(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】尿または下水添加によるリンおよび金属の同時除去または回収方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20230101AFI20240510BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20240510BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/62 B
C02F1/62 E
C02F1/62 C
C02F1/58 R
(21)【出願番号】P 2019136948
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】越川 博元
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-071886(JP,A)
【文献】特開昭47-003504(JP,A)
【文献】特開2008-055324(JP,A)
【文献】特開昭60-071087(JP,A)
【文献】特開平10-156391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0193295(US,A1)
【文献】特開昭49-121359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属廃液から固形分を除去して液体成分を得る工程、及び
尿又は下水に含まれるリン酸アニオン1モルに対し重金属廃液の液体成分に溶解している重金属カチオンが0.1~20モルとなるように、前記液体成分と、尿又は下水とを混合して、前記リン酸アニオンと前記重金属カチオンとを反応させ、不溶性の重金属リン酸塩を形成する工程を含む、重金属の分離方法。
【請求項2】
リン酸が、ポリリン酸、オルトリン酸、ピロリン酸、又はメタリン酸である、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
重金属が、ランタノイド、アクチノイド、遷移金属、卑金属、半金属、又は貧金属である、請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項4】
ランタノイドが、ジスプロシウム、又はユーロピウムである、請求項3に記載の分離方法。
【請求項5】
遷移金属が、クロム、鉄、銅、イットリウム、又はカドミウムである、請求項3に記載の分離方法。
【請求項6】
さらに、前記不溶性の重金属リン酸塩を回収する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の分離方法。
【請求項7】
重金属廃液から固形分を除去して液体成分を得る手段、及び
尿又は下水
に含まれるリン酸アニオン1モルに対し重金属廃液の液体成分に溶解している重金属カチオン
が0.1~20モルとなるように、前記液体成分と、尿又は下水
とを混合して、前記リン酸アニオンと前記重金属カチオンとを反応させ、不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段を含む、水浄化システム。
【請求項8】
さらに、生物処理手段、および汚泥除去手段を含む、請求項7に記載の水浄化システム。
【請求項9】
重金属廃液から固形分を除去して液体成分を得る手段、及び
尿又は下水に含まれるリン酸アニオン1モルに対し重金属廃液の液体成分に溶解している重金属カチオンが0.1~20モルとなるように、前記液体成分と、尿又は下水とを混合して、前記リン酸アニオンと前記重金属カチオンとを反応させ、不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段を含む、重金属回収システム。
【請求項10】
さらに、不溶性の重金属リン酸塩を回収する手段を含む、請求項9に記載の重金属回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中の金属イオンを不溶化し沈殿回収する方法として、水溶液をアルカリ性に調整して金属を水酸化物として沈殿させる水酸化法、金属を硫化物として沈殿させる硫化ソーダ法、硫化第一鉄を添加してフェライトを生成し沈殿させるフェライト法、イオン交換法の一種であるキレート樹脂法等が知られている。これらの方法では、アルカリまたは酸の添加によるpHの調整工程が必要であり、環境負荷が大きくなる傾向がある。
【0003】
一方、リンは枯渇が危惧される貴重な資源である一方で、河川や湖の富栄養化の原因物質とされており、水溶液中からリンを分離回収する技術が求められている。
【0004】
