(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】フルオロエラストマー組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20240510BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2020157063
(22)【出願日】2020-09-18
(62)【分割の表示】P 2019523524の分割
【原出願日】2018-06-04
【審査請求日】2020-09-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017111997
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 正俊
(72)【発明者】
【氏名】久保 謙太
(72)【発明者】
【氏名】丸田 真也
(72)【発明者】
【氏名】野口 剛
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】小出 直也
【審判官】海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6861423(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/74125(WO,A1)
【文献】特開2010-209275(JP,A)
【文献】特表2010-525103(JP,A)
【文献】特表2004-533507(JP,A)
【文献】特開2005-239835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性基含有モノマー単位を含むフルオロエラストマー、細長いシート状のグラフェン
、有機過酸化物、及び、トリアリルイソシアヌレートを含み、前記グラフェンの最大長さ(L)に対する幅方向の長さ(W)の比(L/W)が2~10
5であり、前記グラフェンの最大長さ(L)に対する厚み(T)の比(L/T)が1×10
1~1×10
7であり、前記フルオロエラストマーが、パーフルオロエラストマーであり、前記グラフェンが、酸化グラフェンであり、前記架橋性基が、ヨウ素原子及び臭素原子からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とするフルオロエラストマー組成物。
【請求項2】
前記フルオロエラストマー及び前記グラフェンの合計量に対して0.1~20質量%の前記グラフェンを含む請求項1記載のフルオロエラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2記載のフルオロエラストマー組成物からなることを特徴とするフルオロエラストマー成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロエラストマー組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロエラストマーは、耐熱性、耐油性、耐薬品性等の諸特性に優れたエラストマーとして知られている。上記フルオロエラストマーに、カーボンブラック等の充填剤を添加することで、上記フルオロエラストマーの特性を改善することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、パーフルオロエラストマーにカーボンナノファイバーを分散した炭素繊維複合材料を用いることで、耐熱性及び耐薬品性に優れることができることが記載されている。
【0004】
また、非特許文献1では、フルオロエラストマー(FKM)(ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン及びテトラフルオロエチレンの共重合体)に、複数種のグラフェンナノリボンを配合したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Maryam Khajehpour、外3名、「Tuning the curing behavior of fluoroelastomer (FKM) by incorporation of nitrogen doped graphene nanoribbons (CNx-GNRs)」、Polymer、Elsevier Ltd.、2014年、第55巻、第24号、p.6293-6302
【文献】入澤寿平、外4名、「フィラー添加ポリアミド6繊維の耐摩耗性及び引張特性」、繊維学会誌、2011年、第67巻、第5号、p.109-118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の炭素繊維複合材料と同等の引張弾性率を有しており、しかも、より高い破断強度及びより優れた耐摩耗性を有するフルオロエラストマー成形品が得られるフルオロエラストマー組成物が求められている。
【0008】
また、非特許文献1には、還元された窒素ドープグラフェンナノリボン(reduced nitrogen doped graphene nanoribbon)は、純粋なFKMと同様の架橋挙動を有していたが、酸化グラフェンナノリボンは架橋速度が比較的遅かったことが記載されている。しかし、グラフェンナノリボンの種類に制限がない方が、フルオロエラストマー成形品に種々の特性を付与し得ることから好ましい。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、特定の表面特性を有するグラフェンを使用する必要がなく、工業的に十分な速度で架橋させることができ、従来のフルオロエラストマー成形品と同等の引張弾性率を有しながらも、より高い破断強度及びより優れた耐摩耗性を有するフルオロエラストマー成形品が得られるフルオロエラストマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するための手段を鋭意検討した結果、フルオロエラストマーとして、架橋性基含有モノマー単位を含むフルオロエラストマーを用い、上記フルオロエラストマーに特定の形状を有するグラフェンを配合することによって、特定の表面特性を有するグラフェンを使用する必要がなく、工業的に十分な速度で架橋させることができ、従来のフルオロエラストマー成形品と同等の引張弾性率を有しており、しかも、得られるフルオロエラストマー成形品がより高い破断強度及びより優れた耐摩耗性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、架橋性基含有モノマー単位を含むフルオロエラストマー、及び、細長いシート状のグラフェンを含み、上記グラフェンの最大長さ(L)に対する幅方向の長さ(W)の比(L/W)が2~105であり、上記グラフェンの最大長さ(L)に対する厚み(T)の比(L/T)が1×101~1×107であることを特徴とするフルオロエラストマー組成物である。
【0012】
上記フルオロエラストマーが、パーフルオロエラストマーであることが好ましい。
【0013】
上記架橋性基が、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、及び、酸ハライド基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
上記フルオロエラストマー組成物は、上記フルオロエラストマー及び上記グラフェンの合計量に対して0.1~20質量%の上記グラフェンを含むことが好ましい。
【0015】
上記フルオロエラストマー組成物は、更に、トリアジン環を生じさせる触媒を含み、上記架橋性基がシアノ基であることが好ましい。
【0016】
上記フルオロエラストマー組成物は、更に、架橋剤を含むことが好ましい。
【0017】
上記架橋剤は、オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤及びチアゾール架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
本発明は、上述のフルオロエラストマー組成物からなることを特徴とするフルオロエラストマー成形品でもある。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、特定の表面特性を有するグラフェンを使用する必要がなく、工業的に十分な速度で架橋させることができ、耐摩耗性に優れるフルオロエラストマー成形品を得ることができる。更に、本発明のフルオロエラストマー組成物からは、従来のフルオロエラストマー成形品と同等の引張弾性率を有するにも関わらず、高い破断強度を有するフルオロエラストマー成形品を得ることができる。
