(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】糖尿病、肝炎、および/または炎症性肝疾患を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240510BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240510BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240510BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240510BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240510BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240510BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240510BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240510BHJP
C12N 15/14 20060101ALI20240510BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240510BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240510BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240510BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240510BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240510BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240510BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240510BHJP
C07K 14/825 20060101ALN20240510BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K48/00
A61P3/10
A61P1/16
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
C12N15/12
C12N15/14
C12N15/63 Z
C12N1/00 D
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/18 ZNA
C07K14/825
C07K16/46
(21)【出願番号】P 2020537722
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 US2019013934
(87)【国際公開番号】W WO2019143767
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-11-18
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501315876
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ コネチカット
(73)【特許権者】
【識別番号】512098599
【氏名又は名称】ジョスリン ダイアビーティーズ センター, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ラインス,マイケル,エー.
(72)【発明者】
【氏名】ツェン,ユイ-ホア
(72)【発明者】
【氏名】ラインス,マシュー,ディー.
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/172606(WO,A1)
【文献】特表2013-543504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0143798(US,A1)
【文献】特表2017-523790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K45/00~45/08
39/00~39/44
47/00~47/69
A61P 1/00~43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2型糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、および/または炎症性肝疾患からなる群から選択される
、対象における障害を治療するかまたはその発症を制限するための医薬組成物であって、
モノクローナル抗メタロチオネイン(抗MT)抗体UC1MT又は、細胞外ヒトMTに特異的に結合する、その抗原結合フラグメント、の治療有効量を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記対象が2型糖尿病のリスクがあり、前記医薬組成物が前記対象における2型糖尿病の発症を制限するのに役立つ、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記対象が、肥満、喫煙、座りがちな生活様式、2型糖尿病を有する親または兄弟、前糖尿病、前糖尿病を有する親または兄弟、貧しい食生活(例えば、脂肪の過多、繊維の不足、単純糖質の過多など)、年齢が50歳以上、高血圧、高コレステロール、テストステロン欠乏症、メタロチオネイン1 A(MT1A)rs8052394遺伝子座(G変化)一塩基多型、および妊娠糖尿病の既往歴から成る群から選択される2型糖尿病の1つ以上のリスク因子を有する、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記対象が2型糖尿病を有し、前記医薬組成物が前記対象における2型糖尿病を治療するのに役立つ、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記治療が、高血糖、低血糖、インスリン抵抗性、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、タンパク尿、糸球体クリアランス異常、糖尿病性循環障害、腎不全、心血管疾患、多尿症、多飲症、体重減少、脳卒中から成る群から選択される2型糖尿病合併症のうちの1つ以上
の、発症を制限する
か、または進行を遅延させること、およびインスリンまたは他の療法を必要とする頻度を低減することを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記対象が前糖尿病を有し、前記医薬組成物が前記対象における前糖尿病を治療するのに役立つ、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記治療が、2型糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、および心血管疾患から成る群から選択される前糖尿病の1つ以上の合併症の
、発症を制限するか、または進行
を遅延させることを含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記対象が欠陥的糖不耐症を有し、前記医薬組成物が前記対象における耐糖能異常を治療するのに役立つ、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記治療が、2型糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、および心血管疾患から成る群から選択される耐糖能異常の1つ以上の合併症の
、発症を制限するか、または進行
を遅延させることを含む、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記対象が炎症性肝疾患を有し、前記医薬組成物が前記対象における前記炎症性肝疾患を治療するのに役立つ、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記炎症性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および/または非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)からなる群から選択される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記治療が、疲労、倦怠感、肝線維症、肝癌、および肝硬変から成る群から選択される炎症性肝疾患の1つ以上の合併症の
、発症を制限するか、または進行
を遅延させることを含む、請求項10または11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記
モノクローナル抗MT抗体UC1MTが、ヒト化
モノクローナル抗MT抗体
UC1MTである、請求項
1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記対象が、哺乳動物である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記対象が、ヒトである、請求項1~
