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特許7486133上顎拡大および下顎後方移動に用いる歯列矯正装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】上顎拡大および下顎後方移動に用いる歯列矯正装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/08 20060101AFI20240510BHJP
   A61C 7/06 20060101ALI20240510BHJP
   A61C 7/10 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61C7/08
A61C7/06
A61C7/10
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022133624
(22)【出願日】2022-08-24
(65)【公開番号】P2023033212
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】63/237252
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516089577
【氏名又は名称】洪 澄祥
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】洪 澄祥
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-191623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0214804(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0143049(KR,A)
【文献】特開平10-066702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/08
A61C 7/06
A61C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯列矯正装置であって、
患者の上顎歯列弓の左後方歯および右後方歯にそれぞれ取り外し可能に装着されるよう構成された左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ、
前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップを連結し、かつ前記患者の口蓋に接触するように構成されたパラタルバー、ならびに
前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップに連結し、かつ前記左後方歯キャップから前記右後方歯キャップへ延伸する拡張アーチ、
を含むアンカー構造と、
前記患者の上顎歯列弓の左前歯および右前歯にそれぞれ取り外し可能に装着されるよう構成された左前歯部分および右前歯部分、ならびに
前記左前歯部分および前記右前歯部分を互いに連結し、かつ前記パラタルバーに連結する複数のエキスパンションスクリュー、
を含む上顎拡張構造であって、前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップ、前記パラタルバー、ならびに前記拡張アーチが前記上顎拡張構造を横向きに(transversely)囲む、前記上顎拡張構造と、
前記拡張アーチの咬合面側に形成されていると共に、前記歯列矯正装置が装着されたときに前記患者の下顎歯列弓に接触するように構成された少なくとも1つの突起と、
を含む歯列矯正装置。
【請求項2】
前記左前歯部分および前記右前歯部分の各々が、前記エキスパンションスクリューにより駆動される力の下で初期位置と目標位置との間を移動可能であり、かつ前記拡張アーチが、前記目標位置において前記拡張アーチの舌縁部分が前記左前歯部分および前記右前歯部分の前縁部分に接触するような形状および相対位置を有するように構成された、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項3】
前記左前歯部分および前記右前歯部分が、前記エキスパンションスクリューにより駆動される前記力の下で前記初期位置から前および外側に移動し、かつ前記拡張アーチが前記目標位置で前記左前歯部分および前記右前歯部分を停止させるように構成された、請求項2に記載の歯列矯正装置。
【請求項4】
前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップ、前記パラタルバー、ならびに前記拡張アーチが一体成型されている、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項5】
