(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】吸収体の製造方法及び吸収性物品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/15 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
A61F13/15 329
A61F13/15 370
A61F13/15 355A
(21)【出願番号】P 2021529178
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020025983
(87)【国際公開番号】W WO2021002420
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2019124824
(32)【優先日】2019-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591040708
【氏名又は名称】株式会社瑞光
(74)【代理人】
【識別番号】100114502
【氏名又は名称】山本 俊則
(72)【発明者】
【氏名】島田 崇博
(72)【発明者】
【氏名】古川 大介
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-149453(JP,A)
【文献】国際公開第2017/131014(WO,A1)
【文献】特開昭63-283777(JP,A)
【文献】特表2007-521869(JP,A)
【文献】特開2002-000650(JP,A)
【文献】特開2008-154605(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108330(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方主面側を起毛させた繊維シートを搬送装置に供給し、前記繊維シートの他方主面側を前記搬送装置の搬送面を介して吸引しながら搬送する第1の工程と、
前記繊維シートの起毛させた前記一方主面に、液体を吸収し保持することが可能な粉粒状の吸収性物質を散布し、散布した前記吸収性物質を、前記繊維シートの前記他方主面側が前記搬送面を介して吸引される吸引区間において、前記繊維シートの内部に侵入させる第2の工程と、
を備え、
前
記第2の工程において、前記吸収性物質が散布され前記吸引区間を搬送されている前記繊維シートの前記一方主面に
間隔を設けて対向し、前記繊維シートを通り抜けて前記搬送面よりも内側に向かう空気の流れを抑制
する複数の第1の対向領域と、前記空気の流れを抑制しない複数の第2の対向領域とが交互に形成されて、前記繊維シートの前記搬送面側とその反対側との間の気圧差を大きくする圧力差増大手段を設けたことを特徴とする、吸収体の製造方法。
【請求項2】
前記圧力差増大手段は、互いに対向する一方主面と他方主面とを有する板状又はベルト状の部材であり、
前記部材の前記一方主面は、前記吸収性物質が散布され前記吸引区間を搬送されている前記繊維シートの前記一方主面に対向することを特徴とする、請求項1に記載の吸収体の製造方法。
【請求項3】
前記部材は、
前記部材の前記一方主面に開口が形成され、
前記開口に連通する通気路が形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の吸収体の製造方法。
【請求項4】
前記通気路は、前記部材の前記一方主面と前記他方主面との間を貫通する貫通穴であり、
前記部材は、複数の前記貫通穴が形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の吸収体の製造方法。
【請求項5】
カバーシートの一方主面に接着剤を塗布する第3の工程と、
前記接着剤が塗布された前記カバーシートの前記一方主面を、前記繊維シートの前記吸収性物質が散布された前記一方主面に重ねて、前記カバーシートを前記繊維シートに積層する第4の工程と、
をさらに備えたことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の吸収体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の吸収体の製造方法で製造された吸収体を含み、
