IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-サーモエレメント 図1
  • 特許-サーモエレメント 図2
  • 特許-サーモエレメント 図3
  • 特許-サーモエレメント 図4
  • 特許-サーモエレメント 図5
  • 特許-サーモエレメント 図6
  • 特許-サーモエレメント 図7
  • 特許-サーモエレメント 図8
  • 特許-サーモエレメント 図9
  • 特許-サーモエレメント 図10
  • 特許-サーモエレメント 図11
  • 特許-サーモエレメント 図12
  • 特許-サーモエレメント 図13
  • 特許-サーモエレメント 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】サーモエレメント
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/68 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
F16K31/68 Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024008312
(22)【出願日】2024-01-23
【審査請求日】2024-01-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391026287
【氏名又は名称】富士精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】浅井 雅成
(72)【発明者】
【氏名】小澤 築
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第7126475(JP,B2)
【文献】特許第6399585(JP,B2)
【文献】特開昭52-124226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/64-31/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモエレメントであって、
容器と、
前記容器に収容され、周囲温度変化により体積膨張、体積収縮する体積膨張体と、
前記容器の周囲温度変化により前記体積膨張体の体積変化で作動する第1のピストンと、
前記第1のピストンとは径が異なっており、前記容器の周囲温度変化により前記体積膨張体の体積変化で作動する第2のピストンと、
前記容器の一端に配置され第1の貫通穴を有する第1の封止部材と、
前記容器の他端に配置され前記第1の貫通穴とは径の異なる第2の貫通穴を有する第2の封止部材と、
を備え、
前記第1のピストンが前記第1の封止部材を摺動自在に貫通し、前記第2のピストンが前記第2の封止部材を摺動自在に貫通し、
前記容器内で前記第1のピストンと前記第2のピストンの先端が直接又は間接的に接触するように構成されたことを特徴とするサーモエレメント。
【請求項2】
前記第1のピストンと前記第2のピストンに、それぞれ第1の付勢部材による第1の付勢力と第2の付勢部材による第2の付勢力が没(戻る)方向に付勢されるように構成され、
前記第1の付勢力の大きさが、前記第2の付勢力より大きくなるように構成されたことを特徴とする請求項1記載のサーモエレメント。
【請求項3】
前記第1の付勢力と前記第2の付勢力の関係が、以下の関係式(1)を持つように構成されたことを特徴とする請求項2記載のサーモエレメント。
【数1】
【請求項4】
前記周囲温度が上昇しても前記第1のピストンを所定突没量にて止める係止構造を有することを特徴とする請求項3記載のサーモエレメント。
【請求項5】
前記第1のピストンには、前記第1のピストンが所定値以上に前記容器内に入り込まないようにストッパーが構成されたことを特徴とする請求項4記載のサーモエレメント。
【請求項6】
前記第1の封止部材と前記第2の封止部材が一体的に封止部材を構成し、前記封止部材の貫通穴内で前記第1のピストンと前記第2のピストンが直接又は間接的に接触するように構成されたことを特徴とする請求項5記載のサーモエレメント。
【請求項7】
前記第2のピストンは、前記第2のピストンが所定突没量まで潜り込まないようにストッパー機構が備えられているカバーを有することを特徴とする請求項5又は6に記載のサーモエレメント。
【請求項8】
前記第2のピストンには、前記第2のピストンが所定突没量まで潜り込まないようにストッパー機構が備えられていることを特徴とする請求項5又は6に記載のサーモエレメント。
【請求項9】
