(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】船舶用物標検出システム、船舶用物標検出方法、信頼度推定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/00 20060101AFI20240510BHJP
G01S 13/937 20200101ALI20240510BHJP
【FI】
G08G3/00 A
G01S13/937
(21)【出願番号】P 2020104978
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】原 裕一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 雅樹
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-141656(JP,A)
【文献】特開2006-195641(JP,A)
【文献】特開2017-044530(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0050893(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを生成する、複数の候補データ生成部と、
前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出する同一候補選出部と、
前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出する存在信頼度算出部と、
を備え
、
前記物標候補データは、前記物標候補の種別データをさらに含み、
前記選出された複数の物標候補データのそれぞれに含まれる前記種別データ、及び前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の種別信頼度を算出する種別信頼度算出部をさらに備える、
船舶用物標検出システム。
【請求項2】
前記複数の候補データ生成部の1つは、レーダー、他船情報を受信する通信装置、ソナー、船外を撮影するイメージセンサ及び画像内の物標候補を識別する識別部の組、並びに画像内の物標候補のユーザによる指示を受付ける指示受付部のうちの何れかである、
請求項
1に記載の船舶用物標検出システム。
【請求項3】
前記複数の候補データ生成部は、レーダー、他船情報を受信する通信装置、ソナー、船外を撮影するイメージセンサ及び画像内の物標候補を識別する識別部の組、並びに画像内の物標候補のユーザによる指示を受付ける指示受付部のうちの2種類以上を含む、
請求項1
または2に記載の船舶用物標検出システム。
【請求項4】
前記複数の候補データ生成部は、少なくともレーダーを含む、
請求項1ないし
3の何れかに記載の船舶用物標検出システム。
【請求項5】
前記複数の候補データ生成部は、使用周波数帯が異なる複数のレーダーを含む、
請求項1ないし
4の何れかに記載の船舶用物標検出システム。
【請求項6】
前記複数の候補データ生成部の1つは、
レーダー、イメージセンサ、又はソナーからなる、検出データを出力する検出部と、
検出データを入力データとし、物標の種別を教師データとして機械学習により予め生成された学習済みモデルを用い、前記検出部から出力された検出データに表れる前記物標候補の種別を推定し、前記種別データを生成する識別部と、
を含む、
請求項
1ないし5の何れかに記載の船舶用物標検出システム。
【請求項7】
前記識別部は、前記物標候補の種別として、船舶の大きさ又は種類を推定する、
請求項
6に記載の船舶用物標検出システム。
【請求項8】
前記識別部は、前記物標候補の種別として、水上浮遊物の種類を推定する、
請求項
6または
7に記載の船舶用物標検出システム。
【請求項9】
前記存在信頼度算出部は、前記属性に加えて、前記物標候補の大きさを表すサイズデータ、移動速度を表す速度データ、航跡を表す航跡データ、検出からの経過時間を表す時間データ、及び検出信号の強度を表す強度データのうちの1又は2種類以上に基づいて、前記存在信頼度を算出する、
請求項1ないし
8の何れかに記載の船舶用物標検出システム。
【請求項10】
前記存在信頼度算出部は、前記物標候補が予定航路上に位置する場合に、予定航路上に位置しない場合と比べて前記存在信頼度を高く算出する、
請求項1ないし
9の何れかに記載の船舶用物標検出システム。
【請求項11】
前記存在信頼度算出部は、前記属性に加えて、海図データ、潮流データ、及び天候データのうちの1又は2種類以上に基づいて、前記存在信頼度を算出する、
請求項1ないし
10の何れかに記載の船舶用物標検出システム。
【請求項12】
前記物標候補の前記物標候補データ及び前記存在信頼度に基づいて、避航計画航路を算出する避航計算部をさらに含む、
請求項1ないし
11の何れかに記載の船舶用物標検出システム。
