(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】正極材料およびその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240510BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240510BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240510BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022528258
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 CN2020134346
(87)【国際公開番号】W WO2021121066
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】201911310399.2
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522057847
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】潘海竜
(72)【発明者】
【氏名】白艶
(72)【発明者】
【氏名】王壮
(72)【発明者】
【氏名】張樹濤
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111435738(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がLi
aNi
1-x-y-zCo
xMn
yAl
zM
bO
2であることを特徴とする正極材料。
式中、1.04≦a≦1.08、0.04≦x≦0.08、0.03≦z≦0.09、0.015≦b≦0.06、0.04≦y≦0.06又はy=0.03、Mは、ZrとAl、Ti、Mg、Na、Ca、Nb、Ba、Si、P、W、Srから選ばれる少なくとも一つ、およびBである。
【請求項2】
式中、0.04≦y≦0.06であることを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
式中、1.04≦a≦1.05、及び/又は0.075≦x≦0.08、及び/又は0.03≦z≦0.04、及び/又は0.02≦b≦0.05であることを特徴とする請求項1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記bが取り得る値の範囲は、0.02≦b≦0.03であることを特徴とする請求項3に記載の正極材料。
【請求項5】
前記正極材料はLiCoO
2と類似したα-NaFeO
2型層状構造を有し、且つ前記正極材料の結晶形は六方晶系のR-3m空間群に帰属することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項6】
前記正極材料の(003)結晶面における2θ角は
18.74±0.2度であり、且つ前記正極材料の(003)結晶面における回折ピークの半値幅は0.0550~0.0700であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項7】
前記正極材料の(104)結晶面における2θ角は
44.4±0.2度であり、前記正極材料の(003)結晶面における回折ピークの半値幅と、(104)結晶面における回折ピークの半値幅との比は1.45~1.6であることを特徴とする請求項6に記載の正極材料。
【請求項8】
前記正極材料の(003)結晶面の回折ピーク強度と、(104)結晶面の回折ピーク強度との比は2.45≦I
003/I
104≦3.05であることを特徴とする請求項
7に記載の正極材料。
【請求項9】
前記Mは、ZrとAl、Wから選ばれる少なくとも一つ、およびBであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項10】
前記Mは、B、ZrとAlの組み合せ、またはB、Zr、AlとWの組み合せであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の正極材料の製造方法であって、
正極前駆体材料をホウ素源であるドーパントと混合して予備焼成するステップと、
前記予備焼成後の生成物を、リチウム源、他のドーパントとを混合し、前記他のドーパントはZrとAl、Ti、Mg、Na、Ca、Nb、Ba、Si、P、W、Srから選ばれる少なくとも一つイオン源を含む物質であるステップと、
前記混合後の生成物を焼成し、焼成後の生成物を水洗して乾燥するステップと、
前記乾燥後の生成物を、アルミニウム源である被覆剤、ホウ素源である被覆剤と混合して熱処理し、前記正極材料を得るステップと、を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項12】
前記正極前駆体材料はNi
1-x-y-zCo
xMn
yAl
z(OH)
2、Ni
1-x-y-zCo
xMn
yAl
zCO
3から選ばれる少なくとも一つであり、式中、0.04≦x≦0.08、0.03≦z≦0.09、0.04≦y≦0.06又はy=0.03であることを特徴とする請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
式中、0.04≦y≦0.06であることを特徴とする請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記ホウ素源であるドーパントおよび前記ホウ素源である被覆剤は、それぞれ独立して、B
2O
3、H
3BO
3から選ばれる少なくとも一つであり、及び/又は、
