(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】前房内薬物送達デポ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5575 20060101AFI20240510BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240510BHJP
A61K 9/26 20060101ALI20240510BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240510BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240510BHJP
A61P 27/10 20060101ALI20240510BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20240510BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240510BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240510BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240510BHJP
A61K 9/06 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61K47/10
A61K9/26
A61P27/02
A61P27/06
A61P27/10
A61P27/12
A61P9/12
A61K9/16
A61K47/34
A61K9/06
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022064398
(22)【出願日】2022-04-08
(62)【分割の表示】P 2019515849の分割
【原出願日】2017-09-25
【審査請求日】2022-05-06
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512156316
【氏名又は名称】インセプト・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】INCEPT,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】アマルプリート・エス・ソーニー
(72)【発明者】
【氏名】アーサー・ドリスコル
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・ディ・ブリザード
(72)【発明者】
【氏名】アンキータ・ダーシャン・デサイ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ジャレット
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/094646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00- 33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00- 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼疾患を治療するためのデバイスの製造におけるデポ組成物の使用であって、前記デポ組成物は、キセロゲル及びキセロゲルに埋め込まれた加水分解により分解可能な粒子を含み、前記キセロゲルは、1つ又は複数のマルチアーム型ポリエチレングリコール(PEG)前駆体を架橋することによって形成されたマトリックスを含み、前記キセロゲルのマトリックスは、前記キセロゲルマトリックスの乾燥重量と、前記加水分解により分解可能な粒子の乾燥重量との和の少なくとも20%である乾燥重量を有し、
前記キセロゲルは、眼内液への曝露後に生体適合性ハイドロゲルになり、及び前記ハイドロゲルは、加水分解により分解可能であり、前記加水分解により分解可能な粒子は、トラボプロストおよび加水分解により分解可能なポリマー材料を含み、前記加水分解により分解可能なポリマー材料は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、及びPLAとPGAとのコポリマーの1つ又は複数を含み、前記加水分解により分解可能な粒子は、眼の前房内部位で加水分解により分解して、トラボプロストの制御放出を提供し、前記デポ組成物は、10~100μgのトラボプロストの量を含み、前記デポ組成物は、ロッドであり、および前記デバイスは、眼の前房内に配置される、使用。
【請求項2】
前記眼疾患は、緑内障、高眼圧、前房出血、黄斑変性、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、後部ぶどう膜炎、糖尿病性網膜症、老眼、白内障、網膜静脈閉塞症、開放隅角緑内障又はぶどう膜炎を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記眼疾患は、高眼圧又は開放隅角緑内障を含む、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記眼の前房内部位は、眼の前房を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記デポ組成物中のトラボプロストの量は、約1~約50重量%であり、加水分解により分解可能な粒子中のトラボプロストの量は、約20~約80重量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記キセロゲルのマトリックスは、前記キセロゲルマトリックスの乾燥重量と、前記加水分解により分解可能な粒子の乾燥重量との和の少なくとも30%である乾燥重量を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記1つ又は複数のマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体は、前記マトリックスの加水分解産物が、非毒性であり、ヒドロキシル又はカルボキシル末端基で終端するアームを備えたマルチアーム型ポリエチレングリコール分子を含むように、各マルチアーム上に加水分解により分解可能な結合を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記マルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体の少なくとも1つは、50kDa(Mn)以下である分子量及び少なくとも4つのアームを有する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記デポ組成物は、25ゲージ以下のニードルを用いて前記眼の前房内部位に配置するためのサイズを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
トラボプロストの前記制御放出は、10日~2年の期間で起こる、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
トラボプロストの前記制御放出は、少なくとも3ヵ月および8ヵ月以下の間、治療有効量のトラボプラストを提供する、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記マルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体の少なくとも1つは、1つ又は複数のコハク酸スクシンイミジル(SS)、アジピン酸スクシンイミジル(SAP)、アゼライン酸スクシンイミジル(SAZ)、又はグルタル酸スクシンイミジル(SG)から選択される官能基で終端する4~10個のアームを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
アームは、それぞれ500~10,000ダルトン(Mn)である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
ハイドロゲルは、形成時のハイドロゲルの重量と比較して、生理液に24時間曝露した後、約50%以下の重量増加を有するハイドロゲルによって測定可能であるように低膨潤性である、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
前記加水分解により分解可能な粒子は、100ミクロン未満の直径を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記加水分解により分解可能な粒子は、55ミクロン未満の直径を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記デポ組成物は、0.1~1000μlの容積を有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
ハイドロゲルは、平衡含水率で水和される場合、250%未満の直径増加を有するロッドによって測定可能であるように低膨潤性である、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
キセロゲルは、約200Da~約2,000Daの架橋間分子量を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記デポ組成物中のトラボプラストの量は、約15~約50重量%である、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
平衡含水率で水和される場合、前記デポ組成物は、1mm未満の直径を有し、2mm以下の長さを有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
デポ残留物保持指数(IRR)は、2.0未満であり、IRRは、前記ハイドロゲルの完全溶解までの時間を、前記加水分解により分解可能な粒子からの前記トラボプロストの100%の放出までの時間で割ったものである、請求項1~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記加水分解により分解可能な粒子および/または前記デポ組成物は、照射によって殺菌され、前記IRR)は、1.0以下である、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記ハイドロゲルは、少なくとも2の増加した送達時間の係数を提供し、前記係数は、リン酸緩衝食塩水中で前記加水分解により分解可能な粒子を懸濁させるのに十分な攪拌条件下においてインビトロで測定され、且つ前記ハイドロゲルの存在下における前記トラボプロストの100%放出のための時間を、前記ハイドロゲルの非存在下における前記粒子からの前記トラボプロストの100%放出のための時間で割ったものである、請求項1~23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記キセロゲルのマトリックスは、蛍光造影剤と共役される、請求項1~24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記蛍光造影剤は、フルオレセインを含む、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
前記フルオレセインは、機械補助なしで可視化されない、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記キセロゲルのマトリックスは、マルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体をフルオレセイン共役トリリシンと反応させることによって形成される、請求項1~27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記デバイスは、眼の前房内部位への配置後に蛍光によって可視化され、前記ハイドロゲルの分解は、蛍光の不在によって決定されうる、請求項1~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前房内複合デポであって、キセロゲル及びキセロゲルに埋め込まれた加水分解により分解可能な粒子を含み、前記キセロゲルは、1つ又は複数のマルチアーム型ポリエチレングリコール(PEG)前駆体を架橋することによって形成されたマトリックスを含み、前記キセロゲルのマトリックスは、前記キセロゲルマトリックスの乾燥重量と、前記加水分解により分解可能な粒子の乾燥重量との和の少なくとも20%である乾燥重量を有し、
前記キセロゲルは、眼内液への曝露後に生体適合性ハイドロゲルになり、及び前記ハイドロゲルは、加水分解により分解可能であり、前記加水分解により分解可能な粒子は、トラボプロストおよび加水分解により分解可能なポリマー材料を含み、前記加水分解により分解可能なポリマー材料は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、及びPLAとPGAとのコポリマーの1つ又は複数を含み、前記加水分解により分解可能な粒子は、眼の前房内部位で加水分解により分解して、トラボプロストの制御放出を提供し、前記デポ組成物は、10~100μgのトラボプロストの量を含み、前記複合デポは、ロッド形状であり、およびデポ残留物保持指数(IRR)は、1.4未満であり、IRRは、前記ハイドロゲルの完全溶解までの時間を、前記トラボプロストの100%の放出までの時間で割ったものである、デポ。
【請求項31】
前記マトリックスの加水分解産物は、非毒性であり、及びヒドロキシル又はカルボキシル末端基で終端するアームを備えた前記ポリエチレングリコール分子を含むように、1つ又は複数のマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体は、複数のアームの各々において加水分解により分解可能な結合を含む、請求項30に記載のデポ。
【請求項32】
少なくとも1つの前記マルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体は、50kDa(Mn)以下である分子量及び少なくとも4つのアームを有する、請求項31に記載のデポ。
【請求項33】
トラボプロストの前記制御放出は、少なくとも3ヵ月および8ヵ月以下の間、治療有効量のトラボプラストを提供する、請求項30~32のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項34】
前記マルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体の少なくとも1つは、1つ又は複数のコハク酸スクシンイミジル(SS)、アジピン酸スクシンイミジル(SAP)、アゼライン酸スクシンイミジル(SAZ)、又はグルタル酸スクシンイミジル(SG)基から選択される官能基で終端する4~10個のアームを有する、請求項30~33のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項35】
前記キセロゲルのマトリックスは、前記キセロゲルのマトリックスの乾燥重量と、前記加水分解により分解可能な粒子の乾燥重量との和の少なくとも30%である乾燥重量を有する、請求項30~34のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項36】
前記眼疾患は、緑内障、高眼圧、前房出血、黄斑変性、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、後部ぶどう膜炎、糖尿病性網膜症、老眼、白内障、網膜静脈閉塞症、開放隅角緑内障又はぶどう膜炎を含む、請求項30~35のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項37】
前記複合デポ中のトラボプラストの量は、約15~約50重量%であり、前記複合デポは、平衡含水率で水和される場合、1mm未満の直径を有する、請求項30~36のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項38】
前記キセロゲルのマトリックスは、それぞれ、アミド結合を形成するための、1つ又は複数のコハク酸スクシンイミジル、アジピン酸スクシンイミジル、アゼライン酸スクシンイミジルおよびグルタル酸スクシンイミジルから選択される官能基の反応によって形成される末端基で終端するポリエチレングリコールを有する4~10個のアームを有する架橋部分を有し、前記加水分解により分解可能な粒子は、100ミクロン以下の直径を有する、請求項30~37のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項39】
前記複合デポは、0.1~10mmの長さを有し、0.1~1000μlの容積を有し、前記複合デポは、平衡含水率で水和される場合、直径が250%未満で増加する、請求項30~38のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項40】
前記キセロゲルのマトリックスは、蛍光造影剤と共役される、請求項30~39のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項41】
前記蛍光造影剤は、フルオレセインを含む、請求項40のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項42】
前記フルオレセインは、機械補助なしで可視化されない、請求項41のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項43】
前記キセロゲルのマトリックスは、マルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体をフルオレセイン共役トリリシンと反応させることによって形成される、請求項30~42のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項44】
前記複合デポは、眼の前房内部位への配置後に蛍光によって可視化され、前記ハイドロゲルの完全溶解は、蛍光の不在によって決定されうる、請求項30~43のいずれか一項に記載のデポ。
【請求項45】
前記キセロゲルのマトリックスは、蛍光造影剤と共役し、蛍光の不在によって決定されるハイドロゲルの完全溶解までの時間は、眼の前房内部位への配置後、約2~約4ヵ月である、請求項30~44のいずれか一項に記載のデポ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2016年9月23日に出願された米国仮特許出願第62/398,985号明細書に対する優先権を主張し、この特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野は、眼症状を治療するための薬物送達、特に眼疾患を治療するために眼内に配置された複合ハイドロゲル-マイクロ粒子デポからの薬物送達の材料及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
眼の治療のための薬物は、好適な送達手段が効果的であることを必要とする。薬物送達は、ヒト又は動物において治療効果を達成するための医薬化合物の投与に関する。時間の経過と共に薬物の放出を提供する送達機構が有用である。薬物送達技術は、薬物効果及び安全性並びに患者の利便性及びコンプライアンスを向上するうえで役立ち得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
眼は、持続的薬物送達装置にとって複数の課題を提示するが、そのような装置は、有効である場合、多くの利益を有する。他の治療薬剤の長期放出を可能にする材料及び方法が提供される。
【0005】
本発明の一実施形態は、眼症状について眼を治療する方法であり、この方法は、治療薬剤を送達するために、加水分解により分解可能な粒子が埋め込まれたキセロゲルを含む複合デポを前眼房内に配置するステップを含み、キセロゲルは、眼内液への曝露後にハイドロゲルであり、ハイドロゲルは、加水分解により分解可能であり、加水分解により分解可能な粒子は、治療薬剤を含み、且つ前眼房内で加水分解により分解して、眼内への治療薬剤の制御放出を提供し、デポ残留物保持指数(IRR)は、0.5~2.0であり、IRRは、デポの完全溶解までの時間を治療薬剤の100%の放出までの時間で割ったものである。実施形態は、デポを製造するプロセス及び疾患又は医学的状態を治療するためのその使用を含む。
【0006】
本発明の別の実施形態は、加水分解により分解可能な粒子が埋め込まれたキセロゲルを含むデポ組成物であり、キセロゲルは、眼内液への曝露後に生体適合性ハイドロゲルであり、ハイドロゲルは、加水分解により分解可能であり、加水分解により分解可能な粒子は、治療薬剤を含み、且つ生理液中で加水分解により分解して、眼疾患の治療に使用するための治療薬剤の制御放出を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1A】虹彩角膜角内の前眼房内に配置されたハイドロゲル複合デポを示す。
【
図1B-1D】ビーグルの虹彩角膜角内における導入後1ヵ月(1B)、3ヵ月(1C)、及び4ヵ月(1D)時点の前眼房内のハイドロゲルデポの超音波画像である。
【
図2】乾燥されてキセロゲルを形成するハイドロゲル又はオルガノゲルを示す。
【
図3】キセロゲルの形成及び水性媒体中のその水和を示す。
【
図5】治療薬剤の送達に使用するための架橋マトリックスを製造するプロセスを示す。
【
図6】様々なサイズの薬剤含有粒子を含む架橋マトリックスを示す。
【
図7】模擬生理的条件下での薬剤の放出を示すデータのプロットである。
【
図8A-8D】表示の通り時間的に順次配置された、前眼房に送達される複合デポの画像である。
【
図9】蛍光条件下における配置後3日時点の前眼房内の架橋マトリックスの写真である。
【
図10A-10F】実施例4の結果のモンタージュ写真であり、0日目(10A)、3日目(10B)、7日目(10C)、28日目(10D)、70日目(10E)、及び140日目(10F)における眼への薬剤の有効な送達を示す結果を実証する。
