(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
F04C 27/00 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
F04C27/00 331
(21)【出願番号】P 2022543092
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2020054026
(87)【国際公開番号】W WO2021164843
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】522281039
【氏名又は名称】ブッシュ プロダクションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビルゲア,テオ
(72)【発明者】
【氏名】コセック,ボリス
(72)【発明者】
【氏名】ベンツ,マティーアス
(72)【発明者】
【氏名】ペロ,ヨアン
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-177299(JP,A)
【文献】特開昭62-030387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置(1,30)であって、
前記装置(1,30)は、
前記ガス状組成物に対する入口オリフィス(11)及び出口オリフィス(10)を備えるポンプチャンバー(2)内で、クロー(8)を有する第1のピストン及びクロー(9)を有する第2のピストンをそれぞれ回転駆動する第1の回転シャフト(13)及び第2の回転シャフト(14)を備えるドライ回転ポンプであり、前記第1の回転シャフト(13)及び前記第2の回転シャフト(14)は、ギアチャンバー(4)内に位置する駆動システム(17,18)によって回転駆動されるように構成され、
前記装置(1,30)は、
第1のシャフトシール(19a,20a)及び第2のシャフトシール(19b,20b)をそれぞれ備える第1のシール対(19)及び第2のシール対(20)を備え、前記ポンプチャンバー(2)と前記ギアチャンバー(4)との間で、前記第1のシール対(19)が前記第1の回転シャフト(13)の周りに設けられ、前記第2のシール対(20)が前記第2の回転シャフト(14)の周りに設けられ、
前記装置(1,30)は、
前記第1及び前記第2のシャフトシール対(19,20)の前記第1のシャフトシール(19a,20a)と前記第2のシャフトシール(19b,20b)との間に存在する隙間(24)と流体接続し、前記隙間(24)内の圧力を調節する圧力均等化チャンバー(25)を備え、
前記ギアチャンバー(4)は、前記隙間(24)と流体接続し、
前記ポンプチャンバー(2)は、脈動減衰チャンバー(22)を介して、前記第1のシャフトシール対(19)の前記第1のシャフトシール(19a)と、前記第2のシャフトシール対(20)の前記第1のシャフトシール(20a)とに流体接続
し、
前記隙間(24)と前記ギアチャンバー(4)との間の流体接続は、前記第1の回転シャフト(13)及び/又は前記第2の回転シャフト(14)内に設けられる圧力均等化チャネル(27)によって行われることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記装置(1,30)であって、前記第1のシャフトシール対(19)の前記第1のシャフトシール(19a)、前記第1のシャフトシール対(19)の前記第2のシャフトシール(19b)、前記第2のシャフトシール対(20)の前記第1のシャフトシール(20a)、及び前記第2のシャフトシール対(20)の前記第2のシャフトシール(20b)のうちの少なくとも1つの前記シャフトシールが、リップシールである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置(1,30)であって、前記圧力均等化チャネル(27)と前記ギアチャンバー(4)との間に潤滑流体フィルター(28)を備える、請求項
1に記載の装置。
【請求項4】
前記装置(1,30)であって、前記圧力均等化チャンバー(25)内の圧力を前記装置の外部から制御するように、調節入口(29)が設けられる、請求項1~
3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記装置(30)であって、前記脈動減衰チャンバー(22)は、ガス状水素に対して透過性であるが、少なくとも液体及びガス状の形態の水分子に対して不透過性である膜(31)を介して、前記圧力均等化チャンバーと流体接続する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記装置(1,30)であって、前記脈動減衰チャンバー(22)と前記ポンプチャンバー(2)との間の流体接続は、少なくとも部分的にラビリンスの形態を有する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記装置(1,30)であって、前記脈動減衰チャンバー(22)は、放出出口(26)と流体接続する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記装置(1,30)であって、前記ポンプチャンバー(2)の前記入口オリフィス(11)は、重力の作用によって液体の排出を可能にするように配向される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記装置(1,30)であって、前記ギアチャンバー(4)及び/又は前記ポンプチャンバー(2)は、水素に耐性のある材料で設けられるか、又は水素に耐性のある材料によって覆われる、請求項1~
