(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ロープ降下器具
(51)【国際特許分類】
F16B 45/00 20060101AFI20240510BHJP
A62B 1/14 20060101ALI20240510BHJP
A63B 29/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F16B45/00 F
A62B1/14 A
A63B29/02 Z
(21)【出願番号】P 2020115982
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】517059447
【氏名又は名称】釘尾 育実
(72)【発明者】
【氏名】釘尾 育実
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-010338(JP,A)
【文献】特開2014-142055(JP,A)
【文献】実開平02-080215(JP,U)
【文献】実開昭60-142314(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 45/00- 47/00
A62B 1/00- 5/00
A62B 35/00- 99/00
A63B 29/02
F16C 11/00- 11/12
F16C 21/00- 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
降下用のロープが挿通される上端リング部と、作業者を支持する
カラビナが接続される貫通孔を有する下端リング部とを備え、前記下端リング
部の前記貫通孔には、さらに、樹脂製中空円筒状の連結環が弾性部材を介して
圧入されていると共に、無負荷状態で、前記連結環と下端リング部とは非接触
となるように前記弾性部材が配設されていることを特徴とするロープ降下器具。
【請求項2】
前記連結環の前記下端リング部と対向する部位にはテーパ面が形
成されており、無負荷状態で、前記弾性部材は、前記下端リング部の内壁面と
前記連結環のテーパ面とに接触するように介装されていることを特徴とする請
求項1に記載のロープ降下器具。
【請求項3】
前記上端リング部と前記下端リング部との間には、さらに中抜き
孔が形成されており、前記中抜き孔は、前記上端リング部よりも前記下端リン
グ部に近接して形成されており、かつ、当該中抜き孔には、
第二の弾性部材が
充填されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のロープ降下器具。
【請求項4】
前記下端リング部と対向する前記中抜き孔の外周形状は、前記下
端リング部の貫通孔の外周形状に倣って形成されていることを特徴とする請求
項3に記載のロープ降下器具。
【請求項5】
前記中空円筒状の連結環の少なくとも下半分の形状は、円弧形状
であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のロープ降下器具。
【請求項6】
前記連結環の内壁面は、内側に凸の一定の曲率を有する曲面形状
に形成されており、狭隘部の径は、前記カラビナの外径とほぼ同等に形成され
ていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のロープ降下器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸垂下降する人間を任意に停止又は緩やかに下降させるためのロープ降下器具に関するものであり、特に、静寂性を要する特殊作業等に好適な消音性に優れたロープ降下器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ロッククライミングや建物外壁作業等の際に、ロープを用いて懸垂下降する人間を任意に停止又は緩下降させるために、カラビナやエイト環等の金属製部材を組み合わせたロープ降下器具が知られている(例えば、特許文献1参照)
【0003】
ここで、特許文献1には、小ループを形成したロープを挿通するためのロープ穴を有するリング部と、このリング部に付設され小ループ状のロープを掛けるフックと、リング部を回動させるためのレバーと、リング部に付設され人間の体重を支える部材(例えば、カラビナ)の連結手段とを備えたロープ降下器具が開示されている。
【0004】
ところで、上述したようなロープ降下器具は、一般に多様な用途に用いられ、例えば高所または航空機(回転翼機を含む)などから人員がロープ(ザイル)及び降下器具を用いて低所または床面へ懸垂降下する、いわゆるラペリング作業にも用いられる。
【0005】
