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特許7486119レーザーダイオードバー、レーザーダイオードバーを用いた波長ビーム結合システム、及びレーザーダイオードバーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】レーザーダイオードバー、レーザーダイオードバーを用いた波長ビーム結合システム、及びレーザーダイオードバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/323 20060101AFI20240510BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20240510BHJP
   H01S 5/40 20060101ALI20240510BHJP
   H01S 5/14 20060101ALI20240510BHJP
   H01S 5/22 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01S5/323 610
H01S5/026 610
H01S5/40
H01S5/14
H01S5/22 610
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020082605
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021177528
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 章雄
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-108993(JP,A)
【文献】特開2016-054295(JP,A)
【文献】特開2006-066869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーであって、
(0001)面を面方位とし、且つ、(0001)面からm軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を付与された基板面を有する窒化物半導体基板と、
前記窒化物半導体基板上に形成された第1導電型クラッド層、活性層、及び第2導電型クラッド層からなる積層構造体と、
エミッターの導波路方向が前記オフ角の主軸方向に対して垂直となるように、前記積層構造体に、ストライプ状に形成された複数のエミッターと、
を備え
前記オフ角の主軸方向の分布の傾きが、前記複数のエミッターのロック波長の分布の傾きに対して、下記式(1)を満たす、
レーザーダイオードバー。
0<ΔD≦((Δλ EC_bar +3.2)/Lt)/30…式(1)
(但し、ΔD(角度/mm)は前記オフ角の主軸方向の分布の傾きを表し、Lt(mm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の長さを表し、Δλ EC_bar (nm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の両端位置のロック波長差を表す)
【請求項2】
前記オフ角の主軸方向の分布の傾き、及び、前記複数のエミッターのロック波長の分布が、下記式(2)を満たす、
請求項1に記載のレーザーダイオードバー。
((ΔλEC_bar-1)/Lt)/0.3≦ΔD≦((ΔλEC_bar+1)/Lt)/30…式(2)
(但し、ΔD(角度/mm)は前記オフ角の主軸方向の分布の傾きを表し、Lt(mm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の長さを表し、ΔλEC_bar(nm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の両端位置のロック波長差を表す)
【請求項3】
前記オフ角の主軸方向の分布の傾き、及び、前記複数のエミッターのロック波長の分布が、下記式(3)を満たす、
請求項1に記載のレーザーダイオードバー。
0<ΔD≦((ΔλEC_bar+1.2)/Lt)/30…式(3)
(但し、ΔD(角度/mm)は前記オフ角の主軸方向の分布の傾きを表し、Lt(mm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の長さを表し、ΔλEC_bar(nm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の両端位置のロック波長差を表す)
【請求項4】
前記複数のエミッターのロック波長の分布の傾きが、前記複数のエミッターのASE(Amplified Spontaneous Emission)波長の分布の傾きと正負が同じ向きである、
請求項1に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項5】
前記レーザーダイオードバーの導波路方向の長さが0.3mm以上8mm以内である、
請求項1~のいずれか一項に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項6】
前記レーザーダイオードバーの導波路方向の長さが1mm以上6mm以内である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項7】
前記オフ角のオフ角の主軸方向がa軸方向である、
請求項1~のいずれか一項に記載のレーザーダイオードバー。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載のレーザーダイオードバーと、
前記レーザーダイオードバーの前記複数のエミッターそれぞれから出射された複数のレーザー光を回折する回折格子と、
前記回折格子によって回折されたレーザー光の一部を反射して前記レーザーダイオードバー側に戻し、自身と前記レーザーダイオードバーの反射膜との間で外部共振させる外部共振ミラーと、を備える、
波長ビーム結合システム。
【請求項9】
波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーの製造方法であって、
