(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】抗PSMA抗体、その使用及びそのコンジュゲート
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240510BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240510BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240510BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240510BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240510BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240510BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240510BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240510BHJP
A61K 49/16 20060101ALI20240510BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240510BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240510BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240510BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C07K16/28
C12N15/13 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K49/16
A61K47/68
A61P35/00
A61P13/08
G01N33/574 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022035222
(22)【出願日】2022-03-08
(62)【分割の表示】P 2019502698の分割
【原出願日】2017-08-18
【審査請求日】2022-03-10
(32)【優先日】2016-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514321622
【氏名又は名称】ポリセリックス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ジョージ・エドワード・ホルゲート
(72)【発明者】
【氏名】アロン・ロバート・ハーン
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/177360(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/063006(WO,A1)
【文献】特表2015-533847(JP,A)
【文献】特開2015-078168(JP,A)
【文献】国際公開第2009/017823(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSMAと結合し、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含む抗体又はその抗原結合部分であって、
重鎖可変ドメインが、配列番号
7に示される配列を含み、
軽鎖可変ドメインが、配列番号
8に示される配列を含
む、あるいは
重鎖可変ドメインが、配列番号9に示される配列を含み、
軽鎖可変ドメインが、配列番号8に示される配列を含む、抗体又はその抗原結合部分。
【請求項2】
請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合部分をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項
2に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項4】
請求項
3に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項5】
請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合部分と、ペイロードとを含む、抗体コンジュゲート。
【請求項6】
ペイロードが、治療剤、診断剤若しくは標識剤及び/又はポリマーである、請求項
5に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項7】
前記ペイロードが、一般式:
【化1】
(式中、Prは、前記抗体又はその抗原結合部分を表し、各Nuは、前記抗体又はその抗原結合部分中に存在する又はそれに結合されている求核剤を表し、A及びBの各々は、C
1~4アルキレン又はアルケニレン鎖を独立して表し、W'は、電子求引基を表すか又は電子吸引基の還元により得られる基を表す)
を有する結合部分を介して前記抗体又はその抗原結合部分へ結合されている、請求項
5又は
6に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項8】
前記結合部分が、式:
【化2】
を有する、請求項
7に記載のコンジュゲート。
【請求項9】
一般式:
(((D
q-Lk
1)r-P
1)
p-Lk
2-Lk
3)
e-Ab (III)
(式中、
Dは、ペイロードを表し;
qは、1~10の整数を表し;
Lk
1は、リンカーを表し;
rは、1~10の整数を表し;
P
1は、結合又はc価の基-P
2-NH-を表し、ここでcは、2~11であり、P
2は、少なくとも1つのエチレン単位-CH
2-CH
2-又はエチレングリコール単位-O-CH
2-CH
2-を含有する基であり;
pは、1~10の整数を表し;
Lk
2は、結合又はd価のリンカーを表し、ここでdは2~11であり、該リンカーは、1~9個のアスパラギン酸残基及び/又はグルタミン酸残基からなり;
Lk
3は、下記一般式のリンカー:
-CO-Ph-Y-Z- (All)
(式中、Phは、置換されていてもよいフェニル基であり、Yは、CO基又はCH.OH基を表し、Zは、下記式の基:
【化3】
を表し、この式中のA及びBの各々は、C
1~4アルキレン又はアルケニレン基を表す)
を表し;
Abは、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合部分を表し、前記抗体又はその抗原結合部分中のジスルフィド結合に由来する2個の硫黄原子を介してLk
3と結合されており;
eは、1~sの整数を表し、ここでsは、Lk
3とコンジュゲートする前の前記抗体又はその抗原結合部分中に存在するジスルフィド結合の数である)
を有する、請求項
5又は
6に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
前記ペイロードが、アウリスタチン又はメイタンシノイドであるか、又はそれを含む、請求項
5~
9のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
放射性同位元素を含む、請求項
5~
10のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
放射性同位元素が、ヨウ素-131、イットリウム-90、ルテチウム-177、銅-67、アスタチン-211、鉛-212/ビスマス-212、アクチニウム-225/ビスマス-213、及びトリウムからなる群から選択される、請求項
11に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
前記ペイロードが、放射性物質、色素、コントラスト剤、蛍光化合物、生物発光化合物、酵素、造影剤又はナノ粒子の少なくとも一つからなる群から選択される検出可能なマーカーであるか、又はそれを含む、請求項
5~
11のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
診断又は治療での使用のための、請求項
1に記載の抗体若しくはその抗原結合部分、又は請求項
5~
13のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項15】
PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態の診断、処置又は予防に使用するための、請求項
1に記載の抗体若しくはその抗原結合部分、又は請求項
5~
13のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項16】
前記PSMAにより媒介される疾患が、がんである、請求項
15に記載の使用のための、請求項
1に記載の抗体若しくはその抗原結合部分、又は請求項
5~
13のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項17】
前記がんが前立腺がんである、請求項
16に記載の使用のための抗体若しくはその抗原結合部分、又は請求項
16に記載の使用のための抗体コンジュゲート。
【請求項18】
前記がんが、一過性細胞癌を含む膀胱がん;膵管癌を含む膵臓がん;非小細胞肺癌を含む肺がん;通常の腎細胞癌を含む腎臓がん;軟部組織肉腫を含む肉腫;転移性腺癌を含む肝臓がん;乳癌を含む乳がん;多形神経膠芽腫を含む脳がん;神経内分泌癌;結腸癌を含む結腸がん;精巣胎児性癌を含む精巣がん;及び悪性黒色腫を含む黒色腫からなる群から選択される、非前立腺がんである、請求項
16に記載の使用のための抗体若しくはその抗原結合部分、又は請求項
16に記載の使用のための抗体コンジュゲート。
【請求項19】
PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態を処置又は予防するための医薬の製造における、請求項
1に記載の抗体若しくはその抗原結合部分、又は請求項
5~
13のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲートの使用。
【請求項20】
請求項
1に記載の抗体若しくはその抗原結合部分、又は請求項
5~
13のいずれか一項に記載の抗体コンジュゲートを使用する工程を含む、試料中のPSMA抗原の存在を検出するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PSMAと結合する新規ヒト化抗体、前記抗体の使用、及び前記抗体を含む化合物、例えば、抗体のコンジュゲート、例えば抗体-薬物コンジュゲートに関する。本発明の抗体及びコンジュゲートは、疾患、特にがん、特に前立腺がんの処置又は診断に使用される。
【背景技術】
【0002】
標的細胞及び分子の表面の特異的抗原に対する抗体の特異性により、抗体は様々な診断及び治療剤の担体として広範に使用されるようになってきた。例えば、フルオロフォア、放射性同位元素及び酵素等の標識及びレポーター基とコンジュゲートされた抗体は、標識付け及びイメージング用途に使用され、その一方で細胞傷害性薬剤及び化学療法薬とのコンジュゲーションは、特異的組織又は構造、例えば、特定の細胞型又は増殖因子へのそのような薬剤の標的化送達を可能にし、その結果、正常な健常組織に対する影響を最小にし、化学療法処置に関連する副作用を有意に低減させる。抗体-薬物コンジュゲートには、幾つかの疾病分野において広範な治療用途を有する可能性がある。
【0003】
前立腺がん、別名前立腺癌は、男性生殖器系の腺である前立腺におけるがんの発生である。世界的に見ると、前立腺がんは、2番目に多いがんのタイプであり、男性のがん関連死因の第5位である。進行前立腺がんの第一選択治療は、アンドロゲン遮断である。進行後の化学療法は効果があるが、奏効は一過性であり、最初の化学療法より優れて生存を改善することが証明されている治療法はない。転移性前立腺がんに対する従来の化学療法の奏効性は低い。それ故、改善された治療法が依然として必要とされている。
【0004】
前立腺特異的膜抗原(PSMA)発現は、前立腺がん及び他の固形腫瘍との関連性が高い。PSMAは、一部の正常前立腺上皮細胞、正常腎近位尿細管細胞、近位小腸及び一部のアストロサイト(脳内で見出されるもの)の細胞表面に存在する。PSMAは、前立腺がん(PCa)細胞上で高度にアップレギュレート/過剰発現される。PSMAの発現レベルは、前立腺がんの進行と共に増加し、早期前立腺がんにおける高いPSMAレベルは、再発可能性の増大を予示する。かなりの割合の固形腫瘍がそれらの新生血管系内でPSMAを発現するが、正常血管内皮はPSMA陰性である。PSMAは、グルタミン酸型葉酸を加水分解することにより利用可能な葉酸イオンを増加させることが観察されている。PSMAは、がん細胞が生存及び増殖のために使用するための葉酸イオンレベルを増加させることにより前立腺がんの発生を刺激すると仮定されている。
【0005】
抗PSMA抗体は以前に生成され(例えば、WO98/03973を参照されたい)、ヒトにおける免疫原性が低下した修飾抗体が調製されている(例えば、WO2004/098535を参照されたい)。PSMAに結合する脱免疫化IgGモノクローナル抗体の一例は、J591である。マウスJ591抗体の可変ドメイン重鎖のアミノ酸配列は、本明細書で配列番号1として示され、対応する軽鎖は、本明細書で配列番号2として示される。脱免疫化抗体J591の可変ドメイン重鎖のアミノ酸配列は、本明細書で配列番号3として示され、対応する軽鎖は、本明細書で配列番号4として示される。脱免疫化J591は、放射標識された形態で診療所において使用されており、耐容性良好であること及び非免疫原性であることが証明されている(例えば、Tagawaら、Cancer、2010、116(4)、1075~1083頁を参照されたい)。
【0006】
PSMAに結合する抗体の更なる例は、WO03/034903、及び米国特許第8,470,330号Bを含むそのファミリーメンバーにおいて開示されている。例えば、抗体「AB-PG1-XG1-006」は、それらの公報では重鎖及び軽鎖配列番号15及び配列番号17を有し(本明細書で配列番号13及び14として示される)、抗体「AB-PG1-XG1-026」は、それらの公報では重鎖及び軽鎖配列番号19及び配列番号21を有する(本明細書で配列番号15及び16として示される)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO98/03973
【文献】WO2004/098535
【文献】WO03/034903
【文献】米国特許第8,470,330号B
【文献】英国特許第1418186.1号
【文献】PCT/GB2015/052952
【文献】WO2016/059377
【文献】WO 2004/113394
【文献】PCT/GB2015/052953
【文献】英国特許第1418986.4号
【文献】WO2016/063006
【文献】WO 2005/007197
【文献】WO 2009/047500
【文献】WO 2010/100430
【文献】WO 2014/064423
【文献】WO 2014/064424
【非特許文献】
