(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】高調波除去回路、位置検出装置、磁気軸受装置、及び真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
H03B 1/04 20060101AFI20240510BHJP
F16C 32/04 20060101ALI20240510BHJP
G01B 7/00 20060101ALI20240510BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20240510BHJP
G01D 5/12 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H03B1/04
F16C32/04 A
G01B7/00 102M
F04D19/04 A
G01D5/12 C
(21)【出願番号】P 2020024767
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】川島 敏明
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-122701(JP,A)
【文献】特開2006-317419(JP,A)
【文献】特開昭56-150973(JP,A)
【文献】国際公開第2011/135695(WO,A1)
【文献】特開2010-148221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 1/00-1/04
G01D 5/12
F16C 32/04
G01B 7/00
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、
前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、
前記パルスが、5次の高調波を除去するため、
前記交流波形信号の半周期中に4π/5[rad]の
合計デューティ
(π[rad]が100%に相当)を有する1つのパルスで生成されたことを特徴とする高調波除去回路。
【請求項2】
高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、
前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、
前記パルスが、7次の高調波を除去するため、
前記交流波形信号の半周期中に6π/7[rad]の
合計デューティ
(π[rad]が100%に相当)を有する1つのパルスで生成されたことを特徴とする高調波除去回路。
【請求項3】
高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、
前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、
前記パルスが、3次と5次の高調波を同時に除去するため、
前記交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の
合計デューティ
(π[rad]が100%に相当)を有する3つのパルスで生成されたことを特徴とする高調波除去回路。
【請求項4】
高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、
前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、
前記パルスが、3次と7次の高調波を同時に除去するため、
前記交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の
合計デューティ
(π[rad]が100%に相当)を有する3つのパルスで生成されたことを特徴とする高調波除去回路。
【請求項5】
高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、
前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、
前記パルスが、3次と5次と7次の高調波を同時に除去するため、
前記交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の
合計デューティ
(π[rad]が100%に相当)を有する7つのパルスで生成されたことを特徴とする高調波除去回路。
【請求項6】
前記パルスの前記デューティに、正弦波PWMを生成するデューティを用いることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の高調波除去回路。
【請求項7】
前記パルスの前記デューティが、反転増幅による出力、非反転増幅による出力、ゼロ出力の内のいずれかで切り替えて生成されたことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の高調波除去回路。
【請求項8】
前記パルスは前記交流波形信号の半周期中に少なくとも一つで構成され、
