(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 41/06 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
F16D41/06 B
F16D41/06 Z
(21)【出願番号】P 2020200498
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 建
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-095944(JP,A)
【文献】特開2016-130547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14,41/00-47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
前記内輪の径方向外側で前記内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置されて、前記内輪および前記外輪の相対回転を規制するロック位置と前記内輪および前記外輪の相対回転を許容する解除位置との間を周方向に変位可能な固定部材と、
軸方向に変位して前記内輪および前記外輪の間に進入することで前記固定部材を押圧して前記ロック位置および前記解除位置の一方から他方に移動させる制御部を有する制御部材と、
を備える回転伝達装置
であって、
前記回転伝達装置は、前記固定部材である第1固定部材および第2固定部材、並びに前記第1固定部材および前記第2固定部材の間に配置されるとともに、前記第1固定部材および前記第2固定部材を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材を有する固定部材セットを備え、
前記制御部は、
前記周方向における前記第1固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第1固定部材を押圧可能に設けられた第1制御部と、
前記周方向における前記第2固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第2固定部材を押圧可能に設けられた第2制御部と、
を備え、
前記内輪および前記外輪の一方は、前記内輪および前記外輪の他方に対向する第1周面を有し、
前記内輪および前記外輪の前記他方は、前記第1周面に対向する第2周面を有し、
前記第1周面には、前記第2周面との間に前記周方向の中央から両端に向かって漸次狭小となるくさび空間を形成するカム面が形成され、
前記くさび空間は、
前記周方向の一方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第1ロック位置と、
前記周方向の他方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第2ロック位置と、
前記第1ロック位置および前記第2ロック位置よりも前記周方向の中央寄りの前記解除位置と、
を備え、
前記固定部材セットは、前記くさび空間に配置され、
前記第1固定部材は、前記第1ロック位置に配置され、
前記第2固定部材は、前記第2ロック位置に配置され、
前記第1固定部材および前記第2固定部材は、前記カム面および前記第2周面に係合して前記内輪および前記外輪の相対回転を規制し、
前記第1制御部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第1固定部材に摺接させ、前記第1固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第1固定部材を前記第1ロック位置から前記解除位置に移動させ、
前記第2制御部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第2固定部材に摺接させて、前記第2固定部材を前記くさび空間における前記周方向の前記中央部に向けて押圧することで、前記第2固定部材を前記第2ロック位置から前記解除位置に移動させる、
回転伝達装置。
【請求項2】
内輪と、
前記内輪の径方向外側で前記内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置されて、前記内輪および前記外輪の相対回転を規制するロック位置と前記内輪および前記外輪の相対回転を許容する解除位置との間を周方向に変位可能な固定部材と、
軸方向に変位して前記内輪および前記外輪の間に進入することで前記固定部材を押圧して前記ロック位置および前記解除位置の一方から他方に移動させる制御部を有する制御部材と、
を備える回転伝達装置であって、
前記回転伝達装置は、前記固定部材である第1固定部材および第2固定部材、並びに前記第1固定部材および前記第2固定部材の間に配置されるとともに、前記第1固定部材および前記第2固定部材を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材を有する固定部材セットを備え、
前記制御部は、
前記周方向における前記第1固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第1固定部材を押圧可能に設けられた第1制御部と、
前記周方向における前記第2固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第2固定部材を押圧可能に設けられた第2制御部と、
を備え、
前記制御部材は、
前記軸方向に変位して前記内輪および前記外輪の間に進入することで、前記内輪および前記外輪の間に進入する前記第1制御部に摺接して、前記第1制御部に対して前記周方向に変位する第1被摺接部と、
前記軸方向に変位して前記内輪および前記外輪の間に進入することで、前記内輪および前記外輪の間に進入する前記第2制御部に摺接して、前記第2制御部に対して前記周方向に変位する第2被摺接部と、
をさらに備え、
前記内輪および前記外輪の一方は、前記内輪および前記外輪の他方に対向する第1周面を有し、
前記内輪および前記外輪の前記他方は、前記第1周面に対向する第2周面を有し、
前記第1周面には、前記第2周面との間に前記周方向の中央から両端に向かって漸次狭小となるくさび空間を形成するカム面が形成され、
前記くさび空間は、
前記周方向の一方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第1ロック位置と、
前記周方向の他方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第2ロック位置と、
前記第1ロック位置および前記第2ロック位置よりも前記周方向の中央寄りの前記解除位置と、
を備え、
前記固定部材セットは、前記くさび空間に配置され、
前記第1固定部材は、前記第1ロック位置に配置され、
前記第2固定部材は、前記第2ロック位置に配置され、
前記第1固定部材および前記第2固定部材は、前記カム面および前記第2周面に係合して前記内輪および前記外輪の相対回転を規制し、
前記第1制御部および前記第1被摺接部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第1被摺接部に摺接させて、前記第1制御部および前記第1被摺接部の一方によって前記第1固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第1固定部材を前記第1ロック位置から前記解除位置に移動させ、
前記第2制御部および前記第2被摺接部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第2被摺接部に摺接させて、前記第2制御部および前記第2被摺接部の一方によって前記第2固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第2固定部材を前記第2ロック位置から前記解除位置に移動させる、
回転伝達装置。
【請求項3】
内輪と、
前記内輪の径方向外側で前記内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置されて、前記内輪および前記外輪の相対回転を規制するロック位置と前記内輪および前記外輪の相対回転を許容する解除位置との間を周方向に変位可能な固定部材と、
軸方向に変位して前記内輪および前記外輪の間に進入することで前記固定部材を押圧して前記ロック位置および前記解除位置の一方から他方に移動させる制御部を有する制御部材と、
を備える回転伝達装置であって、
前記回転伝達部材は、前記固定部材である第1固定部材および第2固定部材、並びに前記第1固定部材および前記第2固定部材の間に配置されるとともに、前記第1固定部材および前記第2固定部材を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材を有する固定部材セットを備え、
