(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】記録素子基板、記録ヘッド及び記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240510BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240510BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/015 101
(21)【出願番号】P 2020011041
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】三浦 洋介
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-094692(JP,A)
【文献】特開2014-162155(JP,A)
【文献】特開2005-246624(JP,A)
【文献】特開2016-088058(JP,A)
【文献】特開平08-132603(JP,A)
【文献】特開2003-291344(JP,A)
【文献】特開平08-197777(JP,A)
【文献】特開2017-213806(JP,A)
【文献】特開2018-094878(JP,A)
【文献】特開2010-076441(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0078933(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0163549(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機能素子と、
複数の駆動信号の1つに基づいて前記複数の機能素子を駆動する複数の駆動素子と、
前記機能素子を駆動するか否かを示す機能データを格納するシフトレジスタと、
前記シフトレジスタに入力される機能データを分析するデータ分析部と、
前記データ分析部による分析結果に応じて前記複数の駆動信号のうちの1つを選択する駆動信号選択部と、を備え
、
前記データ分析部は、所定の論理レベルの機能データがシフトレジスタに入力された回数をカウントするカウンタであり、該カウントの回数を前記分析結果として出力し、
前記データ分析部は、1ビットのカウンタであり、所定の論理レベルの機能データがシフトレジスタに入力された回数が偶数か奇数かに基づいて前記分析結果として1ビットの分析結果を出力する
ことを特徴とする記録素子基板。
【請求項2】
前記データ分析部は、複数ビットのカウンタであり、所定の論理レベルの機能データがシフトレジスタに入力された回数に基づいて前記分析結果として複数ビットの分析結果を出力する
ことを特徴とする請求項
1に記載の記録素子基板。
【請求項3】
前記機能素子は記録素子であり、前記機能データは記録データであり、
前記データ分析部は前記記録データを分析する
ことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の記録素子基板。
【請求項4】
前記駆動信号は前記記録素子の導通時間を決めるイネーブル信号であり、
前記駆動信号選択部は、複数のイネーブル信号のうちの1つを選択して前記駆動素子に供給する
ことを特徴とする請求項
3に記載の記録素子基板。
【請求項5】
前記複数の記録素子は、時分割駆動方式で駆動され、
前記駆動信号はブロック選択信号であり、
前記駆動信号選択部は、複数のブロック選択信号のうちの1つを選択し、前記駆動素子に供給する
ことを特徴とする請求項
3に記載の記録素子基板。
【請求項6】
複数の機能素子と、
複数の駆動信号の1つに基づいて前記複数の機能素子を駆動する複数の駆動素子と、
前記機能素子を駆動するか否かを示す機能データを格納するシフトレジスタと、
前記シフトレジスタに入力される機能データを分析するデータ分析部と、
前記データ分析部による分析結果に応じて前記複数の駆動信号のうちの1つを選択する駆動信号選択部と、を備え、
前記機能素子はサブヒータであり、前記機能データはサブヒートデータであり、
前記データ分析部はサブヒートデータを分析する
ことを特徴とす
る記録素子基板。
【請求項7】
前記駆動信号は前記サブヒータの導通時間を決めるイネーブル信号であり、
前記駆動信号選択部は、複数のイネーブル信号のうちの1つを選択して前記駆動素子に供給する
ことを特徴とする請求項
6に記載の記録素子基板。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の記録素子基板を備える
ことを特徴とする記録ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の記録ヘッドを備える
ことを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に記録素子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置のなかには、熱エネルギーを利用して複数の吐出口からインクを吐出するインクジェット記録方式が採用されたものがある。記録装置が備える記録素子基板には、例えば、複数の発熱抵抗体と、その複数の発熱抵抗体に対応する複数の駆動素子とが設けられる。駆動素子には電界効果トランジスタ等のスイッチ素子が用いられ、スイッチングによって発熱抵抗体を駆動する。これら複数の発熱抵抗体が同時に駆動された場合、電源線には、比較的大電流(例えば、約1マイクロ秒の間に数A(アンペア)又はそれ以上の量の電流)が発生することがある。このことは、電源電圧の変動(電圧降下)、それに伴う記録精度の低下等の原因ともなりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、互いにタイミングの異なる第1イネーブル信号と第2イネーブル信号とを用いて、複数の記録素子を、第1イネーブル信号で駆動する第1の記録素子群と、第2イネーブル信号で駆動する第2の記録素子群とに分けて駆動することが記載されている。しかしながら、特許文献1によれば、記録データの内容(信号値)によっては駆動対象となる記録素子が第1の記録素子群および第2の記録素子群の一方に偏ってしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、電源電圧の変動、それに伴う記録精度の低下を適切に防止することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの側面は記録素子基板に係り、前記記録素子基板は、
複数の機能素子と、