前記繊維シートの前記一方主面が肌面側に配置され、前記繊維シートの前記他方主面が非肌面側に配置されたことを特徴とする、吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収体の製造方法及び吸収性物品に関し、詳しくは、繊維シートの内部に吸収性物質が配置された吸収体を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、使い捨てパンツ、生理用ナプキン、失禁パッド等の吸収性物品に用いる吸収体は、液体を吸収し保持することが可能な粉粒状の吸収性物質を含んでいる。
【0003】
このような吸収体は、例えば
図7に示す吸収体の製造装置101を用いて製造する。
図7に示すように、搬送されている繊維シート201の一方主面側を、起毛装置130で起毛させる。次いで、繊維シート201の他方主面を平面状の搬送面で支持しながら、繊維シート201の起毛させた一方主面に、散布装置140を用いて粉粒状の吸収性物質を散布するとともに、吸引装置150を用いて、繊維シート201の他方主面を搬送面を介して吸引し、散布した吸収性物質を繊維シート201に保持する。次いで、繊維シート201の一方主面に、繊維シート201より幅が広いカバーシート202を積層する。次いで、折り装置160を用いて、カバーシート202の繊維シート201からはみ出ている部分を折り曲げて、繊維シート201の他方主面に重ねる。次いで、繊維シート201及びカバーシート202を、圧接装置170を用いて積層方向に圧縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように製造された連続体の吸収体は個片に切断され、吸収性物品の適宜位置に配置される。しかしながら、散布された吸収性物質が繊維シート201の表面付近に留まったままでは、液戻り(リウエット)を生じやすい。吸収性物質が繊維シートの内部に侵入すると、液戻りしにくい。
【0006】
かかる実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、粉粒状の吸収性物質を、繊維シートの起毛させた一方主面から繊維シートの内部により多く侵入させて、液戻りしにくい吸収体を製造することができる吸収体の製造方法、及び当該吸収体を含む吸収性物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した吸収体の製造方法を提供する。
【0008】
吸収体の製造方法は、(i)一方主面側を起毛させた繊維シートを搬送装置に供給し、前記繊維シートの他方主面側を前記搬送装置の搬送面を介して吸引しながら搬送する第1の工程と、(ii)前記繊維シートの起毛させた前記一方主面に、液体を吸収し保持することが可能な粉粒状の吸収性物質を散布し、散布した前記吸収性物質を、前記繊維シートの前記他方主面側が前記搬送面を介して吸引される吸引区間において、前記繊維シートの内部に侵入させる第2の工程と、を備える。前記第2の工程において、前記吸収性物質が散布され前記吸引区間を搬送されている前記繊維シートの前記一方主面に間隔を設けて対向し、前記繊維シートを通り抜けて前記搬送面よりも内側に向かう空気の流れを抑制する複数の第1の対向領域と、前記空気の流れを抑制しない複数の第2の対向領域とが交互に形成されて、前記繊維シートの前記搬送面側とその反対側との間の気圧差を大きくする圧力差増大手段を設ける。
【0009】
上記方法によれば、圧力差増大手段を設けない場合に比べ、繊維シートの搬送面側とその反対側との間の気圧差を大きくして、繊維シートの一方主面に散布された吸収性物質が繊維シートの他方主面側に吸引される力を強くすることができる。これにより、粉粒状の吸収性物質を、繊維シートの起毛させた一方主面から繊維シートの内部により多く侵入させて、液戻りしにくい吸収体を製造することができる。
【0010】
なお、繊維シートの他方主面側に通気性を有するシートを積層してもよい。例えば、繊維シートの他方主面側に通気性を有するシートが積層されるように、繊維シート及び通気性を有するシートを搬送装置に供給してもよいし、予め他方主面側に通気性を有するシートが積層された繊維シートを、搬送装置に供給してもよい。