【請求項13】
前記避航計画航路に従って前記船舶を制御する船舶制御部をさらに備える、
請求項
12に記載の船舶用物標検出システム。
【請求項14】
複数の候補データ生成部のそれぞれにより、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを生成し、
前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出し、
前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出する、
船舶用物標検出方法であって、
前記物標候補データは、前記物標候補の種別データをさらに含み、
さらに、前記選出された複数の物標候補データのそれぞれに含まれる前記種別データ、及び前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の種別信頼度を算出する、
船舶用物標検出方法。
【請求項15】
複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを取得する候補データ取得部と、
前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出する同一候補選出部と、
前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出する存在信頼度算出部と、
を備え
、
前記物標候補データは、前記物標候補の種別データをさらに含み、
前記選出された複数の物標候補データのそれぞれに含まれる前記種別データ、及び前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の種別信頼度を算出する種別信頼度算出部をさらに備える、
信頼度推定装置。
【請求項16】
複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを取得すること、
前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出すること、及び、
前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出すること、
をコンピュータに実行させ
、
前記物標候補データは、前記物標候補の種別データをさらに含み、
さらに、前記選出された複数の物標候補データのそれぞれに含まれる前記種別データ、及び前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の種別信頼度を算出することを実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用物標検出システム、船舶用物標検出方法、信頼度推定装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ARPAレーダー装置併載船舶のAIS装置が、インターフェースを介してARPAレーダー装置に接続され、受信する近傍船舶の動的情報とARPAレーダー装置から取得するレーダシンボル情報とを、刻々に比較し、所定の一致が認められる動的情報がないレーダシンボル情報を送信停止警戒情報とし、所定の一致が認められるレーダシンボル情報がない動的情報を無実体通報警戒情報とし、これらの警戒情報を表示装置にて表示して運用者に警戒を促すと共に、前記警戒情報を通報に変換して近傍船舶に送信することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばレーダーは、自船の周囲に存在する船舶、ブイ、陸地、氷山、浮揚コンテナ等を物標として検出するが、一方で、ノイズ等の物標として不適当なものまで検出してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、物標の存在信頼度を推定することが容易な船舶用物標検出システム、船舶用物標検出方法、信頼度推定装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様の船舶用物標検出システムは、それぞれが、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを生成する、複数の候補データ生成部と、前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出する同一候補選出部と、前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出する存在信頼度算出部と、を備える。
【0007】
また、本発明の他の態様の船舶用物標検出方法は、複数の候補データ生成部のそれぞれにより、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを生成し、前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出し、前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出する。
