(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】皮膚改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/55 20060101AFI20240510BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240510BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240510BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20240510BHJP
A61K 31/683 20060101ALI20240510BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240510BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240510BHJP
A61K 35/618 20150101ALI20240510BHJP
A61K 35/60 20060101ALI20240510BHJP
A61K 35/57 20150101ALI20240510BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
A61K8/55
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K8/98
A61K31/683
A61P17/00
A61P43/00 107
A61K35/618
A61K35/60
A61K35/57
C12N15/12 ZNA
(21)【出願番号】P 2022533976
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2021024298
(87)【国際公開番号】W WO2022004631
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020113074
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】本庄 雅則
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140919(JP,A)
【文献】特開2010-063406(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106420558(CN,A)
【文献】特開2019-162042(JP,A)
【文献】特開2006-232987(JP,A)
【文献】国際公開第2020/213132(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K31/00
A61P17/00
A61P43/00
A61K35/00
C12N15/12
A23L33/00
CAPLUS/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマローゲンを含有し、コラーゲンの生成を促進することを特徴とする乾燥肌改善用
経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚のコラーゲン生成を促進して皮膚の改善を図る組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマローゲンは、抗酸化作用を有するリン脂質の一種で、グリセロリン脂質の一つである。プラズマローゲンは哺乳動物の全ての組織に存在し、人体のリン脂質の約18%を占めるが、特に脳神経、心筋、骨格筋、白血球、精子に多いことが知られている。
【0003】
このプラズマローゲンは、神経新生の促進作用や、リポポリサッカロイド(LPS)による神経炎症の抑制作用、脳内アミロイドβ(Aβ)タンパクの蓄積の抑制作用等を有することが知られており、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、統合失調症などの脳神経病において効果があるといわれている。例えば、非特許文献1では、ホタテ由来精製プラズマローゲンを経口投与した患者において、軽度アルツハイマー病の記憶機能を改善することが報告されている。
【0004】
一方、コラーゲンは、皮膚の真皮や骨等を構成するタンパク質の一つであり、生体の全タンパク質の約30%を占めている。真皮の主成分である間質成分は、主にI型及びIII型コラーゲンにより構成され、特にI型コラーゲンは、間質成分を構成する主要なコラーゲン繊維である。
【0005】
このコラーゲンは、加齢とともに減少することが知られており、肌のハリや弾力が失われ、しわやたるみの主な要因となることから、美容業界等においては、コラーゲンを保護し、維持するための研究が盛んに行われている。
【0006】
