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特許7486115低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム
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  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図1
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図2A
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図2B
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図2C
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図2D
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図2E
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図3
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図4
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図5
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図6A
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図6B
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図7
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図8
  • 特許-低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20240510BHJP
   G05B 19/4069 20060101ALI20240510BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G05B19/18 X
G05B19/4069
B23Q15/00 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020042572
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021144462
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】内木 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】永見 志朗
(72)【発明者】
【氏名】松永 圭五
(72)【発明者】
【氏名】水谷 孝治
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
(72)【発明者】
【氏名】吉野 笙太
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第3916260(JP,B2)
【文献】特開平09-264815(JP,A)
【文献】特開2003-019646(JP,A)
【文献】特開2018-202551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18
G05B 19/4069
B23Q 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具の物性および形状を表す工具データと、前記工具を用いて加工物に対して行う切削のパラメータ群を表す切削データと、前記加工物の物性および形状を表す材料データとを格納する記憶装置と、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに基づいて、切削力に伴う前記加工物の変形の解析と、前記変形に伴う破壊の解析とを行い、前記切削による前記加工物の欠損の発生および/または不発生を予測する演算装置と、
前記予測の結果を出力するインタフェースと
を備える
欠損予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の欠損予測装置において、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに含まれるパラメータの複数の組み合わせに基づいて応力拡大係数を算出する応力拡大係数算出部と、
前記複数の組み合わせに基づいて、前記加工物の材料に対応する破壊靱性値と、前記応力拡大係数とを比較する比較部と、
前記複数の組み合わせに基づいて前記切削の加工能率を算出する切削能率算出部と、
前記複数の組み合わせの中から、前記応力拡大係数が前記破壊靱性値を上回らない所定の範囲内で前記加工能率が最大となる組み合わせを選択して切削条件として決定する切削条件決定部と
を備える
欠損予測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の欠損予測装置において、
前記演算装置は、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに基づいて、前記切削によって前記工具が前記加工物に印加する切削力を予測し、前記切削力の下で、前記加工物の亀裂進展によって解放される前記加工物の弾性ひずみエネルギー量である第1エネルギー量を予測する第1エネルギー量予測演算部と、
少なくとも前記材料データに基づいて、前記加工物の亀裂進展によって生まれる前記加工物の新しい表面の表面エネルギーである第2エネルギー量を予測する第2エネルギー量予測演算部と、
前記第1エネルギー量および前記第2エネルギー量を比較して、前記欠損の発生および/または前記不発生を予測する欠損予測演算部と
を備える
欠損予測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の欠損予測装置において、
前記演算装置は、前記欠損の発生を予測した場合に、前記工具データおよび前記切削データのうち少なくとも一方に変更を加えて前記欠損の発生および/または前記不発生を改めて予測する
欠損予測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の欠損予測装置において、
前記演算装置は、
前記工具データおよび前記切削データのうち少なくとも一方に、前記欠損が発生しないように変更を加える変更演算部
をさらに備える
欠損予測装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の欠損予測装置と、
前記欠損予測装置が予測した結果に基づいて、前記工具を用いて前記切削を含む加工を前記加工物に対して行う外部の加工装置を制御するための制御信号を生成する演算装置と、
前記制御信号を出力するインタフェースと
を備える
制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の制御装置と、
前記制御信号に基づいて前記加工を行う前記加工装置と
を備える
低靱性加工物切削装置。
【請求項8】
工具の物性および形状を表す工具データと、前記工具を用いて加工物に対して行う切削のパラメータ群を表す切削データと、前記加工物の物性および形状を表す材料データとを用意することと、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに基づいて、切削力に伴う前記加工物の変形の解析と、前記変形に伴う破壊の解析とを行い、前記切削による前記加工物の欠損の発生および/または不発生を予測することと、
前記予測の結果を出力することと
を含む
欠損予測方法。