【
図11A-11D】天然(11A、11B)及び蛍光(11C、11D)条件下で28日目に撮影された前眼房内の複合デポのモンタージュ写真である。
【
図12】蛍光条件下で56日目に撮影された実施例4の実験のデポの画像である。
【
図13】複合デポから前眼房内への薬剤の放出による房水中の薬物レベルを示すデータのプロットである。
【
図14】1×PBS、0.5%ポリオキシル40水添ヒマシ油、0.01%フッ化ナトリウム、pH7.2~7.4の溶出溶媒を用いて37℃で実施された、低及び高トラボプロスト用量複合デポからのインビトロ放出を示す実施例6からのデータのプロットである。
【
図15A-15C】配置後3日(15A)及び4ヵ月(15B)、並びにデポの非存在下で4.5ヵ月(15C)時点の同じビーグルの眼内のデポを示す実施例6からの画像である。
【
図16】静的(攪拌なし)及び連続的(攪拌)条件下、0.5%ヒマシ油及び0.01%NaF、pH7.3を含む1×PBS中における37℃でのハイドロゲルインサートからのトラボプロストのインビトロ放出のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態は、眼症状について眼を治療する方法であり、これは、複合キセロゲル-マイクロ粒子デポを前眼房内に配置して治療薬剤を送達するステップを含み、キセロゲルは、眼内液への曝露後にハイドロゲルであり、且つ眼内にデポを配置した後に眼内に治療薬剤を制御放出する粒子を含む。キセロゲル、粒子、薬剤、及びハイドロゲルのための材料及び組成物、並びに製造プロセス、使用、投与方法、及び眼症状の治療も本発明の態様である。
図1Aは、虹彩角膜角内の前眼房内に配置されたハイドロゲルデポを示す。さらなる実施形態は、粒子での薬剤の送達に加えて又はそれに代えてのいずれかで、封入なしでハイドロゲル中に分散される薬剤の放出を含む。
【0009】
図1Aに示される前眼房は、眼内部において虹彩と角膜内皮との間の液体で充填された空間である。前眼房は、典型的に、成人の正常な眼内で約2.5~3.5mmの深さがある。前眼房内の液体は、房水であり、これは、主に、眼の虹彩角膜角内に位置する小柱網を通して排出される。小柱網は、流出路、特にシュレム管により排液される。房水は、毛様体内で絶えず生成され、前眼房を通って小柱網に流れ、このようにして前眼房内に連続的な流動場をもたらす。前眼房の排液が不十分であると眼病を引き起こす恐れがあり、前房出血、高眼圧、及び緑内障が最も顕著なものである。前房出血の場合、血液が前眼房を満たす。緑内障では、シュレム管への液体排出の閉塞が高眼内圧を引き起こして失明を招く。いくつかの症状は、前眼房の深さを減少させ、これによって小柱網を介した排液が閉塞され得る。前眼房への薬剤の送達は、前眼房の排液経路に作用する薬剤にとって有利であろう。例えば、トラボプロストは、シュレム管への排液を高めると考えられる薬剤である。
図1Aを参照すると、前眼房は、角膜の下にあり、虹彩とレンズとの間に位置する後眼房により眼の硝子体液とつながっている。レンズは、毛様体突起によって固定されている。小柱網は、流出路を介して排液される。治療薬剤送達のためのハイドロゲルは、虹彩角膜角内に配置される。
図1B~1Dは、ビーグルの虹彩角膜角内における配置後1ヵ月、3ヵ月、及び4ヵ月時点の前眼房内のハイドロゲルデポの超音波画像である。
【0010】
しかし、前眼房は、小さく、感受性組織を有し、眼の内部に光を通すための眼の機構の一部である。眼内のいかなる箇所への薬物送達にも、複数の課題及び両立しない設計要件が伴う。他方では、眼は、感覚器官であり、眼内にデポを配置する頻度は、患者が不快感及び不便に繰り返し耐える必要がないように最小限にすることが理想的であろう。従って、可能な限り多くの薬剤を一度に導入すべきであり、且つ可能な限り長期に有効量で薬剤を送達すべきであるが、これらの条件は、大きいデポを提示する。しかし、眼は、限られた容積を有しているため、大きい装置を許容しないであろう。また、配置時の外傷は、デポを可能な限り小さくすることによって最小限にされる。その上、薬剤は、適切な濃度でのみ治療作用があり、あまりに少ないと効果がなく、多すぎれば毒性作用がある。さらに、デポの寿命にわたって正しい量で薬剤を放出するデポを設計及び製造することは困難である。前眼房内において、角膜内皮は、特に外傷に対して感受性である。また、デポ自体も不要な生体応答を誘発する可能性があり、薬剤を安全に送達しようとする努力を妨げる。これらの応答は、材料の選択、デポのサイズ、眼の特定部分との近接性又は接触、薬剤の放出、薬剤の化学、及び他の要因に起因し得る。加えて、前眼房内の房水の流動場は、典型的な持続放出デポ設計からの薬物放出速度に影響を及ぼすことになり、これは、患者によって異なる場合があり、薬物送達の薬物動態の制御を困難にする。硝子体液中には幾分遅い流動場が存在する。これに関して、前眼房及びより低い程度で硝子体液は、人体解剖学の他の部分よりも持続的薬物送達にとって困難な環境を呈する。総合すると、眼又は前眼房内のデポからの薬剤の長期送達の妨げになるいくつかの対立する設計留意点がある。
【0011】
本発明の実施形態は、例えば、
図2~6に示すように、患者に投与されるときにキセロゲル成分を含有する複合デポを含み、これは、水溶液環境中ではハイドロゲルである。キセロゲルは、配置のために使用される針又は他のツールのサイズを最小限にするためにハイドロゲルと比較して小さい。ハイドロゲルは、送達しようとする薬剤を保持する粒子を含有する。薬剤は、PLGAなどの生分解性マイクロ粒子内に配置され、マイクロ粒子は、水中で分解して薬剤を放出する。マイクロ粒子は、その配置部位及び眼内の必要な薬剤濃度に適した薬剤の放出プロフィールをもたらすように選択され得る。
【0012】
成功したインビトロ及びインビボキセロゲル/ハイドロゲル-マイクロ粒子治療薬剤放出システム放出の実施例が提供される。特定の理論に拘束されるものではないが、これらのシステムは、生体適合性及び薬物送達速度制御において意外で驚くべき予想外の長所をもたらすように房水(AH)と相互作用したと思われる。AH流体は、虹彩の中心から小柱網を通って放射状に流れる。この流れは、一定であるが、患者によって変動し得る。
【0013】
加水分解により分解可能な材料の粒子は、運動中の溶液(本明細書では流動場と表現する)と比較して、静止した生理溶液又は他の水溶液中でよりゆっくりと腐食する。拡散は、静止溶液中の支配因子であるが、溶液の運動(対流)は、非保護粒子からの薬物の放出速度を高める。流動場において、PLGAなどの加水分解性薬物放出マトリックスは、より高速の粒子腐食と相まって粒子-水界面ゾーンからの放出薬物をより高速に除去し、加水分解産物を界面ゾーンから除去するために、静止溶媒よりも速く薬物を放出すると予想される。こうした薬物放出の加速は、文献に記載されている。S.D’Souza,J.A.Faraj,P.P.DeLuca,“Unstirred Water Layer Effects on Biodegradable Microspheres,”Advances in Pharmaceutics 2015を参照されたい。D’Souzaらは、静止条件下及び流動場中(連続的攪拌、すなわち50mLのストッパー付きガラスシリンダー中において、磁気攪拌棒を用いて放出培地中にマイクロスフィアの良好な懸濁性を維持すると共に、放出容器内の最小沈殿を確実にするうえで十分な中程度の攪拌にマイクロスフィアを付した)において、分解可能な粒子からの薬剤の放出を試験し、静的及び連続的攪拌条件のインビトロ放出プロフィールが「徹底的に異なる」ことを報告した。従って、流動する房水は、粒子の分解と、粒子からの薬剤の放出速度とを加速させると予想される。しかし、粒子からの薬剤送達速度は、ハイドロゲルの分解がかなり進行するまで、流動する小柱網液により実質的に影響されなかった。このシールド現象を実証する実験結果を下の実施例7に示す。明らかに、ハイドロゲルは、前眼房内の対流流体力から粒子をシールドし、薬物放出を拡散支配のみに限定した。ハイドロゲル層の厚さは、シールド効果の大きさに影響するであろう。流動場は、放出速度を加速すると予想することができたが、これは観察されなかった。
【0014】
ハイドロゲルは、シールド効果をもたらすために薬物内包粒子の周りに適切な厚さを付与すべきである。複合デポに関して、ハイドロゲルマトリックスの重量は、デポが乾燥しているとき、ハイドロゲル中の薬剤含有粒子の重量にキセロゲルマトリックスの重量を加えたものと比較して少なくとも20%であるべきである。従って、20%、25%、30%、33%、35%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%w/wの濃度であり、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値、例えば21%、又は20%~50%、又は25%~40%w/wが企図されることを直ちに認識するであろう。ハイドロゲルマトリックスは、ハイドロゲルを製造するための前駆分子の架橋によって形成される架橋ネットワークである。当業者は、これらの重量を見出すことができ、例えば、総乾燥デポの重量は、デポを製造するために用いられる全ての成分の知識によって計算するか、又は単純に測定することができ、ハイドロゲルを製造するために用いられる前駆体の重量は、ハイドロゲルを製造するために用いられる前駆体組成に基づいて知るか又は計算することができる。生成物は、生理溶液中での使用のために設計され、そこで、塩は、他の成分と比較して重量に有意に寄与しないため、これらの測定は、単純化のために蒸留水中で行うべきである。デポは、デポ残留物保持指数(IRR)に関して後述する通り、適用に適した時間量にわたって持続するようにも設計すべきである。さらに、ハイドロゲルは、薬剤の送達のために意図される時間にわたって好適な機械強度、安定性を有するように選択すべきであり、ハイドロゲル設計因子について以下に詳細に論じる。一般に、前述した少なくとも20%w/wのマトリックス含有率がこれらの用途について好ましく、少なくとも3つの架橋点を有する1つ又は複数の前駆体の含有が有用であり、4つ以上が好ましく、これらの因子について以下でさらに論じる。
【0015】
ハイドロゲルは、典型的に、ハイドロゲルマトリックスを通して水を自由に拡散させることができる。また、一般に、薬剤が溶液中に可溶性であり且つマトリックスと相互作用しなければ、ハイドロゲル中の薬剤のサイズよりも大きいメッシュサイズを有するハイドロゲルは、典型的に、放出速度に大きい作用を及ぼすことなく薬剤を放出すると予想され得る。特定の理論に拘束されるものではないが、ハイドロゲルと、治療薬剤を含有する分解可能な粒子との複合デポにおいて、薬剤は、マイクロ粒子表面から放出されて、ハイドロゲルからハイドロゲル表面に拡散し、その結果、フィックの法則に従って表面での濃度が減少すると考えられる。従って、薬剤放出速度は、ハイドロゲル表面の低下した濃度により測定されるため、ハイドロゲル層の厚さが放出速度に影響する。粒子は、ハイドロゲル表面面積と協調する速度で薬剤を放出するように選択される。実施例は、これを実証する様々な実施例を記載する。
【0016】
これらの要件を満たすために、様々なポリマー組成及び構造を設計することができる。典型的には、加水分解性結合を有する共有結合的に架橋されたハイドロゲルが好ましい。また、ほとんどの場合、ハイドロゲルは、薬物相互作用に関して不活性であるべきである。そのため、実質的な疎水性ドメインを含まないノニオンハイドロゲルが好ましい。例えば、ノニオン性の親水性前駆体を使用し得る。ポエチレングリコールは、好ましいハイドロゲル構造を形成するのに使用することができる親水性ノニオン性ポリマーのファミリーの一例である。当業者は、薬物放出速度を調節する方式で、溶出薬物と相互作用するようにハイドロゲルを操作可能であることを知っている。しかし、複合デポの場合、制御可能に分解可能な粒子のためにデポの放出速度を設定することができるため、薬物放出のハイドロゲル調節に利点はない。従って、実施形態は、相互の特異的結合及び/又は相互の共有結合がないハイドロゲル及び薬剤を含む。実施形態は、薬剤分子量(後述する)より小さいハイドロゲルメッシュサイズ、疎水性ドメインを有する前駆体、水溶性でない前駆体、互いに特異的に結合する前駆体、物理的(非共有)結合により互いに架橋する前駆体の1つ又は複数を含まないデポを含む。
【0017】
実際に、複合デポは、患者毎の流動場のばらつき又は解剖学的位置の流動場のばらつきに可変的に影響されることなく、加水分解で分解する粒子を対流流体環境内のハイドロゲル内部で使用することを可能にする。例えば、非シールドマイクロ粒子は、対流流体中であまりに急速に放出されるため、その量が毒性となるような多量の薬剤が充填され得る。或いは、デポが他に可能であるよりも長く持続できるように、ハイドロゲルにより粒子を急速な分解から保護することもできる。シールドハイドロゲルなしで使用するために製造された粒子と比較して、有利には、そうでなければ薬剤のあまりに急速な放出をもたらす弱い粒子を生成することなく、より少量の分解可能な材料と、より多量の治療薬剤とを用いて粒子を設計することができる。シールド現象を有利に使用して、粒子が薬剤の送達を完了するか又は実質的に完了することを可能にする期間にわたって粒子をシールドするためのハイドロゲルを生成した。ハイドロゲルは、次に、ハイドロゲルの消失後に薬剤の放出量が増加するように、粒子がその薬剤を送達したのとほぼ同時に又は完全な送達の直後に分解するように設計するか、又は完全な薬物放出より早く分解するように調節することができた。
【0018】
シールド効果は、薬剤の自由な拡散を可能にするハイドロゲルのためだけでなく、ハイドロゲルと相互作用する薬剤に対して細かい網目を有するハイドロゲルにも使用することができる。
【0019】
さらに、前眼房内のハイドロゲルが前眼房の流動場内の表面腐食を経たことは明らかである。合成吸収性ポリマー材料(例えば、PLGA)は、概してバルク浸食性であり、すなわち化学的分解及び質量損失が材料のバルク全体を通して一定速度で起こる。分解する前のハイドロゲルは、自己凝集性又はモノリシックであると呼ばれる。ハイドロゲルが分解の結果として破砕すると、ハイドロゲルは、腐食し続けて徐々に溶解し、その時点でハイドロゲルは見えなくなる。前眼房内では、ハイドロゲルバルク加水分解の終了に向けて、ハイドロゲルの分解により、埋め込まれたマイクロ粒子が次第に暴露された。曝露された薬剤含有粒子は、急速に腐食して消失する。ハイドロゲルが崩壊する時点までに、ほとんどの薬剤は、放出されるか又はほぼ完全に放出され、いかなる残りの薬剤放出も、眼に対して潜在的に有害ではない低用量の薬物のみを供給した。特定の実施形態では、ハイドロゲルマトリックスは、溶解し、治療薬剤を担持するシェル内のマイクロ粒子は、継続的治療のために周囲の環境に薬剤の持続放出を供給し続ける。薬剤放出が完了すると、マイクロ粒子マトリックスは、生分解し続け、後に注射部位から排出される。
【0020】
眼内及び特に前眼房内の問題の1つは、薬剤放出のための分解可能な材料がハイドロゲルと比較して劣った生体適合性を有する可能性があることである。粒子に関連する分解可能な材料は、酸性であり、低濃度では適度に耐容されるが、量が増すと、不都合な局所状態を生じ得る。ポリ(グリコール酸)(PGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸)-コ-ポリ(グリコール酸)(PLGA)は、酸性分解産物を生成する物質である。腐食するPLGAロッドが使用される場合もあるが、これらは、ハイドロゲルよりも生体適合性が低く、それらの有用な薬物送達寿命が過ぎた後も長く持続することが観察されている。慢性症状に関して、反復治療は、患者の組織中に空のデポマトリックス材料の蓄積を招き得る。ロッドは、局所組織と直接接触し、PLGAは、その生体適合性について制限があるため、そのような材料は、ハイドロゲルよりも生体適合性が低い。さらに、それらは、断片化の段階を通過し得、そこで残った断片が高い表面積を有し、そのライフサイクルの終わりに酸性分解産物を急激に放出する。本発明の特定の態様に戻ると、ハイドロゲルシールドの消失後、PLGA又は他の粒子に関連する分解可能な材料の微小粒子への分布は、高い表面積をもたらし、これは、粒子に関連する分解可能な材料を分解するための表面浸食作用という利点を活用している。さらに、本発明のマイクロ粒子は、機械強度を必要としないため、マイクロ粒子への薬物の充填は、同じ組成物のモノリシックフォーマットよりも高くなる可能性があり、これにより、粒子に関連する分解可能な材料の総量は、大きいロッド又はモノリシック構造に比べてはるかに小さくなり、分解産物濃度を低下させることができ、いかなる最後の急激な分解も低減するか又は無視できる程度になる。これは、個別に調製した個々のPLAマイクロ粒子製剤が一緒に重量ブレンドされて標的持続放出プロフィールを達成するとき、視覚的に明らかである(例えば、
図7)。より低いPLA分子量で調製されたマイクロ粒子は、それらの薬物を完全に放出した後、ハイドロゲルマトリックス内で消失し始め、PLA成分が液化し、ハイドロゲルマトリックスを通して放出されることを示す視覚的な「スイスチーズ効果」を残す。より高い分子量で調製されたPLAマイクロ粒子は、より低速で薬物を放出し、ハイドロゲルが液化状態に達したとき、マイクロ粒子の残りが存在する場合も又はしない場合もある。全体として、この複合構造は、ハイドロゲルが完全に分解するまで、PLA又はPLGA分解材料に対する組織曝露を最小限にするが、従来の非シールドPLA又はPLGA持続放出薬物製品又は装置の注射の場合、組織は、マトリックス材料(PLA又はPLGAなど)との長期且つ広範な接触にさらされ、これは、局在化組織炎症応答を誘発し得る。
【0021】
有用な薬物送達寿命を過ぎた材料の残留物は、例えば、緑内障の場合のように、デポを連続的に繰り返し配置する必要がある慢性症状にとって問題となる。長期持続デポの場合、複数の空になったデポは、眼内に蓄積するか、又は除去が必要となり得る。これらのデポは、炎症症状を招くこともあり得る。デポ残留物は、その治療薬剤ペイロードを送達した直後に眼から排出されることが望ましい。デポ残留物保持指数(IRR)は、治療薬剤を含むデポの完全溶解までの時間を治療薬剤の100%の放出までの時間で割ったものとして定義される。デポが薬物を0.5年にわたって送達した後、2年間眼内に残留した場合、デポ残留物保持指数は、4である。一般に、この指数は、1の値に近いことが望ましい。連続的デポを必要とする慢性症状の場合、2の指数は、最初の再導入後、眼内に2つのデポの存在をもたらすことになる。3の指数は、2回目の再導入後、3つのデポ塊の蓄積をもたらすことになる。デポ残留物保持指数の増加は、デポ部位に蓄積するデポ残留物塊の数の増加に対応する。例えば、デポ部位が前眼房であれば、デポ残留物塊の蓄積は、視力に影響を及ぼし、衝突によって局所組織を損傷し、分解産物の生成増加又は他の有害作用により局所組織を損傷する恐れがある。デポ残留物塊の蓄積を回避するために、デポ残留物保持指数は、2未満、好ましくは1.5未満であることが要望される。当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0のいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。薬物を含む生体吸収性粒子を含有する生体吸収性ハイドロゲルを含むデポの場合、水和されるとデポマスの大部分となるハイドロゲル部分は、完全な薬物放出点の前に消失する(完全に分解する)ように設計され得る。この場合、デポマスのバルク及びモノリシック形態がその時点で排除されて、分離したマイクロ粒子のみが残ることから、デポ保持指数は、1未満となる。同様に、デポから放出される治療薬剤を含む分解可能なデポは、デポ残留物保持時間指数を有し、これは、分解までの時間(消失により測定可能)を薬剤全部の放出までの時間で割ったものである。
【0022】
図1A~1Dは、虹彩角膜角内において前眼房内に位置するハイドロゲルである架橋マトリックスを示す。ハイドロゲルは、
図2に示すように、眼内に配置される前にキセロゲルであり得、
図2は、様々なプロセスによりキセロゲルを製造できることを示し、これにより、キセロゲルは、
図3に示すように、水性媒体への曝露時に選択的に形状を変化させる。また、米国特許出願公開第2017/0143636号明細書も参照されたい。マトリックスから放出させる薬剤は、粒子、例えば
図4~5に示すように制御放出特性を有し、且つマトリックスと組み合わせた粒子として調製することができる。粒子の粒径又は含有率は、
図6に示す通り、粒子が薬剤を様々な速度及び期間で放出させるように調節することができ、
図7は、放出プロフィールの例である。ハイドロゲルは、例えば、
図8A~8Dに示すように、前眼房内に導入することができ、これを
図9に視覚化する。
【0023】
実施例1では、デポの調製を説明する。デポは、持続放出ハイドロゲル複合デポである。デポは、治療薬剤トラボプロストを含む分解可能なマイクロ粒子で製造され、トラボプロストは、通常、点眼液として使用され、眼内圧を低下させることにより、緑内障又は高眼圧の進行を抑制するための外用薬として適用される。トラボプロストは、合成プロスタグランジンF2α類似体である。その化学名は、イソプロピル(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-[(1E,3R)-3-ヒドロキシ-4-[(α,α,α-トリフルオロ-m-トリル)オキシ]-1-ブテニル]シクロペンチル]-5-ヘプテノエートである。これは、ヒト角膜の実質中で酵素により遊離酸形態に変換されるプロスタグランジン類似体である。トラボプロスト遊離酸は、選択的FPプロスタノイド受容体アゴニストであり、小柱網及びぶどう膜強膜流出を増加させることにより、眼内圧を低下させると考えられる。トラボプロストの作用の厳密なメカニズムは、現時点では依然として不明である。トラボプロストは、デポ内に使用する薬剤の一例である。
【0024】