リンおよび重金属を分離回収する方法として、特許文献1はリンを含む下水処理液に塩化鉄などの金属塩類を添加してリンを沈殿させ、さらにリン化合物を硫化水素と反応させてリンを可溶化し、重金属を硫化物として不溶化する方法を記載している。リンと重金属の両方を不溶化させるために複数工程が必要である。
【0005】
特許文献2はリンを含む下水処理液に廃石膏を添加してリン酸カルシウムを形成し、そのリン酸カルシウムに下水処理液中の重金属を吸着させることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-156391号公報
【文献】特開第2015-167919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、pH調整を行わずに単一工程で廃液から重金属を分離し、同時に、下水や尿から富栄養化の原因となるリン酸イオンを分離できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、重金属廃液と、尿又は下水とを混合することにより、pH調整を行わず、単一工程で重金属を分離できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、重金属廃液と、尿又は下水とを混合することにより、重金属廃液に含まれる重金属カチオンと、尿又は下水に含まれるリン酸アニオンとを反応させ、不溶性の重金属リン酸塩を形成する工程を含む、重金属の分離方法に関する。
【0010】
リン酸が、ポリリン酸、オルトリン酸、ピロリン酸、又はメタリン酸であることが好ましい。
【0011】
重金属が、ランタノイド、アクチノイド、遷移金属、卑金属、半金属、又は貧金属であることが好ましい。
【0012】
ランタノイドが、ジスプロシウム、又はユーロピウムであることが好ましい。
【0013】
遷移金属が、クロム、鉄、銅、イットリウム、又はカドミウムであることが好ましい。
【0014】
前記重金属の分離方法は、さらに、前記不溶性の重金属リン酸塩を回収する工程を含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明は、重金属廃液と尿又は下水とを混合することにより、重金属廃液に含まれる重金属カチオンと尿又は下水に含まれるリン酸アニオンとを反応させ、不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段を含む、水浄化システムに関する。
【0016】
前記水浄化システムは、さらに、生物処理手段、および汚泥除去手段を含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明は、重金属廃液と尿又は下水とを混合することにより、 重金属廃液に含まれる重金属カチオンと尿又は下水に含まれるリン酸アニオンとを反応させ、 不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段を含む、重金属回収システムに関する。
【0018】
前記重金属回収システムは、さらに、不溶性の重金属リン酸塩を回収する手段を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、pH調整を行わずに単一工程で廃液から重金属を分離し、同時に、下水や尿から富栄養化の原因となるリン酸イオンを分離できる。従来の重金属分離方法ではpHの調整が必要であったが、本発明では特にpHの調整が必要なく、下水処理などの大規模スケールで実施しても環境への負荷が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
<<重金属の分離方法>>
本発明の重金属の分離方法は、重金属廃液と、尿又は下水とを混合することにより、重金属廃液に含まれる重金属カチオンと、尿又は下水に含まれるリン酸アニオンとを反応させ、不溶性の重金属リン酸塩を形成する工程を含む。本発明において、重金属の分離は重金属をその他の成分から分離することを意味し、有用な重金属の回収や、不要な重金属の除去を含む。
【0022】
本発明において分離される重金属は、鉄と同等以上の比重を有する金属であれば特に限定されない。重金属は、ランタノイド、遷移金属、アクチノイド、卑金属、半金属、貧金属に分類される。
【0023】
ランタノイドとしては、ジスプロシウム、ユーロピウムが挙げられる。遷移金属としては、第一~第四遷移金属に分類される金属であれば特に限定されないが、第一遷移金属であるクロム、鉄、銅、ニッケルや、第二遷移金属であるイットリウム、カドミウムが好ましい。アクチノイドとしては、ウラン、プルトニウム、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムが挙げられる。卑金属としては、亜鉛、鉛、スズ、水銀、が挙げられる。半金属としては、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルルが挙げられる。貧金属としては、タリウム、ビスマスが挙げられる。また、ランタノイド、スカンジウム、イットリウムを包含して希土類元素(レアアース)と呼び、本発明ではこれらの希土類元素の分離も可能である。これらの中でも、ジスプロジウム、ユーロピウム、イットリウム、カドミウムがより好ましい。
