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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】化合物、発光材料および発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/86 20060101AFI20240510BHJP
   C07D 209/88 20060101ALI20240510BHJP
   C07D 403/14 20060101ALI20240510BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240510BHJP
   H10K 50/12 20230101ALI20240510BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240510BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240510BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20240510BHJP
【FI】
C07D209/86 CSP
C07D209/88
C07D403/14
C09K11/06 645
H10K50/12
H10K59/10
H10K85/60
H10K101:20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023010763
(22)【出願日】2023-01-27
(62)【分割の表示】P 2019501841の分割
【原出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2023061972
(43)【公開日】2023-05-02
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2017034159
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017091634
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 一
(72)【発明者】
【氏名】野田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】能塚 直人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 善丈
【審査官】柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-176250(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181846(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/022987(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/113755(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 209/00-209/96
C07D 403/00-403/14
C09K 11/06
H10K 50/12
H10K 59/10
H10K 85/60
H10K 101/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(10)で表される化合物。
【化1】
[一般式(10)において、Aはシアノ基を表す。
~Rの少なくとも3個はジアリールアミン構造を含む基(ただし、ジアリールアミン構造を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよいが、1位か8位の少なくとも一方に置換基を有する9-カルバゾリル基は含まない)であり、複数の前記ジアリールアミン構造を含む基の少なくとも1つは、アリール基の少なくとも1つの水素原子が置換基で置換された置換ジアリールアミン構造を含む基であり、複数の前記ジアリールアミン構造を含む基の少なくとも1つは、前記置換ジアリールアミン構造と共通のジアリールアミン構造を有する無置換のジアリールアミン構造を含む基であるか、前記置換ジアリールアミン構造と共通のジアリールアミン構造を有し、且つ、前記置換ジアリールアミン構造中のアリール基に結合した置換基が、その置換基とは構造が異なる置換基で置換された置換ジアリールアミン構造を含む基である。ただし、前記ジアリールアミン構造を含む基は、ジアリールアミン構造の窒素原子が単結合でベンゼン環に結合したものであるか、ジアリールアミン構造の窒素原子が置換もしくは無置換のアリーレン基を介してベンゼン環に結合したものである。また、前記置換基で置換されたジアリールアミン構造の置換基および前記置換アリーレン基の置換基は、ヒドロキシ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基、炭素数4~20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数1~20のジアリールアミノ基およびカルバゾリル基からなる群より選択される基であり、前記基は、前記群より選択される基でさらに置換されていてもよい。ただし、R~Rのすべてがジアリールアミン構造を含む基であることはない。
残りのR~Rは、シアノ基、フェニル基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選択されるσp値が正の基、または、水素原子である。]
【請求項2】
~Rの1個がシアノ基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
~Rの1個がフェニル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記ジアリールアミン構造を含む基が下記一般式(2)で表される基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【化2】
[一般式(2)において、R11およびR18は水素原子であり、R12~R17は各々独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基、炭素数4~20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数1~20のジアリールアミノ基、またはカルバゾリル基を表し、R19は結合位置である。]
【請求項5】
前記少なくとも3個のジアリールアミン構造を含む基のうちの一つ目は、前記一般式(2)のR12~R17の少なくとも1つが、ヒドロキシ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基、炭素数4~20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数1~20のジアリールアミノ基およびカルバゾリル基からなる群より選択される置換基であり、前記少なくとも3個のジアリールアミン構造を含む基のうちの二つ目は、前記一般式(2)のR12~R17のうち、前記一つ目で置換基であるものに対応するものが水素原子である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記一つ目は、前記一般式(2)のR13およびR16の少なくとも一方が前記置換基である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
12~R17の少なくとも1つが表す前記置換基が、置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基である、請求項5または6に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物を含むことを特徴とする発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料として有用な化合物とそれを用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、ホール輸送材料、発光材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、遅延蛍光材料を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられる。
【0003】
遅延蛍光材料は、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じた後、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光を放射する化合物である。こうした経路による蛍光は、基底状態から直接生じた励起一重項状態からの蛍光(通常の蛍光)よりも遅れて観測されるため、遅延蛍光と称されている。ここで、例えば、発光性化合物をキャリアの注入により励起した場合、励起一重項状態と励起三重項状態の発生確率は統計的に25%:75%であるため、直接生じた励起一重項状態からの蛍光のみでは、発光効率の向上に限界がある。一方、遅延蛍光材料では、励起一重項状態のみならず、励起三重項状態も上記の逆項間交差を介した経路により蛍光発光に利用することができるため、通常の遅延蛍光材料に比べて高い発光効率が得られることになる。
【0004】
こうした遅延蛍光材料として、特許文献1には、カルバゾリル基等のヘテロアリール基またはジフェニルアミノ基と少なくとも2つのシアノ基を有するベンゼン誘導体が提案され、そのベンゼン誘導体を発光層に用いた有機EL素子で高い発光効率が得られたことが確認されている。
また、非特許文献1には、下記式で表されるカルバゾリルジシアノベンゼン誘導体(以下、「4CzIPN」という)が熱活性型遅延蛍光材料であること、また、4CzIPNを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子で、高い内部EL量子効率を達成したことが報告されている。さらに、非特許文献2には、4CzIPNを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の構造を最適化することにより、高い発光効率と高い耐久性を実現したことが報告されている。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-43541号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】H. Uoyama, et al., Nature 492, 234 (2012)
【文献】H. Nakanotani, et al., Scientific Reports, 3, 2127 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1および非特許文献1、2には、遅延蛍光材料である4CzIPNが発光素子用の材料として有用であることが報告されている。この化合物は、アクセプター性を有するシアノ基とドナー性を有するカルバゾリル基がコアのベンゼン環に結合した構造を有し、こうした構造によりHOMOとLUMOの空間的位置を制御して発光効率を高めたものである。しかしながら、本発明者らが4CzIPNの発光プロセスについて検討を行ったところ、十分に最適なものであるとは言えず、コアのベンゼン環に結合するドナー性基の構造をさらに制御することで、発光効率が大きく改善する余地があることが判明した。
【0009】
このような状況下において本発明者らは、より発光効率が高い材料を見出して一般化することを目的として研究を重ねた。そして、発光材料として有用な化合物の一般式を導きだし、より発光効率が高い発光素子の構成を一般化することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、コアの芳香環にドナー性基とアクセプター性基が結合した構造を有し、且つ、2つのドナー性基の間で置換基条件(置換基の数、置換位置および置換基の構造)が異なる化合物が、4CzIPNを凌ぐ優れた発光特性を有することを見出した。そして、こうした化合物を発光材料として用いることにより、発光効率が極めて高い発光素子を提供しうることを明らかにした。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0011】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
【化2】
[一般式(1)において、Lはm+n価の芳香族連結基であり、Aはハメットのσp値が正の基またはフェニル基であり、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)であり、mは1以上の整数であり、nは2以上の整数である。mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のDのうちの2つは、ともに共通する芳香環を含んでいるが、互いに異なる構造を有する基である。]
[2] 前記複数のDのうちの2つがいずれもヘテロ原子を含む基である、[1]に記載の化合物。
[3] 前記複数のDのうちの2つがいずれもヘテロ原子に2つ以上の芳香環が結合した構造を含む基である、[2]に記載の化合物。
[4] 前記複数のDのうちの2つがジアリールアミン構造(ただし、ジアリールアミン構造を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を含む、[3]に記載の化合物。
[5] 前記ジアリールアミン構造がカルバゾール構造である、[4]に記載の化合物。
[6] 前記mが1である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の化合物。
[7] 前記mが2以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の化合物。
[8] 前記複数のDのうちの2つが下記条件(a)または下記条件(b)を満たす、[1]~[7]のいずれか1項に記載の化合物。
条件(a)
2つのDがいずれもLに結合する原子を含む芳香環を有しており、前記2つのDの間で、その芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
条件(b)
2つのDがいずれもLに結合する連結基と該連結基に結合している1つの芳香環を有しており、前記2つのDの間で、前記連結基および前記連結基に結合している芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。2つのDがいずれもLに結合する連結基と該連結基に結合している2つ以上の芳香環を有しており、前記2つのDの間で、前記連結基、前記連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、前記2つのDの間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。]
[9] 前記複数のDのうちの2つが前記条件(a)を満たす、[8]に記載の化合物。
[10] 前記複数のDのうちの2つが下記一般式(2)で表される基である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の化合物。
【化3】
[一般式(2)において、R11~R19は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R11~R19のうちの1つはLとの結合位置である。]
[11] 前記一般式(2)のR19がLとの結合位置である、[10]に記載の化合物。
[12] 前記複数のDのうちの2つの一方は、前記一般式(2)のR11~R18の少なくとも1つが置換基であり、前記複数のDのうちの2つの他方は、前記一般式(2)のR11~R18のうち、前記複数のDのうちの2つの一方で置換基であるものに対応するものが水素原子である、[10]または[11]に記載の化合物。
[13] 前記複数のDのうちの2つの一方は、前記一般式(2)のR13およびR16の少なくとも一方が置換基である、[10]~[12]のいずれか1項に記載の化合物。
[14] 前記置換基が、置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基である、[12]または[13]に記載の化合物。
[15] 前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(10)で表される化合物である、[1]に記載の化合物。
【化4】
[一般式(10)において、Aはハメットのσp値が正の基を表す。R~Rは各々独立に水素原子、ハメットのσp値が正の基またはハメットのσp値が負の基を表し、R~Rの少なくとも2つはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)である。R~Rのうちの1つ以上がハメットのσp値が正の基であるとき、Aが表すハメットのσp値が正の基およびR~Rのうちのハメットのσp値が正の基は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[16] 前記R~Rのうちのハメットのσp値が負の基の2つは、下記条件(a)または条件(b)を満たす、[15]に記載の化合物。
条件(a)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する原子を含む芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、その芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