【0008】
【文献】Tagawaら、Cancer、2010、116(4)、1075~1083頁
【文献】Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、United States Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda
【文献】Smithら、J. Am. Chem. Soc.、2010、132、1960~1965頁
【文献】Schumacherら、Bioconj. Chem.、2011、22、132~136頁
【文献】Bioconj. Chem 1990(1)、36~50頁
【文献】Bioconj. Chem 1990(1), 51~59頁
【文献】J. Am. Chem. Soc. 110、5211~5212頁
【文献】Belchevaら、J. Biomater. Sci Polymer Edn. 9(3)、207~226頁
【文献】Lewis Phillips G.D、Cancer Res 2008; 68:9280~9290頁
【文献】R. Ian Freshney、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique、第3版、出版元Alan R. Liss社、N.Y. 1994
【文献】R. Ian Freshney、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique、第5版出版元Wiley-Liss社、N.Y. 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
良好な標的結合親和性、低い非特異的結合及び低い免疫原性を有することに加えて、薬物としての候補となる抗体は(それ単独でにせよ、別の活性成分とコンジュゲートされているにせよ)、良好な安定性を有するべきである。すなわち、そのような抗体は、低い変性若しくは凝集傾向を有するべきであり、又は成分断片に解離すべきである。要求の厳しいこの一連の特性を考えれば、更に有益な抗PSMA抗体を開発する必要が依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、PSMAと結合する新規ヒト化抗体に関する。本発明は、PSMAと結合する抗体又はその抗原結合部分であって、配列:
CDR1:EYTIH(配列番号33)
CDR2:NINPNX1GGTTYNQKFED(配列番号34)
CDR3:X2~5DY(配列番号35)
(配列中、
X1は、N又はQであり、
X2~5は、YWLF、GWTF又はAWTMであり、
配列中、
X2~5がGWTF又はAWTMである場合、カバット番号付けに基づき、重鎖可変領域のH94位のアミノ酸残基はGであり、
X2~5がYWLFである場合、カバット番号付けに基づき、重鎖可変領域のH94位のアミノ酸残基はAである)
を含む重鎖可変ドメインを含む、抗体又はその抗原結合部分を提供する。
【0011】
好ましくは、X1は、Nである。
【0012】
重鎖のCDRは、それぞれ、CDRH1、CDRH2及びCDRH3と表記されることもある。カバット番号付けシステム(Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、United States Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda)によれば、CDRH1は、H31~H35位、CDRH2は、H50~H65位、CDRH3は、H95~H102位に位置する。
【0013】
好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、配列番号29で示される配列を含む重鎖可変ドメインを含み、
配列番号29は、
【0014】
【0015】
(配列中、
X98~102は、AYWLF、GGWTF、又はGAWTMである)
であり、
それに従って、前記重鎖可変ドメインは、配列番号29の1~30位、36~49位、67~97位及び104~115位のいずれかに12以下のアミノ酸配列修飾を含む。
【0016】
好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、配列番号30で示される配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、
配列番号30は、
【0017】
【0018】
(配列中、
X9は、A又はPであり、
X11は、V又はLであり、
X24は、A又はTであり、
X38は、R又はKであり、
X41は、P又はHであり、
X55は、N又はQであり、
X68は、V又はAであり、
X70は、I又はLであり、
X86は、L又はPであり、
X98~102は、AYWLF、GGWTF、又はGAWTMである)
であり、
それに従って、前記重鎖可変ドメインは、上記で具体的に述べたものに加えて、配列番号30の1~30位、36~49位、67~98位及び105~115位の間に3つ以下のアミノ酸配列修飾を含む。
【0019】
配列番号29及び30中のX98は、カバット番号付け(Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、United States Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda)に基づき、重鎖可変領域のH94位のアミノ酸残基に対応する。
【0020】
本発明は、PSMAと結合する抗体又はその抗原結合部分であって、配列:
CDR1:KASQDVGTAVD(配列番号36)
CDR2:WASTRHT(配列番号37)
CDR3:QQX1~5LT(配列番号38)
(配列中、X1~5は、FTRYP又はYNAYSである)
を含む軽鎖可変ドメインを含む、抗体又はその抗原結合部分も提供する。
【0021】
軽鎖のCDRは、それぞれ、CDRL1、CDRL2及びCDRL3と表記されることもある。カバット番号付けシステムによれば、CDRL1は、L24~L34位に位置し、CDRL2は、L50~L56であり、CDRL3は、L89~L97である。
【0022】
好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、配列番号31で示される配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、
配列番号31は、
【0023】
【0024】
(配列中、X91~95は、FTRYP又はYNAYSである)
であり、
それに従って、前記軽鎖可変ドメインは、配列番号31の1~23位、35~49位、57~88位及び98~107位の間に10以下のアミノ酸配列修飾を含む。
【0025】
他の好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、配列番号32で示される配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、
配列番号32は、
【0026】
【0027】
(配列中、
X3は、Q又はVであり、
X10は、T又はFであり、
X63は、S又はTであり、
X80は、P又はSであり、
X85は、V又はDであり、
X87は、Y又はFであり、
X91~95は、FTRYP又はYNAYSであり、
X103は、K又はMである)
であり、
それに従って、前記軽鎖可変ドメインは、上記で具体的に記載したものに加えて、配列番号32の1~23位、35~49位、57~88位及び98~107位の間に3つ以下のアミノ酸配列修飾を含む。
【0028】
好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、本発明の重鎖可変ドメイン、及び本発明の軽鎖可変ドメインを含む。
【0029】
本発明の抗体及び抗原結合部分は、PSMAと強く結合しており、特に、上記の脱免疫化J591抗体より強く結合している。それらの抗原に対して高い親和性を有する抗体は有利である。それらは、少量で治療的に使用することができ、非特異的作用のリスクがより低いからである。
【0030】
加えて、本発明の好ましい抗体及びそれらの抗原結合部分は、良好な安定性を有する。良好な安定性を有する抗体は、変性若しくは凝集傾向が低く、成分断片に解離することから、有利である。結果として、それらの抗体は、未変性の立体構造でより長く循環内に存在することができる。断片化した抗体(又は抗体-薬物コンジュゲート)は、標的抗原と結合するその能力を失うことから、断片化の低減は有利である。細胞傷害性薬物は、疎水性である傾向があり、したがって、溶液中で凝集傾向を示す。凝集する傾向の低下も抗体-薬物コンジュゲートの有利である。凝集体は、免疫応答を促すことができ、すなわち、免疫原性でありうる。本発明の抗体又は抗原結合部分を含む抗体-薬物コンジュゲートは、良好な安定性、及び溶液中での凝集傾向低下を有する。
【0031】
本発明の抗体及び抗原結合部分は、良好な発現効率も提示する。抗体の発現効率は、抗体又は抗体-薬物コンジュゲートの産生における重要な要因である。例えば、抗体の安定した高収率発現の達成は、大量の抗体が臨床試験を実施するために使用される、診断又は治療上の使用のための産生に重要である。したがって、軽鎖又は重鎖の発現レベル、及び発現及び精製全般にわたっての操作の容易さは、産生に選ばれる抗体の選択に影響しうる。溶解度が高く、凝集傾向が低い、良好に発現する抗体が、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1a】重鎖可変ドメインのpANT発現ベクター(pANT17.2)の構造を示す図である。
【
図1b】軽鎖可変ドメインのpANT発現ベクター(pANT13.2)の構造を示す図である。
【
図2】FACSにより分析した、先行技術抗体AB-10に対するAB-01のPSMA抗体への競合的結合の比較を示す図である。
【
図3a】本明細書で例示する抗体のアミノ酸配列を示す図である。
【
図3b】本明細書で例示する抗体のアミノ酸配列を示す図である。
【
図3c】本明細書で例示する抗体のアミノ酸配列を示す図である。
【
図4a】本明細書で例示する抗体の発現に利用したDNA配列を示す図である。
【
図4b】本明細書で例示する抗体の発現に利用したDNA配列を示す図である。
【
図4c】本明細書で例示する抗体の発現に利用したDNA配列を示す図である。
【
図4d】本明細書で例示する抗体の発現に利用したDNA配列を示す図である。
【
図5】互いにアラインメントした、本明細書で例示するある特定の抗体の配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上記配列番号29及び32の配列内のCDR領域には下線が引かれている。
【0034】
本発明は、配列番号29で示される配列を含み、且つ上記で定義されたCDR領域外に12以下のアミノ酸配列修飾を有する、重鎖可変ドメイン、及び/又は配列番号31で示される配列を含み、且つ、上記で定義されたCDR領域外に10以下のアミノ酸配列修飾を有する、軽鎖可変ドメインを含む、抗体又はそれらの抗原結合部分を包含する。
【0035】
例えば、そのような修飾は、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を向上させることができる。アミノ酸配列修飾は、抗体核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することにより、又はペプチド合成により調製することができる。そのような修飾としては、例えば、抗体のアミノ酸配列からの残基の欠失、及び/又は前記配列への残基の挿入、及び/又は前記配列内の残基の置換が挙げられる。最終構築物が所望の特性を有するのであれば、欠失と挿入と置換のいかなる組合せを行って最終構築物に達してもよい。置換は、保存的置換であってもよく、又は非保存的置換であってもよい。アミノ酸変化は、グリコシル化部位の数及び位置を変化させること等の、抗体の翻訳後プロセスを変更することもできる。
【0036】
例えば、アミノ酸配列修飾が置換である場合、それは、好ましくは、保存的置換、すなわち、抗体又はその抗原結合部分の抗原との特異的結合を(例えば、KDにより測定して)実質的に低減させないアミノ酸置換(例えば、例えばELISA等の標準的結合アッセイにより決定して、結合を増加させる、結合を有意に変更しない、又は結合を約40%より大きく、典型的には約30%より大きく、より典型的には約20%より大きく、よりいっそう典型的には約10%より大きく、若しくは最も典型的には約5%より大きく低減させない、置換)である。
【0037】
本発明は、配列番号30で示される配列を含む重鎖可変ドメイン、及び/又は配列番号32で示される配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、抗体又はそれらの抗原結合部分であって、前記重鎖及び軽鎖可変ドメインの一方又は両方における上記で定義されたCDR領域外に更なる3つ以下のアミノ酸配列修飾、例えば、0、1又は2つのアミノ酸配列修飾を有する、抗体又はそれらの抗原結合部分も包含する。
【0038】
本発明は、配列番号29で示される配列を含む重鎖可変ドメイン、及び/又は配列番号31で示される配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、抗体又はそれらの抗原結合部分であって、配列番号29の1~30位、36~49位、67~97位及び104~115位のいずれかにおける12以下のアミノ酸配列修飾、又は配列番号31の1~23位、35~49位、57~88位及び98~107位の間の10以下のアミノ酸配列修飾に加えて、前記重鎖及び軽鎖可変ドメインの一方又は両方における上記で定義されたCDR領域外に3つ以下のアミノ酸配列修飾、例えば、0、1又は2つのアミノ酸配列修飾を有する、抗体又はそれらの抗原結合部分も包含する。すなわち、本発明は、上記で定義されたCDR領域外に15以下のアミノ酸配列修飾を有する、配列番号29で示される配列を含む重鎖可変ドメイン、及び/又は上記で定義されたCDR領域外に13以下のアミノ酸配列修飾を有する、配列番号31で示される配列を含む軽鎖可変ドメインを包含する。
【0039】
例えば、配列番号30で示される配列を含む重鎖内のCDR領域外の0、1又は2つの残基、及び配列番号32で示される配列を含む軽鎖内のCDR領域外の0、1又は2つの残基を、別のアミノ酸により置換することができる。例えば、重鎖内のCDR領域外の0又は1つの残基を別のアミノ酸により置換することができる。例えば、軽鎖内のCDR領域外の0又は1つの残基を、別のアミノ酸により置換することができる。好ましくは、配列番号30及び32のいずれの残基も、具体的に述べたもの以外のアミノ酸残基に変更されない。
【0040】
例えば、配列番号29又は30は、配列番号5、配列番号7、配列番号9又は配列番号11の配列であってもよい。
【0041】
配列番号30中、
X9はAであり、X11はVであり、X24はA又はTであり、X38はR又はKであり、X41はPであり、X55はN又はQであり、X68はV又はAであり、X70はIであり、X86はL又はPであることが好ましい。例えば、配列番号30は、配列番号5、配列番号7、配列番号9又は配列番号11の配列であってもよい。
【0042】
配列番号30中、
