(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】集光レンズの高さ調整方法およびチップ転写方法ならびに集光レンズの高さ調整装置およびチップ転写装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/00 20100101AFI20240510BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20240510BHJP
B23K 26/57 20140101ALI20240510BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01L33/00 Z
H01S3/00 B
B23K26/57
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2021563992
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045781
(87)【国際公開番号】W WO2021117753
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2019224770
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020051959
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水谷 義人
(72)【発明者】
【氏名】新井 義之
【審査官】皆藤 彰吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-41500(JP,A)
【文献】特開2010-251359(JP,A)
【文献】特開2014-190870(JP,A)
【文献】特開2018-65159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00
H01S 3/00
B23K 26/57
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチップ部品を下面に配置した転写基板の、前記チップ部品と前記転写基板の界面である加工面に、前記転写基板越しにレーザー光を照射して、
前記チップ部品を剥離して、前記チップ部品と対向する転写先基板の上面に転写するレーザーリフトオフ転写法において、
レーザー光源と前記転写基板の間に配置され、上下移動可能な集光レンズの高さを調整して、前記加工面の面内におけるレーザー光の強度分布を適正化する、集光レンズの高さ調整方法であって、
前記転写基板の下側に、上向きの受光面を有し、レーザー光の強度分布を測定するビームプロファイラを配置し、
前記転写基板越しに、前記チップ部品が配置されていない位置で、レーザー光の強度分布を測定して、
前記集光レンズの高さを調整する集光レンズの高さ調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の集光レンズの高さ調整方法であって、
前記受光面を前記転写基板下面に密着させて行う集光レンズの高さ調整方法。
【請求項3】
請求項1に記載の集光レンズの高さ調整方法であって、
前記受光面が前記転写基板下面より下にある集光レンズの高さ調整方法。
【請求項4】
請求項3に記載の集光レンズの高さ調整方法であって、前記転写基板の屈折率が既知の場合、
前記受光面と前記転写基板下面の間隔に応じて、前記転写基板下面におけるレーザの強度分布を前記受光面のレーザーの強度分布から推定する集光レンズの高さ調整方法。
【請求項5】
複数のチップ部品が粘着層を介して配置されている転写基板の前記粘着層に、
前記転写基板越しにレーザー光を照射して、
前記チップ部品を選択的に転写先基板に転写するチップ転写方法であって、
前記チップ部品の外周部近傍の粘着層の粘着力が低下するように、ドーナッツ状の高強度域を有する強度分布のレーザー光を照射する予備照射と、
前記予備照射工程を経た前記チップ部品と前記転写基板の間の粘着層に、トップハット分布またはガウシアン分布の強度分布を有するレーザー光を照射して、前記チップ部品を前記転写基板から剥離して前記転写先基板に転写する本照射とを行うチップ転写方法。
【請求項6】
複数のチップ部品を下面に配置した転写基板の、前記チップ部品と前記転写基板の界面である加工面に、前記転写基板越しにレーザー光を照射して、
前記チップ部品を剥離して、前記チップ部品と対向する転写先基板の上面に転写するチップ転写装置において、
レーザー光源と前記転写基板の間に配置され、上下移動可能な集光レンズの高さを調整して、前記加工面の面内におけるレーザー光の強度分布を適正化する、集光レンズの高さ調整装置であって、
