(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】コーティングされたガラス基板のエナメルコーティング
(51)【国際特許分類】
C03C 8/16 20060101AFI20240510BHJP
C03C 17/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C03C8/16
C03C17/02 Z
(21)【出願番号】P 2021576217
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 GB2020051697
(87)【国際公開番号】W WO2021023965
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-12-20
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521544562
【氏名又は名称】フェンジ・エイジーティ・ネザーランズ・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Fenzi AGT Netherlands B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】カッツバッハ、ローランド
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-284934(JP,A)
【文献】特開2017-019697(JP,A)
【文献】特開2017-197426(JP,A)
【文献】特開2010-083748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03C 17/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングを有するガラス基板を加飾する方法であって、
(i)前記コーティングの少なくとも一部分上に、所望のパターンでペーストを塗布する工程と、
(ii)前記ペーストを乾燥させて、前記所望のパターンの乾燥ペーストを形成する工程と、
(iii)前記乾燥ペーストを焼成して、前記所望のパターンのエナメルを形成する工程であって、前記エナメルが前記ガラス基板に直接結合される、工程と、を含み、
前記ペーストは、分散媒中に分散された固形分を含み、前記固形分は、
(a)意図的に添加された
10~40mol%のZnOと、
20~40mol%のB
2O
3と、
35~65mol%のBi
2O
3と、
0.1~15mol%のAl
2O
3と、
0~2mol%のMgOと、
0~1mol%のSiO
2と、
(b)偶発的な不純物と
を含む組成物を含み、
構成成分の総mol%は100mol%であり、
工程(iii)により、前記コーティングの前記部分が溶解する、方法。
【請求項2】
前記組成物が、0.5~14mol%のAl
2O
3を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、20~30mol%のB
2O
3を含む、請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が実質的にフッ素を含まない、かつ/又は実質的に鉛を含まない、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、0~2mol%のCeO
2を更に含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物がガラスフリットである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物のD90粒径が、5~20マイクロメートルである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物のD90粒径が1.0マイクロメートル以下である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記固形分が顔料を更に含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記固形分が、前記固形分の総重量に基づいて、70~90重量%の前記組成物と、
10~30重量%の顔料と、を含む、請求項
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングを有するガラス基板、例えば、無機光学コーティングなどのコーティングを含む建築用ガラス又は自動車用ガラスのエナメルコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば建築用途及び自動車用途で使用されるガラス基板においては、薄い、多層積層体でのコーティングが増えている。これらの多層積層体は、通常、可視スペクトルにおいて平坦、均質、透明であり、ガラス基板に所望の機能性を提供する、多数の薄膜(通常それぞれ100nm未満)を含む。この機能性とは、例えば、透明基板を加熱する近赤外(near-infrared、NIR)反射又は電気伝導性であり得る。
【0003】
これらの多層コーティングは、通常、全体に所望の効果を与えるよう設計された、精密に管理された一連の材料を含む(H.Bach and D.Krause,Thin Films on Glass,Springer,1997及びH.Angus Macleod,Thin film and optical filter,CRC Press,2017を参照されたい)。これらの材料としては、高屈折誘電材料(例えば、TiO2、Nb2O5、ZrO2)、低屈折誘電材料(例えば、Si3N4、SiO2、ZnO)、及び金属中間層(例えば、Ag、Au)を挙げることができる。
【0004】
特定の用途では、ガラス基板の一部をエナメル、例えば、下地接着剤を紫外線劣化から保護するために基板の縁部に塗布される不透明のエナメルを用いて加飾又は被覆することが望ましい場合がある。このようなエナメルは通常、ガラス-顔料組成物から得られ、これは一般に、印刷技法を用いて有機相中の分散体としてガラス基板に塗布される。その後有機相は、通常、熱工程で除去される。印刷された組成物は、好適な温度(通常400~700℃)で融着され、その結果、ガラス基板と恒久的かつ安定した結合を有するエナメルが得られる。
【0005】