複数の駆動信号の1つに基づいて前記複数の機能素子を駆動する複数の駆動素子と、
前記機能素子を駆動するか否かを示す機能データを格納するシフトレジスタと、
前記シフトレジスタに入力される機能データを分析するデータ分析部と、
前記データ分析部による分析結果に応じて前記複数の駆動信号のうちの1つを選択する駆動信号選択部と、を備え、
前記データ分析部は、所定の論理レベルの機能データがシフトレジスタに入力された回数をカウントするカウンタであり、該カウントの回数を前記分析結果として出力し、
前記データ分析部は、1ビットのカウンタであり、所定の論理レベルの機能データがシフトレジスタに入力された回数が偶数か奇数かに基づいて前記分析結果として1ビットの分析結果を出力する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電源電圧の変動、それに伴う記録精度の低下が適切に防止されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】記録素子基板の駆動ないし制御方法の一例を示すタイミングチャート。
【
図2】画像パタンに基づく記録素子基板の駆動態様の幾つかの例を示す図。
【
図4】記録素子基板の回路構成例を簡略化して示す図。
【
図7】記録素子基板の回路構成例を簡略化して示す図。
【
図8】記録素子基板の駆動ないし制御方法の一例を示すタイミングチャート。
【
図10】記録素子基板の駆動ないし制御方法の一例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図3は、第1の実施形態に係る記録素子基板3の回路構成例を示す。記録素子基板3は、発熱抵抗体305と、それを駆動するための駆動回路とを含む。
【0011】
発熱抵抗体305は、インクを加熱して吐出させるための記録素子として機能し、インクジェット記録方式の記録装置(プリンタ)が備える記録ヘッドのノズルに対応して設けられる(発熱抵抗体305は記録素子305と表現されてもよい。)。発熱抵抗体305は、第1から第mまでのm個(複数)のグループに分けられる(mは2以上の整数)。個々のグループは、n個(複数)の発熱抵抗体305を有し(nは2以上の整数)、それらの駆動方式には、それらのうちの1つを順に選択する方式、いわゆる時分割駆動方式、が採用される。尚、時分割駆動方式で記録素子を駆動することを時分割駆動と表現してもよい。
【0012】
時分割駆動方式においては、個々のグループにおける第1から第nまでの発熱抵抗体305のそれぞれは、ブロックとも称され、ブロック単位で略同時に駆動されることとなる。例えば、第1から第mまでのグループについて、第1の発熱抵抗体305が略同時に駆動され、その後、第2の発熱抵抗体305が略同時に駆動され、同様にして、第3以降の発熱抵抗体305が順に略同時に駆動されることとなる。尚、図中において、第kのグループにおけるn個の発熱抵抗体305は、まとめて「305‐k」と示される(kは1~mの整数)。
【0013】
尚、上記ブロックの駆動の順序は、グループ内の複数の発熱抵抗体305を並びの順に駆動する制御形態(順次駆動と表現される)やグループ内の複数の発熱抵抗体305をとびとび(離散的)に駆動する制御形態(分散駆動と表現される)などがある。本実施形態ではいずれの制御形態でも利用できる。
【0014】
発熱抵抗体305を駆動するための駆動回路は、駆動素子304、シフトレジスタ301、ラッチ回路302、及び、制御ゲート303、を含む。また、該駆動回路は、ブロック選択用ロジック回路306、ヒートイネーブル(HE)生成回路307、記録データ分析部308、及び、イネーブル信号選択部309、を更に含む。
【0015】
駆動素子304は、発熱抵抗体305を通電することにより駆動するスイッチ素子であり、その典型例としては電界効果トランジスタが用いられる。
【0016】
シフトレジスタ301は、記録データ(DATA)をクロック信号(CLK)の立ち上がり(LレベルからHレベルになるタイミング。ライズエッジ。)で取り込み、次段のシフトレジスタ301に出力する。記録データは、対応のグループに属する発熱抵抗体305を駆動するか否かを決定する信号(或いは信号群)である。尚、或る発熱抵抗体305を駆動することを示す記録データの論理レベルを“1”とし、該駆動を抑制することを示す記録データの論理レベルを“0”とする。換言すると、記録データは発熱抵抗体を駆動するか否かを示す論理データである。
【0017】
ラッチ回路302は、ラッチ信号(LT)で記録データ(DATA)を保持する。シフトレジスタ301及びラッチ回路302は各グループに1つずつ設けられる。
【0018】
制御ゲート303は、本実施形態では論理積回路(AND回路)であり、記録データ(DATA)、後述のブロック選択信号(BLE1~BLEn)およびイネーブル信号(HE1又はHE2)の論理積に基づいて、駆動素子304を制御する。発熱抵抗体305は、
図3に示される信号線の接続により、複数(n個)のブロックに割り当てられる。
【0019】
ブロック選択用ロジック回路306は、ブロック選択信号(BLE1~BLEn)を生成することにより、制御ゲート303を、ブロック単位にアクティブにする。
【0020】
HE生成回路307は、発熱抵抗体305の駆動時間(発熱抵抗体305ないし駆動素子304の導通時間)を決定するための第1のイネーブル信号(HE1)と第2のイネーブル信号(HE2)とを生成する。詳細については後述とするが、第1のイネーブル信号(HE1)と第2のイネーブル信号(HE2)とは互いに異なるタイミングで生成される。
【0021】
記録データ分析部308は、各シフトレジスタに入力される記録データを分析し、その分析結果ないし該結果を示す信号(ANZ_O1~ANZ_Om(これらは特に区別しない場合にはANZ_Oと示される。))を出力する。記録データ分析部308は、データ分析部、信号分析部、或いは、単に分析部等と表現されてもよい。
【0022】
イネーブル信号選択部309は、記録データ分析部308からの分析結果(ANZ_O)に基づいて、第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)の何れか一方を選択して制御ゲート303に出力する。詳細については後述とするが、イネーブル信号選択部309は、上記分析結果(ANZ_O)に基づいて、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数(即ち、発熱抵抗体305の駆動数量。)と、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数とを等しくすることができる。換言すると、記録データ分析部308は、記録データの分析結果に基づいて、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数と、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数とが等しくなるように、イネーブル信号選択部309を制御する。