【0020】
本発明のフルオロエラストマー成形品は、効率よく生産でき、高い破断強度を有し、耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0022】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、フルオロエラストマー及びグラフェンを含む。
【0023】
本明細書において、上記フルオロエラストマーとは、非晶質フルオロポリマーである。「非晶質」とは、フルオロポリマーの示差走査熱量測定〔DSC〕(昇温温度10℃/分)あるいは示差熱分析〔DTA〕(昇温速度10℃/分)において現われた融解ピーク(ΔH)の大きさが4.5J/g以下であることをいう。上記フルオロエラストマーは、架橋することにより、エラストマー特性を示す。エラストマー特性とは、ポリマーを延伸することができ、ポリマーを延伸するのに必要とされる力がもはや適用されなくなったときに、その元の長さを保持できる特性を意味する。
【0024】
上記フルオロエラストマーは、架橋性基含有モノマー単位を含む。上記架橋性基含有モノマーとは、架橋性基を分子内に少なくとも1個有するエチレン性不飽和化合物を意味する。上記架橋性基とは、三次元網目構造を形成する基である。上記架橋性基同士が反応して架橋構造を形成してもよいし、上記架橋性基と所望により用いる架橋剤が有する官能基とが反応して架橋構造を形成してもよい。
【0025】
上記架橋性基としては、特定の表面特性を有するグラフェンを使用する必要がなく、架橋反応が充分な速度で進行し、一層高い破断強度を有し、耐摩耗性に一層優れるフルオロエラストマー成形品を得ることができることから、ヒドロキシ基(-OH)、ヨウ素原子(-I)、臭素原子(-Br)、シアノ基(-CN基)、カルボキシル基(-COOH基)、アルコキシカルボニル基及び酸ハライド基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、及び、酸ハライド基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、シアノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、シアノ基が特に好ましい。
【0026】
上記アルコキシカルボニル基は、好ましくは式:-COOR(Rは一価の有機基)で表される。上記酸ハライド基は、好ましくは式:-COX(Xはハロゲン原子)で表される。
【0027】
上記フルオロエラストマーにおいて、上記架橋性基含有モノマー単位の含有量としては、特定の表面特性を有するグラフェンを使用する必要がなく、架橋反応が充分な速度で進行し、一層高い破断強度を有し、耐摩耗性に一層優れるフルオロエラストマー成形品を得ることができることから、0.01~30モル%が好ましく、0.1~20モル%がより好ましく、0.1~10モル%が更に好ましく、0.1~5モル%が特に好ましく、0.1~3モル%が最も好ましい。
【0028】
本明細書において、上記フルオロエラストマーを構成する各モノマーの含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析をモノマーの種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0029】
上記架橋性基含有モノマーとしては、
一般式(1):CX1
2=CX1-Rf
1CHR1X2
(式中、X1は、水素原子、フッ素原子又はCH3、Rf
1は、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロ(ポリ)オキシアルキレン基又はパーフルオロ(ポリ)オキシアルキレン基、R1は、水素原子又はCH3、X2は、ヨウ素原子又は臭素原子である)で表されるフルオロモノマー、
一般式(2):CX1
2=CX1-Rf
1X2
(式中、X1は、水素原子、フッ素原子又はCH3、Rf
1は、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロ(ポリ)オキシアルキレン基又はパーフルオロ(ポリ)オキシアルキレン基、X2は、ヨウ素原子又は臭素原子である)で表されるフルオロモノマー、
一般式(3):CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2)n-X3
(式中、mは0~5の整数、nは1~3の整数、X3は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ヨウ素原子、臭素原子、又は、-CH2Iである)で表されるフルオロモノマー、及び、
一般式(4):CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)m(CF(CF3))n-X4
(式中、mは0~5の整数、nは1~3の整数、X4は、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ヨウ素原子、臭素原子、又は、-CH2OHである)で表されるフルオロモノマー、及び、
一般式(5):CR2R3=CR4-Z-CR5=CR6R7
(式中、R2~R7は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。Zは、直鎖又は分岐状で酸素原子を有していてもよい、炭素数1~18のアルキレン基、炭素数3~18のシクロアルキレン基、少なくとも部分的にフッ素化している炭素数1~10のアルキレン基若しくはオキシアルキレン基、又は、
-(Q)p-CF2O-(CF2CF2O)m(CF2O)n-CF2-(Q)p-
(式中、Qはアルキレン基またはオキシアルキレン基である。pは0または1である。m/nが0.2~5である。)で表され、分子量が500~10000である(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である。)で表されるモノマー
からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
X1は、フッ素原子であることが好ましい。Rf
1は炭素数が1~5のパーフルオロアルキレン基であることが好ましい。R1は、水素原子であることが好ましい。X3は、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヨウ素原子、臭素原子、又は、-CH2Iであることが好ましい。X4は、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヨウ素原子、臭素原子、又は-CH2OHであることが好ましい。
【0031】
上記架橋性基含有モノマーとしては、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOH、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CH2I、CF2=CFOCF2CF2CH2I、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CN、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COOH、CH2=CFCF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2OH、CH2=CHCF2CF2I、CH2=CH(CF2)2CH=CH2、CH2=CH(CF2)6CH=CH2、及び、CF2=CFO(CF2)5CNからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN及びCF2=CFOCF2CF2CH2Iからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0032】
上記架橋性基含有モノマーが、シアノ基(-CN基)含有モノマーであることも好ましい。シアノ基含有モノマー単位を含むフルオロエラストマーは、シアノ基が環化三量化によりトリアジン環を形成して架橋することができるものであり、特定の表面特性を有するグラフェンを使用する必要がなく、架橋反応が充分な速度で進行し、一層高い破断強度を有し、耐摩耗性に一層優れるフルオロエラストマー成形品を得ることができ、成形品にすぐれた圧縮永久歪みおよび耐熱性を付与できる。
