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特許7486483パワー半導体デバイスおよびそのようなデバイスを製造するためのシャドーマスクフリー方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】パワー半導体デバイスおよびそのようなデバイスを製造するためのシャドーマスクフリー方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20240510BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20240510BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20240510BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240510BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01L29/91 J
H01L21/322 L
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/91 B
H01L29/91 D
H01L29/91 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021527969
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2019078235
(87)【国際公開番号】W WO2020104117
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】18207327.0
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パパドプーロス,ハラランポス
(72)【発明者】
【氏名】ボクスティーン,ボニ・コフィ
(72)【発明者】
【氏名】アンデンナ,マキシ
(72)【発明者】
【氏名】コルバシェ,キアラ
(72)【発明者】
【氏名】クンケル,ゲアハルト
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02339613(EP,A1)
【文献】特開2008-098269(JP,A)
【文献】特開2011-100762(JP,A)
【文献】特開平08-227895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/861
H01L 29/06
H01L 21/329
H01L 21/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体デバイス(1)であって、
第1の主側面(22)および前記第1の主側面(22)と反対側の第2の主側面(21)を有し、横方向に延在するウエハ(2)を備え、前記ウエハ(2)は、活性領域(AR)、前記活性領域(AR)を横方向に取囲む終端領域(TR)、および前記第1の主側面(22)に隣接した前記終端領域(TR)内の複数のフローティングフィールドリング(81)を含み、前記第1の主側面(22)から前記第2の主側面(21)への順に、
第1の導電型の第1の半導体層(23)、および
前記第1の導電型と異なる第2の導電型であり、前記第1の半導体層(23)と直接接触して第1のpn接合を形成する第2の半導体層(24)を含み、前記パワー半導体デバイスはさらに、
前記第1の主側面(22)に設けられて、前記第1の半導体層(23)と第1の接触部を形成する第1の電極(71)と、
前記第2の主側面(21)に設けられて、第2の接触部を形成する第2の電極(72)と、
前記第1の主側面(22)に設けられ、前記終端領域(TR)を覆う保護層(6)とを備え、前記保護層(6)は、薄肉部(61)および前記薄肉部(61)を横方向に取囲む厚肉部(62)を含み、前記厚肉部(62)は、内側端部(621)および前記内側端部(621)を横方向に取囲む外側端部(622)を有し、前記厚肉部(62)は、前記薄肉部(61)の最大厚さ(d1)より大きな最小厚さ(d2)を有し、前記パワー半導体デバイスはさらに、
キャリア寿命を減少させる欠陥を含む寿命制御領域(5)を備え、前記寿命制御領域(5)は、前記活性領域(AR)にわたって、および、前記保護層(6)の前記薄肉部(61)によって覆われる部分にわたる前記終端領域(TR)において、横方向に延在し、前記保護層(6)の前記厚肉部(62)によって覆われる部分において、横方向に延在せず、
前記複数のフローティングフィールドリング(81)は、前記保護層(6)の前記厚肉部(62)の下方に形成され、前記複数のフローティングフィールドリング(81)の各々は、前記第1の導電型のリング状半導体領域であり、前記リング状半導体領域は、前記活性領域(AR)および前記第1の半導体層(23)を横方向に取囲み、前記第2の半導体層(24)との第2のpn接合を形成し、前記複数のフローティングフィールドリング(81)は、前記横方向に互いに間隔を置いて配置され、前記第2の半導体層(24)によって互いに分離され、
前記活性領域(AR)は、前記ウエハ(2)の前記第1の主側面(22)および前記第2の主側面(21)に垂直な方向に沿って、前記第1のおよび前記第2の接触部の間に位置する、パワー半導体デバイス。
【請求項2】
前記厚肉部(62)の前記最小厚さ(d2)は、前記薄肉部(61)の前記最大厚さ(d1)の少なくとも2倍である、請求項1に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項3】
前記厚肉部(62)の前記最小厚さ(d2)は、少なくとも10μm/α、または少なくとも12μm/α、または少なくとも15μm/αであり、前記薄肉部(61)の前記最大厚さ(d1)は、5μm/α未満、または1μm/α~5μm/αであり、αは1~3の係数である、請求項1に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項4】
前記保護層(6)の前記薄肉部(61)によって覆われる前記終端領域(TR)の部分における前記第1の主面(22)の下方の所定深さで、キャリア寿命を減少させる欠陥の密度は、前記所定深さで前記保護層(6)の前記厚肉部(2)によって覆われる前記終端領域(TR)の部分におけるそのような欠陥の密度の少なくとも1000倍、または少なくとも100万倍である、請求項1~3のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項5】
前記厚肉部(62)の前記内側端部(621)は、前記第1の半導体層(23)の周縁端部が前記第1の電極(71)の周縁部分から離れている距離と、前記第1の電極(71)の前記周縁端部から横方向に少なくとも同じ距離だけ離れている、請求項1~4のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項6】