【0023】
尚、イネーブル信号(HE1等)は、駆動素子304を制御するための駆動信号ないし制御信号の1つ(或いは、後述のブロック選択信号の一部)とも云える。よって、この観点で、イネーブル信号選択部309は、駆動信号選択部、制御信号選択部、或いは、単に選択部等と表現されてもよい。
【0024】
図4は、記録素子基板3の回路構成をm=8として簡略化したものである。ブロック選択用ロジック回路306で生成されたブロック選択信号(BLEn)によって、第1から第8までのグループにおけるn個の発熱抵抗体305のうちの1つ(ここでは、第nの発熱抵抗体305)が選択された状態を示す。
図4は、説明の容易化のため、
図3に示される発熱抵抗体305のうち同一ブロックの発熱抵抗体305と関連する回路を抜粋したものである。従って、
図4においては、
図3に示される他のブロックに割り当てられた発熱抵抗体305は不図示とする。記録データ分析部308は、シフトレジスタ301に入力される記録データの“1”の数をカウントする。
【0025】
例えば、記録データ分析部308は、記録データ“1”がシフトレジスタ301に奇数回入力された場合には“1”を、偶数回入力された場合には“0”を、分析結果(ANZ_O)として出力する。具体的には、イネーブル信号選択部309はANZ_Okが“1”の場合には第1のイネーブル信号(HE1)が選択され、ANZ_Okが“0”の場合には第2のイネーブル信号(HE2)が選択される。
【0026】
上記駆動ないし制御方法によれば、同一ブロック内において駆動対象となる発熱抵抗体305のうち互いに隣り合う2つは、互いに異なるイネーブル信号(HE1又はHE2)で駆動されることとなる。それにより、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数と、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数とは、実質的に均等となる。
【0027】
図5(a)及び
図5(b)は、記録データ分析部308の回路構成例を示す。記録データ分析部308は、カウンタ(1bitのカウンタ)501と、分析結果(ANZ_O)をラッチ信号(LT)で保持するラッチ回路502と、を含む。
図5(a)は、同期式カウンタの場合の構成例を示し、
図5(b)は、非同期式カウンタの場合の構成例を示す。
【0028】
図1(b)は、本実施形態に係る記録素子基板3の駆動ないし制御方法を示すタイミングチャートの一例を、ラッチ回路502による2回分のラッチに相当する期間(以下、「2ラッチ時間」という。)について示す。尚、1回分のラッチに相当する時間(以下、「1ラッチ時間」という。)は、1つのブロックを駆動するのに要する時間に対応する。記録素子基板3は、時分割駆動方式で発熱抵抗体305を駆動することにより、紙等の記録媒体に1列分ないし1行分の画像を記録する。第1のイネーブル信号(HE1)と第2のイネーブル信号(HE2)とは、1ラッチ時間内で互いに異なるタイミングで生成されることにより、同時にアクティブレベルとならないようになっている。
【0029】
第1のラッチ時間(後述の
図1において「1
st」と示す。)において、シフトレジスタ301は、記録装置本体から送られる記録データ(DATA)を受信し、次段のシフトレジスタ301に転送する。これと略同時に、記録データ分析部308は、対応のシフトレジスタ301に順に転送される記録データの“1”をカウントする。第1のラッチ時間内で記録データの送信が終了したことに応じて、各シフトレジスタ301に格納される記録データが確定する。これと略同時に、記録データ分析部308の分析結果(ANZ_O)も確定する。その後、上記格納された記録データ及び分析結果(ANZ_O)に従い、対応の発熱抵抗体305は、第1のイネーブル信号(HE1)または第2のイネーブル信号(HE2)に基づいて駆動される。
【0030】
次のラッチ信号(LT)の立ち上がり(第2のラッチ時間(後述の
図1において「2
nd」と示す。)の開始のタイミング)では、各シフトレジスタ301に格納されている記録データ(DATA)が新たにラッチ回路302に格納される。これと略同時に、記録データ分析部308の分析結果(ANZ_O)も記録データ分析部308内のラッチ回路502に格納される。その後、上記格納された記録データ及び分析結果(ANZ_O)に従い、対応の発熱抵抗体305は、第1のイネーブル信号(HE1)または第2のイネーブル信号(HE2)に基づいて駆動される。
【0031】
このような駆動ないし制御方法によれば、同一ブロック内において駆動対象となる発熱抵抗体305のうち互いに隣り合う2つは、互いに異なるイネーブル信号(HE1又はHE2)で駆動されることとなる。それにより、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数と、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数とは、実質的に均等となる。
【0032】
本実施形態によれば、記録データ分析部308によって第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数と、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数とは実質的に等しくなる。そのため、発熱抵抗体305を駆動する際に発生する駆動電流(VH電流)の電流値は、第1のイネーブル信号(HE1)と第2のイネーブル信号(HE2)との間で略等しくなる。
【0033】
図1(b)は、「2
nd」と図示される第2のラッチ時間において合計180個の記録素子が駆動される記録データについてのタイミングチャートの一例を示す。本例においては、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数は90個となり、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数は90個となる。この場合、発熱抵抗体305を駆動する際に発生する駆動電流(VH電流)の最大値は、第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)の何れのタイミングでも「90I」となる。