(0001)面を面方位とし、且つ、(0001)面からm軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を付与された基板面を有する窒化物半導体基板を準備する工程と、
前記窒化物半導体基板上に、第1導電型クラッド層、活性層及び第2導電型クラッド層からなる積層構造体を形成する工程と、
前記窒化物半導体基板が有するオフ角の主軸方向と、エミッターの導波路方向とが垂直となるように、前記積層構造体に、ストライプ状に配列された複数のエミッターを形成する工程と、
前記窒化物半導体基板から、前記複数のエミッターを有する前記レーザーダイオードバーを切り出す工程と、
を含み、
前記オフ角の主軸方向の分布の傾きが、前記複数のエミッターのロック波長の分布の傾きに対して、下記式(4)を満たす、
レーザーダイオードバーの製造方法。
0<ΔD≦((Δλ EC_bar +3.2)/Lt)/30…式(4)
(但し、ΔD(角度/mm)は前記オフ角の主軸方向の分布の傾きを表し、Lt(mm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の長さを表し、Δλ EC_bar (nm)は前記レーザーダイオードバーの長手方向の両端位置のロック波長差を表す)
【請求項10】
前記窒化物半導体基板は、GaN基板である、
請求項に記載のレーザーダイオードバーの製造方法。
【請求項11】
前記オフ角の主軸方向は、a軸方向である、
請求項又は10に記載のレーザーダイオードバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波レーザーダイオードバー、レーザーダイオードバーを用いた波長ビーム結合システム、及びレーザーダイオードバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長の異なった複数のビームを一点に結合することで、高パワーのレーザービームを得るシステムとして、波長ビーム結合システム(WBC(Wavelength Beam Combining)システム)が知られている。WBCシステムとして、例えば特許文献1に記載のシステムがある。
【0003】
WBCシステムは、レーザーダイオードバー(LD(Laser Diode)バー)、ビームツイスターユニット(BTU(Beam Twister Lens Unit))、回折格子、及び外部共振ミラー等を有する。
【0004】
LDバーは、複数のエミッターを有し、各エミッターからビームを出射する。LDバーから出射された複数のビームは、BTUによって個々に90度回転される。これにより、個々のスポットが相互干渉することを防ぐ。BTUから出たビームは、透過型又は反射型の回折格子に入射し、回折格子は、入射したビームをその波長で決定される回折角で回折し出射する。回折格子から出射されたビームは、外部共振ミラーに入射する。外部共振ミラーは部分透過ミラーであり、入射するビームの一部を回折格子の方向に垂直反射する。これにより、LDバーの個々のエミッターと回折格子と外部共振ミラーとの位置関係で一意に決定される波長(ロック波長と呼ぶ)が、LDバーのリアミラーと外部共振ミラーとの間でフィードバックし、外部共振発振することでレーザービームが出力される。
【0005】
LDバーの個々のエミッターはそれぞれ回折格子からの相対位置が異なるため、少しずつ異なる波長で外部共振発振することとなるが、外部共振ミラーにて一点に結合されるので、高いパワーのレーザービームを出力することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-106707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、WBCシステムでは、LDバーのゲインピーク波長(つまりLDバー自身の構成に起因するLDバーの発振波長であり、ASE(Amplified Spontaneous Emission)波長とも呼ばれる)と、外部共振によるロック波長との差が大きくなると、ビームが発振できなくなるおそれがある。LDバー内の複数のエミッターのうち一部のエミッターでしか外部共振発振ができないと、WBCシステムが非効率なシステムとなる。
【0008】
本開示は、以上の点を考慮してなされたものであり、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させることができるレーザーダイオードバー、これを用いた波長ビーム結合システム、及びレーザーダイオードバーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーであって、
(0001)面を面方位とし、且つ、(0001)面からm軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を付与された基板面を有する窒化物半導体基板と、
前記窒化物半導体基板上に形成された第1導電型クラッド層、活性層、及び第2導電型クラッド層からなる積層構造体と、
エミッターの導波路方向が前記オフ角の主軸方向に対して垂直となるように、前記積層構造体に、ストライプ状に形成された複数のエミッターと、
を備えるレーザーダイオードバーである。
【0010】
又、他の局面では、
上記レーザーダイオードバーと、
前記レーザーダイオードバーの前記複数のエミッターそれぞれから出射された複数のレーザー光を回折する回折格子と、
前記回折格子によって回折されたレーザー光の一部を反射して前記レーザーダイオードバー側に戻し、自身と前記レーザーダイオードバーの反射膜との間で外部共振させる外部共振ミラーと、を備える、
波長ビーム結合システムである。
【0011】
又、他の局面では、
波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーの製造方法であって、
(0001)面を面方位とし、且つ、(0001)面からm軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を付与された基板面を有する窒化物半導体基板を準備する工程と、
前記窒化物半導体基板上に、第1導電型クラッド層、活性層及び第2導電型クラッド層からなる積層構造体を形成する工程と、
前記窒化物半導体基板が有するオフ角の主軸方向と、エミッターの導波路方向とが垂直となるように、前記積層構造体に、ストライプ状に配列された複数のエミッターを形成する工程と、
