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特許7486269多色ガラスセラミックブランクの調製のためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】多色ガラスセラミックブランクの調製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C03B 19/06 20060101AFI20240510BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20240510BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20240510BHJP
   A61K 6/833 20200101ALI20240510BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20240510BHJP
   C03C 10/04 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C03B19/06 D
A61C5/70
A61C13/083
A61K6/833
C03B32/02
C03C10/04
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020067270
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2020169118
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】19167345
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ラルス アルノルト
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド ビュールク
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダ エンゲルス
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-515897(JP,A)
【文献】特表2018-510109(JP,A)
【文献】特開2017-193534(JP,A)
【文献】特表2016-514078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03B 19/06、32/02
A61C 5/70、13/083
A61K 6/833
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸リチウムを主結晶相として有する、歯科目的のための多色ガラスセラミックブランクの調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)(i)ケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末、または(ii)ケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末の液体媒体中の懸濁物が、型に導入されて、ガラスブランクを形成し、
(b)必要に応じて、工程(a)からの該ガラスブランクが、加圧により成形され、
(c)工程(a)または(b)からの該ガラスブランクが加熱処理されて、ケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックブランクを得、そして
(d)工程(c)からの該ガラスセラミックブランクが、ホットプレスにより成形される、
プロセス。
【請求項2】
工程(a)において、粉末が前記型に導入され、そして工程(b)が実施される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程(a)において、懸濁物が前記型に導入され、そして前記液体媒体が除去される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
工程(a)において、前記粉末または懸濁物が、調製される前記多色ガラスセラミックブランクが連続的に変化する色を有する方法で、前記型に導入される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
工程(a)において、前記粉末(i)は、0.5から150μmまで、好ましくは1~100μmの粒子サイズを有し、そして前記懸濁物(ii)の前記粉末は、0.5から80μmまで、好ましくは0.5~70μmの粒子サイズを有し、そして/または前記粉末(i)および前記粉末(ii)は、d50値として、5から30μm、好ましくは10~20μmの平均粒子サイズを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
工程(b)において、前記加圧は、60℃未満、好ましくは15~35℃の温度で、そして特に20から120MPaまで、好ましくは50~120MPaの圧力で行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
工程(c)において、前記加熱処理は、700℃未満、好ましくは550℃~690℃の温度で、そして特に2から60分間まで、好ましくは5~30分間の時間にわたって行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
工程(d)において、前記ホットプレスは、650から780℃まで、特に700~750℃の温度で、そして特に5から50MPaまで、好ましくは10~30MPaの圧力で行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
工程(d)において、前記ホットプレスは、0.1から10分間、好ましくは0.3~5分間の時間にわたって行われる、請求項1~8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
工程(d)において、前記ホットプレスは、0.1bar未満、そして好ましくは0.01から0.08barまでの大気圧で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記多色ガラスセラミックブランクは、メタケイ酸リチウムを主結晶相として有する、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記多色ガラスセラミックブランクは、10重量%より多く、好ましくは20重量%より多く、そして特に好ましくは25重量%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記多色ガラスセラミックブランクは、2.4から2.6まで、そして特に2.44~2.56g/cmの密度を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記多色ガラスセラミックブランクは、下記の成分:
成分 重量%
SiO 64.0~75.0
LiO 13.0~17.0
O 0~5.0
Al 0.5~5.0
2.0~5.0
のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを、示される量で含有する、請求項1~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記多色ガラスセラミックブランクは、下記の成分:
成分 重量%
SiO 64.0~75.0
LiO 13.0~17.0
O 0~5.0
Al 0.5~5.0
2.0~5.0
ZrO 0~5.0
MgO 0~5.0
SrO 0~5.0
ZnO 0~5.0
F 0~1.0
着色および/または蛍光成分 0~10.0
のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを、示される量で含有し、ここで該着色および/または蛍光成分は、Sn、Ce、V、Mn、Co、Ni、Cu、Fe、Cr、Tb、Eu、ErおよびPrの酸化物の群から特に選択される、請求項1~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセスに従って得ることが可能な多色ガラスセラミックブランク。
【請求項17】
歯科材料として、そして好ましくは歯科用修復物の調製のための、請求項16に記載の多色ブランクの使用。
【請求項18】
歯科用修復物の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(i)請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセスが実施されて、多色ガラスセラミックブランクを生成し、
(ii)該多色ガラスセラミックブランクが、機械加工によって、該歯科用修復物の形状を与えられ、そして
(iii)少なくとも1回の加熱処理が、750℃より高い温度、好ましくは800~900℃の温度で実施される、
プロセス。
【請求項19】
工程(iii)において、前記加熱処理は、主結晶相としての二ケイ酸リチウムの形成を行う、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
工程(ii)において、前記機械加工は、コンピュータ制御ミーリングおよび/または研削デバイスを用いて行われる、請求項18または19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記歯科用修復物は、クラウン、支台、インレー、アンレー、前装、咬合局面、ブリッジおよびキャップの群から選択される、請求項18~20のいずれか1項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然の歯の材料の光学特性を非常に良好に模倣し得、そして非常に良好な光学特性および機械特性を有する美的要求が厳しい歯科用修復物の簡単な製造のために特に適している、多色ガラスセラミックブランクが、簡単な方法で製造され得るプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科技術の分野において使用するための種々の要件を満たすブランクを作製することは、大きな困難を提示する。このようなブランクは、製造が簡単であるべきであるのみならず、所望の歯科用修復物を形作ることもまた簡単であるべきであり、そして依然として、高い強度の修復物を得るべきである。最後に、これらのブランクは、これらから製造される修復物が、自然の歯の材料の光学特性に非常に近い光学特性を有することにより、これらの修復物のその後の高価な被覆(veneering)が省略できるような構造をすでに有するべきである。これは、同じ歯の異なる領域が一般に、その色および半透明性の観点で互いに異なるという点で、自然の歯が単色ではなく、複雑な色合いを有することに起因する。
【0003】
歯科技術において使用するためのブランクは、従来技術から公知である。
【0004】
ドイツ国特許出願公開第103 36 913号A1は、メタケイ酸リチウムガラスセラミックをベースとするブランクを記載し、これらのブランクは、注型出発ガラス、いわゆる固体ガラスブランクまたはモノリシックガラスブランクからの、ガラスブランクの加熱処理によって製造される。従って、この手順は、「固体ガラス技術」とも称される。製造されたブランクは、それらの比較的低い強度に起因して簡単な方法で機械加工され得、そしてさらなる加熱処理によって、二ケイ酸リチウムガラスセラミックをベースとする高強度の歯科用修復物に転換され得る。しかし、製造されるブランクは、単色のみのブランクであり、従ってまた、単色の歯科用修復物をもたらすのみである。従って、多色での彩色を施すためには、調製された歯科用修復物の、その後の高価な被覆もまた必要とされる。
【0005】
H.Zhangらは、J.Am.Ceram.Soc.98;3659-3662(2015)において、特別なガラス粉末の、760℃で30分間の、30MPaの圧力を使用するホットプレスによる、メタケイ酸リチウムガラスセラミックの製造を記載する。このプロセスにおいて、明らかに優勢に、表面結晶化が起こる。これはおそらく、このガラスセラミックの855℃でのさらなる加熱処理により得られる二ケイ酸リチウムガラスセラミックの低い曲げ強さの理由である。
【0006】
国際公開第2014/124879号は、様々に着色されたモノリシック層を有する、多色ケイ酸リチウムブランクを記載する。その製造のために、例えば、既存の固体ガラス層の上に別の色のガラスの融解物を注ぎ、その後、加熱処理することによって、様々に着色された固体ガラスの層が、互いに接合される。しかし、置き換えられるべき自然の歯の材料の光学特性との良好な一致のためには、全体として一連の、様々に着色された固体ガラス層を提供することが必要であり、このことは、記載される手順を使用する場合に、非常に高価であり、そして時間がかかる。さらに、この方法で連続的な色勾配を模倣することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】ドイツ国特許出願公開第103 36 913号明細書
【文献】国際公開第2014/124879号
【非特許文献】
【0008】
【文献】H.Zhangら、J.Am.Ceram.Soc.98;3659-3662(2015)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