【0011】
好ましくは、前記圧力差増大手段は、互いに対向する一方主面と他方主面とを有する板状又はベルト状の部材である。前記部材の前記一方主面は、前記吸収性物質が散布され前記吸引区間を搬送されている前記繊維シートの前記一方主面に対向する。
【0012】
この場合、繊維シートを通り抜けて搬送面よりも内側に向かう空気の流れを、簡単な構成で抑制できる。
【0013】
なお、板状又はベルト状の部材は、繊維シートの一方主面に接しても、繊維シートの一方主面から離れても構わない。板状又はベルト状の部材が繊維シートの一方主面に接する場合、板状又はベルト状の部材は、繊維シートの一方主面に接しながら繊維シートとともに移動することが好ましい。
【0014】
好ましくは、前記部材は、前記部材の前記一方主面に開口が形成され、前記開口に連通する通気路が形成されている。
【0015】
この場合、通気路によって、繊維シートを通り抜けて搬送面よりも内側に向かう空気の流れの状態を調整できる。
【0016】
好ましくは、前記通気路は、前記部材の前記一方主面と前記他方主面との間を貫通する貫通穴である。前記部材は、複数の前記貫通穴が形成されている。
【0017】
この場合、簡単な構成で、繊維シートを通り抜けて搬送面よりも内側に向かう空気の流れを抑制できる。
【0018】
好ましくは、吸収体の製造方法は、(iii)カバーシートの一方主面に接着剤を塗布する第3の工程と、(iv)前記接着剤が塗布された前記カバーシートの前記一方主面を、前記繊維シートの前記吸収性物質が散布された前記一方主面に重ねて、前記カバーシートを前記繊維シートに積層する第4の工程と、をさらに備える。
【0019】
この場合、吸収性物質を散布する繊維シートには、接着剤が、直接、塗布されないため、繊維シートの内部に吸収性物質をより多く侵入させることができる。すなわち、繊維シートの一方主面に接着剤を塗布し、その上に吸収性物質を散布すると、吸収性物質が接着剤に接着されることにより、繊維シートの内部に侵入する吸収性物質が減ってしまう。これに比べ、繊維シートに接着剤が直接、塗布されない場合には、繊維シートの内部に、より多くの吸収性物質を侵入させることができる。
【0020】
また、本発明は、以下のように構成された吸収性物品を提供する。
【0021】
吸収性物品は、上記のいずれかの吸収体の製造方法で製造された吸収体を含み、前記繊維シートの前記一方主面が肌面側に配置され、前記繊維シートの前記他方主面が非肌面側に配置される。
【0022】
上記のいずれかの吸収体の製造方法で製造された吸収体は、繊維シートの内部に吸収性物質をより多く侵入させることによって、繊維シートの一方主面側に配置される吸収性物質を少なくすることができる。肌面側に配置される吸収性物質が多いとザラつき感が生じるが、肌面側に配置される吸収性物質を少なくすることができるので、ザラつき感を抑制できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、粉粒状の吸収性物質を、繊維シートの起毛させた一方主面から繊維シートの内部により多く侵入させて、液戻りしにくい吸収体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は吸収体の製造装置の略図である。(実施例1)
【
図2】
図2は吸収体の製造装置の要部拡大図である。(実施例1)
【
図4】
図4は吸収体の製造装置の略図である。(変形例1)
【
図5】
図5は吸収体の製造装置の略図である。(実施例2)
【
図7】
図7は吸収体の製造装置の略図である。(従来例1)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
<実施例1> 実施例1の吸収体の製造方法について、
図1~
図3を参照しながら説明する。
図1は、実施例1で用いる吸収体の製造装置10の略図である。
図2は、吸収体の製造装置10の要部拡大図である。
図3は、搬送方向に垂直に切断した吸収体50の略図である。
図3(a)は組立図、
図3(b)は分解図である。
【0027】