8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記装置(1,30)であって、10Ncm
3/hの水素の最大外部漏れを許容するように構成される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記装置(1,30)であって、-40℃~100℃の間の、前記少なくとも部分的にガス状の組成物の周囲温度及び入口温度の範囲で機能することが可能であるように構成される、請求項1~
10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記装置(1,30)であって、12VCC~800VCC、特に24VCC、48VCC、200VCC、400VCC、又は750VCCの公称電圧で機能することが可能であるように構成される、請求項1~
11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記装置(1,30)であって、水素を含有する前記少なくとも部分的にガス状の組成物の圧力を、燃料電池の入口において、絶対圧で最大15bar、特に1.5bar~5barにのぼる圧力の範囲に上昇させるように構成される、請求項1~
12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
燃料電池システム(40,50,60,70)であって、
少なくとも部分的に水素を収容するガス状組成物リザーバー(41)を備え、
前記リザーバー(41)は、燃料電池(43)の入口(43d)に接続され、
前記システムは、請求項1~
13のいずれか一項に記載の再循環装置(1,30)を備え、
前記燃料電池(43)の出口(43e)は、前記再循環装置(1,30)の前記入口オリフィス(11)に接続され、
前記再循環装置(1,30)の前記出口オリフィス(10)は、前記燃料電池(43)の前記入口(43d)に接続されることを特徴とする、燃料電池システム。
【請求項15】
前記燃料電池システム(40,50,60,70,80,90)であって、前記燃料電池(43)の前記出口及び前記再循環装置(1,30)の前記入口オリフィスと流体接続する水分離器(45)を備える、請求項
14に記載の燃料電池システム。
【請求項16】
前記燃料電池システム(40,50,60,70,80,90)であって、前記水分離器(45)の放出出口(45a)と流体接続する逃し弁(46)を備える、請求項
15に記載の燃料電池システム。
【請求項17】
前記燃料電池システム(40,50,60,70,80,90)であって、前記再循環装置(1,30)の調節入口(29)は、前記リザーバー(41)と流体接続する、請求項
14~
16のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項18】
前記燃料電池システム(40,50,60,70,80,90)であって、前記再循環装置(1,30)の放出出口(26)は、水分離器(45)の放出出口(45a)と流体接続する、請求項
14~
17のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも部分的にガス状の組成物、特に、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置の分野における第1の態様に関する。本発明は、より具体的には、燃料電池、特に、モータービークルの燃料電池において、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置の分野に関する。第2の態様において、本発明は、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させることが可能な燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムにおいて、電力の生成にはガス状の水素及び酸素が必要である。燃料電池の水素と酸素との反応によって生成される水の除去に寄与するために、燃料電池には、変換可能なものよりも大きいガス流量でガスが提供される。
【0003】
したがって、燃料電池は、燃料電池内で使用されなかった未反応のガス状水素(水素排ガスと呼ぶ)を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を放出する。この水素排ガスの使用を可能にするために、燃料電池システムは、燃料電池に水素排ガスを再供給する水素再循環回路を装備する。このために、水素再循環回路は、水素再循環装置を装備することが通常である。