前記集光レンズを上下に駆動する集光レンズ駆動部と、
前記転写基板下面より下に、上向きの受光面を有するように配置した、レーザー光の強度分布を測定するビームプロファイラと、
前記集光レンズ駆動部および前記ビームプロファイラに接続した、制御部を備え、
前記制御部が、前記集光レンズの高さ位置を変えながら、前記受光面のレーザーの強度分布を取得する機能を有する集光レンズの高さ調整装置。
【請求項7】
複数のチップ部品を下面に配置した転写基板の、前記チップ部品と前記転写基板の界面である加工面に、前記転写基板越しに上からレーザー光を照射して、
前記チップ部品を剥離して、前記チップ部品と対向する転写先基板の上面に転写するチップ転写装置であって、
請求項6に記載の集光レンズの高さ調整装置を備えたチップ転写転写装置。
【請求項8】
複数のチップ部品が粘着層を介して配置されている転写基板の前記粘着層に、
前記転写基板越しにレーザー光を照射して、
前記チップ部品を選択的に転写先基板に転写するチップ転写装置であって、
前記粘着層でレーザーアブレーションを起こし得る波長のレーザー発振器と、
前記レーザー発振器と前記転写基板の間に配置され、レーザー光を集光する集光手段と、
前記レーザー発振器の前記集光手段の間に配置されたビームシェイパとを備え、
前記ビームシェイパの状態を変化させ、前記粘着層に照射するレーザー光の強度分布を、リング状の高強度域を有する形状と、ガウス形状またはトップハット形状に切り替えることができるチップ転写装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光レンズの高さ調整方法およびチップ転写方法ならびに集光レンズの高さ調整装置およびチップ転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術の進歩による半導体チップの微小化や、LEDの発光効率向上によるLEDチップの小型化が進んでいる。このため、半導体チップやLEDチップ等のチップ部品を、1枚のウェハ基板に、密に多数形成できるようになってきている。
【0003】
近年、ウェハ基板に密に形成されダイシングされたチップ部品や、ウェハ基板上の配置状態のままで転写基板に転写されたチップ部品を、所定の間隔を開けて配線基板等の転写先基板に再配列し、高速高精度に実装する用途がある。例えば、画像表示装置として注目されているマイクロLEDディスプレイ製造においては、数百万個のLEDチップを、間隔を開けTFT基板の所定位置に実装する必要がある。
【0004】
ここで、ウェハ基板を含む転写基板上に高密度に配列された個々のチップ部品は、チップ部品の電極と転写先基板の電極との電気的接合を確保するため、誤差が数μm程度の高精度に転写される必要がある。しかも多数のチップ部品を高速に転写する必要がある。
【0005】
このような高速、高精度にチップ部品の転写を行い、転写先基板に所定の間隔を空け、高精度に実装するプロセスが種々検討されている。なかでも、レーザーリフトオフ法(以後LLO法と記す)については多くの検討がなされている(例えば特許文献1)。
【0006】
図12ではLLO法により転写基板2から転写先基板Bにチップ部品Cを転写配置する例を示している。すなわち、右端のチップ部品Cにレーザー光Lを照射して、転写先基板Bに転写する状態を示している。ここで、右端のチップ部品Cは転写先基板Bの所定位置上部に位置合わせされている。ここで、レーザー光Lの波長はチップ部品Cが転写基板2から剥離するのに適した範囲から選ばれる。例えば、転写基板2を透過しつつチップ部品Cの素材に吸収される波長を用いれば、温度上昇に伴い素材が分解して生じたガスにより転写基板2からチップ部品Cは剥離される。
【0007】
図13は、レーザー光Lの照射により転写基板2から剥離した右端のチップ部品Cが転写先基板Bに転写された状態を示している。ここで、右端のチップ部品Cは直下に転写されるため、転写先基板Bの所定位置に配置される。なお、転写に伴うチップ部品の直下への移動距離を、チップ部品厚みより大きくしておけば、転写先基板Bにチップ部品Cが転写されていても転写基板2を水平方向に移動させることは可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
LLO法で転写基板2から転写先基板Bにチップ部品Cを転写するためには、レーザー光Lの波長に加えて、転写基板2とチップ部品Cの界面である加工面におけるレーザー光の強度分布が重要である。その具体例を、レーザー光Lの加工面における強度分布と転写品質の関係で断面図で示したのが
図14である。
【0010】
