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特許7486316唾液のIL-1ベータ及びMMP-9に基づく軽度の又は進行した歯周炎の診断
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  • 特許-唾液のIL-1ベータ及びMMP-9に基づく軽度の又は進行した歯周炎の診断 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】唾液のIL-1ベータ及びMMP-9に基づく軽度の又は進行した歯周炎の診断
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240510BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20240510BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G01N33/50 G
G01N33/68
C12M1/34 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019564128
(86)(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018063485
(87)【国際公開番号】W WO2018215528
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】17172735.7
(32)【優先日】2017-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18151696.4
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】コーイマン,ヘルベン
(72)【発明者】
【氏名】チャテジャ,サップリヨ
(72)【発明者】
【氏名】デ ヤヘル,マリニュス カレル ヨーハネス
(72)【発明者】
【氏名】ルマイレ,アミール フセイン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ハルトスカンプ,ミハエル アレックス
(72)【発明者】
【氏名】プレショー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ジョン
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0196941(US,A1)
【文献】特表2015-529333(JP,A)
【文献】米国特許第05736341(US,A)
【文献】特表2017-506069(JP,A)
【文献】Christoph A. Ramseier et al.,Identification of Pathogen and Host-Response Markers Correlated With Periodontal Disease,Journal of Periodontology,2009年,80(3),436-446
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN),
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するための体外での方法であって、
- 前記患者由来の唾液の試料において、インターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及びインターロイキン6(IL-6)の濃度を検出するステップと、
- 前記濃度を算術的に処理することによって得られた結合濃度を反映する試験値を決定するステップと、
- 前記試験値が、前記患者における軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を示しているかどうかを評価するように、前記試験値を、進行した歯周炎に伴う結合濃度を前記試験値と同じ様式で反映する閾値と比較するステップと、
を含み、
軽度の歯周炎は、≧8の歯にて5~7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有し、進行した歯周炎は、≧12の歯にて≧7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有する、方法。
【請求項2】
前記患者は、歯周炎を有することが知られている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記閾値は、1つ又は複数の参照試料中の前記IL-1β、MMP-9、及び、IL-6に対して決定された濃度に基づいており、各参照試料は、進行した歯周炎の存在と関連している、又は、
前記閾値は、軽度の歯周炎を有する対象由来の試料及び進行した歯周炎を有する対象由来の試料を含む一組の試料中の前記IL-1β、MMP-9、及び、IL-6の濃度に基づいている、
請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記結合濃度の値は、0から1の数字に算術的に処理される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
3つのバイオマーカーを組み合わせて患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するための前記3つのバイオマーカーとしての、患者の唾液の試料におけるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及びインターロイキン6(IL-6)の使用であって、
軽度の歯周炎は、≧8の歯にて5~7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有し、進行した歯周炎は、≧12の歯にて≧7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有する、使用。
【請求項6】
3つのバイオマーカーを組み合わせて患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するためのシステムであって、
- 前記患者の唾液の試料において、前記3つのバイオマーカーであるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及びインターロイキン6(IL-6)を検出することができ且つ検出するように適応した検出手段と、
- 前記IL-1β、MMP-9、及び、IL-6の決定された濃度から、軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有する患者の指標を決定することができ且つ決定するように適応したプロセッサと、
を含み、
軽度の歯周炎は、≧8の歯にて5~7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有し、進行した歯周炎は、≧12の歯にて≧7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有する、システム。
【請求項7】
口腔液試料を受けるための容器をさらに含み、前記容器は前記検出手段を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
- 前記指標をユーザに提示するためのユーザインタフェースと、
- 前記プロセッサから前記ユーザインタフェースへ前記指標を転送するための前記プロセッサと前記ユーザインタフェースとの間のデータ接続と、
をさらに含む、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサは、インターネットベースのアプリケーションによって機能することが可能にされる、請求項6乃至8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
