(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】神経突起伸長促進剤、神経細胞の樹状突起発現促進剤、及び神経栄養因子様作用物質
(51)【国際特許分類】
A61K 38/12 20060101AFI20240510BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240510BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240510BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20240510BHJP
【FI】
A61K38/12
A61P25/00
A23L33/18
C12N5/0793
(21)【出願番号】P 2020038183
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501474081
【氏名又は名称】株式会社バイオコクーン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸一
(72)【発明者】
【氏名】石黒 慎一
(72)【発明者】
【氏名】苅間澤 真弓
(72)【発明者】
【氏名】石黒 裕美
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047638(WO,A1)
【文献】特開2013-184923(JP,A)
【文献】特開2020-196699(JP,A)
【文献】特開2012-056867(JP,A)
【文献】特開2003-252876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/
A61K 38/
A61P 25/
C07K
CAplus/Registry(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される環状ペプチド誘導体を含む、神経細胞
傷害(但し、脳の神経細胞
傷害を除く。)の治療または予防用医薬品。
【化1】
式(1)中、mは0~3、n≧1であり、R
1~R
6はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立にカルボキシ基もしくはその塩、またはアルコキシカルボニル基であり、R
9は炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
10およびR
11はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
12~R
16はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基である。
【請求項2】
前記一般式(1)において、R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立にアルキル基であり、n=2~4であり、R
5およびR
6はそれぞれ水素原子であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立にカルボキシ基またはその塩である、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される環状ペプチド誘導体を含む、神経細胞
傷害(但し、脳の神経細胞
傷害を除く。)の治療または予防用食品。
【化2】
式(1)中、mは0~3、n≧1であり、R
1~R
6はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立にカルボキシ基もしくはその塩、またはアルコキシカルボニル基であり、R
9は炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
10およびR
11はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
12~R
16はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基である。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立にアルキル基であり、n=2~4であり、R
5およびR
6はそれぞれ水素原子であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立にカルボキシ基またはその塩である、請求項3に記載の食品。
【請求項5】
下記一般式(1)で表される環状ペプチド誘導体を含む、in vitroで使用するための神経細胞成長促進剤。
【化3】
式(1)中、mは0~3、n≧1であり、R
1~R
6はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立にカルボキシ基もしくはその塩、またはアルコキシカルボニル基であり、R