14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2018年1月17日に出願された米国仮特許出願第62/618332号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、ほとんどの場合、インスリン補充療法で治療される。糖尿病で損傷した膵島を置換するために行われている研究があるが、インスリンを産生する膵島を損傷する炎症過程が阻止されない限り、膵島移植または膵臓における膵島の幹細胞再増殖は短命な治療となる。同様に、肝炎および/または炎症性肝疾患を治療するための現在の方法は不十分である。
【発明の概要】
【0003】
第1の態様では、本開示は、糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、肝炎、および/または炎症性肝疾患からなる群から選択される障害を治療するかまたはその発症を制限するための方法を提供し、障害を有するか、または障害のリスクがある対象に、細胞外ヒトメタロチオネイン(MT)の阻害剤を含む組成物の治療有効量を投与して、障害を治療するかまたはその発症を制限することを含む。一実施形態では、対象は糖尿病を有するか、または糖尿病を発症するリスクがあり、本方法は糖尿病を治療するかまたはその発症を制限するのに役立つ。別の実施形態では、対象は1型糖尿病のリスクがあり、本方法は対象におけるI型糖尿病の発症を制限するのに役立ち、そのような一実施形態では、対象は、1型糖尿病を有する親もしくは兄弟、膵臓腫瘍、膵炎、膵島細胞自己抗体、インスリン自己抗体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ自己抗体(GADA)、インスリノーマ関連(IA-2)自己抗体、亜鉛トランスポーター自己抗体(ZnT8)、DRB1 0401、DRB1 0402、DRB1 0405、DQA 0301、DQB1 0302、およびDQB1 0201からなる群から選択されるIDDM1遺伝子のバリアント;多尿症、多飲症、口渇、多食症、疲労、または体重減少を含むが、これらに限定されない1型糖尿病のリスク因子のうちの1つ以上を有し得る。
【0004】
別の実施形態では、対象は1型糖尿病を有し、本方法は対象におけるI型糖尿病を治療するのに役立ち、そのような一実施形態では、治療は、インスリン注射を必要とする頻度を低減すること、膵臓ベータ細胞の破壊、高血糖、低血糖、多尿症、多食症、多飲症、体重減少、かすみ目、疲労、創傷治癒能力の低下、尿路感染症、性機能障害、口渇、糖尿病性ケトアシドーシス、心血管疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、脳卒中、腎不全、および足部潰瘍を含むが、これらに限定されない対象における1型糖尿病合併症の発症または進行を遅延させること、ならびに膵臓または膵島細胞移植の必要性を遅らせることのうちの1つ以上を含み得る。
【0005】
別の実施形態では、対象は2型糖尿病のリスクがあり、本方法は対象における2型糖尿病の発症を制限するのに役立ち、そのような一実施形態では、対象は、肥満、喫煙、座りがちな生活様式、2型糖尿病を有する親または兄弟、前糖尿病、前糖尿病を有する親または兄弟、貧しい食生活(例えば、脂肪の過多、繊維の不足、単純糖質の過多など)、年齢が50歳以上、高血圧、高コレステロール、テストステロン欠乏症、メタロチオネイン1 A(MT1A)rs8052394遺伝子座(G変化)一塩基多型、および妊娠糖尿病の既往歴を含むが、これらに限定されない2型糖尿病の1つ以上のリスク因子を有し得る。
【0006】
別の実施形態では、対象は2型糖尿病を有し、本方法は対象における2型糖尿病を治療するのに役立ち、そのような一実施形態では、治療は、高血糖、低血糖、インスリン抵抗性、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、タンパク尿、糸球体クリアランス異常、糖尿病性循環障害、腎不全、心血管疾患、多尿症、多飲症、体重減少、脳卒中を含むが、これらに限定されない2型糖尿病合併症のうちの1つ以上を制限すること、およびインスリンまたは他の療法を必要とする頻度を低減することを含み得る。
【0007】
さらなる実施形態では、対象は前糖尿病を有し、本方法は対象における前糖尿病を治療するのに役立ち、そのような一実施形態では、治療は、2型糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、および/または心血管疾患を含むが、これらに限定されない前糖尿病の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることを含み得る。
【0008】
一実施形態では、対象は欠陥的糖不耐症を有し、本方法は対象における耐糖能異常を治療するのに役立ち、そのような一実施形態では、治療は、2型糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、および/または心血管疾患を含むが、これらに限定されない耐糖能異常の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることを含み得る。
【0009】
さらなる実施形態では、対象は肝炎を有し、本方法は対象における肝炎を治療するのに役立ち、そのような一実施形態では、治療は、皮膚および/または白目の黄色変色、食欲不振、嘔吐、疲労、腹痛、下痢、急性肝不全、肝臓の瘢痕化、肝不全、ならびに肝癌を含むが、これらに限定されない肝炎の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることを含み得る。
【0010】
別の実施形態では、対象は炎症性肝疾患を有し、本方法は対象における炎症性肝疾患を治療するのに役立つ。そのような一実施形態では、炎症性肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および/または非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)からなる群から選択され得る。別のそのような実施形態では、治療は、疲労、倦怠感、肝線維症、肝癌、および/または肝硬変を含むが、これらに限定されない炎症性肝疾患の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることを含み得る。
【0011】
一実施形態では、細胞外ヒトMTの阻害剤は、抗MT抗体もしくはその抗原結合フラグメント、および/または細胞外ヒトMTに特異的に結合するアプタマーを含み得る。そのような一実施形態では、細胞外ヒトMTの阻害剤は、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを含むが、これらに限定されない抗MT抗体またはその抗原結合フラグメント、およびヒト化抗MT抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0012】
別の実施形態では、細胞外ヒトMTの阻害剤は、膵臓またはヘプティック細胞標的化部分に連結される。そのような一実施形態では、膵細胞標的化部分は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、ペプチドYY(PYY)、ニューロペプチドY(NPY)、膵臓ペプチド(PPY)、およびエキセンディン-4からなる群から選択される膵臓β細胞に優先的に結合する1つ以上のペプチドまたは他の部分を含み得る。別の実施形態では、ヘプティック細胞標的化部分は、スポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、CSP領域I、CSP領域Iプラス、ラクトサミン化ヒト血清アルブミン、グリコシル化リポタンパク質、および/またはアラビノガラクタンを含み得るが、これらに限定されない。
【0013】
一実施形態では、対象は、ヒト対象を含むがこれに限定されない哺乳動物である。
【0014】
別の態様では、本開示は、
(a)細胞外ヒトメタロチオネイン(MT)の阻害剤と、
(b)細胞外ヒトMTの阻害剤に連結された膵臓または肝細胞標的化部分と、を含む組成物を提供する。
【0015】
一実施形態では、阻害剤は、モノクローナル抗体および/もしくはヒト化抗体、またはそれらの抗原結合フラグメントを含むが、これらに限定されない、ヒトメタロチオネイン(MT)に特異的に結合する抗メタロチオネイン抗体またはそのフラグメントを含む。別の実施形態では、細胞標的化部分は、膵臓細胞標的化部分、例えば、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、ペプチドYY(PYY)、ニューロペプチドY(NPY)、膵臓ペプチド(PPY)、およびエキセンディン-4からなる群から選択されるものである。別の実施形態では、細胞標的化部分は、スポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、CSP領域I、CSP領域Iプラス、ラクトサミン化ヒト血清アルブミン、グリコシル化リポタンパク質、および/またはアラビノガラクタンを含み得るが、これらに限定されないヘプティック細胞標的化部分である。
【0016】
