(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】鉛含有量を低減した黄銅ビレットを得る方法およびその方法により得られるビレット
(51)【国際特許分類】
C22B 15/14 20060101AFI20240510BHJP
B22D 21/00 20060101ALI20240510BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20240510BHJP
C22B 9/16 20060101ALI20240510BHJP
C22B 9/14 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C22B15/14
B22D21/00 B
C22B3/16
C22B9/16
C22B9/14
(21)【出願番号】P 2021505986
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 IB2019056643
(87)【国際公開番号】W WO2020031060
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】102018000008041
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】521044970
【氏名又は名称】アルマグ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ・アツィエンダ・ラヴォラツィオーニ・メタッルールジケ・エド・アッフィーニ・ニュッティ
【氏名又は名称原語表記】A.L.M.A.G. S.P.A. AZIENDA LAVORAZIONI METALLURGICHE ED AFFINI GNUTTI
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエーレ・ニュッティ
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02825644(US,A)
【文献】米国特許第06197210(US,B1)
【文献】中国特許第106350689(CN,B)
【文献】国際公開第2017/199147(WO,A1)
【文献】特開2001-262382(JP,A)
【文献】特開平05-186839(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107849638(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0002809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 15/14
C22B 9/14、9/16
C22B 3/16
B22D 21/00
C22C 9/04
C22F 1/08
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有量を1.5重量%未満に低減した黄銅ビレットを得る方法であって、
鉛含有量が1.5重量%から3.5重量%である従来の黄銅から構成された完成品または半完成品に対してチップ除去による機械加工を行い、従来の黄銅チップを得る工程と;
前記従来の黄銅チップに対してフラグメント化処理を行い、従来の黄銅の微小物を得る工程と;
鉛含有量を低減した黄銅の微小物を得るために、前記従来の黄銅の微小物に対して鉛除去処理を行う工程であって、前記鉛除去処理は、水と1種以上の有機酸との溶液中に黄銅の微小物を浸漬して鉛を除去する工程と;
炉内で、前記鉛含有量を低減した黄銅の微小物を含む装填物を溶融する工程と;
溶融物の鋳物を直接押出または逆押出することによりビレットを得る工程と;を含み、
鉛含有量を低減した黄銅の微小物の鉛含有量が十分に低くない場合に、更なるフラグメント化処理及び更なる鉛除去処理を行い、更なるフラグメント化処理の前に、フラグメント化処理の対象となる黄銅の微小物をプレスする、鉛含有量を低減した黄銅ビレットを得る方法。
【請求項2】
前記浸漬して鉛を除去する鉛除去浴は、攪拌される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記浸漬して鉛を除去する鉛除去浴は、超音波で撹拌される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記フラグメント化処理は、粉砕することから成る、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機酸は、酪酸、プロピオン酸、2-プロペン酸、アクリル酸からなる群から選択される、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、黄銅ビレットを得る方法およびその方法により得られる黄銅ビレットである。特に、本発明の対象は、鉛含有量を低減した黄銅ビレットである。
【背景技術】
【0002】
慣例により、黄銅は、鉛含有量が0.1重量%未満のものを「無鉛(または、鉛フリー)」、0.1~0.2重量%のものを「低含鉛」と定義される。一方、従来の黄銅は、通常、鉛含有量が1.5%から3.5%の間で変化する。
【0003】
よく知られているように、銅(Cu)と亜鉛(Zn)の合金である黄銅は、とりわけその優れた鋳造性により溶融プロセスで半完成の鋳物を得ることができ、またその優れた治具加工性によりチップ除去(または、切屑除去)により適切な方法で半完成品を仕上げることができるため、工業的に広く使用されている材料である。
【0004】
黄銅の加工性は、鉛(Pb)の含有量に大きく依存する。