図14において、強度分布D(トップハット分布)はチップ部品Cが転写基板2から剥離しつつ過剰なエネルギーを受けずに転写先基板Bに確実に転写される(加工面における)レーザー光Lの強度分布である。他方、強度分布Aは均一な強度分布ではあるが、加工面におけるレーザー光Lの強度が全体的に弱くチップ部品Cは剥離しない。強度分布B(ガウシアン分布)ではチップ中心部では十分なレーザー光Lの強度が得られていてもチップ部品C周縁部ではチップ部品Cが剥離しないため転写不良を生じる。また、強度分布C(M字分布、照射面で見たらドーナッツ状)ではチップ部品Cの周縁部でのレーザー光Lが過剰になるため、チップ部品Cは転写基板2から剥離するものの、チップ部品の一角から剥離が生じることによるチップ部品Cの転写時横ズレや、チップ部品C角部の破損が懸念される。
【0011】
そこで、
図12における集光レンズ5の高さ調整等を行って、加工面2Fのレーザー光強度分布を適正化する必要がある。そこで、従来、
図15(b)に例示するような手法で加工面のレーザー光強度分布を調整している。すなわち、
図15(a)に示す加工面2Fの高さにおけるレーザー光Lの強度分布を、(転写基板2がない状態で)加工面2Fと同じ高さH2Fに受光面7Fを有するビームプロファイラ7で観察しながら、受光面7Fの光強度分布が(
図14の強度分布Dのように)適正化するように集光レンズ5の高さ位置を求めている。そうして、このようにして調整した集光レンズ5の高さ位置でLLO法を行っている。
【0012】
しかし、
図15(b)に示した手法で集光レンズ5の高さを調整しても、LLO法でのチップ部品Cの転写において、品質転写不良が生じることがあった。すなわち、転写基板2を配置した状態における加工面での光強度分布が適正でないことがあった。
【0013】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、レーザーリフトオフ法でチップ部品を転写先の基板に転写するのに際して、チップ部品と転写基板の界面である加工面におけるレーザー光強度分布を適正化して良好な転写品質が得られるような、光レンズの高さ調整方法およびチップ転写方法ならびに集光レンズの高さ調整装置およびチップ転写装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
複数のチップ部品を下面に配置した転写基板の、前記チップ部品と前記転写基板の界面である加工面に、前記転写基板越しにレーザー光を照射して、前記チップ部品を剥離して、前記チップ部品と対向する転写先基板の上面に転写するレーザーリフトオフ転写法において、レーザー光源と前記転写基板の間に配置され、上下移動可能な集光レンズの高さを調整して、前記加工面の面内におけるレーザー光の強度分布を適正化する、集光レンズの高さ調整方法であって、
前記転写基板の下側に、上向きの受光面を有し、レーザー光の強度分布を測定するビームプロファイラを配置し、前記転写基板越しに、前記チップ部品が配置されていない位置で、レーザー光の強度分布を測定して、前記集光レンズの高さを調整する集光レンズの高さ調整方法である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の集光レンズの高さ調整方法であって、
前記受光面を前記転写基板下面に密着させて行う集光レンズの高さ調整方法である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の集光レンズの高さ調整方法であって、
前記受光面が前記転写基板下面より下にある集光レンズの高さ調整方法である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の集光レンズの高さ調整方法であって、前記転写基板の屈折率が既知の場合、
前記受光面と前記転写基板下面の間隔に応じて、前記転写基板下面におけるレーザーの強度分布を前記受光面のレーザーの強度分布から推定する集光レンズの高さ調整方法である。
【0018】
請求項5に記載の発明は、
複数のチップ部品が粘着層を介して配置されている転写基板の前記粘着層に、前記転写基板越しにレーザー光を照射して、前記チップ部品を選択的に転写先基板に転写するチップ転写方法であって、
前記チップ部品の外周部近傍の粘着層の粘着力が低下するように、ドーナッツ状の高強度域を有する強度分布のレーザー光を照射する予備照射と、前記予備照射工程を経た前記チップ部品と前記転写基板の間の粘着層に、トップハット分布またはガウシアン分布の強度分布を有するレーザー光を照射して、前記チップ部品を前記転写基板から剥離して前記転写先基板に転写する本照射とを行うチップ転写方法である。
【0019】
請求項6に記載の発明は、
複数のチップ部品を下面に配置した転写基板の、前記チップ部品と前記転写基板の界面である加工面に、前記転写基板越しにレーザー光を照射して、前記チップ部品を剥離して、前記チップ部品と対向する転写先基板の上面に転写するチップ転写装置において、
