(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】水性コーティング組成物のためのバインダー
(51)【国際特許分類】
C08G 18/42 20060101AFI20240510BHJP
C08L 75/06 20060101ALI20240510BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240510BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08G18/42
C08L75/06
C09D5/02
C09D175/06
(21)【出願番号】P 2021544531
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2020052343
(87)【国際公開番号】W WO2020157228
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-10-27
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513277278
【氏名又は名称】オールネックス オーストリア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テメル、アルミン
(72)【発明者】
【氏名】ルンツァー、フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ポッツマン、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ブリンクフイス、リシャール ヘンドリクス ゲリット
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-310042(JP,A)
【文献】特表2013-528670(JP,A)
【文献】特開平10-045993(JP,A)
【文献】特表2004-512402(JP,A)
【文献】米国特許第05536784(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0135684(US,A1)
【文献】欧州特許第01328565(EP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
C09D 5/02
C09D 175/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイケル供与体基を含む水分散性自己乳化性ポリマーUSであって、ポリマーUSが、ペンディング親水性基を有する組み入れられた部分及び/又はポリマー鎖の一部を形成する親水性基を含み、且つそのポリマー鎖においてエステル基又はウレタン基又は両方を繰返し単位の一部として含み、マイケル供与体基が、活性化メチレン基及び/又はメチン基由来である酸性C-H基であり、酸性C-H基の炭素原子が少なくとも1個の電子陰性置換基又は電子求引基に結合しており、ポリマーUSが、1分子当たり平均で少なくとも2個の酸性C-H基を含み、ポリマーUS中の酸性C-H基の少なくとも0.5mol/kgがマロナート部分に由来する、水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項2】
少なくとも500g/molの数平均モル質量を有する、請求項1に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項3】
前記自己乳化性ポリマーUSが、繰返し単位としてウレタン基、及び少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、前記自己乳化性ポリマーUSが、ポリエステルポリオールであり酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分B、前記ヒドロキシ官能性成分A、及びイソシアナート官能性化合物Diを、任意選択で1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分B"と、反応させることによって得られる、請求項1又は2に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項4】
ポリエステルポリオールであり酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分Bが少なくとも-50℃のガラス転移温度Tgを有する、請求項3に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項5】
前記自己乳化性ポリマーUSが、繰返し単位としてエステル基、少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、前記自己乳化性ポリマーUSが、マロン酸Bmのアルキルエステル、前記ヒドロキシ官能性成分A、及び1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分Dhを反応させることによって得られる、請求項1又は2に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項6】
ヒドロキシ官能性成分Aが非イオン性親水性化合物An12から選択され、An12が、4~10個の炭素原子を有するトリメチロールアルカンの、モノヒドロキシ官能性オリゴマー性又はポリマー性オキシアルキレンアルキルエーテルとのジヒドロキシ官能性モノエーテルであり、オキシアルキレンアルキルエーテルにおいて、アルキレン基が2~4個の炭素原子を有する、請求項3、4又は5に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項7】
追加的にマイケル受容体基を含み、ポリマーUSの合成において、少なくとも1個のヒドロキシル基、及び少なくとも1個の活性化オレフィン性不飽和基を有する更なる要素Eを使用することによって、マイケル受容体基がポリマーUSの骨格に化学結合している、請求項1から6までのいずれか一項に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項8】
マイケル受容体基がアクリロイル基である、請求項7に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項9】
ポリマーUSが、繰返し単位としてウレタン基を含み、ポリマーUSが、ポリエステルポリオールであり酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分B、ヒドロキシ官能性成分A、ヒドロキシ官能性アクリラート化合物E、及びイソシアナート官能性化合物Diを、任意選択で1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分B"と、反応させることによって得られる、請求項3を直接又は間接的に引用する請求項7に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項10】
ポリマーUSが、繰返し単位としてエステル基を含み、ポリマーUSが、マロン酸Bmのアルキルエステル、ヒドロキシ官能性成分A、1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分Dh、及び少なくとも1種のヒドロキシ官能性アクリラート化合物Eを反応させることによって得られる、請求項5を直接又は間接的に引用する請求項7に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項11】
マイケル受容体によって与えられる二重結合の、マイケル供与体由来の酸性C-H基に対する相対モル比は10~250%である、請求項7から10までのいずれか一項に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項12】
ヒドロキシ官能性成分An12の量は、ポリマーUSにおけるオキシアルキレンの量が5~50重量%である量である、請求項6
又は請求項6を直接若しくは間接に引用する請求項7から11までのいずれか一項に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
【請求項13】
水性ポリマー分散体であって、分散されたポリマーが、請求項1から12までのいずれか一項に記載の自己乳化性ポリマーUSである、水性ポリマー分散体。
【請求項14】
追加的にマイケル受容体基を含む、請求項13に記載の水性ポリマー分散体であって、
・マイケル受容体基が、ポリマーUSとは異なる担体化合物に化学結合しており、又は
・マイケル受容体基が、ポリマーUSの骨格に化学結合しており、マイケル受容体基が、ポリマーUSとは異なる担体化合物に化学結合している、
水性ポリマー分散体。
【請求項15】
マイケル受容体基がアクリロイル基である、請求項14に記載の水性ポリマー分散体。
【請求項16】
ポリマーUSとは異なる担体化合物が水分散性ウレタンアクリラートから選択される、請求項15に記載の水性ポリマー分散体。
【請求項17】
マイケル受容体基がポリマーUSに組み込まれている、請求項13から16までのいずれか一項に記載の水性ポリマー分散体。
【請求項18】
請求項1から12までのいずれか一項に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUSの少なくとも1種、又は請求項13から17までのいずれか一項に記載の水性ポリマー分散体の少なくとも1種を含むコーティング組成物であって、それに、マイケル付加反応を促進するために触媒、及び任意選択でマイケル受容体成分を加えることによって調製され、マイケル供与体成分中の活性化酸性プロトンC-Hの物質量n(C-H)の、マイケル受容体成分中の活性化不飽和基>C=C<の物質量n(>C=C<)に対する比n(C-H)/n(>C=C<)が10mol/mol~0.1mol/molの間である、コーティング組成物。
【請求項19】
触媒が、カルボナート及び/又はカルバマート塩としてブロックされている潜在性塩基触媒である、請求項18に記載のコーティング組成物。
【請求項20】
請求項7から12までのいずれか一項に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUSの少なくとも1種又は請求項17に記載の水性ポリマー分散体の少なくとも1種、並びにカルボナート及び/又はカルバマート塩としてブロックされている潜在性塩基触媒を含む、コーティング組成物。
【請求項21】
光開始剤、顔料、充填剤、分散剤、沈降防止剤、垂れ制御剤、光又はUV安定剤、流動性改質剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、付着促進剤、合体剤、腐食防止剤、艶消し剤、難燃剤、滑性添加剤、汚れ防止添加剤、及び落書き防止添加剤のうちの1つ又は複数を追加的に含む、請求項18から20までのいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項22】
請求項18から21までのいずれか一項に記載のコーティング組成物でコーティングされたコーティングされている基材であって、コーティング組成物が0℃より高い温度で硬化された、基材。
【請求項23】
請求項18から21までのいずれか一項に記載のコーティング組成物でコーティングされたコーティングされている基材であって、コーティング組成物が0℃より高い温度でエネルギー線への暴露によって硬化されたものである、基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性オリゴマー又はポリマー分散体であって、分散されたオリゴマー又はポリマーが、オリゴマー又はポリマー分子中に平均で少なくとも2個のマイケル供与体基を含み、且つペンディング(pending)親水性基を有する組み入れられた部分又はオリゴマー鎖若しくはポリマー鎖の一部を形成する親水性基を含む自己乳化性オリゴマー又はポリマーであり、マイケル供与体基が、活性化メチレン>CH
2基及び/又はメチン≡CH基由来である酸性C-H基である(IUPAC系統名によって前者は「メチリデン」、後者は「メチリリデン」又は「メタニリリデン」とも呼ばれる)、水性オリゴマー又はポリマー分散体に関する。本発明はまた、自己乳化性オリゴマー又はポリマーに関し、また、前記自己乳化性オリゴマー又はポリマー、及びオリゴマー又はポリマー分子中に平均で少なくとも2個のマイケル供与体基を有する前記水性オリゴマー又はポリマー分散体を調製するためのプロセスに関し、また、水性コーティング組成物のためのバインダーであって、第1の成分として、オリゴマー又はポリマー分子中に平均で少なくとも2個のマイケル供与体基を有する前記水性オリゴマー又はポリマー分散体と、以下「マイケル受容体」と呼ばれ、少なくとも2個の活性化オレフィン性不飽和基を有する少なくとも1種の有機化合物である第2の成分とを含む、バインダーに関し、ここで、不飽和基の活性化が少なくとも1個の電気陰性基
【化1-1】
によってもたらされ、ここで、
【化1-2】
は、オレフィン性不飽和基のうちの1個であり、「EWG」は「電子求引基」を表し、記号「>」は同じ炭素原子上の2つの単結合を表し、記号「-」又は「|」又は「L」は炭素原子上の1つの単結合を表し、記号「=」は隣り合う2つの炭素原子間の二重結合を表す。本発明のコーティング組成物において、マイケル供与体は水分散性オリゴマー若しくはポリマーであるか、又はマイケル供与体及びマイケル受容体の両方が水分散性オリゴマー若しくはポリマーであるか、又はマイケル供与体基及びマイケル受容体基の両方が水分散性オリゴマー若しくはポリマー中に存在する。本発明はまた、その分子中に平均で少なくとも2個のマイケル供与体基を有する非ポリマー性及び非オリゴマー性マイケル供与体成分と、第2の成分としてオリゴマー性又はポリマー性のマイケル受容体成分の水性分散体とを含み、分散されたオリゴマー又はポリマーが、オリゴマー又はポリマー分子中に平均で少なくとも2個のマイケル受容体基を含み、且つ外部乳化オリゴマー又はポリマーであるか、ペンディング親水性基を有する組み入れられた部分又はオリゴマー鎖若しくはポリマー鎖の一部を形成する親水性基を含む自己乳化性オリゴマー若しくはポリマーである、コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マイケル供与体成分及びマイケル受容体成分を含み、供与体と受容体とのマイケル付加反応によって硬化されるコーティング組成物のためのバインダーは、Progress in Organic Coatings、32巻(1997年)、137~142ページに掲載のNoomenなどによって、過去にすでに説明されている。その中で、「当量:195」を有する、ペンタン-ジオール及びジエチルマロナートから合成されたマロナート官能性ポリエステル樹脂、1molのイソホロンジイソシアナートのトリイソシアヌラートと3モルのヒドロキシブチルアクリラートとの反応生成物を含み、1,8-ジアザ-ビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(DBU)で触媒される第1の系(セクション2.1を参照されたい);前記マロナートポリエステルを不飽和ウレタンアクリラートと組み合わせて含み、DBUで触媒される第2の系(セクション2.2を参照されたい);並びに前記マロナートポリエステルを1モルのイソホロンジイソシアナートと2モルのヒドロキシ-ブチルアクリラートとの反応生成物と組み合わせて含み、DBUで触媒される第3の系(セクション2.3を参照されたい)に基づくコーティング組成物が開示されている。比較により、マイケル付加系のコーティングは、従来のアルキド系コーティングより光沢及び柔軟性のはるかに良好な維持を示したことが示されている。しかしながら、装飾コーティング市場がこれらの用途のために、ポットライフが限定的である二液型製品を受け入れるとは考えられないという事実に問題が見られた。
【0003】
炭素-炭素結合の形成下、マイケル付加によって硬化可能である水性二液型系は、US5,567,761Aにおいて開示されている。その中で、(A)アセトアセチル化ポリマー、及び(B)水溶液、懸濁液、又はエマルジョンの形態の、少なくとも2個の(メタ)アクリラート末端基を含有するポリアクリラートを含む周囲温度硬化性水性ポリマー系が開示されており、ここで、前記アセトアセチル化ポリマーが、質量分率10%~60%の式
CH2=C(R1)-C(O)-O-R2-O-C(O)-CH2-C(O)-CH3(M1)
[式中、R1は-H又は-CH3であり、R2は直鎖又は分枝飽和C1-~C4-アルキレン基である]を有する(メタ)アクリルモノマー(M1)、質量分率1%~15%のカルボキシルビニルモノマー(M2)、並びに質量分率25%~89%のC1-~C4-アルキル(メタ)アクリラート及びスチレンからなる群より選択される共重合性ビニルモノマー(M3)の溶液共重合によって得られる水分散性アセトアセチル化アクリル樹脂である。請求項10において特許請求される更なる実施形態は、(A)少なくとも2個のアセトアセタートメチレン基を含有する化合物、(B)少なくとも2個のアクリラートアルケン基を含有する化合物;(C)少なくとも2個のエポキシ基を含有する化合物;及び(D)マイケル反応触媒塩基を含む、周囲温度硬化性組成物である。アクリル水分散性樹脂又はアクリルラテックス、及び少なくとも2個の(メタ)アクリラート末端基を有するポリアクリラートの形態で、アセトアセチル化ポリマー(A)を含む系が開示されている。アセトアセチル化アクリル水分散性樹脂は、質量分率10%~60%のアセトアセチル化(メタ)アクリラートモノマー、質量分率1%~15%の親水性ビニルモノマー、及び質量分率25%~89%の他の共重合性ビニルモノマーを含むモノマー混合物の共重合によって作製され、アセト-アセチル化アクリルラテックスは上記のようなこれらのモノマーの乳化重合によって作製される。架橋剤として使用される少なくとも2個の(メタ)アクリラート末端基を有するポリアクリラートは好ましくはNCOを含まない水分散性ウレタンポリアクリラート樹脂である。これらは2段階プロセスによって調製され、ここで、第1段階において過剰のポリイソシアナートと親水性NCO反応性化合物とを反応させることによって水分散性NCO終端プレポリマーが形成され、これにより所望の水分散性及び/又は上に言及した親水性化合物以外の更なるNCO反応性化合物を付与することができる。次いでNCO終端プレポリマーは、第2段階においてNCO反応性(メタ)アクリラートと反応させることによって(メタ)アクリラート官能基でキャップされる。使用される適切な触媒は12~14のpKaを有する塩基、例えば1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5(DBN)、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(TMGD)、1,4-ジヒドロピリジン、2-アリル-N-アルキルイミダゾリン、テトラ-t-ブチルアンモニウムヒドロキシド、カリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムである。トリメチロールプロパンのジエチルマロナートとのエステル交換によって調製され得るトリメチロールプロパントリ(エチルマロナート)を含む、硬化剤として有用である低モル質量ポリマロナートを含む他の可能な架橋剤が挙げられる。高モル質量ポリマロナートは、マロン酸とグリコール及び他の二塩基酸との縮合重合によって得られるマロナート化ポリエステルを含む。
【0004】
マイケル付加硬化性系のポットライフの延長は、EP0448154A1において説明されるように、ある特定のカルボン酸を塩基性触媒に対するブロッキング剤として使用することによって可能であったが、使用されるカルボン酸を分解するために又は遊離酸を蒸留して取り除くことによってそれらを除去し、それによりブロックされた触媒のブロックのすべて又は大部分が除かれるまで平衡を移すために、硬化のために少なくとも80℃の温度が必要であった。
【0005】
EP2556108B1に開示されるように、二酸化炭素放出下、乾燥の際に分解して強塩基を形成するカルボナート塩である潜在性塩基触媒の導入によりブレークスルーが達成された。しかしながら、この化学は、溶媒系又はバルク液体樹脂にのみ適用されてきた。
【0006】
アセトアセタート官能基を有するビニルポリマー、ゲル化に対する安定剤としてポリアルキレンイミン、任意選択で架橋剤、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリラート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリラート、及びアリルアクリラートを、重合後に加えられるアニオン性界面活性剤と一緒に含む水系コーティング組成物が、US6,201,048B1に対応するWO1999/014278A1において説明されている。
【0007】
低温硬化系における主な懸念は硬化反応を担う基を担持する成分の移動性である。この移動性は、膜形成、及び架橋の第1段階中のコーティング膜のガラス化の間、制限される。反応性基を近隣に保つことによって更なる架橋が増強され得る。これは例えば同じ乳化液滴中に又は同じポリマー鎖中にさえ両方の種類の反応性基を含むことによって行うことができる。したがって、適用後の迅速な硬化と一緒になった、延長されたポットライフが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、長いポットライフと適用及び初期膜形成後の速められた硬化速度とを有する水系コーティング組成物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの要件は、水に乳化することができるマイケル供与体成分とマイケル受容体成分との組み合わせと、これらのマイケル供与体成分及びマイケル受容体成分を含む水性コーティング組成物と、これらの成分のうちの少なくとも1つを乳化するための適切な手段であって、「外部乳化」と呼ばれる、マイケル供与体成分及びマイケル受容体成分のいずれか若しくは両方への乳化剤の添加、並びに/又は「自己乳化」と呼ばれる、マイケル供与体成分及びマイケル受容体成分のいずれか若しくは両方の親水性改変を含む手段と、マイケル付加反応を促進するための適切な触媒と、これらのコーティング組成物のために適切な添加剤、充填剤、及び助剤とを提供することによって実現される。