条件(b)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する連結基と該連結基に結合している1つの芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、前記連結基および前記連結基に結合している芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する連結基と該連結基に結合している2つ以上の芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、前記連結基、前記連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、前記2つのハメットのσp値が負の基の間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。]
[17] 前記一般式(10)のRとRの組み合わせ、および、RとRの組み合わせの少なくとも一方が前記条件(a)または(b)を満たす、[16]に記載の化合物。
[18] 前記一般式(10)のR~Rがハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)である、[15]~[17]のいずれか1項に記載の化合物。
[19] 前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(11)で表される化合物である、[1]に記載の化合物。
【化5】
[一般式(11)において、AX1はハメットのσp値が正の基を表す。RX11~RX14は各々独立に水素原子、ハメットのσp値が正の基またはハメットのσp値が負の基を表し、RX11~RX14の少なくとも2つはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)である。RX11~RX14の1つ以上がハメットのσp値が正の基であるとき、AX1が表すハメットのσp値が正の基およびRX11~RX14のうちのハメットのσp値が正の基は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[20] 前記RX11~RX14のうちのハメットのσp値が負の基の2つは、下記条件(a)または条件(b)を満たす、[19]に記載の化合物。
条件(a)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する原子を含む芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、その芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
条件(b)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する連結基と該連結基に結合している1つの芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、前記連結基および前記連結基に結合している芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する連結基と該連結基に結合している2つ以上の芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、前記連結基、前記連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、前記2つのハメットのσp値が負の基の間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
[21] [1]~[20]のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
[22] [1]~[20]のいずれか1項に記載の化合物を含むことを特徴とする発光素子。
[23] 下記一般式(18)で表される化合物に下記一般式(21)で表される化合物と下記一般式(22)で表される化合物を反応させる工程を含む、一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【化6】
[一般式(18)において、Lはm+n価の芳香族連結基であり、Aはハメットのσp値が正の基またはフェニル基であり、Xはハロゲン原子であり、mは1以上の整数であり、nは2以上の整数である。mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のXは互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【化7】
[一般式(21)において、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)である。]
【化8】
[一般式(22)において、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)であり、Dとは異なる構造を有する基である。]
【化9】
[一般式(1)において、Lはm+n価の芳香族連結基であり、Aはハメットのσp値が正の基またはフェニル基であり、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)であり、mは1以上の整数であり、nは2以上の整数である。mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のDのうちの2つは、ともに共通する芳香環を含む基であり、互いに異なる構造を有する基である。]
[24] 下記一般式(19)で表される化合物に下記一般式(22)で表される化合物を反応させる工程を含む、一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【化10】
[一般式(19)において、Lはm+n価の芳香族連結基であり、Aはハメットのσp値が正の基またはフェニル基であり、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)であり、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である。mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。nが2以上であるとき、複数のDは互いに同一であっても異なっていてもよい。Xはハロゲン原子であり、pは1以上でn未満の整数である。]
【化11】
[一般式(22)において、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)であり、Dとは異なる構造を有する基である。]
【化12】
[一般式(1)において、Lはm+n価の芳香族連結基であり、Aはハメットのσp値が正の基またはフェニル基であり、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)であり、mは1以上の整数であり、nは2以上の整数である。mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のDのうちの2つは、ともに共通する芳香環を含む基であり、互いに異なる構造を有する基である。]
[25] 下記一般式(19)で表される化合物。
【化13】
[一般式(19)において、Lはm+n価の芳香族連結基であり、Aはハメットのσp値が正の基またはフェニル基であり、Dはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)であり、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である。mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。nが2以上であるとき、複数のDは互いに同一であっても異なっていてもよい。Xはハロゲン原子であり、pは1以上でn未満の整数である。ただし、下記の構造を有する化合物は一般式(19)には含まれない。]
【化14】

[26] 前記ハロゲン原子がフッ素原子である、[25]に記載の化合物。
[27] 前記Dの少なくとも1つがジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)である、[25]または[26]に記載の化合物。
[28] 前記Aの少なくとも1つがシアノ基である、[25]~[27]のいずれか1項に記載の化合物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物は、より高い発光効率を有し、発光材料として有用である。本発明の化合物を材料に用いた発光素子は、極めて高い発光効率を実現しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図2】化合物1~4および6を用いた有機フォトルミネッセンス素子の吸収スペクトルである。
図3】化合物1~4および6を用いた有機フォトルミネッセンス素子の蛍光スペクトルである。
図4】化合物1~4および6を用いた有機フォトルミネッセンス素子の発光の過渡減衰曲線である。
図5】化合物1~4および6を用いた有機フォトルミネッセンス素子の燐光スペクトルである。
図6】化合物3、6および比較化合物1を用いた有機エレクトロミネッセンス素子の蛍光スペクトルである。
図7】化合物3、6および比較化合物1を用いた有機エレクトロミネッセンス素子の電流密度-電圧特性を示すグラフである。
図8】化合物3、6および比較化合物1を用いた有機エレクトロミネッセンス素子の電流密度-外部量子効率特性を示すグラフである。
図9】化合物3、6、比較化合物1を用いた有機エレクトロミネッセンス素子の輝度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0015】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化15】
一般式(1)において、Lはm+n価の芳香族連結基である。m、nはそれぞれ、芳香族連結基に結合するAの数、Dの数に相当する。Lが表す芳香族連結基は芳香環からなり、その芳香環の置換基で置換可能な位置のうち、m個の位置においてAが水素原子と置き換わって炭素原子に結合しており、n個の位置においてDが水素原子と置き換わって炭素原子に結合している。すなわち、Lが表す芳香族連結基はm+n個の水素原子を除いた芳香環からなる。芳香環の置換基で置換可能な位置のうち、AまたはDで置換されているのは、その全てであっても一部であってもよいが、芳香環の置換可能な位置の全てがAまたはDで置換されていることが好ましい。
Lが表す芳香族連結基を構成する芳香環は、炭化水素からなる芳香環(以下、「芳香族炭化水素環」という)であってもよいし、複素原子を含む芳香環(以下、「芳香族複素環」という)であってもよい。芳香族炭化水素環の置換基で置換可能な基はメチン基(-CH=)であり、芳香族複素環の置換基で置換可能な基としては、メチン基(-CH=)、イミノ基(-NH-)等を挙げることができる。
Lが表す芳香族連結基を構成する芳香族炭化水素環は、単環であっても、2以上の芳香族炭化水素環が縮合した縮合環であっても、2つの芳香炭化水素環がスピロ結合で繋がったスピロ環であっても、2以上の芳香族炭化水素環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香族炭化水素環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。芳香族連結基を構成する芳香族炭化水素環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。芳香族連結基を構成する芳香族炭化水素環の具体例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、スピロフルオレン環を挙げることができる。
また、Lが表す芳香族連結基を構成する芳香族複素環は、単環であっても、1以上の複素環と芳香族炭化水素環または芳香族複素環が縮合した縮合環であっても、1つの複素環と1つの芳香族炭化水素環または芳香族複素環がスピロ結合で繋がったスピロ環であってもよく、1以上の芳香族複素環と芳香族炭化水素環または芳香族複素環が連結した連結環であってもよい。芳香族複素環の炭素数は5~22であることが好ましく、5~18であることがより好ましく、5~14であることがさらに好ましく、5~10であることがさらにより好ましい。芳香族複素環を構成する複素原子は窒素原子であることが好ましい。芳香族複素環の具体例として、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール環を挙げることができる。
Lが表す芳香族連結基を構成する芳香環のより好ましいものはベンゼン環である。
【0016】
Aはハメットのσp値が正の基、Dはハメットのσp値が負の基である。ただし、フェニル基は例外的にAに含めることとし、Dには含まれない。
ここで、「ハメットのσp値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換ベンゼン誘導体における置換基と反応速度定数または平衡定数の間に成立する下記式:
log(k/k0) = ρσp
または
log(K/K0) = ρσp
における置換基に特有な定数(σp)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。本発明における「ハメットのσp値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσp値に関する記載を参照することができる。ハメットのσp値が負の基は電子供与性(ドナー性)を示し、ハメットのσp値が正の基は電子求引性(アクセプター性)を示す傾向がある。
【0017】
Lが表す芳香族連結基には、m個のAが結合している。mは1以上の整数であり、mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。mの上限は特に制限されないが、nよりも小さいことが好ましい。
【0018】
Aが表すハメットのσp値が正の基は特に限定されないが、シアノ基、カルボニル基もしくはスルホニル基を含む基、または置換もしくは無置換のヘテロアリール基等を挙げることができる。ヘテロアリール基が含むヘテロ原子として、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、硼素原子を挙げることができ、ヘテロアリール基は、少なくとも1つの窒素原子を環員として含むことが好ましい。そのようなヘテロアリール基として、窒素原子を環員として含む5員環または6員環からなる基、または窒素原子を環員として含む5員環または6員環にベンゼン環が縮環した構造を有する基を挙げることができ、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環から水素原子を1つ除いた1価の基、または、これらの芳香族ヘテロ環同士が縮環した構造を有する基、これらの芳香族ヘテロ環にベンゼン環が縮環した構造を有する基であることが好ましい。また、キノン環またはピロン環にベンゼン環が縮環した構造を有し、ベンゼン環から水素原子を1つ除いた1価の基もハメットのσp値が正の基として好ましい。ここで、キノン環またはピロン環に縮環するベンゼン環は置換基で置換されていてもよい。キノン環またはピロン環に縮環するベンゼン環が置換基を有する場合の置換基、および、ヘテロアリール基が置換基を有する場合の置換基として、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数5~40のヘテロアリール基等を挙げることができる。これらの置換基のうち置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。また、Aにはフェニル基が含まれる。mが2以上であるとき、複数のAのうちシアノ基の数は例えば0~2個とすることができ、1個である場合が2個である場合よりも好ましい。
【0019】
以下において、Aが表すハメットのσp値が正の基の具体例を例示する。ただし、本発明において、Aが表すハメットのσp値が正の基は、これらの基によって限定的に解釈されるべきものではない。以下に例示する基のうち、環構造を有するものは、環構造を構成するいずれか1つのメチン基(-CH=)の水素原子とLが置き換わってLと結合する。カルボニル基(-CO-)のCOの左右の線およびスルホニル基(-SO-)のSOの左右の線は、それぞれ単結合(結合手)を表す。カルボニル基(-CO-)およびスルホニル基(-SO-)は、一方の単結合でLと直接結合するか、連結基を介してLと連結し、他方の単結合には原子団が結合する。原子団としては置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、アルキル基の炭素数としては1~20が好ましく、アリール基の炭素数としては6~40が好ましく、ヘテロアリール基の炭素数としては5~40が好ましい。
【0020】
【化16-1】
【化16-2】
【0021】
次に、Dについて説明する。