【請求項9】
請求項8に記載の欠損予測方法において、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに含まれるパラメータの複数の組み合わせに基づいて応力拡大係数を算出することと、
前記複数の組み合わせに基づいて、前記加工物の材料に対応する破壊靱性値と、前記応力拡大係数とを比較することと、
前記複数の組み合わせに基づいて前記切削の加工能率を算出することと、
前記複数の組み合わせの中から、前記応力拡大係数が前記破壊靱性値を上回らない所定の範囲内で前記加工能率が最大となる組み合わせを選択して切削条件として決定することと
を含む
欠損予測方法。
【請求項10】
請求項8に記載の欠損予測方法において、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに基づいて、前記切削によって前記工具が前記加工物に印加する切削力を予測し、前記切削力の下で、前記加工物の亀裂進展によって解放される、前記加工物の弾性ひずみエネルギー量である第1エネルギー量を予測することと、
前記切削データおよび前記材料データに基づいて、前記加工物の亀裂進展によって生まれる前記加工物の新しい表面の表面エネルギーである第2エネルギー量を予測することと、
前記第1エネルギー量および前記第2エネルギー量を比較して、前記欠損の発生および/または前記不発生を予測することと
をさらに含む
欠損予測方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の欠損予測方法の各工程と、
前記欠損の発生および/または不発生を予測した結果に基づいて、前記工具を用いて前記切削を含む加工を前記加工物に対して行う加工装置を制御するための制御信号を生成することと、
前記制御信号を出力することと
を含む
加工装置制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の加工装置制御方法の各工程と、
前記制御信号に基づいて前記加工を行うことと
を含む
低靱性加工物製造方法。
【請求項13】
工具の物性および形状を表す工具データと、前記工具を用いて加工物に対して行う切削のパラメータ群を表す切削データと、前記加工物の物性および形状を表す材料データとを用意することと、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに基づいて、切削力に伴う前記加工物の変形の解析と、前記変形に伴う破壊の解析とを行い、前記切削による前記加工物の欠損の発生および/または不発生を予測することと、
前記予測の結果を出力することと
を、コンピュータに実行させるように含む
欠損予測プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載の欠損予測プログラムにおいて、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに含まれるパラメータの複数の組み合わせに基づいて応力拡大係数を算出することと、
前記複数の組み合わせに基づいて、前記加工物の材料に対応する破壊靱性値と、前記応力拡大係数とを比較することと、
前記複数の組み合わせに基づいて前記切削の加工能率を算出することと、
前記複数の組み合わせの中から、前記応力拡大係数が前記破壊靱性値を上回らない所定の範囲内で前記加工能率が最大となる組み合わせを選択して切削条件として決定することと
を含む
欠損予測プログラム。
【請求項15】
請求項13に記載の欠損予測プログラムにおいて、
前記工具データ、前記切削データおよび前記材料データに基づいて、前記切削によって前記工具が前記加工物に印加する切削力を予測し、前記切削力の下で、前記加工物の亀裂進展によって解放される、前記加工物の弾性ひずみエネルギー量である第1エネルギー量を予測することと、
前記切削データおよび前記材料データに基づいて、前記加工物の亀裂進展によって生まれる前記加工物の新しい表面の表面エネルギーである第2エネルギー量を予測することと、
前記第1エネルギー量および前記第2エネルギー量を比較して、前記欠損の発生および/または前記不発生を予測することと
をさらに含む
欠損予測プログラム。
【請求項16】
請求項13~15のいずれか1項に記載の欠損予測プログラムの各工程と、
前記欠損の発生および/または不発生を予測した結果に基づいて、前記工具を用いて前記切削を含む加工を前記加工物に対して行う加工装置を制御するための制御信号を生成することと、
前記制御信号を出力することと
を、コンピュータに実行させるように含む
加工装置制御プログラム。
【請求項17】
請求項16に記載の加工装置制御プログラムの各工程と、
前記制御信号に基づいて前記加工を行うことと
を、コンピュータに実行させるように含む
低靱性加工物製造プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低靱性加工物を切削する低靱性加工物切削装置と、低靱性加工物を製造する低靱性加工物製造方法と、低靱性加工物を製造するために実行する低靱性加工物製造プログラムとに関する。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙製品の分野では、製品性能要求の高まりから、高温時比強度が高い金属間化合物の導入が進んでいる。金属間化合物は、靱性が低く、言い換えれば脆性を有しており、したがって切削加工が非常に難しい。このような材料を、低靱性材または脆性材と呼ぶ。低靱性材の他の例としては、ガラス、セラミックスなどが挙げられる。ここでは、一例として、破壊靱性値が30MPa・m1/2以下である材料を総称して、低靱性材または脆性材と呼ぶ。
【0003】
低靱性材の中でも、特に金属間化合物は、高温時比強度が比較的高いため、加工性が悪い難削材でもある。このように、金属間化合物は、低靱性材であり、かつ、難削材でもあることから、切削加工時に欠損が比較的生じ易い。
【0004】
金属材料を切削する方法として、フライス加工が知られている。フライス加工では、エンドミルなどの工具を適宜な回転速度で回転させ、かつ、工具に対して加工物を適宜な送り量で相対的に移動させることによって、加工物を切削する。金属間化合物をフライス加工によって切削する際には、送り量が増加すると、切削力が増加する一方で、欠損の可能性が高まる。しかし、送り量が低減すると、切削の加工能率(以下、「切削能率」とも記す)が低下する。
【0005】
上記に関連して、特許文献1(特開平09-264815号公報)には、脆弱な粒子を含む複合材料の強度測定方法に係る記載がある。この強度測定方法は、脆弱な粒子の含有率及び粒径並びにマトリックスの破壊靱性値から実物の試験片と同質な仮想試験片を発生させることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平09-264815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低靱性材を切削加工する前に欠損の発生および/または不発生を予測するための低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラムを提供する。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0009】
一実施の形態によれば、欠損予測装置(30)は、記憶装置(34)と、演算装置(33)と、インタフェース(32)とを備える。記憶装置(34)は、工具(23)の物性および形状を表す工具データと、工具(23)を用いて加工物(5)に対して行う切削のパラメータ群を表す切削データと、加工物(5)の物性および形状を表す材料データとを格納する。演算装置(33)は、工具データ、切削データおよび材料データに基づいて、切削力に伴う前記加工物(5)の変形の解析と、前記変形に伴う破壊の解析とを行い、切削による加工物(5)の欠損の発生および/または不発生を予測する。インタフェース(32)は、予測の結果を出力する。
【0010】