一実施形態では、本組成物は、組換えポリペプチドを含む。他の態様では、本開示は、組換えポリペプチドをコードする組換え核酸、組換え核酸を含む組換え発現ベクター、組換え発現ベクターを含む組換え宿主細胞、および(a)本開示の組成物、組換え核酸、組換え発現ベクター、または組換え宿主細胞と、(b)薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物を提供する。
【0017】
別の態様では、本開示は、糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、肝炎、および/または炎症性肝疾患からなる群から選択される障害を治療するかまたはその発症を制限するために、本組成物、組換え核酸、組換え発現ベクターを含む組換え宿主細胞、および本開示の組成物、組換え核酸、組換え発現ベクター、組換え宿主細胞を含む医薬組成物、または本明細書に開示される任意の実施形態もしくは実施形態の組み合わせの医薬組成物を使用することを提供する。
【0018】
本開示の方法の別の実施形態では、細胞外ヒトMTの阻害剤は、本組成物、組換え核酸、組換え発現ベクターを含む組換え宿主細胞、および本開示の組成物、組換え核酸、組換え発現ベクター、組換え宿主細胞を含む医薬組成物、または本明細書に開示される任意の実施形態もしくは実施形態の組み合わせの医薬組成物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】MOPC21またはUC1MTによる処置終了時に腹腔内に糖を注射したマウスの耐糖能試験の結果を示すグラフ。
【
図2】
図1に示したグループの各動物からの初期測定値に対して正規化した耐糖能試験結果の変化を示すグラフ。
【
図3】qPCR研究による、精巣上体白色脂肪組織におけるRNA発現レベルに対するMOPC21またはUC1MTの効果を示すグラフ。UC1MT治療は、白色精巣上体脂肪組織の遺伝子発現の一部(特に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマコアクチベーター1-アルファ(PGC-1a)、エネルギー代謝を調節する転写コアクチベーター、およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPAR-r))に対して効果を有した。
【
図4】脂肪組織の重量に対する抗体処置の効果を示すグラフ:(A)体重のパーセントとしての組織重量、(B)グラム単位の組織重量。精巣上体白色脂肪組織(eWAT)の変化に留意されたい。(BAT=褐色脂肪組織、sWAT=皮下白色脂肪組織)。
【
図5】qPCR研究による、肝臓におけるRNA発現レベルに対するMOPC21またはUC1MTの効果を示すグラフ。MOPC21アイソタイプに適合した対照抗体で処置されたHFDマウスよりも、高脂肪食で処置されたマウスにおいてUC1MTによる処置と相関する抗炎症性IL-10遺伝子発現が大幅に増加している。
【
図6】サーモフィッシャートリグリセリドキット(比色定量アッセイ)を使用した、肝トリグリセリドに対するMOPC21またはUC1MTの効果を示すグラフ。16週間HFDを与えられた雄マウスの平均および標準誤差N=8 MOPC、10 UC1MTが示される。*p=0.0453(学生の両側試験による)。
【
図7】30週間の時間経過のNODマウスにおける血糖値レベルに対するMOPC21またはUC1MTの毎日の腹腔内注射(マウスあたり2週間で100ul)の効果を示すグラフ。UC1MT治療は、NODマウスのT1D発生を防いだ。
【
図8】3週間(A)および6週間(B)の時間経過のマウスにおける血糖値に対する、マウスあたり100ul(週2回)のUC1MTまたはMOPC21の腹腔内注射の効果を示すグラフ。UC1MT治療は、NODマウスのT1D発生を防いだ。
【
図9】ランゲルハンスの膵島への炎症細胞の浸潤(インスリン炎)に対するMOPC21またはUC1MTの効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈からそうでないことが明確に示されない限り、複数の指示対象を含む。本明細書で使用される場合、「および」は、特に明記しない限り、「または」と互換的に使用される。
【0021】
本開示の任意の態様のすべての実施形態は、文脈からそうでないことが明確に示されない限り、組み合わせて使用することができる。
【0022】
文脈上明らかに別段に必要でない限り、発明を実施するための形態および特許請求の範囲全体を通して、「comprise(備える)」、「comprising(備えている)」などの語は、排他的意味の対語としての包括的意味、または網羅的意味で、すなわち、「including、but not limited to(含むがそれらに限定されない)」の意味で解釈されたい。単数または複数を使用する語は、それぞれ、複数、単数も含む。さらに、「herein(本明細書において)」、「above(上に)」、および「below(以下に)」といった語、ならびに類似の意味の語は、本出願において使用されるときには、全体としての本出願を指すものであり、本出願のいずれの特定の個所も指すものではない。組成物およびそれらの使用方法は、本明細書全体を通して開示される成分またはステップのうちのいずれかを「含む」、「から本質的になる」、または「からなる」ことができる。
【0023】
本開示の実施形態の説明は、網羅的であることも、本開示を、開示された正確な形態に限定することも意図していない。本開示の特定の実施形態および実施例は、例示目的で本明細書に記載されているが、当業者が認識するように、本開示の範囲内で様々な同等の修正が可能である。
【0024】
一態様では、本開示は、糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、肝炎、および/または炎症性肝疾患からなる群から選択される障害を治療するかまたはその発症を制限するための方法を提供し、障害を有するか、または障害のリスクがある対象に、細胞外ヒトメタロチオネイン(MT)の阻害剤を含む組成物の治療有効量を投与して、障害を治療するかまたはその発症を制限することを含む。
【0025】
以下の実施例で開示されるように、細胞外ヒトMTの阻害剤は、驚くべきことに、糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、肝炎、および/または炎症性肝疾患を治療するかまたはそれらの発症を制限するために使用され得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、関連する障害を治療および/または制限するのに有効である組成物の量を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、ヒトメタロチオネインは、ヒトで同定されており、MT1~MT4としてグループ化されているメタロチオネインの18のアイソフォームおよびサブアイソフォームのいずれかを意味する。MT3およびMT4が選択的に発現される場合、MT1およびMT2は多くの細胞型での高誘導が可能であり、細胞から放出され得る(Lynes et al.2006、Laukens et al.2009)。本開示の阻害剤は、放出されたメタロチオネインを特異的に標的とするかまたはそれに結合する。例示的なそのようなアイソフォームには、以下が含まれるが、これらに限定されない。
ヒトMT1-A:
MDPNCSCATG GSCTCTGSCK CKECKCTSCK KSCCSCCPMS CAKCAQGCIC
KGASEKCSCC A(配列番号:1)
ヒトMT1-B
MDPNCSCTTG GSCACAGSCK CKECKCTSCK KCCCSCCPVG CAKCAQGCVC
KGSSEKCRCC A(配列番号2)
ヒトMT1-E
MDPNCSCATG GSCTCAGSCK CKECKCTSCK KSCCSCCPVG CAKCAQGCVC
KGASEKCSCC A(配列番号3)
ヒトMT1_F
MDPNCSCAAG VSCTCAGSCK CKECKCTSCK KSCCSCCPVG CSKCAQGCVC
KGASEKCSCC D(配列番号4)
ヒトMT1-G:
MDPNCSCAAA GVSCTCASSC KCKECKCTSC KKSCCSCCPV GCAKCAQGCI
CKGASEKCSC CA(配列番号5)
ヒトMT2:
MDPNCSCAAG DSCTCAGSCK CKECKCTSCK KSCCSCCPVG CAKCAQGCIC
KGASDKCSCC A(配列番号6)
ヒトMT3:
MDPETCPCPS GGSCTCADSC KCEGCKCTSC KKSCCSCCPA ECEKCAKDCV
CKGGEAAEAE AEKCSCCQ(配列番号7)
ヒトMT-4
MDPRECVCMS GGICMCGDNC KCTTCNCKTY WKSCCPCCPP GCAKCARGCI
CKGGSDKCSC CP(配列番号8)
【0028】
一実施形態では、本開示の阻害剤は、MT1および/またはMT2を放出するために特異的に標的または結合する。
【0029】