従来の市販のエナメルは、コーティングされたガラス基板を加飾するのに適していない。これは、これらのエナメルが多層コーティングを完全にエッチングすることができず、それによって、変色、接着性の欠如、層間剥離、及びコーティング機能の損失などの望ましくない欠陥をもたらすことによる。従来のエナメルは、エナメルが塗布される領域から最初にコーティングが化学的又は機械的に除去され、エナメルが裸のガラス基板と直接融着可能となる場合にのみ、コーティングされたガラス基板を加飾するのに使用可能である。このプロセスはどちらもコストが高く、品質不良につながる可能性がある。
【0006】
国際公開第2014/133929号は、エナメルがガラス基板と直接結合することができるように、印刷領域の下のコーティングが焼成工程中に溶解される、代替的方法を開示している。しかしながら、このような方法で使用され得る組成物の種類に関して、国際公開第2014/133929号では開示されていない。
【0007】
したがって、様々なコーティングされたガラス基板に対して良好な加工を提供し、良好な特性バランスを有する加飾コーティングされたガラス物品をもたらすエナメル形成組成物が必要とされている。特に、必要とされる焼成範囲においてエナメルの反応性が、下地コーティングと完全に融解又は反応するのに十分であり、良好な色を形成し、良好な化学的耐久性を提供し、かつ良好なガラス強度を提供する、エナメル形成組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本明細書には、コーティングを有するガラス基板を加飾するための組成物が記載されており、当該組成物は、
10~40mol%のZnOと、
20~40mol%のB2O3と、
25~65mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物と、
0.1~15mol%のAl2O3と、を含む。
【0009】
本明細書にはまた、コーティングを有するガラス基板を加飾するためのペーストが記載されており、当該ペーストは分散媒中に分散した固形分を含み、当該固形分は前述の組成物を含む。
【0010】
本明細書にはまた、
(a)前述の組成物と、
(b)分散媒と、を任意の順序で混合することを含む、ペーストの調製方法が記載されている。
【0011】
本明細書にはまた、コーティングを有するガラス基板を加飾する方法が記載されており、当該方法は、
(i)当該コーティングの少なくとも一部分上に、所望のパターンで前述のペーストを塗布する工程と、
(ii)当該ペーストを乾燥させて、当該所望のパターンの乾燥ペーストを形成する工程と、
(iii)当該乾燥ペーストを焼成して、当該所望のパターンのエナメルを形成する工程であって、当該エナメルが当該ガラス基板に直接結合される、工程と、を含む。
【0012】
本明細書は、前述の方法によって得ることが可能な、又は得られる、その少なくとも一部分上に形成されたエナメルを有するコーティングされたガラス基板を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい及び/又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせのいずれかで、組み合わせることができる。
【0014】
範囲が本明細書で指定される場合、範囲の各端点は独立していることが意図される。したがって、範囲の列挙された各上端点は、列挙された各下端点と独立して組み合わせることができ、その逆もまた同様であることが明白に想到される。
【0015】
本明細書に記載の組成は、mol百分率として示される。これらのmol百分率は、組成物の調製において出発物質として使用される成分のモル百分率であり、酸化物基準である。当業者であれば理解するように、特定の元素の酸化物以外の出発物質を、本発明の組成物の調製に使用することができる。非酸化物の出発物質を使用して、特定の元素の酸化物を組成物に供給する場合、その元素の酸化物を列挙したmol%で供給した場合に相当するモル量の元素を供給するのに適切な量の出発物質を使用する。組成物、特にガラスフリット組成物を規定するこのアプローチは、当該技術分野において典型的なものである。当業者であれば容易に理解するように、組成物の製造プロセス中に揮発性化学種(酸素など)が失われることがあるため、最終組成物は、本明細書において酸化物基準で示される出発物質のmol百分率に、正確に一致しない場合がある。誘導結合プラズマ発光分光法(Inductively Coupled Plasma Emission Spectroscopy、ICP-ES)などの当業者に公知のプロセスによる、焼成組成物の分析を用いて、対象とする組成物の出発成分を計算することができる。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「エナメル」は、コーティングを有するガラス基板の少なくとも一部分に塗布された本発明のペーストを、焼成工程(例えば、好ましくは400~750℃の温度で)にさらすことで生じる材料を意味することが意図される。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「ペースト」は、ペースト(例えば、スクリーン印刷方法で使用されるようなもの)及びインク(例えば、インクジェット印刷方法で使用されるようなもの)の両方を含むことを意図する。
【0018】
本明細書は、コーティングを有するガラス基板、例えば建築用又は自動車用ガラスを加飾するのに好適な組成物を提供する。本組成物は、コーティングを有する任意の種類のガラス基板を加飾するのに好適である。加飾されるガラス基板上のコーティングは、様々な厚さであり得るが、通常、50~300nmの範囲の厚さを有する。コーティングは、通常、ガラス基板上に順次堆積された(例えば、物理的蒸着法(physical vapour deposition、PVD)などによって)、1以上の薄膜を含む。これらの膜としては、高屈折誘電材料(例えば、TiO2、Nb2O5、ZrO2)、低屈折誘電材料(例えば、Si3N4、SiO2、ZnO)、及び金属中間層(例えば、Ag、Au)を挙げることができる。コーティングされたガラスの代表的な例としては、ClimaGuard(Guardian製)及びSilverstar(Glas Trosch製)が挙げられる。本明細書に記載の組成物、ペースト、及び方法を使用して加飾されるコーティングされたガラス基板は、平坦(例えば、板ガラス)又は非平坦(例えば、湾曲ガラス)であり得る。
【0019】
本明細書の組成物は、
10~40mol%のZnOと、
20~40mol%のB2O3と、