9は炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
10およびR
11はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
12~R
16はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基である。
【請求項6】
前記一般式(1)において、R
1、R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立にアルキル基であり、n=2~4であり、R
5およびR
6はそれぞれ水素原子であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立にカルボキシ基またはその塩である、請求項5に記載の神経細胞成長促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経突起伸長促進剤、樹状突起発現促進剤、及び神経栄養因子様作用物質に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は神経細胞(ニューロン)とグリア細胞(アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイト)と血管により構成されている。このうち、神経細胞は、細胞核を持つ細胞体と、細胞体から木の枝のように分岐した樹状突起と、細胞体から通常一本だけ延びる突起である軸索とからなり、情報処理と情報伝達を行う。神経細胞間の情報伝達は軸索と樹状突起で構成されるシナプスを介して行われる。樹状突起で受け取った情報は細胞体に集約され、軸索を介して隣の神経細胞の樹状突起へ神経伝達物資を放出することで伝わる。
【0003】
神経成長因子(nerve growth factor)(NGF)などの神経栄養因子は、神経細胞の発達、分化、機能維持に重要な役割を果たす内因性生理活性物質といわれている。NGFは、交感神経細胞の分化、成長、機能維持に必須な118個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、神経細胞やアストロサイト、シュワン細胞、線維芽細胞などで合成される。NGFが作用する前脳基底部コリン作動性神経はアルツハイマー病患者の脳で著しく脱落することから、NGFやその受容体の欠如とアルツハイマー病や老化との関連性が指摘され、NGFを利用した治療薬研究が進められている。
【0004】
神経栄養因子の1つに、VGF(Non-acronymic neuropeptide)があり、海馬組織でのニューロン発生を促進し、抗うつ剤の神経栄養因子として期待されている(非特許文献1)。
【0005】
脳疾患の治療や予防のための薬剤の開発において、神経細胞の伸長や樹状突起の発現に着目しているものが存在している。例えば、シキミ酸またはその塩を含む神経突起伸張剤(特許文献1)、マイタケから水又は熱水で抽出してなる神経栄養因子様作用物質(特許文献2)が提案されている。
【0006】
ところで、本発明者らは、特許文献3において新規な環状ペプチド誘導体を提供している。この環状ペプチド誘導体は、冬虫夏草の一種であるハナサナギタケから採取されたものであり、アストロサイトに対して増殖活性を有することが示されているが、神経突起伸長や樹状突起発現を促進する作用などの神経栄養因子様作用を持つことは知られていなかった。
【0007】
また、特許文献4には、アストロサイト増殖促進剤の製造方法として、ハナサナギタケからの熱水抽出物を含む水溶液と有機溶媒とによる二層分配を行い、得られた水抽出画分の乾燥体を含む溶液を担体にチャージさせた後、該担体に水と有機溶媒の混合液を接触させて固相抽出を行い、それによりアストロサイト増殖促進活性を持つ抽出物を得ることが記載されている。また、得られた抽出物を培地に添加して大脳神経細胞を培養し、大脳神経細胞の合計突起長を観察したことが記載されている。しかしながら、特許文献4には、上記抽出物では大脳神経細胞の合計突起長についてコントロール群との統計上の有意差は認められなかったと記載されており、すなわち、神経突起伸長作用を持つことは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-035078号公報
【文献】特開2004-331525号公報
【文献】国際公開2016/047638号