レーザー光源と前記転写基板の間に配置され、上下移動可能な集光レンズの高さを調整して、前記加工面の面内におけるレーザー光の強度分布を適正化する、集光レンズの高さ調整装置であって、
前記集光レンズを上下に駆動する集光レンズ駆動部と、前記転写基板下面より下に、上向きの受光面を有するように配置した、レーザー光の強度分布を測定するビームプロファイラと、前記集光レンズ駆動部および前記ビームプロファイラに接続した、制御部を備え、
前記制御部が、前記集光レンズの高さ位置を変えながら、前記受光面のレーザーの強度分布を取得する機能を有する集光レンズの高さ調整装置ある。
【0020】
請求項7に記載の発明は、
複数のチップ部品を下面に配置した転写基板の、前記チップ部品と前記転写基板の界面である加工面に、前記転写基板越しに上からレーザー光を照射して、前記チップ部品を剥離して、前記チップ部品と対向する転写先基板の上面に転写するチップ転写装置であって、
請求項6に記載の集光レンズの高さ調整装置を備えたチップ転写転写装置である。
【0021】
請求項8に記載の発明は、
複数のチップ部品が粘着層を介して配置されている転写基板の前記粘着層に、前記転写基板越しにレーザー光を照射して、前記チップ部品を選択的に転写先基板に転写するチップ転写装置であって、
前記粘着層でレーザーアブレーションを起こし得る波長のレーザー発振器と、前記レーザー発振器と前記転写基板の間に配置され、レーザー光を集光する集光手段と、前記レーザー発振器の前記集光手段の間に配置されたビームシェイパとを備え、前記ビームシェイパの状態を変化させ、前記粘着層に照射するレーザー光の強度分布を、リング状の高強度域を有する形状と、ガウス形状またはトップハット形状に切り替えることができるチップ転写装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の転写基板を用いることで、レーザーリフトオフ法でチップ部品を転写先の基板に転写するのに際して、チップ部品と転写基板の界面である加工面におけるレーザー光強度分布を適正化して良好な転写品質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態におけるレーザーリフトオフ装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態における集光レンズの高さ調整を行う手法を説明する図であり、(a)集光面を転写基板下面に合わせて実施する状態、(b)集光面を転写基板下面から話して実施する状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態における集光レンズの高さ調整を、集光面を転写基板下面から話して実施する手法について説明する図である。
【
図4】レーザーリフトオフ法について説明するもので、(a)チップ部品を転写基板から転写先基板に転写する過程を示す図であり、(b)転写基板から剥離したチップ部品が転写先基板に転写された状態を示す図である。
【
図5】レーザーリフトオフ法でレーザー光軸とチップ部品中心に位置ズレが生じている場合について説明するもので、(a)チップ部品を転写基板から転写先基板に転写する過程を示す図であり、(b)転写基板からチップ部品が部分的に剥離した状態を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態変形例におけるチップ転写装置の構成を説明する図である。
【
図7】本発明の実施形態変形例におけるレーザー光の予備照射について説明するものであり、(a)レーザー光を照射している過程を示す図であり、(b)予備照射によりチップ部品外周部近傍の粘着層の変化を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態変形例におけるレーザー光の本照射について説明するものであり、(a)レーザー光を照射している過程を示す図であり、(b)転写基板から剥離したチップ部品が転写先基板に転写された状態を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態変形例におけるレーザー光の予備照射についてチップの面内形状と関係付けて説明するものであり、(a)転写基板面上のチップ部品配列を示す図であり、(b)予備照射のレーザー光強度分布を例示する図であり、(c)予備照射後の粘着層の状態と予備照射を行っているチップ部品でのレーザー光強度分布を例示する図であり、(d)予備照射位置をスキャンして転写基板上のチップ部品に順次行っている状態を例示する図である。
【