前記厚肉部(62)の前記内側端部(621)は、前記活性領域(AR)に面する側と、前記ウエハ(2)と反対側との間にエッジを形成する、請求項1~5のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項7】
前記エッジは垂直である、請求項6に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項8】
前記寿命制御領域(5)内の半導体材料は、水素イオンまたはヘリウムイオンまたはヘリウムイオンと異なる不活性ガスイオンを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項9】
前記保護層(6)はポリマー材料を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項10】
前記保護層(6)は、誘電材料を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス(1)。
【請求項11】
前記保護層(6)は前記終端領域全体を覆う、請求項1~10のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイス。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のパワー半導体デバイスを製造するための方法であって、
第1の主側面(22)および前記第1の主側面(22)と反対側の第2の主側面(2)を有し、横方向に延在するウエハ(2)を設けるステップを備え、前記ウエハ(2)は、活性領域(AR)および前記活性領域(AR)を横方向に取囲む終端領域(TR)を含み、さらに、前記第1の主側面(22)から前記第2の主側面(21)への順に、
第1の導電型の第1の半導体層(23)、および
前記第1の導電型と異なる第2の導電型であり、前記第1の半導体層(23)と直接接触して第1のpn接合部を形成する第2の半導体層(24)を含み、前記方法はさらに、
前記第1の主側面(22)に第1の電極(71)を形成して、前記第1の半導体層(23)との第1の接触部を形成するステップと、
前記第2の主側面(21)に第2の電極(72)を形成して、第2の接触部を形成するステップと、
前記終端領域(TR)を覆い、かつ、薄肉部(61)および前記薄肉部(61)を横方向に取囲む厚肉部(62)を含むように、保護層(6)を前記第1の主側面(22)に形成するステップとを備え、前記厚肉部は、内側端部(621)および前記内側端部(621)を横方向に取囲む外側端部(622)を有し、前記厚肉部(62)は、前記薄肉部(61)の最大厚さ(d1)より大きな最小厚さ(d2)を有し、前記方法はさらに、
その後、前記保護層(6)を照射マスクとして用いて、前記ウエハ(2)をイオンで照射することによって、前記ウエハ(2)内に寿命制御領域(5)を形成して、キャリア寿命を減少させる欠陥を、前記活性領域(AR)において、および、前記保護層(6)の前記薄肉部(61)によって覆われる前記終端領域(TR)の部分において、所定の深さで形成し、前記所定の深さで前記保護層(6)の前記厚肉部(62)によって覆われる前記終端領域(TR)の部分には形成しないステップを備え、
前記活性領域(AR)は、前記ウエハ(2)の前記第1の主側面(22)および前記第2の主側面(21)に垂直な方向に沿って、前記第1のおよび前記第2の接触部間に位置する前記ウエハ(2)の部分である、方法。
【請求項13】
前記保護層(6)を形成するステップは、
前記終端領域(TR)の外側部分を覆う、第1の厚さを有する第1の保護層を形成するステップと、
前記終端領域(TR)の前記外側部分を覆い、前記第1の保護層と同じ材料で構成される、第2の厚さを有する第2の保護層を、前記第1の保護層に形成して、前記第1のおよび前記第2の保護層を含む前記保護層(6)を形成するステップとを含み、
前記第1の保護層と前記第2の保護層とのうちの一方は少なくとも、前記終端領域(TR)の前記外側部分に隣接する前記終端領域(TR)の内側部分を覆い、前記第1の保護層と前記第2の保護層とのうちの他方は、前記保護層の前記内側部分を覆わない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記保護層(6)を形成するステップは、
前記終端領域(TR)全体を覆う均一な保護層を形成するステップと、
前記均一な保護層にマスクを設けるステップとを含み、前記マスクは、前記均一な保護層の外側部分を、前記均一な保護層の内側部分と異なる光量で露光するように構成され、さらに、
前記マスクを介して前記均一な保護層を露光するステップと、
前記均一な保護層の前記内側部分の少なくとも一部を化学的に除去して、前記保護層(6)を形成するステップとを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記寿命制御領域(5)を形成するステップは、前記第1の電極(71)を形成するステップの後に行われる、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
技術背景
たとえば、パワーダイオードなどのパワー半導体デバイスは典型的に、ウエハの主面のうちの一方に隣接するp型導電性のアノード層と、アノード層と直接接触してpn接合を形成するn型導電性のベース層と、ウエハの他方の主面に隣接し、ベース層よりも高いドーピング濃度を有するn型導電性のカソード層とを含むウエハを備える。アノード層およびカソード層は典型的に、ドーパントのn型半導体基板への注入およびそれに続く拡散によって形成される。カソード層およびアノード層は、外側は、半導体デバイスに電気的に接触するために電極を形成する金属層で覆われている。カソード層およびカソード電極は通常、デバイスの物理的なエッジまで延在する。他方で、アノード層は、逆バイアスがかけられると電界をサポートできるように、エッジからいくらか距離をあけて終端されなければならない。これは通常、p型アノード層をデバイスの中央部分に制限することによって行われる。アノード電極とカソード電極との間の領域は通常、半導体デバイスの活性領域と定義されており、終端領域と通常定義される周縁領域によって、横方向に取囲まれる。
【0002】
電界制限接合終端領域は、終端領域、たとえば終端領域の周縁部分に形成されてもよい。接合終端領域は、ウエハのアノード側面に隣接する複数のフローティングフィールドリングを含んでもよい。フローティングフィールドリングの各々は、活性領域およびアノード層を横方向に取囲み、かつ、ベース層との第2のpn接合を形成する、p型のリング状半導体領域でもよい。フローティングフィールドリングは通常、横方向に互いに間隔をおいて配置され、n型ベース層によって互いに分離されている。フローティングフィールドリングは、ガードリングと呼ばれることもある。
【0003】