該パルスの前記デューティが、位相の進行方向に向けて前記交流波形信号のピーク値を中心として対称に生成されたことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の高調波除去回路。
【請求項9】
前記ゼロ出力のタイミングに合わせて電力を断接するスイッチが制御されることを特徴とする請求項7に記載の高調波除去回路。
【請求項10】
被対象物の位置を非接触に検出する位置検出部と、
前記被対象物の前記位置を電磁石により制御する磁気軸受部と、
前記位置検出部に対し搬送波信号を供給する搬送波信号供給部と、
前記位置検出部で検出された位置信号を前記搬送波信号と同期したスイッチで切り替えることで検波する検波部とを備えた磁気軸受装置であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の高調波除去回路を備えたことを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項11】
回転体と、
該回転体の位置を非接触に検出する位置検出部と、
前記回転体の前記位置を電磁石により制御する磁気軸受部と、
前記位置検出部に対し搬送波信号を供給する搬送波信号供給部と、
前記位置検出部で検出された位置信号を前記搬送波信号と同期したスイッチで切り替えることで検波する検波部とを備えた真空ポンプであって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の高調波除去回路を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高調波除去回路、位置検出装置、磁気軸受装置、及び真空ポンプに係わり、特に同期検波回路で発生する高調波を高価な部品を使用することなく除去することで低振動や低騒音を実現した高調波除去回路、位置検出装置、磁気軸受装置、及び真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。これらの半導体は、極めて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、半導体基板上に微細な回路パターンを形成し、これを積層するなどして製造される。そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般にポンプ装置として真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易である等の点から真空ポンプの中の1つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0003】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。更に、ターボ分子ポンプは、電子顕微鏡等の設備において、粉塵等の存在による電子ビームの屈折等を防止するため、電子顕微鏡等のチャンバ内の環境を高度の真空状態とするのにも用いられている。このターボ分子ポンプの縦断面図を
図10に示す。
【0004】
図10において、ターボ分子ポンプ100には、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼102a、102b、102c、…を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が設けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0005】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸にかつ+方向と-方向に、それぞれの対をなして配置されている(図示しないが+側の電磁石を上側径方向電磁石104+とし、-側の電磁石を上側径方向電磁石104-とする)。また、この上側径方向電磁石104に近接かつ対応されて、4個の電磁石からなる上側径方向センサ107が備えられている。
【0006】
上側径方向センサ107は、ロータ軸113のX軸方向及びY軸方向位置をそれぞれ+方向及び-方向の2方向から検出するいわゆる差動型のインダクタンス式センサであり、ロータ軸113の径方向位置に応じたセンサ信号を制御装置等の磁気軸受制御部(図示略)に出力するようになっている。磁気軸受制御部では、上側径方向センサ107からのセンサ信号に基づき上側径方向電磁石104の励磁を制御し、ロータ軸113の上側の径方向位置を調整するようになっている。
【0007】
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われている。
【0008】
また、下側径方向電磁石105も、4個の電磁石がX軸とY軸にかつ+方向と-方向に、それぞれの対をなして配置されている(図示しないが+側の電磁石を下側径方向電磁石105+とし、-側の電磁石を下側径方向電磁石105-とする)。更に、この下側径方向電磁石105に近接かつ対応されて、4個の電磁石からなる下側径方向センサ108が備えられている。
【0009】
この下側径方向センサ108も差動型のインダクタンス式センサであり、制御装置等の磁気軸受制御部(図示略)により、ロータ軸113の下側の径方向位置が調整されるようになっている。
【0010】
