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特許7486408工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法、ワークのクランプ方法、工作機械
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  • 特許-工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法、ワークのクランプ方法、工作機械 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法、ワークのクランプ方法、工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/00 20060101AFI20240510BHJP
   B23Q 3/06 20060101ALI20240510BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20240510BHJP
   B23B 31/16 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B23B31/00 D
B23Q3/06 304K
B23Q17/00 B
B23B31/16 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020199777
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087698
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】大平 紀之
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-148131(JP,A)
【文献】特開2002-168219(JP,A)
【文献】特開平08-336732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00-33/00;
B23Q 3/06,17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締め/緩め動作によってワークをクランプ/アンクランプ可能なクランプ装置を有する工作機械において、前記工作機械に装着した締付ツールを用いて前記クランプ装置でワークを自動的にクランプする際の適正トルクを同定する方法であって、
前記クランプ装置において前記ワークを手作業による締め動作でクランプした後、前記締付ツールを用いた緩め動作で前記ワークをアンクランプし、当該アンクランプ時の第1の緩めトルクを計測する第1の緩めトルク計測ステップと、
前記第1の緩めトルク計測ステップでアンクランプした後の前記締付ツールによる緩め動作時の第1の無負荷トルクを算出する第1の無負荷トルク算出ステップと、
前記第1の緩めトルクと前記第1の無負荷トルクとの差を有効緩めトルクとして算出して記憶する有効緩めトルク算出ステップと、
前記締付ツールを用いた締め動作で前記ワークを所定の締付トルクでクランプする締付ステップと、
前記締付ツールを用いた緩め動作で前記ワークをアンクランプし、当該アンクランプ時の第2の緩めトルクを計測する第2の緩めトルク計測ステップと、
前記第2の緩めトルク計測ステップでアンクランプした後の前記締付ツールによる緩め動作時の第2の無負荷トルクを算出する第2の無負荷トルク算出ステップと、
前記第2の緩めトルクと前記第2の無負荷トルクとの差を比較緩めトルクとして算出する比較緩めトルク算出ステップと、
前記有効緩めトルクと前記比較緩めトルクとの差を算出し、そのトルク差を所定の閾値と比較するトルク差比較ステップと、
前記トルク差が前記閾値より小さい場合、前記締付ステップでの前記所定の締付トルクを前記締付ツールによる適正トルクとして同定する適正トルク同定ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法。
【請求項2】
前記トルク差比較ステップで前記トルク差が前記閾値以上であった場合、前記締付ステップでの前記所定の締付トルクを他の値に変更して前記締付ステップ以降の処理を再実行することを特徴とする請求項1に記載の工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法。
【請求項3】
各前記ステップを、前記ワークを前記クランプ装置にクランプする複数の段取り作業ごとに実行し、各前記段取り作業ごとに同定した各前記適正トルクを記憶する記憶ステップをさらに実行することを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法。
【請求項4】