【0033】
上記シアノ基含有モノマーとしては、たとえば、
一般式(11)~(27):
CY11
2=CY11(CF2)n-CN (11)
(式中、Y11は水素原子またはフッ素原子、nは1~8の整数)
CF2=CFCF2Rf
12-CN (12)
(式中、Rf
12は、-(OCF2)n-又は-(OCF(CF3))n-、nは0~5の整数)
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2)m(OCH2CF2CF2)nOCH2CF2-CN (13)
(式中、mは0~5の整数、nは0~5の整数)
CF2=CFCF2(OCH2CF2CF2)m(OCF(CF3)CF2)nOCF(CF3)-CN (14)
(式中、mは0~5の整数、nは0~5の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2)n-CN (15)
(式中、mは0~5の整数、nは1~8の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m-CN (16)
(式中、mは1~5の整数)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2)nCF(-CN)CF3 (17)
(式中、nは1~4の整数)
CF2=CFO(CF2)nOCF(CF3)-CN (18)
(式中、nは2~5の整数)
CF2=CFO(CF2)n-(C6H4)-CN (19)
(式中、nは1~6の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)-CN (20)
(式中、nは1~2の整数)
CH2=CFCF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)-CN (21)
(式中、nは0~5の整数)、
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2)n-CN (22)
(式中、mは0~5の整数、nは1~3の整数)
CH2=CFCF2OCF(CF3)OCF(CF3)-CN (23)
CH2=CFCF2OCH2CF2-CN (24)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)-CN (25)
(式中、mは0以上の整数)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2)n-CN (26)
(式中、nは1以上の整数)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2-CN (27)
で表されるモノマーなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記の中でも、一般式(15)または(22)が好ましく、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CNがより好ましい。
【0035】
一般式(11)~(27)で表されるモノマーがシアノ基を有するので、そのシアノ基が環化三量化反応してトリアジン架橋が進行する。
【0036】
上記フルオロエラストマーとしては、部分フッ素化エラストマーであってもよいし、パーフルオロエラストマーであってもよいが、上記パーフルオロエラストマーが好ましい。
【0037】
本明細書において、部分フッ素化エラストマーとは、フルオロモノマー単位を含み、全重合単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%未満のフルオロポリマーであって、20℃以下のガラス転移温度を有し、4.5J/g以下の融解ピーク(ΔH)の大きさを有するフルオロポリマーである。
【0038】
本明細書において、パーフルオロエラストマーとは、全重合単位に対するパーフルオロモノマー単位の含有量が90モル%以上のフルオロポリマーであって、20℃以下のガラス転移温度を有し、4.5J/g以下の融解ピーク(ΔH)の大きさを有するフルオロポリマーであり、更に、フルオロポリマーに含まれるフッ素原子の濃度が71質量%以上であるポリマーである。本明細書において、フルオロポリマーに含まれるフッ素原子の濃度は、フルオロポリマーを構成する各モノマーの種類と含有量より、フルオロポリマーに含まれるフッ素原子の濃度(質量%)を計算により求めるものである。
【0039】
本明細書において、パーフルオロモノマーとは、分子中に炭素原子-水素原子結合を含まないモノマーである。上記パーフルオロモノマーは、炭素原子及びフッ素原子の他、炭素原子に結合しているフッ素原子のいくつかが塩素原子で置換されたモノマーであってもよく、炭素原子の他、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子を有するものであってもよい。上記パーフルオロモノマーとしては、全ての水素原子がフッ素原子に置換されたモノマーであることが好ましい。上記パーフルオロモノマーには、上記架橋性基含有モノマーは含まれない。
【0040】
上記部分フッ素化エラストマーとしては、ビニリデンフルオライド(VdF)/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(TFE)/プロピレン(Pr)/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴム、TFE/Pr/VdF/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴム、エチレン/HFP/VdF/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴム、エチレン/HFP/TFE/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴム等が挙げられる。なかでも、ビニリデンフルオライド/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴム、及びテトラフルオロエチレン/プロピレン/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0041】
上記ビニリデンフルオライド/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴムは、ビニリデンフルオライド45~85モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー50~14.9モル%と、架橋性基含有モノマー0.1~5モル%とからなる共重合体であることが好ましい。好ましくは、ビニリデンフルオライド50~80モル%と、ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマー52~19.9モル%と、架橋性基含有モノマー0.1~3モル%からなる共重合体である。
【0042】
本明細書において、フルオロエラストマーを構成する各モノマーの含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析をモノマーの種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0043】
上記ビニリデンフルオライドと共重合可能な少なくとも1種の他のモノマーとしては、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、ヘキサフルオロイソブテン、フッ化ビニル、一般式(36):CH2=CFRf36(式中、Rf36は炭素数1~12の直鎖又は分岐したフルオロアルキル基)で表されるフルオロモノマー、一般式(37):CH2=CH-(CF2)n-X37(式中、X37はH又はFであり、nは3~10の整数である。)で表されるフルオロモノマー、架橋性基含有モノマー等のモノマー;エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル等の非フッ素化モノマーが挙げられる。これらをそれぞれ単独で、又は、任意に組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、TFE、HFP、フルオロアルキルビニルエーテル及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0044】