メタロチオネインへの「特異的」または「選択的」結合という用語は、タンパク質および他の生物製剤の不均一な集団におけるメタロチオネインの存在を決定づける結合反応を指す。したがって、指定された免疫アッセイまたは他の条件下で、本発明の特定の抗体またはアプタマーは、バックグラウンドの少なくとも2倍のメタロチオネインに結合し、試料中に存在するメタロチオネイン以外のタンパク質に著しい量で実質的に結合しない。したがって、そのような条件下での抗体またはアプタマーへの特異的結合は、メタロチオネインに対するその特異性について選択される抗体またはアプタマーからなる群から選択される阻害剤の使用を伴い得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、ヒトMTと免疫学的に反応する(好ましくはヒトMTに選択的、または1つ以上のヒトMTアイソフォームに選択的である)免疫グロブリン分子またはそのフラグメントを含み、かつモノクローナル抗体を含む。抗体の様々なアイソタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、および他のIg、例えば、IgM、IgA、IgEアイソタイプが存在する。この用語はまた、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)およびヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重特異性抗体)、完全ヒト化抗体、ならびにヒト抗体などの遺伝子操作された形態を含む。本出願全体で使用される場合、「抗体」という用語は、抗原結合能力を有するフラグメント(例えば、Fab‘、F(ab’)2、Fab、Fv、およびrIgG)を含む。Catalog and Handbook,1994-1995(Pierce Chemical Co.,Rockford,IL)も参照されたい。例えば、Kuby,J.,Immunology,3rd Ed.,W.H.Freeman&Co.,New York(1998)も参照されたい。この用語は、組換え一本鎖Fvフラグメント(scFv)も指す。抗体という用語には、二価または二重特異性分子、ダイアボディ、トリアボディ、およびテトラボディも含まれる。二価および二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al.(1992)J Immunol 148:1547、Pack and Pluckthun(1992)Biochemistry 31:1579、Hollinger et al.,1993,supra,Gruber et al.(1994)J Immunol:5368、Zhu et al.(1997)Protein Sci 6:781、Hu et al.(1996)Cancer Res.56:3055、Adams et al.(1993)Cancer Res.53:4026、およびMcCartney,et al.(1995)Protein Eng.8:301に記載されている。抗体は、例えば、抗MTアームがMT機能をブロックする一方で、組織特異的決定基に結合する抗体の他のアームを介して、特定の位置でMTを安定化し得るヘテロ二機能性抗体を含み得る。一実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体を含む。実施例は、US2003/0007973に記載されており、Abcam Inc,Cambridge,Massから市販されている例示的なモノクローナル抗体UC1MTを使用したその開示の方法を実証している。クローンUC1MTはLynes et al.(Toxicology 1993(85):161-177)にも記載されている。
【0031】
一実施形態では、本明細書に記載の方法で使用される抗体は、ヒト化抗体である。ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含む特異的キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそれらの抗原結合フラグメントである非ヒト(例えば、マウス)抗体の形態を指す。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基により置き換えられるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基により置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもインポートされたCDRまたはフレームワーク配列にも見られないが、抗体の性能をさらに洗練および最適化するために含まれている残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、および典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、ここで、CDR領域のすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域のすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域またはドメイン(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む。抗体は、WO99/58572に記載されているように改変されたFc領域を有し得る。他の形態のヒト化抗体は、元の抗体に対して変更された1つ以上のCDR(1、2、3、4、5、6)を有し、これは、元の抗体からの1つ以上のCDRに“由来する”1つ以上のCDRとも呼称される。ヒト化抗体はまた、親和性成熟を伴い得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「治療する」または「治療すること」は、列挙された障害のうちの1つ以上を有する個体において、以下のうちの1つ以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度を低減すること、(b)治療されている障害(複数可)に特徴的な症状の発症を制限もしくは予防すること、(c)治療されている障害(複数可)に特徴的な症状の悪化を抑制すること、(d)以前に障害(複数可)を有したことがある患者における障害(複数可)の再発を制限もしくは予防すること、および/または(e)以前に障害(複数可)の症状態であった患者における症状の再発を制限もしくは予防すること。どの程度のそのような「治療すること」も、列挙された障害のうちの1つの対象にとっては大きな利益となる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「制限する」または「発症を制限すること」は、列挙された障害のうちの1つ以上のリスクがある個体において以下のうちの1つ以上を達成することを意味する:(a)障害への進行を遅延させること、および/または(b)障害への進行に特徴的な症状の発症を制限もしくは予防すること。どの程度のそのような「発症を制限すること」も、列挙された障害のうちの1つのリスクがある対象にとっては大きな利益となる。
【0034】
そのような治療または発症の制限は、細胞外MT阻害剤を唯一の治療薬として使用することを含むか、または担当の医療従事者が適切と見なす他の治療的介入を補完もしくは増強するためにその使用を含み得る。
【0035】
一実施形態では、対象は糖尿病を有するか、または糖尿病を発症するリスクがあり、本方法は糖尿病を治療するかまたはその発症を制限するのに役立つ。
【0036】
そのような一実施形態では、対象は1型糖尿病のリスクがあり、本方法は対象におけるI型糖尿病の発症を制限するのに役立つ。以下の実施例に示されるように、ヒトMT1阻害剤は、NODマウスモデルで1型糖尿病の発症を予防した。したがって、この実施形態の方法は、T1Dのリスクがある対象における1型糖尿病(T1D)の発症を制限するために使用され得る。T1Dの発症を制限することは、T1Dへの進行を遅延させること、および/またはT1Dに特徴的な症状の発症を遅延させることを含み得るが、これらに限定されない。この実施形態では、T1Dのリスクがある対象は、T1Dの1つ以上のリスク因子を有し、そこから担当の医療従事者が治療を適切であると見なす。そのようなリスクT1Dリスク因子には、1型糖尿病を有する親もしくは兄弟、膵臓腫瘍、膵炎、膵島細胞自己抗体、インスリン自己抗体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ自己抗体(GADA)、インスリノーマ関連(IA-2)自己抗体、亜鉛トランスポーター自己抗体(ZnT8)、ならびに/またはDRB1 0401、DRB1 0402、DRB1 0405、DQA 0301、DQB1 0302、およびDQB1 0201からなる群から選択されるIDDM1遺伝子のバリアントが含まれるが、これらに限定されない。あるいは、または組み合わせて、対象は、T1Dの1つ以上の症状を示し得(しかし、まだT1Dと診断されていない)、そのような症状には、多尿症(排尿の増加)、多飲症(喉の渇きの増加)、口渇、多食症(空腹の増加)、疲労、および体重減少が含まれ得るが、これらに限定されない。当業者により理解されるように、T1Dまたはその症状の発症に対する任意の制限は、リスクのある対象にとっては大きな利益を提供する。
【0037】