更に、軸方向電磁石106は、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている(
図10中上側の電磁石を-側の軸方向電磁石106Aとし、下側の電磁石を+側の軸方向電磁石106Bとする)。-側の軸方向電磁石106Aは磁力により金属ディスク111を吸気口101側に吸引し、+側の軸方向電磁石106Bは金属ディスク111をベース部129側に吸引するようになっている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。
【0011】
また、外筒127の底部に設けられたベース部129には、ロータ軸113の軸方向位置Zを検出するための図示しない軸方向センサが備えられている。この軸方向センサは、ロータ軸113の下端部に埋め込まれた図示しないセンサターゲットの位置を検出することでロータ軸113の軸方向位置Zを検出し、この軸方向位置Zに応じたセンサ信号を制御装置等の磁気軸受制御部に出力するようになっている。
【0012】
そして、磁気軸受制御部は、軸方向センサからのセンサ信号に基づいて軸方向電磁石106の励磁を制御し、軸方向電磁石106が金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節してロータ軸113を磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
【0013】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。 また、モータ121には図示しない回転数センサが組み込まれており、この回転数センサの検出信号によりロータ軸113の回転数が検出されるようになっている。更に、下側径方向センサ108近傍には、図示しない位相センサが取り付けられており、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。
【0014】
回転翼102a、102b、102c、…とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c、…が配設されている。回転翼102a、102b、102c、…は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
【0015】
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a、125b、125c、…の間に嵌挿された状態で支持されている。固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0016】
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。また、固定翼スペーサ125の下部と、外筒127の底部に設けられたベース部129との間にはネジ付きスペーサ131が配設されている。そして、ベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成され、外部に連通されている。ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝132が複数条刻設されている。ネジ溝132の螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。
【0017】
回転体103の回転翼102a、102b、102c、…に続く最下部には回転翼102dが垂下されている。この回転翼102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。
【0018】
かかる構成において、回転翼102がモータ121により駆動されてロータ軸113とともに回転すると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子等による伝導により固定翼123側に伝達される。
【0019】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。そして、ベース部129に移送されてきた排気ガスは、ネジ付きスペーサ131のネジ溝131aに案内されつつ排気口133へと送られる。
【0020】
次に、上述のように構成される上側径方向センサ107と下側径方向センサ108による位置検出回路について説明する。
図11において、上側径方向センサ107と下側径方向センサ108には、インダクタンスセンサが使用されている。+方向のコイル及び-方向のコイルのそれぞれの一端には発振器1、3が取り付けられている。発振器1、3からはコイルに対し一定周波数のキャリア周波数が印加され、変位に対応したAC信号が生成する。
【0021】
そして、コイルの他端は中点5で接続されており、この中点5にて抽出された差動電圧はバンドパスフィルタ7を介して反転増幅器9と非反転増幅器11とに入力されるようになっている。バンドパスフィルタ7は、発振器1、3の基本周波数を含む帯域以外の高周波領域の信号を除去するために配設されている。反転増幅器9の出力には反転スイッチ13が配設され、非反転増幅器11の出力には非反転スイッチ15が配設されている。
【0022】