前記拡張アーチが、前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップと同じ高さ(elevation)に位置する、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの突起には、前記拡張アーチに形成され、かつ前記歯列矯正装置が装着されたときに前記患者の下顎歯列弓の門歯に接触するように構成された門歯案内突起が含まれる、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの突起には、前記拡張アーチに形成され、かつ前記歯列矯正装置が装着されたときに前記患者の下顎歯列弓の左犬歯および右犬歯に接触するように構成された2つの横突起が含まれる、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項8】
前記拡張アーチならびに前記左前歯部分および前記右前歯部分に設けられた複数の連結部材をさらに含み、前記拡張アーチおよび前記左前歯部分および前記右前歯部分における前記連結部材が、弾性体を連結させて、前記左前歯部分および前記右前歯部分を駆動する力を付与するのに用いられる、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項9】
前記拡張アーチに設けられた複数の連結部材をさらに含み、前記拡張アーチにおける前記連結部材が、下歯に固定された他の連結部材に接続された弾性体を連結させて、前記患者の下顎歯列弓を駆動する力を付与するのに用いられる、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項10】
前記左前歯部分および前記右前歯部分ならびに前記パラタルバーに設けられた複数の連結部材をさらに含み、前記左前歯部分および前記右前歯部分ならびに前記パラタルバーにおける前記連結部材が、弾性体を連結させて、前記左前歯部分および前記右前歯部分を駆動する力を付与するのに用いられる、請求項1に記載の歯列矯正装置。
【請求項11】
歯列矯正装置であって、
患者の上顎歯列弓の左後方歯および右後方歯にそれぞれ取り外し可能に装着されるよう構成された左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ、
前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップを連結し、かつ前記患者の口蓋に接触するように構成されたパラタルバー、ならびに
前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップに連結し、かつ前記左後方歯キャップから前記右後方歯キャップへ延伸する拡張アーチ、
を含むアンカー構造と、
前記患者の上顎歯列弓の左前歯および右前歯にそれぞれ取り外し可能に装着されるよう構成された左前歯部分および右前歯部分;ならびに
前記左前歯部分および前記右前歯部分を互いに連結し、かつ前記パラタルバーに連結する複数のエキスパンションスクリュー
を含む上顎拡張構造であって、前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップ、前記パラタルバー、ならびに前記拡張アーチが前記上顎拡張構造を横向きに(transversely)囲む、前記上顎拡張構造と、
前記拡張アーチの咬合面側に形成されていると共に、前記歯列矯正装置が装着されたときに前記患者の下顎歯列弓の門歯ならびに左犬歯および右犬歯にそれぞれ接触するように構成された門歯案内突起および2つの横突起と、
を含む歯列矯正装置。
【請求項12】
前記門歯案内突起および前記横突起の接触面が、患者の下顎歯列弓の門歯と左右の犬歯用の案内面を有して構成されている、請求項11に記載の歯列矯正装置。
【請求項13】
前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップが、前記歯列矯正装置が装着されたときに前記患者の下顎歯列弓の左後方歯および右後方歯にそれぞれ接触するように構成されており、かつ前記左後方歯キャップおよび前記右後方歯キャップの接触面も、患者の下顎歯列弓の左後方歯および右後方歯の案内面を有して構成されている、請求項12に記載の歯列矯正装置。
【請求項14】
前記左前歯部分および前記右前歯部分の各々が、前記エキスパンションスクリューにより駆動される力の下で初期位置と目標位置との間を移動可能であり、かつ前記拡張アーチが前記目標位置で前記左前歯部分および前記右前歯部分を停止させるように構成された、請求項11に記載の歯列矯正装置。
【請求項15】