【0034】
図1(a)は、参考例として、記録データ分析部308を設けなかった場合のタイミングチャートの一例を示す。本参考例においては、第2のラッチ期間に駆動される180個の記録素子のうち、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数は160個であり、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数は20個となっている。即ち、本参考例によれば、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数と、第2のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数とが、偏ってしまう場合がある。このような場合、発熱抵抗体305を駆動する際に発生する駆動電流(VH電流)の最大値は、第1のイネーブル信号(HE1)のタイミングで「160I」となる。即ち、本実施形態によれば、駆動電流(VH電流)の最大値は、第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)の何れのタイミングにおいても「90I」となり、一方のタイミングに比較的大きい電流が発生することもない。
【0035】
図2(a)は、従来例として、記録データ分析部308が設けられず且つ第1のイネーブル信号(HE1)と第2のイネーブル信号(HE2)とが1グループ毎に交互に割り当てられた場合における画像パタンの一例を示す。尚、理解の容易化のため、m=16かつn=4(記録素子の総数は64個)とする。図中において黒い四角で示されたマスは、駆動対象となる発熱抵抗体305を示す。
【0036】
図2(a)において、画像パタンAは、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動されるグループの発熱抵抗体305のみが駆動される記録データの一例を示す。図中において、ビット(bit)数は発熱抵抗体305の数に対応する。例えば、8bitという表記は、8つの発熱抵抗体305に対応する。このような記録データの場合、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される発熱抵抗体305は8個となり、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される発熱抵抗体305は0個となってしまう。即ち、発熱抵抗体305は、第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)のうち第1のイネーブル信号(HE1)で駆動されるものに偏ってしまうこととなる。
【0037】
また、画像パタンBは、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動されるグループの発熱抵抗体305のみが駆動される記録データの一例を示す。このような記録データの場合、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される発熱抵抗体305は0個となり、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子は8個となってしまう。即ち、発熱抵抗体305は、第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)のうち第1のイネーブル信号(HE1)で駆動されるものに偏ってしまうこととなる。
【0038】
記録装置を実際に使用するのに際しては、このような画像パタンA及びBを記録するための記録データが発生する可能性がある。しかしながら、このような画像パタンA及びBを考慮した設計(許容電流の上限値が高くなるように電源回路やプリント基板を設計すること)は、記録装置、それを構成する電子部品等の高コスト化の原因ともなりうる。
【0039】
これに対して、
図2(b)は、本実施形態に係る記録素子基板3の場合における画像パタンA及びBの例を、
図2(a)同様に示す。前述のとおり、記録素子基板3によれば、記録データ分析部308によって、同一ブロック内において駆動対象となる発熱抵抗体305のうち互いに隣り合う2つは、互いに異なるイネーブル信号(HE1又はHE2)で駆動される。そのため、画像パタンA及び画像パタンBの何れにおいても、駆動対象となる記録素子数は最大4個となる。即ち、本実施形態によれば、如何なる画像パタンを記録するための記録データが発生した場合においても、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数と、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数とは、均等に振り分けられる。これにより、駆動電流量が局所的に偏るような事態が適切に防止/抑制可能となり、付随的に、記録素子基板3の設計コストが低減可能となる。
【0040】
以上、本実施形態によれば、記録素子としての発熱抵抗体305は、時分割駆動方式で駆動される。その際、1ラッチ時間内において、個々のグループに対応するシフトレジスタ301は、クロック信号(CLK)に基づいて記録データ(DATA)を次段のシフトレジスタ301に転送する。その間、各シフトレジスタ301に対応する記録データ分析部308は、記録データ(DATA)を分析し、記録データ“1”の転送回数(ここでは、奇数回か偶数回か)に基づく信号を分析結果(ANZ_O)として出力する。ここで、記録データ“1”は、発熱抵抗体305を駆動することを示す論理レベルに対応する。この分析結果(ANZ_O)は、駆動対象となる発熱抵抗体305を、1ラッチ時間における第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)の何れにより駆動するかを決定する。
【0041】
このような駆動ないし制御方法によれば、同一ブロック内において駆動対象となる発熱抵抗体305のうち互いに隣り合う2つは、互いに異なるイネーブル信号(HE1又はHE2)で駆動されることとなる。これにより、第1のイネーブル信号(HE1)で駆動される記録素子数と、第2のイネーブル信号(HE2)で駆動される記録素子数とは、実質的に均等となる。よって、本実施形態によれば、駆動電流量が局所的に偏るような事態が適切に防止/抑制可能となり、その結果、電源電圧の変動、それに伴う記録精度の低下を適切に防止することが可能となる。また、本実施形態によれば、付随的に、記録素子基板3の設計コストを低減することも可能となる。
【0042】