25~65mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物と、
0.1~15mol%のAl2O3と、を含む。
【0020】
本明細書の組成物は、上記のようなコーティングを有するガラス基板を加飾するために使用される場合、良好な特性バランスを示すことが見出された。これは、組成物が低溶融であることに由来し(例えば、好ましくは400~750℃の温度で、より好ましくは620~720℃の温度で溶融する)、これは、コーティングに塗布された後(例えばペーストの形態で)ガラス基板上でコーティングを溶解することができることを意味する。これにより、得られるエナメルとガラス基板との間の強固な直接結合がもたらされる。更に、得られるエナメルは、良好な外観を有し(例えば、滑らかであり、気泡を含有しない)、良好な色深度(例えば、色が暗色である)を有する。したがって、得られるエナメルは、審美的に満足のいく外観を有し、不透明なエナメルとして機能し、例えば、ガラス基板を建築物又は自動車に取り付けるために使用され得る下地接着剤にUV保護を提供する良好な機能性能を有する。本組成物の低い焼成温度はまた、コーティングされたガラス基板の非印刷部分への損傷又は歪みを防止するのにも有益である。
【0021】
本明細書の組成物は、10~40mol%のZnOを含む。好ましくは、本組成物は、15~35mol%のZnO、より好ましくは20~30mol%のZnO、更により好ましくは20~25mol%のZnO(例えば、23.3mol%のZnO)を含む。
【0022】
本明細書の組成物は、20~40mol%のB2O3を含む。好ましくは、本組成物は、20~35mol%のB2O3、より好ましくは20~30mol%のB2O3、更により好ましくは24~28mol%のB2O3(例えば、26mol%のB2O3)を含む。
【0023】
本明細書の組成物は、25~65mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物を含む。好ましくは、本組成物は、35~65mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物、40~60mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物、より好ましくは40~50mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物、更により好ましくは40~45mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物(例えば、43.7mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物)を含む。
【0024】
好ましくは、本明細書の組成物は、25~65mol%のBi2O3、より好ましくは35~65mol%のBi2O3、更により好ましくは40~60mol%のBi2O3、更により好ましくは40~50mol%のBi2O3、更により好ましくは40~45mol%のBi2O3(例えば、43.7mol%のBi2O3)を含む。
【0025】
好ましくは、本明細書の組成物は、25~65mol%のTeO2、より好ましくは30~55mol%のTeO2、更により好ましくは40~50mol%のTeO2、更により好ましくは40~45mol%のTeO2を含む。
【0026】
好ましくは、本明細書の組成物は、25~65mol%のPbO、より好ましくは30~55mol%のPbO、更により好ましくは40~50mol%のPbO、更により好ましくは40~45mol%のPbOを含む。
【0027】
任意に、本明細書の組成物は、Bi2O3、TeO2及び/又はPbOの混合物を含む。
【0028】
本明細書の組成物は、0.1~15mol%のAl2O3を含む。好ましくは、本組成物は、0.5~14mol%、より好ましくは1.0~13.5mol%、より好ましくは1.5~12mol%、より好ましくは2.0~10mol%、より好ましくは3.0~9.5mol%、より好ましくは4.5~8.5mol%のAl2O3、より好ましくは6.0~8.0mol%のAl2O3、より好ましくは6.5~7.5mol%のAl2O3、更により好ましくは6.8~7.2mol%のAl2O3(例えば、7.0mol%のAl2O3)を含む。
【0029】
15mol%を超えるAl2O3を含む組成物は、調製されなくてもよい。これは、Al2O3がこの量を上回ると、Al2O3はBi2O3/TeO2/PbO-B2O3-ZnOマトリックスと不混和性になり、相分離につながるから(少なくとも調査された組成物の場合)である。
【0030】
上記の量の組成物中のAl2O3存在は、焼成工程中の結晶化を抑制する。さもないとエナメルの外観、色深度、光学密度、及びガラス強度に悪影響を及ぼす可能性がある。多層コーティング(例えば、10以上の個々のスパッタリング層)などの複雑なコーティングを有するコーティングされたガラス基板の場合、Al2O3の存在は、滑らかなエナメル表面を達成するのに特に重要であることが見出されている。ガラス強度に関しては、Al2O3の存在によりエナメルとガラス基板との間の張力を、それらの間により小さい熱膨張不整合を提供することによって、低減することができる(実施例を参照)。
【0031】
任意に、本明細書の組成物は、1.5:1~2.5:1の範囲のBi2O3/B2O3モル比を含む。本組成物は、任意に、1.4:1~3.7:1の範囲のBi2O3/ZnOのモル比を含んでもよい。
【0032】
好ましくは、本明細書の組成物は、1種以上のアルカリ金属酸化物、例えば、Li2O、Na2O、K2O、及びRb2Oから選択される1種以上の化合物、好ましくはLi2O、Na2O及びK2Oから選択される1種以上を更に含む。本組成物は、0~10mol%、好ましくは0~5mol%、より好ましくは0~2mol%の1種以上のアルカリ金属酸化物を更に含んでもよい。
【0033】
好ましくは、本明細書の組成物は、CeO2を更に含む。本組成物は、0~2.0mol%、好ましくは0~1.0mol%、より好ましくは0~0.5mol%のCeO2を更に含んでもよい。
【0034】
本明細書の組成物は、アルカリ土類金属酸化物及びSnO2から選択される1種以上の化合物、例えばMgO、CaO、SrO及びSnO2から選択される1種以上の化合物を更に含んでもよい。組成物は、0~10mol%、好ましくは0~5mol%、より好ましくは0~2mol%の、アルカリ土類金属酸化物及びSnO2から選択される1種以上の化合物を更に含んでもよい。
【0035】