インスリン依存型(I型)糖尿病1(IDDM1)遺伝子は、染色体6のMHCクラスII領域に位置する。この遺伝子のある特定のバリアントは、1型糖尿病に特徴的な組織適合性の低下のリスクを増加する。そのようなバリアントには、DRB1 0401、DRB1 0402、DRB1 0405、DQA 0301、DQB1 0302、およびDQB1 0201が含まれる。同様に、膵島細胞自己抗体、インスリン自己抗体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ自己抗体(GADA)、インスリノーマ関連(IA-2)自己抗体、亜鉛トランスポーター自己抗体(ZnT8)などの糖尿病関連自己抗体の出現は、しばしば、いずれの高血糖が発生する前の高血糖1型糖尿病に先行する。T1Dのリスクは、抗体の種類の数とともに増加し、自己抗体の出現から臨床的に診断可能なT1Dまでの時間間隔は、乳幼児では数か月であり得るが、人によっては数年かかることがある。そのような自己抗体は、例えば、免疫蛍光アッセイまたは結合アッセイにより検出され得る。
【0038】
別の実施形態では、対象は1型糖尿病を有し、本方法は対象におけるI型糖尿病を治療するのに役立つ。この実施形態では、対象はすでにT1Dと診断されており、本方法はT1Dを治療するために使用され得る。T1Dは、膵臓のベータ細胞の自己免疫を破壊し、インスリン産生をほとんどまたはまったくせず、かつ高血糖を伴う。したがって、T1Dの治療には、対象へのインスリンの投与が含まれる。T1Dを有する対象は、低血糖、多尿症、多食症、多飲症、体重減少、かすみ目、疲労、創傷治癒能力の低下、尿路感染症、性機能障害、口渇、糖尿病性ケトアシドーシス、心血管疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、脳卒中、腎不全、および足部潰瘍を含むが、これらに限定されない症状または合併症を有し得る。いくつかの場合において、T1Dを有する対象は、膵臓または膵島移植を必要とし得る。したがって、様々な実施形態では、治療は、インスリン注射を必要とする頻度を低減すること、膵臓ベータ細胞の破壊、高血糖、低血糖、多尿症、多食症、多飲症、体重減少、かすみ目、疲労、創傷治癒能力の低下、尿路感染症、性機能障害、口渇、糖尿病性ケトアシドーシス、心血管疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、脳卒中、腎不全、および足部潰瘍を含むが、これらに限定されない対象における1型糖尿病合併症の発症または進行を遅延させること、ならびに膵臓または膵島細胞移植の必要性を遅らせることのうちの1つ以上を含み得る。一実施形態では、治療は、例えば、阻害剤の投与後20~120分以内に、血糖値(mg/dL)を10%、15%、20%以上低減することを含み得る。
【0039】
別の実施形態では、対象は2型糖尿病のリスクがあり、本方法は対象における2型糖尿病(T2D)の発症を制限するのに役立つ。T2Dは、高血糖、インスリン抵抗性、およびインスリンの相対的欠如を特徴とする代謝障害である。症状および/または合併症には、低血糖、インスリン抵抗性、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、タンパク尿、糸球体クリアランス異常、糖尿病性循環障害、腎不全、心血管疾患、多尿症、多飲症、体重減少、および脳卒中が含まれるが、これらに限定されない。。一実施形態では、2型糖尿病の発症の制限は、例えば、阻害剤の投与後20~120分以内に、血糖値(mg/dL)を10%、15%、20%以上低減することを含み得る。
【0040】
T2Dのリスク因子には、肥満、喫煙、座りがちな生活様式、2型糖尿病を有する親または兄弟、前糖尿病、前糖尿病を有する親または兄弟、貧しい食生活(例えば、脂肪の過多、繊維の不足、単純糖質の過多など)、年齢が50歳以上、高血圧、高コレステロール、テストステロン欠乏症、メタロチオネイン1 A(MT1A)rs8052394遺伝子座(G変化)一塩基多型、および妊娠糖尿病の既往歴が含まれるが、これらに限定されない。したがって、様々な実施形態では、対象はこれらのリスク因子のうちの1つ以上を有し、本方法はT2Dへの進行を遅延させ、かつ/または(b)T2Dに特徴的な症状の発症を制限もしくは予防するのに役立つ。
【0041】
以下の実施例で開示されるように、本方法は、T2Dのマウスモデルにおける耐糖能を著しく改善する。したがって、別の実施形態では、対象はT2Dを有し、本方法は対象におけるT2Dを治療するのに役立つ。この実施形態では、治療は、高血糖、低血糖、インスリン抵抗性、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、タンパク尿、糸球体クリアランス異常、糖尿病性循環障害、腎不全、心血管疾患、多尿症、多飲症、体重減少、脳卒中を含むが、これらに限定されない2型糖尿病合併症のうちの1つ以上を制限すること、およびインスリンまたは他の療法を必要とする頻度を低減することを含み得る。これらの症状/合併症をどの程度制限することも、T2Dを有する対象にとっては大きな利益となる。。一実施形態では、治療は、例えば、阻害剤の投与後20~120分以内に、血糖値(mg/dL)を10%、15%、20%以上低減することを含み得る。
【0042】
別の実施形態では、対象は前糖尿病を有し、本方法は対象における前糖尿病を治療するのに役立つ。この実施形態では、対象は、前糖尿病を有する対象である。本明細書で使用される場合、「前糖尿病」は、糖尿病の診断基準のすべてではなく一部が満たされている状態である。したがって、前糖尿病の対象は、(a)ベータ細胞の経口糖負荷(OGT)への応答が不足していることによる状態である空腹時耐糖能異常を有し得るか、または(b)空腹時血糖値(IFG)が正常レベルと考えられるレベルを超えて上昇しているが、糖尿病として分類されるほどには高くない状態である、一定して高い空腹時血糖値を有し得る。前糖尿病状態は、インスリン抵抗性および心血管病変のリスクの増加に関連し得る。前糖尿病状態を有する個人は、T2Dを発症するリスクが比較的高い。本開示の方法は、例えば、T2D、高血糖、インスリン抵抗性、および/または心血管疾患を含むが、これらに限定されない前糖尿病の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることにより、前糖尿病を有する対象を治療するために使用され得る。。一実施形態では、治療は、例えば、阻害剤の投与後20~120分以内に、血糖値(mg/dL)を10%、15%、20%以上低減することを含み得る。
【0043】
別の実施形態では、対象は欠陥的糖不耐症を有し、本方法は対象における耐糖能異常を治療するのに役立つ。本明細書で使用される場合、耐糖能異常は、75gの経口耐糖能試験で、1dLあたり140~199mg(7.8~11.0mmol/l)の2時間の糖レベルとして定義される。患者は、2時間後に中程度に上昇した糖レベルを有する場合、IGTの条件未満であるが、そのレベル未満の場合は、2型糖尿病とされる。空腹時血糖値は、正常か、軽度に上昇し得る。耐糖能異常は、インスリン抵抗性および心血管病変のリスクの増加に関連する高血糖の前糖尿病状態である。IGTは、2型糖尿病よりも数年前に発生し得る。この実施形態では、治療は、2型糖尿病、高血糖、インスリン抵抗性、および/または心血管疾患を含むが、これらに限定されない耐糖能異常の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることを含み得る。.一実施形態では、治療は、例えば、阻害剤の投与後20~120分以内に、血糖値(mg/dL)を10%、15%、20%以上低減することを含み得る。
【0044】
別の実施形態では、対象は肝炎を有し、本方法は対象における肝炎を治療するのに役立つ。以下の実施例に開示されるように、MT阻害剤は、組織の炎症を制限し、炎症誘発性サイトカインMCP-1およびTNF-aを低下させながら、肝臓組織の抗炎症性IL-10シグナルを増加させるのに効果的である。肝炎は、肝組織の炎症である。症状には、皮膚および白目の黄色変色、食欲不振、嘔吐、疲労感、腹痛、下痢、急性肝不全、肝臓の瘢痕化、肝不全、または肝癌が含まれるが、これらに限定されない。肝炎の最も一般的な原因は、ウイルス感染(タイプA、B、C、D、およびE)、大量のアルコールの使用、ある特定の薬物、毒素、他の感染症、自己免疫疾患、および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である。したがって、様々な実施形態では、治療は、皮膚および/または白目の黄色変色、食欲不振、嘔吐、疲労、腹痛、下痢、急性肝不全、肝臓の瘢痕化、肝不全、ならびに肝癌を含むが、これらに限定されない肝炎の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることを含み得る。
【0045】