3つのバイオマーカーを組み合わせて患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するためのキットであって、前記患者の唾液の試料における前記3つのバイオマーカーであるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及びインターロイキン6(IL-6)を検出するための1つ又は複数の検出試薬を含み、
前記1つ又は複数の検出試薬は、少なくとも3つの検出試薬である、インターロイキン1β(IL-1β)を検出するための第1の検出試薬、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)を検出するための第2の検出試薬、及び、インターロイキン6(IL-6)を検出するための第3の検出試薬を含み、及び/又は、
前記1つ又は複数の検出試薬は、固体支持体上に含まれ、
軽度の歯周炎は、≧8の歯にて5~7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有し、進行した歯周炎は、≧12の歯にて≧7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有する、キット。
【請求項11】
3つのバイオマーカーを組み合わせて、第1の時点tから第2の時点tまでの時間間隔にわたる、歯周炎を患う患者における歯周炎の状態の変化を決定するための体外での方法であって、tにて前記患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、及び、tにて前記患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、前記3つのバイオマーカーであるIL-1β、MMP-9、及び、IL-6の濃度を検出するステップと、前記濃度によって、軽度の歯周炎から進行した歯周炎への変化が決定されるステップとを含み、軽度の歯周炎は、≧8の歯にて5~7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有し、進行した歯周炎は、≧12の歯にて≧7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有する、方法。
【請求項12】
患者における軽度の歯周炎又は進行した歯周炎の存在を評価するために唾液の試料における3つのタンパク質を組み合わせて利用する方法であって、前記患者の唾液の試料において、前記3つのタンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及びインターロイキン6(IL-6)を検出するステップと、前記患者における軽度の歯周炎又は進行した歯周炎の存在を評価するために、前記試料における前記IL-1β、MMP-9、及び、IL-6の濃度を分析するステップとを含み、
軽度の歯周炎は、≧8の歯にて5~7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有し、進行した歯周炎は、≧12の歯にて≧7mmの隣接面プロービング深さ、>30%の%でのプロービング時の出血のスコアを有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔ケアの分野におけるものであり、歯周疾患の唾液ベースの診断に関係する。特に、本発明は、軽度の歯周炎を進行した歯周炎から区別するためのキット及び方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
歯周炎は、口腔微生物によって引き起こされ、硬組織(骨)及び軟組織(歯周靭帯)の進行性破壊によって特徴づけられ、最終的に歯のぐらつき及び喪失につながる慢性多因子性炎症疾患である。これは、歯肉組織の可逆的な感染及び炎症である歯肉炎から区別されることになる。炎症性歯周炎は最も蔓延している慢性ヒト疾患の1つであり、成人の歯の喪失の主な原因である。口腔衛生に対する歯周炎の実質的な悪影響に加えて、歯周炎が全身的結果をもたらし、(例えば、アテローム性動脈硬化、心発作等の)心疾患、糖尿病、妊娠合併症、関節リウマチ、及び呼吸器感染症を含むいくつかの全身性疾患の危険因子であるという証拠も増えている。
【0003】
従って、歯周疾患の早期且つ正確な診断が、口腔衛生の観点からも全体的な健康の観点からも重要である。
【0004】
歯周疾患は、一般的な歯科診療において依然として十分に診断されず(非特許文献1)、治療介入率は比較的低く、未治療の症例が相当量ある。現在の診断は、歯科医療従事者による口腔組織の状態(色、腫脹、プロービング時の出血の程度、ポケットの深さのプロービング、及び口腔X線による骨喪失)の不正確で主観的な臨床検査に依存する。これらの従来の方法は時間がかかり、使用される技術の一部(ポケット深さ、X線)は、現在の疾患活動性又はさらなる疾患に対する易罹患性ではなく、過去の疾患活動性等の歴史的事象を反映する。従って、好ましくは非専門家によっても実行され得るより客観的で速く正確で使いやすい診断法が望ましい。それによって、現在の疾患活動性、及び、おそらくさらなる歯周疾患に対する対象の易罹患性を測定することが望ましい。
【0005】
唾液又は口腔液は、長い間、口腔疾患及び一般疾患の診断用流体として提唱されてきた。また、ラブオンチップとも呼ばれる小型化されたバイオセンサの出現で、迅速なチェアサイドテストのためのポイントオブケア診断が、より大きな科学的及び臨床的関心を得てきた。特に歯周疾患の検出に対して、組織の炎症及び破壊に関連している炎症性バイオマーカーは、近接しているために容易に唾液中に入る可能性があり、唾液が歯周疾患の検出に対して強い可能性を有することを示唆している。従って、実際に、この分野は相当な関心を得ており、望みを与える結果が示されてきた。例えば、特許文献1は、歯周疾患及び/又はインプラント周囲疾患の確率を決定するためのバイオマーカーを測定する方法を記載しており、Ramseier等(非特許文献2)は、歯周疾患と相関する宿主により及び細菌的に得られるバイオマーカーを同定した。しかし、明確な試験はまだ現れていない。
【0006】
バイオマーカーは、臨床症状の根拠を与える生物学的指標を表し、そのようなものとして、歯周疾患の臨床転帰を診断するための客観的尺度である。最終的には、証明されたバイオマーカーを利用して、将来の疾患のリスクを評価する、非常に早期の段階の疾患を同定する、初期治療に対する応答を同定する、及び予防対策の実践を可能にすることができる。
【0007】
唾液のバイオマーカーに対するポイントオブケアテストの開発に対するこれまでの制限には、チェアサイドの応用に適応できる技術の欠如、及び、個々の試料における多数のバイオマーカーの分析ができないことが含まれていた。そのようなテストにおいてどの多数のバイオマーカーを含むかという選択も、文献において十分に扱われておらず、実用的試験においても実践されていない。
【0008】
さらに、歯周炎は、軽度から進行した疾患の形態に及ぶ重症度の範囲全体にわたってそれ自体が現れ得る。状態の重症度を容易に評価するために、歯科医は、2つの群、すなわち、軽度の歯周炎を患う患者、及び、進行した歯周炎を患う患者に歯周炎患者を分類することが多くある。しかし、そのような評価を行うための利用可能な方法は、歯科医が全ての患者及び/又は全ての来診時に日常的に行うことはなく、消費者が行うこと(自己診断)が不可能な重労働のプロセスを含む。
【0009】
よりシンプルなプロセス、特に、少量の唾液試料が患者から、及びおそらく患者自身によって採取されることのみを要求するプロセスを提供することが望ましい。そのような試料は、測定に基づいて、患者が軽度の歯周炎を患っているとして又は進行した歯周炎を患っているとして分類されることになる可能性の指標を戻すことができるように唾液試料の分類を可能にすることになる体外(in vitro)での診断装置に入れられることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】US2010/0196941
【非特許文献】
【0011】
【文献】Morgan RG (2001).Brit Dent J 191: 436-41
【文献】Ramseier et al. J Periodontol.2009 Mar;80(3):436-46
【文献】Harlow&Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988)