たとえばEP 1 909 332 A1に記載されている既知の効果によって、パワー半導体デバイスは、ブロッキング、スイッチングおよび導通状態で最適化された電気特性を得るために、活性領域において局所的な寿命制御を必要とする場合がある。したがって、寿命制御領域は、ウエハのアノード側面に近接して生成されてもよい。寿命制御領域は、局所的に少数キャリア寿命を減らすこともある再結合中心を形成する欠陥を含む。たとえば、そのような欠陥は、半導体デバイスの実現の前に熱拡散による不純物原子、通常、金または白金などの重原子をエピ層に導入することによって、または、高エネルギー電子または水素イオンもしくはヘリウムイオンなどのイオンでアノード側面を照射することによって生成されて、これらのイオンが特定の深さに注入され、そのため、電気的に活性な欠陥が形成されることがある。典型的に、これらの局所的な照射の欠陥は、リバースリカバリーピークとしても知られる、ターンオフ時に半導体デバイスで生成されるピーク電圧を減少させ、安全動作領域(SOA)を改善し得る。
【0004】
寿命制御領域を生成する場合、手順の理由によって、ウエハのアノード側面全体は典型的に、寿命制御領域形成イオンで照射される。しかしながら、終端領域の周縁部分内、たとえば接合終端領域内へと延在する寿命制御領域の一部が、半導体デバイスの電気特性に悪影響を及ぼすことがあると観察されている。
【0005】
終端領域の周縁部分へのそのようなイオン注入を抑制するために、この周縁部分は従来、シャドーマスクで覆われている。これによって、シャドーマスクを、アノード層を含む中央領域において寿命制御領域がイオン注入によって生成されるようにこの領域が覆われないよう維持しつつ、注入手順中に終端領域の周縁領域を再生可能に覆い、かつこれを保護するように、位置決めする必要がある。しかしながら、そのようなシャドーマスクの正確な位置決めは困難であり、数百マイクロメートル未満の比較的低い位置合わせ精度になる場合がある。製造中のシャドーマスクのずれによって、終端領域の周縁部分を正確に照射から保護することが妨げられ、半導体デバイスの安全動作領域(SOA)および/または阻止能力に悪影響を及ぼす場合がある。さらに、ずれたマスクの悪影響は、イオンビームがウエハの表面に対して角度を付けて、すなわち、従来の照射施設の場合と同様に、面法線に対して傾斜して照射されると、悪化する場合がある。
【0006】
これを改善するために、EP 2 339 613 A1では、アノード層と接合終端領域との間にスペーサ領域を設けて、ダイオードの活性領域を接合終端領域に対して隔離し、電気的に分離するアイデアが知られている。スペーサ領域の幅が十分大きいと、イオン注入中のシャドーマスクの正確な位置合わせはより問題ではなくなり、終端領域の周縁部分への寿命制御領域生成イオンの注入を防止可能である。しかしながら、そのようなスペーサ領域を有することによって、終端領域のサイズが大きくなって、チップごとの活性領域が狭くなる。さらに、特に金属シャドーマスクを用いる場合、注入前にシャドーマスクを位置決めする、または注入後にシャドーマスクを除去するときに、下にある表面を機械的に傷つけるリスクがあり、性能に悪影響を及ぼす。
【0007】
従来技術の文献であるUS 2012/0032305 A1で、半導体デバイス、および、遷移金属アクセプタ遷移によって形成されるp型アノード層を含む半導体デバイスの製造方法が知られており、製造プロセスは、破壊電圧特性を悪化させることなく簡略化されている。遷移金属アクセプタ遷移によってp型に反転され、アクセプタ遷移が点欠陥層によって進展する反転進行領域が、n型ドリフト層の上面に形成される。反転進行領域は、本発明の半導体デバイスのp型アノード層を構成する。遷移金属は、たとえば白金または金である。n型ドリフト層よりも高濃度のn型半導体基板が、n型ドリフト層の底面に隣接する。
【0008】
従来技術の文献であるUS 2014/0070369 A1で、高い電気特性を有する半導体デバイスを安定して製造する製造プロセスが知られており、このプロセスでは、白金がアクセプタとして作用する。プラズマ処理は、n型半導体基板に堆積されたn型ドリフト層に形成される酸化膜の表面を損傷させる。酸化膜は、先細りの端を有するようにパターニングされる。2回のプロトン照射が、n型ドリフト層の表面付近の点欠陥領域を形成するために、酸化膜をマスクとして用いて、n型ドリフト層に対して行われる。1重量%の白金を含むシリカペーストが、酸化膜で覆われていないn型ドリフト層表面の露光領域に塗布される。熱処理によって、n型ドリフト層の表面付近を、アクセプタである白金原子によってp型に反転させる。p型反転進行領域は、p型アノード領域を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
上記を考慮して、本発明の目的は、電気特性が改善されたパワー半導体デバイス、およびそのようなデバイスを製造するためのシャドーマスクフリー方法を提供することである。特に、本発明の目的は、同時にスイッチオフ特性を満たしつつ電気阻止能力が改善された、パワーダイオードなどのパワー半導体デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の目的は、請求項1に記載のパワー半導体デバイス、および請求項11に記載のそのようなパワー半導体デバイスを製造する方法によって達成される。
【0011】
本発明に係るパワー半導体デバイスは、第1の主側面および第1の主側面と反対側の第2の主側面を含むウエハを備える。第1の主側面および第2の主側面は、横方向に延在する。ウエハは、活性領域、活性領域を横方向に取囲む終端領域、および第1の主側面に隣接する終端領域内の複数のフローティングフィールドリングを含み、第1の主側面から第2の主側面への順に、第1の導電型、たとえばn型またはp型導電性の第1の半導体層、および、第1の導電型と異なる第2の導電型の第2の半導体層を含む。第2の半導体層は、第1の半導体層と直接接触して、第1のpn接合を形成する。フローティングフィールドリングの各々は、第1の導電型のリング状半導体領域であり、リング状半導体領域は、活性領域および第1の半導体層を横方向に取囲み、第2の半導体層との第2のpn接合を形成し、複数のフローティングフィールドリングは、横方向に互いに間隔を置いて配置され、第2の半導体層によって互いに分離される。第1の主側面上の第1の電極は、第1の半導体層との第1の接触部を形成し、第2の主側面上の第2の電極は、第2の接触部を形成する。さらに、保護層が第1の主側面に配置され、保護層は終端領域を覆う。終端領域を覆う保護層は、薄肉部と、薄肉部を横方向に取囲む厚肉部とを含む。厚肉部は、内側端部と、内側端部を横方向に取囲む外側端部とを有する。厚肉部は、薄肉部の最大厚さよりも大きな最小厚さを有する。複数のフローティングフィールドリングは、保護層の厚肉部の下方に形成される。パワー半導体デバイスはさらに、キャリア寿命を減少させる欠陥を含む寿命制御領域を備える。寿命制御領域は、活性領域にわたって、および、保護層の薄肉部によって覆われる終端領域の部分にわたって、横方向に延在する。寿命制御領域は、保護層の厚肉部によって覆われる終端領域の部分では延在しない。
【0012】