【0008】
また、本発明の他の態様の信頼度推定装置は、複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを取得する候補データ取得部と、前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出する同一候補選出部と、前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出する存在信頼度算出部と、を備える。
【0009】
また、本発明の他の態様のプログラムは、複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された、船舶の周囲に存在する物標候補の位置データを含む物標候補データを取得すること、前記複数の候補データ生成部のそれぞれにより生成された前記物標候補データから、前記位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出すること、及び、前記複数の候補データ生成部のうちの、前記選出された複数の物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、前記同一の物標候補の存在信頼度を算出すること、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、物標の存在信頼度を推定することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る船舶用物標検出システムの構成例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る信頼度推定装置の構成例を示す図である。
【
図3】レーダー用候補管理DBの例を示す図である。
【
図8】実施形態に係る船舶用物標検出方法の手順例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、船舶用物標検出システム100の構成例を示すブロック図である。船舶用物標検出システム100は、船舶に搭載され、自船の周囲に存在する物標(ターゲット)を検出するためのシステムである。
【0014】
船舶用物標検出システム100は、信頼度推定装置1、複数のレーダー2,3、レーダー3、AIS4、ソナー5、イメージセンサ6、表示装置7、GNSS受信機8、ジャイロコンパス9、ECDIS10、無線通信部11、及び自動操舵装置12を備えている。これらの装置は、LAN等のネットワークNに接続されており、相互にネットワーク通信が可能である。
【0015】
信頼度推定装置1は、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリ、及び入出力インターフェース等を含むコンピュータである。信頼度推定装置1のCPUは、ROM又は不揮発性メモリからRAMにロードされたプログラムに従って情報処理を実行する。
【0016】
プログラムは、例えば光ディスク又はメモリカード等の情報記憶媒体を介して供給されてもよいし、例えばインターネット又はLAN等の通信ネットワークを介して供給されてもよい。
【0017】
本実施形態では、信頼度推定装置1は独立した装置であるが、これに限らず、ECDIS10等の他の装置と一体であってもよい。すなわち、信頼度推定装置1の機能がECDIS10等の他の装置に組み込まれてもよい。
【0018】
図2は、信頼度推定装置1の構成例を示すブロック図である。信頼度推定装置1は、候補データ取得部21、同一候補選定部22、存在信頼度算出部23、種別信頼度算出部24、物標識別部25、指示受付部26、避航計算部27、及び船舶制御部28を備えている。これらの機能部は、信頼度推定装置1のCPUがプログラムに従って情報処理を実行することにより実現される。
【0019】
信頼度推定装置1は、レーダー用候補管理DB31、AIS用候補管理DB32、ソナー用候補管理DB33、画像用候補管理DB34、及び共通候補管理DB35をさらに備えている。これらのデータベースは、信頼度推定装置1の不揮発性メモリに設けられる。これに限らず、データベースは、外部に設けられ、通信ネットワークを介してアクセスされてもよい。
【0020】
図1の説明に戻る。レーダー2,3は、アンテナからマイクロ波を発射するとともにその反射波を受信し、受信信号に基づいてエコー画像を生成する。レーダー2,3の使用周波数は、例えばXバンド(8~12GHz)、Sバンド(2~4GHz)、又はKaバンド(26~40GHz)等である。また、レーダー2,3は、エコー画像に表れる物標候補を検出し、物標候補の位置及び速度ベクトルを表す物標追跡データを生成する。
【0021】