さらなる実施形態では、対象は炎症性肝疾患を有し、本方法は対象における炎症性肝疾患を治療するのに役立つ。本明細書で使用される場合、「炎症性肝疾患」は、脂肪症を介した肝細胞におけるトリグリセリド脂肪の大きな液胞の細胞質内蓄積(すなわち、細胞内の脂質の異常保持)に関連する状態である。肝臓は全身代謝において大きな役割を果たし、エネルギーの不均衡は特に肝臓の脂質代謝の欠陥と関連している。具体的には、肥満およびインスリン抵抗性は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に特徴的な肝臓での脂質沈着の増加と関連していることがよくある。脂質代謝は非常に動的であるが、慢性的な脂質過負荷は、肝臓において組織の損傷を引き起こし、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に特徴的な線維症を引き起こし得る肝臓常在免疫細胞および非常在免疫細胞の動員をもたらす。肝線維症は、肝硬変、癌につながる可能性があり、心血管疾患のリスクを大幅に増加させる。これは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のリスクを改善するための肝臓への免疫細胞の動員をブロックする可能性を高める。以下の実施例に示されるように、MT阻害剤による治療は、精巣上体白色脂肪組織の湿潤組織重量の増加、および総トリグリセリドレベルの低下、ならびに抗炎症性IL-10シグナルの増加と共に炎症誘発性サイトカインMCP-1およびTNF-aの低下の原因であった。炎症性肝疾患は、脂肪症であり得る(非アルコール性脂肪性肝(NAFL))。別の実施形態では、脂肪性肝疾患は、NAFLDの最も極端な形態である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含むが、これらに限定されない非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であり得る。NAFLDは、過剰なアルコールの使用以外の原因により、肝臓に脂肪が蓄積する(脂肪症)ときに発生する炎症性肝疾患の種類のうちの1つである。NASHおよびNAFLDの症状には、疲労、倦怠感、鈍い右上腹部の不快感、軽度の黄疸、および定期的な血液検査中の異常な肝機能検査結果が含まれ得るが、これらに限定されず、NASHおよびNAFLDの合併症には、肝線維症、肝癌、および/または肝硬変が含まれ得るが、これらに限定されない。したがって、一実施形態では、炎症性肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および/または非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)からなる群から選択される。さらなる実施形態では、治療は、疲労、倦怠感、肝線維症、肝癌、および/または肝硬変を含むが、これらに限定されない炎症性肝疾患の1つ以上の合併症の進行を制限または遅延させることを含む。
【0046】
一実施形態では、抗MT抗体を含むが、これらに限定されないMT阻害剤は、膵臓ベータ細胞などのMTを産生する膵臓細胞を特異的に標的化するために、膵臓細胞標的化部分に連結され得る。この実施形態は、T1D、T2D、前糖尿病、および/または耐糖能異常を治療するかまたはそれらの発症を制限するのに特に有用であろう。一実施形態では、膵臓β細胞特異的標的化部分は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、ペプチドYY(PYY)、ニューロペプチドY(NPY)、膵臓ペプチド(PPY)、およびエキセンディン-4を含むが、これらに限定されない膵臓β細胞に優先的に結合する1つ以上のペプチドまたは他の部分を含む。
グルカゴン様ペプチド1 GLP1(aa92-128)HDEFERHAEGTFTSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGRG(配列番号9)
グルカゴン様ペプチド2;GLP2(aa146-178)
HADGSFSDEMNTILDNLAARDFINWLIQTKITD(配列番号10)
膵臓ペプチド(PPY)
MAAARLCLSLLLLSTCVALLLQPLLGAQGAPLEPVYPGDNATPEQMAQYAADLRRYINMLTRPRYGKRHKEDTLAFSEWGSPHAAVPRELSPLDL(配列番号11)
ニューロペプチドY(NPY)
MLGNKRLGLSGLTLALSLLVCLGALAEAYPSKPDNPGEDAPAEDMARYYSALRHYINLITRQRYGKRSSPETLISDLLMRESTENVPRTRLEDPAMW(配列番号12)
ペプチドYY(PYY)
MVFVRRPWPALTTVLLALLVCLGALVDAYPIKPEAPGEDASPEELNRYYASLRHYLNLVTRQRYGKRDGPDTLLSKTFFPDGEDRPVRSRSEGPDLW(配列番号13)
エキセンディン-4
MKIILWLCVFGLFLATLFPISWQMPVESGLSSEDSASSESFASKIKRHGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPSG(配列番号14)
【0047】
膵臓細胞標的化部分を、MT抗体もしくはそのフラグメント、またはアプタマーを含むが、これらに限定されないMT阻害剤に付着させることは、膵臓細胞標的化部分およびMT抗体もしくはそのフラグメント、またはアプタマーがそれらのそれぞれの活性を保持する限り、2つの分子を結合する任意の化学反応により達成され得る。細胞外MT阻害剤が抗体またはそのフラグメントを含む一実施形態では、本組成物は、組換え融合タンパク質を含む。他の実施形態では、膵臓細胞標的化部分とMT抗体またはそのフラグメントとの間の連結は、多くの化学的メカニズム、例えば、共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合、および複合体形成を含み得る。共有結合は、既存の側鎖を直接縮合するか、または外部の架橋分子を組み込むことにより実現され得る。多くの二価または多価の連結剤は、抗体などのタンパク質分子を他の分子に結合するのに有用である。例えば、結合剤の代表的な非限定的な例は、チオエステル、カルボジイミド、スクシンイミドエステル、ジイソシアネート、グルタルアルデヒド、ジアゾベンゼン、およびヘキサメチレンジアミンなどの有機化合物であり得る。
【0048】
すべての実施形態では、対象は、哺乳動物、ヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ウマ、ニワトリなどを含む、本明細書に開示される治療方法から利益を得ることができる任意の対象であり得る。一実施形態では、対象は、ヒトである。
【0049】
投与のための組成物は、典型的には、医薬的に許容される担体を含むように医薬組成物として配合される。薬学的に許容される塩を形成することができる好適な酸には、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、リン酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アントラニル酸、ケイ皮酸、ナフタレンスルホン酸、スルファニル酸などの有機酸が含まれる。そのような塩を形成することができる好適な塩基には、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;さらにモノ、ジ、およびトリアルキルおよびアリールアミン(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルアミン、ジメチルアミンなど)、ならびに任意に置換されたエタノールアミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミンなど)などの有機塩基が含まれる。
【0050】
医薬組成物は、本組成物および担体に加えて、(a)凍結乾燥保護剤、(b)界面活性剤、(c)増量剤、(d)張度調整剤、(e)安定剤、(f)防腐剤、および/または(g)緩衝剤を含み得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物中の緩衝剤は、トリス緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、または酢酸緩衝剤である。医薬組成物はまた、凍結乾燥保護剤、例えば、スクロース、ソルビトール、またはトレハロースも含み得る。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、防腐剤、例えば、塩化ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、o-クレゾール、p-クレゾール、クロロクレゾール、硝酸フェニル水銀、チメロサール、安息香酸、およびそれらの様々な混合物を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、グリシンのような増量剤を含む。さらに他の実施形態では、医薬組成物は、界面活性剤、例えば、ポリソルベート-20、ポリソルベート-40、ポリソルベート-60、ポリソルベート-65、ポリソルベート-80ポリソルベート-85、ポロキサマー-188、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリラウリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ソルビタントリオレアスト(sorbitan trioleaste)、またはそれらの組み合わせを含む。医薬組成物はまた、張度調整剤、例えば、製剤をヒトの血液と実質的に等張または等浸透圧にする化合物も含み得る。例示的な張度調整剤には、スクロース、ソルビトール、グリシン、メチオニン、マンニトール、デキストロース、イノシトール、塩化ナトリウム、アルギニン、および塩酸アルギニンが含まれる。他の実施形態では、医薬組成物は、安定剤、例えば、タンパク質ベースの組成物と組み合わせると、凍結乾燥または液体形態のタンパク質の化学的および/または物理的不安定性を実質的に防止または低減する分子をさらに含む。例示的な安定剤には、スクロース、ソルビトール、グリシン、イノシトール、塩化ナトリウム、メチオニン、アルギニン、および塩酸アルギニンが含まれる。
【0051】