X9はAであり、X11はVであり、X24はAであり、X38はRであり、X41はPであり、X55はN又はQであり、X68はVであり、X70はIであり、X86はL又はPであることが更に好ましい。例えば、配列番号30は、配列番号5、配列番号7、配列番号9又は配列番号11の配列であってもよい。
【0043】
特に、
X9はAであり、X11はVであり、X24はAであり、X38はRであり、X41はPであり、X55はNであり、X68はVであり、X70はIであり、X86はLであることが特に好ましい。例えば、配列番号30は、配列番号5、配列番号7又は配列番号9の配列であってもよい。
【0044】
特に好ましい代替実施形態は、X9がAであり、X11がVであり、X24がAであり、X38がRであり、X41がPであり、X55がNであり、X68がVであり、X70がIであり、及びX86がPである場合である。例えば、配列番号30は、配列番号11の配列であってもよい。
【0045】
配列番号32中、
X3はQ又はVであり、X10はTであり、X63はS又はTであり、X80はP又はSであり、X85はV又はDであり、X87はY又はFであり、X103はKであることが好ましい。例えば、配列番号32は、配列番号6、配列番号8又は配列番号10の配列であってもよい。
【0046】
配列番号32中、
X3はQ又はVであり、X10はTであり、X63はSであり、X80はPであり、X85はV又はDであり、X87はYであり、X103はKであることが更に好ましい。例えば、配列番号32は、配列番号6、配列番号8又は配列番号10の配列であってもよい。
【0047】
配列番号32中、
X3はQであり、X10はTであり、X63はSであり、X80はPであり、X85はVであり、X87はYであり、X103はKであることが特に好ましい。例えば、配列番号32は、配列番号6、配列番号8又は配列番号10の配列であってもよい。
【0048】
好ましい実施形態では、本発明の抗体は、配列番号5、配列番号7、配列番号9又は配列番号11の配列を有する可変ドメイン重鎖、及び配列番号6、配列番号8又は配列番号10の配列を有する可変ドメイン軽鎖を含む。
【0049】
例えば、本発明の抗体は、配列番号5の可変ドメイン重鎖及び配列番号6の可変ドメイン軽鎖(「AB-02」とも称される);又は配列番号7の可変ドメイン重鎖及び配列番号8の可変ドメイン軽鎖(「AB-03」とも称される);又は配列番号9の可変ドメイン重鎖及び配列番号8の可変ドメイン軽鎖(「AB-04」とも称される);又は配列番号5の可変ドメイン重鎖及び配列番号10の可変ドメイン軽鎖(「AB-05」とも称される);又は配列番号11の可変ドメイン重鎖及び配列番号10の可変ドメイン軽鎖(「AB-06」とも称される);又は配列番号12の可変ドメイン重鎖及び配列番号10の可変ドメイン軽鎖(「AB-07」とも称される)を含む。
【0050】
本発明は、PSMAと結合する抗体又はその抗原結合部分であって、
配列X2~5DY(配列番号35)を有するCDR3を含む重鎖可変ドメイン
(配列中、X2~5は、YWLF、GWTF又はAWTMであり、
ここで、
X2~5がGWTF又はAWTMである場合、カバット番号付けに基づき、重鎖可変領域のH94位のアミノ酸残基はGであり、
X2~5がYWLFである場合、カバット番号付けに基づき、重鎖可変領域のH94位のアミノ酸残基はAである)
を含み、
任意選択で、配列
CDR1:EYTIH(配列番号33)
CDR2:NINPNX1GGTTYNQKFED(配列番号34)
(配列中、X1はN又はQである)
の一方又は両方
を含む、抗体又はその抗原結合部分も提供する。
【0051】
好ましくは、X1は、Nである。
【0052】
本発明は、PSMAと結合する抗体又はその抗原結合部分であって、
配列QQX1~5LT(配列番号38)を有するCDR3
(配列中、X1~5は、FTRYP又はYNAYSである)
と、
任意選択で、配列
CDR1:KASQDVGTAVD(配列番号36)
CDR2:WASTRHT(配列番号37)
の一方又は両方と
を含む軽鎖可変ドメインを含む、抗体又はその抗原結合部分も提供する。
【0053】
本発明は、PSMAと結合する抗体又はその抗原結合部分であって、
配列:
CDR1:EYTIH(配列番号33)
CDR2:NINPNX1GGTTYNQKFED(配列番号34)
CDR3:X2~5DY(配列番号35)
(配列中、
X1は、N又はQ、好ましくはNであり、
X2~5は、YWLF、GWTF又はAWTMであり、
ここで、
X2~5がGWTF又はAWTMである場合、カバット番号付けに基づき、重鎖可変領域のH94位のアミノ酸残基はGであり、
X2~5がYWLFである場合、カバット番号付けに基づき、重鎖可変領域のH94位のアミノ酸残基はAである)
を含む重鎖可変ドメイン、及び
配列:
CDR1:KASQDVGTAVD(配列番号36)
CDR2:WASTRHT(配列番号37)
CDR3:QQX1~5LT(配列番号38)
(配列中、X1~5は、FTRYP又はYNAYSである)
を含む軽鎖可変ドメイン
を含む、抗体又はその抗原結合部分も提供する。
【0054】
本発明の抗体は、PSMA(例えば、ヒトPSMA)と結合し、平衡解離定数(Kd)が10-8M以下、例えば、10-9M以下、例えば750×10-12M以下、例えば500×10-12M以下である、ヒト化抗体である。例えば、本発明の抗体は、ヒト前立腺がん細胞と特異的に結合する。
【0055】
本発明の抗体は、ある特定の以前のヒト化(又は脱免疫化)抗PSMA抗体と比較して向上した安定性を有する。したがって、本発明の抗体は、低い変性若しくは凝集傾向を有するか、又は成分断片に解離する。結果として、本発明の抗体は、未変性の立体構造でより長く循環内に存在すると仮定される。凝集傾向低下は、抗体-薬物コンジュゲートにとって及びこれらのコンジュゲートを生じさせる試薬とって特別な利点である。細胞傷害性薬物は疎水性である傾向があり、したがって、細胞傷害性薬物を伴うコンジュゲーション試薬及び抗体-薬物コンジュゲートには溶液中で凝集する傾向があり、この凝集傾向は、それらの有効性を有意に低下させる。断片化した抗体(抗体-薬物コンジュゲートの一部を含む)は、標的抗原と結合するその能力を失う。したがって、断片化に対する感受性が低下した抗体も有利である。
【0056】
本発明の抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD又はIgEの重鎖を有してもよい。IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4は、特に好ましい。或いは、本発明の抗体は、例えば、Fc受容体への結合を増加若しくは減少させるように、又は補体への結合を増加若しくは低下させるように、変更されたIgG定常領域を有していてもよく、例えば、前記IgG定常領域は、IgG4k又はIgG1kであってもよい。本発明の抗体は、カッパ軽鎖である抗体軽鎖を有していてもよい。
【0057】
本発明の化合物は、完全長抗体(例えば、IgG4又はIgG1抗体)であってもよい。或いは、本発明の化合物は、抗原結合部分のみを含むこともある。例えば、本発明の化合物は、Fab、F(ab')、F(ab')2、Fd鎖、Fv断片若しくは短鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、VHドメインのみを含む断片(ナノボディ、又はラクダ、ラマ若しくはこれらに類するものからの断片を含む)であってもよい。本発明は、上記に記載の少なくとも1つの抗体又はその抗原結合部分を含む、二重特異性及び多重特異性抗体(2つ以上の異なる特異性をもたらすように互いに連結されている2つ以上の異なる抗体分子)も提供する。抗原結合部分は、例えば、scFv-Fc、scFv-Fc-scFv、(Fab'ScFv)2、scダイアボディ-Fc、scダイアボディ-CH3、scFv-CH3、scFV-CH2-CH3融合タンパク質等のような、様々な順列のscFv断片又はダイアボディ及びFc断片又はCHドメインで構成されているミニボディであってもよい。抗体断片は、酵素的切断、合成又は組換え技術により産生することができる。
【0058】
本発明の抗体又はその抗原結合部分は、哺乳動物細胞株、特にCHO又はNS0細胞により産生されうる。例えば、本発明の抗体は、モノクローナル抗体であってもよい。
【0059】
本発明の抗体又はそれらの抗原結合部分は、in vivo及びin vitroで診断又は治療剤として使用される。
【0060】
別の態様では、本発明は、本発明のヒト化抗体又はそれらの抗原結合部分をコードする核酸分子を提供する。したがって、本発明の抗体をコードする核酸を含む組換え発現ベクター、及びそのようなベクターがトランスフェクトされた宿主細胞も、本発明により包含され、これらの宿主細胞を培養することによる本発明の抗体の作製方法もまた包含される。例えば、本発明の抗体又はそれらの抗原結合部分は、配列番号21、23、25又は27(重鎖)若しくは配列番号22、24又は26(軽鎖)に記載の配列又はそれらの変異体を有する、ヒトIgG重鎖及びヒトカッパ軽鎖核酸によりコードされうる。
【0061】
例えば、変異核酸が、例えば、ストリンジェントな条件下で本発明の核酸、例えば、配列番号21、23、25又は27の核酸にハイブリダイズするその能力により決定して、配列番号21、23、25又は27を含有する又はそれらと実質的に同一である配列を含む場合、変異核酸は、本発明の範囲内であると決定されうる。用語「ハイブリダイズ」は、分子が特定のヌクレオチド配列と、その配列が複合混合物(例えば、全細胞又はライブラリーDNA又はRNA)中に存在するときにストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、結合すること、二本鎖を形成すること、又はハイブリダイズすることを指し、前記特定のヌクレオチド配列は、バックグラウンドの少なくとも約10倍検出される。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば、被定義イオン強度及びpHで特定の配列の熱融解点(Tm)より5~10℃低くなるように選択されることになる。例えば、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、
・50%脱イオン化ホルムアミド
・2×クエン酸ナトリウム食塩溶液(SSC)*
・50mM Na2HP04/NaH2P04緩衝液、pH7.0
・1mM EDTA
・標的DNA/RNA(各1mg/ml)
・プローブ(おおよそ20~200ng/ml)
温度:37~42℃; ハイブリダイゼーション時間:5分~16時間
*SSC:l×SSC = 150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウム; pH7.0。
【0062】
コンジュゲート
本発明は、リンカーを介してペイロードとコンジュゲートされている本発明による抗体又はその抗原結合部分、例えばFabを更に提供し、前記ペイロードは、別の機能性分子、例えば、治療剤、診断剤若しくは標識剤、及び/又はポリマーであってもよい。別の機能性分子の単一の分子が存在してもよく、又は2つ以上の分子が存在してもよい。抗体薬物コンジュゲートは薬物の複数のコピーを含有するほうがよいことが、好ましいことが多い。機能性分子は、例えば、別のペプチド又はタンパク質、例えばFab'断片であってもよい。1つ又は複数の薬物分子、例えば、細胞傷害性薬剤又は毒素を含めることが、好ましい。アウリスタチン及びメイタンシノイドが代表的な細胞傷害性薬物である。標識剤(イメージング剤を含むと解されたい)としては、例えば、放射性核種、蛍光剤(例えば、アミン誘導体化蛍光プローブ、例えば、5-ジメチルアミノナフタレン-1-(N-(2-アミノエチル))スルホンアミド-ダンシルエチレンジアミン、Oregon Green(登録商標)488カダベリン(カタログ番号O-10465、Molecular Probes社)、ダンシルカダベリン、N-(2-アミノエチル)-4-アミノ-3,6-ジスルホ-1,8-ナフタルイミド二カリウム塩(ルシファーイエローエチレンジアミン)、若しくはローダミンBエチレンジアミン(カタログ番号L 2424、Molecular Probes社)、又はチオール誘導体化蛍光プローブ、例えば、BODIPY(登録商標) FL L-シスチン(カタログ番号B-20340、Molecular Probes社))を挙げることができる。標識剤は、色素、コントラスト剤、生物発光剤、酵素、造影剤、又はナノ粒子であることもある。ビオチンも使用してもよい。
【0063】
一部の実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、治療剤とコンジュゲートされる。本明細書で使用される「治療剤」は、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態の処置に有用である、原子、分子又は化合物である。治療剤の例としては、薬物、化学療法剤、治療用抗体及び抗体断片、毒素、放射性同位元素、酵素(例えば、抗原結合構築物結合部位で細胞傷害性薬剤に対するプロドラッグを切断する酵素)、ヌクレアーゼ、ホルモン、免疫調節薬、アンチセンスオリゴヌクレオチド、キレート剤、ホウ素化合物、光活性剤及び感光性色素、並びにナノ粒子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
一部の実施形態では、治療アプローチは、標的組織に細胞傷害及び細胞死をもたらすことができる適切な放射標識、例えば、ヨウ素-131、ベータ放射体、例えば、イットリウム-90、ルテチウム-177、銅-67、アスタチン-211、鉛-212/ビスマス-212、アクチニウム-225/ビスマス-213、及びトリウムを結合させることによる放射免疫療法を含む。
【0065】
一部の実施形態では、ナノ粒子は、抗体又はその抗原結合部分とコンジュゲートされたとき、PSMAを過剰発現するがん細胞に化学療法剤、ホルモン治療剤、放射線療法剤、毒素又は当技術分野において公知の任意の他の細胞傷害性薬剤若しくは抗がん剤を送達する薬物担体として、治療用途に使用される。本明細書に記載の抗体又はそれらの抗原結合部分のいずれかを、1つ又は複数の治療剤、検出可能なマーカー、ナノ粒子、担体又はこれらの組合せと更にコンジュゲートさせてもよい。例えば、抗体又はその抗原結合部分をヨウ素-131で放射標識して脂質担体とコンジュゲートさせてもよく、その結果、抗PSMA-脂質コンジュゲートはミセルを形成する。このミセルは、1つ又は複数の治療マーカー又は検出可能なマーカーを含有することができる。或いは、担体に加えて、抗原結合構築物をヨウ素-131 Iで(例えば、チロシン残基に対して)標識して、薬物と(例えば、リジン残基のイプシロンアミノ基に)コンジュゲートさせてもよく、担体が追加の治療マーカー又は検出可能なマーカーを含有してもよい。
【0066】
一部の実施形態では、本発明の抗原結合部分は、治療剤とコンジュゲートされる。これらの抗原結合部分は、完全長抗体と比較して短い循環半減期を有することができる一方で、一部の実施形態では、これらの形式は、それらのより小さいサイズに基づいて腫瘍への浸透性向上を示すことができ、細胞傷害性薬物又は放射性同位元素を適切に備えていれば治療に有効でありうる。一部の実施形態では、抗体-薬物コンジュゲートアプローチを利用することができる。一部の実施形態では、細胞傷害性薬物又は放射性核種を備えているこれらの断片での処置は、それらの断片が身体からより迅速に排除されることになるため、結果的に非特異的毒性が低くなる。