前記制御部材は、前記内輪および前記外輪の間に進入する前記制御部に摺接して、前記制御部に対して前記周方向に変位する被摺接部を有し、
前記制御部は、前記被摺接部に摺接する制御部本体、および前記第1固定部材を押圧する第1押圧部を有し、
前記被摺接部は、前記制御部本体に摺接する被摺接部本体、および前記第2固定部材を押圧する第2押圧部を有し、
前記内輪および前記外輪の一方は、前記内輪および前記外輪の他方に対向する第1周面を有し、
前記内輪および前記外輪の前記他方は、前記第1周面に対向する第2周面を有し、
前記第1周面には、前記第2周面との間に前記周方向の中央から両端に向かって漸次狭小となるくさび空間を形成するカム面が形成され、
前記くさび空間は、
前記周方向の一方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第1ロック位置と、
前記周方向の他方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第2ロック位置と、
前記第1ロック位置および前記第2ロック位置よりも前記周方向の中央寄りの前記解除位置と、
を備え、
前記固定部材セットは、前記くさび空間に配置され、
前記第1固定部材は、前記第1ロック位置に配置され、
前記第2固定部材は、前記第2ロック位置に配置され、
前記第1固定部材および前記第2固定部材は、前記カム面および前記第2周面に係合して前記内輪および前記外輪の相対回転を規制し、
前記制御部本体を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記被摺接部本体に摺接させて、前記第1押圧部によって前記第1固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第1固定部材を前記第1ロック位置から前記解除位置に移動させるとともに、前記第2押圧部によって前記第2固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第2固定部材を前記第2ロック位置から前記解除位置に移動させる、
回転伝達装置。
【請求項4】
内輪と、
前記内輪の径方向外側で前記内輪と同軸に配置された外輪と、
前記内輪と前記外輪との間に配置されて、前記内輪および前記外輪の相対回転を規制するロック位置と前記内輪および前記外輪の相対回転を許容する解除位置との間を周方向に変位可能な固定部材と、
軸方向に変位して前記内輪および前記外輪の間に進入することで前記固定部材を押圧して前記ロック位置および前記解除位置の一方から他方に移動させる制御部を有する制御部材と、
を備える回転伝達装置であって、
前記回転伝達装置は、前記固定部材である第1固定部材および第2固定部材、並びに前記第1固定部材および前記第2固定部材の間に配置されるとともに、前記第1固定部材および前記第2固定部材を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材を有する固定部材セットを備え、
前記制御部は、
前記周方向における前記第1固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第1固定部材を押圧可能に設けられた第1制御部と、
前記周方向における前記第2固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第2固定部材を押圧可能に設けられた第2制御部と、
を備え、
前記第1固定部材および前記第2固定部材のそれぞれは、前記軸方向に延びる外周面を有し、
前記制御部材は、前記解除位置に位置する前記第1固定部材および前記第2固定部材それぞれの前記外周面に前記軸方向に沿って接触する、
回転伝達装置。
【請求項5】
前記カム面は、前記内輪に形成されている、
請求項
1から請求項4のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記第1固定部材および前記第2固定部材のそれぞれは、前記軸方向に延びる外周面を有し、
前記制御部材は、
前記周方向に対して前記カム面側に傾斜した方向を向き、前記第1固定部材の前記外周面に接触可能な第1接触部と、
前記周方向に対して前記カム面側に傾斜した方向を向き、前記第2固定部材の前記外周面に接触可能な第2接触部と、
を有する、
請求項
1から請求項5のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【請求項7】
前記固定部材セットは複数設けられ、
前記制御部材は、前記第1制御部および前記第2制御部を一体に支持する支持部を有する、
請求項
1から請求項
6のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の変速機には、歯車とシャフトとの間でのトルクの伝達を切断および接続する回転伝達装置が設けられている。回転伝達装置の一例として、噛み合いクラッチがある。噛み合いクラッチは、互いに噛み合う歯により動力を伝達する。しかしながら噛み合いクラッチは、歯同士の角度が一致しないと噛み合わないので変速速度が遅くなる場合がある。また、噛み合いクラッチはバックラッシュを有するので、振動の発生源となり得る。
【0003】
回転伝達装置の他の例として、特許文献1に開示されたツーウェイクラッチがある。このツーウェイクラッチは、内輪と、内輪の径方向外側に配されている外輪と、内輪と外輪との間に挿入される保持器と、内輪と外輪との間に組み込まれたころと、を備える。外輪の内周に円筒面が設けられ、内輪の外周に複数のカム面が設けられて、外輪の内周円筒面と内輪の各カム面との間に周方向両側で次第に狭小となるくさび形空間が形成されている。これらの各くさび形空間の狭小部に一対のころが弾性部材によって押し込まれており、内輪と外輪とがロックされている。保持器がカム面に対して回転すると、保持器がころをくさび形空間の広大部へ押し出してロック状態が解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、保持器をカム面に対して回転させることでトルクの伝達を切断および接続する回転伝達装置では、保持器が静止系に対して回転している状態でトルク伝達の切断および接続を切り替えることは困難であった。仮にそのような構成を実現させる場合には、保持器をカム面に対して回転させる機構を、静止系に対して保持器と一体回転するように設ける必要があり、構造が複雑化する。したがって、任意のタイミングでトルク伝達の切断および接続を切り替え可能とする回転伝達装置の開発が望まれている。
【0006】
そこで本発明は、任意のタイミングでトルク伝達の切断および接続を切り替えることができる回転伝達装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の回転伝達装置は、内輪と、前記内輪の径方向外側で前記内輪と同軸に配置された外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置されて、前記内輪および前記外輪の相対回転を規制するロック位置と前記内輪および前記外輪の相対回転を許容する解除位置との間を周方向に変位可能な固定部材と、軸方向に変位して前記内輪および前記外輪の間に進入することで前記固定部材を押圧して前記ロック位置および前記解除位置の一方から他方に移動させる制御部を有する制御部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、制御部を軸方向に変位させることにより固定部材を移動させることができる。これにより、内輪および外輪の相対回転状態によらず、固定部材をロック位置および解除位置の一方から他方に移動させることができる。したがって、任意のタイミングでトルク伝達の切断および接続を切り替えることができる回転伝達装置を提供できる。
【0009】
上記の回転伝達装置において、前記固定部材である第1固定部材および第2固定部材、並びに前記第1固定部材および前記第2固定部材の間に配置されるとともに、前記第1固定部材および前記第2固定部材を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材を有する固定部材セットを備え、前記制御部は、前記周方向における前記第1固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第1固定部材を押圧可能に設けられた第1制御部と、前記周方向における前記第2固定部材に対する前記付勢部材とは反対側で前記第2固定部材を押圧可能に設けられた第2制御部と、を備えていてもよい。
【0010】