図1に示すように、吸収体の製造装置10は、第1の搬送装置16に供給された通気性を有する連続体のベースシート60及び繊維シート52と、第2の搬送装置18に供給された連続体のカバーシート62とを重ね合わせた後、圧接装置19で厚み方向に圧縮するととともに、カバーシート62を重ね合わせる前に、予め起毛装置12で起毛させた繊維シート52の一方主面52sに、液体を吸収し保持することが可能な粉粒状の吸収性物質2を、散布装置14から散布することにより、吸収体50を連続的に製造する。吸収性物質2は、例えば、SAP(Super Absorbent Polymer、高吸水性樹脂)である。
【0028】
第1の搬送装置16は、網目状等の通気性を有する円筒状の搬送面16sが矢印16rで示す方向に回転し、搬送面16sにベースシート60が巻き掛けられる。第1の搬送装置16は、内部に負圧となる空間(バキュームチャンバ)が設けられ、ベースシート60が巻き掛けられてから所定距離移動した第1位置16iから、ベースシート60が搬送面16sから離れる第2位置16jまでの間の区間16k(以下、吸引区間16kという。)において、搬送面16sを介して搬送面16sよりも内側に空気を吸引するように構成されている。
【0029】
ベースシート60は、矢印60pで示す方向に搬送され、第1の塗布装置40によって、一方主面60sにホットメルト等の第1の接着剤80(
図3参照)が、通気性を保つように塗布される。次いで、ベースシート60は、案内ロール13aを通過した後、第1の搬送装置16に、他方主面60tが第1の搬送装置16の搬送面16sに接するように供給され(
図2参照)、第1の搬送装置16の搬送面16sに巻き掛けられる。ベースシート60は、吸引区間16kにおいて搬送面16sを介して吸引され、搬送面16sとともに移動する。ベースシート60は、例えば、薄葉紙(ティッシュ)のシートである。
【0030】
繊維シート52は、矢印52pで示す方向に搬送され、案内ロール13b~13dによって起毛装置12に巻き掛けられ、一方主面52s側が起毛装置12によって起毛させられる。次いで、繊維シート52は、他方主面52tが、第1の搬送装置16の搬送面16sに巻き掛けられたベースシート60の一方主面60sに重なるように第1の搬送装置16に供給され(
図2参照)、ベースシート60に繊維シート52が積層された第1の積層体50pが形成され、繊維シート52はベースシート60とともに移動する。繊維シート52は、例えば、エアスルー加工された不織布である。起毛装置12は、例えば、複数の刃先が繊維シート52の一方主面52sを引っ掻いて一方主面52s側を起毛させて嵩高にするティラーである。予め一方主面52s側を起毛させた繊維シート52を用いる場合には、起毛装置12は不要である。
【0031】
散布装置14は、第1の積層体50pの繊維シート52の起毛させた一方主面52sに吸収性物質2を散布する。吸収性物質2は、吸引が始まる第1位置16iより搬送方向上流側の散布領域70(
図2参照)に散布される。散布装置14は、例えば、貯留装置14aに貯留された複数種類の吸収性物質を混合装置14bで混合し、混合した吸収性物質2を、開閉装置14cの不図示の散布口から排出することにより、吸収性物質2を繊維シート52の一方主面52sに散布する。開閉装置14cは、散布口を開閉することにより間欠的に、すなわち、繊維シート52の搬送方向に間隔を設けて連続するように、吸収性物質2を散布する。
【0032】
吸収性物質2が散布され吸引区間16kを搬送されている第1の積層体50pの繊維シート52の一方主面52sに、間隔を設けて対向するように、板状の部材17(以下、板状部材17という。)が配置されている。板状部材17の一方端17aは、散布装置14の不図示の散布口に隣接し、板状部材17の他方端17bは、第2の搬送装置18に隣接している。
【0033】
第2の搬送装置18は、網目状等の通気性を有する無端ベルト18sが矢印18pで示す方向に循環し、無端ベルト18sよりも内側にバキュームボックス18kが配置されている。
【0034】
カバーシート62は、矢印62pで示す方向に搬送され、第2の塗布装置42によって、一方主面62sに、ホットメルト等の第2の接着剤82(
図3参照)が塗布され、次いで、他方主面62tが第2の搬送装置18の無端ベルト18sに接するように、第2の搬送装置18に供給され、無端ベルト18sを介して吸引されながら無端ベルト18sとともに移動する。カバーシート62は、例えば、薄葉紙(ティッシュ)のシートである。
