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特許7486113体内留置物検出装置及び体内留置物検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】体内留置物検出装置及び体内留置物検出方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/12 20060101AFI20240510BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61B6/12
A61B5/055 390
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020036137
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021137191
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】518134231
【氏名又は名称】PSP株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 史郎
(72)【発明者】
【氏名】金田 正孝
(72)【発明者】
【氏名】増田 惇志
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】渋川 周平
(72)【発明者】
【氏名】畠山 浩気
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-141294(JP,A)
【文献】特開2020-010805(JP,A)
【文献】特開昭63-221488(JP,A)
【文献】特開2012-061307(JP,A)
【文献】特開2019-208832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
6/00-6/58
G01N 23/00-23/2276
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRI検査対象領域のX線画像をもとに前記MRI検査対象領域に磁気干渉が生じる体内留置物が存在するか否かの判定を行う体内留置物検出装置であって、
前記X線画像を取得するX線画像取得部と、
前記X線画像取得部が取得したX線画像に対してハイパスフィルタを施した高周波エッジ画像と、前記X線画像に対して微分フィルタを施したエッジ抽出画像とを前記X線画像に合成した合成画像を生成する前処理を行う前処理部と、
前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する体内留置物判定部と、
前記体内留置物判定部による前記体内留置物の存在判定結果を表示部に表示する処理を行う表示処理部と
を備える体内留置物検出装置。
【請求項2】
前記体内留置物判定部は、
前記体内留置物の存在判定結果が既知の合成画像を教師データとして教師有り学習を行った体内留置物判定用学習済モデルを用いて、判定対象の前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する請求項1に記載の体内留置物検出装置。
【請求項3】
前記体内留置物判定部は、
複数の体内留置物グループ毎に前記体内留置物の存在判定を出力する請求項に記載の体内留置物検出装置。
【請求項4】
前記複数の体内留置物グループは、MRI検査による撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可能の3つに分類したグループであり、
前記体内留置物判定部は、
前記複数の体内留置物グループ毎の存在確率をもとに、撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可の体内留置物の存在判定を行う請求項に記載の体内留置物検出装置。
【請求項5】
前記体内留置物判定部は、
前記体内留置物判定用学習済モデルの畳み込み層から体内留置物の2次元位置情報を取得する位置情報取得部を備え、
前記表示処理部は、前記体内留置物の存在判定結果を表示するとともに、前記2次元位置情報をもとに前記X線画像上に前記体内留置物の2次元位置を表示する請求項に記載の体内留置物検出装置。
【請求項6】
MRI検査対象領域のX線画像をもとに前記MRI検査対象領域に磁気干渉が生じる体内留置物が存在するか否かの判定を行う体内留置物検出方法であって、
前記X線画像を取得するX線画像取得ステップと、
前記X線画像取得ステップで取得したX線画像に対してハイパスフィルタを施した高周波エッジ画像と、前記X線画像に対して微分フィルタを施したエッジ抽出画像とを前記X線画像に合成した合成画像を生成する前処理を行う前処理ステップと、
前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する体内留置物判定ステップと、