前記アンカー構造ならびに前記左前歯部分および前記右前歯部分が歯列矯正用樹脂から作製されている、請求項11に記載の歯列矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年8月26日に出願された米国特許仮出願第63/237,252号の利益を請求し、その全体が参照されることにより本明細書に取り込まれる。
【0002】
本出願は概して歯列矯正装置に関し、より詳細には、正しい咬合を確立するため、上顎(upper jawまたはmaxilla)を拡大し、および下顎(lower jawまたはmandible)を後方移動させるのに用いる(つまり、上顎拡大および下顎後方移動に用いる)歯列矯正装置に関する。
【背景技術】
【0003】
悪い歯並びは、その人の歯の審美性、機能および健康に悪影響を及ぼし得る。歯列矯正の目的は、機械的な力を加える器具を用いて、歯の機能および審美性が改善される位置または向きに歯を移動させることにより、歯を正しい配列および咬合にすることである。
【0004】
図1Aおよび1Bは、重度のIII級不正咬合を有する成人患者の治療前の歯模型を示している。この歯模型は、前開咬、上顎の陥凹(recessed maxilla)、および下顎前突(protruding mandible)の状態を示している。患者は、異常な上顎骨の異常な発育を原因とする上顎の陥凹を有している。図1Aに示されるように、上顎と下顎との間(例えば、垂直方向の破線の間)に水平方向のギャップG1があり、かつ図1Bに示されるように、上顎と下顎との間(例えば、水平方向の破線の間)に垂直方向のギャップG2がある。さらに、患者には筋のこわばり(muscle stiffness)または筋スプリンティング(muscle splinting)がある。前歯接触(anterior contact)および犬歯保護(canine protection)を欠くため、咀嚼時に過度の下顎側方運動(lateral jaw movements)が起こり得る。防御的筋スプリンティング(Protective muscle splinting)は、過度の下顎側方運動から顎関節を守るための身体の自然な反応である。
【0005】
このような重度のケースにおいて、医師は、上顎の陥凹および下顎突出の患者に手術を施すのが通常である。故に、重度のIII級咬合不正に対し、非外科的治療を提供することが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述に鑑みて、本発明の目的は、外科的治療に代わるものとして、重度のIII級咬合不正を治療するための、患者が取り外し可能な(patient-removable)歯列矯正装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、アンカー構造(anchorage structure)、上顎拡張構造、および少なくとも1つの突起を含む歯列矯正装置を提供する。アンカー構造は、患者の上顎歯列弓の左後方歯および右後方歯にそれぞれ取外し可能に装着されるように構成された左後方歯キャップおよび右後方歯キャップを含む。アンカー構造はまた、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップを連結し、かつ患者の口蓋に接触するように構成されたパラタルバーも含む。アンカー構造はまた、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップに連結し、かつ左後方歯キャップから右後方歯キャップまで延伸する拡張アーチ(expanded arch)も含む。上顎拡張構造は、患者の上顎歯列弓の左前歯および右前歯にそれぞれ取り外し可能に装着されるよう構成された左前歯部分および右前歯部分を含む。上顎拡張構造はまた、左前歯部分と右前歯部分とを互いに連結すると共に、パラタルバーに連結する複数のエキスパンションスクリューも含む。左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ、パラタルバー、ならびに拡張アーチは上顎拡張構造を横方向に(transversely)囲む。少なくとも1つの突起が拡張アーチの咬合面側に形成され、歯列矯正装置が装着されたときに患者の下顎歯列弓に接触するように構成されている。
【0008】
いくつかの実施形態において、左前歯部分および右前歯部分の各々は、エキスパンションスクリューにより駆動される力の下、初期位置と目標位置との間を移動可能となっており、かつ拡張アーチは、目標位置において拡張アーチの舌縁部分が左前歯部分および右前歯部分の前縁部分に接触するような形状および相対位置を有するよう構成されている。
【0009】
いくつかの実施形態において、左前歯部分および右前歯部分は、エキスパンションスクリューにより駆動される力の下、初期位置から前および外側に移動し、かつ拡張アーチは、目標位置で左前歯部分および右前歯部分を停止させるように構成されている。
【0010】