本発明によれば、第1制御部および第2制御部を内輪および外輪の間に進入させることで、付勢部材の付勢力に抗しつつ第1固定部材および第2固定部材をまとめてロック位置から解除位置に移動させることができる。また、第1制御部および第2制御部を内輪および外輪の間から退避させることで、付勢部材によって第1固定部材および第2固定部材をまとめて解除位置からロック位置に移動させることができる。よって、第1制御部および第2制御部を軸方向に変位させるだけで、第1固定部材および第2固定部材をロック位置および解除位置の間で双方向に移動させることができる。したがって、トルク伝達の切断および接続を切り替えることができる。
【0011】
上記の回転伝達装置において、前記内輪および前記外輪の一方は、前記内輪および前記外輪の他方に対向する第1周面を有し、前記内輪および前記外輪の前記他方は、前記第1周面に対向する第2周面を有し、前記第1周面には、前記第2周面との間に前記周方向の中央から両端に向かって漸次狭小となるくさび空間を形成するカム面が形成され、前記くさび空間は、前記周方向の一方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第1ロック位置と、前記周方向の他方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第2ロック位置と、前記第1ロック位置および前記第2ロック位置よりも前記周方向の中央寄りの前記解除位置と、を備え、前記固定部材セットは、前記くさび空間に配置され、前記第1固定部材は、前記第1ロック位置に配置され、前記第2固定部材は、前記第2ロック位置に配置され、前記第1固定部材および前記第2固定部材は、前記カム面および前記第2周面に係合して前記内輪および前記外輪の相対回転を規制し、前記第1制御部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第1固定部材に摺接させ、前記第1固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第1固定部材を前記第1ロック位置から前記解除位置に移動させ、前記第2制御部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第2固定部材に摺接させて、前記第2固定部材を前記くさび空間における前記周方向の前記中央部に向けて押圧することで、前記第2固定部材を前記第2ロック位置から前記解除位置に移動させてもよい。
【0012】
本発明によれば、第1固定部材および第2固定部材は、ロック位置で内輪および外輪の両方向の相対回転を規制できる。また、第1固定部材は、内輪および外輪の間に第1制御部を進入させることで、第1制御部に押圧されて第1ロック位置から解除位置に移動する。さらに、第1固定部材は、内輪および外輪の間から第1制御部を退避させることで、付勢部材に付勢されて解除位置から第1ロック位置に移動する。また、第2固定部材は、内輪および外輪の間に第2制御部を進入させることで、第2制御部に押圧されて第2ロック位置から解除位置に移動する。さらに、第2固定部材は、内輪および外輪の間から第2制御部を退避させることで、付勢部材に付勢されて解除位置から第2ロック位置に移動する。よって、第1制御部および第2制御部を軸方向に変位させるだけで、第1固定部材および第2固定部材をロック位置および解除位置の間で双方向に移動させることができる。したがって、両方向のトルク伝達を同時に切断することができるとともに、両方向のトルク伝達を同時に接続することができる。
【0013】
上記の回転伝達装置において、前記制御部材は、前記内輪および前記外輪の間に進入する前記第1制御部に摺接して、前記第1制御部に対して前記周方向に変位する第1被摺接部と、前記内輪および前記外輪の間に進入する前記第2制御部に摺接して、前記第2制御部に対して前記周方向に変位する第2被摺接部と、をさらに備え、前記内輪および前記外輪の一方は、前記内輪および前記外輪の他方に対向する第1周面を有し、前記内輪および前記外輪の前記他方は、前記第1周面に対向する第2周面を有し、前記第1周面には、前記第2周面との間に前記周方向の中央から両端に向かって漸次狭小となるくさび空間を形成するカム面が形成され、前記くさび空間は、前記周方向の一方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第1ロック位置と、前記周方向の他方に向かうに従い漸次狭小となる、前記ロック位置である第2ロック位置と、前記第1ロック位置および前記第2ロック位置よりも前記周方向の中央寄りの前記解除位置と、を備え、前記固定部材セットは、前記くさび空間に配置され、前記第1固定部材は、前記第1ロック位置に配置され、前記第2固定部材は、前記第2ロック位置に配置され、前記第1固定部材および前記第2固定部材は、前記カム面および前記第2周面に係合して前記内輪および前記外輪の相対回転を規制し、前記第1制御部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第1被摺接部に摺接させて、前記第1制御部および前記第1被摺接部の一方によって前記第1固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第1固定部材を前記第1ロック位置から前記解除位置に移動させ、前記第2制御部を前記内輪および前記外輪の間に進入させることで前記第2被摺接部に摺接させて、前記第2制御部および前記第2被摺接部の一方によって前記第2固定部材を前記くさび空間における前記周方向の中央部に向けて押圧することで、前記第2固定部材を前記第2ロック位置から前記解除位置に移動させてもよい。
【0014】
本発明によれば、第1固定部材および第2固定部材は、ロック位置で内輪および外輪の両方向の相対回転を規制できる。また、第1固定部材は、内輪および外輪の間に第1制御部を進入させることで、第1制御部および第1被摺接部の一方に押圧されて第1ロック位置から解除位置に移動する。さらに、第1固定部材は、内輪および外輪の間から第1制御部を退避させることで、付勢部材に付勢されて解除位置から第1ロック位置に移動する。また、第2固定部材は、内輪および外輪の間に第2制御部を進入させることで、第2制御部および第2被摺接部の一方に押圧されて第2ロック位置から解除位置に移動する。さらに、第2固定部材は、内輪および外輪の間から第2制御部を退避させることで、付勢部材に付勢されて解除位置から第2ロック位置に移動する。よって、第1制御部および第2制御部を軸方向に変位させるだけで、第1固定部材および第2固定部材をロック位置および解除位置の間で双方向に移動させることができる。したがって、両方向のトルク伝達を同時に切断することができるとともに、両方向のトルク伝達を同時に接続することができる。
【0015】
上記の回転伝達装置において、前記カム面は、前記内輪に形成されていてもよい。
【0016】
本発明によれば、内輪の外周面にカム面が形成される。このため、外輪の内周面にカム面を形成する場合と比較して、カム面を容易に形成することができる。したがって、製造容易な回転伝達装置を提供できる。
【0017】
上記の回転伝達装置において、前記第1固定部材および前記第2固定部材のそれぞれは、前記軸方向に延びる外周面を有し、前記制御部材は、前記周方向に対して前記カム面側に傾斜した方向を向き、前記第1固定部材の前記外周面に接触可能な第1接触部と、前記周方向に対して前記カム面側に傾斜した方向を向き、前記第2固定部材の前記外周面に接触可能な第2接触部と、を有していてもよい。
【0018】
本発明によれば、制御部材に接触した第1固定部材および第2固定部材が第1接触部および第2接触部によってカム面側に案内される。これにより、第1固定部材および第2固定部材が内輪および外輪の他方に干渉することを抑制できる。よって、内輪および外輪の相対回転時にノイズの発生を抑制できる。
【0019】
上記の回転伝達装置において、前記第1固定部材および前記第2固定部材のそれぞれは、前記軸方向に延びる外周面を有し、前記制御部材は、前記解除位置に位置する前記第1固定部材および前記第2固定部材それぞれの前記外周面に前記軸方向に沿って接触してもよい。
【0020】
本発明によれば、解除位置に位置する第1固定部材および第2固定部材それぞれの軸方向に延びる外周面に、制御部材を点接触よりも広い軸方向の範囲で接触させることができる。これにより、解除位置に位置する第1固定部材および第2固定部材が軸方向に対して傾くことを抑制できる。したがって、くさび空間で解除位置に位置する第1固定部材および第2固定部材を安定させることができる。
【0021】
上記の回転伝達装置において、前記固定部材セットは複数設けられ、前記制御部材は、前記第1制御部および前記第2制御部を一体に支持する支持部を有していてもよい。
【0022】
