(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】タペンタドールの調製のための新規な方法
(51)【国際特許分類】
C07C 213/08 20060101AFI20240510BHJP
C07C 217/62 20060101ALI20240510BHJP
C07C 215/54 20060101ALI20240510BHJP
A61K 31/137 20060101ALN20240510BHJP
A61P 25/04 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
C07C213/08
C07C217/62
C07C215/54
A61K31/137
A61P25/04
(21)【出願番号】P 2020569156
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2019025173
(87)【国際公開番号】W WO2019238267
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】201831022432
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510022369
【氏名又は名称】ファーマシェン エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】コフティス, ヴィー.テオカリス
(72)【発明者】
【氏名】ネオコスミディス, エフストラティオス
(72)【発明者】
【氏名】スタサキス, クリストス
(72)【発明者】
【氏名】キジス, ペトロス
(72)【発明者】
【氏名】パナギオティディス, セオドロス
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-544658(JP,A)
【文献】Ignacio H. Sanchez et al.,J. Org. Chem.,1985年,50(25),pp.5077-5079
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IIIaの化合物またはその塩から式IIaの化合物またはその塩を調製するための方法であって、
a)ヒドロシラン試薬、およびルイス酸またはプロトン酸から選択される酸の存在下で、式IIIaの化合物またはその塩の脱酸素を行い、必要に応じてジアステレオマー混合物の形態で、式IIaの化合物をもたらす工程;
b)必要に応じて、工程a)の生成物を、塩酸、臭化水素酸、硝酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、硫酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クエン酸、酒石酸、ジ-アロイル酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸およびその誘導体、カンホロスルホン酸およびその誘導体から選択される酸で処理し、アミン基を介して酸付加塩を形成し、所望の(2R,3R)-[3-(3-メトキシフェニル)-2-メチル-ペンチル]ジメチルアミン(式IIaの化合物)の塩を分離する工程
を含
み、
工程aの酸が、四塩化チタン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化スズ、四臭化スズ、塩化第一スズ、塩化第二鉄、塩化亜鉛、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸またはメタンスルホン酸から選択される、方法。
【請求項2】
ヒドロシラン試薬が、トリエチルシラン、トリメチルシラン、ジメチルフェニルシラン、フェニルシラン、トリフェニルシラン、トリクロロシラン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ポリメチルヒドロシロキサンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程bにおける酸が、塩酸、臭化水素酸、硝酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、硫酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クエン酸、酒石酸およびその誘導体、リンゴ酸、マンデル酸およびその誘導体、カンホロスルホン酸およびその誘導体から選択される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
式IIIaの化合物が酸付加塩の形態である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酸付加塩が塩酸塩または臭化水素酸塩である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