Lが表す芳香族連結基には、n個のDが結合している。nは2以上の整数であり、複数のDのうちの2つは、ともに共通する芳香環を含んでいるが、互いに異なる構造を有する基である。共通する芳香環の種類は特に制限されず、芳香族炭化水素環であっても芳香族複素環であってもよい。芳香族炭化水素環と芳香族複素環の説明と好ましい範囲については、下記の条件(a)および(b)の説明の対応する箇所を参照することができる。好ましい芳香環としてベンゼン環を挙げることができるが、これに制限されるものではない。また、芳香環を含む基としてジアリールアミノ構造やカルバゾリル構造を含む基等を好ましく例示することができるが、これらに制限されるものではない。複数のDのうちの2つは、ともにヘテロ原子を有する基であることが好ましく、窒素原子を含む基であることがより好ましい。具体的な構造として、後述する一般式(2)~(9)のいずれかで表される基を挙げることができる。
【0022】
複数のDのうちの2つは、下記条件(a)または(b)を満たすことが好ましい。
条件(a)
2つのDがいずれもLに結合する原子を含む芳香環を有しており、2つのDの間で、その芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
条件(b)
2つのDがいずれもLに結合する連結基と該連結基に結合している1つ以上の芳香環を有しており、2つのDの両方で連結基に結合している芳香環が1つである場合、2つのDの間で、連結基および連結基に結合している芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。2つのDの両方で連結基に結合している芳香環が2つ以上である場合、2つのDの間で、連結基、連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、2つのDの間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
以下の説明では、条件(a)または(b)を満たす2つのDの一方を「一方のD」といい、他方を「他方のD」という。条件(a)または(b)を満たす2つのD(「一方のD」と「他方のD」)は、複数のDのうちの1組であってもよいし、2組以上であってもよい。
また、条件(a)においては、一方のDが有する「Lに結合する原子を含む芳香環」を「一方の芳香環」といい、他方のDが有する「Lに結合する原子を含む芳香環」を「他方の芳香環」という。
条件(b)において、「2つのDの両方で連結基に結合している芳香環が2つ以上である場合、2つのDの間で、連結基、連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、2つのDの間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる」とは、一方のDにおいて、3価の連結基を介してLにベンゼン環とナフタレン環が連結している場合を例にすると、一方のDと同様に、他方のDにおいても、3価の連結基を介してLにベンゼン環とナフタレン環が連結しており、互いに共通する芳香環の組み合わせ、すなわち一方のDのベンゼン環と他方のDのベンゼン環の組み合わせ、もしくは一方のDのナフタレン環と他方のDのナフタレン環の組み合わせ、またはそれらの組み合わせの両方で、環に置換している置換基の数、環の置換基で置換されている位置、環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なることである。条件(b)においては、2つのDの両方で連結基に結合している芳香環が1つである場合には、一方のDが有する「連結基に連結している芳香環」を「一方の芳香環」といい、他方のDが有する「連結基に連結している芳香環」を「他方の芳香環」という。2つのDの両方で連結基に結合している芳香環が2つ以上である場合には、2つのDの間の「互いに共通する芳香環の組み合わせ」であって、置換基条件の少なくとも1つが異なるものの一方を「一方の芳香環」といい、他方を「他方の芳香環」という。
また、以下の説明では、「芳香環に置換している置換基の数」、「芳香環の置換基で置換されている位置」、および、「芳香環に置換している置換基の構造」を総称して「置換基条件」ということがある。
【0023】
条件(a)および(b)における芳香環は、芳香族炭化水素環であっても芳香族複素環であってもよく、単環であっても縮合環であってもよい。芳香環が連結環を構成している場合には、最もLに近い側の芳香環が条件(a)および(b)における芳香環であることとする。芳香環が共通するとは、一方の芳香環と他方の芳香環の間において、置換基で置き換わった水素原子の数と置換基条件を除いて構造が全て同じであることを意味する。
条件(b)における連結基は、Lと1つの芳香環を連結する2価の連結基であってもよいし、Lと2つ以上の芳香環を連結する3価以上の連結基であってもよい。連結基に結合している芳香環が2つ以上である場合、連結基に結合している芳香環同士は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
芳香環における置換基条件の相違の判定は、以下のようにして行うことができる。
まず、一のDと、これとは別のDにおいて、共通する芳香環(Lに結合する原子を含む芳香環のうち共通する芳香環、または、Lに連結基を介して連結している芳香環のうち共通する芳香環)の置換基の数を対比する。置換基の数が異なる場合には、上記の置換基条件のうち「芳香環に置換している置換基の数」が異なると判定する。置換基の数が同じである場合には、芳香環の置換基で置換されている位置(置換位置)を対比し、異なる置換位置が1つでもあれば、上記の置換基条件のうち「芳香環の置換基で置換されている位置」が異なると判定する。置換位置が全て同じである場合には、芳香環に置換している置換基の構造を対比する。一のDの芳香環に置換している置換基の少なくとも1つが、別のDの芳香環の、対応する置換位置に置換している置換基と構造が異なる場合には、上記の置換基条件のうち「芳香環に置換している置換基の構造」が異なると判定する。ここで、別のDの芳香環の「対応する置換位置」とは、一のDの芳香環の置換位置と芳香環の構造式上で共通する位置であり、具体的には、2つDの芳香環の構造式を、置換位置を全て合わせて重ねたとき、重なる位置同士が「対応する置換位置」に相当する。もしくは、IUPAC命名法に従って付した芳香環の位置番号が共通する位置が「対応する置換位置」に相当する。ただし、芳香環の構造式が線対称構造をとる場合、対称軸を中心に180℃回転させたときに重なる位置同士も「対応する置換位置」に含めて判断し、一のDの芳香環に置換している置換基の少なくとも1つが、別のDの芳香環の、両方の対応する置換位置に置換している置換基のいずれとも構造が異なる場合に、「芳香環に置換している置換基の構造」が異なると判定する。例えば、カルバゾール環の3位に置換している置換基については、別のカルバゾール環の3位に置換している置換基と6位に置換している置換基の両方と異なる場合がこれに相当する。
「置換基の構造が異なる」とは、例えば置換基の種類、置換基を構成する原子の種類および各原子の数、飽和結合の有無または位置、鎖状構造(直鎖構造、分枝構造、分枝構造である場合の枝分かれの位置)、環状構造(環員数、芳香環または非芳香環、縮環の有無)の少なくとも1つの条件が異なることを意味する。また、芳香環に置換した2つの置換基が互いに結合して環構造を形成している場合、その2つの置換基をそれぞれ置換基条件における「置換基」として見ることができる。例えば、芳香環がナフタレン環である場合、ナフタレン環全体で「芳香環」として見てもよいし、隣り合う位置が置換基で置換されたベンゼン環として見てもよい。ナフタレン環を隣り合う位置が置換基で置換されたベンゼン環として見たとき、無置換のベンゼン環とは、芳香環が共通し、置換基の数が異なる関係になる。本発明では、2つのDの間で、対象となる芳香環同士がこのような関係にある場合にも、条件(a)または(b)を満たすと判定することとする。
これらの置換基条件の中では、「芳香環に置換している置換基の数」が一方の芳香環と他方の芳香環で異なることが好ましく、他方の芳香環が少なくとも1つの置換基で置換されており、他方の芳香環が無置換であることがより好ましい。
【0025】
条件(a)または(b)を満たす2つのDは、ジアリールアミン構造(ただし、ジアリールアミン構造を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を含むことが好ましい。本発明における「ジアリールアミン構造」とは、窒素原子に2つのアリール基が結合した構造を意味し、2つのアリール基は互いに結合していてもよく、置換基で置換されていてもよい。アリール基が置換基を有する場合の置換基の好ましい範囲と具体例については、一般式(2)のR11~R19等がとりうる置換基の好ましい範囲と具体例を参照することができる。ジアリールアミン構造のアリール基を構成する芳香族炭化水素環は、単環であっても、2以上の芳香族炭化水素環が縮合した縮合環であってもよい。ジアリールアミン構造のアリール基を構成する芳香族炭化水素環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。ジアリールアミン構造のアリール基の具体例として、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のナフチル基を挙げることができる。また、ジアリールアミン構造の2つのアリール基が互いに結合している場合、2つのアリール基は単結合で結合していてもよいし、連結基を介して連結していてもよい。2つのアリール基を連結する連結基として、酸素原子、硫黄原子、置換もしくは無置換のアルキレン基を挙げることができ、アルキレン基が置換基を有する場合の置換基として、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を挙げることができる。2つのアリール基が互いに結合しているジアリールアミン構造の具体例として、カルバゾール構造、フェノキサジン構造、フェノチアジン構造、アクリジン構造を挙げることができ、条件(a)または(b)を満たす2つのDはカルバゾール構造を含むことがより好ましい。
ジアリールアミン構造を含む基において、ジアリールアミン構造はLと単結合で結合していてもよいし、Lと2価の連結基を介して連結していてもよい。2価の連結基は特に限定されない。ジアリールアミン構造は、その2つのアリール基のいずれかの水素原子とLまたは2価の連結基が置き換わってLまたは2価の連結基と結合してもよいし、その窒素原子がLまたは2価の連結基と結合していてもよいが、ジアリールアミン構造の窒素原子がLまたは2価の連結基と結合していることが好ましく、ジアリールアミン構造の窒素原子がLに直接結合(単結合で結合)していることがより好ましい。すなわち、ジアリールアミン構造は、ジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミン構造を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)であることが好ましく、Lに単結合で結合したジアリールアミノ基であることがより好ましい。
【0026】
ここで、ジアリールアミン構造と条件(a)または(b)の関係については、まず、ジアリールアミン構造の2つのアリール基が互いに結合しており、その一方のアリール基または窒素原子がLに単結合で結合している場合、ジアリールアミン構造全体が条件(a)における芳香環に対応する。
ジアリールアミン構造の2つのアリール基が互いに結合しており、その一方のアリール基または窒素原子がLに2価の連結基で連結している場合、2価の連結基が条件(b)における連結基に対応し、ジアリールアミン構造全体が条件(b)における芳香環に対応する。
ジアリールアミン構造の2つのアリール基が互いに結合しておらず、その一方のアリール基がLに単結合で結合している場合、Lに単結合で結合している一方のアリール基が条件(a)の芳香環に対応する。
ジアリールアミン構造の2つのアリール基が互いに結合しておらず、その窒素原子がLに単結合で結合している場合、Lに単結合で結合している窒素原子が条件(b)の連結基に対応し、2つのアリール基が条件(b)の芳香環に対応する。
ジアリールアミン構造の2つのアリール基が互いに結合しておらず、その一方のアリール基がLに2価の連結基で連結している場合、2価の連結基が条件(b)の連結基に対応し、2価の連結基に結合している一方のアリール基が条件(b)の芳香環に対応する。
ジアリールアミン構造の2つのアリール基が互いに結合しておらず、その窒素原子がLに2価の連結基で連結している場合、2価の連結基と窒素原子が条件(b)の連結基に対応し、2つのアリール基が条件(b)の芳香環に対応する。
【0027】
条件(a)を満たす2つのD(「一方のD」と「他方のD」)は、下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【0028】
【化17】
【0029】
一般式(2)において、R11~R19は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R11~R19のうちの1つはLとの結合位置である。Lとの結合位置であるものは、R19であることが好ましい。置換基の数は特に制限されず、R11~R19のうちの、Lとの結合位置を除いたすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R11~R19うちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、一方のDとなる一般式(2)で表される基と他方のDとなる一般式(2)で表される基の間では、条件(a)を満たすように、R11~R19のうちの置換基の数、置換基であるものの位置、および、置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
例えば、一方のDでは、R11~R18の少なくとも1つが置換基であり、他方のDでは、R11~R18のうち、一方のDで置換基であるものに対応するものが水素原子であることが好ましく、一方のDでは、R13およびR16の少なくとも一方が置換基であり、他方のDでは、R13およびR16のうち、一方のDで置換基であるものに対応するものが水素原子であることがより好ましい。また、一方のDでは、R13およびR16の両方が置換基であることがさらに好ましく、R13およびR16の両方が置換もしくは無置換のアリール基であることがさらにより好ましい。他方のDでは、R11~R18の全てが水素原子であることがさらに好ましい。
以下において、一般式(2)で表される基の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(2)で表される基はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。以下に例示する基において、ベンゼン環から伸びていて、他の原子との間の連結基として表示されていない単一の線はメチル基を表すものである。以下に例示する基は、カルバゾール環の1~9位に結合している水素原子とLが置き換わってLと結合する。カルバゾール環におけるLの結合位置は9位であることが好ましい。条件(a)を満たす2つのDの組み合わせとしては、例えばこれらの基から選択される2種類の基の組み合わせを採用することができる。
【0030】
【化18-1】
【化18-2】
【化18-3】
【0031】
条件(a)または(b)を満たす2つのD(「一方のD」と「他方のD」)は、下記一般式(3)~(5)のいずれかで表される基であることも好ましい。
【0032】
【化19】
【0033】
一般式(3)~(5)において、R21~R31、R41~R53、R61~R73は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R21~R31のうちの1つ、R41~R53のうちの1つ、R61~R73のうちの1つは、それぞれLとの結合位置である。Lとの結合位置であるものは、R31、R53、R73であることが好ましい。R21~R30のうちの1つ、R41~R52のうちの1つ、R61~R72のうちの1つがLとの結合位置である場合、一般式(3)~(5)のいずれかで表される基は条件(a)の対象になる。R31、R53、R73がLとの結合位置である場合、一般式(3)~(5)のいずれかで表される基は条件(b)の対象になり、窒素原子が条件(b)の連結基に対応し、窒素原子に結合しているベンゼン環、ナフタレン環が条件(b)の芳香環に対応する。一般式(3)~(5)における置換基の数は特に制限されず、R21~R31、R41~R53、R61~R67、R68~R72のうちの、Lとの結合位置を除いたすべてが無置換(水素原子)であってもよい。また、一般式(3)~(5)のそれぞれにおいて置換基が2つ以上ある場合、それらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、一方のDとなる一般式(3)~(5)のいずれかで表される基と、他方のDとなる一般式(3)~(5)のいずれかで表される基の間では、条件(a)または条件(b)を満たすように、R21~R31、R41~R53およびR61~R73の少なくともいずれかの群において、置換基の数、置換基であるものの位置、および、置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
以下において、一般式(3)~(5)のいずれかで表される基の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(3)~(5)のいずれかで表される基はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。以下に例示する基において、ベンゼン環から伸びていて、他の原子との間の連結基として表示されていない単一の線はメチル基を表すものである。以下に例示する基は、環構造を構成するいずれか1つのメチン基(-CH=)の水素原子、または、窒素原子に結合している水素原子とLが置き換わってLと結合する。これらの基におけるLの結合位置は窒素原子であること好ましい。条件(a)または(b)を満たす2つのDの組み合わせとしては、例えばこれらの基から選択される2種類の基の組み合わせを採用することができる。