前記体内留置物判定ステップによる前記体内留置物の存在判定結果を表示部に表示する処理を行う表示処理ステップと
を含む体内留置物検出方法。
【請求項7】
前記体内留置物判定ステップは、
前記体内留置物の存在判定結果が既知の合成画像を教師データとして教師有り学習を行った体内留置物判定用学習済モデルを用いて、判定対象の前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する請求項に記載の体内留置物検出方法。
【請求項8】
前記体内留置物判定ステップは、
複数の体内留置物グループ毎に前記体内留置物の存在判定を出力する請求項に記載の体内留置物検出方法。
【請求項9】
前記複数の体内留置物グループは、MRI検査による撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可能の3つに分類したグループであり、
前記体内留置物判定ステップは、
前記複数の体内留置物グループ毎の存在確率をもとに、撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可の体内留置物の存在判定を行う請求項に記載の体内留置物検出方法。
【請求項10】
前記体内留置物判定ステップは、
前記体内留置物判定用学習済モデルの畳み込み層から体内留置物の2次元位置情報を取得する位置情報取得ステップを含み、
前記表示処理ステップは、前記体内留置物の存在判定結果を表示するとともに、前記2次元位置情報をもとに前記X線画像上に前記体内留置物の2次元位置を表示する請求項に記載の体内留置物検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線画像を用いた体内留置物の有無判定を迅速かつ精度高く行うことができる体内留置物検出装置及び体内留置物検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療機関においてMRI(Magnetic Resonance Imaging)の画像を取得してMRI検査を行う場合、安全を考慮して磁場との干渉を発生させる金属などの体内留置物が患者体内に含まれているか否かを予め把握する必要がある。このため、医療機関においては、問診で確認するほか、予め撮影された該当患者のX線画像をもとに体内留置物が有るか否かを判定している。
【0003】
なお、特許文献1には、体内留置インプラントなど医療機器のMRI適合性をクライアントのWebページから検索することが可能な医療機器データベースが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-63649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、大量のMRI検査を行う場合、事前に大量のX線画像を用いた体内留置物の有無判定を行う必要があり、目視による体内留置物の有無判定作業には多大な医時間と労力とがかかるという課題がある。
【0006】
しかも、X線画像をもとに目視でモノクロの体内留置物の有無判定を行う場合、体内留置物を見逃してしまう場合がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであって、X線画像を用いた体内留置物の有無判定を迅速かつ精度高く行うことができる体内留置物検出装置及び体内留置物検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、MRI検査対象領域のX線画像をもとに前記MRI検査対象領域に磁気干渉が生じる体内留置物が存在するか否かの判定を行う体内留置物検出装置であって、前記X線画像を取得するX線画像取得部と、前記X線画像取得部が取得したX線画像に対してハイパスフィルタを施した高周波エッジ画像と、前記X線画像に対して微分フィルタを施したエッジ抽出画像とを前記X線画像に合成した合成画像を生成する前処理を行う前処理部と、前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する体内留置物判定部と、前記体内留置物判定部による前記体内留置物の存在判定結果を表示部に表示する処理を行う表示処理部とを備える。
【0009】
また、本発明は、上記の発明において、前記体内留置物判定部は、前記体内留置物の存在判定結果が既知の合成画像を教師データとして教師有り学習を行った体内留置物判定用学習済モデルを用いて、判定対象の前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記体内留置物判定部は、複数の体内留置物グループ毎に前記体内留置物の存在判定を出力する。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記複数の体内留置物グループは、MRI検査による撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可能の3つに分類したグループであり、前記体内留置物判定部は、前記複数の体内留置物グループ毎の存在確率をもとに、撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可の体内留置物の存在判定を行う。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記体内留置物判定部は、前記体内留置物判定用学習済モデルの畳み込み層から体内留置物の2次元位置情報を取得する位置情報取得部を備え、前記表示処理部は、前記体内留置物の存在判定結果を表示するとともに、前記2次元位置情報をもとに前記X線画像上に前記体内留置物の2次元位置を表示する。