本明細書の組成物は、SiO2を更に含んでもよい。しかしながら、本明細書に開示される種類の組成物中に大量のSiO2(すなわち10mol%を超える)が存在することにより、焼成工程中に複雑な問題が生じ、粗いエナメル表面につながる可能性があることが判明している。これは、特に、複雑なコーティングを有するコーティングされたガラス基板(例えば、Si3N4含有量が高い、及び/又は10以上の各個層などの多層コーティング)の場合であることが判明している。理論に束縛されるものではないが、SiO2は、ガラス基板上のコーティングの溶解中に望ましくない結晶化を促進し、それによって、焼成温度において組成物の十分な流動を阻害すると考えられる。したがって、いくつかの実施例では、本明細書の組成物は、0~10mol%、好ましくは0~7mol%、より好ましくは0~5mol%、より好ましくは0~2mol%のSiO2を更に含んでもよく、また所望によりSiO2を実質的に含まなくてもよい。本明細書の組成物は、特定の成分を実質的に含まなくてもよい。本明細書で使用するとき、組成物に関して「実質的に含まない」という用語は、組成物の列挙された成分の総含有量が1mol%以下であることを意味する。当業者であれば容易に理解するように、例えば、ガラスフリット粒子の製造中に、ガラス組成物に低濃度の不純物が混入する場合がある。例えば、溶融/急冷ガラス形成プロセスでは、このような不純物は、溶融工程で使用される容器の耐火性ライニングから生じ得る。したがって、特定の成分が全く存在しないことが望ましい場合があるが、実際には、これは達成することが困難となり得る。本明細書で使用するとき、用語「意図的に添加されたXがない」(ここでXは特定の成分である)は、組成物の製造において、最終的なエナメル組成物にXを送達することを意図した原料が用いられなかったことを意味し、組成物中に任意の低濃度でXが存在するのは、製造中の混入によるものである。
【0036】
その毒性ゆえに、本明細書の組成物における鉛含有化合物の使用は望ましくない場合がある。したがって、好ましい組成物では、組成物は実質的に鉛を含まない。本明細書で使用するとき、用語「実質的に鉛を含まない」とは、意図的に添加された鉛を含有しない組成物を含むことを意図する。例えば、本組成物は、0.5mol%未満のPbO、0.1mol%未満のPbO、0.05mol%未満のPbO、0.01mol%未満のPbO又は0.005mol%未満のPbOを含んでもよい。
【0037】
本明細書の好ましい組成物では、組成物は、フッ素を実質的に含まない。本明細書で使用するとき、用語「実質的にフッ素を含まない」とは、意図的に添加されたフッ素を含有しない組成物を含むことを意図する。例えば、本組成物は、0.5mol%未満のフッ素、0.1mol%未満のフッ素、0.05mol%未満のフッ素、0.01mol%未満のフッ素、又は0.005mol%未満のフッ素を含んでよい。
【0038】
本明細書の好ましい組成物では、組成物はチタンを実質的に含まない。本明細書で使用するとき、用語「実質的にチタンを含まない」とは、意図的に添加されたチタンを含有しない組成物を含むことを意図する。例えば、本組成物は、1.0mol%未満のTiO2、0.5mol%未満のTiO2、0.1mol%未満のTiO2、0.05mol%未満のTiO2、又は0.01mol%未満のTiO2を含んでもよい。
【0039】
本明細書の好ましい組成物では、組成物はマンガンを実質的に含まない。本明細書で使用するとき、用語「実質的にマンガンを含まない」とは、意図的に添加されたマンガンを含有しない組成物を含むことを意図する。例えば、本組成物は、1.0mol%未満のMnO2、0.5mol%未満のMnO2、0.1mol%未満のMnO2、0.05mol%未満のMnO2、又は0.01mol%未満のMnO2を含んでもよい。
【0040】
本明細書の好ましい組成物では、組成物はタングステンを実質的に含まない。本明細書で使用するとき、用語「実質的にタングステンを含まない」とは、意図的に添加されたタングステンを含有しない組成物を含むことを意図する。例えば、本組成物は、1.0mol%未満のWO3、0.5mol%未満のWO3、0.1mol%未満のWO3、0.05mol%未満のWO3、又は0.01mol%未満のWO3を含み得る。
【0041】
本明細書の組成物は、好ましくは本明細書に記載される組成物、及び偶発的な不純物(組成物の製造中に取り込まれた不純物など)から本質的になる。その場合、当業者であれば容易に理解するように、列挙された構成成分の総mol%は100mol%であり、任意の残部は偶発的な不純物である。好ましくは、任意の偶発的な不純物は、1mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下、更により好ましくは0.2mol%以下で存在する。
【0042】
例えば、本明細書の好ましい組成物は、
(i)10~40mol%のZnOと、
(ii)20~40mol%のB2O3と、
(iii)25~65mol%のBi2O3、TeO2、若しくはPbO、又はこれらの混合物と、
(iv)0.1~15mol%のAl2O3と、
(v)0~10mol%のLi2O、Na2O、及びK2Oから選択される1種以上の化合物と、
(vi)0~10mol%のMgO、CaO、SrO、及びSnO2から選択される1種以上の化合物と、
(vii)0~2mol%のCeO2と、
(viii)0~10mol%のSiO2と、
(ix)偶発的な不純物と、から本質的になる。
【0043】
本明細書の特に好ましい組成物は、
(i)20~25mol%のZnO(例えば、23.3mol%のZnO)と、
(ii)24~28mol%のB2O3(例えば、26.0mol%のB2O3)と、
(iii)40~45mol%のBi2O3(例えば、43.7mol%のBi2O3)と、
(iv)6.0~8.0mol%のAl2O3(例えば、7.0mol%のAl2O3)と、
(v)偶発的な不純物と、
から本質的になる。
【0044】
本明細書に記載される組成物の最適なD90粒径は、コーティングされたガラス基板に本組成物を塗布するために使用される方法によって決まる。
【0045】
特定の用途(例えば、スクリーン印刷)の場合、本明細書の組成物は、好ましくは、30マイクロメートル未満のD90粒径を有する。いくつかの実施例では、本組成物の粒子は、5~20マイクロメートル、好ましくは7~14マイクロメートル、より好ましくは12~13マイクロメートルのD90粒径を有し得る。
【0046】