実施例1のデポは、活性成分、トラボプロスト;封入トラボプロストを含有するポリ(D,L-ラクチド)(PLA)マイクロ粒子;及び不活性送達プラットフォーム、フルオレセインと共役したポリエチレングリコール(PEG)共有結合架橋マトリックスを含む。ハイドロゲルは、トリリシンと結合したアジピン酸スクシンイミジル(8a15K PEG SAP)で終端する8アーム型15,000Daポリエチレングリコールから製造される。PEGハイドロゲル架橋前に、トリリシン前駆体分子中のアミンの小パーセンテージ部分をNHSフルオレセインと反応させた。NHS-フルオレセインは、第1級アミノ基と効率的に反応して安定なアミド結合を形成する。得られた蛍光ハイドロゲルは、スリットランプなどの青色光源で励起されると発光し、研究者に産物の存在を確認させることができる。実施例1では、デポは、約100日にわたり持続放出様式でトラボプロストを送達するように製剤化した(
図7を参照されたい)。
図7の複合デポは、実施例1のプロセスに従って製造し、40μgの用量をもたらすようにマイクロ粒子の量を変えたこと以外には試験物質と同じである。ハイドロゲル及び薬物送達ビヒクル、例えば粒子の製造に関して本明細書に記載するガイダンスから明らかであるように、ヒトの眼において治療に有効な用量において、最大約2年までの送達時間が単一のハイドロゲルデポに実用的であり、10日~2年の全ての時間が企図される。PLAマイクロ粒子は、生体吸収性であり、時間の経過と共に加水分解により分解して、治療レベルでのトラボプロストの持続放出を提供する。100日持続放出プロフィールは、様々なPLA分子量を用いて調製されたトラボプロスト封入マイクロ粒子をハイドロゲルマトリックス中にブレンドすることによって得られる。
【0025】
実施例1のデポは、表1に表示する内容物を有した。2つの試験物質は、同じトラボプロストを充填したポリラクチド(PLA)ブレンドマイクロスフィアを共有したため、パーセンテージ基準で薬物製剤からのトラボプロストの同等の放出プロフィールを有することが意図される。2つの試験物質で異なる点は、トラボプロスト用量と、乾燥時の直径(40μg用量のトラボプロストを含み、直径が0.25mmの試験物質1又は26μg用量のトラボプロストを含み、直径0.21mm±0.01mm×長さ3.02mm±0.02mmの試験物質2)とであった。実施例において実証される通り、いずれの試験物質も、前眼房内の薬物レベルが112日を通してビーグルモデルの瞳孔収斂(瞳孔縮小)の薬力学的効果と一致することを明らかにした。
【0026】
デポは、前眼房内の配置のために寸法決定された。時間経過及び加水分解により、ハイドロゲル及びPLA成分は、軟化し、液化して、前眼房から流出路を通って排出される。前眼房流路の排出は、高眼圧、緑内障、及び他の眼症状の治療に役立つ。前眼房内のデポは、56日を通して、イエローフィルター付きのスリットランプ又は青色光を用いて容易に視覚化された。84日目までに、デポのハイドロゲル部分は、完全に分解し、デポの蛍光は、明瞭でなくなった。トラボプロストマイクロ粒子は、残って前眼房に薬物を送達し続け、顕著な薬力学的作用としての瞳孔収斂を実証した。実施例2は、実施例1と同様に製造されたデポからのトラボプロストのインビトロ制御放出を示す。トラボプロスト酸を用いた薬力学的効果には低用量の量のみが必要とされる。プロスタグランジン受容体の場合、トラボプロスト酸の力価がより高いため、例えばエステル末端基高分子量ポリラクチドで製造したマイクロ粒子又はポリカプロラクトン(PCL)から10~100μgの範囲の低用量を2年にわたって送達することにより、有効性及びIOP低下のために十分な治療量を送達することができる。
【0027】
PLGA及びPLAは、治療薬剤の持続放出のために最も頻繁に使用される生分解性ポリマーであるが、これらのみが生分解性ポリマーの形態であるわけではない。同様のプロセスを用い、PCLを使用して、デポ又はマイクロ粒子内に薬物を封入することができる。PCLは、PLAとのコポリマー内にも使用することができ、コポリマーは、安全であることが立証されており、承認された医薬製剤に使用されている。例えば、乾燥レボノルゲストレル(LNG)を充填したPCLから製造される生分解性レボノルゲストレル放出デポは、ラット及びイヌにおいて2年の放出を示した。PCLの生分解は、他のポリマーと比較して遅いため、1年超の期間にわたる長期送達に好適である。
【0028】
実施例3に記載するように、試験物質1又は2を前眼房内に導入した。
図12は、実施例4に示す結果に記載される通り、56日時点で撮影された画像である。OTX-TIからのトラボプロストの持続放出に対する所望の薬力学的応答は、112日を通した継続的な瞳孔収斂及び28日時点の眼内圧(IOP)の低下により実証された。28日目にサンプル採取されたビーグルAH内のトラボプロスト濃度は、ヒトのトラボプロスト点眼薬について文献に報告された最大薬物濃度(Cmax)と類似していた。結果から、デポのハイドロゲル部分が56日目で持続しており、またトラボプロストが問題なく送達され、実施例4に詳述する様々な基準に従って所望の効果をもたらすことがわかった。56日にわたり、デポは、インタクトなままであり、84日時点で消失し(示していない)、後には前眼房内に薬物を放出するトラボプロスト含有マイクロ粒子が残った。これらは、虹彩角膜角内の前眼房の下方部分に存在することが観察された。眼科検査から、試験物質との優れた生体適合性が判明した。デポ近傍に局在化炎症のエビデンスはなく、眼科検査から、
図10A~10Fに示すように、トラボプロストから予想される作用による瞳孔収斂と、早期充血(時間の経過と共に軽減した)との所見を除いて、眼は、健常であると考えられることが明らかにされた。試験期間中単一の動物について、3日目及び7日目と比較して0日目に血管拡張がなく、時間の経過と共に正常へ軽減することに留意されたい。また、投与直後の0日目の瞳孔収斂にも留意されたい。
【0029】
実施例5は、実施例1及び2で製造したものと類似するが、注記の通り、1デポ当たり低いトラボプロスト用量(18μg)などのいくつかの変更を含む複合デポを用いた2回のさらなる実験の結果を記載する。これらは、薬物を用いた眼症状の治療の成功を伴う有効用量の治療薬剤の送達の成功を明らかにした。実施例6は、薬剤(トラボプロスト)の低(14μg)又は高(41μg)用量を含む類似の複合デポを用いたさらなる試験を示す。薬剤は、対応して低又は高用量で放出され、放出速度及び時間の制御並びに投与の制御をさらに証明した。いずれの用量も有効であった。
【0030】
実施例7では、ハイドロゲル複合デポ内のハイドロゲルのシールド効果を実証した。マイクロ粒子を含有する複合物を、攪拌あり(流動場内など)及び攪拌なし(静止環境)の両方で試験した。放出プロフィールは、攪拌により生成される対流力の存在又は非存在とは関係なく、試験の期間中、ほぼ重なっていた。これらの試験は、ハイドロゲルが攪拌の対流力からマイクロ粒子をシールドしたことを実証した。対照的に、上に説明したように、対流力は、静止条件よりはるかに速く粒子を分解させる。水がハイドロゲルを通して拡散し得ることを考慮すれば、ハイドロゲルがこのシールド効果を有することは意外である。特定の理論に拘束されるものではないが、ハイドロゲル表面で水の対流混合に抵抗する境界層効果がハイドロゲル表面にあると思われる。
【0031】
ハイドロゲルシールド効果は、送達時間増加の係数として定量することができる。実施例7及び
図16並びにまたD’Souza et al.、
図3(本明細書には示していない)を参照すると、経時的な薬物放出累積率(%)のプロットを用いて、薬剤の放出を測定できると考えられる。送達時間増加の係数を計算するために、実施例7の条件下において、粒子を埋め込むハイドロゲルの存在又は非存在以外には同じ条件下で粒子の組を試験する。試験は、サンプルが100%の薬剤を放出するまで実施する。送達時間増加の係数は、ハイドロゲルの存在下における薬剤の完全な放出(100%)のための時間を、ハイドロゲルの非存在下における薬剤の完全な放出(100%)のための時間で割ったものである。例えば、粒子の組は、ハイドロゲルなしでは15日目に100%の薬剤を放出し得るが、ハイドロゲルの存在下では150目に薬剤を放出し、この場合、増加した送達時間の係数は、10である。
【0032】
複合デポの様々な成分を以下に説明する。これらの成分は、互いに組み合わされ得、本明細書に記載のガイドラインに従って使用され得る。
【0033】
ハイドロゲル及びキセロゲル
ハイドロゲルは、水に溶解せず、その構造内に有意な画分(20%w/w超)の水を保持する材料である。実際、多くの場合、70、80、又は90%の過剰な水分が知られている。ハイドロゲルは、水溶性分子を架橋して、実質的に無限の分子量のネットワークを形成することによって形成され得る。高含水量のハイドロゲルは、典型的には、柔らかく柔軟な材料である。米国特許出願公開第2009/0017097号明細書、米国特許出願公開第2011/0142936号明細書、米国特許出願公開第2012/0071865号明細書、及び米国特許出願公開第2017/0143636号明細書に記載されるハイドロゲル及び薬物送達系は、本明細書に提供される指針に従うことにより、本明細書の材料及び方法と共に使用するために改変でき、これらの引用文献は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれ、矛盾のある場合には本明細書が優先する。
【0034】
ハイドロゲルは、例えば、
図2に示すように、水溶液中のハイドロゲルとして又は有機溶液中のオルガノゲルとして形成することができる。ハイドロゲルは、様々な実施形態において、本明細書に記載のような薬剤を含む。キセロゲルという用語は、乾燥マトリックスを指す。溶媒中でのマトリックスの形成後、溶媒を除去してキセロゲルを形成することができる。可能性があるプロセスとして、例えば、非溶媒、窒素スイープ乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、熱と真空との組合せ、及び凍結乾燥による沈殿又は抽出が挙げられる。
【0035】
一般に、水溶液中のハイドロゲルを提供する架橋マトリックスを形成するために1つ又は複数の前駆体を反応させる。前駆体は、架橋を形成し、これは、水中でのハイドロゲルの溶解を防ぐ。前駆体は、イオン若しくは共有結合、物理的力、又は他の誘引力を介して架橋され得る。しかしながら、共有結合は、典型的に、反応物質アーキテクチャの安定性及び予測可能性を提供する。共有結合架橋マトリックスを形成するために前駆体を互いに共有結合的に架橋する。一般に、前駆体を他の前駆体と2点以上で結合させ、各々の点は、同じ又は異なるポリマーとの結合である。少なくとも2つの反応中心(例えば、フリーラジカル重合において)を有する前駆体は、各々の反応基が異なる成長ポリマー鎖の形成に参加し得ることから、架橋剤として役立つことができる。とりわけ、反応中心のない官能基の場合、架橋には、少なくとも1つの前駆体タイプに3つ以上のこうした官能基が必要である。例えば、多くの求電子-求核反応は、求電子及び求核官能基を消費することから、前駆体が架橋を形成するには、3つ以上の官能基を含む前駆体が必要とされる。従って、こうした前駆体は、3つ以上の官能基を有する可能性があり、2つ以上の官能基を有する前駆体により架橋され得る。これらについて以下である程度詳細に説明する。
【0036】
ハイドロゲルは、水性媒体中で水和され、且つ水を吸収するにつれて膨潤する。平衡に達すると、水を含めた総ハイドロゲル重量は、一定となり、その平衡含水率(EWC)でハイドロゲルの特性を測定することができ、別に記載のない限り、EWCでの測定は、ハイドロゲルをまず自由に膨潤させて、それが典型的には数時間以内に溶液中で一定重量に達したときに行う。EWCは、十分に膨潤したとき、すなわち定常状態でのハイドロゲルの水分である。加水分解により分解可能なハイドロゲルのEWCは、加水分解がメッシュサイズを大きくするため、時間の経過と共に次第に増大し、これは、架橋間の分子量(Mc)により測定することができる。
【0037】
前駆体材料
ハイドロゲル/キセロゲルを供給する架橋マトリックスは、前駆体から製造される。前駆体は、結果として生じるハイドロゲルに望まれる性質を考慮して、また形成時の構造に照らして、例えば架橋マトリックスが初めにオルガノゲルとして形成される場合、有機溶媒との適合性のために選択される。架橋マトリックスの製造に使用するための種々の好適な前駆体がある。前駆体という用語は、架橋されて架橋マトリックス、例えばハイドロゲル又はオルガノゲルマトリックスを形成する分子を指す。治療薬剤、薬剤の送達用の粒子、又はマトリックス中に架橋されない充填剤などの他の材料がハイドロゲル又はオルガノゲル中に存在することがあるが、それらは前駆体ではない。
【0038】
架橋マトリックスは、天然ポリマー、合成ポリマー、又は生合成ポリマーから形成することができる。天然ポリマーは、グリコサミノグリカン、多糖類、及びタンパク質を含み得る。グリコサミノグリカンのいくつかの例には、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチン、キチン、ヘパリン、ケラタン硫酸、ケラト硫酸、及びその誘導体がある。一般に、グリコサミノグリカンは、天然源から抽出され、精製され、誘導体化される。しかし、それらは、合成により製造されることも、細菌などの修飾された微生物により合成されることもある。これらの材料は、自然には可溶性の状態から、部分的に可溶性若しくは水膨潤性、又はハイドロゲル状態に合成により修飾できる。この修飾は、連結又はカルボキシル及び/若しくはヒドロキシル若しくはアミン基などのイオン化可能若しくは水素結合可能な官能基の、より疎水性の他の基による置換などの種々の周知の技法により達成できる。
【0039】
例えば、ヒアルロン酸上のカルボキシル基は、アルコールによりエステル化されて、ヒアルロン酸の溶解度を低下させる。そのようなプロセスは、ヒアルロン酸製品の種々の製造業者により利用されて、ハイドロゲルを形成するヒアルロン酸系のシート、繊維、及び布地が形成される。他の天然の多糖類、例えばカルボキシメチルセルロース又は酸化再生セルロース、天然ゴム、寒天、アガロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、フコイダン、ファーセレラン、ラミナラン、イバラノリ、キリンサイ、アラビアゴム、ガッチゴム、カラヤゴム、トラガカントゴム、ローカストビーンゴム、アラビノガラクタン、ペクチン、アミロペクチン、ゼラチン、プロピレングリコールなどのポリオールと架橋されたカルボキシメチルセルロースガム又はアルギネートガムなどの親水コロイドなども、水性の環境と接触するとハイドロゲルを形成する。
【0040】
合成ゲル又はハイドロゲルは、生物学的安定性又は生分解性であり得る。生物学的安定な親水性ポリマー性材料の例は、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリラート)、ポリ(電解質錯体)、加水分解性又は他の方法で分解可能な結合と架橋されたポリ(酢酸ビニル)、及び水膨張性N-ビニルラクタムである。他のハイドロゲルには、カーボポール(登録商標)として知られる親水性ハイドロゲル、酸性カルボキシポリマー(カルボマー樹脂は、C10-C30アルキルアクリラートにより変性された、高分子量、アリルペンタエリスリトール架橋されたアクリル酸系ポリマーである)、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、スターチグラフトコポリマー、アクリラートポリマー、エステル架橋ポリグルカンがある。そのようなハイドロゲルは、例えば、Etesの米国特許第3,640,741号明細書、Hartopの米国特許第3,865,108号明細書、Denzingerらの米国特許第3,992,562号明細書、Manningらの米国特許第4,002,173号明細書、Arnoldの米国特許第4,014,335号明細書、及びMichaelsの米国特許第4,207,893号明細書に記載されており、全て参照により本明細書に組み込まれるが、矛盾のある場合には本明細書が優先する。
【0041】
架橋マトリックスは、前駆体から製造できる。前駆体は、互いに架橋する。架橋は、共有結合によっても、物理的結合によっても形成できる。物理的結合の例は、イオン結合、前駆体分子セグメントの疎水性会合、及び前駆体分子セグメントの結晶化である。前駆体を反応するように誘発して、架橋されたハイドロゲルを形成できる。前駆体は重合性のことがあり、常にではないが多くの場合に重合性の前駆体である架橋剤を含む。そのため、重合性前駆体は、互いに反応してマトリックス及び/又は反復単位からできたポリマーを形成する官能基を有する前駆体である。前駆体はポリマーであり得る。
【0042】
前駆体の一部は、例えば、付加重合とも称される連鎖成長重合により反応し、二重又は三重化学結合を組み込んでいるモノマーの連結を含む。これらの不飽和モノマーは、分解し他のモノマーと結合して反復鎖を形成できる余分な内部結合を有する。モノマーは、他の基と反応してポリマーを形成する少なくとも1つの基を有する重合性分子である。マクロモノマー(又はマクロマー)は、それがモノマーとして作用することを可能とする少なくとも1つの反応性基を多くの場合に末端に有するポリマー又はオリゴマーである。各マクロモノマー分子は、反応性基の反応によりポリマーに結合する。従って、2つ以上のモノマー又は他の官能基を有するマクロモノマーは、共有結合性の架橋を形成する傾向がある。付加重合は、例えば、ポリプロピレン又はポリ塩化ビニルの製造に関与している。付加重合の1タイプがリビング重合である。
【0043】
前駆体の一部は、例えば、モノマーが縮合反応により結合する場合に起こる縮合重合により反応する。典型的には、これらの反応は、アルコール、アミン又はカルボン酸(又は他のカルボキシル誘導体)官能基を組み込んでいる分子を反応させることにより達成できる。アミンがカルボン酸と反応すると、アミド又はペプチド結合が形成され、水が放出される。縮合反応の一部は、例えば、本明細書に明確に開示されている内容と矛盾しない範囲で参照により全体として本明細書に組み込まれる米国特許第6,958,212号明細書にある通り、求核アシル置換に従う。前駆体の一部は、連鎖成長機構により反応する。連鎖成長ポリマーは、反応中心を有するモノマー又はマクロモノマーの反応によって形成されるポリマーであると定義される。反応中心は、化学化合物が関与する反応の開始剤であるその化合物内の特定の位置である。連鎖成長ポリマー化学作用において、これは成長鎖の成長点である。反応中心は、通常、本質的にアニオン性又はカチオン性であるラジカルであるが、他の形態もとり得る。連鎖成長系にはフリーラジカル重合があり、開始、成長、及び停止のプロセスを含む。開始は、ラジカル開始剤、例えば有機ペルオキシド分子から作られる、成長に必要なフリーラジカルの生成である。停止は、ラジカルがさらなる成長を妨げるように反応するときに起こる。最も通常の停止の方法は、2つのラジカル種が互いに反応して単一の分子を形成するカップリングによるものである。前駆体の一部は、逐次成長機構により反応し、モノマーの官能基間の逐次反応によって形成されたポリマーである。ほとんどの逐次成長ポリマーは、縮合ポリマーと分類されるが、全ての逐次成長ポリマーが縮合物を放出するわけではない。モノマーは、ポリマーでも小分子でもよい。ポリマーは、多くの小分子(モノマー)を規則的なパターンで合わせることによって形成された高分子量分子である。オリゴマーは、約20未満のモノマー性反復単位を有するポリマーである。小分子前駆体は、一般に、約2000ダルトン未満の前駆体を指す。このように、前駆体は、アクリル酸又はビニルカプロラクタムなどの小分子、アクリラートによりキャップされたポリエチレングリコール(PEG-ジアクリラート)などの重合性基を含むより大きい分子、又はエチレン型不飽和基を含有する他のポリマーであり得る。例えば、本明細書に明確に開示されている内容と矛盾しない範囲において、参照により全体として本明細書にそれぞれ組み込まれる米国特許第4,938,763号明細書、同第5,100,992号明細書、同第4,826,945号明細書、同第4,741,872号明細書、同第5,160,745号明細書、同第5,410,016号明細書、同第8,409,606号明細書、同第8,383,161号明細書、同第9,125,807号明細書、同第9,205,150号明細書、米国特許出願公開第2017/0143636号明細書を参照されたい。
【0044】
いくつかの実施形態において、各前駆体は、多官能性であり、それは、1つの前駆体にある求核官能基が別の前駆体にある求電子官能基と反応して共有結合を形成できるように、それが2つ以上の求電子官能基又は求核官能基を含むことを意味する。前駆体の少なくとも1つは、3つ以上の官能基を含むため、求電子求核反応の結果として、前駆体は結合して、架橋されたポリマー性生成物を形成する。
【0045】
前駆体は、生物学的に不活性で親水性の部分、例えばコアを有し得る。分岐鎖ポリマーの場合、コアは、コアから伸びるアームに結合する分子の隣接部分を指し、アームは官能基を有し、それは多くの場合に分岐の末端にある。親水性分子、例えば前駆体又は前駆体部分は、水溶液に少なくとも1g/100mLの溶解度を有する。親水性部分は、例えば、ポリエーテル、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンオキシド-コ-ポリプロピレンオキシド(PPO)、コ-ポリエチレンオキシドブロック又はランダムコポリマーなどのポリアルキレンオキシド、及びポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ビニルピロリジノン)(PVP)、ポリ(アミノ酸、デキストラン、又はタンパク質であり得る。前駆体は、ポリアルキレングリコール部分を有することがあり、ポリエチレングリコール系であり得、ポリマーの少なくとも約80重量%又は90重量%はポリエチレンオキシド反復を含む。ポリエーテル及びより詳細にはポリ(オキシアルキレン)又はポリ(エチレングリコール)又はポリエチレングリコールは一般的に親水性である。当技術分野で通常である通り、PEGという用語は、ヒドロキシル末端基の有無にかかわらずPEOを指すように使用される。
【0046】
前駆体は、高分子(又はマクロマー)でもあり得、これは千~数百万の範囲の分子量を有する分子である。しかしながら、ハイドロゲル又はオルガノゲルは、約1000Da以下(或いは2000Da以下)の小分子としての前駆体の少なくとも1つにより製造され得る。高分子は、小分子(約1000Da以下/2000Da以下の)と組み合わせて反応する場合、例えば、小分子より分子量で少なくとも5~50倍であり、好ましくは約60,000Da未満である。当業者は、明示された範囲内の全ての範囲及び値が企図されることを直ちに認識するであろう。前駆体分子量の例は、例えば、500~50,000Daであり、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、500、1000、10,000、20,000、50,000、80,000、100,000、200,000、300,000、400,000、500,000Daのいずれも上限又は下限として利用可能であることを直ちに認識するであろう。