前記正極前駆体材料と前記ホウ素源であるドーパントとの質量比は1:0.001~0.002であり、及び/又は、
前記予備焼成の温度は900~1000℃であり、時間は10~15hであり、及び/又は、
前記予備焼成後の生成物と、前記リチウム源と、前記他のドーパントとの質量比は480:260~280:1~10であり、及び/又は、
前記リチウム源はLiOH、Li
2CO
3から選ばれる少なくとも一つであり、及び/又は、
前記他のドーパントはZr(OH)
4、ZrO
2、Al
2O
3、TiO
2、Mg(OH)
2、NaCl、CaCl
2、Nb
2O
5、BaCl
2、SiO
2、H
3PO
3、WO
3、SrOから選ばれる少なくとも一つであり、及び/又は、
前記焼成の温度は830~880℃であり、時間は12~17hであり、及び/又は、
前記乾燥後の生成物と、前記アルミニウム源である被覆剤と、前記ホウ素源である被覆剤との質量比は1:0.001~0.003:0.0015~0.007であり、及び/又は、
前記アルミニウム源である被覆剤はAl
2O
3、Al(OH)
3、AlF
3から選ばれる少なくとも一つであり、及び/又は、
前記熱処理の温度は400~600℃であり、時間は6~8hであることを特徴とする請求項
12に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載の正極材料を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項16】
請求項
15に記載のリチウムイオン電池を有することを特徴とする自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池技術分野に属し、具体的には、正極材料およびその製造方法と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、ビデオカメラや携帯電話などのエレクトロニクス製品の急速な普及に伴い、その電源として利用された電池の開発が注目されている。また、自動車分野では、電気自動車やハイブリッド自動車において、リチウムイオン電池の使用寿命と安全性が特に注目されている。LiNiO3、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウムやニッケルコバルトアルミニウム酸リチウムなどの多結晶形リチウムイオン電池正極材料が開発・研究されているが、サイクル寿命が短く、熱安定性が低い問題があるため、長距離走行の要求に対応できず、安全上のリスクも多く存在する。それと同時に、高ニッケル正極材料は、ニッケル含有量が増えると、正極材料の安定性が低下し、主にサイクル性能が比較的に悪いことや熱安定性が悪いことなどの現象が見られる。
【0003】
そのため、従来の正極材料をさらに改良する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、少なくとも関連技術の技術的課題の1つ、例えばサイクル性及び熱安定性が比較的に悪いことを、ある程度解決することを目的とするものである。このため、本発明の1つの目的は、正極材料およびその製造方法と使用を提供することである。当該正極材料は、2価のニッケルイオンの含有量が少なく、リチウム-ニッケルの混合排列程度が少なく、結晶構造が安定で、サイクル保持率と熱安定性が高く、寿命が長く、安全性が向上する。
【0005】
本発明の一態様において、本発明は正極材料を提供し、本発明の実施例によれば、前記正極材料の一般式がLiaNi1-x-y-zCoxMnyAlzMbO2であり、式中、1.04≦a≦1.08、0.04≦x≦0.08、0.025≦y≦0.06、0.03≦z≦0.09、0.015≦b≦0.06、Mは、ZrとAl、B、Ti、Mg、Na、Ca、Nb、Ba、Si、P、W、Srから選ばれる少なくとも一つ、およびBである。好ましくは0.028≦y≦0.06、好ましくは0.04≦y≦0.06、好ましくは1.04≦a≦1.05、好ましくは0.075≦x≦0.08、好ましくは0.03≦z≦0.04、好ましくは0.02≦b≦0.05である。
【0006】
本発明実施例の正極材料によれば、当該正極材料は、従来のニッケル-コバルト-マンガン-アルミニウム正極材料に対してMイオンをドーピングし、Mイオンのドーピングによって2価ニッケルイオンの含有量を減少させ、さらに(003)結晶面から(104)結晶面に遷移するニッケルイオン量を減少させ、リチウム-ニッケルの混合排列程度を減少させ、正極材料の結晶構造を安定化させ、さらに材料のサイクル保持率と熱安定性を向上させ、材料の使用寿命を延長させ、その安全性を向上させる。
【0007】
また、本発明上記実施例による正極材料は、以下の付加的な技術特徴を有する。
【0008】
本発明のいくつかの実施例において、前記bが取り得る値の範囲は0.02≦b≦0.03である。
【0009】
本発明のいくつかの実施例において、前記正極材料はLiCoO2と類似したα-NaFeO2型層状構造を有し、且つ正極材料の結晶形は六方晶系のR-3m空間群に帰属する。
【0010】
本発明のいくつかの実施例において、前記正極材料の(003)結晶面における2θ角は18.74度近傍であり、好ましくは正極材料の(003)結晶面における2θ角は18.74±0.2度であり、且つ正極材料の(003)結晶面における回折ピークの半値幅は0.0550~0.0700である。
【0011】
本発明のいくつかの実施例において、正極材料の(104)結晶面における2θ角は44.4度近傍であり、好ましくは正極材料の(104)結晶面における2θ角は44.4±0.2度であり、前記正極材料の(003)結晶面における回折ピークの半値幅と(104)結晶面における回折ピークの半値幅との比は1.45~1.6である。
【0012】
本発明のいくつかの実施例において、前記正極材料の(003)結晶面の回折ピーク強度と、(104)結晶面の回折ピーク強度との比は2.45≦I003/I104≦3.05である。