【文献】特開2013-184923号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Thakker-Varia, S. et al. (2007). The Neuropeptide VGF Produces Antidepressant-LikeBehavioral Effects and Enhances Proliferation in the Hippocampus. The Journalof Neuroscience. 27, 12156-12167.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、神経突起伸長促進作用を持つ新規な神経突起伸長促進剤、樹状突起発現促進作用を持つ新規な樹状突起発現促進剤、及び、神経栄養因子様作用を持つ新規な神経栄養因子様作用物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る神経突起伸長促進剤は、下記一般式(1)で表される環状ペプチド誘導体を含むものである。
【0012】
本発明の一実施形態に係る神経細胞の樹状突起発現促進剤は、下記一般式(1)で表される環状ペプチド誘導体を含むものである。
【0013】
本発明の一実施形態に係る神経栄養因子様作用物質は、下記一般式(1)で表される環状ペプチド誘導体を含むものである。
【0014】
【化1】
式(1)中、mは0~3、n≧1であり、R
1~R
6はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基であり、R
7およびR
8はそれぞれ独立にカルボキシ基もしくはその塩、またはアルコキシカルボニル基であり、R
9は炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
10およびR
11はそれぞれ独立に水素原子、炭化水素基またはアルキルカルボニルオキシ基であり、R
12~R
16はそれぞれ独立に水素原子または炭化水素基である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、新規な神経突起伸長促進剤、樹状突起発現促進剤、及び、神経栄養因子様作用物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】神経細胞培養において環状ペプチド誘導体の濃度と樹状突起長との関係を示すグラフ
【
図2】神経細胞培養において環状ペプチド誘導体の濃度と樹状突起数との関係を示すグラフ
【
図3】神経細胞培養において環状ペプチド誘導体の濃度と軸索長との関係を示すグラフ
【
図4】環状ペプチド誘導体とNGFの軸索伸長活性を示すグラフ
【
図5】環状ペプチド誘導体とVGFの軸索伸長活性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態は、神経突起伸長促進剤、樹状突起発現促進剤、及び、神経栄養因子様作用物質(以下、これらをまとめて本剤ということがある。)に関するものである。
【0018】
神経突起伸長促進剤は、神経細胞に直接作用して神経突起の伸長を促進する剤である。神経突起は、軸索と樹状突起を包括する概念であり、そのため、神経突起伸長促進剤は軸索及び/又は樹状突起を伸長させる作用を持つ。
【0019】
樹状突起発現促進剤は、神経細胞に直接作用して樹状突起の発現作用を有する剤であり、樹状突起数を増加させる作用を持つ。
【0020】
神経栄養因子様作用物質は、神経栄養因子様作用を有する物質であり、神経細胞に直接作用して軸索や樹状突起を伸長させたり、樹状突起の発現を促進したりする作用を持つ。
【0021】
本剤は、次の一般式(1)で表される環状ペプチド誘導体を有効成分として含有する。
【化2】
式中、mは0~3の整数であり、nは1以上の整数である。R
1~R
6は、それぞれ独立に水素原子または炭化水素基である。R
7およびR
8は、それぞれ独立にカルボキシ基もしくはその塩、またはアルコキシカルボニル基である。R
9は、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアルキルカルボニルオキシ基である。R
10およびR
11は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基またはアルキルカルボニルオキシ基である。R
12~R
16は、それぞれ独立に水素原子または炭化水素基である。
【0022】
ここで、炭化水素基としては、例えば脂肪族炭化水素基、即ち、直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和の炭化水素基、または脂環式の炭化水素基が挙げられる。炭化水素基の炭素数は特に限定しないが、好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4である。アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基における炭化水素部分も同様である。好ましい例としては、炭化水素基および炭化水素部分は、それぞれ炭素数1~4のアルキル基である。
【0023】
R7およびR8について、カルボキシ基の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の金属塩や、酢酸アンモニウム塩などのアンモニウム塩、ジエチルアミン塩などのアミン塩等が例示される。