【発明の概要】
【0012】
上述の要望により良く取り組むために、本発明は、一態様において、患者(a human patient)が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するための体外での方法に関し、当該方法は、上記の患者由来の唾液の試料において、タンパク質である:インターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つの濃度を検出するステップ;上記のタンパク質に対して決定された結合濃度(joint concentration)を反映する試験値を決定するステップ;試験値が、上記の患者において軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を示しているかどうかを評価するように、試験値を、進行した歯周炎に伴う結合濃度を同じ様式で反映する閾値と比較するステップ;を含む。
【0013】
別の態様では、本発明は、患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するためのバイオマーカーとしての、患者の唾液試料における、タンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つの使用を示す。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するシステムに属し、当該システムは:
- 患者の唾液の試料において、タンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、インターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つを検出することができ且つ検出するように適応した検出手段;及び
- 上記のタンパク質の決定された濃度から、軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有する患者の指標を決定することができ且つ決定するように適応したプロセッサ;
を含む。
【0015】
当該システムは、任意的に、情報を示すことができ、好ましくは情報を入れることもできるインタフェース、特にグラフィカルユーザインタフェースへのデータ接続を有し、上記のインタフェースは、システムの一部であるか、又は、リモートインタフェースである。
【0016】
任意的に、上述のアイテムのうちの1つ又は複数、特にプロセッサは、「クラウド」で、すなわち、固定機械で機能するのではなく、インターネットベースのアプリケーションよって機能することが可能にされる。
【0017】
別のさらなる態様では、本発明は、患者の唾液の試料における歯周炎に対する少なくとも3つのバイオマーカーを検出するためのキットを提供し、当該キットは、インターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、インターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうちの1つを検出するための1つ又は複数の、典型的には3つの検出試薬を含む。典型的には、3つ以上の検出試薬が使用され、そのそれぞれが、異なるバイオマーカーに結合する。一実施形態において、第1の検出剤はIL-1βに結合することができ、第2の検出剤はMMP-9に結合することができ、さらに、第3の検出剤はIL-6及びMMP-3のうち1つに結合することができる。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、第1の時点tから第2の時点tまでの時間間隔にわたる、歯周炎を患う患者における歯周炎の状態の変化を決定するための体外での方法を提供し、当該方法は、tにて上記の患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、及び、tにて上記の患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、タンパク質である:IL-1β、MMP-9、及び、IL-6及びMMP-3のうち少なくとも1つの濃度を検出するステップと、その濃度を比較し、それによって、いずれか1つ、2つ、又は3つ全ての濃度の差が状態の変化を反映しているステップとを含む。
【0019】
さらなる態様では、本発明は、患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを診断する方法を提供し、当該方法は、患者の唾液の試料において、タンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つを検出するステップと、患者における軽度の歯周炎又は進行した歯周炎の存在を、上記の試料における上記のタンパク質の濃度に基づき評価するステップとを含む。任意的に、この態様の方法は、患者における歯周炎を治療するさらなるステップを含む。
【0020】
別のさらなる態様では、本発明は、軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を患う患者において、タンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つを検出する方法を提供し、当該方法は:
(a)患者から唾液試料を得るステップ;及び、
(b)試料を、上記のタンパク質に結合する1つ又は複数の検出試薬と接触させ、各タンパク質と1つ又は複数の検出試薬との結合を検出することによって、インターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、インターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つが試料中に存在するかどうかを検出するステップ;
を含む。典型的には、IL-1βに結合することができる第1の検出剤があり、第2の検出剤はMMP-9に結合することができ、さらに、第3の検出剤はIL-6及びMMP-3の1つに結合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示において記載される方法において使用するためのシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般的な意味では、本発明は、2つのカテゴリーのうちいずれかにあるとして歯周炎を分類するために、歯周炎を患う患者の唾液の試料におけるバイオマーカーとして役立ち得るタンパク質はわずか3つであり、1つのカテゴリーは進行した歯周炎であり、もう一方のカテゴリーは軽度又は中等度である(すなわち、進行していない、以前又は以降の「軽度の歯周炎」という用語は、特に明記しない限り、中等度の歯周炎を含むことになる)という賢明な洞察に基づいている。後者のカテゴリーは、以下において、ひとまとめに軽度の歯周炎として示されている。
【0023】
これらのタンパク質は、インターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、インターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のいずれか又は両方である。
【0024】
IL-1βは、サイトカインのインターロイキン1ファミリーのメンバーである。このサイトカインは、プロタンパク質として活性化されたマクロファージによって産生され、カスパーゼ1(CASP1/ICE)によってその活性型までタンパク質分解により処理される。このサイトカインは、炎症反応の重要なメディエーターであり、細胞の増殖、分化、及びアポトーシスを含む種々の細胞活性に関与している。
【0025】
IL-6は、炎症誘発性サイトカインとしても、抗炎症性マイオカインとしても作用するインターロイキンである。ヒトでは、IL-6遺伝子によってコードされる。
【0026】
インターロイキン6は、T細胞及びマクロファージによって分泌されて、例えば感染中及び外傷後、特に熱傷又は炎症をもたらす他の組織損傷後に免疫応答を刺激する。IL-6はまた、細菌の肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)に対する抵抗性に要求されることがマウスにおいて示されているように、感染と闘う役割も果たしている。加えて、骨芽細胞は、IL-6を分泌して、破骨細胞形成を刺激する。多くの血管の中膜における平滑筋細胞も、炎症誘発性サイトカインとしてIL-6を産生する。