前記第1のピストン側に前記容器と一体的に可動する蓋を有し、前記ストッパーと前記蓋とを前記第1の付勢部材が係止されるように構成されたことを特徴とする請求項5又は6に記載のサーモエレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモエレメントに関し、詳しくは、サーモスタット装置等に用いるサーモエレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検出体の温度変化により膨張、収縮する熱膨張体を内蔵し、その熱膨張体の体積変化により作動するピストンを備えたサーモエレメントを用いて、自動車等の冷却装置の弁の開閉を行うサーモスタット装置(サーモアクチュエータともいう)が使用されている。
【0003】
北米のような極低温環境下において、通常の排熱回収器では自動車等のエンジン始動時に発生する排気ガスの熱が熱交換器によって奪われ、排気ガスに含まれる水分が外気によってマフラー内部を凍結してしまい、排気ガスが適切に排出されない。
【0004】
そのような対策としては、例えば、特許文献1のような電制サーモアクチュエータが使用されている。
【0005】
従来の電制サーモアクチュエータ構造は、サーモエレメント内部にヒーターを設置し、極低温環境下においてヒーター通電によりサーモエレメント内の熱膨張体であるワックスを強制的に溶かし、ワックスを体積膨張させることでピストンを押し上げ、動作させる機構となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第7126475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の機構では、ヒーター通電をさせた際のヒーター熱が熱伝導率の兼ね合いでハウジングカップ内のワックスに伝わらず金属カップ部へ逃げてしまい、思うような動作が得られなかった。
【0008】
そこで、本発明は、前記問題点を解決するために案出されたものであり、その目的とするところは、複雑な電気制御機構を使用することなく、機械的な機構で作動不良を削減し、体積膨張体の体積膨張の度合いに応じてピストンをハウジングカップ内に突没することにより、突没量の自由度を向上させたサーモエレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係るサーモエレメントは、サーモエレメントであって、容器と、前記容器に収容され、周囲温度変化により体積膨張、体積収縮する体積膨張体と、前記容器の周囲温度変化により前記体積膨張体の体積変化で作動する第1のピストンと、前記第1のピストンとは径が異なっており、前記容器の周囲温度変化により前記体積膨張体の体積変化で作動する第2のピストンと、前記容器の一端に配置され第1の貫通穴を有する第1の封止部材と、前記容器の他端に配置され前記第1の貫通穴とは径の異なる第2の貫通穴を有する第2の封止部材と、を備え、前記第1のピストンが前記第1の封止部材を摺動自在に貫通し、前記第2のピストンが前記第2の封止部材を摺動自在に貫通し、前記容器内で前記第1のピストンと前記第2のピストンの先端が直接又は間接的に接触するように構成されたことを特徴とする。
【0010】
第2発明に係るサーモエレメントは、第1発明において、前記第1のピストンと前記第2のピストンに、それぞれ第1の付勢部材による第1の付勢力と第2の付勢部材による第2の付勢力が没(戻る)方向に付勢されるように構成され、前記第1の付勢力の大きさが、前記第2の付勢力より大きくなるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
第3発明に係るサーモエレメントは、第2発明において、前記第1の付勢力と前記第2の付勢力の関係が、以下の関係式(1)を持つように構成されたことを特徴とする。
【数1】
【0012】
第4発明に係るサーモエレメントは、第3発明において、前記周囲温度が上昇しても前記第1のピストンを所定突没量にて止める係止構造を有することを特徴とする。
【0013】
第5発明に係るサーモエレメントは、第4発明において、前記第1のピストンには、前記第1のピストンが所定値以上に前記容器内に入り込まないようにストッパーが構成されたことを特徴とする。
【0014】
第6発明に係るサーモエレメントは、第5発明において、前記第1の封止部材と前記第2の封止部材が一体的に封止部材を構成し、前記封止部材の貫通穴内で前記第1のピストンと前記第2のピストンが直接又は間接的に接触するように構成されたことを特徴とする。
【0015】
第7発明に係るサーモエレメントは、第5発明又は第6発明において、前記第2のピストンは、前記第2のピストンが所定突没量まで潜り込まないようにストッパー機構が備えられているカバーを有することを特徴とする。
【0016】
第8発明に係るサーモエレメントは、第5発明又は第6発明において、前記第2のピストンには、前記第2のピストンが所定突没量まで潜り込まないようにストッパー機構が備えられていることを特徴とする。
【0017】