【0024】
式(1)においては、例えば、R1、R2、R3およびR4がそれぞれ独立にアルキル基であり、n=2~4であり、R5およびR6がそれぞれ水素原子であり、R7およびR8がそれぞれ独立にカルボキシ基またはその塩であってもよい。
【0025】
式(1)においては、例えば、R1、R2、R3およびR4がそれぞれ独立にアルキル基、特に好ましくはメチル基およびエチル基のいずれかであり、n=2~4であり、R5およびR6がそれぞれ水素原子であり、R7およびR8がそれぞれ独立にカルボキシ基またはその塩であり、m=0であり、R10およびR11がそれぞれ水素原子であり、R12およびR13がそれぞれ水素原子であり、R14およびR15がそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基(特に好ましくはメチル基)のいずれかであり、R16が水素原子であるものが挙げられる。
【0026】
一実施形態において、式(1)で表される環状ペプチド誘導体としては、下記式(2)で表される化合物又はその塩でもよい。
【化3】
この式(2)で表される化合物は、N-メチル-β-ヒドロキシドーパ、バリン、β-ヒドロキシロイシン、グルタミン酸の4種のアミノ酸からなるペプチドが環状構造をとったものである。
【0027】
式(1)で表される環状ペプチド誘導体の製造方法は、特に限定されず、例えば、特許文献3(WO2016/047638)に記載の通り、ハナサナギタケから各種の抽出、分離方法を用いて単離することで採取してもよく、ペプチド合成等の各種の公知の化学合成方法を組み合わせることによって製造してもよい。また、遺伝子組換えの公知の技術によって製造してもよい。
【0028】
式(1)で表される環状ペプチド誘導体は、神経細胞に直接作用して神経突起の伸長を促進し、樹状突起の発現を促進する作用を有する。そのため、式(1)で表される環状ペプチド誘導体を含む本剤は、脳疾患や老化に伴う神経細胞傷害の治療や予防のための医薬品や食品に利用することができる。
【0029】
一実施形態において、本剤は、医薬組成物または食品組成物の有効成分としてそれらに配合してもよく、神経突起の伸長を促進するための医薬組成物または食品組成物、樹状突起の発現を促進するための医薬組成物または食品組成物、及び、神経栄養因子様作用を有する医薬組成物または食品組成物を提供することができる。これらの医薬組成物または食品組成物は、例えば、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物(実験動物、ペット等)に対して用いることができる。
【0030】
医薬組成物は、本剤と、医薬品として許容される種々の添加剤等やその他の成分とを混合するなど、公知の技術を用いて製造することができる。医薬組成物は、経口投与または非経口投与が可能であり、その形態としては、経口投与用であれば、例えば、錠剤、丸剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、液状製剤(エリキシル剤、シロップ剤、懸濁剤、溶液剤を含む。)などが挙げられ、非経口投与用であれば、例えば、注射剤、点滴剤などが挙げられ、脳内への直接投与でもよい。
【0031】
食品組成物は、本剤と、食品として許容される種々の添加剤等やその他の成分とを混合するなど、公知の技術を用いて製造することができる。食品組成物としては、保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品および機能性表示食品)、サプリメントなどが挙げられる。食品組成物の形態の例としては、経口投与用の医薬組成物と同様の形態が挙げられ、また飲料や菓子等の形態でもよい。
【0032】
医薬組成物または食品組成物に配合することのできる添加剤としては、例えば、賦形剤、酸化防止剤、香料、調味料、甘味料、着色料、増粘安定剤、発色剤、漂白剤、ガムベース、乳化剤、結合剤、希釈剤、防腐剤、安定化剤、凝固剤などが挙げられる。
【0033】
医薬組成物の一投与または一日あたりの有効成分量、及び、食品組成物の一食分または一日あたりの有効成分量は、投与または摂取対象の年齢、体重、性別や、適用される疾患または状態などに応じて、また非臨床的または臨床的な試験結果等に基づいて、適宜設定することができる。特に限定しないが、本剤の経口摂取量としては、式(1)の環状ペプチド誘導体の量として、例えば、ヒトを含む哺乳動物に対し、1日あたり0.1μg/kg以上50μg/kg以下でもよく、1μg/kg以上25μg/kg以下でもよい。
【0034】
また、本剤は、in vitroの実験系において低濃度でも効果が得られる。in vitroの実験系における本剤の濃度は、特に限定されず、式(1)の環状ペプチド誘導体の濃度として、例えば、0.001μM以上1μM以下(即ち、1×10-7~1×10-6mol/L)でもよく、0.01μM以上1μM以下でもよく、0.03μM以上0.3μM以下でもよい。