本発明に係るパワー半導体デバイスを製造するための方法は、第1の主側面および第1の主側面と反対側の第2の主側面を有し、かつ、横方向に延在するウエハを設けるステップを備える。ウエハは、活性領域および活性領域を横方向に取囲む終端領域を含み、第1の主側面から第2の主側面への順に、第1の導電型の第1の半導体層、および第1の導電型と異なる第2の導電型の第2の半導体層を含む。第2の半導体層は、第1の半導体層と直接接触して、第1のpn接合を形成する。方法はさらに、第1の主側面に第1の電極を形成して、第1の半導体層との第1の接触部を形成するステップと、第2の主側面に第2の電極を形成して、第2の接触部を形成するステップとを備える。方法はさらに、終端領域を覆い、かつ、終端領域において薄肉部および薄肉部を横方向に取囲む厚肉部を含むように、保護層を第1の主側面に形成するステップを備える。厚肉部は、内側端部および内側端部を横方向に取囲む外側端部を有する。厚肉部は、薄肉部の最大厚さより大きな最小厚さを有する。保護層を形成するステップの後で、方法は、保護層を照射マスクとして用いてウエハにイオンを照射することによって、ウエハに寿命制御領域を形成して、キャリア寿命を減少させる欠陥を、活性領域および薄肉部によって覆われる終端領域の部分に所定深さで形成し、所定深さで保護層の厚肉部によって覆われる終端領域の部分に形成しないステップを備える。
【0013】
本発明のある態様によると、寿命制御領域を形成するステップにおいて保護層が照射マスクとして用いられ、マスクは、ウエハのある領域におけるイオンの注入を可能にする一方で、ウエハの他の領域へのイオンの注入を抑制する。特に、保護層は、保護層の厚肉部が形成されている終端領域の外側周縁部分へのイオンの注入を抑制し、保護層の薄肉部が形成されている終端領域の部分へのより多くのイオンの注入を可能にする。さらに、シャドーマスクの位置合わせよりもウエハに対してより正確に保護層を位置合わせできるため、より高い注入精度を実現して、寿命制御領域の位置のより正確な制御が可能になる。これによって、たとえば、活性領域全体にわたって、および、第1の半導体層を含む終端領域の第1の部分内に横方向に延在し得るが、イオンの注入が望ましくない終端領域の周縁部分内に延在しない寿命制御領域の生成が可能になる。したがって、スペーサ領域を不要とすること、またはそのサイズを大幅に小さくすることが可能であり、そのため、より小さな終端領域を有するデバイスになる。概して、最適な電気特性を有するデバイスを実現可能である。
【0014】
本発明の他の態様によると、保護層は、水分、機械的損傷および/または汚染からウエハを保護する。たとえば、保護層を初期の製造ステップで、たとえばイオン注入ステップの前に形成することによって、および、(シャドーマスクを用いる場合に従来技術で行われるものとは対照的に)保護層を注入ステップの後で除去しないことによって、ウエハの汚染および/または損傷リスクが減少する。さらに、保護層は、汚染粒子と電界との間の干渉を予防できるように、汚染粒子を電界から遠ざける。
【0015】
概して、請求項1に記載の半導体デバイスは、終端領域(全体)を覆う保護層が、寿命制御領域を生成するためのイオン注入用の照射マスクとして、および終端領域用の保護層として同時に機能し得るという利点をもたらす。そのため、独創的な保護層によって、(シャドーマスクが用いられないため)寿命制御領域の複雑性および費用が低減され、さらに製造がより正確になり、より正確な寿命制御領域によって、電気特性が改善される。
【0016】
発明のさらに他の展開が、従属請求項で特定される。
例示的な実施形態では、厚肉部の最小厚さは、薄肉部の最大厚さの少なくとも2倍である。
【0017】
例示的な実施形態では、厚肉部の最小厚さは、少なくとも10μm/α、または少なくとも12μm/α、または少なくとも15μm/αであり、薄肉部の最大厚さは、5μm未満/α、または1μm/α~5μm/αである。αは1~3の係数である。αは、保護層の材料およびそのスクリーニング特性によって決まる。たとえば、ポリマー、たとえばポリイミドまたはポリベンゾオキサゾール(PBO)の場合、αは1でもよく、酸化物の場合、αは1.6でもよく、窒化物の場合、αは2.4でもよい。
【0018】
例示的な実施形態では、保護層の薄肉部によって覆われる終端領域の部分における第1の主面の下方の所定深さで、キャリア寿命を減少させる欠陥の密度は、所定深さで保護層の厚肉部によって覆われる終端領域の部分におけるそのような欠陥の密度の少なくとも1000倍、または少なくとも100万倍である。たとえば、保護層の厚肉部下方の終端領域における所定深さのそのような欠陥の密度は、実質的にゼロでもよい一方で、保護層の薄肉部下方の終端領域における所定深さではかなりの量(すなわち、少なくとも100万倍高い密度)のそのような欠陥が存在する。これらの場合のすべてにおいて、寿命制御領域は、保護層の厚肉部によって覆われる終端領域の部分において延在しない。
【0019】
例示的な実施形態では、注入された欠陥は、第1の半導体層と第2の半導体層との間に形成される第1のpn接合に隣接して位置する。これによって、半導体デバイスのオン状態における電圧降下と、スイッチングの間の逆回復エネルギー損失との間のトレードオフが改善され得る。
【0020】
例示的な実施形態では、厚肉部の内側端部は、第1の半導体層の周縁端部が第1の電極の周縁端部から離れている距離と、第1の電極の周縁端部から横方向に少なくとも同じ距離を有する。これによって、半導体デバイスの性能が改善され得る。
【0021】
例示的な実施形態では、厚肉部の内側端部は、活性領域ARに面する側と、ウエハと反対側との間にエッジを形成する。エッジはたとえば、丸みを帯びたエッジまたは実質的に直線のエッジでもよい。エッジはたとえば、丸みを帯びた角または鋭い角を有してもよい。エッジはたとえば、第1の主面の面法線に対して傾斜してもよい、または、実質的に垂直のエッジ、すなわち、第1の主面の面法線に実質的に平行なエッジでもよい。実質的に垂直なエッジは、正確な位置で横方向に終端する寿命制御領域を形成する能力を提供することによって、特に有益になり得る。
【0022】
例示的な実施形態では、寿命制御領域および/または隣接する半導体材料は、水素イオンまたはヘリウムイオンまたは他の不活性ガスイオンを含む。たとえば、水素イオン、ヘリウムイオンまたは他の不活性ガスイオンは、寿命低減欠陥を形成し得る。寿命低減欠陥は、ウエハをヘリウムイオンまたは水素イオンまたは他の不活性ガスイオンまたは高エネルギー電子で照射することによって、生成可能である。ヘリウムイオンまたは水素イオンまたは他の不活性ガスイオンを用いることによって、イオンがストップする深さで再結合の中心がほとんど生成されるため、ウエハの限定された厚さにおいてのみ寿命を低減する能力を提供することができ、照射されたイオンのエネルギーを変更することによって、寿命が減少する位置を修正し得る。最も寿命が低い地点は、材料内でイオンがストップする場所である。
【0023】
例示的な実施形態では、第1の半導体層の周縁部分は、接合終端拡張(JTE)を形成する。JTEは、低ドープp型半導体材料を含む、複数の部分的に重なるJTEリングを含み得る。JTEは、JTEの幅に沿って電位を分布させることによって、主接合部の外側エッジ上の電界を減少させるのに役立ち得る。