【0024】
<重金属カチオン>
重金属カチオンは、前述した重金属のカチオンである。重金属カチオンの価数は2価または3価であり、本発明の方法では重金属カチオンの価数にかかわらず分離可能である。
【0025】
<重金属廃液>
重金属廃液は、前述した重金属を含む廃液であれば特に限定されない。例えば、金属加工の際に発生するメッキ廃液、排煙を洗浄する際に発生する洗浄液、ゴミの最終処分場で発生する浸出水、実験廃液が挙げられる。前述した重金属廃液をそのまま使用してもよいが、本発明では重金属廃液に溶解している重金属カチオンを利用するため、ろ過、沈殿、遠心分離等により固形分を除去した液体成分を用いても、重金属を分離できる。また、重金属廃液を水等で希釈した希釈液を用いてもよい。
【0026】
本発明によれば、重金属廃液中の重金属濃度にかかわらず重金属を分離できる。また、重金属廃液と、尿又は下水との混合液のpHが後述する範囲であれば、使用する重金属廃液のpHも特に限定されない。
【0027】
<尿>
本発明で用いる尿は、ヒトを含む動物の尿である。尿を水等で希釈した希釈液を用いることも可能だが、リン酸アニオンを高濃度で供するために原液を用いることが好ましい。一般的に健康な動物の尿のpHは4.5~7.5程度である。
【0028】
<下水>
下水は、炊事や洗濯など一般的な人間の生活に伴って生じる排水や、雨水、屎尿等の混合物である。下水には食物、排せつ物、洗剤、肥料、食品添加物等に由来するリン酸アニオンが多く含まれる。下水をそのまま重金属廃液と混合してもよいが、本発明では下水に溶解しているリン酸アニオンを利用するため、下水からろ過、沈殿、遠心分離等により固形分を除去した液体成分を用いても、重金属を分離できる。また、下水を水等で希釈した希釈液を用いてもよい。
【0029】
<リン酸アニオン>
尿又は下水に含まれるリン酸としては、ポリリン酸、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸が挙げられる。本発明では、尿又は下水に含まれるリン酸のアニオンが、重金属廃液に含まれる重金属カチオンと結合することにより水に不溶性の重金属リン酸塩が形成される。重金属リン酸塩の具体例としては、リン酸ジスプロシウム、リン酸イットリウム、リン酸ユーロピウム、リン酸鉄(III)、リン酸クロム、リン酸タリウム、リン酸カドミニウム、リン酸ビスマスが挙げられる。
【0030】
不溶性の重金属リン酸塩を形成するために、重金属廃液と、尿又は下水との混合液のpHは、弱酸性域が好ましく、pH2~6がより好ましく、pH3~6が更に好ましい。リン酸には緩衝作用がある。したがって、リン酸を含む尿又は下水を用いる本発明では、重金属廃液のpHが強酸性域、あるいは塩基性域であっても、重金属廃液とおおよそ等量の尿又は下水を混合すると混合液のpHは弱酸性域となる傾向がある。よって、本発明においてpHの調整工程は必須ではなく、pH調整を行わなくても不溶性の重金属リン酸塩を形成できる。また、不溶性の重金属リン酸塩を形成するために、重金属廃液と尿又は下水との混合液における、リン酸アニオンと重金属カチオンの濃度は、室温における両者の溶解度積を超えることが好ましい。不溶性の重金属リン酸塩を効率的に形成するためには、重金属と尿又は下水の混合時に、リン酸アニオン1モルに対し、重金属カチオンが0.1~20モルとなるように、両者の濃度・体積を調整することが好ましい。リン酸アニオン1モルに対する重金属カチオンの濃度は0.5~10モルがより好ましく、1~5モルが更に好ましい。
【0031】
重金属廃液と、尿又は下水とを混合する際の両者の体積比は特に限定されないが、例えば、(重金属廃液の体積)/(尿又は下水の体積)で表される比として1~10000の範囲が挙げられる。重金属廃液と尿又は下水を混合してから反応させる時間は特に限定されないが、例えば5分間~24時間が挙げられる。不溶性の重金属リン酸塩の形成反応を促進するために、重金属廃液と、尿又は下水とを混合した後、攪拌してもよい。
【0032】
<不溶性の重金属リン酸塩を回収する工程>
本発明の重金属の分離方法は、不溶性の重金属リン酸塩を形成した後、不溶性の重金属リン酸塩を回収する工程を含んでもよい。当該工程では、形成された不溶性の重金属リン酸塩を、ろ過、遠心分離、液体成分の乾燥等の方法により回収できる。不溶性の重金属リン酸塩は、水などで洗浄してもよい。
【0033】
回収された重金属リン酸塩からは、イオン交換、電解析出等の従来公知の方法により重金属のみを精製することができる。また、重金属リン酸塩を硝酸などの酸で溶解し、その溶解液を分析することにより、重金属の収率を測定できる。