特定の用途(例えば、インクジェット印刷)の場合、本明細書の組成物は、好ましくは、1.5マイクロメートル以下、又は1.0マイクロメートル以下(任意に0.1マイクロメートル以上)のD90粒径を有する。いくつかの実施例では、本組成物の粒子は、0.6~1.5マイクロメートル、0.7~1.2マイクロメートル、又は0.8~1.0マイクロメートルのD90粒径を有し得る。
【0047】
本明細書における用語「D90粒径」は、粒径分布を指し、D90粒径の値は、特定の試料中、全粒子の90体積%がその粒径値未満にある値に相当する。D90粒径は、レーザー回折法を使用して(例えば、Malvern Mastersizer 2000を使用して)、求めることができる。
【0048】
本明細書に記載される組成物の最適なD50粒径は、コーティングされたガラス基板に本組成物を塗布するために使用される方法によって決まる。
【0049】
特定の用途(例えば、スクリーン印刷)の場合、本明細書の組成物は、好ましくは、20マイクロメートル未満のD50粒径を有する。いくつかの実施例では、本組成物の粒子は、3~15マイクロメートル、好ましくは5~10マイクロメートル、より好ましくは6~7マイクロメートルのD50粒径を有し得る。
【0050】
特定の用途(例えば、インクジェット印刷)の場合、本明細書の組成物は、好ましくは、1.0マイクロメートル以下のD50粒径を有する。いくつかの実施例では、本組成物の粒子は、0.1~1.0マイクロメートル、0.3~0.9マイクロメートル、0.4~0.7マイクロメートル、又は0.45~0.6マイクロメートルのD50粒径を有し得る。
【0051】
本明細書における用語「D50粒径」は、粒径分布を指し、D50粒径の値は、特定の試料中、全粒子の50体積%がその粒径値未満にある値に相当する。D50粒径は、レーザー回折法を使用して(例えば、Malvern Mastersizer 2000を使用して)、求めることができる。
【0052】
特定の用途(例えば、スクリーン印刷)の場合、本明細書の組成物は、好ましくは、50、30、25又は20マイクロメートル未満の最大粒径を有する。いくつかの実施例では、本組成物の粒子は、10~50マイクロメートルの最大粒径を有し得る。
【0053】
特定の用途(例えば、インクジェット印刷)の場合、本明細書の組成物は、好ましくは、2.0、1.5又は1.0マイクロメートル未満の最大粒径を有する。いくつかの実施例では、本組成物の粒子は、0.5~2マイクロメートルの最大粒径を有し得る。
【0054】
インクジェット印刷用途では、インクは、低粘度を有するように調製することができ、例えば100s-1のずり速度で、15~25mPas(ミリパスカル秒)である。このような組成物では、固体粉末含量は低く、例えば30~55%である。
【0055】
スクリーン印刷ペーストは、より高い粘度を有し、例えば、10s-1で12~15Pas、及び100s-1で8~10Pasである。固体粉末含量はより高く、例えば75~85%である。また、本明細書に記載の組成物については、ペースト中の固体含量が90%以上であってもよい。
【0056】
好ましくは、本明細書の組成物の熱膨張係数(coefficient of thermal expansion、CTE)は、コーティングを有するガラス基板のCTEに近似する。したがって、本明細書の組成物は膨張計を用いて測定した場合に、好ましくは、120×10-7/K以下、より好ましくは115×10-7/K以下、更により好ましくは110×10-7/K以下、更により好ましくは108×10-7/K以下のCTEを有する。好適な膨張計は、TA Instrumentsから入手可能なDIL803 Dual Sample Dilatometerである。焼成中、コーティングは、エナメルに少なくとも部分的に溶解することができ、更にエナメルのCTEを90×10-7/Kへと低下させる(例えば、ZnO及び/又はSiO2を取り込むことにより、エナメルのCTEをより低い値にシフトさせる)。したがって、エナメルとガラス基板との間の応力を低減することができる。
【0057】
本明細書の好ましい組成物では、この組成物は粉末である。好ましくは、本組成物は、列挙された組成物を有する可融性材料、又は列挙された組成物とともに提供される1種以上の可融性材料の混合物である。この組成物は、完全に非晶性、部分的に結晶性又は完全に結晶性の材料であってもよい。好ましくは、本組成物は結晶性化合物である。好ましくは、本組成物はガラスフリットである。代替的に、本組成物は焼結材料である。
【0058】
好ましい組成物では、本組成物はガラスフリットである。ガラスフリット組成物は、必要な原料をともに混合し、それらを溶融して、溶融ガラス溶解物を形成し、次いで急冷してガラスフリットを形成することによって、調製することができる。プロセスは、得られたガラスをミリング加工して、所望の粒径のガラスフリット粒子を提供すること、を更に含んでもよい。例えば、ジェットミリング加工プロセス、ボールミリング加工プロセス、又はアルコール系、グリコール系、若しくは水系溶媒中での湿式ビーズミリング加工などのビーズミリング加工プロセスを使用して、ガラスをミリング加工してもよい。当業者であれば、ガラスフリットを調製するための好適な代替方法を認識している。好適な代替方法としては、水急冷、ゾルゲルプロセス、及び噴霧熱分解が挙げられる。
【0059】
ガラスフリット組成物は、好ましくは、360~400℃の範囲の、膨張軟化点温度(dilatometric softening point temperature)(Ts)を有する。例えば、ガラスフリット組成物は、360~380℃の範囲のTsを有し得る。
【0060】
本明細書で使用するとき、用語「軟化点」又は「Ts」は、ガラスの軟化又は変形の徴候が最初に観察される温度を意味する。
【0061】
このガラスフリット組成物は、好ましくは、330~400℃又は350~400℃の範囲のガラス転移温度(Tg)を有する。例えば、このガラスフリット組成物は、350~390℃の範囲のTgを有し得る。
【0062】
本明細書で使用するとき、用語「ガラス転移温度」又は「Tg」は、ASTM E1356「Standard Test Method for Assignment of the Glass Transition Temperature by Differential Scanning Calorimetry」に従って測定されるガラス転移温度を意味する。
【0063】
本明細書に記載される組成物は、エナメルペーストに形成することができる。
【0064】
本明細書のペーストは、コーティングを有するガラス基板を加飾するのに好適である。ペーストは、分散媒中に分散された固形分を含み、当該固形分は前述の組成物を含む。好ましくは、固形分は顔料を更に含む。