いくつかの実施形態において、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ、パラタルバー、ならびに拡張アーチは一体成型されている。
【0011】
いくつかの実施形態において、拡張アーチは、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップと同じ高さ(elevation)に位置している。
【0012】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの突起には、拡張アーチに形成され、かつ歯列矯正装置が装着されたときに患者の下顎歯列弓の門歯に接触するように構成された門歯案内突起が含まれる。
【0013】
いくつかの実施形態において、少なくとも1つの突起には、拡張アーチに形成され、かつ歯列矯正装置が装着されたときに患者の下顎歯列弓の左犬歯および右犬歯に接触するよう構成された2つの横突起が含まれる。
【0014】
いくつかの実施形態において、歯列矯正装置は、拡張アーチならびに左前歯部分および右前歯部分に設けられた複数の連結部材をさらに含む。拡張アーチならびに左前歯部分および右前歯部分における連結部材は、弾性体を連結させて、左前歯部分および右前歯部分を駆動する力を与えるのに用いられる。
【0015】
いくつかの実施形態において、歯列矯正装置は、拡張アーチに設けられた複数の連結部材をさらに含む。拡張アーチにおける連結部材は、下歯に固定された他の連結部材に接続された弾性体を連結させ、患者の下顎歯列弓を駆動する力を与えるのに用いられる。
【0016】
いくつかの実施形態において、歯列矯正装置は、左前歯部分および右前歯部分ならびにパラタルバーに設けられた複数の連結部材をさらに含む。左前歯部分および右前歯部分ならびにパラタルバーにおける連結部材は、弾性体を連結させて、左前歯部分および右前歯部分を駆動する力を与えるのに用いられる。
【0017】
本発明の別の実施形態は、アンカー構造、上顎拡張構造、門歯案内突起および2つの横突起を含む歯列矯正装置を提供する。アンカー構造は、患者の上顎歯列弓の左後方歯および右後方歯にそれぞれ取り外し可能に装着されるよう構成された左後方歯キャップおよび右後方歯キャップを含む。アンカー構造はまた、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップを連結し、かつ患者の口蓋に接触するように構成されたパラタルバーも含む。アンカー構造はまた、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップに連結し、かつ左後方歯キャップから右後方歯キャップまで延伸する拡張アーチ(expanded arch)も含む。上顎拡張構造は、患者の上顎歯列弓の左前歯および右前歯にそれぞれ取り外し可能に装着されるよう構成された左前歯部分および右前歯部分を含む。上顎拡張構造はまた、左前歯部分と右前歯部分とを互いに連結すると共に、パラタルバーに連結する複数のエキスパンションスクリューも含む。左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ、パラタルバー、ならびに拡張アーチは上顎拡張構造を横方向に囲む。門歯案内突起および横突起は、拡張アーチの咬合面側に形成され、歯列矯正装置が装着されたときに患者の下顎歯列弓の門歯ならびに左犬歯および右犬歯に接触するように構成されている。
【0018】
いくつかの実施形態において、門歯案内突起および横突起の接触面は、下歯用の案内面を有して構成されている。
【0019】
いくつかの実施形態において、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップは、歯列矯正装置が装着されたときに患者の下顎歯列弓の左後方歯および右後方歯にそれぞれ接触するように構成されており、かつ左後方歯キャップおよび右後方歯キャップの接触面も、下歯用の案内面を有して構成されている。
【0020】
いくつかの実施形態において、左前歯部分および右前歯部分の各々は、エキスパンションスクリューにより駆動される力の下、初期位置と目標位置との間を移動可能となっており、かつ拡張アーチは、左前歯部分および右前歯部分を目標位置で停止させるように構成されている。
【0021】
いくつかの実施形態において、アンカー構造ならびに左前歯部分および右前歯部分は歯列矯正用樹脂で作製されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本開示は、添付の図面と共に読んだときに、以下の詳細な説明から最もよく理解される。業界の標準的な慣行に従い、各種特徴は縮尺に合わせて描かれておらず、単に説明の目的で用いられるということが強調される。実際に、各種特徴の寸法は、記載を明確にするために任意に増大または縮小され得る。
図1A図1Aは、重度のIII級不正咬合を有する成人患者の治療前の歯模型の側面図である。