【0067】
一部の実施形態では、抗体又はその抗原結合部分は、検出可能なマーカーとコンジュゲートされる。本明細書で使用される「検出可能なマーカー」は、細胞、組織、器官又はこれらに類するもの中のPSMA抗原の位置及び/又は量の診断、検出又は可視化に有用である原子、分子又は化合物を含む。本明細書における実施形態に従って使用することができる検出可能なマーカーとしては、放射性物質(例えば、放射性同位元素、放射性核種、放射標識又は放射性トレーサー)、色素、コントラスト剤、蛍光化合物又は分子、生物発光化合物又は分子、酵素及び造影剤(例えば、常磁性イオン)が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、一部のナノ粒子、例えば、量子ドット及び金属ナノ粒子は、検出剤としての使用に好適であることが当技術分野において公知である。一部の実施形態では、検出可能なマーカーは、インドシアニングリーン(ICG)、ジルコニウム-89、IR800、及び/又は別の近赤外色素である。
【0068】
本明細書における実施形態に従って検出可能なマーカーとして使用することができる例示的な放射性物質としては、18F、18F-FAC、32P、33P、45Ti、47Sc、52Fe、59Fe、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、75Sc、77As、86Y、90Y、89Sr、89Zr、94Tc、94Tc、99mTc、99Mo、105Pd、105Rh、111Ag、111In、123I、124I、125I、131I、142Pr、143Pr、149Pm、153Sm、154-158Gd、161Tb、166Dy、166Ho、169Er、175Lu、177Lu、186Re、188Re、189Re、194Ir、198Au、199Au、211At、211Pb、212Bi、212Pb、213Bi、223Ra及び225Acが挙げられるが、これらに限定されない。検出可能なマーカーとして使用することができる例示的な常磁性イオン物質としては、遷移及びランタニド金属(例えば、6~9、21~29、42、43、44、又は57~71の原子番号を有する金属)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの金属は、Cr、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuのイオンを含む。
【0069】
本開示の実施形態に従って検出可能なマーカーとして使用することができる例示的なコントラスト剤としては、バリウム、ジアトリゾ酸塩、ヨード化ケシ油エチルエステル、クエン酸ガリウム、イオカルム酸、イオセタム酸、ヨードアミド、ヨージパミド、ヨードキサム酸、イオグラミド(iogulamide)、イオヘキシル(iohexyl)、イオパミドール、イオパノ酸、イオプロセム酸、イオセファム酸、イオセル酸、イオスラミドメグルミン、イオセメチン酸(iosemetic acid)、イオタスル、イオテトル酸、イオタラム酸、イオトロクス酸、イオキサグル酸、イオキソトリゾ酸、イオポダート、メグルミン、メトリザミド、メトリゾ酸塩、プロピリオドン、塩化タリウム、又はこれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。
【0070】
本開示の実施形態に従って検出可能なマーカーとして使用することができる生物発光及び蛍光化合物又は分子及び色素としては、フルオレセイン、フルオレセインチオイソシアネート(FITC)、OREGON GREEN(商標)、ローダミン、テキサスレッド、テトラローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Cy3、Cy5及びこれらに類するもの、蛍光マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、フィコエリトリン及びこれらに類するもの)、腫瘍関連プロテアーゼにより活性化される自己消光型蛍光化合物、酵素(例えば、ルシフェラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びこれらに類するもの)、ナノ粒子、ビオチン、ジゴキシゲニン又はこれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。
【0071】
本開示の実施形態に従って検出可能なマーカーとして使用することができる酵素としては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ又はβ-ラクタマーゼが挙げられるが、これらに限定されない。そのような酵素を色素原、蛍光発生化合物又は発光性化合物と組み合わせて使用して、検出可能なシグナルを生成してもよい。
【0072】
抗体又はその抗原結合部分にペイロードを結合させるのに好適なリンカーは、下記のコンジュゲート試薬のセクションで説明されるものである。リンカーは、下記で説明されるように、有利に分解することができる。一部の好ましい実施形態では、リンカーは、下記で説明されるようなポリマーを含む。
【0073】
本発明による好ましいコンジュゲートは、ペイロードの抗体又はその抗原結合部分への結合が、一般式:
【0074】
【0075】
(式中、Prは、前記抗体又はその抗原結合部分を表し、各Nuは、前記抗体又はその抗原結合部分中に存在する又はそれに結合されている求核剤を表し、A及びBの各々は、C1~4アルキレン又はアルケニレン鎖を独立して表し、W'は、電子求引基を表すか又は電子吸引基の還元により得られる基を表す)
を有する結合部分を介しての結合である、コンジュゲートである。
【0076】
電子求引基W'は、例えば、ケト基-CO-、エステル基-O-CO-又はスルホン基-SO2-でありうる。好ましくは、W'は、これらの基のうちの1つを表すか、又は下記で説明されるようなこれらの基のうちの1つの還元により得ることができる基を表す。好ましくは、W'は、ケト基を表すか、又はケト基の還元により得ることができる基、特にCH.OH基を表す。
【0077】
好ましくは、この基は、式:
【0078】
【0079】
特に、
【0080】
【0081】
を有する。
【0082】
抗体又はその抗原結合部分中の求核基は、例えば、システイン、リジン又はヒスチジン残基により提供され、Nuは、例えば、硫黄原子又はアミン基でありうる。本発明の1つの好ましい実施形態では、各Nuは、抗体又はその抗原結合部分中に存在するシステイン残基中に存在する硫黄原子を表す。本発明による抗体は、4つの鎖間ジスルフィド結合を一般に含有することになる。これらの各々を還元して、求核剤として作用する遊離チオール基を得ることができる。これらのジスルフィド結合の各々が上記の式Iで示されるように架橋されれば、4の薬物-抗体比(DAR)を有するコンジュゲートが生成されることになる。別の実施形態では、各Nuは、前記抗体又はその抗原結合部分に結合されているポリヒスチジンタグ中に存在するヒスチジン残基中に存在するイミダゾール基を表す。
【0083】
本発明のコンジュゲートは、例えば、下記一般式のものであってもよい:
(((Dq-Lk1)r-P1)p-Lk2-Lk3)e-Ab (III)
(式中、
Dは、ペイロードを表し;
qは、1~10の整数を表し;
Lk1は、リンカーを表し;
rは、1~10の整数を表し;
P1は、結合又はc価の基-P2-NH-を表し、ここでcは、2~11であり、P2は、少なくとも1つのエチレン単位-CH2-CH2-又はエチレングリコール単位-O-CH2-CH2-を含有する基であり;
eは、1~10の整数を表し;
Lk2は、結合又はd価のリンカーを表し、ここでdは2~11であり、該リンカーは、1~9個のアスパラギン酸残基及び/又はグルタミン酸残基からなり;
Lk3は、下記一般式のリンカー:
-CO-Ph-Y-Z- (AII)
(式中、Phは、置換されていてもよいフェニル基であり、Yは、CO基又はCH.OH基を表し、Zは、下記式の基:
【0084】
【0085】
を表し、この式中のA及びBの各々は、C1~4アルキレン又はアルケニレン基を表す)
を表し;
Abは、本発明による抗体又はその抗原結合部分を表し、前記抗体又はその抗原結合部分中のジスルフィド結合に由来する2個の硫黄原子を介してLk3と結合されており;
eは、1~sの整数を表し、ここでsは、Lk3とコンジュゲートする前の前記抗体又はその抗原結合部分中に存在するジスルフィド結合の数である)。
【0086】
q、r、e、c及びdの意味により、存在するD基の総数が決まる。この数は、例えば20以下、例えば15以下、例えば10以下、例えば1、2、3又は4でありうる。
【0087】
コンジュゲート試薬
本発明によるコンジュゲートは、コンジュゲート試薬を本発明による抗体又はその抗原結合部分と反応させることにより調製することができる。コンジュゲーションは、例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性会合又は他の方法により行うことができるが、好ましくは化学的カップリングにより行われる。典型的に、コンジュゲート試薬は、抗体又はその抗原結合部分中に存在する少なくとも1つの求電子剤又は特に求核剤と共有結合反応することができる官能基を含むことになり、この官能基がリンカーを介してペイロードに結合される。ペイロードを抗体又はその抗原結合部分とコンジュゲートさせるために使用することができる多くのコンジュゲート試薬が公知であり、これらのいずれを使用して本発明によるコンジュゲートを調製してもよい。
【0088】
例えば、試薬は、マレイミド基、クイックケミストリー基、例えばアジド若しくはアルキン基、アミン基、カルボキシル基、又は活性エステル基を含有しうる。他の可能なアプローチとしては、改変されたシステイン又は非天然アミノ酸等のアミノ酸を用いてコンジュゲーションのために特異的に組換え改変された抗体の使用、及び特異的酵素反応による、例えばトランスグルタミナーゼを用いる、酵素的コンジュゲーションが挙げられる。抗体又はその抗原結合部分の反応部位は、実際は、求核性又は求電子性のいずれであってもよい。一般的なタンパク質コンジュゲーション部位は、リジン若しくはシステインアミノ酸残基、又は糖鎖部分である。或いは、コンジュゲーションは、抗体又はその抗原結合部分に結合されているポリヒスチジンタグに対して行われることもある。
【0089】
コンジュゲート試薬は、抗体又はその抗原結合部分中の求核剤と有利に反応することができ、それ故、前記求核剤と有利に化学結合することができる。そのため、コンジュゲート試薬は、求核剤との反応で失われる少なくとも1つの脱離基を概して含む。コンジュゲート試薬は、例えば、2つ以上の脱離基を含むこともある。好ましくは、コンジュゲート試薬は、2つの求核剤と反応することができる。有利には、コンジュゲート試薬は、少なくとも2つの脱離基を含む。2つ以上の脱離基が存在する場合、これらは同じであってもよく、又は異なってもよい。或いは、コンジュゲート試薬は、2つの脱離基と化学的に等価である単一の基であって、2つの求核剤と反応することができる単一の基を含有することもある。
【0090】
試薬の1つの基は、Smithら、J. Am. Chem. Soc.、2010、132、1960~1965頁、及びSchumacherら、Bioconj. Chem.、2011、22、132~136頁に記載されているようなビス-ハロ-又はビス-チオ-マレイミド及びそれらの誘導体に基づく。これらの試薬は、官能基:
【0091】
【0092】
を含有し、この式中の各Lは、脱離基である。マレイミド環の窒素原子は、ペイロードを直接又は間接的に担持することができる。
【0093】
同様に、単一の脱離基Lを含有するマレイミド:
【0094】
【0095】
を使用してもよい。この場合もやはり、マレイミド環の窒素原子は、ペイロードを直接又は間接的に担持する。
【0096】
また、脱離基を欠くマレイミド:
【0097】
【0098】
を使用してもよい。この場合もやはり、マレイミド環の窒素原子は、ペイロードを直接又は間接的に担持する。
【0099】
好ましい実施形態では、コンジュゲート試薬は、官能基:
【0100】
【0101】
(式中、Wは、電子求引基、例えば、ケト基、エステル基-O-CO-、スルホン基-SO2-、又はシアノ基を表し、Aは、C1~5アルキレン又はアルケニレン鎖を表し、Bは、結合又はC1~4アルキレン若しくはアルケニレン鎖を表し、各Lは、独立して脱離基を表すか、又は両方のLが一緒に脱離基を表す)
を含有する。このタイプの試薬は、Bioconj. Chem 1990(1)、36~50頁、Bioconj. Chem 1990(1)、51~59頁、及びJ. Am. Chem. Soc. 110、5211~5212頁に記載されている。そのような基を含有する試薬が抗体又はその抗原結合部分と反応すると、第1の脱離基Lが失われて、式:
【0102】
【0103】
(式中、mは、0~4である)
の官能基を含有するコンジュゲート試薬を原位置で形成し、それが第1の求核剤と反応する。すると第2の脱離基Lが失われ、第2の求核剤との反応が起こる。官能基CIを含有する試薬の出発物質としての使用の代案として、官能基CI'を含有する試薬を出発物質として使用してもよい。
【0104】
好ましくは、Wは、ケト基を表す。好ましくは、Aは、-CH2-を表し、Bは、結合を表す。
【0105】
式CI及びCI'の特に好ましい官能基は、式:
【0106】
【0107】
を有する。
【0108】
例えば、基は、式:
【0109】
【0110】
のものであってもよい。
【0111】
コンジュゲート試薬の別の群は、官能基:
~W-CR4R4'-CR4.L.L' (CII)
(式中、
Wは、上記で示された意味及び好ましい意味を有し、及び
各R4は、水素原子又はC1~4アルキル基を表し、R4'は、水素原子を表し、各Lが独立して、脱離基を表すか若しくは両方のLが一緒に脱離基を表すのか;又は
各R4は、水素原子又はC1~4アルキル基を表し、Lは、脱離基を表し、R4'とL'が一緒に結合を表す)
を含有する。
【0112】
コンジュゲート試薬の別の群は、官能基:
~W-(CH=CH)p-(CH2)2-L (CIII)又は
~W-(CH=CH)p-CH=CH2 (CIII')
(これらの式中、Wは、上記で示された意味及び好ましい意味を有し、pは、0、又は1~4の整数、好ましくは0を表す)
を含む。このタイプの特に好ましい試薬は、官能基:
~NH-CO-Ar-CO-(CH2)2-L (CIIIa)又は
~NH-CO-Ar-CO-CH=CH2 (CIIIa')
(これらの式中、Arは、置換されていてもよいアリール、特にフェニル、基を表す)
を含む。
【0113】
