(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤及びそれを含有するポリオレフィン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20240510BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240510BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20240510BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20240510BHJP
C09K 3/16 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L71/02
C08K5/521
C08K5/103
C09K3/16 102H
C09K3/16 107A
C09K3/16 102E
(21)【出願番号】P 2019227761
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-000033(JP,A)
【文献】特開2001-106839(JP,A)
【文献】特開2006-161012(JP,A)
【文献】特開平08-012812(JP,A)
【文献】特開2002-256105(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103333405(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112812402(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00- 101/14
C08J 5/18
C09K 3/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C):
1分子中に存在するエチレンオキシドの総数が10以上であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)
下記化学式(1)で表されるリン酸エステル化合物(B)
【化1】
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、nは1~10で示される平均付加モル数であり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
グリセリン脂肪酸エステル(C)
を
、成分(A)が20~60質量%、成分(B)が8~40質量%、成分(C)が20~50質量%の割合で含有してなる、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を0.01~3.0質量部配合してなる、ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項4】
請求項2に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤及びそれを含有するポリオレフィン系樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、帯電防止性と水性インキに対する印刷適性、及び滑り性に優れたポリオレフィン系樹脂組成物を得るのに好適な帯電防止剤、及び該帯電防止剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、透明性や防湿性、機械的強度等に優れ、また安価であることから、様々な用途で使用されるが、電気の不導体であるが故に静電気がなかなか逃げず帯電しやすい。その為、樹脂成型体表面に塵や埃が付着して成型品の汚れなどの帯電による障害は数多い。又、ポリオレフィン系樹脂は表面の疎水性が極めて高いため耐水性は優れているが、反面、疎水性であるが故に、表面に水分が付着した場合、その水分は樹脂表面でぬれの現象を全く示さない。この欠点は例えば、ポリオレフィン系樹脂フィルムに水性インキを印刷する場合にインキがフィルム表面に付着せずはじいてしまうことで、良好な印刷が達成されないことに現れる。
【0003】
上記の問題を解決するための方法の一つとして、ポリオレフィンフィルムに帯電防止剤を添加し、これらの帯電防止剤をポリオレフィンフィルム表面にブリードさせることにより、フィルム表面に帯電防止性と親水性を付与する方法が用いられてきた。例えば二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム用の帯電防止剤としては、従来グリセリン脂肪酸エステルと脂肪族ジエタノールアミン脂肪酸エステルが併用されている(特許文献1~3参照)。
【0004】
しかしながら、グリセリン脂肪酸エステルと脂肪族ジエタノールアミン脂肪酸エステルは配合の加熱溶融時、或いはマスターバッチやフィルム等の成型加工時の熱により容易にエステル交換反応が進行し、グリセリン脂肪酸エステルからグリセリンが遊離する。遊離物は成型加工時の熱により発煙し、更に押出機のダイスやロール、或いはテンター内等に堆積してフィルムに付着し、品質不良の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭60-57461号公報
【文献】特開2000-7854号公報
【文献】特開2003-268166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術における問題を解決することを目的とするものであって、帯電防止性を損なうことなく、成形加工時において発煙がほとんど生じないポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を開発し、その帯電防止剤を用いて、帯電防止性と水性インキに対する印刷適性、および成形体表面の滑り性に優れた帯電防止剤を開発し、その帯電防止剤を用いて、水性インキに対する印刷が可能で、帯電防止性能、および滑り性にも優れたポリオレフィン系樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]次の成分(A)、(B)及び(C):
ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)
下記化学式(1)で表されるリン酸エステル化合物(B)
【化1】
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、nは1~10で示される平均付加モル数であり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
グリセリン脂肪酸エステル(C)
を含有してなる、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
[2]ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を0.01~3.0質量部配合してなる、ポリオレフィン系樹脂組成物。