前記窒化物半導体基板から、前記複数のエミッターを有する前記レーザーダイオードバーを切り出す工程と、
を含むレーザーダイオードバーの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一態様に係る波長ビーム結合システムの概略図
図2】本開示の一態様に係る波長ビーム結合システムの概略図
図3】本開示の一態様に係るLDバーの斜視図
図4】本開示の一態様に係る1つのLDバーと回折格子との関係を示す図
図5】LDバー内の各エミッターのロック波長を示す図
図6】LDバーが発振できる波長の範囲を示す図
図7】ASEスペクトルの例を示す図
図8】ゲインピーク波長とロック波長との関係を示す図
図9】ゲインピーク波長とロック波長との関係を示す図
図10】本開示の一態様に係る基板のオフ角の主軸方向を示す図
図11】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図12】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図13】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図14】従来技術のLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図15】従来技術のLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図16】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図17】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図18】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図19】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図20】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
図21】本開示の一態様に係るLDバーの製造方法におけるウェハ上のLDバーを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、波長ビーム結合システム10の概略図である。実際の波長ビーム結合(WBC(Wavelength Beam Combining))システムは図1に示した要素以外の構成要素を有するが、それらは省略されている。
【0016】
WBCシステム10は、1つ以上のLDバー100を含むレーザーダイオードバーアレイ(以下、LDバーアレイともいう)100Aと、回折格子200と、外部共振ミラー300と、を有する。なお、LDバー100と、回折格子200との間には、BTU等の光学系(図示せず)が設けられていてよい。LDバー100が、レーザーダイオードバーアレイ100Aを構成する。
【0017】
本実施形態では回折格子200として透過型の回折格子を用いているが、本開示の技術は、図2に示すような反射型の回折格子200’を用いたWBCシステム10’に適用することも可能である。
【0018】
図3に、レーザーダイオードバー(以下、LDバーともいう)100の斜視図を示す。LDバー100は、互いに間隔をおいて形成された複数のエミッターの注入領域(以下、エミッターとも称する)101を有する。複数のエミッターは、ストライプ状に、LDバー100の長手方向に沿って一列に配列されている。電源供給部(図示せず)からLDバー100内の全てのエミッター101に並列に電圧が供給されることで、各エミッター101に対応するレーザーエレメントから導波路方向(即ち、外部共振方向)に同時にレーザービームが出射される。
【0019】
尚、LDバー100のエミッター101は、例えば、窒化物半導体基板上に、第1導電型クラッド層、活性層、及び、第2導電型クラッド層の積層体に形成されている。また、LDバー100は、その上面にP側電極を有し、その下面にN側電極を有している(図3には図示せず)。また、LDバー100の光が出射される側の端面全体に透過膜が設けられ、透過膜と対向する光が出射されない側の端面全体に反射膜が設けられている(図3には図示せず)。
【0020】
図3では、リッジストライプと呼ばれる凸部ストライプ状の電流注入領域を持つレーザー構造としているが、他のレーザー構造でも構わない。LDバー100は、埋め込み構造を有していてもよく、その場合には、選択的に電流の注入領域101を形成すればよい。
【0021】
WBCシステム10,10’では、LDバー100の各エミッターから出射されるビームのうち、回折格子200の回折条件を満たし、かつ、外部共振ミラー300により垂直反射される波長が元のエミッター部に帰還することで、外部共振が発生しレーザー発振できる。
【0022】
各LDバー100及び各エミッター101の発振波長は、回折格子200とLDバー100との配置によって一意に決まる。この波長をロック波長と呼ぶ。
【0023】
LDバー100のゲインピーク波長(すなわち、LDバー100の構成に起因するLDバー100の発振波長)と、外部共振によるロック波長との差が大きくなると、ビームが発振しにくくなる。
【0024】
ここで、回折格子200において、回折格子の周期をd、入射角をα、出射角をβ、波長をλ、次数をmとすると、回折格子200の回折条件は、下記式(1)で表すことができる。
d(sinα+sinβ)=mλ…式(1)
【0025】
なお、ここで実際に有効な次数はm=1だけである回折格子配置を選択する。
【0026】
図4は1つのLDバー100と回折格子200との関係を示す。図5は、1つのLDバー100内の各エミッター101に対する、WBCシステム10のロック波長の例を示す。図5の例では、1つのLDバー100に50個のエミッター101が形成され、1番目のエミッター101から50番目のエミッター101までの長さ(図4のLDバー100の長さW)が10mmの例である。
【0027】