【0004】
従来技術から、水素再循環装置としてエジェクター又はルーツ型ポンプを使用することが知られている。ルーツ型ポンプは、ポンプ部分と、電気駆動モーターを含むモーター部分とから構成される。回転シャフトがモーターユニットの電気モーターからポンプユニットに延在し、一対のローターがポンプチャンバー内に収容される。モーターによって駆動される回転シャフトの回転により、2つのローターが回転すると、水素排ガスは、ポンプチャンバー内に吸引され、その後、ポンプチャンバーから放出され、燃料電池に再導入される。
【0005】
水素の再循環を担うポンプは、ポンプチャンバー内に吸引された水素排ガスがモーターユニットに侵入することを防止し、又はモーターユニット内の水素濃度が爆発の危険がある値に達することを防止するように構成されることが重要である。このために、既知の従来技術の装置は、ギアチャンバーとモーターとの間で単数又は複数の回転シャフトの周りに通常設けられるシャフトシールを使用する。シャフトシールは、ガス状水素が回転シャフトに沿ってポンプチャンバーからモーターに漏れることを防止し、ひいては、モーターユニット内の水素濃度が爆発性雰囲気になることを防止するように設けられる。
【0006】
しかしながら、ガス状水素は、シャフトシールを通過する場合がある。したがって、いくらかの水素がポンプチャンバーからモーターユニットに拡散し、モーター内の水素濃度に潜在的に危険な上昇をもたらす。この問題を解決するために、ガス流をモーターユニット内に能動的に導入し、モーターユニットを通過させ、シャフトシールを通過してしまう可能性のある水素をこのガス流とともに移送する水素ポンプが提案されている。
【0007】
残念なことに、これらのポンプは、モーターユニット内の水素濃度の上昇に起因する爆発のリスクを制限することを可能にするものの、これらのポンプは、再循環される少なくとも部分的にガス状の組成物中に含有される水分子が、ポンプを駆動するチャンバー及び/又はモーターユニットに入り得ないことを保証するものではない。ポンプの内部のそのような汚染は、通常、ポンプの機能不良を引き起こすため、問題である。
【0008】
水素ポンプ、特に、自動車分野における燃料電池内の水素を再循環させるポンプは、以下の複数の補足的な要件を更に満たさなければならない(網羅的な一覧ではない)。
- 水素の最大の外部漏れの基準である10Ncm3/hを満たす。
- 最大1:20の比率で拡張することができる、特に、最大速さが12000rev/min(min-1)に達することができる広範な調整範囲において機能することが可能である。
- 広範な周囲温度及びガス入口温度、特に-40℃~100℃において機能することが可能でなければならない。
- 燃料電池の供給電圧に起因して、12VCC~800VCC、特に24VCC、48VCC、200VCC、400VCC、又は750VCCの公称電圧で機能することが可能でなければならず、高効率を有しなければならない。
- 燃料電池のバイポーラプレート又は膜は潤滑剤等の物質に対して敏感であるため、ポンプチャンバー及びモーターユニット内に適合した物質を使用しなければならない。
【0009】
したがって、異なる動作サイクル及び動作圧力、自動車部門における温度、水の量等の燃料電池の様々な挙動において主な課題が存在する。
【0010】
その結果、上述の要件の全てを組み合わせて満たし、既知のシステムの上述の問題を回避することが可能になるように、堅牢で柔軟なポンプが必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の1つの目的は、上述の制限を克服することを可能にする、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置を提案することである。
【0012】
本発明によれば、これらの目的は、2つの独立請求項の主題によって達成される。本発明のより具体的な態様は、従属請求項及び本明細書において記載される。
【0013】
より詳細には、第1の態様によれば、本発明の1つの目的は、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置によって達成される。かかる装置は、ガス状組成物に対する入口オリフィス及び出口オリフィスを備えるポンプチャンバー内で、クローを有する第1のピストン及びクローを有する第2のピストンをそれぞれ回転駆動する第1の回転シャフト及び第2の回転シャフトを備えるドライ回転ポンプであり、第1の回転シャフト及び第2の回転シャフトは、ギアチャンバー内に位置する駆動システムによって回転駆動されるように構成され、かかる装置は、第1のシャフトシールと第2のシャフトシールとをそれぞれ備える第1のシール対及び第2のシール対を備え、ポンプチャンバーとギアチャンバーとの間で、第1のシール対が第1の回転シャフトの周りに設けられ、第2のシール対が第2の回転シャフトの周りに設けられ、かかる装置は、第1及び第2のシャフトシール対の第1のシャフトシールと第2のシャフトシールとの間に位置する隙間と流体接続し、隙間内の圧力を調整する圧力均等化チャンバーを備え、ギアチャンバーは、隙間と流体接続し、ポンプチャンバーは、脈動減衰チャンバーを介して、第1のシャフトシール対の第1のシャフトシールと、第2のシャフトシール対の第1のシャフトシールとに流体接続する。