AIS(Automatic Identification System)4は、自船の周囲に存在する他船からAISデータを受信する。AIS4は、他船情報を受信する通信装置の例である。AISに限らず、VDES(VHF Data Exchange System)が用いられてもよい。AISデータは、例えば識別符号、船名、位置、針路、船速、及び目的地等を含んでいる。
【0022】
ソナー5は、船底に設置された超音波振動子から周囲方向に超音波を発射するとともにその反射波を受信し、受信信号に基づいてエコー画像を生成する。また、ソナー5は、エコー画像に表れる物標候補を検出し、物標候補の位置を表す物標追跡データを生成する。この機能は、信頼度推定装置1で実現されてもよい。
【0023】
イメージセンサ6は、例えば可視光カメラ又は赤外線カメラ等のカメラであり、船外を撮影して画像を生成する。イメージセンサ6は、例えば自船のブリッジに船首方位を向いて設置される。イメージセンサ6は、ユーザの操作入力に応じて、パン、チルト又はズームするように構成されてもよい。
【0024】
表示装置7は、タッチセンサ付き表示装置である。タッチセンサは、指等による画面内の指示位置を検出する。タッチセンサに限らず、トラックボール等により指示位置が入力されてもよい。表示装置7には、イメージセンサ6により撮影された画像、又はレーダー2,3若しくはソナー5により生成されたエコー画像などが表示される。
【0025】
GNSS受信機8は、GNSS(Global Navigation Satellite System)から受信した電波に基づいて自船の位置を検出する。ジャイロコンパス9は、自船の船首方位を検出する。ジャイロコンパスに限らず、GPSコンパス又は磁気コンパスが用いられてもよい。
【0026】
ECDIS(Electronic Chart Display and Information System)10は、GNSS受信機8から自船の位置を取得し、自船の位置を電子海図上に表示する。また、ECDIS10は、複数のウェイポイントを順に辿るように設定された予定航路も電子海図上に表示する。ECDISに限らず、GNSSプロッタが用いられてもよい。
【0027】
無線通信部11は、例えば超短波帯、中短波帯、短波帯の無線設備など、他船又は陸上の基地局との通信を実現する種々の無線設備を含んでいる。無線通信部11は、例えばMICS(Maritime Information and Communication System)等にアクセスし、天候及び潮流等のデータを取得する。
【0028】
自動操舵装置12は、ジャイロコンパス9から取得した船首の方位と、ECDIS10から取得した予定針路とに基づいて、船首を予定針路に向けるための目標舵角を算出し、操舵機の舵角が目標舵角に近付くように操舵機を駆動する。また、自動操舵装置12は、自船のエンジンを制御してもよい。
【0029】
ところで、レーダー2,3は、自船の周囲に存在する船舶、ブイ、陸地、氷山、浮揚コンテナ等を物標候補として検出するが、一方で、ノイズ等の物標として不適当なものまで物標候補として検出することがある。このような不適当なものに基づいて避航を行うことは無駄となるため、物標の存在を適切に把握することが重要である。さらに、物標の存在だけでなく物標の種別を把握することができれば、より効率的な避航が可能となる。
【0030】
そこで、本実施形態では、レーダー2,3、AIS4、及びソナー5等の複数の候補データ生成部を利用して、自船の周囲に存在する物標候補の存在信頼度及び種別信頼度を算出している。
【0031】
レーダー2,3、AIS4、及びソナー5等は、物標候補データを生成する候補データ生成部の例である。物標候補データは、物標候補の位置データを含んでいる。さらに、物標候補データは、物標候補の種別データを含んでもよい。
【0032】
具体的には、レーダー2,3は、物標候補の位置等を表す物標追跡データを物標候補データとして生成する。AIS4は、他船の位置及び種別を表すAISデータを物標候補データとして生成する。ソナー5は、物標候補の位置等を表す物標追跡データを物標候補データとして生成する。
【0033】
イメージセンサ6と物標識別部25の組も、候補データ生成部の例である。イメージセンサ6により撮影された画像内の物標候補を物標識別部25が識別することにより、物標候補データが生成される。物標候補の位置は、イメージセンサ6の撮影方向及び画像内の物標候補の位置に基づいて算出される。また、物標識別部25は、物標候補の種別も推定する。
【0034】
物標識別部25は、画像を入力データとし、画像内の物標の範囲及び種別を教師データとして機械学習により予め生成された学習済みモデルを用い、イメージセンサ6により撮影された画像内の物標候補の範囲及び種別を推定する。学習済みモデルは、例えばYOLO(You Only Look Once)又はSSD(Single Shot MultiBox Detector)等の物体検出モデルである。