【0034】
不溶性の重金属リン酸塩を不要物として廃棄するためには、不溶性の重金属リン酸塩を、ろ過、遠心分離、液体成分の乾燥等の方法により、液体成分と分離して廃棄できる。
【0035】
<<水浄化システム>>
本発明は、また、重金属廃液と尿又は下水とを混合することにより、重金属廃液に含まれる重金属カチオンと尿又は下水に含まれるリン酸アニオンとを反応させ、不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段を含む、水浄化システムに関する。不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段では、重金属の分離方法に関して前述した方法により重金属廃液と尿又は下水とを混合する。
【0036】
本発明の水浄化システムは、不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段に加えて、一般的な水浄化システムに含まれる他の手段を含んでいてもよい。一般的な水浄化システムでは、最初沈殿手段で下水中の比較的重い固形成分を沈殿させる。沈殿した固形成分は汚泥除去手段に送り、上澄みは生物処理手段に送る。生物処理手段では、送られてきた上澄みに微生物を含む活性汚泥を加え、空気を吹き込んで攪拌し、上澄みに含まれる成分を微生物により分解させる。最終沈殿手段では微生物、および微生物による分解物を沈殿させる。最終沈殿手段における沈殿物は生物処理手段に戻し、再び活性汚泥として使用できる。
【0037】
本発明では、最初沈殿手段で得られる上澄みに重金属廃液を添加して、不溶性の重金属リン酸塩を形成することができる。この重金属リン酸塩は、ろ過、遠心分離、液体成分の乾燥等の一般的な方法により液体成分と分離できる。液体成分は、生物処理手段に送り、微生物による分解に供することができる。
【0038】
<<重金属回収システム>>
本発明は、また、重金属廃液と尿又は下水とを混合することにより、 重金属廃液に含まれる重金属カチオンと尿又は下水に含まれるリン酸アニオンとを反応させ、 不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段を含む、重金属回収システムに関する。不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段では、重金属の分離方法に関して前述した方法により重金属廃液と尿又は下水とを混合する。
【0039】
本発明の重金属回収システムは、不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段に加えて、不溶性の重金属リン酸塩を回収する手段を含むことが好ましい。重金属リン酸塩の回収は、ろ過、遠心分離、液体成分の乾燥等の一般的な方法により行える。本発明の重金属回収システムは、不溶性の重金属リン酸塩を形成する手段により不溶性の重金属リン酸塩を形成できるが、必要に応じて、凝集沈殿、溶媒抽出、イオン交換などの他の重金属回収方法を直列または並列に接続することも可能である。
【実施例】
【0040】
(実施例1)尿による液体中のレアアースの回収
レアアース水溶液として、塩化ジスプロシウム・6水和物(DyCl3・6H2O)、塩化イットリウム・6水和物(YCl3・6H2O)、塩化ユウロピウム・6水和物(EuCl3・6H2O)をそれぞれ別の超純水に溶解し、表1に記載の濃度に調整した。
【0041】
採取直後の人尿(成人男性)30mLを容量48mLの梨型遠沈管に採取し、レアアース水溶液を表1に記載の量を添加し、室温下で充分に撹拌した。白色の沈殿を確認した後、12,000rpm×15min、25℃の条件で遠心して、上澄み液を上清として分離し、別の容器に全て保存した。沈殿物を超純水で3回洗浄し、その洗液を別の容器に保存した。洗浄後の沈殿物を5Nの硝酸で溶解し、これを溶解液とした。以上の操作の流れを
図1に示す。なお、全ての実施例において、人尿は同一の成人男性から採取したものを使用し、尿の差異による影響を受けないように配慮した。
【0042】
【0043】
上清、洗液、および溶解液の体積をそれぞれ測定した。また、上清、洗液、および溶解液中のレアアース濃度を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(PerkinElmer Optima 5300 DV、以降ICP)を用いて測定した。レアアース濃度に液量を掛け合わせることにより、液体中に存在するレアアース量(mg)を求め、収率、回収率を算出した。その結果を表2及び
図2に示す。
【0044】
【0045】