上記のような状況下、これまで、皮膚のコラーゲンに対するプラズマローゲンの影響についての研究はほとんどなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Fujino T.et al, “Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Oral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer's Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial” EBioMedicine, [17] (2017) 199-205
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、優れたコラーゲン生成促進効果を有する組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、プラズマローゲンがコラーゲンの生成促進に対して優れた効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、プラズマローゲンが、真皮を構成する主要な細胞であるヒト線維芽細胞、及びヒト毛包外毛根鞘細胞のAMPK(AMP-activated protein kinase)のリン酸化を促進して、皮膚のコラーゲンの90%を占め真皮組織に存在するI型コラーゲンの産生に寄与するCOL1A1(collagen type I alpha 1 chain)の発現を促進すると共に、コラーゲン分解促進遺伝子であるMMP1の発現を抑制することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]プラズマローゲンを含有することを特徴とする皮膚改善用組成物。
[2]プラズマローゲンを含有することを特徴とする皮膚のはり改善用組成物。
[3]プラズマローゲンを含有することを特徴とする皮膚の皺改善用組成物。
[4]プラズマローゲンを含有することを特徴とする皮膚のたるみ改善用組成物。
[5]プラズマローゲンを含有することを特徴とするコラーゲン生成促進用組成物。
【0011】
[6]前記プラズマローゲンが、動物組織から抽出されたプラズマローゲンであることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれか記載の組成物。
[7]前記動物組織が、貝類、ホヤ及び鳥類から選ばれる動物の組織であることを特徴とする上記[6]記載の組成物。
[8]前記動物組織が、ホタテ類の組織であることを特徴とする上記[6]又は[7]記載の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物は、優れたコラーゲン生成促進効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】プラズマローゲン(PlsEtn)(5μg/mL、7時間)処理による、HDF-a細胞(ヒト成人線維芽細胞)におけるAMPKのリン酸化促進(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す図である。
【
図2】プラズマローゲン(PlsEtn)(5μg/mL、7時間)処理による、HHORSC細胞(ヒト毛包外毛根鞘細胞)におけるAMPKのリン酸化促進(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す図である。
【
図3】プラズマローゲン(PlsEtn)(0.5μg/mL、3時間)処理による、HDF-a細胞(ヒト線維芽細胞)におけるAMPKのリン酸化促進(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す図である。
【
図4】ダイズから抽出したホスファチジルエタノールアミン(PtdEtn)(0.5μg/mL、3時間)処理による、HDF-a細胞(ヒト線維芽細胞)におけるAMPKのリン酸化促進(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す図である。
【
図5】プラズマローゲン(PlsEtn)処理したHDF-a細胞内の培養時間に対するプラズマローゲン含有量の変化の結果を示す図である。
【
図6】プラズマローゲン(PlsEtn)処理したHDF-a細胞内の培養時間に対するプラズマローゲンの種類別含有量(プラズマローゲンを構成する脂肪酸の種類別含有量)の変化の結果を示す図である。
【
図7】プラズマローゲン(PlsEtn)処理による、HDF-a細胞のCOL1A1のmRNAの発現結果を示す図である。
【
図8】プラズマローゲン(PlsEtn)処理による、HDF-a細胞のコラーゲン分解促進遺伝子であるMMP1のmRNAの発現結果を示す図である。
【
図9】プラズマローゲン(PlsEtn)処理による、HDF-a細胞のCOL1A1のmRNAの発現結果を示す図である。
【
図10】プラズマローゲン(PlsEtn)処理による、マウス皮膚におけるCOL1A1のmRNAの発現結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の組成物は、プラズマローゲンを含有することを特徴とする。
本発明の組成物は、真皮を構成する主要な細胞であるヒト線維芽細胞等のAMPKのリン酸化を促進し、I型コラーゲンの産生に寄与するCOL1A1の発現を促進すると共に、コラーゲン分解促進遺伝子であるMMP1の発現を抑制することにより、コラーゲンの生成を促進して、加齢や紫外線等の影響により劣化した皮膚状態の回復や、皮膚状態の維持を図ることができる。