第9発明に係るサーモエレメントは、第5発明又は第6発明において、前記第1のピストン側に前記容器と一体的に可動する蓋を有し、前記ストッパーと前記蓋とを前記第1の付勢部材が係止されるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明~第9発明によれば、複雑な電気制御機構を使用することなく、機械的な機構で作動不良を削減し、体積膨張体の体積膨張の度合いに応じてピストンをカップ内に突没することにより、突没量の自由度を向上させたサーモエレメントを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施の形態に係るサーモエレメントの構成を示す断面図である。
図2図2(a)は、図1の周囲温度変化におけるサーモエレメントの作動イメージを説明するための図であり、図2(b)は、図2(a)の状態説明図である。
図3図3は、図2(a)のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図4図4は、図2(a)のサーモエレメントの温度とワックス体積との関係を示す特性図である。
図5図5(a)は、図2(a)のA-B℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図5(b)は、A-B℃間の温度域時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図6図6(a)は、図2(a)のB-C℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図6(b)は、B-C℃間の温度域時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図7図7(a)は、図2(a)のC℃時の作動イメージ詳細説明図であり、図7(b)は、C℃時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図8図8(a)は、図2(a)のC-D℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図8(b)は、C-D℃間の温度域時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図9図9(a)は、図2(a)のD℃時の作動イメージ詳細説明図であり、図9(b)は、D℃時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図10図10(a)は、図2(a)のD-E℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図10(b)は、D-E℃間の温度域時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図11図11(a)は、図2(a)のE℃以上の作動イメージ詳細説明図であり、図11(b)は、E℃以上動作時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
図12図12は、本発明を適用したサーモアクチュエータの使用イメージ図であり、(a)は冷却水が低温時、(b)は冷却水が中温時、(c)は冷却水が高温時である。
図13図13は、本発明の他の実施の形態に係るサーモエレメントの構成を示す断面図である。
図14図14は、従来のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係るサーモエレメントについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本実施形態のサーモエレメントは、容器(ハウジングカップ)と、前記容器に収容され、周囲温度変化により体積膨張、体積収縮する体積膨張体と、前記容器の周囲温度変化により前記体積膨張体の体積変化で作動する第1のピストンと、前記第1のピストンとは径が異なっており、前記容器の周囲温度変化により前記体積膨張体の体積変化で作動する第2のピストンと、前記容器の一端に配置され第1の貫通穴を有する第1の封止部材と、前記容器の他端に配置され前記第1の貫通穴とは径の異なる第2の貫通穴を有する第2の封止部材と、を備え、前記第1のピストンが前記第1の封止部材を摺動自在に貫通し、前記第2のピストンが前記第2の封止部材を摺動自在に貫通し、前記容器内で前記第1のピストンと前記第2のピストンの先端が直接又は間接的に接触するように構成されたことを特徴とする。これにより、複雑な電気制御機構を使用することなく、機械的な機構で作動不良を削減し、体積膨張体の体積膨張に伴って、ピストンが突没するサーモエレメントを実現できる。
【0022】
<サーモエレメントの構成>
図1を用いて、本発明の実施の形態に係るサーモエレメント100の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るサーモエレメント100の構成を示す断面図であり、パッキンタイプのサーモエレメントの構成を示している。