3000本/mmの溝周期の回折格子(d=0.333μm)を用いて、400~500nm程度の波長の光を入射角αが45°となるように設定した場合、LDバー100の長さWが10mm、LDバー100から回折格子までの距離Lが2.6mのとき、LDバー100の両端位置に存在するエミッター101間でのロック波長の差ΔλEC_bar(以下、「LDバー100の両端位置のロック波長差ΔλEC_bar」と称する)は、計算上で約1.0nmである。また、同じようにLDバー100の長さWが10mm、LDバー100から回折格子までの距離Lが1.3mのとき、LDバー100の両端位置のロック波長の差ΔλEC_barは約2.0nmとなる。
【0028】
WBCシステム10にLDバー100を適用した際、LDバー100のエミッター101がLDバー100の長手方向の存在する位置に応じて、当該エミッター101から出射されるレーザー光の回折格子200への入射角が変化することになる。ここで、LDバー100内の各エミッター101のロック波長は、典型的には、LDバー100の長手方向に沿って次第に減少または増加する。例えば、10mmのLDバー100内では、一端側のエミッター101のロック波長と他端側のエミッター101のロック波長とは1~2nm程度異なる。
【0029】
図6は、LDバー100の一個のエミッター101が発振できる波長の範囲を示す。図6中の曲線は、エミッター101のゲインスペクトル(以下、ASEスペクトルともいう)であり、LDバー100のゲインの波長依存性を示す。LDバー100が発振できるのはゲインが所定値以上の波長に限られる。換言すれば、LDバー100のゲインピーク波長から所定範囲内のロック波長は発振し、所定範囲外のロック波長は発振しない。図6の例では、ロック波長1は発振できる波長の範囲内なので発振するが、ロック波長2は発振できる波長の範囲外なので発振しない。
【0030】
図7に、LDバー100のエミッター101のASEスペクトルの典型例を示す。ASEスペクトルはLDバー100の発振前のELスペクトル(Electro-luminescence、電流注入発光スペクトル)と定義され、本開示においては、注入電流値I=0.8×Ithの時のELスペクトルと定義する。IthはLDバー100の内部共振発振の閾値電流である。λASEはASEスペクトルのピーク波長である。
【0031】
ASEスペクトルのピーク強度を基準にスライスレベルSL値0.8以上のバンド幅B2WASE_barは3.2nm、SL値0.9以上のバンド幅B1WASE_barは1.2nmである。WBCシステム10,10’にて外部共振によるレーザー発振を実現するには、λASE±(B2WASE_bar/2)、すなわちλASE±1.6nmの範囲内に外部共振によるロック波長が一致していることが重要である。ここで、λASE±(B1WASE_bar/2)、すなわちλASE±0.6nmの範囲内に外部共振によるロック波長が位置すれば、WBCシステム10,10’の更なる高性能化が可能となる。
【0032】
図8及び図9は、LDバー100の各エミッター101のゲインピーク波長(以下、ASE波長ともいう)と、WBCシステム10によるロック波長との関係を示す。上述したように、ロック波長は回折格子200への入射角の変化に対応した傾きをもつ。又、図8図9とでは、LDバー100の各エミッター101のゲインピーク波長の分布は、LDバー100の製造方法の相違により、異なる傾きを有するものとなっている(図10を参照して後述)。
【0033】
図8の例のように、LDバー100内のゲインピーク波長の分布が、ロック波長の傾きの正負と同じ向きの場合で、全てのエミッター101において、ゲインピーク波長とロック波長との差が所定範囲内に収まっている場合は、全てのエミッター101を発振させることができる。又、図8では、LDバー100内のゲインピーク波長の分布の傾きが、LDバー100の長手方向に沿った各位置のロック波長の分布の傾きと近くなっている。そのため、LDバー100内の各位置で、エミッター101のゲインピーク波長がロック波長近くに存在することになり、各エミッター101の出力を最大化することが可能となる。
【0034】
これに対して、図9の例のように、LDバー100内のゲインピーク波長の分布の一部が、LDバー100の両端位置のロック波長の範囲から外れている場合、その範囲外となる一部のエミッター101を発振させることができない。
【0035】
尚、図9の例では、LDバー100内のゲインピーク波長の分布を全体として引き上げることで、LDバー100の各エミッター101のゲインピーク波長を、LDバー100の両端位置のロック波長の範囲内に収めることができる。しかしながら、かかる構成としても、LDバー100内のゲインピーク波長の分布の傾きが、LDバー100の長手方向に沿った各位置のロック波長の分布の傾きと比較して小さいため、LDバー100の有する複数のエミッター101の中で、ゲインピーク波長がロック波長と乖離し、出力が小さくなるエミッター101が発生してしまう。
【0036】
かかる観点から、本開示に係るLDバー100の製造方法は、LDバー100内の各エミッター101のゲインピーク波長の分布を、図8のように調整するべく、エミッター101の形成方向と窒化物半導体基板のオフ角の主軸方向との関係の調整を図っている。
【0037】
図10を参照してLDバー100の製造方法を説明する。LDバー100の製造では、まず、ウェハ400上に発光層を含む半導体レーザー積層構造をエピタキシャル成長により形成し、その後、積層されたウェハ400上にエミッター101部としてリッジストライプ構造を形成し、その後、P側電極及びN側電極を形成する。次いで、複数のLDバー100を切り出し、LDバーのリア端面に高反射コート膜を、フロント端面に反射防止コート膜を形成する。さらに、切り出した複数のLDバー100を組み合わせることで、WBCシステム10で用いられるレーザーダイオードバーアレイ100Aが作製される。
【0038】
ウェハ400としては、窒化物半導体基板が用いられ、特にGaN基板を用いることが好ましい。波長350nm以上550nm以下の波長帯の半導体レーザーを作製する場合には、GaN基板を母材ウェハとして用いることが好ましい。
【0039】
通常、GaN基板は、活性層の結晶出来栄えの向上を目的として、ある軸に対して、一定のオフ角(0°より大きく、0.3°~0.7°程度)を傾けている。一般に、GaN基板の基板面は、(0001)を面方位とし、そのオフ角の主軸方向(オフ角が0°の結晶面に対する基板面の傾き方向を表す。以下同じ)が、±m軸方向又は±a軸方向に設定される。尚、図10では、ウェハ400の基板面のオフ角の主軸方向は、+a軸方向に設定されている。