ケイ酸リチウムを主結晶相として有する、歯科目的のための多色ガラスセラミックブランクの調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(a)(i)ケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末、または(ii)ケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末の液体媒体中の懸濁物が、型に導入されて、ガラスブランクを形成し、
(b)必要に応じて、工程(a)からの該ガラスブランクが、加圧により成形され、
(c)工程(a)または(b)からの該ガラスブランクが加熱処理されて、ケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックブランクを得、そして
(d)工程(c)からの該ガラスセラミックブランクが、ホットプレスにより成形される、
プロセス。
(項目2)
工程(a)において、粉末が前記型に導入され、そして工程(b)が実施される、上記項目に記載のプロセス。
(項目3)
工程(a)において、懸濁物が前記型に導入され、そして前記液体媒体が除去される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目4)
工程(a)において、前記粉末または懸濁物が、調製される前記多色ガラスセラミックブランクが連続的に変化する色を有する方法で、前記型に導入される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目5)
工程(a)において、前記粉末(i)は、0.5から150μmまで、好ましくは1~100μmの粒子サイズを有し、そして前記懸濁物(ii)の前記粉末は、0.5から80μmまで、好ましくは0.5~70μmの粒子サイズを有し、そして/または前記粉末(i)および前記粉末(ii)は、d50値として、5から30μm、好ましくは10~20μmの平均粒子サイズを有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目6)
工程(b)において、前記加圧は、60℃未満、好ましくは15~35℃の温度で、そして特に20から120MPaまで、好ましくは50~120MPaの圧力で行われる、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目7)
工程(c)において、前記加熱処理は、700℃未満、好ましくは550℃~690℃の温度で、そして特に2から60分間まで、好ましくは5~30分間の時間にわたって行われる、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目8)
工程(d)において、前記ホットプレスは、650から780℃まで、特に700~750℃の温度で、そして特に5から50MPaまで、好ましくは10~30MPaの圧力で行われる、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目9)
工程(d)において、前記ホットプレスは、0.1から10分間、好ましくは0.3~5分間の時間にわたって行われる、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目10)
工程(d)において、前記ホットプレスは、0.1bar未満、そして好ましくは0.01から0.08barまでの大気圧で行われる、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目11)
前記多色ガラスセラミックブランクは、メタケイ酸リチウムを主結晶相として有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目12)
前記多色ガラスセラミックブランクは、10重量%より多く、好ましくは20重量%より多く、そして特に好ましくは25重量%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目13)
前記多色ガラスセラミックブランクは、2.4から2.6まで、そして特に2.44~2.56g/cmの密度を有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目14)
前記多色ガラスセラミックブランクは、下記の成分:
成分 重量%
SiO 64.0~75.0
LiO 13.0~17.0
O 0~5.0
Al 0.5~5.0
2.0~5.0
のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを、示される量で含有する、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目15)
前記多色ガラスセラミックブランクは、下記の成分:
成分 重量%
SiO 64.0~75.0
LiO 13.0~17.0
O 0~5.0
Al 0.5~5.0
2.0~5.0
ZrO 0~5.0
MgO 0~5.0
SrO 0~5.0
ZnO 0~5.0
F 0~1.0
着色および/または蛍光成分 0~10.0
のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを、示される量で含有し、ここで該着色および/または蛍光成分は、Sn、Ce、V、Mn、Co、Ni、Cu、Fe、Cr、Tb、Eu、ErおよびPrの酸化物の群から特に選択される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目16)
上記項目のいずれかに記載のプロセスに従って得ることが可能な多色ガラスセラミックブランク。
(項目17)
歯科材料として、そして好ましくは歯科用修復物の調製のための、上記項目に記載の多色ブランクの使用。
(項目18)
歯科用修復物の調製のためのプロセスであって、該プロセスにおいて、
(i)上記項目のいずれかに記載のプロセスが実施されて、多色ガラスセラミックブランクを生成し、
(ii)該多色ガラスセラミックブランクが、機械加工によって、該歯科用修復物の形状を与えられ、そして
(iii)少なくとも1回の加熱処理が、750℃より高い温度、好ましくは800~900℃の温度で実施される、
プロセス。
(項目19)
工程(iii)において、前記加熱処理は、主結晶相としての二ケイ酸リチウムの形成を行う、上記項目に記載のプロセス。
(項目20)
工程(ii)において、前記機械加工は、コンピュータ制御ミーリングおよび/または研削デバイスを用いて行われる、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