本発明によれば、支持部を軸方向に変位させることで第1制御部および第2制御部が一括して変位するので、制御部材を軸方向に変位させる機構が複雑化することを抑制できる。したがって、周辺構造を簡素化できる回転伝達装置を提供できる。また、複数の固定部材セットの第1固定部材および第2固定部材を一括してロック位置から解除位置に移動させることができる。したがって、両方向のトルク伝達を同時かつ瞬時に切断および接続することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、任意のタイミングでトルク伝達の切断および接続を切り替えることができる回転伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態の回転伝達装置を軸方向から見た図である。
【
図2】
図1に示す回転伝達装置の要部を拡大した図である。
【
図3】
図1のIII-III線における断面図である。
【
図4】第1実施形態の制御部材を示す斜視図である。
【
図5】第1実施形態の回転伝達装置の断面図であって、
図3に相当する図である。
【
図6】第1実施形態の回転伝達装置の断面図であって、
図3に相当する図である。
【
図7】第1実施形態の回転伝達装置の要部を軸方向から見た図であって、
図4に相当する図である。
【
図8】第2実施形態の回転伝達装置の断面図である。
【
図9】第2実施形態の回転伝達装置の断面図であって、
図8に相当する図である。
【
図10】第2実施形態の回転伝達装置の断面図であって、
図8に相当する図である。
【
図11】第3実施形態の回転伝達装置の断面図である。
【
図12】第3実施形態の回転伝達装置の断面図であって、
図11に相当する図である。
【
図13】第4実施形態の回転伝達装置の断面図である。
【
図14】第4実施形態の回転伝達装置の断面図であって、
図13に相当する図である。
【
図15】第4実施形態の回転伝達装置の断面図であって、
図13に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の回転伝達装置1を軸方向から見た図である。
図1に示すように、回転伝達装置1は、内輪10と、外輪20と、複数のローラセット30(固定部材セット)と、制御部材50と、を備える。回転伝達装置1は、軸線O回りの入力トルクを伝達および遮断する。以下、軸線Oに沿う方向を軸方向といい、軸線Oに直交して軸線Oから放射状に延びる方向を径方向といい、軸線O周りを周回する方向を周方向という。また、周方向のうち
図1の紙面手前側から見て時計回りに周回する方向を時計回り方向といい、その反対方向を反時計回り方向という。
【0027】
内輪10は、軸線Oを中心とする外周面11(第1周面)を有する円柱状に形成されている。ただし内輪10は、円筒状に形成されていてもよい。内輪10の外周面11は、外輪20に対向している。内輪10の外周面11には、複数(図示の例では11個)のカム面12が形成されている。各カム面12は、周方向の中央部で径方向の外側を向く平面状に形成されている。複数のカム面12は、周方向に等間隔に形成されている。
【0028】
外輪20は、内輪10の径方向外側の配置されている。外輪20は、内輪10と同軸に配置されている。外輪20は、内輪10の外周面11に対向する内周面21(第2周面)を有する。外輪20の内周面21の全体は、一定の曲率で形成されている。外輪20の内周面21は、内輪10の外周面11に対して全周にわたって間隔をあけている。
【0029】
図2は、
図1に示す回転伝達装置の要部を拡大した図である。
図2に示すように、内輪10のカム面12は、カム面12と外輪20の外周面11との間にくさび空間3を形成している。くさび空間3は、周方向の中央から両端に向かって漸次狭小となる。具体的には、くさび空間3は、周方向の中央から両端に向かうに従ってカム面12と外輪20の外周面11との径方向の間隔が狭まるように形成されている。
【0030】
図1に示すように、複数のローラセット30は、内輪10と外輪20との間に配置されている。各ローラセット30は、内輪10および外輪20の相対回転を規制および解除する。複数のローラセット30は、くさび空間3と同数設けられている。各ローラセット30は、くさび空間3に1セットずつ配置されている。
【0031】
各ローラセット30は、第1ローラ31(第1固定部材、固定部材)および第2ローラ32(第2固定部材、固定部材)と、第1ローラ31および第2ローラ32を付勢する付勢部材40と、を備える。
【0032】
第1ローラ31は、くさび空間3における周方向の中央部に対する時計回り方向に配置されている。第2ローラ32は、くさび空間3における周方向の中央部に対する反時計回り方向に配置されている。第1ローラ31および第2ローラ32は、軸方向に延びる中心軸を有する円柱状に形成され、軸方向に延びる外周面を有する。第1ローラ31および第2ローラ32は、それぞれカム面12と外輪20の内周面21との最大間隔よりも小径、かつ最小間隔よりも大径に形成されている。第1ローラ31および第2ローラ32は、同形同大に形成されている。ただし第1ローラ31および第2ローラ32は、互いに相違する形状に形成されていてもよい。第1ローラ31および第2ローラ32は、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。第1ローラ31および第2ローラ32は、内輪10および外輪20の相対回転を規制するロック位置と、内輪10および外輪20の相対回転を許容する解除位置と、の間を周方向に変位可能となっている。
【0033】
図2に示すように、第1ローラ31は、解除位置からロック位置である第1ロック位置に移動すると、くさび空間3でカム面12と外輪20の内周面21との間の狭小部4に時計回り方向に嵌入してカム面12および内周面21に係合する。第1ローラ31は、くさび空間3で狭小部4から周方向の中央部に向かって周方向に変位すると、第1ロック位置よりもくさび空間3の中央寄りの解除位置に移動する。第2ローラ32は、解除位置からロック位置である第2ロック位置に移動すると、くさび空間3でカム面12と外輪20の内周面21との間の狭小部4に反時計回り方向に嵌入してカム面12および内周面21に係合する。第2ローラ32は、くさび空間3で狭小部4から周方向の中央部に向かって周方向に変位すると、第2ロック位置よりもくさび空間3の中央寄りの解除位置に移動する。
【0034】
図1に示すように、付勢部材40は、それぞれ内輪10と外輪20との間に配置されている。付勢部材40は、くさび空間3に配置されている。付勢部材40は、くさび空間3で第1ローラ31と第2ローラ32との間に1つずつ配置されている。ただし、付勢部材40は、第1ローラ31と第2ローラ32との間に2つ以上配置されていてもよい。付勢部材40は、圧縮コイルばねである。ただし付勢部材40は、圧縮コイルばねに限定されず、例えば板ばね等であってもよい。付勢部材40は、くさび空間3で第1ローラ31および第2ローラ32を互いに離間する方向に常時付勢している。付勢部材40は、第1ローラ31を内輪10に対して時計回り方向に付勢している。付勢部材40は、第2ローラ32を内輪10に対して反時計回り方向に付勢している。これにより第1ローラ31および第2ローラ32は、付勢部材40によってそれぞれロック位置に向けて付勢されている。付勢部材40は、図示しない保持部材によって保持されている。保持部材は、軸線O回りを内輪10と一体的に変位する。
【0035】
制御部材50は、内輪10に対して回転不能、かつ軸方向に変位可能に設けられている。制御部材50は、外輪20に対して隙間をあけて配置されている。制御部材50は、外輪20に対して回転可能、かつ軸方向に変位可能に設けられている。制御部材50は、内輪10に対して軸方向に変位して内輪10と外輪20との間に進入する。制御部材50は、内輪10と外輪20との間に進入することで、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させる。制御部材50は、例えば樹脂材料やアルミニウム合金等により形成されている。制御部材50は、第1ローラ31および第2ローラ32の間に挿入される複数の制御部51を備える。複数の制御部51は、ローラセット30と同数設けられている。制御部51は、周方向で隣り合う一対のローラセット30の間に挿入されることで、各ローラセット30の第1ローラ31および第2ローラ32の間隔を押し狭める。
【0036】
ここで、所定のローラセット30Aに着目すると、第1ローラ31および第2ローラ32は、複数の制御部51のうち第1制御部51Aおよび第2制御部51Bによって押圧される。第1制御部51Aは、周方向における第1ローラ31に対する付勢部材40とは反対側で第1ローラ31を押圧可能に設けられている。第2制御部51Bは、周方向における第2ローラ32に対する付勢部材40とは反対側で第2ローラ32を押圧可能に設けられている。