【0013】
さらに、上記Mは、ZrとAl、W中の少なくとも一つ、およびBであり、好ましくは、MはB、ZrとAlの組み合せ、またはB、Zr、AlとWの組み合せである。
【0014】
本発明のさらなる態様において、本発明は上記正極材料を製造する方法を提供し、本発明の実施例によれば、当該方法は、
正極前駆体材料をホウ素源であるドーパントと混合して予備焼成するステップと、
前記予備焼成後の生成物を、リチウム源、他のドーパントとを混合し、前記他のドーパントはZrとAl、Ti、Mg、Na、Ca、Nb、Ba、Si、P、W、Srから選ばれる少なくとも一つイオン源を含む物質であるステップと、
前記混合後の生成物を焼成して、焼成後の生成物を水洗して乾燥するステップと、
前記乾燥後の生成物を、アルミニウム源である被覆剤、ホウ素源である被覆剤と混合して熱処理し、前記正極材料を得るステップと、
を含む製造方法である。
【0015】
本発明実施例の正極材料の製造方法によれば、正極前駆体材料をホウ素源であるドーパントと混合して予備焼成することにより、結晶粒の成長方向がより規則的で、比表面積と強度がより大きい前駆体材料を得ることができ、同時にリチウムの脱挿入に有利であり、しかも、予備焼成後の生成物、即ち予備焼成後の前駆体をリチウム源、ドーパントと混合して焼成することにより、リチウム源とドーパントは、予備焼成後の生成物、即ち予備焼成後の前駆体と反応しやすく、単結晶材料類似材料ではなく、純粋な単結晶四元正極材料を得て、水洗した後に材料の残リチウムを低減することができる。さらに、乾燥後の生成物を、乾式法によりアルミニウム源である被覆剤、ホウ素源である被覆剤と均一に混合して熱処理し、熱処理の過程において、ホウ素源がフラックス剤の役割を果たして、アルミニウム源を正極材料表面に均一に被覆させ、サイクル保持率や熱安定性、耐用年数、安全性がいずれも高い正極材料を得る。
【0016】
また、本発明の上記実施例による正極材料の製造方法は、以下の付加的な技術特徴を有してもよい。
【0017】
本発明のいくつかの実施例において、前記正極前駆体材料はNi1-x-y-zCoxMnyAlz(OH)2、Ni1-x-y-zCoxMnyAlzCO3から選ばれる少なくとも一つであり、式中、0.04≦x≦0.08、0.04≦y≦0.06、0.03≦z≦0.09であり、好ましくは0.03≦y≦0.06であり、さらに好ましくは0.04≦y≦0.06である。
【0018】
本発明のいくつかの実施例において、前記ホウ素源であるドーパントおよび前記ホウ素源である被覆剤は、それぞれ独立して、B2O3、H3BO3から選ばれる少なくとも一つである。
【0019】
本発明のいくつかの実施例において、前記正極前駆体材料と前記ホウ素源であるドーパントとの質量比は1:0.001~0.002である。
【0020】
本発明のいくつかの実施例において、前記予備焼成の温度は900~1000℃であり、時間は10~15hである。
【0021】
本発明のいくつかの実施例において、前記予備焼成後の生成物と、前記リチウム源と、前記ドーパントとの質量比は480:260~280:1~10である。
【0022】
本発明のいくつかの実施例において、前記リチウム源はLiOH、Li2CO3から選ばれる少なくとも一つである。
【0023】
本発明のいくつかの実施例において、前記他のドーパントは、ZrとAl、Ti、Mg、Na、Ca、Nb、Ba、Si、P、W、Srから選ばれる少なくとも一つイオン源を含む物質である。
【0024】
本発明のいくつかの実施例において、前記ドーパントは、Zr(OH)4、ZrO2、Al2O3、TiO2、Mg(OH)2、NaCl、CaCl2、Nb2O5、BaCl2、SiO2、H3PO3、WO3、SrOから選ばれる少なくとも一つである。
【0025】
本発明のいくつかの実施例において、前記焼成の温度は830~880℃であり、時間は12~17hである。
【0026】
本発明のいくつかの実施例において、前記乾燥後の生成物と、前記アルミニウム源である被覆剤と、前記ホウ素源である被覆剤との質量比は1:0.001~0.003:0.0015~0.007である。
【0027】
本発明のいくつかの実施例において、前記アルミニウム源である被覆剤はAl2O3、Al(OH)3、AlF3から選ばれる少なくとも一つである。
【0028】
本発明のいくつかの実施例において、前記熱処理の温度は400~600℃であり、時間は6~8hである。
【0029】
本発明の別の態様において、本発明はリチウムイオン電池を提供し、本発明の実施例によれば、当該リチウムイオン電池は、上記正極材料または上記正極材料の製造方法で製造して得る正極材料を有する。本発明実施例によるリチウムイオン電池は、当該リチウムイオン電池が上記正極材料を有するため、当該正極材料のMイオンドーピングによってその2価ニッケルイオンの含有量を減少させ、さらに(003)結晶面から(104)結晶面に遷移するニッケルイオン量を減少させ、正極材料中のリチウム-ニッケルの混合排列程度を減少させ、正極材料の結晶構造を安定化させ、リチウムイオン電池のサイクル保持率と熱安定性の提高に有利し、電池の使用寿命を延長させ、その安全性を向上させる。
【0030】
本発明の第4の態様において、本発明は自動車を提供し、本発明の実施例によれば、当該自動車は上記リチウムイオン電池を有する。本発明実施例による自動車は、当該自動車が上記リチウムイオン電池を有するため、上記リチウムイオン電池が高いサイクル保持率、熱安定性、耐用年数及び安全性の性能を有することにより、当該自動車は長距離走行の要求を満たし、安全上のリスクを大幅に低減することができる。
【0031】