【0065】
本明細書の好ましいペーストにおいて、固形分は、固形分の総重量に基づいて、70~90重量%、より好ましくは75~85重量%(例えば83重量%)の前述の組成物と、10~30重量%の顔料、より好ましくは15~25重量%の顔料(例えば17重量%)とを含む。このようなペーストは、スクリーン印刷法を使用するコーティングされたガラス基板への塗布に特に好適であるが、インクジェット印刷に使用することもできる。
【0066】
好ましいペーストにおいて、ペーストは、75~95重量%、より好ましくは80~90重量%(例えば、85重量%)の固形分と、5~25重量%、より好ましくは10~20重量%(例えば15重量%)の分散媒とを含む。このようなペーストは、スクリーン印刷法を使用するコーティングされたガラス基板への塗布に特に好適である。
【0067】
好ましいペーストにおいて、ペーストは、35~55重量%、より好ましくは40~50重量%(例えば、45重量%)の固形分と、45~65重量%、より好ましくは50~60重量%(例えば55重量%)の分散媒とを含む。このようなペーストは、インクジェット印刷法を使用するコーティングされたガラス基板への塗布に特に好適である。
【0068】
本明細書のペーストは、ガラス基板のコーティングの最上面上に組成物を堆積させるため、コーティング(例えば、印刷によって)を有するガラス基板に塗布されてもよい。本明細書で使用するとき、用語「最上面」は、ガラス基板と直接接触しないコーティングの表面を指す。
【0069】
本明細書で使用するとき、用語「分散媒」は、ペーストをガラス基板に塗布すること(すなわち印刷状態)を意図した状態で、液相にある物質を指す。したがって、周囲条件にて、分散媒は固体であってもよく、又は印刷には粘稠すぎる液体であってもよい。当業者であれば容易に理解するように、本発明の組成物及び分散媒を有する顔料の組み合わせは、必要に応じて高温で行われ得る。
【0070】
本明細書のペーストに使用される分散媒は、ペーストを基板に塗布する目的の方法に基づいて選択することができる。通常、分散媒は有機液体を含む。
【0071】
実施例において、分散媒は、塗布状態で粒子混合物を十分に懸濁させ、塗布されたペーストの乾燥中、及び/又は堆積粒子混合物の焼成中に完全に除去される。媒体の選択に影響する因子としては、溶媒粘度、蒸発速度、表面張力、臭気及び毒性が挙げられる。好適な媒体は、好ましくは印刷条件において非ニュートン挙動を示すものである。好適には、媒体は、水、アルコール、グリコールエーテル、ラクテート、グリコールエーテルアセテート、アルデヒド、ケトン、芳香族炭化水素、及び油のうちの1つ以上を含む。2つ以上の分散媒の混合物も、好適である。
【0072】
ペーストは、好ましくは、1種以上の補助材料を更に含む。これらには、分散剤、結合剤、樹脂、粘度/レオロジー変性剤、湿潤剤、増粘剤、チキソトロープ剤、安定剤、及び界面活性剤を挙げることができる。
【0073】
好ましいペーストでは、固形分は顔料を更に含む。2つ以上の顔料の混合物も、好適である。好ましい顔料としては、黒色スピネル型顔料が挙げられる。
【0074】
ペーストは好ましくは実質的に鉛を含まず、すなわち、鉛含有成分はインクに実質的に存在しない。例えば、ペーストは、0.1重量%未満の鉛を含み得る。
【0075】
ペーストは好ましくは実質的にフッ素を含まず、すなわち、フッ素含有成分はインクに実質的に存在しない。例えば、ペーストは、0.1重量%未満のフッ素を含み得る。
【0076】
いくつかの用途、例えば、自動車用ガラス用途では、ペーストが、得られるエナメルに非粘着性を付与することが有利である。これは、これらの用途では、焼成プロセス完了後にガラス基板を曲げる(例えば、車のフロントガラスなどを形成するため)必要が多いからである。エナメルが非粘着性を有さない場合、曲げプロセス中に加工問題に遭遇することが多い。このような非粘着性は、ペースト中に添加剤材料を組み込むことによって達成することができる。したがって、好ましいペーストでは、固形分は添加剤材料を更に含む。好ましくは、固形分は、固形分の総重量に基づいて、3~10重量%、4~10重量%、5~10重量%、又は5~8重量%(例えば8重量%)の添加剤材料を含む。好ましくは、添加剤材料は、ガラスフリット組成物(例えば、ケイ酸ビスマスガラスフリット)である。代替的に、添加剤材料は、結晶性化合物又は充填材料(例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、ジルコニア、ジルコン、コーディエライト、又は石英ガラス)である。好ましくは、添加剤材料は、シード材料(例えば、結晶シード材料)を更に含む。より好ましくは、添加剤材料は、固形分の総重量に基づいて、0.2~4重量%、又は1~3重量%(例えば2重量%)のシード材料を更に含む。
【0077】
本明細書のペーストは、
(a)前述の組成物と、
(b)分散媒と、を任意の順序で混合することによって調製され得る。
【0078】
いくつかの実施例では、本ペーストは、
(a)前述の組成物と、
(b)顔料と、
(c)分散媒と、を任意の順序で混合することによって調製され得る。
【0079】
いくつかの実施例では、本ペーストは、
(a)前述の組成物と、
(b)顔料と、
(c)分散媒と、
(d)添加剤材料と、を任意の順序で混合することによって調製され得る。
【0080】
成分を、例えば、溶解機、高剪断ミキサー、又はビーズミルを使用して、混合してもよい。いくつかの実施例では、分散媒及び/又は組み合わせた成分を、混合前及び/又は混合中に加熱してもよい。
【0081】
場合によっては、分散媒と組み合わせた後、所望の粒径に組成物を粉砕することが望ましい場合がある。好適な粉砕技術としては、ビーズミリング加工、ボールミリング加工、バスケットミリング加工、又は他の好適な湿式ミリング加工技術が挙げられる。
【0082】
本明細書に記載されるペーストは、コーティングを有するガラス基板を加飾する方法において特に有用であり、この方法は、
(i)当該コーティングの少なくとも一部分上に、所望のパターンで前述のペーストを塗布する工程と、
(ii)当該ペーストを乾燥させて、当該所望のパターンの乾燥ペーストを形成する工程と、
(iii)当該乾燥ペーストを焼成して、当該所望のパターンのエナメルを形成する工程であって、当該エナメルが当該ガラス基板に直接結合される、工程と、を含む。
【0083】