【0015】
すなわち、本発明のプラズマローゲンを含有する組成物は、AMPK活性化用組成物や、コラーゲン生成促進用組成物や、皮膚改善用組成物として用いることができる。ここで、本発明における皮膚改善としては、具体的に、皮膚のはり(弾力)の低下抑制(維持)及び/又は向上、皮膚の皺の増加抑制及び/又は低減、皮膚のたるみの抑制及び/又は低減等を挙げることができる。したがって、本発明の組成物は、皮膚のはり改善用組成物や、皮膚の皺改善用組成物、皮膚のたるみ改善用組成物として用いることができる。
【0016】
本発明に用いるプラズマローゲンは、抗酸化作用を有するリン脂質の一種で、グリセロリン脂質の一つである。グリセロール骨格のsn-1位にビニールエーテル結合を有することで特徴づけられるグリセロリン脂質に特有のサブクラスであり、多くの哺乳類の組織の細胞膜中に高濃度で確認されている。プラズマローゲンとしては、sn-2位に脂肪酸エステル結合をもつものが好ましい。
【0017】
本発明に用いるプラズマローゲンは、一般にプラズマローゲンに分類されるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲン、イノシトール型プラズマローゲン、セリン型プラズマローゲンを挙げることができる。これらの中でも、コリン型プラズマローゲン、エタノールアミン型プラズマローゲンが好ましく、エタノールアミン型プラズマローゲンが特に好ましい。
【0018】
本発明のプラズマローゲンは、動物組織から抽出することができる。動物組織としては、プラズマローゲンを含むものであれば特に制限されるものではなく、貝類、ホヤ、ナマコ、サケ、サンマ、カツオなどの水産動物や、鳥類等を挙げることができる。これらの中でも、貝類、ホヤ、鳥類が好ましく、貝類が特に好ましい。用いる部位としては、食用部位(可食部位)が好ましい。これらの動物組織は、切断物であってもよいが、より効率的にプラズマローゲンを抽出できることから、粉砕物を用いることが好ましい。
【0019】
貝類としては、ホタテ類、ムールガイ、アワビ等の食用の二枚貝や巻貝を例示することができ、ホタテ類が特に好ましい。ホタテ類は、イタヤガイ科に属する食用の二枚貝であり、例えば、Mizuhopecten属、Pecten属に属するものを挙げることができる。具体的には、日本で採取されるホタテガイ(学名:Mizuhopecten yessoensis)や、ヨーロッパで採取されるヨーロッパホタテ(学名:Pectenmaximus(Linnaeus))等を挙げることができる。食用部位としては、貝柱、ひも等を挙げることができる。
【0020】
ホヤは、マボヤ科に属する食用の脊索動物であり、マボヤ属、アカボヤ属に属するものを挙げることができる。具体的には、マボヤ(学名:Halocynthia roretzi)や、アカボヤ(学名:Halocynthia aurantium)等を挙げることができる。食用部位としては、身の部分(筋膜体)を挙げることができる。
【0021】
鳥類は、食用の鳥類であれば特に制限されるものではなく、例えば、鶏、烏骨鶏、鴨等を挙げることができる。食用部位としては、プラズマローゲンを豊富に含むムネ肉が好ましい。
【0022】
プラズマローゲンの抽出は、水、有機溶媒、含水有機溶媒を用いて行うことができ、酵素処理を併用することが好ましい。例えば、エタノール抽出法や、ヘキサン抽出法を挙げることができ、エタノール抽出法が好ましい。
【0023】
エタノール抽出法としては、エタノール(含水エタノールを含む)を用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、特開2019-140919号公報、特開2018-130130号公報、再表2012-039472号公報、特開2010-065167号公報、特開2010-063406号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0024】
ヘキサン抽出法としては、ヘキサンを用いて抽出する方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、再表2009-154309、再表2008-146942号公報等に記載された方法を挙げることができる。
【0025】
本発明の組成物は、経口剤又は非経口剤として使用することができる。
非経口用としては、外用剤や注射剤を挙げることができる。外用剤としては、具体的に、皮膚、頭皮等に塗布して用いるものであれば、特に制限はなく、その形態としては、軟膏剤、クリーム剤、ジェル剤、ローション剤、乳液剤、パック剤、湿布剤等の皮膚外用剤を挙げることができる。
【0026】
また、経口剤として用いる場合、その形態としては、例えば、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状、粒状、棒状、板状、ブロック状、固体状、丸状、ペースト状、クリーム状、カプレット状、ゲル状、チュアブル状、スティック状等を挙げることができる。これらの中でも、カプセル状の形態が好ましい。
【0027】