そして、このようなラペリング作業では、隠密行動(例えば、人質籠城事案における被疑者確保のための近接接近行動や危機対処機関の特殊部隊等による急襲制圧作戦など)が求められる場合があり、かかる用途においては、作業時の静寂性が必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された先行技術では、エイト環とカラビナとを接続する際や、特に、降下作業終了後のロープ取り外し時および事後の移動時に、エイト環とカラビナとが接触する金属性(高音)の接触音が生じ、警察機関の被疑者確保のための接近行動や危機対処機関の特殊部隊等の降下作業に支障をきたす(被疑者等の対象者や敵の部隊に居所や隠密行動を察知される)といった問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は上述のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、作業時の静寂性に優れたロープ降下器具を簡易な構成で安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
⇒上記の課題を解決するために、本考案のロープ降下器は、以下の手段を採用することにより以下の作用効果を生じるようにした。本考案に係るロープ降下器の構成は、本体と、本体に取り付けられる消音機能部とから成る。
降下用のロープが挿通される上端リング部と、作業者を支持するカラビナが接続される貫通孔を有する下端リング部とを備え、前記下端リング部の前記貫通孔には、さらに、樹脂製中空円筒状の連結環が弾性部材を介して圧入されていると共に、無負荷状態で、前記連結環と下端リング部とは非接触となるように前記弾性部材が配設され、下端リング部と対向する部位にはテーパ面が形成されており、無負荷状態で、前記弾性部材は前記下端リング部の内壁面と前記連結環のテーパ面とに接触するように介装されている。
上端リング部と前記下端リング部との間には、さらに中抜き孔が形成されており前記中抜き孔は、前記上端リング部よりも前記下端リング部に近接して形成される。且つ、当該中抜き孔には、前記弾性部材が充填されている。
連結環の内壁面は、内側に凸の一定の曲率を有する曲面形状に形成されており、狭隘部の径は、前記カラビナの外径とほぼ同等に形成されていることを特徴とする。
本発明のロープ下降器は、ロープにより懸垂下降する際、器具同士の接続により生じる金属同士の接触音を低減させるためのロープ下降器であって、既存の降下器具(エイト環)を容易に流用可能として、警察ならびに軍事用等特殊作業の際に要求される降下作業の静寂性を簡易に且つ安価に実現することができる。また、その現場や想定訓練において運用(使用)されている器材と同一の(習熟し、慣れ親しんだ)降下器具とすることが、出来ることで、器材の導入から習熟するまでに要する時間も省略できる利点もある。
また、消音機能部を形成するに当たっては、降下器具側への切削加工などを一切要しないため、既存のエイト環等の機械的強度(破壊荷重)を損なうことなく、当該性能をそのまま担保することできる。つまり簡易性と安価性、そして強度の担保性とを具備することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るロープ降下器具は、金属同士の接続において発生する金属性の接触音を低減させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るロープ降下器具は、降下作業における優れた静寂性を既存の降下器具を流用可能としつつ、簡易な構成で安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態1係るロープ降下器具の構成を示す模式的斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るロープ降下器具の使用状態を示す模式的斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る連結環の構成を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係るロープ降下器具の構成を示す模式的斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態3に係るロープ降下器具の構成を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係るロープ降下器具の一実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、
図1は本実施の形態に係るロープ降下器具の構成を示す模式図、
図2は使用状態を示す模式図、
図3は連結環の構成を示す模式図である。
<実施形態1>
【0013】
本実施形態に係るロープ降下器具1は、