一実施形態によれば、欠損予測方法は、工具(23)の物性および形状を表す工具データと、工具(23)を用いて加工物(5)に対して行う切削のパラメータ群を表す切削データと、加工物(5)の物性および形状を表す材料データとを用意することと、工具データ、切削データおよび材料データに基づいて、切削力に伴う前記加工物(5)の変形の解析(S04、S11)と、前記変形に伴う破壊の解析(S05、S12)とを行い、切削による加工物(5)の欠損の発生および/または不発生を予測すること(S06、S12)と、予測の結果を出力することとを含む。
【0011】
一実施形態によれば、低靱性加工物製造プログラムは、工具(23)の物性および形状を表す工具データと、工具(23)を用いて加工物(5)に対して行う切削のパラメータ群を表す切削データと、加工物(5)の物性および形状を表す材料データとを用意することと、工具データ、切削データおよび材料データに基づいて、切削力に伴う前記加工物(5)の変形の解析(S04、S11)と、前記変形に伴う破壊の解析(S05、S12)とを行い、切削による加工物(5)の欠損の発生および/または不発生を予測すること(S06、S12)と、予測の結果を出力することとを含む。低靱性加工物製造プログラムの各工程は、コンピュータによって実行される。
【発明の効果】
【0012】
前記一実施の形態によれば、低靱性材を切削加工する前に欠損の発生および/または不発生を予測することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態による低靭性加工物切削装置の一構成例を示すブロック回路図である。
図2A図2Aは、一実施形態による加工装置の一構成例を示すブロック図である。
図2B図2Bは、一実施形態による加工装置のうち、テーブル、工具および加工物の位置関係の一例を示す俯瞰図である。
図2C図2Cは、一実施形態による工具が加工物を切削する際に生じる切削力について説明するための部分断面図である。
図2D図2Dは、加工物に対して働く切削力の算出方法について説明するための、加工物の部分断面図である。
図2E図2Eは、工具の移動と、加工物のひずみエネルギーとについて説明するための、加工物の部分断面図である。
図3図3は、一実施形態による欠損予測装置の一構成例を示すブロック回路図である。
図4図4は、一実施形態による低靱性加工物製造方法の一構成例を示すフローチャートである。
図5図5は、図3の欠損予測装置の一構成例を、機能ブロックの観点から示すブロック回路図である。
図6A図6Aは、一実施形態による低靱性加工物の製造方法における、切削データに含まれるパラメータ群の一例を示す上面図である。
図6B図6Bは、一実施形態による低靱性加工物の製造方法における、切削データに含まれるパラメータ群の一例を示す側面図である。
図7図7は、パス角度および送り量の組み合わせに対応する応力拡大係数の一例を示す俯瞰棒グラフである。
図8図8は、一実施形態による低靱性加工物製造方法の一構成例を示すフローチャートである。
図9図9は、図3の欠損予測装置の一構成例を、機能ブロックの観点から示すブロック回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面を参照して、本発明による低靱性加工物切削装置、低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラムを実施するための形態を以下に説明する。
【0015】
一実施形態では、複数のパラメータを組み合わせた条件下で低靱性材を切削加工する際に、所望しない欠損が発生するかどうかを、この切削加工を実施する前に、コンピュータシミュレーションによって予測する。
【0016】
より詳細には、破壊力学の観点では、加工物に初期亀裂などの欠陥が内在すると想定した上で、以下のように考える。まず、この亀裂が進展するためには、加工物の表面エネルギーが増大することが必要となる。次に、このような亀裂が進展することによって、加工物の弾性ひずみエネルギー(以降「ひずみエネルギー」ともいう)が解放されて減少する。ここで、表面エネルギーの増分と、ひずみエネルギーの減少分とを比較して、後者が前者を上回ることによって欠損が発生すると考えることができ、言い換えれば、後者が前者を下回っている限りは欠損が発生しないとの予想が成り立つことに発明者は注目した。
【0017】
また、破壊力学の別の観点では、加工物にはその物性値として破壊靱性値K1Cが定義される。破壊靱性値K1Cとは、その材料の破壊に対する粘り強さの特性を示す値である。さらに、加工物を工具によって切削する際に、この切削に係る諸パラメータに基づく応力拡大係数Kが定義される。応力拡大係数Kは、破壊力学の分野などにおいて、亀裂や欠陥が存在する材料の強度評価に用いられる物理量であって、亀裂や欠陥の先端付近の応力分布の強さを表す。ここで、応力拡大係数Kおよび破壊靱性値K1Cを比較して、前者が後者を上回ることによって欠損が発生すると考えることができ、言い換えれば、応力拡大係数Kが、破壊靱性値K1Cを下回っている限りは、欠損が発生しないとの予想が成り立つことに発明者は注目した。
【0018】
表面エネルギーの増分およびひずみエネルギーの減少分を比較して欠損の発生を予測することと、破壊靱性値および応力拡大係数を比較して欠損の発生を予測することは、本質的には同じことである。しかしながら、これら2つの予測では、実際に取られる手法が異なる。そこで、前者の手法については第1の実施形態として、後者の手法については第2の実施形態として、それぞれ説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、一実施形態による低靱性加工物切削装置1の一構成例を示すブロック回路図である。
【0020】
図1の低靱性加工物切削装置1の構成について説明する。低靱性加工物切削装置1は、加工装置2と、制御装置3とを備える。加工装置2は、制御装置3の制御下で、切削を含む加工を低靱性加工物に対して行えるように構成されている。加工装置2は、例えば、CNC(Computer Numerical Control:コンピュータ数値制御)フライス盤である。制御装置3は、図示しない記憶装置に格納された所望のプログラムを、図示しない演算装置が実行して所望の制御信号を生成することによって、加工装置2を制御できるように構成されている。制御装置3は、欠損予測装置30と、インタフェース300とを備える。欠損予測装置30は、加工装置2が所定の条件下で行う加工によって加工物に欠損が発生するか否かを、この加工を開始する前に予測する。制御装置3は、この予測の結果に基づいて、欠損が発生しないような制御信号を生成することが好ましい。この制御信号は、加工装置2を動作させるための切削プログラムであってもよいし、この切削プログラムに含まれるパラメータの集合であってもよい。インタフェース300は、この制御信号を出力する。加工装置2と、制御装置3とは、制御信号を送受信できるように接続されていることが好ましい。
【0021】
図1の加工装置2の一構成例について説明する。図2Aは、一実施形態による加工装置2の一構成例を示すブロック図である。本実施形態による加工装置2は、例えば、ニー(ひざ)型のCNCフライス盤である。加工装置2は、本体21と、テーブル22と、テーブル移動機構221と、主軸231と、主軸移動機構232と、制御回路24と、インタフェース回路241とを備える。一実施形態では、本体21は、一方では地上に設置されており、他方では主軸移動機構232およびテーブル移動機構221を支持している。テーブル22は、一方では加工物固定機構222を用いて加工物を固定するように構成されており、他方ではテーブル移動機構221を介して本体21に対して所定の範囲内で移動可能に接続されている。テーブル移動機構221は、制御回路24の制御下でテーブル22の位置を制御する。主軸231は、一方では図示しないバイスなどによって工具23を交換可能に保持し、他方では本体21に固定された主軸移動機構232に対して回転可能に接続されている。主軸231は、さらに、主軸移動機構232に対して所定の範囲内で移動可能に接続されていてもよい。主軸移動機構232は、制御回路24の制御下で主軸231を回転することによって、主軸231に接続された工具23に回転動力を伝達する。主軸移動機構232は、さらに、制御回路24の制御下で、主軸231を所定の範囲内で移動してもよい。制御回路24は、インタフェース回路241を介して制御装置3から制御信号を受信し、この制御信号に応じてテーブル移動機構221および主軸移動機構232を制御するように構成されている。なお、テーブル22は、制御回路24による制御とは別に、使用者の手動制御によって動作可能であってもよい。また、主軸移動機構232は、制御回路24による制御とは別に、使用者の手動制御によって動作可能であってもよい。