図1B図1Bは、重度のIII級不正咬合を有する成人患者の治療前の歯模型の正面図である。
図2】本開示のいくつかの実施形態による歯列矯正装置の概略下面図である。
図3】本開示のいくつかの実施形態による歯列矯正装置の概略上面図である。
図4】本開示のいくつかの実施形態による歯列矯正装置の概略下面図であって、歯列矯正装置の矯正機能を説明している。
図5】本開示のいくつかの実施形態による歯列矯正装置の傾斜した概略上面図である。
図6】いくつかの実施形態による歯列矯正装置の傾斜した概略下面図である。
図7】本開示のいくつかの実施形態による歯列矯正装置が上顎歯列弓に装着されているところを説明する正面図であり、歯列矯正装置の門歯案内突起および横突起が下門歯および犬歯にそれぞれ接触している。
図8】本開示のいくつかの実施形態による歯列矯正装置の概略下面図であって、歯列矯正装置における連結部材の位置を説明している。
図9】本開示のいくつかの実施形態による歯列矯正装置の概略下面図であって、歯列矯正装置における連結部材の位置を説明している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的、特徴および利点を説明するため、以下に、本発明の好ましい実施形態および図が詳細に示される。しかしながら、それら実施形態は、種々の特定の状況において具体化され得る多くの適用可能な発明概念を提供するものである、ということが理解されなければならない。記載される特定の実施形態は、単にそれら実施形態を作り、使用する特定の方法の説明に過ぎず、本開示の範囲を限定するものではない。
【0024】
別途定義されていない限り、本明細書で用いられる全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野において通常の技術を有する者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。別途定義されていない限り、一般的に用いられる辞書で定義されている各々の用語は、本開示の関連技術および背景または状況に合った意味を有すると解釈されなければならず、理想化された、または過度に正式な仕方で解釈されてはならない、ということが理解されるべきである。
【0025】
また、「beneath(の下に)」、「below(の下)」、「lower(の下方)」、「above(より上に)」、「upper(の上方)」のような空間的相対語(spatially relative term)は、図面に示される1つの要素または特徴の、別の要素または特徴との関係を説明する記述を容易にするために本明細書で使用される場合がある。これら空間的相対語は、図面に描かれた向きに加え、使用または操作における装置のそれぞれ異なる向きを包含するよう意図されている。装置は別の向きに配されて(oriented)もよく(90度回転するか、または別の向きとする)、本明細書で使用される空間的相対な記述(spatially relative descriptors)は同様にそれに応じて解釈することができる。
【0026】
本開示の各種実施形態により、上顎の成長異常および下顎前突を有する患者の上顎を拡大、および下顎を後方移動するための患者が取り外し可能な歯列矯正装置が提供される。有利なことに、提供される当該歯列矯正装置は、上顎を前および外側に(anteriorly and outwardly)広げると同時に、下顎を後方移動させることができ、治療時間を短縮することができる。本発明は、非外科的治療の代替案を提供できる。
【0027】
図2は、いくつかの実施形態による患者が取り外し可能な歯列矯正装置10の概略下面図である。患者が取り外し可能な歯列矯正装置10(歯列矯正装置10とも称され得る)は、患者が上顎歯列弓に装着するのに適しており、かつアンカー構造20および上顎拡張構造30を含む。アンカー構造20は、2つの(つまり、左および右)後方歯キャップ21、パラタルバー22、および拡張アーチ23を含む。上顎拡張構造30は、2つの(つまり、左および右)前歯部分31および3つの(歯列矯正)エキスパンションスクリュー32を含む。エキスパンションスクリュー32は、左前歯部分および右前歯部分31を互いに連結し、かつパラタルバー22に連結する。エキスパンションスクリュー32の詳細は当該分野において周知であり、ここでは繰り返さない。拡張アーチ23は左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ21に連結し、かつ左後方歯キャップ21から右後方歯キャップ21へ延伸する。左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ21はパラタルバー22を介して連結し、後方歯アンカー構造24を形成する。いくつかの実施形態において、拡張アーチ23および後方歯アンカー構造24(つまり、アンカー構造20)は一体成型される。