【0035】
第1の搬送装置16と第2の搬送装置18とは接近して配置されており、第1の搬送装置16で搬送されている第1の積層体50pの繊維シート52の一方主面52sが、第2の搬送装置18で搬送されているカバーシート62の、第2の接着剤82(
図3参照)が塗布された一方主面62sに重ねられ、第1の積層体50pにカバーシート62が積層された第2の積層体50qが形成される。
【0036】
第2の積層体50q、すなわち、積層されたベースシート60、繊維シート52、及びカバーシート62が、圧接装置19の一対のロール19a,19bの間を通過して厚み方向に圧縮され、ベースシート60に塗布された第1の接着剤80(
図3参照)とカバーシート62に塗布された第2の接着剤82(
図3参照)とが、第2の積層体50qの繊維シート52の内部に拡散する。これによって、繊維シート52内の吸収性物質2が固定された連続体の吸収体50が形成される。図示していないが、連続体の吸収体50は、後工程に搬送され、個片に切断された後、吸収性物品の適宜位置に配置される。
【0037】
なお、ベースシート60と繊維シート52とを予め重ね合わせた第1の積層体50pを、第1の搬送装置16に供給してもよい。また、第1の搬送装置16に、繊維シート52のみを供給し、ベースシート60を含まない吸収体を製造してもよい。また、圧接装置19を用いずに吸収体を製造することも可能である。
【0038】
次に、板状部材17について、さらに説明する。
図2に示すように、板状部材17の一方主面17sは、吸収性物質2が散布され吸引区間16kを搬送されている第1の積層体50pの繊維シート52の一方主面52に、間隔を設けて対向する。板状部材17には、主面17s,17t間を貫通する複数の貫通穴17pが形成されている。搬送面16sを介して吸引されるので、矢印78で示すように、板状部材17の貫通穴17pを通り、繊維シート52を通り抜けて搬送面16sよりも内側に向かう空気の流れが生じる。
【0039】
板状部材17を設けない場合と比べると、空気の流れは、板状部材17の貫通穴17pに対向する第2の対向領域74では、繊維シート52の一方主面52sに当たるまで流速が大きくなり、繊維シート52の一方主面52s側において動圧が大きくなる。そのため、板状部材17を設けない場合と比べると、繊維シート52の搬送面16s側(
図2において、符号76で示す領域)とその反対側(
図2において、符号77で示す領域)との間の気圧差、すなわち、静圧の差が大きくなる。
【0040】
つまり、板状部材17は、吸収性物質2が散布されて吸引区間16kを搬送されている繊維シート52の一方主面52sに対向し、繊維シート52を通り抜けて搬送面16sよりも内側に向かう空気の流れを抑制して、繊維シート52の搬送面側76とその反対側77との間の気圧差を大きくする圧力差増大手段である。
【0041】
板状部材17を設けると、繊維シート52を通り抜けて搬送面16sに向かう空気の流れを強くして、繊維シート52の一方主面52sに散布された粉粒状の吸収性物質2が繊維シート52の他方主面52t側に吸引される力を、強くすることができる。
【0042】
また、板状部材17のうち貫通穴17pが形成されていない部分に対向する第1の対向領域72では空気の流れが弱く、板状部材17の貫通穴17pに対向する第2の対向領域74では空気の流れが強くなるようにすることができる。この場合、繊維シート52は、空気の流れが弱い第1の対向領域72と、空気の流れが強い第2の対向領域74とを通過し、繊維シート52の個々の繊維の揺れ動きが激しくなり、また、繊維シート52の内部において空気の流れる方向や強さの変化が激しくなる。そのため、繊維シート52の一方主面52sに散布された吸収性物質2は、繊維シート52の繊維に絡まっても解放されやすくなり、繊維シート52の内部を、繊維シート52の他方主面52t側に移動しやすい。
【0043】
したがって、粉粒状の吸収性物質2を、繊維シート52の起毛させた一方主面52sから繊維シート52の内部により多く侵入させて、液戻りしにくい吸収体50を製造することができる。
【0044】