タペンタドールまたはその薬学的に許容される塩を調製するための方法であって、請求項1から
5のいずれか一項に定義される工程aおよびbを含み、式IIaの化合物を脱メチル化して、式Iの化合物をもたらすこと、および式Iの化合物の、その薬学的に許容される塩への必要に応じた変換をさらに含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タペンタドールおよびその中間体を調製するための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タペンタドールは、式:
で表される、3-[(1R、2R)-3-(ジメチアミノ)-1-エチル-2-メチルプロピル]フェノール一塩酸塩のINN(国際一般名)である。
【0003】
タペンタドールの化学構造は、化合物(+21)としてEP-A-0693475に開示されている。タペンタドールの合成は、実施例1および実施例24の工程1~3に記載される。
【0004】
タペンタドールまたはその重要な中間体である式IIaの化合物の調製については、上記以外に、先行技術に開示された多くの合成手順が存在する。
【0005】
PCT公開WO2008012283A1は、スキーム1に示されるように、式IIIaの対応するヒドロキシル化合物を無水トリフルオロ酢酸または塩化アセチルまたはエチル塩化オキサリルで処理し、続いてパラジウム炭素などの遷移金属触媒で水素化することにより、(2R,3R)-3-(3-メトキシフェニル)-N,N,2-トリメチルペンタンアミン(式IIaの化合物として表記されている)またはその酸付加塩(式IIa’の化合物)を生成する、(2R,3R)-3-(-メトキシフェニル)-N,N,2-トリメチルペンタンアミン(式IIの化合物)を調製するための方法を開示する。その後、式IIa’の化合物は、先行技術に開示される方法による脱メチル化により、タペンタドールに変換される(例えば、EP-A-0693475を参照されたい)。
【0006】
インド特許出願IN201641017954は、式IIIbの化合物を利用して式IIaの化合物を調製する、代替的な合成を開示している。式IIIbの化合物は、先行技術の方法、特に、USRE39593、US6344558B2およびWO2012101649に開示されるものによって調製される。
【0007】
この特許出願によると、スキーム2に従い、(2S,3S)-1-ジメチルアミノ-3-(3-メトキシフェニル)-2-メチル-ペンタン-3-オール(式IIIの化合物のS,S-異性体であり、IIIbとして表記されている)を、好適な酸の存在下でヒドロシラン試薬を用いて還元し、2R,3Rおよび2R,3S-[3-(3-メトキシフェニル)-2-メチルペンチル]ジメチルアミン塩酸塩(式IIaおよびIIbの化合物として表記されている)のジアステレオマー混合物を生成する。ジアステレオマー混合物をそれぞれの塩酸塩に変換することにより、所望の2R,3RジアステレオマーIIaの分離が可能になる。分離は、好ましくは、所望のジアステレオマー純度を達成するために1回より多く行われてもよい分別結晶化によって行われることが開示されている。その後、脱メチル化により、タペンタドールが、遊離塩基または薬学的に許容される塩のいずれかとして得られる。特に、この戦略は、式IIIの化合物のS,S-ジアステレオマーである式IIIbの化合物を出発物質として用いる。このジアステレオマーは、上述の先行技術の手順によって入手可能であるが、ジアステレオマーIIIaが入手可能になる手順と比べ、より複雑でかつ収率が顕著に低い手順によって調製される。
【0008】
したがって、水素化に必要とされるような高価な試薬を使用する必要なく、または高価な出発物質を使用することなく、タペンタドールを調製することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
定義
添付される特許請求の範囲を含む本出願の目的では、以下の用語は、以下に記載されるそれぞれの意味を有するものとする。本明細書において、酸、塩基、塩などの一般的用語に言及するとき、当業者であれば、そのような試薬について、以下の定義で与えられるものだけでなく、後に続く本明細書に列挙されるさらなる試薬、または本技術分野の参考文献に見出されるものから、適切な選択を行うことができることが理解されるべきである。
【0010】
「酸」は、水素を含有し、水または溶媒中で解離して水素陽イオンのほかルイス酸を生成する任意の化合物を指し、限定されるものではないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、トリハロ酢酸(例えば、トリフルオロ酢酸)、マレイン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびカンファースルホン酸などのスルホン酸、(R)-クロロプロピオン酸などのプロピオン酸、N-[(R)-1-(1-ナフチル)エチル]フタルアミド酸などのフタルアミド酸、マンデル酸、D-またはL-酒石酸などの酒石酸およびジアロイル酒石酸などのその誘導体、乳酸、ショウノウ酸、アスパラギン酸、シトロネル酸などの酸を含む。したがって、用語は、エタン酸および硫化水素などの弱酸;メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの強有機酸を含む。