[3][2]に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
[4][2]に記載のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の帯電防止剤は、成形加工時において発煙がほとんど生じず、ポリオレフィン系樹脂組成物に対して、少ない添加量でも帯電防止性と水性インキに対する優れた印刷適性、および優れた滑り性を付与することができる効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)は、例えば、ソルビトール又はソルビタンと脂肪酸との部分エステルであるソルビタン脂肪酸エステルにアルキレンオキシドを付加することにより得ることができるが、特にそれに限定されるものではなく、ソルビトール又はソルビタンにアルキレンオキシドを付加したものと、脂肪酸とをエステル化した反応物であってもよい。
【0011】
ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)を構成するポリオキシアルキレン基としては、親水性付与の観点から、ポリオキシエチレン基を含むものが好ましい。ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)の1分子中に存在するエチレンオキシドの総数は、水性インキに対する印刷適性の観点から、5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることがより好ましい、また、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、25以下であることがより好ましい。
【0012】
ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸は、適度なブリード性を付与する観点から、炭素数が10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、当該炭素数は22以下が好ましく、より好ましくは20以下であり、さらに好ましくは18以下である。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(A)を構成する脂肪酸の具体例としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられ、中でもラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、及びミリスチン酸から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0013】
本発明に用いるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)としては、水性インキに対する印刷適性の観点から、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、中でもポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、又はポリオキシエチレンソルビタンジ脂肪酸エステルが好ましく、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルがより好ましい。具体例としては、例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノミリステート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、及びポリオキシエチレン(10)ソルビタンモノステアレートから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでもポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノミリステート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、及びポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレートから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。なお、上記括弧内の数字は1分子内に存在するエチレンオキシド(C2H4O)の平均付加モル数を示す(以下同じ)。
【0014】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤において、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)の含有量は、帯電防止性や印刷適性の観点で好ましくは1~80質量%、より好ましくは10~70質量%、さらに好ましくは20~60質量%、特に好ましくは30~50質量%の割合で配合される。
【0015】
本発明で用いられるリン酸エステル化合物(B)は、下記の一般式(1)で表わされる化合物である。
【0016】
【化1】
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数であって1~10の数でありであり、mは1~3の整数であり、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。)
【0017】
炭素数1~24のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、1-アダマンチル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基(ミルスチル基)、ヘキサデシル基(パルミチル基)、オクタデシル基(ステアリル基)、イコシル基、ドコシル基(ベヘニル基)、テトラコシル基等が挙げられる。
炭素数2~24のアルケニル基としては、具体的には、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられ、これらは分岐構造、環状構造を有していてもよい。
置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、ナフチル基等の無置換のアリール基、炭素数1~24の炭化水素基、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルコキシ基等の置換基を有する前記アリール基が挙げられる。
これらの中でも、適度なブリード性を付与する観点から、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、特にドデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましい。
【0018】