【0034】
【化20-1】
【化20-2】
【化20-3】
【化20-4】
【0035】
条件(a)または(b)を満たす2つのD(「一方のD」と「他方のD」)は、下記一般式(6)で表される基であることも好ましい。
【0036】
【化21】
一般式(6)において、R81~R95は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R81~R95のうちの1つはLとの結合位置である。Lとの結合位置であるものはR83であることが好ましい。一般式(6)で表される基では、窒素原子に結合している3つのベンゼン環のうち、Lとの結合位置を有するベンゼン環が条件(a)の芳香環に対応する。または、Lとの結合位置を有するベンゼン環と窒素原子を条件(b)の連結基に対応させ、残りの2つのベンゼン環を条件(b)の芳香環に対応させて見ることもできる。置換基の数は特に制限されず、R81~R95のうちの、Lとの結合位置を除いたすべてが無置換(水素原子)であってもよい。また、R81~R95のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、一方のDとなる一般式(6)で表される基と、他方のDとなる一般式(6)で表される基の間では、条件(a)または(b)を満たすように、R81~R83、R86~R90およびR91~R95の少なくともいずれかの群において、置換基の数、置換基であるものの位置、および、置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
【0037】
条件(a)を満たす2つのD(「一方のD」と「他方のD」)は、下記一般式(7)で表される基であることも好ましい。
【0038】
【化22】
【0039】
一般式(7)において、R101~R109は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R101~R109のうちの1つはLとの結合位置である。Lとの結合位置であるものは、R109であることが好ましい。置換基の数は特に制限されず、R101~R109のうちの、Lとの結合位置を除いたすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R101~R109のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、一方のDとなる一般式(7)で表される基と、他方のDとなる一般式(7)で表される基の間では、条件(a)を満たすように、R101~R109のうちの置換基の数、置換基であるものの位置、および、置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
【0040】
条件(a)を満たす2つのD(「一方のD」と「他方のD」)は、下記一般式(8)で表される基であることも好ましい。
【0041】
【化23】
【0042】
一般式(8)において、R111~R119は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R111~R119のうちの1つはLとの結合位置である。Lとの結合位置であるものは、R119であることが好ましい。置換基の数は特に制限されず、R111~R119のうちのLとの結合位置を除いたすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R111~R119のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、一方のDとなる一般式(8)で表される基と、他方のDとなる一般式(8)で表される基の間では、条件(a)を満たすように、R111~R119のうちの置換基の数、置換基であるものの位置、および、置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
【0043】
条件(a)を満たす2つのD(「一方のD」と「他方のD」)は、下記一般式(9)で表される基であることも好ましい。
【0044】
【化24】
【0045】
一般式(9)において、R121~R131は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R121~R131のうちの1つはLとの結合位置である。Lとの結合位置であるものは、R131であることが好ましい。置換基の数は特に制限されず、R121~R131のうちの、Lとの結合位置を除いたすべてが無置換(水素原子)であってもよい。R121~R131のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。ただし、一方のDである一般式(9)で表される基と、他方のDである一般式(9)で表される基の間では、条件(a)を満たすように、R121~R131のうちの置換基の数、置換基であるものの位置、および、置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
【0046】
一般式(2)のR11~R19と、一般式(3)のR21~R31と、一般式(4)のR41~R53と、一般式(5)のR61~R73と、一般式(6)のR81~R95と、一般式(7)のR101~R109と、一般式(8)のR111~R119と、一般式(9)のR121~R131がとりうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数2~20のアシル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~10のアルコキシカルボニル基、炭素数1~10のアルキルスルホニル基、炭素数1~10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2~10のアルキルアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基、炭素数4~20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは、例えばこれらの具体例の置換基により置換されていてもよい。より好ましい置換基は、炭素数1~20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数1~20の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、置換もしくは無置換のカルバゾリル基である。
【0047】
Dのうちの条件(a)または(b)を満たす基を除いた残りの基はハメットのσp値が負の基であればよく、他には特に制限されないが、ジアリールアミン構造(ただし、ジアリールアミン構造を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を含むことが好ましく、ジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を含むことがより好ましく、一般式(2)~(9)で表される基であることがさらに好ましい。これらの構造および基の説明と好ましい範囲、具体例については、条件(a)または(b)を満たす2つのDにおける、ジアリールアミン構造、ジアリールアミノ基、一般式(2)~(9)で表される基についての説明と好ましい範囲、具体例を参照することができる。ただし、これらの参照において、条件(a)または(b)に関する記載については参照する内容に含めないこととする。
【0048】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(10)で表される化合物であることが好ましい。
【0049】
【化25】
【0050】
一般式(10)において、Aはハメットのσp値が正の基を表す。R~Rは各々独立に水素原子、ハメットのσp値が正の基またはハメットのσp値が負の基を表し、R~Rの少なくとも2つはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)である。R~Rの1つ以上がハメットのσp値が正の基であるとき、Aが表すハメットのσp値が正の基およびR~Rのうちのハメットのσp値が正の基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
~Rのうちのハメットのσp値が負の基の2つは、下記条件(a)または条件(b)を満たすことが好ましい。
条件(a)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれもLに結合する原子を含む芳香環を有しており、2つのハメットのσp値が負の基の間で、その芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
条件(b)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれもLに結合する連結基と該連結基に結合している1つ以上の芳香環を有しており、2つのハメットのσp値が負の基の両方で連結基に結合している芳香環が1つである場合、2つのハメットのσp値が負の基の間で、連結基および連結基に結合している芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。2つのハメットのσp値が負の基の両方で連結基に結合する芳香環が2つ以上である場合、2つのハメットのσp値が負の基の間で、連結基、連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、2つのハメットのσp値が負の基の間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
、R~Rが表すハメットのσp値が正の基、R~Rが表すハメットのσp値が負の基、および、R~Rのうちのハメットのσp値が負の基の2つの説明と好ましい範囲、具体例、および、条件(a)、(b)の説明については、一般式(1)のAが表すハメットのσp値が正の基、Dが表すハメットのσp値が負の基、複数のDのうちの2つについての説明と好ましい範囲、具体例、および条件(a)および(b)についての説明をそれぞれ参照することができる。
【0051】
~Rのうちハメットのσp値が正の基であるものの数は、0~3であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0または1であることがさらに好ましく、0であることが最も好ましい。R~Rのうちハメットのσp値が負の基であるものの数は、2~5であることが好ましく、3~5であることがより好ましく、4または5であることがさらに好ましく、5であることが最も好ましい。R~Rのうち、条件(a)または条件(b)を満たす2つの基であるもの組み合わせは1つであっても2つであってもよい。また、条件(a)または条件(b)を満たす2つの基であるもの組み合わせは、一般式(1)におけるベンゼン環の互いに点対称な位置にあるものの組み合わせであることが好ましい。すなわち、RとRの組み合わせ、および、RとRの組み合わせの一方または両方が条件(a)または条件(b)を満たすことが好ましい。
【0052】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(11)で表される化合物であることも好ましい。
【化26】
【0053】
一般式(11)において、AX1はハメットのσp値が正の基を表す。RX11~RX14は各々独立に水素原子、ハメットのσp値が正の基またはハメットのσp値が負の基を表し、RX11~RX14の少なくとも2つはハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)である。RX11~RX14の1つ以上がハメットのσp値が正の基であるとき、AX1が表すハメットのσp値が正の基およびRX11~RX14のうちのハメットのσp値が正の基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
X11~RX14のうちのハメットのσp値が負の基の2つは、上記の条件(a)または条件(b)を満たすことが好ましい。
、RX11~RX14が表すハメットのσp値が正の基、RX11~RX14が表すハメットのσp値が負の基、および、RX11~RX14のうちのハメットのσp値が負の基の2つの説明と好ましい範囲、具体例、および、条件(a)、(b)の説明については、一般式(1)のAが表すハメットのσp値が正の基、Dが表すハメットのσp値が負の基、複数のDのうちの2つについての説明と好ましい範囲、具体例、および条件(a)および(b)についての説明をそれぞれ参照することができる。
【0054】
X11~RX14のうちハメットのσp値が正の基であるものの数は、0~2であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。RX11~RX14のうちハメットのσp値が負の基であるものの数は、2~4であることが好ましく、3または4であることがより好ましく、4であることがさらに好ましい。RX11~RX14のうち、条件(a)または条件(b)を満たす2つの基であるもの組み合わせは1つであっても2つであってもよい。
【0055】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示する。具体例のうち、化合物1~7については表において特定するとともに構造式も以下に掲載する。また、化合物8以降については表においてのみ特定する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化27】
【0056】
以下の表に、一般式(10)または一般式(11)で表される化合物の具体例を掲載する。一般式(10)や一般式(11)の中の置換基を表す一般式(2a)と一般式(2b)も以下に記載する。
【化28】
【0057】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0058】
【表2-1】
【表2-2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4-1】
【表4-2】
【0061】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0062】
【表6-1】
【表6-2】
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
表1~8中におけるD1~D60およびA1~A13の構造を以下に示す。
【化29】
【0066】
【化30】
【0067】
【化31】
【0068】
【化32】
【0069】
【化33】
【0070】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、一般式(1)で表される最小化合物の分子量である。
一般式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
【0071】
本発明を応用して、分子内に一般式(1)で表される構造を複数個含む化合物を、発光材料として用いることも考えられる。
例えば、一般式(1)で表される構造中にあらかじめ重合性基を存在させておいて、その重合性基を重合させることによって得られる重合体を、発光材料として用いることが考えられる。具体的には、一般式(1)のL、A、Dのいずれかに重合性官能基を含むモノマーを用意して、これを単独で重合させるか、他のモノマーとともに共重合させることにより、繰り返し単位を有する重合体を得て、その重合体を発光材料として用いることが考えられる。あるいは、一般式(1)で表される構造を有する化合物どうしをカップリングさせることにより、二量体や三量体を得て、それらを発光材料として用いることも考えられる。
【0072】
一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有する重合体の例として、下記一般式(12)または(13)で表される構造を含む重合体を挙げることができる。
【化34】
【0073】
一般式(12)または(13)において、Qは一般式(1)で表される構造を含む基を表し、LおよびLは連結基を表す。連結基の炭素数は、好ましくは0~20であり、より好ましくは1~15であり、さらに好ましくは2~10である。連結基は-X11-L11-で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、X11は酸素原子または硫黄原子を表し、酸素原子であることが好ましい。L11は連結基を表し、置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、炭素数1~10の置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
一般式(12)または(13)において、R201、R202、R203およびR204は、各々独立に置換基を表す。好ましくは、炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数1~3の無置換のアルキル基、炭素数1~3の無置換のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子であり、さらに好ましくは炭素数1~3の無置換のアルキル基、炭素数1~3の無置換のアルコキシ基である。
およびLで表される連結基は、Qを構成する一般式(1)の構造のL、A、Dのいずれかに結合することができる。1つのQに対して連結基が2つ以上連結して架橋構造や網目構造を形成していてもよい。