本発明の追加態様および利点は、以下の説明において部分的に示され、部分的には以下の説明から、または本発明の実施から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本発明の上記および/または追加の方面及び利点は、以下の添付図面と併せて実施例の説明から明らかになり、容易に理解される。
【
図1】
図1は本発明の一実施例による正極材料の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は実施例1で得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示す。
【
図3】
図3は実施例4で得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示す。
【
図4】
図4は実施例6で得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示す。
【
図5】
図5は実施例8で得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示す。
【
図6】
図6は実施例9で得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示す。
【
図7】
図7は比較例1で得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本出願における実施例及び実施例における特徴は、衝突しない場合、互いに組み合わせることができる。以下、図面を参照して実施例を結合し、本発明を詳細に説明する。
【0034】
以下、本発明の実施例を詳細に説明し、前記実施例の例は図面に示され、そのうち始めから終わりまで同一又は類似の符号は同一又は類似の素子又は同一又は類似の機能を有する素子を示す。以下に図面を参照して説明する実施例は例示的なものであり、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0035】
本発明の一態様において、本発明は正極材料を提供し、本発明の実施例によれば、当該正極材料の一般式がLiaNi1-x-y-zCoxMnyAlzMbO2であり、式中、1.04≦a≦1.08、0.04≦x≦0.08、0.025≦y≦0.06(好ましくは0.03≦y≦0.06であり、さらに好ましくは0.04≦y≦0.06である)、0.03≦z≦0.09、0.015≦b≦0.06であり、好ましくは0.02≦b≦0.03であり、Mは、ZrとAl、B、Ti、Mg、Na、Ca、Nb、Ba、Si、P、W、Srから選ばれる少なくとも一つ、およびBである。発明者らは、当該正極材料が、従来のニッケル-コバルト-マンガン-アルミニウム正極材料に対してMイオンをドーピングし、Mイオンのドーピングによって2価ニッケルイオンの含有量を減少させ、さらに(003)結晶面から(104)結晶面に遷移するニッケルイオン量を減少させ、リチウム-ニッケルの混合排列程度を減少させ、正極材料の結晶構造を安定化させ、さらに材料のサイクル保持率と熱安定性を向上させ、材料の使用寿命を延長させ、その安全性を向上させることを見出した。
【0036】
さらに、好ましくは0.028≦y≦0.06であり、好ましくは0.04≦y≦0.06であり、好ましくは1.04≦a≦1.05であり、好ましくは0.075≦x≦0.08であり、好ましくは0.03≦z≦0.04であり、好ましくは0.02≦b≦0.05である。aは1.04/1.05/1.06/1.07/1.08であってもよく、xは0.04/0.05/0.06/0.07/0.08であってもよく、yは0.04/0.05/0.06であってもよく、zは0.03/0.04/0.05/0.06/0.07/0.08/0.09であってもよく、bは0.015/0.02/0.03/0.04/0.05/0.06であってもよい。発明者らは、aが低すぎると材料の容量やサイクル性能がちょっと低すぎ、高すぎると材料の残留アルカリがちょっと高すぎになり、後の均質化におけるスラリーの安定性に影響を与えること、xが低すぎると材料の層状構造に影響を与え、高すぎると実容量が低くなり材料コストが高くなること、yが低すぎると材料の安全性能と構造安定性が低く、高すぎると材料の層状構造が破壊されて材料の比容量が下がること、zが低すぎると材料の熱安定性に劣り、高すぎると材料の容量がちょっと低すぎになること、bが低すぎると材料のサイクル性能や熱安定性に劣り、高すぎると同様に材料のサイクル性能や熱安定性に劣ることを見出した。
【0037】
さらに、上記正極材料はLiCoO2と類似したα-NaFeO2型層状構造を有し、且つ正極材料の結晶形は六方晶系のR-3m空間群に帰属する。
【0038】
さらに、正極材料の(003)結晶面における2θ角は18.74度近傍であり、好ましくは正極材料の(003)結晶面における2θ角は18.74±0.2度であり、且つ正極材料の(003)結晶面における回折ピークの半値幅は0.0550~0.0700である。本発明者らは、半値幅値が大きいすぎると、材料の結晶粒径が比較的に小さく、完全結晶からの偏差が比較的に大きい、即ち結晶性が悪く、半値幅値が小さすぎると、大電流での容量が比較的に悪いことを見出した。上記範囲内の材料は、適度な結晶粒径を持ち、電気特性に優れている。
【0039】
さらに、正極材料の(104)結晶面における2θ角は44.4度近傍であり、好ましくは正極材料の(104)結晶面における2θ角は44.4±0.2度であり、(003)結晶面における回折ピークの半値幅と、(104)結晶面における回折ピークの半値幅との比は1.45~1.6である。発明者らは、当該範囲内の材料が良好な結晶性能を有しするため、熱安定性能も比較的に良好であることを見出した。
【0040】