(項目21)
前記歯科用修復物は、クラウン、支台、インレー、アンレー、前装、咬合局面、ブリッジおよびキャップの群から選択される、上記項目のいずれかに記載のプロセス。
【0010】
摘要
歯科目的のための多色ガラスセラミックブランクの調製のためのプロセスが記載され、このプロセスにおいて、様々な組成を有するケイ酸リチウムガラスが、ガラスブランクを形成する目的で型に導入され、このガラスブランクは、必要に応じて、加圧により成形され、このガラスブランクは、ケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックブランクを得る目的で加熱処理され、そしてこのガラスセラミックブランクは、ホットプレスにより成形される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明により、従来のプロセスに関して記載された問題が回避される。本発明の課題は特に、自然の歯の材料の光学特性を非常に良好に模倣し得、最終的に望まれる歯科用修復物の形状を簡単な方法で機械加工により与えられ得、そして形状を与えられた後に、優れた機械特性および光学特性を有する歯科用修復物に転換され得る、多色ガラスセラミックブランクが、簡単な方法で製造され得るプロセスを提供することである。
【0012】
この課題は、請求項1~15によるプロセスによって達成される。本発明の主題はまた、請求項16による多色ガラスセラミックブランク、請求項17によるガラスセラミックブランクの使用、および請求項18~21による歯科用修復物の調製のためのプロセスである。
【0013】
歯科目的の、ケイ酸リチウムを主結晶相として有する多色ガラスセラミックブランクの調製のための、本発明によるプロセスは、
(a)(i)ケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末、または(ii)ケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末の液体媒体中の懸濁物が、型に導入されて、ガラスブランクを形成し、
(b)必要に応じて、工程(a)からのガラスブランクが、加圧により成形され、
(c)工程(a)または(b)からのガラスブランクが加熱処理されて、ケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックブランクを得、そして
(d)工程(c)からのガラスセラミックブランクが、ホットプレスにより成形される
ことを特徴とする。
【0014】
驚くべきことに、本発明によるプロセスは、非常に簡単な方法で多色にされ得、自然の歯の材料の光学特性を再現して特に連続的な色勾配を有し得るのみでなく、同時にまた、優れた機械特性を有する歯科用修復物の製造を可能にする、ガラスセラミックブランクの製造を可能にする。
【0015】
本発明により調製されるガラスセラミックブランクの、多色の性質は、これが様々な組成の領域を有し、これらの領域が、このブランクの加熱処理による所望の歯科用修復物への転換中に、様々な色の領域をもたらし、従ってこの歯科用修復物を多色にすることを意味する。色の差異はまた、半透明性、乳光および/または蛍光の差異を意味する。
【0016】
色は、特にLab値によって、または歯科産業において慣用的なシェードガイドの補助によって、決定され得る。
【0017】
半透明性は、特にコントラスト比(CR値)によって、英国規格BS 5612に従って決定され得る。
【0018】
乳光は、光度測定によって、特に国際公開第2014/209626号に記載されるように決定され得る。
【0019】
蛍光は、特に蛍光分光計(例えば、FL1039型蛍光分光計)によって、PMT 1424M型光電子増倍管検出器(両方、Horiba Jobin Yvon GmbH製)を使用して、決定され得る。
【0020】
本発明によるプロセスの工程(a)において、第一の変形例(i)においてはケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末、または第二の変形例(ii)においてはケイ酸リチウムガラスの様々な色の粉末の液体媒体中の懸濁物が、ガラスブランクを形成する目的で、型に導入される。
【0021】
様々な色の粉末とは、両方の変形例(i)および(ii)において、本発明に従って調製されたガラスセラミックブランクを経てさらに加工して歯科用修復物を形成する間に、この歯科用修復物において様々な色を有する領域を生じる、様々な組成を有する粉末を意味する。歯科用修復物のこの望ましい多色の性質は特に、連続的に変化する色、例えば色勾配および/または半透明性勾配であり得る。色および半透明性のこのような勾配は、通常、自然の歯の材料において、例えば、ぞうげ質と切縁との間で生じる。
【0022】
両方の変形例(i)および(ii)において使用されるケイ酸リチウムガラス粉末の様々な彩色は、ケイ酸リチウムガラスの様々な組成によって、または添加剤(例えば、色成分および/もしくは蛍光成分)をガラス中に混合することによってもまた、生じ得る。このことは、本発明によるプロセスの特定の利点を代表する。なぜなら、この方法で、これらの粉末の様々な彩色が、ガラスの成分(例えば、着色イオン)によってのみでなく、顔料(例えば、色顔料および/または蛍光顔料)をガラスに添加することによってもまた、達成され得るからである。逆に、いわゆる固体ガラス技術(すなわち、注型モノリシックガラスブランクの使用)を使用する場合には、彩色は、イオンによる着色によってのみ可能である。
【0023】
ケイ酸リチウムガラスの製造のために、適切な出発材料(例えば、カーボネート、酸化物、ホスフェートおよびフッ化物)の混合物が、通常、最初に、特に1300から1600℃までの温度で1~10時間融解される。次いで、得られたガラス融解物が、ガラスフリットを製造する目的で、水中に注がれる。特に高度な均質性を達成する目的で、このガラスフリットは再度融解され得、そして得られたガラス融解物が、水中に注がれることによって、再度ガラスフリットに転換され得る。最後に、このガラスフリットは、所望の粒子サイズを有する粉末に粉砕される。このために適切なミルは、例えば、ローラーミル、ボールミルまたは対向ジェットミルである。次いで、第一の変形例(i)および第二の変形例(ii)のための異なる粉末を製造する目的で、添加剤が、得られた粉末に添加され得る。
【0024】
第一の変形例(i)の粉末は、例えば、色顔料および/または蛍光顔料(例えばセラミック顔料)、成形助剤、ならびに特に結合剤を、添加剤として含有し得る。これらの結合剤は、粉末粒子の凝集のために働き、従って、安定なガラスブランクを得ることを促進する。結合剤の好ましい例は、ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム)である。ポリエチレングリコールまたはステアレートが、好ましくは、成形助剤として使用される。