【0074】
繰り返し単位の具体的な構造例として、下記一般式(14)~(17)で表される構造を挙げることができる。
【化35】
【0075】
これらの一般式(14)~(17)を含む繰り返し単位を有する重合体は、一般式(1)の構造のL、A、Dのいずれかにヒドロキシ基を導入しておき、それをリンカーとして下記化合物を反応させて重合性基を導入し、その重合性基を重合させることにより合成することができる。
【化36】
【0076】
分子内に一般式(1)で表される構造を含む重合体は、一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、それ以外の構造を有する繰り返し単位を含む重合体であってもよい。また、重合体の中に含まれる一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位は、単一種であってもよいし、2種以上であってもよい。一般式(1)で表される構造を有さない繰り返し単位としては、通常の共重合に用いられるモノマーから誘導されるものを挙げることができる。例えば、エチレン、スチレンなどのエチレン性不飽和結合を有するモノマーから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。
【0077】
[一般式(1)で表される化合物の合成方法]
一般式(1)で表される化合物は、既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。例えば、Aがすでに導入されている芳香族化合物に対して、Dをさらに導入することにより合成することができる。Dの導入は、例えば芳香族求核置換反応によって行うことが可能である。そのような反応を一般化したスキームを以下に一例として挙げる。
【化37】
【0078】
一般式(18)~(20)におけるA、L、m、nの定義は、一般式(1)における定義と同じである。一般式(18)および(19)におけるXはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子がより好ましく、フッ素原子がさらにより好ましい。一般式(19)、(20)およびH-DにおけるDと、一般式(20)およびH-DにおけるDは、それぞれ独立にハメットのσp値が負の基(ただしフェニル基は除く)である。ただし、DとDの構造は互いに異なる。pは1以上であって、n未満の整数である。分子内に複数のAが存在するとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。分子内に複数のXが存在するとき、複数のXは互いに同一であっても異なっていてもよい。
上記の(スキーム1)においては、Aがすでに導入されているハロゲン置換芳香族化合物を出発物質として用いる。この出発物質に対して、H-Dを反応させることにより、芳香環に結合しているハロゲン原子の少なくとも1つをDで置換する。これによって、一般式(19)で表される化合物を得ることができる。このときの反応条件を制御したり、精製条件を変えたり、Dを導入したい位置のXとDを導入したい位置のXのハロゲン種を異なるものとしたりすることにより、得られる一般式(19)のpの値や芳香環におけるDの導入位置を制御することができる。次に、得られた一般式(19)の化合物に対して、H-Dを反応させることにより、芳香環に結合している残りのハロゲン原子をDで置換する。これによって、一般式(20)で表される化合物を得ることができる。一般式(20)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物である。
【0079】
(スキーム1)は、H-Dを反応させた後にH-Dを反応させるという2段階反応によって一般式(1)で表される化合物を合成するものであるが、H-Dを反応させた後にH-Dを反応させ、さらにH-Dを反応させる3段階反応で一般式(1)で表される化合物を合成することも可能である。ここでDは、DやDとは異なる構造を有する、ハメットのσp値が負の基である。この3段階反応によれば、D、D、Dの3種のDを有する一般式(1)の化合物を得ることができる。また、この考え方をさらに応用して多段階反応を行うことにより、D、D、D・・・Dのw種のDを有する一般式(1)の化合物を得ることもできる。
【0080】
(スキーム1)は、H-Dを反応させた後にH-Dを反応させるという逐次反応を行うものであるが、以下の(スキーム2)に示すように、出発物質である一般式(18)とともに、H-DとH-Dを反応混合物中に存在させて、一気に一般式(20)で表される化合物を得ることも可能である。このとき、反応条件、H-DとH-Dの存在比率、ハロゲン原子種、精製条件などを制御することにより、所望のpを有する化合物を得ることができる。スキーム2を応用すれば、H-D、H-D・・・H-Dを反応混合物中に存在させておくことにより、D、D、D・・・Dのw種のDを有する一般式(1)の化合物を得ることも可能である。
【化38】
【0081】
(スキーム1)や(スキーム2)における目的化合物は、下記のような芳香族求核置換反応を応用することによって合成することができる。また、S. Tanimoto, et al., Chem. Lett., 45, 770 (2016)に記載される方法にしたがって合成することも可能である。具体的な反応条件や合成手順については、後述の合成例の記載を参照することができる。
【化39】
【0082】
(合成中間体)
上記一般式(19)で表される化合物は、一般式(20)で表される化合物[一般式(1)で表される化合物]の合成中間体として有用である。
一般式(19)におけるA、L、m、nの説明と好ましい範囲については、一般式(1)におけるA、L、m、nの説明と好ましい範囲を参照することができる。一般式(19)におけるpは、1以上であってn未満である整数であるが、1~3の範囲内であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。一般式(19)におけるDについては、一般式(1)におけるDの説明と好ましい範囲を参照することができるが、好ましくはヘテロ原子を含む基であり、より好ましくはヘテロ原子に芳香環が結合した基である。ヘテロ原子としては窒素原子を採用することが好ましい。好ましい具体例として、ジアリールアミン構造、カルバゾリル構造を含む基を挙げることができる。Aとしては、シアノ基を好ましく採用することができる。また、pが2以上であって、Lが6員芳香環連結基であるとき、少なくとも2つのXは互いに6員芳香環のパラ位に位置するように結合していることが好ましい。
【0083】
一般式(19)の具体的化合物例として、一般式(1)の具体的化合物例の表における一般式(2b)で表される基をハロゲン原子に置換した化合物を挙げることができる。すなわち、一般式(1)の具体的化合物例として挙げた化合物番号1~912の一般式(2b)で表される基をフッ素原子に置換した各化合物を化合物番号1001~1912として本明細書に具体的に開示する。また、般式(1)の具体的化合物例として挙げた化合物番号1~912の一般式(2b)で表される基を塩素原子に置換した各化合物を化合物番号2001~2912として本明細書に具体的に開示する。また、一般式(1)の具体的化合物例として挙げた化合物番号1~912の一般式(2b)で表される基を臭素原子に置換した各化合物を化合物番号3001~3912として本明細書に具体的に開示する。さらに、一般式(1)の具体的化合物例として挙げた化合物番号1~912の一般式(2b)で表される基をヨウ素原子に置換した各化合物を化合物番号4001~4912として本明細書に具体的に開示する。なお、化合物番号1001~4912のうち、対応する化合物番号1~912に一般式(2b)が存在しないものは欠番とする。
【0084】
[有機発光素子]
本発明の一般式(1)で表される化合物は、発光素子用の材料として有用であり、特に、有機発光素子の発光材料として好適に用いることができる。このため、本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子の発光層に発光材料として効果的に用いることができる。一般式(1)で表される化合物の中には、遅延蛍光を放射する遅延蛍光材料(遅延蛍光体)が含まれている。すなわち本発明は、一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体の発明と、一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光体として使用する発明と、一般式(1)で表される化合物を用いて遅延蛍光を発光させる方法の発明も提供する。そのような化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、遅延蛍光を放射し、発光効率が高いという特徴を有する。その原理を、有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって説明すると以下のようになる。
【0085】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光であるリン光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般にリン光の量子収率が高くないことが多い。一方、遅延蛍光材料は、項間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項-三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態に逆項間交差され蛍光を放射する。有機エレクトロルミネッセンス素子においては、なかでも熱エネルギーの吸収による熱活性化型の遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子に遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ項間交差され蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光やりん光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このような熱活性化型の励起子移動機構を用いれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に励起三重項状態から励起一重項状態への項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0086】
特に、一般式(1)で表される化合物であって遅延蛍光を放射するものは、三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差の速度定数kRISCが非常に大きいため、励起過程での三重項励起子の蓄積が効果的に抑制されると推測される。これにより、一般式(1)で表される化合物を用いた発光素子では、三重項励起子の蓄積に起因する励起子消滅やデバイス劣化が抑えられ、より高い発光効率と優れた高い耐久性を得ることができる。また、励起子消滅が抑えられることにより、有機レーザーの実現にも大いに貢献することができる。
【0087】
本発明の一般式(1)で表される化合物を発光層の発光材料として用いることにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。このとき、本発明の一般式(1)で表される化合物は、いわゆるアシストドーパントとして、発光層に含まれる他の発光材料の発光をアシストする機能を有するものであってもよい。すなわち、発光層に含まれる本発明の一般式(1)で表される化合物は、発光層に含まれるホスト材料の最低励起一重項エネルギー準位と発光層に含まれる他の発光材料の最低励起一重項エネルギー準位の間の最低励起一重項エネルギー準位を有するものであってもよい。
有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図1に示す。図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0088】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0089】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0090】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0091】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層であり、発光材料を単独で発光層に使用しても良いが、好ましくは発光材料とホスト材料を含む。発光材料としては、一般式(1)で表される本発明の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子および有機フォトルミネッセンス素子が高い発光効率を発現するためには、発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、発光層中に発光材料に加えてホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも何れか一方が本発明の発光材料よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、本発明の発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、本発明の発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を十分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。本発明の有機発光素子または有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は発光層に含まれる本発明の発光材料から生じる。この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
ホスト材料を用いる場合、発光材料である本発明の化合物が発光層中に含有される量は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
発光層におけるホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
【0092】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0093】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0094】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0095】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0096】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0097】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0098】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0099】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる一般式(1)で表される化合物と、発光層以外の層に用いる一般式(1)で表される化合物は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0100】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0101】
まず、発光層のホスト材料としても用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0102】
【化40】
【0103】
【化41-1】
【化41-2】
【0104】
【化42】
【0105】
【化43】
【0106】
【化44】
【0107】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0108】
【化45】
【0109】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0110】
【化46】
【0111】
【化47-1】
【化47-2】
【0112】
【化48】
【0113】
【化49】
【0114】
【化50】
【0115】
【化51】
【0116】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0117】
【化52】
【0118】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0119】
【化53】
【0120】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0121】
【化54】
【0122】
【化55】
【0123】
【化56】
【0124】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0125】
【化57】
【0126】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0127】
【化58】
【0128】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、りん光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