【0047】
合成前駆体が使用できる。合成は、天然にはなく、通常、ヒトにもない分子を指す。いくつかの合成前駆体は、アミノ酸を含まず、天然にあるアミノ酸配列を含まない。いくつかの合成前駆体は、天然にはなく、通常、ヒトの体内にないポリペプチド、例えばジ-、トリ-、又はテトラ-リジンである。いくつかの合成分子はアミノ酸残基を有するが、連続する1、2、又は3個を有するのみであり、アミノ酸又はそのクラスターは、非天然のポリマー又は基により分離している。そのため、多糖類又はそれらの誘導体は合成ではない。合成ポリマーは、例えば、ポリ(エチレン)オキシド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリラート、ポリメチルアクリラート、ポリアルキレンオキシド、メタクリル酸若しくは他のビニルモノマー、塩化アシル、例えば塩化メタクリロイル、イソシアナート、又はメタクリル酸2-イソシアナトエチル、求電子性ポリ(エチレングリコール)メタクリラート(PEGMA)から製造されるか又はそれを含む。フリーラジカル重合は、一般に、アクリラート及びメタクリラートなどのビニル又はアリル基を用いて達成される。モノマーは、それ自体で又はフリーラジカル重合も経るコモノマーと一緒に重合され得る。コモノマーの例は、アクリラート、メタクリラート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-メトキシエチル、メタクリル酸ポリ(ヘキサニド)、メタクリル酸ポリ(ヘキサニド)ポリエチレンオキシド、又はアルキル誘導体化ポリ(ヘキサニド)メタクリラート、ヘパリン誘導体化ポリエチレンオキシドマクロマー、ビニルスルホン酸モノマー、ポリ(エチレングリコール)を含むモノマー、N-ビニルピロリドンモノマー、炭酸4-ベンゾイルフェニルメタクリラートアリルメチル、アリルアルコール、アリルイソシアナート、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、モノメタクリル酸グリセロール、及びリン酸塩及びアミノ酸部分を含有するポリマーの1つ又は複数を含む。種々のポリマーとして、例えば、親水性ポリマー、疎水性ポリマー、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリエーテル、及びポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0048】
或いは、天然のタンパク質又は多糖類、例えばコラーゲン、フィブリン(フィブリノーゲン)、アルブミン、アルギナート、ヒアルロン酸、及びヘパリンは、ゲル、ハイドロゲルとして使用する架橋マトリックス、又はこれらの方法で使用する他の材料を製造するために改変され得る。これらの天然分子は、化学的誘導体化、例えば合成ポリマー装飾をさらに含み得る。天然分子は、その自然の求核剤によっても、例えば、本明細書に明確に開示される内容と矛盾しない範囲で参照により本明細書にそれぞれ組み込まれる米国特許第5,304,595号明細書、米国特許第5,324,775号明細書、米国特許第6,371,975号明細書、及び米国特許第7,129,210号明細書にある通り、それが官能基により誘導体化された後でも架橋できる。天然は、天然にみられる分子を指す。天然ポリマー、例えばタンパク質又はグリコサミノグリカン、例えばコラーゲン、フィブリノーゲン、アルブミン、及びフィブリンは、求電子官能基を有する反応性前駆体種を使用して架橋できる。通常、体内に見られる天然のポリマーは、体内に存在するプロテアーゼによりタンパク質分解的に分解する。そのようなポリマーは、そのアミノ酸上にあるアミン、チオール、又はカルボキシルなどの官能基により反応することも、誘導体化されて活性化可能な官能基を有することもある。天然のポリマーがハイドロゲルに使用され得るが、そのゲル化時間及び最終的な機械的性質は、追加の官能基の適切な導入及び好適な反応条件、例えばpHの選択により制御されなければならない。
【0049】
前駆体は、生じるハイドロゲルが、必要な量の水、例えば少なくとも約20%を保持する場合に疎水性部分と共に製造され得る。いくつかの場合、前駆体は、親水性部分も有するためにそれでもなお水溶性である。他の場合、前駆体は水に分散する(懸濁液)が、それでもなお反応可能であり架橋された材料を形成する。いくつかの疎水性部分は、複数のアルキル、ポリプロピレン、アルキル鎖、又は他の基を含み得る。疎水性部分を有する一部の前駆体は、商品名PLURONIC F68、JEFFAMINE、又はTECTRONICで販売されている。疎水性分子又はコポリマーなどの疎水性部分は、その分子(例えば、ポリマー又はコポリマー)を凝集させて、ミセル若しくは疎水性領域が水性連続相中にあるミクロ相を形成するほど十分に疎水性なもの、又はそれのみで試験される場合、pHが約7~約7.5で温度が約30~約50℃の水の水溶液から沈殿するか、若しくはその中で他の方法で相を変えるほど十分に疎水性であるものである。
【0050】
前駆体の一部がデンドリマー又は他の高度に分岐された材料であり得ることを念頭に置くと、前駆体は、例えば、2~100個のアームを有することがあり、各アームは末端を有する。ハイドロゲル前駆体上のアームは、架橋性官能基をポリマーコアに接続する直鎖の化学基を指す。いくつかの実施形態は、3~300個のアームを有する前駆体である。当業者は、明示された範囲内の全ての範囲及び値、例えば4、6、8、10、4~16、8~100、6、8、10、12、又は少なくとも6アームが企図されることを直ちに認識するであろう。
【0051】
従って、例えば、架橋マトリックスは、例えば、第1組の官能基を有するマルチアームの前駆体及び第2組の官能基を有する低分子量前駆体から製造できる。例えば、6アーム又は8アームの前駆体は、親水性アーム、例えば末端が一級アミンになっているポリエチレングリコールを有し得、アームの分子量は約1,000~約40,000である。当業者は、明示された範囲内の全範囲及び値が企図されることを直ちに認識するであろう。そのような前駆体は、比較的小さい前駆体、例えば少なくとも約3つの官能基、又は例えば約3~約30個の官能基を有する、約100~約5000、又は約800、1000、2000、又は5000以下の分子量を有する分子と混合され得る。当業者は、これらの明確に示された値間の全範囲及び値が企図され、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、20、25、30であることを直ちに認識するであろう。
【0052】
デンドリマーでない前駆体を使用できる。樹枝状分子は、原子が中心コアから放射状に広がる多くのアーム及びサブアーム中に配置されている、高度に分岐した放射対称ポリマーである。デンドリマーは、対称性と多分散性との両方の評価に基づいたその構造完全性の程度という特徴があり、合成に特別な化学プロセスが必要である。従って、当業者は、デンドリマー前駆体を非デンドリマー前駆体から容易に区別できる。デンドリマーは、典型的には所与の環境中でのその成分ポリマーの溶解度に依存し、その周囲の溶媒又は溶質、例えば温度、pH、又はイオン量の変化によって大幅に変わり得る形状を有する。
【0053】
前駆体は、例えば、米国特許出願公開第2004/0086479号明細書及び米国特許出願公開第2004/0131582号明細書、並びにPCT公報国際公開第07005249号パンフレット、国際公開第07001926号パンフレット及び国際公開第06031358号パンフレット、又はその米国対応特許にあるようにデンドリマーであり得、デンドリマーは、例えば、米国特許出願公開第2004/0131582号明細書及び米国特許出願公開第2004/0086479号明細書並びにPCT公報国際公開第06031388号パンフレット及び国際公開第06031388号パンフレットにあるように多官能性前駆体としても有用であり得、米国及びPCT出願のそれぞれは、本明細書に明確に開示されている内容と矛盾しない範囲において、参照により本明細書に全体として組み込まれる。デンドリマーは、高秩序で高い表面積対体積比を有し、起こり得る官能化のための多くの末端基を示す。実施形態は、デンドリマーでない多官能性前駆体を含む。
【0054】
いくつかの実施形態は、5残基以下のオリゴペプチド配列、例えば少なくとも1つのアミン、チオール、カルボキシル、又はヒドロキシル側鎖を含むアミノ酸から実質的になる前駆体を含む。残基は、天然又はその誘導体化されたアミノ酸である。そのようなオリゴペプチドの骨格は、天然でも合成でもよい。いくつかの実施形態において、2つ以上のアミノ酸のペプチドは合成の骨格と合わせられて前駆体を作る。そのような前駆体の特定の実施形態は、約100~約10,000又は約300~約500の範囲の分子量を有する。当業者は、これらの明確に示された範囲間の全範囲及び値が企図されることを直ちに認識するであろう。
【0055】
前駆体は、メタロプロテイナーゼ及び/又はコラゲナーゼによる付着を受けやすい配列を含まないことを含む、導入の部位に存在する酵素により切断可能なアミノ酸配列を含まないように調製され得る。さらに、前駆体は、全アミノ酸を含まないようにも、約50、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、若しくは又は1を超えるアミノ酸のアミノ酸配列を含まないようにも製造できる。前駆体は、非タンパク質であり得、それは、それらが天然のタンパク質でなく、天然のタンパク質を切断することにより製造できず、合成材料をタンパク質に加えることにより製造できないことを意味する。前駆体は、非コラーゲン、非フィブリン、非フィブリノーゲン、及び非アルブミンであり得、それは、それらがこれらのタンパク質の1つでなく、これらのタンパク質の1つの化学的誘導体でないことを意味する。非タンパク質前駆体の使用及びアミノ酸配列の制限された使用は、免疫反応を回避するため、望まれない細胞認識を回避するため、及び天然源から誘導されたタンパク質の使用に関連する危険を回避するために有用になり得る。前駆体は、非糖類(糖類を含まない)でも実質的に非糖類でもよい(w/wで前駆体分子量の約5%を超える糖類を含まない。そのため、前駆体は、例えば、ヒアルロン酸、ヘパリン、又はゲランを除外し得る。前駆体は、非タンパク質と非糖類との両方にもなり得る。
【0056】
ペプチドは、前駆体として使用され得る。一般に、より大きい配列(例えば、タンパク質)が使用され得るが、約10残基未満のペプチドが好ましい。当業者は、これらの明確な範囲内の全ての範囲及び値、例えば1~10、2~9、3~10、1、2、3、4、5、6、又は7が含まれることを直ちに認識するであろう。アミノ酸の一部は、求核基(例えば、一級アミン又はチオール)又は必要に応じて求核基若しくは求電子基(例えば、カルボキシル又はヒドロキシル)を組み込むように誘導体化できる基を有する。合成により製造されたポリアミノ酸ポリマーは、通常、それらが天然に存在せず、天然の生体分子と同一とならないように操作されている場合、合成であると考えられる。
【0057】
マトリックスの一部は、ポリエチレングリコール含有前駆体により製造される。ポリエチレングリコール(PEG、ポリエチレンオキシドとも称される)は、反復基(CH2CH2O)nを有し、nが少なくとも3であるポリマーを指す。そのため、ポリエチレングリコールを有するポリマー性前駆体は、直線に連続して互いに結合したこれらの反復基の少なくとも3つを有する。ポリマー又はアームのポリエチレングリコール含量は、ポリエチレングリコール基間に他の基がある場合でも、ポリマー又はアーム上のポリエチレングリコール基の全てを合計することにより計算される。そのため、少なくとも1000MWのポリエチレングリコールを有するアームは、少なくとも1000MWの合計に十分なCH2CH2O基を有する。当技術分野における通常の術語である通り、PEGポリマーは、必ずしも末端がヒドロキシル基である分子を指さない。分子量は、記号kを使用して、1000を単位に略記され、例えば、15Kは、15,000分子量、すなわち15,000ダルトンを意味する。本明細書で使用されるポリマー成分は、別に記載のない限り、ほぼ単分散であるが、当業者は、本開示を容易に改変して、適宜、重量平均(Mw)又は数平均を単位としてポリマーを使用することができ、矛盾が生じた場合、数平均(Mn)分子量を使用する。NH2は、アミン末端を指す。SGは、グルタル酸スクシンイミジルを指す。SSは、コハク酸スクシンイミジルを指す。SAPは、アジピン酸スクシンイミジルを指す。SAZは、アゼライン酸スクシンイミジルを指す。SS、SG、SAP及びSAZは、水中で加水分解により分解するエステル基を有するスクシンイミジルエステルである。このように、加水分解性又は水分解性は、水が過多にあると、分解を媒介する酵素又は細胞が全く存在しなくてもインビトロで自然に分解する材料を指す。分解の時間は、肉眼により判断して材料の事実上の消失を指す。トリリジン(LLLとも略される)は合成トリペプチドである。前駆体及び/又は架橋マトリックス、ハイドロゲル、オルガノゲル、ゲル、キセロゲル、並びにそれを含む組成物は、薬学的に許容できる形態で提供することができ、それは、高度に精製され、混入物、例えばパイロジェンを含まないことを意味する。
【0058】
材料構造
ゲル又はハイドロゲルの架橋マトリックス構造及び例えばハイドロゲルの前駆体の構成物質組成がその性質を決める。前駆体因子には、生体適合性、水溶性、親水性、分子量、アーム長さ、アーム数、官能基、架橋間距離、分解性などの性質がある。溶媒の選択、反応スキーム、反応物濃度、固形分などを含む反応条件の選択も架橋マトリックスの構造及び性質に作用する。特定の性質又は性質の組み合わせを達成するための種々の方法があり得る。他方で、性質の一部は互いに拮抗し、例えば、もろさは、架橋間距離が減少するか又は固形分が増加するにつれて増加し得る。強さは、架橋数の増加により増加し得るが、膨潤はそれにより減少し得る。特定の性質の達成を、関与する前駆体の一般的な種類に単に基づいて仮定すべきではないように、同じ材料を使用して、非常に異なる機械的性質及び性能を有する幅広い範囲の構造を有するマトリックスを製造できることを当業者は認識するであろう。
【0059】
メッシュサイズは、ハイドロゲル(及び架橋マトリックス)の分子ストランド間の間隔を指し、多くの場合に架橋間の分子量(Mc)として表される。メッシュサイズは、分子の拡散速度をはじめとするいくつかのハイドロゲルの性質に影響する。メッシュサイズは、ストランド間の間隔が増すほど大きくなる。架橋密度は、架橋剤として使用される前駆体及び他の前駆体の全体の分子量の選択、並びに1前駆体分子当たりに利用可能な官能基の数により制御できる。200などのより低い架橋間分子量は、500,000などのより高い架橋間分子量に比べてはるかに高い架橋密度を与える。当業者は、この範囲内の全範囲及び値、例えば200~250,000、500~400,000、2,000~100,000、10,000~80,000、20,000~200,000などが企図及び支持されることを直ちに認識するであろう。架橋密度は、架橋剤及び官能性ポリマーの溶液の全体の固形分パーセントによっても制御できる。架橋密度を制御するさらに別の方法は、求電子官能基に対する求核官能基の化学量論を調整することによる。1対1の比率は、最高の架橋密度をもたらす。架橋可能な部位間の距離がより長い前駆体は、一般的により柔らかく、しなやかで、弾力性のあるゲルを形成する。そのため、ポリエチレングリコールなどの水溶性セグメントの長さが増加すると、弾力性が増加して望ましい物性をもたらす傾向がある。そのため、特定の実施形態は、1,000~200,000の範囲の分子量を有する水溶性セグメントを有する前駆体を対象とする。当業者は、明示された範囲内の全ての範囲及び値、例えば5,000~35,000が企図されることを直ちに認識するであろう。ハイドロゲルの固形分は、その機械的性質及び生体適合性に影響することがあり、競合する要件間のバランスを反映している。比較的低い固形分、例えばその間の全範囲及び値、例えば約2.5%~約10%、約5%~約15%、又は約15%未満を含む、約2.5%~約20%が一般的に有用である。
【0060】
官能基
共有結合性の架橋の前駆体は、患者の外側又はインサイチューで互いに反応して共有結合により材料を形成する官能基を有する。官能基は、一般的に、フリーラジカル、付加、及び縮合重合を包含する広い分類である重合性であり、並びに求電子求核反応の基もある。重合反応の種々の態様が本明細書の前駆体の項で議論される。
【0061】
そのため、いくつかの実施形態において、前駆体は、重合分野で使用される光開始若しくはレドックス系により活性化される重合性基又は求電子官能基、例えば本明細書に明確に開示されている内容と矛盾しない範囲でそれぞれ参照により全体として本明細書に組み込まれる米国特許第5,410,016号明細書若しくは米国特許第6,149,931号明細書にあるカルボジイミダゾール、塩化スルホニル、クロロカーボネート、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、又はスルファスクシンイミジルエステルを有する。求核官能基は、例えば、アミン、ヒドロキシル、カルボキシル、及びチオールであり得る。別のクラスの求電子剤は、例えば、米国特許第6,958,212号明細書にある通りのアシルであり、それは、とりわけポリマーを反応させるマイケル付加のスキームを記載している。
【0062】
アルコール又はカルボン酸などの特定の官能基は、生理的条件(例えば、pH7.2~11.0、37℃)下でアミンなどの他の官能基と通常反応しない。しかし、そのような官能基は、N-ヒドロキシスクシンイミドなどの活性化基を使用することにより、反応性を高めることができる。特定の活性化基には、カルボニルジイミダゾール、塩化スルホニル、アリールハライド、スルホスクシンイミジルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、スクシンイミジルエステル、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステルなどがある。N-ヒドロキシスクシンイミドエステル又はN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)基は、タンパク質又はアミン含有ポリマー、例えばアミノ末端ポリエチレングリコールの架橋に有用な基である。NHS-アミン反応の利点は、反応速度が好都合であることであるが、ゲル化速度はpH又は濃度により調整できる。NHS-アミン架橋反応は、副生成物としてN-ヒドロキシスクシンイミドの形成をもたらす。N-ヒドロキシスクシンイミドのスルホン化又はエトキシ化形態は、比較的高い水への溶解度を有し、そのため、身体からの迅速なクリアランスを有する。NHS-アミン架橋反応は、水溶液中、及び緩衝液、例えばリン酸緩衝液(pH5.0~7.5)、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5~9.0)、又はホウ酸緩衝液(pH9.0~12)、又は炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9.0~10.0)の存在下で実施できる。NHS系架橋剤及び官能性ポリマーの水溶液は、NHS基と水との反応のため、好ましくは架橋反応の直前に作られる。これらの基の反応速度は、これらの溶液をより低いpH(pH4~7)に保つことにより遅くさせることができる。緩衝液は、体内に導入されるハイドロゲルにも含まれ得る。
【0063】
いくつかの実施形態において、求核前駆体と求電子前駆体との両方が架橋反応に使用される限り、各前駆体は、求核官能基のみ又は求電子官能基のみを含む。そのため、例えば架橋剤がアミンなどの求核官能基を有する場合、官能性ポリマーは、N-ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子官能基を有し得る。他方で、架橋剤がスルホスクシンイミドなどの求電子官能基を有する場合、官能性ポリマーは、アミン又はチオールなどの求核官能基を有し得る。例えば、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、又はアミン末端二官能性若しくは多官能性のポリ(エチレングリコール)などの官能性ポリマーを使用できる。
【0064】
一実施形態は、それぞれ2~16個の求核官能基を有する反応性前駆体種及びそれぞれ2~16個の求電子官能基を有する反応性前駆体種を有する。当業者は、明示された範囲内の全ての範囲及び値、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、又は16個の基が企図されることを直ちに認識するであろう。
【0065】
官能基は、例えば、求核剤と反応可能な求電子剤、特定の求核剤、例えば一級アミンと反応可能な基、生体液中で材料とアミド結合を形成する基、カルボキシルとアミド結合を形成する基、活性化された酸官能基、又はこれらの組み合わせであり得る。官能基は、例えば、強い求電子官能基であり得、これは、pH9.0の室温室圧の水溶液中で一級アミンと共有結合を有効に形成する求電子官能基及び/又はマイケルタイプ反応により反応する求電子基を意味する。強い求電子剤は、マイケルズ(Michaels)タイプ反応に関与しないタイプのことも、マイケルズタイプ反応に関与するタイプのこともある。
【0066】
マイケルタイプ反応は、求核剤の共役不飽和系に対する1,4付加反応を指す。付加機構は純粋に極性であり得るか、ラジカル様中間体状態により進行し得る。ルイス酸又は適切に設計された水素結合種が触媒として作用し得る。コンジュゲーションという用語は、炭素-炭素、炭素-ヘテロ原子、若しくはヘテロ原子-ヘテロ原子の多重結合と単結合とが交互にあることと、合成ポリマー若しくはタンパク質などの高分子への官能基の連結との両方を指し得る。マイケルタイプ反応は、本明細書に明確に開示されている内容と矛盾しない範囲であらゆる目的のために参照により全体として本明細書に組み込まれる米国特許第6,958,212号明細書において詳細に議論されている。