【0025】
ケイ酸リチウムガラスに加えて、第一の変形例(i)の粉末は通常、10重量%までの添加剤を含有する。好ましい添加剤として、色顔料および/または蛍光顔料は、代表的に0から5重量%までの量で使用され、成形助剤は、代表的に0から3重量%まで、好ましくは0~1重量%の量で使用され、そして結合剤は、代表的に0から5重量%まで、好ましくは0.3~3重量%の量で使用される。
【0026】
第二の変形例(ii)において使用される懸濁物の粉末は、色顔料および/または蛍光顔料を添加剤として含有し得、その種類および量は、変形例(i)について先に示されたとおりである。
【0027】
懸濁物の生成のために、これらの粉末は通常、液体媒体中に、特に水性媒体中に懸濁される。この液体媒体は、好ましくは、補助剤を含有し、例えば、結合剤、分散剤を、特に0から3重量%までの量で、粘度調整剤を、特に0から3重量%までの量で、そしてpH調整剤を、特に0から1重量%まで、好ましくは0.001~0.5重量%の量で、含有する。
【0028】
好ましい結合剤は、ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムである。ポリマーおよびレシチンが、適切な分散剤の例である。キサンタンガムおよびデンプンが、適切な粘度調整剤の例である。無機酸または有機酸、例えば酢酸および塩酸が、適切なpH調整剤の例である。
【0029】
懸濁物は、特に30~90重量%、そして好ましくは40~70重量%の粉末を含有する。
【0030】
本発明によるプロセスの工程(a)において、少なくとも2つの様々な色の粉末(i)、または様々な色の粉末の少なくとも2つの懸濁物(ii)が、使用される。
【0031】
異なる粉末(i)または異なる懸濁物(ii)が、ガラスセラミックブランクおよびそれから製造される歯科用修復物に所望の多色の性質をもたらす目的で、そして特に、色、半透明性および/または蛍光の所望の推移をもたらす目的で、適切な方法で型に導入される。これは通常、異なる粉末(i)または異なる懸濁物(ii)が、制御された方法で型に導入されることで達成される。例えば、異なる粉末または異なる懸濁物のいずれかの、適切に制御された混合によって、型に導入される混合物の組成の連続的な変化が達成され得、従って、連続的な色勾配が生じ得る。例えば、2つまたはそれより多くの異なる粉末は、最初に第一の粉末のみが添加され、これに、一定に増加する割合の少なくとも1つのさらなる粉末が次第に添加されるようにして、型に導入され得る。
【0032】
本発明によるプロセスの好ましい実施形態において、粉末(i)または懸濁物(ii)は、製造される多色ガラスセラミックブランクが、連続的に変化する色を有するような方法で、型に導入される。このようなガラスセラミックブランクを用いて、自然の歯の材料の色勾配が特に良好に再現され得る。
【0033】
本発明によるプロセスの好ましい実施形態において、工程(a)において、異なる粉末(i)が型に導入され、そして必要に応じた工程(b)が実施される。工程(b)による加圧は、良好な強度を有するガラスブランクをもたらす。この加圧されたガラスブランクは、加圧された粉末粒子からなるので、粉末成形体とも称される。
【0034】
本発明によるプロセスの別の好ましい実施形態において、工程(a)において、異なる懸濁物(ii)が型に導入され、そしてその液体媒体が除去される。
【0035】
液体媒体の除去後に得られるガラスブランクは、一般的に、10~100℃での乾燥プロセスにさらに供される。その後に得られるガラスブランクもまた、通常、加圧によるさらなる成形なしでさえも、さらなる加工のために十分な強度を有することが、この実施形態の特定の利点である。
【0036】
懸濁物(ii)は通常、細孔を有する型に導入される。この導入は通常、注ぎ込みによって行われる。これらの細孔は、それを通って液体媒体が少なくとも部分的に懸濁物から除去され得る開口部であり、その結果、粉末粒子が型内に堆積し得、そして最終的に、ガラスブランクを形成し得る。
【0037】
代表的に、実質的に全ての液体媒体が、これらの細孔を通して除去される。しかし、これらの細孔を通して除去されずに残った液体が、この型から注ぎ出されるか、または吸引により出されることもまた、可能である。これは通常、粉末粒子の十分に厚い層がすでに堆積されている場合に、可能である。
【0038】
型は、例えば、スリップ注型または圧力注型のプロセスのために通常使用される型のうちの1つであり得る。これらは特に、石膏製の壁を有する型であり、石膏の細孔の毛管作用に起因して、水などの液体媒体がこの壁を通って懸濁物から除去され得る。しかし、すでに細孔を有するか、または(膜フィルタ、濾紙もしくは焼結フィルタなどのフィルタ要素を与えることにより)細孔が与えられた、プラスチック、セラミックまたは金属製の型もまた使用され得る。
【0039】
使用される型は特に、形成されたブランクをこの型から簡単に取り出すことを容易にする目的で、数個の部品からなる。特に好ましい実施形態において、この型は接続部を有し、この接続部を通して、圧力が、例えば圧縮空気によって、導入された懸濁物に付与され得、そして/または負圧が、細孔に与えられ得る。両方の方法が、型からの液体媒体の除去を促進し、従ってこのプロセスを短縮する役に立つ。その助けにより、非常に迅速であり、従って経済的な、ガラスブランクの製造が可能であり、このことは、特に産業規模で製造する場合に特に有利である。
【0040】
さらに、液体媒体の除去はまた、凍結乾燥によって行われ得る。この目的で、スリップ注型により製造されたガラスブランクは、細孔がない(dense)が可撓性の型(例えば、シリコーン製)内で、その懸濁物の液体成分が凍結する温度まで冷却される。その後の、これらの液体の減圧での昇華により、この液体の除去、従って完全な乾燥が、行われる。この場合、そのブランクを乾燥させるための別の加熱処理は、通常、もはや必要ではない。
【0041】
本発明によるプロセスのさらに好ましい実施形態において、ISO 13320(2009)に従ってレーザー回折により測定すると、粉末(i)は、0.5から150μmまで、特に1~100μmの粒子サイズを有し、そして懸濁物(ii)の粉末は、0.5から80μmまで、特に0.5~70μmの粒子サイズを有する。粒子サイズを決定するために使用されるサンプルは、特にDIN ISO 14887(2010)に従って製造され、このとき、これらのサンプルを分散させる目的で、水を溶媒として使用した。
【0042】
粉末(i)および(ii)のd50値としての平均粒子サイズは、ISO 13320(2009)に従ってレーザー回折により測定される体積割合に基づいて決定すると、5~30μm、好ましくは10~20μmである。