【0024】
例示的な実施形態では、保護層は、保護層を形成するための材料に自然に存在するヘリウム不純物の濃度より高濃度のヘリウムを含む。特に、保護層の薄肉部は、ウエハの第1の主面から同じ距離で保護層の厚肉部より低いヘリウム濃度を含み得る。たとえば、ウエハの第1の主面から同じ距離で、保護層の厚肉部内のヘリウム原子の濃度は、保護層の薄肉部内のヘリウム原子の濃度より少なくとも10倍、または例示的に少なくとも1000倍高くてもよい。
【0025】
例示的な実施形態では、保護層は、ポリマー材料、たとえばポリイミドまたはポリベンゾオキサゾール(PBO)を含む。そのような実施形態では、薄肉部の最大厚さはたとえば、1μm~5μmの範囲でもよく、厚肉部の最小厚さはたとえば、少なくとも10μm、たとえば少なくとも12μmまたは少なくとも15μmでもよい。
【0026】
他の例示的な実施形態では、保護層はパッシベーション層であり、酸化物または窒化物などの誘電材料を含む。そのような実施形態では、薄肉部の最大厚さはたとえば、3μmより小さくてもよく、厚肉部の最小厚さはたとえば、少なくとも5μmでもよい。
【0027】
例示的な実施形態によると、保護層は終端領域全体を覆う。
例示的な実施形態では、保護層を形成するステップは、終端領域の外側部分を覆う、第1の厚さを有する第1の保護層を形成するステップと、終端領域の外側部分も覆う第1の保護層に第2の厚さを有する第2の保護層を形成するステップとを含む。これによって、第1の保護層と第2の保護層とのうちの一方が外側部分に隣接する終端領域の少なくとも内側部分を覆い、かつ、第1の保護層と第2の保護層とのうちの他方が内側部分を覆わないように、形成される。保護層は、第1の保護層と第2の保護層とによって形成される。たとえば、第1の保護層は、終端領域の内側部分と外側部分との両方を覆う薄い層でもよく、すなわち、終端領域全体を覆ってもよく、第2の保護層は、終端領域の外側部分を覆うが終端領域の内側部分を覆わない第1の層の外側部分のみに形成される厚い層でもよい。第1の保護層の厚さ(第1の厚さ)は、保護層の薄肉部の厚さと第1の保護層の組合わせ厚さ(第1の厚さおよび第2の厚さ)とに対応してもよく、第2の保護層は、保護層の厚肉部の厚さに対応してもよい。このアプローチによって、鋭い角を有する実質的に直線のエッジを有する厚肉部の内側端部が生じ得る。代替的に、第1の保護層は、終端領域の外側部分のみを覆う厚い層でもよく、第2の保護層は、第1の保護層と終端領域TRの内側部分との両方を覆う薄い層でもよい。このアプローチによって、より丸みを帯びた角を有するエッジを有する厚肉部の内側端部が生じ得る。
【0028】
異なる例示的な実施形態では、保護層を形成するステップは、終端領域全体を覆う均一な保護層を形成するステップと、保護層にマスクを設けるステップと、マスクを介して保護層を露光するステップとを含み、マスクは、均一な保護層の外側部分を均一な保護層の内側部分と異なる光量で露光するように構成され、さらに、均一な保護層の内側部分の少なくとも一部を化学的に除去して、第1のおよび第2の保護層を含む保護層を形成するステップを含む。
【0029】
例示的な実施形態では、寿命制御領域を形成するステップは、第1の電極を形成するステップの後に行われる。
【0030】
本出願を通じて、「実質的に」という表現は、構造的または技術的な特徴に適用され、これは、この特徴がそれを製造するために用いられる方法の技術的な許容範囲内であることを意味する。さらに、「横」方向は、第1の主面の面法線に垂直な方向である。横方向では、領域の「外側部分」は、領域の「内側部分」が領域の周縁端部に近接するよりも、領域の周縁端部に近接する。層の厚さは、層の上面と下面との間の距離のことをいう。終端領域の「周縁部分」は、ウエハの中央部分がウエハの周縁端部に近接するよりも、ウエハの周縁端部に横方向に近接する終端領域の部分である。「周縁部分」は、外側部分である。
【0031】
本発明の実施形態が、添付の図面を参照して、以下の本文でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明のいくつかの態様を示すパワーダイオードの断面図である。
図2】本発明のある実施形態に係るパワーダイオードの部分断面図である。
図3】本発明のある実施形態に係るパワーダイオードの部分断面図である。
図4A】本発明のある実施形態に係るパワーダイオードを形成するための方法ステップを示す図である。
図4B】本発明のある実施形態に係るパワーダイオードを形成するための方法ステップを示す図である。
図4C】本発明のある実施形態に係るパワーダイオードを形成するための方法ステップを示す図である。
図4D】本発明のある実施形態に係るパワーダイオードを形成するための方法ステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面で用いられる参照符号およびそれらの意味は、参照符号のリストに要約されている。一般に、明細書を通じて、類似の要素は同じ参照符号を有する。図面は模式的に示されているに過ぎず、一定の尺度ではない。見やすくするために、図面で繰り返される類似の要素は、一度だけ番号が振られる。説明される実施形態は、例であることが意図されており、本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
実施形態の詳細な説明
図1は、本発明の態様を示すパワー半導体デバイス1の断面を示す。半導体デバイス1は、パワーダイオードである。
【0035】
パワーダイオードは、シリコン(Si)で構成された半導体ウエハ2を備える。半導体ウエハ2は、第1の主側面22と、第1の主側面22と反対側の第2の主側面21とを有する。第1の主側面22および第2の主側面21は、横方向に延在する。第1の主側面22から第2の主側面21への順に、半導体ウエハ2は、pドープアノード層23、nドープドリフト層24、およびnドープドリフト層24よりも高いドーピング濃度を有する高ドープn基板層26を有する。pドープアノード層23はたとえば、高ドープpアノード層でもよい。pドープアノード層23は第1の半導体層23であり、nドープドリフト層24は第2の半導体層24であり、n基板層26は第3の半導体層26である。個々の層の適切なドーピング濃度およびそれらの厚さは、従来技術で知られている。半導体ウエハ2の第2の主側面21には、高ドープn基板層26とのオーミック接触を形成するカソード電極(第2の電極)72として、裏面メタライゼーション層72が形成される。上部メタライゼーション層71が、pドープアノード層23とオーミック接触を形成するアノード電極(第1の電極)71として、第1の主側面22に形成される。n基板層26およびカソード電極72は、半導体ウエハ2の周縁端部25まで延在する。pドープアノード層23は、半導体ウエハ2の周縁端部25からいくらか距離を設けて終端する。アノード電極71は、半導体ウエハ2の中央部分に配置される。