【0040】
また、GaN基板は、熱膨張係数が異なる異種基板を使った結晶成長により形成されるため、一般に、SiやGaAsに比べると、GaN基板内に結晶反りが生じやすい。本願の発明者らの知見によると、GaN基板内の結晶反りに起因して、GaN基板の(0001)面にオフ角を設けてインゴットからGaN基板を切り出すと、GaN基板の基板面内においては、図10に示すように、オフ角の主軸方向に沿って、オフ角が次第に大きくなる。そして、InGaN層をエピタキシャル成長させた際の半導体レーザーの発光波長(即ち、ゲインピーク波長)は、GaN基板のオフ角の変化に応じて30nm/°程度の割合で変化する。
【0041】
GaN基板面内に存在するオフ角分布は半導体レーザーの発光層の出来栄え、特に発光波長に大きく影響する。一般的に波長350nm以上550nm以下の波長帯の半導体レーザーを作製する場合、発光層にはInを含むInGaN層が用いられることが好ましい。InGaN層のIn組成はGaN基板面内に存在するオフ角分布に影響を受け、オフ角が大きい領域ではIn組成が小さく、発振波長が短波となりやすい。
【0042】
つまり、LDバー100に形成された複数のエミッター101それぞれの発光波長は、当該エミッター101が形成された位置のウェハ400のオフ角に応じて異なる波長となる(例えば、図8図9を参照)。
【0043】
そして、本願の発明者らは、かかる知見をもとに、LDバー100の製造方法の最適化を図り、LDバー100の導波路方向が、ウェハ400の基板面のオフ角の主軸方向に対して垂直となるように、LDバー100を形成する、という技術的思想に想到した。
【0044】
かかる構成によって、LDバー100の複数のエミッター101を、ウェハ400のオフ角が漸減又は漸増する方向に沿って配列することが可能となるため、当該複数のエミッター101の発光波長(ゲインピーク波長)の分布を、LDバー100の長手方向に沿って漸減又は漸増させることが可能となる。つまり、これにより、LDバー100の長手方向の各位置におけるロック波長の分布の傾きにあわせるように、LDバー100の長手方向の各位置におけるゲインピーク波長の分布を傾かせることができ、図8のように、LDバー100の各エミッター101において、ゲインピーク波長をロック波長付近に存在させることが可能である。そして、これによって、LDバー100のすべてのエミッター101を発振可能とすることができ、加えて、各エミッター101の出力を最大化することが可能となる。
【0045】
又、かかる構成によって、ゲインピーク波長を、エミッター101の導波路方向に沿って一様とすることが可能となる。これによって、LDバー100の各エミッター101の出力を最大化することが可能となる。
【0046】
なお、LDバー100の基板面のオフ角の主軸方向がLDバー100の導波路方向に対して垂直であるとは、基板面のオフ角の主軸方向と導波路方向との交わる角度が略90°であればよく、実際の基板面のオフ角の主軸方向は導波路方向に対して正確に垂直ではなく、垂直からある程度角度を持っている。
【0047】
以下、上記した製造方法で製造したLDバー100の性能の検証結果について、説明する。
【0048】
<実施例1>
本実施例では、LDバー100の各エミッター101のロック波長が、LDバー100のエミッター101のゲインピーク波長の発振可能な範囲に含まれるよう、図10に示すような、オフ角の主軸方向:+a軸方向、オフ角度勾配:0.004°/mm、中心オフ角:0.46°のGaN基板上にLDバー100を形成した。LDバー100のバー長は10mm、共振器長は2mmである。図10に示すように、ウェハ400面内のオフ角の主軸方向は+a軸方向であるため、ウェハ400から切り出されたLDバー100の長手方向にオフ角の主軸方向が存在している。
【0049】
図11に、本実施例に係る各LDバー100のASEスペクトルのピーク波長λASEの、LDバー100の長手方向における分布幅(図11の各LDバー100内の数値を参照)を示す。本実施例では、LDバー100の両端位置のロック波長差ΔλEC_barは2.0nmである。LDバー100の長手方向のサイズは10mmである。LDバー100のエミッター101のλASE±1.6nm分布の範囲内に、当該エミッター101のロック波長が含まれるLDバー100は白抜き、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±1.6nm分布の範囲外にロック波長分布が位置するLDバー100は黒く示す。
【0050】
図11では、ウェハ400面内に形成された複数のLDバー100のすべて(60バー/60バー)において、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±1.6nm分布の範囲内にロック波長分布が含まれる。したがって、ウェハ400から製造されるLDバー100は全て外部共振によるレーザー発振が可能である。
【0051】
図12に、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバー100のASEスペクトルのピーク波長λASEの、LDバー100の長手方向における分布幅(図12の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図12では、図11の場合と同様のウェハ400において、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nm分布の範囲内にロック波長分布が含まれるLDバー100は白抜き、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nm分布の範囲外にロック波長分布が位置するLDバー100は黒く示す。LDバー100の両端位置のロック波長差ΔλEC_barは2.0nm、LDバー長は10mmである。
【0052】
図12に示す本実施例のウェハ400面内では、ロック波長分布が各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲外にあるLDバー100が存在しているものの、81.7%(49バー/60バー)のLDバー100が白抜き、すなわち各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nm分布の範囲内にロック波長分布が含まれるLDバー100である。したがって、比較的高い割合でより高性能なWBCシステム10,10’を実現可能なLDバー100を得ることができていることが分かる。