一方、りん光については、本発明の化合物のような通常の有機化合物では、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0129】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光層に一般式(1)で表される化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【0130】
本発明には、下記の事項も含まれている。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
【化59】
[一般式(1)において、Lはm+n価の芳香族連結基であり、Aはハメットのσp値が正の基であり、Dはハメットのσp値が負の基であり、mは1以上の整数であり、nは2以上の整数である。mが2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよい。複数のDのうちの2つは、下記条件(a)または下記条件(b)を満たす。
条件(a)
2つのDがいずれもLに結合する原子を含む芳香環を有しており、前記2つのDの間で、その芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
条件(b)
つのDがいずれもLに結合する連結基と該連結基に結合している1つの芳香環を有しており、前記2つのDの間で、前記連結基および前記連結基に結合している芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。2つのDがいずれもLに結合する連結基と該連結基に結合している2つ以上の芳香環を有しており、前記2つのDの間で、前記連結基、前記連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、前記2つのDの間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。]
[2] 前記複数のDのうちの2つが、ジアリールアミン構造(ただし、ジアリールアミン構造を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を含む、[1]に記載の化合物。
[3] 前記ジアリールアミン構造がカルバゾール構造である、[2]に記載の化合物。
[4] 前記複数のDのうちの2つが、ジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基は互いに結合していてもよい)を含む、[1]に記載の化合物。
[5] 前記ジアリールアミノ基がLに単結合で結合している、[4]に記載の化合物。
[6] 前記複数のDのうちの2つが前記条件(a)を満たす、[1]~[5]のいずれか1項に記載の化合物。
[7] 前記複数のDのうちの2つが下記一般式(2)で表される基である、[1]に記載の化合物。
【化60】
[一般式(2)において、R11~R19は各々独立に水素原子、置換基、またはLとの結合位置を表し、R11~R19のうちの1つはLとの結合位置である。]
[8] 前記一般式(2)のR19がLとの結合位置である、[7]に記載の化合物。
[9] 前記複数のDのうちの2つの一方は、前記一般式(2)のR11~R18の少なくとも1つが置換基であり、前記複数のDのうちの2つの他方は、前記一般式(2)のR11~R18のうち、前記複数のDのうちの2つの一方で置換基であるものに対応するものが水素原子である、[7]または[8]に記載の化合物。
[10] 前記複数のDのうちの2つの一方は、前記一般式(2)のR13およびR16の少なくとも一方が置換基である、[7]~[9]のいずれか1項に記載の化合物。
[11] 前記置換基が、置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基である、[9]または[10]に記載の化合物。
[12] 前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(10)で表される化合物である、[1]に記載の化合物。
【化61】
[一般式(10)において、Aはハメットのσp値が正の基を表す。R~Rは各々独立に水素原子、ハメットのσp値が正の基またはハメットのσp値が負の基を表し、R~Rの少なくとも2つはハメットのσp値が負の基である。R~Rのうちの1つ以上がハメットのσp値が正の基であるとき、Aが表すハメットのσp値が正の基およびR~Rのうちのハメットのσp値が正の基は互いに同一であっても異なっていてもよい。R~Rのうちのハメットのσp値が負の基の2つは、下記条件(a)または条件(b)を満たす。
条件(a)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する原子を含む芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、その芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。
条件(b)
2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する連結基と該連結基に結合している1つの芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、前記連結基および前記連結基に結合している芳香環は共通しているが、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。2つのハメットのσp値が負の基が、いずれも一般式(10)のベンゼン環に結合する連結基と該連結基に結合している2つ以上の芳香環を有しており、前記2つのハメットのσp値が負の基の間で、前記連結基、前記連結基に結合している芳香環の数、および、複数の芳香環はそれぞれ共通しているが、前記2つのハメットのσp値が負の基の間の、互いに共通する芳香環の組み合わせの少なくとも1つにおいて、その芳香環に置換している置換基の数、芳香環の置換基で置換されている位置、および、芳香環に置換している置換基の構造の少なくとも1つの条件が互いに異なる。]
[13] 前記一般式(10)のR~Rがハメットのσp値が負の基である、[12]に記載の化合物。
[14] 前記一般式(10)のRとRの組み合わせ、および、RとRの組み合わせの少なくとも一方が前記条件(a)または(b)を満たす、[13]に記載の化合物。
[15] [1]~[14]のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
[16] [1]~[14]のいずれか1項に記載の化合物を含むことを特徴とする発光素子。
【実施例
【0131】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR-3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
実施例で用いた化合物の励起一重項状態からの放射速度定数k、励起三重項状態からの無放射速度定数knr 、励起一重項状態から励起三重項状態への項間交差の速度定数kISC、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差の速度定数kRISCは、プロンプト成分(通常の蛍光成分)および遅延成分の寿命、アルゴンバブリング前後の発光量子収率から求めた。
実施例で用いた化合物の最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差ΔESTは、最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)を以下の方法で算出し、ΔEST=ES1-ET1により求めた。
(1)最低励起一重項エネルギー準位(ES1
測定対象化合物のトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製して試料とした。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定した。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とした。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求めた。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とした。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定は、励起光源にLED光源(Thorlabs社製、M340L4)を用いて検出器(浜松ホトニクス社製、PMA-50)により行った。
(2)最低励起三重項エネルギー準位(ET1
最低励起一重項エネルギー準位(ES1)の測定で用いたのと同じ試料を、液体窒素によって77[K]に冷却し、励起光(340nm)を燐光測定用試料に照射し、検出器を用いて燐光を測定した。励起光照射後から100ミリ秒以降の発光を燐光スペクトルとした。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求めた。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とした。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引いた。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
【0132】
化合物の合成
(合成例1) 化合物1の合成
【化62】
【0133】
化合物zをAdv. Opt. Mater. 4, 688-693 (2016)に記載されている方法と同等の方法で合成した。
次に、窒素気流下で水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.08g、1.98mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20mL)に3,6-ジメチルカルバゾール(0.39g、1.98mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。この混合物を0℃に冷却して化合物z(0.5g、0.79mmol)を加え、50℃で12時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ろ過することによって粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=3:2)で精製し、黄色固体の化合物1(0.79g、0.75mmol、収率95%)を得た。
1H NMR: (500 MHz, acetone-d6): δ (ppm) = 7.83 (d, J = 8.2 Hz, 4H), 7.71 (d, J = 7.1 Hz, 4H), 7.64 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.34 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.09 (m, 12H), 6.72 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 6.62 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.45 (d, J = 8.3 Hz, 4H), 2.11 (s, 12H)
【0134】
(合成例2) 化合物2の合成
【化63】
【0135】
窒素気流下で水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.14g、3.58mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20mL)に3,6-ジ-tert-ブチルカルバゾール(1g、3.58mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を0℃に冷却して化合物z(1.04g、1.63mmol)を加え、50℃で12時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ろ過することによって粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=1:1)で精製し、黄色固体の化合物2(1.8g、1.56mmol、収率96%)を得た。
【0136】
(合成例3) 化合物3の合成
【化64】
【0137】
窒素気流下で水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.13g、3.15mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20mL)に3,6-ジフェニルカルバゾール(1g、3.15mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を0℃に冷却して化合物z(0.8g、1.26mmol)を加え、50℃で12時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ろ過することによって粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=3:2)で精製し、黄色固体の化合物3(1.36g、1.10mmol、収率87%)を得た。
1H NMR: (500 MHz, acetone-d6): δ (ppm) = 7.82 (m, 14H), 7.72 (d, J = 8.7 Hz, 4H), 7.45 (m, 8H), 7.35 (m, 10H), 7.26 (t, J = 8.6 Hz, 4H), 7.16 (t, J = 8.3 Hz, 4H), 7.10 (t, J = 7.9 Hz, 4H), 6.98 (d, J = 8.6 Hz, 4H), 6.75 (m, 4H)
【0138】
(合成例4) 化合物4の合成
【化65】
【0139】
化合物yをAdv. Opt. Mater. 4, 688-693 (2016) に記載されている方法と同等の方法で合成した。
次いで、窒素気流下で水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.08g、1.92mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20mL)に3,6-ジメチルカルバゾール(0.37g、1.92mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を0℃に冷却し、化合物y(1.0g、1.28mmol)を加え、50℃で12時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ろ過することによって粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=3:2)で精製し、黄色固体の化合物4(1.08g、1.13mmol、収率88%)を得た。
【0140】
(合成例5) 化合物5の合成
【化66】
【0141】
窒素気流下で水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.08g、1.92mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20mL)に3,6-ジーtert-ブチルカルバゾール(0.54g、1.92mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を0℃に冷却して化合物y(1.0g、1.28mmol)を加え、50℃で12時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ろ過することによって粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=3:2)で精製し、黄色固体の化合物5(1.16g、1.11mmol、収率87%)を得た。
【0142】
(合成例6) 化合物6の合成
【化67】
【0143】
窒素気流下で水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.08g、1.92mmol)のテトラヒドロフラン溶液(20mL)に3,6-ジフェニルカルバゾール(0.61g、1.92mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を0℃に冷却して化合物y(1.0g、1.28mmol)を加え、50℃で12時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ろ過することによって粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=3:2)で精製し、黄色固体の化合物6(1.18g、1.09mmol、収率85%)を得た。
1H NMR: (500 MHz, acetone-d6): δ (ppm) = 7.82 (m, 8H), 7.75 (m, 4H), 7.67 (t, J = 7.8 Hz, 4H), 7.45 (m, 4H), 7.35 (m, 8H), 7.25 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 7.11 (m, 8H), 6.95 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 6.74 (m, 4H), 6.66 (t, J = 7.8 Hz, 4H)