【0028】
図2に示されるように、拡張アーチ23および後方歯アンカー構造24は上顎拡張構造30を横向きに(transversely)囲む。また、拡張アーチ23は、後方歯アンカー構造24の左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ21と実質的に同じ水準(level)(高さ(elevation))に位置するという点に留意すべきである。
【0029】
図3は、同一の歯列矯正装置10の上面図を示している。図3に示されるように、各後方歯キャップ21は、上顎の後方歯を収容するためのキャビティ21Aを有しており、各前歯部分31は、上顎の前歯を収容するためのキャビティ31Aを有している。より詳細には、歯列矯正装置10が上顎歯列弓に装着されたとき、左後方歯キャップおよび右後方歯キャップ21は左後方歯および右後方歯に嵌合する(fitted)または配され、左前歯部分および右前歯部分31は左前歯および右前歯に嵌合するまたは配され、そしてこれらの歯はそれぞれキャビティ21Aおよび31A内に収容される。いくつかの実施形態において、アンカー構造20および前歯部分31は、歯列矯正用樹脂のような硬質の生体適合性材料から作製される。口腔への応用に適した任意の他の材料を用いることもできる。他の実施形態では、歯を収容するためのキャビティ21Aおよび31Aはワックスが塗布されて、歯列矯正装置の保持力(retention)を改善させたものであってよい。
【0030】
機能の観点から言うと、アンカー構造20は、後方歯をベースとして固定を提供する。図4中の小さな矢印で示されるように、エキスパンションスクリュー32を調節することによって、付勢力(biasing force)が前歯部分31に加えられ、前歯を前および外側に(anteriorly and outwardly)押して、上顎を広げる。図4に示されるように、内側の破線P1は前歯/前歯部分31の初期位置を示し、外側の破線P2は前歯/前歯部分31の目標位置を示している。また、拡張アーチ23は、その舌縁部分(例えば、図示されている内縁部分)が図4に示された外側の破線P2の形状および位置に合うような形状および相対的に前進した位置を有するように構成されている。よって、拡張アーチ23の機能の1つは、前歯部分31の目標位置を画定することにある。上顎が広がるのに伴い、前歯部分31は、(図4中の大きい矢印で示される)拡張の動きが拡張アーチ23の舌縁部分によって止められるまで、エキスパンションスクリュー32を調節することにより前および外側に徐々に移動する。上顎前歯が目標位置に達すると、図1Aに示されるようなIII級咬合不正の水平方向のギャップG1がなくなる。
【0031】
図5は、同一の歯列矯正装置10の傾斜した上面図を示している。図5に示されるように、各前歯部分31は口蓋の形状に合うように形成されている。また、パラタルバー22は、口蓋の形状に合うよう、かつアンカー構造20の強度および装着安定性を高めるようにアーチ形(図6も参照)に構成されている。
【0032】
いくつかの実施形態では、さらなる構造的特徴33(例えば突起)が拡張アーチ23に加えられる。(同一の歯列矯正装置10の傾斜した下面図を示す)図6に示されるように、門歯案内突起33Aおよび2つの横突起33Bが拡張アーチ23の咬合面側(例えば、図示されている上側)に加えられている。門歯案内突起33Aの舌側面(例えば、図示されている内側面)は、下門歯に接触するように構成されている。類似して、横突起33Bの舌側面(例えば、図示されている内側面)は、下犬歯に接触するように構成されている。歯模型の上顎歯列弓に装着された同一の歯列矯正装置10の正面図が図7に示されており、門歯案内突起33Aおよび横突起33Bが下の門歯および犬歯にそれぞれ接触しているのが説明されている。これにより、門歯案内突起33Aおよび横突起33Bが防御的筋スプリンティング(protective muscle splinting)を軽減するように働くため、エキスパンションスクリュー32により駆動される上顎拡張の動きおよび下顎後方移動(後に説明する)が促進される。加えて、門歯案内突起33A、突起33B、および後方歯キャップ21の咬合面側(例えば、図6に示される上側)の接触面(例えば、図6に示される内側面)が、下歯用の案内面としての機能的斜面(functional bevels)を有して構成されていてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、連結部材40(例えば、ボタンまたは類似のもの)が、弾性体(例えば、ゴムバンド)を連結させるために拡張アーチ23および前歯部分31に加えられる。図8は、いくつかの実施形態による同一の歯列矯正装置10における連結部材40の位置を示している。図8に示されるように、連結部材40(簡潔にするため、単純に円または楕円で示されている)は拡張アーチ23の唇側(例えば、図示されている外側)および舌側(例えば、図示されている内側)、ならびに前歯部分31の下面(例えば、図示されている上面)に付着される。いくつかの実施形態において、弾性体(図示せず)は、拡張アーチ23における連結部材40を前歯部分31における連結部材40に接続することで、上顎拡張のための(図8中の矢印で示される)力を与える。