反転スイッチ13には、キャリア周波数に同期して0~180度の間だけONさせる操作信号17が入力されている。従って、0~180度の間だけ反転増幅器9で反転されたAC信号が通過する。
一方、非反転スイッチ15には、キャリア周波数に同期して180度~360度の間だけONさせる操作信号19が入力されている。従って、180度~360度の間だけ非反転増幅器11で出力されたAC信号が通過する。
【0023】
接続点21で、反転スイッチ13を通過した信号と非反転スイッチ15を通過した信号とが加算され直流信号となる。この直流信号は平滑回路23で平滑化される。この同期検波回路により平滑化された信号は、磁気軸受制御部に位置信号として出力され前述したように位置制御に使用される(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ところで、磁気軸受の動作中は、上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105、軸方向電磁石106を駆動する各パワーアンプやモータ121の駆動用のインバータが電力をPWM制御するために、多くのスイッチングノイズが発生している。
このノイズは変位センサ信号に混入し、同期検波回路の出力に本来の変位以外のノイズ成分として現れ、望ましくない振動や騒音の原因になっている。
【0026】
上述した180度ずつ交互にON/OFFするスイッチを使用した同期検波方式では、キャリア周波数の基本波成分に含まれる変位信号の他に、キャリア周波数の奇数次高調波のノイズ成分も変位信号に変換されてしまう特徴がある。
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、同期検波回路で発生する高調波を高価な部品を使用することなく除去することで低振動や低騒音を実現した高調波除去回路、位置検出装置、磁気軸受装置、及び真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
このため本発明(請求項1)は、高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、前記パルスが、5次の高調波を除去するため、前記交流波形信号の半周期中に4π/5[rad]の合計デューティ(π[rad]が100%に相当)を有する1つのパルスで生成されたことを特徴とする。
【0028】
交流波形信号にパルスを掛け合わせると奇数次の高調波が生成されてしまう。しかし、交流波形信号に同期したパルスのデューティが、高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定することで、奇数次高調波のプラス側信号とマイナス側信号とが相殺されることになる。このため、奇数次高調波の成分は消える。
交流波形信号の半周期中に4π/5[rad]の合計デューティを1つのパルスで生成することで、簡単な構成で5次の高調波を除去できる。
【0029】
また、本発明(請求項2)は、高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、前記パルスが、7次の高調波を除去するため、前記交流波形信号の半周期中に6π/7[rad]の合計デューティ(π[rad]が100%に相当)を有する1つのパルスで生成されたことを特徴とする。
交流波形信号の半周期中に6π/7[rad]の合計デューティを1つのパルスで生成することで、簡単な構成で7次の高調波を除去できる。
更に、本発明(請求項3)は、高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、前記パルスが、3次と5次の高調波を同時に除去するため、前記交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の合計デューティ(π[rad]が100%に相当)を有する3つのパルスで生成されたことを特徴とする。
交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の合計デューティを3つのパルスで生成することで、簡単な構成で3次と5次の高調波を除去できる。
更に、本発明(請求項4)は、高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、前記パルスが、3次と7次の高調波を同時に除去するため、前記交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の合計デューティ(π[rad]が100%に相当)を有する3つのパルスで生成されたことを特徴とする。
交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の合計デューティを3つのパルスで生成することで、簡単な構成で3次と7次の高調波を除去できる。
更に、本発明(請求項5)は、高調波信号の重畳した交流波形信号より前記高調波信号を除去する高調波除去回路であって、前記交流波形信号に同期したパルスのデューティが、前記高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように設定され、前記パルスが、3次と5次と7次の高調波を同時に除去するため、前記交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の合計デューティ(π[rad]が100%に相当)を有する7つのパルスで生成されたことを特徴とする。