板状部材17の貫通穴17pは、板状部材17の一方主面に形成された開口に連通する通気路である。板状部材17に貫通穴17pを形成すると、構成が簡単になるが、通気路は、貫通穴17p以外でもよい。例えば、板状部材17の主面17sに形成された開口と、板状部材17の主面17s,17t以外の面(例えば外周面)に形成された開口とを連通する通気路を、板状部材17に形成してもよい。
【0045】
また、板状部材17に通気路を設けなくても、圧力差増大手段を構成できる。例えば、吸収性物質2が散布され吸引区間16kを搬送されている繊維シート52の一方主面52sに対向するように、通気路のない複数の板状部材を間隔を設けて配置すると、板状部材は、繊維シート52を通り抜けて搬送面16sよりも内側に向かう空気の流れを抑制して、板状部材に対向する領域に隣接する領域において、繊維シート52の搬送面16s側とその反対側との間の気圧差を大きくすることができる。
【0046】
吸収体50は、
図3に示すように、ベースシート60の一方主面60sと繊維シート52の他方主面52tとが、第1の接着剤80で互いに接着される。また、カバーシート62の一方主面62sと繊維シート52の一方主面52sとが、第2の接着剤82で互いに接着される。繊維シート52の内部には、吸収性物質2が配置されている。第1及び第2の接着剤80,82は同じ接着剤を用いることが好ましいが、成分が異なる接着剤を用いても構わない。
【0047】
吸収体50を吸収性物品に用いる場合、繊維シート52の一方主面52sが肌面側(すなわち、吸収性物品を使用している状態のとき、使用者の肌に近い側)に配置され、繊維シート52の他方主面52tが非肌面側(すなわち、吸収性物品を使用している状態のとき、使用者の肌から遠い側)に配置されように、吸収性物品を構成することが好ましい。
【0048】
吸収体50は、前述したように、繊維シート52の起毛させた一方主面52sに散布された吸収性物質2を、繊維シート52の内部により多く侵入させることができる。そのため、繊維シート52の一方主面52s側に配置される吸収性物質2を少なくすることができる。肌面側に配置される吸収性物質2が多いとザラつき感が生じるが、肌面側に配置される吸収性物質2を少なくすることができるので、ザラつき感を抑制できる。
【0049】
以上に説明した吸収体の製造装置10を用いて吸収体50を製造する、実施例1の吸収体の製造方法は、少なくとも、次の第1及び第2の工程を備え、好ましくは、次の第3及び第4の工程を備える。
【0050】
すなわち、(i)第1の工程では、一方主面52s側を起毛させた繊維シート52を搬送装置16に供給し、前記繊維シート52の他方主面52t側を前記搬送装置16の搬送面16sを介して吸引しながら搬送する。(ii)第2の工程では、前記繊維シート52の起毛させた前記一方主面52sに、液体を吸収し保持することが可能な粉粒状の吸収性物質2を散布し、散布した前記吸収性物質2を、前記繊維シート52の前記他方主面52t側が前記搬送面16sを介して吸引される吸引区間16kにおいて、前記繊維シート52の内部に侵入させる。第1及び第2の工程において、前記吸収性物質2が散布されて前記吸引区間16kを搬送されている前記繊維シート52の前記一方主面52sに対向し、前記繊維シート52を通り抜けて前記搬送面16sよりも内側に向かう空気の流れを抑制して、前記繊維シート52の前記搬送面16s側とその反対側との間の気圧差を大きくする圧力差増大手段17を設ける。
【0051】
(iii)第3の工程では、カバーシート62の一方主面62sに接着剤82を塗布する。(iv)第4の工程では、前記接着剤82が塗布された前記カバーシート62の前記一方主面62sを、前記繊維シート52の前記吸収性物質2が散布された前記一方主面52sに重ねて、前記カバーシート62を前記繊維シート52に積層する。
【0052】
上記方法により、粉粒状の吸収性物質2を、繊維シート52の起毛させた一方主面52sから繊維シート52の内部により多く侵入させて、液戻りしにくい吸収体50を製造することができる。
【0053】
<変形例1>
図4は、圧力差増大手段がベルト状の部材である変形例1の吸収体の製造装置10aの略図である。
図4に示すように、吸収体の製造装置10aは、実施例1で用いる吸収体の製造装置10と略同様に構成されている。以下では、実施例1との相違点を中心に説明し、実施例1と同じ構成の部分には同じ符号を用いる。