【0067】
マイケルズタイプ反応に関与しない強い求電子剤の例は、スクシンイミド、スクシンイミジルエステル、又はNHS-エステルである。マイケルタイプ求電子剤の例は、アクリラート、メタクリラート、メチルメタクリラート、及び他の不飽和重合性基である。
【0068】
開始系
前駆体の一部は、開始剤を使用して反応する。開始剤基は、フリーラジカル重合反応を開始することができる化学基である。例えば、それは別の成分としても、前駆体上のペンダント基としても存在し得る。開始剤基には、熱開始剤、光活性化可能な開始剤、及び酸化還元(レドックス)系がある。長波UV及び可視光光活性化可能な開始剤には、例えば、エチルエオシン基、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン基、他のアセトフェノン誘導体、チオキサントン基、ベンゾフェノン基、及びカンファキノン基がある。熱反応性開始剤の例には、4,4’アゾビス(4-シアノペンタン酸)基、及びベンゾイルペルオキシド基の類似物がある。Wako Chemicals USA,Inc.,Richmond,Vaから利用可能なV-044などのいくつかの市販の低温フリーラジカル開始剤を使用して、体温でフリーラジカル架橋反応を開始して、ハイドロゲルコーティングを上述のモノマーと共に形成できる。
【0069】
金属イオンをレドックス開始系における酸化剤又は還元体として使用できる。例えば、二価の鉄イオンをペルオキシド又はヒドロペルオキシドと組み合わせて使用して重合を開始することも、重合系の一部として使用することもできる。この場合、二価の鉄イオンは還元体として作用するであろう。或いは、金属イオンは、酸化体として作用し得る。例えば、セリウムイオン(セリウムの4+原子価状態)は、カルボン酸及びウレタンを含む種々の有機基と相互作用して、電子を金属イオンへと除去し、開始ラジカルを有機基上に残す。そのような系では、金属イオンは酸化剤として作用する。いずれの役割でも潜在的に好適な金属イオンは、遷移金属イオン、ランタニド、及びアクチニドのいずれでもあり、それらは少なくとも2つの容易に利用可能な酸化状態を有する。特に有用な金属イオンは、1つのみの電荷の違いにより別れている少なくとも2つの状態を有する。これらのうち、最も普通に使用されるのは、三価鉄/二価鉄;二価銅/一価銅;四価セリウム/三価セリウム;三価コバルト/二価コバルト;バナジデートV対IV;ペルマンガナート;及び三価マンガン/二価マンガンである。過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、クミルペルオキシドを含むペルオキシド及びヒドロペルオキシドなどの過酸素(Peroxygen)含有化合物を使用できる。
【0070】
開始剤系の例は、ある溶液中の過酸素化合物と別の溶液中の遷移金属などの反応性イオンとの組み合わせである。この場合、重合の外部開始剤は全く必要なく、重合は、2つの相補的な反応性官能基含有部分が利用部位で相互作用すると、自然に、外部エネルギーを加えたり外部エネルギー源を使用したりせずに進行する。
【0071】
可視化剤
架橋マトリックス及びハイドロゲル中に可視化剤が存在し得、それは、ハイドロゲルを適用する使用者が、物体が有効量の作用物質を含んだときに機械補助なしで物体を観察できるように、ヒトの眼に検出可能な波長で光を反射又は発する。画像化のために機械的補助が必要な化学物質は、本明細書ではイメージング剤と称され、例としては、放射線不透過造影剤及び超音波造影剤がある。いくつかの生体適合性可視化剤は、FD&Cブルー1番、FD&Cブルー2番、及びメチレンブルーがある。これらの作用物質は、好ましくは、最終的な求電子-求核反応性前駆体種ミックス中に、0.05mg/mlを超える濃度で、好ましくは少なくとも0.1~約12mg/mlの濃度範囲で、より好ましくは0.1~4.0mg/mlの範囲で存在するが、可視化剤の溶解度の限界までのより高い濃度も潜在的には利用され得る。可視化剤は、キセロゲル/ハイドロゲルの分子ネットワークに共有結合でき、そのため、患者に使用した後、ハイドロゲルが加水分解して溶解するまで可視化を保つ。可視化剤は、FD&Cブルー染料3及び6、エオシン、メチレンブルー、インドシアニングリーン、又は合成縫合糸に通常みられる着色染料など、医療用埋め込み型医療装置における使用に好適な種々の非毒性の着色物質のいずれからも選択できる。NHS-フルオレセインなどの反応性の造影剤をキセロゲル/ハイドロゲルの分子ネットワークに組み込むことができる。フルオレセインは、典型的なイメージング剤であるが、十分な濃度で存在すれば、機械補助なしで可視化することができる。フルオレセインのレベルは、ゼロ(ほぼ見えない)~少量(蛍光により見える)、さらには多量(機械補助なしで黄色として見える)まで操作することができる。可視化剤は、反応性前駆体種、例えば架橋剤又は機能性ポリマー溶液のいずれかと一緒に存在し得る。好ましい着色物質は、ハイドロゲルに化学的に結合することも又はしないこともある。
【0072】
例えば、フルオレセイン分子は、スリットランプなどの光源で励起されると発光し、研究者がフルオレセイン分子を含有するデポの存在を確認するうえで有用である。例えば、フルオレセインは、青色光源で照らすことができる。
【0073】
生分解
生分解性架橋マトリックスが生分解性であることが要望される場合、官能基間に存在する生分解性結合(又は1つのみの生分解性結合、例えばエステル)を有する1つ又は複数の前駆体を使用し得る。生分解性結合は、任意選択でマトリックスを製造するために用いられる前駆体の1つ又は複数の水溶性コアとして役立つこともできる。各々のアプローチについて、得られる生分解性生体適合性架橋ポリマーが所望の期間内で分解又は吸収されるように生分解性結合を選択することができる。
【0074】
架橋マトリックスは、生理溶液中で水和すると、ゲル又はハイドロゲルがその機械的強度を失って最終的には過剰な水中で水分解性基の加水分解によりインビトロで消散することにより、測定可能な水分解性のゲル又はハイドロゲルが形成されるように形成できる。この試験は、細胞又はプロテアーゼにより推進される分解とは対照的なプロセスである、加水分解により推進されるインビボの溶解を予想するものである。しかし、重要なことに、ポリ無水物又は分解して酸性成分になる従来使用される他の分解可能な材料は、組織に炎症を起こす傾向がある。しかしながら、ハイドロゲルは、そのような材料を排除できることから、ポリ無水物、無水物結合、又は分解して酸又は二酸になる前駆体を含有しなくてもよい。ハイドロゲルは、共有結合すると水に溶解しない。しかし、ハイドロゲルが分解するにつれて、分子ネットワークは、分解し、可溶性サブユニットを放出する。最終的に、分子ネットワークは、崩壊して、ハイドロゲルはもはや見えなくなるが、その時点で、ハイドロゲルは、溶解されたと言われる。加水分解性結合という用語は、生理学的条件下で水分子の切断により可能な結合を指す。
【0075】
ヒトの眼において治療に有効な用量において、最大約2年の送達時間が単一のハイドロゲルデポに実用的であり、10日~2年の全ての時間が考慮され、当業者は、例えば、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、150日、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、又は24ヵ月のいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。長期にわたる一実施形態では、低速で分解するデポのマトリックスに合った生分解性結合を選択すべきである。ハイドロゲルマトリックスの分解は、いくつかの因子により制御される:1)エステルに最も近い炭素鎖長の疎水性であり、これによって水の存在下で加水分解速度を計る。より短い炭素鎖(4炭化水素鎖アジピン酸エステルなど)がより親水性であり、より長く、より疎水性の炭素鎖(例えば、7炭素鎖)と比較して高速でエステル加水分解を引き起こし、2)所与の前駆体濃度に合わせて、ハイドロゲルネットワーク内の前駆体鎖のアーム長さは、生分解性結合の数を調節する。結合が多いほど、長く持続するハイドロゲルが促進され、3)前駆体濃度が高いほど、ハイドロゲルネットワーク内の結合の数、従ってその持続性が増加する。従って、デポのマトリックスは、高PEG濃度で調製された短いアーム長さのマルチアーム型PEGと組み合わせて、エステルに最も近いより疎水性の基を選択することにより、長時間にわたって持続するように製造することができる。
【0076】
例えば、SG(グルタル酸スクシンイミジル)、SS(コハク酸スクシンイミジル)、SC(炭酸スクシンイミジル)、SAP(アジピン酸スクシンイミジル)、又はSAZ(アゼライン酸スクシンイミジル)などの求電子基を使用することができ、これらは、加水分解的に不安定なエステル結合を有する。ピメリン酸エステル、スベリン酸エステル、アゼライン酸エステル、又はセバシン酸エステル結合などのより長い線状疎水性結合も使用でき、これらの結合は、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、又はアジピン酸エステル結合よりも分解性が低い。分岐鎖の、環式の、又は他の疎水性結合も使用できる。PEG、多糖、及び他の前駆体は、これらの基と共に調製され得る。架橋されたハイドロゲル分解は、水分解性材料が使用される場合、生分解性セグメントの水により推進される加水分解により進行し得る。エステル結合を含むポリマーセグメントは、所望の分解速度を与えるように含まれ得、分解速度を増加又は減少させるためにエステルの近くで基が追加又は引き去られる。このように、分解可能なセグメントを使用して、数日~数か月の所望の分解プロファイルを有するハイドロゲルを構築することが可能である。ポリグリコリドが生分解性セグメントとして使用される場合、例えば、架橋されたポリマーは、ネットワークの架橋密度次第で、約1~約30日で分解するように製造できる。同様に、ポリカプロラクトン系の架橋されたネットワークは、約1~約8か月で分解するように製造できる。分解時間は、一般的に、使用される分解可能なセグメントの種類により様々であり、以下の順序:ポリグリコリド<ポリラクチド<ポリトリメチレンカーボナート<ポリカプロラクトンである。いくつかの実施形態は、隣接するエステル基を含まず、且つ/又は前駆体の1つ若しくは複数に1アーム当たりに1つ以下のエステル基を有する前駆体を含み、エステルの数及び位置の制御は、ハイドロゲルの均一な分解を支援し得る。
【0077】
親水性ポリマー、例えばポリエチレングリコール(PEG)によって形成される分子ネットワーク(マトリックスとも呼ばれる)は、下記の架橋反応スキームにより表すことができる。
【化1】
【0078】
ここで、PEG1及びPEG2は、1つのみのアームが示されるマルチアーム型ポリエチレングリコールであるが、ネットワークに対する接続性は、PEG1及びPEG2上の他のアームを介して実現される。記号Sは、窒素(N)と結合して、スクシンイミド基、NSを形成する環状コハク酸エステル基である。PEG2は、任意の多機能性第1級アミン、例えば4つの第1級アミン基を担持するトリリシンで置換され得ることに留意されたい。求核性第1級アミンがN-ヒドロキシスクシンイミド(HO-NS)脱離基を置換してアミド架橋結合を形成するとき、架橋が起こる。反復メチレン((CH
2)
n)基の長さは、水への曝露時、隣接するエステル結合の加水分解速度を制御する。加水分解反応は、下記のスキームで示される。
【化2】
【0079】
ここで、架橋は、エステルへの水分子の添加により切断されてPEGを互いに解放する。PEG分子自体は、末端基がPEG1からPEG2にシフトしたこと以外には改変されない。この架橋切断反応は、分子ネットワーク全体を通して起こり、最後に末端基シフト以外には不変の出発PEG1及びPEG2分子が得られる。これらの反応の加水分解産物は、非毒性である。
【0080】
メチレン鎖((CH2)n)の長さは、エステル結合に直接つながるドメインの疎水性を制御することにより、エステル加水分解の速度を制御する。疎水性は、メチレン鎖が長いほど増大するため、加水分解の速度は、エステルに対する水の接触性の障害増加によって低下する。従って、構造PEG1-O-C(O)-(CH2)n-C(O)-NH-PEG2において、下のリストは、分解に対するメチレン鎖延長の作用を例示する。
【0081】
【0082】
また、これらの結合の架橋速度は、同じ順序に従い、この場合、NHSエステルに対する第1級アミンのアプローチは、より長いメチレン鎖により妨害される。前駆体エステルポリマーの標準命名法では、架橋及び加水分解の速度は、いずれも以下の通りである:PEG SS>PEG SG>PEG SAP>PEG SAZ。下の表にハイドロゲル及びその分解時間のいくつかの例を挙げる。
【0083】
【0084】
当業者は、本明細書におけるガイダンスに従って、1週間~2年の送達時間に合わせてこれらの時間を延長することができ、これは、本明細書に記載のような所望のIRR設計要素に合わせた時間を含む。
【0085】
薬剤は、生分解性ビヒクル、例えばマイクロ粒子内にあり得る。内部に活性薬剤が存在する生分解性ビヒクルとして、封入ビヒクル、例えばマイクロ粒子、マイクロスフェア、マイクロビーズ、マイクロペレットが挙げられ、ここで、活性薬剤は、分解可能な材料、例えば下記のポリマー及びコポリマーなどの生浸食性又は生分解性ポリマー中に封入される:ポリ(無水物)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(ラクトン)、ポリ(炭酸トリメチレン)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸)-コ-ポリ(グリコール酸)(PLGA)、ポリ(オルトカルボナート)、ポリ(カプロラクトン)、フィブリン糊又はフィブリンシーラントなどの架橋生分解性ハイドロゲルネットワーク、シクロデキストリンなどのケージング及び捕捉分子、分子篩など。ポリ(ラクトン)及びポリ(ヒドロキシ酸)のポリマー及びコポリマーから製造されるマイクロスフェアは、生分解性封入ビヒクルとして特に好ましい。薬剤及び分解可能な材料の量は、分解時間及び放出速度を含む、粒子及び薬剤の意図される具体的な用途に照らして選択することができる。粒子の含有率は、重量又は体積基準で例えば0.5~約80%の範囲であり得る。本開示を読む当業者は、本明細書に記載するデポからの治療薬剤放出が、薬剤を封入するマイクロ粒子材料の生分解速度を制御するようにマイクロ粒子製剤を調節することによりモジュレートできることを認識するであろう。
【0086】
例えば、PLA及びPLGA製剤に関して、この分解モジュレーションは、コポリマーラクチド:グリコリド比;無水(D,L-ラクチド)又は結晶性(L-ラクチド)ポリマー形態;ポリマー分子重量;エステル又は酸末端基化学;マイクロ粒子粒径;及びマイクロ粒子内への薬剤充填の調節によって達成することができる。さらに、これらのマイクロ粒子を必要に応じてブレンドして、適合した薬物放出速度を達成することもできる。
図7は、実施例1のプロセスに従って製造された様々な製剤について、1.5~5ヵ月までのデポから薬剤(トラボプロスト)の放出の範囲を示す。より高いグリコリド含有率、酸性末端基、より低い分子量、より微小なマイクロ粒子、非晶質形態及びより高い薬物負荷を有する製剤は、より高い薬物放出速度をもたらす。より低い(又はゼロの)グリコリド含有率、エステル末端基、より高い分子量、より大きいマイクロ粒子、結晶性形態及びより低い薬物負荷を有する製剤は、より遅い薬物放出速度をもたらす。より短い又はより長い薬物放出時間が実証された市販の持続放出製剤が存在する。例えば、前立腺癌の治療に使用されるLUPRON DEPOTは、上に記載した分解速度選択ガイダンスを用いて、1ヵ月間7.5mg又は6ヵ月間45mg PLAの用量のいずれかで製剤化することができる。結晶性、高分子量、エステル末端基ポリラクチドのインビボ生分解持続時間は、医療デバイスの場合、最大3年であることが実証されている。
【0087】
オルガノゲル、及び/又はキセロゲル、及び/又はハイドロゲル、及び/又はゲル、及び/又は前駆体の生分解性結合は、水分解性又は酵素分解性であり得る。例示的な水分解性生分解性結合としては、グリコリド、dl-ラクチド、l-ラクチド、ジオキサノン、エステル、炭酸エステル、及び炭酸トリメチレンのポリマー、コポリマー及びオリゴマーが挙げられる。例示的な酵素的生分解性結合として、メタロプロテイナーゼ及びコラゲナーゼにより切断可能なペプチド結合が挙げられる。生分解性結合の例として、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリ(オルトカルボナート)、ポリ(無水物)、ポリ(ラクトン)、ポリ(アミノ酸)、ポリ(カルボナート)、及びポリ(ホスホネート)のポリマー及びコポリマーが挙げられる。
【0088】
粒子は、長期にわたって分解するように選択することができ、これにより高用量の薬剤を導入してゆっくりと放出させることができる。例えば、臨床試験において、緑内障の治療に使用されるビマトプロストを前房内投与により送達させたところ、4ヵ月までのIOP低減をもたらすことが実証された(Charters,L.Ophthalmology Times,August 01,2016;ビマトプロストは、10μg用量を有する)。本明細書に記載のいくつかの実施形態は、ヒト小柱網受容体についてビマトプロストより約7~50倍強力なトラボプロスト酸を充填したマイクロ粒子の使用に関する。力価の差のために、ビマトプロスト(LUMIGAN)は、通常、1日1回0.03%の濃度で局所投与されるが、トラボプロスト(TRAVATAN)は、通常、より低い濃度0.004%で投与される。プロスタグランジン受容体のトラボプロスト酸の方が力価は、高いため、エステル末端基高分子量ポリラクチドで又はポリカプロラクトンから製造されたマイクロ粒子から2年にわたって送達される低用量(10~100μg)は、有効性及びIOP低下のために十分な治療量を送達する。
【0089】
デポの形成
複合デポは、前駆体から架橋マトリックスを形成するステップを含むプロセスにより製造される。「1つの(a)」という用語は、1つ又は複数を意味する。デポという用語は、複合デポを包含する。ハイドロゲル又はオルガノゲル又はキセロゲルは、前駆体を互いに架橋することによって形成されるマトリックスを有し、このようにしてハイドロゲル又はオルガノゲルが生成され、これらは、後にキセロゲルに変化し得る。薬剤、粒子又は他の材料は、ハイドロゲル又はキセロゲル中にあり得るが、マトリックスの一部ではない。複合デポは、ハイドロゲルと、薬剤を含む粒子とを有し、薬剤は、粒子から放出される。粒子は、放出マトリックスを提供する。放出マトリックスは、治療薬剤の周りに粒子を生成する材料を指し、薬剤は、放出マトリックスから放出される。ハイドロゲル又はオルガノゲルマトリックスの形成については、上で説明されている。こうしたマトリックス、それらの内部の薬剤は、複合デポ又は他のデポのための所望のサイズ及び形状を達成するように型で製造するか、鋳造するか、表面上で製造するか、又は他の方法で調製することができる。デポは、直接製造され得るか、又はより大きい材料から、機械加工、切断、さいの目切断により、又は大きい材料を所望のサイズ及び形状に成形することによって製造することもできる。
【0090】
マトリックスは、形成前、形成中、又は形成後に延伸又は収縮に付され得る。例えば、
図2では、マトリックスは、初めにハイドロゲル又はオルガノゲルとして形成される。一実施形態では、次に、このオリジナルマトリックスを長く引き伸ばす。オリジナルとは、形成時のマトリックスを意味する。この実施形態及び他の実施形態では、延伸前、延伸中、又は延伸後に溶媒を除去してキセロゲルを形成し得る。別の実施形態では、一定の長さに維持しながら、オリジナルマトリックスを乾燥させ、異なる寸法にそれを収縮させる。続いて、例えば、延伸によりキセロゲルをさらに加工し得る。別の実施形態では、オリジナルマトリックスを乾燥させ、あらゆる寸法に収縮させ、得られたキセロゲルをそのままの状態で使用するか、又はそれをさらに加工する、例えば延伸することにより、その長さを延ばす。
【0091】
図3では、マトリックス、例えばハイドロゲル又はオルガノゲルから調製されたキセロゲルは、生理液又は他の水性媒体に曝露された後、形状の変化を被る。例えば、キセロゲルは、長さが減少するか、他の寸法が増加するか、長さが増加するか、又は同じ長さであり得る。マトリックスの延伸を用いて架橋マトリックスを並列させ、寸法の変化を駆動するアラインメント又は他の配向をもたらす架橋前駆体のネットワークを生成することができる。米国特許出願公開第2017/0143636号明細書は、水性、例えば生理液への曝露に応答する形状変化を制御するための様々な材料及び方法を記載している。
【0092】
図5は、複合デポを形成する、薬剤含有粒子を含む架橋マトリックスを製造するプロセスの一例を示す。所望のサイズ及び特徴の粒子を選択して、ハイドロゲル前駆体と組み合わせ、この混合物を型、例えばチューブに導入し、そこで前駆体(又は複数の前駆体)が反応して(自発的に又は反応を開始されて)、薬物充填マイクロ粒子が埋め込まれた架橋マトリックスを形成する。マトリックスの延伸又は他の加工を実施し、マトリックスを乾燥させた後、型からの取り出し前又は後のいずれかに所定サイズに切断する。乾燥前、乾燥中、又は乾燥後にハイドロゲルを延伸するか、又はそれ以外で加工することができる。得られたデポをさらに処理することができ、例えばパッケージングするか、キット内に詰めるか、又はアプリケーター中に配置することができる。
【0093】
図6は、複合デポを示す。架橋マトリックスは、水溶液中でハイドロゲルを形成する。ハイドロゲルは、複数の粒子集団を含む。粒子は、それらを取り囲むハイドロゲル中に埋め込まれている。集団は、それぞれ独立に、サイズ、材料及び薬剤から選択される特性を有する。集団A、B、C、及びDが示され、集団は、異なるサイズを有する。集団のメンバーの分解速度が異なる、且つ/又はそれらが放出する薬剤が異なる。マイクロ粒子が薬物を送達すると、ハイドロゲル及びマイクロ粒子は溶解する。
【0094】