前記手作業による締め動作でクランプされた前記ワークの位置から、前記第1の緩めトルク計測ステップでアンクランプされた前記ワークの位置までの第1の変位量を計測して記憶すると共に、
前記締付ステップでクランプされた前記ワークの位置から、前記第2の緩めトルク計測ステップでアンクランプされた前記ワークの位置までの第2の変位量を計測して記憶する参照変位算出ステップをさらに実行し、
前記適正トルク同定ステップでは、前記トルク差が前記閾値より小さい場合で、且つ前記第1の変位量と前記第2の変位量との差が所定の第2の閾値より小さい場合に、前記締付ステップでの前記所定の締付トルクを前記締付ツールによる適正トルクとして同定することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法を実行して適正トルクを同定した後、
前記クランプ装置において前記締付ツールを用いて同じワークをクランプする段取り作業を行う際には、同定した前記適正トルクで前記締付ツールによる締め動作を行うことを特徴とするワークのクランプ方法。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法を実行して適正トルクを同定した後、
前記クランプ装置において前記締付ツールを用いて同じワークをクランプする段取り作業を行う際には、同定した前記適正トルクで前記締付ツールによる締め動作を行うことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械がクランプ装置を用いてワークを自動的にクランプする段取り作業を行う際の適正トルクを同定する方法と、ワークのクランプ方法と、工作機械とに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械でワークの加工を行う際、ワークをテーブル等にクランプ装置を用いて固定する段取り作業が必要となる。例えば特許文献1には、ワークをクランプするクランプジグを用意し、クランプジグのクランプ/アンクランプ動作を、加工軸に取り付けたクランプツールを利用して自動的に行わせる発明が記載されている。また、特許文献2には、ワークの種類変更に伴うチャックの把握力設定を自動化及び容易化するために、各種ワークについての把握力情報を記憶したデータ処理手段を備え、特定ワークについての把握力決定要素の入力により、データ処理手段から特定把握力情報を出力し、その出力を受けてチャックの把握力を目標把握力になるように制御する制御手段とを備えた油圧チャックの制御装置の発明が記載されている。
一方、作業者の手作業による段取りも行われている。例えば粗加工から仕上げ加工までを一貫して行う場合、作業者は、粗加工時はクランプ力が大きくなるように治具固定ボルトを強く締め付け、仕上げ加工前には治具固定ボルトを緩めて、締め付けによるワークの変形を緩和して仕上げ加工の精度を確保する、といった経験や感覚に依存した段取り作業も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-148131号公報
【文献】特開平9-295208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2のように機械によって設定したトルクで自動的にワークのクランプ/アンクランプを行うと、作業者が行うような経験や感覚に基づく段取り作業ごとの締付トルクの細かい設定ができない。かといって作業者に依存した段取り作業では、経験差や感覚の違いによって締付トルクがばらつき、加工精度に影響を与える問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、工作機械によって自動的に段取り作業を行う場合でも、作業者の経験や感覚を生かした段取り作業ごとの締付トルクの細かい設定が可能となり、加工精度を確保することができる工作機械におけるワーククランプ用の適正トルクの同定方法と、ワークのクランプ方法と、工作機械とを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のうち、第1の発明は、締め/緩め動作によってワークをクランプ/アンクランプ可能なクランプ装置を有する工作機械において、前記工作機械に装着した締付ツールを用いて前記クランプ装置でワークを自動的にクランプする際の適正トルクを同定する方法であって、
前記クランプ装置において前記ワークを手作業による締め動作でクランプした後、前記締付ツールを用いた緩め動作で前記ワークをアンクランプし、当該アンクランプ時の第1の緩めトルクを計測する第1の緩めトルク計測ステップと、
前記第1の緩めトルク計測ステップでアンクランプした後の前記締付ツールによる緩め動作時の第1の無負荷トルクを算出する第1の無負荷トルク算出ステップと、
前記第1の緩めトルクと前記第1の無負荷トルクとの差を有効緩めトルクとして算出して記憶する有効緩めトルク算出ステップと、
前記締付ツールを用いた締め動作で前記ワークを所定の締付トルクでクランプする締付ステップと、