【0023】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るサーモエレメント100は、スプリング(低荷重)1と、スプリング(高荷重)2と、蓋3と、ピストン(大径)4と、カバー5と、シール(バックアップリング)6と、パッキン(大径)7と、体積膨張体8と、ハウジングカップ9と、ピストン(小径)10と、パッキン(小径)11と、シール(バックアップリング)12と、カバー13と、を有する。
【0024】
<サーモエレメントの構成の説明>
サーモエレメント100は、径の異なるピストン(大径)4と、ピストン(小径)10とを用い、高荷重のスプリング2と、低荷重のスプリング1と、上下貫通したハウジングカップ9とを用いて、周囲温度の変化によりピストン4と、ピストン10とを自律的に制御して、各種係止構造と組合わせて所望の突没量の変化の自由度を向上させるものである。
【0025】
スプリング1は、低荷重のスプリングであり、付勢力を発生させる。スプリング1は、ハウジングカップ9に係止されている。スプリング1は、第2の付勢部材を構成している。
【0026】
スプリング2は、高荷重のスプリングであり、ピストン4のフランジと蓋3とに係止されている。スプリング2は、第1の付勢部材を構成している。
【0027】
蓋3は、ピストン4のストッパーの機能を果たしている。
【0028】
ピストン4は、突没自在なステンレス製のピストンロッドなどであり、第1のピストンとしての大径のピストンを構成している。
【0029】
カバー5は、ハウジングカップ9の蓋の役目を果たす蓋である。
【0030】
シール6はバックアップリングである。
【0031】
パッキン7はピストン4のゴムシールパッキン(封止部材)である。パッキン7は第1の封止部材を構成している。
【0032】
体積膨張体8は、ハウジングカップ9に封入された周囲温度変化により体積膨張、体積収縮する。体積膨張体8は、周囲温度変化によりハウジングカップ9の体積を変化させてピストン(大径)4又は/及びピストン(小径)10を作動させる。体積膨張体8としては、例えばパラフィンワックスなどのワックスである。以下、本実施形態では、体積膨張体8としてワックスを使用した例について説明する。
【0033】
ハウジングカップ9は、体積膨張体(例えば、ワックス)8が封入された黄銅などの金属製の容器である。
【0034】
ピストン10は、突没自在なステンレス製のピストンロッドなどであり、ピストン4とは異なる径を有している第2のピストンとしての小径のピストンを構成している。
【0035】
パッキン11はピストン10のゴムシールパッキン(封止部材)である。パッキン11は第2の封止部材を構成している。
【0036】
シール12はバックアップリングである。
【0037】
カバー13は、ハウジングカップ9のピストン10側の蓋の役目を果たす蓋である。
【0038】
ピストン4とピストン10と先端が直接又は間接的に接触するように構成され、サーモエレメント100の周囲の温度上昇に伴いハウジングカップ9内のワックス8の膨張でピストン4とピストン10とが自律的に作動し、ピストン4がハウジングカップ9から突出する仕組みとなっている。勿論、ハウジングカップ9に封入されるワックスは、パラフィンワックスに限られず、マイクロワックスなど、比較的体積変化の大きい所定の熱膨張特性を有する物質であれば本発明に適用可能である。
【0039】
図2(a)は、図1の周囲温度変化におけるサーモエレメントの作動イメージを説明するための図であり、図2(b)は、図2(a)の状態説明図である。図3は、図2(a)のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。図4は、図2(a)のサーモエレメントの温度とワックス体積及び突没量の関係を示す特性図である。ここで、突没量とは、サーモエレメントが、サーモエレメントの先端の初期位置から突方向(突出する方向)又は没方向(戻る方向)に移動した突没長のことをいう。この突没量は、サーモエレメント100を実装する箇所によって決定されるものであり、決定された値の突没量のことを所定突没量という。また、ピストン4又はピストン10の作動範囲の値が決定されており、決定された値のことを所定値という。所定値以上には、ピストン4又はピストン10が作動できない構成としている。
【0040】
以下、図2(a)(b)、図3図4を用いて、本発明の実施形態に係るサーモエレメントの作動イメージ全体について説明する。
【0041】