【実施例】
【0035】
1.材料
・環状ペプチド誘導体:特許文献3(WO2016/047638)の実施例に記載の方法により得られた上記式(2)で表される化合物のジエチルアミン塩。
・NGF(nerve growth factor):シグマ アルドリッチ ジャパンより入手
・VGF(VGF nerve growth factor inducible:栄養因子の1つ、NGFより誘導される):PHENIX PHARMACEUTICALS, INC.より入手
【0036】
2.海馬ニューロンの初代培養
基本プロトコール(Culturing hippocampal neurons(Stefanie et al.))を改変して行った。
【0037】
初代培養前日に3つのパラフィン脚を付けたカバーガラス(Fisher scientific φ18mm)を100μLのポリリジン(PLLカバーガラス)でコートし、60mmディッシュに入れて、クリーンベンチ内で一晩静置した。これを6mLの滅菌水でオートピペッターを用いて2回洗浄し、各2時間振盪した。洗浄後、滅菌水を吸引除去し上記60mmディッシュに、NPM(Neuronal Plating Medium)6mLを入れ、37℃、5.0%CO2インキュベーターで一晩、初代培養までインキュベートした。
NPM:MEM supplemented with glucose(0.6% (wt/vol) and containing 10%(vol/vol)horse serum)。MEM with Earle’s saltsand L-glutamine (Invitrogen 11095-080), D-Glucose (Sigma G8769), Horse serum(KOJ 12180110)
【0038】
初代培養当日、出産1日前の妊娠マウス(妊娠17日齢、日本クレア)を承認された方法で安楽死させた後、子宮を取り出し、95%エタノールを入れたTPP社製ディッシュ(100mm)に入れた。子宮から胎児を一匹ずつ取り出し、次いで先曲ピンセットで頸椎脱臼後、頭蓋骨を剥いて胎児の脳をCMF-HBSSを入れたシャーレに取り出した。取り出した脳は常にCMF-HBSSに浸漬した状態とした。解剖用顕微鏡下で大脳半球から先細ピンセットで髄膜を慎重に剥ぎ取った。大脳から海馬を切り出し、2mLのCMF-HBSSを入れた35mmディッシュに集めた。これをピペッターで吸引し、15mLのコニカルチューブに回収後、さらにCMF-HBSSを2.5mL加え、CMF-HBSSの合計容量は4.5mLとした。
CMF-HBSS:Calcium-,magnesium-,and bicarbonate-free Hank’sbalanced salt solution (BSS) with 10 mM HEPES, pH 7.3。10XHank’s BSS (Invitrogen 14185-052), 1M HEPES buffer, pH 7.3, (Invitrogen15630-080)
【0039】
次いで、2.5%トリプシン(gibco)を0.5mL加え、37℃の恒温槽で15分間インキュベートした。上清を静かにピペットで除去して、海馬をコニカルチューブの底に残し、5mLのCMF-HBSSを加え、クリーンベンチ内で5分間静置した。上清を静かに除去し、さらに5mLのCMF-HBSSを加えクリーンベンチ内で静置した(2回繰り返し)。2回目の洗浄の際、最終液量を3mL残した。得られた海馬を、パスツールピペットでコニカルチューブの底にあてるように繰り返し上下にピペッティングすることでバラバラにした。始めに通常のピペットで5~10回ピペッティングし、次に前もって先端を火炎研磨により口径を半分に狭めたパスツールピペットで、5~10回ピペッティングした。
【0040】
次いで、泡立ちを最小限に抑えかつ組織の塊を残さないために、懸濁液を70μmメッシュフィルター(FALCON)でろ過し、50mLのコニカルチューブに回収した。細胞懸濁液を血球計算盤(NanoEnTek社製, C-Chip)に滴下し、トリパンブルーで染色した細胞数を求めた。細胞生存率は90%以上であった。前日に調製したNPMを入れた60mmディッシュに細胞懸濁液を添加し、得られた細胞及びNPMを含むディッシュを海馬ニューロン細胞培養に用いた。その際、添加した細胞懸濁液の量は、血球計算盤で細胞数を計算して、NPMに添加した後の細胞濃度が0.5×105個/mLになるように調整した。
【0041】
3.環状ペプチド誘導体が海馬ニューロンへ及ぼす影響評価試験
上記のようにしてマウス胎児の海馬より初代培養法を用いて海馬ニューロンを播種し3時間後、かかる培養直後の海馬ニューロン(未発達状態)に環状ペプチド誘導体をNB培地に溶解したものを添加し、3日間培養した。培養後に写真撮影を行い、海馬ニューロンに対する影響を評価した。
【0042】