【0035】
表示装置7に表示された画像内の物標候補のユーザによる指示を受付ける指示受付部26も、候補データ生成部の例である。表示装置7に表示された、イメージセンサ6により撮影された画像内の物標候補をユーザが指示することで、物標候補データが生成される。また、表示装置7に表示された、レーダー2,3又はソナー5により生成されたエコー画像内の物標候補をユーザが指示することで、物標候補データが生成されてもよい。
【0036】
なお、信頼度推定装置1は、他船においてレーダー等により生成された物標候補データを、無線通信部11を介して他船から取得して、存在信頼度等の算出に利用してもよい。この場合、無線通信部11は、他船情報を受信する通信装置の例であり、候補データ生成部の例となる。
【0037】
複数の候補データ生成部としては、物標候補を多角的に検出するために、レーダー、AIS、ソナー、及びイメージセンサ等のうちの2種類以上を含むことが好ましい。また、レーダーは物標候補の検出に優れるため、複数の候補データ生成部は、少なくとも1つのレーダーを含むことが好ましい。
【0038】
また、レーダーは、電波の波長に応じて直進性や減衰性等が異なるため、複数の候補データ生成部は、使用周波数帯が異なる複数のレーダーを含むことが好ましい。これに限らず、複数の候補データ生成部は、アンテナの設置場所が互いに異なる、使用周波数帯が同じ複数のレーダーであってもよい。
【0039】
なお、レーダー2,3又はソナー5により生成される物標候補データは、一般に種別データを含まないが、物標識別部25と組み合わせることで、物標候補データに種別データを含めるようにしてもよい。すなわち、物標識別部25が、レーダー2,3又はソナー5により生成されたエコー画像内に表れる物標候補の種別を推定してもよい。
【0040】
この場合、物標識別部25は、エコー画像を入力データとし、エコー画像内の物標の範囲及び種別を教師データとして機械学習により予め生成された学習済みモデルを用い、レーダー2,3又はソナー5により生成されたエコー画像内の物標候補の範囲及び種別を推定する。
【0041】
図3は、レーダー用候補管理DB31の例を示す図である。レーダー用候補管理DB31は、レーダー2,3により生成された物標候補データを管理するためのデータベースである。レーダー用候補管理DB31は、レーダー2,3のコンピュータに記憶されてもよい。
【0042】
レーダー用候補管理DB31は、例えば「候補識別子」、「位置」、「種別」、「速度」、「針路」、「航跡」、「時間」、「サイズ」、「強度」、「属性」、及び「指示」等のフィールドを含んでいる。
【0043】
「候補識別子」は、物標候補を識別するための識別子である。「位置」は、物標候補の位置を表す。「種別」は、物標候補の種別を表す。具体的には、「種別」は、物標識別部25によりエコー画像から推定された物標候補の種別である。
【0044】
「速度」、「針路」、「航跡」は、物標候補の速度、針路、及び航跡をそれぞれ表す。「時間」は、物標候補の検出からの経過時間を表す。「サイズ」は、エコー画像に表れた像の大きさを表す。「強度」は、反射波の信号強度を表す。
【0045】
「属性」は、複数のレーダー2,3のどのレーダーによって検出されたかを表す。「指示」は、表示装置7に表示されたエコー画像内でユーザにより指示されたことを表す。
【0046】
図4は、AIS用候補管理DB32の例を示す図である。AIS用候補管理DB32は、AIS4により生成された物標候補データを管理するためのデータベースである。AIS用候補管理DB32は、AIS4のコンピュータに記憶されてもよい。AIS用候補管理DB32は、例えば「候補識別子」、「位置」、「種別」、「船名」、「針路」、「速度」、及び「目的地」等のフィールドを含んでいる。
【0047】
図5は、ソナー用候補管理DB33の例を示す図である。ソナー用候補管理DB33は、ソナー5により生成された物標候補データを管理するためのデータベースである。ソナー用候補管理DB33は、ソナー5のコンピュータに記憶されてもよい。ソナー用候補管理DB33は、例えば「候補識別子」、「位置」、「種別」、「時間」、「サイズ」、「強度」、及び「指示」等のフィールドを含んでいる。
【0048】
図6は、画像用候補管理DB34の例を示す図である。画像用候補管理DB34は、イメージセンサ6により撮影された画像内の物標候補を物標識別部25が識別することにより生成された物標候補データを管理するためのデータベースである。画像用候補管理DB34は、例えば「候補識別子」、「位置」、「種別」、「速度」、「針路」、「航跡」、「時間」、「サイズ」、及び「指示」等のフィールドを含んでいる。
【0049】
図7は、共通候補管理DB35の例を示す図である。共通候補管理DB35は、上記のレーダー用候補管理DB31、AIS用候補管理DB32、ソナー用候補管理DB33、及び画像用候補管理DB34を横断的に管理するための上位のデータベースである。共通候補管理DB35は、例えば「共通候補識別子」、「候補識別子」、「位置」、「種別」、「属性」、「指示」、「存在信頼度」、及び「種別信頼度」等のフィールドを含んでいる。