前記一般式(1)中、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシエチレン基、1,2-または1,3-オキシプロピレン基、1,2-、1,3-または1,4-オキシブチレン基が挙げられる。これらの中でも、好ましいのはオキシエチレン基と1,2-オキシプロピレン基であり、特に好ましいのはオキシエチレン基である。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数であり、1~10の数であるが、帯電防止効果の観点から好ましくは1~6の数である。nが2以上の場合、n個のAOは同一でも異なっていてもよく、異なる場合は-(AO)n-はランダム付加、ブロック付加または交互付加のいずれの付加形式でもよい。mは1~3の整数であり、好ましくは1または2である。
【0019】
前記一般式(1)中、Mは水素原子、アルカリ金属、第2族金属、アンモニウム基、または有機アンモニウム基である。アルカリ金属としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等が挙げられ、第2族金属としては、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等が挙げられる。有機アンモニウム基とは、有機アミン由来のアンモニウム基であり、前記有機アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。これらのMの中でも、水素原子が好ましい。
【0020】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤において、リン酸エステル化合物(B)の含有量は、帯電防止性や印刷適性の観点で好ましくは1~80質量%、より好ましくは5~60質量%、さらに好ましくは8~40質量%、特に好ましくは10~30質量%の割合で配合される。
【0021】
グリセリン脂肪酸エステル(C)は、モノグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応、又はモノグリセリンと脂肪酸低級アルキルアルコールエステルとのエステル交換反応等の公知の方法によって得られるエステル化合物であって、好ましくはモノグリセリンと炭素数8~22の脂肪酸とから得られるモノグリセリンのモノ脂肪酸エステル化合物であるが、ジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステルが存在していても良い。これらは蒸留したものであってもよいし、未蒸留のまま使用してもよい。
【0022】
炭素数8~22の脂肪酸はカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸などが挙げられる。これらの中でも、帯電防止性、ブリード性の観点からラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が特に好ましい。
【0023】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤において、グリセリン脂肪酸エステル(C)の含有量は、帯電防止性や印刷適性の観点で好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは25~50質量%、特に好ましくは30~40質量%割合で配合される。
【0024】
本発明の帯電防止剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル(A)、リン酸エステル化合物(B)及びグリセリン脂肪酸エステル(C)以外の成分を含有していてもよい。例えば、リン酸エステル化合物(B)の未反応原料として残存する非イオン成分やリン酸、多価アルコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、その他公知の帯電防止剤が挙げられる。
【0025】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物に使用するポリオレフィン系樹脂は、特に限定されず、公知のものが用いられる。例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンの単独重合体、前記α-オレフィン同士の共重合体、前記α-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体とα-オレフィンとの共重合体、及びこれらの混合物等である。
具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリブテン-1、ブテン・エチレン共重合体が挙げられる。これら単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
前記α-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体としては、酢酸ビニル、マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等を挙げることが出来る。
【0026】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂とポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を含む。本発明のポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる帯電防止剤の含有量については、特に限定はないが、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部であり、より好ましくは0.05~2質量部、特に好ましくは0.10~1.5質量部である。この範囲内とすると、特に優れた帯電防止性と水性インキに対する印刷適性、及び滑り性を提供することができる。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂組成物は、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、一軸押出機及び多軸押出機などの公知の混合機又は押出機を用いてポリオレフィン系樹脂と本発明の帯電防止剤とを加熱混練する等により得ることができる。本発明の帯電防止剤を構成する(A)乃至(C)成分は、それぞれ別々にポリオレフィン系樹脂に添加してもよいが、予め混合してからポリオレフィン系樹脂に添加することもできる。ポリオレフィン樹脂の量に対し添加する帯電防止剤の量が少ないと、これらが樹脂中で均一に分散され難くなる。このため、予め高濃度の帯電防止剤を含むマスターバッチを作製し、これを帯電防止剤を含まないポリオレフィン樹脂と混練して所定含有量とするマスターバッチ法を採用することが好ましい。
【0028】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で通常ポリオレフィン系樹脂組成物に用いられる各種添加剤を添加することができる。各種添加剤としては、例えば、防曇剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、安定剤、スリップ剤、粘着性付与剤、アンチブロッキング剤などが挙げられる。