【0054】
実施例1と同様に、ベースシート60は、第1の塗布装置40によって、一方主面60sにホットメルト等の第1の接着剤が、通気性を保つように塗布された後、第1の搬送装置16aの通気性を有する円筒状の搬送面16sに巻き掛けられる。繊維シート52は、起毛装置12によって、一方主面52s側が起毛させられた後、第1の接着剤が塗布されたベースシート60の一方主面60sに重ねられる。これにより、第1の積層体50pが形成される。第1の積層体50pは、繊維シート52の一方主面52sに、散布装置14から供給された吸収性物質2が散布される。
【0055】
第1の搬送装置16aの内部には、ベースシート60が巻き掛けられた全区間において、搬送面16sを介してベースシート60を吸引するように、バキュームボックス15が設けられている。実施例1と異なり、吸引区間は、搬送面16sにベースシート60が巻き掛けられた全区間であり、吸引区間の途中で、吸収性物質2が散布される。
【0056】
カバーシート62は、一方主面62sに、第2の塗布装置42によってホットメルト等の第2の接着剤が塗布された後、吸収性物質2が散布された第1の積層体50pの繊維シート52の一方主面52sに重ねられる。これにより、第2の積層体50qが形成される。実施例1と異なり、第2の搬送装置18がなく、カバーシート62及び第2の積層体50qは、第1の搬送装置16aで搬送される。
【0057】
第2の積層体50qは、第1の搬送装置16aから排出された後に、圧接装置19で厚み方向に圧縮され、第1及び第2の接着剤が繊維シート52の内部に拡散する。これによって、吸収性物質2が固定された連続体の吸収体50が形成される。
【0058】
圧力差増大手段は、実施例1と異なり、ベルト状の部材17k(以下、ベルト状部材17kという。)である。ベルト状部材17kは、通気性を有する無端ベルトであり、矢印17rで示す方向に循環するように構成されている。例えば、ベルト状部材17kを網目状等に構成したり、ベルト状部材17kに貫通穴やスリット等を形成したりする。
【0059】
図4では、ベルト状部材17kと、第1の搬送装置16aの搬送面16sに巻き掛けられた第1の積層体50pの繊維シート52とを離して図示しているが、ベルト状部材17kは、吸収性物質2が散布された繊維シート52の一方主面52sに接しながら、繊維シート52とともに移動する。すなわち、繊維シート52とベースシート60とが積層された第1の積層体50pは、搬送面16sとベルト状部材17kとの間に挟まれながら搬送され、このとき、ベルト状部材17k側から搬送面16s側に空気が流れるように、搬送面16sを介して吸引される。
【0060】
ベルト状部材17kを適宜に構成すると、繊維シート52を通り抜けて搬送面16sに向かう空気の流れを抑制して、繊維シート52の搬送面16s側とその反対側との間の気圧差を大きくすることができる。これにより、粉粒状の吸収性物質2を、繊維シート52の起毛させた一方主面52sから繊維シート52の内部により多く侵入させて、液戻りしにくい吸収体50を製造することができる。
【0061】
<実施例2> 2層の繊維シート52,54を含む吸収体51を製造する実施例2について、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
図5は、実施例2で用いる吸収体の製造装置11の略図である。
図6は、搬送方向に垂直に切断した吸収体51の略図である。
図6(a)は組立図、
図6(b)は分解図である。
【0062】
図5に示すように、吸収体の製造装置11は、実施例1の製造装置10と同じ構成の第1及び第2の装置11a,11bと、第3の塗布装置44と、折り装置30とを備えている。
【0063】
第1の装置11aは、実施例1と同様に、連続体のベースシート60(以下では、中間シート60ともいう。)と、連続体の繊維シート52と、連続体のカバーシート62とが積層された第2の積層体50qを、連続的に製造する。第2の積層体50qは、圧接装置19で厚み方向に圧縮する。
【0064】
第2の装置11bは、実施例1と略同様に、連続体の他のベースシート64と、連続体の他の繊維シート54と、連続体の第2の積層体50qとが積層された第4の積層体50sを、連続的に製造する。第4の積層体50sは、圧接装置19で厚み方向に圧縮する。