脱離基Lは、例えば、-SP、-OP、-SO2P、-OSO2P、-N+PR2R3、ハロゲン、-Oφであってもよく、この場合、Pは、水素原子、アルキル(好ましくはC1~6アルキル)、アリール(好ましくはフェニル)、若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表し、又は部分-(CH2CH2O)n-(式中のnは、2以上、特に6以上の数である)を含む基であり、R2及びR3の各々は、独立して、水素原子、C1~4アルキル基、又は基Pを表し、φは、少なくとも1つの置換基、例えば、-CN、-CF3、-NO2、-CO2R'、-COH、-CH2OH、-COR'、-OR'、-OCOR'、-OCO2R'、-SR'、-SOR'、-SO2R'、-NHCOR'、-NR'COR'、-NHCO2R'、-NR'CO2R'、-NO、-NHOH、-NR'OH、-CH=N-NR'COR'、-N+R'3、ハロゲン、特に塩素若しくは特にフッ素、-C≡CR'及び-CH=CR'2[ここで各R'は、水素原子又はアルキル(好ましくはC1~6アルキル)、アリール(好ましくはフェニル)、若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表す]を含有する、置換されているアリール、特にフェニル、基を表す。電子求引性置換基の存在は好ましい。
【0114】
Pが部分-(CH2CH2O)n-(式中のnは、2以上の数である)を含む基を表す、コンジュゲート試薬は、今ではWO2016/059377として発行されているPCT/GB2015/052952が優先権を主張する、本発明者らの同時係属出願である英国特許第1418186.1号の主題である。この出願には以下のことが開示されている:
「脱離基は、例えば、-(CH2CH2O)n-R1(式中のR1は、キャッピング基である)を含むことができる。非常に広範なキャッピング基を使用することができる。R1は、例えば、水素原子、アルキル基、特にC1~4アルキル基、特にメチル基、又は置換されていてもよいアルキル基、例えば、置換されていてもよいフェニル基、例えばトシル基であってもよい。或いは、キャッピング基は、カルボキシル基又はアミン基等の官能基を含むこともある。そのようなキャッピング基は、例えば、式-CH2CH2CO2H又は-CH2CH2NH2を有することができ、-(CH2CH2O)n-鎖の末端単位を官能化することによりそのようなキャッピング基を調製することができる。或いは、キャッピング基を末端に有するのではなく、-(CH2CH2O)n-基は、コンジュゲート試薬中に2つの結合点を有することができ、したがって、化学的に等価の2つの脱離基が存在し、2つの求核剤に結合することができる。
【0115】
脱離基の-(CH2CH2O)n-部分は、PEG、すなわちポリエチレングリコール、に基づく。PEGは、直鎖であってもよく又は分枝状であってもよく、どのように誘導体化又は官能化されていてもよい。nは、2以上の数、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10である。例えば、nは、5~9であってもよい。或いは、nは、10以上の数であってもよい。nに特定の上限はない。nは、例えば150以下、例えば120以下、例えば100以下であってもよい。例えば、nは、2~150、例えば7~150、例えば7~120であってもよい。脱離基のPEG部分-(CH2CH2O)n-は、例えば1~5kDaの分子量を有してもよく、例えば、1kDa、2kDa、3kDa、4kDa又は5kDaであってもよい。脱離基は、必要に応じて、1つ又は複数のスペーサーにより隔てられている2つ以上の部分-(CH2CH2O)n-を含有してもよい。
【0116】
本発明による試薬中の脱離基は、好適には、式-SP、-OP、-SO2P、-OSO2P、-N+PR2R3のものであり、ここでPは、部分-(CH2CH2O)n-を含む基であり、R2及びR3の各々は、水素原子、C1~4アルキル基、又は基Pを独立して表す。好ましくは、R2及びR3の各々は、C1~4アルキル基、特にメチル基を表すか、又は、特に、水素原子を表す。或いは、コンジュゲート試薬は、式-S-P-S-、-O-P-O-、-SO2-P-SO2-、-OSO2-P-OSO2-、及び-N+R2R3-P-N+R2R3-の基を含むことができる。このタイプの具体的な基としては、-S-(CH2CH2O)n-S-、-O-(CH2CH2O)n-O-、-SO2-(CH2CH2O)n-SO2-、-OSO2-(CH2CH2O)n-OSO2-、又は-N+R2R3-(CH2CH2O)n-N+R2R3-が挙げられる。それらは、次のタイプの基:
【0117】
【0118】
を含むこともでき、この式中の-(CH2CH2O)n-基は、任意の好適な連結基、例えばアルキル基により担持されている。これらの二価の基は、2つの求核剤と反応することができる2つの脱離基と化学的に等価である。」
【0119】
コンジュゲート試薬中に存在する特に好ましい脱離基Lは、-SP又は-SO2P、特に-SO2Pである。この群の中で、1つの好ましい実施形態は、Pがフェニル又は特にトシル基を表す、ものである。別の好ましい実施形態は、Pが、部分-(CH2CH2O)n-を含む基、特に、nが上述の値の1つ、特に7を有するものである。特に好ましい脱離基Lは、-SO2-(CH2CH2O)n-H/Me、特に-SO2-(CH2CH2O)7-H/Meである。本明細書を通して、脱離基Lへのいずれの言及も、これらの好ましい基、特に-SO2-(CH2CH2O)n-H/Me、更に特に-SO2-(CH2CH2O)7-H/Meへの具体的な言及を含むと解されたい。
【0120】
コンジュゲート試薬は、1つより多くの官能基を含有することができる。例えば、試薬は、分子の一方の末端に上記のタイプCの官能基を含有することができ、且つ該分子の他の箇所に、抗体若しくはその抗原結合部分とコンジュゲートすることができるか又は任意の他の分子とコンジュゲートすることができる1つ又は複数の更なる官能基を含有することができる。そのような構造は、例えば、Belchevaら、J. Biomater. Sci Polymer Edn. 9(3)、207~226頁に記載されており、複数のタンパク質を含有するコンジュゲートの合成に有用である。
【0121】
式CI/CI'の単位を含有するコンジュゲート試薬は、下記の式(CIc)若しくは(CIc')を有することもあり、又は、Wがシアノ基を表す場合、(CId)若しくは(Cld')を有することもある:
【0122】
【0123】
(これらの式中、Dは、ペイロードを表し、Qは、連結基を表す)。
【0124】
好ましいコンジュゲート試薬としては、以下のものが挙げられる:
【0125】
【0126】
又は
【0127】
【0128】
又は
D-Q-NH-CO-Ar-CO-(CH2)2-L (CHIb)又は
D-Q-NH-CO-Ar-CO-CH=CH2 (CHIb')
(これらの式中、Dは、ペイロードを表し、Qは、連結基を表す)。
【0129】
コンジュゲート試薬は、例えば、一般式:
((Dq-Lk1)r-P1)z-Lk2-Lk3-(L)2 (II)
(式中、
Dは、ペイロードを表し;
qは、1~10の整数を表し;
Lk1は、リンカーを表し;
rは、1~10の整数を表し;
P1は、結合又はc価の基-P2-H-を表し、ここでcは、2~11であり、P2は、少なくとも1つのエチレン単位-CH2-CH2-又はエチレングリコール単位-O-CH2-CH2-を含有する基であり;
zは、1~10の整数を表し;
Lk2は、結合又はd価のリンカーを表し、ここでdは2~11であり、該リンカーは、1~9個のアスパラギン酸残基及び/又はグルタミン酸残基からなり;
Lk3は、下記一般式のリンカー:
-CO-Ph-Y-Z- (EII)
(式中、Phは、置換されていてもよいフェニル基であり、Yは、CO基又はCH(OH)基を表し、Zは、下記式の基:
【0130】
【0131】
を表し、この式中のA及びBの各々は、C1~4アルキレン又はアルケニレン基を表す)
を表し;
Lは、脱離基、例えば、下記で説明される脱離基の1つである)
のものであってもよい。
【0132】
いずれの好適な連結基Q又はLk1を使用してもよい。一実施形態では、Q又はLk1は、例えば、直接結合、アルキレン基(好ましくはC1~10アルキレン基)、又は置換されていてもよいアリール若しくはヘテロアリール基であってもよく、これらはいずれも、1つ又は複数の酸素原子、硫黄原子、-NR"基(ここでR"は、水素原子、又はアルキル(好ましくはC1~6アルキル)、アリール(好ましくはフェニル)、若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表す)、ケト基、-OCO-基、-COO-基、-O-CO-O、-O-CO-NR"-、-NR"COO-、-CONR"-及び/又は-NR"CO-基を末端に有してもよく、或いはそれ又はそれらが割り込んでいてもよい。そのようなアリール及びヘテロアリール基Qは、本発明の1つの好ましい実施形態を形成する。好適なアリール基としては、フェニル及びナフチル基が挙げられ、その一方で、好適なヘテロアリール基としては、ピリジン、ピロール、フラン、ピラン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、ピリダジン、ピリミジン及びプリンが挙げられる。特に好適な連結基Q又はLk1は、ヘテロアリール又は特にアリール基、特にフェニル基である。これらは、治療剤Dへの連結基、例えば、-NR"-CO-若しくは-CO-NR"-基、例えば-NH-CO-若しくは-CO-NH-基であるか又はそれを含有する基を有することができる。
【0133】
置換されていてもよいアリール、特にフェニル、又はヘテロアリール基上に存在しうる置換基としては、例えば、アルキル(好ましくは、OH若しくはCO2Hにより置換されていてもよいC1~4アルキル、特にメチル)、-CN、-NO2、-CF3、NR"2、-CO2R"、-COH、-CH2OH、-COR"、-OR"、-OCOR"、-OCO2R"、-SR"、-SOR"、-SO2R"、-NR"COR"、-NR".CO2R"、-NO、-NHOH、-NR".OH、-CH=N-NR".COR"、-N+R"3、ハロゲン、例えばフッ素若しくは塩素、-C≡CR"及び-CH=CR"2から選択される1つ又は複数同じ若しくは異なる置換基が挙げられ、ここで各R"は、独立して、水素原子、又はアルキル(好ましくはC1~6アルキル)、アリール(好ましくはフェニル)、若しくはアルキル-アリール(好ましくはC1~6アルキル-フェニル)基を表す。電子求引性置換基の存在は、特に好ましい。好ましい置換基としては、例えば、-CN、-CF3、-NO2、-OR"、-OCOR"、-SR"、-NR"COR"、-NHOH及び-NR"CO2R"が挙げられる。
【0134】
別の実施形態では、リンカーLk、Q若しくはLk1、又は本発明によるコンジュゲート中の任意の他のリンカーは、分解性基を含有することができ、すなわち、前記リンカーは、ペイロードとそのペイロードが結合されている抗体又はその抗原結合部分とを隔てる、生理条件下で切れる基を含有することができる。或いは、前記リンカーは、生理条件下で切断可能でないリンカーであってもよい。
【0135】
好適な分解性リンカーは、下記でより詳細に論じられる。
【0136】
q、r、z、c及びdの意味により、存在するD基の総数が決まる。この数は、例えば20以下、例えば15以下、例えば10以下、例えば1、2、3又は4であってもよい。
【0137】
リンカー
本発明のコンジュゲート、及びそれらの調製に好適なコンジュゲート試薬は、抗体又はその抗原結合部分をペイロードに連結するリンカーを含有する。このリンカーは、生理条件下で非分解性であってもよく、又は分解性であってもよい。コンジュゲートは、ペイロードとそのペイロードが結合されている又は最終的に結合されることになる抗体又はその抗原結合部分とを隔てる、生理条件下で切れる基を含有する、分解性リンカーを含むのが有利である。リンカーが生理条件下で切れる場合、細胞内条件下で切断可能であるのが好ましい。標的が細胞内にある場合、リンカーは、細胞外条件に対して実質的に非感受性である(すなわち、その結果、十分な用量の治療剤の細胞内標的への送達が妨げられない)のが好ましい。好適な分解性リンカーは、下記でより詳細に論じられる。
【0138】
リンカー、例えばQ又はLk1が、分解性基を含有する場合、この基は、一般に加水分解条件に対して感受性であり、例えば、その基は、ある特定のpH値(例えば、酸性条件)で分解する基でありうる。加水分解/酸性条件は、例えば、エンドソーム又はリソソーム内で見出すことができる。酸性条件下で加水分解を受けやすい基の例としては、ヒドラゾン、セミカルバゾン、チオセミカルバゾン、シス-アコニットアミド、オルトエステル及びケタールが挙げられる。加水分解条件の影響を受けやすい基の例としては、
【0139】
【0140】
が挙げられる。
【0141】
好ましい実施形態では、リンカー、例えばQ又はLk1は、
【0142】
【0143】
であるか、又はそれを含む。
【0144】
例えば、リンカー、例えばQ又はLk1は、
【0145】
【0146】
であってもよく、この場合のリンカーは、好ましくは、次に示すようにD及びP1基と結合される:
【0147】
【0148】
リンカーは、還元条件下で分解されやすいこともある。例えば、リンカーは、チオール等の生物学的還元剤への曝露時に分解されうるジスルフィド基を含有することもある。ジスルフィド基の例としては、
【0149】
【0150】
(これらの式中のRi、Rii、Riii及びRiiiiは、各々独立して、水素又はC1~4アルキルである)
が挙げられる。好ましい実施形態では、リンカー、例えばQ又はLk1は、
【0151】
【0152】
であるか、又はそれを含む。
【0153】
例えば、リンカーは、
【0154】
【0155】
であってもよく、この場合のリンカーは、好ましくは、次に示すようにD及びP1基と結合される:
【0156】
【0157】
リンカー、例えばQ又はLk1は、酵素的分解を受けやすい基を含有することもあり、例えば、そのリンカーは、プロテアーゼ(例えば、リソソーム若しくはエンドソームプロテアーゼ)又はペプチダーゼによる分解を受けやすいこともある。例えば、リンカーは、少なくとも1つ、例えば、少なくとも2つ、又は少なくとも3つのアミノ酸残基(例えば、Phe-Leu、Gly-Phe-Leu-Gly、Val-Ala、Val-Cit、Phe-Lys)を含む、ペプチジル基を含有することもある。例えば、リンカーは、1~5個、例えば、2~4個のアミノ酸を有する、アミノ酸鎖であってもよい。
【0158】
酵素的分解を受けやすい基の別の例は、
【0159】
【0160】
(これらの式中、AAは、アミノ酸配列、特に、1又は2つのアミノ酸残基を含有するもの、特に、Val-Cit等の、2残基のプロテアーゼ特異的アミノ酸配列を表す)
である。
【0161】
好ましい実施形態では、リンカー、例えばQ又はLk1は、
【0162】
【0163】
であるか、又はそれを含む。
【0164】
例えば、リンカーは、
【0165】
【0166】
であってもよく、この場合のリンカーは、好ましくは、下記に示すようにペイロードD及びP1基と結合される:
【0167】
【0168】
一実施形態では、リンカー、例えばQ又はLk1は、単一のペイロードを担持する(すなわち、式(II)のコンジュゲート試薬中、q=1)。上に示されている具体的なリンカー(EVa)、(EVd)及び(EVe)は、このタイプのものである。別の実施形態では、リンカーは、複数のペイロードを担持し(すなわち、式(II)のコンジュゲート試薬中、q>1、例えば2、3又は4)、このリンカーは、治療剤の1つより多くのコピーを本発明のコンジュゲートに組み込む手段として使用される。一実施形態では、この組込みは、例えばアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基又は類似の残基を含有しうる、分枝リンカーLk1及び/又はLk2の使用により、達成することができる。これにより、次の式の分枝要素:
【0169】
【0170】
(式中、bは、1、2又は3であり、b=1は、アスパラギン酸であり、b=2は、グルタミン酸であり、b=3は、1つの好ましい実施形態を表す)
が導入される。式EVI中のアシル部分の各々は、好適なリンカーLk1aを介してペイロードとカップリングされていてもよく、ここでLk1aは、任意の好適なリンカー、例えば、上述の連結のうちの1つを含有する分解性リンカーである。特定の実施形態では、Lk1aは、上に示されている基(EVa)、(EVd)又は(EVe)を表す。アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基又は類似の残基のアミノ基は、いずれの好適な手段によりP1と結合されていてもよく、例えば、連結は、アミノ基を介していてもよく、例えば、上記の分枝基は、-CO-CH2-基を介して、P1に接続されていてもよく、したがって、
【0171】
【0172】
であってもよい。
【0173】
必要に応じて、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基又は類似の残基は、更なるアスパラギン酸残基及び/又はグルタミン酸残基及び/又は類似の残基とカップリングされていてもよく、例えば、
【0174】
【0175】
等であってもよく、これにより、治療剤の多くの単位を組み込む可能性が得られる。上記の通り、各ペイロード単位は、いずれの好適なリンカーLk1aを介してアスパラギン酸残基/グルタミン酸残基又は類似の残基に結合されていてもよい。
【0176】
同様に、アミノ酸リジン、セリン、スレオニン、システイン、アルギニン若しくはチロシン又は類似の残基を導入して、分枝を形成することができ、したがって、
【0177】
【0178】
(式中、リジンについて、bは4である)
【0179】
【0180】
(式中、セリンについて、bは1ある)
を形成することができる。
【0181】
ポリマー
本発明のコンジュゲートは、オリゴマー又はポリマー(本明細書では、便宜上、一緒に「ポリマー」と称される)を本発明による抗体又はその抗原結合部分と共に含有することができる。例えば、抗体又はその抗原結合部分は、リンカーを介してポリマーとコンジュゲートされていてもよい。或いは、リンカーそれ自体がポリマーを含んでいてもよく、このポリマーが抗体又はその抗原結合部分とコンジュゲートされていてもよい。ポリマーは、具体的には、水溶性の合成ポリマー、特にポリアルキレングリコールである。ポリマーは、例えば、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、例えばポリアクリロイルモルホリン、ポリメタクリレート、ポリオキサゾリン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド又はポリメタクリルアミド、例えばポリカルボキシメタクリルアミド、又はHPMAコポリマーであってもよい。加えて、ポリマーは、酵素的又は加水分解的分解を受けやすいポリマーであってもよい。そのようなポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリアセタール、ポリ(オルトエステル)、ポリカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、及びポリアミド、例えばポリ(アミノ酸)が挙げられる。ポリマーは、ホモポリマー、ランダムコポリマー、又は構造的に明確なコポリマー、例えばブロックコポリマーであってもよく、例えば、2つ以上のアルキレンオキシドから誘導されたブロックコポリマーであってもよく、又はポリ(アルキレンオキシド)及びポリエステル、ポリアセタール、ポリ(オルトエステル)若しくはポリ(アミノ酸)のいずれかから誘導されたブロックコポリマーであってもよい。使用することができる多官能性ポリマーとしては、ジビニルエーテル-無水マレイン酸のコポリマー及びスチレン-無水マレイン酸のコポリマーを挙げることができる。
【0182】
天然に存在するポリマー、例えば、多糖類、例えばキチン、デキストラン、デキストリン、キトサン、デンプン、セルロース、グリコーゲン、ポリ(シアル酸)、ヒアルロン酸及びこれらの誘導体も使用してもよい。ポリグルタミン酸等のポリマーも使用してもよく、糖類又はアミノ酸等の天然モノマー、及びエチレンオキシド又はメタクリル酸等の合成モノマーから誘導された、ハイブリッドポリマーも使用してもよい。
【0183】
ポリマーがポリアルキレングリコールである場合、このポリマーは、好ましくは、C2及び/又はC3単位を含有するものであり、特に、ポリエチレングリコールである。ポリマー、特にポリアルキレングリコールは、単一の直鎖を含有してもよく、又は小さいか若しくは大きい多数の鎖で構成されている分枝した形態を有していてもよい。いわゆるプルロニックは、PEGブロックコポリマーの重要なクラスである。これらは、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドブロックから誘導される。置換されている又はキャップされているポリアルキレングリコール、例えばメトキシポリエチレングリコールを使用してもよい。
【0184】
ポリマーは、例えば、その内容が参照により本明細書に組み入れられるWO 2004/113394に記載されている方法により生成された櫛型ポリマーであってもよい。例えば、ポリマーは、一般式:
(F)f-(G)g-(H)h
(式中、
Fは、存在する場合、Gに関して定義される通りのものではない1つ又は複数のオレフィン性不飽和モノマーの付加重合により得ることができ、
Gは、直鎖状、分枝状又は星形であり、置換されている又は非置換であり、オレフィン性不飽和部分を有する、複数のモノマーの付加重合により得ることができ、
Hは、存在する場合、Gに関して定義された通りのものではない1つ又は複数のオレフィン性不飽和モノマーの付加重合により得られ、
f及びhは、0~500の間の整数であり、
gは、0~1000の整数であり、
F及びGの少なくとも一方は存在する)
を有する櫛型ポリマーであってもよい。
【0185】
ポリマーは、所望されるいずれの方法で誘導体化又は官能化されていてもよい。反応性基は、ポリマー末端若しくは末端基に連結されていてもよく、又はポリマー鎖に沿ってペンダント基によって連結されていてもよく、このような場合のポリマーは、例えば、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、又は無水マレイン酸コポリマーである。必要に応じて、従来の方法を使用してポリマーを固体支持体にカップリングさせてもよい。
【0186】
ポリマーの最適な分子量は、当然ながら、意図される用途によって決まる。長鎖ポリマーを使用してもよく、例えば、数平均分子量が約75,000、例えば、50,000、40,000又は30,000g/モル以下であってもよい。例えば、数平均分子量は、500g/モル~約75,000g/モルの範囲であってもよい。しかし、例えばわずか2個の繰り返し単位、例えば2~50個の繰り返し単位を有する、別個のPEG鎖からなる非常に小さいオリゴマーは、一部の用途に有用であり、本発明の1つの好ましい実施形態に存在する。例えば、2~48、例えば2~36、例えば2~24単位を含有しうるポリマーを使用してもよい。例えば、12、20、24、36、40又は48個の繰り返し単位を有する直鎖又は分枝状PEGを使用してもよい。コンジュゲートは、例えば悪性腫瘍、感染症若しくは自己免疫疾患に起因する又は外傷に起因する炎症の処置における使用のために、循環を離れて組織に浸透することが意図される場合、30,000g/モル以下の範囲のより低い分子量のポリマーを使用するほうが有利でありうる。コンジュゲートが循環内に残存することが意図される用途については、より高い分子量のポリマー、例えば、20,000~75,000g/モルの範囲を使用するほうが有利でありうる。
【0187】
好ましくは、ポリマーは、合成ポリマーであり、好ましくは、ポリマーは、水溶性ポリマーである。水溶性ポリエチレングリコールの使用は、多くの用途に特に好ましい。
【0188】
WO2016/063006として発行されたPCT/GB2015/052953が優先権を主張する、本発明者らの同時係属出願である英国特許第1418986.4号は、特定の構造のPEG含有リンカーの使用に関するものであり、これらのリンカーを本発明で使用することができる。その出願には以下のことが開示されている:
「本発明は、タンパク質又はペプチドと治療剤、診断剤又は標識剤のコンジュゲートであって、タンパク質又はペプチド結合部分とポリエチレングリコール部分とを含有し、前記タンパク質又はペプチド結合部分が、一般式:
【0189】
【0190】
(式中、Prは、前記タンパク質又はペプチドを表し、各Nuは、前記タンパク質若しくはペプチド中に存在する又はそれに連結されている求核剤を表し、A及びBの各々は、独立してC1~4アルキレン又はアルケニレン鎖を表し、W'は、電子求引基を表すか、又は電子求引基の還元により得られる基を表す)
を有し、前記ポリエチレングリコール部分が、式-CH2CH2OR(この式中、Rは、水素原子、アルキル基、例えばC1~4アルキル基、特にメチル基、又は置換されていてもよいアリール基、特にフェニル基、特に非置換フェニル基を表す)の末端基を有するペンダントポリエチレングリコール鎖であるか、又はそれを含む、コンジュゲートを提供する。
【0191】
本発明は、タンパク質又はペプチドと反応することができ、治療剤、診断剤又は標識剤とポリエチレングリコール部分とを含む、コンジュゲート試薬であって、下記式の基:
【0192】
【0193】
(式中、Wは、電子求引基を表し、A及びBは、上記で示された意味を有し、mは、0~4であり、各Lは、独立して脱離基を表す)
を含み、前記ポリエチレングリコール部分が、式-CH2CH2OR(この式中、Rは、水素原子、アルキル基、例えばC1~4アルキル基、特にメチル基、又は置換されていてもよいアリール基、特にフェニル基、特に非置換フェニル基を表す)の末端基を有するペンダントポリエチレングリコール鎖であるか、又はそれを含む、コンジュゲート試薬も提供する。
【0194】
本発明は、本発明によるコンジュゲートの調製方法であって、タンパク質又はペプチドを本発明によるコンジュゲート試薬と反応させる工程を含む調製方法も提供する。
【0195】
本発明のコンジュゲートは、模式的に、式:
【0196】
【0197】
(式中、Dは、治療剤、診断剤又は標識剤を表し、F'は、式Iの基を表し、PEGは、式-CH2CH2ORの末端基を有するペンダントポリエチレングリコール鎖を表す)
により表すことができる。
【0198】
本発明の試薬は、模式的に式:
【0199】
【0200】
(式中、Dは、治療剤、診断剤又は標識剤を表し、Fは、式II又はII'の基を表し、PEGは、式-CH2CH2ORの末端基を有するペンダントポリエチレングリコール鎖を表す)
により表すことができる。官能基Fは、下記で説明されるようなタンパク質又はペプチド中に存在する2つの求核剤と反応することができる。
【0201】
本発明のコンジュゲート及び試薬のポリエチレングリコール(PEG)部分は、式-CH2CH2OR(式中、Rは、水素原子、アルキル基、例えばC1~4アルキル基、特にメチル基、又は置換されていてもよいアリール基、特にフェニル基、特に非置換フェニル基を表す)の末端基を有するペンダントPEG鎖であるか、又はそれを含む。好ましくは、Rは、メチル基又は水素原子である。
【0202】
PEG部分の全サイズは、当然ながら、意図される用途に依存する。一部の用途には、高分子量PEGを使用してもよく、例えば、数平均分子量が約75,000g/モル以下、例えば、50,000、40,000又は30,000g/モル以下であってもよい。例えば、数平均分子量は、500g/モル~約75,000の範囲であってもよい。しかし、一部の用途にはより小さいPEGのほうが好ましいこともある。
【0203】
1つの好ましい実施形態では、PEG部分中のPEGの全てがペンダントPEG鎖中に存在する。別の実施形態では、PEGは、分子の主鎖に存在することもあり、これは、下でより詳細に論じられる。
【0204】
PEG部分と同様に、ペンダントPEG鎖のサイズは、意図される用途に依存することになる。一部の用途には、高分子量ペンダントPEGを使用してもよく、例えば、数平均分子量が約75,000g/モル以下、例えば、50,000、40,000又は30,000g/モル以下であってもよい。例えば、数平均分子量は、500g/モル~約75,000の範囲であってもよい。しかし、多くの用途には、より小さいPEG鎖が使用されうる。例えば、前記PEG鎖は、3,000g/モル以下の分子量を有してもよい。しかし、例えばわずか2個の繰り返し単位、例えば2~50個の繰り返し単位を有する、別個のPEG鎖からなる非常に小さいオリゴマーは、一部の用途に有用であり、本発明の1つの好ましい実施形態に前記PEG鎖のように存在する。ペンダントPEG鎖は、直鎖であってもよく、分枝状であってもよい。12、20、24、36、40又は48個の繰り返し単位を有するPEG鎖、例えば直鎖又は分枝状の鎖を使用してもよい」。
【0205】
コンジュゲーション方法
本発明による抗体又はその抗原結合部分と反応することができる官能基を含有するコンジュゲート試薬を前記抗体又はその抗原結合部分と反応させてコンジュゲートを形成することができ、そのような反応は、本発明の更なる態様を形成する。本発明のこの更なる態様の好ましい実施形態では、上記の構造CI、CI'、CII又はIII(好ましい部分構造の全てを含む)のうちの1つを有するコンジュゲート試薬を抗体又はその抗原結合部分と反応させて、コンジュゲートを形成する。これらの試薬のうちの1つを使用するコンジュゲーション方法の直接の生成物は、電子求引基Wを含有するコンジュゲートである。しかし、前記コンジュゲーション方法は、好適な条件下で可逆的である。これは、一部の用途、例えば、ペイロードの迅速な放出が求められる用途には望ましいこともあるが、他の用途には、ペイロードの迅速な放出が望ましくないこともある。それ故、ペイロードの放出を防止する部分をもたらすように電子求引性部分Wを還元することによりコンジュゲートを安定させることが望ましいことがある。したがって、上記の方法は、コンジュゲート中の電子求引基Wを還元する追加の任意選択の工程を含むことがある。水素化ホウ素類、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム又はトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムの還元剤としての使用は、特に好ましい。使用することができる他の還元剤としては、例えば、塩化スズ(II)、アルコキシド、例えばアルミニウムアルコキシド、及び水素化アルミニウムリチウムが挙げられる。
【0206】
したがって、例えば、ケト基を含有する部分Wを、CH(OH)基を含有する部分に還元することができ、エーテル基をヒドロキシ基とエーテル化剤の反応により得ることができ、エステル基をヒドロキシ基とアシル化剤の反応により得ることができ、アミン基をケトンから還元的アミノ化により調製することができ、又はアミドをアミンのアシル化により形成することができる。スルホンをスルホキシド、スルフィド又はチオールエーテルに還元することができる。シアノ基をアミン基に還元することができる。