交流波形信号の半周期中に2π/3[rad]の合計デューティを7つのパルスで生成することで、簡単な構成で3次と5次と7次の高調波を除去できる。
更に、本発明(請求項6)は高調波除去回路の発明であって、前記パルスの前記デューティに、正弦波PWMを生成するデューティを用いることを特徴とする。
これにより、簡単な構成でパルスのデューティが生成され、高調波ノイズの除去が可能である。
更に、本発明(請求項7)は高調波除去回路の発明であって、前記パルスの前記デューティが、反転増幅による出力、非反転増幅による出力、ゼロ出力の内のいずれかで切り替えて生成されたことを特徴とする。
【0030】
ゼロ出力を加えたことで、高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるような調整がし易くなる。従って、高価な部品の追加が必要無く、コストアップすること無しに低振動や低騒音の磁気軸受装置が実現できる。
【0031】
更に、本発明(請求項8)は高調波除去回路の発明であって、前記パルスは前記交流波形信号の半周期中に少なくとも一つで構成され、該パルスの前記デューティが、位相の進行方向に向けて前記交流波形信号のピーク値を中心として対称に生成されたことを特徴とする。
【0032】
パルスのデューティが、位相の進行方向に向けて前記交流波形信号のピーク値を中心として対称に生成されたことで、信号波形が最大限に効率良く抽出できると共に、高調波が精度良く除去できる。また、パルスの生成が容易にできる。
【0047】
更に、本発明(請求項9)は高調波除去回路の発明であって、前記ゼロ出力のタイミングに合わせて電力を断接するスイッチが制御されることを特徴とする。
【0048】
本発明では、信号を出力に伝えないゼロ出力(入力無し)のモードが存在する。このため、ゼロ出力の時間に電力を断接するスイッチのON/OFFを実行するように制御することで、スパイクノイズの信号への混入を抑制させることができる。
【0050】
更に、本発明(請求項10)は、被対象物の位置を非接触に検出する位置検出部と、前記被対象物の前記位置を電磁石により制御する磁気軸受部と、前記位置検出部に対し搬送波信号を供給する搬送波信号供給部と、前記位置検出部で検出された位置信号を前記搬送波信号と同期したスイッチで切り替えることで検波する検波部とを備えた磁気軸受装置であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の高調波除去回路を備えたことを特徴とする。
【0051】
更に、本発明(請求項11)は、回転体と、該回転体の位置を非接触に検出する位置検出部と、前記回転体の前記位置を電磁石により制御する磁気軸受部と、前記位置検出部に対し搬送波信号を供給する搬送波信号供給部と、前記位置検出部で検出された位置信号を前記搬送波信号と同期したスイッチで切り替えることで検波する検波部とを備えた真空ポンプであって、請求項1~9のいずれか一項に記載の高調波除去回路を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0052】
以上説明したように本発明によれば、交流波形信号に同期したパルスのデューティが、高調波信号のプラス側面積とマイナス側面積とが等しくなるように構成したので、奇数次高調波のプラス側信号とマイナス側信号とが相殺されることになる。このため、奇数次高調波の成分は消える。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図3】奇数次高調波を除去するための代表的なパルス幅の設定値例
【
図4】
図3の設定値例でパルスを設定したときの基本波とパルスデューティの関係を示す波形図
【
図5】センサ直流信号の波形例と高調波が除去された度合いを示す図
【
図6】1周期(0~2π)分における、反転スイッチ、ゼロ出力スイッチ、非反転スイッチの各スイッチのパルス波形例
【
図9】高周波のスイッチングスパイクノイズの除去方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態である位置検出回路図を
図1に示す。なお、
図11と同一要素のものについては同一符号を付して説明は省略する。
従来の位置検出回路図である
図11と比較すると分かるように、本発明の実施形態では、接地25に対し一端を接続されたゼロスイッチ27を設け、このゼロスイッチ27の他端を反転スイッチ13と非反転スイッチ15の接続点21に対し接続した点で相違する。そして、ゼロスイッチ27に対しては操作信号29が入力されている。
【0055】
次に、本発明の実施形態の作用について説明する。
同期検波のスイッチ動作は、入力信号と矩形波を乗算しているのと等価であるため、同期検波出力には、本来必要な基本波成分の他に、数1に示す矩形波のフーリエ変換f(x)と奇数次高調波のノイズの乗算結果が直流信号として現れる。
【数1】
例えば入力信号に数2で示すようなセンサキャリア周波数の3次高調波のノイズ
【0056】
【数2】