本発明の皮膚改善用組成物等は、プラズマローゲンを含有し、皮膚改善等に用いられる点において、製品として他の製品と区別することができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、医薬品(医薬部外品を含む)や、化粧品や、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の所定機関より効能の表示が認められた機能性食品などのいわゆる健康食品等として用いることができる。例えば、製品の本体、包装、説明書、宣伝物のいずれかに、皮膚の改善効果(はり、皺、たるみに関する効果)がある旨を表示したものが本発明の範囲に含まれる。また、コラーゲン生成促進により皮膚の改善が図られることから、コラーゲン生成促進の旨を表示したものも本発明の範囲に含まれる。
【0028】
例えば、化粧品や健康食品においては、具体的に、「肌のはりを維持する」、「皺やたるみを予防する」、「肌の老化が気になる方に」等を表示することができる。
【0029】
本発明の組成物におけるプラズマローゲンの含有量としては、その効果の奏する範囲で適宜含有させればよい。その形態にもよるが、例えば、プラズマローゲンが、乾燥質量換算で、本発明の組成物全体の10-10質量%以上であることが好ましく、10-5質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。
【0030】
本発明の組成物が経口剤である場合の摂取量としては特に制限はないが、本発明の効果をより顕著に発揮させる観点から、プラズマローゲンの摂取量が、成人の1日当たり、10-6μg/日以上となるように摂取することが好ましく、1μg/日以上となるように摂取することがより好ましく、500μg/日以上となるように摂取することがさらに好ましく、1000μg/日以上となるように摂取することが特に好ましい。その上限は、例えば、20,000μg/日であり、好ましくは10,000μg/日である。
【0031】
本発明の組成物は、1日の摂取量が前記摂取量となるように、1つの容器に、又は例えば2~3の複数の容器に分けて、1日分として収容することができる。
【0032】
本発明の組成物は、必要に応じて、経口剤、外用剤又は注射剤として許容される有効成分(プラズマローゲン)以外の成分を添加して、公知の製剤方法によって製造することができる。
【0033】
本発明の有効成分以外の他の成分としては、例えば、ビタミン、ミネラル、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、動物性油、植物性油を挙げることができる。
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
HDF-a細胞(ヒト線維芽細胞)及びHHORSC細胞(ヒト毛包外毛根鞘細胞)を用いて、本発明の組成物の有効成分であるプラズマローゲンの皮膚に対する効果を確認した。
【0036】
[エタノールアミン型プラズマローゲン(PlsEtn)]
エタノールアミン型プラズマローゲンは、ホタテガイ(学名:Mizuhopecten yessoensis)をエタノールで抽出し、HPLCで精製したものを用いた。
【0037】
[細胞培養]
ヒト線維芽細胞として、Human Dermal Fibroblasts-adult(HDF-a)細胞(#2320)を用い、ヒト毛包外毛根鞘細胞として、Human Hair Outer Root Sheath(HHORSC)細胞(#2420)を用いた。これらは、ScienCell Research Laboratoriesから購入した。HDF-a細胞は、Fibroblast Medium(FM, #2301)で培養し、HHORSC細胞は、Mesenchymal Stem Cell Medium(MSCM, #7501)で培養した。いずれの細胞も継代回数10回までの細胞を実験に用いた。
【0038】
前日から培養したHDF-a細胞に対し、900μLのFMと、PlsEtn(0.5μg又は5μg)を100μLのOpti-MEMTM Reduced Serum Medium(ThemoFisher, #22600050)に予め超音波処理にて懸濁したPlsEtn溶液との混合培地で、所定時間(3時間又は7時間)培養した。
【0039】
HHORSC細胞についても、FMに代えてMSCMを用いた以外は同様にして、5μg/mlのPlsEtn存在下で7時間培養した。
また、PlsEtnを含まない同じ組成の培地で培養した細胞(HDF-a細胞及びHHORSC細胞)をコントロールとして用いた。
【0040】
また、PlsEtnの代わりに、ダイズから抽出したホスファチジルエタノールアミン(PtdEtn)を用いた以外は同様にして、0.5μg/mlのPtdEtn存在下でHDF-a細胞を3時間培養した。
【0041】
細胞をリン酸緩衝液(PBS)で洗浄し、回収した。RNA発現レベルは、洗浄した細胞を培養極低温フリーザーにて保存した後に検出した。
【0042】
[AMPKのリン酸化解析]