【0010】
マイケル反応は、電子求引基を有するアルファ、ベータ-不飽和化合物へのカルバニオン(又は別の求核剤)の求核付加であり、ここで、不飽和化合物はマイケル受容体と呼ばれる。本発明の文脈において脱プロトン化によって求核剤を形成するマイケル供与体成分は、少なくとも1個の酸性C-H基を有する有機分子であり、酸性C-H基は、水素ではない2個の更なる原子と結合する炭素原子を有する活性化メチレン>CH2基中、及び水素ではない3個の更なる原子と結合する炭素原子を有するメチン≡CH基中のC-H基であり、ここで、置換基のうちの少なくとも1個が、カルバニオンを安定化する電気陰性の置換基、例えばカルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、及びシアノ基である。
【0011】
したがって、本発明は、マイケル供与体基を含む水分散性自己乳化性ポリマーUSであって、ポリマーUSが、ペンディング親水性基を有する組み入れられた部分及び/又はポリマー鎖の一部を形成する親水性基を含み、且つそのポリマー鎖においてエステル基又はウレタン基又は両方を繰返し単位の一部として含み、且つ更に好ましくは少なくとも500g/molの数平均モル質量を有し、マイケル供与体基が、活性化メチレン基及び/又はメチン基由来である酸性C-H基であり、酸性C-H基の炭素原子が少なくとも1個の電子陰性置換基又は電子求引基に結合しており、ポリマーUSが、1分子当たり平均で少なくとも2個の酸性C-H基を含み、ポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量が少なくとも0.5mol/kgであり、ポリマーUS中の酸性C-H基の量の大部分がマロナート部分に由来する、水分散性自己乳化性ポリマーUSに関する。
【0012】
本発明によれば、分散されたポリマーUが、マイケル供与体基を含み、且つ自己乳化性ポリマーUSであって、ポリマーUSが、そのポリマー鎖においてエステル基又はメタン基又は両方を繰返し単位の一部として含み、且つ更に好ましくは少なくとも500g/molの数平均モル質量を有し、且つペンディング親水性基を有する組み入れられた部分及び/又はポリマー鎖の一部を形成する親水性基を含み、マイケル供与体基が、活性化メチレン基及び/又はメチン基由来である酸性C-H基であり、酸性C-H基の炭素原子が少なくとも1個の電子陰性置換基又は電子求引基、例えばカルボキシル基、カルボニル基、及びシアノ基に結合しており、ポリマーUSが、1分子当たり平均で少なくとも2個の酸性C-H基を含み、ポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量が少なくとも0.5mol/kgであり、ポリマーUS中の酸性C-H基の量の大部分がマロナート部分に由来する、水性ポリマー分散体も提供される。
【0013】
本発明において、ポリマーによって、少なくとも2個の繰返し単位を、好ましくは少なくとも5個の繰返し単位を含むオリゴマー又はポリマーが理解される。本発明の文脈において、繰返し単位はポリマーの一部であり、その繰返しが、ポリマー鎖に沿って連続的に繰返し単位を連結することによって、末端基を除く完全なポリマー鎖の少なくとも一部を生成する。
【0014】
本発明において、水性ポリマー分散体によって、通常分散された粒子の形態である、水性相中のポリマーの分散体が理解される。水性ポリマー分散体は好ましくは少なくとも10重量%の水を含む。この分散体における固体ポリマーUSに対する水の相対重量比は、少なくとも10重量%(wt%)、好ましくは少なくとも15wt%、より好ましくは少なくとも25wt%である。固体ポリマーUSに対する水の相対比は通常、95wt%を超えない、好ましくは75wt%を超えない。
本発明の一態様を以下に示すが、本発明はそれに限定されない。
[発明1]
マイケル供与体基を含む水分散性自己乳化性ポリマーUSであって、ポリマーUSが、ペンディング親水性基を有する組み入れられた部分及び/又はポリマー鎖の一部を形成する親水性基を含み、且つそのポリマー鎖においてエステル基又はウレタン基又は両方を繰返し単位の一部として含み、且つ更に好ましくは少なくとも500g/molの数平均モル質量を有し、マイケル供与体基が、活性化メチレン基及び/又はメチン基由来である酸性C-H基であり、酸性C-H基の炭素原子が少なくとも1個の電子陰性置換基又は電子求引基に結合しており、ポリマーUSが、1分子当たり平均で少なくとも2個の酸性C-H基を含み、ポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量が少なくとも0.5mol/kgであり、ポリマーUS中の酸性C-H基の量の大部分がマロナート部分に由来する、水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明2]
マロナート部分から与えられるポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量が少なくとも0.5mol/kgである、発明1に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明3]
前記自己乳化性ポリマーUSが、繰返し単位としてウレタン基、及び少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、前記自己乳化性ポリマーUSが、ポリエステルポリオールであり酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分B、前記ヒドロキシ官能性成分A、及びイソシアナート官能性化合物Diを、任意選択で1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分B"と、反応させることによって得られる、発明1又は2に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明4]
ポリエステルポリオールであり酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分Bが少なくとも-50℃のガラス転移温度Tgを有する、発明3に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明5]
前記自己乳化性ポリマーUSが、繰返し単位としてエステル基、少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、前記自己乳化性ポリマーUSが、マロン酸Bmのアルキルエステル、前記ヒドロキシ官能性成分A、及び1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分Dhを、特に1種又は複数種の脂環式ジオール又は分枝脂肪族ジオールBhと、反応させることによって得られる、発明1又は2に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明6]
ヒドロキシ官能性成分Aが非イオン性親水性化合物An12から選択され、An12が、4~10個の炭素原子を有するトリメチロールアルカンの、モノヒドロキシ官能性オリゴマー性又はポリマー性オキシアルキレンアルキルエーテルとのジヒドロキシ官能性モノエーテルであり、オキシアルキレンアルキルエーテルにおいて、アルキル基が好ましくは1~4個の炭素原子を有し、アルキレン基が2~4個の炭素原子を有する、発明3、4又は5に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明7]
追加的にマイケル受容体基を含み、ポリマーUSの合成において、少なくとも1個の、好ましくは2個のヒドロキシル基、及び少なくとも1個の活性化オレフィン性不飽和基を有する更なる要素Eを使用することによって、マイケル受容体基がポリマーUSの骨格に化学結合している、発明1から6までのいずれか一に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明8]
マイケル受容体基がアクリロイル基である、発明7に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明9]
ポリマーUSが、繰返し単位としてウレタン基を含み、ポリマーUSが、ポリエステルポリオールであり酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分B、ヒドロキシ官能性成分A、ヒドロキシ官能性アクリラート化合物E、及びイソシアナート官能性化合物Diを、任意選択で1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分B"と、反応させることによって得られる、発明3、4、6から8までのいずれか一に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明10]
ポリマーUSが、繰返し単位としてエステル基を含み、ポリマーUSが、マロン酸Bmのアルキルエステル、ヒドロキシ官能性成分A、1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分Dh、特に1種又は複数種の脂環式ジオール又は分枝脂肪族ジオールBh、及び少なくとも1種のヒドロキシ官能性アクリラート化合物Eを反応させることによって得られる、発明5から8までのいずれか一に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明11]
マイケル受容体によって与えられる二重結合の、マイケル供与体由来の酸性C-H基に対する相対モル比は10~250%である、発明7から10までのいずれか一に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明12]
ヒドロキシ官能性成分An12の量は、ポリマーUSにおけるオキシアルキレンの量が5~50重量%である量である、発明6から11までのいずれか一に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUS。
[発明13]
水性ポリマー分散体であって、分散されたポリマーが、発明1から12までのいずれか一に記載の自己乳化性ポリマーUSである、水性ポリマー分散体。
[発明14]
追加的にマイケル受容体基を含む、発明13に記載の水性ポリマー分散体であって、
・マイケル受容体基が、ポリマーUSとは異なる担体化合物に、好ましくはオリゴマー性若しくはポリマー性担体化合物に、化学結合しており、好ましくは担体化合物がポリマー分散体中で共乳化されているか若しくはポリマー分散体とブレンドされており、又は
・マイケル受容体基が、ポリマーUSの骨格に化学結合しており、マイケル受容体基が、ポリマーUSとは異なる担体化合物に化学結合している、
水性ポリマー分散体。
[発明15]
マイケル受容体基がアクリロイル基である、発明14に記載の水性ポリマー分散体。
[発明16]
ポリマーUSとは異なる担体化合物が水分散性ウレタンアクリラートから選択される、発明15に記載の水性ポリマー分散体。
[発明17]
マイケル受容体基がポリマーUSに組み込まれている、発明13から16までのいずれか一に記載の水性ポリマー分散体。
[発明18]
発明1から12までのいずれか一に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUSの少なくとも1種、又は発明13から17までのいずれか一に記載の水性ポリマー分散体の少なくとも1種を含むコーティング組成物であって、それに、マイケル付加反応を促進するために触媒、及び任意選択でマイケル受容体成分を加えることによって調製され、マイケル供与体成分中の活性化酸性プロトンC-Hの物質量n(C-H)の、マイケル受容体成分中の活性化不飽和基>C=C<の物質量n(>C=C<)に対する比n(C-H)/n(>C=C<)が10mol/mol~0.1mol/molの間である、コーティング組成物。
[発明19]
触媒が、カルボナート及び/又はカルバマート塩としてブロックされている潜在性塩基触媒である、発明18に記載のコーティング組成物。
[発明20]
発明7から12までのいずれか一に記載の水分散性自己乳化性ポリマーUSの少なくとも1種又は発明17に記載の水性ポリマー分散体の少なくとも1種、並びにカルボナート及び/又はカルバマート塩としてブロックされている潜在性塩基触媒を含む、コーティング組成物。
[発明21]
光開始剤、顔料、充填剤、分散剤、沈降防止剤、垂れ制御剤、光又はUV安定剤、流動性改質剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、付着促進剤、合体剤、腐食防止剤、艶消し剤、難燃剤、滑性添加剤、汚れ防止添加剤、及び落書き防止添加剤のうちの1つ又は複数を追加的に含む、発明18から20までのいずれか一に記載のコーティング組成物。
[発明22]
発明18から21までのいずれか一に記載のコーティング組成物でコーティングされたコーティングされている基材であって、コーティング組成物が0℃より高い温度で硬化された、基材。
[発明23]
発明18から21までのいずれか一に記載のコーティング組成物でコーティングされたコーティングされている基材であって、コーティング組成物が0℃より高い温度でエネルギー線への暴露によって硬化されたものであり、UV光がエネルギー線の源として選択される場合、コーティング組成物が好ましくは光開始剤を含有する、基材。
【発明を実施するための形態】
【0015】
マイケル供与体成分
第1の実施形態において、ポリマーUSはそのポリマー鎖において、少なくとも1個の酸性C-H基を有する、モノマー性、オリゴマー性又はポリマー性ヒドロキシ官能性成分Bに由来する部分、及び酸官能性成分Da又はイソシアナート官能性成分Diのいずれかである、モノマー性、オリゴマー性又はポリマー性成分Dに由来する部分を含む。ポリマーUSは、成分DとしてDa又はDiを使用する場合、繰返し単位としてエステル基又はウレタン基を含む。
【0016】
第2の実施形態において、ポリマーUSはそのポリマー鎖において、少なくとも1個の酸性C-H基を有する、少なくとも二官能性の酸Baに由来する部分、及び好ましくは以下に説明するヒドロキシ官能性成分Bhである、モノマー性、オリゴマー性又はポリマー性ヒドロキシ官能性成分Dhに由来する部分を含む。ポリマーUSは、成分DとしてBhを使用する場合、繰返し単位としてエステル基を含む。
【0017】
第1の実施形態において、ポリマーUSは、マイケル供与体として1分子当たり平均で少なくとも1個の酸性C-H基と、1分子当たり少なくとも2個のヒドロキシル基を有するヒドロキシ官能性成分Bと、酸官能性成分Da又はイソシアナート官能性成分Diのいずれかである、少なくとも二官能性の成分Dとを反応させることによって作製することができ、成分Da及びDiは、集合反応又は連続反応又は混合反応によって、成分Bのヒドロキシル基と反応して、重付加下でポリウレタンを形成するか、重縮合下でポリエステルを形成する。
【0018】
第2の実施形態において、ポリマーUSは好ましくはポリエステルであり、ここで酸官能性成分Daとの追加の反応工程が回避される。このポリエステルは、エステルである成分B0から、特にエステル交換プロセスによって、好ましくは以下に説明するヒドロキシ官能性成分Bhであるヒドロキシ官能性成分Dhとのエステル交換プロセスによって好ましくは形成され、成分B0は、好ましくは1~6個の、より好ましくは1~4個の炭素原子を有するアルカノールと、少なくとも1個の酸性C-H基を有する以下に定義する少なくとも二官能性の有機酸Baとのエステルであり、有機酸Baの炭素原子は、電気陰性置換基、例えばカルボキシル基、カルボニル基及びシアノ基を有する炭素原子に結合している。
【0019】
アルカノールはエステル交換プロセスにおいて遊離する。代替的には、アルカノールエステルの代わりに、Baのアルケノールエステル、例えばイソプロペニルエステルを使用することができ、その場合、アルケノールはエステル交換後、ケトンとして放出される。
【0020】
オリゴマー性又はポリマー性マイケル供与体要素
第1の実施形態による酸性C-H基を有するオリゴマー性又はポリマー性ヒドロキシ官能性マイケル供与体成分Bは、好ましくは、電気陰性置換基、例えばカルボキシル基、カルボニル基及びシアノ基を有する炭素原子に結合している少なくとも1個の酸性C-H基を有する二塩基性有機酸Baから作製されるポリエステルであり、より好ましくは式-O-C(O)-CH2-C(O)-O-によるマロナート基を含むオリゴマー性エステル又はポリエステルBMからなる群より選択され、BMは例えばジアルキルマロナートBmと有機ジヒドロキシ化合物Bhとのエステル交換によって、遷移金属触媒、例えばチタン、ジルコニウム、スズ、ハフニウム、アンチモン及びビスマスの化合物の存在下合成することができ、Bhは好ましくは、直鎖若しくは分枝脂肪族ジオール又は脂環式ジオールである。好ましい酸Baはマロン酸、アルキルマロン酸、アセチルアセトンジカルボン酸、他のベータ-ケトカルボン酸、及びベータ-ケトジカルボン酸である。単一のジオールBh、又は2個以上のジオールの混合物を使用することができる。好ましいのは、5~15個の炭素原子を有する脂環式ジオール又は分枝脂肪族ジオールBhであり、ここで、少なくとも1つは好ましくは、ネオペンチルグリコール、1,2-、1,3-及び1,4-ビスヒドロキシメチル-シクロヘキサン、2-sec-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2-ブチル-2-エチル-プロパンジオール-1,3、2-エチル-プロパン-ジオール-1,3、2-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2,6-ビスヒドロキシメチル-デカヒドロ-ナフタレン、及びTCDアルコールの異性体混合物(トリシクロデカンジメタノール又はオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-ジメタノール、系統名:3(4),8(9)-ジヒドロキシメチル-トリシクロ(5.2.1.02.6)デカン、異性体の混合物)からなる群より選択される。ジアルキルマロナートBmの中でも、1~4個の炭素原子のアルキル基を有するもの、例えばジメチルマロナート、ジエチルマロナート、ジ-n-プロピルマロナート、ジイソプロピル-マロナート、ジ-n-ブチルマロナート、及びジイソブチルマロナートが好ましい。
【0021】
ヒドロキシ官能性マイケル供与体成分Bは化合物B′から選択することができ、化合物B′は、アセトアセタート基を有するポリオールBA、又はシアノアセタート基を有するポリオールBC、例えばポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールであり、それらは1分子当たり少なくとも3個のヒドロキシル基を有する多官能性ヒドロキシ化合物B′h3に由来する繰返し単位及び3~10個の炭素原子を有し、それらのうちの少なくとも1つは反応して、式-C(O)-CH2-C(O)-OHのベータ-ケト酸B′akのエステルを形成しており、ここでケトン基>C=Oが、カルボン酸基、好ましくはアセト酢酸に結合したアルファ-炭素原子に結合しており、又は、カルボン酸基、好ましくはシアノ酢酸に結合したアルファ-炭素原子に結合したカルボニル基以外の電子求引基を有する式-CH(EWG)-C(O)-OHの脂肪酸B′awのエステルを形成しており、或いはマイケル供与体成分Bは、アセトアセトアミドに由来する基を含むポリアミドポリオール、及びこれらのうちの2個以上の混合物であり得る。他の好ましい電子求引基はシアノ基、カルボニル基及びニトロ基である。トリオールB′h3としては、好ましくは以下に言及するトリオールB21hを使用することができる。上に言及する、ヒドロキシル末端基と、単官能性ベータ-ケト酸B′akのエステル若しくは単官能性脂肪酸B′awのエステルである末端基の両方を有するポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオールを使用することも可能である。いうまでもなく、酸B′aのアルファ-炭素原子に結合した少なくとも1個の水素原子が存在しなければならない。ポリエステルポリオール中の二酸成分Bsは、少なくとも4個且つ12個以下の炭素原子を有する脂肪族二酸又は芳香族二酸であり、好ましくはコハク酸、アジピン酸、1,2-、1,3-及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、並びにイソフタル酸からなる群より選択される。
【0022】