【0011】
「プロトン酸」は、水に溶解されたとき、H+イオンを遊離する酸を指す。
【0012】
「キラルな酸」は、キラルな化合物、すなわち、不斉中心(キラルな原子またはキラルな中心)を含有し、したがって2つの重ね合わせることのできない鏡像形態(エナンチオマー)で存在しうる化合物でもある酸を指す。キラルな酸の一般的な例は、(1R)-および(1S)-カンファースルホン酸、(R)-および(S)-クロロプロピオン酸、N-[(R)-および(S)-1-(1-ナフチル)エチル]フタルアミド酸、R)-および(S)-マンデル酸、D-またはL-酒石酸およびジアロイル酒石酸などのその誘導体、D-およびL-乳酸、ショウノウ酸のすべてのジアステレオマー、D-およびL-アスパラギン酸などである。
【0013】
それに応じて、「アキラルな酸」は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、トリハロ酢酸(例えば、トリフルオロ酢酸)、マレイン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのスルホン酸などのような、キラルな化合物ではない、概して上記で定義される酸を指す。
【0014】
「ルイス酸」は、電子対受容体である任意の化学種、すなわち、電子対を受け取ることができる、限定されることのない任意の化学種と本明細書で定義される。ルイス酸(ルイス酸触媒とも称される)は、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、チタン、ジルコニウム、スズ、バナジウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ランタン、ジスプロシウムおよびイッテルビウムを含む、遷移金属、ランタノイド(lathanoid)金属、ならびに元素周期表の第4、5、13、14および15族の金属に基づく任意のルイス酸であってもよい。ルイス酸の非限定的な例は、四塩化チタン、四臭化チタン、チタンイソプロポキシド、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化スズ、四臭化スズ、塩化第一スズ、塩化亜鉛、三塩化鉄、三臭化鉄およびそれらの錯体である。
【0015】
本明細書で調製される化合物の許容される塩は、その好適な酸付加塩を含む。それらは、「酸付加塩」または単に「塩」と称される。塩は、例えば、硫酸、リン酸、硝酸、ホウ酸またはハロゲン化水素酸などの鉱酸のような強酸;酢酸およびトリフルオロ酢酸などの、非置換のまたは(例えば、ハロゲンによって)置換された、1~4個の炭素原子のアルカンカルボン酸などの強有機カルボン酸;飽和または不飽和ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸またはテトラフタル酸;ヒドロキシカルボン酸、例えば、アスコルビン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸またはクエン酸およびそれらのエステル、例えば、ジアロイル酒石酸;アミノ酸、例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸;安息香酸;またはメタン-もしくはp-トルエンスルホン酸などの、(例えば、ハロゲンによって)置換されたまたは非置換の(C1~4)-アルキル-もしくはアリール-スルホン酸などの有機スルホン酸と形成される。
【0016】
薬学的に許容される塩は、親化合物の所望の生物活性を保持し、所望されない毒性学的作用を付与しない塩である。そのような塩の例は、(a)無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸などと形成される酸付加塩;例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パルミチン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ポリガラクツロン酸などの有機酸と形成される塩;(b)塩素、臭素およびヨウ素などの元素アニオンから形成される塩、ならびに(c)塩基から生じた塩、例えば、アンモニウム塩、ナトリウムおよびカリウムの塩などのアルカリ金属塩、カルシウムおよびマグネシウムの塩などのアルカリ土類金属塩、ならびにジシクロヘキシルアミンおよびN-メチル-D-グルカミンなどの有機塩基との塩である。好適な薬学的塩の総説は、Bergeら、J.Pharm.Sci.、66、1、19(1977)に見出すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の実施形態では、本発明は、式IIIaの化合物またはその塩から式IIaの化合物またはその塩を調製するための方法であって、