【0027】
MMPは、コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニン、エラスチン、及びフィブロネクチン等の細胞外マトリックス成分の分解の原因となる酵素のファミリーであり、生理学的条件でも、病理学的条件でも、歯周靭帯(PDL)リモデリングにおいて中心的役割を果たす。MMP-3酵素は、コラーゲンのII型、III型、IV型、IX型、及びX型、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、及びエラスチンを分解する。92kDaIV型コラゲナーゼ、92kDaゼラチナーゼ、又はゼラチナーゼB(GELB)としても知られるMMP-9は、細胞外マトリックスの分解に関与する亜鉛メタロプロテアーゼファミリーに属する酵素のクラスのマトリキシンである。
【0028】
上述の4つのタンパク質は、当技術分野において知られている。当業者は、その構造を認識し、唾液試料等の水性試料におけるそれらのタンパク質を検出する方法を認識している。以下において、上述のタンパク質バイオマーカーは、ひとまとめに「本発明のバイオマーカーパネル」と呼ばれる。本発明のバイオマーカーパネルは、一実施形態において、本発明において同定される4つのタンパク質バイオマーカー、すなわち、IL-1β、IL-6、MMP-3、及びMMP-9から成る。好ましくは、本発明のバイオマーカーパネルは、本発明において同定されるタンパク質バイオマーカーのうち3つ以下、すなわち、IL-1β、IL-6、及びMMP-9、又は、IL-1β、MMP-3、及びMMP-9から成る。本発明のバイオマーカーパネルに加えて、他のバイオマーカー、及び/又は、(例えば、年齢、性別等の)人口統計学的データ等のデータを、歯周炎のタイプの決定に適用されるデータのセットに含めることができる。好ましい拡張されたバイオマーカーパネルは:
IL-1B+MMP-9+IL-6+MMP-3
IL-1B+MMP-9+IL-6+MMP-8
IL-1B+MMP-9+IL-6+MMP-3+MMP-8
IL-1B+MMP-9+IL-6+MMP-8+HGF(肝細胞増殖因子)
である。
【0029】
他のバイオマーカーが任意的に含まれる場合、バイオマーカーの総数(すなわち、本発明のバイオマーカーパネル+他のバイオマーカー)は、典型的には4、5、又は6である。
【0030】
しかし、本発明の望ましい利点は、好ましくは4つ以下のバイオマーカーを測定する、より好ましくは3つのみのバイオマーカーを測定することによって、患者における歯周炎の分類を決定することができることであり、IL-1β、IL-6、及びMMP-9のバイオマーカーパネルが好ましい。特に、この決定は、他のデータの使用を含むことを必要とせず、これは、有利に、シンプル且つ単刀直入の診断試験を提供する。
【0031】
当該方法は、必要に応じて、少量の唾液試料、例えば液滴サイズが対象から採取されるということのみを要求する。試料のサイズは、典型的には、1~2ml等、0.1μlから2mlに及ぶことになり、それによって、例えば0.1から100μl等のより少ない量を、体外での装置の処理に使用することができ、それによって、7.5から17ml等、20mlまで等のより大きな試料を採取することも可能である。
【0032】
この試料は体外での診断装置に入れられ、この装置は、関与する少なくとも3つのタンパク質の濃度を測定し、且つ、診断結果を戻して、軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有する可能性に基づき対象を分類する。
【0033】
本発明の使用の容易さは、歯周炎を有するか又は歯周炎に発展するリスクが高い歯科患者の大部分を、定期的に(例えば、定期的な歯科チェックの一部として又は自宅においてさえも)検査することを可能にすることになる。これによって、とりわけ、進行した歯周炎に進行する前に軽度の歯周炎の存在を検出することが可能であり、従って、口腔ケア処置をよりタイムリーに行って歯周炎が進行するのを防ぐことが可能になる。或いは、例えば、歯周炎のリスクが高いことが知られており、且つ、初めて検査した患者では、この方法によって、歯周炎が軽度であるか又は進行しているかどうかを同定することが可能である。また、この方法は、進行した歯周炎を有すると以前に診断された患者の治療後に適用して、歯周炎が軽度になるように改善したかどうかをチェックすることもできる。特に、この方法は、自己診断にも適しており、それによって、試料を採取し、それを装置に入れるステップを、患者自身により行うことができる。
【0034】
歯周炎が軽度であるか又は進行しているかどうかを決定するために本発明が実行される場合、患者は、典型的には、歯周炎を有していることが知られていてもよい。従って、特定の実施形態において、当該方法は、歯周炎を有するとして知られている患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するためのものである。
【0035】
本発明の方法は、典型的には、1つ又は複数の検出試薬を使用することによって、本発明のバイオマーカーパネルを構成する上述の少なくとも3つのタンパク質、及び任意のさらなるバイオマーカータンパク質を検出するステップを含む。
【0036】
本発明に従って検査される「唾液」は、唾吐き又はスワビングによって得ることができる無希釈の唾液、又は、流体で口をすすぐことによって得ることができる希釈した唾液であってもよい。希釈した唾液は、患者が(例えば、5ml又は10ml等の)滅菌水又は他の適した流体で数秒間、口をすすぐか又は洗い流し、さらに、容器に吐き出すことによって得られてもよい。希釈した唾液は、オーラルリンス液と呼ばれることがあり得る。
【0037】
「検出するステップ」が意味するものは、バイオマーカータンパク質の濃度を測定、定量化、スコア化、又はアッセイすることである。バイオマーカータンパク質を含む生物学的化合物を評価する方法は、当技術分野において知られている。タンパク質バイオマーカーを検出する方法には、直接測定及び間接測定が含まれるということが認識されている。当業者は、特定のバイオマーカータンパク質をアッセイする適切な方法を選択することができることになる。
【0038】
タンパク質バイオマーカーに関して「濃度」という用語には、その通常の意味、すなわち、体積中のタンパク質の存在量が与えられることになる。タンパク質濃度は、典型的には、体積当たりの質量で測定され、最も典型的にはmg/ml又はμg/mlであるが、pg/ml程に低いこともある。代替の尺度は、容積モル濃度(又はモル濃度)のmol/L又は「M」である。濃度は、既知の決定された又は予め決定された体積の試料におけるタンパク質の量を検出することによって決定することができる。
【0039】
濃度を決定することの代替案は、試料におけるタンパク質バイオマーカーの絶対量を決定するか、又は、例えば、試料における他の全てのタンパク質総量と比較したバイオマーカーの量等、試料におけるバイオマーカーの質量分率を決定することである。
【0040】
「検出試薬」は、関心のあるタンパク質バイオマーカーに特異的に(又は選択的に)結合する、それと相互作用する、又はそれを検出する薬剤又は化合物である。そのような検出試薬には、タンパク質バイオマーカーに優先的に結合する抗体、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体が含まれ得るが、それらに限定されない。
【0041】