上に言及する第2の実施形態によれば、好ましいのは、式-O-C(O)-CH2-C(O)-O-によるマロナート基を含むポリエステルBMであり、BMは、マロン酸から、好ましくはマロン酸のアルキルエステルBmから、5~15個の炭素原子を有する脂環式又は分枝脂肪族ジオールBhと直接重縮合することによって調製され、ここで、少なくとも1つは好ましくは、ネオペンチルグリコール、1,2-、1,3-及び1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2-sec-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2-ブチル-2-エチル-プロパンジオール-1,3、2-エチル-プロパン-ジオール-1,3、2-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2,6-ビスヒドロキシメチルデカヒドロナフタレン、及びTCDアルコールの異性体混合物(トリシクロデカンジメタノール又はオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-ジメタノール、系統名:3(4),8(9)-ジヒドロキシメチル-トリシクロ(5.2.1.02.6)デカン、異性体の混合物)からなる群より選択され、これらは化合物Da又はDiによる更なる鎖延長なしで使用される。別の好ましい実施形態において、オリゴマー性又はポリマー性ジオール、例えばアルキレン基中に2~6個の炭素原子を有するポリアルキレングリコールジオールによって、好ましくは1分子当たり2個のヒドロキシル基を有するポリエステルポリオール又はポリカルボナートポリオールによっても、脂肪族ジオールBhを少なくとも部分的に置き換えることも可能である。
【0023】
第1の実施形態の好ましいバージョンにおいて、マロナート基を含むオリゴマー性エステル又はポリエステルBMは、イソシアナート官能性成分Diと、任意選択で「ポリマー性マイケル供与体における任意選択の成分」において以下に詳述する更なるヒドロキシ官能性成分と一緒に反応させて混合ポリエステル-ポリウレタンを得ることができる。
【0024】
モノマー性マイケル供与体成分
マイケル供与体はまた、酸性C-H基を有するモノマー性ジヒドロキシ官能性成分B2の反応生成物から選択することができ、B2は、C-H酸性水素基を有する、1molの二塩基カルボン酸B22aと2molの少なくとも2価の脂肪族アルコールB22hのヒドロキシ官能性ジエステルB22、例えばビス-2-ヒドロキシエチルマロナート、及びC-H酸性モノカルボン酸B21aでエステル化されたトリオールB21hのモノエステルB21からなる群より選択され、好ましくはトリオールB21hは、同じ炭素原子に結合した少なくとも2個のヒドロキシメチル基を有するB21h、例えばグリセロール及びトリメチロールアルカンアセト酢酸又はシアノ酢酸又はそれらの反応性誘導体、例えばグリセロールモノアセトアセタート、トリメチロールアルカンモノアセトアセタート、又はグリセロールモノシアノアセタート、及びトリメチロールアルカンモノシアノアセタートであり、ここで、トリメチロールアルカンは、トリメチロールエタン、トリメチロール-プロパン、トリメチロールブタン、又はトリメチロールペンタンであってもよく、トリオールB21hは、最初に1molのケトンと反応して、3個のヒドロキシル基のうち2個をブロックするケタールを形成し、次いでエステル化され、エステル化後ケタールは加水分解されてトリオールモノエステルB21、好ましくはグリセロールモノエステル又はトリメチロールアルカンモノエステルを生じる。本発明のポリマーUSの使用のために、これらの化合物B2の2個の分子が、成分Dの少なくとも1個の分子と反応してオリゴマー又はポリマーを形成する必要がある。
【0025】
マロン酸基を含むポリエステルU′EEは、任意選択で他の二官能性酸又はそれ由来の反応性誘導体と一緒に、ジアルキルマロナート又はマロン酸の他の反応性誘導体、及び1分子中に2個のヒドロキシル基を有する有機化合物B22h2又は2種以上のそのような化合物の混合物から、エステル交換によって作製することができる。酸性C-H基を有する他の部分を含むポリエステルU′EEは、4~40個の、好ましくは6~36個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸B22aと、C-H酸性モノカルボン酸B21aでエステル化されたトリオールB21hのモノエステルB21とを重縮合反応させてエステルを形成することによって作製することができ、B22aは好ましくは、アジピン酸、二量体脂肪酸、又は8~12個の炭素原子を有する芳香族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸、イソフタル酸並びに1,4-、2,3-及び2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群より選択され、好ましくはトリオールB21hは、同じ炭素原子に結合した少なくとも2個のヒドロキシメチル基を有するB21h、例えばグリセロール及びトリメチロールアルカン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、及びトリメチロールペンタンであり、これらはC-H酸性モノ-カルボン酸、好ましくはアセト酢酸及びシアノ酢酸又はそれらの反応性誘導体を有し、エステルは例えばグリセロールモノアセトアセタート、トリメチロールアルカンモノアセトアセタート、又はグリセロールモノシアノアセタート、及びトリメチロールアルカンモノシアノアセタートであり、ここでトリメチロールアルカンは、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、又はトリメチロールペンタンであってもよく、トリオールB21hは、最初に1molのケトンと反応して、3個のヒドロキシル基のうち2個をブロックするケタールを形成し、次いでエステル化され、エステル化後ケタールは加水分解されてトリオールモノエステルB21、好ましくはグリセロールモノエステル又はトリメチロールアルカンモノエステルを生じる。
【0026】
この場合、自己乳化ポリエステルU′SEであるポリマーU′Sにおける使用のためには、ポリエステルは、ポリマー鎖に組み込まれる、重縮合プロセスにおいて使用される追加のモノマーに由来する親水性部分、又はポリエステルの末端基、即ちヒドロキシル基又は酸基のいずれかとの反応によってポリマー鎖に結合する部分も含まなければならない。
【0027】
酸性C-H基を有する他の有用なモノマー性モノ-ヒドロキシ官能性成分B1は、酸性C-H基を有する酸、例えばアセト酢酸及びシアノ酢酸又はモノアルキルマロナート、例えば2-ヒドロキシエチルアセト-アセタート、2-ヒドロキシプロピルアセトアセタート、2-ヒドロキシエチルシアノアセタート、及び2-ヒドロキシエチル-モノエチル-マロナートを有する2価アルコールのモノヒドロキシエステルであり、これらでは、ヒドロキシエステルB1がポリマー鎖の末端基になることができる。Dの1個の分子とB1の2個の分子との反応生成物はオリゴマー性マイケル供与体成分として使用することができる。
【0028】
自己乳化性ポリマーUS
自己乳化性ポリマーUSは、それが、ポリマー鎖中の更なる要素として追加的に、官能基としてヒドロキシル基を有する化合物Aの構造エレメント、及び親水性である部分を有するという点で外部乳化ポリマーUEとは異なり、化合物Anに由来する場合、非イオン性、又は化合物Aaに由来する場合、アニオン性であり得、又は化合物Aanに由来する場合、アニオン性及び非イオン性両方のサブ構造を有し得る。これらの構造エレメントは、末端基若しくは側鎖としてのペンディング親水性基、又はポリマー鎖の一部を形成する親水性基を有する。化合物An1は、ポリマー鎖末端に位置され、終端親水性エンティティとなり得るAn11と示される1個のみのヒドロキシル基、又は化合物An1がポリマー鎖に組み込まれてペンダント親水性部分を形成することを可能にするAn12と示される2個以上のヒドロキシル基のいずれかを有する。
【0029】
ヒドロキシ官能性親水性成分Aは好ましくは、
・少なくとも1個、好ましくは2個のヒドロキシル基、及び好ましくは立体障害性である酸基を有する成分Aa、
・アルキル基中に1~4個の炭素原子、及び直鎖若しくは分枝であるアルキレン基中に2~4個の炭素原子、好ましくは直鎖若しくは分枝であるアルキレン基中に2個の炭素原子を有するポリオキシアルキレングリコールのモノアルキルエーテルである成分An1であって、ポリオキシアルキレン基が、
・モノヒドロキシ官能性成分An11を得るための2価アルコール、又は
・ジヒドロキシ官能性、又はより高い官能性成分An12を得るための少なくとも3価のアルコール、好ましくは3価アルコールへのエーテル結合によって残りのヒドロキシル基と結合した、成分An1、
・2個のヒドロキシル基を有するポリオキシアルキレングリコールAn2であって、アルキレン基が直鎖又は分枝であり、アルキレン基中に2~4個の炭素原子、好ましくはアルキレン基中に2個の炭素原子を有する、An2、
・Aa、An11、An12及びAn2のうちの少なくとも2種の、好ましくはAaとAn12との混合物からなる群より選択される。
【0030】
更なる実施形態において、自己乳化性ポリマーUSがポリ-ウレタンである場合において、ポリオキシアルキレングリコールモノエーテルAn01、好ましくはモノアルキルポリエチレングリコールの付加、及び自己乳化性ポリウレタンの合成において三官能性イソシアナートDi3も使用することによって、側方のポリオキシアルキレン鎖を含む親水性基を導入することも可能であり、ここで、Di3の量はAn01の存在を補償するために選択される必要があり、即ち、Di3の物質量がAn01の物質量とおよそ等しい、つまりn(Di3)≒n(An01)であるべきであり、ここで、およそ等しいとは比n(Di3)/n(An01)が0.7≦(Di3)/n(An01)≦1.3であるという意味である。好ましい非イオン性親水性部分は、オリゴマー性又はポリマー性オキシアルキレンエーテルに由来し、ここで、アルキレン基が、2~4個の炭素原子を有し、直鎖若しくは分枝であり、好ましくは2個若しくは3個の炭素原子を有し、又はオキシエチレン部分及びオキシプロピレン部分の両方を有するコポリマーに由来し、最も好ましくはオキシエチレン基のみからなるホモポリマーに由来する。本発明の文脈において、そのようなオリゴマーは最大10個までの繰返し単位を有し、そのようなポリマーは少なくとも11個の繰返し単位を有する。非イオン性親水性基は、例えば1個のヒドロキシル基を鎖の各末端に有するポリオキシエチレンジオールの場合におけるように、ポリマー鎖の一部を形成することができるか、又は非イオン性親水性基は、ポリオキシエチレン鎖の一方の末端で互いに近くにある少なくとも2個のヒドロキシル基が存在し、且つ鎖の他方の末端に反応性ヒドロキシル基は存在しないペンディング基であり得る。
【0031】
そのような非イオン性親水性部分は、官能基としてヒドロキシル基を有し集合的にAnhと呼ばれるAn11及びAn12の両方若しくはAn2を含む非イオン性親水性化合物An1の反応によって、又は、ヒドロキシル基と反応して、USのポリマー鎖中にエステル結合若しくはウレタン結合を形成する官能基を有する非イオン性親水性化合物Anfの反応によって、ポリマーへと導入することができる。
【0032】
好ましい非イオン性親水性化合物An12は、モノヒドロキシ官能性オリゴマー性又はポリマー性オキシアルキレンアルキルエーテルを有する4~10個の炭素原子を有するトリメチロールアルカンのジヒドロキシ官能性モノエーテルであり、ここで、アルキル基は好ましくは1~4個の炭素原子を有し、アルキレン基は2~4個の、好ましくは2~3個の、特に好ましくは2個の炭素原子を有し、又はAn12は、ランダム共重合体若しくはブロック共重合体の形態での、オキシエチレン単位及びオキシプロピレン単位を有するコポリマーであり得る。特に好ましいのは、式
R-O-(CH2-CH2-O-)n-O-CH2-C(R′)(CH2OH)2
[式中、
Rは、好ましくは1~4個の炭素原子を有する、アルキル基、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、及びtert-ブチルからなる群より選択され、特に好ましくはメチルであり、
R′は、H、又は1~7個の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、及びn-ブチルであり、
nは少なくとも5の、好ましくは10~50の整数である]
のエーテルである化合物An12である。
【0033】
ポリマーUS中のAn12の量は好ましくは、ポリマーUS全体におけるオキシアルキレン、特にオキシエチレンの量が、5~50重量%、より好ましくは10~30wt%、最も好ましくは12~20wt%である量である。
【0034】
ポリマーUS中のAn12の量は好ましくは、ポリマーUS全体におけるオキシアルキレン、特にオキシエチレンの量が、酸性C-H基の1mol当たり5~150g、より好ましくは10~100g、最も好ましくは酸性C-H基の1mol当たり10~75gであるような量である。
【0035】
ポリウレタンにおけるこれらの非イオン性乳化性部分の使用により、ポリウレタンを水分散性にするために通常使用されるヒドロキシカルボン酸又はアミノスルホン酸の導入を回避することが可能になる。これらの非イオン性親水性剤と前記ヒドロキシカルボン酸又はアミノスルホン酸Aaとの、特にビス-ヒドロキシメチルプロピオン酸との組み合わせが良好に作用すること、及び、非イオン性とアニオン性親水化との混合が使用される場合、そのような親水性剤の物質量が低減され得ることも見出された。
【0036】
直鎖又は分枝のジヒドロキシポリオキシアルキレングリコールに基づくポリエーテルポリオールをポリマー鎖に導入することも可能である。特に好ましいのは、500g/mol~4000g/molのモル質量を有するポリ-オキシエチレングリコールである。
【0037】
好ましいアニオン性親水性部分は、少なくとも1個のアニオン性基、又は、アニオン性基を有する化合物に由来して、塩形成(中和)によってアニオン性基に変換され得るか、若しくはアルカリ性物質と反応する場合アニオン性基を形成することが可能な、少なくとも1個の基を有するものである。この部分をポリマーに組み込んで末端基を形成するために、1個の更なる反応性基が化合物Aa中に必要とされ、非終端位置におけるポリマー鎖にこれらの部分を組み入れるために必要な基に加えて、ポリマー鎖への組み込みのために2個の更なる反応性基が必要とされる。更なる反応性基は好ましくはヒドロキシル基又はアミノ基であり、ヒドロキシル基は酸官能性成分Daと反応してエステル結合を形成することができるか、又はイソシアナート官能基Diと反応してウレタン結合を形成することができ、アミノ基は第一級若しくは第二級であってもよく、酸官能性成分Daと反応してアミド結合を形成することができるか、又はイソシアナート官能基Diと反応してウレア結合を形成することができる。したがって、好ましい化合物Aaは、1個又は好ましくは2個のヒドロキシル基を有するヒドロキシ酸Ahaであり、酸基は好ましくはカルボキシル基-C(O)-OH、例えば2,2-ビス-ヒドロキシメチル酢酸及びその同族体、又はスルホン酸基-S(O2)-OHであり、1個若しくは2個の第一級及び/若しくは第二級アミノ基を有するアミノ酸Aaa、例えば2-アミノエチル-2-アミノエタンスルホン酸である。
【0038】
これらのポリマーUSは好ましくは、マイケル供与体として1分子当たり平均で少なくとも1個の酸性C-H基と、1分子当たり少なくとも2個のヒドロキシル基とを有するヒドロキシ官能性成分Bと、成分Bのヒドロキシル基と反応する少なくとも二官能性の成分Dと、追加的にポリマー鎖に組み入れることができる化合物Aとから作製され、ヒドロキシ官能性成分Ahが使用される場合においてはそれらのヒドロキシル基と成分Dの官能基との反応によって、ヒドロキシル基と反応することができる成分Afが使用される場合においては、成分Bのヒドロキシル基と反応することができる官能基の反応によって、重付加又は重縮合下にて、集合反応又は連続反応又は混合反応によって作製される。
【0039】
少なくとも1個のヒドロキシル基及び少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aは、上に定義するマイケル供与体基を有するポリマー性ヒドロキシ官能性成分B、及び上に定義するモノマー性、オリゴマー性又はポリマー性の少なくとも二官能性の成分Dから作製されるポリマーに組み入れられ、成分Dは、重付加又は重縮合下にて、集合反応又は連続反応又は混合反応によって、成分Bのヒドロキシル基と反応する。ヒドロキシ官能性成分Aは、親水性であるポリオキシアルキレン、好ましくはポリオキシエチレン、及びブロック共重合体として又はランダム共重合体としてオキシエチレン部分及びオキシプロピレン部分を含むコポリマーに由来するジヒドロキシ化合物であり得る。特に好ましいのは、ポリマー合成中に、終端ヒドロキシル基と成分Dとの反応によってポリマーUSに組み入れることができるポリオキシエチレンジオールである。必要とされる親水性を提供するための非常に効率的な方法は、1個のみのヒドロキシル基がポリオキシエチレン鎖とのエーテル結合の一部であるトリメチロールアルカンの反応生成物Ayの使用であり、ポリオキシエチレン鎖の他方の終端ヒドロキシル基は、好ましくはC1-~C4-アルキル基とエーテル化されており、エトキシ化工程の間一時的に保護されていたトリメチロールアルカンの残りの2個のヒドロキシル基はこの化合物Ayをポリマー鎖に組み入れる役目を果たす。トリメチロールアルカンとして、好ましくはトリス-ヒドロキシメチルメタン、2,2-ビスヒドロキシメチルプロパン-1-オール、2,2-ビスヒドロキシメチルブタン-1-オール、及び2,2-ビスヒドロキシメチル-ペンタン-1-オールが使用される。これらの親水性修飾剤Ayは、上に言及するジヒドロキシカルボン酸Aaと組み合わせることができ、ここで、これら2種類の親水性剤間の相乗効果が確認されている。
【0040】
アニオン性ヒドロキシ官能性化合物Ahaと非イオン性化合物Anhとの混合物が相乗的な挙動を示すこと、即ち、AhaとAnhとの混合物の質量の総和が、反応において同じ所望の親水性を達成するための1種の成分Aha又はAnh単独の質量より低いことが見出された。そのような組み合わせから生成されるコーティング膜の親水性の低減によって、室温及び高温度での耐湿性が向上されることも見出された。
【0041】
ポリマー性マイケル供与体における任意選択の成分
任意選択で、更なるヒドロキシ官能性成分B"に由来する部分も、ポリマーUSのポリマー鎖中に存在することができる。これらの更なるヒドロキシ官能性成分B"は、ポリマー性であり得、例えば脂肪族又は芳香族ジカルボン酸BEaと有機ジヒドロキシ化合物BEhから作製されるポリエステルジオールBE、好ましくは直鎖若しくは分枝の脂肪族若しくは脂環式ジオール、並びにジアルキルカルボナート、アルキレンカルボナート及びカルボニルハロゲン化物を含む炭酸の反応性誘導体と有機ジヒドロキシ化合物BEhから作製されるポリカルボナートジオールBC、好ましくは4~10炭素原子を有する直鎖若しくは分枝の脂肪族若しくは脂環式ジオールであり得る。
【0042】
これらの追加の部分は、ポリマーUSの合成において、更なるヒドロキシ官能性成分B"を使用することによって組み入れられ、B″は好ましくは、600g/molを超えないモル質量を有する低モル質量脂肪族直鎖、分枝若しくは環式ジヒドロキシ化合物B"h、ジアルキルカルボナート、アルキレンカルボナート及びカルボニルハロゲン化物を含む炭酸反応性誘導体と有機ジヒドロキシ化合物BEhから作製され、好ましくは4~10炭素原子を有する直鎖若しくは分枝の脂肪族若しくは脂環式ジオールであるポリカルボナートジオールBC、並びに/又は芳香族若しくは脂肪族の直鎖、分枝若しくは環式ジカルボン酸B"a若しくはそれらの無水物と脂肪族直鎖、分枝若しくは環式ジヒドロキシ化合物BEhとの重縮合によって作製される600g/molより高いモル質量を有するポリエステルジオールBEから選択され、ここで、ポリエステルジオールBE及びポリカルボナートジオールBCを調製するための重縮合反応における化学量論は、ヒドロキシル末端基の形成を確実にするために、ヒドロキシル基の物質量がカルボキシル基又は炭酸基の物質量より常に大きいように選択される。
【0043】
1分子当たり少なくとも2個のヒドロキシル基を有するヒドロキシ官能性成分B"hは好ましくは、少なくとも2個の炭素原子、好ましくは40個以下の炭素原子を有する脂肪族直鎖、分枝若しくは環式ジオール、好ましくはエチレングリコール、1,2-及び1,3-ジヒドロキシプロパン、1,2-、1,3-及び1,4-ジヒドロキシブタン、1,5-ジヒドロキシ-ペンタン、ネオペンチルグリコール、1,6-ジヒドロキシヘキサン、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、1,2-及び1,8-ジヒドロキシオクタン、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、1,2-及び1,12-ドデカンジオール、1,2-及び1,-16-ヘキサデカンジオール、1,2-及び1,18-オクタデカンジオール、並びに水素化によって二量体化脂肪酸から作製された二量体ジオールからなる群より選択される。
【0044】
ポリマー性マイケル供与体のための全般的考察
ポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量は通常少なくとも1mol/kg又は更に少なくとも1.8mol/kgである。ポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量は、好ましくは少なくとも1.2mol/kg、より好ましくは少なくとも1.4mol/kg、最も好ましくは少なくとも2.0mol/kg、更により好ましくは少なくとも2.5mol/kgである。ポリマーUS中の酸性C-H基の量の大部分は、好ましくはマロナート部分に由来する。マロナート部分から与えられるポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量は、好ましくは少なくとも0.5mol/kg、より好ましくは少なくとも1.0mol/kg、最も好ましくは少なくとも1.5mol/kg、更により好ましくは少なくとも1.9mol/kgである。
【0045】
ポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量は、好ましくは12.5mol/kgを、より好ましくは10.0mol/kgを超えない。
【0046】
ポリマーUSは、より好ましくは少なくとも700g/molの、最も好ましくは少なくとも1400g/molの数平均モル質量を有する。ポリマーUSのモル質量は通常、5000g/molを超えない。
【0047】
ポリマーUSは、より好ましくは少なくとも2000g/molの質量平均モル質量を有する。ポリマーUSの質量平均モル質量は通常、20000g/molを超えない。
【0048】
ポリマーUSは好ましくは、ポリマー鎖中にエステル基-C-O-C(O)-C-を有する自己乳化されたポリエステルUE(UES)であり、エステル基は、1分子当たり少なくとも2個のヒドロキシル基を有するポリマー性ヒドロキシ官能性化合物Bから、及び1分子当たり少なくとも2個の酸基(酸基は好ましくはカルボン酸基-C(O)-OHである)若しくは1分子当たり少なくとも1個の酸無水物基を有する酸官能性化合物Daから、重縮合反応において、又は1分子当たり少なくとも1個のヒドロキシル基及び1分子当たり少なくとも1個のカルボン酸基を有する化合物Bbから重縮合反応において、形成され得る。ポリマーUSは好ましくは、マロン酸Bmのアルキルエステルとヒドロキシ官能性成分Dhからのエステル交換反応において形成されたエステル基を有する自己乳化されたポリエステルUE(UES)であり、Dhは好ましくはポリエステルポリオール及び/又はより好ましくは5~15個の炭素原子を有する1個又は複数個の脂環式ジオール又は分枝脂肪族ジオールBhであり、ここで、少なくとも1個は最も好ましくは、ネオペンチルグリコール、1,2-、1,3-及び1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2-sec-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2-ブチル-2-エチル-プロパンジオール-1,3、2-エチル-プロパン-ジオール-1,3,2-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2,6-ビスヒドロキシメチルデカヒドロナフタレン、及びTCDアルコールの異性体混合物(トリシクロデカンジメタノール又はオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-ジメタノール、系統名:3(4),8(9)-ジヒドロキシメチル-トリシクロ(5.2.1.02.6)デカン、異性体の混合物)からなる群より選択される。
【0049】
別のより好ましいポリマーUSは、ポリマー鎖中にウレタン基-C-N(H)-C(O)-O-C-を有する自己乳化されたポリウレタンUU(UUS)であり、ウレタン基は、1分子当たり少なくとも2個のヒドロキシル基を有するヒドロキシ官能性ポリマー性化合物Bから、及び1分子当たり少なくとも2個のイソシアナート基を有するイソシアナート官能性化合物Diから、重付加反応において形成される。有用なマイケル供与体基はマロン酸化合物に、アセト酢酸化合物に、シアノ酢酸化合物に、及びアセトアミド化合物に由来する。重合のために少なくとも二官能性の要素が必要とされ、コーティング膜の架橋のためにバインダー組成物の1分子当たり2個より多い反応性基が必要とされる。硬度及び耐化学性及び耐溶剤性のために必要な架橋の程度と、高すぎる架橋の程度に起因する膜の脆性を回避することとの間でバランスを見出さなければならない。
【0050】
上に言及したように、2段階反応におけるDa及びDiの使用も好ましい実施形態であり、好ましくは、最初にDaを使用して、ヒドロキシ官能性分子Bを単独で又は任意選択の成分の1種若しくは複数種と一緒に、互いに結合させてヒドロキシ官能性ポリエステルを構築し、次いでポリエステル-ウレタンの形成下、ポリエステルを単独で又は任意選択の成分の1種若しくは複数種と一緒に、Diと反応させる。
【0051】
優先的に、自己乳化性ポリマーUSの合成において使用されるように、Daは、オリゴマー性又はポリマー性ヒドロキシ官能性成分Bと、任意選択でヒドロキシ官能性且つ親水性である化合物Aと、反応することが可能な二塩基酸の反応性誘導体である。酸無水物を使用すると酸基を生成するため、この場合、酸の他の反応性誘導体、特にイソプロペニルエステル又は他のエノールのエステルを使用することが好ましく、これらはイソプロペノール分子として分解し、その互変異性形態であるアセトンに直ちに変換し、これは蒸留によって除去することができる。このように、マイケル反応の塩基性触媒反応を妨げる酸基が生成されることはない。
【0052】
化合物Diは好ましくは、ポリウレタンの形成に関して周知であるジイソシアナートである。一般的に使用されるジイソシアナートは、4~20個の炭素原子を有する脂肪族イソシアナート、好ましくは1,4-ジイソシアナトブタン、1,6-ジイソシアナトヘキサン、脂環式ジイソ-シアナート、例えばイソホロンジイソシアナート、1,4-シクロヘキサンジイソシアナート、ビス-(4-イソシアナト-ヘキシル)メタン、及び芳香族ジイソシアナート、例えばテトラメチルキシリレンジイソシアナート、トルエンジイソシアナート、及びビス-(4-イソシアナトフェニル)メタンである。低モル質量の化合物のみがこのように合成される場合、三官能性又はより高い官能性のイソシアナートDi3を単独で又は二官能性ジイソシアナートDi2との組み合わせで、ゲル形成及び早期の架橋のおそれに至らない量で使用することも可能であり、その量は各個別の場合に対する実験によって見出される必要がある。
【0053】
優先的に、ポリマーUSの合成のために、特にウレタン基を含有するもののために使用されるポリマー性ヒドロキシ官能性成分Bは、
・-CO-CH2-CO-として算出して70.05g/molのモル質量を有し、質量分率が少なくとも7%、より好ましくは少なくとも15%であるマロナート部分を含むポリエステルポリオールB1、
・1分子当たり少なくとも3個のヒドロキシル基を有する多官能性ヒドロキシ化合物B3に由来する繰返し単位を有するポリエーテルポリオールB21又はポリエステルポリオールB22であって、ヒドロキシル基のうちの少なくとも1個は反応してベータ-ケト酸、好ましくはアセト酢酸のエステル、又はカルボン酸基に対してベータ位にある電子求引基を有する脂肪酸、好ましくはシアノ酢酸のエステルを形成している、ポリエーテルポリオールB21又はポリエステルポリオールB22、
・アセトアセトアミドに由来する基を含むポリアミドポリオールB4、並びに
・B1、B21、B22及びB4のうちの2種以上の混合物からなる群より選択される。
【0054】
一般に、石油化学系モノマーに対する代替物として、バイオベースモノマーの使用も好ましい。好ましくはイソソルビド又は他のジアンヒドロヘキシトールをポリエステルの合成のためにヒドロキシ官能性成分として使用することができる。好ましくは二量体脂肪酸をポリエステルの合成のためにジカルボン酸として使用することができる。好ましくは、水素化によって二量体化脂肪酸から作製された二量体ジオールをポリエステルの合成のために使用することができる。石油化学系ジアルキルマロナートの代わりに、好ましくは、糖及びCO2から出発した、酸耐性酵母を使用する微生物プロセスによって調製されたバイオベースグレード(biobased grade)のジアルキルマロナートを使用することができる。
【0055】
本発明の第1の好ましいバリアントによれば、マイケル供与体基を含むポリマーUSは、繰返し単位としてウレタン基、少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、且つマロナート部分に由来する、少なくとも0.5mol/kgの酸性C-H基の特定の物質量を含有する、自己乳化性ポリマーUSである。それらの好ましいポリマーはまた、好ましくは繰返し単位としてエステル基を含有する。ヒドロキシ官能性成分Aは、好ましくは成分An12から、任意選択で上述されるような1種又は複数種の成分Aaの存在下で選択される。
【0056】
このバリアントにおいて、酸性C-H基の特定量は、より好ましくは少なくとも1.2mol/kgの、最も好ましくは少なくとも2.0mol/kgの量である。酸性C-H基は好ましくはマロナート部分に由来する。
【0057】
それらの好ましいポリマーは、好ましくは、ポリエステルポリオールであり酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分B、より好ましくはポリエステルBMを、上述されるようなヒドロキシ官能性成分A及びイソシアナート官能性化合物Diと、任意選択で上述されるような1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分B"と、特に低モル質量のジヒドロキシ化合物B"h及び/又はポリカルボナートジオールBC及び/又はポリエステルジオールBEと、反応させることによって得られる。
【0058】
成分Aをヒドロキシ官能性成分Bに少なくとも部分的に組み入れることも可能である。
【0059】
本発明のこの第1のバリアントにおいて、酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分Bとして使用されるポリエステルポリオールは、好ましくは少なくとも-50℃、より好ましくは少なくとも-25℃、より好ましくは少なくとも0℃のガラス転移温度Tgを有するポリエステルポリオールである。
【0060】
本発明のこの第1のバリアントによる、マイケル供与体基及び繰返し単位としてウレタン基を含むポリマーUSは、好ましくは少なくとも5000g/molの、好ましくは少なくとも8000g/molの質量平均モル質量を有する。質量平均モル質量は、好ましくは15000g/molを、より好ましくは12000g/molを超えない。
【0061】
この第1のバリアントのこのポリマーUS中のAn12の量は好ましくは、ポリマーUS全体におけるオキシアルキレン、特にオキシエチレンの量が、5~50重量%、より好ましくは10~30wt%、最も好ましくは12~20wt%である量である。このポリマーUS中のAn12の量は好ましくは、ポリマーUS全体におけるオキシアルキレン、特にオキシエチレンの量が、酸性C-H基の1mol当たり5~150g、より好ましくは10~100g、最も好ましくは酸性C-H基の1mol当たり10~75gであるような量である。
【0062】
本発明の第2の好ましいバリアントによれば、マイケル供与体基を含むポリマーUSは、繰返し単位としてエステル基、少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、且つマロナート部分に由来する、少なくとも0.5mol/kgの酸性C-H基の特定の物質量を含有する、自己乳化性ポリマーUSである。ヒドロキシ官能性成分Aは、好ましくは成分An12から、任意選択で上述されるような1種又は複数種の成分Aaの存在下で選択される。
【0063】
それらの好ましいポリマーは、好ましくは、上述されるようなマロン酸Bmのアルキルエステルを、ヒドロキシ官能性成分A及び1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分Dhと、任意選択で上述されるような1種又は複数種のヒドロキシ官能性成分B"と、特に低モル質量のジヒドロキシ化合物B"hと、反応させることによって得られる。
【0064】
特に好ましいのは、ジアルキルマロナートBm、特に1~4個の炭素原子のアルキル基を有するもの、例えばジメチルマロナート、ジエチルマロナート、ジ-n-プロピルマロナート、ジイソプロピル-マロナート、ジ-n-ブチルマロナート、及びジイソブチルマロナートである。
【0065】
このバリアントにおいて、ポリマーUS中の酸性C-H基の特定量は、より好ましくは少なくとも2.0mol/kgの、最も好ましくは少なくとも5.0mol/kgの量である。酸性C-H基は好ましくはマロナート部分に由来する。
【0066】
このバリアントにおいて、好ましい成分Dhはポリエステルポリオール及び/又は脂環式ジオール若しくは分枝脂肪族ジオールBhであり、特に好ましい成分Dhは、5~15個の炭素原子を有する脂環式ジオール若しくは分枝脂肪族ジオールBhであり、ここで、少なくとも1個は好ましくは、ネオペンチルグリコール、1,2-、1,3-及び1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2-sec-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2-ブチル-2-エチル-プロパンジオール-1,3、2-エチル-プロパン-ジオール-1,3、2-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2,6-ビスヒドロキシメチルデカヒドロナフタレン、及びTCDアルコールの異性体混合物(トリシクロデカンジメタノール又はオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-ジメタノール、系統名:3(4),8(9)-ジヒドロキシメチル-トリシクロ(5.2.1.02.6)デカン、異性体の混合物)からなる群より選択される。
【0067】
それらの好ましいポリマーは、上述されるようなマロン酸Bmのアルキルエステルを、前記ヒドロキシ官能性成分Aを含むポリエステルポリオールと反応させることによっても得ることができ、前記成分Aを、1分子当たり少なくとも2個の酸基(酸基は好ましくはカルボン酸基-C(O)-OHである)又は1分子当たり少なくとも1個の酸無水物基を有する1種又は複数種の酸官能性化合物と、任意選択で上述されるような1種又は複数種のヒドロキシ官能性成分B"、特に低モル質量のジヒドロキシ化合物B"hと、反応させることによって得られる。酸官能性化合物は、好ましくは少なくとも4個且つ12個以下の炭素原子を有する脂肪族二酸、芳香族二酸、脂肪族無水物又は芳香族無水物であり、より好ましくはコハク酸、アジピン酸、1,2-、1,3-及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、又はそれらの無水物からなる群より選択される。
【0068】
本発明のこの第2のバリアントによる、マイケル供与体基及び繰返し単位としてエステル基を含むポリマーUSは、好ましくは少なくとも1500g/molの、好ましくは少なくとも2000g/molの質量平均モル質量を有する。質量平均モル質量は、好ましくは7500g/molを、より好ましくは5000g/molを超えない。
【0069】
この第2のバリアントのこのポリマーUS中のAn12の量は好ましくは、ポリマーUS全体におけるオキシアルキレン、特にオキシエチレンの量が、5~50重量%、より好ましくは10~30wt%である量である。このポリマーUS中のAn12の量は好ましくは、ポリマーUS全体におけるオキシアルキレン、特にオキシエチレンの量が、酸性C-H基の1mol当たり5~150g、より好ましくは10~100g、最も好ましくは酸性C-H基の1mol当たり10~75gであるような量である。
【0070】
本発明による自己乳化性ポリマーUSは水に分散してもよい。
【0071】
本発明による水性ポリマー分散体は、本発明による1種又は複数種の自己乳化性ポリマーUSを、任意選択で1種又は複数種の他の成分を含有する水に分散させることによって得られる。
【0072】
マイケル受容体
コーティング組成物において、マイケル供与体基又はポリマーUSの水性ポリマー分散体を含む自己乳化性ポリマーUSは、以下「マイケル受容体」MAと呼ばれる第2の成分と組み合わされ、MAは式
【化2-1】
の少なくとも2個の活性化オレフィン性不飽和基を有する少なくとも1種の有機化合物であり、
ここで、
【化2-2】
はオレフィン性不飽和基のうちの1つであり、「EWG」は「電子求引基」を表す。マイケル受容体はモノマー性、オリゴマー性又はポリマー性化合物であり得、本発明の範囲内で、同じポリマーがマイケル供与体基及びマイケル受容体基の両方を担持することがあることも可能である。
【0073】
本発明において、マイケル受容体基の付加は、通常、ポリマーUSの合成において、少なくとも1個の、好ましくは2個のヒドロキシル基、及び少なくとも1個の活性化オレフィン性不飽和基を有する更なる要素Eを使用することによって、ポリマーUSの骨格に化学結合したマイケル受容体基を付加することによって行うことができる。
【0074】
マイケル受容体基の付加はまた、マイケル受容体基を担持するポリマーUSとは異なる担体化合物によって、好ましくはポリマーUSのポリマー分散体中で共乳化された又はそれとブレンドされたオリゴマー性又はポリマー性担体化合物に対して、好ましくは行うことができる。マイケル受容体基の付加は、両方の組み合わせ、即ちポリマーUSの骨格に化学結合したマイケル受容体基、及びポリマーUSとは異なる担体化合物に化学結合したマイケル受容体基を付加することによっても行うことができる。
【0075】
したがって、適切な成分MAは、好ましくはカルボニル基、カルボン酸基、シアノ基又はニトロ基であるEWGによって炭素-炭素二重結合が活性化されているエチレン性不飽和成分である。そのような成分の代表的な例は、US2,759,913A、6欄35行~7列45行、DE835809B、3欄16~41行、US4,871,822A、2欄14行~4欄14行、US4,602,061A、3欄14行~4欄14行、US4,408,018A、2欄19行~68、及びUS4,217,396A、1欄60行~2欄64行において開示されている。これらの中でも、アクリラート及びマレアートが好ましい。最も好ましくは、成分MAは不飽和アクリロイル官能性成分である。適切な成分MAの第1の好ましい群は、2~6個のヒドロキシル基及び1~20個の炭素原子を有するヒドロキシ官能性化合物のアクリル酸エステルである。これらのエステルは、任意選択でヒドロキシル基を含有してもよい。特に好ましい例は、ヘキサンジオールジアクリラート、トリメチロールプロパントリアクリラート、ペンタエリトリトールトリアクリラート、及びジ-トリメチロールプロパンテトラアクリラートを含む。
【0076】
化合物の更に好ましい群は、マレイン酸、フマル酸、及び/又はイタコン酸、及び存在する場合それらの無水物、並びに二価又は多価ヒドロキシル化合物に基づき、任意選択で少量の一価ヒドロキシル及び/又はカルボキシル化合物も含む、ポリエステルである。なお更に好ましい群はポリエステル類、ポリウレタン類、ポリエーテル類、及び/又はペンダント活性化不飽和基を含有するアルキド樹脂類である。これらは、例えば、ポリイソシアナートと、ヒドロキシル基含有アクリル酸エステル、例えばアクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、又は化学量論量未満のアクリル酸を有するポリヒドロキシル成分のエステル化によって調製される成分との反応によって得られるウレタンアクリラート類;ヒドロキシル基含有ポリエーテルとアクリル酸とのエステル化によって得られるポリエーテルアクリラート類;ヒドロキシアルキルアクリラートとポリカルボン酸及び/又はポリアミノ樹脂との反応によって得られる多官能性アクリラート類;アクリル酸とエポキシ樹脂との反応によって得られるポリアクリラート類;並びにモノアルキルマレアートエステルとエポキシ樹脂及び/又はヒドロキシ官能性オリゴマー若しくはポリマーとの反応によって得られるポリアルキルマレアート類を含む。
【0077】
最も好ましい活性化不飽和基含有成分MAは、アクリロイル官能性化合物である。活性化不飽和基含有成分の酸価が、触媒の活性を実質的に障害しないように十分に低い、好ましくは約20mg/g未満、最も好ましくは15mg/g未満であることも特に好ましい。これら及び他の活性化不飽和基含有化合物並びにそれらの生産方法は一般に当業者に公知である。
【0078】
好ましくは、官能性、即ち1分子中の活性化オレフィン性不飽和基の数は、2~20個である。化合物MAの数平均モル質量Mnは好ましくは200g/mol~5000g/molの間である。化合物MA中のオレフィン性不飽和基の特定の物質量は、好ましくは0.5mol/kg~12mol/kg、数平均モル質量と1分子当たりの反応性官能基の数との比であり80g/mol~2000g/molである「当量」に対応する。
【0079】
有用なマイケル受容体は、電子求引基によって活性化された炭素-炭素二重結合を有する少なくとも二官能性のオレフィン性不飽和化合物である。任意選択でアルコキシル化された多官能性アルコールを有するオレフィン性不飽和カルボン酸のエステル、又はオレフィン性不飽和カルボン酸のエステルを含むオリゴマー性化合物、特にアクリル酸のエステルが好ましい。官能性部分として好ましくはアクリロイル官能基を有するマイケル受容体は、オレフィン性不飽和カルボン酸、特にアクリル酸と完全にはエステル化していない多価アルコールのエステルを、イソシアナート官能性ポリウレタンプレポリマーに付加することによって、ポリウレタンに導入することができる。そのような部分的なエステルの例は、ヒドロキシエチルアクリラート、ペンタエリトリトールトリアクリラート及びジペンタエリトリトールペンタアクリラート、又はアルコキシル化多価アルコール由来のアクリル酸エステルであり、これらは、モノヒドロキシ化合物が使用される場合、鎖末端のマイケル受容体基の濃縮をもたらす。更なるマイケル受容体は、グリシジルエーテルとオレフィン性不飽和カルボン酸との反応生成物を加えることによってポリマーUSに導入することができる。好ましくはこれらのマイケル受容体化合物は、2個以上のヒドロキシ基を含有し、したがって、主鎖に沿ってポリマーUSへと反応する。最も好ましくは、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリラートが使用される。
【0080】