【0037】
図3は、
図1のIII-III線における断面図である。
図3に示すように、制御部材50は、複数の制御部51を一体に支持する支持部55を備える。支持部55は、制御部51に対する軸方向の一方に配置されている。支持部55は、軸線Oを中心とする円環状に形成されている。支持部55は、全ての制御部51に結合している。支持部55は、図示しない駆動機構によって内輪10および外輪20に対して軸方向に変位可能とされている。各制御部51は、内輪10および外輪20の間に支持部55側から挿入される。
【0038】
図4は、第1実施形態の制御部材50を示す斜視図である。
図4に示すように、制御部51は、支持部55との結合部から軸方向に突出している。制御部51は、径方向から見て先端から軸方向の中間部に向かうに従い周方向に漸次拡幅するテーパー部52と、径方向から見て軸方向の中間部から支持部55に向かって一定の幅で延びる定幅部53と、を備える。テーパー部52の先端縁は、軸方向から見て第1ローラ31および第2ローラ32の隙間に位置し、第1ローラ31および第2ローラ32の隙間よりも小さく形成されている。
【0039】
制御部51は、径方向に対して周方向側に傾斜した方向を向く一対の側面54(第1接触部、第2接触部)を備える。一対の側面54は、テーパー部52から定幅部53にわたって設けられている。一対の側面54は、それぞれ周方向に対してカム面12側(径方向の内側)に傾斜した方向を向いている。一対の側面54は、テーパー部52において制御部51の先端から軸方向の中間部に向かうに従い互いに離間するように延びている。一対の側面54は、定幅部53において軸方向に延びている。時計回り方向の側面54は、第2ローラ32の外周面に接触する。反時計回り方向の側面54は、第1ローラ31の外周面に接触する。
【0040】
本実施形態の回転伝達装置1の作用について説明する。
図2および
図3に示すように、制御部材50の制御部51が内輪10および外輪20の間に十分に挿入されていない状態では、第1ローラ31および第2ローラ32がロック位置に位置する。第1ローラ31が第1ロック位置に位置する状態では、内輪10に反時計回り方向のトルクが入力される、または外輪20に時計回り方向のトルクが入力されると、第1ローラ31がくさび空間3の狭小部4に押し込まれて摩擦力により内輪10および外輪20の相対回転を規制する。第2ローラ32が第2ロック位置に位置する状態では、内輪10に時計回り方向のトルクが入力される、または外輪20に反時計回り方向のトルクが入力されると、第2ローラ32が狭小部4に押し込まれて摩擦力により内輪10および外輪20の相対回転を規制する。これによりローラセット30は、内輪10および外輪20の両方向の相対回転を規制している。
【0041】
図5は、第1実施形態の回転伝達装置1の断面図であって、
図3に相当する図である。
図5に示すように、制御部材50が軸方向に変位して制御部51が内輪10および外輪20の間に挿入されると、最初に各制御部51のテーパー部52が第1ローラ31および第2ローラ32の間に進入する。制御部51の軸方向の変位が進行すると、制御部51のテーパー部52が第1ローラ31および第2ローラ32に接触し、一対の側面54が第1ローラ31および第2ローラ32に摺接する。制御部51は、テーパー部52の一対の側面54によって付勢部材40の付勢力に抗しつつ第1ローラ31および第2ローラ32の間隔を押し広げる。これにより、各ローラセット30の第1ローラ31および第2ローラ32の間隔が押し狭められる。第1ローラ31および第2ローラ32は、くさび空間3の狭小部4から周方向の中央部に向かって押し出されてロック位置から解除位置に移動する。これにより、内輪10および外輪20の相対回転が許容される。
【0042】
図6は、第1実施形態の回転伝達装置1の断面図であって、
図3に相当する図である。
図7は、第1実施形態の回転伝達装置1の要部を軸方向から見た図であって、
図4に相当する部分を示す図である。
図6および
図7に示すように、さらに制御部51の軸方向の変位が進行すると、制御部51の一対の側面54が定幅部53で第1ローラ31および第2ローラ32それぞれの外周面に摺接する。一対の側面54は定幅部53において軸方向に延びているので、第1ローラ31および第2ローラ32の移動が完了する。この状態で、制御部51は、第1ローラ31および第2ローラ32それぞれの外周面に軸方向に沿って接触している。
【0043】
図7に示すように、制御部51の一対の側面54は、定幅部53で周方向に対してカム面12側に傾斜した方向に向いているので、付勢部材40に付勢された第1ローラ31および第2ローラ32をカム面12側に案内する。これにより、第1ローラ31および第2ローラ32は、外輪20の内周面21に対して間隔をあけ、外輪20への干渉を回避している。
【0044】
第1ローラ31および第2ローラ32の間に進入した制御部51を後退させると、第1ローラ31および第2ローラ32は付勢部材40の付勢力を受けて解除位置からロック位置に向けて移動する。そして第1ローラ31および第2ローラ32がロック位置でくさび空間3の狭小部4に嵌入し、内輪10および外輪20の相対回転が再び規制される。
【0045】
以上に説明したように、本実施形態の回転伝達装置1は、軸方向に変位して内輪10および外輪20の間に進入することで第1ローラ31および第2ローラ32を押圧してロック位置から解除位置に移動させる制御部51を有する制御部材50を備える。この構成によれば、制御部51を軸方向に変位させることにより第1ローラ31および第2ローラ32を移動させることができる。これにより、内輪10および外輪20の相対回転状態によらず、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させることができる。したがって、任意のタイミングでトルク伝達の切断および接続を切り替えることができる回転伝達装置1を提供できる。
【0046】
また、第1ローラ31は、カム面12および外輪20の内周面21に係合して内輪10および外輪20の第1方向の相対回転を規制する。第2ローラ32は、カム面12および外輪20の内周面21に係合して内輪10および外輪20の第2方向の相対回転を規制する。これにより、第1ローラ31および第2ローラ32は、ロック位置で内輪10および外輪20の両方向の相対回転を規制できる。
【0047】
また、制御部51は、軸方向に変位して第1ローラ31および第2ローラ32の間に進入することで第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させる。この構成によれば、制御部51を軸方向に変位させることにより第1ローラ31および第2ローラ32をまとめて移動させることができる。これにより、内輪10および外輪20の両方向の相対回転を同時にロックおよび許容できる。したがって、両方向のトルクの伝達および遮断を同時に切り替えることができる回転伝達装置1を提供できる。
【0048】
また、回転伝達装置1は、第1ローラ31および第2ローラ32、並びに第1ローラ31および第2ローラ32の間に配置されるとともに、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置に向けて付勢する付勢部材40を有するローラセット30を備える。制御部51は、周方向における第1ローラ31に対する付勢部材40とは反対側で第1ローラ31を押圧可能に設けられた第1制御部51Aと、周方向における第2ローラ32に対する付勢部材40とは反対側で第2ローラ32を押圧可能に設けられた第2制御部51Bと、を備える。この構成によれば、第1制御部51Aおよび第2制御部51Bを内輪10および外輪20の間に進入させることで、付勢部材40の付勢力に抗しつつ第1ローラ31および第2ローラ32をまとめてロック位置から解除位置に移動させることができる。また、第1制御部51Aおよび第2制御部51Bを内輪10および外輪20の間から退避させることで、付勢部材40によって第1ローラ31および第2ローラ32をまとめて解除位置からロック位置に移動させることができる。よって、第1制御部51Aおよび第2制御部51Bを軸方向に変位させるだけで、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置および解除位置の間で双方向に移動させることができる。したがって、両方向のトルク伝達を同時に切断することができるとともに、両方向のトルク伝達を同時に接続することができる。
【0049】