【0014】
本発明に係る装置は、ギアチャンバーに対するポンプチャンバーの密封性を保証するシャフトシールの2つの側面に作用する圧力を均等化することを可能にする。この圧力の均等化により、シャフトシールとシャフトシールが周りに取り付けられる回転シャフトとの間の摩擦力が常に同じに維持され、これにより、シャフトシールの尚早な消耗、ひいては、ガス状又は液体の形態の水の分子によるギアチャンバーの汚染、及び/又はギアチャンバー内に存在する潤滑液の分子によるポンプチャンバーの汚染を回避することが可能になる。有利な方法では、第1のシール対が、これらのシールを油に耐性のあるものにするフルオロエラストマー、例えば、Viton(商標)から作製され、第2のシール対が、これらのシールを燃料電池における電力の発生のプロセスにおいて存在する物質、例えば、水、水素、及び窒素に耐性のあるものにするポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から作製される。
【0015】
本発明の第1の好ましい実施形態において、第1のシャフトシール対の第1のシャフトシール、第1のシャフトシール対の第2のシャフトシール、第2のシャフトシール対の第1のシャフトシール、及び第2のシャフトシール対の第2のシャフトシールのうちの少なくとも1つのシャフトシールが、リップシールである。リップシールを使用することにより、本発明に係る装置は、特に単純な方法で実施することができる。さらに、リップシールを使用することにより、シャフトに対するリップの圧力が、リップの周囲の圧力に関して自己調整されるため、密封性が最大になる。
【0016】
本発明の第1の好ましい実施形態において、隙間とギアチャンバーとの間の流体接続は、第1の回転シャフト及び/又は第2の回転シャフト内に設けられる圧力均等化チャネルによって行われる。これにより、2つのシール対のシャフトシール間に存在する隙間とギアチャンバーとの間で圧力を容易に均等化することが可能になる。
【0017】
本発明の別の好ましい実施形態において、装置は、圧力均等化チャネルとギアチャンバーとの間に潤滑流体フィルターを備える。潤滑流体フィルターにより、潤滑流体が圧力均等化チャネルに入り、ひいてはポンプチャンバー内に広がり得ることを防止することが可能である。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、圧力均等化チャンバー内の圧力を装置の外部から制御するように、調節入口が設けられる。したがって、このチャンバー内の圧力を装置の外部から調節するために、圧力均等化チャンバーに、ガス、例えば、空気、窒素、ヘリウム、水素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、又はそれらの混合物を導入することが可能である。
【0019】
本発明の更に別の好ましい実施形態において、脈動減衰チャンバーは、ガス状水素に対して透過性であるが、少なくとも液体及びガス状の形態の水分子に対して不透過性である膜を介して、圧力均等化チャンバーと流体接続する。脈動減衰チャンバーと隙間との間の流体接続は、隙間、脈動減衰チャンバー、及びギアチャンバー内に存在する圧力間の自動的な圧力均等化を可能にする。したがって、この実施形態においては、隙間内の圧力を能動的に調節する必要はない。さらに、半透膜が存在することで、水分子を濾過し、ギアチャンバーの汚染及び/又はギアチャンバーの潤滑液によるポンプチャンバーの汚染のリスクを低減することが可能になる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、脈動減衰チャンバーとポンプチャンバーとの間の流体接続は、少なくとも部分的にラビリンスの形態を有する。これにより、ポンプチャンバー内での圧縮サイクルによって発生する脈動を効率的に減衰させ、均等化することが可能である。したがって、これにより、第1のシール対及び第2のシール対の第1のシャフトシールに作用する圧力が、装置の使用中に実質的に一定を維持することを保証することが可能になる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、脈動減衰チャンバーは、放出出口と流体接続する。これにより、脈動減衰チャンバー内に形成された凝縮物、特に水を放出することが可能になる。
【0022】
本発明の別の好ましい実施形態において、ポンプチャンバーの入口オリフィスは、重力の作用によって液体の排出を可能にするように配向される。これは、装置の停止時に、ポンプチャンバー内に水溜まりが形成されることを防止するのに特に有利である。そのような水溜まりは、凍結し、ひいては装置の再始動を妨げる可能性がある。重力の作用によって液体を排出することにより、補助的な「能動」要素が必要とされないため、単純な設計が可能である。
【0023】
本発明の更に別の好ましい実施形態において、ギアチャンバー及び/又はポンプチャンバーは、水素に耐性のある材料で設けられるか、又は水素に耐性のある材料によって覆われる。これにより、装置の耐用寿命を増大させることが可能になる。