【0014】
また、本発明は、MRI検査対象領域のX線画像をもとに前記MRI検査対象領域に磁気干渉が生じる体内留置物が存在するか否かの判定を行う体内留置物検出方法であって、前記X線画像を取得するX線画像取得ステップと、前記X線画像取得ステップで取得したX線画像に対してハイパスフィルタを施した高周波エッジ画像と、前記X線画像に対して微分フィルタを施したエッジ抽出画像とを前記X線画像に合成した合成画像を生成する前処理を行う前処理ステップと、前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する体内留置物判定ステップと、前記体内留置物判定ステップによる前記体内留置物の存在判定結果を表示部に表示する処理を行う表示処理ステップとを含む。
【0015】
また、本発明は、上記の発明において、前記体内留置物判定ステップは、前記体内留置物の存在判定結果が既知の合成画像を教師データとして教師有り学習を行った体内留置物判定用学習済モデルを用いて、判定対象の前記合成画像を入力して前記体内留置物の存在判定を出力する。
【0017】
また、本発明は、上記の発明において、前記体内留置物判定ステップは、複数の体内留置物グループ毎に前記体内留置物の存在判定を出力する。
【0018】
また、本発明は、上記の発明において、前記複数の体内留置物グループは、MRI検査による撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可能の3つに分類したグループであり、前記体内留置物判定ステップは、前記複数の体内留置物グループ毎の存在確率をもとに、撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可の体内留置物の存在判定を行う。
【0019】
また、本発明は、上記の発明において、前記体内留置物判定ステップは、前記体内留置物判定用学習済モデルの畳み込み層から体内留置物の2次元位置情報を取得する位置情報取得ステップを含み、前記表示処理ステップは、前記体内留置物の存在判定結果を表示するとともに、前記2次元位置情報をもとに前記X線画像上に前記体内留置物の2次元位置を表示する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、X線画像を用いた体内留置物の有無判定を迅速かつ精度高く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本実施例1に係る体内留置物検出装置の概要を説明する説明図である。
図2図2は、体内留置物検出装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3図3は、図2に示した体内留置物判定用学習済モデルの層構造の一例を示す図である。
図4図4は、体内留置物検出装置による体内留置物の存在判定処理手順を示すフローチャートである。
図5図5は、カプセル内視鏡が体内留置物として存在する場合の正面胸部のX線画像の一例を示す図である。
図6図6は、図5に示したX線画像に対する高周波エッジ画像の一例を示す図である。
図7図7は、図5に示したX線画像に対するエッジ抽出画像の一例を示す図である。
図8図8は、体内留置物が存在しない場合の正面胸部のX線画像の一例を示す図である。
図9図9は、図8に示したX線画像に対する高周波エッジ画像の一例を示す図である。
図10図10は、図8に示したX線画像に対するエッジ抽出画像の一例を示す図である。
図11図11は、実施例2による体内留置物の存在判定の概要を説明する説明図である。
図12図12は、実施例2の体内留置物検出装置による体内留置物の存在判定処理手順を示すフローチャートである。
図13図13は、条件付き撮影可能な体内留置物であるペースメーカーが存在する場合の正面胸部のX線画像の一例を示す図である。
図14図14は、図13に示したX線画像に対する高周波エッジ画像の一例を示す図である。
図15図15は、図13に示したX線画像に対するエッジ抽出画像の一例を示す図である。
図16図16は、体内留置物判定用学習済モデルから体内留置物の2次元位置情報を取得する構成を示す図である。
図17図17は、X線画像に体内留置物の2次元位置情報を示す矩形枠を重畳表示した一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る体内留置物検出装置及び体内留置物検出方法の好適な実施例を詳細に説明する。