別の実施形態は、マイケル受容体基、また好ましくはアクリロイル基を有する樹脂化合物の付加を含む。これらは、酸性C-H基を有する本発明によるポリウレタンと一般に適合性があるアクリロイル基を含むポリウレタンを含む。アクリロイル官能基を有するオリゴマー性化合物、特に、アクリル酸とのエステル化の前にアルコキシル化されていてもよい、部分的にアクリル化された多価アルコールの反応生成物に基づくものを加えることも可能である。
【0081】
別の好ましい実施形態において、マイケル受容体基は、ポリマーUSとは異なる担体化合物に、好ましくはオリゴマー性又はポリマー性のエーテル又はウレタン化合物、例えばポリヒドロキシポリエーテル又はポリヒドロキシウレタンに化学結合しており、担体化合物はポリマーUSの分散体中で共乳化されているか又はそれとブレンドされている。なお更に好ましい実施形態において、マイケル受容体基を有する担体分子、及び自身の骨格に化学結合しているマイケル受容体基を有するポリマーUSの両方は、バインダー分散体中で組み合わせることができる。これらの系は、ポリマーUSの合成中に、完全にエステル化したポリヒドロキシ化合物と部分的にエステル化したポリヒドロキシ化合物との混合物を付加することによって調製することができ、ここで、エステル化はオレフィン性不飽和カルボン酸、好ましくはアクリル酸によってもたらされる。そのような混合物はまた、市販されており、例えばペンタエリトリトールトリアクリラート及びペンタエリトリトールテトラアクリラートの混合物である。本発明における特に適切なマイケル受容体化合物MAは、水性エネルギー硬化性組成物、特に水分散性ウレタンアクリラートである。そのような成分は、(1)少なくとも1種のポリイソシアナート、(2)イソシアナート基との反応が可能であり、ポリマーを水に分散可能にする少なくとも1個の反応性基を含有する少なくとも1種の親水性化合物、(3)イソシアナート基及び少なくとも1種のエチレン性不飽和基との反応が可能である少なくとも1個の反応性基を含有する少なくとも1種の化合物、(4)任意選択で少なくとも1種のポリオール、例えば(4a)脂肪族、脂環式又は芳香族ポリオール、(4b)ポリエステルポリオール、(4c)ポリエーテルポリオール、(4d)ポリカルボナートポリオール、(4e)ポリアクリル酸ポリオール、(4f)ポリビニルポリオール、(4g)ポリシロキサンポリオール、(5)任意選択で、イソシアナート基と反応が可能である少なくとも1個の第一級又は第二級アミン官能基を含有する少なくとも1つの鎖キャップ剤(chain capper)又は鎖延長剤の反応から調製することができる。水分散性ウレタンアクリラートポリマーは典型的に、溶媒を用いて又は用いずに、所望のポリマー構造、及びそれに続く反応物の化学量論(即ちイソシアナート/ヒドロキシル及びアミンの比)を考慮に入れた中温から高温まで(35~100℃)で作用する多段階プロセスによって得られ、より高い温度でのアロファナート及びビウレット形成の制御を使用して、分子量及びポリマーの分枝を増大させることができる。反応は典型的に、触媒及びラジカル阻害剤を含む通常の重合助剤を用いて進行し、典型的には組成物はスズを含まない。プロセス溶媒が使用される場合において、プロセス溶媒は中温(40~60℃)にて水に分散後、減圧下、生成物からストリッピングすることができる。
【0082】
ウレタンアクリラートの水性分散体が、マロナート塩を生成し、熱架橋を誘導することができる潜在性塩基触媒の作用を妨げる酸性プロトンを限定量含有していることは望ましい。したがって、非イオン性ポリマーの安定化が好ましいが、酸性形態がその共役塩基に対して少ないという条件で、有利には部分的アニオン性ポリマーの安定化とバランスを取ることができる。アニオンの安定化の程度は、ポリマーが非イオン性水可溶化基を含有する場合、低減することができる。イソシアナート基との反応が可能であり、ポリマーを水に分散可能にする少なくとも1個の反応性基を含有する親水性化合物(2)は、好ましくは、ポリマー分散体の最適な粒径及び良好なコロイド安定性を確実にするアニオン性及び非イオン性種の両方から構成される。しかしながら、完全な非イオン性ポリマー安定化は可能である。ポリマー中に構築された酸性基を塩に変換するために必要とされることがある中和剤は、揮発性有機塩基(例えばトリエチルアミン)又は不揮発性無機塩基(例えば水酸化ナトリウム)のいずれかであり、後者は、膜形成全体にわたって且つその後に、ポリマーに結合したままであるという特殊性を有する。カルボキシラート塩、スルホナート塩、又はホスホナート塩の形態で存在する得られるアニオン性官能性は通常、0~40mgKOH/gの間、好ましくは2~20mgKOH/gの間、より好ましくは4~10mgKOH/gの間、最も好ましくは6~8mgKOH/gの間である。好ましくはポリアルキレンオキシドセグメントの形態で存在する非イオン性官能性は通常、全ポリマー要素基準で重量分率として表される0~30%の間、好ましくは6~18%の間、より好ましくは8~16%の間、最も好ましくは10~14%の間である。ポリアルキレンオキシドは、200~20,000ダルトンの間、好ましくは500~5,000ダルトンの間、より好ましくは500~2,500ダルトンの間、最も好ましくは500~1,500ダルトンの間の分子量を有する、ランダム又はブロックのいずれかのホモポリマー又はコポリマーであり得、ポリアルキレンオキシドは、好ましくは500~1,500ダルトンの間の分子量を有するポリエチレンオキシドである。ポリエチレンオキシドは好ましくは、自身の親水性部分をポリウレタン主鎖のペンダント鎖として配向することが可能な1,3-ジオールとして使用され、テレケリックポリエチレンオキシドジオール又はその当量のポリエステルジオール、ポリカルボナートジオール又は他の関連ポリマーとは反対である。特に、YMER(登録商標)N120(Perstorp)として公知のアルファ-(2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブチル)-オメガ-メトキシ-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)モノマーとジメチロールプロピオン酸との重量比は通常、1:0~0:1の間に、好ましくは5:1~15:1の間に、最も好ましくは8:1~12:1の間に、最も好ましくは9:1に固定されている。非イオン性及びアニオン性ポリマーの安定化は同じポリマー上に、又は別々のポリマー中に存在することができ、この構造は、pHに応じて最終分散体の粘度上昇を制御し限定するという利点を有する。本発明のウレタンアクリラートポリマーは、1meg/gを超える、好ましくは2meq/gを超える、より好ましくは3meq/gを超える、最も好ましくは4meq/gを超える、最も好ましくは5meq/gを超える、(メタ)アクリラート化官能性の程度によって更に特徴付けられる。
【0083】
ウレタンアクリラートの最終分散体組成物は、本発明の枠組みにおいて、7を超える、好ましくは8を超える、最も好ましくは9を超える、最も好ましくは10を超えるpHを示すことが望ましい。この最終分散体の粘度は通常、20,000mPa.s未満、好ましくは2,000mPa.s未満、より好ましくは1,000mPa.s未満、最も好ましくは500mPa.s未満、最も好ましくは200mPa.s未満である。
【0084】
本発明の好ましい実施形態において、マイケル受容体構造は、マイケル供与体基を含むポリマーUSに組み込まれている。これは、単一化合物である成分E、又はモノマー性、二量体性若しくはオリゴマー性ヒドロキシ官能性化合物である化合物の混合物の付加によってもたらされ、ヒドロキシ官能性化合物はまた、アルコキシル化(エトキシル化又はプロポキシル化又は混合オキシアルキル化)されていることができ、且つオレフィン性不飽和カルボン酸、好ましくはアクリル酸と完全にエステル化されていない、即ちそれらはエステル化されていないヒドロキシル基をなお有する。これらの化合物はまた、完全にエステル化された化合物との混合物としても市販されており、ジトリメチロールプロパントリアクリラート又はペンタエリトリトールトリアクリラート等の化合物を含む。これらの化合物は通常、1分子当たり平均1個のみのヒドロキシル基を有し、したがって、ポリマーUSを形成するための重付加反応又は重縮合反応中の鎖停止剤である。更なるマイケル受容体成分Eは、グリシジルエーテルとオレフィン性不飽和カルボン酸との反応生成物を付加することによってポリマーUSに導入することができる。好ましくはこれらのマイケル受容体化合物は、2個以上のヒドロキシ基を含有し、したがって、反応して主鎖に沿ってポリマーUSになる。最も好ましくは、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリラートが使用される。
【0085】
本発明はまた、ポリマーU、並びにマイケル供与体基及びマイケル受容体基を含むポリマーUの水性ポリマー分散体に関する。このポリマーは好ましくは、そのポリマー鎖中にペンディング親水性基を有する組み入れられた部分及び/又はポリマー鎖の一部を形成する親水性基を含む自己乳化性ポリマーUSであり、ここで、マイケル供与体基は活性化メチレン基及び/又はメチン基由来の酸性C-H基であり、ポリマーUSは1分子当たり平均で少なくとも2個の酸性C-H基を含み、ポリマーUS中の酸性C-H基の特定の物質量は少なくとも0.5mol/kg、好ましくは少なくとも1mol/kg、より好ましくは少なくとも1.4mol/kg、最も好ましくは少なくとも1.8mol/kg、最も好ましくは少なくとも2.5mol/kgであり、マイケル受容体基は活性化オレフィン性不飽和基、特にアクリロイル基である。
【0086】
本発明によるこの実施形態において、ポリマーU又はUSは、好ましくはマロナート基を含む。ポリマーU又はUSは、好ましくは、マイケル受容体基を含有しないポリマーUSと関連して上述されるすべての他の特徴を有する。
【0087】
本発明の第3の好ましいバリアントによれば、マイケル供与体基を含むポリマーUSは、繰返し単位としてウレタン基、少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、且つマロナート部分に由来する、少なくとも0.5mol/kgの酸性C-H基の特定の物質量、及びマイケル受容体基、特に上述のような化合物Eに由来するアクリル基を含有する、自己乳化性ポリマーUSである。それらの好ましいポリマーはまた、好ましくは繰返し単位としてエステル基を含有する。ヒドロキシ官能性成分Aは、好ましくは成分An12から、任意選択で上述されるような1種又は複数種の成分Aaの存在下で選択される。
【0088】
このバリアントにおいて、酸性C-H基の特定量は、より好ましくは少なくとも1.2mol/kgの、最も好ましくは少なくとも2.0mol/kgの量である。酸性C-H基は好ましくはマロナート部分に由来する。
【0089】
それらの好ましいポリマーは、好ましくは、ポリエステルポリオール、より好ましくはポリエステルBMである、酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分Bを、上述されるようなヒドロキシ官能性成分Aと、ヒドロキシ官能性アクリラート化合物E及びイソシアナート官能性化合物Diと、任意選択で上述されるような1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分B"と、特に低モル質量のジヒドロキシ化合物B"h及び/又はポリカルボナートジオールBCと、反応させることによって得られる。少なくとも部分的に成分A及び/又はヒドロキシ官能性アクリラート化合物Eをヒドロキシ官能性成分Bに組み入れることも可能である。本発明のこの第3のバリアントにおいて、酸性C-H基を有するヒドロキシ官能性成分Bとして使用されるポリエステルポリオールは、好ましくは少なくとも-50℃、より好ましくは少なくとも-25℃、より好ましくは少なくとも0℃のガラス転移温度Tgを有するポリエステルポリオールである。
【0090】
本発明のこの第3のバリアントによる、マイケル供与体基、マイケル受容体基、及び繰返し単位としてウレタン基を含むポリマーUSは、好ましくは少なくとも5000g/molの、好ましくは少なくとも8000g/molの質量平均モル質量を有する。質量平均モル質量は、好ましくは15000g/molを、より好ましくは12000g/molを超えない。
【0091】
このポリマーUSにおける、マイケル受容体によって与えられる二重結合C=Cの、マイケル供与体由来の酸性C-H基に対する相対モル比は、好ましくは10%~250%、より好ましくは50~150%である。ポリマーが、マイケル付加反応による硬化の他にエネルギー線(radiation)硬化も伴うデュアルキュア用途において使用される場合、相対量は好ましくは75~250%である。エネルギー線硬化が伴わない場合において、相対量は、より好ましくは10~100%、最も好ましくは20~90%である。
【0092】
本発明の第4の好ましいバリアントによれば、マイケル供与体基を含むポリマーUは、繰返し単位としてエステル基、少なくとも1個の親水性基を有するヒドロキシ官能性成分Aに由来する部分を含み、且つマロナート部分に由来する、少なくとも0.5mol/kgの酸性C-H基の特定の物質量、及び上述のような化合物Eに由来するマイケル受容体基を含有する、自己乳化性ポリマーUSである。ヒドロキシ官能性成分Aは、好ましくは成分An12から、任意選択で上述されるような1種又は複数種の成分Aaの存在下で選択される。
【0093】
それらの好ましいポリマーは、好ましくは、上述されるようなマロン酸Bmのアルキルエステルを、ヒドロキシ官能性成分Aと、ヒドロキシ官能性化合物E及び1種又は複数種の更なるヒドロキシ官能性成分Dhと、任意選択で上述されるような1種又は複数種のヒドロキシ官能性化合物B"と、特に低モル質量のジヒドロキシ化合物B"hと、反応させることによって得られる。
【0094】
特に好ましいのは、ジアルキルマロナートBm、特に1~4個の炭素原子のアルキル基を有するもの、例えばジメチルマロナート、ジエチルマロナート、ジ-n-プロピルマロナート、ジイソプロピル-マロナート、ジ-n-ブチルマロナート、及びジイソブチルマロナートである。
【0095】
このバリアントにおいて、酸性C-H基の特定量は、より好ましくは少なくとも2.0mol/kgの、最も好ましくは少なくとも5.0mol/kgの量である。酸性C-H基は好ましくはマロナート部分に由来する。
【0096】
このバリアントにおいて、好ましい成分Dhはポリエステルポリオール及び/又は脂環式ジオール若しくは分枝脂肪族ジオールBhであり、特に好ましい成分Dhは、5~15個の炭素原子を有する脂環式ジオール若しくは分枝脂肪族ジオールBhであり、ここで、少なくとも1つは好ましくは、ネオペンチルグリコール、1,2-、1,3-及び1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2-sec-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2-ブチル-2-エチル-プロパンジオール-1,3、2-エチル-プロパン-ジオール-1,3、2-ブチル-2-メチル-プロパンジオール-1,3、2,6-ビスヒドロキシメチルデカヒドロナフタレン、及びTCDアルコールの異性体混合物(トリシクロデカンジメタノール又はオクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-ジメタノール、系統名:3(4),8(9)-ジヒドロキシメチル-トリシクロ(5.2.1.02.6)デカン、異性体の混合物)からなる群より選択される。
【0097】
それらの好ましいポリマーは、上述されるようなマロン酸Bmのアルキルエステルを、前記ヒドロキシ官能性成分A及び/又は化合物Eを含むポリエステルポリオールと反応させることによっても得ることができ、前記成分A及び/又は化合物Eを、1分子当たり少なくとも2個の酸基(酸基は好ましくはカルボン酸基-C(O)-OHである)又は1分子当たり少なくとも1個の酸無水物基を有する1種又は複数種の酸官能性化合物と、任意選択で上述されるような1種又は複数種のヒドロキシ官能性成分B"、特に低モル質量のジヒドロキシ化合物B"hと、反応させることによって得られる。酸官能性化合物は、好ましくは少なくとも4個且つ12個以下の炭素原子を有する脂肪族二酸、芳香族二酸、脂肪族無水物、又は芳香族無水物であり、より好ましくはコハク酸、アジピン酸、1,2-、1,3-及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、又はそれらの無水物からなる群より選択される。
【0098】
本発明のこの第4のバリアントによる、マイケル供与体基、マイケル受容体基、及び繰返し単位としてエステル基を含むポリマーUSは、好ましくは少なくとも1500g/molの、好ましくは少なくとも2000g/molの質量平均モル質量を有する。質量平均モル質量は、好ましくは7500g/molを、より好ましくは5000g/molを超えない。
【0099】
このポリマーUSにおける、マイケル受容体によって与えられる二重結合C=Cの、マイケル供与体由来の酸性C-H基に対する相対モル比は、好ましくは10%~250%、より好ましくは50~150%である。ポリマーが、マイケル付加反応による硬化の他にエネルギー線硬化も伴うデュアルキュア用途において使用される場合、相対量は好ましくは75~250%である。エネルギー線硬化が伴わない場合において、相対量は、より好ましくは10~100%、最も好ましくは20~90%である。
【0100】
触媒
水系コーティング組成物は、マイケル付加反応を促進するための触媒Cを更に含む。有用な触媒はEP2374836A1に記載のものであり、ここで置換カルボナート塩C1
X+-O-CO-O-R
は、潜在性塩基触媒として使用され、X+はカチオンであり、ここで、RはH(炭化水素を形成する)、又は炭素原子数1~20個の直鎖若しくは分枝アルキル又は炭素原子数7~25個のアラルキル(両方ともエステルカルボナートを形成する)であり、M+はアルカリカチオン、土類アルカリカチオン、有機アンモニウムカチオンR′4N+、又は有機ホスホニウムカチオンR"4P+であり、ここでR′基及びR"基は、1~5個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝若しくは環式アルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、n-ブチル、2-エチルへキシル、シクロへキシル、及びステアリル、又は炭素原子数7~25個のアラルキル、例えばベンジル及びフェネチルであり、且つ1個のカチオンが互いとは異なっていてもよく、例えばメチルトリエチルアンモニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリイソブチルメチルホスホニウム、及びオクタデシルトリオクチルホスホニウムである。
【0101】
マイケル供与体化合物とマイケル受容体化合物との間の反応を加速する他の塩基性触媒は、化合物C2であり、C2は、アルカリ金属カチオン又は有機アンモニウムカチオン又は有機ホスホニウムカチオンと、好ましくはシアノアセタート類、例えばエチルシアノアセタート(pKa=9.0)、1,3-ジケトン類、例えばアセチルアセトン(pKa=8.95)、1,3-シクロヘキサンジオン(pKa=5.3)、及び5,5-ジメチル-1,3-シクロヘキサンジオン(pKa=5.23)、並びにニトロアルカン類、例えばニトロメタン(pKa=10.2)、ニトロエタン(pKa=8.5)、及び2-ニトロプロパン(pKa=9.98)に由来するカルバニオンであるアニオンとの塩である。これらは好ましくは、1種又は複数種の任意選択の成分C2′と組み合わせることができ、C2′は1個又は複数個の酸性Q-H基を有し、ここで、Qは、窒素、リン、酸素、硫黄及び炭素からなる群より選択され、Qアニオンは、マイケル受容体と反応可能であるマイケル付加供与体であり、ここで、成分C2′中のQ-H基のpKa(C2′)は、マイケル供与体成分の第1のプロトンのpKa(MD)より2超低く、且つ10.5より低く、成分C2′中の酸性Q-H基の物質量の、成分C2中のカルバニオンの物質量に対する比n(H,C2′)/n(C-,C2)は、0.01~50の間である。C2′は、好ましくは少なくとも1個の>NH基を有する有機アミン化合物であり、ここで、反応>N-H⇔>N-+H+のためのpKa値(イオン化定数Kaの負の10を底とする対数)は、4~14の間である。これらの系はWO2014/166880A1に開示されている。好ましい有機窒素化合物の中に、スクシンイミド、1,2,4-トリアゾール、及び1,2,3-ベンゾトリアゾールがある。
【0102】
C-C結合の形成下マイケル供与体及びマイケル受容体を使用するマイケル付加による架橋のための更なる触媒系C3は、WO2018/005077A1に開示されており、C3は、式
【化3】
のドーマントカルバマート開始剤であり、
式中、nは、1と等しいか又はそれより大きい整数であり、A
n+はH
+ではないという条件で、A
n+はカチオン性種又はポリマーであり、任意選択でアンモニウムカルバマート、H
2R′
1R′
2N
+-O-(CO)NR"
1R"
2を更に含み、式中、各R
1、R
2、R′
1、R′
2、R"
1及びR"
2は、独立して水素原子、及び1~22個の炭素原子を有する直鎖若しくは分枝で置換された若しくは置換されていないアルキル基からなる群より選択される。同様に好ましくは使用される、カルバマート触媒C3とカルボナート触媒C1との混合物は、WO2018/231927A1及びWO2018/231920A1に記載されている。
【0103】
塗料バインダーの調製
本発明はまた、水性ポリマー分散体、及び上述の少なくとも1種のポリマーUSを含む水性コーティング組成物に関する。
【0104】
本発明による水性ポリマー分散体はまた、好ましくは、