制御部51は、軸方向の一方から他方に向かうに従い周方向に拡幅し、ロック位置に位置する第1ローラ31および第2ローラ32に接触可能なテーパー部52を有する。この構成によれば、制御部51を軸方向の一方に変位させることで、テーパー部52により第1ローラ31および第2ローラ32の間隔を周方向に押し広げることができる。これにより、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させることができる。
【0050】
さらに、回転伝達装置1は、第1ローラ31をロック位置に向けて付勢するとともに、第2ローラ32をロック位置に向けて付勢する付勢部材40を備える。この構成によれば、第1ローラ31および第2ローラ32は、第1ローラ31および第2ローラ32の間から制御部51を退避させることで、付勢部材40によって解除位置からロック位置に移動する。よって、制御部51を軸方向に変位させるだけで、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置および解除位置の間で双方向に移動させることができる。したがって、両方向のトルク伝達を同時に切断することができるとともに、両方向のトルク伝達を同時に接続することができる。
【0051】
カム面12は、内輪10に形成されている。この構成によれば、内輪10の外周面11にカム面12が形成される。このため、外輪の内周面にカム面を形成する場合と比較して、カム面12を容易に形成することができる。したがって、製造容易な回転伝達装置1を提供できる。
【0052】
付勢部材40は、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置に向けて付勢する。制御部51は、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させる。仮に制御部材が第1ローラ31および第2ローラ32を解除位置からロック位置に移動させるように構成すると、第1ローラ31および第2ローラ32がカム面12および外輪20の内周面21に係合する力は、第1ローラ31および第2ローラ32の間に挿入される制御部材の形状に依存する。このため、制御部材の外形寸法の精度によって、内輪10および外輪20の相対回転を規制する性能にばらつきが生じる可能性がある。本実施形態によれば、第1ローラ31および第2ローラ32が付勢部材40によってロック位置に向けて付勢されているので、第1ローラ31および第2ローラ32がくさび空間3の狭小部4に押し込まれる力のばらつきを低減できる。よって、第1ローラ31および第2ローラ32がカム面12および外輪20の内周面21に係合する力を安定させることができる。したがって、内輪10および外輪20の相対回転を規制する性能にばらつきが生じることを抑制して、トルクを確実に伝達することが可能な回転伝達装置1とすることができる。
【0053】
制御部51は、周方向に対してカム面12側に傾斜した方向を向き、第1ローラ31の外周面、および第2ローラ32の外周面に接触可能な一対の側面54を有する。この構成によれば、制御部51に接触した第1ローラ31および第2ローラ32が側面54によってカム面12側に案内される。これにより、第1ローラ31および第2ローラ32が外輪20に干渉することを抑制できる。よって、内輪10および外輪20の相対回転時に、ノイズの発生や、第1ローラ31または第2ローラ32がくさび空間3で変位して内輪10および外輪20が不意にロックされることを抑制できる。
【0054】
制御部51の側面54は、解除位置に位置する第1ローラ31および第2ローラ32の外周面11に軸方向に沿って接触する。この構成によれば、解除位置に位置する第1ローラ31および第2ローラ32それぞれの軸方向に延びる外周面11に、制御部51の側面54を点接触よりも広い軸方向の範囲で接触させることができる。これにより、解除位置に位置する第1ローラ31および第2ローラ32が軸方向に対して傾くことを抑制できる。したがって、くさび空間3で解除位置に位置する第1ローラ31および第2ローラ32を安定させることができる。
【0055】
制御部材50は、複数の制御部51を一体に支持する支持部55を有する。この構成によれば、支持部55を軸方向に変位させることで複数の制御部51が一括して変位するので、制御部51を軸方向に変位させる機構が複雑化することを抑制できる。したがって、周辺構造を簡素化できる回転伝達装置1を提供できる。また、複数のローラセット30の第1ローラ31および第2ローラ32を一括してロック位置および解除位置の一方から他方に移動させることができる。したがって、両方向のトルク伝達を同時かつ瞬時に切断および接続することができる。
【0056】
なお第1実施形態では、制御部材50の制御部51の先端側の部分にテーパー部52が設けられているが、制御部材の形状はこれに限定されない。例えば、制御部は、先端から軸方向の中間部にわたって設けられた定幅部と、軸方向の中間部から支持部55に向かうに従い漸次縮幅するテーパー部と、を備えていてもよい。
【0057】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態の回転伝達装置1Aの断面図であって、内輪10および外輪20の間でローラ31,32の中心軸線に沿って周方向に延びる断面を示す図である。
第2実施形態は、制御部材60が第1ローラ31および第2ローラ32の間で周方向に変位するように形成されている点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0058】
図8に示すように、本実施形態の回転伝達装置1Aは、第1実施形態の制御部材50に代えて、制御部材60を備える。制御部材60は、互いに摺接する第1制御部材61および第2制御部材65を有する。
【0059】
第1制御部材61は、第1ローラ31および第2ローラ32の間に挿入される複数の制御部62と、複数の制御部62を一体に支持する第1支持部63と、を備える。第1支持部63は、制御部62に対する軸方向の一方に配置されている。各制御部62は、周方向で隣り合う一対のローラセット30の間に第1支持部63側から挿入される。
【0060】
ここで、所定のローラセット30Aに着目すると、第1ローラ31および第2ローラ32は、複数の制御部62のうち第1制御部62Aおよび第2制御部62Bによって押圧される。第1制御部62Aは、周方向における第1ローラ31に対する付勢部材40とは反対側で第1ローラ31を直接押圧可能に設けられている。第2制御部62Bは、周方向における第2ローラ32に対する付勢部材40とは反対側で第2ローラ32を間接的に押圧可能に設けられている。
【0061】
第2制御部材65は、第1ローラ31および第2ローラ32の間に配置された複数の被摺接部66と、複数の被摺接部66を一体に支持する第2支持部67と、を備える。複数の被摺接部66は、所定のローラセット30Aに対して周方向における第1制御部62Aと同じ側に配置された第1被摺接部66Aと、所定のローラセット30Aに対して周方向における第2制御部62Bと同じ側に配置された第2被摺接部66Bと、を備える。第1被摺接部66Aは、第1ローラ31および第2ローラ32の間に挿入された第1制御部62Aを挟んで第1ローラ31とは反対側に配置されている。第2被摺接部66Bは、第2ローラ32と第1ローラ31および第2ローラ32の間に挿入された第2制御部62Bとの間に配置されている。第2支持部67は、被摺接部66を挟んで第1支持部63とは反対側に配置されている。各被摺接部66は、周方向で隣り合う一対のローラセット30の間に第2支持部67側から挿入される。
【0062】
制御部62は、被摺接部66と第1ローラ31との間に挿入される。制御部62は、径方向から見て先端から第1支持部63に向かうに従い漸次拡幅している。制御部62は、第1接触面62aおよび第1傾斜面62bを有する。第1接触面62aは、第1ローラ31側を向き、径方向から見て軸方向に延びている。第1傾斜面62bは、第2ローラ32側を向き、軸方向に対して周方向に傾斜した方向に延びている。具体的には、第1傾斜面62bは、径方向から見て制御部62の先端から第1支持部63に向かうに従い第1接触面62aから離れる方向に延びている。
【0063】
被摺接部66は、制御部62と第2ローラ32との間に配置されている。被摺接部66は、径方向から見て先端から第2支持部67に向かうに従い漸次拡幅している。被摺接部66は、第2接触面66aおよび第2傾斜面66bを有する。第2接触面66aは、第2ローラ32側を向き、径方向から見て軸方向に延びている。第2傾斜面66bは、第1ローラ31側を向き、軸方向に対して周方向に傾斜した方向に延びている。具体的には、第2傾斜面66bは、径方向から見て被摺接部66の先端から第2支持部67に向かうに従い第2接触面66aから離れる方向に延びている。第2傾斜面66bは、径方向から見て第1傾斜面62bと平行に延びている。
【0064】