【0022】
図2Aの加工装置2の一動作例について説明する。図2Bは、一実施形態によるテーブル22、工具23および加工物5の位置関係の一例を示す俯瞰図である。一実施形態において、工具23は、エンドミルである。エンドミルは、切削などの加工に用いられる工具であり、略円筒形の形状を有し、その側面および底面に対応する部位に1枚または複数枚の刃を備える。エンドミルは、回転軸61を中心に所定の回転方向62に回転する際に、加工物5のうち、エンドミルの刃に触れる部分を切削する。エンドミルおよび加工物5のうち、片方または両方が移動することで、エンドミルは加工物5を連続的に切削することができる。このとき、加工物5を基準としてエンドミルの回転軸61が移動する方向を、送り方向51と呼ぶ。図2Bの例では、直交座標XYZのZ軸および回転軸61は平行であり、平面XYおよびテーブル22の表面は平行であり、Y方向および送り方向51は平行である。
【0023】
図2Cは、一実施形態による工具23が加工物5を切削する際に生じる切削力7について説明するための部分断面図である。図2Cの部分断面図では、エンドミルの刃の先端が加工物5の入隅表面に接触する様子の一例を示している。このとき、エンドミルの回転エネルギーと、エンドミルおよび加工物5が相対的に移動する運動エネルギーとが、エンドミルおよび加工物5が接触する部分に集中することで、切削力7が発生する。図2Cの例では、切削力7はエンドミルから加工物5に向かう方向に働いている。ただし、より正確には、切削力7は、必ずしも同一平面内に分布していなくてもよい。
【0024】
(第1エネルギー量の定義)
加工物5に切削力7が加わることにより、加工物5の一部が加工物5から分離されて切粉8となり、加工物5の表面には所望の形状が形成される。この加工物5に印加される切削力7は、加工物5、工具23および切削条件に係る諸パラメータを入力したコンピュータシミュレーションによって算出可能である。また、切削力7が変形を生じさせる領域にて、工具23の加工物5に対する相対位置を変化させることなく亀裂を進展させることで減少するひずみエネルギーの減少分を、コンピュータシミュレーションによって算出可能である。なお、この領域におけるひずみの分布と、この領域に蓄えられているひずみエネルギーは、例えば、有限要素法によって解析することもできる。このように切削力7から計算されるひずみエネルギーの減少分を、以降、第1エネルギー量と呼ぶ。
【0025】
図2Dおよび図2Eを参照して、第1エネルギー量を算出する別の方法の一例について説明する。図2Dは、加工物5に対して働く切削力7の算出方法について説明するための、加工物5の部分断面図である。図2Eは、工具23の移動と、加工物5のひずみエネルギーとについて説明するための、加工物5の部分断面図である。
【0026】
図2Dでは、図2Cから加工物5を抜き出して図示している。言い換えれば、図2Dでは工具23の図示を省略している。工具23および加工物5が相対的に移動し、加工物5の一部が切粉8として変形する際、加工物5から工具23に対して、比切削抵抗Kc(ベクトル)と呼ばれる力と、エッジフォースFe(ベクトル)と呼ばれる力とが働く。ここで、本来はベクトルとして表記すべき符号については、直後に続けて「(ベクトル)」と記載する。比切削抵抗Kc(ベクトル)は単位面積あたりの切削抵抗である。切削抵抗は加工物5が切削される際に工具23を押し戻そうとする力であり、切り取り厚さhおよび削り幅bに比例する。エッジフォースFe(ベクトル)は、工具23の刃先の丸みに起因する力であり、切粉8の削り幅bに比例する。なお、図2Dの例では、削り幅bの方向は紙面に直交する軸に対して平行であるので、図示を省略している。図2Dの例では、削り幅bの方向をJ軸と記し、図示が省略されている工具23の移動方向をI軸と記し、I軸およびJ軸の双方に直交する方向をK軸と記している。
【0027】
このように、工具23で加工物5を切削しようとする際に、加工物5から工具23に向けて働く力は、比切削抵抗Kc(ベクトル)、エッジフォースFe(ベクトル)、削り幅bおよび切り取り厚さhで定義することができる。この力は、工具23から加工物5に向けて働く合成切削力R(ベクトル)と釣り合っている。したがって、以下の式が成り立つ。
【数1】
【0028】
図2Eでも、図2Dの場合と同様に、図2Cから加工物5を抜き出して図示している。ここで、以下のような3つの状態を考える。まず、第1の状態(瞬間)において、工具23の刃先は加工物5を切削しており、刃先の先端には加工物5に初めから内在する亀裂(一ヶ所の亀裂進展も許さない場合には、最も危険な方向に最も大きい亀裂を仮定)が存在する。工具23から加工物5に向かう合成切削力はR(ベクトル)であり、加工物5内部の弾性ひずみエネルギーはUであるとする。ここで、この第1の状態から、切削運動を急停止し、工具23と加工物5の間に加えている合成切削力R(ベクトル)をゼロになるまで減少する(除荷する)ことを考える。この時、工具23の刃先は加工物5の表面に接しているが、力は作用していない。これを第0状態とし、この時の工具23の加工物5に対する相対位置を、便宜上、原点と呼ぶ。この第0状態から再び工具23と加工物5の間に合成切削力R(ベクトル)の方向に力を加え、その大きさがRになるまで増大させると、相対位置は原点から位置λ(ベクトル)まで移動し、状態1に戻る。この間、力は移動距離に比例して増大する。したがって、第1の状態における弾性ひずみエネルギーUは、以下の式で算出できる。
【数2】
【0029】
次に、第1の状態(瞬間)において、同じ合成切削力R(ベクトル)を保ったまま、微小な亀裂進展が発生したと仮定する。この状態を第2状態とする。この亀裂進展に伴い、工具23の加工物5に対する相対位置ベクトルは位置λ(ベクトル)から位置λ(ベクトル)まで微小変位Δλ(ベクトル)だけ移動している。したがって、第2の状態におけるひずみエネルギーUは、第1の状態の場合と同様に、以下の式で算出できる。
【数3】
【0030】
このとき、合成切削力R(ベクトル)がR(ベクトル)・Δλ(ベクトル)の仕事を行うのに対して、弾性ひずみエネルギーはUからUに変化することから、弾性ひずみエネルギーの解放量ΔUは、以下の式によって算出できる。
【数4】
【0031】
(第2エネルギー量の定義)
仮定した微小な亀裂進展で生まれる新しい表面の表面エネルギーを、亀裂進展エネルギー、または単に第2エネルギー量と呼ぶ。上記第1エネルギー量がこの第2エネルギー量を上回れば、弾性変形のエネルギーを消費して亀裂が進展し得る。言い換えれば、弾性ひずみエネルギーの解放量がこの亀裂進展エネルギーを上回った場合に、所望しない欠損が発生することが予想される(グリフィスの条件)。
【0032】
この第2エネルギー量は、亀裂進展量の仮定から直接的に数値化することも可能である。すなわち、この第2エネルギー量は、仮定した亀裂進展によって加工物5に生まれる新しい表面の、表面エネルギーである。したがって、加工物5が有する単位面積当たりの表面エネルギーに、仮定した亀裂進展の表面積を乗算することで、第2エネルギー量を算出することができる。あえて言い換えれば、この亀裂進展エネルギーまたは第2エネルギー量は、加工物5に係る諸パラメータを入力した演算またはコンピュータシミュレーションなどによっても算出可能である。
【0033】