【0065】
詳しくは、第2の装置11bにおいて、他の繊維シート54は、第1の搬送装置16に供給する前に、起毛装置12で一方主面54s側を起毛させる。他のベースシート64は、通気性を有し、第1の搬送装置16に供給する前に、第1の塗布装置40によって、一方主面64sにホットメルト等の第3の接着剤84(
図6参照)を、通気性を保つように塗布する。他のベースシート64の他方主面64tは、第1の搬送装置16の搬送面16sを介して吸引される。他の繊維シート54の他方主面54tと、他のベースシート64の一方主面64sとは互いに重り、他のベースシート64に他の繊維シート54が積層された第3の積層体50rが形成される。
【0066】
第1の装置11aで形成された第2の積層体50qは、第2の塗布装置42によって、第2の積層体50qの中間シート60の他方主面60tにホットメルト等の第4の接着剤86(
図6参照)が塗布された後、第2の積層体50qの中間シート60の他方主面60tは、第3の積層体50rの他の繊維シート54の一方主面54sに重なる。これにより、第2の積層体50qが第3の積層体50rに積層された第4の積層体50sが形成される。
【0067】
図6に示すように、カバーシート62は、他のシート52,54,60,64よりも幅方向(搬送方向及び厚み方向に垂直な方向)の寸法が大きく、他のシート52,54,60,64の幅方向両側にはみ出るように積層される。
【0068】
図5及び
図6に示すように、第3の塗布装置44は、カバーシート62の幅方向両側部分62a,62bの一方主面62sに、ホットメルト等の第5の接着剤88を塗布する。折り装置30は、第5の接着剤88が塗布されたカバーシート62の幅方向両側部分62a,62bを折り曲げて他のベースシート64に重ねる。これにより、カバーシート62で包み込むように構成された連続体の吸収体51が形成される。
【0069】
図6に示すように、吸収体51は、中間シート60の一方主面60sと繊維シート52の他方主面52tとが、第1の接着剤80で互いに接着され、カバーシート62の一方主面62sと繊維シート52の一方主面52sとが、第2の接着剤82で互いに接着される。また、ベースシート64の一方主面64sと他の繊維シート54の他方主面54tとが、第3の接着剤84で互いに接着され、中間シート60の他方主面60tと他の繊維シート54の一方主面54sとが、第4の接着剤86で互いに接着される。カバーシート62の幅方向両側部分62a,62bの一方主面62sと他のベースシート64の他方主面64tとは、第5の接着剤88で互いに接着される。繊維シート52の内部に吸収性物質2が配置され、他の繊維シート54の内部に他の吸収性物質3が配置される。第1乃至第5の接着剤80,82,84,86,88は同じ接着剤を用いることが好ましいが、成分が異なる接着剤を用いても構わない。
【0070】
吸収体51を用いて吸収性物品を構成する場合、それぞれの繊維シート52,54は、実施例1と同様に、一方主面52s,54sが肌面側に配置され、他方主面52t,54tが非肌面側に配置されることが好ましい。
【0071】
<まとめ> 以上に説明したように、粉粒状の吸収性物質2,3を、繊維シート52,54の起毛させた一方主面52s,54sから繊維シート52,54の内部により多く侵入させて、液戻りしにくい吸収体50,51を製造することができる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0073】
例えば、繊維シートの他方主面側が、搬送装置の円筒状の搬送面を介して吸引される場合を例示したが、搬送装置の搬送面は適宜に構成すればよく、例えば、搬送装置の搬送面を平面状にしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
2,3 吸収性物質
16,16a 第1の搬送装置(搬送装置)
16k 吸引区間
16s 搬送面
17 板状部材(圧力差増大手段)
17k ベルト状部材(圧力差増大手段)
17p 貫通穴(通気路)
17s,17t 主面
50,51 吸収体
52,54 繊維シート
52s,54s 一方主面
52t,54t 他方主面
62 カバーシート