【0023】
[実施例1]
<概要>
まず、本実施例1に係る体内留置物検出装置の概要について説明する。図1は、本実施例1に係る体内留置物検出装置の概要を説明する説明図である。本実施例1に係る体内留置物検出装置は、MRI検査対象領域のX線画像をもとにMRI検査対象領域に磁気干渉が生じる金属などの体内留置物が存在するか否かの判定を行うものである。図1に示すように、体内留置物検出装置は、X線画像D1を取得する。X線画像D1は、MRI検査を行う患者の過去のX線画像であるが、MRI検査を行う直前に撮像したX線画像であってもよい。
【0024】
このX線画像D1は、前処理として、X線画像D1に対してハイパスフィルタを施した高周波エッジ画像D2を生成するとともに、微分フィルタを施したエッジ抽出画像D3を生成する。ハイパスフィルタは、X線画像D1から、ローパスフィルタとしてのガウシアンフィルタをX線画像D1に施した画像を減算することによって高周波成分を残す疑似的なフィルタとしている。なお、高周波エッジ画像D2は、ハイパスフィルタを施した画像にメディアンフィルタを施し、ゴマ塩的ノイズを除去するようにしている。微分フィルタは、例えば、ソーベルフィルタである。
【0025】
その後、体内留置物検出装置は、X線画像D1、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を合成した1つの合成画像D10を生成する。合成画像D10は、例えば、ベイヤー配列における色要素RにX線画像D1を埋め込み、色要素Gに高周波エッジ画像D2を埋め込み、色要素Bにエッジ抽出画像D3を埋め込むことにより、生成する。
【0026】
その後、体内留置物検出装置は、合成画像D10を体内留置物判定用学習済モデルMに入力し、出力される体内留置物の存在確率をもとに体内留置物の存在判定を行う。そして、体内留置物の存在判定結果(体内留置物の有無)を表示出力する。
【0027】
なお、体内留置物判定用学習済モデルMは、X線画像である入力データと正解データ(体内留置物の有無)とのセットからなる教師データを用いた教師有り学習を行った多層ニューラルネットワーク(CNN)である。
【0028】
<体内留置物検出装置の構成>
図2は、体内留置物検出装置10の構成を示す機能ブロック図である。図2に示すように、体内留置物検出装置10は、入力部11、表示部12、通信インターフェース部13、記憶部14及び制御部15を有する。
【0029】
入力部11は、キーボードやマウス等の入力デバイスであり、表示部12は、液晶パネ
ルやディスプレイ装置等の表示デバイスである。通信インターフェース部13は、ネット
ワークを介した各種装置との通信を行うための通信デバイスである。
【0030】
記憶部14は、ハードディスク装置又はSSD等の二次記憶媒体であり、体内留置物判定用学習済モデルM1等を記憶する。なお、体内留置物判定用学習済モデルM1は、ソフトウエアにより形成されている。このため、体内留置物検出装置10が、体内留置物判定用学習済モデルM1を利用する場合には、体内留置物判定用学習済モデルM1を記憶部14から読み出して主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)上に展開して動作実行させることになる。なお、体内留置物判定用学習済モデルM1の詳細な説明については後述する。
【0031】
制御部15は、体内留置物検出装置10を全体制御する制御装置であり、学習済モデル生成部16、X線画像取得部17、前処理部18、体内留置物判定部19及び表示処理部20を有する。実際には、制御部15が、これらの機能部に対応するプログラムを不揮発性メモリ等などの記憶装置に記憶しておき、これらのプログラムをメモリにロードして、CPUで実行することで、対応するプロセスを実行させることになる。
【0032】
学習済モデル生成部16は、体内留置物判定用学習済モデルM1を生成する処理部である。学習済モデル生成部16は、多層ニューラルネットワーク(CNN)に教師有り学習をさせるためには、上記のように、入力データ(X線画像)と正解データ(体内留置物の有無)とのセットからなる教師データを用いた教師有り学習を行う。例えば、体内留置物が有るX線画像を入力データとして、体内留置物が有るという正解データが得られたならば、バックプロパゲーションによってニューロン間のパスの重み等のパラメータを変動させ、もって多層ニューラルネットワーク(CNN)に学習させることが可能となる。
【0033】
なお、通常、教師有り学習を行う場合には大量の教師データを用いて学習を行わねばならず、一つの学習についても多大な時間がかかることになる。そこで、学習済モデル生成部16による体内留置物判定用学習済モデルM1の生成処理を、大型計算機又はクラウド上で行うようにしてもよい。
【0034】