【0024】
本発明の他の好ましい実施形態において、装置は、モータービークルの燃料電池において使用されるように構成され、特に、以下のように構成される。
- 10Ncm3/hの水素の最大外部漏れを許容する、
- 燃料電池の入口において圧送されるガスの混合物の圧力を、絶対圧で最大15bar(15×105Pa)、特に1.5bar(1.5×105Pa)~5bar(5×105Pa)にのぼる圧力の範囲に上昇させる、
- 1:20の比率で最大毎分12000回転にのぼる制御範囲で駆動することが可能である、
- -40℃~100℃の少なくとも部分的にガス状の組成物の周囲温度及び入口温度の範囲で機能することが可能である、及び/又は、
- 12VCC~800VCC、特に24VCC、48VCC、200VCC、400VCC、又は750VCCの公称電圧で機能することが可能である。
【0025】
第2の態様によれば、本発明の目的は、少なくとも部分的に水素を含むガス状組成物のリザーバーを備える燃料電池システムによって達成される。かかるリザーバーは、燃料電池の入口に接続され、システムは、本発明に係る再循環装置を備え、燃料電池の出口は、再循環装置の入口オリフィスに接続され、再循環装置の出口オリフィスは、燃料電池の入口に接続される。
【0026】
そのようなシステムにより、燃料電池は、リザーバーだけでなく、再循環装置によってもガス状組成物が供給され得る。したがって、燃料電池内で消費されない水素は、燃料電池に再導入され、水素の損失を制限し、ひいてはシステムの効率を増大させる。
【0027】
本発明のこの態様の第1の好ましい実施形態において、システムは、燃料電池の出口及び再循環装置の入口オリフィスと流体接続する水分離器を備える。水分離器により、ガス状組成物が再循環装置に導入される前に、燃料電池から出るこの組成物から水を抽出することが可能である。これにより、再循環装置に導入される水の量が多くなりすぎることを回避することが可能になる。
【0028】
本発明のこの態様の第2の好ましい実施形態において、システムは、水分離器の放出出口と流体接続する逃し弁を備える。逃し弁により、水の除去を可能にすると同時に、逆流が防止される。この弁は、水分離器内の水の量を測定することを可能にするセンサーを備えることが好ましい。水が或る特定のレベルに達すると、逃し弁が開いて水が放出される。
【0029】
本発明のこの態様の別の好ましい実施形態において、再循環装置の調節入口は、リザーバーと流体接続する。これにより、リザーバー内に収容されるガスが再循環装置に導入され、この装置のシャフトシールに作用する圧力を均等化することが可能になる。圧力を均等化することにより、シールの尚早な消耗を回避することができる。
【0030】
本発明のこの態様の更に別の好ましい実施形態において、再循環装置の放出出口は、水分離器の放出出口と流体接続する。これにより、再循環装置内に蓄積される水を除去することが可能である。
【0031】
本発明の特性及び利点は、以下の説明の文脈内で、17の添付図面を参照して、例示として非限定的に与えられる実施態様の例によってより詳細に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、第1の好ましい実施形態に係る、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置の第1の断面図である。
【
図2】
図2は、第1の好ましい実施形態に係る装置の正面図である。
【
図3】
図3は、第1の好ましい実施形態に係る装置の第2の断面図である。
【
図4】
図4は、第1の好ましい実施形態に係る装置の第3の断面図である。
【
図6】
図6は、第1の好ましい実施形態に係る装置の側面図である。
【
図7】
図7は、第1の好ましい実施形態に係る装置の第4の断面図である。
【
図9】
図9は、第2の好ましい実施形態に係る、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置の第1の断面図である。
【
図11】
図11は、第2の好ましい実施形態に係る装置の第2の断面図である。
【
図12】
図12は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システムの概略図である。
【
図13】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システムの概略図である。
【
図14】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システムの概略図である。
【
図15】
図15は、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池システムの概略図である。
【
図16】
図16は、本発明の第5の実施形態に係る燃料電池システムの概略図である。
【
図17】