第1制御部材61は、第1支持部63に連結された駆動機構(不図示)によって内輪10および外輪20に対して軸方向に変位可能とされている。第2制御部材65は、被摺接部66が第1ローラ31および第2ローラ32の間に挿入された状態で、内輪10および外輪20に対して軸方向に変位不能とされている。
【0065】
本実施形態の回転伝達装置1Aの作用について説明する。
図9は、第2実施形態の回転伝達装置1Aの断面図であって、
図8に相当する図である。
図9に示すように、第1制御部材61および第2制御部材65を互いに近付くように軸方向に相対変位させて、第1制御部材61の制御部62を内輪10および外輪20の間に挿入する。第2制御部材65の被摺接部66は第1ローラ31および第2ローラ32の間に挿入されているので、制御部62は第1ローラ31および被摺接部66の間に進入する。制御部62の軸方向の変位が進行すると、制御部62の第1傾斜面62bが被摺接部66の第2傾斜面66bに摺接し、制御部62が被摺接部66に対して周方向に案内される。これにより、制御部62および被摺接部66は、第1接触面62aおよび第2接触面66aを互いに周方向に離間させるように、周方向に相対変位する。そして、第1接触面62aは、ロック位置に位置する第1ローラ31の外周面に接触する。第2接触面66aは、ロック位置に位置する第2ローラ32の外周面に接触する。
【0066】
図10は、第2実施形態の回転伝達装置1Aの断面図であって、
図8に相当する図である。
図10に示すように、さらに制御部62の軸方向の変位が進行すると、第1接触面62aおよび第2接触面66aがさらに周方向に変位する。第1制御部62Aは、第1ローラ31をくさび空間3(
図2参照)における周方向の中央部に向けて直接押圧する。これに伴い、第1被摺接部66Aは、第2ローラ32をくさび空間3における周方向の中央部に向けて直接押圧する。第2制御部62Bは、第2ローラ32をくさび空間3における周方向の中央部に向けて、第2被摺接部66Bを介して間接的に押圧する。これにより、制御部62および被摺接部66は、第1接触面62aおよび第2接触面66aによって付勢部材40の付勢力に抗しつつローラセット30の第1ローラ31および第2ローラ32の間隔を押し狭める。第1ローラ31および第2ローラ32は、くさび空間3の狭小部4から周方向の中央部に向かって押し出されてロック位置から解除位置に移動する。これにより、内輪10および外輪20の相対回転が許容される。
【0067】
第1ローラ31および被摺接部66の間に進入した制御部62を後退させると、第1ローラ31および第2ローラ32は付勢部材40の付勢力を受けて解除位置からロック位置に向けて移動する。そして第1ローラ31および第2ローラ32がロック位置でくさび空間3の狭小部4に嵌入し、内輪10および外輪20の相対回転が再び規制される。
【0068】
本実施形態の回転伝達装置1Aによれば、第1実施形態と同様の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏する。
第1ローラ31は、内輪10および外輪20の間に第1制御部62Aを進入させることで、第1制御部62Aに押圧されて第1ロック位置から解除位置に移動する。さらに、第1ローラ31は、内輪10および外輪20の間から第1制御部62Aを退避させることで、付勢部材40に付勢されて解除位置から第1ロック位置に移動する。また、第2ローラ32は、内輪10および外輪20の間に第2制御部62Bを進入させることで、第2被摺接部66Bに押圧されて第2ロック位置から解除位置に移動する。さらに、第2ローラ32は、内輪10および外輪20の間から第2制御部62Bを退避させることで、付勢部材40に付勢されて解除位置から第2ロック位置に移動する。よって、第1制御部62Aおよび第2制御部62Bを軸方向に変位させるだけで、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置および解除位置の間で双方向に移動させることができる。したがって、両方向のトルク伝達を同時に切断することができるとともに、両方向のトルク伝達を同時に接続することができる。
【0069】
また、制御部62および被摺接部66は、軸方向に相対変位して第1傾斜面62bを被摺接部66に摺接させるとともに第2傾斜面66bを制御部62に摺接させることで、第1接触面62aおよび第2接触面66aを互いに周方向に離間させるように変位する。この構成によれば、制御部62および被摺接部66を軸方向に相対変位させることで、第1接触面62aに接触する第1ローラ31、および第2接触面66aに接触する第2ローラ32の間隔を周方向に押し広げることができる。これにより、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させることができる。
【0070】
また、第1接触面62aは、第1ローラ31の外周面に軸方向に沿って接触する。第2接触面66aは、第2ローラ32の外周面に軸方向に沿って接触する。この構成によれば、第1ローラ31および制御部62は、点接触よりも広い軸方向の範囲で互いに接触する。また、第2ローラ32および被摺接部66は、点接触よりも広い軸方向の範囲で互いに接触する。このため、制御部62に接触する第1ローラ31、および被摺接部66に接触する第2ローラ32を、それぞれ軸方向に対して傾くことを抑制しつつ制御部材60によって移動させることができる。したがって、第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置と解除位置との間で安定して変位させることができる。
【0071】
なお第2実施形態では、第1制御部材61および第2制御部材65のうち第1制御部材61のみが内輪10および外輪20に対して軸方向に変位可能とされている。しかし、第1制御部材61および第2制御部材65が互いに近付くように軸方向に相対変位可能であればよい。すなわち、第2制御部材65のみが内輪10および外輪20に対して軸方向に変位可能であってもよい。
【0072】
また、第2実施形態では、第1制御部材61の第1傾斜面62bと第2制御部材65の第2傾斜面66bとが互いに摺接している。しかし、第1制御部材および第2制御部材の一方のみが他方に摺接する傾斜面を有していてもよい。この場合であっても、第1制御部材および第2制御部材は、軸方向に相対変位して一方の傾斜面を他方の一部に摺接させることで、第1接触面および第2接触面を互いに周方向に離間させるように変位することができる。したがって、上述した作用効果を奏することができる。
【0073】
[第3実施形態]
図11は、第3実施形態の回転伝達装置1Bの断面図であって、内輪10および外輪20の間でローラ31,32の中心軸線に沿って周方向に延びる断面を示す図である。
第2実施形態では、第1制御部材61および第2制御部材65の一方のみが内輪10および外輪20に対して軸方向に変位可能とされている。これに対して第3実施形態では、第1制御部材61および第2制御部材65の両方が内輪10および外輪20に対して軸方向に変位可能とされている。
【0074】
図11に示すように、第2制御部材65の各被摺接部66は、周方向で隣り合う一対のローラセット30の間に、第1制御部材61の各制御部62とは反対側から挿入される。
【0075】
本実施形態の回転伝達装置1Bの作用について説明する。
図12は、第3実施形態の回転伝達装置1Bの断面図であって、
図11に相当する図である。
図12に示すように、第1制御部材61および第2制御部材65を互いに近付くように軸方向に相対変位させて、第1制御部材61の制御部62、および第2制御部材65の被摺接部66を内輪10および外輪20の間に挿入する。このとき、制御部62が被摺接部66と第1ローラ31との間に挿入され、被摺接部66が制御部62と第2ローラ32との間に挿入されるように、第1制御部材61および第2制御部材65の位置関係を調整する。
【0076】
制御部62および被摺接部66の軸方向の変位が進行すると、制御部62の第1傾斜面62bおよび被摺接部66の第2傾斜面66bが互いに摺接し、制御部62が被摺接部66に対して周方向に案内されるとともに、被摺接部66が制御部62に対して周方向に案内される。これにより、制御部62および被摺接部66は、第1接触面62aおよび第2接触面66aを互いに周方向に離間させるように、周方向に相対変位する。そして、第1接触面62aは、ロック位置に位置する第1ローラ31の外周面に接触する。第2接触面66aは、ロック位置に位置する第2ローラ32の外周面に接触する。
したがって、本実施形態の回転伝達装置1Bによれば、第2実施形態と同様に第1ローラ31および第2ローラ32を変位させることができるので、第2実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0077】
[第4実施形態]