a)ヒドロシラン試薬および酸の存在下で式IIIaの化合物またはその塩の脱酸素を行い、必要に応じてジアステレオマー混合物の形態で、式IIaの化合物をもたらす工程;
b)必要に応じて、工程a)の生成物を、キラルなもしくはアキラルな酸またはそれらの混合物で処理し、アミン基を介して酸付加塩を形成し、所望の(2R,3R)-[3-(3-メトキシフェニル)-2-メチル-ペンチル]ジメチルアミン(式IIaの化合物)の塩を分離する工程
を含む、方法に関する。
【0018】
式IIIaの化合物またはその塩は、例えば、EP2046724(または対応するWO2008012047)に開示されるような先行技術の手順によって調製される。式IIIaの化合物、すなわち、式IIIの化合物の2S,3Rジアステレオマーは、前記先行技術の開示に広範に示されるような、確実かつ再現可能な手法で入手可能である。さらに、遊離塩基または酸付加塩の形態のいずれかで市販されている。
【0019】
工程aで行われる脱酸素は、典型的に、トリエチルシラン、トリメチルシラン、ジメチルフェニルシラン、フェニルシラン、トリフェニルシラン、トリクロロシラン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ポリメチルヒドロシロキサンから選択されてもよいヒドロシラン還元剤を用いる。
【0020】
脱酸素が行われるために、ヒドロシラン還元剤は、酸(以下、工程aの酸と称する)の存在も必要とする。工程aの酸は、式IIIaの化合物を活性化させることができる任意の酸であってもよい。酸は、ルイス酸またはプロトン酸であってもよい。ルイス酸の場合、酸は、四塩化チタン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、四塩化スズ、四臭化スズ、塩化第一スズ、塩化第二鉄、塩化亜鉛から選択されてもよい。プロトン酸の場合、酸は、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸またはメタンスルホン酸から選択されてもよい。
【0021】
反応の溶媒は、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、1,2ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素などの炭化水素から選択されてもよい。好ましくはジクロロメタンである。
【0022】
温度は、約(-50)℃~反応の溶媒の沸点の範囲に及んでもよい。好ましい温度範囲は(-10)~50℃である。より好ましくは0~25℃である。より一層好ましくは5~10℃である。
【0023】
使用されるヒドロシランは、1.5~10当量の範囲に及んでもよい。好ましくは、使用される当量は2.0でありうる。
【0024】
使用される酸は、2~10当量の範囲に及んでもよい。好ましくは、使用される当量は2.1でありうる。
【0025】
脱酸素反応により、式IIIaの化合物は式IIaの化合物に変換される。式IIaの化合物は、必要に応じて、ジアステレオマー混合物、すなわち、式IIaの化合物とそのジアステレオマーである式IIbの化合物の混合物の一部として形成されてもよい。
【0026】
2つのジアステレオマーの比は、反応の温度および溶媒などの種々の要因に依存する。
【0027】
ジアステレオマー純度が良好でない場合、ジアステレオマー混合物は、それによって酸付加塩が形成される酸による処理に供されてもよく、これにより2つのジアステレオマーの分離が可能になる。
【0028】
工程bで使用される酸は、キラルなまたはアキラルな酸から選択され、以下のいずれであってもよい:塩酸、臭化水素酸、硝酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、硫酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クエン酸、酒石酸およびその誘導体、リンゴ酸、マンデル酸およびその誘導体、カンホロスルホン酸(camphorosulfonic acid)およびその誘導体。好ましい酸は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、酒石酸およびその誘導体、ならびにマンデル酸である。
【0029】
ジアステレオマーの分離を実行するために選択される酸は多様であってもよく、工程aで生成されるジアステレオマー混合物のジアステレオマー比に依存しうる。さらに、工程bは1回より多く行われてもよく、各サイクルで使用される酸は必ずしも同じでなくてもよい。
【0030】
工程bで使用されてもよい溶媒は、ジアステレオマーの分離を実行するために使用される酸の選択に依存する。概して、ケトン、アルコール、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素およびそれらの混合物などの、一般的に使用される極性有機溶媒または水が好適である。ハロゲン化水素酸塩の場合、アセトン、ブタノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン溶媒が好ましい。一方、酒石酸の誘導体の付加塩の場合、アルコール水溶液が好ましい。