HDF-a細胞をバッファーA(0.25Mスクロース,10 mM Hepes-KOH, pH 7.5, 1 mM EDTA, protease inhibitor cocktail)で回収、遠心した。得られた細胞をバッファーAに懸濁し、超音波処理にて破砕、タンパク定量の後、同タンパク量を電気泳動した。次いで、PVDF膜に転写し、Phospho-AMPKα(Thr172)抗体(Cell Signaling technology, #2535S)とAMPKα抗体(Cell Signaling technology, #58315)を用いたウエスタンブロッティングで検出した。シグナルは、Multi Gauge software version 3.0 software(Fuji Film)で定量した。Phospho-AMPKα(Thr172)抗体で得られたシグナルを AMPKα抗体で得られたシグナルで除することで標準化した。さらに、未処理の細胞から得られた値を1として各処理を行った細胞におけるシグナル強度を相対値で示した。3回以上試行し、平均値と標準偏差で示した。
HHORSC細胞についても同様の解析を行った。
【0043】
図1に、5μg/mlのPlsEtn存在下で7時間培養したHDF-a細胞におけるAMPKのリン酸化促進効果(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す。
図2に、5μg/mlのPlsEtn存在下で7時間培養したHHORSC細胞におけるAMPKのリン酸化促進効果(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す。また、
図3に、0.5μg/mlのPlsEtn存在下で3時間培養したHDF-a細胞におけるAMPKのリン酸化促進効果(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す。
図4に、ダイズから抽出した0.5μg/mlのPtdEtn存在下で3時間培養したHDF-a細胞におけるAMPKのリン酸化促進効果(AMPKに対するPhospho-AMPKの相対量)の結果を示す。
【0044】
図1に示すように、5μg/mlのPlsEtn存在下で7時間培養したHDF-a細胞では、PlsEtn非存在下で培養した細胞と比較して、AMPKの活性化に必須なAMPKαのリン酸化が亢進された。また、
図2に示すように、HHORSC細胞においても、HDF-a細胞と同様の結果が得られた。
以上の結果より、PlsEtnは、HDF-a細胞やHHORSC細胞を含む多様な細胞に対して、AMPKのリン酸化を促進する作用があると考えられる。
【0045】
また、
図3に示すように、0.5μg/mlのPlsEtn存在下で3時間培養したHDF-a細胞においては、AMPKのリン酸化の亢進が認められたが、
図4に示すように、0.5μg/mlのPtdEtn存在下では、AMPKのリン酸化の亢進は認められなかった。
【0046】
[細胞内のPlsEtn含有量の変化測定]
PlsEtn存在下で培養したHDF-a細胞内のプラズマローゲン含有量及びその種類を確認した。
図5に、培養時間に対するHDF-a細胞内のプラズマローゲン含有量の測定結果を示す。また、
図6に、培養時間に対するHDF-a細胞内のプラズマローゲンの種類別含有量(プラズマローゲンを構成する脂肪酸の種類別含有量)の測定結果を示す。
【0047】
図5及び
図6に示すように、0.5μg/mlのPlsEtn存在下で培養した場合、HDF-a細胞のプラズマローゲン総量、並びにC16:0, C18:0,またはC18:1の脂肪族アルコールを有するプラズマローゲン量の変化はなかった。
以上の結果より、PlsEtnは、HDF-a細胞のPlsEtnの量や質の変化ではなく、未同定の受容体に対してリガンドとして機能し、AMPKのリン酸化を促進したものと推察される。
【0048】
[HDF-a細胞におけるCOL1A1及びMMP1のmRNA定量]
AMPK(AMP-activated protein kinase)のリン酸化亢進は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の合成律速酵素であるニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)依存的なNADの合成を促進する。その結果、NADを基質とするNAD依存性デアセチラーゼサーチュイン-1(Sirt1)の活性化が期待される。そこで、Sirt1依存的なI型コラーゲンの構成たんぱく質の一つをコードするCOL1A1及びコラーゲン分解酵素であるマトリクスメタロプロテアーゼ-1をコードするMMP1の遺伝子発現を検出した。
【0049】
HDF-a細胞を上述のように7時間培養し、TRIzolを用いてRNAを抽出した。次いで、PrimeScript RT Master Mixを用いて1st strand cDNAを調整、TB Green Premix Ex Taq IIを用いMx3000P QPCR(Stratagene)で標的遺伝子及び内在性コントロール遺伝子のmRNA発現をリアルタイムPCRで検出した。試行は3回以上行った。標的遺伝子であるCOL1A1及びMMP1の他、内在性コントロール遺伝子として18S ribosomal RNA(18S rRNA)を選択した。各遺伝子のmRNA検出用プライマーを以下に記す。
【0050】
COL1A1 1184Fw: 5’-GTGCTAAAGGTGCCAATGGT-3’,
COL1A1 1311Rv: 5’-ACCAGGTTCACCGCTGTTAC-3’,
MMP1 141Fw: 5’-TGGGAGGCAAGTTGAAAAGC-3’,