【0043】
工程(a)において形成されるガラスブランクは、通常、ブロック、円柱または円板の形状である。なぜなら、このような幾何学的形状のブランクは、所望の歯科用修復物の形状を通常の加工機械で容易に与えられ得るからである。このブランクはまた、このブランクと一体に形成された保持デバイス(例えば、保持ピン)をすでに有し得、これにより、例えば接着によって後で取り付けることを不必要にする。
【0044】
従って、使用される型もまた、通常、このようなブランクの製造を可能にする幾何学的形状を有する。これらの型は、製造されたブランクのより容易な取り出しのために一部品であってもよく、数個の部品(特に3個の部品)からなってもよい。
【0045】
本発明によるプロセスの必要に応じた工程(b)において、工程(a)からのガラスブランクは、加圧により成形される。工程(a)において使用される第一の変形例(i)の粉末は、この必要に応じた工程に供されることが好ましい。
【0046】
工程(b)における加圧は、60℃未満、好ましくは15~35℃の温度で、そして特に20から120MPaまで、好ましくは50~120MPaの圧力で行われることが、さらに好ましい。この加圧は通常、室温で行われ、従って、冷間加圧とも称される。
【0047】
本発明によるプロセスの工程(c)において、工程(a)および(b)からのガラスブランクは、ケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックブランクを得る目的で、加熱処理される。この加熱処理を、700℃未満、好ましくは550~690℃の温度で、そして特に2から60分間まで、好ましくは5~30分間の時間にわたって実施することが好ましい。
【0048】
このガラスブランクは、この加熱処理の前に、通常、存在し得るあらゆる結合剤または他の有機添加剤を除去する目的で、特に400から450℃までの温度での脱結合(debinding)に供される。次いで、このガラスブランクは通常、加熱処理の温度まで直接加熱される。加熱処理の温度までの加熱、およびこの温度の維持は、ケイ酸リチウム、特にメタケイ酸リチウムの、主結晶相としての核の形成および結晶化をもたらす。
【0049】
本発明によるプロセスの工程(d)において、工程(c)からのガラスセラミックブランクは、ホットプレスにより成形される。この成形は、驚くべきことに、固体ガラス技術によって従来の方法で製造されたガラスセラミックブランクの密度と実質的に異ならない密度を、ガラスセラミックブランクに与えることに成功する。ガラス粉末が、従っていわゆる「粉末技術」が、ガラスセラミックブランクを製造するために本発明によるプロセスにおいて使用されるが、固体ガラス技術においては、ガラス融解物が、モノリシックガラスブランクを形成する目的で型に注ぎ込まれ、これが加熱処理後に、所望のガラスセラミックブランクを与える。
【0050】
工程(d)におけるホットプレスは、好ましくは、ガラスが粘着しない型内で実施される。このような型のために適切な材料は、炭素をベースとする材料、および窒化物をベースとするセラミックである。適切な離型剤が、型と成形されるべきガラスセラミックブランクとの間に入れられる場合、金属材料も同様に適切である。
【0051】
このホットプレスは、650から780℃まで、特に700~750℃の温度で、そして特に5から50MPaまで、好ましくは10~30MPaの圧力で行われることが好ましい。
【0052】
このホットプレスは、0.1から10分間まで、好ましくは0.3~5分間の時間にわたって行われることが、さらに好ましい。本発明によるプロセスのさらなる利点は、優れた光学特性および機械特性を有する歯科用修復物が迅速かつ簡単な方法で製造され得るガラスセラミックブランクを製造するために、このような短時間でのホットプレスで十分であることである。
【0053】
さらに好ましい実施形態において、このホットプレスは、0.1bar未満、好ましくは0.01~0.08barの大気圧で行われる。
【0054】
ホットプレス後に得られる多色ガラスセラミックブランクは、好ましくは2.4から2.6g/cm3まで、そして特に2.44~2.56g/cm3の密度を有する。このブランクの密度の決定を、脱イオン水中で、アルキメデスの原理に従って行った。従って、本発明によるガラスセラミックブランクは、驚くべきことに、固体ガラス技術により製造された、対応する従来のブランクと類似の密度を有する。
【0055】
工程(a)、(b)および(c)の後に得られるガラスブランクおよびガラスセラミックブランクの場合、質量の決定を、秤量により行い、そして体積の決定を、ストリップ投影プロセス(strip projection process)(GOM GmbH,Germany製のATOS 3Dスキャナ)による光学測定により行った。次いで、密度を、式ρ=質量/体積に従って計算した。
【0056】
得られる多色ガラスセラミックブランクは、特にメタケイ酸リチウムを主結晶相として有する。このガラスセラミックブランクは、20重量%未満、特に10重量%未満、好ましくは5重量%未満、そしてなおより好ましくは3重量%未満の二ケイ酸リチウムを有することが、さらに好ましい。なぜなら、より多量の二ケイ酸リチウム結晶は、機械加工による成形を損ない得るからである。
【0057】
用語「主結晶相」とは、ガラスセラミック中に存在する全ての結晶相のうちで、質量基準で最も高い割合を有する結晶相をいう。これらの結晶相の質量は、特に、リートベルト法を使用して決定される。リートベルト法による結晶相の定量分析のために適切なプロセスは、例えば、M.Dittmerの博士論文「Glaeser und Glaskeramiken im System MgO-Al-SiO mit ZrO als Keimbildner」[Glasses and glass ceramics in the MgO-Al-SiOsystem with ZrOas nucleating agent],University of Jena 2011に記載されている。
【0058】
好ましい実施形態において、ガラスセラミックブランクは、10重量%より多く、好ましくは20重量%より多く、そして特に好ましくは25重量%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する。
【0059】
多色ガラスセラミックブランクは、特に、下記の成分のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを、示される量で含有する:
成分 重量%
SiO 64.0~75.0、好ましくは64.0~72.0
LiO 13.0~17.0、好ましくは13.5~16.0
O 0~5.0、好ましくは3.0~5.0
Al 0.5~5.0、好ましくは1.5~3.5