上記フルオロアルキルビニルエーテルとしては、
一般式(38):CF2=CF-ORf38
(式中、Rf38は、炭素数1~8のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるフルオロモノマー、
一般式(39):CF2=CFOCF2ORf39
(式中、Rf39は炭素数1~6の直鎖又は分岐状パーフルオロアルキル基、炭素数5~6の環式パーフルオロアルキル基、1~3個の酸素原子を含む炭素数2~6の直鎖又は分岐状パーフルオロオキシアルキル基である)で表されるフルオロモノマー、及び、
一般式(40):CF2=CFO(CF2CF(Y40)O)m(CF2)nF
(式中、Y40はフッ素原子又はトリフルオロメチル基を表す。mは1~4の整数である。nは1~4の整数である。)で表されるフルオロモノマー
からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、一般式(38)で表されるフルオロモノマーがより好ましい。
【0045】
ビニリデンフルオライド/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴムの具体例としては、VdF/HFP/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/HFP/TFE/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/CTFE/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/CTFE/TFE/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/一般式(36)で表されるフルオロモノマー/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/一般式(36)で表されるフルオロモノマー/TFE/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/PMVE/TFE/架橋性基含有モノマー系ゴム、VdF/PMVE/TFE/HFP/架橋性基含有モノマー系ゴム等が挙げられる。VdF/一般式(36)で表されるフルオロモノマー/架橋性基含有モノマー系ゴムとしては、VdF/CH2=CFCF3/架橋性基含有モノマー系ゴムが好ましく、VdF/一般式(36)で表されるフルオロモノマー/TFE/架橋性基含有モノマー系ゴムとしては、VdF/TFE/CH2=CFCF3/架橋性基含有モノマー系ゴムが好ましい。
【0046】
上記VdF/CH2=CFCF3/架橋性基含有モノマー系ゴムは、VdF40~99.5モル%、CH2=CFCF30.4~55モル%及び架橋性基含有モノマー0.1~5モル%からなる共重合体であることが好ましく、VdF50~85モル%、CH2=CFCF314.9~47モル%及び架橋性基含有モノマー0.1~3モル%からなる共重合体であることがより好ましい。
【0047】
上記テトラフルオロエチレン/プロピレン/架橋性基含有モノマー系フッ素ゴムは、テトラフルオロエチレン45~70モル%、プロピレン50~29.9モル%、及び、架橋性基含有フルオロモノマー0.1~5モル%からなる共重合体であることが好ましい。
【0048】
上記フルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマーであってもよい。上記パーフルオロエラストマーとしては、TFE/架橋性基含有モノマー共重合体が好ましく、TFE/一般式(38)、(39)又は(40)で表されるフルオロモノマー/架橋性基含有モノマー共重合体がより好ましく、TFE/炭素数が4~12の一般式(38)、(39)又は(40)で表されるフルオロモノマー/架橋性基含有モノマー共重合体が更に好ましい。
【0049】
TFE/PMVE/架橋性基含有モノマー共重合体の組成としては、好ましくは、45~89.9/10~54.9/0.01~4(モル%)であり、より好ましくは、55~77.9/20~49.9/0.1~3.5であり、更に好ましくは、55~69.8/30~44.8/0.2~3である。
【0050】
TFE/炭素数が4~12の一般式(38)、(39)又は(40)で表されるフルオロモノマー/架橋性基含有モノマー共重合体の場合、好ましくは、50~89.9/10~49.9/0.01~4(モル%)であり、より好ましくは、60~87.9/12~39.9/0.1~3.5であり、更に好ましくは、65~84.8/15~34.8/0.2~3である。
【0051】
これらの組成の範囲を外れると、エラストマーとしての性質が失われ、樹脂に近い性質となる傾向がある。
【0052】
上記パーフルオロエラストマーとしては、TFE/一般式(40)で表されるフルオロモノマー/架橋性基含有フルオロモノマー共重合体、及び、TFE/一般式(38)で表されるフルオロモノマー/架橋性基含有モノマー共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0053】
上記パーフルオロエラストマーとしては、国際公開第97/24381号、特公昭61-57324号公報、特公平4-81608号公報、特公平5-13961号公報等に記載されているパーフルオロエラストマーも挙げることができる。
【0054】
上記パーフルオロエラストマーとしては、特に、シアノ基含有モノマー単位を含むパーフルオロエラストマーが好ましく、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)/シアノ基含有モノマー共重合体がより好ましい。テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の組成は、50~90/10~50モル%であることが好ましく、より好ましくは、50~80/20~50モル%であり、さらに好ましくは、55~75/25~45モル%である。また、シアノ基含有モノマーは、良好な架橋特性および耐熱性の観点から、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の合計量に対して、0.1~5モル%であることが好ましく、0.3~3モル%であることがより好ましい。
【0055】
この場合のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、たとえばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0056】
上記フルオロエラストマーは、高温における圧縮永久歪特性に優れる点から、ガラス転移温度が-70℃以上であることが好ましく、-60℃以上であることがより好ましく、-50℃以上であることが更に好ましい。また、耐寒性が良好であるという点から、5℃以下であることが好ましく、0℃以下であることがより好ましく、-3℃以下であることが更に好ましい。
【0057】
上記ガラス転移温度は、示差走査熱量計(メトラー・トレド社製、DSC822e)を用い、試料10mgを10℃/minで昇温することによりDSC曲線を得て、DSC曲線の二次転移前後のベースラインの延長線と、DSC曲線の変曲点における接線との2つの交点の中点を示す温度として求めることができる。
【0058】
上記フルオロエラストマーは、耐熱性が良好な点で、170℃におけるムーニー粘度ML(1+20)が30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましい。また、加工性が良好な点で、150以下であることが好ましく、120以下であることがより好ましく、110以下であることが更に好ましい。
【0059】
上記フルオロエラストマーは、耐熱性が良好な点で、140℃におけるムーニー粘度ML(1+20)が30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましい。また、加工性が良好な点で、180以下であることが好ましく、150以下であることがより好ましく、110以下であることが更に好ましい。
【0060】