【0050】
「共通候補識別子」は、共通する物標候補を識別するための識別子である。この共通候補識別子によって、同一の物標候補を表す候補識別子がまとめられる。「位置」は、物標候補の位置を表す。同一の物標候補を表すか否かは、位置が共通するか否かによって判定される。「種別」は、物標候補の種別を表す。
【0051】
「属性」は、物標候補データを生成した候補データ生成部の属性を表す。すなわち、「属性」は、レーダー2,3、AIS4、ソナー5、及びイメージセンサ6等のどれによって検出されたかを表す。「存在信頼度」及び「種別信頼度」は、物標候補の存在信頼度及び種別信頼度を表す(詳細は後述する)。
【0052】
図8は、船舶用物標検出システム100において実現される船舶用物標検出方法の手順例を示すフロー図である。信頼度推定装置1は、同図に示す情報処理をプログラムに従って情報処理を実行する。
【0053】
まず、信頼度推定装置1は、レーダー2,3、AIS4、ソナー5、及びイメージセンサ6等の複数の候補データ生成部のそれぞれで生成された物標候補データを収集する(S11:候補データ取得部21としての処理)。具体的には、信頼度推定装置1は、レーダー用候補管理DB31、AIS用候補管理DB32、ソナー用候補管理DB33、及び画像用候補管理DB34のそれぞれで管理されている物標候補データを、共通候補管理DB35に統合する。
【0054】
次に、信頼度推定装置1は、物標候補データに含まれる位置データに基づいて、同一の物標候補を表す複数の物標候補データを選出する(S12:同一候補選定部22としての処理)。具体的には、信頼度推定装置1は、共通候補管理DB35に統合した多数の物標候補データの中から、位置が共通する複数の物標候補データを同一の物標候補を表すものとして選出し、それらの物標候補データに共通候補識別子を付与する。なお、信頼度推定装置1は、位置が共通する物標候補データが他に存在しない単独の物標候補データにも、共通候補識別子を付与する。
【0055】
次に、信頼度推定装置1は、物標候補データを生成した候補データ生成部の属性に基づいて、物標候補の存在信頼度を算出する(S13:存在信頼度算出部23としての処理)。すなわち、レーダー2,3、AIS4、ソナー5、及びイメージセンサ6等のどれによって物標候補データが生成されたかに応じて、存在信頼度が算出される。算出された存在信頼度は、共通候補管理DB35に格納される。
【0056】
1つの共通候補識別子に複数の物標候補データが属する場合、信頼度推定装置1は、それらの物標候補データを生成した複数の候補データ生成部の属性に基づいて、存在信頼度を算出する。レーダー2,3、AIS4、ソナー5、及びイメージセンサ6等のそれぞれには、信頼度を表す重みが割り当てられ、それらが足し合わされることによって、存在信頼度が算出される。
【0057】
例えば、AIS4により生成される物標候補データ(AISデータ)は、他船から受信した他船に関するデータであるので、AIS4の重みを、レーダー2,3等の他の候補データ生成部の重みよりも高く設定することが好ましい。
【0058】
また、表示装置7に表示された画像内でユーザにより指示された物標候補データは、実際にユーザによって認識された物標であるので、ユーザによる指示の重みを、他の候補データ生成部の重みよりも高く設定することが好ましい。
【0059】
また、レーダー2,3の使用周波数帯が互いに異なる場合、波長が短いほど電波の直進性や指向性が高く、利得の面でも有利であるので、例えばXバンドのレーダーの重みをSバンドのレーダーの重みよりも高く設定することが好ましい。
【0060】
また、レーダー2,3のアンテナの設置位置が互いに異なる場合、アンテナがメインマスト等の高い位置に設置されるほど船上遮蔽物が少ないため、アンテナが高い位置に設置されるほどレーダーの重みを高く設定することが好ましい。
【0061】
なお、候補データ生成部の属性だけでなく、物標候補の速度、航跡、時間、サイズ、又は強度などに基づいて、存在信頼度を調整してもよい。例えば、物標候補のサイズが大きいほど、移動速度が大きいほど、検出からの経過時間が長いほど、又は検出信号強度が大きいほど、存在信頼度を高く調整してもよい。
【0062】
また、物標候補が自船の予定航路上に位置する場合に、予定航路上に位置しない場合と比べて存在信頼度を高く調整してもよい。
【0063】
また、海図、天候、時間、又は潮流等に基づいて、存在信頼度を調整してもよい。例えば、物標候補が海図上で陸部分や海苔網等の航行不可領域にある場合に、存在信頼度を高く調整してもよいし、雨等の天候や夜間の場合に、イメージセンサの重みを下げ、レーダーの重みを上げてもよい。
【0064】