2.0~5.0、好ましくは2.5~4.0
【0060】
さらに好ましい実施形態において、多色ガラスセラミックブランクは、下記の成分のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを、示される量で含有する:
成分 重量%
SiO 64.0~75.0
LiO 13.0~17.0
O 0~5.0
Al 0.5~5.0
2.0~5.0
ZrO 0~5.0
MgO 0~5.0
SrO 0~5.0
ZnO 0~5.0
F 0~1.0
着色および/または蛍光成分 0~10.0、好ましくは0~7.0
ここで着色および/または蛍光成分は、Sn、Ce、V、Mn、Co、Ni、Cu、Fe、Cr、Tb、Eu、ErおよびPrの酸化物の群から特に選択される。
【0061】
本発明は同様に、本発明のプロセスに従って得ることができる多色ガラスセラミックブランクに関する。固体ガラス技術によって得られたブランクと比較して、本発明によるブランクは、多色での彩色を生成するためのかなり簡単な可能性により特徴付けられるのみでなく、より短時間で、工具の摩耗もより少ない、機械加工もまた可能である。このことは、今日望まれる高度に美的な歯科用修復物の、非常に迅速かつ費用効果的な製造において、特に重要な利点である。
【0062】
本発明によるブランクの記載された特定の特性に起因して、このブランクは、歯科学において、そして特に歯科材料として、そして好ましくは歯科用修復物の調製のために、使用するために特に適切である。従って、本発明はまた、このブランクの、歯科材料としての、そして好ましくは歯科用修復物の製造のための、そして特に、クラウン、支台、支台クラウン、インレー、アンレー、前装、咬合局面、ブリッジおよびキャップの製造のための、使用に関する。
【0063】
本発明はまた、最後に、歯科用修復物の調製のためのプロセスに関し、このプロセスにおいて、
(i)本発明による記載したプロセスを実施して、多色ガラスセラミックブランクを製造し、
(ii)この多色ガラスセラミックブランクが、機械加工によって、歯科用修復物の形状を与えられ、そして
(iii)750℃より高い温度、好ましくは800~900℃の温度での少なくとも1回の加熱処理が実施される。
【0064】
工程(ii)における機械加工は通常、材料除去プロセスによって、特にミーリングおよび/または研削によって行われる。この機械加工は、コンピュータ制御ミーリングおよび/または研削デバイスを用いて行われることが好ましい。このようなデバイスは当業者に公知であり、そして商業において慣用的でもある。
【0065】
このプロセスの好ましい実施形態において、工程(iii)における加熱処理は、主結晶相としての二ケイ酸リチウムの形成をもたらす。二ケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックは、自然の歯の材料の代わりとなる材料について要求されるような、優れた機械特性によって特徴付けられる。加熱処理によって製造されるガラスセラミックにおいて、結晶、および特に二ケイ酸リチウム結晶は、驚くべきことに、非常に均質に分布しているが、このガラスセラミックは、いわゆる固体ガラス技術(すなわち、注型モノリシックガラスブロックを使用する)を使用しては製造されなかった。
【0066】
工程(iii)が実施された後に、非常に良好な機械特性および高い化学安定性を有する歯科用修復物が存在する。さらに、その多色の性質に起因して、この歯科用修復物は、自然の歯の材料の光学特性、例えば、ぞうげ質から切縁への色勾配の優れた模倣を可能にする。
【0067】
得られる歯科用修復物は、ISO 6872:2008(ピストンオンスリーボール試験(piston-on-three-ball test)に従って決定される、少なくとも300MPa、特に360~600MPaの二軸曲げ強さσ、および/またはISO 6872:2008(SEVNB法)に従って決定される、少なくとも2.0MPa m1/2、特に2.1~2.5MPa m1/2の破壊靭性Klcを有することが好ましい。
【0068】
最後に、この歯科用修復物はまた、本発明によるガラスセラミックブランクから、実質的な収縮なしに製造され得る。このことは特に、本発明によるブランクが、特に2.4から2.6まで、好ましくは2.44~2.56という高い密度を有し、従って、非常に低い多孔性のみを有するという事実に基づく。この点で、本発明によるガラスセラミックブランクは、粉末技術による通常の方法で製造されるガラスセラミックブランク(これは通常、高い多孔性を有する)とは異なる。従って、本発明によるブランクの使用によって、所望の寸法を正確に有する歯科用修復物が、特に簡単な方法で製造され得る。
【0069】
本発明によるプロセスにより製造される歯科用修復物は、好ましくは、クラウン、支台、インレー、アンレー、前装、咬合局面、ブリッジおよびキャップの群から選択される。
【0070】
本発明は、実施例を参照しながら以下にさらに詳細に記載される。
【実施例
【0071】
実施例は特に、色および半透明性の勾配を有する多色ガラスセラミックブロックの製造、ならびに歯科用修復物の製造のためのこれらの使用を説明する。
【0072】
実施例1~9
A.ケイ酸リチウムガラスの調製
最初に、表Iに示される組成を有する9つの異なるケイ酸リチウムガラスを製造し、これらのガラスを、ぞうげ質または歯の切縁のいずれかを再現するために使用した。同様に表Iに示される添加物を、これらのガラスに添加した。
【0073】
これらのガラスを製造するための、対応する原材料の混合物を最初に、1500℃で1.5時間にわたって融解させた。このとき、この融解は、気泡の形成も条痕の形成もなく、非常に容易に可能であった。各場合に、得られた融解物を水中に注ぐことによって、ガラスフリットを製造した。
【0074】
B.特性を決定するための単色ガラスセラミックブロックの調製
これらのガラスフリットを、最初に、FM 2/2ローラーミル(Merz Aufbereitungstechnik GmbH,Germany)で、3mm未満のサイズまで粉砕し、次いでさらに、AFG 100対向ジェットミル(Hosokawa Alpine AG)で、15μm(d50値)のサイズまで粉砕して、各場合のガラス粉末を製造した。
【0075】
得られたガラス粉末を、GPCG 3.1スプレー顆粒化機(Glatt GmbH Germany)を使用して、1.0重量%の結合剤および0.5重量%の成形助剤を含む水性懸濁物を、流動床内でガラス粉末上に噴霧することによって、顆粒化した。
【0076】
次いで、顆粒化したガラス粉末を、ダイプレートならびに頂部パンチおよび底部パンチからなる3部品鋼型に導入して、各場合の単色ガラスブランクを製造した。
【0077】