(第2の実施形態)
前述の第1の実施形態では、1ラッチ時間内に第1のイネーブル信号(HE1)と第2のイネーブル信号(HE2)とが用いられる態様を例示したが、イネーブル信号の数を3以上とした場合においても同様のことが云える。
【0043】
図6は、第2の実施形態に係る記録素子基板3の回路構成例を示す。本実施形態は、主に、HE生成回路607、記録データ分析部608及びイネーブル信号選択部609の構成が第1の実施形態と異なる。
【0044】
HE生成回路607は、第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)に加えて、第3のイネーブル信号(HE3)及び第4のイネーブル信号(HE4)を生成する。第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)は、1ラッチ時間内で互いに異なるタイミングで生成されることにより、同時にアクティブレベルとならないようになっている。
【0045】
記録データ分析部608は、シフトレジスタ301に入力される記録データ(DATA)を分析し、2bitの分析結果(ANZ_O)を出力する。イネーブル信号選択部609は、記録分析手段608が出力する2bitの分析結果(ANZ_O)に応じて第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)のうちの1つを選択して制御ゲート303に出力する。
【0046】
本実施形態によれば、記録データ分析部608は、記録データ(DATA)を分析し、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)で駆動される記録素子数が互いに等しくなるようにイネーブル信号選択部609を制御する。よって、本実施形態によれば、各イネーブル信号(HE1~HE4のそれぞれ)において発生する駆動電流量は、第1の実施形態に比べて更に半分に低減されることとなる。
【0047】
図7は、本実施形態に係る記録素子基板3の回路構成を簡略化したものであり、
図4同様、同一ブロックに含まれる発熱抵抗体305の駆動態様を示す。記録データ分析部608は、シフトレジスタ301に入力される記録データの“1”の数をカウントする複数ビット(2bit)のカウンタである。
【0048】
例えば、記録データ分析部308は、記録データ“1”がシフトレジスタに入力された回数を4で割った場合の剰余が1の場合には“1(2進数では01)”を分析結果(ANZ_O)に出力する。同様に、記録データ分析部308は、該剰余が2の場合には“2(2進数では10)”を、該剰余が3の場合には“3(2進数では11)”を、該剰余が0の場合には“0(2進数では00)”を、分析結果(ANZ_O)に出力する。
【0049】
イネーブル信号選択部609は、ANZ_Oが“1”の場合にはHE1を、ANZ_Oが“2”の場合にはHE2を、ANZ_Oが“3”の場合にはHE3を、ANZ_Oが“0”の場合にはHE4を選択する。このような動作によれば、同一ブロック内において駆動対象となる発熱抵抗体305のうち互いに隣り合う2つは、互いに異なるイネーブル信号(HE1、HE2、HE3又はHE4)で駆動されることとなる。即ち、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)で駆動される記録素子数は互いに均等となる。
【0050】
図8は、本実施形態に係る記録素子基板3の駆動ないし制御方法を示すタイミングチャート(2ラッチ時間分)を、第1の実施形態の
図1(b)同様に示す。前述のとおり、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)は1ラッチ時間内で互いに異なるタイミングで生成されることにより、同時にアクティブレベルとならないようになっている。
【0051】
第1のラッチ時間において、シフトレジスタ301は、記録装置本体から送られる記録データ(DATA)を受信し、次段のシフトレジスタ301に転送する。これと略同時に、記録データ分析部608は、対応のシフトレジスタ301に順に転送される記録データの“1”をカウントする。第1のラッチ時間内で記録データの送信が終了したことに応じて、各シフトレジスタ301に格納される記録データが確定する。これと略同時に、記録データ分析部608の分析結果(ANZ_O)も確定する。
【0052】
次のラッチ信号(LT)の立ち上がり(第2のラッチ時間の開始のタイミング)では、各シフトレジスタ301に格納されている記録データ(DATA)が新たにラッチ回路302に格納される。これと略同時に、記録データ分析部608の分析結果(ANZ_O)も記録データ分析部608内のラッチ回路に格納される。その後、上記格納された記録データ及び分析結果(ANZ_O)に従い、対応の発熱抵抗体305は、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)のうちの1つに基づいて駆動される。
【0053】
このような駆動ないし制御方法によれば、同一ブロック内において駆動対象となる発熱抵抗体305のうち互いに隣り合う2つは、互いに異なるイネーブル信号(HE1、HE2、HE3又はHE4)で駆動されることとなる。それにより、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)で駆動される記録素子数は実質的に互いに均等となる。
【0054】
本実施形態によれば、記録データ分析部608によって第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)で駆動される記録素子数は実質的に互いに等しくなる。そのため、発熱抵抗体305を駆動する際に発生する駆動電流(VH電流)の電流値は、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)の間で略等しくなる。尚、イネーブル信号の数が5以上であれば、記録データ分析部608のカウンタのビット数を増やせばよい。例えば、イネーブル信号の数が8の場合には3ビットカウンタが用いられ、イネーブル信号の数が16の場合には4ビットカウンタが用いられればよい。
【0055】
尚、
図8の例では、第1の実施形態の
図1(b)の例同様、第2のラッチ時間に合計180個の記録素子が駆動される記録データについてのタイミングチャートの一例を示す。本例においては、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)で駆動される記録素子数はそれぞれ45個となり、駆動電流(VH電流)の最大値は、第1から第4までのイネーブル信号(HE1~HE4)の何れのタイミングでも「45I」となる。第1の実施形態では上記駆動電流の最大値は「90I」であったので、本実施形態によれば、第1の実施形態に比べて、上記駆動電流の最大値は半分に低減されると云え、よって、電源電圧の変動、それに伴う記録精度の低下を更に適切に防止可能となる。