アノード電極71は、pドープアノード層23の中央部分に配置される。アノード電極71の周縁端部は、pドープアノード層23の周縁端部からいくらか距離を設けて終端する。さらに、半導体ウエハ2は、アノード電極71とカソード電極72との間の活性領域ARと、活性領域ARを横方向に取囲む終端領域TRとを含む。pドープアノード層23の周縁端部は、終端領域TR内へと延在する。半導体ウエハ2の第1の主側面22には、保護層6が形成される。保護層6は例示的に、ポリマー材料、たとえばポリイミドおよび/またはポリベンゾオキサゾール(PBO)で構成される。保護層6は、半導体ウエハ2の終端領域TR全体を覆う。保護層6は、薄肉部61と、薄肉部61を横方向に取囲む厚肉部62とを含む。厚肉部62は、内側端部621と、内側端部621を横方向に取囲む外側端部622とを有する。厚肉部62は例示的に、15μmの最小厚さd2を有する。薄肉部61は例示的に、5μmの最大厚さd1を有する。薄肉部61の厚さd1および厚肉部62の厚さd2は、保護層6の材料および所望の注入深さに応じて変わり得る。薄肉部61の最大厚さd2はたとえば、1μm~5μでもよい。厚肉部の最小厚さd1はたとえば、少なくとも10μmでもよい。厚肉部の最大厚さd2は、たとえば30μmでもよい。厚肉部62の内側端部621は、活性領域ARに面する側とウエハ2の反対側との間にエッジを形成する。このエッジは、実質的に直線のエッジであり、鋭い角623を有する。厚肉部62のエッジ(内側端部621)は、第1の半導体層23の周縁端部が第1の電極71の周縁端部から離れているよりも、第1の電極71の周縁端部から横方向に離れている。しかしながら、エッジ(内側端部621)は、第1の半導体層23の周縁端部と実質的に並べられてもよい。
【0036】
半導体デバイス1はさらに、キャリア寿命を減少させる欠陥を含む寿命制御領域5を備える。寿命制御領域5は、活性領域ARにわたって、および保護層6の薄肉部61によって覆われる終端領域TRの部分において、横方向に延在する。寿命制御領域5は、保護層6の厚肉部62によって覆われる終端領域TRの部分内へと延在しない。この例では、寿命制御領域5は、第1のpn接合が形成される深さに略対応する深さに形成されるが、主側面22に実質的に近接して形成されてもよい。たとえば、寿命制御領域5が形成される深さは、1μm~15μmでもよい。しかしながら、より深い長さが除外されない。たとえば、バイポーラダイオードでは、寿命制御領域5は、1μm~200μmの深さに延在し得る。寿命制御領域5を形成する欠陥はたとえば、ヘリウムまたは水素または他の不活性ガス原子を含む。第1の主面22を超える所定深さ、たとえば8μmの深さでは、そのような欠陥形成イオンの数は、保護層6の厚肉部62によって覆われる終端領域TRの部分では実質的にゼロである一方で、同じ深さでは、保護層6の薄肉部61によって覆われる終端領域TRの部分においてかなりの量の欠陥形成イオンが存在する。そのため、所定深さでは、寿命制御領域5内の欠陥形成イオンの濃度は、所定深さで保護層6の厚肉部62の下方の終端領域TRの周縁部分における欠陥形成イオンの濃度の少なくとも1000倍、または例示的に少なくとも100万倍である。さらに、保護層6は、ヘリウム原子を含み得る。第1の主側面22から所定距離では、保護層6の厚肉部62におけるヘリウムの濃度は、所定距離における保護層6の薄肉部61内のヘリウム濃度の少なくとも10倍、または例示的に少なくとも1000倍である。
【0037】
図2は、本発明のある実施形態に係るパワーダイオード1の部分断面図である。図示されていないパワーダイオード1の部分は、図2に示す部分と鏡面対称でもよい。本実施形態と図1に示す実施形態とは類似点が多いため、相違点についてのみ説明する。他の特徴は図1を参照して上述したものと実質的に同じであり、上記の説明を参照する。図2に示す実施形態は、半導体ウエハ2の第1の主側面22に隣接する終端領域TRの周縁部分において、複数のフローティングフィールドリング(ガードリング)81を備える。終端領域TRの周縁部分におけるフローティングフィールドリング81の目的は、空乏領域を連続して低バイアスのフローティング接合部を通って延在させることによって、デバイス主接合部の外側エッジにおける電界密集の影響を軽減することである。フローティングフィールドリング81の各々は、p型導電性、たとえば高ドープp型導電性のリング状半導体領域である。複数のフローティングフィールドリング81は、活性領域ARおよびp型アノード層23を横方向に取囲んでいる。複数のフローティングフィールドリング81は、電界制限終端接合領域8を形成する。個々のフィールドリング81は、自己完結型領域である。上面図では、すなわち、第1の主面側に平行な平面への正射影では、これらの領域はリング(たとえば、環、正方形または他の適切なデザイン)として形成される。フローティングフィールドリング81は、ウエハ2の第1の主側面22と直接接触している。これは、フローティングフィールドリング81と第1ウエハ主側面2との間に形成される間隙も他の半導体層もないことを意味する。さらに、フローティングフィールドリング81は、隣接するフローティングフィールドリング81の各ペア間に距離を有して横方向に互いに間隔をおいて配置され、この距離は例示的に、横方向に5μm~200μmである。横方向のフローティングフィールドリング25の幅は、最大で100μmでもよい。フィールドリングの幅は、空間を節約するために可能な限り減少されてもよい。第1の主側面22から延在するフィールドリングの深さは、p型アノード層23の深さと同じでもよい。フローティングフィールドリング81のドーピング濃度は例示的に、1・1015cm-3以上でもよい。フローティングフィールドリング81は、それらの各々がn型ドリフト層24と直接接触して、pn接合(請求項における第2のpn接合)を形成するように、n型ドリフト層24に形成される。複数のフィールドリング81は、保護層6の厚肉部62の下方に配置される。保護層6の内側端部621は、丸みを帯びた角623と、実質的に垂直のエッジを形成する。p型アノード層23の周縁端部231は、保護層6の厚肉部620の内側端部621と横方向に並べられる。寿命制御領域5は、半導体ウエハ2に形成される。寿命制御領域5が、活性領域AR全域にわたって横方向に終端領域TR内へと延在し、厚肉部62の内側端部621まで、すなわち、終端領域TR内に内側端部621の凸部まで延在する。
【0038】