図10】本発明の実施形態変形例におけるレーザー光の本照射についてチップの面内形状と関係付けて説明するものであり、(a)予備照射を行った後の粘着層の状態を例示する図であり、(b)予備照射済のチップ部品に行う本照射のレーザー光強度分布を示す図であり、(c)本照射によりチップ部品が転写基板から剥離した状態を例示する図であり、(d)順次本照射位置をスキャンして行く状態を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態変形例において、レーザーのビーム形状を四角にした例で、(a)予備照射のレーザー光強度分布を示す図であり、(b)予備照射済のチップ部品に行う本照射のレーザー光強度分布を示す図である。
【
図12】レーザーリフトオフ法により、チップ部品を転写基板から転写先基板に転写する状態を示す図である。
【
図13】レーザーリフトオフ法により、転写基板から剥離した転写先基板に転写された状態を示す図である。
【
図14】レーザーリフトオフ法で、チップ部品のサイズに対するレーザー光の強度分布と転写品質の関係を説明する図である。
【
図15】集光レンズ高さ調整の従来例を説明する図であり、(a)レーザーリフトオフを行う構成を示し、(b)レーザーリフトオフの加工面と同じ面高さのレーザー光強度分布をビームプロファイラで観測する構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は本発明の実施形態におけるチップ転写装置であるレーザーリフトオフ装置1の構成を示す図である。
【0025】
レーザーリフトオフ装置1は、転写基板2に高密度に配置されたチップ部品Cを転写先基板Bの所定位置に転写するものである。
図1において転写基板2はベース20に粘着層21を積層した構成となっているが、これに限定されるものではなく(粘着層21のない)ウェハ基板であってもよい。
【0026】
レーザーリフトオフ装置1は、ステージ3、レーザー光源4、集光レンズ5、集光レンズ駆動部51、転写基板保持手段6、ビームプロファイラ7、および制御部8を構成要素としている。また、レーザーリフトオフ装置1において、集光レンズ駆動部51、ビームプロファイラ7、制御部8は、集光レンズの高さ調整装置を構成している。
【0027】
ステージ3は、転写先基板Bを保持する機能を有しており、転写基板Bを面内方向に移動させる機能を有していることが望ましい。
【0028】
レーザー光源4はレーザーリフトオフに必要な波長およびエネルギーを転写基板2の下面2Fでありチップ部品Cとの界面である加工面に照射するための光源であり、レーザー発振器に限定されるものではなく、レーザー発振器から放射された光を導く光学系を含めたものもレーザー光源4に該当する。
【0029】
集光レンズ5は、レーザー光源4から発せられたレーザー光Lを集光するもので、集光レンズ駆動部51による上下移動により、転写基板2に対する高さ位置を調整することができ、これにより転写基板下面2Fのレーザー光強度分布が変化する。
【0030】
転写基板保持手段6は転写基板2の周縁部を把持することで保持するものであり、転写基板2を面内方向に移動させて位置合わせする機能を保持していることが望ましい。また、転写基板2を上下方向に高さ調整する機能を有していてもよい。
【0031】
ビームプロファイラ7はレーザー光等を受光して、受光面7Fにおける光強度の面内分布を観察するものである。本実施形態において、受光面7Fはレーザー光Lと対向する上向きになっている。受光面7Fの高さを調整する機能を備えていてもよい。
【0032】
制御部8は、集光レンズ駆動部51およびビームプロファイラ7と接続している。制御部8は、集光レンズ駆動部51と接続して、集光レンズ5の高さ制御を行う機能を有している。また、制御部8は、ビームプロファイラ7と接続して、任意のタイミングで光強度分布を2次元画像として取得することができる。さらに、制御部8は記憶手段と演算手段を内蔵し、集光レンズ5の高さ情報とビームプロファイラ7が取得した光強度分布2次元画像を関連付ける機能を有していることが望ましい。
【0033】
以下、
図1に示したレーザーリフトオフ装置1で、集光レンズ5の高さ調整を行う手法について
図1から
図3を用いて説明する。
【0034】
図2(a)は、転写基板2でチップ部品Cが配置されていない位置を集光レンズ5の直下に配置して、ビームプロファイラ7の受光面7Fを転写基板下面2Fと同一高さに設けた状態を示すものである。この状態においてレーザー光Lを照射すれば、ビームプロファイラ7は転写基板下面2Fのレーザー光強度の面内分布を観察することができる。すなわち、(チップ部品Cが配置された場所の)加工面におけるレーザー光強度の面内分布と等価な画像を得ることができる。そこで、制御部8が集光レンズ駆動部51により集光レンズ5の高さ位置を変えながらビームプロファイラ7によりレーザー光強度の面内分布を観察することで、適正な強度分布が得られる集光レンズ5の高さを知ることができる。ここで、適正な強度分布か否かはビームプロファイラ7の画像を人が観察して判断してもよいが、制御部8が画像解析プログラムにより自動判定してもよい。
