膜は、96時間試験において、テトラサイクリン/IPA混合物の分離にとって有望な性能も呈し、産業用OSN用途への潜在性を示した。
【0090】
前述の説明は例示的な実施形態を説明したが、本発明から逸脱することなく多くの変形を行うことができることを、関係する技術の当業者は理解する。