【0207】
上記の式CI又はCIIのコンジュゲート試薬の使用の重要な特徴は、α-メチレン脱離基及び二重結合が、マイケル活性化部分として役立つ電子求引性官能基と交差共役していることである。交差機能性試薬(cross-functional reagent)中の脱離基が直接置換されやすいのではなく除去されやすく、電子求引基がマイケル反応に好適な活性化部分である場合には、連続したマイケル及びレトロマイケル反応により逐次的分子内ビスアルキル化が起こりうる。脱離基は、潜在的共役二重結合を隠蔽するのに役立ち、前記潜在的共役二重結合は、第1のアルキル化が起こって式CI'の試薬を生じてから露出され、ビスアルキル化が逐次的な相互作用性のマイケル及びレトロマイケル反応の結果として生じる。交差機能性アルキル化剤は、二重結合と共役する又は脱離基と電子求引基間で共役する複数の結合を含有しうる。
【0208】
抗体又はその抗原結合部分への結合が、その抗体又は抗原結合部分中のジスルフィド結合に由来する2個の硫黄原子を介したものである場合、上記方法は、ジスルフィド結合を原位置で還元することにより行うことができ、その後、還元生成物は、上記の構造Cのうちの1つを有するコンジュゲート試薬と反応する。好ましくは、ジスルフィド結合を還元し、一切の過剰な還元剤を例えば緩衝液交換により除去し、その後、コンジュゲート試薬を導入する。ジスルフィド結合は、例えば、従来の方法を使用してジチオトレイトール、メルカプトエタノール、又はトリス-カルボキシエチルホスフィンで還元することができる。
【0209】
コンジュゲーション反応は、先行技術で開示されている条件を含む、公知のコンジュゲーション方法と同様の条件下で行うことができる。例えば、上記の構造Cのうちの1つを有するコンジュゲート試薬を使用する場合、本発明によるコンジュゲーション反応は、WO 2005/007197、WO 2009/047500、WO 2010/100430、WO 2014/064423及びWO 2014/064424に記載されているものと同様の反応条件下で行うことができる。全ての反応物質が可溶である溶媒又は溶媒混合物中で方法を行うことができる。例えば、タンパク質を水性反応媒体中でポリマーコンジュゲート試薬と直接反応させることができる。求核剤のpH要件に依存して、この反応媒体を緩衝することもできる。反応に最適なpHは、一般に少なくとも4.5、典型的には約5.0~約8.5の間、好ましくは6.0~7.5であるであろう。最適な反応条件は、当然ながら、用いられる具体的な反応物質に依存することになる。
【0210】
水性反応媒体を使用する場合、3~40℃の間の反応温度が一般に好適である。有機媒体(例えば、THF、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、DMF、DMSO)中で行われる反応は、概して室温以下の温度で行われる。1つの好ましい実施形態では、反応は、ある割合の有機溶媒、例えば20体積%の有機溶媒、典型的には5~20体積%有機溶媒を含有しうる、水性緩衝液中で行われる。
【0211】
化学量論量的当量の又はわずかに過剰なコンジュゲート試薬を使用して、抗体又は抗原結合部分を効果的にコンジュゲートすることができる。しかし、過剰なコンジュゲート試薬とのコンジュゲーション反応を行うことも可能であり、一部のタンパク質にはこれが望ましいこともある。過剰な試薬は、コンジュゲートのその後の精製中に従来の手段、例えばイオン交換又はHPLCクロマトグラフィーによって容易に除去することができる。
【0212】
当然ながら、抗体が十分な好適な結合点を含有する場合、1つより多くのコンジュゲート試薬を抗体又は抗原結合部分とコンジュゲートさせることが可能である。例えば、2つの異なるジスルフィド結合を含有する抗体の場合、又は1つのジスルフィド結合を含有し、ポリヒスチジンタグも有する抗体の場合、抗体1分子当たり2分子の試薬をコンジュゲートさせることが可能である。抗体は、一般に4つの好適なジスルフィド結合を含有することから、反応条件の好適な選択により、ペイロードを担持している1つのリンカーを、各ジスルフィド結合を交差してコンジュゲートさせることが可能である。各リンカーが単一のペイロードを担持している場合、これにより、4の薬物抗体比(DAR)を有するコンジュゲートが得られる。上記で説明したような分枝状リンカーの使用により、ペイロードの更なるコピーを結合させてもよい。
【0213】
抗体又はその抗原結合断片を放射性金属又は常磁性イオンとコンジュゲートさせる場合には、一部の実施形態では、放射性金属又は常磁性イオンを、これらのイオンに結合するための1つ又は複数のキレート基が結合されている長いテールを有する試薬と反応させることができる。一部の実施形態では、前記試薬は、抗体又はその抗原結合部分を共有結合で係留するように設計された反応性基を有することができる。長いテールは、イオンに結合するためのキレート基と結合することができるペンダント基を有するポリマー、例えば、ポリリジン、多糖類、ポリエチレングリコール(PEG)又は他の誘導体化された若しくは誘導体化可能な鎖でありうる。本明細書における実施形態に従って使用することができるキレート基の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、DOTA、NOTA、NODAGA、ETA、デフェロキサミン(Df、これはDFOと称されることもある)、ポルフィリン、ポリアミン、クラウンエーテル、ビス-チオセミカルバゾン、ポリオキシム、及びこれらに類するものが挙げられるが、それらに限定されない。同キレートは、マンガン、鉄及びガドリニウム等の非放射性金属と錯化されている場合、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合部分及び担体と共に使用するとMRIに有用である。大環状キレート、例えばNOTA、NODAGA、DOTA及びTETAは、ガリウム、イットリウム及び銅の放射性核種を含むがこれらに限定されない様々な金属と共に、それぞれ利用される。放射性免疫療法(RAIT)用のラジウム-223等の放射性核種に安定的に結合させるために興味深い他の環型キレート、例えば大環状ポリエーテルを使用してもよい。ある特定の実施形態では、キレート部分を使用して、PET(ポジトロン放出コンピュータ断層撮影)イメージング剤、例えばアルミニウム-18F又はジルコニウム-89錯体を、PET分析に使用するための標的分子に結合させることができる。
【0214】
有用性及び組成物
本発明の抗体及びそれらの抗原結合部分、並びに本発明のコンジュゲートは、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患及び状態の処置、予防又は診断に使用される。したがって、本発明は、診断又は治療での使用のための、具体的には、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態の診断、処置又は予防に使用するための、本発明の抗体若しくはその抗原結合部分又は本発明のコンジュゲートを提供する。本発明は、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態を処置又は予防する方法であって、それを必要とする対象に、本発明の抗体若しくはその抗原結合部分又はコンジュゲートを、前記疾患又は状態の処置又は予防に有効な量で投与する工程を含む方法も提供する。本発明は、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態を診断、処置又は予防するための医薬の製造に使用するための、本発明による抗体若しくはその抗原結合部分又はコンジュゲートの使用も提供する。
【0215】
一部の実施形態では、PSMA媒介疾患は、がん、例えば、前立腺がん又は非前立腺がん(本明細書中の他の箇所に記載の非前立腺がんを含む)である。非前立腺がんは、好ましくは、一過性細胞癌を含む膀胱がん;膵管癌を含む膵臓がん;非小細胞肺癌を含む肺がん;通常の腎細胞癌を含む腎臓がん;軟部組織肉腫を含む肉腫;転移性腺癌を含む肝臓がん;乳癌を含む乳がん;多形神経膠芽腫を含む脳がん;神経内分泌癌;結腸癌を含む結腸がん;精巣胎児性癌を含む精巣がん;及び悪性黒色腫を含む黒色腫からなる群から選択される。最も有効ながん処置は、一般に、幾つかの薬物の併用投与を必要とする。したがって、本発明の活性薬剤は、少なくとも1つの更なる化学療法剤と組み合わせて投与されることが好ましい。
【0216】
更に別の態様では、本発明は、例えばPSMA関連疾患(例えば、ヒトPSMA関連疾患)を診断するために、試料中のPSMA抗原の存在をin vitro又はin vivoで検出するために、本発明の抗体若しくはそれらの抗原結合部分又はコンジュゲートを使用する方法を提供する。一部の方法では、これは、試験すべき試料に加えて対照試料を、本発明の抗体又はその抗原結合部分又は本発明のコンジュゲート(二重特異性又は多重特異性分子を含む)と、抗体とPSMA間での複合体の形成を可能にする条件下で接触させることにより達成される。そのようなアッセイをin vitroで行うことができる。その場合、複合体形成が被験試料において(例えば、ELISAにより)検出され、被験試料と対照試料間の複合体形成の一切の統計的に有意な増加が被験試料中のPSMAの存在を示す。
【0217】
他の実施形態では、本発明は、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態を診断する方法であって、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態を有するか又は有する疑いがある対象に、診断剤コンジュゲートされた本発明の抗体若しくはその抗原結合部分又はコンジュゲートを投与する工程;前記対象にイメージング法を受けさせて、標識された抗体若しくはその抗原結合部分又はコンジュゲートを可視化する工程;及び前記対象が、PSMAにより媒介される又はPSMAの発現増加を特徴とする疾患又は状態を有することを決定する工程を含む方法に、使用することができる。
【0218】
in vivoでの診断のために、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、上記で説明したような抗体が検出可能なマーカーで標識されているコンジュゲートの形態であるほうが好ましい。検出可能なマーカーとしては、放射性又は蛍光マーカーが挙げられる。投与されることになる抗体又は抗原結合抗体断片に対して使用することができる放射標識としては、例えば、アクチニウム(225Ac)、アスタチン(211At)、ビスマス(213Bi若しくは212Bi)、炭素(14C)、コバルト(57Co)、銅(67Cu)、フッ素(18F)、ガリウム(68Ga若しくは67Ga)、ホルミウム(166Ho)、インジウム(115In、113In、112In、若しくは111In)、ヨウ素(131I、125I、123I、若しくは121I)、鉛(212Pb)、ルテチウム(177Lu)、パラジウム(103Pd)、リン(32P)、白金(195Pt)、レニウム(186Re若しくは188Re)、ロジウム(105Rh)、ルテニウム(97Ru)、サマリウム(153Sm)、スカンジウム(47Sc)、テクネチウム(99Tc)、イッテルビウム(169Yb若しくは175Yb)、又はイットリウム(90Y)が挙げられる。抗体及び抗体断片と共に使用するのに好適な蛍光マーカーも、当技術分野において周知である。
【0219】
適切な放射性核種(例えば、PETイメージングのために陽電子放射体ヨウ素-124、銅-64、フッ素-18、ガリウム-68及び/若しくはジルコニウム-89)又はフルオロフォア(蛍光イメージングのために)で標識されている場合、抗体又はその抗原結合部分を患者の前臨床イメージングに及び/又は臨床イメージングに使用することができる。抗体又はその抗原結合部分は、単一光子を放出する放射性核種、例えば、インジウム-111、ヨウ素-123及びルテチウム-177に放射標識を単に変更することにより、SPECT(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)イメージング剤候補として使用することもできる。
【0220】
別の態様では、本発明は、本発明による抗体若しくはその抗原結合部分又は本発明によるコンジュゲートを薬学的に許容される担体と共に含む、医薬組成物又は診断用組成物を提供する。前記組成物は、必要に応じて、更なる活性成分を含有することもできる。
【実施例】
【0221】
実施例で言及する市販の試薬は、別段の指示がない限り製造業者の説示に従って使用した。細胞源は、実施例中で及び本明細書全体を通してそのたびごとにECACC又はATCC受託番号のどちらかにより特定する。ECACCは、欧州細胞カルチャーコレクション(European Collection of Cell Cultures)、Salisbury、Englandであり、その一方でATCCは、アメリカ合衆国細胞培養系統保存機関(American Type Culture Collection)、Manassas、USAである。別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての専門及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されているのと同じ意味を有する。例示的な方法及び材料を下記で説明するが、本明細書に記載のものと同様又は等価の方法及び材料も本発明の実施又は試験の際に使用することができる。材料、方法及び例は、説明に役立つものに過ぎず、範囲の限定となることを意図したものではない。
【0222】
【0223】
(実施例1)
抗体の発現及び精製
VH及びVκ変異体並びに競合因子先行技術抗体配列を、IgG1重鎖及びカッパ(Km3)軽鎖のpANT発現ベクターであるpANT17.2及びpANT13.2(
図1)にそれぞれサブクローニングした。クローニングのために制限酵素部位に隣接して導入されたプライマーを使用して、VH及びVκ配列をPCR増幅した。VH領域は、MluI及びHindIII部位を使用してヒトγ1重鎖遺伝子(G1m3(G1m(f))アロタイプ)とインフレームでクローニングし、Vκ領域は、BssHII及びBamHI制限部位を使用してヒトカッパ軽鎖定常領域遺伝子(Km3アロタイプ)とインフレームでクローニングした。重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子両方の転写は、CMV I/Eプロモーターの制御下にあり、pANT17プラスミドは、SV40プロモーターの制御下の突然変異型dhfrミニ遺伝子、及び真核細胞における選択のためのポリA配列を含有した。全ての構築物をシークエンシングにより確認した。pANT17.2とpANT13.2の両方が、原核生物選択のためのβ-ラクタマーゼ(Ap
R)遺伝子、及び原核細胞での増殖のためのpMB1複製起点を含有していた。全てのプラスミドを大腸菌(E. coli) XL1-blue(Stratagene社)で増殖させた。
【0224】