前記締付ツールを用いた緩め動作で前記ワークをアンクランプし、当該アンクランプ時の第2の緩めトルクを計測する第2の緩めトルク計測ステップと、
前記第2の緩めトルク計測ステップでアンクランプした後の前記締付ツールによる緩め動作時の第2の無負荷トルクを算出する第2の無負荷トルク算出ステップと、
前記第2の緩めトルクと前記第2の無負荷トルクとの差を比較緩めトルクとして算出する比較緩めトルク算出ステップと、
前記有効緩めトルクと前記比較緩めトルクとの差を算出し、そのトルク差を所定の閾値と比較するトルク差比較ステップと、
前記トルク差が前記閾値より小さい場合、前記締付ステップでの前記所定の締付トルクを前記締付ツールによる適正トルクとして同定する適正トルク同定ステップと、を実行することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記トルク差比較ステップで前記トルク差が前記閾値以上であった場合、前記締付ステップでの前記所定の締付トルクを他の値に変更して前記締付ステップ以降の処理を再実行することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、各前記ステップを、前記ワークを前記クランプ装置にクランプする複数の段取り作業ごとに実行し、各前記段取り作業ごとに同定した各前記適正トルクを記憶する記憶ステップをさらに実行することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記手作業による締め動作でクランプされた前記ワークの位置から、前記第1の緩めトルク計測ステップでアンクランプされた前記ワークの位置までの第1の変位量を計測して記憶すると共に、
前記締付ステップでクランプされた前記ワークの位置から、前記第2の緩めトルク計測ステップでアンクランプされた前記ワークの位置までの第2の変位量を計測して記憶する参照変位算出ステップをさらに実行し、
前記適正トルク同定ステップでは、前記トルク差が前記閾値より小さい場合で、且つ前記第1の変位量と前記第2の変位量との差が所定の第2の閾値より小さい場合に、前記締付ステップでの前記所定の締付トルクを前記締付ツールによる適正トルクとして同定することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第2の発明は、ワークのクランプ方法であって、
第1の発明の何れかに記載の工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法を実行して適正トルクを同定した後、
前記クランプ装置において前記締付ツールを用いて同じワークをクランプする段取り作業を行う際には、同定した前記適正トルクで前記締付ツールによる締め動作を行うことを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第3の発明は、工作機械であって、
第1の発明の何れかに記載の工作機械におけるワーククランプ用適正トルクの同定方法を実行して適正トルクを同定した後、
前記クランプ装置において前記締付ツールを用いて同じワークをクランプする段取り作業を行う際には、同定した前記適正トルクで前記締付ツールによる締め動作を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工作機械によって自動的に段取り作業を行う場合でも、作業者の経験や感覚を生かした段取り作業ごとの締付トルク(適正トルク)の細かい設定が可能となり、加工精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】工作機械の説明図で、(A)は平面、(B)は側面をそれぞれ示す。
図2】有効緩めトルク演算制御のフローチャートである。
図3】記憶装置における有効緩めトルクに係る記憶内容を示す説明図である。
図4】適正トルク同定制御のフローチャートである。
図5】記憶装置における適正トルクに係る記憶内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、工作機械1において、テーブル3に平面視円形状のワークWを固定した状態を示す。平面視円形状のテーブル3上には、ワークWのクランプ装置4が設けられている。クランプ装置4は、テーブル3の周方向へ等間隔に配置された4つの爪5,5・・と、各爪5をテーブル3の半径方向へ直線移動可能に案内する4つのベース6,6・・とからなる。各ベース6の径方向外側の端面には、爪送り孔7がそれぞれ形成されて、爪送り孔7にネジロッド8を差し込んで回転させることで、爪5をベース6上でねじ送り可能となっている。4つの爪5の上にワークWをセットしてネジロッド8を締め動作すれば、各爪5がテーブル3の中心側へねじ送りされてワークWがクランプされる。クランプ状態からネジロッド8を緩め動作すれば、各爪5がテーブル3の径方向外側へねじ送りされてワークWがアンクランプされる。