【0056】
(第3の実施形態)
前述の第1及び第2の実施形態では、記録素子としての発熱抵抗体305を駆動する際に発生する駆動電流が低減されることを述べたが、第1及び第2の実施形態の内容は、他の用途の消費電流を低減するのにも適用可能である。
【0057】
図9は、第3の実施形態に係る記録素子基板3の回路構成例を示す。本実施形態では、記録素子基板3の温度を制御するためのサブヒータ910が設けられており、本実施形態は、この点において第1及び第2の実施形態と異なる。
【0058】
サブヒータ910は、記録素子基板3における特定の領域を加熱可能となるように、記録素子基板3内に複数設けられ、該特定の領域を任意に加熱することにより記録素子基板3内の温度を均一にすることを可能とする。本実施形態では、一例として、各グループに単一のサブヒータ910が設けられるものとする。
【0059】
本実施形態においては、記録素子基板3は、上述の複数のサブヒータ910の他、それらを駆動ないし制御するための回路(この回路は温調制御回路等と称されてもよい。)を備える。この回路は、本実施形態では、複数の駆動素子904、複数のシフトレジスタ901、複数のラッチ回路902、複数の制御ゲート903、複数のサブヒートデータ分析部908及び、複数のサブヒートイネーブル信号選択部909を含む。駆動素子904、シフトレジスタ901、ラッチ回路902、制御ゲート903、サブヒートデータ分析部908、及び、サブヒートイネーブル信号選択部909は、単一のサブヒータ910に対応するように各グループに1つずつ設けられる。
【0060】
駆動素子904には、典型的には電界効果トランジスタが用いられる。シフトレジスタ901は、サブヒートデータ(SH_DATA)をクロック信号(CLK)の立ち上がりで取り込み、次段のシフトレジスタ901に出力する。サブヒートデータは、対応のグループに属するサブヒータ910を駆動するか否かを決定する信号(或いは信号群)である。尚、或るサブヒータ910を駆動することを示すサブヒートデータの論理レベルを“1”とし、該駆動を抑制することを示すサブヒートデータの論理レベルを“0”とする。
【0061】
ラッチ回路902はラッチ信号(LT)でサブヒートデータ(SH_DATA)を保持する。
【0062】
ここで、記録素子基板3は、サブヒートイネーブル(SHE)生成回路907を更に備える。SHE生成回路907は、サブヒータ910の駆動時間(サブヒータ910ないし駆動素子904の導通時間)を決定するための第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)と第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)とを生成する。前述の第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)同様、第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)と第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)とは、互いに異なるタイミングで生成される。
【0063】
制御ゲート903は、本実施形態では論理積回路(AND回路)であり、サブヒートデータ(SH_DATA)とサブヒートイネーブル信号(SHE1又はSHE2)との論理積に基づいて、駆動素子904を制御する。
【0064】
サブヒートデータ分析部908は、各シフトレジスタに入力されるサブヒートデータを分析し、その分析結果ないし該結果を示す信号(ANZ_O)を出力する。サブヒートデータ分析部908は、記録データ分析部308同様、データ分析部、信号分析部、或いは、単に分析部等と表現されてもよい。
【0065】
サブヒートイネーブル信号選択部909は、サブヒートデータ分析部908から出力された分析結果(ANZ_O)に基づいて、第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)及び第2のイネーブル信号(SHE2)の何れか一方を選択する。そして、該選択された一方(SHE1又はSHE2)は、制御ゲート903に出力される。サブヒートイネーブル信号選択部909は、イネーブル信号選択部309同様、上記分析結果(ANZ_O)に基づいて、第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)で駆動されるサブヒータ数(即ち、サブヒータ910の駆動数量。)と、第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)で駆動されるサブヒート数とを等しくすることができる。換言すると、サブヒートデータ分析部908は、サブヒートデータの分析結果に基づいて、第1及び第2のサブヒートイネーブル信号(SHE1及びSHE2)で駆動される記録素子数が互いに等しくなるようにサブヒートイネーブル信号選択部909を制御する。
【0066】
よって、本実施形態においては、第1~第2の実施形態との関係では、サブヒートデータ分析部908は、記録データ分析部308同様の機能を実現し、サブヒートイネーブル信号選択部909は、イネーブル信号選択部309同様の機能を実現する、と云える。
【0067】
図10は、本実施形態に係る記録素子基板3の駆動ないし制御方法を示すタイミングチャート(2ラッチ時間分)を、第1の実施形態の
図1(b)及び第2の実施形態の
図8同様に示す。前述のとおり、第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)と第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)とは1ラッチ時間内で互いに異なるタイミングで生成されることにより、同時にアクティブレベルとならないようになっている。
【0068】
第1のラッチ時間において、シフトレジスタ901は、記録装置のコントローラIC(不図示)から送られるサブヒートデータ(SH_DATA)を受信し、次段のシフトレジスタ901に転送する。これと略同時に、サブヒートデータ分析部908は、対応のシフトレジスタ901に順に転送される記録データの“1”をカウントする。第1のラッチ時間内でサブヒートデータの送信が終了したことに応じて、各シフトレジスタ901に格納されるサブヒートデータが確定する。これと略同時に、サブヒートデータ分析部908の分析結果(ANZ_O)も確定する。