次に、信頼度推定装置1は、物標候補データに含まれる種別データ及び物標候補データを生成した候補データ生成部の属性に基づいて、物標候補の種別信頼度を算出する(S14:種別信頼度算出部24としての処理)。すなわち、種別データの内容とともに、及びその種別データがレーダー2,3、AIS4、ソナー5、及びイメージセンサ6等のどれによって生成されたかに応じて、種別信頼度が算出される。算出された種別信頼度は、共通候補管理DB35に格納される。
【0065】
例えば、AIS4により生成される物標候補データ(AISデータ)は、他船の識別符号を種別データとして含んでいるので、レーダー2,3等の他の候補データ生成部よりも種別信頼度が高く評価されることが好ましい。
【0066】
レーダー2,3、ソナー5、及びイメージセンサ6の種別データは、物標識別部25により推定された物標候補の種別である。物標識別部25は、例えば小型船、中型船、大型船、又は超大型船などの船舶の大きさに関する種別を推定してもよいし、例えばプレジャー船、漁船、商船、又はタンカー船などの船舶の種類に関する種別を推定してもよい。また、物標識別部25は、例えば漁網、流木、人、流氷、又は浮揚コンテナなどの水上浮遊物の種類を推定してもよい。
【0067】
なお、物標候補データに含まれる種別データと候補データ生成部の属性だけでなく、物標候補の航跡、海図上の位置、又は潮流などに基づいて、種別信頼度を調整してもよい。例えば、物標候補が漁港に出入りしたり、彷徨くように航行していたり、不自然に潮流に逆らっている場合には、漁船である可能性が高いので、種別を漁船と判定してもよい。また、物標候補の針路と目的地が大きく異なっている場合には、AIS4の種別信頼度を下げてもよい。
【0068】
次に、信頼度推定装置1は、共通候補管理DB35に記憶された物標候補データ、存在信頼度、及び種別信頼度に基づいて、避航操船アルゴリズムによる計算を行い、避航計画航路を算出する(S15:避航計算部27による処理)。
【0069】
避航操船アルゴリズムによる計算の結果、避航の必要がある場合には(S16:YES)、信頼度推定装置1は、自船が避航計画航路に従って航行するように自動操舵装置12により避航制御を行う(S17:船舶制御部28としての処理)。
【0070】
以上に説明した実施形態によれば、レーダー2,3、AIS4、及びソナー5等の複数の候補データ生成部を利用して、自船の周囲に存在する物標候補の存在信頼度を算出することで、物標の存在を適切に把握して避航を行うことが可能となる。さらに、物標候補の種別信頼度も算出することで、より効率的な避航が可能となる。
【0071】
なお、レーダー2,3、AIS4、及びソナー5等の複数の候補データ生成部から個別に物標候補データを得るだけでは、結局は人がその信頼度を判断しなければならず、さらには状況によって信頼度が異なり得る。そこで、本実施形態のように、複数の候補データ生成部から得られた物標候補データを、属性等を複合的に考慮して指標化することで、人や避航システムに効果的な支援を行うことが可能となる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が当業者にとって可能であることはもちろんである。
【0073】
上記実施形態では、信頼度推定装置1により算出された存在信頼度及び種別信頼度を避航用途に用いたが、これに限らず、見張り用途に用いてもよい。具体的には、信頼度推定装置1は、物標候補データの表示態様を存在信頼度及び種別信頼度に応じて変更することで、見張りをしやすくしてもよい。
【0074】
例えば、存在信頼度が高いほど物標候補のシンボルを明るくしてもよいし、存在信頼度が閾値以下の場合は、物標候補のシンボルを表示しないようにしてもよい。閾値は、固定値であってもよいし、天候や時間などの状況に応じて変更してもよい。
【0075】
物標候補のシンボルは、レーダー2,3の画面、ECDIS10、又は表示装置7等に表示される。また、表示装置7に表示されるイメージセンサ6からの画像上に、物標候補のシンボルがAR(Augmented Reality)表示されてもよい。
【0076】
なお、存在信頼度の算出に際しては、上述したように、物標候補が自船の予定航路上に位置する場合に、予定航路上に位置しない場合と比べて存在信頼度を高く調整することにより、避航用途においても見張り用途においても有用となる。
【符号の説明】
【0077】
1 信頼度推定装置、2 レーダー、3 レーダー、4 AIS、5 ソナー、6 イメージセンサ、7 表示装置、8 GNSS受信機、9 ジャイロコンパス、10 ECDIS、11 無線通信部、12 自動操舵装置、21 候補データ取得部、22 同一候補選定部、23 存在信頼度算出部、24 種別信頼度算出部、25 物標識別部、26 指示受付部、27 避航計算部、28 船舶制御部、31 レーダー用候補管理DB、32 AIS用候補管理DB、33 ソナー用候補管理DB、34 画像用候補管理DB、35 共通候補管理DB、100 船舶用物標検出システム