工程(i)におけるコーティングの少なくとも一部分上へのペーストの堆積は、前述のペーストの層を基板のコーティングの一部分上に塗布することによって達成され得る。ペーストの層は、好適な印刷方法によってコーティングされたガラス基板に塗布してもよい。例えば、ペーストの層は、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ローラーコーティング、又はディスペンサー塗布によってコーティングされたガラス基板に塗布されてもよい。好ましい方法では、ペーストは、スクリーン印刷によってコーティングされたガラス基板に塗布される。代替的な好ましい方法では、ペーストは、インクジェット印刷によってコーティングされたガラス基板に塗布される。
【0084】
ペーストの塗布層は、好ましくは、20~45マイクロメートルの範囲、より好ましくは25~40マイクロメートルの範囲、更により好ましくは30~35マイクロメートルの範囲の湿潤層厚を有する。ペーストの塗布層の湿潤層厚は、使用される印刷方法及び最終的な加飾物品の意図される最終用途に応じて変化し得る。例えば、インクジェット層は、厚さ10~30μm、12~25μm、又は15~20μmなど、より薄く作製することができる。
【0085】
コーティングされたガラス基板にペースト層を塗布した後、かつ焼成する前に、分散媒中に存在する溶媒を除去又は部分的に除去するため、塗布されたコーティングに乾燥工程を行う。乾燥は、最大200℃、より好ましくは最大150℃の温度で実施され得る。乾燥は、例えば、塗布された層を周囲温度で空気乾燥させることによって、ペーストコーティングされたガラス基板を好適なオーブン内で加熱することによって、又はペーストコーティングされたガラス基板を赤外線に曝露することによって、実施することができる。
【0086】
工程(iii)において、乾燥ペーストは焼成されてエナメルを形成し、エナメルはガラス基板に直接結合される。工程(iii)は、ペーストが当初塗布されたコーティング部分の溶解、好ましくは実質的に完全な溶解を引き起こす。このようにして、エナメルは、ペーストが塗布される部分の実質的に全表面積にわたって下地ガラス基板に直接接触し、接着する。例えば、エナメルは、ペーストが塗布される部分の表面積の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%にわたって下地ガラス基板に直接結合されてもよい。「直接結合された」とは、エナメルと下地ガラス基板との間に識別可能なコーティング層が配置されていないことを意味し、コーティングは、焼成工程中に溶解されていることを意味する。
【0087】
工程(iii)においては、乾燥ペーストが塗布されたガラス基板を、組成物の粒子を軟化させ流動させるのに、かつ分散媒由来の任意の残留成分を燃焼させるのに、かつガラス基板の望ましくない変形を誘発することなく下地コーティングを溶解するのに十分高い温度まで加熱することによって、乾燥ペーストを焼成することができる。焼成工程は、好ましくは組立品を400~750℃の範囲、より好ましくは620~720℃の範囲の温度に加熱することによって実施される。組立品の加熱は、例えば、2チャンバーローラーキルン(two-chamber roller kiln)又は連続ライン炉(continuous line furnace)などの好適なキルン又は炉を使用して、対流加熱を介して実施されてもよい。
【0088】
好ましい方法は、
(iv)ガラス基板を曲げる工程を更に含む。
【0089】
本明細書はまた、上記の方法によって得ることが可能か、又は得られる、その少なくとも一部分上に形成されたエナメルを有するコーティングされたガラス基板も提供する。
【0090】
本明細書はまた、ペーストを形成するための前述した組成物の使用も提供する。
【0091】
本明細書はまた、コーティングを有するガラス基板の少なくとも一部分上にエナメルを形成するための、前述したペーストの使用も提供する。
【実施例】
【0092】
以下の実施例を参照して、本発明を更に説明する。これは例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
【0093】
材料
ガラスフリット及び焼結組成物を、市販の原材料を使用して調製した。
【0094】
実施例1:Bi-B-Zn系酸化物組成物及びペーストの調製
表1に、ガラスフリット組成物の実施例を示す。フリットの原料を混合し、電気キルン内のセラミック製るつぼ内で溶融させた。キルンを30℃/分の温度上昇で加熱し、850~950℃のピーク温度で15~20分間保持した。この時間経過後、ガラス溶融物が均質であることが認められ、その後、水で急冷した。次いで、ガラスフリットを乾燥庫内にて120℃で乾燥させた。乾燥後、ジェットミル(an Alpine-Hosokawa pico jet mill 40AFG)を使用して、D(50)=6~7μm及びD(90)=12~13μmの粒径まで粉砕した。
【表1】
【0095】
15mol%を超えるAl2O3を含む組成物は、調製されなくてもよい。これは、Al2O3がこの量を超えると、Al2O3はBi2O3-B2O3-ZnOマトリックスと不混和性になり、相分離をもたらすからである。
【0096】
加えて、焼結組成物をフリット4と同じ元素組成を有するが、焼結プロセスによって製造した(下記表2にて「フリット4のSP」とラベル付けした)。このプロセスでは、原材料(ここではBi2O3、H3BO3及びZnO)を十分に混合した後、450℃で3時間、続いて540℃で9時間熱処理した。焼結生成物は、ガラスフリットについて上述したようにジェットミル粉砕した。
【0097】
ペーストを形成するために、ジェット粉砕されたフリットをバック顔料とブレンドして固形分(83重量%のフリット及び17重量%の黒色顔料からなる)を形成し、次いで、3本ロールミルによって分散媒中に分散させた。
【0098】
実施例2:コーティングされたガラス基板の加飾
得られたペーストを、77Tスクリーンを使用し、厚さ6mmのコーティングされたガラスプレート(300×150×6mm)上に、湿潤層厚25~30μmでスクリーン印刷した。これらの試験で使用されるコーティングされたガラスプレートA、B、C及びDはそれぞれ市販のコーティングガラスである(A=ClimaGuard、B=SilverStar、C=SilverStar(Ag2層)、D=Sunguard SN)。これらのコーティングの各層構造(ガラス基板から始まる層の順序)は以下の通りである。
A:窒化ケイ素、酸化亜鉛、銀、ニッケル/クロム、酸化スズ酸化亜鉛、窒化ケイ素。
B:窒化ケイ素、酸化スズ、酸化亜鉛、銀、ニッケル/クロム、酸化亜鉛、窒化ケイ素。