【0069】
次のラッチ信号(LT)の立ち上がり(第2のラッチ時間の開始のタイミング)では、各シフトレジスタ901に格納されているサブヒートデータ(SH_DATA)が新たにラッチ回路902に格納される。これと略同時に、サブヒートデータ分析部908の分析結果(ANZ_O)もサブヒートデータ分析部908内のラッチ回路に格納される。その後、上記格納されたサブヒートデータ及び分析結果(ANZ_O)に従い、対応のサブヒータ910は、第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)または第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)に基づいて駆動される。
【0070】
このような駆動ないし制御方法によれば、駆動対象となるサブヒータ910のうち互いに隣り合う2つは、互いに異なるサブヒートイネーブル信号(SHE1又はSHE2)で駆動されることとなる。それにより、第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)で駆動される記録素子数と、第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)で駆動される記録素子数とは、実質的に均等となる。
【0071】
本実施形態によれば、サブヒートデータ分析部908によって第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)で駆動されるサブヒータ数と、第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)で駆動されるサブヒータ数とは実質的に等しくなる。そのため、サブヒータ910を駆動する際に発生するサブヒート駆動電流の電流値は、第1のサブヒートイネーブル信号(SHE1)と第2のサブヒートイネーブル信号(SHE2)との間で略等しくなる。
【0072】
以上、本実施形態によれば、記録素子としての発熱抵抗体305を駆動する際に発生する駆動電流に付随して/代替して、サブヒータ910の駆動電流を低減可能となる。よって、本実施形態によっても、電源電圧の変動、それに伴う記録精度の低下を適切に防止可能と云える。
【0073】
(第4の実施形態)
図11は、本発明の第4の実施形態に係る記録素子基板3の回路構成例を示す。本実施形態では、記録素子基板3の温度を測定するための温度センサ1110が設けられており、本実施形態は、この点において前述の第1から第3の実施形態と異なる。
【0074】
温度センサ1110は、記録素子基板3特定の領域の温度を検知する。温度センサ1110は、記録素子基板3内に複数設けられ、該特定の領域の温度を検知する。これにより、対応の領域に配置される記録素子(発熱抵抗体305)を駆動ないし制御するためのイネーブルパルス(HE)のパルス幅を該検知された温度に基づいて変更することができる。或いは、記録素子基板3の意図しない温度上昇が発生した場合には、電源の供給を停止することも可能である。本実施形態では、一例として、各グループに単一の温度センサ1110が設けられるものとする。温度センサ1110は、温度検知センサあるいは単にセンサ等と表現されてもよい。
【0075】
尚、温度センサ1110による検出結果として、その両端SNk及びSPk間の電位差が、演算部1112に出力されうる(kは1~mの整数)。
【0076】
本実施形態においては、記録素子基板3は、上述の複数の温度センサ1110の他、それらを駆動ないし制御するための回路(この回路は検温用回路、センサ駆動回路、センサ制御回路等と称されてもよい。)を備える。この回路は、本実施形態では、複数の駆動素子1104、複数のシフトレジスタ1101、複数のラッチ回路1102、複数の制御ゲート1103、複数のセンサ選択データ分析部1108及び、複数のセンサイネーブル信号選択部1109を含む。駆動素子1104、シフトレジスタ1101、ラッチ回路1102、制御ゲート1103、センサ選択データ分析部1108及び、センサイネーブル信号選択部1109は、単一の温度センサ1110に対応するように各グループに1つずつ設けられる。
【0077】
記録素子基板3は、温度センサ1110に対応するように設けられた定電流源1111を更に備える。駆動素子1104は、この定電流源1111の電流を温度センサ1110に流すか否かを制御し、その典型例として電界効果トランジスタが用いられる。シフトレジスタ1101は、センサ選択データ(S_DATA)をクロック信号(CLK)の立ち上がりで取り込み、次段のシフトレジスタ1101に出力する。センサ選択データは、対応のグループに属する温度センサ1110に定電流源1111の電流を供給するか否かを決定する信号(或いは信号群)である。尚、或る温度センサ1110に電流を供給することを示すセンサ選択データの論理レベルを“1”とし、該供給を抑制することを示すセンサ選択データの論理レベルを“0”とする。換言すると、センサ選択データは温度センサを通電(駆動)するか否かを示す論理データである。
【0078】
ラッチ回路1102はラッチ信号(LT)でセンサ選択データ(S_DATA)を保持する。
【0079】
ここで、記録素子基板3は、センサイネーブル(SE)生成回路1107を更に備える。SE生成回路1107は、温度センサ1110に電流を供給する時間(温度センサ1110ないし駆動素子1104の導通時間)を決定するための第1のセンサイネーブル信号(SE1)と第2のセンサイネーブル信号(SE2)とを生成する。前述の第1のイネーブル信号(HE1)及び第2のイネーブル信号(HE2)同様、第1のセンサイネーブル信号(SE1)と第2のセンサイネーブル信号(SE2)とは、互いに異なるタイミングで生成される。
【0080】
制御ゲート1103は、本実施形態では論理積回路(AND回路)であり、センサ選択データとセンサイネーブル信号(SE1又はSE2)の論理積に基づいて、駆動素子1104を制御する。
【0081】
センサ選択データ分析部1108は、各シフトレジスタに入力されるセンサ選択データを分析し、その分析結果(ANZ_O)を出力する。センサ選択データ分析部1108は、記録データ分析部308同様、データ分析部、信号分析部、或いは、単に分析部等と表現されてもよい。
【0082】