図13は、第4実施形態の回転伝達装置1Cの断面図であって、内輪10および外輪20の間でローラ31,32の中心軸線に沿って周方向に延びる断面を示す図である。
第3実施形態では、付勢部材40が圧縮に伴う伸長方向の反力によって第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置に向けて付勢している。これに対して第4実施形態では、付勢部材40Cは伸長に伴う圧縮方向の反力によって第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置に向けて付勢している点で第3実施形態と異なる。
【0078】
図13に示すように、回転伝達装置1Cは、ローラセット30に代えて、ローラセット30Cを備える。ローラセット30Cは、第1ローラ31および第2ローラ32と、付勢部材40に代えて、付勢部材40Cと、を備える。第1ローラ31は、周方向で隣り合う一対のくさび空間3のうち反時計回り方向のくさび空間3に配置されている。第2ローラ32は、周方向で隣り合う一対のくさび空間3のうち時計回り方向のくさび空間3に配置されている。付勢部材40Cは、周方向で隣り合う一対のくさび空間3に跨って配置されている。付勢部材40Cは、外力で変形しやく高伸張性を示し、外力を取り除くと短時間でほぼ元の形に復元する材料で構成されている。例えば、付勢部材40Cは引張コイルばねである。この他、付勢部材40Cはゴム弾性を有する材料で構成されてもよい。付勢部材40Cは、第1ローラ31および第2ローラ32を互いに接近する方向に常時付勢している。付勢部材40Cは、第1ローラ31を内輪10に対して時計回り方向に付勢している。付勢部材40Cは、第2ローラ32を内輪10に対して反時計回り方向に付勢している。これにより第1ローラ31および第2ローラ32は、付勢部材40Cによってそれぞれロック位置に向けて付勢されている。
【0079】
第1制御部材61は、第1押圧部64を備える。第1押圧部64は、第1支持部63から制御部62と同じ側に突出している。第1押圧部64は、各ローラセット30Cの第1ローラ31および第2ローラ32の間に進入可能に形成されている。なお、制御部62は、隣り合う一対のローラセット30Cの間に挿入される。
【0080】
第2制御部材65は、第2押圧部68を備える。第2押圧部68は、第2支持部67から被摺接部66と同じ側に突出している。第2押圧部68は、各ローラセット30Cの第1ローラ31および第2ローラ32の間に進入可能に形成されている。なお、被摺接部66は、隣り合う一対のローラセット30Cの間に挿入される。
【0081】
本実施形態の回転伝達装置1Cの作用について説明する。
図14は、第4実施形態の回転伝達装置1Cの断面図であって、
図13に相当する図である。
図14に示すように、第1制御部材61および第2制御部材65を互いに近付くように軸方向に相対変位させて、第1制御部材61の制御部62、および第2制御部材65の被摺接部66を内輪10および外輪20の間に挿入する。このとき、制御部62が被摺接部と第2ローラ32との間に挿入され、被摺接部66が制御部62と第1ローラ31との間に挿入されるように、第1制御部材61および第2制御部材65の位置関係を調整する。
【0082】
制御部62および被摺接部66の軸方向の変位が進行すると、制御部62の第1傾斜面62bおよび被摺接部66の第2傾斜面66bが互いに摺接し、制御部62が被摺接部66に対して周方向に案内されるとともに、被摺接部66が制御部62に対して周方向に案内される。これにより、制御部62および被摺接部66は、周方向に相対変位する。また、第1押圧部64および第2押圧部68は、制御部62および被摺接部66の軸方向の変位が進行する過程で、各ローラセット30Cの第1ローラ31および第2ローラ32の間に進入する。
【0083】
図15は、第4実施形態の回転伝達装置1Cの断面図であって、
図13に相当する図である。
図15に示すように、制御部62および被摺接部66の周方向の相対変位が進行すると、第1押圧部64は、第1ローラ31をくさび空間3(
図13参照)における周方向の中央部に向けて押圧する。また、第2押圧部68は、第2ローラ32をくさび空間3における周方向の中央部に向けて押圧する。これにより、第1押圧部64および第2押圧部68は、付勢部材40Cの付勢力に抗しつつローラセット30Cの第1ローラ31および第2ローラ32の間隔を押し広げる。第1ローラ31および第2ローラ32は、くさび空間3の狭小部4から周方向の中央部に向かって押し出されてロック位置から解除位置に移動する。これにより、内輪10および外輪20の相対回転が許容される。
【0084】
制御部62および被摺接部66を一対のローラセット30Cの間から後退させると、第1ローラ31および第2ローラ32は付勢部材40の付勢力を受けて解除位置からロック位置に向けて移動する。そして第1ローラ31および第2ローラ32がロック位置でくさび空間3の狭小部4に嵌入し、内輪10および外輪20の相対回転が再び規制される。
【0085】
したがって、本実施形態の回転伝達装置1Cによれば、第3実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0086】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、カム面12が平面状に形成されているが、カム面の形状はこれに限定されない。カム面は、外輪20の内周面21との間にくさび空間を形成できればよく、例えば曲面状に形成されていてもよい。
【0087】
また、上記実施形態ではカム面12が内輪10の外周面11に形成されているが、カム面が外輪の内周面に形成されていてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では制御部51は、周方向に対してカム面12側に傾斜した方向を向き、第1ローラ31の外周面、および第2ローラ32の外周面に接触可能な一対の側面54を有するが、制御部51の形状はこれに限定されない。制御部の側面は、周方向に対して外輪20の内周面21側に傾斜した方向を向き、第1ローラ31の外周面、および第2ローラ32の外周面に接触可能に形成されていてもよい。この構成によれば、制御部に接触した第1ローラ31および第2ローラ32が側面によって外輪20の内周面21側に案内される。これにより、第1ローラ31および第2ローラ32がカム面12に干渉することを抑制できる。よって、内輪10および外輪20の相対回転時に、ノイズの発生や、第1ローラ31または第2ローラ32がくさび空間3で変位して内輪10および外輪20が不意にロックされることを抑制できる。
【0089】
また、上記実施形態では、付勢部材40が第1ローラ31および第2ローラ32を解除位置からロック位置に向けて付勢しているとともに、制御部材50が第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させるように形成されている。しかし、付勢部材が第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に向けて付勢するとともに、制御部材が第1ローラ31および第2ローラ32をロック位置から解除位置に移動させるように形成されていてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、付勢部材40が第1ローラ31および第2ローラ32の両方を付勢しているが、付勢部材の構成はこれに限定されない。例えば、カム面12に対して第1ローラ31を付勢する第1付勢部材と、カム面12に対して第2ローラ32を付勢する第2付勢部材と、を別部材として設けてもよい。
【0091】
また、上記実施形態の回転伝達装置は、クラッチ機構として接続時に角度合わせが不要であり、かつ噛み合いクラッチが有するバックラッシュもないので、特にハイブリッド自動車の変速機構やモータの締結要素などへの適用に好適である。また、上記実施形態の回転伝達装置は、例えば自動車のステアリング機構部等に設けることが可能である。
【0092】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1,1A,1B,1C…回転伝達装置 3…くさび空間 10…内輪 11…外周面(第1周面) 12…カム面 20…外輪 21…内周面(第2周面) 30,30C…ローラセット(固定部材セット) 31…第1ローラ(第1固定部材、固定部材) 32…第2ローラ(第2固定部材、固定部材) 40,40C…付勢部材 50,60…制御部材 51…制御部 51A…第1制御部 51B…第2制御部 55…支持部 61…第1制御部材 62…制御部 62A…第1制御部 62B…第2制御部 63…第1支持部(支持部) 65…第2制御部材 66A…第1被摺接部 66B…第2被摺接部