「特異的に(又は選択的に)結合する」又は「特異的に(又は選択的に)免疫反応する」という語句は、検出試薬を言及する場合、タンパク質及び他の生物製剤の異種集団におけるタンパク質バイオマーカーの存在を決定するような結合反応を指す。従って、指定の免疫測定条件下では、特定された検出試薬(例えば、抗体等)は、バックグラウンドの少なくとも2倍特定のタンパク質に結合し、試料において存在する他のタンパク質には有意な量で実質的に結合しない。そのような条件下での特異的結合には、特定のタンパク質に対するその特異性のために選択された抗体が要求され得る。種々の免疫測定フォーマットを使用して、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択することができる。例えば、固相ELISA免疫測定法(酵素結合免疫吸着測定法)が、タンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために日常的に使用されている(例えば、特異的免疫反応性を決定するために使用することができる免疫測定フォーマット及び条件の説明に対して、非特許文献3を参照されたい)。典型的には、特異的又は選択的な反応は、バックグラウンド信号又はノイズの少なくとも2倍になり、より典型的には、バックグラウンドの10から100倍を超えることになる。
【0042】
「抗体」は、エピトープ(例えば、抗原等)に特異的に結合しそれを認識する、1つ又は複数の免疫グロブリン遺伝子又はその断片によって実質的にコードされるポリペプチドリガンドを指す。認識される免疫グロブリン遺伝子には、カッパー及びラムダの軽鎖定常部遺伝子、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、及びミューの重鎖定常部遺伝子、並びに、無数の免疫グロブリン遺伝子可変部遺伝子が含まれる。抗体は、例えば、未変化の免疫グロブリンとして、又は、様々なペプチダーゼを用いた消化によって産生される多数の十分に特徴付けられた断片として存在する。これには、例えば、Fab’及びF(ab)’2フラグメントが含まれる。「抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、抗体全体の修飾によって産生された抗体断片、又は、組換えDNA方法論を使用してde novoで合成されたものも含み、また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は単鎖抗体も含む。抗体の「Fc」部分は、免疫グロブリン重鎖のうち、1つ又は複数の重鎖定常部ドメインであるCH1、CH2、及びCH3を含むが、重鎖可変部を含まない部分を指す。抗体は、例えば、第1の抗原に特異的に結合する第1の可変部及び第2の異なる抗原に特異的に結合する第2の可変部を有する抗体等、二重特異性抗体であってもよい。少なくとも1つの二重特異性抗体の使用は、必要とされる検出剤の数を減らすことができる。
【0043】
診断方法は、その感度及び特異性において異なる。診断アッセイの「感度」は、検査で陽性反応が出た病気の個体の割合(「真陽性」のパーセント)である。このアッセイによって検出されない病気の個体は「偽陰性」である。病気ではなく、アッセイにおいて検査で陰性反応が出た対象は、「真陰性」と呼ばれる。診断アッセイの「特異性」は、1から偽陽性率を差し引いたものであり、ここで「偽陽性」率は、検査で陽性反応が出た病気を有していない者の割合として定義される。
【0044】
本発明の1つ又は複数のバイオマーカータンパク質は、任意の手段によって試料において検出することができる。バイオマーカー検出のための好ましい方法は、抗体ベースのアッセイ、タンパク質アレイアッセイ、質量分析(MS)ベースのアッセイ、及び(近)赤外分光法ベースのアッセイである。例えば、免疫測定法には、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」免疫測定法、免疫沈降法、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、及び蛍光免疫測定法等の技術を使用した競合的及び非競合的アッセイ系が含まれるが、これらに限定されない。そのようなアッセイはルーチンであり、当技術分野において良く知られている。例証的な免疫測定法は、以下に簡単に記載される(が、限定として意図されない)。
【0045】
免疫沈降プロトコルは、一般的に、プロテインホスファターゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム等)を追加したRIPAバッファー(1%NP-40又はTriton X-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15M NaCl、pH7.2の0.01M リン酸ナトリウム、1%Trasylol)等の溶解バッファーにおいて細胞の集団を溶解すること、細胞可溶化物に関心のある抗体を添加すること、4℃である期間(例えば1~4時間等)インキュベートすること、細胞可溶化物にタンパク質A及び/又はタンパク質Gのセファロースビーズを添加すること、4℃で約1時間以上インキュベートすること、溶解バッファーにおいてビーズを洗浄すること、及び、SDS/試料のバッファーにおいてビーズを再懸濁することを含む。特定の抗原を免疫沈降させる抗体の能力は、例えば、ウエスタンブロット分析によって評価することができる。当業者は、(例えば、セファロースビーズを用いて細胞可溶化物を前もってはっきりさせる等)抗原に対する抗体の結合を増やす、及び、バックグラウンドを減らすために修正することができるパラメータに関してよく知っているであろう。
【0046】
ウエスタンブロット分析は、一般的に、タンパク質試料の調製、(例えば、抗原の分子量に応じて8%~20%SDS-PAGE等の)ポリアクリルアミドゲルにおけるタンパク質試料の電気泳動、ポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDF、又はナイロン等のメンブレンへのタンパク質試料の移し、(例えば、3%BSA又は無脂肪ミルクを有するPBS等の)ブロッキング溶液におけるメンブレンのブロッキング、(例えば、PBS-Tween 20等の)洗浄バッファーにおけるメンブレンの洗浄、ブロッキングバッファーにおいて希釈された一次抗体(関心のある抗体)を用いたメンブレンのブロッキング、洗浄バッファーにおけるメンブレンの洗浄、ブロッキングバッファーにおいて希釈された(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ等の)酵素基質又は(例えば32P又は125I等の)放射性分子に結合した(例えば、抗ヒト抗体等、一次抗体を認識する)二次抗体を用いたメンブレンのブロッキング、洗浄バッファーにおけるメンブレンの洗浄、及び抗原の存在の検出を含む。当業者は、検出された信号を増やす、及び、バックグラウンドノイズを減らすために修正することができるパラメータに関してよく知っているであろう。
【0047】
ELISAは、典型的には、抗原(すなわち、関心のあるバイオマーカータンパク質又はその断片)の調製、抗原を用いた96ウェルマイクロタイタープレートのウェルの被覆、(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ等の)酵素基質等の検出可能な化合物に結合した関心のある抗体のウェルへの添加及びある期間のインキュベート、並びに、抗原の存在の検出を含む。ELISAにおいては、関心のある抗体を、検出可能な化合物に結合させる必要はなく;代わりに、検出可能な化合物に結合した(関心のある抗体を認識する)第2の抗体をウェルに添加することができる。さらに、抗原を用いてウェルを被覆する代わりに、抗体がウェルに被覆されてもよい。この場合、検出可能な化合物に結合した第2の抗体を、被覆されたウェルへの関心のある抗原の添加後に添加することができる。当業者は、検出されたシグナルを増やすために修正することができるパラメータだけでなく、当技術分野において知られたELISAの他のバリエーションに関してもよく知っているであろう。
【0048】
多数のマーカーが使用されるため、これらのバイオマーカーの結合濃度に基づき閾値が決定される。この閾値は、患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するとして分類されるかどうかを決定する。本発明は、上記のバイオマーカーの組み合わせの測定に基づき十分な精度で、軽度であるか又は進行しているとして歯周炎を検出することができるという洞察を反映する。
【0049】
この洞察は、患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するための、歯周炎を患う患者の唾液試料におけるバイオマーカーとしての、タンパク質であるIL-1β、MMP-9、及び、IL-6及びMMP-3のうち少なくとも1つの使用である、本発明の別の態様を支持する。