DyおよびYの回収率は約90%であり、Euの回収率は約82%であった。ただし、操作中で一定量の重金属は失われ、上清、洗液、溶解液中の合計量は初期量の81~92%程度となる(収率)。この収率を考慮した回収率は、いずれの金属種についても98%を超えていた。尿1mLあたりの回収量は、0.76~0.89mgであった。
【0046】
溶解液中のレアアースとリン酸(PO4
3-)とのモル比を測定した。なお、それぞれのレアアースについて、3回の試行を行った。その結果を表3に示す。
【0047】
【0048】
レアアースとリン酸のモル比がおおよそ1:1となっていたことから、3価の陽イオンとして存在するレアアースが、尿中のリン酸イオンと結合して沈殿を形成したことが明らかとなった。これは、尿中のリン酸イオン濃度をモニタリングすることにより、その尿により沈殿可能なレアアース量を推定できることを示す。
【0049】
(実施例2)尿による液体中のレアアースの回収2
尿1mLあたりのレアアースの回収能力を評価するために、実施例1よりも多量のジスプロシウムを尿に添加した。実験日を変えることにより、尿の組成の違いも検討した。重金属液および尿の配合量を表4に示す。各実施例では尿を採取した直後に重金属液と混合した。
【0050】
【0051】
実施例1と同じ手順で重金属液および尿の混合により沈殿を形成し、沈殿中の重金属量を測定した。その結果を
図3に示す。尿1mLあたり1.6~2.2mgのレアアースを回収できた。
【0052】
(実施例3)下水によるレアアースの回収1
実施例1における尿に代えて、下水処理場に流入する下水を使用した。下水は汚水と雨水の混合液である。下水には固形物も多く含まれるため、採水した当日中にろ過により固形物の除去を行った。すなわち、下水を遠心(10,000rpm×30min、20℃)して大きい不純物を沈殿させ、次に孔径3μmのメンブレンフィルターでろ過を行い、引き続いて孔径0.45μmのメンブレンフィルター(A045A047A、47mm、ADVANTEC)でろ過を行った。この下水のろ過液に、重金属液を添加した。重金属液および尿の配合量を表5に示す。
【0053】
【0054】
実施例1と同じ手順で重金属液および下水ろ過液の混合により沈殿を形成し、沈殿中の重金属量を測定した。下水ろ過液に添加したジスプロジウムの量と、回収したジスプロジウムの量の関係を
図4A~Cに示す。また、ジスプロジウムの回収率の平均値を表6に示す。
【0055】
【0056】
表6に示すように、ジスプロシウムの回収率は平均で56.8%であった。特に、ジスプロシウムの添加量が比較的多い実施例3-4、3-5、3-6、実施例3-10、3-11、3-12、実施例3-16、3-17、3-18では回収率が64~74%であった。実施例3-6、3-12、3-18では、下水1Lで回収できるジスプロシウムの量は平均で35.9mg/Lであった。
【0057】
また、300mLの下水に対して大過剰にジスプロシウム(131mg)を添加する試験を2回行ったところ、平均で18mgを回収した。下水1Lにより60.3mgのジスプロシウムを回収できた。
【0058】
(実施例4)下水によるレアアースの回収2
実施例3と同様に、下水ろ過液を用いて、ジスプロジウム、イットリウム、ユーロピウムの回収試験を行った。重金属液および尿の配合量を表7に示す。
【0059】
【0060】
実施例1と同じ手順で重金属液および尿の混合により沈殿を形成し、沈殿中の重金属量を測定した。使用した下水に含まれるリン酸イオン1モルに対する、回収された重金属のモル数を算出した。その結果を
図5に示す。
【0061】
下水は採水日によって組成が異なることから、
図5において沈殿し回収されたレアアースのモル数には違いが見られるが、いずれのレアアースについても、1モルのリン酸イオンに対して約5モルのレアアースが対応していた。尿を用いると1モルのリン酸イオンに対して約1モルのレアアースが結合していたが(表3)、下水を用いた場合にはレアアースの回収率をさらに向上できた。
【0062】
(実施例5)尿による、カドミウム含有浸出水からのカドミウムの分離
管理型埋立地から採取した実浸出水にカドミウム水溶液を添加し、カドミウムの最終濃度が浸出水1Lあたり0.75mg、8.0mg、および37.8mgの濃度となるように調整した。これらのカドミウム含有浸出水に成人男性の尿を添加した。重金属液および尿の配合量を表8に示す。
【0063】
【0064】
実施例1と同じ手順で重金属液および尿の混合により沈殿を形成し、沈殿中の重金属量を測定した。カドミウムの各濃度について3回の試行を行った。その結果を表9および
図6に示す。
【0065】
【0066】
表9において、除去率はカドミウムの回収率を示している。表9及び
図6に示すように、2価の金属イオンであるカドミウムも、0.75mg/Lの比較的低濃度の溶液から63.4%を除去・回収でき、37.8mg/Lの溶液から54.5%を除去・回収できた。この結果は、本発明の方法は2価の重金属にも適用できることを示す。