4つの重鎖配列(指定配列番号5、7、9及び11)及び3つの軽鎖配列(指定配列番号6、8及び10)を選択した。VH変異型DNAをVκ変異型DNAと組み合わせた。PEIトランスフェクション法を使用してこれらの組合せをHEK EBNA接着細胞(ATCC(登録商標)、CRL-10852(商標))に一過性にトランスフェクトし、トランスフェクション後5~7日間インキュベートした。上清をシングルサイクルSPR分析に使用するか、又は抗体を細胞培養上清からプロテインAセファロースカラム(GE Healthcare社)で精製し、PBS pH7.2に緩衝液交換し、予測アミノ酸配列に基づく吸光係数を使用してOD280nmにより定量した。調製した抗体をTable 1(表2)に示す:
【0225】
【0226】
抗体AB-08、AB-09及びAB-10は、先行技術の抗体である。マウスJ591抗体は、重鎖アミノ酸配列番号1及び軽鎖アミノ酸配列番号2を有する。配列を互いにアラインメントして
図5に示す。
【0227】
様々な抗体鎖の発現に使用したDNA配列を
図4に示す。
【0228】
(実施例2)
競合FACS ELISAによる抗体の分析
J591変異体のPSMA抗原への結合を、脱免疫化J591参照抗体(AB-10)に対する競合FACS ELISAで評定した。AlexaFluor 488抗体標識キット(Molecular Probes社、Paisley、UK)を使用して、AB-10抗体を蛍光標識した。PSMA発現NS0細胞(クローン6/2F4、1染色当たり細胞3×10
5個)を採取し、ダルベッコPBS (PAA Laboratories社、Yeovil、UK)で1回洗浄し、ブロッキング緩衝液(1%BSA/0.05%アジ化ナトリウム、2.5%ヤギ血清を含有する、PBS)に再浮遊させ、室温で30分間インキュベートした。様々な濃度の被験ヒト化抗体を一定濃度のAlexa-fluor 488標識AB-10抗体(最終濃度0.5μg/mL)と予混した。次いで、ブロックされた細胞を、事前に希釈した抗体の150μL/wellに再浮遊させ、氷上で1時間インキュベートした。インキュベーション後、1%FACS/0.05%アジ化ナトリウムを含有するBPSで細胞を2回洗浄し、FACSチューブに移し、Becton Dickinson (Becton Dickinson社、Oxford、UK) FACScalibur装置で分析して1チューブ当たり15000事象を収集した。被験抗体濃度に対して幾何平均蛍光強度をプロットすることによりデータを分析した。
図2に示したように、AB-01は、Ab-10に非常に類似した結合プロファイルを提示し、IC50は、それぞれ、0.46及び0.42ug/mlであった。
【0229】
(実施例3)
Biacoreによる親和性成熟抗体の測定
Biacore T200を用いてBiacore T200 Evaluation Software V2.0.1で実行して動態実験を行った。全ての実験は、HBS-EP+泳動用緩衝液(Hepes緩衝食塩水+3mM EDTA及び0.05%(v/v) Surfactant P20、pH7.4)(GE Healthcare社)を用いて25℃で実行した。
【0230】
全ての動態実験は、組み換えヒトPSMA(R&D Systems社)を分析物として使用して行った。全ての実験に関して、抗体をSシリーズのプロテインAセンサーチップ(GE Healthcare社)の表面に固定化した。動態実験に関して、チップ表面での質量移動効果を回避するために固定化/捕捉するリガンドの量を制限する必要があり、表面は、50~150RUの分析物結合レベル(Rmax)を有するのが理想的である。PSMA分析物には80kDa及び抗体リガンドには150kDa(IgGについての推定値)のMW、Rmaxに50RU、並びに2個の標的分子に結合する各抗体の能力により2のような化学量論値(Sm)を使用して、全ての試料抗体の捕捉に関して約50RUの標的応答レベルを設定した。
【0231】
シングルサイクル分析
一過性にトランスフェクトしたHEK EBNA細胞の上清を用いてシングルサイクル動態分析を行った。抗体をHBS-EP+で0.5μg/mlの濃度(IgG定量ELISAにより決定した)に希釈した。各サイクルの開始時、プロテインAチップのFc2、Fc3及びFc4上に抗体をローディングし、10μl/分の流速でIgGを捕捉して約50のRUを得た。その後、表面を放置して安定させた。一切の潜在的質量移動効果を最小にするためにシングルサイクル動態データを40μl/分の流速で得た。AB-01抗体の複数回の反復測定を行って、動態サイクル全体にわたっての表面及び分析物の安定性を確認した。参照チャネルFc1(抗体なし)からのシグナルをFc2、Fc3及びFc4のシグナルから引いて、参照表面との非特異的結合の差を補正した。各濃度間での再生を伴わない12.5~50nM PSMAの3点2倍希釈範囲を使用した。漸増濃度のPSMAの3回の注入についての会合相を200秒間モニターし、最後のPSMA注入後300秒間、単一の解離相を測定した。プロテインA表面の再生は、10mMグリシン-HCL、pH1.5の2回の注入、続いて400秒の安定化を使用して行った。
【0232】
マルチサイクル分析
マルチサイクル動態分析に関しては、精製抗体をHBS-EP+中0.5μg/mlのタンパク質濃度で固定化した。各サイクルの開始時、抗体をプロテインA上に捕捉して約50のRUを得、表面を放置して安定させた。一切の潜在的質量移動効果を最小にするために動態データを35μl/分の流速で得た。ブランク(PSMAなし)の複数回の反復測定及び単一濃度の分析物の1回の反復測定を動態実験に組み込むようにプログラムして、動態サイクル全体にわたって表面と分析物両方の安定性を確認した。動態分析のための2倍希釈範囲を100~3.125nM PSMAから選択した。PSMAの会合相PSMAを600秒間モニターし、解離相を1200秒間測定した。各サイクルの終了時に10mMグリシン-HCL、pH1.5の2回の注入を使用してプロテインA表面の再生を行った。
【0233】
参照チャネルFc1からのシグナルをFc2、Fc3及びFc4のシグナルから引いて、参照表面との非特異的結合の差を補正し、グローバルRmaxパラメーターを1対1結合モデルに使用した。変異体のKDを同じチップ上のAB-01mAbのKDで割ることにより、AB-01mAbと比較した相対KDを算出した。
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
Table 2a~2e(表3~7)に示したデータは、Biacore分析を使用して分析したときにこれらの抗体の各々がPSMA抗原に対してAB-01抗体より優れた親和性を有することを示す。AB-01抗体は、PSMA抗原に対して公知の脱免疫化J591抗体(本明細書ではAB-10、上記実施例2を参照されたい)と本質的に同じ親和性を有するので、本発明の抗体は、PSMA抗原に対して先行技術のJ591抗体より優れた親和性を有すると思われる。
【0240】
(実施例4)
熱ストレス試験による抗PSMA抗体の安定性の比較
抗体試料(PBS中0.5mg/mL)を75℃で30分間インキュベートし、その後、氷浴内で5分間インキュベートした後にそれらの凝集の程度について分析した。抗体溶液の分析は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により及び濁度測定により行った。
【0241】
SEC:
SECは、TOSOH Bioscience TSK gel Super SW 3000カラムを使用して行った。280nmでのUV吸光度を、0.2Mリン酸カリウム緩衝液、pH6.8(0.2M塩化カリウム及び15%イソプロパノール)での均一濃度溶出中にモニターした。溶出時間及びピーク数は、試料が凝集した抗体を含有するのか、分解した抗体を含有するのか、又は未変性の抗体を含有するのかを示す。曲線下面積%(Abs280)を使用して、このSEC分析に存在する各々の種の量を決定した。
【0242】
結果:
安定性アッセイの結果をTable 3(表8)に示す。この分析から、先行技術抗体AB-08、AB-09及びAB-10は、本発明のAB-02~AB-06抗体より安定性が低いことが分かる。
【0243】
【0244】
(実施例5)
コンジュゲートを生成するための抗PSMA抗体のマレイミド試薬mc-vc-PAB-MMAEとのコンジュゲーション。
抗PSMA抗体であるAB-02、AB-03、AB-04、AB-05、AB-06、AB-08及びAB-09を以下で説明するようにコンジュゲートして、コンジュゲート1、2、3、4、5、6及び7をそれぞれ生成した。
【0245】
各々が反応緩衝液(20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、20mM EDTA、pH7.5)中の5.2mg/mLの濃度のである抗PSMA抗体を、15分間、40℃に加熱した。TCEP(2当量)を各mAb溶液に添加し、穏やかに混合し、40℃で1時間インキュベートし、その後、放置して22℃に冷却した。マレイミド試薬、mc-val-cit-PAB-MMAE(Concortis Biosystems社)、をDMFに溶解して、2.1mM保存溶液を得た。還元mAb溶液を反応緩衝液で4.2mg/mLに希釈し、mc-val-cit-PAB-MMAE(mAb 1当量当たり4当量)を添加し、その反応物を穏やかに混合し、22℃で1.5時間インキュベートした。最後に50mM N-アセチル-L-システイン(20当量超の試薬)を用いて反応物を処理し、22℃で1時間インキュベートした。粗製コンジュゲーション混合物を疎水性相互作用クロマトグラフィーにより分析した。粗製反応物をDPBS、pH7.1~7.5に対して透析して(Vivaspin 6、30kDa PES膜)、反応物質を除去し、コンジュゲートを濃縮した。濃縮された試料の緩衝液をゲル濾過によりDPBS、pH7.1~7.5に交換し、次いで滅菌濾過した(0.22μm PVDF膜)。
【0246】
TOSOH TSK-gel Butyl-NPRカラムを使用して疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により精製コンジュゲートを分析した。薬物抗体比(DAR)変異体(薬物のUV吸光度最大値(248nm)と抗体のUV吸光度最大値(280nm)の比及びピーク溶出の順序により同定した)の各々について得た各ピークの面積を分析した。DARを掛けた各DAR変異体の積分面積の合計を求め、この値を全積分面積で割ることにより、平均DARを算出した。各コンジュゲートについて得られた平均DARは、3.5(±0.2)であった。
【0247】
(実施例6)
in vitro細胞生存率アッセイによる抗体薬物コンジュゲート及び遊離ペイロードの分析
実施例4の中で説明したように調製したADC1~7のin vitroでの有効性をPSMA過剰発現がん細胞株の細胞増殖に対するそれらの阻害効果を測定することにより
決定した。
【0248】
細胞傷害性薬物又はADCでのin vitroでの処置後の腫瘍細胞生存率の減少は、漸増濃度の薬物又はADCの存在下で細胞株を増殖させること、及びCellTiter Glo(登録商標)発光試薬(Promega社)を使用して増殖又は代謝活性の減少を定量することにより、測定することができる。このプロトコールは、細胞播種、薬物処置、及びウェル内に存在する細胞数に直接関連付けられるATP合成に基づく未処置細胞に関する細胞生存率の決定を記載するものである。
【0249】
腫瘍細胞株LNCaP(CRL-1740)は、アメリカ合衆国細胞培養系統保存機関(ATCC)から購入した。LNCaP及びC4-2細胞は、2mM グルタミン(Life Technologies(登録商標)社)と10%ウシ胎仔血清と100U/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシンとを含有するRPMI-1640培地で増殖させた。製品情報シートに記載の通りに、及び組織培養についてのATCCの一般推奨に従って、細胞を維持した。ATCCの推奨、並びにそこに引用されている参考文献、例えば、R. Ian Freshney、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique、第3版、出版元Alan R. Liss社、N.Y. 1994、又はR. Ian Freshney、Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique、第5版出版元Wiley-Liss社、N.Y. 2005に従って、細胞を培養した。
【0250】
細胞生存率アッセイは、Cell-Titer Glo(登録商標)発光試薬を製造業者の説示(Promega社、Technical Bulletin TB288; Lewis Phillips G.D、Cancer Res 2008; 68:9280~9290頁)による記載の通りに使用して行った。プレートリーダー(例えば、Molecular Devices Spectramax M3プレートリーダー)を使用して発光を記録し、その後、4変数非線形回帰モデルを使用してデータを分析した。
【0251】
グラフとしてプロットする場合、生存率を未処置細胞に対する%として表し、次の式を使用して算出した:
【0252】
【0253】
生存率% (Y軸)をnMでの薬物濃度の対数(X軸)に対してプロットして、全てのコンジュゲートについてのIC50値は当然ながら、遊離薬物についてのIC50値も推定した。
【0254】
PSMA陽性LNCaP(クローンFGC)及びC4-2細胞をTrypLEで剥離させ、完全培地に再浮遊させた。使い捨てのノイバウエル計数盤を使用して細胞を計数し、細胞密度をLNCaPについては細胞10×104個/mL、及びC4-2については細胞2×104個/mLに調整した。組織培養処理されているか(C4-2)又はポリD-リジンでコーティングされており(LNCaP)、不透明な壁を有する、白色96ウェルプレートに、細胞を播種し(100μL/ウェル)、24時間、37℃及び5%CO2でインキュベートし、その後、アッセイした。
【0255】
ADC及び遊離薬物の8点段階希釈物を適切な培養培地で3連で調製した。細胞株を、50~0.00064nMのADC濃度で処置した。MMAEは、C4-2細胞に対して500~0.0064nMで、及びLNCaP細胞に対して10,000~0.128nMで使用した。接着細胞が入っているプレートから培地を除去し、100μL/ウェルの段階希釈化合物に置き換えた。次いで、細胞を37℃及び5%CO2で更に96時間インキュベートした。
【0256】
Table 4(表9)に示すように、試験した濃度範囲で、全てのADCは、PSMA発現LNCaP及びC4-2細胞の増殖を特異的に阻害することができた。
【0257】
【符号の説明】
【0258】
AB-PG1-XG1-006 PSMAに結合する抗体[配列番号13(重鎖)及び配列番号14(軽鎖)を参照されたい]
AB-PG1-XG1-026 PSMAに結合する抗体[配列番号15(重鎖)及び配列番号16(軽鎖)を参照されたい]
ADC 抗体薬物コンジュゲート
DAR 薬物抗体比
Df デフェロキサミン
DFO デフェロキサミン
DMF ジメチルホルムアミド
DTPA ジエチレントリアミン五酢酸
EDTA エチレンジアミン四酢酸
HIC 疎水性相互作用クロマトグラフィー
Kd 平衡解離定数
PCa 前立腺がん
PEG ポリエチレングリコール
PET ポジトロン放出コンピュータ断層撮影
PSMA 前立腺特異的膜抗原
RAIT 放射性免疫療法
scFv 短鎖Fv
sdFv ジスルフィド結合Fv
SEC サイズ排除クロマトグラフィー
SPECT 単一光子放射型コンピュータ断層撮影
【配列表】