ネジロッド8は、締付ツール9に設けられる。締付ツール9は、工作機械1の主軸2に装着されている。よって、主軸2を移動させると共に、ネジロッド8の正逆回転を制御することで、ワークWのクランプ/アンクランプは自動的に行われる。
【0010】
工作機械1の図示しない制御装置は、記憶装置に記憶された加工プログラムによる加工制御の他、作業者が手動で行った段取り作業でワークWをクランプした後、締付ツール9でアンクランプさせて有効緩めトルクを算出する有効緩めトルク演算制御を実行する。
また、制御装置は、有効緩めトルク演算制御の実行後、締付ツール9によるワークWのクランプとアンクランプとを行って比較緩めトルクを算出し、有効緩めトルクと比較緩めトルクとに基づいて、締付ツール9による段取り作業に適した適正トルクを同定する適正トルク同定制御を実行する。まず、有効緩めトルク演算制御について、図2のフローチャートに基づいて説明する。
作業者の手作業によりクランプ装置4でワークWをクランプする段取り作業i(iは整数で、段取り作業の順番を特定する)が終了すると、S1で、ワークWのポイントPの位置を計測する(参照変位算出ステップ)。この計測は、タッチプローブを用いた接触式或いはレーザーを用いた非接触式のセンサ等を用いて行う。
次に、S2で、主軸2を移動制御して締付ツール9のネジロッド8を爪送り孔7にねじ込み、緩め動作させて爪5によるクランプを解除する。このとき、爪5をアンクランプさせるのにネジロッド8に必要となったトルク(第1の緩めトルク)を、例えば主軸モータの電流値に基づいて計測する(第1の緩めトルク計測ステップ)。
【0011】
次に、S3で、アンクランプ後のポイントPの位置を計測し、S1で計測したポイントPの位置との差を演算して、参照変位δiを得る(参照変位算出ステップ)。
次に、S4で、アンクランプした後のネジロッド8のトルク(第1の無負荷トルク)を算出する(第1の無負荷トルク算出ステップ)。この第1の無負荷トルクは、例えばトルクが所定値より下回った際の平均値を算出したり、アンクランプから所定時間後のトルク値としたりすればよい。
次に、S5で、S2で計測した第1の緩めトルクと、S4で算出した第1の無負荷トルクとの差を演算して、アンクランプに有効に働いている緩めトルク(有効緩めトルクTi)を得る(有効緩めトルク算出ステップ)。
次に、S6で、S5で得た有効緩めトルクTiとS3で得た参照変位δiとを記憶装置に書き込む。
これらの処理を各段取り作業iごとに行う。すると、記憶装置には、図3に示すように、各段取り作業1,2・・ごとに有効緩めトルクT1,T2・・と、参照変位δ1,δ2・・とが記憶される。
【0012】
そして、有効トルク演算制御で記憶された各段取り作業iでの有効緩めトルクTiと参照変位δiとに基づいて、締付ツール9による適正トルクが同定される。以下、この適正トルク同定制御について、図4のフローチャートに基づいて説明する。
まず、S11で、締付ツール9を用いて爪5によるワークWのクランプを、締付トルクTsiによって実行する(締付ステップ)。
次に、S12で、クランプ後のワークWのポイントPの位置を計測する(参照変位算出ステップ)。
次に、S13で、締付ツール9を用いてワークWをアンクランプさせ、ネジロッド8の第2の緩めトルクを計測する(第2の緩めトルク計測ステップ)。
次に、S14で、アンクランプ後のポイントPの位置を計測し、S12で計測した位置との差を演算して、参照変位δsiを得る(参照変位算出ステップ)。
次に、S15で、アンクランプした後のネジロッド8の第2の無負荷トルクを算出する(第2の無負荷トルク算出ステップ)。
次に、S16で、S13で得た第2の緩めトルクとS15で得た第2の無負荷トルクとの差を演算して、比較緩めトルクTeiを得る(比較緩めトルク算出ステップ)。
【0013】
次に、S17で、有効トルク演算制御で記憶された有効緩めトルクTiと、S16で演算された比較緩めトルクTeiとの差を演算し、そのトルク差が、予め設定された閾値Aを下回るか否かを判別する(トルク差比較ステップ)。同時に、有効トルク演算制御で記憶された参照変位δiと、S14で演算された参照変位δsiとの差を演算し、その参照変位差が、予め設定された閾値Bを下回るか否かを判別する。
そして、S17でYES、すなわち、トルク差が閾値Aを下回り、且つ参照変位差が閾値Bを下回っている場合は、S18で、S11の締付トルクTsiを適正トルクTs1に同定してS14の参照変位δsi(δs1)と共に記憶装置に書き込む(適正トルク同定ステップ及び記憶ステップ)。
一方、S17でNO、すなわち、トルク差が閾値A以上或いは参照変位差が閾値B以上であった場合は、S19で、締付トルクTsiを高い値へ変更してS11へ戻る。よって、S11では、変更した締付トルクTsiで再びクランプを行って以降の処理を実行し、適正トルクを同定する。
これらの処理を段取り作業iごとに行う。すると、記憶装置には、図5に示すように、段取り作業1,2・・ごとに同定された適正トルクTs1,Ts2・・と、参照変位δs1,δs2・・とが記憶される。