・ポリマーUSの合成において、少なくとも1個の、好ましくは2個のヒドロキシル基、及び少なくとも1個の活性化オレフィン性不飽和基を有する更なる要素Eを使用することによって、ポリマーUSの骨格に化学結合しており、
・ポリマーUSとは異なる担体化合物に、好ましくは上述のようなオリゴマー性若しくはポリマー性担体化合物に化学結合しており、好ましくは担体化合物がポリマー分散体中で共乳化されているか若しくはポリマー分散体とブレンドされており、又は
・ポリマーUSの骨格に化学結合しており、ポリマーUSとは異なる担体化合物に化学結合している、
マイケル受容体基を含有する。
【0105】
特に適切なマイケル受容体担体化合物は、水性エネルギー硬化性組成物、特に上述のような水分散性ウレタンアクリラートである。
【0106】
本発明による水性ポリマー分散体は、1種若しくは複数種のポリマーUSの水性分散体を調製し、1種若しくは複数種のマイケル受容体担体化合物をそれとブレンドするか、若しくはそれと共乳化することによって、又は1種若しくは複数種のポリマーUSの水性分散体を1種若しくは複数種のマイケル受容体担体化合物の水性分散体とブレンドすることによって、又は1種若しくは複数種のポリマーUSを1種若しくは複数種のマイケル受容体担体化合物の水性分散体と共乳化若しくはブレンドすることよって作製することができる。
【0107】
本発明はまた、水性コーティング組成物に関し、水性コーティング組成物は、上述のような少なくとも1種のポリマーUSと、マイケル受容体基を含む少なくとも1種の成分と、上述のような少なくとも1種の触媒とを含み、前記成分は、ポリマーUSが上述のようなマイケル受容体基を含む場合、そのようなポリマーUSと同じであってもよく、且つ/又はポリマーUSとは異なる成分であってもよい。
【0108】
本発明のコーティング組成物において、マイケル供与体は水分散性オリゴマー又はポリマーであるか、マイケル供与体及びマイケル受容体の両方が水分散性オリゴマー又はポリマーであるか、マイケル供与体基及びマイケル受容体基の両方が水分散性オリゴマー又はポリマー中に存在する。
【0109】
コーティング組成物において、マイケル供与体基を含むポリマーUSの水性分散体は、マイケル受容体化合物が、分散前又は分散中にポリマーUSにすでに組み入れられているか、又はそれに付加されている場合を考慮に入れて、適切な量のマイケル受容体成分と混合され、顔料、色素、充填剤、並びに添加剤、例えば沈降防止剤、分散剤、消泡剤、湿潤剤、光安定剤、UV安定剤、流動性改質剤、付着促進剤、合体剤(coalescence agent)、腐食防止剤、艶消し剤、及び難燃剤が加えられ、触媒が加えられる。マイケル供与体及びマイケル受容体の数量は、マイケル供与体成分中の活性化酸性プロトンC-Hの物質量n(C-H)の、マイケル受容体成分中の活性化不飽和基>C=C<の物質量n(>C=C<)に対する比n(C-H)/n(>C=C<)が10mol/mol~0.1mol/molの間、より好ましくは5mol/mol~0.2mol/molの間、更により好ましくは2mol/mol~0.5mol/molの間、最も好ましくは1.5mol/mol~0.8mol/molの間であるように選択される。マイケル付加において、マイケル供与体の活性化C-H基は、脱プロトン化されると、マイケル受容体の活性化オレフィン性不飽和基の炭素原子のうちの1個に付加される。原理的に、活性化メチレン(>CH2)基は2個の活性化メチン(≡CH)基と等価であり得る。しかしながら、これはそれらのマイケル供与体/マイケル受容体の組み合わせの場合のみに当てはまり、ここで、マイケル供与体成分の水素原子は両方とも反応性であり、例えば、系がマロナート基及びアクリロイル反応性基を含む場合、マロナートエンティティ中のメチレン基の水素原子は両方とも反応することができる。マレアートとのマイケル付加反応において、これは当てはまらず、メチレン基の第2の水素原子は、1個のマレアート分子が付加されると、もはや反応性ではなくなる。
【0110】
マイケル受容体成分はエネルギー線に暴露して硬化することもできるため、本発明のコーティング組成物を、デュアルキュア用途、即ちマイケル付加及びエネルギー線硬化の両方による硬化において使用することも可能である。本発明によるポリマーの硬化のために適切なエネルギー線の種類は、UV光及び電子ビームである。典型的な適切なUV光源は、200~800nmの間の波長で光を放射し、200~400nmの範囲の少なくともいくらかのエネルギー線を放射する。UV光の源は、例えば、UV発光ダイオード(UV-LED)であり得る。UV-LEDは典型的に、365~395nmの範囲である最も強い波長を有するスペクトルにおいて放射する。エネルギー線の源はエキシマーランプ、例えば172nmのIOT GmbHからのものであり得る。UV光の適切な源の別の例は、中圧Hg電球である。UV光によるエネルギー線の場合、光硬化反応中に重合プロセスを開始する遊離基を形成するために光開始剤が通常必要とされ、一方でエネルギー線として電子ビームを使用する場合、追加の光開始剤は必要とされない。これら2つの硬化反応の組み合わせにより、硬化コーティング膜のより迅速な形成、並びに硬化コーティング膜の高い硬度、及びより良好な耐溶剤性がもたらされる。このデュアルキュア技術はまた、UV光単独での硬化において使用される光開始剤の量を低減することを可能にし、したがって、コーティング膜により高い量の光開始剤が存在することに起因する、コーティング膜が黄変する問題の低減を助ける。
【0111】
本発明のコーティング組成物はまた、適用パラメーター、即ちオープンタイム、物理的乾燥性能、付着、防食性能、固形物量を向上するために、他の有機バインダー樹脂とブレンドすることができる。そのようなブレンド用樹脂として特に有用であるのは、マイケル反応の塩基性触媒反応を妨げる酸性度の程度が非常に低いものである。特に有用であるのは、10mg/g未満(固体ポリマー基準で)の酸価を有するアクリル分散樹脂である。更に好ましいブレンド用樹脂は、ポリマー性界面活性剤を用いて乳化され、10mg/g未満(固体ポリマー基準で)の酸価を示すアルキド型樹脂である。非イオン性界面活性剤を用いて安定化されたエポキシ樹脂のエマルジョンも、特に好ましい。油を含まないポリエステル類の更なる非イオン性安定化ポリウレタン分散体又はエマルジョンは、ブレンド用樹脂として使用することができる。
【0112】
本発明による水性コーティング組成物は、いくつかの用途、特に、船舶用の保護用及び工業用OEM市場用途でのトップコートとして使用することができる。これらの用途のために、通常の更なる成分、例えば充填材、光安定剤、流動性添加剤、レベリング添加剤、顔料、顔料湿潤剤、沈降防止剤、合体剤、及び殺生物剤をコーティング組成物に加えることができる。本発明に従うコーティング組成物は、様々なコーティング使途、例えば、塗料、含浸用、シール用及び結合用組成物として適切である。好ましい適用はプライマー、トップコート、ベースコート、充填剤、又はクリアコートとしてであり、コーティング組成物は、任意の簡便な様式で、例えばスプレー法、ローラー法、浸漬法、フラッディング法、又はブラッシング法によって、基材に適用されてもよい。本発明の架橋性組成物は、広範囲の基材、例えば鉄、鋼、前処理された鋼のタイプ、例えば電着処理、亜鉛(亜鉛めっき処理)及びリン酸塩処理鋼、oxilan前処理鋼、ショット/グリットブラスト鋼、ブリキ、クロム処理及び非クロム処理アルミニウムを含むアルミニウム基材、又は合金を含む、金属基材に適用することができる。本発明の架橋性組成物は、木製基材又は木材複合材、ボード、紙、ボール紙、皮革、合成材料、ガラス、並びに鉱物基材、例えばコンクリート、タイル、石、及び漆喰に適用することもできる。本発明の架橋性組成物のための基材として適切な他の材料は、感熱基材、例えば合成樹脂基材、特にABS基材、ポリカルボナート基材、ABS/ポリカルボナート基材、ガラス及び炭素繊維強化合成樹脂若しくは複合材、SMC(シートモールディングコンパウンド)、例えばポリエステル及びガラス繊維の組み合わせ、特に自動車用途において使用されるもの、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、ポリアミド-6、ポリアミド-6.6、(熱可塑性)ポリオレフィン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メチルメタクリラート)及びポリスチレンである。
【0113】
本発明の架橋性組成物は、例えばシーラー、プライマー、パテ、水系又は溶剤系のベースコート層で前処理された金属、合成樹脂、鉱物又は木材基材を含むコーティングされた基材に適用することもできる。適切なプライマー系の例としては、二成分系、例えば二成分溶剤系又は水系ポリウレタン、アスパルタート、エポキシアミン、アセトアセタート-ケチミン、及び真マイケル付加組成物、又はそれらの組み合わせ/混成物、不飽和ポリエステルパテ、一成分コーティング、例えば(熱可塑性)ポリアクリル樹脂類、溶剤系又は水系ポリウレタン、ウレタンアクリルポリマー、カルボキシル官能化自己架橋アクリルポリマー、カチオン性アクリルポリマー又はポリビニルアセタートが挙げられる。
【0114】
本発明の架橋性組成物は、付着促進物質、例えば(アミノ)シラン類で前処理された金属、木材又は鉱物基材に更に適用することができる。コーティング系はまた、上に言及したものを含む様々な異なる前処理及び/又はコーティングを施した金属及び/又は合成樹脂部から構成される多基材集合体に適用されてもよい。上述のコーティング組成物の硬化は、好ましくは約0℃より高い温度で、一般に約5℃~約150℃の間で、好ましくは5℃~60℃で、最も好ましくは5℃~30℃の間(室温も含む)で実行される。
【0115】
本発明は、ポリマーUSを含む水性分散体を含むコーティング組成物、又は上述のようなポリマーUSを含むコーティング組成物でコーティングされたコーティングされている基材であって、コーティング組成物が、0℃より高い温度で、任意選択で追加的にエネルギー線への暴露によって硬化されたものであり、UV光がエネルギー線の源として選択される場合、コーティング組成物が好ましくは光開始剤を含有する、コーティングされた基材に更に関する。
【0116】
更なる使途
コーティング組成物における使用に加えて、触媒Cと、マイケル供与体基を含むポリマーUSの分散体、及びマイケル受容体基を含む更なる化合物との組み合わせ、又は触媒Cと、このポリマー中にマイケル受容体基を更に含むポリマーUSの分散体との組み合わせはまた、ポリマーコンクリート中でバインダー系として、「建設用骨材」又は単純に「骨材」と一般に呼ばれ、砂、砂利、砕石及びスラグ砕石を含む粗いサイズから中くらいのサイズの粒子材料を含む通常の更なるコンクリート要素、並びにまた再生粉砕コンクリート、並びに増量剤及び充填剤、例えばフライアッシュ及び岩粉と一緒に使用することができる。
【0117】
別の好ましい適用は、EP2408605、WO9304837、US2019375139、又はUS2019381821に記載されるような、インモールド装飾(IMD)プロセスのためのバインダー系としてであり、プロセスにおいて、装飾用膜は射出成形型の中に配置され、ポリマーメルトとともに射出される。特に適切であるのは、US2019381821に記載されるプロセスのためのクリアコートとしての適用であり、プロセスにおいて、装飾用膜は、成形後クリアコートから容易に取り除くことが可能でなければならない転写膜として適用される。
【0118】
他の好ましい用途は、マニキュア液又はジェルネイル製造のための含浸用、シール用及び結合用組成物としてである。
【0119】
本発明のポリマー組成物は、インク、印刷受容コーティング及びオーバープリントワニスのためのバインダーとして更に使用することができる。従来の適用系に加えて、デジタル印刷法(インクジェット)及び3D印刷法も使用することができる。
【0120】
本発明の利点
本発明によるバインダーを用いて実現された主な利点は、とりわけ、
・ポリマー適用中の遊離イソシアナートの不使用
・配合中の有機溶媒の回避
・コーティング組成物の早期のゲル化に起因する廃棄物を低減する非常に長いポットライフ
・周囲温度での非常に迅速な硬化
・コーティング膜の高い柔軟性及び可撓性と組み合わされた非常に良好な硬度発現
・高い架橋密度に起因する非常に高い耐化学性
・非常に高い光沢及び良好な外観
・良好な耐UV性
・硬化中のブリスター(イソシアネートとイソシアナート硬化系中の水との副反応に起因して観察される)の形成なし
・特にマロナート系ポリマーは、金属イオンとの接触における変色が、アセトアセトキシ系ポリマー、例えばUS5,567,761Aにおいて使用されるものと比較してより低い傾向を示す
・マイケル付加、及びエネルギー線、即ち電子ビーム又はUV光を用いたエネルギー線硬化による、デュアルキュアの可能性
である。
【実施例】
【0121】
以下の実施例によって本発明を更に説明する。
【0122】
これらの実施例において、また本開示のテキストにおいて、以下の物理化学的な値が使用される:
・化学的化合物Bにおけるある特定の官能基Fの特定の物質量nm(F)は、前記官能基の物質量n(F)を、検討中の化合物Bの質量m(B)(前記化合物Bの溶液又は分散体が使用される場合、固体又は希釈されていない化合物Bの質量)によって割ったものとして算出される。適切なSI単位は「mol/kg」であり、以前はこの数量の逆数値も、単位「g/mol」を用いた「当量(equivalent weight)」という非推奨の名称とともに使用された、
・溶液又は分散体中の固体質量分率xSは、(固体)溶質又は分散化材料Sの質量mSを、液体溶液又は分散体の質量mLによって割った比であり、kg/kg=1のSI単位を用いて、xS=mS/mL、しばしば単位「パーセント」を用いてxS/%=100×mS/mLのように記載される、
・「酸数」とも呼ばれる「酸価」は、酸性水素原子の物質量nHAを有する酸官能性有機物質Bの質量mBを中和するために必要とされる水酸化カリウムの質量mKOHの比wAであり、質量mB:wA=mKOH/mB=(nHA×MKOH)/mB=(nHA/mB)×MKOH=nm(HA)×MKOH、通常、単位「mg/g」を用いて記載され、ここで、MKOH=56.105g/mol、nm(X)=n(X)/m、化合物又はエンティティXの物質量n(X)と化合物又はエンティティXを含む組成物の質量mの比である特定の物質量を表す、
・「ヒドロキシル数」とも呼ばれる「OH価」又は「ヒドロキシル価」は、ヒドロキシ官能性有機物質Bの質量mBと同じヒドロキシル基の物質量nOHを有する水酸化カリウムの質量mKOHの比wOHであり、前記質量mB:wOH=mKOH/mB=nOH×MKOH/mB=nm(OH)×MKOH、通常、単位「mg/g」を用いて記載され、ここで、MKOH=56.105g/molである
・「アミン数」とも呼ばれる「アミン価」は、塩基性アミノ基Amの物質量nAmを有するアミン官能性有機物質Bの質量mBと同じ中和のための酸の物質量を必要とする水酸化カリウムの質量mKOHの比wAmであり、前記質量mB:wAm=mKOH/mB=(nAm×MKOH)/mB=(nAm/mB)×MKOH=nm(Am)×MKOH、通常、単位「mg/g」を用いて記載され、ここで、MKOH=56.105g/molである、
・反応混合物中のイソシアナート基の質量分率wNCOは、MNCO=42.017g/molのモル質量を有するイソシアナート基-N=C=Oの質量mNCOを、反応混合物RMの質量mRMによって割ったものとして算出した、
・動的粘度ηは、別段に記載がない限り、25℃及び100s-1のせん断速度でコーンプレート粘度計において決定した、
・ポリマー分散体の粒径は、「Zetasizer」(Malvern Instruments Ltd.)において動的光散乱によって測定し、得られた粒径(z-平均粒径)は、測定された粒子と同じ並進拡散係数を有する球の直径、いわゆる「流体力学的径」であり、粒子が流体内で拡散する状態を指し、分散度Dは、二次平均と算術平均の二乗の比と定義される、即ち、粒子iが直径diを有する複数の粒子に関して、分散度D=Σ(di
2)/(Σdi)2であり、ここで、総和はすべての粒子iにわたる、
・ポリマーの数平均モル質量Mn及び質量平均モル質量Mmは2008年IUPAC勧告において定義されるように使用し、これらは、溶質の質量濃度γ(ポリマー)=1.5g/Lを有する、検討中のポリマーのテトラヒドロフラン溶液に対するゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析(GPC)によって測定されており、ここで、溶出速度は1mL/min、各場合において適切なモル質量範囲のためのカラムを使用し、校正は標準ポリスチレンを用いて通常通り行われた、
・マイケル供与体化合物(Mdc)中のCH-酸性水素原子の理論的に特定の物質量n(CH)/m(Mdc)は準備反応の化学量論から算出し、ここで、n(CH)は、マイケル供与体化合物における活性化メチレン又はメチン基における酸性水素原子の物質量であり、m(Mdc)はこのマイケル供与体化合物の質量である、
・マイケル供与体化合物中のマロナート基--O-C(O)-CH2-C(O)-O--の特定の物質量n(mal)/m(Mdc)(この値の逆数は「マロナート当量」である)は以下の手順を用いて測定した:
・100mL容量の三角フラスコ中で(60±1)mLのジメチルホルムアミド(DMF、脱水、pro analysiグレード)に試料を溶解し、アゾバイオレット溶液(o-キシレンに溶解した4-(4-ニトロフェニルアゾ)-レゾルシノール、溶質0.5%の質量分率)の3滴の溶液を加え、N2導入管付きのフレキシブルスリーブ栓ですぐにフラスコに栓をし、CO2の消費を回避するために全測定プロセス中窒素でフラッシュし、当量点において透明な青色が現れるまで、ナトリウムメトキシド溶液(メタノールに溶解されたNaOCH3、pro analysiグレード、溶質25%の質量分率)を用いて手動でシリンジから滴定を行った。滴定溶液の量を、添加の前後でシリンジ全部を秤量することによって重量測定法で決定した。ナトリウムメトキシド溶液のタイターを、特定の量を水に加えることによって、且つ電位差滴定指標を有するHCl溶液を用いて形成された水酸化ナトリウムの滴定によって間接的に決定した。ジエチルマロナート(DEM)を参照として適用した。
【0123】
そして、以下の略語が使用されている。
DBTL ジブチルスズジラウラート
ジ-TMPA4 ジ-トリメチロールプロパンテトラメタクリラート
ジ-TMPA3 136mg/gのヒドロキシル価、及び7.30mol/kgのオレフィン性不飽和基の特定の物質量(137g/molの「二重結合当量」に対応する)を有する、ジ-トリメチロールプロパントリアクリラート
DPHA ジペンタエリトリトールペンタアクリラートとジペンタエリトリトールヘキサアクリラートとの混合物
EOPO-PEA4 オキシエチレン単位対オキシプロピレン単位対ペンタエリトリトール単位の比が4mol:1mol:1molであり、146.7g/molの「二重結合当量」に対応する6.82mol/kgのオレフィン性不飽和基の特定の物質量を有する、エトキシル化/プロポキシル化ペンタエリトリトールテトラアクリラート
EO-TMPTA 142.8g/molの「二重結合当量」に対応する7.00mol/kgのオレフィン性不飽和基の特定の物質量を有する、トリ-エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリラート
IPDI イソホロンジイソシアナート、5-イソ-シアナト-1-[イソシアナトメチル]-1,3,3-トリメチル-シクロヘキサン
MBTO モノブチルスズオキシド、n-C4H9-Sn(O)OH
PC-ジオール ポリカルボナートジオール、Desmophen(登録商標)C 2100、Covestro、nm(OH)=1.94mol/kgのヒドロキシル基の特定の物質量に対応するwOH=108.9mg/g
PETIA 10.1mol/kgのオレフィン性不飽和基の特定の物質量及び120mg/gのヒドロキシル数を有する、ペンタエリトリトールトリアクリラートとペンタエリトリトールテトラアクリラートとの混合物
TCDアルコール トリシクロデカンジメタノール、3(4),8(9)-ジヒドロキシメチル-トリシクロ-(5.2.1.02,6)-デカン、異性体の混合物
TMXDI メタ-テトラメチルキシリレンジイソシアナート、1,3-ビス-[1-イソシアナト-1-メチルエチル]-ベンゼン
Ymer(登録商標)N120 ポリ[オキシ-1,2-エタンジイル]、アルファ-[2,2-ビス[ヒドロキシメチル]ブチル]-オメガ-メトキシ-、ヒドロキシル価wOH=(110±10)mg/g、Perstorp AB
【0124】
(例1a)
マロナートポリエステルポリオール
641gのジエチルマロナート、980gのTCDアルコール、及び0.35gのMBTOを混合して、2時間以内で175℃に加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除いた。反応混合物を、99.5%の固体質量分率、及び107mg/gのOH価を有する樹脂が得られるまでその温度で維持した。数平均モル質量Mn(25℃でのGPC、1ml/minの溶出速度、1.5g/Lの質量濃度を有するポリエステルポリオールのテトラヒドロフラン溶液及び標準ポリスチレンを用いた校正を用いた)は1145g/molであった。このポリエステルのガラス転移温度Tgは9℃であった。このポリエステルポリオールは、-CO-CH2-CO-(70.05g/molのモル質量を有する)として算出されるマロナート部分を22.4%の質量分率で含む。
【0125】
(例1b)
マロナートポリエステルポリオール
961gのジエチルマロナート、729gのネオペンチルグリコール、及び0.35gのMBTOを混合して、2時間以内で175℃に加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除いた。反応混合物を、95.0%の固体質量分率、及び125mg/gのOH価を有する樹脂が得られるまでその温度で維持した。それから算出される数平均モル質量は898g/molであった。このポリエステルのガラス転移温度Tgは-37℃であった。このポリエステルポリオールは、-CO-CH2-CO-(70.05g/molのモル質量を有する)として算出されるマロナート部分を36.9%の質量分率で含む。