【0034】
いくつかの実施形態において、弾性体は、拡張アーチ31における連結部材40を、下歯または下歯における下側リテーナー(もしあれば)に固定された連結部材に接続することで、下顎後方移動のための力を与える。これにより、上顎拡大(エキスパンションスクリュー32により駆動される)および下顎後方移動(弾性体に加えられる弾性力により駆動される)を同時に達成することができ、治療時間が短縮される。
【0035】
門歯案内突起33Aおよび横突起33Bを設けて下歯に接触させるようにしたことにより、防御的筋スプリンティングが軽減され得、よって上顎拡張および下顎後方移動が促進されるという点が、再度強調されることが重要である。このようでなければ、防御的筋スプリンティングが下顎の移動を制限してしまう。
【0036】
いくつかの実施形態では、エキスパンションスクリュー32を逆方向に操作して、前歯部分31に上顎前歯の後方移動(それぞれ異なる患者の実際の必要性に応じて)のための力を与えることができる。かかるケースにおいては、図9に示されるように、さらなる連結部材41(簡潔とするため、単に円で表されている)をパラタルバー22の下側(例えば、図示されている上側)に加えることができる。前歯部分31における連結部材40をパラタルバー22における連結部材41に接続する弾性体(図示せず)が、上顎前歯の後方移動のための(図9中の矢印で示されるような)力を与える。
【0037】
いくつかの実施形態において、前歯部分31における連結部材40をパラタルバー22における連結部材41に連結する弾性体(図示せず)は、上顎前歯を咬合平面の方へ垂直に引き下げる(つまり、図1Bに示されるIII級咬合不正の垂直方向のギャップG2をなくす)力を与える。
【0038】
図1Aおよび図1Bにに示される水平方向のギャップG1および垂直方向のギャップG2が両方ともなくなったら、上顎と下顎との間の適切な咬合が達成され得る、つまり、III級咬合不正が治る。
【0039】
まとめると、本開示の実施形態はいくつかの有利な特徴を有する。拡張アーチに1つまたはそれ以上の構造的特徴(例えば、突起)を設置することによって、防御的筋スプリンティングを軽減することができ、これにより上顎拡張の動きおよび下顎後方移動が促進される。また、提供される歯列矯正装置は、上顎を前および外側に拡張すると同時に下顎を後方移動させることができ、治療時間が短縮される。したがって、重度のIII級咬合不正を治療するのに、手術はもはや不要となる。
【0040】
本開示の実施形態およびそれらの利点を詳細に記載したが、特許請求の範囲により定義された本開示の精神と領域を逸脱しない限りにおいて各種の変更、置換および変化を加えることができる、という点が理解されなければならない。例えば、当業者であれば、本開示の範囲内において、本明細書に記載された多くの特徴、機能、プロセス、および材料を変更することができる。また、本出願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成、手段、方法、およびステップの特定の実施形態に限定されることを意図したものではない。当業者であれば、本開示から、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行できるまたは実質的に同じ結果を達成できる、現行のまたは将来開発されるプロセス、機械、製造、組成、手段、方法、およびステップが、本開示に基づいて利用可能であることを、容易に理解するであろう。したがって、特許請求の範囲は、かかるプロセス、機械、製造、組成、手段、方法、およびステップがその範囲に含まれるよう意図されている。加えて、各請求項は、独立した実施形態を構成し、かつ各種請求項および実施形態の組み合わせは本開示の範囲内に入る。
【符号の説明】
【0041】
10・・・(患者が取り外し可能な)歯列矯正装置
20・・・アンカー構造
21・・・後方歯キャップ
21A・・・キャビティ
22・・・パラタルバー
23・・・拡張アーチ
24・・・後方歯アンカー構造
30・・・上顎拡張構造
31・・・前歯部分
31A・・・キャビティ
32・・・拡張スクリュー
33・・・構造的特徴
33A・・・門歯案内突起
33B・・・横突起
40・・・連結部材
41・・・連結部材
G1・・・水平方向のギャップ
G2・・・垂直方向のギャップ
P1・・・内側の破線
P2・・・外側の破線


図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9