上記フルオロエラストマーは、耐熱性が良好な点で、100℃におけるムーニー粘度ML(1+10)が10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることが更に好ましい。また、加工性が良好な点で、120以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、80以下であることが更に好ましい。
【0061】
上記ムーニー粘度は、ALPHA TECHNOLOGIES社製 ムーニー粘度計MV2000E型を用いて、170℃又は140℃、100℃において、JIS K6300に従い測定することができる。
【0062】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、細長いシート状のグラフェンを含む。
【0063】
上記グラフェンは、細長いシート状の形状を有しており、上記グラフェンの最大長さ(L)に対する幅方向の長さ(W)の比(L/W)が2~105であり、上記グラフェンの最大長さ(L)に対する厚み(T)の比(L/T)が1×101~1×107である。他方、カーボンナノチューブは、円筒状であることから、細長いシート状のグラフェンとは相違する。
【0064】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、特定の比(L/W)及び特定の比(L/T)で特徴づけられる細長いシート状のグラフェンを含むことから、円筒状のカーボンナノチューブを含む従来の組成物から得られる成形品よりも、一層高い破断強度を有し、耐摩耗性に優れる成形品を得ることができる。
【0065】
上記グラフェンは、グラフェンナノリボンであってよい。上記グラフェンは、炭素原子1個分の厚さの単層シートであっても、上記単一のシートが重なり合った多層シートであってもよいが、単層シートであることが好ましい。グラフェンは、酸化グラフェンであってもよい。
【0066】
比(L/W)としては、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上が更に好ましく、104以下が好ましく、103以下がより好ましい。
【0067】
比(L/T)としては、2×101以上が好ましく、1×102以上がより好ましく、2×106以下が好ましく、1×106以下がより好ましく、1×105以下が更に好ましい。
【0068】
上記グラフェンの最大長さ(L)としては、1~2000μmが好ましく、2~2000μmがより好ましい。最大長さ(L)は500nm超であってもよい。
【0069】
上記グラフェンの幅方向の長さ(W)としては、20~500nmが好ましく、20~300nmがより好ましい。
【0070】
上記グラフェンの厚み(T)としては、1~50nmが好ましく、1~20nmがより好ましい。
【0071】
上記グラフェンの最大長さ(L)、幅方向の長さ(W)及び厚み(T)は、走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)等を用いて、上記グラフェンを観察することにより測定できる。いずれの値も平均値であってよい。
【0072】
上記グラフェンの比表面積としては、200~2500m2/gが好ましく、400~2500m2/gがより好ましい。
【0073】
上記グラフェンの比表面積は、窒素ガス吸着法により測定できる。上記窒素ガス吸着法は、非特許文献(Kosynkin, Dmitry V., et al. Nature 458.7240(2009): 872-876.)に詳述されている。
【0074】
上記グラフェンは、例えば、上記グラフェンナノリボンの製造方法として公知の方法により製造できる。上記グラフェンナノリボンの製造方法としては、機械的剥離法、化学的剥離法、SiCエピタキシャル成長法、化学気相成長法等が挙げられる。例えば、酸化剤を用いて、カーボンナノチューブを縦方向に開裂させることにより、上記グラフェンが得られる。
【0075】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、架橋反応が充分な速度で進行し、一層高い破断強度を有し、耐摩耗性に一層優れるフルオロエラストマー成形品を得ることができることから、上記フルオロエラストマー及び上記グラフェンの合計量に対して0.1~20質量%の上記グラフェンを含むことが好ましい。上記グラフェンの含有量としては、更に耐摩耗性に優れたフルオロエラストマー成形品が得られることから、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、1質量%以上が尚更に好ましく、2質量%以上が特に好ましく、3質量%以上が最も好ましく、柔軟性を保持したエラストマー成形品がえられることから、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0076】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、上記フルオロエラストマーが含有する上記架橋性基と架橋反応可能な架橋剤、または上記架橋性基同士を反応により結合させ架橋構造を生じさせる触媒を含有することが好ましい。しかし、本発明のフルオロエラストマー組成物において、上記架橋剤及び上記触媒は必須の成分ではなく、これらを用いない場合でも、一層高い破断強度を有し、耐摩耗性に一層優れるフルオロエラストマー成形品を得ることができる。
【0077】
上記架橋性基がシアノ基である場合、上記触媒としては、3つのシアノ基同士の反応により、トリアジン環を生じさせる触媒が好ましい。すなわち、本発明のフルオロエラストマー組成物は、更に、トリアジン環を生じさせる触媒を含み、上記架橋性基がシアノ基であることも、好ましい態様の一つである。
【0078】
トリアジン環を生じさせる触媒としては、有機、無機のスズ化合物;特開平09-111081号公報に記載の有機、無機のアンモニウム塩;アンモニア;アンモニアを吸着させた担体;特表2007-502890号公報に記載の熱により分解してアンモニアを発生する化合物が好ましく、熱により分解してアンモニアを発生する化合物としては、尿素、チオ尿素などが挙げられる。
【0079】
上記有機スズ化合物としては、テトラフェニルスズ、トリフェニルスズなどがあげられ、その配合量は、上記フルオロエラストマー100質量部に対して、0.05~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。上記有機スズ化合物が、0.05質量部より少ないと、上記フルオロエラストマーが充分架橋されない傾向があり、10質量部を超えると、成形品の物性を悪化させる傾向がある。
【0080】
トリアジン環を生じさせる触媒としては、40~330℃でアンモニアを発生させる化合物(但し、無機窒化物粒子を除く。以下、アンモニア発生化合物ということがある。)及び無機窒化物粒子からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。アンモニアと上記無機窒化物粒子とを併用してもよいし、上記アンモニア発生化合物と上記無機窒化物粒子とを併用してもよい。
【0081】
40~330℃でアンモニアを発生させる化合物は、架橋反応温度(40~330℃)で発生したアンモニアが上記フルオロエラストマーの架橋を生じさせる触媒的作用を有し、架橋後に成形品中に構造単位として組み込まれる架橋剤とは異なる。また微量の水と反応して、アンモニアを発生させるものもある。アンモニアを発生させる温度を40~330℃とした理由は、40℃未満では、アンモニアを発生させる化合物を混合したフルオロエラストマー組成物の保存安定性に劣るおそれがあり、330℃を超える場合、成形品の高温下での使用に際して、成形品からアンモニアを発生させるおそれがあるためである。
【0082】
上記アンモニア発生化合物としては、尿素、尿素の誘導体、及び、アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、尿素及びアンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。上記アンモニウム塩としては、有機アンモニウム塩でも無機アンモニウム塩でもよい。
【0083】
上記尿素の誘導体としては、ビウレア、チオウレア、尿素塩酸塩、ビウレットなどの尿素誘導体も含まれる。
【0084】