【0144】
(合成例7) 化合物7の合成
【化68】
【0145】
窒素気流下で水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.08g、1.98mmol)のテトラヒドロフラン溶液(15mL)に3,9’-ビカルバゾール(0.66g、1.98mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を0℃に冷却して化合物z(0.5g、0.79mmol)を加え、50℃で12時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ろ過することによって粗生成物を得た。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=1:1)で精製し、黄色固体の化合物7(0.54g、0.43mmol、収率54%)を得た。
【0146】
(合成例8) 化合物35の合成
【化69】
【0147】
窒素気流下、トリブチル錫クロリド(5.06g、4.45mL、13.78mmol)および、4-ブロモ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゾニトリル(2.92g、11.50mmol)のトルエン溶液(50mL)に、トリ(о-トリル)ホスフィン(0.525g、1.72mmol)およびトリス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(1.57g、1.72mmol)を加え、100℃に昇温し、21時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、セライトろ過した。次に、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=1:2)で精製し、白色固体の化合物a(2.42g、9.63mmol、収率83.7%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):7.56-7.51(m,3H),7.48-7.45(m,2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値251.0、観測値251.1
【0148】
窒素気流下、水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.125g、3.14mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10mL)に9H-カルバゾール(0.397g、2.38mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を-50℃に冷却し、化合物a(0.3g、1.19mmol)を加え、冷却バスを取り外し、徐々に室温に戻しながら22時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:2)で精製し、黄色固体の化合物b(0.486g、0.89mmol、収率74.8%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.16(d,J=7.5Hz,4H)、7.62-7.59(m,2H)、7.54-7.49(m,7H)、7.38(dt,J=7.5Hz,1.0Hz,4H),7.30(d,J=7.5Hz,4H)、
ASAPマススペクトル分析:理論値545.2、観測値545.2
【0149】
【化70】
【0150】
100mLの三口フラスコに3-フェニル-9H-カルバゾール0.575g(2.36mmol)、炭酸カリウム0.702g(3.94mmol)、化合物b 0.5g(0.788mmol)を入れ、当該フラスコ内を窒素置換した。この混合物へ脱水1-メチル-2-ピロリドン10mLを加えた後、窒素雰囲気下、100℃で12時間加熱撹拌した。撹拌後、この混合物を室温に戻した後、水を加えて吸引ろ過した。得られた固体をトルエンへ溶解させシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。得られたフラクションを濃縮し、クロロホルムとアセトニトリルの混合溶媒で再結晶したところ淡黄色固体の化合物35(収量:0.60g、収率:77%)を得た。
H NMR(500MHz,CDCl,δ):7.77(d,J=1.2,2H),7.55-7.69(m,4H),7.60(d,J=7.5Hz,2H),7.51(dd,J=8.5Hz,4H),7.42(td,J=8.0,J=2.0,4H),7.32-6.94(m,24H),6.75(d,J=7.5,2H),6.55(td,J=7.51,J=1.2,1H),6.46(t,J=7.5,2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値991.37、観測値992.39
【0151】
(合成例9) 化合物38の合成
【化71】
【0152】
窒素気流下、3,6-ジフェニルカルバゾール(0.66g、2.06mmol)と炭酸カリウム(0.43g、3.11mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(10mL)に合成例8で得た化合物b(0.45g、0.825mmol)を加え、100℃、48時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:1)で精製し、黄色固体の化合物38(0.575g、0.502mmol、収率60.9%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):7.81(d,J=1.5Hz,4H)、7.72-7.70(m,4H)、7.54-7.52(m,8H)、7.43(t,J=7.5Hz,8H)、7.32(t,J=7.5Hz、4H)、7.29-7.06(m,20H)、6.86-6.83(m,2H)、6.61-6.58(m,1H)、6.56-6.52(m,2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1143.4、観測値1143.4
【0153】
(合成例10) 化合物48の合成
【化72】
【0154】
窒素気流下、水素化ナトリウム(60% 鉱油分散物、0.315g、7.88mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10mL)に3,6-ジフェニルカルバゾール(0.95g、2.97mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を-50℃に冷却し、合成例8で得た化合物a(0.3g、1.19mmol)を加え、冷却バスを取り外し、徐々に室温に戻しながら17時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:2)で精製し、黄色固体の化合物c(0.308g、0.362mmol、収率30.4%)および黄色固体の化合物d(0.70g、0.609mmol、収率51.2%)を得た。
化合物c:
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.42(d,J=1.0Hz,4H)、7.80(dd,J=7.0Hz,2.0Hz,4H)、7.74(dd,J=8.0Hz,1.0Hz,8H)、7.68-7.65(m,2H)、7.58-7.48(m,11H)、7.42(d,J=8.0Hz、4H)、7.40-7.36(m,4H)
ASAPマススペクトル分析:理論値849.3、観測値849.3
化合物d:
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.47(d,J=1.5Hz,2H)、7.89(dd,J=8.5Hz,2.0Hz,2H)、7.83(d,J=1.5Hz,2H)、7.80-7.78(m,4H)、7.74(d,J=1.5Hz、2H)、
7.66(d,J=8.0Hz、2H)、7.54-7.52(m,4H)、7.48-7.44(m,8H)、7.42-7.27(m,18H)、7.19-7.16(m,7H)、7.01(d,J=8.0Hz、2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1148.4、観測値1148.4
【0155】
【化73】
【0156】
窒素気流下、9H-カルバゾール(0.175g、1.05mmol)と炭酸カリウム(0.184g、1.33mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(10mL)に化合物c(0.30g、0.35mmol)を加え、100℃、20時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:2)で精製し、黄色固体の化合物48(0.317g、0.277mmol、収率79.1%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):7.96(d,J=1.5Hz,4H)、7.59-7.55(m,12H)、7.45(t,J=7.5Hz,8H)、7.35-7.31(m,12H)、7.07-7.01(m,4H)、7.00-6.94(m,8H)、6.76-6.74(m,2H)、6.58-6.54(m、1H)、6.45(t,J=8.0Hz、2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1143.4、観測値1143.3
【0157】
(合成例11) 化合物55の合成
【化74】
【0158】
窒素気流下、水素化ナトリウム(60% 鉱油分散物、0.90g、22.51mmol)のテトラヒドロフラン溶液(120mL)に9H-カルバゾール(4.78g、28.59mmol)を加え、1時間攪拌した。この混合物を-50℃に冷却し、2,3,5,6-テトラフルオロベンゾニトリル(2.50g、14.28mmol)を加え、冷却バスを取り外し、徐々に室温に戻しながら110時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=1:1)で精製し、淡黄色固体の化合物e(2.42g、5.15mmol、収率36.1%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.16(d,J=7.5Hz,4H)、7.68(t,JH-F=9.0Hz,1H)、7.51(dt,J=7.5Hz,1.0Hz,4H)、7.38(dt,J=7.5Hz,1.0Hz,4H),7.23(d,J=7.5Hz,4H)、
ASAPマススペクトル分析:理論値469.1、観測値469.1
【0159】
窒素気流下、3,6-ジフェニルカルバゾール(0.57g、1.81mmol)と炭酸カリウム(0.38g、2.75mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(9mL)に化合物e(0.34g、0.724mmol)を加え、100℃、24時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=1:1)で精製し、黄色固体の化合物55(0.515g、0.482mmol、収率66.6%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.54(s,1H)、8.04(s,4H)、7.81(d,J=7.5Hz,4H)、7.61-7.59(m,8H),7.47-7.39(m,20H),7.36-7.33(m,4H),7.25-7.22(m,4H),7.18-7.15(m,4H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1067.4、観測値1067.4
【0160】
(合成例12) 化合物108の合成
【化75】
【0161】
100mLの三口フラスコに3,6-ジメチル-9H-カルバゾール1.56g(9.00mmol)、水素化ナトリウム0.400g(60% 鉱油分散物、1.00mmol)を入れ、当該フラスコ内を窒素置換した。この混合物へ脱水テトラヒドロフラン80mLを加えた後、窒素雰囲気下で1時間撹拌したのちテトラフルオロテレフタロニトリル0.8g(4.00mmol)を加えた。この混合物を50℃で12時間加熱撹拌した後、室温に戻した後、水を加え吸引ろ過により固体を得た。得られた固体を昇華法により精製したところ赤色固体の化合物f(収量:0.8g、収率:36%)を得た。
100mLの三口フラスコに3,6-ジフェニル-9H-カルバゾール0.696g(2.18mmol)、炭酸カリウム0.647g(3.63mmol)、化合物f 0.4g(0.726mmol)を入れ、当該フラスコ内を窒素置換した。この混合物へ脱水1-メチル-2-ピロリドン10mLを加えた後、窒素雰囲気下、100℃で12時間加熱撹拌した。撹拌後、この混合物を室温に戻した後、水を加えて吸引ろ過した。得られた固体をクロロホルムとアセトニトリルの混合溶媒で再結晶したところ赤色固体の化合物108(収量:0.62g、収率:74%)を得た。
H NMR(500MHz,CDCl,δ):8.01(d,J=1.5Hz,4H),7.62(dd,J=8.0Hz,J=1.0Hz,8H),7.50-7.43(m,12H),7.41(dd,J=7.5,J=1.5,4H),7.37(t,J=7.5,4H),7.33(d,J=8.5Hz,4H),7.17(d,J=8Hz,4H),6.99(dd,J=8Hz,J=1.5Hz,4H),2.41(s,12H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1148.46、観測値1150.51
【0162】
(合成例13) 化合物149の合成
【化76】
【0163】
窒素気流下、9H-カルバゾール(0.142g、0.849mmol)と炭酸カリウム(0.18g、1.30mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(10mL)に化合物d(0.65g、0.566mmol)を加え、100℃、120時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチした。得られた沈殿物をメタノール洗浄し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=3:2)で精製し、橙色固体の化合物149(0.284g、0.219mmol、収率38.7%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):7.98(d,J=1.0Hz,2H)、7.85(d,J=1.0Hz,2H)、7.73(d,J=2.0Hz,2H)、7.60-7.58(m,6H)、7.49-7.44(m,12H)、7.39-7.24(m,20H)、7.19-7.16(m,4H)、7.12-7.09(m,2H)、7.05-6.97(m,6H)、6.93(d,J=8.0Hz、2H)、6.64(t,J=8.0Hz、1H)、6.58(t,J=8.0Hz、2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1295.5、観測値1295.2
【0164】
(合成例14) 化合物313の合成
【化77】
【0165】
窒素気流下、水素化ナトリウム(60% 鉱油分散物、0.265g、6.63mmol)のテトラヒドロフラン溶液(45mL)に9H-カルバゾール(1.42g、8.49mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を-50℃に冷却し、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-ピリジンカルボニトリル(0.749g、4.25mmol)を加え、冷却バスを取り外し、徐々に室温に戻しながら24時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物を酢酸エチル/メタノールにより再沈殿することで、橙色固体の化合物g(0.989g、2.10mmol、収率49.4%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.19(d,J=7.5Hz,2H)、8.15(d,J=7.5Hz,2H)、7.69-7.67(m,2H)、7.54(dt,J=7.5、1.0Hz、4H)、7.44(dt,J=7.5、1.5Hz、4H)、7.30(d,J=8.0Hz、2H)
13C-NMR(125MHz、CDCl3、δ):154.66、154.64、152.67、152.65、150.66、150.62、148.47、148.43、139.63、138.59、126.80、126.76、125.14、124.55、122.71、122.14、120.98、120.54、120.02、119.75、115.74、115.69、115.62、115.57、111.53、111.50、109.74、108.76、108.73
ASAPマススペクトル分析:理論値470.1、観測値470.1
【0166】