【0126】
(例1c)
マロナートポリエステルポリオール
640.7gのジエチルマロナート、801.3gのブチルエチルプロパンジオール、及び0.35gのMBTOを2時間以内で最高175℃まで加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除き、93.5%の固形物量及び130mgKOH/gのOH価を有する樹脂が構築されるまで、更にその温度で維持した。ポリエステルのガラス転移温度は-38℃であった。このポリエステルポリオールは、70.05g/molのモル質量を有する-CO-CH2-CO-として算出されるマロナート部分を26.1%の質量分率で含む。
【0127】
(例1d)
マロナートポリエステルポリオール
800.9gのジエチルマロナート、865.3gのシクロヘキサンジメタノール、及び0.35gのMBTOを2時間以内で最高175℃まで加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除き、97.4%の固形物量及び123mgKOH/gのOH価を有する樹脂が構築されるまで、更にその温度で維持した。ポリエステルのガラス転移温度は-19℃であった。このポリエステルポリオールは、70.05g/molのモル質量を有する-CO-CH2-CO-として算出されるマロナート部分を29.0%の質量分率で含む。
【0128】
(例1e)
マロナートポリエステルポリオール
961.1gのジエチルマロナート、827.4gの1,6-ヘキサンジオール、及び0.35gのMBTOを2時間以内で最高175℃まで加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除き、96.8%の固形物量及び119mgKOH/gのOH価を有する樹脂が構築されるまで、更にその温度で維持した。ポリエステルのガラス転移温度は-68℃であった。このポリエステルポリオールは、70.05g/molのモル質量を有する-CO-CH2-CO-として算出されるマロナート部分を34.0%の質量分率で含む。
【0129】
(例2)
マロナート官能性を有するポリウレタン分散体
例1aからの150gのポリエステルポリオールを42gのYmer(登録商標)N120と混合して、60℃に加熱した。次いで、57gのTMXDI及び24gのIPDIをこの混合物に加え、温度を1時間65℃未満に保った。次いで、30gのジプロピレングリコール-ジメチルエーテルを加えた。反応混合物の温度を80℃に更に上昇させ、5.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで維持した。第2の容器に、300gの脱イオン水、及び34.1gのジエタノールアミンを30℃に加熱し、200min-1で撹拌しながらウレタンプレポリマーを加えた。ポリウレタン分散体を得、室温(23℃)に冷却した。樹脂分散体は、48.8%の固体質量分率、1540mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.31である164nmの平均粒径を有した。理論的には、樹脂は、固体の質量基準で3.115mol/kgのCH-酸性水素原子の特定の物質量を有した(321g/molの「酸性水素の当量」)。
【0130】
(例3)
マロナート官能性を有するポリウレタン分散体
例1bからの76gのポリエステルポリオールを42gのYmer(登録商標)N120と混合して、60℃に加熱した。次いで、57gのTMXDI及び24gのIPDIをこの混合物に加え、温度を1時間65℃未満に保った。次いで、温度を135℃に更に上昇させ、7.4%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率を有するウレタンプレポリマーが得られるまで維持した。第2の容器に、200gの脱イオン水、及び33.2gのジエタノールアミンを70℃に加熱し、200min-1で撹拌しながらウレタンプレポリマーを加えた。温度を85℃未満に保ち、0.75gの2-メチルペンタン-1,5-ジアミンと20gの脱イオン水との混合物を加えた。得られたポリウレタン分散体を室温(23℃)に冷却した。樹脂分散体は、38.4%の固体質量分率、4445mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.17である71nmの平均粒径を有した。理論的には、樹脂は、固体の質量基準で3.33mol/kgのCH-酸性水素原子の特定の物質量を有した(300g/molの「酸性水素の当量」に対応する)。
【0131】
(例4)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1500gのYmer(登録商標)N120、例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、935gのPETIA、1760gのEO-TMPTA、1.8gのDBTL、及び7gのハイドロキノンモノメチル-エーテルの混合物を、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。次いで、468gのメトキシプロパノールを加え、イソシアナートが測定され得なくなるまで温度を維持した。このプレポリマーを50℃の温度で8400gの脱イオン水中に分散させた。更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整し、樹脂を室温(23℃)に冷却した。得られた樹脂分散体は、50.2%の固体質量分率、2445mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.06である64nmの平均粒径を有した。
【0132】
(例5)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1450gのYmer(登録商標)N120、例1bの2050gのマロナートポリエステルポリオール、1100gのPCジオール、2244gのDPHA、1.8gのDBTL、及び7gのハイドロキノンモノメチルエーテルの混合物を、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。906gのジプロピレングリコールジエチルエーテル及び533gのメトキシプロパノールを加え、イソシアナートが測定され得なくなるまで温度を維持した。このプレポリマーを50℃の温度で6700gの脱イオン水中に分散させた。更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整し、樹脂分散体を室温(23℃)に冷却した。樹脂分散体は、41.2%の固体質量分率、2590mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.13である130nmの平均粒径を有した。
【0133】
(例6)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1500gのYmer(登録商標)N120、例1bの2050gのマロナートポリエステルポリオール、1050gのPCジオール、935gのPETIA、1420gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び7gのハイドロキノンモノメチルエーテルの混合物を、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。435gのメトキシプロパノールを加え、イソシアナートが測定され得なくなるまで温度を維持した。このプレポリマーを50℃の温度で7800gの脱イオン水中に分散させた。更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整し、得られた樹脂分散体を室温(23℃)に冷却した。最終の樹脂は、51.0%の固体質量分率、2180mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.14である93nmの平均粒径を有した。
【0134】
(例7)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1245gのYmer(登録商標)N120、例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、255gのPCジオール、935gのPETIA、1760gのEO-TMPTA、1.8gのDBTL、及び7gのハイドロキノンモノメチルエーテルの混合物を、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。468gのメトキシプロパノールを加え、イソシアナートが測定され得なくなるまで温度を維持した。このプレポリマーを50℃の温度で8400gの脱イオン水中に分散させた。更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整し、樹脂分散体を室温(23℃)に冷却した。樹脂分散体は、49.9%の固体質量分率、1699mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.11である84nmの平均粒径を有した。
【0135】
(例8)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1500gのYmer(登録商標)N120、例1bの2050gのマロナートポリエステルポリオール、1050gのPCジオール、935gのPETIA、1371gのEBECRYL(登録商標)1290(ヘキサ官能性ウレタンアクリラート、Allnex Belgium S.A./N.V.)、1.8gのDBTL、及び7gのハイドロキノンモノメチルエーテルの混合物を、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。435gのメトキシプロパノールを加え、イソシアナートが測定され得なくなるまで温度を維持した。このプレポリマーを50℃の温度で7800gの脱イオン水中に分散させた。更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整し、樹脂分散体を室温(23℃)に冷却した。得られた樹脂分散体は、47.6%の固体質量分率、1040mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.11である80nmの平均粒径を有した。
【0136】
(例9)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1245gのYmer(登録商標)N120、例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、255gのPCジオール、935gのPETIA、977gのEO-TMPTA、1.8gのDBTL、及び7gのハイドロキノンモノメチルエーテルの混合物を、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。468gのメトキシプロパノールを加え、イソシアナートが測定され得なくなるまで温度を維持した。次いで、このプレポリマーを50℃の温度で6200gの脱イオン水中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温(25℃)に冷却した。このようにして得られた樹脂は、45.7%の固体質量分率、1280mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.10である82nmの平均粒径を有した。
【0137】
(例10)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1245gのYmer(登録商標)N120、例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、255gのPCジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、595gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。次いで、430gのメトキシプロパノールを加え、温度を更に1時間維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水と95gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整し、樹脂を室温(25℃)に冷却した。得られた樹脂は、44.7%の固体質量分率、1980mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.15である92nmの平均粒径を有した。
【0138】
(例11)
マロナート官能性を有するポリウレタン分散体とアクリロイル官能性ポリウレタン分散体とのブレンド
例3の781gの樹脂分散体を、626gのUCECOAT(登録商標)7655(樹脂分散体の質量基準で、35%の固体質量分率、及び10mg/gの酸価を有する水性ウレタンアクリラート)、及び1.597mol/kgの分散体中の炭素-炭素二重結合の特定の物質量(樹脂分散体の質量基準で626g/molの「二重結合当量」)と25℃でブレンドした。ブレンドの比は、炭素-炭素二重結合の物質量n>C=C<と酸性C-H基の物質量nHAとの理論比n>C=C</nHA、1mol:1molが達成されるように選択した。混合物を2時間撹拌し、室温(23℃)で1週間保管した後、配合のために使用した。
【0139】
(例12)
クリアコートの配合
表1に列挙した成分を実験室用ブレンダーで所与の順序で混合した。必要に応じて、脱イオン水を加えることによってクリアコートの粘度を更に低減した。すべての成分を混合してから1時間後、クリアコートを、200μmの湿潤膜厚で、ラボアプリケーターを用いて、基材(振り子硬度測定のためのガラス板、又は耐溶剤性試験のための硬化水性二液型エポキシプライマーを施した鋼製パネル)に適用した。30分のフラッシュオフ後、クリアコートを23℃/50%相対湿度のみ(室温)で硬化するか、又は80℃で30分間、若しくは70℃で15時間強制硬化した。更なる試験をするまで、コーティングされたパネルを23℃/50%相対湿度で保管した。
【表1】
【0140】
(例13)
適用試験-マロナート官能性を有するポリウレタン分散体及びアクリロイル官能性ポリウレタン分散体
機械的試験(ケーニッヒ法に従う振り子硬度H、秒での測定値として記載し、上述の硬化条件に暴露してから24時間後に試験した)及び耐化学性試験を、例12のクリアコーティング組成物を使用して行った。結果を表2に列挙する。
【表2】
【0141】
(例14)
適用試験-マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体及び異なるマイケル付加触媒
配合5~配合9のクリアコートコーティング組成物を、例8の樹脂を使用して表3に従って作製した。
【表3】
【0142】
(例15)
ブロックされたマイケル付加触媒
94.21gのジエチルカルボナートを、23℃で、ガラスフラスコ中で撹拌しながら、30℃の反応温度を超えない仕方で、溶液中55%の質量分率を有する372.4gの水酸化アンモニウムテトラブチル水溶液を導入した。その後、更なる533gの脱イオン水を加えた。最終の生成物は、溶液の質量基準で44mg/gのアミン価を有した。
【0143】
(例16)
適用試験-マロナート官能性及びアクリロイル官能性及び異なるマイケル付加触媒を有するポリウレタン分散体
クリアコートコーティング組成物を、例4~7の樹脂を使用して表4の配合法に従って作製した。これらの試験結果も表4にまとめる。
【表4】
【0144】
(例17)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体に基づく白色トップコート
粉砕用配合物を以下の表5の配合法に従って混合し、ビーズミルにおいて粉砕した。
【表5】
【0145】
この粉砕用配合物を、例9からの更なる149gの樹脂を用いてレットダウンした。このラッカーに対して触媒パッケージ(溶解したNaOHの質量分率が10%である水酸化ナトリウム水溶液0.32g、溶解した塩の質量分率が50%であるテトラブチルアンモニウムビカルボナート溶液の水溶液5.5g)を加えた。このコーティングを、200μmの湿潤膜厚で、硬化水性二液型エポキシプライマーでコーティングされているガラス板及び鋼製パネルに適用し、第1の組の試料は触媒に混合してから1時間後、第2の組の試料は触媒に混合してから72時間後であった。30分のフラッシュオフの後、クリアコートを室温(23℃)及び50%の相対湿度で硬化(「RT硬化」)するか、又は80℃で30分間強制硬化(「強制硬化」)した。コーティングされたパネルを、表に指示するように硬化した後、更なる試験まで23℃及び50%の相対湿度で保管した。試験結果を以下の表6にまとめた。
【表6】
【0146】
(例18)
ポリウレタンの親水性修飾
18.1:例1aからの150g(143mmol)のポリエステルポリオールを42g(42mmol)のYmer(登録商標)N120と混合して、60℃に加熱した。次いで、57g(233mmol)のTMXDI及び24g(108mmol)のIPDIをこの混合物に加え、温度を1時間65℃未満に保った。次いで、30gのジプロピレングリコール-ジメチルエーテルを加えた。反応混合物の温度を80℃に更に上昇させ、そのように得られたプレポリマー中で5.5%のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで維持した。第2の容器に、300gの脱イオン水、及び34.1gのジエタノールアミンを30℃に加熱し、200min-1で撹拌しながらウレタンプレポリマーを加えた。ポリウレタン分散体を得、それを室温(23℃)に冷却した。樹脂分散体は、48.8%の固体質量分率、1540mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.31である164nmの平均粒径を有した。理論的には、樹脂は、固体の質量基準で3.115mol/kgのCH-酸性水素原子の特定の物質量を有した(321g/molの「酸性水素の当量」)。
【0147】
18.2:第2の試験において、42gのYmer(登録商標)N120を5.6gのジメチロールプロピオン酸と取り替えた。ジメチロールプロピオン酸は反応混合物中で完全に溶解しないことが見出された。得られた分散体を、ジメチロールプロピオン酸によって導入された酸基の50%を中和する量で水酸化ナトリウム水溶液を加えることによって中和した。N-メチルピロリドン又はN-エチルピロリドンを加えることにより、反応の第1の工程における酸の溶解が促進されるが、これらの溶媒の存在は望ましくない。
【0148】
18.3:第3の試験において、Ymer(登録商標)N120の質量を42gから28gに低減し、Ymer(登録商標)N120中での穏やかな加熱下、1.9gのジメチロールプロピオン酸を分散した。混合物をポリエステルポリオールに加え、両方を撹拌下60℃に加熱した。30分後、未溶解のジメチロールプロピオン酸は見出されなかった。次いで、17.1に記載されるようなイソシアナートを加えることによって反応を継続させた。得られた分散体を、ジメチロールプロピオン酸によって導入された酸基の50%を中和する量で水酸化ナトリウム水溶液を加えることによって中和した。得られたポリウレタン分散体を室温(23℃)に冷却したところ、安定性の欠如を示さなかった。
【0149】
(例19)
マロナート官能性を有する鎖延長されたポリウレタン分散体
例2のバリアントにおいて、ジエタノールアミンを2-メチル-1,5-ペンタンジアミンと取り替えた。鎖延長されたポリウレタン分散体を得た。
【0150】
(例20)
共乳化マイケル受容体を有するマロナートポリエステルの合成
800.9gのジエチルマロナート、960.4gのTCDアルコール、555.6gのYmer N120、及び0.35gのMBTOを混合して、2時間にわたって175℃に加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除いた。反応混合物を、GPCによって決定して99.0%の固体質量分率及び3924g/molの質量平均モル質量Mmを有する樹脂が得られるまで、その温度で維持した。186gのこのポリエステルを87.75gのジ-TMPA3と70℃で混合した。この混合物を224gの水に分散した。更に16.5gの水を加えることによって粘度を1870mPa・sの動的粘度に調整し、そうすると固体質量分率は52.7%であった。
【0151】
(例21)
共乳化マイケル受容体を有するマロナートポリエステルの合成
800.9gのジエチルマロナート、980gのTCDアルコール、926gのYmer(登録商標)N120、及び0.35gのMBTOを混合して、2時間にわたって175℃に加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除いた。反応混合物を、98.0%の固体質量分率及び3378g/molの質量平均モル質量Mmを有する樹脂が得られるまで、その温度で維持した。225gのこのポリエステルを87.75gのジ-TMPA3と70℃で混合した。この混合物を255gの脱イオン水に分散し、28gの更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整して2167mPaの動的粘度及び52.1%の固体質量分率を得た。