図17は、本発明の第6の実施形態に係る燃料電池システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の第1の好ましい実施形態に係る、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置1の線A-A(
図2を参照)に沿った断面図を示している。装置1は、ここではドライクローポンプの形態であり、互いに取外し可能に接続される複数のサブユニット、すなわち、図示の構成例では、ポンプチャンバーカバー3を備えるポンプチャンバー2と、ギアチャンバーカバー5を備えるギアチャンバー4とから構成される。
【0034】
ポンプチャンバー2は、ギアチャンバーカバー5及びギアチャンバー4内にそれぞれ位置する軸受15,16によって支持される、第1の回転シャフト13及び第2の回転シャフト14によって回転駆動される、クロー8,9を有する2つのピストン(
図3を参照)を収納するように設けられる。クロー8を有するピストンの回転シャフト13は、入力シャフトをなし、一方、クロー9を有するピストンのシャフト14は、出力シャフトをなす。回転シャフト13は、当業者には既知の方法で電気モーターによって駆動されるように構成され、その方法はここでは詳細に記載しない。
【0035】
クロー9を有するピストンの第2の回転シャフト14の駆動、及びクロー8を有するピストンの第1の回転シャフト13との必要な同期は、2つの軸受15,16間に噛合する2つの歯付きホイール17,18を備える駆動システムによって行われる。歯付きホイール17による歯付きホイール18の最適な駆動を可能にするために、ギアチャンバー4は、潤滑液を収容する。水素を含有する組成物を再循環させる装置1を使用するために、潤滑液がこの使用分野に適合することを確認することが有利である。特に、水素と反応せず、燃料電池の膜に使用される材料と適合性のある潤滑液を提供することが有利である。
【0036】
図3に示されているように、ピストン8,9は、入口オリフィス11を通って入り、出口オリフィス10を通って出るガス状組成物を効率的に移送し、圧縮するように、互いに巻き込む又は包み込むことができるように構成されるクローを有するピストンである。入口オリフィス11は、装置1が
図1の向きにあるとき、すなわち、装置1がベース12に設置されているとき、ポンプチャンバー2内に存在する液体が、重力の作用によってこのチャンバーから流出することができるように向けられることが有利である。
【0037】
上述したように、再循環装置1は、液体又はガス状の形態の水がギアチャンバー4に入り得ること及び/又は潤滑液がポンプチャンバー2を汚染し得ることを防止するように構成されることが重要である。実際、いくらかの水が、ギアチャンバー4内に存在する潤滑液と反応し、及び/又は、歯付きホイール17,18及び/又は軸受15,16の最適な駆動を妨げる可能性があり、これは、長期的には装置1の機能不良につながり得る。さらに、ポンプチャンバー2がいくらかの潤滑液によって汚染されると、装置1が接続される燃料電池の性能の低下につながるおそれがある。
【0038】
ポンプチャンバーをクローポンプのギアチャンバーから分離するために、従来技術において、ポンプチャンバーとギアチャンバーとの間に位置決めされるゴム製のシャフトシールを使用することが知られている。これにより、通常、燃料電池に供給される部分的にガス状の組成物に含有される水がギアチャンバーに入り得ること、及び潤滑液がポンプチャンバーを汚染し得ることを防止することが可能になる。
【0039】
好ましい一実施形態において、クローを有するピストンを駆動する回転シャフトの周りに通常位置決めされるシャフトシールは、リップ型のものであり、シールリップが回転シャフトに接触し、リップの弾性の作用により最適な密封性を獲得するようになっている。シャフトシールは、機械的シール型、ラビリンス型等の異なる性質のものとすることができる。
【0040】
上述したように、本発明の目的は、燃料電池分野において、より具体的にはモータービークルの燃料電池分野において使用可能な、水素を再循環させる装置1を提供することである。この使用分野では、再循環される水素を含有する組成物の圧力が、非常に大きく変動する可能性があり、すなわち、シャフトシールのリップに加わる圧力も大きく変動する可能性がある。圧力が大きい場合、シールのリップとシールが周りに位置決めされる回転シャフトとの間に大きな摩擦力が生じ、これにより、リップの急速な消耗につながる場合がある。摩耗したリップは、もはや必要な密封性を達成することができず、ガス状若しくは液体の形態のいくらかの水がギアチャンバーに入る可能性があり、又はいくらかの潤滑液によってポンプチャンバーが汚染される可能性がある。
【0041】
この問題を解決するために、装置1は、様々な図において示すように、第1の回転シャフト13の周りに位置する第1のシャフトシール19a及び第2のシャフトシール19bを含む第1のシール対19と、第2の回転シャフト14の周りに位置する第1のシャフトシール20a及び第2のシャフトシール20bを含む第2のシール対20とを備える。上述したように、シャフトシールは、シャフトのシールであり、すなわち、シールの2つの側面間の圧力差が大きくなるほど、シールが周りに位置決めされる回転シャフトにリップがより強く押し付けられる。これは、圧力差が大きくなると、シールのリップとシャフトとの間の摩擦力が増大することを意味する。そのような摩擦力の増大は、尚早な消耗を引き起こし、場合によってはシールの破断を引き起こす可能性がある。