【0053】
本実施例ではGaNウェハ400のオフ角の主軸方向を+a軸方向としており、導波路方向、すなわちm軸方向にはオフ角がほぼ存在していない(0.0005°/mm以下)。そのため、図10に示すようにウェハ400から切り出したLDバー100は、導波路方向には一様なASEスペクトルのピーク波長λASEを有する。LDバー100が導波路方向に対して一様なλASEを有することで、レーザー発振のゲインを最大化することができる。そのため、このようなLDバー100を用いることで、WBCシステム10,10’の高効率化及び高出力化が可能である。
【0054】
図13に、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバー100のASEスペクトルのピーク波長λASEの、導波路方向における分布幅(図13の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図13では、ウェハ400面内のLDバー100の2mm長の導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバー100は白抜き、範囲外にあるLDバー100は黒く示す。
【0055】
図13を参照すると、ウェハ400面内において導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーは98%(59バー/60バー)存在する。このことから、高い割合で、導波路方向におけるλASEが一定の範囲内にあるLDバー100を得ることができ、ウェハ400からLDバー100を製造する際に、高い歩留まりで高品質のLDバー100を製造することができていることが分かる。
【0056】
なお、製品対象としては、ウェハ400面内に形成されたLDバー100のうち、図12及び図13のいずれでも白抜きで示されたLDバー100を用いることが特に好ましい。すなわち、LDバー100のロック波長分布がλASE±1.6nm分布の範囲内にあり、かつ、導波路方向のASEスペクトルのピーク波長λASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあることが特に好ましい。なお、図12及び図13から、両方の条件を満たすLDバー100はウェハ面内に80%(48バー/60バー)存在する。したがって、高い歩留でWBCシステムの出力を最大化可能な非常に高品質のLDバー100を得ることができていることが分かる。
【0057】
図14に、従来技術に係るLDバーの製造方法において、ウェハ上に形成した各LDバーのASEスペクトルのピーク波長λASEの、LDバー100の長手方向における分布幅(図14の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図14では、オフ角の主軸方向:+m軸方向、オフ角度勾配:0.009°/mm、中心オフ角:0.38°のGaN基板上にLDバーを形成する。各LDバーのバー長は10mm、共振器長は2mmである。
【0058】
図14では、ウェハにおいて、各LDバーの中心及び両端のエミッター101のλASE±1.6nm分布の範囲内にロック波長分布が含まれるLDバーは白抜き、各LDバーの中心及び両端のエミッター101のλASE±1.6nm分布の範囲外にロック波長分布が位置するLDバーは黒く示す。LDバー100の両端位置のロック波長差ΔλEC_barは2.0nmである。図14のウェハ面内では、各LDバーの中心及び両端のエミッター101のλASE±1.6nm分布の範囲内にロック波長が含まれるLDバーは65%(39バー/60バー)のみ存在している。
【0059】
図15は、図14と同様に従来技術に係るLDバーの製造方法において、ウェハ上に形成した各LDバーのASEスペクトルのピーク波長λASEの、導波路方向における分布幅(図15の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図15では、ウェハ面内のLDバーの2mm長の導波路方向のASEスペクトルのピーク波長λASE分布が、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバー100は白抜き、範囲外にあるLDバーは黒く示す。
【0060】
図15のウェハでは、オフ角の主軸方向が+m軸方向であるため、製造されるLDバー内にオフ角度分布による波長分布が発生してしまう。そのため、導波路方向に対して十分なASEスペクトルのピーク波長λASEの一様性を得ることが出来ず、図15のウェハ面内で、導波路方向のASEスペクトルのピーク波長に係るλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーは81%(49バー/60バー)のみである。
【0061】
図14及び図15から、LDバー100のロック波長分布がλASE±1.6nm分布の範囲内にあり、かつ、導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバー100は55%(34バー/60バー)しかない。したがって、従来技術に係る製造方法では、高品質なLDバー100を製造する際の歩留まりが低下する。
【0062】
以上のように、本実施例に係る製造方法で形成したLDバー100と、従来技術に係る製造方法で形成したLDバーと、を比較すると分かるように、LDバー100の基板面のオフ角の主軸方向を、LDバー100の導波路方向に対して垂直に設定することで、高出力なLDバー100を製造することが可能である。
【0063】
<実施例2>
本実施例では、実施例1と同様の方法で、LDバー100をオフ角の主軸方向:+a軸方向、オフ角度勾配:0.009°/mm、中心オフ角:0.44°のGaN製のウェハ400上に形成する。実施形態1と同様に、LDバー100のバー長は10mm、共振器長は2mmである。本実施例は、オフ角度勾配が0.009°/mmに設定されている点で、実施例1と相違する。
【0064】