窒素気流下、3,6-ジフェニルカルバゾール(0.849g、2.66mmol)と炭酸カリウム(0.55g、3.99mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(13mL)に化合物g(0.50g、1.06mmol)を加え、100℃、48時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:ヘキサン=1:1)で精製し、橙色固体の化合物313(0.963g、0.901mmol、収率84.7%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.07(d,J=1.5Hz,2H)、8.00(d,J=1.5Hz,2H)、7.84(d,J=7.0Hz,2H)、7.76(d,J=7.0Hz,2H)、7.63(d,J=8.0Hz,4H)7.58(d,J=8.0Hz,4H),7.54-7.43(m,14H)、7.38-7.32(m,8H)、7.30―7.07(m、10H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1068.4、観測値1068.3
【0167】
(合成例15) 化合物11の合成
【化78】
【0168】
窒素気流下、水素化ナトリウム(60%鉱油分散物、0.15g、3.78mmol)のテトラヒドロフラン溶液(15mL)に3-メチル-9H-カルバゾール(0.51g、.83mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を50℃に冷却し、化合物z(0.6g、0.95mmol)を加え、50℃に加熱し12時間撹拌した、反応混合物に水を加えて沈殿させ、沈殿物をろ取した。ろ取した混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)で精製し、化合物B(0.65g、0.68mmol、収率71.9%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):7.76-7.72(m,4H)、7.30-7.12(m,10H)、7.10-7.02(m,10H)、6.98(t,J=8.5Hz,2H)、6.91(t,J=8.5Hz,2H)、6.76-6.71(m,4H)、6.61-6.53(m,4H)、6.41(t,J=8.5Hz,2H)、2.17-2.16(m,6H)
ASAPマススペクトル分析:理論値956.4、観測値957.3
【0169】
(合成例16) 化合物150の合成
【化79】
【0170】
窒素気流下、3-メチル-9H-カルバゾール(0.57g、3.20mmol)と炭酸カリウム(0.95g、5.33mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(10mL)に化合物e(0.50g、1.07mmol)を加え、120℃、36時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えて沈殿させ、沈殿物をろ取した。ろ取した混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)で精製し、化合物A(0.40g、0.51mmol、収率47.4%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.38(s,1H)、7.83-7.79(m,4H)、7.75-7.72(m,2H)、7.58(d,J=4.0Hz,2H)、7.43-7.33(m,4H)、7.30-7.11(m,12H)、7.10-7.03(m,4H)、7.00-6.93(m,2H)、2.41(s,3H)、2.39(s,3H)
ASAPマススペクトル分析:理論値791.3、観測値792.4
【0171】
(合成例17) 化合物151の合成
【化80】
【0172】
アルゴン気流下、4-ブロモ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゾニトリル(3g,11.9mmol)をトルエン(100ml)に溶解し、0.3Mの炭酸ナトリウム水溶液(67ml)を加えた。Pd(PPh(1.38g,1.19mmol)と5’-m-テトラフェニルボロン酸(3.92g,14.3mmol)を加え、一晩加熱還流した。室温に冷却後、有機層を分離し、水槽をジクロロメタンで抽出した。有機層をまとめ、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。乾燥剤をろ過、ろ液を減圧蒸留によって濃縮し、粗製物を得た。得られた粗製物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:クロロホルム=4:1)で生成し、白色粉末の化合物i(2.37g,5.88mmol,49.4%)を得た。
【0173】
アルゴン気流下、水素化ナトリウム(60%鉱油分散物、0.2g,4.96mmol)のテトラヒドロフラン溶液(50ml)に9H-カルバゾール(0.83g,4.96mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を-50℃に冷却し、化合物i(1.0g,2.48mmol)を加え、冷却バスを取り外し、徐々に室温に戻しながら2時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、ジクロロメタンにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=3:2)で精製し、白色固体の化合物j(0.96g,1.38mmol,55.6%)を得た。
【0174】
アルゴン気流下、水素化ナトリウム(60%鉱油分散物、0.17g,4.14mmol)のテトラヒドロフラン溶液(30ml)に3,6-ジフェニルカルバゾール(1.32g,4.14mmol)を加え、室温1時間攪拌した。化合物2(0.96g,1.38mmol)を加え、50℃で一晩加熱した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、個体を回収した。得られた個体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン)で精製し、黄色固体の化合物151(1.10g,0.85mmol,61.5%)を得た。
【0175】
(合成例18) 化合物152の合成
【化81】
【0176】
窒素気流下、水素化ナトリウム(60% 鉱油分散物、0.17g、7.17mmol)のテトラヒドロフラン溶液(15mL)に9H-カルバゾール(0.80g、4.78mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を-50℃に冷却し、化合物1(0.4g、1.59mmol)を加え、冷却バスを取り外し、徐々に室温に戻しながら24時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:トルエン=2:1)で精製し、黄色固体の化合物h(0.69g、1.00mmol、収率62.9%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):8.20(d,J=8.5Hz,2H)、7.72-7.68(m,2H)、7.61-7.56(m,4H)、7.51(d,J=8.5Hz,2H)、7.44(t,J=8.5Hz,2H)、7.16-7.11(m,4H)、7.10-6.94(m,13H)
ASAPマススペクトル分析:理論値692.2、観測値692.1
【0177】
窒素気流下、3,6-ジフェニルカルバゾール(0.35g、1.08mmol)と炭酸カリウム(0.20g、1.44mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(10mL)に化合物h(0.50g、0.72mmol)を加え、100℃、48時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、得られた沈殿物をメタノール洗浄した。これをクロロホルム/メタノールにより再沈殿することで、黄色固体の化合物3(0.56g、0.564mmol、収率77.6%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl3、δ):7.80(d,J=1.5Hz,2H)、7.73-7.68(m,4H)、7.59-7.57(m,2H)、7.52(dd,J=8.0Hz,J=1.5Hz,4H)、7.42(t,J=8.0Hz,4H)、7.33-7.22(m,6H)、7.19(dd,J=8.0Hz,J=1.5Hz,2H)、7.14-6.92(m,16H)、6.74(dd,J=8.0Hz,J=1.5Hz,2H)、6.55(t,J=8.0Hz,1H)、6.48(t,J=8.0Hz,2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値991.4、観測値991.8
【0178】
有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
(実施例1) 化合物1を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製
化合物1のトルエン溶液(濃度10-5mol/L)を調製した。
また、石英基板上に真空蒸着法にて、真空度5×10-4Pa以下の条件にて化合物1の薄膜を50nmの厚さで形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。
【0179】
(実施例2~6) 化合物2~6を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製
化合物1の代わりに化合物2~6を用いること以外は、実施例1と同様にして化合物2~6のトルエン溶液を調製し、また、化合物2~6の薄膜を形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。
【0180】
(比較例1~3) 比較化合物1~3を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製
化合物1の代わりに下記の比較化合物1~3を用いること以外は、実施例1と同様にして化合物2~6のトルエン溶液を調製し、また、比較化合物1~3の薄膜を形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。
【0181】
【化82】
【0182】
実施例1~3、4、6および比較例1で作製したトルエン溶液の吸収スペクトルを図2に示し、340nm励起光による蛍光スペクトルを図3に示し、340nm励起光による発光の過渡減衰曲線を図4に示し、340nm励起光による燐光スペクトルを図5に示す。各実施例で用いた化合物とその光学物性値を表9に示す。なお、表9において、測定を行っていないものについては「-」で表記した。
【0183】
【表9】
【0184】
表9に示すように、化合物1~6は、比較化合物1に比べて逆項間交差の速度定数kRISCが遥かに大きく、また、比較化合物1~3に比べて高いPL量子収率(フォトルミネッセンス量子収率)を有していた。
【0185】
(実施例7~13) 化合物11、35、38、55、150、151、152とホスト材料を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
表10に記載される発光材料とホスト材料を異なる蒸着源から真空度5×10-4Pa以下で共蒸着することにより石英基板上に50nm厚の薄膜を形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。各素子の蛍光スペクトルの最大発光波長、窒素雰囲気下におけるPL量子収率、遅延蛍光寿命、ΔESTを表10に示す。いずれも高いPL量子収率を有していた。
【0186】
【表10】
【0187】
(実施例14および15) 化合物108、313とホスト材料を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
発光材料として化合物108または化合物313を用い、ホスト材料としてmCBPを用いること以外は実施例7~13と同様にして、有機フォトルミネッセンス素子を作成して評価した。
化合物108を用いた素子の遅延蛍光寿命は8.9ms、ΔESTは0.15eVであり、化合物313を用いた素子の遅延蛍光寿命は4.0ms、ΔESTは0.11eVであった。
【0188】
有機エレクトロミネッセンス素子の作製と評価
(実施例16) 化合物3を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度2×10-5Paで積層した。
まず、ITO上にHATCNを60nmの厚さに蒸着して正孔注入層を形成し、その上に、TrisPCzを30nmの厚さに蒸着して正孔輸送層を形成した。続いて、mCBPを5nmの厚さに蒸着して電子阻止層を形成した。次に、化合物3とmCBPを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの発光層を形成した。この時、化合物3の濃度は20重量%とした。その上に、DTRZを10nmの厚さに蒸着して正孔阻止層を形成し、その上に、BpyTP2とLiq(重量比7:3)を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さに蒸着して電子輸送層を形成した。さらにLiqを2nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに形成することにより陰極を形成した。
以上の工程により、実施例16の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0189】
(実施例17) 化合物6を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
化合物3の代わりに化合物6を用いること以外は、実施例16と同様にして化合物8の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0190】
(比較例4) 比較化合物1を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
化合物3の代わりに比較化合物1を用いること以外は、実施例16と同様にして比較例4の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0191】
実施例16、17、比較例4で製造した有機エレクトロルミネッセンス素子の蛍光スペクトルを図6に示し、電流密度-電圧特性を図7に示し、電流密度-外部量子効率特性を図8に示し、輝度の時間変化を図9に示す。図7に示すように、実施例16と実施例17の有機エレクトロルミネッセンス素子は、それぞれ19.4%、17.3%の高い外部量子効率を達成した。これらの外部量子効率は、ハメットのσp値が負の基が全て同じ基である発光材料を用いた比較例4の有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率(16.0%)よりも、さらに高いものであった。また、図9に示すように、実施例16と実施例17の有機エレクトロルミネッセンス素子は、比較例4の有機エレクトロルミネッセンス素子よりも明らかに長寿命であった。
【0192】
(実施例18~25) 化合物11、13、38、55、150、151、152、313を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度2×10-5Paで積層した。
まず、ITO上にHATCNを60nmの厚さに蒸着して正孔注入層を形成し、その上に、TrisPCzを15nmの厚さに蒸着して正孔輸送層を形成した。続いて、mCBPを5nmの厚さに蒸着して電子阻止層を形成した。次に、表11に記載される発光材料とホスト材料を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの発光層を形成した。この時、発光材料の濃度は20重量%とした。その上に、SF3-TRZを10nmの厚さに蒸着して正孔阻止層を形成し、その上に、SF3-TRZとLiq(重量比7:3)を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さに蒸着して電子輸送層を形成した。さらにLiqを20nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに形成することにより陰極を形成した。以上の工程により、表11に示す8種の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
これらの各有機エレクトロルミネッセンス素子の蛍光スペクトルの最大発光波長と1000cd/mにおける外部量子効率を測定した結果を表11に示す。いずれも高い外部量子効率を有していた。
【0193】
【表11】
【0194】
(実施例26) 化合物108を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
発光材料として化合物108を用い、ホスト材料としてmCBPを用いること以外は実施例18~25と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作成した。最大発光波長は576nmであった。
【0195】
以下に実施例で用いた材料の構造式を示す。
【化83】
【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明の化合物はより高い発光効率を有し、発光材料として有用である。本発明の化合物を用いることにより、発光効率が極めて高い発光素子を提供することが可能である。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0197】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9