上記有機アンモニウム塩としては、特開平9-111081号公報、国際公開第00/09603号、国際公開第98/23675号に記載された化合物、たとえばパーフルオロヘキサン酸アンモニウム、パーフルオロオクタン酸アンモニウムなどのポリフルオロカルボン酸のアンモニウム塩;パーフルオロヘキサンスルホン酸アンモニウム、パーフルオロオクタンスルホン酸アンモニウムなどのポリフルオロスルホン酸のアンモニウム塩;パーフルオロヘキサンリン酸アンモニウム、パーフルオロオクタンリン酸アンモニウムなどのポリフルオロアルキル基含有リン酸、ホスホン酸のアンモニウム塩;安息香酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、フタル酸アンモニウムなどの非フッ素系のカルボン酸またはスルホン酸のアンモニウム塩が例示できる。なかでも、分散性の観点からはフッ素系のカルボン酸、スルホン酸またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、一方、安価な点からは、非フッ素系のカルボン酸、スルホン酸またはリン酸のアンモニウム塩が好ましい。
【0085】
上記無機アンモニウム塩としては、特開平9-111081号公報に記載された化合物、たとえば硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどが例示でき、なかでも架橋特性を考慮すると、リン酸アンモニウムが好ましい。
【0086】
そのほか、アセトアルデヒドアンモニア、ヘキサメチレンテトラミン、ホルムアミジン、ホルムアミジン塩酸塩、ホルムアミジン酢酸塩、t-ブチルカルバメート、ベンジルカルバメート、HCF2CF2CH(CH3)OCONH2、フタルアミドなども使用できる。
【0087】
上記アンモニア発生化合物は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0088】
上記アンモニア発生化合物の含有量は、発生するアンモニアの量により適宜選択すればよいが、通常、上記フルオロエラストマー100質量部に対して、0.05~10質量部であり、0.1~5質量部であることが好ましく、0.2~3質量部であることがより好ましい。上記アンモニア発生化合物が、少なすぎると架橋密度が低くなるため、実用上、充分な耐熱性、耐薬品性を発現しない傾向があり、多くなりすぎると、スコーチの懸念があり保存安定性が悪くなるという傾向がある。
【0089】
上記無機窒化物粒子としては、特に限定されるものではないが、窒化ケイ素(Si3N4)粒子、窒化リチウム粒子、窒化チタン粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ホウ素粒子、窒化バナジウム粒子、窒化ジルコニウム粒子等があげられる。これらの中でも、ナノサイズの微粒子が供給可能であることから、窒化ケイ素粒子であることが好ましい。また、これらの窒化物粒子は2種以上混合使用してもよい。
【0090】
上記無機窒化物粒子の粒径としては、特に限定されるものではないが、1000nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましい。下限値は特に限定されない。
【0091】
上記無機窒化物粒子の含有量は、通常、上記フルオロエラストマー100質量部に対して、0.1~20質量部であり、0.2~5質量部であることが好ましく、0.2~1質量部であることがより好ましい。上記無機窒化物粒子が、0.1質量部未満であると架橋密度が低くなるため、実用上、充分な耐熱性、耐薬品性を発現しない傾向があり、20質量部をこえると、スコーチの懸念があり保存安定性が悪くなるという傾向がある。
【0092】
上記架橋剤は必須成分ではない、しかし、本発明のフルオロエラストマー組成物は、更に、上記架橋剤を含んでもよい。上記架橋剤としては、パーオキサイド架橋、ポリオール架橋、ポリアミン架橋、オキサゾール架橋、イミダゾール架橋、又は、チアゾール架橋において用いる架橋剤が挙げられる。上記架橋剤としては、オキサゾール架橋剤、イミダゾール架橋剤及びチアゾール架橋剤からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、これらの架橋剤は、特に、上記フルオロエラストマーが架橋性基としてシアノ基を有する場合に好適である。
【0093】
パーオキサイド架橋において用いる架橋剤は、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、たとえば1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。一般に活性-O-O-の量、分解温度などを考慮して有機過酸化物の種類並びに使用量が選ばれる。
【0094】
また、この場合に用いることのできる架橋助剤としては、パーオキシラジカルとポリマーラジカルに対して反応活性を有する化合物であればよく、たとえばCH2=CH-、CH2=CHCH2-、CF2=CF-などの官能基を有する多官能性化合物があげられる。具体的には、たとえばトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-n-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサンなどがあげられる。
【0095】
ポリオール架橋に用いる架橋剤としては、ビスフェノールA、ビスフェノールAFなどの多価アルコール化合物があげられる。
【0096】
ポリアミン架橋に用いる架橋剤としては、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン、4,4’-ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどの多価アミン化合物があげられる。
【0097】
オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系に使用する架橋剤としては、例えば一般式(51):
【0098】
【0099】
(式中、R51は-SO2-、-O-、-CO-、炭素数1~6のアルキレン基、炭素数1~10のパーフルオロアルキレン基又は単結合手であり、R52及びR53は一方が-NH2であり他方が-NH2、-OH又は-SH、好ましくはR52及びR53のいずれも-NH2である。)で示されるビスジアミノフェニル系架橋剤、ビスアミノフェノール系架橋剤、ビスアミノチオフェノール系架橋剤、一般式(52):
【0100】
【0101】
(式中、R51は上記と同じである。R54は、一般式(53):
【0102】
【0103】
で表される化合物である。)で示されるビスアミドラゾン系架橋剤やビスアミドキシム系架橋剤、一般式(54):
【0104】
【0105】
(式中、Rf’は炭素数1~10のパーフルオロアルキレン基である。)、又は、一般式(55):
【0106】
【0107】
(式中、nは1~10の整数である。)で示されるビスアミドラゾン系架橋剤やビスアミドキシム系架橋剤等が挙げられる。上記ビスアミノフェノール系架橋剤、上記ビスアミノチオフェノール系架橋剤、上記ビスジアミノフェニル系架橋剤等はシアノ基を架橋点とする架橋系に使用できるが、カルボキシル基及びアルコキシカルボニル基とも反応し、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環を形成し、架橋物を与える。
【0108】
上記架橋剤のなかでも、耐熱性がとくに優れており、架橋反応性が良好であり、更に合成が比較的容易という点で、より好ましい架橋剤としては、一般式(56):
【0109】
【0110】
(式中、R55はフッ素原子又は1価の有機基である。)で表わされるビスアミノ架橋性官能基を少なくとも2個有するビスジアミノフェニル系架橋剤である。この架橋性官能基と反応可能な官能基としては、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基等が挙げられ、反応により、イミダゾール環を形成する。
【0111】
更に好ましい架橋剤は、一般式(57):
【0112】
【0113】
(式中、R56は水素以外の1価の有機基又はフッ素原子である。R57は-SO2-、-O-、-CO-、置換されていてもよいアルキレン基、一般式(58):
【0114】
【0115】
で表される基、又は、単結合である。)で示される化合物である。
【0116】