図16に、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバー100のλASEの、LDバー100の長手方向における分布幅(図16の各LDバー100内の数値を参照)を示す。LDバー100の両端位置のロック波長差ΔλEC_barは2.0nmである。図16では、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nm分布の範囲内にロック波長分布が含まれるLDバー100は白抜き、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nm分布の範囲外にロック波長分布が位置するLDバー100は黒く示す。
【0065】
図16に示す本実施例のウェハ400面内では、ロック波長分布が各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲外にあるLDバー100が存在しているものの73.3%(44バー/60バー)のLDバー100が白抜き、すなわち各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nm分布の範囲内にロック波長分布が含まれるLDバー100である。したがって、オフ角度勾配を0.009°/mmとする場合にも、比較的高い割合でより高性能なWBCシステム10,10’を実現可能なLDバー100を得ることができていることが分かる。
【0066】
図17に、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバー100のλASEの、導波路方向における分布幅(図17の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図17では、ウェハ400面内のLDバー100の2mm長の導波路方向のλASE分布が、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーを白抜き、範囲外にあるLDバー100は黒く示す。
【0067】
図17を参照すると、ウェハ400面内において導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバー100は86.7%(52バー/60バー)存在する。このことから、高い割合で、導波路方向におけるλASEが一定の範囲内にあるLDバー100を得ることができ、ウェハ400からLDバー100を製造する際に、高い歩留まりで高品質のLDバー100を製造することができていることが分かる。
【0068】
なお、ウェハ400面内に形成されたLDバー100のうち、図16図17の両方で、白抜きで示されたLDバー100、すなわち、LDバー100のロック波長分布がλASE±1.6nm分布の範囲内にあり、かつ、導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあることを満たすLDバー100は、ウェハ400内に61.7%(38バー/60バー)存在する。したがって、高い歩留でWBCシステム10,10’の出力の最大化が可能な非常に高品質のLDバー100を得ることができることが分かる。
【0069】
実施例1及び2ではLDバー100を形成するウェハ400のオフ角の主軸方向を+a軸方向、オフ角度勾配を0.004~0.009°/mm、LDバー100のバー長及び共振器長をそれぞれ10mm及び2mmとしているが、様々なLDバー100のバー長にてオフ勾配を適正化することで使用することが可能である。
【0070】
WBCシステム10,10’の適正化を実現するにはLDバー100の長手方向におけるオフ角度勾配ΔDを、下記式(2)の範囲内となるように設定することが好ましい。
0<ΔD≦((ΔλEC_bar+3.2)/Lt)/30…式(2)
(但し、Lt(mm)はLDバー100のバー長、ΔλEC_barはLDバー100の両端位置のロック波長差(nm)である)
【0071】
更に、高性能なWBCシステム10,10’を構築するには、LDバー100の長手方向に対してオフ角度勾配ΔDを、下記式(3)の範囲内となるように設定することが好ましい。
((ΔλEC_bar-1)/Lt)/0.3≦ΔD≦(ΔλEC_bar+1)/Lt)/30…式(3)
【0072】
尚、上記式(2)及び式(3)は、下記式(4)が充足する場合に好適な条件である。
0>((ΔλEC_bar-1.2)/Lt)/30 …式(4)
【0073】
但し、下記式(5)の状態においては、LDバー100の両端位置のロック波長差が、下記式(6)の範囲内となるように、WBCシステム10,10’を設定すればよい。
0>((ΔλEC_bar-1.2)/Lt)/30…式(5)
0<ΔD≦((ΔλEC_bar+1.2)/Lt)/30…式(6)
【0074】
なお、WBCシステム10,10’の出力を最大化可能な高品質のLDバー100を得る観点から、オフ角度勾配ΔDは、上記式(2)及び(3)の両方、又は上記式(2)及び(4)の両方を満たすことが好ましい。
【0075】
<実施例3>
本実施例では、実施例1と同様の方法で、LDバー100をオフ角の主軸方向+a軸方向、オフ角度勾配0.004°/mm、中心オフ角0.46°のGaN製のウェハ400上に形成する。又、実施例1と同様に、LDバー100のバー長は10mmである。本実施例は、LDバー100の共振器長が1mmに設定されている点で、実施例1と相違する。
【0076】
図18は、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバーのλASEの、導波路方向における分布幅(図18の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図18では、ウェハ400面内のLDバー100の2mm長の導波路方向のλASE分布が、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバー100を白抜き、範囲外にあるLDバー100は黒く示す。
【0077】