【0152】
(例22)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有する非イオン性/アニオン性ポリウレタン分散体
例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、200gのジメチロールプロピオン酸、及び430gのジプロピレングリコールジメチルエーテルを60℃に加熱した。1487gのIPDIを加え、温度を100℃に更に上昇させて3.5%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率を達成した。次いで、8.1gのブチルヒドロキシトルエン、900gのYmer(登録商標)N120、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、及び595gのジ-TMPA4を加えながら、0.8%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃に降下させた。次いで、430gのメトキシプロパノールを加え、温度を更に1時間維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水、81gのジエタノールアミン、及び50%の固体質量分率を有する120gの水酸化ナトリウム水溶液の混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を加えることによって粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、34.8%の固体質量分率、700mPa・sの動的粘度、及び分散度が0.37である60nmの平均粒径を有した。
【0153】
(例23)
硬度発現及び耐溶剤性
クリアコートコーティング組成物を、例20及び例21のバインダー樹脂を使用して表7aの配合法に従って作製した。試験結果を同表にまとめた。
【表7】
【0154】
硬度発現及び耐溶剤性により、より少量の非イオン性親水性修飾剤Ymer(登録商標)N120(配合20、例20のためのバインダー樹脂)が、より多量の同じ修飾剤(配合19、例21のバインダー樹脂)より良好な硬度及びより良好な耐溶剤性をもたらすことが示される。
【0155】
クリアコートコーティング組成物を、例22のバインダー樹脂を使用して表7bの配合法に従って作製した。試験結果を同表にまとめた。
【表8】
【0156】
配合21及び配合22の比較により、例22のバインダー樹脂が、良好な硬度発現を特に周囲温度において達成するために、より多量の触媒を必要とすることが示された。これは、このバインダー樹脂の酸官能性が、マイケル付加架橋の塩基性触媒反応を妨げる事実に起因して、最も可能性がある。
【0157】
(例24)
組み合わされたエネルギー線及び熱硬化のためのクリアコートコーティング組成物の配合
表8に列挙した成分を実験室用ブレンダーで所与の順序で混合した。必要に応じて、脱イオン水を加えることによってコーティング組成物の粘度を更に低減した。混合してから1時間後、クリアコートコーティング組成物を、200μmの湿潤膜厚で、ラボアプリケーターを用いて、基材(振り子硬度測定のためのガラス板)に適用した。室温(23℃)での30分のフラッシュオフ及び60℃での15分間のストービング後、コーティング組成物をUVエネルギー線(800mJ/cm
2、Hgランプ)によって、且つ/若しくは熱的に23℃及び50%の相対湿度のみで硬化するか、又は80℃で30分間若しくは70℃で15時間、強制硬化するかのいずれかであった。80℃で30分間熱硬化した試料を、熱架橋した後UV硬化もして、このプロセスの実現可能性を検討した。コーティングされたパネルを、更なる試験まで23℃及び50%の相対湿度で24時間保管した。
【表9】
【0158】
これらの実験により、バインダー系が熱的に、また光開始剤が配合に加えられる場合、UV光を用いたエネルギー線によっても、硬化され得ることが示される。バインダーの固体基準の反応性二重結合の全量が増加される場合(例えば、>C=C<二重結合の特定の物質量を多く有する樹脂を配合に加えることによって)、光誘導硬化の効率を増強することができる。硬化の順序が「熱硬化、それに続いてUV硬化」であるか「UV硬化、それに続いて熱硬化」であるかに関わらず、最終の硬化の結果間に有意な相違はない。これにより、このバインダー系は特にデュアルキュア用途に関して興味深いものとなる。
【0159】
(例25)
組み合わされたエネルギー線及び熱硬化のための黄色トップコート組成物の配合
表9に列挙した成分を実験室用ブレンダーで所与の順序で混合した。着色されたコーティング組成物を、ラボアプリケーターを用いて基材(ペルゾー硬度のためのガラス板並びに耐擦傷性及び耐アセトン性のための砂をまいたキッチンボード)に120μmの湿潤膜厚として適用し、それに続いて室温(23℃)で30分乾燥させ、指示がある場合のみ60℃で15分フラッシュオフする。コーティングを、UVエネルギー線(5m/min@80W/cm、Ga+Hgランプ)によって硬化させた。コーティングされたパネルを、更なる硬度、表面摩耗抵抗性、及び耐化学性の試験まで23℃及び50%の相対湿度で24時間保管した。
【0160】
硬度を、標準ASTM D4366-16、試験法Bに従ってペルゾー振り子装置を使用して測定した。
【0161】
表面摩耗抵抗性は、指爪の摩擦によって表面の変形が評価されるコーティングのための機械的耐性試験である。表面摩耗抵抗性は、1~5の段階を用いて評価されており、5=可視の傷なし、4=非常に薄い傷、3=薄い傷、2=明確な傷、1=強い傷、である。
【0162】
アセトン液滴(約3cm径)をコーティング表面に5分間散らすことによって耐化学性を評価する。耐化学性は、1~5の段階を用いて評価されており、5=乾燥ふき取り後全く変化しない完全な耐溶剤性、4=乾燥ふき取り後わずかな鈍い表面汚れ、3=膨潤コーティングの担体からの剥離開始、2=膨潤コーティングの担体からの強度の剥離、1=可溶性且つ乾燥ふき取り後除去される、である。
【表10】
【0163】
これらの実験により、参照のUCECOAT(登録商標)7738からの着色された配合(配合25)は、UV光下で架橋され得、中~高の硬度並びに良好な表面摩耗抵抗性及び耐溶剤性を有することが示されるが、熱架橋される能力は有しないことが示される(不良な表面摩耗抵抗性及び耐溶剤性)。それとは反対に、例15の触媒の存在下、UCECOAT(登録商標)7738と例10の樹脂とのブレンドからの着色された配合(配合26)は、熱的にもUV光のエネルギー線によっても架橋され得、(これらの2つの条件下で)向上した表面摩耗抵抗性及び耐溶剤性を伴う高い硬度を与える。これにより、このバインダー組成物は、デュアルキュア用途に関して特に興味深いものとなり、ここで、バインダー組成物は、コーティングの容易なUV光透過及び深い硬化を防止する高不透明性顔料(白色以外)の存在下、強い性能及び堅牢性をもたらす。複雑な三次元物体の不良に暴露された領域の効率的な硬化(影部硬化(shadow curing))のために、又は低エネルギーUV光の場合(LEDランプ、エキシマーランプ)に特に有益である。
【0164】
(例26)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1204gのYmer N120、2050gのマロナートポリエステルポリオール(例1b)、1346gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、595gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水と90gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、48.4%の非揮発性含有量、2700mPa・sの動的粘度、及び57nmの粒度分布(0.10PDI)を有した。
【0165】
(例27)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1150gのYmer N120、例1cの2867gのマロナートポリエステルポリオール、350gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、595gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水と86gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、46.5%の非揮発性含有量、2730mPa・sの動的粘度、及び60nmの粒度分布(0.10PDI)を有した。
【0166】
(例28)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1189gのYmer N120、例1dの2611gのマロナートポリエステルポリオール、766gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、595gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水と114gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、43.7%の非揮発性含有量、2265mPa・sの動的粘度、及び112nmの粒度分布(0.13PDI)を有した。
【0167】
(例29)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1210gのYmer N120、例1eの2223gのマロナートポリエステルポリオール、1249gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、595gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水と104gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、44.8%の非揮発性含有量、2523mPa・sの動的粘度、及び114nmの粒度分布(0.10PDI)を有した。
【0168】
(例30)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1245gのYmer N120、例1aの1694gのマロナートポリエステルポリオール、1925gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、595gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で8550gの脱イオン水と104gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、40.0%の不揮発性含有量、2567mPa・sの動的粘度、及び122nmの粒度分布(0.16PDI)を有した。
【0169】
(例31)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1745gのYmer N120、例1aの1694gのマロナートポリエステルポリオール、1425gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、60gのEOPO-PEA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で8550gの脱イオン水と54gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、40.8%の不揮発性含有量、1255mPa・sの動的粘度、及び97nmの粒度分布(0.28PDI)を有した。
【0170】
(例32)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1245gのYmer N120、例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、255gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、227gのEOPO-PEA4、181gのジ-TMPA3、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水と85gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、34.8%の不揮発性含有量、1480mPa・sの動的粘度、及び109nmの粒度分布(0.14PDI)を有した。
【0171】
(例33)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有するポリウレタン分散体
1245gのYmer N120、例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、255gのポリカルボナートジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、1020gのEOPO-PEA4、812gのジ-TMPA3、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%のNCO価が達せられるまで、温度を70℃で維持した。430gのメトキシプロパノールを加え、更に1時間温度を維持した。次いで、このプレポリマーを30℃の温度で6300gの脱イオン水と115gのジエタノールアミンとの混合物中に分散させた。更なる脱イオン水を用いて粘度を調整し、樹脂を室温に冷却した。最終の樹脂は、47.4%の不揮発性含有量、2892mPa・sの動的粘度、及び95nmの粒度分布(0.10PDI)を有した。
【0172】
(例34)
クリアコートの硬度発現
実験室用ブレンダーで以下の表10に従って成分を混合し、次いで200μmの湿潤膜厚でガラス板に適用した。1日後及び1週間後、23℃/50%の相対湿度で振り子硬度を決定した。
【表11】
【0173】
上記の表10のデータは、比較可能な架橋密度及び柔らかいポリエーテルYmer N-120の含有量において、硬化クリアコートの硬度発現はポリエステルポリオールのガラス転移温度に高度に依存的であることを示す。
【0174】
(例35)
クリアコートの硬度発現
実験室用ブレンダーで以下の表11に従って成分を混合し、次いで200μmの湿潤膜厚でガラス板に適用した。1日後及び1週間後、23℃/50%の相対湿度で振り子硬度を決定した。
【表12】
【0175】
上記の表11のデータは、硬化クリアコートの硬度発現は、マロナート含有ポリマーの水素当量に高度に依存的であることを示す。比較可能な水素当量において、クリアコートは、二重結合の酸性水素に対する割合50~100%において良好な硬度発現を示す。
【0176】
(例36)
インモールド装飾プロセスのための箔コーティング及び合成樹脂コーティング用クリアコート
配合法1-クリアコート
第1部:100gの例10からのポリウレタン分散体を5gのメトキシプロポキシプロパノール、5gの脱イオン水、及びポリエーテル変性ポリシロキサン系の1gのレベリング及び基材湿潤剤(ADDITOL(登録商標)VXW 6503N、allnex)と混合した。
第2部:適用に先立って、例15の4.8gの触媒を加えた。
【0177】
配合法2-金属一液型ベースコート
268gのポリウレタン分散体を、50gの金属性顔料のスラリー、58gのブチルグリコールと、100gのシリケート系増粘剤(LAPONITE(登録商標)、Byk)の3%脱イオン水溶液、及び110gのアクリル系増粘剤(RHEOVIS(登録商標)、BASF)の10%脱イオン水溶液と組み合わせて混合した。追加的に、フッ素変性アクリルコポリマー系の5gのレベリング及び基材湿潤剤(ADDITOL(登録商標)VXW 6214、allnex)、52gのワックスエマルジョン(ULTRALUBE(登録商標)、Keim-Additec)、30gの水、及び14gのi-ブタノールを加えた。
【0178】
クリアコート(配合法1)を、膜アプリケーターを用いて湿潤100μmで適用し、前処理なしで、PET箔上で150℃で5分間硬化した。その後、金属ベースコート(配合法2)をスプレー塗布によって適用し、15μmの乾燥膜厚を得、再度、150℃で5分間硬化した。全体を、70℃で12時間、後硬化した。後硬化後、剥離試験を行い、クリアコートと金属ベースコートは、強い力なしで、又は結果として生成するクリアコート層におけるクラックなしで、PET基材から剥離し得、完全な光学的外観及び光沢をもたらす(60°の角度で89GU)。
【0179】
(例37)
マロナートポリエステルの合成
800.9gのジエチルマロナート、960.4gのTCDアルコール、555.6gのYmer N120、及び0.35gのMBTOを2時間にわたって175℃に加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除き、99.0%の固形物量及び3924g/molの分子量(重量平均)を有する樹脂が構築されるまで、更にその温度で維持した。186gのこのポリエステルを、152gの水に分散し、次いで、動的粘度及び固形物量を、更なる水を用いて2700mPasの粘度及び44.4%の固形物量に調整した。このポリエステルのH当量は、固体樹脂基準で186g/molであった。
【0180】
(例38)
マロナートポリエステルの合成
800.9gのジエチルマロナート、785.3gのブチルエチルプロパンジオール、及び555.6gのYmer N120、及び0.35gのMBTOを2時間にわたって175℃に加熱しながら、エタノールを蒸留して完全に取り除き、99.0%の固形物量及び3817g/molの分子量(重量平均)を有する樹脂が構築されるまで、更にその温度で維持した。186gのこのポリエステルを、152gの水に分散し、次いで、動的粘度及び固形物量を、更なる水を用いて2370mPasの粘度及び39.5%の固形物量に調整した。このポリエステルのH当量は、固体樹脂基準で168g/molであった。
【0181】
(例39)
マロナートポリエステルの合成
385.3gのヘキサヒドロフタル酸無水物、960.4gのTCDアルコール、555.6gのYmer N120、630gのキシレン、及び0.35gのMBTOを180℃に加熱し反応させながら、8mgKOH/gの酸数が達せられるまで、水トラップを用いて水を除去した。次いで、キシレンを、減圧を適用することによってストリッピングし、140°Cの温度、400.5gのジエチルマロナートを加えた。温度を再度175℃に上昇させながら、エタノール/水を蒸留して完全に取り除き、99.6%の固形物量及び4158g/molの分子量(重量平均)を有する樹脂が構築されるまで、更にその温度で維持した。186gのこのポリエステルを、152gの水に分散し、次いで、動的粘度及び固形物量を、更なる水を用いて2355mPasの粘度及び45.1%の固形物量に調整した。このポリエステルのH当量は、固体樹脂基準で405g/molであった。
【0182】
(例40)
UV-PUDを用いて硬化したマロナートポリエステル
実験室用ブレンダーで以下の表12に従って成分を混合し、次いで200μmの湿潤膜厚でガラス板に適用し、室温のみで硬化するか、又は80℃で30分間強制硬化した。1日後及び1週間後、23℃/50%の相対湿度で振り子硬度を決定した。
【表13】
【0183】
データにより、0.5:1~4:1の間の二重結合の酸性水素に対するモル比が良好な硬度発現をもたらすことが示される。また、より高いTgのポリオールの使用は、より低いTgのポリオールより好都合である。硬度発現は、ポリエステル成分のH当量が低いほど良好である。
【0184】
(例41)
トップコート配合
白色のトップコートをビーズミルで以下の配合法に従って配合した。次いで、ミルベースを、更なる樹脂、ブチルグリコールアセタート、及び基材湿潤剤を用いてレットダウンした。
【表14】
【0185】
経年したエポキシプライマーへの付着
鋼製パネルを、水性2kエポキシプライマーを用いてコーティングし、60℃で24時間硬化した。例41からのトップコート配合を、以下の表の成分と混合し、ドローダウン法によって150μmの湿潤膜厚で適用した。トップコートを、20℃/50%の相対湿度で7日間硬化した。次いで、クロスカット試験を適用することによって層間付着を試験した(0=良好、5=不良な付着)。
【表15】
【0186】
トリメチロールプロパントリアセトアセタート、及びBADGEアクリラート系のUV-PUDは両方とも、経年したエポキシプライマーへの付着を向上する。
【0187】
(例42)
マロナート官能性及びアクリロイル官能性を有する水分散可能ポリウレタン
1245gのYmer(登録商標)N120、例1aの3388gのマロナートポリエステルポリオール、255gのPCジオール、467.5gのPETIA、408gのジ-TMPA3、500gのEOPO-PEA4、595gのジ-TMPA4、1.8gのDBTL、及び8.1gのブチルヒドロキシトルエンを、空気でパージしながら60℃に加熱した。2時間にわたって1293gのIPDIを加え、0.7%の反応混合物中のイソシアナート基の質量分率が達せられるまで、温度を70℃で維持した。次いで、430gのメトキシプロパノールを加え、温度を更に1時間維持した。次いで、1149gのメトキシプロパノールと114.2gのジエタノールアミンとの混合物を加え、5分間均質化してから1967gのメトキシプロピルアセタートを加えた。得られた樹脂は、68.8%の固体質量分率、及び4040mPa@sの動的粘度を有した。17gのこの水分散可能樹脂を、例37において得られた20gの水性分散体、53gのUCECOAT(登録商標)7738、及び11gの水と混合して、40.3%の固形物量及び366mPasの動的粘度を有する安定な分散体を得た。