X線画像取得部17は、体内留置物の存在判定を行う患者のX線画像D1を取得する処理を行う。前処理部18は、X線画像D1を用いて、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を生成し、X線画像D1、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を合成した合成画像D10を生成する。合成画像D10には、オリジナルのX線画像D1のみならず、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を含むため、1つのX線画像D1から多くの入力情報が得られ、精度の高い体内留置物の存在判定を行うことができる。なお、高周波エッジ画像D2を生成するハイパスフィルタやエッジ抽出画像D3を生成する微分フィルタは、所定のフィルタ処理の一例であり、他のフィルタ処理を施してもよいし、さらに3以上の異なるフィルタ処理を施した画像を生成して合成画像D10を生成するようにしてもよい。なお、この場合、教師有り学習は、上記のフィルタ処理を施した画像も入力データとして用いる。
【0035】
体内留置物判定部19は、合成画像D10を体内留置物判定用学習済モデルM1に入力して体内留置物の存在判定を得る判定処理を行う。具体的に、体内留置物判定部19は、体内留置物判定用学習済モデルM1から出力される体内留置物の存在確率P1が0.8以上の場合に体内留置物が有ると判定し、0.8未満の場合に体内留置物が無いと判定する。
【0036】
表示処理部20は、体内留置物判定部19が判定した体内留置物の存在判定結果を表示部12に表示出力する。
【0037】
<学習済モデルの層構造>
次に、図2に示した体内留置物判定用学習済モデルM1の層構造の一例について説明する。図3は、図2に示した体内留置物判定用学習済モデルM1の層構造の一例を示す図である。図3に示す体内留置物判定用学習済モデルM1は、コンボリューション層(Convolution)31、コンボリューション層(Convolution)32、アベレージプーリング層(Average Pooling)33、コンボリューション層(Convolution)34、アベレージプーリング層(Average Pooling)35、全結合層(Fully Connect)36、全結合層(Fully Connect)37及び出力層(Softmax)38を有する。かかるコンボリューション層(Convolution)31に対して合成画像D10が入力されたならば、出力層(Softmax)38から体内留置物の存在確率P1が出力される。
【0038】
ここで、コンボリューション層31,32,34は、局所的な特徴を抽出するために、前層で近くにあるノードにフィルタを畳み込んで特徴マップを生成する。アベレージプーリング層33,35は、局所的な特徴をまとめあげるために、前層であるコンボリューション層から出力された特徴マップをさらに縮小して新たな特徴マップとする。このように、多層ニューラルネットワーク(CNN)の隠れ層は、コンボリューション層とアベレージプーリング層により形成される。全結合層36,37は、特徴部分が取り出された特徴マップを一つのノードに結合し、所定の活性化関数によって変換された値を出力する。この活性化関数には、周知技術であるReLU(Rectified Linear Unit)等を用いることができる。出力層38は、全結合層37からの出力(特徴変数)を元に、ソフトマックス関数を用いて確率に変換し、それぞれ正しく分類される確率を出力する。また、オーバーフィッティングを避けるためにドロップアウト層を追加することもできる。なお、多層ニューラルネットワーク(CNN)の基本構造は周知技術であるため、ここではその詳細な
説明を省略する。
【0039】
なお、既存の大規模画像データセットで学習させた学習済モデルであるVGG16などを用いてもよい。VGG16は13層の畳み込み層と3層の全結合層との計16層からなる。本実施例1の体内留置物判定用学習済モデルM1を学習させる場合、VGG16の全結合層を外して新たに全結合層を追加し、14層までの重みを更新させず、15層以降のみを学習させると、VGG16の高い特徴量抽出を継承しつつ、少い教師データ、かつ、短時間に精度の高い学習済モデルを構築することができる。
【0040】
<体内留置物の存在判定処理手順>
次に、図2に示した体内留置物検出装置10による体内留置物の存在判定処理手順について説明する。図4は、体内留置物検出装置10による体内留置物の存在判定処理手順を示すフローチャートである。図4に示すように、まず、X線画像取得部17は、MRI検査を行う患者のX線画像D1を取得する(ステップS110)。
【0041】
その後、前処理部18は、X線画像D1を用いて、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を生成し、X線画像D1、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を合成した合成画像D10を生成する(ステップS120)。
【0042】
その後、体内留置物判定部19は、合成画像D10を体内留置物判定用学習済モデルM1に入力して体内留置物の存在確率P1を算出する(ステップS130)。そして、体内留置物判定部19は、存在確率P1が0.8以上であるか否かを判定する(ステップS140)。