図1に模式的に示すように、略逆三角形状のロープ孔12を有し、左右に扇状に伸びたアーム14を有する中空の上端リング部10と、中央に円形状の貫通孔32を有する下端リング部30とが一体的に形成されている。そして、下端リング部30の貫通孔32には、さらに、中空円筒状の樹脂製の連結環50が圧入されており、この連結環50の内側に形成された連結孔(貫通孔)52が、人間の体重を支える部材であるカラビナKBと連結されるようになっている。
なお、下端リング部30の貫通孔32は、必ずしも円形状である必要はないが、応力集中を防ぐという観点からは、少なくとも貫通孔32の(重力方向)下半分は円弧状(例えば、ハート型や逆おむすび型等)であることが好ましい。
【0014】
また、本実施の形態において、上記連結環50は、弾性部材70を介して下端リング部30の貫通孔32に圧入されており、無負荷状態において、連結環50と下端リング部30(貫通孔32)とが非接触となるように配設されている。
【0015】
図2に模式的に示すように、上端リング部10のロープ孔12には、ロープRPが、上端リング部10の背面及び前面の交互に渡って掛け回されており、ロープRPと接触する貫通孔32の内周面や外周面等の角部は、摩耗によるロープRPへのダメージを軽減する等のために丸み面取り(R付け)されている。
一体形成された上端リング部10及び下端リング部30は、軽量高強度の高い機械的性質を有する高力アルミニウム合金(7075、6061等)や高力チタン合金(6Al-4V等)にて形成することが好ましい。なお、本実施の形態では、アルミニウム合金にて形成されている。
【0016】
一方、下端リング部30に圧入された連結環50の連結孔52には、開閉できる部品(ゲート)を有するカラビナKBが連結(接続)され、当該カラビナKBには、人間を吊り支持するハーネス(ライフベルト等)が繋がれている。本実施の形態では、カラビナKBは、上端リング部10及び下端リング部30と同様な金属(アルミニウム合金又はスチール)にて形成されている。
【0017】
また、本実施の形態では、耐荷重、耐熱性、耐候性、耐薬品性等の観点から、連結環50はGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)にて形成されていると共に、弾性部材70はHNBR(水素化ニトリルゴム)にて形成されている。
【0018】
図3に拡大して示すように、連結環50は、厚さ方向両端部が中央部よりも幅方向外側に突出したフランジ状(鍔状)に形成されていると共に、連結環50の厚さ(高さ)は、下端リング部30(上端リング部10)の厚さよりも厚く(高く)形成されており
上部フランジ55U及び下部フランジ55Dはそれぞれ、下端リング部30の外表面から突出している。これにより、降下作業中の人間の姿勢(特に、降下中の人間のスイング動作等により発生する圧縮荷重、捩れ荷重等に対して、連結環50が脱落することを未然に防止している。
【0019】
また、上部フランジ55U及び下部フランジ55Dの厚さ方向内側(上部フランジ55Uの直下及び下部フランジ55Dの直上)にはそれぞれ、弾性部材70を嵌め込むための取付け溝57が形成されている。すなわち、本実施の形態において、弾性部材70はOリング状に形成されており、上部弾性部材70Uは、上部取付け溝57Uに装着され、下部弾性部材70Dは、下部取付け溝57Dに装着されるようになっている。
【0020】
なお、本実施の形態において、フランジ55U(55D)の最大外径は、下端リング部30の最小内径より若干大き目(下端リング部30の最小内径の+5~+10%程度)に設定されている。
【0021】
上部フランジ55U及び下部フランジ55Dはそれぞれ、内側部551、中央部553、外側部555として階層的に形成されており、内側部551、外側部555にはそれぞれテーパ面551T,555Tが形成されている。また、下端リング部30の貫通孔32の内壁面(内周面)320の上下端部にもテーパ面320Tが形成されている。
なお、テーパ面の形状としては、消音性の観点から曲面状としたほうがよい。
【0022】
これにより、連結環50を上下方向いずれからも円滑に圧入可能とすると共に、上部弾性部材70U及び下部弾性部材70Dを、下端リング部30の貫通孔32の内壁面320と連結環50の内側テーパ面551Tとに接触させて、無負荷状態において、連結環50と下端リング部30とが非接触となるように配設されている。言い換えれば、貫通孔32の内壁面(内周面)320と連結環50の内側テーパ面551Tとの間に介装されて、連結環50と下端リング部30とが非接触となるように、Oリング状の弾性部材70U(70D)の線径及び取付け溝57U(57D)の深さが設定されている。
【0023】