図2(a)に示すように、周囲流体温度が低温域から高温域に変化すると、ワックスの状態が変化し、温度域がA-B℃間の温度域、B-C℃間の温度域、C℃時、C-D℃間の温度域と、D℃時と、D-E℃間の温度域と、E℃以上のときに、図2(b)に示すように、A-B℃間の温度域ではワックスが固体、体積は最小である。B-C℃間の温度域ではワックスが一部融解、体積は小である。C℃時ではワックスが一部融解、体積は中である。C-D℃間の温度域ではワックスが一部融解、体積は中である。D℃時ではワックスが一部融解、体積は中である。D-E℃間の温度域ではワックスが一部融解、体積は大である。E℃以上ではワックスが液体、体積は最大である。
【0042】
一般的なピストン1つのサーモエレメントでは、図4に示すように、温度上昇に伴ってワックス体積が膨張し、温度低下に伴ってワックス体積は縮小するので、単調増加(減少)的な突没量の変化を示す。図4では、縦軸はワックス体積(mm3)、横軸は温度(℃)である。
【0043】
一般的なピストン1つのサーモエレメントでは、例えば、突没長Q1が初期値で、単調増加(減少)した突没長がQ2、Q3、Q4、Q5とすると、突没長Q1,Q2、Q3、Q4,Q5は、図14に示すように、温度上昇に伴ってサーモエレメント先端が上昇方向に変位し、温度低下に伴って下降する単調増加(減少)的な突没量の変化を示す。図3では、縦軸は突没量(mm)、横軸は温度(℃)である。図3図4中の温度(域)の範囲は、A<B<C<D<Eの関係を満足すれば良く、サーモエレメントの用途などによって変化するので、特定の温度を示したものではなく、図3は概念図(イメージ図)を表している。後記図5(b)~図11(b)についても同様である。
【0044】
本発明のサーモエレメントでは、図3に示すように、大径のピストン4と、小径のピストン10の自律的な作動と、高荷重のスプリング2と低荷重のスプリング1の作用、各種係止構造の作用により、ワックスの状態変化に伴う体積変化によって突没長が所定量変化した後に、ワックス状態が液相となっても、若干の体積膨張が生じるため、図3のような突没量と温度特性の関係が得られる。
【0045】
図5(a)は、図2(a)のA-B℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図5(b)は、A-B℃間の温度域動作時のサーモエレメントの温度と突没量との関係を示す特性図である。
【0046】
図5(a)は低温域でサーモエレメントの先端が突没長P1にいる状態(スタート地点)を示し、ピストン4はスプリング(高荷重)2の戻し荷重によって、ピストン(大径)4がハウジングカップ9内に没する方向に押されている状態、ワックス8はワックス状態が固体のため、体積が最も小さい状態となっている。ピストン(大径)4がハウジングカップ9内に没する方向に押されている状態のため、ピストン(小径)10がハウジングカップ9内から突出する方向に押し出され、サーモエレメントの先端が突没長P1に位置している状態を表している。
【0047】
ここで、スプリング(高荷重)2はピストン(小径)10を押し出し、スプリング(低荷重)1をたわませられる荷重である必要がある。荷重が低いとピストン(大径)4がピストン(小径)10をハウジングカップ9内から突出する方向に押し出せず変位しないからである。
【0048】
図5(b)は、ワックス8が固体となっている状態であり、ワックス8が固体のため、体積が最も小さく、スプリング(高荷重)2の戻し荷重によりピストン(大径)4がハウジングカップ9内に没する方向に押し込まれている。ピストン(大径)4のハウジングカップ9内に没する方向に押し込まれる変位に伴い、ピストン(小径)10はハウジングカップ9内から突出する方向に押し出される。
【0049】
図6(a)は、図2(a)のB-C℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図6(b)は、B-C℃間の温度とサーモエレメントの先端突没量との関係を示す特性図である。
【0050】
図6(a)はB-C℃間の温度域において、サーモエレメントの先端が突没長P1から突没長P2へ変位している状態を示している。B-C℃間の温度域において、ワックス8が一部融解し、A-B℃間の温度域よりも体積膨張が進み、スプリング(低荷重)1とスプリング(高荷重)2の付勢力に抗して、ピストン(小径)10とピストン(大径)4をハウジングカップ9内から突出させようと、ハウジングカップ9内に内圧が発生する。前記内圧によって発生するピストン(大径)4をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力よりも大きくなるように、ピストン(大径)4の断面積と、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力が設定されており、前記内圧によって発生するピストン(小径)10をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力より小さくなるように、ピストン(小径)10の断面積と、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力が設定されているため、ピストン(大径)4とピストン(小径)10の先端が接触した状態でピストン(大径)4はハウジングカップ9から突出する方向に移動し、ピストン(小径)10はハウジングカップ9に没する方向に移動する。