【0035】
ところで、
図2(a)のように、ビームプロファイラ7の受光面7Fを転写基板下面2Fと同一高さに設けるためには、受光面7Fの高さ調整を行える機能を有していることが望ましいが、受光面7Fの高さ調整において上昇しすぎると、転写基板2を押し上げた状態となるため、LLO法における加工面のレーザー光強度の面内分布とは異なるものを観察することになってしまう。また、転写基板2が粘着層21を有している場合、受光面7Fが転写基板下面2Fと密着して剥離し難くなることによる弊害もある。具体的には、受光面7Fに粘着層21の一部が付着することがあるため、転写基板下面2Fにおけるレーザー光強度の面内分布を適正化を高頻度で行えなくなる。
【0036】
このように、
図2(a)の状態での、ビームプロファイラ7による観察は加工面高さのレーザー光強度の面内分布を直接知ることができるという長所がある反面、作業性等において問題もある。そこで、作業性も考慮したのが
図2(b)の状態である。
図2(b)が
図2(a)と異なるのはビームプロファイラ7の受光面7Fの高さであり、受光面7Fは転写基板下面2Fより下にある。すなわち、転写基板下面2Fと受光面7Fは密着していない。
【0037】
図2(b)のような受光面7Fの高さでは、当然ながら、ビームプロファイラ7によって得られるレーザー光強度の面内分布は転写基板下面2Fのものではない。しかし、転写基板2の屈折率が既知であれば、受光面7F高さ(転写基板2Fと受光面7Fの間隔)に応じて、受光面7Fが転写基板下面2Fから離れていても、受光面7Fのレーザー光強度の面内分布から、転写基板下面2Fのレーザー光強度の面内分布を推定出来ることが判った。その一例を示したのが
図3である。
図3は、転写基板下面2Fと受光面7Fの間隔を所定の値に設定したもので、転写基板下面2Fのレーザー光強度分布がビームプロファイルAであるとき、受光面7Fのレーザー光強度分布がビームプロファイルBとなる例を示したものである。すなわち、
図3に示した例においては、受光面7Fのレーザー光強度を
図14に示した強度分布Bのよう(ガウシアン分布)にするように集光レンズ5の高さを調整することで、(転写基板下面2Fのレーザー光強度分布がトップハット分布となって)LLO法で良好な転写品質が得られる。
【0038】
集光レンズの高さ調整装置としては、
図3のように、受光面7Fのレーザー光強度分布と転写基板下面2Fのレーザー光強度分布の関係を、転写基板下面2Fと受光面7Fの間隔に応じてデータベース化して制御部8に記録しておくことが望ましい。データベース化をすることにより、制御部8が集光レンズ駆動部51により集光レンズ5の高さ位置を変えながらビームプロファイラ7により受光面7Fのレーザー光強度の面内分布を観察することで、転写基板下面2Fで適正な強度分布が得られる集光レンズ5の高さを知ることができる。
【0039】
なお、データベース化は、受光面7Fのレーザー光強度分布と転写基板下面2Fのレーザー光強度分布の関係に限定されるものではない。すなわち、転写基板下面2Fと受光面7Fの間隔に応じて、実受光面7Fのレーザー光強度分布と、際にLLO法を行って確認した転写状態の関係をデータベース化しておいてもよい。
【0040】
このように、本発明の集光レンズの高さ調整装置を、レーザーリフトオフ装置に備えることにより、転写品質に優れたレーザーリフトオフ装置が得られる。
【0041】
すなわち、
図4(a)のように、転写基板下面2Fのレーザー光がチップ部品Cのチップサイズに応じた範囲でLLO法に適した強度となり、
図4(b)のように良好な転写が行える。
【0042】
ところで、
図4(a)のようにチップ部品Cのチップサイズに適した強度分布のテーザー光を照射する場合、転写すべきチップ部品Cに対してレーザー光照射位置を高精度に合わせる必要がある。すなわち、
図5(a)のようにレーザー光Lの光軸LCがチップ部品Cの中心CCからズレていると、レーザー光強度の弱い部分(図におけるチップ右側)が剥離しない状態で、チップ部品Cの左側から剥離が生じるため、チップ部品Cを転写先基板Bに平行に転写することが出来なくなる。
【0043】
このような現象を回避するために、
図14の強度分布D(トップハット分布)のレーザー照射範囲を広げれば個々のチップ部品Cの全面分の範囲に適正強度のレーザー光を照射することが可能となる。しかし、このようにレーザー照射範囲を広げるためには、レーザー光源4を高出力する必要があり、装置の大型化やコストアップにつながる。さらに、レーザー光の照射範囲が広いと転写対象のチップ部品Cに隣接するチップ部品Cを部分的に剥離することにもなり、好ましくない。
【0044】
ところが、このような問題点が生じるようなケースにおいても、転写基板下面2Fのレーザー光強度分布の制御が可能という特徴を活かした実施形態変形例として改善することが可能である。