上記R56は、特にN-H結合よりも高い耐酸化性を有するN-R56結合を形成する置換基であることが好ましい。ここで「N-H結合よりも高い耐酸化性を有するN-R56結合を形成する置換基」とは、イミダゾール環を形成したときに、N-H結合を有する化合物より酸化しにくい化合物に存在するN-R56結合を形成する置換基のことをいう。
【0117】
こうしたR56としては、限定的ではないが、置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、置換されていてもよいフェニル基又はベンジル基が挙げられる。
【0118】
具体例としては、例えばR56の少なくとも1つが-CH3、-C2H5、-C3H7等の炭素数1~10、特に1~6の低級アルキル基;-CF3、-C2F5、-CH2F、-CH2CF3、-CH2C2F5等の炭素数1~10、特に1~6のフッ素原子含有低級アルキル基;フェニル基;ベンジル基;-C6F5、-CH2C6F5等のフッ素原子で1~5個の水素原子が置換されたフェニル基又はベンジル基;-C6H5-n(CF3)n、-CH2C6H5-n(CF3)n(nは1~5の整数)等の-CF3で1~5個の水素原子が置換されたフェニル基又はベンジル基等が挙げられる。
【0119】
これらのうち、耐熱性が特に優れており、架橋反応性が良好であり、更に合成が比較的容易である点から、フェニル基、-CH3が好ましい。
【0120】
一般式(57)の化合物において、R57の置換されていてもよいアルキレン基の好ましい具体例としては、限定的ではないが、例えば炭素数1~6の非置換アルキレン基又は炭素数1~10のパーフルオロアルキレン基等であり、パーフルオロアルキレン基としては、一般式(59):
【0121】
【0122】
で表される基等が挙げられる。R57としては、特公平2-59177号公報、特開平8-120146号公報等でビスジアミノフェニル化合物の例示として知られているものも使用できる。
【0123】
R57は左右のベンゼン環のうち、いずれの位置に結合していてもよいが、合成が容易で架橋反応が容易に進行することから、NH2基又はNHR56基のいずれかがパラ位になるように結合していることが好ましい。
【0124】
特に好ましい架橋剤は、一般式(60):
【0125】
【0126】
(式中、R58は同じか又は異なり、いずれも炭素数1~10のアルキル基、フッ素原子を含有する炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、フッ素原子もしくは-CF3で1~5個の水素原子が置換されたフェニル基又はベンジル基である。)で示される化合物である。
【0127】
一般式(60)で示される化合物としては、2,2-ビス-[3-アミノ-4-(N-メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[3-アミノ-4-(N-エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[3-アミノ-4-(N-プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[3-アミノ-4-(N-フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[3-アミノ-4-(N-パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[3-アミノ-4-(N-ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(一般名:ビス(アミノフェノール)AF)、2,2-ビス(3-アミノ-4-メルカプトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、テトラアミノベンゼン、ビス-3,4-ジアミノフェニルメタン、ビス-3,4-ジアミノフェニルエーテル、2,2-ビス(3,4-ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0128】
上記架橋剤の含有量は、上記フルオロエラストマー100質量部に対して、0.05~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。上記架橋剤が、0.05質量部より少ないと、上記フルオロエラストマーが充分架橋されない傾向があり、10質量部を超えると、成形品の物性を悪化させる傾向がある。
【0129】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、架橋剤等を添加せずに高エネルギー線架橋をすることもできる。架橋源としては、X線、α線、β線、γ線、電子線、陽子線、重陽子線、紫外線等が用いられる。この場合の照射量は、0.1~50Mradであればよい。また、照射温度は、-20~100℃であればよい。照射雰囲気は、空気、チッ素、アルゴン、ヘリウムの存在下でも真空下でもよい。
【0130】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、一般的な充填剤を含有してもよい。
【0131】
上記充填剤としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのイミド構造を有するイミド系フィラー;ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリオキシベンゾエートなどのエンジニアリングプラスチック製の有機フィラー、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウムなどの金属酸化物フィラー、炭化ケイ素、炭化アルミニウムなどの金属炭化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物フィラー、フッ化アルミニウム、フッ化カーボン、カーボンブラックなどの無機フィラーがあげられる。
【0132】
これらの中でも、各種プラズマの遮蔽効果の点から、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ケイ素、ポリイミド、フッ化カーボンが好ましい。
【0133】
また、上記無機フィラー、有機フィラーを単独で、または2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0134】
上記充填剤の配合量は、上記フルオロエラストマー100質量部に対して、好ましくは0.5~100質量部、より好ましくは5~50質量部である。
【0135】
とくに高純度かつ非汚染性が要求されない分野では、必要に応じて上記フルオロエラストマーに配合される通常の添加物、たとえば加工助剤、可塑剤、着色剤などを配合することができ、前記のものとは異なる常用の架橋剤や架橋助剤を1種またはそれ以上配合してもよい。
【0136】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、上記フルオロエラストマー及び上記グラフェンを混練することにより製造できる。上記混練は、通常のポリマー用加工機械、たとえば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、密閉式混合機などを用いて実施することができる。
【0137】
本発明のフルオロエラストマー組成物は、成形して成形品を得るための成形材料として好適に使用できる。
【0138】
本発明のフルオロエラストマー組成物を成形して成形品を得る方法は通常の方法でよく、金型にて加熱圧縮する方法、加熱された金型に圧入する方法、押出機で押出す方法など公知の方法で行なうことができる。
【0139】
本発明のフルオロエラストマー組成物から予備成形体を得た後、上記予備成形体を架橋して成形品を得る方法は通常の方法でよく、金型にて加熱圧縮する方法、加熱された金型に圧入する方法、押出機で押出し、押出後に一次架橋、最後に二次架橋する方法が挙げられる。ホースや電線などの押出製品の場合は押出後にスチームなどによる加熱架橋を行なうことで、成形品を得ることができる。
【0140】
一次架橋条件としては、150~200℃で5~120分間おこなうことが好ましく、170~190℃で5~60分間おこなうことがより好ましい。架橋手段としては、公知の架橋手段を用いれば良く、例えば、プレス架橋などをあげることができる。
【0141】