【0031】
工程bの適切な溶媒は、ジアステレオマーの分離を実行するのに使用される酸の選択に依存する。例えば、IIaのHCl付加塩のジアステレオマー混合物の分離では、溶媒は、アセトン、ブタノン-2、メチルイソブチルケトンおよび関連するケトンから選択される。一方、酒石酸の誘導体の付加塩の混合物の分離では、最も適切な溶媒は、水性メタノール、水性エタノールまたは同様の溶媒である。
【0032】
ジアステレオマー混合物の分割は、一般的に、WO2008012047の塩酸塩を使用するもの、もしくはWO2016023913のジアロイル酒石酸誘導体を使用するものなどの十分に確立された先行技術の手順によって、または本発明によって行うことができる。
【0033】
好ましい実施形態では、工程aに記載される式IIIaの化合物の式IIaの化合物への脱酸素反応により、ジアステレオマー混合物が生じ、この混合物がその後工程bに記載されるように分離されて、式IIaの化合物をもたらす。
【0034】
式IIIaの化合物は、遊離アミン塩基またはその酸付加塩のいずれかとして用いられてもよい。好ましい実施形態では、式IIIaの化合物は、その酸付加塩の形態である。酸付加塩の対イオンは、上記に定義される酸に由来してもよい。好ましくは、酸は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、トリハロ酢酸(例えば、トリフルオロ酢酸)、マレイン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸およびカンファースルホン酸などのスルホン酸、(R)-クロロプロピオン酸などのプロピオン酸、N-[(R)-1-(1-ナフチル)エチル]フタルアミド酸などのフタルアミド酸、L-酒石酸およびジベンジル-L-酒石酸などの酒石酸、乳酸、ショウノウ酸、アスパラギン酸、シトロネル酸から選択される。より好ましくは、塩酸および臭化水素酸である。
【0035】
本発明の第2の実施形態では、タペンタドールまたはその薬学的に許容される塩を調製するための方法であって、前述の実施形態に定義される工程aおよびbを含み、式IIaの化合物を脱メチル化して、式Iの化合物をもたらすこと、および式Iの化合物の、その薬学的に許容される塩への必要に応じた変換をさらに含む、方法が提供される。
【0036】
脱メチル化反応は、先行技術に開示される方法によって行われてもよい。そこで使用される試薬として、限定されるものではないが、臭化水素酸、メタンスルホン酸、塩酸、トリフルオロ酢酸、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、またはこれらの組合せが挙げられる。臭化水素酸が好ましい。
【実施例】
【0037】
実施例1
50mgの(2S,3R)-1-(ジメチルアミノ)-3-(3-メトキシフェニル)-2-メチルペンタン-3-オールを、1.0mlのジクロロメタンとともに10mlのRBフラスコに充填する。0.32mlのトリエチルシランを撹拌しながら添加し、混合物を0~5℃に冷却する。67mgの三塩化アルミニウムをこの温度で添加し、混合物を0~5℃で2時間撹拌する。その後、混合物を常温に到達させ、さらに2時間撹拌する。
【0038】
混合物を0~5℃に再び冷却し、3.0mlの酢酸エチルで希釈し、2.0mlの水酸化ナトリウムの10%w/v水溶液でクエンチして、再び常温に到達させる。有機相を分離し、水性相をさらなる分量の3.0mlの酢酸エチルで抽出する。有機相を再び分離し、最初の有機相と合わせ、硫酸ナトリウムで脱水する。濾過後、溶媒を蒸留除去し、55mgのクルード生成物を得る。
【0039】
実施例2
50mgの(2S,3R)-1-(ジメチルアミノ)-3-(3-メトキシフェニル)-2-メチルペンタン-3-オールを、1.0mlのトルエンとともに10mlのRBフラスコに充填する。0.32mlのトリエチルシランを撹拌しながら添加し、混合物を0~5℃に冷却する。67mgの三塩化アルミニウムをこの温度で添加し、混合物を0~5℃で2時間撹拌する。その後、混合物を常温に到達させ、さらに2時間撹拌する。混合物を上記のワークアップに供し、57mgのクルード生成物を得る。
【0040】
実施例3
250mgの(2S,3R)-1-(ジメチルアミノ)-3-(3-メトキシフェニル)-2-メチルペンタン-3-オールを、10mlのジクロロメタンとともに10mlのRBフラスコに充填する。混合物を撹拌しながら0~5℃に冷却する。この温度で、0.5mlのトリエチルシラン、続いて0.76mlのトリフルオロ酢酸を添加する。混合物を室温に加温し、撹拌を1時間継続する。混合物を約50℃で加熱し、温度を2時間維持する。混合物を上記のワークアップに供し、223mgのクルード生成物を得る。
【0041】
実施例4
250mgの(2S,3R)-1-(ジメチルアミノ)-3-(3-メトキシフェニル)-2-メチルペンタン-3-オールを、10mlのジクロロメタンとともに10mlのRBフラスコに充填する。次に、混合物を撹拌しながら0~5℃に冷却する。この温度で、0.5mlのトリエチルシラン、続いて1.23mlの三フッ化ホウ素エーテレートを添加する。混合物を室温に加温し、撹拌を1時間継続する。混合物を約50℃で加熱し、温度を2時間維持する。混合物を上記のワークアップに供し、238mgのクルード生成物を得る。