【0029】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなるフィルムも本発明の形態の一つである。ポリオレフィン系フィルムの製造方法としては、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が例示できるが、中でも、Tダイを用いて溶融混練して押し出すTダイ法が好ましい。Tダイ法の製法例としては、上記ポリオレフィン系樹脂組成物を押出機ホッパーに供給し、押出機を例えばシリンダー温度180~240℃、Tダイ温度200~230℃に加熱し、溶融混練して押し出し、20~40℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚さ100~500μmの未延伸シートを得る。フィルムに強度やその他の機能を付与する目的に共押出し法や、他のフィルムなどのラミネーションによる多層化もできる。
【0030】
未延伸シートの二軸延伸方法としては、テンター方式による同時二軸延伸法、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法のいずれでもよい。同時二軸延伸の代表例としては、上述の如く得られた未延伸シートを予熱・延伸温度70~90℃、熱固定温度100~150℃のテンターにて面倍率9~16倍に延伸しフィルムを得る。また、逐次二軸延伸の代表例としては、未延伸シートを駆動ロールの回転速度比によって縦方向にロール表面温度50~80℃、延伸倍率1.5~5倍で延伸し、引き続き連続して横方向に延伸温度50~90℃、延伸倍率1.5~8倍、熱固定温度100~150℃の条件下で延伸しフィルムを得る。
【0031】
本発明に係るポリオレフィン系フィルムの厚みは特に制限なく、用途、要求性能、価格等によって適宜設定すればよい。一般的には、10~100μm程度の厚さを例示できる。さらに、フィルムの印刷性、ラミネート性、コーティング適性等を向上させる目的で、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸処理等が挙げられ、いずれの方法も用いることができる。これらの中では、簡便さの点からコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。
【0032】
また、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、シート、ボトル、フィラメント、射出成形品など、あらゆる成形体に成形することもできる。
【実施例】
【0033】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に指定のない限り、配合量は質量部で示す。
【0034】
各評価項目の測定及び評価は、下記の方法により行った。
【0035】
(1)フィルム成形時の発煙
フィルム成形時の製膜機の押し出し機部分、テンター出口部分及び排気口からの発煙状態を目視により観察した。
〇・・・発煙をほぼ確認できない
×・・・発煙を確認
【0036】
(2)帯電防止性
製膜後45℃で24時間エージングしたフィルムを25℃、50%RH雰囲気下にて、高抵抗絶縁試験機(株式会社三菱ケミカルアナリテック社製、ハイレスタUP MCP-HT450)を用い、フィルムを主電極と対向電極との間に挟み、JIS-K-6911に従って印加電圧500Vにて表面固有抵抗値を測定した。
【0037】
(3)印刷適性評価
フィルムのコロナ放電処理面にグラビア印刷機を用いて、水系インキを印刷し、フィルム表面との転移性と接着性を評価した。
水系インキとして東洋インキ製造(株)製「アクワエコール」を専用の希釈溶剤を用いて固形分濃度20~30重量% 、アルコール濃度30%以下に希釈したものを使用した。
【0038】
(転移性評価)
転移性評価は印刷表面を光学顕微鏡にて観察し、ハジキ・インキの転移量を評価した。
評価基準
◎ : ハジキがまったく見られず、インキの転移量も多い
○ : 殆どハジキが見られず、多少インキの転写量も多い
△ : 多少ハジキが見られ、インキの転写量は普通
× : ハジキが多く、インキの転写量も少ない
× × : 非常にハジキが多く、インキの転写量も少ない
(接着性評価)
接着性評価はセロハンテープによる剥離試験で行った。印刷面に1mmの幅に剃刀で切れ目を11本縦横直角に入れ1mm角の碁盤目を100 個作る。その後、セロハンテープを碁盤目上に密着させた後剥離し、印刷面のインキ残存状態から接着性を評価した。
評価基準
◎ : インキの残存面積が95%以上
○ : インキの残存面積が90~95%
△ : インキの残存面積が70~90%
× : インキの残存面積が50~70%
× × : インキの残存面積が50%以下
【0039】
(4)滑り性
滑り性は、以下に示す動摩擦係数の値によって評価した。熱可塑性樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムについて、40℃ にて1日保管後の動摩擦係数(μd)を摩擦測定機TR-2(東洋精機製)を使用してJISK7125-ISO8295(プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験法)に従って測定する。なお、測定条件は温湿度20℃×45%、R.H.である。
◎ : 0.3μd以下
○ : 0.3~0.4μd
△ : 0.4~0.5μd
× : 0.5μd以上
【0040】
実施例1
ポリオレフィン樹脂として、メルトフローレートが3.0g/10分のホモポリプロピレン樹脂100部、帯電防止剤として、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンステアレート0.25部、ポリオキシエチレン(6)ドデシルエーテルリン酸0.10部およびグリセリンモノステアレート0.15部をヘンシェルミキサーにて混合した後、ペレタイザーを備えた二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得た。
【0041】
得られたポリプロピレン樹脂組成物からT-ダイ成形後、逐次二軸延伸によりフィルム成形し、厚み30μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、帯電防止性、印刷適性、および滑り性を上記方法に従って評価した。これらの結果を表1に示す。
【0042】
実施例2~7、比較例1、2
上記実施例1において、押出機に供給する帯電防止剤の種類および配合量を、それぞれ表1に記載のとおりとしたほかは、実施例1と同様にしてフィルム製造し、それぞれ評価した。評価結果を表1に示す。なお、表1中のPOEはポリオキシエチレンの略であり、カッコ内の数字はオキシエチレン基の平均付加モル数である。
【0043】
【0044】
実施例の結果より、本発明の帯電防止剤を配合した実施例1~7のポリプロピレン樹脂組成物は、いずれも帯電防止性、印刷適性、滑り性に優れるものであった。
これに対し、オレイルジエタノールアミンを併用した比較例1と2のポリプロピレン樹脂組成物は、フィルム成形時に発煙した。