【0050】
この使用は、以前及び以降に実質的に記載される方法で実践することができる。
【0051】
本発明の方法は、上記のタンパク質に対して測定された結合濃度を反映する試験値を決定するステップを含む。結合濃度の値は、決定された濃度の入力及びこれらの値の算術演算によって得られる任意の値であり得る。これは、例えば、濃度のシンプルな加算であり得る。また、これらの濃度の所望の重みを反映する因数を用いた各濃度の乗算、従って、結果の合計も含み得る。また、濃度の互いの乗算、又は、乗算、除算、減算、べき乗、及び加算の任意の組み合わせも含み得る。さらに、ある冪(some power)への濃度の上昇(raising)も含み得る。
【0052】
結果として生じる結合濃度の値は、進行した歯周炎の存在に伴う結合濃度を同じ様式で反映する閾値と比較される。この比較によって、試験値が、唾液が検査を受けた患者における進行した歯周炎の存在又は軽度の歯周炎の存在を示すかどうかを評価することが可能である。
【0053】
閾値は、例えば、進行した歯周炎の存在に伴う参照試料における、すなわち、進行した歯周炎を有すると診断された患者における同じタンパク質に対して決定された濃度に基づき同じ様式で得られた結合濃度の値であり得る。典型的には、その結果、同じか又はそれ以上の結合濃度を反映した値が、検査した患者における進行した歯周炎の存在を示す。類似の方法で、検査した歯周炎患者の唾液においてより低い結合濃度を反映した値は、歯周炎が軽度又は中等度である(すなわち、進行していない)ということを示している。しかし、進行した歯周炎を示す試験値が閾値を下回り、軽度の歯周炎を示す試験値が閾値を上回るように、(例えば、負の乗数を使用することによって)閾値を計算することも可能であるということが理解されることになる。
【0054】
閾値は、進行した歯周炎、及び、進行していない(軽度及び/又は中等度の)歯周炎と診断された患者を含む一組の試料における本バイオマーカータンパク質の濃度を測定することに基づき決定することもできる。その結果、測定された濃度の値は、機械学習法をおそらく含む統計学的分析を受けることができ、所望の感度及び特異性で、軽度又は中等度の歯周炎を有するとして分類された患者と、進行した歯周炎を患う患者として分類された患者を識別するのを可能にしている。そこから、所望の閾値を得ることができる。この閾値に基づき、検査されることになる試料は、同じ濃度測定を受けることができ、濃度の値は、次に、閾値と比較することができる結合濃度の値を決定するように、閾値が得られたのと同じ様式で処理され、従って、検査した試料が軽度の又は進行した歯周炎を有するとして分類されるのが可能になる。
【0055】
興味深い実施形態では、結合濃度の値は、以下のようなスコアの形で得られる。数値(例えば、ng/mlのタンパク質濃度の値)が各測定に割り当てられ、これらの値は線形又は非線形結合で使用されて、ゼロから1のスコアが計算される。上述のように閾値が一組の対象に基づき決定される事象では、0から1のスコアは、典型的には、(さらに示されるように)結合濃度を入力とするシグモイド関数を用いて計算される。
【0056】
スコアが特定の閾値を超えた場合、当該方法は、患者が進行した歯周炎を有しているということを示す。閾値は、所望の感度及び特異性に基づき選ばれてもよい。
【0057】
本発明に従って対象に対して「軽度の又は進行した歯周炎の分類」を行うことにおいて、これは、歯周炎を患っていると仮定され得る対象に対して行われるということが理解されることになる。これは、例えば、おそらくその程度を区別する能力は有していないけれども、以前に行われた歯周炎の診断から知ることができるか、又は、例えば、対象の口腔衛生状態の記録から仮定することができる。
【0058】
当技術分野において認められている臨床的定義は、以下に基づいている:
歯肉炎指数(GI)
フルマウスの歯肉炎指数が、0から4のスケールで評価されるLobene Modified Gingival Index (MGI)に基づき記録されることになり、ここで:
- 0=炎症の欠如
- 1=軽度の炎症;色のわずかな変化、任意の部分ではあるがマージン又は乳頭部歯肉ユニット全体ではない部分のテクスチャーの変化はほとんどない
- 2=軽度の炎症;であるが、マージン全体又は乳頭部ユニットを含む
- 3=中等度の炎症;グレージング、発赤、浮腫、及び/又は、マージン又は乳頭部ユニットの肥大
- 4=重度の炎症;顕著な発赤、浮腫、及び/又は、マージン又は乳頭部歯肉ユニットの肥大、特発性出血、うっ血、又は潰瘍
である。
【0059】
プロービング深さ(PD)
プロービング深さは、手動のUNC-15歯周プローブを使用して、最も近いmmまで記録されることになる。プロービング深さとは、(ポケットの底部にあると仮定される)プローブの先端から歯肉の遊離縁までの距離のことである。
【0060】
歯肉退縮(REC)
歯肉退縮は、手動のUNC-15歯周プローブを使用して、最も近いmmまで記録されることになる。歯肉退縮とは、歯肉の遊離縁からセメントエナメル境までの距離のことである。歯肉退縮は正の数として示されることになり、歯肉異常増殖は負の数として示されることになる。
【0061】
臨床的アタッチメントロス(CAL)
臨床的アタッチメントロスは、各部位のプロービング深さ+退縮の和として計算されることになる。
【0062】
プロービング時の出血(BOP)
プロービング後、出血がプロービングから30秒以内に発生する場合、各部位は、プロービング時の出血について評価されることになり、その部位には1というスコアが割り当てられることになり、そうでない場合は0というスコアが割り当てられることになる。
【0063】
結果として生じる対象群(患者群)の定義は以下の通りであり、それによって、軽度から中等度の歯周炎群及び進行した歯周炎群が本発明に関連している:
- 健常者群(H):全部位においてPD≦3mmである(が、最後の植立臼歯の遠位部では4mmまでのポケットが許容される)、隣接面(interproximal)アタッチメントロスを有する部位は無し、≦10%の部位において≧2.0のGI、%BOPスコア≦10%;
- 歯肉炎群(G):>30%の部位においてGI≧3.0、隣接面アタッチメントロスを有する部位は無し、PD>4mmを有する部位は無し、%BOPスコア>10%;

- 軽度から中等度の歯周炎群(MP):≧8の歯での5~7mmの隣接面PD(約2~4mmCALに等しい)、%BOPスコア>30%;
- 進行した歯周炎群(AP):≧12の歯での≧7mmの隣接面PD(約≧5mmCALに等しい)、%BOPスコア>30%。

一実施形態では、本発明の方法は、図1において概略的に表されているシステムを使用する。システムは、様々な装置の構成要素(ユニット)をその中に一体化させた単一の装置であり得る。システムは、その様々な構成要素又はこれらの構成要素の一部を別の装置として有することもできる。図1において示されている構成要素は、測定装置(A)、グラフィカルユーザインタフェース(B)、及びコンピュータ処理ユニット(C)である。
【0064】
上述のように、本発明のシステムは、インタフェースへのデータ接続を含み、それによって、インタフェース自体は、システムの一部であり得るか、又は、リモートインタフェースであり得る。後者は、実際のインタフェースを提供するために、異なる装置、好ましくはスマートフォン又はタブレットコンピュータ等のハンドヘルド装置を使用する可能性を指す。そのような場合におけるデータ接続は、好ましくは、Wi-Fi又はBluetooth(登録商標)によって又は他の技術若しくは規格によって等、無線データ転送を含むことになる。
【0065】
測定装置(A)は、例えば、装置(A)に挿入することができるカートリッジ(A1)上に唾液を滴下することによって等、唾液試料を受けるように構成されている。この装置は、同じ唾液試料から、少なくともタンパク質であるIL-1β、MMP-9、及び、タンパク質であるIL-6及びMMP-3のうち少なくとも1つの濃度を決定することができる既存の装置であり得る。
【0066】
測定装置(A)は、例えば、装置(A)に挿入することができるカートリッジ(A1)上に唾液を滴下することによって等、唾液試料を受けることができるべきである。この装置は、同じ唾液試料から、少なくともタンパク質であるIL-1ベータ及びMMP-9、並びに、任意的に、タンパク質であるIL-6及びMMP-3のうち少なくとも1つの濃度を決定することができる既存の装置であってもよい。