図3は、本発明の例示的な実施形態に係るパワーダイオード1の部分断面図である。本実施形態と図1および図2を参照して説明した実施形態とは類似点が多いため、相違点のみについて説明し、上記の説明を参照する。図3に示すパワーダイオード1は、さらに接合終端拡張(JTE)9を用いる。JTE9はp型導電性を有する。JTE9は、第1の主面22に隣接し、p型アノード層23と直接接触している。JTE9は、複数の部分的に重なるJTEリング91によって形成される。重なり度合いは、周方向に減少する。JTEリング91は、活性領域ARおよびp型アノード層23を横方向に取囲む低ドープpリング状半導体領域である。JTE9は、第1の半導体層23の周縁部分に形成される。JTE領域91は、1・1018cm-3以下、例示的に1・1015cm-3~8・1017cm-3の範囲のドーピング濃度を有する。さらに、例示的な実施形態のデバイスは、図2を参照して説明した第1の半導体層23を横方向に取囲む複数のフローティングフィールドリング81を備える。JTE9の周縁端部と複数のフィールドリング81との間に直接接触はない。JTE9は、保護層6の薄肉部61の下方の終端領域TRに形成される。複数のフィールドリング81は、保護層6の厚肉部62の下方の終端領域TRに形成される。保護層6の厚肉部62の内側端部621では、第1の主面22の面法線に対して傾斜するエッジが形成される。それゆえ、保護層6は、その厚さが連続して増加する中間部63を含む。保護層6の中間部63は、薄肉部61と厚肉部62との間の部分であり、保護層6の厚さd3は、薄肉部61の厚さd1より大きく、厚肉部62の厚さd2よりも小さい。寿命制御領域5が、半導体ウエハ2に形成される。寿命制御領域5は、活性領域ARにわたって終端領域TRへと横方向に延在する。寿命制御領域5は、JTE9を含む終端領域TRの部分まで横方向に延在するが、複数のフィールドリング81を含む終端領域TRの周縁部分内には延在しない、またはわずかな量しか延在しない。寿命制御領域5を形成するイオンが位置する深さは、薄肉部61の厚さに反比例する。すなわち、薄肉部61が厚いほど、イオンは半導体ウエハ2においてより浅く位置する。保護層6の薄肉部61の下方で、イオンは、第1のpn接合が形成される深さに略対応する深さで位置する。保護層6の中間部63の下方で、イオンは厚肉部62の下方よりも浅く位置し、厚肉部62の下方では、イオンは、中間領域63の下方よりも浅く位置する、または全く見られない。
【0039】
以下では、本発明に係るパワー半導体デバイスを製造するための方法の態様を、図4A図4Dを参照して説明する。ここでは、ウエハ2に含まれる上述の複数のフローティングフィールドリング81は、見やすくするために省略されている。方法は、以下を備える。
【0040】
a)半導体ウエハ2を設けるステップ(図4Aを参照)。
b)上述の実施形態のうちの1つに係る、アノード電極71を第1の主側面22に、およびカソード電極72を第2の主側面21に形成するステップ(図4Bを参照)。
【0041】
c)上述の実施形態のうちの1つに係る、終端領域TRを覆い、かつ、薄肉部61および厚肉部62を含む保護層6を、第1の主側面22に形成するステップ(図4Cを参照)。
【0042】
d)保護層6をイオンで照射することによって、半導体ウエハ2に寿命制御領域5を形成して、活性領域ARに、および終端領域TRの内側部分に、キャリア寿命を減少させる欠陥を形成するステップ。
【0043】
ステップa)およびb)を参照して、半導体ウエハ2およびアノード電極71およびカソード電極72について図1図3を参照して詳細に説明されるが、ここでは明瞭にするために繰り返さない。その代わりに、上述の説明を参照する。さらに、上述の実施形態に係る半導体ウエハ2および電極71、72を製造する態様が当業者に知られている。
【0044】
ステップc)を参照すると、保護層6はたとえば、フォトリソグラフィまたはスクリーン印刷によって形成可能である。均一な保護層が、余分な溶剤を落とすためにスピンコーティングおよびプリベーキングによって、第1の主側面22上に形成される。たとえば、均一な保護層は、感光性ポリマーを含む均一なポリマー層でもよい。その後、均一な保護層は、均一な保護層の外側部分、すなわち、厚肉部62に対応する部分を露光するように構成された構造フォトマスクを用いて強い光のパターンで、均一な保護層の内側部分、すなわち、薄肉部61に対応する部分と異なる光量で露光される。その後、均一な保護層がポジティブ感光性であるかネガティブ感光性であるかに応じて、露光部分(または未露光部分)が現像液を用いて化学的に除去される。その後、残っている保護層が焼成されて、耐久性のある保護層6が形成される。
【0045】
上述の実施形態に係る保護層6は、たとえば、半導体ウエハ2の第1の主側面22上に、終端領域TR全体を覆う、第1の厚さを有する均一な第1の層を形成し、その後、第2の層が厚肉部62が形成される終端領域TRの外側部分のみを覆うが、薄肉部61が形成される終端領域TRの内側部分を覆わないように、第1の層の外側部分上に第2の厚さを有する均一な第2の層を第1の均一な層と同じ材料で形成することによって、形成されてもよい。第1の厚さは薄肉部61の厚さ(d1)に対応してもよく、第2の厚さは、厚肉部62の厚さと薄肉部61の厚さとの差、すなわち、d2-d1に対応してもよい。
【0046】
代替的に、第1の厚さを有する均一な第1の層を、終端領域TRの外側部分を覆うように半導体ウエハ2の第1の主側面22に形成してもよく、その後、第2の厚さを有する第2の層を、終端領域TR全体が第2の均一な層によって覆われるように、第1の均一な層上の第1の層と第1の主側面22の残りの部分と同じ材料で形成してもよい。第1の層と第2の層との両方が重なる部分は、保護層6の厚肉部62に対応してもよい。第2の層のみが終端領域TRを覆う部分は、薄肉部61に対応してもよい。このアプローチを用いて、照射ステップ(ステップd))は、第1の層の形成と第2の層の形成との間で、または両方の層の形成後に、行われてもよい。二番目のアプローチは、半導体ウエハ2の水分の問題または汚染の防止について有益な場合がある。
【0047】
ステップd)を参照すると、寿命制御領域5は、イオン、たとえばヘリウムイオンまたは水素イオンによる保護層6の照射3による半導体ウエハ2への欠陥の注入によって、形成されてもよい。保護層6は厚い外側部分62と薄い内側部分61とを有するため、外側部分62を通過するイオンが半導体ウエハ2の第1の主側面22下方を貫通しない、またはきわめて浅く貫通する一方で、内側部分61を通過するイオンが半導体ウエハ2内にさらに深く貫通するように、イオンビーム3は外側部分62において強く減衰され、内側部分61において弱く減衰される。そのため、注入は、活性領域ARおよび薄肉部に対応する終端領域TRの内側部分に実質的に制限される。たとえば、水素イオンを注入するために、注入エネルギーは典型的に、0.5MeV~5MeVの範囲であり、注入ドーズは典型的に、1・1011cm-2~1・1014cm-2の範囲である。ヘリウムイオンの注入の場合、注入エネルギーは典型的に、1MeV~10MeVの範囲であり、注入ドーズは典型的に、1・1011cm-2~1・1013cm-3の範囲である。注入されるイオンの質量が増加するため、必要な照射ドーズは減少する。
【0048】
添付の請求項によって定義されるように、発明の範囲から逸脱することなく上述の実施形態の変更が可能であることは、当業者に明らかであろう。なお、本発明の態様および実施形態は、異なる主題に関して本明細書で説明される。特に、いくつかの特徴は半導体デバイスを製造するための方法に関して説明される一方で、他の特徴は、半導体デバイスそのものに関して説明される。しかしながら、当業者であれば上記から、特に明記されない限り、ある種類の主題に属する特徴の任意の組合せに加えて、異なる主題に関する特徴間の任意の組合せ、特に半導体デバイスの特徴とそのようなデバイスを製造するための方法の特徴との組合せに関する特徴が本出願で開示されていると考えられると推論するであろう。