デポは、治療薬剤の安全性及び有効性に不可欠である。薬剤は、毒性を回避すると共に、意図される使用時間にわたって有効濃度を供給するために制御速度で放出されなければならない。デポは、薬学的に許容可能であり、適切な化学を有し、材料は、好適な分解速度、殺菌、不要な副反応の回避を達成するように、且つ分解して非毒性分解産物をもたらすように選択される。分解産物は、それ自体が非毒性であり且つ水溶性であるべきであり、これにより、それらが投与の局所部位からの流体流出により眼又は身体の他の位置から排出されて、分子を排出するための身体の自然過程、例えば腎臓系などに曝露され得る。デポは、過度な反応異物反応又は他の不要な細胞結合を回避するために生体適合性を付与するハイドロゲルである。当業者は、産物が非毒性であることを決定するために、毒性レベルを決定することに習熟している。デポ、及び/又はマトリックス、及び/又はキセロゲル、及び/又は粒子は、照射又は他の好適な手段により殺菌され得る。
【0095】
薬剤の充填;粒子の調製
架橋ハイドロゲルマトリックスには、薬剤又はハイドロゲル内に間接的に配置される1つ又は複数の薬剤が充填される。間接的充填が好ましく、これにより、ハイドロゲルではなく放出マトリックスの分解により放出を制御することができる。
【0096】
間接的充填プロセスは、例えば、薬剤を粒子状マトリックス又はレザバー内に配置し、それらの周りにハイドロゲル又はオルガノゲルマトリックスを形成することにより、薬剤が粒子又はレザバー内部にあり、形成時にハイドロゲル又はオルガノゲルマトリックスと直接接触しないようにするものである。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の薬剤は、前駆体が反応するとき、分離相に存在する。分離相は、油(水中油型エマルジョン)、又は非混和性溶媒、リポソーム、ミセル、生分解性ビヒクルなどであり得る。生分解性材料及び粒子については、上で述べられている。
【0097】
治療薬剤又は封入治療薬剤は、マトリックス中に直接又は間接的に、例えばマイクロ粒子中など、溶液中又は懸濁形態で存在し得る。ある薬剤は、高度に可溶性であるが、他の薬剤は、水溶液中にほぼ不溶性であり、水性媒体に曝露されるとそれ自体の相を形成することができる。さらに、結合剤、非ペプチドポリマー、界面活性剤、油、脂肪、蝋、疎水性ポリマー、4つのCH2基より長いアルキル鎖を含むポリマー、リン脂質、ミセル形成ポリマー、ミセル形成組成物、両親媒性物質、多糖、3つ以上の糖からなる多糖、脂肪酸、及び脂質の1つ又は複数を含まない粒子を製造し得る。凍結乾燥、噴霧乾燥又は他の方法で加工されたタンパク質は、タンパク質を調製するために用いられる凍結乾燥又は他のプロセスを通してタンパク質を安定化させるために、トレハロースなどの糖類と一緒に製剤化されることが多い。これらの糖類は、オルガノゲル/キセロゲルプロセス全体を通して粒子中に残り得る。粒子は、約20%~約100%(乾燥w/w)の薬剤を含むように製造することができ、当業者は、明示された範囲内のあらゆる範囲及び値、例えば約50%~約80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも約99%が企図されることを直ちに認識するであろう。薬剤は、粉末として調製され得、粉末粒径は、デポ又はハイドロゲル/オルガノゲル/キセロゲル粒子のサイズを考慮して選択される。薬剤の有機溶媒は、薬剤が有機溶媒によって溶媒和されず、タンパク質と適合性であるように選択され得る。別の因子は、酸素であり、酸素の排除は、感受性薬剤の変性を回避するために加工において有用である。別の因子は、化学反応である。いくつかの実施形態では、オリジナルマトリックスの形成中、薬剤を分離相に維持するか、粒子内に封入するか、又はデポ使用などの時期まで、薬剤を固相内において、薬剤を溶解させる溶媒と接触しないように維持することにより、前駆体との反応を回避する。
【0098】
ゲル、又はオルガノゲル、又はハイドロゲルを形成し、次いで粒子に粉砕し、それをその後処理して、有機又は水性の溶媒又は複数の溶媒を除去することにより、キセロゲルを形成することができる。注射剤の形態の場合、オルガノゲル又はハイドロゲルは、冷浸されるか、均質化されるか、押し出されるか、スクリーニングされるか、細断されるか、さいの目に切断されるか、又は他の方法で粒状形態にすることができる。或いは、オルガノゲル又はハイドロゲルは、液滴としても、懸濁しているタンパク質粒子を含む成形品としても形成することができる。そのような粒子を製造する1つのプロセスは、分解されて粒子を形成する材料を生成するステップを含む。1つの技法は、タンパク質粒子と一緒にオルガノゲル又はハイドロゲルを調製するステップと、例えばボールミルで又はモータ及び乳棒を用いてそれを粉砕するステップとを含む。マトリックスは、ナイフ又はワイヤーを用いて細断されるか又はさいの目に切断され得る。或いは、マトリックスは、ブレンダー又はホモジナイザーで切断され得る。別のプロセスは、オルガノゲルをメッシュに押し通して、断片を収集し、所望のサイズに達するまで同じメッシュ又は別のメッシュに通すステップを含む。
【0099】
これらの粒子は、種々の方法により、所望の粒径範囲及び粒度分布を有する集合に分離され得る。非常に精密な分粒の制御が利用可能であり、粒径は、1ミクロン~数mmの範囲であり、粒径の平均及び範囲は、狭幅分布により制御可能である。当業者は、明示された範囲内のあらゆる範囲及び値、例えば約1~約10μm又は約1~約30μmが企図されることを直ちに認識するであろう。約1~約500ミクロンは、有用であるそのような別の範囲であり、サイズは、範囲全体に及び範囲内の1つの値の平均サイズを有し、標準偏差が平均値の周辺に集中し、例えば約1%~約100%である。粒子を分粒する簡単な方法は、特別注文又は標準化された篩メッシュサイズを利用することを含む。
【0100】
粒子という用語は、本明細書において広義に使用され、小さい(すなわち最大寸法が約0.1mm未満である)送達ビヒクルを指す。粒子は、任意の形状、例えば球形、偏円、楕円、円柱状、円板状、管状、半球形、又は不規則な形状の粒子を含み得る。回転楕円体粒子は、最も長い中心軸(粒子の幾何学中心を通る直線)が、他方の中心軸の長さの約2倍を超えない粒子を指し、粒子は、文字通り球形であるか、又は不規則な形状を有する。円柱状粒子は、縦中心軸が最も短い中心軸の長さの約2倍を超える粒子を指す。実施形態は、インビボでの分解速度が異なる集合を含む複数の粒子の集合を製造するステップと、所望の分解性能を有する生体材料を製造するために集合を混合するステップとを含む。
【0101】
図4は、粒子を製造するプロセスの一例を示す。この実施形態において、薬剤を溶媒中に懸濁させて混合物を形成する。分解可能な材料が混合物に添加され、これは、分散相と呼ばれる。連続相が分散相と混和性ではないように連続相混合物を調製し、選択する。2つの混合物を混合すると、分散相は、薬剤を含有する分離相を形成する。分散相から溶媒を除去するために、このプロセスを継続し得る。得られた粒子は、分散相であり、これらを収集し、必要に応じて例えばこれらを洗浄し、所望のサイズを選択することにより処理する。次に、粒子を使用するか、又は例えば凍結乾燥及び/若しくは凍結により使用又は保存のためにさらに処理し得る。
【0102】
デポ及び粒子の分解
複合デポのいくつかの実施形態は、3つの必須成分、1)ハイドロゲルマトリックス、2)薬物放出マトリックス、すなわち治療薬剤を含むマイクロ粒子の製造に使用するためのポリマー、及び(3)薬剤自体を用いて製造される。一実施形態は、3つの主要成分:1)生分解性ハイドロゲルマトリックス、2)生分解性持続放出ポリマー(PLGA、PLAなど)、及び3)活性原薬から構成されるデポである。各成分は、異なるインビボ持続性を有し、所望の転帰のために製剤化することができる。~から本質的に構成されるという用語は、表示される特徴を有すると共に、安全性又は有効性を妨害しない限り他の要素も存在し得る組成物を指し、そうした要素の例として、塩、治療薬剤用の賦形剤、及び視覚化剤がある。
【0103】
マイクロ粒子の分解可能な材料は、所定の期間にわたって所望の用量の薬物を送達するのに好適な速度で分解するように選択することができる。バルクハイドロゲルマトリックス材料の場合、薬物が送達される時間より短い、より長い、又はそれと同等の期間にわたって持続するように選択することができる。これらの関係は、上でIRRに関して論じられており、これにより、インビボでの持続性のためにハイドロゲルマトリックスとマイクロ粒子からの薬物放出が同期され、ハイドロゲルマトリックスのない状態で注射部位での反復投与を可能にし得る。この実施形態は、ハイドロゲルマトリックスが固体残留物を残さないため、反復投与に十分な空間を付与する。対照的に、多くの市販の固体PLGA又はPLAインプラントは、薬物が放出された後、長い間にわたってシェル又は外皮の残屑である残留物を残す。例えば、持続放出非経口投与の多くの事例では、薬物放出速度よりもロッドインプラント又は局在化マイクロ粒子のインビボ生分解性速度が遅いため、注射位置が反復投与間で変化する。デポ残留物保持指数は、薬物送達後にこうしたシェルが残存する時間の尺度である。
【0104】
薬剤は、放出マトリックスを提供する分解可能な粒子内に配置され得る。粒子は、薬剤自体、例えば固体若しくは液体であり得、又は粒子は、分解可能な材料をさらに含み得る。又は、薬剤は、任意の形態、液体若しくは固体でデポ内に直接存在し得る。或いは、薬剤は、粒子内及びキセロゲル又はハイドロゲルマトリックス内に直接分散した両方で存在し得る。薬剤は、最初の期間中、前眼房内又は他の部位に有効な濃度の薬剤を供給するように放出される。放出は、予定された時間の第1の期間中に放出を提供する制御放出である。粒子及びハイドロゲルマトリックス材料並びに他の成分は、ハイドロゲルの加水分解及び腐食が薬剤の放出の律速段階ではないように選択することができる。粒子、前駆体、デポ、分解可能な材料、薬剤、及び他の考えられる要素について、本明細書の他の箇所で詳細に述べる。
【0105】
薬剤
複合デポは、治療薬剤を含む。薬剤は、医療用途、例えば医学的状態を治療すること、疾患を治療すること、患者の快適さを提供すること、痛みの抑制、美容、又は他の用途を目的とするものであり得る。医学的状態は、疾患を含む用語である。プロテーゼ又はコーティングに薬剤を配置する従来のプロセスを使用し得る。プロテーゼ又はコーティングの製造時又はその後に薬剤を導入し得る。また、薬剤は、放射線療法又は医用イメージングに使用するためのものであり得る。例えば、放射性インプラント、放射線療法薬、小線源療法インプラント、トキシン、抗癌剤である。さらに、例えば、放射線用のイメージング剤である。
【0106】
治療薬剤には、例えば、炎症性又は異常な血管の状態から生じ得る病態、網膜静脈閉塞症、地図状萎縮、色素性網膜炎、網膜芽細胞腫などを治療するための薬剤がある。癌の場合、薬剤は、例えば、抗癌薬、抗VEGF、又は癌治療に使用されることが知られている薬物であり得る。
【0107】
治療薬剤は、例えば、抗VEGF剤、VEGFR1遮断剤、VEGFR2遮断剤、VEGFR3遮断剤、抗PDGF剤、抗血管新生剤、スニチニブ、E7080、Takeda-6d、チボザニブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、パゾパニブ、アキシチニブ、ニンテダニブ、セジラニブ、バタラニブ、モテサニブ、マクロライド、シロリムス、エベロリムス、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、イマチニブ(グリーベック)ゲフィニチブ(イレッサ)、トセラニブ(パラディア)、エルロチニブ(タルセバ)、ラパチニブ(タイケルブ)ニロチニブ、ボスチニブ、ネラチニブ、ラパチニブ、バタラニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、ニロチニブ、セマクサニブ、トセラニブ、バンデタニブであるものであり得る。
【0108】
治療薬剤は、高分子、例えば抗体又は抗体断片を含み得る。治療用の高分子は、VEGF阻害剤、例えばラニビズマブ、市販のルセンティス(商標)中の有効成分を含み得る。VEGF(血管内皮細胞成長因子)阻害剤は、眼の硝子体液中に放出されると、異常な血管の退縮及び視力の改善を起こすことができる。VEGF阻害剤の例には、ルセンティス(商標)(ラニビズマブ)、アイリーア(商標)(VEGFトラップ)、アバスチン(商標)(ベバシズマブ)、マクジェン(商標)(ペガプタニブ)がある。血小板由来成長因子(PDGF)阻害剤、例えばフォビスタ(商標)、抗PGDFアプタマーも送達できる。
【0109】
治療薬剤は、ステロイド又はコルチコステロイド及びそのアナログなどの小分子も含み得る。例えば、治療用コルチコステロイドは、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステル、フルオシノロン、フルオシノロン酢酸エステル、エタボン酸ロテプレドノール、又はそのアナログの1つ以上を含み得る。或いは又は組み合わせで、治療薬剤の小分子は、チロシンキナーゼ阻害剤を含み得る。
【0110】
治療薬剤は、抗VEGF治療薬剤を含み得る。抗VEGF剤の療法及び薬剤を特定の癌の治療において及び加齢黄斑変性において使用できる。本明細書に記載される実施形態による使用に好適な抗VEGF治療薬剤の例には、ベバシズマブ(アバスチン(商標))などのモノクローナル抗体若しくはラニビズマブ(ルセンティス(商標))などの抗体誘導体、又はラパチニブ(タイケルブ(商標))、スニチニブ(スーテント(商標))、ソラフェニブ(ネクサバール(商標))、アキシチニブ、若しくはパゾパニブなど、VEGFにより刺激されるチロシンキナーゼを阻害する小分子の1つ以上がある。
【0111】
治療薬剤は、シロリムス(商標)(ラパマイシン)、コパキソン(商標)(グラチラマー酢酸塩)、オセラ(Othera)(商標)、補体C5aRブロッカー、毛様体神経栄養因子、フェンレチニド又はレオフェレシス(Rheopheresis)の1つ以上など、ドライ型AMDの治療に好適な治療薬剤を含み得る。
【0112】
治療薬剤は、REDD14NP(クォーク(Quark))、シロリムス(商標)(ラパマイシン)、ATG003;EYELEA(VEGFトラップ)又は補体阻害剤(POT-4)の1つ以上など、ウェット型AMDの治療に好適な治療薬剤を含み得る。
【0113】
治療薬剤は、BIBW 2992(EGFR/Erb2を標的にする小分子)、イマチニブ(小分子)、ゲフィチニブ(小分子)、ラニビズマブ(モノクローナル抗体)、ペガプタニブ(小分子)、ソラフェニブ(小分子)、ダサチニブ(小分子)、スニチニブ(小分子)、エルロチニブ(小分子)、ニロチニブ(小分子)、ラパチニブ(小分子)、パニツムマブ(モノクローナル抗体)、バンデタニブ(小分子)又はE7080(VEGFR2/VEGFR2を標的にする、Esai,Co.から市販の小分子)の1つ又は複数などのキナーゼ阻害剤を含み得る。治療薬剤は、抗体薬物、例えばベバシズマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、及びパニツムマブを含み得る。
【0114】
治療薬剤は、種々のクラスの薬物を含み得る。薬物には、例えば、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、抗癌薬、抗生物質、抗炎症薬(例えば、ジクロフェナク)、鎮痛剤(例えば、ブピバカイン)、カルシウムチャネル遮断剤(例えば、ニフェジピン)、抗生物質(例えば、シプロフロキサシン)、細胞周期阻害剤(例えば、シンバスタチン)、タンパク質(例えば、インスリン)がある。治療薬剤は、例えば、ステロイド、NSAIDS、抗酸化剤、抗生物質、鎮痛剤、血管内皮細胞成長因子(VEGF)の阻害剤、化学療法剤、抗ウイルス薬を含む複数のクラスの薬物を含み得る。NSAIDSの例は、イブプロフェン、メクロフェナム酸ナトリウム、メファナム酸(mefanamic acid)、サルサレート、スリンダク、トルメチンナトリウム、ケトプロフェン、ジフルニサル、ピロキシカム、ナプロキセン、エトドラク、フルルビプロフェン、フェノプロフェンカルシウム、インドメタシン、セロキシブ(celoxib)、ケトロラック、及びネパフェナクである。薬物自体は、小分子、タンパク質、RNA断片、タンパク質、グリコサミノグリカン、炭水化物、核酸、無機及び有機の生物活性のある化合物であり得、具体的な生物活性薬剤には、酵素、抗生物質、抗新生物剤、局所麻酔、ホルモン、血管新生剤、抗血管新生剤、成長因子、抗体、神経伝達物質、向精神薬、抗癌薬、化学療法薬、生殖器に影響する薬物、遺伝子、及びオリゴヌクレオチド、又は他の構成があるが、これらに限定されない。
【0115】
治療薬剤は、タンパク質又は他の水溶性生物製剤を含み得る。これらは、様々な分子量のペプチドを含む。ペプチドには、治療用のタンパク質及びペプチド、抗体、抗体断片、短鎖可変断片(scFv)、成長因子、血管新生因子、及びインスリンがある。他の水溶性生物製剤は、炭水化物、多糖類、核酸、アンチセンス核酸、RNA、DNA、低分子干渉RNA(siRNA)、及びアプタマーである。
【0116】
治療薬剤は、示された病態を治療する方法又は示された病態を治療するための組成物を製造する方法の一部として使用できる。例えば、AZOPT(ブリンゾラミド眼科用懸濁剤)を高眼圧又は開放隅角緑内障の患者の眼内圧亢進の治療の治療に使用できる。ポビドン-ヨウ素眼科用液剤中のベタジンを眼球周囲領域の準備をすること(prepping)及び眼表面の洗浄に使用できる。ベトプティック(ベタキソロールHCl)を、眼内圧を下げるために又は慢性開放隅角緑内障及び/若しくは高眼圧に使用できる。シロクサン(シプロフロキサシンHCl眼科用液剤))を使用して、感受性のある微生物の株により起こる感染症を治療できる。ナタシン(ナタマイシン眼科用懸濁剤)を真菌性眼瞼炎、結膜炎、及び角膜炎の治療に使用できる。ネバナック(ネパンフェナック(Nepanfenac)眼科用懸濁剤)を白内障手術に関連する疼痛及び炎症の治療に使用できる。トラバタン(トラボプロスト眼科用液剤)を、眼内圧亢進を下げるために使用できる - 開放隅角緑内障又は高眼圧。FML FORTE(フルオロメトロン眼科用懸濁剤)を眼瞼及び眼球結膜、角膜及び眼球前部のコルチコステロイド反応性炎症の治療に使用できる。ルミガン(ビマトプロスト眼科用液剤)を、眼内圧亢進を下げるために使用できる - 開放隅角緑内障又は高眼圧。プレド・フォルテ(酢酸プレドニゾロン)を眼瞼及び眼球結膜、角膜及び眼球前部のステロイド反応性炎症の治療に使用できる。プロピン(ジピベフリン塩酸塩)を慢性開放隅角緑内障における眼内圧の制御に使用できる。レスタシス(シクロスポリン眼科用乳剤)を使用して、患者、例えば乾性角結膜炎と関連する眼炎症を有する患者の涙液産生を増加させることができる。アルレックス(ALREX)(エタボン酸ロテプレドノール眼科用懸濁剤)を季節性アレルギー性結膜炎の一時的な緩和に使用できる。ロテマックス(エタボン酸ロテプレドノール眼科用懸濁剤)を眼瞼及び眼球結膜、角膜及び眼球前部のステロイド反応性炎症の治療に使用できる。マクジェン(ペガプタニブナトリウム注射液)を血管新生(ウェット型)加齢黄斑変性の治療に使用できる。オプティバール(アゼラスチン塩酸塩)をアレルギー性結膜炎と関連する眼の痒みの治療に使用できる。キサラタン(ラタノプロスト眼科用液剤)を使用して、例えば開放隅角緑内障又は高眼圧を有する患者の眼内圧亢進を低下させることができる。ベチモール(チモロール眼科用液剤)を、高眼圧又は開放隅角緑内障を有する患者の眼内圧亢進の治療に使用できる。ラタノプロストは、遊離酸形態のプロドラッグであり、プロスタノイド選択的FP受容体作動剤である。ラタノプロストは、緑内障患者の眼内圧を下げ、副作用がほとんどない。ラタノプロストは、水溶液に対して溶解度が比較的低いが、溶媒蒸発を利用して典型的にミクロスフィアの製造に利用される有機溶媒には容易に溶ける。
【0117】
送達のための治療薬剤のさらなる実施形態には、標的ペプチドとインビボで特異的に結合して、標的ペプチドと天然の受容体又は他のリガンドとの相互作用を防ぐものがある。例えば、アバスチン(AVASTIN)は、VEGFと結合する抗体である。IL-1受容体の細胞外ドメインを利用するIL-1トラップも公知であり、トラップは、IL-1が細胞表面の受容体に結合し活性化させることを阻止する。送達のための薬剤の実施形態は、核酸、例えばアプタマーを含む。ペガプタニブ(マクジェン(MACUGEN))は、例えば、ペグ化された抗VEGFアプタマーである。粒子及びハイドロゲルの送達プロセスの利点は、アプタマーが放出されるまでインビボ環境から保護されることである。送達のための薬剤のさらなる実施形態には高分子薬物があり、これは、古典的な小分子薬物よりも著しく大きい薬物を指す用語であり、すなわちオリゴヌクレオチド(アプタマー、アンチセンス、RNAi)、リボザイム、遺伝子治療核酸、組換え型ペプチド、及び抗体などの薬物である。
【0118】
一実施形態は、アレルギー性結膜炎のための医薬品の延長放出を含む。例えば、ケトチフェン、抗ヒスタミン剤及び肥満細胞安定剤は、粒子中に与えられて、アレルギー性結膜炎を治療する有効量で本明細書に記載される通り眼に放出され得る。季節性アレルギー性結膜炎(SAC)及び通年性アレルギー性結膜炎(PAC)はアレルギー性結膜疾患である。症状には、かゆみ及びピンクから赤色の眼がある。これらの2つの眼の状態は肥満細胞により媒介される。症状を改善する非特異的な処置には、従来、冷湿布、代用涙液による洗眼、及びアレルゲンの回避がある。治療は、従来、抗ヒスタミン肥満細胞安定剤、二重機構抗アレルゲン剤、又は局所抗ヒスタミン剤からなる。コルチコステロイドは有効であり得るが、副作用のため、春季角結膜炎(VKC)及びアトピー性角結膜炎(AKC)などのより重症な形態のアレルギー性結膜炎のために控えられている。
【0119】
オキシフロキサシン(Oxifloxacin)は、ベガモックス中の有効成分であり、眼の細菌感染の治療又は予防に使用するために認可されたフルオロキノロンである。VKC及びAKCは、好酸球、結膜線維芽細胞、上皮細胞、肥満細胞、及び/又はTH2リンパ球が結膜の生化学的特徴及び組織構造を悪化させる慢性アレルギー性疾患である。VKC及びAKCは、アレルギー性結膜炎を抑制するために使用される医薬により治療できる。浸透剤は作用物質であり、やはり本明細書に記載されるゲル、ハイドロゲル、オルガノゲル、キセロゲル、及び生体材料に含めることができる。これらは、意図される組織への薬物の浸透を支援する作用物質である。浸透剤は、組織に対して必要に応じて選択でき、例えば皮膚用の浸透剤、鼓膜用の浸透剤、及び眼用の浸透剤である。
【0120】