【0042】
シール対19,20のシールが尚早に消耗することを防止するために、装置1は、シャフトシールの2つの側面における圧力を均等化することができるように圧力均等化システムを備える。
図4及び
図5に示されているように、装置1は、シール対19,20の第1のシャフトシールと第2のシャフトシールとの間に存在する隙間24と流体接続する、圧力均等化チャンバー25を備える。圧力均等化チャンバー25内の圧力は、装置の外部から調節入口29を介してガスを導入することによって調節することができる。こうして、圧力均等化チャンバー25及び隙間22内の圧力を制御し、ひいては、シャフトシールの2つの側面に作用する圧力を均等化することが可能になる。
【0043】
これらの図から見ることができるように、ポンプチャンバー2は、さらに、穴21によって脈動減衰チャンバー22と流体接続する。脈動減衰チャンバー22自体は、シール対19,20の第1のシャフトシール19a,20aと流体接続する。脈動減衰チャンバー22により、ポンプチャンバー2における圧送サイクル中に生じる圧力脈動を減衰し、更には均等化し、したがって、第1のシャフトシール19a,20aのリップに作用する圧力が、装置1の使用中に実質的に一定を維持することを保証することが可能である。これは、最適な密封性を保証するのに重要である。脈動減衰チャンバー22とポンプチャンバー2との間の流体接続は、ガスが通過しにくいラビリンス23の形態をとることが有利であり、これにより、圧力脈動を効率的に減衰及び更には均等化することが可能である。
【0044】
脈動減衰チャンバー22とポンプチャンバー2との間の流体接続に起因して、水が脈動減衰チャンバー22内に蓄積し得る可能性がある。この場合、水を排出することができる放出出口26(
図6も参照)を設けることが有利である。さらに、水自体を、ポンプチャンバー2のサイクルによって接続穴21を通して再吸引することができる。加えて、調節入口29によって、ガス、例えば、空気、窒素、ヘリウム、水素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、又はそれらの混合物を、圧力均等化チャンバー25、ひいては隙間24に導入することができ、これにより、シャフトシールに作用する圧力を容易に均等化することが可能になる。
【0045】
シール19a,20aだけでなくシール19b,20bも尚早に摩耗することがないように、第2の回転シャフト14は、隙間24をギアチャンバー4に接続する圧力均等化チャネル27(
図7及び
図8を参照)を備える。これにより、シャフトシール19b,20bの2つの側面に作用する圧力が均等化され、それにより、回転シャフトとこれらのシールとの間の摩擦力が低減する。潤滑液がチャネル27を介して隙間24に逆流することを回避するために、第2の回転シャフト14は、ギアチャンバー内でその端部にフィルター28を備え、このフィルターは、ガスの拡散は可能にするが、液体の拡散は可能にしない。
【0046】
図9及び
図10は、本発明の第2の好ましい実施形態に係る、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置30の線A-A(
図2を参照)に沿った断面図を示している。以下、装置30の要素のうち装置1の要素と同様のものは説明を省く。さらに、同様の要素は、2つの実施形態を示す図において同じ参照符号を有する。
【0047】
装置30において、脈動減衰チャンバー22は、圧力均等化チャンバー25、ひいては隙間24と流体接続する。これにより、ポンプチャンバー2、隙間24、及びギアチャンバー4内の圧力の自動的な均等化が可能になる。したがって、この実施形態においては、圧力均等化チャンバー25内の圧力を能動的に調節する必要はない。脈動減衰チャンバー22によってポンプチャンバー2と隙間24との間が流体接続されるため、シール対19,20のシャフトシール19a,20aの2つの側面における圧力が自動的に均等化される。
【0048】
脈動減衰チャンバー22と圧力均等化チャンバー25との間の流体接続は、ガス状水素は拡散することができるが、液体又はガス状の形態の水及び潤滑液は保持する半透膜31によって達成されることが有利である。装置1と同様に、脈動減衰チャンバー22とポンプチャンバー2との間の流体接続は、少なくとも部分的にラビリンス23の形状を有し、これにより、ポンプチャンバー2に由来する圧力脈動を効率的に減衰し、更には均等化することが可能になる。加えて、
図10に見ることができるように、脈動減衰チャンバー22と隙間24(ひいては圧力均等化チャンバー25)との間の流体接続は、第1の対の較正済み穴32、第2の対の較正済み穴33、及び第3の対の較正済み穴34によって達成されることが有利である。較正済み穴33のサイズは、膜31に沿ったガス状組成物の流量を制御することを可能にするものである。装置1と同様に、放出出口26は、脈動減衰チャンバー22内に蓄積しようとする水を放出することを可能にする。装置30において、放出出口26は、遠心力の作用によって較正済み穴32を通して押し戻される水を放出するように構成される。最後に、この実施形態においては、圧力均等化チャンバー25内の圧力を装置の外部から調節する調節入口29も設けられる。