【0067】
処理ユニット(C)は、部品(A)からタンパク質濃度の数値を受ける。ユニット(C)には、0から1のスコア(S)を計算するのを可能にするソフトウェア(典型的には、組み込みソフトウェア)が提供される。ソフトウェアは、閾値(T)の数値をさらに含む。計算された値(S)が(T)を超える場合、ユニット(C)は、GUI(B)に「進行した歯周炎」の指標(I)を出力し、そうでない場合は「軽度の歯周炎」を出力することになる。さらなる実施形態は、(S)の特定の値を使用して、指標(I)が作製される確実性を示してもよい。これは確率スコアであり得、それによって、0.5は可能な閾値であり、例えば、スコアS=0.8は、進行した歯周炎の確率を示しているであろう。興味深い選択肢は:
- スコアSに基づいて、確実性を直接示すことができ、すなわち、S=0.8は、80%の進行した歯周炎の確実性を意味する;
- スコアSに基づいて、2進法又は3進法表示(a binary or tertiary indication)を作製することができる;
- S<T→軽度の歯周炎、S≧T→進行した歯周炎
- S<R1→軽度の歯周炎、R1≦S<R2→決定的ではない
- S≧R2→進行した歯周炎;
である。加えて、そのような2進法又は3進法表示に確実性を添付することが可能である。この確実性は、選ばれた1つ又は複数の閾値からのスコアSの距離(T,R1,R2)によって決定されることになる。
【0068】
スコアの特定の計算は、例えば、以下の式:
【0069】
【数1】
を適用するシグモイド関数によって実践することができる。
【0070】
式中、Nは、使用されるタンパク質/バイオマーカーの数であり、c、c等は係数(数値)であり、さらに、B、B等はそれぞれのタンパク質濃度である。
【0071】
係数の決定は、訓練手順によって行うことができる:
- 進行した歯周炎を有するN1対象及び軽度の歯周炎を有するN2対象を選択する。
【0072】
軽度の歯周炎を有さない対象は、スコアS=0を有すると考えられ、進行した歯周炎を有する対象は、スコアS=1を有すると考えられる。
- 各対象から唾液試料を採取し、先に説明されたバイオマーカーの組み合わせのタンパク質濃度を決定する。
- タンパク質濃度とスコアのロジスティック回帰を行う。
【0073】
*他の回帰又は機械学習方法(線形回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン)を使用して、タンパク質濃度に基づき、対象が歯肉炎を有するか又は健康な口腔状態を有するかどうかを予測する分類器を訓練することができる。
【0074】
上述のシステムに関して、本発明は、さらなる態様において、患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するためのシステムも提供し、当該システムは:
- 患者の唾液の試料において、タンパク質であるIL-1β、IL-6、及び、MMP-9及びMMP-8のうち少なくとも1つを検出することができ且つ検出するように適応した検出手段であって;先に説明したように、そのような手段は、既知で当業者には容易に手に入れやすく;典型的には、検出手段が提供される対象の口腔試料をその中で受けるための容器が提供される、検出手段;
- 上記のタンパク質の決定された濃度から、軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有する患者の指標を決定することができ且つ決定するように適応したプロセッサ;
を含む。
- 任意的に、当該システムは、情報を提示することができるユーザインタフェース(又はリモートインタフェースへのデータ接続)、特にグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を含み;GUIは、テキストベースのユーザインタフェース、タイプされたコマンドラベル、又はテキストナビゲーションの代わりに(そのようなインタフェースタイプはいずれも本発明において除外されない)、グラフィカルなアイコン及び二次表記等の可視指示を介して電子装置とユーザが相互作用することを可能にするタイプのユーザインタフェースであり;GUIは、一般的に知られており、典型的には、MP3プレーヤー、ポータブルメディアプレーヤー、ゲーム装置、スマートフォン、及び小規模な家庭用、オフィス用及び工業用の制御装置等、ハンドヘルドモバイル装置において使用されており;上述のように、インタフェースは、任意的に、例えば、対象の年齢、性別、BMI(肥満度指数)等の情報を入れることができるように選ぶこともできる。
【0075】
本発明は、別に又は上述のシステムの一部として、患者の唾液の試料における歯周炎に対する少なくとも3つのバイオマーカーを検出するためのキットも提供し、当該キットは、インターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、インターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち1つを検出するための1つ又は複数の検出試薬を含む。典型的には、キットは、それぞれが異なるバイオマーカーに向けられる3つの検出剤を含み、ここで、第1の検出剤はIL-1βに結合することができ、第2の検出剤はMMP-8に結合することができ、さらに、第3の検出剤はIL-6及びMMP-3のうち1つに結合することができる。本発明の方法に関連して上述したように、キットは、特にIL-6及びMMP-3のもう一方のためのもの、及び/又は、他のタンパク質のためのもの等、さらなる検出剤を含んでもよい。好ましい実施形態では、当該キットにおいて利用可能な検出剤は、上述のように、本発明の3-バイオマーカーパネルを構成する3つのタンパク質の選択のための検出剤から成る。
【0076】
好ましくは、当該キットは、上記の検出剤を含む、チップ、マイクロタイタープレート、又はビーズ若しくは樹脂等、固体の支持体を含む。一部の実施形態では、当該キットは、ProteinChip(商標)等の質量分析プローブを含む。
【0077】
キットは、非結合の検出剤又は上記のバイオマーカーに特異的な洗浄溶液及び/又は検出試薬も提供することができる(サンドイッチタイプのアッセイ)。
【0078】
興味深い態様において、本発明のバイオマーカーパネルの認識は、時間の経過に伴い、患者における歯周炎の状態をモニターすることにおいて適用される。従って、本発明は、第1の時点tから第2の時点tまでの時間間隔にわたる、歯周炎を患う患者における歯周炎の状態の変化を決定するための体外での方法も提供し、当該方法は、tにて上記の患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、及び、tにて上記の患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、タンパク質である:IL-1β、MMP-8、及び、IL-6及びMMP-3のうち少なくとも1つの濃度を検出するステップと、濃度を比較し、それによって、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つ全ての濃度の差が状態の変化を反映しているステップとを含む。この差は、濃度の差として審査することができ、従って、まず0から1の数字を生成することなく、又は、いかなる他の分類もなしに、直接比較が可能である。両時点にて受けた測定値は、上記のように軽度の又は進行した歯周炎を決定する場合に行われるのとまさに同じ方法で処理することもできるということが理解されることになる。
【0079】