【0043】
存在確率P1が0.8以上であるならば(ステップS140;Yes)、体内留置物が有ると判定し(ステップS150)、本処理を終了する。一方、存在確率P1が0.8以上でないならば(ステップS140;No)、体内留置物が無いと判定し(ステップS160)、本処理を終了する。
【0044】
<前処理の一例と体内留置物の有無の一例>
まず、体内留置物の一例としてカプセル内視鏡40が体内に留置されている場合について説明する。図5は、カプセル内視鏡40が体内留置物として存在する場合の正面胸部のX線画像D11の一例を示す図である。また、図6は、図5に示したX線画像D11に対する高周波エッジ画像D12の一例を示す図である。また、図7は、図5に示したX線画像D11に対するエッジ抽出画像D13の一例を示す図である。合成画像D10は、X線画像D11、高周波エッジ画像D12及びエッジ抽出画像D13を合成した画像である。なお、X線画像D11、高周波エッジ画像D12及びエッジ抽出画像D13は、濃淡画像であり、合成画像D10も濃淡画像となる。
【0045】
体内留置物判定部19は、合成画像D10内のX線画像D11、高周波エッジ画像D12及びエッジ抽出画像D13をもとにカプセル内視鏡40の存在有りを判定することになる。
【0046】
一方、図8は、体内留置物が存在しない場合の正面胸部のX線画像D21の一例を示す図である。また、図9は、図8に示したX線画像D21に対する高周波エッジ画像D22の一例を示す図である。また、図10は、図8に示したX線画像D21に対するエッジ抽出画像D23の一例を示す図である。合成画像D10は、X線画像D21、高周波エッジ画像D22及びエッジ抽出画像D23を合成した画像である。
【0047】
体内留置物判定部19は、合成画像D10内のX線画像D21、高周波エッジ画像D22及びエッジ抽出画像D23をもとに体内留置物の存在無しを判定することになる。
【0048】
[実施例2]
上記の実施例1の体内留置物判定部19は、体内留置物の存在判定、すなわち体内留置物の種類には関係なく、体内留置物の存在有無のみを判定していた。したがって、体内留置物判定用学習済モデルM1は、バイナリ分類モデルであった。これに対し、本実施例2の体内留置物判定部19は、体内留置物判定用学習済モデルM2が、体内留置物を、MRI検査による撮像可能、条件付き撮像可能、及び、撮像不可能の3つに体内留置物グループに分類し、各分類グループの存在確率を算出し、各分類グループの体内留置物の存在判定を行うようにしている。すなわち、体内留置物判定用学習済モデルM2をマルチクラス分類モデルとしている。
【0049】
<分類グループの一例>
3つの分類グループのうち撮影不可能と判定する体内留置物群は、例えば、イレウス管、ティッシュエキスパンダー、スワンガンツカテーテル、カプセル内視鏡である。また、条件付き撮影可能と判定する体内留置物は、ペースメーカー、脳深部刺激デバイス、脊髄刺激デバイスである。また、撮影可能と判定する体内留置物は、ステント、脊髄固定デバイス、経鼻胃管、マイトラクリップ、経カテーテル大動脈弁留置デバイスであり、撮影不可能及び条件付き撮影可能である体内留置物以外の体内留置物を含む。なお、磁場との干渉を発生させる体内留置物としては金属があるが、その他セラミクスなども磁場との干渉によって発熱するものがあり、これらの特性を考慮して上記分類グループが決定される。なお、条件付き撮影可能とは、例えば、MRIが発生する磁場量を制限するものである。
【0050】
図11は、実施例2による体内留置物の存在判定の概要を説明する説明図である。図11に示すように、本実施例2の体内留置物判定用学習済モデルM2は、入力された合成画像D10に対して撮影不可能な体内留置物の存在確率P11、条件付き撮影可能な体内留置物の存在確率P12、撮影可能な体内留置物の存在確率P13を出力する。
【0051】
<体内留置物の存在判定処理手順>
図12は、実施例2の体内留置物検出装置10による体内留置物の存在判定処理手順を示すフローチャートである。図12に示すように、まず、X線画像取得部17は、MRI検査を行う患者のX線画像D1を取得する(ステップS210)。
【0052】
その後、前処理部18は、X線画像D1を用いて、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を生成し、X線画像D1、高周波エッジ画像D2及びエッジ抽出画像D3を合成した合成画像D10を生成する(ステップS220)。
【0053】
その後、体内留置物判定部19は、合成画像D10を体内留置物判定用学習済モデルM2に入力して分類グループ毎の体内留置物の存在確率P11,P12,P13を算出する(ステップS230)。そして、体内留置物判定部19は、存在確率P11が0.8以上であるか否かを判定する(ステップS240)。
【0054】