センサイネーブル信号選択部1109は、センサ選択データ分析部1108から出力された分析結果(ANZ_O)に基づいて、第1のセンサイネーブル信号(SE1)及び第2のセンサイネーブル信号(SE2)の何れか一方を選択する。そして、該選択された一方(SE1又はSE2)は、制御ゲート1103に出力される。センサイネーブル信号選択部1109は、イネーブル信号選択部309同様、上記分析結果(ANZ_O)に基づいて、第1のセンサイネーブル信号(SE1)で駆動される温度センサ数(即ち、電流が供給される温度センサ1110の数量。)と、第2のセンサイネーブル信号(SE2)で駆動される温度センサ数とを等しくすることができる。換言すると、センサ選択データ分析部1108は、センサ選択データの分析結果に基づいて、第1及び第2のセンサイネーブル信号(SE1及びSE2)で駆動される温度センサ数が互いに等しくなるようにセンサイネーブル信号選択部1109を制御する。
【0083】
前述のとおり、第1のセンサイネーブル信号(SE1)と第2のセンサイネーブル信号(SE2)とは互いに異なるタイミングで生成される。そのため、温度センサ1110への供給電流(温度センサ1110の駆動電流)の量は、第1のセンサイネーブル信号(SE1)と第2のセンサイネーブル信号(SE2)とで実質的に互いに等しくなる。
【0084】
以上、本実施形態によれば、記録素子としての発熱抵抗体305を駆動する際に発生する駆動電流に付随して/代替して、温度センサ1110の駆動電流を低減可能となる。よって、本実施形態によっても、電源電圧の変動、それに伴う記録精度の低下を適切に防止可能と云える。
【0085】
(第5の実施形態)
図12は、第5の実施形態に係る記録ヘッド12の回路構成例を示す。本実施形態では、記録素子として容量負荷型のピエゾ素子1201が用いられるものとする。
【0086】
本実施形態においては、記録ヘッド12は、上述のピエゾ素子1201を複数備える他、それらを駆動するための駆動回路を備える。この駆動回路は、本実施形態では、シフトレジスタ・ラッチ回路1202、複数(ここでは2つ)のデジタルアナログ変換回路1206、複数(ここでは2つ)の駆動部1205、記録データ分析部1203、及び、複数の選択回路1204を含む。
【0087】
シフトレジスタ・ラッチ回路1202は、記録データ(DATA)を記録装置本体から受信して保持する。
【0088】
デジタルアナログ変換回路1206は、デジタルデータをアナログの駆動信号に変換する。駆動部1205は、デジタルアナログ変換回路1206により変換されたアナログの駆動信号を増幅し、それを各ピエゾ素子1201に供給する。記録素子数(ピエゾ素子1201の数量)が大きい場合には、それらを適切に駆動するための駆動力が必要となるため、駆動部1205は複数(ここでは2つ)設けられる。
【0089】
記録データ分析部1203は、シフトレジスタ1202に入力される記録データを分析し、その分析結果(ANZ_O)を出力する。
【0090】
選択回路1204は、シフトレジスタ・ラッチ回路1202に格納された記録データに基づいて、駆動部1205からの駆動信号をピエゾ素子1201に供給するか否かを選択する。また、この駆動信号をピエゾ素子1201に供給する場合には、記録データ分析部1203から出力された分析結果(ANZ_O)に基づいて第1の駆動信号(COM1)または第2の駆動信号(COM2)の何れか一方を選択してピエゾ素子1201に供給する。記録データ分析部1203は、前述の記録データ分析部308同様、記録データを分析し、第1の駆動信号(COM1)で駆動される記録素子数と、第2の駆動信号(COM2)で駆動される記録素子数とが互いに等しくなるように選択回路1204を制御する。記録データ分析部1203は、記録データ分析部308同様、データ分析部、信号分析部、或いは、単に分析部等と表現されてもよい。
【0091】
以上のような動作によれば、複数の駆動部1205の出力負荷は互いに略等しくなり、それら駆動部1205の出力信号である第1の駆動信号(COM1)と第2の駆動信号(COM2)とを略同一の波形にすること(波形崩れの抑制)が可能となる。また、駆動部1205により駆動される記録素子数がCOM1及びCOM2の何れかに偏ってしまうことも実質的にないため、容量負荷を充放電する際に発生する電流のピーク値を低減可能となり、それにより、駆動部1205での無用な発熱を抑制可能となる。
【0092】
以上、本実施形態によれば、複数の駆動部1205の出力負荷が均一化され、その駆動信号の波形が略同一となり、駆動部1205での無用な発熱を抑制可能となる。よって、本実施形態によっても、電源電圧の変動、それに伴う記録精度の低下を適切に防止可能と云える。
【0093】
(その他)
上述の説明においては、記録装置に関連する構成を例示したが、その記録方式は上述の態様に限られるものではない。また、記録装置は、記録機能のみを有するシングルファンクションプリンタであっても良いし、記録機能、FAX機能、スキャナ機能等の複数の機能を有するマルチファンクションプリンタであっても良い。また、例えば、カラーフィルタ、電子デバイス、光学デバイス、微小構造物等を所定の記録方式で製造するための製造装置であっても良い。
【0094】
また、本明細書でいう「記録」は広く解釈されるべきものである。従って、「記録」の態様は、記録媒体上に形成される対象が文字、図形等の有意の情報であるか否かを問わないし、また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わない。
【0095】
また、「記録媒体」は、上記「記録」同様広く解釈されるべきものである。従って、「記録媒体」の概念は、一般的に用いられる紙の他、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、樹脂、木材、皮革等、インクを受容可能な如何なる部材をも含みうる。
【0096】
更に、「インク」は、上記「記録」同様広く解釈されるべきものである。従って、「インク」の概念は、記録媒体上に付与されることによって画像、模様、パタン等を形成する液体の他、記録媒体の加工、インクの処理(例えば、記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)等に供され得る付随的な液体をも含みうる。
【0097】
更に、以上の説明においては、理解の容易化のため、各要素をその機能面に関連する名称で示したが、各要素は、実施形態で説明された内容を主機能として備えるものに限られるものではなく、それを補助的に備えるものであってもよい。例えば、記録装置による記録は該記録装置が有する2以上の機能の一部とも云え、この観点で、記録素子は機能素子とも表現されてもよいし、同様に、記録データは機能データとも表現されてもよい。
【0098】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。