【0051】
図6(b)に示すように、ワックス8の体積膨張量と、ピストン(大径)4とピストン(小径)10のハウジングカップ9から突没された合計体積が一致しなければならないため、B-C℃間の温度域内の温度に応じたワックス8の体積膨張量に応じて、ピストン(大径)4とピストン(小径)10がハウジングカップ9から突没されることによって、サーモエレメントの先端がB-C℃間の温度域内の温度に応じた、突没量P1から突没長P2の範囲に位置する。
【0052】
図7(a)は、図2(a)のC℃時の作動イメージ詳細説明図であり、図7(b)は、C℃時の温度とサーモエレメントの先端突没長との関係を示す特性図である。
【0053】
図7(a)はC℃時において、サーモエレメントの先端が突没長P2に位置している状態を示している。C℃時において、B-C℃間の温度域よりもワックス8が融解し体積膨張が進み、スプリング(低荷重)1とスプリング(高荷重)2の付勢力に抗して、ピストン(小径)10とピストン(大径)4をハウジングカップ9内から突出させようと、ハウジングカップ9内に内圧が発生する。前記内圧によって発生するピストン(大径)4をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力よりも大きくなるように、ピストン(大径)4の断面積と、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力が設定されており、前記内圧によって発生するピストン(小径)10をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力より小さくなるように、ピストン(小径)10の断面積と、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力が設定されているため、ピストン(大径)4とピストン(小径)10の先端が接触した状態で、ピストン(大径)4はハウジングカップ9から突出する方向に移動し、ピストン(小径)10はハウジングカップ9に没する方向に移動しようとするが、ピストン(小径)10に設けられたストッパーがカバー13に接触し、ピストン(小径)10がさらにハウジングカップ9に没する方向に移動できなくなっている。
【0054】
図7(b)に示すように、サーモエレメントの先端が突没長P2の範囲に位置する。
【0055】
図8(a)は、図2(a)のC-D℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図8(b)は、C-D℃間の温度域の温度とサーモエレメントの先端突没量との関係を示す特性図である。
【0056】
図8(a)はC-D℃間の温度域において、サーモエレメントの先端が突没長P2に位置する状態を示している。C-D℃間の温度域において、ワックス8が一部融解し、C℃温度時よりも体積膨張が進み、スプリング(低荷重)1とスプリング(高荷重)2の付勢力に抗して、ピストン(小径)10とピストン(大径)4をハウジングカップ9内から突出させようと、ハウジングカップ9内に内圧が発生する。前記内圧によって発生するピストン(大径)4をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力よりも大きくなるように、ピストン(大径)4の断面積と、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力が設定されており、前記内圧によって発生するピストン(小径)10をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力より小さくなるように、ピストン(小径)10の断面積と、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力が設定され、且つ、ピストン(小径)10に設けられたストッパーがカバー13に接触し、ピストン(小径)10がハウジングカップ9に没する方向に移動できなくなっているため、ピストン(大径)4のみがハウジングカップ9から突出する方向に移動する。
【0057】
図8(b)に示すように、ピストン(小径)10がハウジングカップ9に没する方向にも、突出する方向にも移動しないので、サーモエレメントの先端が、突没長P2の範囲に位置する。尚、突没長P2の突没量は、ピストン(小径)10に設けられたストッパーの厚みを調整することで調整可能である。
【0058】
図9(a)は、図2(a)のD℃時の作動イメージ詳細説明図であり、図9(b)は、D℃時の温度とサーモエレメント先端突没量との関係を示す特性図である。
【0059】