薬剤は、眼底疾患の治療剤であり得、例えば、眼底疾患は、加齢黄斑変性(AMD)、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、後部ぶどう膜炎、及び糖尿病性網膜症、又は緑内障である。
【0121】
薬剤は、抗VEGF剤、VEGFR1遮断剤、VEGFR2遮断剤、VEGFR3遮断剤、抗PDGF剤、抗PDGF-R剤PDGFRβ遮断剤、抗血管新生剤、スニチニブ、E7080、Takeda-6d、チボザニブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、パゾパニブ、アキシチニブ、ニンテダニブ、セジラニブ、バタラニブ、モテサニブ、マクロライド、シロリムス、エベロリムス、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、イマチニブ(Imatinibn)、ゲフィニチブ、トセラニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、ネラチニブ、ラパチニブ、バタラニブを含み、緑内障のための難溶性プロスタグランジン類似体、ネパフェナク、マクロライド、ラパマイシン、シロリムス、タクロリムスであり得、例えば、薬剤は、それらを含み、又はAMD(脈絡膜新生血管(CNV)としても知られる)のためにmTOR受容体を遮断するうえで役立つ。mTORは、ラパマイシンの哺乳動物標的を指す。薬剤は、例えば、モキシフロキサシン、デキサメタゾン、トラボプロスト、ステロイド、フルオロキノロン、プロスタグランジン類似体、プロスタミドであり得る。
【0122】
デポ及び充填の例
複合デポは、意図される使用部位に適したサイズ及び形状に製造することができる。AC内又は他の部位での使用に好適なデポの一実施形態は、架橋デポであり、これは、ハイドロゲルとして、平衡含水比で1mm未満の直径を有する。デポの長さは、例えば、0.1~10mmであり得、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10mmのいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。長さは、長さ、幅及び厚さを有するデポの最も長い寸法であり、直径は、2番目に長い寸法を指す。円筒の場合、幅及び厚さは、同じになる。直径という用語は、幅及び厚さの長い方を指す。長さ、幅、厚さ又は直径の1つ又は複数は、例えば、0.1~10mm又はより大きい部位の場合には5~500mmであり得、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100mmのいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。明らかなように、長さ、幅、厚さ及び直径の1つ又は複数の寸法は、1~100mm未満であり得、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.8、1.9、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100mmのいずれも上限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。
【0123】
デポは、薬剤を含む粒子を含んでも又は含まなくてもよい。粒子は、例えば、マイクロ粒子及び/又はナノ粒子であり得る。マイクロ粒子又はナノ粒子は、例えば、直径0.001~100ミクロン未満を有し得、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、0.001、0.01、0.1、0.2、0.5、1、1.5、2、5、10、15、20、30、35、38、40、40未満のいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。これらの粒径は、粒子の一部、又は粒子の全部、又は薬剤含有粒子の全部に該当し得る。マイクロ粒子は、これらの範囲内にあり、1~100ミクロンの直径、例えば1~55、1~20、又は10~53ミクロンの直径を有する。
【0124】
キセロゲルは、1~75%w/wの量の薬剤を含み得、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75のいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。キセロゲルには、好適な量の薬剤、例えば1~10,000マイクログラム(μg)である量の薬剤を有するデポを充填し得、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、1、2、3、4、5、10、50、100、200、300、400、500、1,000、2,000、5,000、10,000、50,000、又は100,000μgのいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。
【0125】
キセロゲル又はハイドロゲルは、好適な形状、例えば任意の形状、例えば球形、偏円、楕円、円柱状、円板状、管状、半球形、又は不規則な形状の粒子を有し得る。
【0126】
デポの容積は、例えば、0.1マイクロリットル(μl)~100ミリリットル(ml)であり得、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10μl又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、25、50、60、70、90、100mlのいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。
【0127】
明らかであるように、特徴の組合せを混合し、調和させることができ、例えば、ハイドロゲルは、円柱状であり、1mm以下又は1.6mm以下の直径を有する。又は、ハイドロゲルは、直径が1mm以下、又は1.5mm以下、又は1.6mm以下の円板状、球形、又は半球形である。種々のデポ、薬剤、材料、及びデポ内に薬剤を導入するための選択肢が本明細書の他の箇所に記載される。
【0128】
眼の病態
本明細書に記載される材料を使用して、薬物又は他の治療薬剤(例えば、イメージング剤又はマーカー)を眼又は近傍の組織に送達するためのデポを製造することができる。デポは、好ましくは、粒子が埋め込まれたマトリックス(キセロゲル又はハイドロゲル)を含む複合デポである。
【0129】
眼疾患は、前房出血、高眼圧、及び緑内障を伴う眼疾患を含み、これらは、前眼房デポによる治療対象の症状である。多くの薬剤が眼への送達に好適であり、例えば前房内注射で投与されるNSAID、ステロイド、抗緑内障薬、抗ウイルス薬、抗生物質、散瞳薬、及び抗真菌薬がある。
【0130】
病態のいくつかは、眼底疾患である。眼底疾患という用語は、努力傾注分野の当業者により認識されており、一般的に、網膜、黄斑又は脈絡膜の脈管構造及び完全性に影響を与え、視力障害、視覚喪失、又は失明をもたらす後部のあらゆる眼疾患を指す。後部の病態は、年齢、外傷、外科的介入、及び遺伝因子により生じ得る。いくつかの眼底疾患は、加齢黄斑変性(AMD)、嚢胞様黄斑浮腫(CME)、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、後部ぶどう膜炎、及び糖尿病性網膜症である。いくつかの眼底疾患は、黄斑変性又は糖尿病性網膜症など、望ましくない血管新生又は血管の増殖から生じる。これらの及び他の眼症状のための薬物治療選択肢は、デポからの薬剤の送達によって提供され得る。
【0131】
眼内への配置後、実施形態は、前眼房内に0.05~500ng/mLの濃度の薬剤を供給するデポを含む。虹彩角膜角に対する、特に開放角緑内障のためのデポは、例えば、直径0.2~1.5mm、長さ0.5~5mmであり得る。これらの寸法に関して、当業者は、明示される境界間のあらゆる範囲及び値が企図され、例えば、0.2、0.3、0.5、0.7、0.9、1、1.1、1.3、1.5mm(直径)又は0.5、0.6、0.8、1、1.2、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5mm(長さ)のいずれも上限又は下限として使用可能であることを直ちに認識するであろう。
【0132】
キット
キット又は系を調製することができる。キットは、医療スタッフがデポを使用するために必要な材料を含み得る。キットは、医学的に許容できる条件を使用して製造され、薬学的に許容できる無菌状態、純度及び調製物を有するデポを含む。キットは、必要に応じてアプリケーター及び指示書を含み得る。いくつかの実施形態では、キットは、少なくとも1つのデポとアプリケーターとを有する。キットは、例えば、デポ、デポの水和のための水性媒体、アプリケーター、ニードル、デポが予め充填されたアプリケーター若しくはニードル、デポの視覚化のための照明若しくは他の機械、手術器具、切断装置、局所薬物、又は局所鎮痛薬などの品目を含み得る。
【0133】
投与
薬剤を送達するために、本明細書に記載の材料を用いることができる。1つの適用モードは、デポを、ニードル、マイクロニードル、カニューレ、カテーテル、又は中空ワイヤーを通過させて所定の部位に到達させるものである。一部の部位、例えば眼内では慎重な投与プロセスが必要である。微小ニードル及び/又は限定的な長さのニードルを使用し得る。この作業は、有用である場合、拡大して、ステレオスコープ、誘導イメージング、又はロボット(例えば、Eindhoven University of Technologyにより記載される通り)を用いて実施し得る。小さいゲージのニードル、例えば27ゲージニードル又はより小さいニードル、例えば30ゲージニードルによるマニュアルインジェクションに合わせたサイズ及び潤滑性を備えるデポを製造することができる。
【0134】
1つ又は複数のデポ(例えば、1~10、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10)を前眼房内又は他の部位に配置することができる。デポを配置する部位として、とりわけ眼、硝子体、上強膜、後部テノン嚢下空間(下円蓋)、結膜下、テノン嚢下、網膜、網膜下、小管内、前房内、硝子体内、強膜内、脈絡膜、脈絡膜上、網膜、網膜下、又はレンズ、角膜若しくは結膜の表面が挙げられる。従って、実施形態は、有効量又は計算有効量の薬剤をそのような部位に、例えば有効量を眼、前眼房、硝子体、上強膜、後部テノン嚢下空間(下円蓋)、結膜下、テノン嚢下、網膜、網膜下、小管内、前房内、硝子体内、強膜内、脈絡膜、脈絡膜下、網膜、網膜下、又はレンズ、角膜又は結膜の表面に供給するステップを含む。
【0135】
デポの部位として、組織、管腔、空隙、潜在空隙、動物(ヒト若しくはその他)内部、又は動物の表面上がさらに挙げられる。組織という用語は、広義である。部位は、医原病部位、組織が除去された部位、及び手術部位を含む。部位は、癌組織、癌組織又はその近傍、歯系組織、歯肉、歯周、副鼻腔、脳、血管内、動脈瘤、及び疾病部位を含む。デポの部位は、組織の開口部を含む。実施形態は、天然又は人工管腔、例えば括約筋、管路、小孔、洞若しくは他の管腔中に、又はこれらを介して、又はこれらを横断して通過するデポを含む。人工管腔は、医療目的、例えば薬物の送達、手術、又は他の医療若しくは美容目的のために製造される。デポは、適切に寸法決定される。
【実施例】
【0136】
実施例1.動物試験のための試験物質の形成
トラボプロストを、送達するモデル治療薬剤として及びまた有効性の基準として使用した。表1に示す製剤化に従って試験物質1及び2を製造した。
図4及び5を参照すると、ジクロロメタン(DCM)中にトラボプロストを溶解させ、次にポリDL-ラクチド(100DL 4A、100DL 7A、100DL 9A、又は100DL 4.5Eのいずれか)を指定濃度までDCM/トラボプロスト溶液中に溶解させることにより、マイクロ粒子を製造した。A又はEは、PLAの酸又はエステル末端基いずれかを指す。4、7、9及び4.5は、規定温度(通常、25又は30℃)のクロロホルム中の規定濃度(通常、0.1又は0.5%)での固有粘度を指す。方法での固有粘度の差は、供給者依存的である。この固有粘度は、ラクチドポリマーの分子量中央値に直接関係する(しかし、全てのポリマーに幅があることが理解される)。数が低いほどMWが低く、数が高いほどMWは高い(4は、約50kDであり、4.5は、約60kDであり、7は、約100kDであり、9は、約135kDである)。注射液(WFI)中の1%ポリビニルアルコールの溶液を攪拌しながら、ジャケット付きバッフル反応器に導入した(連続相)。DL-ラクチドを含有する混合物を反応器に注入すると、混合物は、そこで分離分散相を形成した。攪拌しながら、反応を一晩進行させる間、粒子は、DCMの抽出及び蒸発によって硬化した。粒子を反応器から取り出し、水で洗浄した後、サイズに基づいて粒子の集合に篩い分けた。これらの集合をバイアルに等分し、凍結乾燥した。粒子は、使用まで凍結保存した。酢酸トリリシンを塩基性pHのNHS-フルオレセインと予め定めた比で反応させることにより、フルオレセイン-トリリシンコンジュゲートを形成した。8a15K PEG SAPの水溶液を水中で調製した。4A、7A、9A及び4.5E乾燥マイクロ粒子(約2:2:1:5部w/w)に封入したトラボプロストの粒子集合をリン酸緩衝フルオレセイン結合トリリシンの水溶液に添加し、8a15K PEG SAPの溶液と混合し、小口径シリコーンチューブに注入した。チューブにキャップをして、懸濁マイクロ粒子を含むハイドロゲル前駆体を反応させた。チューブを張った状態まで引っ張り、オーブン内で低温において乾燥させると、乾燥中に収縮を被った。チューブからハイドロゲルを取り出し、切片に切断した。試験物質1(40μg用量のトラボプロスト、0.25±0.02mm直径×3.01±0.03mm長さ)又は試験物質2(26μg用量のトラボプロスト、0.21±0.01mm直径×3.02±0.02mm長さ)のいずれかの組成を取得するように、各種の要素の濃度を選択した。試験物質の製剤組成の含有率及び比較を表1に記載する。
【0137】
【0138】
実施例2.インビトロ試験のための物質の形成
インビトロ試験のための物質を実施例1のプロセスに従って製造した。インビトロ放出試験は、トラボプロスト溶解度を高めるために溶出溶媒に0.5%ポリオキシル40水添ヒマシ油を添加したこと以外には、模擬生理的条件(PBS、pH7.4、37℃)を用いたシンク(sink)条件下で実施した。TRAVATAN点眼薬中の溶解促進剤として界面活性剤を使用する。
図7は、上の表1に従って生成した模擬生理的条件(シンク条件を確実にする目的で溶出溶媒中の薬物溶解を補助するために界面活性剤を添加した、37℃、pH7.4のリン酸緩衝食塩水)下におけるマイクロ粒子(40μg用量を供給する個別の成分及び/又はブレンド)からハイドロゲルマトリックス中へのインビトロ放出を示す。手短には、集合を過剰量のこの溶出溶媒中に導入し、定めた時点でサンプリングして、紫外線検出を伴う逆相超高速液体クロマトグラフィーによりトラボプロスト含有率について分析した。ピーク面積からのサンプル濃度を標準曲線に対して計算した。
【0139】
実施例3:実施例1のデポを用いた動物試験
割当て:少なくとも6ヵ月齢の非妊娠且つ未経産の雌ビーグル3匹を、眼科試験での使用のためのIACUCプロトコルに従う本試験(Toxikon,Inc.)に割り当てた。動物の割当てを表2に記載する。動物は、耳の入れ墨の番号2277、4563及び1896により識別した。
【0140】
【0141】
用量投与:注射処置前にイヌを麻酔した。初めに、イヌに鎮静剤デキスメデトミジンを投与した後、吸入によりイソフルランを施した。処置前に両眼に1~2滴の塩酸プロパラカインを局所投与した。ポビドン-ヨウ素溶液(Betadine(登録商標))で眼の周りの毛を拭いた。適切な試験物質(表2を参照されたい)を前眼房内に注射し、その間、デポを配置するためのステンレスプランジャーを備えるハミルトン(Hamilton)注射器に取り付けた27Gニードルを用いて、手術顕微鏡で観察した。代表的な注射処置を
図8A~8Dに示す。
【0142】
注射が完了したら、予防的抗生物質軟膏(エリスロマイシン眼薬)のビーズで眼を処置した。イヌからイソフルラン及び酸素ガス(O2)を取り外し、等量のアチパメゾールを筋肉内(IM)投与して、鎮静剤の作用を反転させた。
【0143】
投与後評価計画:表3に挙げる評価に従う注射処置後の指定時点で動物を評価した。
【0144】
【0145】
眼の健全性:眼を健全又は正常として評価し、視覚異常があれば全て記録した。
【0146】
強膜写真:強膜の写真を撮影して、画像間で経時な充血を定性的に比較した。
【0147】
デポ位置:青色光及び黄色フィルター付きゴーグル又は黄色フィルターを取り付けたスリットランプを用いて、デポ位置を視覚化し、AC内のデポの位置を観察した。おおよその視覚的位置を求めるために時刻を用いて記録を行った。
【0148】
瞳孔収斂(定性的及び定量的):瞳孔収斂を視覚により定性的に評価するか、又はルーラーを用いて定量的に測定した。1mm未満の値は、<1mmとして記録した。
【0149】
眼科検査:麻酔した動物において、各イヌの両眼を検査して肉眼的所見を得た後、Combined Draize and McDonald-Shadduck Scoring Systemsに従ってスコアリングした。(Wilhelmus,Kirk R.“The Draize eye test.”Survey of ophthalmology 45.6(2001):493-515.;McDonald,T.O.,and J.A.Shadduck.“Eye irritation.Advances in Modern Toxicology,IV:Dermatotoxicology and Pharmacology.”(1977))。検査は、スリットランプ生体顕微鏡検査及びフルオレセイン染色を含んだ。特にスリットランプ検査では、角膜、結膜、虹彩、前眼房及びレンズにおける変化を探した。また、フルオレセイン染色を用いて角膜表面も評価した。検査は、デポ近傍に角膜浮腫が観察されたか否かの評価を含んだ。試験のスコアリングに用いた表を下に記載する。
【0150】
眼圧測定:麻酔した動物において、眼内圧(IOP)を測定するための眼圧測定は、TONOVET TONOMETER(TioLAT,Helsinki,Finland)を用いて実施した。
【0151】
厚度測定:麻酔した動物において、角膜厚を測定するために、iPac(登録商標)hand-held pachymeter(Reichert,Inc.,Depew,NY)を用いて厚度測定を実施した。
【0152】
デポ写真:麻酔した動物において、手術顕微鏡及び青色光源でデポを照らしながら黄色フィルター付きカメラを用いることの両方でデポの写真撮影を実施した。
【0153】
房水(AH)穿刺:約0.1mLのAHを採取するために、30Gインスリン注射針を用いてAHを採取した。材料をマイクロチューブ内に移し、サンプルを直ちにドライアイス上で凍結保存した。50pg/mLの有効定量限界を有するHPLC-MS/MSによるオンライン固相抽出を用いたトラボプロスト及びトラボプロスト遊離酸濃度決定のために、Molecular MS Diagnostics(Warwick,RI)にサンプルをドライアイス上で凍結したまま発送した。
【0154】
実施例4:実施例3の動物の結果
眼の健全性:全ての動物について眼の健全性は、全試験期間を通して正常又は健全として記録された。強膜写真:定性的に充血を示す試験期間中の強膜の写真を
図10A~10Fに示す。画像は、OTX-TIの投与後の流出血管の拡張及び時間経過によるこの充血/強膜赤みの全体的軽減を示す。5処置日にわたり健常なビーグルに1日1回トラボプロスト(0.004%)を投与すると、全処置期間にわたって充血を示すことがわかっている(Carvalho et al.,2006)。ビーグルに前房内注射により投与された同様の持続放出F2αプロスタグランジン(ビマトプロスト)による流出血管の拡張が強膜に観察され、これは、ビマトプロスト用量依存的であることが報告された(Hughes et al.,2010)。
【0155】
デポ位置:表4に示すデポ位置は、全般的に視覚化され、虹彩角膜角内の眼底付近にあることが報告された。4つのデポのうち2つは、70日目で見えなくなり、6つ全てが84日目に見えなくなった。これは、製剤(7.5% 8a20KSAP)の蛍光標識ハイドロゲル成分がビーグルAHにおいて約2.5~3ヵ月の近似インビボ持続時間を有することを示している。
【0156】
【0157】
デポ写真:28日目に撮影し、且つ自然及び蛍光照明条件下で撮影したAC内のOTX-TIの代表的画像を
図11A~11Dに示す。56日目に撮影し、且つ蛍光照明条件下で撮影したAC内のOTX-TIの代表的画像は、
図12に示す。表4に示すように、結果から、デポが十分にインタクトであり、概して虹彩角膜角内のACの低い部分に存在することがわかる。
【0158】
瞳孔収斂(定性的及び定量的):112日を通して全動物で瞳孔が収斂した(<2mm)。表5に示すように、126及び140日目で瞳孔は収斂を示さなかった。結果は、1日1回0.004%トラボプロスト点眼薬を投与すると、瞳孔収斂(瞳孔縮小)を示す緑内障ビーグルに関する文献に報告されるものと十分に一致する(Gelatt and MacKay,2004)。瞳孔収斂の結果は、112日を通してビーグルモデルにおいてOTX-TIにより送達されたトラボプロストに対する薬力学的応答を実証するものである。
【0159】
この実施例では、ハイドロゲル視覚化に基づくデポ残留物保持指数は、84/112=0.75であった。この場合、瞳孔収斂時間の増加に基づいて、マイクロ粒子がハイドロゲルシェルよりも約33%長く持続したことが明らかである。或いは、瞳孔収斂作用が薬物放出の完了後も持続したことも示唆される。
【0160】
【0161】