さらに、当該単結晶正極材料の(003)結晶面の回折ピーク強度と、(104)結晶面の回折ピーク強度との比は2.45≦I003/I104≦3.05である。発明者らは、I003/I104値によって正極材料のリチウム-ニッケルの混合排列程度を判定することができ、当該値が低すぎるとリチウム-ニッケルの混合排列がひどく、材料の層状構造が不安定で、電気的性能が比較的に悪いことを発見した。当該値が上記範囲内であるとリチウム-ニッケルの混合排列が比較的に低く、当該正極材料の構造がより安定であることを示す。
【0041】
さらに、上記Mは、ZrとAl、W中の少なくとも一つ、およびBであり、好ましくは、MはB、ZrとAlの組み合せ、またはB、Zr、AlとWの組み合せである。本発明の実施例の正極材料によれば、当該正極材料は、従来のニッケル-コバルト-マンガン-アルミニウム正極材料に対してMイオンをドーピングし、Mイオンのドーピングによって2価ニッケルイオンの含有量を減少させ、さらに(003)結晶面から(104)結晶面に遷移するニッケルイオン量を減少させ、リチウム-ニッケルの混合排列程度を減少させ、正極材料の結晶構造を安定化させ、さらに材料のサイクル保持率と熱安定性を向上させ、材料の使用寿命を延長させ、その安全性を向上させる。
【0042】
本発明のさらなる態様において、本発明は上記正極材料の製造方法を提供し、本発明の実施例によれば、
図1を参照し、当該方法は下記のステップを含む。
【0043】
S100:正極前駆体材料をホウ素源であるドーパントと混合して予備焼成するステップ
当該ステップにおいて、正極前駆体材料をホウ素源であるドーパントと混合して予備焼成し、予備焼成後の生成物を得る。発明者らは、正極前駆体材料をホウ素源であるドーパントと混合して予備焼成することで、結晶粒の成長方向がより規則的で、比表面積と強度がより大きい前駆体材料を得ることができ、同時にリチウムの脱挿入に有利であることを見出した。本発明の一実施例によれば、正極前駆体材料およびホウ素源であるドーパントの具体的な種類は特に限定されず、当業者は実際の必要に応じて選択することができ、例えば正極前駆体材料はNi1-x-y-zCoxMnyAlz(OH)2、Ni1-x-y-zCoxMnyAlzCO3から選ばれる少なくとも一つであってよく、式中、0.04≦x≦0.08、0.04≦y≦0.06、0.03≦z≦0.09(好ましくは0.03≦y≦0.06であり、さらに好ましくは0.04≦y≦0.06である)であり、ホウ素源であるドーパントはB2O3、H3BO3から選ばれる少なくとも一つであってよい。さらに、正極前駆体材料と、ホウ素源であるドーパントとの質量比も特に限定されず、例えば1:0.001~0.002であってもよい。発明者らは、ホウ素源であるドーパントの導入により、正極前駆体材料の内部格子が大きくなり、リチウム塩が入りやすく、単結晶を形成しやすいことを見出した。当該値が高すぎると、ホウ素源であるドーパントの含有量が少なすぎて期待したドーピング效果が得られず、当該値が低すぎると、ホウ素源であるドーパントの含有量が多すぎて一部のホウ素源が材料に混ざってしまうことになる。本発明のさらなる実施例によれば、予備焼成の具体的な条件も特に限定されず、当業者は実際の必要に応じて選択することができ、例えば予備焼成の温度は900~1000℃であってもよく、時間は10~15hであってもよい。発明者らは、予備焼成の温度が1000℃以上であると、粒子の過大化を招き、材料の容量が低下し、一方、焼結時間が短すぎると、材料の結晶性が悪く、熱安定性が悪く、時間が長すぎ、コストが高くなることを見出した。
【0044】
S200:予備焼成後の生成物をリチウム源、ドーパントと混合するステップ
当該ステップにおいて、予備焼成後の生成物をリチウム源、ドーパントと混合して、混合後の生成物を得る。本発明の一実施例によれば、リチウム源およびドーパントの具体的な種類は特に限定されず、当業者は実際の必要に応じて選択することができ、例えばリチウム源はLiOH、Li2CO3から選ばれる少なくとも一つであってよく、ドーパントはZrとAl、Ti、Mg、Na、Ca、Nb、Ba、Si、P、W、Srから選ばれる少なくとも一つイオン源を含む物質であってよく、具体的には、ドーパントはZr(OH)4、ZrO2、Al2O3、TiO2、Mg(OH)2、NaCl、CaCl2、Nb2O5、BaCl2、SiO2、H3PO3、WO3、SrOから選ばれる少なくとも一つであってよい。さらに、予備焼成後の生成物と、リチウム源と、ドーパントとの質量比も特に限定されず、例えば480:260~280:1~10であってもよい。
【0045】
S300:混合後の生成物を焼成し、焼成後の生成物を水洗して乾燥するステップ
当該ステップにおいて、混合後の生成物を焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得る。発明者らは、リチウム源とドーパントが予備焼成後の生成物、即ち予備焼成後の前駆体と反応しやすく、単結晶材料類似材料ではなく、純粋な単結晶四元正極材料を得て、水洗した後に材料の残リチウムを低減することができる。本発明の一実施例によれば、焼成の具体的な条件は特に限定されず、当業者は実際の必要に応じて選択することができ、例えば焼成の温度は830~880℃であってもよく、時間は12~17hであってもよい。発明者らは、温度が低すぎ、時間が短すぎると、材料の結晶性が悪くなり、材料の電気的性能に影響する一方、温度が高すぎると、単結晶のサイズが大きくなり、同様に逆効果になり、時間が長すぎ、コストが高くなることを見出した。
【0046】
S400:乾燥後の生成物を、アルミニウム源である被覆剤、ホウ素源である被覆剤と混合して熱処理するステップ