本組成物は、経口、非経口、吸入スプレー、直腸、または局所を含む任意の好適な経路を介して、従来の薬学的に許容される担体、アジュバント、およびビヒクルを含有する投薬単位製剤で投与され得る。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、胸骨内、腱内、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、注入技法、または腹腔内を含む。投薬計画は、最適な所望の応答(例えば、療法的または予防的応答)を提供するように調整され得る。好適な用量範囲は、例えば、0.1ug/kg~100mg/kg体重であり得るか、あるいはそれは、0.5ug/kg~50mg/kg、1ug/kg~25mg/kg、または5ug/kg~10mg/kg体重であり得る。本組成物は、単回ボーラスで送達され得るか、または担当医療従事者により決定されるように、2回以上(例えば、2、3、4、5回以上)投与され得る。本組成物は、投与される唯一の治療薬であり得るか、または担当の医療従事者により適切であると見なされる場合、1つ以上の他の治療薬と一緒に(別々にまたは組み合わせて)投与され得る。非限定的な一実施形態では、対象は、T1Dを有するか、またはそのリスクがあり、阻害剤は、インスリン、メトホルミン、またはプラムリンチドのうちの1つ以上と一緒に使用され得る。別の実施形態では、対象は、T2D、前糖尿病、および/または耐糖能異常を有するか、またはそれらのリスクがあり、阻害剤は、メトホルミン、スルホニル尿素(グリブリド、グリピジド、およびグリメピリドを含むが、これらに限定されない)、メグリチニド(レパグリニドおよびナテグリニドを含むが、これらに限定されない)、チアゾリジンジオン(ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンを含むが、これらに限定されない)、DPP-4阻害剤(シタグリプチン、サクサグリプチン、およびリナグリプチンを含むが、これらに限定されない)、GLP-1受容体アゴニスト(エクセナチド、リラグルチド、およびセマグルチドを含むが、これらに限定されない)、SGLT2阻害剤(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、およびエンパグリフロジンを含むが、これらに限定されない)、またはインスリンのうちの1つ以上と一緒に使用され得る。非限定的な一実施形態では、対象は肝炎を患っているか、またはそのリスクがあり、阻害剤はエンテカビル、テノホビル、ラミブジン、アデフォビル、テルビブジン、シメプレビル、ソホスブビル、インターフェロン、またはリバビリンのうちの1つ以上と組み合わせて使用され得る。
【0052】
別の実施形態では、
(a)細胞外ヒトメタロチオネイン(MT)の阻害剤と、
(b)インスリン、メトホルミン、プラムリンチド、スルホニル尿素(グリブリド、グリピジド、およびグリメピリドを含むが、これらに限定されない)、メグリチニド(レパグリニドおよびナテグリニドを含むが、これらに限定されない)、チアゾリジンジオン(ロシグリタゾンおよびピオグリタゾンを含むが、これらに限定されない)、DPP-4阻害剤(シタグリプチン、サクサグリプチン、およびリナグリプチンを含むが、これらに限定されない)、GLP-1受容体アゴニスト(エクセナチド、リラグルチド、およびセマグルチドを含むが、これらに限定されない)、SGLT2阻害剤(カナグリフロジン、ダパグリフロジン、およびエンパグリフロジンを含むが、これらに限定されない)、エンテカビル、テノホビル、ラミブジン、アデフォビル、テルビブジン、シメプレビル、ソホスブビル、インターフェロン、またはリバビリンのうちの1つ以上と、を含む組成物が提供される。本組成物は、例えば、本開示の方法で使用され得る。一実施形態では、阻害剤は、ヒトメタロチオネイン(MT)に特異的に結合する抗メタロチオネイン抗体またはそのフラグメントを含む。上に開示された抗体のすべての実施形態および実施形態の組み合わせは、この態様の組成物に含めるのに好適である。一実施形態では、抗MT抗体またはその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。別の実施形態では、抗MT抗体は、ヒト化抗MT抗体、またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0053】
別の態様では、本開示は、
(a)細胞外ヒトメタロチオネイン(MT)の阻害剤と、
(b)細胞外ヒトMTの阻害剤に連結された膵臓または肝細胞標的化部分と、を含む組成物を提供する。
【0054】
本組成物は、例えば、本開示の方法で使用され得る。一実施形態では、阻害剤は、ヒトメタロチオネイン(MT)に特異的に結合する抗メタロチオネイン抗体またはそのフラグメントを含む。上に開示された抗体のすべての実施形態および実施形態の組み合わせは、この態様の組成物に含めるのに好適である。一実施形態では、抗MT抗体またはその抗原結合フラグメントは、モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。別の実施形態では、抗MT抗体は、ヒト化抗MT抗体、またはその抗原結合フラグメントを含む。
【0055】
一実施形態では、細胞標的化部分は、肝細胞標的化部分である。例示的なそのような実施形態では、肝細胞標的化部分は、スポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、CSP領域I、CSP領域Iプラス、ラクトサミン化ヒト血清アルブミン、グリコシル化リポタンパク質、および/またはアラビノガラクタンを含むが、これらに限定されない。一実施形態では、肝細胞結合部分は、ペプチド性であり、CSP、CSP領域I、CSP領域Iプラス、またはそれらの肝細胞結合フラグメントから選択される。肝臓へのCSP標的プラスモディウムスポロゾイトは、プラスモディウムスポロゾイトの表面に存在するスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)に起因する(Rathore D,et al.The Journal of Biological Chemistry.2005;28021):20524-20529)。CSPは、約400個のアミノ酸の長さで3つのドメインに編成されており、「領域I」という名前の保存KLKQPモチーフを含むN末端ドメイン、反復性の高い中央ドメイン、および「領域II」という名前の別の保存配列を含むC末端ドメイン(Singh et al.Cell.2007;131(3):492-504)。保存領域I KLKQP配列に加えて、N末端領域はまた、領域Iの上流に、2つのコンセンサスヘパリン硫酸結合配列を含む。保存領域Iのアミノ酸および領域Iの上流の2つのコンセンサスヘパリン結合配列の両方を含むペプチドは、「領域I-プラス」という名前である(Prudencio et al.,Nature Reviews Microbiology.2006;4(11):849-856)。
【0056】
別の実施形態では、細胞標的化部分は、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、ペプチドYY(PYY)、ニューロペプチドY(NPY)、膵臓ペプチド(PPY)、およびエキセンディン-4を含むが、これらに限定されない膵臓細胞標的化部分であり、そのようなペプチドの例示的なアミノ酸配列は上に記載される。
【0057】
細胞標的化部分を、MT抗体もしくはそのフラグメント、またはアプタマーを含むが、これらに限定されないMT阻害剤に付着させることは、細胞標的化部分およびMT抗体もしくはそのフラグメント、またはアプタマーがそれらのそれぞれの活性を保持する限り、2つの分子を結合する任意の化学反応により達成され得る。細胞外MT阻害剤が抗体またはそのフラグメントを含み、細胞標的化部分がペプチド性である一実施形態では、本組成物は組換え融合タンパク質を含む。他の実施形態では、細胞標的化部分とMT抗体またはそのフラグメントとの間の連結は、多くの化学的メカニズム、例えば、共有結合、親和性結合、インターカレーション、配位結合、および複合体形成を含み得る。共有結合は、既存の側鎖を直接縮合するか、または外部の架橋分子を組み込むことにより実現され得る。多くの二価または多価の連結剤は、抗体などのタンパク質分子を他の分子に結合するのに有用である。例えば、結合剤の代表的な非限定的な例は、チオエステル、カルボジイミド、スクシンイミドエステル、ジイソシアネート、グルタルアルデヒド、ジアゾベンゼン、およびヘキサメチレンジアミンなどの有機化合物であり得る。
【0058】
別の態様では、本開示は、抗MT抗体の組換え融合ポリペプチドをコードする組換え核酸、または本明細書に具体的に開示されるものを含む、ペプチド標的化部分に融合したそのフラグメントを提供する。組換え核酸配列は、一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNA、およびそれらの誘導体を含み得る。そのような組換え核酸配列は、ポリA配列、修飾コザック配列、およびエピトープタグをコードする配列、搬出シグナル、および分泌シグナル、核局在化シグナル、ならびに血漿膜局在化シグナルを含むが、これらに限定されない、コードされたタンパク質の発現および/または精製を促進するのに有用な追加の配列を含み得る。
【0059】