が混入した場合、出力信号には数3で示すようなノイズ成分が混入する。
【数3】
【0057】
これは、
図2の基本波と3次高調波成分との関係図に示すように、
図11に示す同期検波の反転スイッチ13と非反転スイッチ15が基本波の半波180度の間ONしているために、3次高調波成分が180度×3=540度即ち1.5周期積分されて直流分が発生することにより起こる。
【0058】
この弊害に対し、本発明では、同期検波のスイッチを操作するためのパルスのデューティと、そのパルスの数及びパルスの位相を調整することで出力に高調波成分が出ないようにする。
そのため、同期検波のスイッチの入力を従来の
図11のように非反転信号と反転信号の2モード動作から、
図1に示すように、非反転信号と反転信号とゼロ出力(入力無し)の3モード動作に変更する。そして、それぞれのパルスのデューティを特定の値に設定する。ここに、ゼロ出力は回路で0ボルトを構成してもよいが、平滑回路23の入力としてゼロ出力モード時には信号を受け付けないとしてソフトウェアで処理してもよい。
【0059】
センサキャリア周波数の奇数次高調波は、同期検波回路のスイッチのデューティを特定の値にすることで検波後の変位信号から除去できる。
パルスの生成方法の条件は基本的には、180度+360度×n(nは0を含む正の整数)の位相角で生じさせるように調整する。そして、同期検波のスイッチのパルスのデューティが、高調波波形のプラス側面積とマイナス側面積が等しくなるように設定する。
【0060】
また、センサ信号の感度が最も大きい位相角が中心となるようにパルスのデューティを調整する。即ち、センサ信号が360度の正弦波であれば90度、270度の位相角を中心にパルスのデューティを調整することが望ましい。
図3は、この条件に基づき算出した、奇数次高調波を除去するための代表的なパルス幅の設定値例である。基本波のサイン半波の角度(0からπ)に対する反転スイッチ13をON/OFFするタイミングを示している。
【0061】
また、
図4には、この
図3の設定値例でパルスを設定したときの基本波とパルスデューティの関係を波形図で示す。
各モードのデューティは、例えば3次高調波を除去したい場合、キャリア周波数の全波の位相0度~360度の内、0度~30度はゼロ出力、30度~150度は非反転、150度~210度はゼロ出力、210度~330度は反転、330度~360度はゼロ出力とする。
【0062】
それにより、非反転動作中の120度(=150度-30度)は、3次高調波では360度(120度×3)に相当し3次高調波はちょうど1周期分サンプリングされるので、同期検波回路の出力に正や負のノイズとして現れない。
図4の(c)には、このような3次高調波を除去するために同期検波のスイッチのパルスのデューティを120度の1パルスにした例を示している。
ここに、反転スイッチ13は基本波の角度がπから2πまではOFFにする。
【0063】
一方、非反転スイッチ15は基本波の角度が0からπまではOFFにする。非反転スイッチ15の基本波の角度がπから2πまでのON/OFFのタイミングは、
図3で示す設定値例の角度に(π)を加算した値にする。
なお、ゼロ出力は非反転スイッチ15と反転スイッチ13がともにOFFの間にONにする。
【0064】
また、
図3の設定値例及び
図4の波形図に示すように、各モードのスイッチのタイミングとパルス数を適正に制御することで、3次高調波、5次高調波、7次高調波を単独で除去するだけでなく、例えば、3次と5次の高調波、3次と7次の高調波、3次と5次と7次の高調波を同時に除去することも可能である。
【0065】
図5には、上記のように設定をした同期検波のパルスについて、接続点21における直流信号の波形例を示すと共に、高次の高調波が除去された度合いを計算した結果を付記する。即ち、本来検出したい基本波と、高調波ノイズの混入した波形に対して、検波デューティを変更した場合の波形と直流信号の成分の値の例を示す。
【0066】
図5(a)に示す通り、従来の制御はデューティ180度の単パルスである。このときの基本波の直流成分は0.636に対して高調波ノイズ混入時の直流成分は0.699であり、ノイズ成分は9.9%含まれている。これに対し、本実施形態では、
図5(b)に示す通り、3次高調波除去のためにデューティ120度の単パルスとした。その結果、基本波の直流成分は0.550に対して高調波ノイズ混入時の直流成分は0.537であり、ノイズ成分は2.5%となる。従って、従来例に比べて高調波ノイズを1/4程度にまで減らすことができた。
【0067】
また、
図5(c)では、3次高調波と5次高調波とを除去するために図示の通りデューティ120度の3パルスとした。このときの1周期(0~2π)分における、反転スイッチ、ゼロ出力スイッチ、非反転スイッチの各スイッチのパルス波形を
図6に示す。
【0068】
その結果、基本波の直流成分は0.526に対して高調波ノイズ混入時の直流成分は0.530であり、ノイズ成分は0.7%となり従来例の7%程度にまで飛躍的に減らすことができた。更に、
図5(d)では、3次高調波と5次高調波と7次高調波とを除去するために図示の通りデューティ120度の7パルスとした。その結果、基本波の直流成分は0.510に対して高調波ノイズ混入時の直流成分は0.510であり、ノイズ成分は0.0%にまで減らすことができた。