なお、一般的な脆性材料において、脆性破壊が発生する際に、これに伴って塑性変形も発生する場合がある。この場合は、第2エネルギー量の定義において、単位面積当たりの表面エネルギーを、単位面積当たりの有効表面エネルギーに置き換えてもよい。ここで、単位面積当たりの有効表面エネルギーは、単位面積当たりの表面エネルギーと、単位面積当たりの塑性ひずみエネルギーとの和である。この場合は、仮定した亀裂進展によるひずみエネルギーの減少分が、その亀裂進展による有効表面エネルギーの増分を超えるときに、その亀裂進展が生じる(グリフィス・オロワン・アーウィンの条件)。
【0034】
本実施形態では、第1エネルギー量および第2エネルギー量を、工具23および加工物5に係るパラメータに基づいてそれぞれ算出して比較することで、実際の切削加工を開始する前に欠損の発生を予測し、欠損が発生しないように諸パラメータの変更を検討することができる。
【0035】
図3の欠損予測装置30の一構成例について説明する。図3は、一実施形態による欠損予測装置30の一構成例を示すブロック回路図である。本実施形態による欠損予測装置30は、バス31と、インタフェース32と、演算装置33と、記憶装置34とを備えている。バス31は、インタフェース32、演算装置33および記憶装置34のそれぞれと電気的に接続されており、インタフェース32、演算装置33および記憶装置34が相互に通信できるように構成されている。インタフェース32は、制御装置3のインタフェース300および加工装置2のインタフェース回路241との間で電気的に接続されており、欠損予測装置30、制御装置3および加工装置2の間の通信を行う。インタフェース32は、さらに他の入出力装置と通信可能に接続されていてもよい。その他の入出力装置には、例えば、表示装置やプリンタなどの出力装置、キーボードやマウスなどの入力装置などが含まれていてもよい。演算装置33は、記憶装置34に格納されているプログラム35を読み出して実行し、このプログラム規定された演算を行うように構成されている。記憶装置34は、演算装置33が実行するプログラム35を読み出し可能に格納するように構成されている。記憶装置34は、さらに、演算装置33による演算結果を格納するように構成されていてもよい。プログラム35は、記録媒体4から読み出されて記憶装置34に格納されてもよい。
【0036】
本実施形態による低靱性加工物切削装置1の一動作、すなわち本実施形態による低靱性加工物製造方法と、低靱性加工物製造プログラムとについて説明する。図4は、一実施形態による低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラムの一構成例を示すフローチャートである。
【0037】
図4のフローチャートについて説明する。図4のフローチャートは、第1ステップS01~第7ステップS07からなる合計7のステップを含んでいる。図4のフローチャートが開始すると、第1ステップS01が実行される。
【0038】
第1ステップS01では、欠損予測装置30に工具データの設定が行われる。工具データに係る情報は記憶装置34に格納されており、演算装置33がこの情報を記憶装置34から読み出すことで、後述する第1エネルギー量の予測を演算装置33が行う際に工具データを適用可能となる。
【0039】
工具データについて説明する。工具データには、工具23を構成する材質の物性を表す工具物性データや、工具23の形状を定義する工具形状データなどが含まれる。一例として、工具23が略円筒形のエンドミルである場合には、工具23の形状は、エンドミルの刃の部分の直径、刃の部分の回転軸方向の長さ、刃数、刃のリード角、刃先角、すくい角および逃げ角、などで定義される。ただし、工具データはこれらの例に限定されない。第1ステップS01の次には、第2ステップS02が実行される。
【0040】
第2ステップS02では、欠損予測装置30に材料データの設定が行われる。第1ステップS01の工具データの場合と同様に、材料データの情報も記憶装置34に格納されており、演算装置33がこの情報を記憶装置34から読み出すことで、材料データが欠損予測装置30に設定される。
【0041】
材料データについて説明する。材料データには、加工物5を構成する材質の物性を表す材料物性データや、加工物5の形状を定義する材料形状データなどが含まれる。
【0042】
材料物性データについて説明する。一例として、加工物5は、その全体または一部が、低靱性材で構成されている。低靱性材とは、靱性が低く、脆性を有しており、切削方法によっては切削加工の途中で所望しない部分が欠損する場合がある。このような意味において低靱性材で構成された加工物5を切削する加工は非常に難しい。そこで、本実施形態では、破壊力学の観点から、加工物5の内部に、初期欠陥がランダムに存在すると仮定する。つまり、様々な規模および方向で定義される複数の初期欠陥が、所定の確率分布で加工物5に内在すると仮定する。このように仮定される複数の初期欠陥のうち、欠損の発生を抑制する観点から最も条件が悪い初期欠陥が、加工物5のうち、工具23による切削力7が及ぶ領域に存在する場合について考える。ここで、最も条件が悪い初期欠陥とは、例えば、仮定された全ての初期欠陥の中でその規模が最も大きい初期欠陥であってもよいし、切削力7によって亀裂進展が発生しやすそうな方向に最も近い方向を向いている初期欠陥であってもよいし、規模の大きさおよび方向の近さに所定の重み付け演算をした結果が最大となる初期欠陥であってもよい。もし、最も条件が悪い初期欠陥が存在する領域においても、切削力7で亀裂進展が発生しないなら、すなわち欠損が発生しないなら、その他の初期欠陥が存在する領域でも同じ切削力7によって欠損は発生しない、と推定できる。
【0043】
低靱性材の物性を表すパラメータには、切削力7の計算に関連するものとして、例えば、比切削抵抗、エッジフォース、せん断強さ、工具23および切粉8の間の摩擦係数、密度、ヤング率、ポアソン比などのうち、少なくとも一部が含まれていることが好ましい。また、低靱性材の物性を表すパラメータには、亀裂進展に関連するものとして、上記に加えて、特に、加工物5を構成する低靱性材の体積弾性率、せん断弾性係数、破壊靱性値K1Cなどが含まれていることが好ましい。
【0044】
材料形状データについて説明する。工具23から加工物5に印加される切削力7は、加工物5の形状によって変化する場合がある。加工物5の形状は、切削加工の工程が進むにつれて変化し続けるので、各タイミングにおける加工物5の形状を必要に応じて把握できることが好ましい。一例として、材料形状として設定される情報には、切削開始前における加工物5の形状と、テーブル22に対する加工物5の位置とを表す情報が含まれる。材料形状として設定される情報には、切削を含む加工が切削データに基づく制御信号に応じて実行された場合に、この加工の開始直前から終了直後まで形状が変化し続ける加工物5の、切削途中における形状を表す情報がさらに含まれてもよい。
【0045】
第3ステップS03では、欠損予測装置30に切削データの設定が行われる。切削データの設定に係る情報も、記憶装置34に格納されている。演算装置33がこの情報を記憶装置34から読み出すことで、切削データが欠損予測装置30に設定される。
【0046】
切削データについて説明する。切削データは、制御装置3が加工装置2を制御するために用いられるパラメータ群を含む。より詳細な具体例としては、切削データには、制御装置3の制御下で加工装置2のテーブル22および工具23を動かすタイミング、方向、速度、距離などを含む複数のパラメータで規定される複数の工程を定義する情報と、これら複数の工程を実行するタイミングおよび順序などを規定する情報とが含まれている。切削データには、切削パスを定義するための情報が含まれている。切削パスは、工具23が加工物5を切削しながら加工物5に対して相対的に移動する経路である。ただし、切削データの内容は、これらの例に限定されない。
【0047】
なお、第1ステップS01~第3ステップS03は、それぞれ独立に実行可能であり、したがって実行する順番は変更可能であり、また、その一部または全てを並列に実行しても良い。第1ステップS01~第3ステップS03の全てが完了すると、次に第4ステップS04が実行される。