【0042】
実施例5
撹拌棒および温度計を備えた1Lの3つ口RBフラスコに、10.0gの(2S,3R)-1-(ジメチルアミノ)-3-(3-メトキシフェニル)-2-メチルペンタン-3-オール、続いて80mlのDCMおよび12.7mlのトリエチルクロロシランを充填する。次に、混合物を撹拌しながら0~5℃に冷却する。10.61gの三塩化アルミニウムを少しずつ添加する。反応混合物を0~5℃で1~2時間撹拌する。反応の完了後(TLC)、100mlのDM水を添加し、混合物を常温で30分撹拌する。有機相を分離し、溶媒を除去する。残留物を、50mlのt-ブチルメチルエーテルと10mlの1.0NのHClに分画する。水性相を500mlのRBフラスコに移し、7.0mlの50%w/vのNaOH、続いて50mlのDCMを添加する。有機相を分離し、硫酸ナトリウムで脱水して濾過する。溶媒を除去し、8.53gのクルード生成物を得る。HPLC:2つのジアステレオマー(IIaおよびIIb)について81.2%。
【0043】
実施例6
撹拌棒および温度計を備えた250mlの3つ口RBフラスコに、10.0gの(2S,3R)-1-(ジメチルアミノ)-3-(3-メトキシフェニル)-2-メチルペンタン-3-オール塩酸塩、続いて80mlのDCMおよび22.2mlのトリエチルクロロシランを充填する。次に、混合物を撹拌しながら0~5℃に冷却する。11.58gの三塩化アルミニウムを少しずつ添加する。反応混合物を常温で1~2時間撹拌する。反応の完了後(TLC)、反応混合物を、100mlの20%w/vの酒石酸ナトリウムカリウム水溶液に注ぎ、数分撹拌する。次に、25mlの水酸化ナトリウムの50%w/v水溶液を添加し、混合物を濾過する。有機相を収集する。水性相を50mlのDCMで抽出する。有機相を分離し、先の有機相と合わせ、溶媒を除去する。残留物に50mlのt-ブチルメチルエーテル、続いて80mlの1.0NのHClを添加する。水性相を収集し、9.0mlの水酸化ナトリウムの50%w/v水溶液を添加し、水性相を50mlのジクロロメタンで2回抽出する。合わせた有機相を硫酸ナトリウムで脱水し、濾過し、溶媒を除去して、7.9gのクルード生成物を得る。HPLC:2つのジアステレオマー(IIaおよびIIb)について98.1%。
【0044】
実施例7
磁気棒を備えた25mlのRBフラスコに、1.0gの実施例6のクルード生成物、続いて5.0mlのブタノンを常温で充填する。0.59mLのクロロトリメチルシラン、続いて84μLのDM水を添加する。混合物をさらに1~2時間撹拌し、ブフナー漏斗で濾過する。ウェットケーキを1.0mlのブタノンで2回洗浄し、乾燥して、378mgの(2R,3R)-3-(3-メトキシフェニル)-N,N,2-トリメチルペンタン-1-アミン塩酸塩を得る。HPLC:74.8% IIa、23.7% 式IIbの化合物。
【0045】
実施例8
磁気棒を備えた25mlのRBフラスコに、1.07gの実施例6のクルード生成物、続いて8.0mlのブタノンを常温で充填する。40μLのDM水を添加し、続いて280μLのクロロトリメチルシランを滴下添加する。混合物をさらに2時間撹拌し、ブフナー漏斗で濾過する。ウェットケーキを2.0mlのブタノンで洗浄し、乾燥して、290mgの(2R,3R)-3-(3-メトキシフェニル)-N,N,2-トリメチルペンタン-1-アミン塩酸塩を得る。HPLC:87.0% IIa、10.6% IIb。
【0046】
実施例9
磁気棒を備えた25mlのRBフラスコに、550mgの実施例6のクルード生成物、続いて2.2mlのアセトンを常温で充填する。21μLのDM水を添加し、続いて148μLのクロロトリメチルシランを滴下添加する。混合物をさらに24時間撹拌する。2.2mlのt-ブチルメチルエーテルを添加し、懸濁液を形成する。混合物を2時間撹拌し、ブフナー漏斗で濾過する。ウェットケーキを2.0mlのt-ブチルメチルエーテルで洗浄し、乾燥して、190mgの(2R,3R)-3-(3-メトキシフェニル)-N,N,2-トリメチルペンタン-1-アミン塩酸塩を得る。HPLC:91.2% 式IIaの化合物、7.7% 式IIbの化合物。
【0047】
実施例10
温度計および撹拌棒を備えた50mlのRBフラスコに、1.0gの実施例6のクルード生成物、続いて1.5mlの10%メタノール水溶液を充填する。得られた溶液に、1.8gのジ-p-トウオリル(touolyl)-酒石酸-Lを添加する。混合物を還流するまで30分加熱する。次に、5~10℃まで徐々に冷却し、さらに1.5時間撹拌する。混合物を減圧下で濾過し、ケーキを2.0mlの10%メタノール水溶液で洗浄し、ジアステレオマー純度が、式IIaの化合物は75.8%、式IIbの化合物は22.0%の、1.78gの(2R,3R)-3-(3-メトキシフェニル)-N,N,2-トリメチルペンタン-1-アミン塩酸塩を白色固体として得る。