【0005】
しかし、数年前から、蛇口または水と接触する他の部品のようなある種の製品は、特に飲料に適する場合には、無鉛合金または非常に低い鉛含有量の合金で製造する必要性がある。この主な理由は、健康に有害な結果をもたらすと考えられる鉛が水に溶解するのを防ぐ必要があるからである。
【0006】
そのため、多くの企業が、従来の黄銅と同様の機械的特性と加工性を持つ無鉛黄銅と定義されているものを目指して研究開発を行っている。
【0007】
この目標において、最も有望なアプローチの1つは、鉛を黒鉛粉末に置き換えることである。この点に関して、本出願人は、イタリア国特許出願第10 2013 9021 8136 5号の所有者である。
【0008】
黒鉛粉末と混合される無鉛黄銅の微小物をどのように得るかに焦点を当ててさらなる研究努力が行われている。これに関連して、本出願人は、国際出願公開WO-A1-2017/199147の所有者であり、この出願は、無鉛黄銅製品が受けるチップ除去による機械加工から無鉛黄銅チップを得て、無鉛黄銅チップから無鉛黄銅の微小物を得ることを例示している。
【発明の概要】
【0009】
一方、本発明は、通常の方法に比べて鉛含有量を低減した黄銅ビレットを得るための革新的な方法、および、その方法によって得られるビレットに関するものである。本発明によれば、従来の黄銅チップ(すなわち、通常の鉛含有量を有する黄銅チップ)を化学的および機械的に処理して鉛含有量を低減する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る方法の特徴と利点は、以下の説明から明らかになるだろう。
【0011】
本発明によれば、鉛含有量を低減した黄銅ビレットを得るための方法は、従来の黄銅チップを得る工程を含む。
【0012】
前記従来の黄銅チップは、従来の黄銅から作られた半完成品または完成品に対して行われたチップ除去による機械加工の結果である。
【0013】
完成品または半完成品を構成する従来の黄銅の種類と、行われた機械加工の種類によって、チップは特徴的なカールした形状またはより細断された外観になる。
【0014】
さらに、本方法は、必要に応じて、従来の黄銅チップを洗浄して、冷却液および/または潤滑油などの汚れおよび汚染物質を除去した後、チップの総表面積と全体の占有体積との比を高めることを目的として機械的なフラグメント化処理を行う。フラグメント化処理により、従来の黄銅の微小物(または、フラグメント)が得られる。
【0015】
好ましくは、前記機械的なフラグメント化処理は、従来のチップを粉砕する(または、研削する)ことから成る。
【0016】
その後、従来チップの微小物に対して化学処理を施して、鉛含有量を低減する。
【0017】
前記化学処理は、水と1つ以上の有機酸の溶液を有する溶液浴の中に、従来の黄銅の微小物を浸漬することで鉛を除去することから成る。
【0018】
例えば、前記有機酸は、酪酸、プロピオン酸、2-プロペン酸、アクリル酸からなる群から選択される。
【0019】
好ましくは、鉛除去浴は、超音波または機械的に撹拌される。
【0020】
鉛除去処理により、鉛含有量を低減した黄銅の微小物が得られる。
【0021】
本方法の好ましい実施によれば、鉛除去浴に付した黄銅の微小物が十分に低い鉛含有量を有さない場合、フラグメント化処理および鉛除去処理が再帰的に再度実施される。
【0022】
本方法の1つの変形例によれば、鉛除去処理は、従来のフラグメント化されていない黄銅チップに対して行われ、前の鉛除去処理を受けたチップの鉛含有量が十分に低くない場合には、次のフラグメント化処理(および更なる鉛除去)が行われる。
【0023】
好ましくは、黄銅の微小物は、更なるフラグメント化処理を行う前にプレスされる。有利なことに、これにより、鉛除去処理が主に作用する黄銅の微小物の外面の面積を増大させることができる。
【0024】
本方法の更なる変形例によれば、鉛除去処理が行われる前に、数回のフラグメント化処理とそれに続くプレスが再帰的に行われる。
【0025】
最終的に得られた鉛含有量が低減された黄銅の微小物は、好ましくは実質的に純粋な銅および亜鉛(例えば、銅箔や亜鉛ケーキ)および/または更なる黄銅の微小物とともに、溶融炉の装填物として使用され、所望の冶金組成を有する溶融浴が得られる。
【0026】
溶融金属の鋳物を用いて、直接押出または逆押出することにより、ビレットを得ることができる。
【0027】
次に、上記方法によって得られたビレットを用いて、所望の直径と長さを有する棒材を得ることができる。
【0028】
次に、ユーザーは棒材をチップ除去による機械加工にかけ、このようにして得られた黄銅チップは、本発明に係る方法が再度行われる。このようにして、再帰的に作業を行うことで、黄銅は次第に鉛含有量が低くなる。
【0029】
革新的には、本発明に係る方法は、従来の黄銅チップ、すなわち通常の鉛含有量を有する黄銅チップを使用して、鉛含有量を低減した黄銅ビレットを得ることができるため、産業上の観点から非常に有利である。
【0030】
また、有利なことに、チップを使用することによって、半完成品または完成品を製造するために通常棒材のユーザーが離れた工場でチップ除去による機械加工を行い、主要工場でチップのフラグメント化と鉛を除去する浸漬とを行うことができる。チップは離れた工場から主要工場に運ばれる。
【0031】
または、有利なことに、半完成品または完成品を製造するために、チップ除去のための機械加工工程が、通常は棒材のユーザーによって第1の離れた工場で行われ、従来の黄銅チップが第2の離れた工場に運ばれ、フラグメント化処理と鉛除去処理が前記第2の離れた工場で行われる。最後に、鉛含有量が低減された黄銅の微小物が主要工場に運ばれ、そこで溶融され、新しいビレットが製造される。