詳細には、上記2.でのインキュベート3時間後に、各カバーガラスを先細ピンセットで静かに反転させ、12ウェルプレートに移した。該プレートの各ウェルには、それぞれ1mLのNeurobasal/B27培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製「Gibco B-27 Plus Neuronal Culture System)とともに、試験薬を入れておいた。37℃、5.0%CO2インキュベーターで3日間培養し、培養後に海馬ニューロンの位相差画像を(株)キーエンス製のBZ-X710およびBZ-Viewerで撮影し、BZ-Xアナライザーを使用して、樹状突起の数と長さ、軸索の長さ等を計測して、各試験薬の影響を評価した。
【0043】
実施例1では、上記試験薬として環状ペプチド誘導体を用いた。環状ペプチド誘導体の培地中での濃度は、0.03μM、0.1μM、0.3μM、1.0μMとした。培養後の写真撮影による評価においては、樹状突起長と、樹状突起数と、軸索長を評価した。コントロール(Control)として環状ペプチド誘導体を無添加(0μM)のものについても同様に評価した。
【0044】
実施例2では、上記試験薬として、環状ペプチド誘導体とともに、代表的な栄養因子(NGF,VGF)を用いて、比較を行った。環状ペプチド誘導体とNGFとの比較では、それらの培地中の濃度は1.0ng/mLとした。環状ペプチド誘導体とVGFとの比較では、それらの培地中での濃度は0.1μMとした。培養後の写真撮影による評価においては、神経細胞の軸索長を評価した。コントロール(Control)として上記試験薬を無添加のものについても同様に評価した。ここで、環状ペプチド誘導体の場合、1.0ng/mLは約0.0017μMに相当する。
【0045】
4.評価結果
(1)実施例1(環状ペプチド誘導体の神経細胞に及ぼす影響)
環状ペプチド誘導体の濃度と神経細胞における樹状突起(このタイプの神経細胞をデンドライトと呼ぶ)の長さの関連を評価した。
図1に示したように、環状ペプチド誘導体濃度が0.03μMから0.3μMまで濃度依存的に1個の神経細胞における樹状突起の長さは増加した。また、
図2にみられるように、樹状突起数もまた0.03μMから1.0μMまで濃度依存的に増加した。さらに、
図3に示したように、デンドロライトにおける軸索長についても評価したところ、0.03μMから0.1μMと環状ペプチド誘導体を添加したところ、軸索長は有意(P < 0.01、 P < 0.001、 P < 0.0001)に増加した。
【0046】
以上のように、海馬からの初代神経細胞を用いて、神経細胞における樹状突起長と樹状突起数の増大と共に、軸索の長さも促進することが明らかになった。なお、環状ペプチド誘導体はアストロサイト増殖活性も有するが、アストロサイト増殖促進活性では10~25μMの濃度が必要である。これに対し、神経細胞に対してはより低い濃度で活性が得られた。環状ペプチド誘導体は血管から血液脳関門(アストロサイト)→脳内(ニューロン)と吸収されていくため、感受性の違いがあらわれたと考えられる。
【0047】
(2)実施例2(代表的な栄養因子との比較)
従来の神経栄養因子剤として知られているNGF(Nerve growth factor)、および抗うつ剤として期待されている神経栄養因子のVGF(Non-acronymic neuropeptide factor)と比較評価した。
【0048】
環状ペプチドとNGFについては、それぞれの濃度を1.0ng/mLに調整して、代表的な軸索の長さについて評価した。
図4に示したように、神経細胞における軸索の長さは環状ペプチド誘導体の添加により、無添加のコントロールに比較して顕著に増大し明らかに有意差が認められた(P < 0.0001)。一方、ポジティブコントロールのNGFの添加では軸索長は増加傾向にあるが有意差は認められなかった。また、環状ペプチド誘導体とNGFの比較評価試験でも、環状ペプチド誘導体の添加による軸索の長さは、明らかな有意差(P < 0.0001)が認められた。
【0049】
次に、
図5に示したように、環状ペプチド誘導体とVGFとの比較評価をしたところ、無添加のコントロールに対して、環状ペプチド誘導体の添加により軸索の長さが明らかに促進された(P < 0.0001)。一方、VGFの添加では、コントロールと比較して増大傾向にあるが有意差は認められず、逆に環状ペプチド誘導体との比較評価では、環状ペプチド誘導体の添加により軸索の長さの増大が顕著に発生した(P < 0.0001)。
【0050】
以上の評価結果から、環状ペプチド誘導体の神経栄養因子としての機能性は、従来のNGF及びVGFよりも優れており、新規の神経栄養因子として、抗うつ病剤を含む脳疾患治療剤として利用効果が期待できる。
【0051】
NGFを利用した治療薬研究は進められているが、NGFは脳内移行が悪いなどの問題から臨床応用の目途はたっていない。これに対し、環状ペプチド誘導体はアストロサイトに作用し神経栄養因子の分泌を誘導するだけではなく、神経細胞に直接作用し神経栄養因子様の機能を示すことが明らかになった。