乾燥後の生成物を、アルミニウム源である被覆剤、ホウ素源である被覆剤と混合して熱処理し、正極材料を得る。発明者らは、乾燥後の生成物を、乾式法によりアルミニウム源である被覆剤、ホウ素源である被覆剤と均一に混合して熱処理し、熱処理の過程において、ホウ素源がフラックス剤の役割を果たして、アルミニウム源を正極材料表面に均一に被覆させることを見出した。本発明の一実施例によれば、アルミニウム源である被覆剤およびホウ素源である被覆剤の具体的な種類は特に限定されず、当業者は実際の必要に応じて選択することができ、例えばアルミニウム源である被覆剤はAl2O3、Al(OH)3、AlF3から選ばれる少なくとも一つであってよく、ホウ素源である被覆剤はB2O3、H3BO3から選ばれる少なくとも一つであってよい。なお、当該ステップにおけるホウ素源である被覆剤の具体的な種類は、S100におけるホウ素源であるドーパントと一致していても一致していなくてもよく、当業者は実際の必要に応じて選択することができる。さらに、乾燥後の生成物と、アルミニウム源である被覆剤と、ホウ素源である被覆剤との質量比も特に限定されず、例えば1:0.001~0.003:0.0015~0.007であってもよい。発明者らは、被覆剤が少なすぎると被覆層(ここでの被覆層とは、明確な物理的被覆構造ではなく、アルミニウムやホウ素を表面における正極材料中の元素と均一にドープしたもの)の形成ができず、さらに材料と電解液との副反応を防止できないこと、被覆剤が多すぎると材料の電気伝導度が大幅に低下し、さらに電気的性能に影響することを見出した。本発明のさらなる実施例によれば、熱処理的具体条件も特に限定されず、当業者は実際の必要に応じて選択することができ、例えば熱処理の温度は400~600℃であってもよく、時間は6~8hであってもよい。発明者らは、温度が低すぎると、ホウ素源が溶融状態にならず、被覆效果が比較的に低いこと、温度が高すぎると、被覆剤が材料中に入ること、時間が短すぎると、反応が十分ではないこと、被覆層が形成されなく、時間が長すぎると、コストが高くなることを見出した。
【0047】
また、最終のステップにおける被覆に使用したホウ素源およびアルミニウム源の使用量は極めて少ないため、それは設定されたドーパントの含有量に基本的に影響せず、あるいは本願の製造方法で得らたる正極材料の組成は、原料設計時の元素比に基本的に対応する。
【0048】
本発明実施例の正極材料の製造方法によれば、正極前駆体材料をホウ素源であるドーパントと混合して予備焼成することにより、結晶粒の成長方向がより規則的で、比表面積と強度がより大きい前駆体材料を得ることができ、同時にリチウムの脱挿入に有利であり、しかも、予備焼成後の生成物、即ち予備焼成後の前駆体をリチウム源、ドーパントと混合して焼成することにより、リチウム源とドーパントは、予備焼成後の生成物、即ち予備焼成後の前駆体と反応しやすく、単結晶材料類似材料ではなく、純粋な単結晶四元正極材料を得て、水洗した後に材料の残リチウムを低減することができる。さらに、乾燥後の生成物を、乾式法によりアルミニウム源である被覆剤、ホウ素源である被覆剤と均一に混合して熱処理し、熱処理の過程において、ホウ素源がフラックス剤の役割を果たし、アルミニウム源を正極材料表面に均一に被覆させ、サイクル保持率や熱安定性、耐用年数、安全性がいずれも高い正極材料を得る。なお、上記正極材料の特徴は、同様に当該正極材料の製造方法に適用されるため、ここでの説明は省略する。
【0049】
本発明の別の態様において、本発明はリチウムイオン電池を提供し、本発明の実施例によれば、当該リチウムイオン電池は、上記正極材料または上記正極材料の製造方法で製造して得る正極材料を有する。本発明実施例によるリチウムイオン電池は、当該リチウムイオン電池は上記正極材料を有するため、当該正極材料のMイオンドーピングによってその2価ニッケルイオンの含有量を減少させ、さらに(003)結晶面から(104)結晶面に遷移するニッケルイオン量を減少させ、正極材料中のリチウム-ニッケルの混合排列程度を減少させ、正極材料の結晶構造を安定化させ、リチウムイオン電池のサイクル保持率と熱安定性の提高に有利し、電池の使用寿命を延長させ、その安全性を向上させる。なお、上記正極材料または上記正極材料の製造方法で製造して得る正極材料の特徴は、同様に当リチウムイオン電池に適用されるため、ここでの説明は省略する。
【0050】
本発明の第4の態様において、本発明は自動車を提供し、本発明の実施例によれば、当該自動車は上記リチウムイオン電池を有する。本発明実施例の自動車によれば、当該自動車が上記リチウムイオン電池を有するため、上記リチウムイオン電池が比較的に高いサイクル保持率、熱安定性、耐用年数及び安全性の性能を有することにより、当該自動車は長距離走行の要求を満たし、安全上のリスクを大幅に低減することができる。なお、上記リチウムイオン電池の特徴は、同様に当該車両に適用されるため、ここでの説明は省略する。
【0051】
以下、本発明を具体的な実施形態を参照して説明するが、これらは単に説明的なものであり、本発明を何ら限定するものではない。以下の実施例および比較例でのXRD測定設備は、いずれもドイツのBrukerD8ADVANCEであり、室温(T=298K)でX線回折分析を行った。実験条件:動作電圧40KW、動作電流40mA、ステップ長0.02度/ステップ、各ステップのスキャン時間2秒。
【0052】
実施例1
正極前駆体材料Ni
0.85Co
0.08Mn
0.03Al
0.04(OH)
2を、ホウ素源であるドーパントB
2O
3と質量比1:0.0015で混合した後に、900℃で10h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源であるLiOH、ドーパントAl
2O
3と質量比480:260:3.84で混合して、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を830℃で12h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al
2O
3、ホウ素源である被覆剤B
2O
3と質量比1:0.0012:0.0015で混合して400℃で6h熱処理し、正極材料Li
1.