【0045】
図6は本発明の実施形態変形例におけるチップ転写装置であるレーザーリフトオフ装置101の概略構成を示す図である。
【0046】
レーザーリフトオフ装置101は、転写基板2に高密度に配置されたチップ部品Cを転写先基板Bの所定位置に転写するものである。
図6において転写基板2はベース20に粘着層21を積層した構成となっている。
【0047】
レーザーリフトオフ装置101は、ステージ3、レーザー光源4、集光レンズ5、集光レンズ駆動部51、転写基板保持手段6、および制御部8を構成要素としている。
【0048】
ステージ3は、転写先基板Bを保持する機能を有しており、転写基板Bを面内方向に移動させる機能を有していることが望ましい。
【0049】
レーザー光源4は転写基板2の粘着層21に吸収され、粘着層21が硬化(粘着力低下)ないしは分解してガスを発生させるような波長およびエネルギーを照射するための光源である。なお、レーザー光源4はレーザー発振器に限定されるものではなく、レーザー発振器から放射された光を導く光学系も含まれる。また、レーザー光源4がビームシェイパの機能を有していても良い。すなわち、レーザー発振器と、ガルバノ等のスキャン機能を有る光学系等の間に、レーザーのビームプロファイル(面内強度分布)が可変なビームシェイパを配置していても良い。
【0050】
集光手レンズは、レーザー光源4から発せられたレーザー光Lを集光するもので、球面収差を生じるものであれば、集光レンズ駆動部51による粘着層21に対する高さ調整により、粘着層21面内のレーザー光強度分布を変化させることが出来る。
【0051】
転写基板保持手段6は転写基板2の周縁部を把持することで保持するものであり、転写基板2を面内方向に移動させて位置合わせする機能を保持していることが望ましい。また、転写基板2を上下方向に高さ調整する機能を有していてもよい。
【0052】
制御部8は、ステージ3、レーザー光源4、転写基板6、集光レンズ駆動部51と接続している。
【0053】
制御部8はステージ3と接続して、転写先基板Bの所定位置にチップ部品Cが転写できるようステージ3の位置制御を行う。
【0054】
制御部8は、レーザー光源4による、レーザー光Lの照射タイミングを制御することが出来る。また、レーザー光源4がガルバノのような光学系も含む場合においては、レーザー光Lの転写基板2の面内方向へのスキャンを制御することが出来いる。
【0055】
制御部8は転写基板保持手段6と接続して、転写基板2の面内方向位置を制御することが出来る。
【0056】
制御部8は集光レンズ駆動部51と接続して、集光レンズ5の状態を制御する機能を有している。この機能により、転写基板2の粘着層21に照射されるレーザー光の強度分布を変化させることが可能である。このため、
図6の左上に記したように、粘着層21に照射されるレーザー光の強度分布をチップ部品CのサイズCWに対して、外周部近傍で高強度となるような(プロファイルとしてはドーナッツ状に高強度域を有する)分布と、中心部付近で強くなるトップハット分布とを切り替えるようにすることも可能である。なお、粘着層21に照射されるレーザー光の強度分布の切り替えはこれに限定されるものではなく、例えば、トップハット分布の代わりにガウシアン分布が適用可能な場合もある。
【0057】
以下、
図6に示したレーザーリフトオフ装置1で、粘着層を介して転写基板に配置されたチップ部品を転写先基板に転写する工程について、
図7および
図8を用いて説明する。
【0058】
図7は、レーザーリフトオフ装置1で、チップ部品Cを転写基板2から剥離しないものの、チップ部品Cの外周部近傍において粘着層21の粘着力を低減(ないしは粘着層21を剥離)するようにレーザー光を照射する予備照射工程を説明するものである。
【0059】
なお、以下の説明において、転写基板2の粘着層21に照射するレーザー光の強度分布の切替に際して、集光手段5を駆動する例について説明しているが、レーザー光源4がビームシェイパの機能を有するものであればビームシェイパの状態を変化させて同様な切替を行うことも可能である。
【0060】
図7(a)において、転写基板2の粘着層21に照射するレーザー光の強度分布をチップ部品CのサイズCWに対して、外周部近傍で高く中心部で弱くしている。このような強度分布のレーザー光を受けることにより、粘着層21の粘着力はチップ部品Cの中心付近で維持されているが、外周部近傍では
図7(b)に示すように低粘着部21Vとなる。ここで、低粘着部21Vは粘着力が低下しているのみならず、チップ部品Cあるいはベース20から剥離している状態も含む。
【0061】
レーザー光の予備照射後は、
図7(b)に示したように、チップ部品Cの中心部付近で粘着層21の粘着力は高いためチップ部品Cは転写基板2に配置された状態を維持しているが、チップ部品Cの外周部近傍では剥離しやすい状態となっている。