図9(a)はD℃時において、サーモエレメントの先端が突没長P2に位置している状態を示している。D℃時において、C-D℃間の温度域よりもワックス8が融解し体積膨張が進み、スプリング(低荷重)1とスプリング(高荷重)2の付勢力に抗して、ピストン(小径)10とピストン(大径)4をハウジングカップ9内から突出させようと、ハウジングカップ9内に内圧が発生する。前記内圧によって発生するピストン(大径)4をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力よりも大きくなるように、ピストン(大径)4の断面積と、スプリング(高荷重)2の発生する付勢力が設定されており、前記内圧によって発生するピストン(小径)10をハウジングカップ9から突出させる力が、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力より小さくなるように、ピストン(小径)10の断面積と、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力が設定されているため、且つ、ピストン(小径)10に設けられたストッパーがカバー13に接触し、ピストン(小径)10がハウジングカップ9に没する方向に移動できなくなっているため、C-D℃間の温度域において、ピストン(大径)4のみがハウジングカップ9から突出する方向に移動していたが、D℃時にはピストン(大径)4が蓋3と接触し、ピストン(大径)4がハウジングカップ9から突出する方向に移動できなくなる。
【0060】
図9(b)に示すように、サーモエレメントの先端が突没長P2に位置する。
【0061】
図10(a)は、図2(a)のD-E℃間の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図10(b)は、D-E℃間の温度域の温度とサーモエレメント先端突没長との関係を示す特性図である。
【0062】
図10(a)はD-E℃間の温度域において、サーモエレメントの先端が突没長P2から突没長P3へ変位している状態を示している。D-E℃間の温度域において、ワックス8が一部融解し、D℃時よりも体積膨張が進み、スプリング(低荷重)1とスプリング(高荷重)2の付勢力に抗して、ピストン(小径)10とピストン(大径)4をハウジングカップ9内から突出させようと、ハウジングカップ9内に内圧が発生する。前記内圧によって発生するピストン(大径)4をハウジングカップ9から突出させる力が印加されているが、ピストン(大径)4が蓋3と接触し、ピストン(大径)4がハウジングカップ9から突出する方向に移動できなくなっており、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力に抗して、ワックス8のD℃時と比較した体積膨張分だけピストン(小径)10は、ハウジングカップ9から突出する方向に移動する。
【0063】
図10(b)に示すように、ワックス8の体積膨張量と、ピストン(大径)4とピストン(小径)10のハウジングカップ9から突没された合計体積が一致しなければならないため、D-E℃間の温度域内の温度に応じたワックス8の体積膨張量に応じて、ピストン(大径)4は蓋3と接触するまでハウジングカップ9から突出した状態で、ピストン(小径)10がハウジングカップ9から突出する方向に移動することによって、サーモエレメントの先端がD-E℃間の温度域内の温度に応じた、突没長P2から突没長P3の範囲に位置する。
【0064】
図11(a)は、図2(a)のE℃以上の温度域の作動イメージ詳細説明図であり、図11(b)は、E℃以上の温度域の温度とサーモエレメント先端突没長との関係を示す特性図である。
【0065】
図11(a)はE℃以上の温度域において、ワックス8がすべて融解し、D-E℃間の温度域よりも体積膨張が進み、スプリング(低荷重)1とスプリング(高荷重)2の付勢力に抗して、ピストン(小径)10とピストン(大径)4をハウジングカップ9内から突出させようと、ハウジングカップ9内に内圧が発生する。前記内圧によって発生するピストン(大径)4をハウジングカップ9から突出させる力が印加されているが、ピストン(大径)4が蓋3と接触し、ピストン(大径)4がハウジングカップ9から突出する方向に移動できなくなっており、スプリング(低荷重)1の発生する付勢力に抗して、ワックス8のD℃時と比較した体積膨張分だけピストン(小径)10は、ハウジングカップ9から突出する方向に移動する。
【0066】
図11(b)に示すように、ワックス8が体積膨張量と、ピストン(大径)4とピストン(小径)10のハウジングカップ9から突没された合計体積が一致しなければならないため、D-E℃間の温度域内の温度に応じたワックス8の体積膨張量に応じて、ピストン(大径)4は蓋3と接触するまでハウジングカップ9から突出した状態で、ピストン(小径)10がハウジングカップ9から突出する方向に移動することによって、サーモエレメントの先端がE℃以上の温度域の温度に応じた、突没長P3以上の突没長に位置する。なお、ワックス8のE℃以上の温度域の液相体積膨張率は、D-E℃間の温度域の融解体積膨張率と比較して小さいため、E℃以上の温度域のサーモエレメントの先端の温度に対する変位勾配は、D-E℃間の温度域と比較して小さくなる。