MMP1 275Rv: 5’-CATCTGGGCTGCTTCATCAC-3’,
18S rRNA Fw: 5’-AGTCCCTGCCCTTTGTACACA-3’,
18S rRNA Rv: 5’-CGATCCGAGGGCCTCACTA-3’
【0051】
図7に、HDF-a細胞のCOL1A1のmRNAの発現結果を示す。
図8に、HDF-a細胞のMMP1のmRNAの発現結果を示す。
【0052】
図7及び
図8に示すように、PlsEtnを添加していないコントロールに比して、PlsEtn存在下では、COL1A1の発現は促進され、MMP1の発現は抑制された。したがって、PlsEtnは、皮膚のコラーゲン生成を促進し、皮膚の改善を図ることができると考えられる。
【0053】
[HDF-a細胞におけるCOL1A1のmRNA定量]
エタノールアミン型プラズマローゲン(PlsEtn)として、上記と同様にホタテガイから抽出したものと、ホタテガイと同様にムールガイ(学名:Mytilus Linnaeus)からエタノールで抽出し、HPLCで精製したものを用いた。
HDF-a細胞の培養、RNAの抽出及びリアルタイムPCRは、上記と同様の方法で行った。
【0054】
図9に、ホタテガイ及びムールガイ由来PlsEtnによるHDF-a細胞のCOL1A1のmRNAの発現結果を示す。いずれの組織から抽出したPlsEtnを添加した場合も、PlsEtnを添加していないコントロールに比して、COL1A1の発現が促進された。
【0055】
[マウス皮膚におけるCOL1A1のmRNA定量]
プラズマローゲンを塗布したマウスの皮膚において、COL1A1の発現を検出した。
マウスは、7週齢の雄C3Hを用いた。マウスを予備飼育し、8週齢で、背側皮膚の体毛を動物用バリカンで剃毛し、除毛クリームで除毛した。除毛後、48時間後より、10mg/ml PlsEtn(ホタテガイ由来)を含む70%EtOH溶液の塗布を開始した。塗布の頻度は、5回/週で4週間とし、塗布量は、20μl/cm2とした。また、コントロールとして、プラズマローゲンを含まない70%EtOH溶液を、同様の頻度及び塗布量で塗布した。各処理区につき、マウスは3匹ずつとした。
【0056】
4週間経過後、コントロール及び10mg/ml PlsEtnを塗布したマウスから得た塗布部位の皮膚切片をハサミで小片にし、TRIzolを用いてRNAを抽出した。次いで、PrimeScript RT Master Mixを用いて1st strand cDNAを調整した。その後、TB Green Premix Ex Taq IIを用い、ABI 7500(Applied Biosystems)で標的遺伝子であるCOL1A1及び内在性コントロール遺伝子であるGAPDHのmRNA発現をリアルタイムPCRで検出した。各遺伝子のmRNA検出用プライマーを以下に記す。
【0057】
MmCOL1A1 2818Fw: 5’-cctcagggtattgctggaca-3’,
MmCOL1A1 2930Rv: 5’-gaaggaccttgtttgccagg-3’,
MmGAPDH qRTFw: 5’-tggtgaaggtcggtgtgaac-3’,
MmGAPDH qRTRv: 5’-caatgaaggggtcgttgatgg-3’
【0058】
図10に、マウスのCOL1A1のmRNAの発現結果を示す。
【0059】
図10に示すように、PlsEtnを添加していないコントロールに比して、PlsEtn存在下では、COL1A1の発現が促進された。したがって、PlsEtnは、皮膚のコラーゲン生成を促進し、皮膚の改善を図ることができると考えられる。
【0060】
[ヒト皮膚におけるプラズマローゲンの効果の検証]
プラズマローゲンの経口摂取による、ヒト皮膚における効果を検証した。
【0061】
肌荒れが気になる20代~80代の女性9名を対象に、ホタテガイ由来プラズマローゲン(0.5mg)を含有する錠剤を1日2粒~4粒摂取させ、摂取前の肌症状に対するプラズマローゲン摂取後の変化についてアンケートを行った。アンケートは、下記の5段階評価で行った。
【0062】
5点:かなり良くなった
4点:少し良くなった
3点:変わらない
2点:少し悪くなった
1点:かなり悪くなった
【0063】
表1に、プラズマローゲンの摂取による肌症状の変化に関するアンケート結果を示す。
【0064】
【0065】
表1に示すように、プラズマローゲンを摂取した被験者のうち、半数以上が「5点:かなり良くなった」又は「4点:少し良くなった」と回答した。また、「2点:少し悪くなった」又は「1点:かなり悪くなった」と回答した被験者はいなかった。
したがって、プラズマローゲンを経口摂取することにより、皮膚の改善を図ることができることが明らかとなった。
【実施例2】
【0066】
[配合例1]
以下に示す配合により、化粧水(100g)を製造した。
ホタテ抽出プラズマローゲン 0.5mg
グリセリン 0.5mg
精製水 残部
【0067】
[配合例2]
以下に示す配合により、ハードカプセル剤を製造した。
ホタテ抽出プラズマローゲン 0.5mg
シクロデキストリン 3.3mg
アミノ酸 1.2mg
パインデックス 185.0mg
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の組成物は、外用剤又は経口剤として用いることができるものであり、産業上有用である。