二次架橋条件としては、250~320℃で2~24時間おこなうことが好ましく、280~310℃で5~20時間おこなうことがより好ましい。架橋手段としては、公知の架橋手段を用いれば良く、例えば、オーブン架橋などをあげることができる。
【0142】
本発明はまた、上記フルオロエラストマー組成物からなるフルオロエラストマー成形品でもある。
本発明のフルオロエラストマー成形品は、特に高度なクリーンさが要求される半導体製造装置、特に高密度プラズマ照射が行なわれる半導体製造装置のシール材として好適に使用できる。上記シール材としては、O-リング、角-リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール、リップシール等が挙げられる。
そのほか、半導体製造装置に使用される各種のポリマー製品、例えばダイヤフラム、チューブ、ホース、各種ゴムロール、ベルト等としても使用できる。また、コーティング用材料、ライニング用材料としても使用できる。
【0143】
なお、本発明でいう半導体製造装置は、特に半導体を製造するための装置に限られるものではなく、広く、液晶パネルやプラズマパネルを製造するための装置等、高度なクリーン度が要求される半導体分野において用いられる製造装置全般を含むものであり、例えば次のようなものを挙げることができる。
【0144】
(1)エッチング装置
ドライエッチング装置
プラズマエッチング装置
反応性イオンエッチング装置
反応性イオンビームエッチング装置
スパッタエッチング装置
イオンビームエッチング装置
ウェットエッチング装置
アッシング装置
(2)洗浄装置
乾式エッチング洗浄装置
UV/O3洗浄装置
イオンビーム洗浄装置
レーザービーム洗浄装置
プラズマ洗浄装置
ガスエッチング洗浄装置
抽出洗浄装置
ソックスレー抽出洗浄装置
高温高圧抽出洗浄装置
マイクロウェーブ抽出洗浄装置
超臨界抽出洗浄装置
(3)露光装置
ステッパー
コータ・デベロッパー
(4)研磨装置
CMP装置
(5)成膜装置
CVD装置
スパッタリング装置
(6)拡散・イオン注入装置
酸化拡散装置
イオン注入装置
【0145】
本発明のフルオロエラストマー成形品は、例えば、CVD装置、プラズマエッチング装置、反応性イオンエッチング装置、アッシング装置またはエキシマレーザー露光機のシール材として優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0146】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0147】
(1)実施例1~3及び比較例1~4のサンプルの作製
多層カーボンナノチューブ(MWCNT、昭和電工社製、VGCF-H)1.5gを濃硫酸60mlに加えて1時間撹拌した後、過マンガン酸カリウム7.5gを加えて1時間撹拌した。この分散液を55℃に昇温して1時間撹拌し、さらに70℃に昇温して30分撹拌した後、室温に冷却した。不溶性の二酸化マンガンの沈殿を予防するための過酸化水素水30mlを含む氷水400mlにこの分散液を加えた後、孔サイズが0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製ろ紙を用いて吸引ろ過を行った。得られた固体を150mlの水に分散させて超音波処理を30分間行った。固体を凝集させるためにこの分散液に0.5mol/lの塩酸100mlを加えた後、孔サイズが0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製ろ紙を用いて吸引ろ過を行った。得られた固体をエタノール200mlに分散させて超音波処理を30分間行った。この分散液にヘキサン200mlを加えた後、孔サイズが0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製ろ紙を用いて吸引ろ過を行った。得られた固体を真空オーブン中で60℃に昇温して24時間乾燥させて酸化グラフェン(GO)を得た。
【0148】
上記酸化グラフェンは次の形状を有していた。
長さ(L)=1,000~2,000nm
幅(W)=470nm(最大値)、240nm(平均値)
厚み(T)=10nm(同じ方法による文献値(Kosynkin, Dmitry V., et al. Nature 458.7240 (2009): 872-876.))
比表面積=440m2/g
L/W=4~8(平均値)
L/T=100~200
【0149】
シアノ基含有モノマー単位を含むテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)エラストマーの生ゴム10gに溶剤(スリーエム社製フロリナートFC-770)100gを加えた後、24時間撹拌することによって生ゴムを膨潤させた。酸化グラフェンの原料に用いたものと同様の多層カーボンナノチューブ0.1g及び酸化グラフェン0.1gをそれぞれ溶剤(スリーエム社製フロリナートFC-770)10mlに分散させ、45kHzの超音波処理を2時間行って凝集を解いた。これらのフィラー分散液と膨潤させた生ゴムを表1に示す実施例1~3及び表2に示す比較例1~4の配合比となるように混合した後、ミキサーによって20分間混練した。続いて混合物中の溶剤を除去するために、自転公転ミキサーによって開放状態で2分間撹拌した後、温風炉内で80℃に昇温して3時間放置した。得られたフィラー分散未架橋エラストマーをホットプレス機を用いて140℃、10MPa、20分間の条件でプレスして、厚さ500μmのシートを得た。これらのシートを窒化ケイ素1g及びアンモニア水10mlと共にデシケーター内に入れ、140℃に昇温して72時間保持することによって架橋させた。
【0150】
【0151】
【0152】
(2)物理試験
実施例1~3及び比較例1~4のフィラー分散エラストマーシートから打抜刃を用いて作製したJIS7号形のダンベル状試験片に対して、引張試験機を用いて引張速度50mm/minの条件で引張試験を行った。得られた応力-ひずみ曲線から引張弾性率(MPa)、破断強度(MPa)、破断伸びを求めた。
【0153】
実施例1~3及び比較例1~4のフィラー分散エラストマーシートから切り出した長さ80mm、幅5mmの試験片に対して摩擦摩耗試験を行った。摩擦摩耗試験は、側面を320番手の研摩紙で被覆した直径100mmの回転ドラムを500rpmで回転させ、その側面に試料を接触させることにより、非特許文献2に示された方法に従って行なった。摩擦係数(μ)及び摩耗率(Ws(Pa-1))を求めた。摩耗率は低い値ほど耐摩耗性が高いことを示す。
【0154】
実施例1~3及び比較例1~4のフィラー分散エラストマーシートから一辺20mmの正方形に切り出した試料を50mlの溶剤(スリーエム社製フロリナートFC-770)に浸漬した状態で7日間放置した後、試料形状を観察することによって溶剤への試料の溶解性を調べた。
【0155】
各測定結果は、表3~4において、引張弾性率は「E(MPa)」、破断強度は「TS(MPa)」、破断伸びは「Eb」、摩擦係数は「μ」、摩耗率は「Ws(Pa-1)」と示した。
【0156】
【0157】
【0158】
表3~4によれば、破断強度(TS)、破断伸び(Eb)は比較例2ではそれぞれ13.9MPa、2.46であったのに対し、実施例1ではそれぞれ17.4MPa、2.73であった。また、引張弾性率(E)は比較例2では3.64MPaであったのに対し、実施例1では3.61MPaと殆ど変化が無かった。この結果から、酸化グラフェンを分散させたことにより、多層カーボンナノチューブを分散させた場合と比較して、エラストマー特有の変形しやすさを損なわずに(引張弾性率を増加させずに)破断強度が25%増大したことが確認された。
【0159】
表3~4によれば、摩擦係数(μ)は比較例1~4では0.44~0.64であったのに対し、実施例1~3では0.39~0.48であった。また、摩耗率(Ws)は比較例1~4では4.80~7.63×10-11Pa-1であったのに対し、実施例1~3では1.48~2.31×10-11Pa-1であった。この結果から、多層カーボンナノチューブに代わりに酸化グラフェンを分散させたことにより、耐摩耗性が向上したことが確認された。
【0160】
溶剤への試料の溶解性を調べた試験では、未架橋の試料では溶剤への浸漬後20分程度で溶解が確認され1時間後には完全に溶解したが、実施例1~3では試料形状の変化及び溶液へのフィラーの溶出は観察されなかった。この結果から、酸化グラフェンを分散させても架橋反応は抑制されないことが確認された。