存在確率P11が0.8以上であるならば(ステップS240;Yes)、磁場が体内留置物と干渉するとして、撮影不可能と判定出力し(ステップS250)、本処理を終了する。一方、存在確率P11が0.8以上でないならば(ステップS240;No)、さらに、存在確率P12が0.8以上であるか否かを判定する(ステップS260)。
【0055】
存在確率P12が0.8以上であるならば(ステップS260;Yes)、条件付きで磁場が体内留置物と干渉するとして、条件付き撮影可能と判定出力し(ステップS270)、本処理を終了する。一方、存在確率P12が0.8以上でないならば(ステップS260;No)、さらに、存在確率P13が0.8以上であるか否かを判定する(ステップS280)。
【0056】
存在確率P13が0.8以上であるならば(ステップS280;Yes)、磁場が体内留置物と干渉しないものとして、撮影可能と判定出力し(ステップS290)、本処理を終了する。一方、存在確率P13が0.8以上でないならば(ステップS280;No)、エラー出力を行って(ステップS300)、本処理を終了する。
【0057】
<前処理の一例と体内留置物の有無の一例>
図13は、条件付き撮影可能な体内留置物であるペースメーカー41が存在する場合の正面胸部のX線画像D31の一例を示す図である。また、図14は、図13に示したX線画像D31に対する高周波エッジ画像D32の一例を示す図である。また、図15は、図13に示したX線画像D31に対するエッジ抽出画像D33の一例を示す図である。
【0058】
なお、図5図7に示したX線画像D11、高周波エッジ画像D12及びエッジ抽出画像D13は、カプセル内視鏡が体内留置物として存在するため、撮影不可能な体内留置物が存在する分類グループの画像例となる。また、図8図10は、体内留置物が存在しないため、撮影可能な分類グループの画像例となる。
【0059】
ここで、条件付き撮影不可能な分類グループをさらに細かく分類するようにしてもよい。条件付き撮影不可能とするには、MRIでは発生する磁場量が異なる場合もあるし、体内留置物の特性によっても発熱量が異なるからである。
【0060】
[変形例]
上記の実施例1,2では、体内留置物の存在判定を行うようにしていたが、体内留置物が存在する場合、医師や技士等は、体内留置物が存在するX線画像D1を確認する。ここで、単に体内留置物が存在するとした存在判定結果では、X線画像D1内から体内留置物を最初から見つけ出す必要があり、時間がかかる。
【0061】
図16は、体内留置物判定用学習済モデルM(M1,M2)から体内留置物の2次元位置情報を取得する構成を示す図である。本変形例の体内留置物判定部19は、体内留置物判定用学習済モデルM(M1,M2)の畳み込み層の勾配から体内留置物の2次元位置情報D4を取得し、表示処理部20は、体内留置物の存在判定結果を表示するとともに、2次元位置情報D4をもとにX線画像D1上に体内留置物の2次元位置を表示する。
【0062】
例えば、図17に示すように、2次元位置情報D4をもとに、体内留置物であるカプセル内視鏡40の周辺に、カプセル内視鏡40の位置を示す矩形枠EをX線画像D11に重畳して表示する。これにより、カプセル内視鏡40の存在を容易に確認することができる。なお、矩形枠Eは、カラー表示することが好ましい。
【0063】
本実施例1,2及び変形例では、X線画像に対して高周波エッジ画像やエッジ抽出画像などの所定のフィルタ処理を行った1以上のフィルタ処理画像を生成し、X線画像と1以上のフィルタ処理画像とを合成した合成画像を生成し、この合成画像を体内留置物判定用学習済モデルへの入力データとしているので、X線画像を用いた体内留置物の有無判定を迅速かつ精度高く行うことができる。
【0064】
なお、体内留置物は、人体内の留置物を前提として述べたが、体内留置物は、例えば動物の体内の留置物であってもよい。近年のMRI検査は、動物をも対象とするからである。
【0065】
また、上記の実施例1,2及び変形例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る体内留置物検出装置及び体内留置物検出方法は、X線画像を用いた体内留置物の有無判定を迅速かつ精度高く行う場合に有用である。
【符号の説明】
【0067】
10 体内留置物検出装置
11 入力部
12 表示部
13 通信インターフェース部
14 記憶部
15 制御部
16 学習済モデル生成部
17 X線画像取得部
18 前処理部
19 体内留置物判定部
20 表示処理部
31,32,34 コンボリューション層
33,35 アベレージプーリング層
36,37 全結合層
38 出力層
40 カプセル内視鏡
41 ペースメーカー
D1,D11,D21,D31 X線画像
D2,D12,D22,D32 高周波エッジ画像
D3,D13,D23,D33 エッジ抽出画像
D4 2次元位置情報
D10 合成画像
M,M1,M2 体内留置物判定用学習済モデル
P11,P12,P13 存在確率
図1
図2
図3
図4
図5
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図15
図16
図17