【0014】
上記方法で適正トルクを同定した後、工作機械1がワークWの加工を行うに当たり、締付ツール9を用いてクランプ装置4の各爪5をねじ送りさせてワークWをクランプする段取り作業を行う際、制御装置は、当該段取り作業に対応して記憶装置に記憶されている適正トルクとなるようにネジロッド8を締め動作させて、ワークWのクランプを行うことになる。
よって、例えば粗加工から仕上げ加工までを一貫して行う場合、締付ツール9は、粗加工時にはクランプ力が大きくなるようにネジロッド8を強く締め付け、仕上げ加工前にはネジロッド8をやや弱く締め付けて、締め付けによるワークWの変形を緩和して仕上げ加工の精度を確保する、といった作業者と同様の段取り作業が可能となる。
【0015】
このように、上記形態のワーククランプ用適正トルクの同定方法、ワークWのクランプ方法、工作機械1においては、クランプ装置4においてワークWを手作業による締め動作でクランプした後、締付ツール9を用いた緩め動作でワークWをアンクランプし、当該アンクランプ時の第1の緩めトルクを計測する第1の緩めトルク計測ステップS2と、
第1の緩めトルク計測ステップでアンクランプした後の締付ツール9による緩め動作時の第1の無負荷トルクを算出する第1の無負荷トルク算出ステップS4と、
第1の緩めトルクと第1の無負荷トルクとの差を有効緩めトルクTiとして算出して記憶する有効緩めトルク算出ステップS5と、
締付ツール9を用いた締め動作でワークWを所定の締付トルクTsiでクランプする締付ステップS11と、
締付ツール9を用いた緩め動作でワークWをアンクランプし、当該アンクランプ時の第2の緩めトルクを計測する第2の緩めトルク計測ステップS13と、
第2の緩めトルク計測ステップでアンクランプした後の締付ツール9による緩め動作時の第2の無負荷トルクを算出する第2の無負荷トルク算出ステップS15と、
第2の緩めトルクと第2の無負荷トルクとの差を比較緩めトルクTeiとして算出する比較緩めトルク算出ステップS16と、
有効緩めトルクと比較緩めトルクとの差を算出し、そのトルク差を所定の閾値Aと比較するトルク差比較ステップS17と、
トルク差が閾値Aより小さい場合、締付ステップS11での所定の締付トルクTsiを締付ツール9による適正トルクとして同定する適正トルク同定ステップS18と、を実行する。
【0016】
この構成により、工作機械1によって自動的に段取り作業を行う場合でも、作業者の経験や感覚を生かした段取り作業ごとの締付トルク(適正トルク)の細かい設定が可能となり、加工精度を確保することができる。
【0017】
特に、トルク差比較ステップS17でトルク差が閾値A以上であった場合、締付ステップS11での所定の締付トルクTsiを他の値に変更して(S19)、締付ステップS11以降の処理を再実行する。よって、リトライによって適正トルクが同定可能となる。
また、各ステップを、ワークWをクランプ装置4にクランプする複数の段取り作業iごとに実行し、各段取り作業iごとに同定した各適正トルクを記憶する記憶ステップS18をさらに実行する。よって、複数の段取り作業iを行う場合でも各段取り作業iに適した適正トルクでワークWをクランプすることができる。
【0018】
さらに、手作業による締め動作でクランプされたワークWの位置から、第1の緩めトルク計測ステップでアンクランプされたワークWの位置までの参照変位δi(第1の変位量)を計測して記憶する(S1,S3)と共に、締付ステップS11でクランプされたワークWの位置から、第2の緩めトルク計測ステップS13でアンクランプされたワークWの位置までの参照変位δsi(第2の変位量)を計測して記憶する参照変位算出ステップ(S12,S14)をさらに実行し、適正トルク同定ステップS18では、トルク差が閾値Aより小さい場合で、且つ参照変位差(第1の変位量と第2の変位量との差)が所定の閾値B(第2の閾値)より小さい場合に、締付ステップS11での所定の締付トルクを締付ツール9による適正トルクとして同定する。
よって、トルク差が適正であっても参照変位差が大きいと適正トルクが同定されないため、クランプ/アンクランプ時のワークWの変位も考慮した適正トルクの同定が可能となり、加工精度の向上に繋がる。
【0019】
なお、上記形態では、トルク差比較ステップでトルク差と閾値Aとの比較と共に、参照変位差と閾値Bとの比較も行っているが、参照変位差と閾値Bとの比較を省略して、トルク差と閾値Aとの比較のみを行ってもよい。
クランプ装置の構造も上記形態に限らない。締め/緩め動作によってワークをクランプ/アンクランプ可能なクランプ装置であれば、爪の数や形状等は適宜変更可能である。テーブルの形状も変更して差し支えない。クランプ装置の設置対象はテーブルに限らない。
締付ツールの形態も上記形態に限定されない。
【符号の説明】
【0020】
1・・工作機械、2・・主軸、3・・テーブル、4・・クランプ装置、5・・爪、6・・ベース、7・・爪送り孔、8・・ネジロッド、9・・締付ツール。
図1
図2
図3
図4
図5