C:Bと同様の順序であるが、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化亜鉛の3つの層によって分離された2つの銀層を含む。
D:Aの順序の2倍。
【0099】
まず、印刷物を、150℃で15分間乾燥させた。次いで、第1のチャンバー内の設定温度が670℃及び第2のチャンバー内の設定温度が700℃の2チャンバーローラーキルン(NBP combustion systemsモデルFer 2C 15 4Z-SDO)内で焼成を実施した。各チャンバーにおけるガラスプレートの滞留時間は、それぞれ160秒及び150秒であった。
【0100】
実施例3:コーティングされたガラス基板の試験結果
得られたエナメルを評価して、以下の特性を決定した。
(i)エナメルがコーティングを完全に溶解するかどうか
コーティングされたガラス上の焼成エナメルの特徴は、焼成プロセスにおいて印刷(熱吸収性)領域及び非印刷(熱反射性)領域間の温度差が顕著なことである。この結果、印刷縁部はより低い温度を有し、従来のエナメルは、印刷縁部のコーティングを侵蝕することができないか、又は部分的にのみ侵蝕することができる。したがって、コーティングの完全な溶解は観察されない。
【0101】
(ii)エナメルが滑らかな表面を形成するかどうか
従来のエナメルは、粗表面若しくは気泡などの表面欠陥、又は金属光沢による着色反射を引き起こすことが多い。気泡の形成は、コーティングとエナメルとの間の反応が、焼成プロセス中に完了しなかったことを示す。粗表面は、反応が生じた後、エナメルが流動しすぎて滑らかな表面を形成できなかったことを示す。
【0102】
(iii)ガラス面からのエナメルの色(L値)
L値を、X-Rite色彩計を用いて反射を除外して測定した。CIE L*a*b*表色系に従って、ガラス側から色(反転色(reverse colour))を測定する。本発明の用途に好ましい暗黒着色エナメルは、低いL値を示す。逆に、金属反射/干渉が観察されると、コーティングがまだ無傷で、適切に消失していないことを示す。
【0103】
(iv)555nm(可視領域)での光学濃度(optical density、OD)
ODは、Gretag Macbeth D200-II透過濃度計を使用して計測され、好ましくは、ガラス板が建造物又は自動車に組み立てられるときに使用される下地接着剤を保護するために、99.9%(OD=3)の光吸収が必要とされる。しかしながら、表面が粗く多孔性である場合、ODは決定されなかった。
【0104】
(v)エナメルが耐引っ掻き性試験(すなわち、16Nの荷重を有するElcometer 3092引っ掻き硬度計ペンスクラッチ用ペン)を通過するかどうか
16Nの荷重を有するElcometer 3092引っ掻き光度計ペンスクラッチ用ペンを使用した耐引っ掻き性試験は、エナメルがガラス基板にどの程度強く接着しているかの指標である。コーティング層が消失しない場合、接着性は低い。引っ掻き試験は、エナメルとガラス基板との間の張力が高すぎる場合、又はエナメル表面が粗い場合にも失敗する。したがって、表面が粗い及び多孔質である場合、耐引っ掻き性は決定されなかった。
【0105】
試験されたガラスフリット組成物/焼結材料組成物の焼成結果を表2にまとめる。2つの既知のエナメル、エナメルAF3601及びエナメル276000も試験した。エナメルAF3601は、ケイ酸亜鉛ガラスを含有し、建築用ガラスを加飾するために使用される。エナメル27600は、低融点ビスマス酸化物系エナメルである。両者のエナメルは、Johnson Mattheyから市販されている。
【表2】
【0106】
結果は、市販のエナメルAF3601及び27600が、焼成中にガラス基板上のコーティングを消失することができなかったことを示している。一方、本明細書の組成物及びペースト由来のエナメルは、滑らかな表面及びガラス側からの黒色、低いL値及び高ODを含む、良好な特性バランスを有し、それらは理想的に建築用及び自動車用ガラス分野における用途に適している。更に、本発明の組成物中に0.1~15mol%のAl2O3が存在することが、良好な特性バランスの達成に重要であることが明らかであり、Al2O3を含まない実施例は、より高いCTE値、より高いL値、及びより低いOD値を示すことが見出された。ガラスフリットに代えて焼結材料を使用することは、同等の結果を生じることが見出された(フリット4の結果対「フリット4のSP」の結果を参照されたい)。
【0107】
エナメルの一部は、リングオンリング圧縮試験に更に供され、これは、ガラス板に対し増加する力を破断点まで加えることを伴う。
【0108】
まず、100×110×4mmのガラス基板に、83重量%のガラスフリット4又は83重量%のガラスフリット13のいずれかと、17重量%の黒色顔料を含有する固形分を有するペーストを印刷した(固形分は分散媒中に分散している)。各ペーストを次に25μmの湿潤層厚に印刷し、乾燥させた。次いで、乾燥ペーストをローラーキルン中で680℃にて焼成した。
【0109】
DIN 52 292に準拠したリングオンリング圧縮試験は、Zwick/Roell Z010試験機で実施した。Fmaxは、破壊前に適用される最大圧縮力である。曲げ応力σは、ガラス試料の厚さから独立した物理的パラメータであり、式σ=1.04Fmax/s
2(式中、sはガラスプレートの厚さである)によって計算される。結果を下記表3に示す。
【表3】
【0110】
ペーストが焼成条件にさらされると、ガラス基板は弱化する。したがって、この弱化を可能な限り低減することが望ましい。上記の結果は、ペーストがガラスフリット4を含むものからガラスフリット13を含むものに変更されたとき、ガラスプレートを破壊するのに必要な力が727Nから1174Nに上昇することを示している。これらの2つのガラスフリット間の差は、フリット13が7.0mol%のAl2O3を含むのに対し、フリット4は含まないことである。本明細書の組成物及びペースト中に少量のAl2O3が存在することにより、前述したように、ガラス強度が向上した加飾コートガラス物品が得られる。理論に束縛されるものではないが、Al2O3は、エナメルとガラス基板との間の張力を低減すると考えられる。
【0111】
これらの実施例によって実証されるように、本明細書は、コーティングされたガラス基板上にエナメルを形成するために使用することができる組成物及びペーストを提供する。焼成中、本組成物は、組成物が塗布されたコーティング部分を溶解して、ガラス基板に直接結合を形成することができる。得られたエナメルは、良好な色、良好な化学的耐久性、及び良好なガラス強度を含む、良好な特性バランスを有する。