【0048】
第4ステップS04では、演算装置33が第1エネルギー量予測プログラムを実行して、工具23から加工物5に印加される切削力7に基づいて第1エネルギー量を算出する。より詳細には、第1ステップS01~第3ステップS03で設定された工具データ、材料データおよび切削データに基づいて、工具23による加工物5への切削加工の様子をコンピュータシミュレーションで予測することによって、工具23が加工物5に印加すると予測される切削力7が算出される。切削力7は、例えば、前述した合成切削力Rの場合と同様に算出することが可能である。そして、予測された切削力7に基づいて、加工物5のひずみエネルギーの減少分が算出され、すなわち第1エネルギー量が算出される。第1エネルギー量は、例えば、前述した弾性ひずみエネルギーの解放量ΔUの場合と同様に算出することが可能である。
【0049】
第5ステップS05では、第2エネルギー量予測プログラムが実行されて第2エネルギー量が算出される。より詳細には、第2ステップS02で設定された材料物性値に基づいて、仮定した亀裂進展によって加工物5に生まれる新しい表面の表面エネルギーをコンピュータシミュレーションで予測することによって、加工物5に亀裂が存在していた場合にこの亀裂が進展するために必要と予測される第2エネルギー量が算出される。
【0050】
なお、第4ステップS04および第5ステップS05は、それぞれ独立に実行可能であり、したがって実行する順番は変更可能であり、また、その一部または全てを並列に実行してもよい。第4ステップS04および第5ステップS05が完了すると、第6ステップS06が実行される。
【0051】
第6ステップS06では、欠損の発生および/または不発生の予測が行われる。具体的には、第4ステップS04で算出された第1エネルギー量と、第5ステップS05で算出された第2エネルギー量との比較を行う。その結果、第1エネルギー量が第2エネルギー量以上である場合には、切削加工によって加工物5に欠損が発生するとの予想が成立するので、欠損予測装置30は欠損の発生を予測する。言い換えれば、第1エネルギー量が第2エネルギー量未満であれば、切削加工によって加工物5に欠損は発生しないとの予想が成立するので、欠損予測装置30は欠損の不発生を予測する。
【0052】
欠損が発生する(YES)と予測された場合は、第6ステップS06の次に第1ステップS01~第6ステップS06が再度実行される。このとき、後述する変更演算部334が工具データ、材料データおよび切削データのうちのいずれか1つあるいは複数の各種パラメータを見直して変更する。パラメータの見直しは、例えば、変更演算部334が所定のプログラムを実行して自動的に行ってもよいし、変更演算部334がAI(Artificial Intelligence:人工知能)を用いて自動的に行ってもよいし、利用者が手動で行ってもよい。いずれの場合も、パラメータを見直した結果を変更演算部334が記憶装置34に格納することが好ましい。一例として、変更の対象となるパラメータのそれぞれについて、使用可能な上限値および下限値を予め記憶装置34に格納しておき、所定のプログラムによってそれぞれのパラメータを対応する範囲の中で自動的に増加または減少してもよいし、それぞれのパラメータを対応する範囲の中からランダムに自動的に選択してもよい。また、別の一例として、複数のパラメータの間で見直しを行う優先順位を予め記憶装置34に格納しておき、優先順位が高いパラメータから順に見直しを行い、その間に他のパラメータは固定してもよいし、複数のパラメータを同時に見直してもよい。さらに別の一例として、複数のパラメータの組み合わせおよび/または複数のパラメータの変更の組み合わせと、欠損の発生または不発生との間の関係性について行った機械学習の結果を予め記憶装置34に格納しておき、変更演算部334が実現する推論エンジンが欠損の不発生が見込まれるパラメータの組み合わせを探索してもよい。反対に、欠損が発生しない(NO)と予測された場合は、第6ステップS06の次に第7ステップS07が実行される。
【0053】
第7ステップS07では、欠損が発生しないと予測されたパラメータの組み合わせを用いて、切削を含む加工を行う。具体的には、制御装置3の図示しない演算装置が所定のプログラムを実行することによって所望の制御信号を生成し、この制御信号に応じて加工装置2が加工物5を加工することによって加工物5は欠損を発生させずに切削される。第7ステップS07が終了すると、図4のフローチャートも終了する。
【0054】
図3の欠損予測装置30の一構成例を、図4のフローチャートに含まれるステップの観点から説明する。図5は、図3の欠損予測装置30の一構成例を、機能ブロックの観点から示すブロック回路図である。図5の欠損予測装置30は、図3に示したとおり、バス31と、インタフェース32と、演算装置33と、記憶装置34とを備えている。図5の欠損予測装置30は、データ設定部330と、第1エネルギー量予測演算部331と、第2エネルギー量予測演算部332と、欠損予測演算部333と、変更演算部334とを備えている。データ設定部330は、図4のフローチャートのうち、第1ステップS01~第3ステップS03を実行する仮想的な機能ブロックである。第1エネルギー量予測演算部331は、図4のフローチャートのうち、第4ステップS04を実行する仮想的な機能ブロックである。第2エネルギー量予測演算部332は、図4のフローチャートのうち、第5ステップS05を実行する仮想的な機能ブロックである。欠損予測演算部333は、図4のフローチャートのうち、第6ステップS06を実行する仮想的な機能ブロックである。変更演算部334は、図4のフローチャートのうち、第6ステップS06の一部を実行する仮想的な機能ブロックである。図5に示した他の構成については、図3に示した構成と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0055】
なお、ここでは加工装置2がニー(ひざ)型のCNCフライス盤である場合について説明したが、本実施形態はこの例に限定されず、切削を含むあらゆる加工に適用されてもよい。
【0056】
本実施形態によれば、低靱性材の切削加工において欠損が発生するかどうかを、切削データ、工具データおよび材料データに基づいて、切削加工を実施する前に、コンピュータシミュレーションによって予測することができる。また、切削加工によって欠損が発生することが予測された場合は、欠損が発生しないと予測されるようになるまで、切削加工に係る各種パラメータを見直すことができる。すなわち、切削加工の実施前に、欠損が発生しないと予測される各種パラメータを予測結果として出力させ、この条件を用いて切削加工を行うことで、欠損の発生を予め抑えて切削加工を行うことができる。また欠損が発生しないと予測される各種パラメータを欠損予測装置30に複数表示させて切削の加工能率をより高く設定するための条件を選定することができる。あるいは、欠損予測装置30に切削能率をより高く設定するための条件を表示させることもできる。その結果、高い切削能率を満足しつつ低靱性材の切削加工における歩留まりの向上が期待される。
【0057】
(第2の実施形態)
本実施形態でも、工具データ、切削データおよび材料データに係る各種パラメータを組み合わせた所定の切削条件下で低靱性材を切削加工する際に、所望しない欠損が発生するかどうかを、この切削加工を実施する前に、コンピュータシミュレーションによって予測する。ただし、本実施形態では、この予測は、応力拡大係数Kが、破壊靱性値K1Cを上回れば、低靱性材に所望しない欠損が発生し得る、という判定基準に基づいて行われる。この判定基準は、言い換えれば、応力拡大係数Kが、破壊靱性値K1Cを下回っている限りは、欠損が発生しないことを意味する。ここで、本実施形態で応力拡大係数Kおよび破壊靱性値K1Cを比較した結果に基づいて欠損の発生について判定することは、第1の実施形態で第1エネルギー量および第2エネルギー量を比較した結果に基づいて欠損の発生について判定することと、本質的には同じことであるが、そのために行われる計算手法が異なる。なお、本実施形態ではさらに、この切削条件下における、切削の加工能率を予測することも出来る。