【0049】
膜31が存在することで、ギアチャンバー4内の水分子及びポンプチャンバー2内の潤滑液の拡散のリスクを更にまた低減することが可能になる。装置1と同様に、シール対19,20のシャフトシールの2つの側面における圧力が均等化され、これにより、シールの摩耗及び断裂を制限することが可能になることに留意することが重要である。さらに、
図9に示されているように、装置30の第2の回転シャフト14も、ギアチャンバー内に存在する潤滑液がチャネル27を通して逆流することを防止するフィルター28を、端部のうちの一方に備える。
【0050】
図12は、本発明の第1の実施形態に係る燃料電池システム40を示している。システム40は、水素リザーバー41と、圧力調節器42と、アノード43a、膜43b、及びカソード43cを備える燃料電池43とを備える。システム40は、本発明のこの態様の第1の実施形態に係る、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置1も備える。装置1の出口オリフィス10は、ガス状水素を燃料電池43に供給する管44に接続され、これにより、消費されなかった水素を燃料電池に再導入することが可能になる。燃料電池43の出口43eは、水分離器45に接続され、水分離器45は、燃料電池から出るガス状組成物中に含有される水の大部分を除去することを可能にする。この水は、水分離器45の放出出口45aを介して、逃し弁46を通して放出される。水分離器45によって水の大部分が除去されたガス状組成物は、装置1の入口オリフィス11を通して装置1に導入される。こうして、装置1は、必要な圧力までガス状組成物を圧縮し、管44にガス状組成物を再導入することができる。この実施形態において、装置1の調節入口29は、管44に接続し、ひいてはリザーバー41に接続し、リザーバー41により、装置1のシャフトシール(ここでは図示せず)の2つの側面に作用する圧力を均等化することが可能になる。
図12に示されているように、放出出口26は、この実施形態において、使用されておらず、好ましくは閉鎖されている。
【0051】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る燃料電池システム50を示している。システム50は、この実施形態においては放出出口26が水分離器45の出口に接続されることを除いて、
図12に示されているシステム40と等価である。これにより、装置1内で形成されようとする水を排出することが可能になる。
【0052】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る燃料電池システム60を示している。システム60は、1つの重要な相違点を除いて、
図12に示されているシステム40と等価である。この相違点は、システム60が、本発明のこの態様の第2の実施形態に係る、水素を含有する少なくとも部分的にガス状の組成物を再循環させる装置30を備えることにある。上述したように、再循環装置のこの実施形態は、装置30のシャフトシール(ここでは図示せず)の2つの側面に作用する圧力を自動的に均等化するシステムを提供する。この自動均等化システムにより、シャフトシールに作用する圧力を均等化するために、調節入口29を通してガスを導入する必要がなくなる。したがって、
図14の実施形態において、調節入口29は、管44に接続されない。この実施形態において、必要な場合、ガスを装置30に導入することを可能にするために、調節入口29と管44との間の接続を提供することも可能であることに留意することが重要である。これは、例えば、自動均等化装置が所望どおりに機能しなかった場合に必要となる。
【0053】
図15は、本発明の第4の実施形態に係る燃料電池システム70を示している。システム70は、この実施形態においては放出出口26が水分離器45の出口に接続されることを除いて、
図14に示されているシステム60と等価である。これにより、装置30内で形成されようとする水の除去が可能になる。
【0054】
図16及び
図17に関しては、本発明の第5の実施形態及び第6の実施形態に係る燃料電池システム80,90を示している。これらの実施形態において、放出出口26は、再循環装置1の入口オリフィス11と、再循環装置30の入口オリフィス11とにそれぞれ流体接続する。これにより、再循環装置の内部で形成されようとする水を除去し、この水を再循環装置1,30及び管44を介して燃料電池43に再導入することが可能になる。
【0055】
本発明は、その実施態様に対して種々の変形を行えることが明白である。非限定的な実施形態を例として記載したが、全ての可能な変形を網羅的に特定することは想定可能でないことが十分理解される。当然ながら、本発明の範囲から逸脱することなく、記載の手段を等価な手段に置き換えることを想定することができる。これらの全ての変更形態は、ポンプ及びサーキュレーターの分野における当業者の共通の知識の一部をなす。