05Ni
0.834Co
0.079Mn
0.03Al
0.04B
0.008Al
0.012を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAlのドープ量は表1に示し、
図2は得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0053】
実施例2
正極前駆体材料Ni0.85Co0.08Mn0.03Al0.04(OH)2を、ホウ素源であるドーパントB2O3と質量比1:0.0015で混合した後に、900℃で10h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl2O3、Zr(OH)4と質量比480:260:3.84:3.52で混合して、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を830℃で12h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al2O3、ホウ素源である被覆剤B2O3と質量比1:0.0012:0.0015で混合して400℃で6h熱処理し、正極材料Li1.05Ni0.829Co0.078Mn0.03Al0.04B0.008Al0.012Zr0.003を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAlおよびZrのドープ量は表1に示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0054】
実施例3
正極前駆体材料Ni0.85Co0.08Mn0.03Al0.04(OH)2を、ホウ素源であるドーパントB2O3と質量比1:0.0015で混合した後に、900℃で10h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl2O3、Zr(OH)4と質量比480:260:3.84:2.24で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を830℃で12h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al2O3、ホウ素源である被覆剤B2O3と質量比1:0.0012:0.0015で混合して400℃で6h熱処理し、正極材料Li1.05Ni0.83Co0.078Mn0.029Al0.04B0.008Al0.012Zr0.002を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAlおよびZrのドープ量は表1に示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0055】
実施例4
正極前駆体材料Ni
0.85Co
0.08Mn
0.03Al
0.04(OH)
2を、ホウ素源ドーパントB
2O
3と質量比1:0.0018で混合した後に、930℃で12h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl
2O
3、Zr(OH)
4、WO
3と質量比480:270:3.84:3.52:0.416で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を850℃で14h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al
2O
3、ホウ素源である被覆剤B
2O
3と質量比1:0.0025:0.0025で混合して450℃で8h熱処理し、正極材料Li
1.05Ni
0.826Co
0.078Mn
0.029Al
0.04B
0.01Al
0.014Zr
0.002W
0.0003を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、
図3は得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0056】
実施例5
正極前駆体材料Ni0.85Co0.08Mn0.03Al0.04(OH)2を、ホウ素源ドーパントB2O3と質量比1:0.0018で混合した後に、930℃で12h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl2O3、Zr(OH)4、WO3と質量比480:270:3.84:3.52:0.832で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を850℃で14h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al2O3、ホウ素源である被覆剤B2O3と質量比1:0.0025:0.0025で混合して450℃で8h熱処理し、正極材料Li1.05Ni0.817Co0.076Mn0.029Al0.04B0.01Al0.014Zr0.002W0.001を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0057】
実施例6
正極前駆体材料Ni
0.85Co
0.08Mn
0.03Al
0.04(OH)
2を、ホウ素源であるドーパントB
2O
3と質量比1:0.0018で混合した後に、930℃で12h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl
2O
3、Zr(OH)
4、WO
3と質量比480:270:6.5:3.52:0.416で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を850℃で14h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al
2O
3、ホウ素源である被覆剤B
2O
3と質量比1:0.0025:0.0025で混合して450℃で8h熱処理し、正極材料Li
1.05Ni
0.808Co
0.076Mn
0.029Al
0.04B
0.01Al
0.034Zr
0.002W
0.0003を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、
図4は得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0058】
実施例7
正極前駆体材料Ni0.85Co0.08Mn0.03Al0.04(OH)2を、ホウ素源であるドーパントB2O3と質量比1:0.002で混合した後に、980℃で14h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl2O3、Zr(OH)4、WO3と質量比480:280:7:3.52:0.416で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を880℃で16h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al2O3、ホウ素源である被覆剤B2O3と質量比1:0.003:0.0065で混合して500℃で8h熱処理し、正極材料Li1.05Ni0.805Co0.076Mn0.029Al0.04B0.01Al0.037Zr0.002W0.0003を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0059】
実施例8
正極前駆体材料Ni
0.85Co
0.08Mn
0.03Al
0.04(OH)
2を、ホウ素源であるドーパントB
2O
3と質量比1:0.002で混合した後に、980℃で14h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl
2O
3、Zr(OH)
4、WO
3と質量比480:280:7.5:3.52:0.416で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を880℃で16h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al
2O
3、ホウ素源である被覆剤B
2O
3と質量比1:0.003:0.0065で混合して500℃で8h熱処理し、正極材料Li
1.05Ni
0.803Co
0.076Mn
0.028Al
0.04B
0.01Al
0.04Zr
0.002W
0.0003を得た。当該正極材料において、
図5は得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示し、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0060】
実施例9
正極前駆体材料Ni
0.85Co
0.08Mn
0.03Al
0.04(OH)
2を、ホウ素源であるドーパントB
2O
3と質量比1:0.002で混合した後に、980℃で14h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl
2O
3、Zr(OH)
4、WO
3と質量比480:280:8:3.52:0.416で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を880℃で16h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al
2O
3、ホウ素源である被覆剤B
2O
3と質量比1:0.003:0.0065で混合して500℃で8h熱処理し、正極材料Li
1.