【0058】
本実施形態で用いられる低靱性加工物切削装置1は、第1実施形態で用いられたそれと同じ構成であるので、さらなる詳細な説明を省略する。同様に、本実施形態で用いられる加工装置2および制御装置3についても、第1実施形態で用いられたそれと同じ構成であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0059】
応力拡大係数Kについて説明する。応力拡大係数Kは、破壊力学の分野などにおいて、亀裂や欠陥が存在する材料の強度評価に用いられる物理量であって、亀裂や欠陥の先端付近の応力分布の強さを表す。応力拡大係数Kは、制御装置3の制御下で加工装置2が加工物5に対して行う加工の切削条件に含まれる複数のパラメータに基づいて算出される。これら複数のパラメータには、工具23を構成する材料の種類、工具23の刃の逃げ角、工具23の加工物5に対する相対的な送り量、切り込み量、パス角度、リード角などが含まれる。
【0060】
工具23のパス角度について説明する。図6Aは、一実施形態による低靱性加工物の製造方法における、切削データに含まれるパラメータ群の一例を示す上面図である。図6Aの例では、加工物5は直方体の形状を有しており、その各辺は直交座標のX軸、Y軸またはZ軸のいずれかに対して平行であるように配置されている。ここで、Z軸は、例えば鉛直方向に対して平行であり、工具23の回転軸61は、Z軸に対してほぼ平行である。また、Y軸は、Z軸に直交しており、後述するように、基準となる工具23の送り方向51Aに対して平行である。X軸は、Y軸およびZ軸の双方に直交している。工具23の回転軸61およびZ軸の間のリード角については後述する。
【0061】
図6Aの例では、工具23が加工物5に対して相対的に移動する方向として、3つの送り方向51A~51Cが示されている。第1の送り方向51Aは、Y軸に対して平行である。言い換えれば、工具23が、加工物5に対して相対的に、送り方向51Aに沿って移動して切削が開始する際に加工物5に初めて接触する面50Aは、送り方向51Aに対して直交している。また、工具23が、加工物5に対して相対的に、送り方向51Aに沿って移動して切削が終了する際に加工物5から最後に離れる面50Bも、送り方向51Aに対して直交している。ここでは、この送り方向51Aを基準として、パス角度を定義する。言い換えれば、送り方向51Aのパス角度は0度である。
【0062】
図6Aの例では、第2の送り方向51Bは、第1の送り方向51Aに対して、工具23から見て反時計回りの方向に、角度52Bだけ離れている。この角度52Bを、送り方向51Bに対応するパス角度52Bと呼ぶ。反対に、第3の送り方向51Cは、第1の送り方向51Aに対して、時計回りの方向に、角度52Cだけ離れている。この角度52Cを、送り方向51Cに対応するパス角度52Cと呼ぶ。以降、送り方向51A~51Cを区別しない場合に、単に送り方向51と呼ぶ場合がある。同様に、パス角度52B、52Cを区別しない場合に、単にパス角度52と呼ぶ場合がある。
【0063】
応力拡大係数Kは、加工物5の工具23の刃が接触する部位の周辺の形状や、この部位において工具23から加工物5に印加される力の方向などにも依存する。図6Aの例において、+Z方向から見て時計回りの回転方向62で回転する工具23が加工物5を切削する際に、加工物5から見て工具23がいずれかの送り方向51に沿って面50Aから入り面50Bから離脱するように移動する場合について考える。それまで加工物5から離れていた工具23が回転しながら送り方向51に沿って移動して工具23の刃が加工物5の面50Aに入るとき、面50Aおよび送り方向51の間の角度が鋭角である場合には欠損がより発生し易く(例えば、鋭角部53A)、反対にこの角度が鈍角である場合には欠損がより発生し難い(例えば、鈍角部54C)。同様に、それまで加工物5を切削していた工具23が回転しながら送り方向51に沿って移動して加工物5の面50Bから離脱して工具23の刃が加工物5の外側から面50Bに最後に接触するとき、面50Bおよび送り方向51の間の角度が鋭角になる場合には欠損がより発生し易く(例えば、鋭角部54B)、反対にこの角度が鈍角になる部位では欠損がより発生し難い(例えば、鈍角部53D)。同様に、それまで加工物5を切削していた工具23が回転しながら移動して加工物5の内側から面50Aまたは面50Bに接触するとき、面50Aまたは面50Bと、送り方向51との間の角度が鋭角である場合には欠損がより発生しやすく(例えば、鋭角部53C、54D)、反対にこの角度が鈍角になる場合には欠損がより発生し難い(例えば、鈍角部54A、53B)。これらの角度は、送り方向51に対応するパス角度52などによって変動する。また、鋭角部53Aにおいて工具23の刃が鋭角部53Aを押す向きの切削力7よりも、鋭角部53Cにおいて工具23の刃が鋭角部53Cを引く向きの切削力7の方が、他の諸パラメータが同じであれば、欠損を発生させやすい。
【0064】
工具23のリード角について説明する。図6Bは、一実施形態による低靱性加工物の製造方法における、切削データに含まれるパラメータの一例を示す側面図である。図6Bの例では、工具23の回転軸61が、送り方向51に垂直な面に対して、所定の角度だけ傾いている。この角度を、リード角63と呼ぶ。また、図には示さないが、送り方向51に垂直な面内で、ピックフィード方向に垂直な方向に対して回転軸61が傾く角度をティルト角と呼ぶ。これらのリード角及びティルト角を変化すると、切削終了時において、若干、刃先部での切り取り厚さや、加工物5の端面と加工面(刃先と切削方向を含む面)がなす角度が変化する。このため、リード角63およびティルト角も、応力拡大係数Kを変動させる切削条件のパラメータである。
【0065】
なお、エンドミルの刃のねじれ角、すなわち刃の稜線とエンドミルの回転軸61の間の角度を「リード角」と呼ぶ場合もあるので、区別に留意されたい。なお、切削時にエンドミルの刃の端部が描く曲線は、例えば、リード角(図6Bに示すリード角)63がゼロ度である場合にはトロコイド曲線であって、リード角63がゼロ度以外の角度である場合にはトロコイド曲線および螺旋の中間的な曲線であっても良い。
【0066】
切削加工の各パラメータから算出された応力拡大係数Kと、加工物5を構成する低靱性材の破壊靱性値K1Cを比較することについて説明する。ここで、説明を簡単にするために、応力拡大係数Kに係る各種パラメータのうち、パス角度および送り量だけを変動させて、それぞれの場合における応力拡大係数Kを算出する場合について説明する。ただし、実際には、異なる切削条件ごとに応力拡大係数Kを算出するために、切削条件に含まれる他の2つのパラメータを変動させる場合もあるし、2つより多くのパラメータを変動させる場合もある。
【0067】
図7は、パス角度および送り量の組み合わせに対応する応力拡大係数Kの一例を示す俯瞰棒グラフである。図7には、5行4列に配置された合計20本の棒グラフが描かれている。これらの棒グラフは、5種類のパス角度と、4種類の送り量とをそれぞれ組み合わせた場合にそれぞれ生じると予測される20種類の応力拡大係数Kの値を、棒の高さで表している。
【0068】
パス角度の座標軸には、パス角度1~パス角度5の値が示されている。パス角度1~パス角度5は、添えられた数字が大きいほど、対応するパス角度が大きいが、必ずしもこれらの数字に比例しない。送り量の座標軸に示されている送り量1~送り量4の値についても同様である。
【0069】
図7に示された20本の棒グラフのうち、一部の棒グラフは、2色に塗り分けられている。塗り分けられている棒グラフとは、送り量が送り量3または送り量4である10本の棒グラフと、送り量が送り量2に等しく、かつ、パス角度がパス角度1に等しい1本の棒グラフの、合計11本の棒グラフである。塗り分けられている11本の棒グラフの全てにおいて、2色の塗り分け位置は、応力拡大係数Kの同じ値に対応している。この値は、低靱性材が欠ける条件の閾値に等しい。言い換えれば、これら11本の棒グラフは、その長さが示す応力拡大係数Kが、破壊靱性値K1Cを上回っていることを示している。反対に、残る9本の棒グラフは、その長さが示す応力拡大係数Kが、破壊靱性値K1Cを下回っていることを示している。