以上のように、同期検波のパルスのデューティを適正に設定することで、高調波ノイズが効率良く除去できることが分かる。
【0069】
なお、3次高調波を除去すると、3次高調波に対する奇数次高調波も同時に除去される。即ち、3次×3=9次、3次×5=15次...等も同時に除去される。同様に5次高調波を除去すると、5次高調波に対する奇数次高調波も同時に除去される。また、同様に3次と5次と7次の高調波を同時に除去すると、3次、5次、7次、9次が除去され、すべての一桁の高調波が除去できることになる。
【0070】
なお、キャリア周波数の偶数次高調波のノイズ成分は
図7に示す通り、例えば3次高調波を除去する際には、反転信号と非反転信号の積分された直流分が逆極性になり、パルスのデューティに重なった部分のプラス側面積とマイナス側面積が等しくなって相殺されるので出力に現れない。
【0071】
パルスのデューティの生成方法については、マイコン等により
図3の設定例に示した通りの設定を行えば
図5で説明したような高精度な高調波の除去が可能である。しかしながら、高調波除去の精度は多少落ちるが、以下のように生成することも可能である。
即ち、前記パルスのデューティに、正弦波PWMを生成するデューティを用いることが可能である。正弦波PWMを生成するデューティは、正弦波の1周期を複数の時間に分割し、分割された時間ごとに正弦波の平均振幅と平均振幅が略等しい矩形波のデューティを求めることで得られる。例えば、
図8に示すように、発振器の正弦波とPWM周波数の三角波の振幅を比較し、正弦波の方が大きい期間スイッチをONにする。これにより、簡単な処理でパルスのデューティが生成され、高調波ノイズの除去が可能である。
【0072】
以上により、同期検波回路のスイッチのデューティを特定の値にすることで、変位センサ信号に混入するセンサキャリア周波数の奇数次高調波成分のスイッチングノイズを、検波後の変位信号から除去できる。このため、高価な部品の追加が必要無く、コストアップすること無しに低振動や低騒音の磁気軸受装置が実現できる。
【0073】
次に、電磁石パワーアンプやモータ121の駆動用のインバータで発生する高周波のスイッチングスパイクノイズの除去方法について説明する。
ターボ分子ポンプ100では、電磁石パワーアンプやモータ121の駆動用のインバータが電力をPWM制御している。そして、電力スイッチング動作時のスイッチのON/OFFの瞬間、電磁石やモータ121に急峻な電圧の変化が生じるため、非常に高周波のスイッチングスパイクノイズが発生するおそれがある。
【0074】
このスパイクノイズは変位センサの1周期に比べ、非常に短時間で、周波数が高いノイズである。このため、このスパイクノイズもセンサ信号に混入した場合、変位センサの直流信号に現れる場合がある。
本発明では、センサ信号を出力に伝えないゼロ出力(入力無し)のモードが存在するので、ゼロ出力の時間に電力スイッチのON/OFFを実行するように電力スイッチ回路を制御することで、スパイクノイズのセンサ信号への混入を抑制させる。
【0075】
具体的には、電磁石パワーアンプやモータ121の駆動用のインバータの電力スイッチング周波数を変位センサのキャリア周波数の偶数次に同期させ、電力スイッチのON/OFFのタイミングをセンサのサイン基本波の0度と180度付近に実行させる。
なお、電力スイッチング周波数を変位センサのキャリア周波数の奇数次に同期させることは、キャリア周波数の奇数次がセンサ出力に出易いので避けた方が望ましい。
【0076】
電力スイッチのON/OFFのタイミングはPWM制御のために中心値の前後にばらつくが、全体としてはサイン基本波の0度と180度付近に集中する。
図9(a)には、従来例である、本来検出したい基本波と、3次+5次+7次の高調波ノイズと、スパイクノイズの混入した波形(全高調波)とを示す。このときのパルスは単パルスで検波デューティは180度である。
【0077】
これに対して、
図9(b)には、3次高調波除去のために単パルスで検波デューティを120度に変更した場合の波形を示す。また、直流成分の値を縦軸に示している。
図9(a)と
図9(b)とを対比して分かる通り、0度と180度付近に従来あったスパイクノイズは消えている。
【0078】
即ち、通常運転時の電磁石パワーアンプパワースイッチ等のON/OFFタイミングを変位センサのセンサキャリアの0度と180度付近に集中させ、この付近のセンサのスイッチをゼロ出力にしておけば、センサ信号に電磁石パワーアンプ等のノイズを混入しにくくできる。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、上述した実施形態及び各変形例は、種々組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0079】
1、3 発振器
7 バンドパスフィルタ
9 反転増幅器
11 非反転増幅器
13 反転スイッチ
15 非反転スイッチ
17、19、29 操作信号
21 接続点
23 平滑回路
25 接地
27 ゼロスイッチ
100 ターボ分子ポンプ
104 上側径方向電磁石
105 下側径方向電磁石
107 上側径方向センサ
108 下側径方向センサ
113 ロータ軸
121 モータ