【0062】
そこで、
図8(a)のようにチップ部品Cより小さめの領域でトップハット分布を有するレーザー光を、本照射として粘着層21に照射することで、チップ部品Cは転写基板2から容易に剥離し、平行状態を維持して転写先基板Bに転写される(
図8(b))。ここで、レーザー光の強度がトップハット分布ではなくガウシアン分布でもチップ部品Cを転写先基板Bに転写するが可能性を有する。また、予備照射により、チップ部品Cの外周部近傍において粘着層21の粘着力が弱いことから、本照射においてレーザー光の光軸がチップ部品Cの中心から少々ズレていたとしても、チップ部品Cを転写先基板Bに平行度を維持して転写することが可能である。
【0063】
以上のように、
図7(a)のような予備照射と、
図8(a)のような本照射を組み合わせることで、粘着層を介して転写基板に配置されたチップ部品を転写先基板に転写するのに際して、適正な位置に転写することが可能となる。すなわち転写品質に優れた転写が可能になる。
【0064】
ところで、転写基板2に配置された多数のチップ部品Cを転写先基板Bに転写するのに際して、個々のチップ部品C毎に予備照射と本照射を行うことは、集光手段駆動部51により頻繁に集光手段5の状態を切替える必要があり、集光手段駆動部51に対する負荷が増し、切替えに要する時間的ロスも生じる。
【0065】
そこで、ガルバノのような光学系でレーザー光を(転写基板2の面内方向に)スキャンできるのであれば、転写基板2に配置された全てのチップ部品Cの位置で予備照射を行ってから、個々のチップ部品の位置での本照射により転写先基板Bにチップ部品Cを転写するのが好ましい。
【0066】
この例を示したのが
図9および
図10であり、転写基板2におけるチップ部品Cの面内配置を用いて説明するものである。
【0067】
まず、
図9(a)は転写基板2に粘着剤21を介して配列したチップ部品Cを示すものであり、この配列の右上のチップ部品Cを中心に予備照射を行っている状態を示すのが
図9(b)である。
図9(b)において予備照射の面内強度の高い領域を示したのが予備照射部LP21Pであり、予備照射により低粘着部21Vがチップ部品Cの外周部近傍に生じる(
図9(c))。
図9(c)では、予備照射により低粘着部が形成されているのを示すとともに、隣接するチップ部品Cを中心に予備照射を行っている状態を示している。すなわち、予備照射によって低粘着部21Vが生じたチップ部品Cに、直後に本照射をするのではなく、チップ部品C配列に応じて、転写基板2に予備照射を順次行っていく(
図9(d))。
【0068】
このようにして、転写基板Bの(不良品等を除く)転写対象のチップ部品Cの配置位置に応じた予備照射が完了した状態を例示したのが
図10(a)である。
図10(a)では、転写基板2に配置されたチップ部品Cの個々の配置位置に応じて、粘着層21に低粘着部21Vがチップ部品Cの外周部近傍に形成されている。
【0069】
図10(a)の状態で、個々のチップ部品Cは中心付近で粘着力を維持した粘着層21により転写基板2に付着した状態であるが、外周部近傍の粘着層21は予備照射により低粘着部21Vになっている。
【0070】
このため、本照射ではチップ部品Cの外周部近傍の光強度が低くても、チップ部品Cを剥離することができる。すなわち、
図10(b)のようにチップ部品Cの中心付近に光強度が高い本照射部LP21Lを設けることで、
図10(c)のようにチップ部品Cの中心付近も低粘着部21Vとなり、チップ部品Cは剥離して転写先基板Bに転写される。以後、
図10(d)のように転写基板2に配置されたチップ部品C(の粘着層21)に本照射を行って、転写先基板Bの所定位置にチップ部品Cを順次転写する。
【0071】
なお、レーザー光の照射面形状について、
図9および
図10では丸いものとしているが、これに限定されるものではない。ビームシェイパが照射面形状を変更する機能を有しているなら、
図11のようにチップ形状に合わせた四角形状等にすることも可能である。
【0072】
ところで、
図1の装置構成においては加工面のレーザー光強度分布を適正化するために集光レンズの高さ調整が必要であるが、
図6の装置構成ようにレーザー光学系にビームシェイパを備えた場合にはビームシェイパの機能を利用して加工面のレーザー光強度分布を適正化することも可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 レーザーリフトオフ装置(チップ転写装置)
2 転写基板
2F 転写基板下面(加工面)
3 ステージ
4 レーザー光源
5 集光レンズ
6 転写基板保持手段
7 ビームプロファイラ
7F 受光面
8 制御部
20 ベース
21 粘着層
51 集光レンズ駆動部
B 転写先基板
C チップ部品
CW チップサイズ
H2F 転写基板下面高さ
L レーザー光