さらなる態様では、好適な制御配列に機能的に連結された本開示の任意の実施形態または実施形態の組み合わせの組換え核酸を含む組換え発現ベクターが開示される。「組換え発現ベクター」は、核酸コード領域または遺伝子を、遺伝子産物の発現をもたらすことができる任意の制御配列に機能的に連結するベクターを含む。本発明の核酸配列に機能可能に連結された「制御配列」は、核酸分子の発現をもたらすことができる核酸配列である。制御配列が核酸配列と隣接している必要がないのは、それらがその発現を指示するように機能する場合である。したがって、例えば、介在する非翻訳であるが転写された配列は、プロモーター配列と核酸配列との間に存在し得、プロモーター配列は、依然としてコード配列に「機能可能に連結されている」とみなされ得る。他のそのような制御配列には、ポリアデニル化シグナル、終結シグナル、およびリボソーム結合部位が含まれるが、これらに限定されない。そのような発現ベクターは、プラスミドおよびウイルスベースの発現ベクターを含むが、これらに限定されない任意のタイプのものであり得る。発現ベクターは、エピソームとして、または宿主染色体DNAへの組み込みにより、宿主生物において複製可能であり得る。非限定的な実施形態では、発現ベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターを含み得る。
【0060】
別の態様では、本開示は、本明細書に開示される組換え発現ベクターを含む組換え宿主細胞を提供し、ここで、宿主細胞は、原核生物または真核生物のいずれか、例えば、哺乳動物細胞であり得る。細胞は、一時的または安定的にトランスフェクトされ得る。
【0061】
別の態様では、糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、肝炎、および/または炎症性肝疾患からなる群から選択される障害を治療するかまたはその発症を制限するために、本組成物、組換え核酸、組換え発現ベクター、組換え宿主細胞、または本明細書に開示される任意の実施形態もしくは実施形態の組み合わせの医薬組成物を使用することが開示される。そのような使用は上記のとおりである。
【0062】
さらなる実施形態では、糖尿病、前糖尿病、耐糖能異常、肝炎、および/または炎症性肝疾患からなる群から選択される障害を治療するかまたはその発症を制限する方法が開示され、これは、障害を治療するための有効量の本組成物、組換え核酸、組換え発現ベクター、組換え宿主細胞、または本明細書に開示される任意の実施形態もしくは実施形態の組み合わせの医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することによる。そのような方法は上記のとおりである。
【実施例】
【0063】
UC1MTによる2型糖尿病の治療
II型糖尿病のインスリン抵抗性の特徴をモデル化するために、高脂肪食(HFD)をマウスに与えた。5週齢のC57BL/6Jマウスに、標準的な60%高脂肪食を14週間与えた後、処置を開始した。マウスに週2回腹腔内投与で100μlの1mg/mlの抗MT抗体(Abcam Inc,Cambridge,Massから入手したUC1MT)を8週間注入し、その後27週齢でマウスを屠殺した(合計22週間のHFD)。2つの処置グループ間で体重または摂食量に違いはなかった。
図1は、IgG1アイソタイプ対照(MOPC21)またはUC1MTによる処置の終了時に腹腔内にグルコースを注射したマウスの耐糖能試験の結果を示す。
図2は、グループ内の各動物からの初期測定値に対して正規化した耐糖能試験結果の変化を示す。対照動物は脂肪性肝および糖不耐症を発症したが、UC1MTで処置されたマウスは対照群と比較して耐糖能の改善を示した。これらのデータは、抗MT抗体が耐糖能異常の治療に使用され得ることを提示した。耐糖能は炎症状態により調節され得るため、これらの結果はまた、UC1MTがマウスの炎症プロファイルを改善し、したがってHFD給餌マウスが大きな糖負荷を管理する能力を改善することを示唆する。
【0064】
UC1MTまたはMOPC21で処置されたHFD給餌マウスのNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)肝炎症プロファイルに対する影響
肝臓は全身代謝において大きな役割を果たし、エネルギーの不均衡は特に肝臓の脂質代謝の欠陥と関連している。具体的には、肥満およびインスリン抵抗性は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に特徴的な肝臓での脂質沈着の増加と関連していることがよくある(Katsiki N et al,Metabolism 2016 PMID:27237577)。脂質代謝は非常に動的であるが(Sakaguchi M et al,Cell Metab 2017 PMID:28065828)、慢性的な脂質過負荷は、肝臓において組織の損傷を引き起こし、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に特徴的な線維症を引き起こし得る肝臓常在免疫細胞および非常在免疫細胞の動員をもたらす(Narayanan S et al,Immune Netw 2016 PMID:27340383)。肝線維症は、肝硬変、癌につながる可能性があり、心血管疾患のリスクを大幅に増加させる。これは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のリスクを改善するための肝臓への免疫細胞の動員をブロックする可能性を高める。
【0065】
上の2型糖尿病研究で記載したのと同じ動物を、qPCR研究を介してmRNA発現を評価することにより、肝臓の表現型について調べた。UC1MT治療は、白色精巣上体脂肪組織の遺伝子発現の一部(特に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマコアクチベーター1-アルファ(PGC-1a)、エネルギー代謝を調節する転写コアクチベーター、およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPARガンマ))に対して効果を有した(
図3)。
【0066】
動物の屠殺時に、肝臓、膵臓、扁平上皮白色脂肪組織、eWAT、肩甲骨内褐色脂肪組織、および血清を収集した。各試料の半分をRNAに使用し、半分を組織学に使用した(Z-FIX(商標)(Fisher Scientific)で固定した膵臓を除くすべての組織をホルマリンで固定した)。データは、抗MT抗体が以下の原因であることを示す:
・精巣上体白色脂肪組織の湿潤組織重量の増加(
図4A~B)、
・肝臓の総トリグリセリドレベルの低下(
図6)、
・一部の炎症誘発性サイトカイン(MCP-1およびTNF-a)の発現の低下(
図5)、
・抗炎症性IL-10シグナルの発現の増加(
図5)。
【0067】
抗メタロチオネイン抗体は、高脂肪食で処置されたマウスの体重または体重増加を変化させず、肝組織も著しく変化させなかった。
【0068】
上に示された改善した耐糖能と一致して、抗MT抗体で処置されたマウスの肝臓トリグリセリドレベルは低下した。これらのデータは、MT阻害剤が全身のグルコース代謝を改善でき、肝臓における栄養過多の負荷を低下させ、脂肪肝の発症を制限し得ることを示唆する。
【0069】
1型糖尿病研究
NOD/ShiLtJマウス系統(一般にNODと呼ばれる)は、自己免疫1型糖尿病の多遺伝子モデルである。NODマウスの糖尿病は、高血糖および膵島炎、膵島の白血球浸潤を特徴とする。膵臓インスリン含有量の著しい低下は、約12週齢の雌で発生し、数週間後に雄で発生する。雌の80%および雄の45%が30週間までに糖尿病になり、雌の発生率の中央値は17週間である。NODバックグラウンドの免疫表現型は、抗原提示、Tリンパ球レパートリー、NK細胞機能、マクロファージサイトカイン産生、創傷治癒、およびC5補体の欠陥で構成される。これらの欠陥により、NODバックグラウンドが免疫不全マウス系統の一般的な選択肢となっている。
【0070】
・NODマウスは、1980年に発表されて以来、1型DMが自然発症することがわかっているため、1型DM予防研究では、NODマウス(非肥満糖尿病)マウスを使用した。その病原性事象は、少なくとも生後3週間という早い時期に膵臓リンパ節に膵島抗原が現れることで始まる。最初にAPC、次にリンパ球を伴う膵島炎は、生後約4~6週齢で始まり、その後15週間で着実に進行する。BS>250mg/dlとしてのフランク糖尿病は、18~20週の間に始まる。また、NODマウスにおける自然発症糖尿病の発生率は、雌では60~80%、雄では20~30%である。したがって、T1 DMにおける抗MTモノクローナル抗体の潜在的な役割を調査するために、NODマウスを3つのグループ(1治療グループあたり10匹の動物)に分割することを決定した:(1)ネガティブ対照用のPBSによる処置、(2)0.1mg/mlの非特異的IgGによる療法、アイソタイプ対照としてのMOPC、(3)マウスあたり0.1mg/mlのUCIMTによる毎日の腹腔内注射。各グループは、5週齢から割り当てられた処置を受けた。総治療コースは2週間であった。血糖値を毎週チェックし、2週間にわたって250mg/dlを超える血糖値を有したマウスを屠殺した。糖尿病のないNODマウスの残りを30週齢で屠殺した。
図7および
図8に示されるように、抗MT抗体治療は、アイソタイプ対照MOPC21またはPBSビヒクル対照と比較して、高脂肪食で処置されたマウスにおける糖不耐症の顕著な軽減をもたらした。UC1MTはまた、膵島炎(すなわち、炎症細胞のランゲルハンスの膵島への浸潤)の著しい低減をもたらした(
図9)。
【配列表】