【0049】
たとえば、上述の実施形態の各々において、保護層6の厚肉部62は、実質的に垂直のエッジもしくは傾斜エッジを形成する内側端部621を有してもよい、または、鋭い角もしくは丸みを帯びた角であるコーナー623を有してもよい。
【0050】
上述の実施形態では、フローティングフィールドリング81の数は常に3つと示されている。しかしながら、デバイスの公称(最大)電圧によって、2~50の間の任意の数のフローティングフィールドリング81を使用可能である。デバイスの公称電圧が高いほど、必要とされるフローティングフィールドリング81の数および必要とされるJTEリングの数が大きくなる。
【0051】
上述の実施形態では、個々のフィールドリング81の幅および2つの隣接するフィールドリング81間の距離は同じである。しかしながら、幅および距離も変わり得る。他の好ましい実施形態では、フローティングフィールドリング81の幅は、最も内側のフローティングフィールドリングから最も外側のフローティングフィールドリング81まで、段階的にまたは連続して増加する。
【0052】
上述の実施形態では、JTE9は、複数の部分的に重なるJTEリング91によって形成されると説明され、重なりは周方向に減少する。しかしながら、JTEはまた、1つのJTEリングでもよい、または、JTEリングの重なりは、周縁端部に向かう方向に減少していなくてもよい。
【0053】
上述の実施形態では、アノード層23、JTEリング91およびフローティングフィールドリング81は、1つのマスクのみを用いて同じ注入プロセスステップで製造されて製造を容易にするために、すべて同じドーピング濃度を有してもよく、すべて同じ深さを有してもよい。しかしながら、アノード層23、JTEリング91およびフローティングフィールドリング81はまた、異なるドーピング濃度を有してもよく、異なる深さに延在してもよい。
【0054】
上述の実施形態では、シリコンが半導体材料として用いられる。しかしながら、本発明の高パワー半導体デバイスを、他の半導体材料を用いて、たとえば、炭化ケイ素(SiC)、ガリウム窒化物(GaN)またはアルミニウムガリウム窒化物(AlGaInN)などのIII属窒化物、ダイヤモンドなどで実現することも可能である。
【0055】
上述の実施形態では、電界制限接合終端部は、複数のフローティングフィールドリング81を含む。しかしながら、電界制限接合終端部8はまた、可変横方向ドーピング(variation lateral doping:VAD)領域でもよい。さらに、接合終端拡張9も、可変横方向ドーピング(VAD)領域でもよい。
【0056】
上述の実施形態では、パワー半導体デバイス1はPiNダイオードである。しかしながら、本発明のパワー半導体デバイスは、ユニポーラダイオード、JBSダイオード、接合型電界効果トランジスタ(JFET)、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)、またはサイリスタなど、他の高パワー半導体デバイスでもよい。
【0057】
上述の実施形態では、アノード電極71の周縁端部が横方向に第1の半導体層23の周縁端部から離れていると説明されている。しかしながら、アノード電極71の周縁端部は、横方向に半導体層23の周縁端部と実質的に並んでいてもよい。
【0058】
実施形態および方法の上述の説明に添付された図面では、パッシベーション層は示されていない。しかしながら、パッシベーション層は、第1の主側面22と保護層6との間に配設されてもよい。パッシベーション層は、終端領域TRと活性領域ARの一部との両方を覆ってもよい。パッシベーション層はたとえば、非導電性シリコン酸化物またはシリコン窒化物層または高誘電率誘電体層でもよい、または、異なる誘電体の複数の層を含むパッシベーション層スタックでもよい。
【0059】
例示的な実施形態では、パッシベーション層は保護層6である。
実施形態の上記の説明に添付された図面では、保護層6は、アノード電極71を覆っていない。しかしながら、保護層6は、アノード電極71の一部を覆ってもよい。
【0060】
上述の実施形態では、寿命制御領域5を形成するイオンが、第1のpn接合が形成される深さに対応する深さで実現されると、例示的に説明されている。しかしながら、寿命制御領域5を形成するイオンも、他の深さで注入されてもよい。そこで、保護層6の厚さを調整しなければならない場合がある。さらに、例示的な実施形態では、保護層6の厚肉部62は、照射されたイオンが終端領域TRの周縁部分内に入るのを防ぐのに十分な厚さである。しかしながら、いくつかの実施形態では、少量のイオンが終端領域TRの周縁部分に入ることが許容されてもよい。
【0061】
上述の実施形態では、薄肉部61の厚さd1は、横方向に実質的に一定であり、厚肉部62の厚さd2は、横方向に実質的に一定である。その結果、終端領域TRの対応する部分内の欠陥密度は、ほぼ一定である。しかしながら、薄肉部61の厚さおよび/または厚肉部62の厚さも、可変横方向ドーピング(variation in lateral doping:VLD)領域が形成されるように、横方向に変わり得る。
【0062】
上述の実施形態は、特定の導電型を用いて説明されている。p型層として説明されたすべての層がn型層となり、n型層として説明されたすべての層がp型層となるように、上述の実施形態の半導体層の導電型を換えてもよい。
【0063】
請求項において、領域が第1の主側面に隣接すると言及される場合、この領域は、第1の主側面に直接接触してもよい、または、第1の主側面から離れて第1の主側面に近接してもよい。なお、「備える」という用語は、他の要素またはステップを除外せず、不定冠詞「ある」は複数を除外しない。異なる実施形態に関連して記載される要素を組合わせてもよい。
【0064】
参照符号のリスト
【符号の説明】
【0065】
1 パワー半導体デバイス
2 半導体ウエハ
21 第2の主側面
22 第1の主側面
23 第1の半導体層;p型アノード層
231 第1の半導体層の周縁端部
24 第2の半導体層;n型ドリフト層
25 ウエハの周縁端部
26 第3の半導体層;高ドープn型基板
3 イオン照射ビーム
5 寿命制御領域
6 保護層
61 保護層の薄肉部
62 保護層の厚肉部
63 保護層の中間部
621 厚肉部の内側端部
622 厚肉部の外側端部
623 厚肉部の角
71 第1の金属層;アノード電極
72 第2の金属層;カソード電極
8 電界制限接合終端部
81 フローティングフィールドリング
82 隣接するフローティングフィールドリングを分離する第2の層の部分
9 接合終端拡張(JTE)
91 JTEリング
d1 薄肉部の厚さ
d2 厚肉部の厚さ
d3 中間部の厚さ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D