これらの単色ガラスブランクを、静水圧プレスで、室温で、表IIに示される圧力で加圧することにより成形した。
【0078】
成形されたブランクを、N11/HR焼成炉(Nabertherm GmbH,Germany)で、表IIに示される条件下で脱結合し、そして結晶化させて、メタケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックブランクを形成した。次いで、これらのガラスセラミックブランクを、DSP 515圧力焼成プレス(Dr.Fritsch Sondermaschinenbau GmbH,Germany)で、同様に表IIに示される条件下でホットプレスした。得られたガラスセラミックブランクの密度を、アルキメデスの原理に従って測定し、そしてそれらのメタケイ酸リチウム含有量をまた、リートベルト解析を使用してX線回折実験により決定した。得られた値を表IIに列挙する。
【0079】
最後に、これらのブランクを、同様に表IIに示される条件下でさらに結晶化させて、二ケイ酸リチウムを主結晶相として生成した。この方法で製造された二ケイ酸リチウムブランクは、同様に表IIに示される特性を有した。二軸曲げ強さσを、ISO 6872:2015(ピストンオンスリーボール試験)に従って測定し、そして破壊靭性Klcを、ISO 6872:2015(SEVNB法)に従って決定した。Lab値およびコントラスト比(CR値)を決定するために、Konica Minolta製のCM-3700d分光光度計を使用した。ここでコントラスト比を英国規格BS 5612に従って決定した。密度を、アルキメデスの原理に従って決定し、そしてそれらのメタケイ酸リチウム含有量および二ケイ酸リチウム含有量を、リートベルト解析を使用してX線回折実験により測定した。
【0080】
粉末技術により製造されたこれらの二ケイ酸リチウムブランクの曲げ強さは、驚くべきことに、非常に高く、そして固体ガラス技術により従来の方法で製造され、通常は少なくとも360MPaの強度を有する、二ケイ酸リチウムガラスセラミックの曲げ強さに匹敵した。
【0081】
二ケイ酸リチウムブランクの破壊靭性もまた、驚くべきことに、固体ガラス技術により従来の方法で製造され、代表的に2.2から2.3MPa m1/2までの破壊靭性を有する二ケイ酸リチウムガラスセラミックの破壊靭性に、完全に匹敵した。
【0082】
C.多色ガラスセラミックブロックの調製
a)実施例1および2によるガラス粉末の勾配ブロック
多色ガラスセラミックブロックを製造するために、実施例1に従って顆粒化したガラス粉末を使用して、ぞうげ質を再現し、そして実施例2に従って顆粒化したガラス粉末を使用して、切縁を再現した。
【0083】
これらの顆粒化した粉末を、上記B.の項目で説明した方法と同じ方法で製造した。次いで、これらの粉末を、B.の項目で記載した3部品鋼型に、色および半透明性の段階的な推移を有するガラスブランクが製造されるような方法で段階的に添加して混合するためのデバイスを使用して、導入した。次いで、これらのガラスブランクを、メタケイ酸リチウムを主結晶相として有するガラスセラミックブロックに、上記B.の項目で説明された方法で転換した。
【0084】
得られた多色ガラスセラミックブロックをCAD/CAMユニットで機械加工して、クラウンを形成した。このために、これらのブロックに適切なホルダを与え、次いでinLab MC XL研削ユニット(Sirona Dental GmbH,Germany)で所望の形状を与えた。これらのブロックを加工するために、市販のe.max CADブロック(Ivoclar Vivadent,Liechtenstein)と同じ研削パラメータを使用することができた。
【0085】
これらのガラスセラミックブロックの機械加工性を、固体ガラス技術により製造されたe.max CAD LT型の市販のガラスセラミックブロック(Ivoclar Vivadent AG,Liechtenstein)と比較して試験した。工具寿命も同様に試験した。このために、常に同じ臼歯のクラウンを、inLab MC XL研削ユニットで、ホルダを備える同じ寸法のブロックから研削し、そして開始からプロセスの終了までの時間を決定した。工具寿命については、このユニットが最初の工具交換の必要性を示すまでに製造することができたクラウンの数を、決定した。
【0086】
本発明によるガラスセラミックブロックは、少なくとも10%速く機械加工され得た点、および工具寿命が少なくとも35%長い点で、市販のブロックより優れていることが示された。
【0087】
これらの好ましい特性は、本発明によるガラスセラミックブロックを、歯科用修復物の光学特性および機械特性の両方の観点で非常に高い要求を満たす歯科用修復物を非常に迅速に患者に供給すると定める。
【0088】
b)実施例3および4によるガラス粉末の勾配ブロック
多色ガラスセラミックブロックを、上記a)の項目で記載された方法と同じ方法で製造した。ここで唯一の差異は、実施例3によるガラス粉末を使用してぞうげ質を再現し、そして実施例4によるガラス粉末を使用して切縁を再現したことである。
【0089】
これらのガラスセラミックブロックもまた、より迅速に機械加工され得、そして工具寿命がより長かった点で、市販のブロックより明らかに優れていた。
【0090】
これらの好ましい特性は、a)およびb)と類似であるが、使用したガラス粉末のうちの少なくとも1つが表Iに列挙される別のガラス粉末で置き換えられて製造されたガラスセラミックブロックによってもまた示された。
【0091】
D.歯科用修復物の製造のための加熱処理
次いで、C.の項目で得られた、機械加工されたブロックを、840℃で7分間にわたる加熱処理に供した。次いで、得られたクラウンを室温までゆっくりと冷却した。X線回折試験は、これらが二ケイ酸リチウムを主結晶相として有することを明らかにした。
【0092】
得られたクラウンは、高い強度を有した。さらに、これらは、ぞうげ質から切縁への、色および半透明性の連続的な勾配を示し、従って、自然の歯の材料の光学特性を優れた方法で再現した。
【0093】
a)に従う勾配ブロック(実施例1および2による粉末)から製造された二ケイ酸リチウムブロックについて、試験した12のサンプルの曲げ強さの平均値は、403.82MPaであり、標準偏差は55.16MPaであった。これらの二ケイ酸リチウムブロックの、試験した6つのサンプルの破壊靭性の平均値は、2.27MPa m1/2であり、標準偏差は0.15MPa m1/2であった。
【0094】
b)に従う勾配ブロック(実施例3および4による粉末)から製造された二ケイ酸リチウムブロックについて、試験した12のサンプルの曲げ強さの平均値は、470.57MPaであり、標準偏差は100.66MPaであった。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】