眼圧測定:試験期間にわたって記録されたIOP測定値を表6に示す。28日目に記録された11mmHgの平均値は、0.0033%トラボプロスト点眼薬の反復1日用量を投与したときの緑内障ビーグルについて(MacKay et al.,2011)、又は0.004%トラボプロストの反復1日用量を投与したときの正常なイヌにおいて(Carvalho et al.,2006)記録されたIOPと十分に一致する。3匹のイヌのうち2匹(2277及び1896)は、56日目に12mmHgの平均IOPを示した。TonoVetを用いて測定された正常血圧非処置ビーグル(n=32眼)の試験では、18.1mmHgの平均IOPが報告された(Driscoll and Blizzard,2016)。18から11又は12mmHgのいずれかへのIOPの低下は、ビーグルモデルにおいてOTX-TIにより送達されたトラボプロストに対する薬力学的応答を実証するものである。84日目以降では、平均IOPに明らかな差は認められない。このIOP応答の欠如は、単にデポのハイドロゲル部分の分解によると考えられ、これが、十分なIOP低下に必要なAH中の薬物濃度に影響を与えた可能性があることに留意することが重要である。
【0162】
【0163】
AH中の薬物濃度:28日の間隔で試験期間中にサンプリングしたAH中のトラボプロスト及びトラボプロスト遊離酸レベルを決定し、結果の概要を表7に一覧として示し、
図13にプロットする。AH中のトラボプロスト遊離酸は、第1選択薬の形態である。トラボプロストエステルの非存在又はわずかな量は、ビーグルにおいて同等用量のトラボプロスト前房内デポからのエステルの酸形態への変換を示す文献と一致する(Trevino et al.,2014)。AC中、28日目の4.3ng/mL及び56日目の2.2ng/mLのレベルは、概ね2ng/mL(Faulkner et al.,2010)及び3ng/mL(Martinez-de-la-Casa et al.,2012)であるヒトの点眼薬試験から観測されたトラボプロスト遊離酸C
maxに類似している。その後、このレベルは、84日時点で1.4ng/mLまで低下し、試験終了(140日目)までに0ng/mLまで低下し続ける。既述したように、デポのハイドロゲル部分が分解して、その期間中、視覚的に存在しなかったことから、84日目以降に観察された結果は、IOP低下と相関させることは難しい。
【0164】
【0165】
眼科検査:試験期間にわたる前眼部スリットランプ検査スコアは、下記を除いて正常であった。4563OS及びODの結膜は、赤み/充血について1のスコアを有した。小面積の混濁(スコア1)が2277OSの角膜上で11時の位置に観察された。混濁の原因は不明であり、混濁位置は、予想注射位置から離れている。混濁は、後の時点で解消された。112日目まで全ての動物において瞳孔対光反射は両眼とも観察されないか又は緩慢であった。瞳孔収斂及び瞳孔対光反射に対するこの作用は、試験物質内のトラボプロストに直接関係すると考えられる。トラボプロストは、ビーグル犬において強力な縮瞳薬であり(Hellberg et al.,2001;Gelatt and MacKay,2004)、瞳孔収斂は、眼内でトラボプロスト薬物曝露の直接の結果である。トラボプロストからの瞳孔縮小作用は、ヒトには存在しない。完全な瞳孔収斂により、スリットランプを用いたレンズの評価は不可能であった。126及び140日目に正常な瞳孔対光反射が観察された。
【0166】
実施例5:追加トラボプロスト前眼房内持続放出試験物質の形成及び動物試験の結果
実施例1及び実施例2と同様に調製したが、表8に従って変更された製剤を含み、且つ1デポ当たり18μgという低用量のトラボプロストを含有する試験物質を調製した。デポの乾燥時寸法は、0.2mm×2.0mmであり、水和時寸法は、0.6mm×2.3mmであった。これらを2つの試験、すなわち試験A:6眼/3匹のビーグル;試験B:24眼/12匹のビーグルにおいてビーグルに前房内注射により乾燥デポとして投与した。
【0167】
【0168】
試験Aは、下の表9に表示されるように、2ヵ月後、6つの眼に6.2mmHgのIOP低下を示し、続いて3ヵ月目にIOPの上昇、4ヵ月目までにベースラインへの回復を示す。デポのハイドロゲル部分は、3ヵ月時点で全ての動物の角度に視覚的に存在し、4ヵ月までには6つの眼のうちの5つに存在しない。
【0169】
【0170】
試験Bは、下の表10からわかるように、1、2、及び3ヵ月後、24眼にそれぞれ8、6及び7mmHgの平均IOP低下を示す。瞳孔収斂は、全ての眼で明らかであり、表11からわかるように、4ヵ月を通して平均直径の縮小を示し、これは、放出されたトラボプロストの薬力学的活性を示すものである。
【0171】
【0172】
【0173】
実施例6:追加的なトラボプロスト前房内持続放出試験物質の形成及び動物試験の結果
実施例5と同様に調製したが、1デポ当たり14(低)及び41(高)μgの変更トラボプロスト用量を含有する試験物質を、存在するマイクロ粒子の量を制御することにより調製した。低用量の場合、デポの乾燥時寸法は、0.2mm×2.0mmであり、高用量では0.3mm×2.0mmであった。水和時寸法は、低用量が0.5mm×2.3mm、高用量が0.5mm×2.3mmであった。これらは、ビーグル:24眼/12匹に前房内注射により乾燥デポとして投与した。この試験は、下の表12からわかるように、1、2、3及び4ヵ月後、12眼にそれぞれ低用量について6、5、6及び6mmHg、また高用量では6、8、7及び9mmHgの平均IOP低下を示す。
【0174】
付随する瞳孔収斂は、全ての眼で明らかであり、4ヵ月を通して両方の用量について平均直径の減少を実証し、これは、放出されたトラボプロストの薬力学的活性を示すものであり、その後、6ヵ月時点までに瞳孔直径の概ねベースラインまでの回復が認められる。薬力学的活性の4ヵ月の持続は、
図14からわかるように、インビトロ試験で実証された4ヵ月のトラボプロスト放出と一致するものであり、この試験は、1×PBS、0.5%ポリオキシル40水添ヒマシ油、0.01%フッ化ナトリウム、pH7.2~7.4の溶出溶媒を使用し、37℃で実施された。低用量製剤の場合、1日当たりのトラボプロスト放出量近似値は、0.1μg/日であり、高用量製剤の場合には0.3μg/日である。IOP低下及び瞳孔収斂という薬力学的応答の持続時間は、低用量及び高用量製剤の両方についてインビトロ放出の持続時間と相関する。
図15A~15Dは、配置後3日及び4ヵ月時点の同じビーグルの眼におけるデポ、その後、4.5ヵ月時点での非存在を示す実施例6からのデポのモンタージュ写真である。
【0175】
【0176】
実施例7:トラボプロスト持続放出デポの形成並びに「静的」及び「攪拌」条件下でのインビトロ試験結果
実施例1と同様に調製したが、1デポ当たり328μgという増加トラボプロスト用量及びより大きいサイズのデポを含有する試験物質を調製した。デポの乾燥時寸法は、0.65mm×3.2mmであった。水和時寸法は、1.8mm×2.6mmであった。トラボプロストの量は、使用したマイクロ粒子の総量により制御した。粒子は、ハイドロゲル内で十分に混合した。
【0177】
本発明者らは、模擬生理的条件(PBS、pH7.4、37℃)を用いたシンク条件下でインビトロ放出試験を実施したが、ただし、トラボプロスト溶解度を高めるために溶出溶媒中に0.5%ポリオキシル40水添ヒマシ油を添加した。この界面活性剤は、TRAVATAN点眼薬中の溶解促進剤として使用されている。この試験では、マイクロ粒子中に封入され、続いてPEGハイドロゲルネットワーク内に取り込まれた後、「静的」非混合、並びにこれに対して「連続的」攪拌溶解(ここで、攪拌、すなわち振盪又は攪拌を用いて、放出容器内の沈殿を最小限にしながら放出媒体中に懸濁又は自由移動する粒子又はデポを維持する)に付されるサンプル薬物(トラボプロスト)の放出を評価した。50mLの容積内で175RPMの条件を使用した。より長時間の時点で攪拌条件下のインビトロ溶解は、この時点で進行中である。
図16からわかるように、放出プロフィールを比較すると、42日目まで、試験の期間を通して重複し、ハイドロゲルが、溶解中、攪拌の対流力からマイクロ粒子をシールドすることを示している。シンクの容積は、50mlであった。当業者は、好適なシンク条件(これは、溶液中の放出薬剤の蓄積が進行中の薬剤の放出にほぼ影響しないように十分大きい余剰量の溶液を有することを指す専門用語である)を容易に決定することができる。PBSの調製は、1部のOMNIPUR(登録商標)10×PBS液体濃縮物(MilliporeSigma)を9部の脱イオン水で希釈した後、0.2マイクロフィルターを通して滅菌濾過して行った。
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
【0189】
さらなる開示
このさらなる開示は、本発明の様々な実施形態に関する。
【0190】
1A.眼症状について眼を治療する方法であって、治療薬剤を送達するために、キセロゲルデポを前眼房内に配置するステップを含み、キセロゲルデポは、眼内液への曝露後にハイドロゲルであり、デポは、眼内へのデポの配置後に眼内への治療薬剤の制御放出を提供する、方法。
【0191】
1B.治療薬剤の送達の方法であって、治療薬剤を送達するために、キセロゲルデポをある部位に配置するステップを含み、キセロゲルデポは、生理液への曝露後にハイドロゲルであり、デポは、治療薬剤の制御放出を提供する、方法。
【0192】
1C.治療薬剤の送達の方法であって、治療薬剤を送達するために、キセロゲルデポをある部位に配置するステップを含み、キセロゲルデポは、生理液への曝露後にハイドロゲルであり、デポは、治療薬剤の制御放出を提供する、方法。例えば、部位は、眼、テノン嚢下、前房内、硝子体内、強膜内、脈絡膜、脈絡膜上、網膜、網膜下、レンズ、角膜、強膜、組織、管腔、空隙、潜在空隙、動物(ヒト若しくはその他)内部、又は動物の表面上、医原病部位、組織が除去された部位、手術部位、癌組織、癌組織若しくはその近傍、歯系組織、歯肉、歯周、副鼻腔、脳、血管内、動脈瘤、又は疾病部位である。
【0193】
ID.マトリックスと治療薬剤とを含むデポを製造する方法であって、デポ残留物保持指数は、2未満である、方法。
【0194】
1E.眼症状について眼を治療する方法であって、治療薬剤を送達するために、加水分解により分解可能な粒子が埋め込まれたキセロゲルを含む複合デポを前眼房内に配置するステップを含み、キセロゲルは、眼内液への曝露後にハイドロゲルであり、ハイドロゲルは、加水分解により分解可能であり、加水分解により分解可能な粒子は、治療薬剤を含み、且つ前眼房内で加水分解により分解して、眼内への治療薬剤の制御放出を提供し、デポ残留物保持指数(IRR)は、0.5~2.0であり、IRRは、デポの完全溶解までの時間を治療薬剤の100%の放出までの時間で割ったものである、方法。
【0195】
2.薬剤は、デポ内の分解可能な粒子内に配置される、1に記載の方法(1A、1B...1nを参照されたい)。
【0196】
3.ハイドロゲルは、少なくとも2の増加した送達時間の係数を提供し、前記係数は、リン酸緩衝食塩水中で加水分解により分解可能な粒子を懸濁させるのに十分な攪拌条件下においてインビトロで測定され、且つハイドロゲルの存在下における薬剤の100%放出のための時間を、ハイドロゲルの非存在下における薬剤の100%放出のための時間で割ったものである、1に記載の方法。
【0197】
4.キセロゲルのマトリックスは、キセロゲルマトリックスの乾燥重量と、埋め込まれた加水分解により分解可能な粒子の乾燥重量との和の少なくとも20%である乾燥重量を有する、1~3のいずれかに記載の方法。
【0198】
5.ハイドロゲルのマトリックスは、複数のアームの各々において加水分解により分解可能な結合を含む1つ又は複数のマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体を共有結合的に架橋することによって形成され、それにより、ハイドロゲルの加水分解産物は、非毒性であり、及びポリエチレングリコール前駆体から形成されるマトリックスは、加水分解により分解されて、ヒドロキシル又はカルボキシル末端基で終端するアームを備えたマルチアーム型ポリエチレングリコール分子となる、1~4のいずれかに記載の方法。
【0199】
6.少なくとも1つのマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体は、50kDa(Mn)以下である分子量を有し、及び複数のアームの数は、少なくとも4である、4に記載の方法。
【0200】
7.キセロゲル及び/又は少なくとも1つのマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体は、照射によって殺菌される、6に記載の方法。
【0201】
8.加水分解により分解可能な粒子は、照射によって殺菌される、1~7のいずれかに記載の方法。
【0202】
9.複合物は、照射によって殺菌される、1~8のいずれかに記載の方法。
【0203】
10.複合デポは、25ゲージ以下のニードルを用いて前眼房内に配置される、1~9のいずれかに記載の方法。
【0204】
11.薬剤の制御放出は、10日~2年の期間で起こる、1~10のいずれかに記載の方法。
【0205】
12.ハイドロゲルは、共有結合的に架橋されてハイドロゲルを形成する少なくとも1つの親水性前駆体によって形成される、1~11のいずれかに記載の方法。
【0206】
13.親水性前駆体は、それぞれ500~10,000ダルトン(Mn)である複数のアームを含む、1~12のいずれかに記載の方法。
【0207】
14.加水分解により分解可能な粒子は、治療薬剤と、加水分解により分解可能な材料とを含む、1~13のいずれかに記載の方法。
【0208】
15.加水分解により分解可能な材料は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、及びPLAとPGAとのコポリマーの1つ又は複数を含む、1~14のいずれかに記載の方法。
【0209】
16.薬剤は、粒子内及びデポのマトリックス内の両方に配置されるか、又はマトリックス内のみに配置される、1~15のいずれかに記載の方法。
【0210】
17.薬剤の制御放出は、第1の予定期間中に起こる、1~16のいずれかに記載の方法。例えば、制御放出は、前眼房内又は他の部位に有効濃度の薬剤を供給する。
【0211】
18.デポは、第1の期間中に自己凝集性を維持するマトリックスを含む、17に記載の方法。
【0212】
19.第1の期間は、10日~2年である、1~18のいずれかに記載の方法。
【0213】
20.デポは、眼内への配置後、前眼房内に0.05~50ng/mLの濃度の薬剤を供給する、1~19のいずれかに記載の方法。
【0214】
21.キセロゲルは、乾燥状態のデポの総重量に対して1~90%w/wである薬剤の量を有する、1~20のいずれかに記載の方法。
【0215】
22.キセロゲルは、1~500マイクログラム(ug)である薬剤の量を有する、1~21のいずれかに記載の方法。
【0216】
23.ハイドロゲルは、円柱状であり、且つ1.6mm以下の直径を有する、1~22のいずれかに記載の方法。
【0217】
24.キセロゲルは、円柱状であり、且つ1mm以下の直径を有する、1~23のいずれかに記載の方法。
【0218】
25.キセロゲルは、円板状、球形、又は半球形である、1~24のいずれかに記載の方法。
【0219】
26.治療薬剤は、トラボプロスト、プロスタグランジン類似体、デキサメタゾン、又はモキシフロキサシンを含む、1~25のいずれかに記載の方法。
【0220】
27.ハイドロゲルは、形成時のハイドロゲルの重量と比較して、生理液に24時間曝露した後、約50%以下の重量増加を有するハイドロゲルによって測定可能であるように低膨潤性である、1~25のいずれかに記載の方法。
【0221】
28.ハイドロゲル又はデポ又は架橋マトリックスは、求核基を含む第1の合成前駆体と、求電子基を含む第2の合成前駆体とを組み合わせて、求核基と求電子基との反応によって共有結合架橋を形成して、生体適合性ハイドロゲルを形成することによって形成される、1~27のいずれかに記載の方法。
【0222】
29.ハイドロゲル又はデポ又は架橋マトリックスは、前駆体に対する官能基のフリーラジカル重合によって形成される共有結合を含む、1~28のいずれかに記載の方法。
【0223】
30.デポは、前眼房内に配置されるキセロゲルである、1~29のいずれかに記載の方法。及び/又は、デポは、前眼房の虹彩角膜角に配置されるキセロゲルである、1~51のいずれかに記載の方法。
【0224】
31.デポ残留物保持指数は、2未満である、1~30のいずれかに記載の方法。
【0225】
32A.キセロゲル中に分散される粒子内に配置された治療薬剤を含むキセロゲルを含む前眼房デポであって、キセロゲルは、水溶液への曝露時にモノリシックハイドロゲルであり、ハイドロゲルは、平衡水分(EWC)で1mm未満の直径を有する、前眼房デポ。
【0226】
32B.房水(また生理液)への曝露後にハイドロゲルであるキセロゲルデポを含む、治療薬剤送達のためのデポであって、治療薬剤を含み、且つ眼内へのデポの配置後に眼内への治療薬剤の制御放出を提供する、デポ。
【0227】
32C.生理液への曝露後にハイドロゲルであるキセロゲルデポを含む、治療薬剤送達のためのデポであって、デポは、治療薬剤の制御放出を提供する、デポ。
【0228】
32D.治療薬剤を含むキセロゲルデポを含む、治療薬剤送達のためのデポであって、キセロゲルデポは、生理液への曝露後にハイドロゲルであり、デポは、治療薬剤の制御放出を提供する、デポ。
【0229】
32E.加水分解により分解可能な粒子が埋め込まれたキセロゲルを含む複合デポであって、キセロゲルは、眼内液への曝露後に生体適合性ハイドロゲルであり、ハイドロゲルは、加水分解により分解可能であり、加水分解により分解可能な粒子は、治療薬剤を含み、且つ生理液中で加水分解により分解して、治療薬剤の制御放出を提供する、複合デポ。従って、デポの分解産物は、非毒性である。
【0230】
33.キセロゲルのマトリックスは、キセロゲルマトリックスの乾燥重量と、埋め込まれた加水分解により分解可能な粒子の乾燥重量との和の少なくとも20%である乾燥重量を有する、32に記載のデポ(32A、32B...32nを参照されたい)。
【0231】
34.ハイドロゲルのマトリックスは、複数のアームの各々において加水分解により分解可能な結合を含む1つ又は複数のマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体を共有結合的に架橋することによって形成され、それにより、ハイドロゲルの加水分解産物は、非毒性であり、及び1つ又は複数のマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体は、ヒドロキシル又はカルボキシル末端基で終端するアームを備えたマルチアーム型ポリエチレングリコール分子となるように加水分解により分解可能である、32又は33に記載のデポ。
【0232】
35.少なくとも1つのマルチアーム型ポリエチレングリコール前駆体は、50kDa(Mn)以下である分子量を有し、及びマルチアームの数は、少なくとも4である、34に記載のデポ。
【0233】
36.薬剤の制御放出は、10日から2年の期間で起こる、32~34のいずれかに記載のデポ。
【0234】
37.ハイドロゲルは、共有結合的に架橋されてハイドロゲルを形成する少なくとも1つの親水性前駆体によって形成される、32~36のいずれかに記載のデポ。
【0235】
38.加水分解により分解可能な粒子は、治療薬剤と、加水分解により分解可能な材料とを含む、32~37のいずれかに記載のデポ。
【0236】
39.加水分解により分解可能な材料は、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、及びPLAとPGAとのコポリマーの1つ又は複数を含む、38に記載のデポ。
【0237】
40.治療薬剤は、トラボプロスト、プロスタグランジン類似体、難溶性プロスタグランジン類似体、抗血管新生薬、眼内圧降下剤、抗炎症薬、抗感染症薬、散瞳薬、抗癌薬、抗VEGF剤、VEGFR1遮断剤、VEGFR2遮断剤、VEGFR3遮断剤、抗PDGF剤、抗PDGF-R剤、PDGFRβ遮断剤、抗血管新生剤、スニチニブ、E7080、takeda-6d、チボザニブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、パゾパニブ、アキシチニブ、ニンテダニブ、セジラニブ、バタラニブ、モテサニブ、マクロライド、シロリムス、エベロリムス、チロシンキナーゼ阻害剤、イマチニブ、ゲフィニチブ、トセラニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、ボスチニブ、ネラチニブ、ラパチニブ、バタラニブ、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、抗生物質、鎮痛薬、デキサメタゾン、モキシフロキサシン、ネパフェナク、マクロライド、ラパマイシン、シロリムス、タクロリムス、リポ酸及び誘導体、又はステロール、オキシステロール及び関連する化合物を含む、32~39のいずれかに記載のデポ。
【0238】
41.デポ残留物保持指数は、2未満である、32~40のいずれかに記載のデポ。デポは、マトリックスと、デポから放出される治療薬剤とを含み得、上記の指数は、マトリックスの完全分離(消失)のための時間を薬剤の完全放出のための時間で割ったものである。
【0239】
42.デポは、キセロゲルであり、眼、テノン嚢下、前眼房内、硝子体内、強膜内、脈絡膜、脈絡膜上、網膜、網膜下、レンズ、角膜、強膜、組織、管腔、空隙、潜在空隙、動物(ヒト若しくはその他)内部、又は動物の表面上、医原病部位、組織が除去された部位、手術部位、癌組織、癌組織若しくはその近傍、歯系組織、歯肉、歯周、副鼻腔、脳、血管内、動脈瘤、又は疾病部位に配置される、32~41のいずれかに記載のデポ。
【0240】
43.1~42のいずれかに記載の方法によって製造されるか又はデポを含むキット。
【0241】
44.眼症状の治療;眼疾患の治療、治療薬剤の送達;疾患の治療;組織の治療の1つ以上を目的とする、1~42のいずれかに記載のデポの使用。
【0242】
45.1~42のいずれかを含む薬剤を製造するプロセス、キットを製造するプロセス、システムを製造するプロセス。
【0243】
本明細書で参照される特許、特許出願、特許公開、雑誌論文、及び刊行物は、参照により本明細書に組み込まれ、矛盾が生じる場合には本明細書が優先する。読者の便宜のために、本明細書には小見出しが付けられているが、これらは、実質的な開示内容に関して限定的ではない。操作性の考慮により導かれるように、本明細書に記載の様々な実施形態の特徴を合わせ、適合させることにより、本明細書に明示されていない実施形態を形成することができる。
【0244】
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