【0070】
本実施形態では、対応する応力拡大係数Kが破壊靱性値K1Cを下回る範囲で、複数のパラメータの組み合わせを、切削条件の候補として選択する。本実施形態では、さらに、これらの候補の中から最も切削能率が高い組み合わせを、切削条件として選択することが好ましい。この切削能率が高い組み合わせを選択するための基準の一例としては、まず、加工に必要な時間がなるべく短く切削条件を選択することが考えられる。図7の例では、応力拡大係数Kが破壊靱性値K1Cを下回るためには、送り量1~4のうち、送り量1および2が選択可能である。ここで、加工に必要な時間は、送り量1の場合よりも、送り量2の場合の方が短くなるので、切削能率を高くする観点からは送り量2を選択することが好ましい。次に、加工に必要な時間が同じであれば、欠損を抑制する観点などから安全率がより高い切削条件を選択することが考えられる。図7の例では、送り量2を選択した上で応力拡大係数Kが破壊靱性値K1Cを下回るためには、パス角度1~5のうち、パス角度2~5が選択可能である。ここで、応力拡大係数Kが最小となるパス角度はパス角度5である。したがって、図7の例では、送り量2およびパス角度5の組み合わせを選択することが好ましい。ただし、実際には、図7に示した送り量およびパス角度以外にも、切り取り厚さ、削り幅など多数のパラメータが切削条件に含まれることが考えられるので、本実施形態によるパラメータの組み合わせの選択基準は上記の例に限定されない。
【0071】
本実施形態による低靱性加工物切削装置1の動作、すなわち本実施形態による低靱性加工物製造方法と、低靱性加工物製造プログラムとについて説明する。図8は、一実施形態による低靱性加工物製造方法および低靱性加工物製造プログラムの一構成例を示すフローチャートである。
【0072】
図8のフローチャートについて説明する。図8のフローチャートは、第1ステップS11~第5ステップS15からなる合計5のステップを含んでいる。図8のフローチャートが開始すると、第1ステップS11が実行される。
【0073】
第1ステップS11では、欠損予測装置30が、工具データ、切削データおよび材料データに含まれる複数のパラメータの組み合わせに基づいて、応力拡大係数Kを算出する。第1ステップS11の次には、第2ステップS12が実行される。
【0074】
第2ステップS12では、欠損予測装置30が、工具データ、切削データおよび材料データに含まれる複数のパラメータの、第1ステップS11と同じ組み合わせに基づいて、破壊靱性値K1Cおよび応力拡大係数Kを比較する。第2ステップS12の次には、第3ステップS13が実行される。
【0075】
第3ステップS13では、欠損予測装置30が、工具データ、切削データおよび材料データに含まれる複数のパラメータの、第1ステップS11および第2ステップS12と同じ複数の組み合わせのそれぞれについて、切削能率を算出する。第3ステップS13の次には、第4ステップS14が実行される。
【0076】
なお、第1ステップS11~第3ステップS13は、それぞれ独立に実行可能であり、したがって実行する順番は変更可能であり、また、その一部または全てを並列に実行しても良い。第1ステップS11~第3ステップS13の全てが完了すると、次に第4ステップS14が実行される。
【0077】
第4ステップS14では、欠損予測装置30が、第1ステップS11~第3ステップS13で得られた結果に基づいて、切削加工を行うための切削条件を判定し、この判定の結果が所定の条件を満足する場合には切削条件を決定する。このとき、欠損予測装置30は、対応する応力拡大係数Kが破壊靱性値K1Cを下回る範囲で、複数のパラメータの組み合わせの中から、最も切削能率が高い組み合わせを、切削条件として選択して決定する。第4ステップS14の次には、第5ステップS15が実行される。
【0078】
第5ステップS15では、欠損が発生しないと予測されたパラメータの組み合わせを用いて、切削を含む加工を行う。具体的には、制御装置3の図示しない演算装置が所定のプログラムを実行することによって所望の制御信号を生成し、この制御信号に応じて加工装置2が加工物5を加工することによって加工物5は欠損を発生させずに切削される。第5ステップS15が終了すると、図8のフローチャートも終了する。
【0079】
図3の欠損予測装置30の一構成例を、図8のフローチャートに含まれるステップの観点から説明する。図9は、図3の欠損予測装置30の一構成例を、機能ブロックの観点から示すブロック回路図である。図9の欠損予測装置30は、図3に示したとおり、バス31と、インタフェース32と、演算装置33と、記憶装置34とを備えている。図9の欠損予測装置30は、応力拡大係数算出部335と、比較部336と、切削能率算出部337と、切削条件決定部338と、切削加工実行部339とを備えている。記憶装置34は、破壊靱性値データベース341を備えている。破壊靱性値データベース341は、低靱性材などの破壊靱性値K1Cを読み出し可能に格納している。応力拡大係数算出部335は、図8のフローチャートのうち、第1ステップS11を実行する仮想的な機能ブロックである。比較部336は、図8のフローチャートのうち、第2ステップS12を実行する仮想的な機能ブロックである。ここで、比較部336は、加工物5の材料に対応する破壊靱性値K1Cを、破壊靱性値データベース341から読み出してもよい。切削能率算出部337は、図8のフローチャートのうち、第3ステップS13を実行する仮想的な機能ブロックである。切削条件決定部338は、図8のフローチャートのうち、第4ステップS14を実行する仮想的な機能ブロックである。切削加工実行部339は、図8のフローチャートのうち、第5ステップS15を実行する仮想的な機能ブロックである。図9に示した他の構成については、図3に示した構成と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0080】
本実施形態によれば、切削加工によって所望しない欠陥が発生しない範囲内で、切削能率が最大または最大に準ずる値となるような、各種パラメータの組み合わせを選択することによって、歩留まりおよび切削能率を同時に向上することが期待される。例えば、欠陥を発生させないための安全性を考慮して、各種パラメータの組み合わせの中から、応力拡大係数Kが破壊靱性値K1Cを上回らない範囲から所定の安全マージンを除いた所定の範囲内で切削能率が最大となる組み合わせを選択しても良い。
【0081】
以上、発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態に説明したそれぞれの特徴は、技術的に矛盾しない範囲で自由に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 低靱性加工物切削装置
2 加工装置
21 本体
22 テーブル
220 テーブル面
221 テーブル移動機構
222 加工物固定機構
23 工具
231 主軸
232 主軸移動機構
24 制御回路
241 インタフェース回路
3 制御装置
30 欠損予測装置
300 インタフェース
31 バス
32 インタフェース
33 演算装置
330 データ設定部
331 第1エネルギー量予測演算部
332 第2エネルギー量予測演算部
333 欠損予測演算部
334 変更演算部
335 応力拡大係数算出部
336 比較部
337 切削能率算出部
338 切削条件決定部
339 切削加工実行部
34 記憶装置
341 破壊靱性値データベース
35 プログラム
4 記録媒体
5 加工物
50A、50B 面
51、51A、51B、51C 送り方向
52、52B、52C パス角度
53A、53C、54B、54D 鋭角部
53B、53D、54A、54C 鈍角部
61 回転軸
62 回転方向
63 リード角
7 切削力
8 切粉
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9