図18に示すように、1mmの共振器長を持つLDバー100に対しては導波路方向のλASE分布が小さく、ウェハ400面内において導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーは100%(120バー/120バー)である。このことから、共振器長が1mmの場合にも、高い割合で、導波路方向におけるλASEが一定の範囲内にあるLDバー100を得ることができ、ウェハ400からLDバー100を製造する際に、高い歩留まりで高品質のLDバー100を製造することができていることが分かる。
【0078】
<実施例4>
本実施例では、実施例1と同様の方法で、LDバー100をオフ角の主軸方向+a軸方向、オフ角度勾配0.004°/mm、中心オフ角0.46°のGaNウェハ400上に形成する。実施形態1と同様に、LDバー100のバー長は10mmである。本実施例は、LDバー100の共振器長が4mmに設定されている点で、実施例1と相違する。
【0079】
図19は、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバーのλASEの、導波路方向における分布幅(図19の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図19では、ウェハ400面内のLDバー100の2mm長の導波路方向のλASE分布が、各LDバーの中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーを白抜き、範囲外にあるLDバーは黒く示す。
【0080】
図19に示すように、4mmの共振器長を持つLDバー100に対しても、ウェハ400面内において導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーは90%(27バー/30バー)存在する。このことから、共振器長が4mmの場合にも、高い割合で、導波路方向におけるλASEが一定の範囲内にあるLDバー100を得ることができ、ウェハ400からLDバー100を製造する際に、高い歩留まりで高品質のLDバー100を製造することができていることが分かる。
【0081】
<実施例5>
本実施例では、実施形態1と同様の方法で、LDバー100をオフ角の主軸方向+a軸方向、オフ角度勾配0.004°/mm、中心オフ角0.46°のGaNウェハ400上に形成する。実施例1と同様に、LDバー100のバー長は10mmである。本実施例は、LDバー100の共振器長が6mmに設定されている点で、実施例1と相違する。
【0082】
図20は、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバーのλASEの、導波路方向における分布幅(図20の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図20では、ウェハ400面内のLDバー100の2mm長の導波路方向のλASE分布が、各LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバー100を白抜き、範囲外にあるLDバー100は黒く示す。
【0083】
図20に示すように、6mmの共振器長を持つLDバー100に対しても、ウェハ400面内において導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバー100は78%(14バー/18バー)存在する。このことから、共振器長が4mmの場合にも、高い割合で、導波路方向におけるλASEが一定の範囲内にあるLDバー100を得ることができ、ウェハ400からLDバー100を製造する際に、高い歩留まりで高品質のLDバー100を製造することができていることが分かる。
【0084】
<実施例6>
本実施例では、実施例1と同様の方法で、LDバー100をオフ角の主軸方向+a軸方向、オフ角度勾配0.004°/mm、中心オフ角0.46°のGaNウェハ400上に形成する。実施例1と同様に、LDバー100のバー長は10mmである。本実施例は、LDバー100の共振器長が8mmに設定されている点で、実施例1と相違する。
【0085】
図21は、本実施例にてウェハ400上に形成した各LDバー100のλASEの、各LDバー100内(導波路方向)における分布幅(図21の各LDバー100内の数値を参照)を示す。図21では、ウェハ400面内のLDバー100の2mm長の導波路方向のλASE分布が、各LDバーの中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーを白抜き、範囲外にあるLDバーは黒く示す。
【0086】
図21に示すように、8mmの共振器長を持つLDバー100に対しても、ウェハ400面内において導波路方向のλASE分布が、LDバー100の中心及び両端のエミッター101のλASE±0.6nmの範囲内にあるLDバーは64%(9バー/14バー)存在する。このことから、共振器長が4mmの場合にも、高い割合で、導波路方向におけるλASEが一定の範囲内にあるLDバー100を得ることができ、ウェハ400からLDバー100を製造する際に、高い歩留まりで高品質のLDバー100を製造することができていることが分かる。
【0087】
上述の実施例1~6においては、LDバー100の共振器長1mm以上8mm以下の範囲内のLDバーを作成し、外部共振にてレーザー発振を実現させて、WBCシステム10,10’を構築している。通常の内部共振型の単一LDにて使用されている典型的な共振器長が0.3mm~1mm程度であることを考えれば、0.3mm以上であれば外部共振にてレーザー発振を実現させることが出来る。また、実施例1~6により共振器長は1mm以上、6mm以下が歩留の観点からは望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示のレーザーダイオードバー及び波長ビーム結合システムは、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させることができるため、高いパワーの加工システムに適用できる。
【符号の説明】
【0089】
10、10’ 波長ビーム結合システム
100 レーザーダイオードバー
100A レーザーダイオードバーアレイ
101 注入領域
200、200’ 回折格子
300 外部共振ミラー
400 ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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