【0067】
図12は、本発明を適用したサーモアクチュエータの使用イメージ図であり、(a)は冷却水が低温時、(b)は冷却水が中温時、(c)は冷却水が高温時である。図12(a)(b)(c)中、太線矢印は排気ガスの流れを示し、破線矢印は冷却水の流れを示している。
【0068】
図12(a)(b)(c)に示すように、本発明のサーモエレメント120を用いれば、冷却水の温度が高くなるにつれて、排気ガスが熱交換器121へ流れる流路のバルブ122を開→閉→開とすることができる。本発明のサーモエレメント120の構成は、上述した図1又は図13のような構成であるので、ここでは説明を省略する。
【0069】
図13は、本発明の他の実施形態に係るサーモエレメントの構成を示す断面図である。図13に示すサーモエレメント200は、スリーブタイプのサーモエレメント構成を示し、スリーブ14の構成とシール6’、12’以外の構成は、図1のサーモエレメントと同様であるので、説明を省略し、相違する構成について説明する。
【0070】
第1の封止部材と第2の封止部材が一体的に封止部材を構成し、封止部材の貫通穴内で第1のピストンと第2のピストンが直接又は間接的に接触するように構成されたことを特徴とする。スリーブタイプの構成によれば、ピストンがスリーブで保護されているので、スリーブがないパッキンタイプに比較して、信頼性を向上させることができる。
【0071】
このように、本実施形態及び他の実施形態のサーモエレメントにおいて、ヒーター熱を利用しないため、熱を奪われ動作しない事象が無く、低温下環境にて動作させることが可能となる。水や水溶液の場合、融点が任意に選択できず、膨張率が小さいという問題点があるが、パラフィンワックスが使用できるため任意の温度で動作可能かつ膨張率も大きいため、2種類の熱膨張体を使用する特許第6399585号公報のサーモエレメントに対して優位である。複雑な電制機構に代わり、既存構成のペレット内部にワックスを封入するのみのため、部品点数が減り、製造コストが安価となる。電制機構を必要としないため、従来の電制サーモアクチュエータに比べ、小型化され、部品コストが低下する。電制機構部の組立が不要となるため、生産性が向上する。通常のサーモスタットの動作に加え、再動作が可能となるため、極低温下でバルブ開弁、常温で閉弁、高温で開弁(もしくは低温下でバルブ閉弁、常温で開弁、高温で閉弁)といった動作で他分野での対応ができる。自律的に動くため、車両側に配線や駆動制御装置が不要となる。
【0072】
以上、本発明の実施形態に係るサーモエレメントについて詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。特に、各部材の素材等は、あくまでも例示であり、同等の強度を有する他の材料に適宜変更できることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0073】
100、200:サーモエレメント
1:スプリング(第2の付勢部材)
2:スプリング(第1の付勢部材)
3:蓋
4:ピストン(第1のピストン)
5:カバー(大径)
6:シール(バックアップリング)
6’:シール(バックアップリング)
7:パッキン(封止部材)
8:体積膨張体
9:ハウジングカップ
10:ピストン(第2のピストン)
11:パッキン(封止部材)
12:シール(バックアップリング)
12’:シール(バックアップリング)
13:カバー(小径)
14:スリーブ(封止部材)
120:サーモエレメント
121:熱交換器
122:バルブ
【要約】      (修正有)
【課題】複雑な電気制御機構を使用することなく、機械的な機構で作動不良を削減し、体積膨張体の体積膨張に伴って、ピストンが突没するサーモエレメントを提供する。
【解決手段】サーモエレメント100は、容器9に収容され、周囲温度変化により体積膨張、体積収縮する体積膨張体8と、容器の周囲温度変化により体積膨張体の体積変化で作動する第1のピストン4と、第1のピストンとは径が異なっており、容器の周囲温度変化により体積膨張体の体積変化で作動する第2のピストン10と、容器の一端に配置され第1の貫通穴を有する第1の封止部材7と、容器の他端に配置され前記第1の貫通穴とは径の異なる第2の貫通穴を有する第2の封止部材11と、を備え、第1のピストンが第1の封止部材を摺動自在に貫通し、第2のピストンが第2の封止部材を摺動自在に貫通し、容器内で第1のピストンと第2のピストンの先端が直接又は間接的に接触する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14