本発明は、患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを診断する方法も提供し、当該方法は、患者の唾液において、タンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つの存在を検出するステップを含む。患者における軽度の歯周炎又は進行した歯周炎の存在は、上記の試料における上記のタンパク質の濃度に基づき評価される。任意的に、この態様の方法は、患者における歯周炎を治療するさらなるステップを含む。この任意の治療ステップは、既知の治療の投与剤若しくは歯科処置、又は、治療剤及び歯科処置の組み合わせを含み得る。既知の治療剤には、口腔洗浄薬、チップ、ゲル、又はミクロスフェア等の抗菌剤含有薬剤の投与が含まれる。歯周炎の治療において使用するための典型的な抗菌剤はクロルヘキシジンである。他の治療薬には、抗生物質、典型的には経口投与される抗生物質、及びドキシサイクリン等の酵素抑制薬が含まれる。既知の非外科的な治療手技には、スケーリング及びルートプレーニング(SRP)が含まれる。既知の外科的手技には、外科的なポケット減少、フラップ手術、歯肉移植、又は骨移植が含まれる。
【0080】
本発明は、軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を患う患者において、タンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つを検出する方法をさらに提供し、当該方法は:
(a)患者から唾液試料を得るステップ;及び、
(b)唾液試料を、インターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、インターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つが唾液試料中に存在するかどうかを、IL-1βに結合することができる第1の検出剤、MMP-9に結合することができる第2の検出剤、及び、IL-6及びMMP-3のうち1つに結合することができる第3の検出剤と接触させ、各タンパク質と検出剤との結合を検出することによって検出するステップ;
を含む。
【0081】
本発明は、以下の非限定的な実施例に関連してさらに例示されることになる。
【0082】
実施例
60の対象を用いた臨床試験において、そのうち32例を軽度の歯周炎(中等度の歯周炎を含む)と診断し、28例を進行した歯周炎と診断し、ROC(受信者動作特性)曲線下面積(AUC)値を得た。
【0083】
統計では、受信者動作特性曲線又はROC曲線は、その弁別閾値が変化するに従い二項分類器システムの性能を例示するグラフィカルプロットである。この曲線は、様々な閾値設定での偽陽性率(FPR)に対して真陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。真陽性率は、機械学習における感度、想起、又は検出の確率としても知られている。偽陽性率は、フォールアウト又はフォルスアラームの確率としても知られており、(1-特異性)として計算することができる。従って、ROC曲線は、フォールアウトの関数としての感度である。一般に、検出及びフォルスアラームの両方の確率分布が既知である場合、ROC曲線は、y軸上の検出確率の累積分布関数(-∞から弁別閾値までの確率分布下の面積)を、x軸上のフォルスアラーム確率の累積分布関数に対してプロットすることによって生成することができる。試験の精度は、検査している群を、問題の疾患を有する群と有さない群とにどれだけうまく分けるかに依存する。精度は、ROC曲線下面積によって測定される。1の面積は完璧な試験を表し;0.5の面積は価値の無い試験を表す。診断試験の精度を分類するためのガイドは、伝統的なアカデミックポイントシステム:
- 0.90-1=秀(A)
- 0.80-0.90=優(B)
- 0.70-0.80=良(C)
- 0.60-0.70=可(D)
- 0.50-0.60=不可(F)
である。
【0084】
上記に基づき、上述の臨床試験の結果において、0.75を超えるROC AUC値が、本発明に係る診断試験を提供するための望ましい精度を表すと考慮される。
【0085】
以下の表1は、決定された全てのバイオマーカー及びバイオマーカーパネルの中から、0.70を超えるROC AUC値を表すデータを要約したものである。
【0086】
表において提示されているバイオマーカータンパク質は、上述のように、IL-1β、MMP-9、IL-6、及びMMP-3、並びに、MMP-8及びHGFである。
【0087】
表において、0.77のROC AUCに関して最大の結果が、3つのマーカー:IL-1β、MMP-9、及びIL-6から成るバイオマーカーパネルを用いて得られているということがわかる。これに近い0.76という結果が、4つのバイオマーカー、すなわち、IL-1β、MMP-9、IL-6、及びMMP-3又はMMP-8のパネルを用いて得られる。0.74及び0.75の結果が5つのマーカーパネルについて得られる。しかし、3つのマーカーによるパネルIL-1β、MMP-9、MMP-3も、0.74のROC AUCを提供する。本発明において有用な、シンプルであるが十分に信頼性のある試験を提供するために、可能な限り少ないバイオマーカーを適用することが望ましい。その結果、1つのマーカー及び2つのマーカーのバイオマーカーパネルは、0.7を下回る又はかなり下回る、すなわち、完璧な試験(1)よりも上述の価値の無い試験の値(0.5)に実質的に近いROC AUC値を提供するということがわかる。
【0088】
ここで、可能な限り少ないマーカーを適用する0.70を超えるROC AUCを有するという最適な結果は、IL-1β、MMP-9、及びIL-6又はMMP-3から成る、又は、示されているように追加されるさらなるマーカーを有するバイオマーカーパネルの選択に付随的であるということがわかった。明らかに、結果は類似しており、3マーカーパネルIL-1β、MMP-9、及びIL-6又はMMP-3が、4マーカーパネルよりも好ましい。
【0089】
【表1】
本発明は、図面及び上記の説明において詳細に例示及び記述されてきたけれども、そのような例示及び記述は、例示的又は例証的であり、拘束性はないと考慮されることになる。本発明は、開示された実施形態に限定されない。例えば、異なるバイオマーカーに対する検出剤を異なる単位で提示することが可能である。又は、好都合に、本発明のキットは、全ての実施形態において使用されるタンパク質バイオマーカー、すなわち、MMP-9及びIL-1βに対する固定されたセットの検出剤、並びに、さらなるバイオマーカー、すなわち、MMP-8又はMMP-3に対する検出剤を含む可変モジュールを含むことができる。
【0090】
開示された実施形態に対する他の変化は、請求された発明を実行する際に、図面、明細書、及び付随の特許請求の範囲の調査から当業者により理解する及びもたらすことができる。特許請求の範囲において、「含む」という用語は、他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞はその複数形を除外しない。本発明の特定の手段が互いに異なる従属項において記載されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを役立つよう使用することができないと示しているわけではない。特許請求の範囲におけるいかなる参照番号も、その範囲を限定するとして解釈されるべきではない。
【0091】
要約すると、本発明者等は、本明細書によって、歯周炎を患う患者が軽度の歯周炎又は進行した歯周炎を有するかどうかを評価するための体外での方法を開示している。この方法は、3つのバイオマーカータンパク質の選択を決定するための洞察に基づいている。従って、歯周炎を患う患者の唾液の試料において、タンパク質であるインターロイキン1β(IL-1β)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)、及び、タンパク質である:インターロイキン6(IL-6)及びマトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)のうち少なくとも1つの濃度が測定される。測定された濃度に基づき、上記のタンパク質に対する結合濃度を反映する値が決定される。この値は、進行した歯周炎に伴う結合濃度を同じ様式で反映する閾値と比較される。この比較によって、試験値が上記の患者における進行した歯周炎又は軽度の歯周炎の存在を示すかどうかを評価することが可能である。その結果、典型的には、閾値によって反映される結合濃度より下の結合濃度を反映する試験値は、上記の患者における軽度の歯周炎を示し、閾値によって反映される結合濃度以上の結合濃度を反映する試験値は、上記の患者における進行した歯周炎を示す。
図1