このように、下端リング部30に樹脂製の連結環50を弾性部材70を介して圧入するという簡易な構成にて消音部を構成することができるので、既存のエイト環を容易に流用可能として、警察ならびに軍事用等特殊作業の際に要求される降下作業の静寂性を簡易に安価に実現することができる。また、消音部を形成するに当たっては、切削加工などを一切要しないため、既存のエイト環等の機械的強度(破壊荷重)を損なうことなく当該性能をそのまま担保することが出来る。
<実施形態2>
【0024】
次に、本発明の別の実施形態に係るロープ降下器具1Aについて
図4を参照して説明する。本実施形態は、消音効果のさらなる向上を図って、上端リング部10と下端リング部30との間に、弾性部材を充填した中抜き孔を設けたものであり、先の実施形態と同様な部材に関しては、同様な符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0025】
図4に模式的に示すように、本実施の形態に係るロープ降下器具1Aは、製造過程における金型からの取り出しや軽量化等のために、上端リング部10と下端リング部30との間に、中抜き孔80が設けられており、さらに、この中抜き孔80には弾性部材85が充填されている。本実施の形態では、かかる弾性部材85としては、下端リング部30と連結環50との間に介装された弾性部材70と同様な材質(本例では、HNBR)のものを用いている。
【0026】
また、消音性を高めるという観点からは、充填される弾性部材85の形成位置(中抜き孔80の形成位置)は、上端リング部10のロープ孔12と下端リング部30の貫通孔32との中間部よりも下端リング部30寄りであることが好ましい。さらに、充填される弾性部材85の形状(中抜き孔80の形状)は、少なくとも対向する下端リング部30の貫通孔32(連結孔52)の外周と同様な外周形状であることが好ましい。
【0027】
このように、接触音の発生源の近傍に、所定の形状の弾性部材85を配置することにより、さらなる消音化を同時に実現することができる。
<実施形態3>
【0028】
次に、本発明のさらに別の実施形態に係るロープ降下器具1Bについて
図5を参照して説明する。本実施形態は、消音効果のさらなる向上を図って、連結環50の内壁面の表面形状(対向面形状)を変化させたものであり、先の実施形態と同様な部材に関しては、同様な符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0029】
図5に模式的に示すように、本実施の形態に係るロープ降下器具1Bは、連結環50の対向する内壁面500を曲面形状とし、狭隘部500dの径が、カラビナKBのフック(連通孔に挿通される部分)の径(例えば、12mm)よりも若干大き目(例えば、13mm)に形成され、上下方向端部に行くに従って広がっていく鼓状に形成されている。
なお、本実施の形態では、内壁面500の断面の曲面形状は、一定の曲率(例えば曲率半径10mm)を有する円弧状に形成されている。
【0030】
このように形成することにより、内壁面の曲面形状がガイド面として機能し、カラビナKBのゲート部が、常に、連結孔52の中心部に復元するような調芯作用を発現させることができる。これにより、連結環50内におけるカラビナKBの振れ幅(変位幅)を抑制して、カラビナKBと連結環50との接触を極力防止して、消音性の向上に寄与することができる。
【0031】
以上説明したように、本発明に係るロープ降下器具によれば、樹脂製の連結環50を弾性部材70を介して圧入することにより消音部を構成することができるので、既存のエイト環を容易に流用可能として、警察ならびに軍事用等の際に要求される降下作業の静寂性を容易に安価に実現することができる。また、接触音の近傍に弾性部材85を充填した中抜き孔80を設けたり、連結環50の内壁面500の形状を所定の曲面形状とすることにより、さらなる消音効果の向上を図ることができる。
【0032】
なお、本発明の技術的範囲は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、下端リング部30の外周部に沿って、弾性部材85を充填した複数の中抜き孔80を配置してもよいし、上述実施形態を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0033】
1,1A,1B ロープ降下器具
10 上端リング部
12 ロープ孔
14 アーム
30 下端リング部
32 貫通孔
320 内壁面
320T テーパ面
50 連結環
52 連結孔
55U 上部フランジ
55D 下部フランジ
500 内壁面
500d 狭隘部
551 内側部
553 中央部
555 外側部
551T 内側テーパ面
555T 外側テーパ面
556T 外側端面のテーパ面
57 取付け溝
57U 上部取付け溝
57D 下部取付け溝
70 弾性部材
70U 上部弾性部材
70D 下部弾性部材
80 中抜き孔
85 弾性部材
KB カラビナ
RP ロープ