05Ni
0.797Co
0.075Mn
0.028Al
0.
04B
0.
01Al
0.047Zr
0.002W
0.0003を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、
図6は得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0061】
実施例10
正極前駆体材料Ni0.85Co0.07Mn0.04Al0.04(OH)2を、ホウ素源であるドーパントB2O3と質量比1:0.002で混合した後に、980℃で14h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl2O3、Zr(OH)4、WO3と質量比480:280:7:3.52:0.416で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を880℃で16h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al2O3、ホウ素源である被覆剤B2O3と質量比1:0.003:0.0065で混合して500℃で8h熱処理し、正極材料Li1.05Ni0.809Co0.063Mn0.04Al0.04B0.01Al0.037Zr0.002W0.0003を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0062】
実施例11
正極前駆体材料Ni0.82Co0.08Mn0.06Al0.04(OH)2を、ホウ素源であるドーパントB2O3と質量比1:0.002で混合した後に、980℃で14h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOH、ドーパントAl2O3、Zr(OH)4、WO3と質量比480:285:8:3.52:1.248で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を880℃で16h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al2O3、ホウ素源である被覆剤B2O3と質量比1:0.003:0.0065で混合して500℃で8h熱処理し、正極材料Li1.08Ni0.775Co0.077Mn0.058Al0.04B0.01Al0.047Zr0.002W0.001を得た。当該正極材料において、当該正極材料の質量を基準として、ICP検出で得られたAl、ZrおよびWのドープ量は表1に示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0063】
比較例
正極前駆体材料Ni
0.85Co
0.08Mn
0.03Al
0.04(OH)
2を、ホウ素源であるドーパントB
2O
3と質量比1:0.0015で混合した後に、900℃で10h予備焼成し、予備焼成後の生成物を得た。予備焼成後の生成物をリチウム源LiOHと質量比150:94で混合し、混合後の生成物を得た。混合後の生成物を830℃で12h焼成し、焼成後の生成物を水洗し、乾燥し、乾燥後の生成物を得た。乾燥後の生成物をアルミニウム源である被覆剤Al
2O
3、ホウ素源である被覆剤B
2O
3と質量比1:0.0012:0.0015で混合して400℃で6h熱処理し、正極材料Li
1.05Ni
0.835Co
0.079Mn
0.03Al
0.04B
0.008Al
0.006を得た。
図7は得られた正極材料の補正後のXRDスペクトル図を示し、当該正極材料の2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅、2θ角18.74度近傍での(003)回折ピークの半値幅と2θ角44.4度近傍での(104)回折ピークの半値幅との比、(003)回折ピーク強度と(104)回折ピーク強度との比、25℃で50週サイクルのデータおよびそのDSC試験温度を表2に示す。
【0064】
【0065】
備考:Alのドープ量は、予備焼成後の生成物にドープされたBの量およびAl含有量と、乾燥後の生成物のAl含有量とをICPで測定し、2回のAl含有量の差をAlのドープ量とすることで確定される。
表における実測ドープ量が設計ドープ量を上回ることは、正極前駆体材料には元々極微量のドーピング元素が含まれているからである。
【0066】
【0067】
表1および表2から、本発明の実施例で合成した正極材料は、MイオンのドーピングおよびBの被覆により、高いサイクル保持率および高いDSC温度を有する、即ち、長サイクルかつ熱安定性の良好な正極材料を得ることができることが分かる。表2のXRD回折データと合わせると、適切な比率で共ドープした実施例1~11は、(003)回折ピークの半値幅が0.0550~0.0800であり、(104)回折ピークの半値幅と、(003)回折ピークの半値幅との比は1.4500~1.6000であり、I003とI104との回折ピーク強度比は2.45≦I003/I104≦3.00である。さらに、表2の50週サイクル(25℃)の試験データからも、実施例1~11で得られた正極材料の長サイクル寿命と高い熱安定性が実証された。
【0068】
本明細書の説明において、「一つの実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」などの用語への言及は、実施形態または例に関連して説明される具体的な特徴、構造、材料または特性が、本発明の少なくとも一つの実施例または例に含まれることを意味する。本明細書において、上記用語の模式的表現は、同一の実施例または例を指す必要はない。なお、説明した具体的な特徴、構造、材料または特性は、実施例または例のいずれか一つ以上において、適切な方法で組み合わせることができる。また、当業者は、互いに矛盾することなく、本明細書に記載された異なる実施例または例と、異なる実施例または例の特徴を組み合わせ・結合することができる。
以上、本発明の実施例を示し、説明したが、上記実施例は例示的なものであり、本発明を限定するものとして解釈されるものではなく、上記実施形態の変更、修正、置換及び変形は、本発明の範囲内で当業者によってなされ得ることが理解される。